説明

酸化物磁性材料

【課題】 CuOを主成分として含有させることにより室温〜140℃の範囲で、または100℃以上の高温度でのコアロスの増大を抑制し、かつ高い飽和磁束密度と高透磁率を有する酸化物磁性材料を提供すること。
【解決手段】 主成分として、酸化鉄をFe23換算で52.0〜56.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で8.0〜13.0モル%、酸化銅をCuO換算で0〜5.0モル%(0を含まず)、残部を酸化マンガン(MnO)からなり、副成分として、酸化ケイ素をSiO2換算で0.005〜0.05wt%、酸化カルシウムをCaO換算で0.01〜0.1wt%、酸化ニオブをNb25換算で0.01〜0.5wt%、酸化コバルトをCoO換算で0.01〜0.5wt%含有してなることを特徴とする酸化物磁性材料で、焼結体の密度を4.95g/cc以上、結晶粒径を10〜15μmとすることにより、数百kHz付近の高周波数まで低損失を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源トランス等に用いられる磁芯材料で、酸化物磁性材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯機器をはじめとして、近年電子機器の小型化が急速に進歩している。そしてそれらに用いられる電源も同様の傾向にあり、電源の中で特にトランスは体積的に大きな割合を占め、また電力損失(以下、コアロスと表す)においても大きな割合を占めるため、その小型化、高効率化が急務となってきている。
【0003】
電源用トランスの磁芯材料として求められる特性は、駆動周波数範囲内でのコアロスが低いこと、飽和磁束密度が高いこと、透磁率が高いこと、キュリー温度が高いこと等が挙げられる。これらに加えて、更に近年ではハイブリッド車用電源トランス材や液晶デイスプレイのバックライト用インバータトランス材においては、使用する環境の温度変化が大きいため広い温度範囲内で低損失であることが求められる。
【0004】
特にコアロスが大きいと、電源としての効率が悪いだけでなく、自己発熱による熱的要因による危険性が生じる。電源の使用環境温度が100℃を中心とした温度範囲となることから、電源材として用いられるMn−Zn系フェライトのコアロスは、100℃付近で極小となる様に設計されている。即ち、使用する温度環境が低温から高温まで幅広く、過酷な条件下では、電源用トランス材料として広い温度範囲で低損失である事が必要となる。
【0005】
コアロスの極小温度が使用環境温度より低いと、温度上昇によりコアロスが増大する事より熱的要因による危険性が生じる恐れがある。また逆にコアロスの極小温度が使用環境温度より高過ぎると、結晶磁気異方性定数の増大の要因となるヒステリシス損失の増大により、室温付近での損失の増大が問題となる。
【0006】
以上の要求に対応したMn−Zn系フェライトの例が、特許文献1〜3に開示されている。何れも副成分として酸化コバルトが含有されており、特許文献1では、酸化鉄(Fe23)、酸化マンガン(MnO)、酸化亜鉛(ZnO)の主成分に、副成分として酸化コバルト(Co34)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ジルコニウム(ZrO)を含有させている。
【0007】
また特許文献2では、酸化鉄(Fe23)、酸化マンガン(MnO)、酸化亜鉛(ZnO)の主成分の他、副成分として酸化コバルト(CoO)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化カルシウム(CaO)、酸化タンタル(Ta25)、酸化ジルコニウム(ZrO2)を含有させている。
【0008】
特許文献3では、 酸化鉄(Fe23)、酸化マンガン(MnO)、酸化亜鉛(ZnO)の主成分の他、副成分として、酸化ケイ素(SiO2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化コバルト(CoO)、酸化チタン(TiO2)を含有させ、かつ焼結条件を限定している。
【0009】
【特許文献1】特開2002−231520号公報
【特許文献2】特公平08−001844号公報
【特許文献3】特開2005−119892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1〜3に記載されている副成分として酸化コバルトを含有した従来の技術では、以下に示す問題がある。酸化コバルト(CoO)は正の結晶磁気異方性定数を有するため、コアロスの温度に対する変化率を小さくしコアロスを低減させる効果はある。しかし同時に、コアロスの極小温度を低温側にシフトさせるため、高温側でのコアロスの温度に対する勾配が急峻になり、100℃以上の温度でのコアロスが大きくなり低減効果が小さくなる傾向がある。
【0011】
一般に結晶磁気異方性は酸化コバルト(CoO)量の他に、Fe2+量に依存する事が知られており、酸化コバルト(CoO)含有によるコアロスの極小温度の低温側へのシフトを極力避けるすために、更にFe2+量を少なくする方向に調整する必要がある。Fe2+量を調整する手段としては、主成分組成での調整の場合、Feの比率を小さくしなければならず、焼結パタ−ンの変更の場合は、より酸化雰囲気中で焼結を行わなければならない。しかしこれら調整には限界があり、コアロスの極小温度が使用環境温度から外れるため、コアロスの低減効果は小さくなってしまう。
【0012】
前記特許文献1〜3では種々の副成分を含有させ高抵抗化を図っているが、コアロスの低減がなされているのは、高温度側では高々120℃程度となっており、それ以上の高温度でのコアロス低減は十分ではない。まして、自動車等の過酷な使用温度環境下においては、更に広い温度範囲、特に高温度でのコアロスの低減が必要となっている。
【0013】
従って、本発明の課題は、上記の課題を解決し、室温〜140℃の範囲でコアロスを低減し、かつ高い飽和磁束密度と高透磁率を有する酸化物磁性材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記課題の解決のため、主成分として、酸化鉄をFe23換算で52.0〜56.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で8.0〜13.0モル%、酸化銅をCuO換算で0〜5.0モル%(0を含まず)、残部が酸化マンガン(MnO)からなり、副成分として、酸化ケイ素をSiO換算で0.005〜0.05wt%、酸化カルシウムをCaO換算で0.01〜0.1wt%、酸化ニオブをNb換算で0.01〜0.5wt%、酸化コバルトをCoO換算で0.01〜0.5wt%含有してなることを特徴とする酸化物磁性材料である。
【0015】
さらに、焼結体の密度が4.95g/cc以上であり、焼結体の結晶粒径が10〜15μmであることを特徴とする酸化物磁性材料である。
【0016】
ここで、CuOは、スピネル格子中に固溶し電荷のバランスをとるためにFe2+をFe3+に変える作用があり、Fe23、MnOの成分比率や焼結パターンを変える事なくCoO含有によるコアロスの極小温度の低温側へのシフトを抑制できる。
【0017】
更にCuOは焼結性を改善するため、より低温度の焼結で高密度な焼結体を得る事ができ、結晶粒径をある適度な粒径範囲内に制御しながら高密度を得ることが可能となる。また損失成分の1つであるヒステリシス損失は、粉末組成の他に結晶粒径及び焼結体密度に依存することが知られており、CuOはコアロスを低減するのに有効な成分となる。
【0018】
またSiO2、CaO、Nb25を添加し、粒界層に濃縮させる事により、比抵抗が増大し、損失成分の1つである渦電流損失を低減する事ができる。
【発明の効果】
【0019】
従って、本発明によれば、CuOを主成分として含有させることにより室温〜140℃の範囲で、または100℃以上の温度でのコアロスの増大を抑制することができ、かつ高い飽和磁束密度と高透磁率を有する酸化物磁性材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明による酸化物磁性材料の実施の形態について、具体的な例を挙げて説明する。
【0021】
主成分として、Fe23、ZnO、CuO、MnOからなり、副成分として、SiO2、CaO、Nb25、CoOを含有してなる酸化物磁性材料において、Fe23を52.0〜56.0モル%、ZnOを9.0〜13.0モル%としたのは、Fe2O3が56.0モル%より多く、ZnOが13.0モル%より多いと、コアロスの極小温度が低温側にシフトし、CuOを添加しても極小温度を高温に制御できないためであり、またコアロスが急激に増大するからである。Fe23が52.0モル%より少なく、ZnOが9.0モル%より少ないと飽和磁束密度が小さく、またコアロスが急激に増大するためである。CuOを0〜5モル%(0を含まず)としたのは、CuOを含有させないと100℃以上の温度でのコアロス低減効果が得られないためであり、5モル%より多いと異常粒成長し、コアロスが急激に増大するためである。
【0022】
SiOを0.005〜0.05wt%としたのは、0.005wt%より少ないと十分な比抵抗が得られずコアロスが増大するためであり、0.05wt%より多いと異常粒成長し、コアロスが急激に増大するためである。CaOを0.01〜0.1wt%としたのは、0.01wt%より少ないと十分な比抵抗が得られずコアロスが増大するためであり、0.1wt%より多いと焼結体密度が低下し、コアロスが急激に増大するためである。Nb25を0.01〜0.1wt%としたのは、0.01wt%より少ないと十分な比抵抗が得られずコアロスが増大するためであり、0.1wt%より多いと異常粒成長し、コアロスが急激に増大するためである。CoOを0.01〜0.5wt%としたのは、0.01wt%より少ないとコアロスの温度に対する変化率を十分に小さくすることができないためであり、0.5wt%より多いとコアロスが急激に増大するためである。
【0023】
また、焼結体の密度を4.95g/cc以上、結晶粒径を10〜15μmとすることにり、数百kHz付近の高周波領域まで低損失でかつ、室温から140℃付近の高温度までコアロスの温度に対する変化率が小さい酸化物磁性材料を得ることができる。
【実施例1】
【0024】
次に具体的な実施例を挙げ、本発明の酸化物磁性材料について、さらに詳しく説明する。
【0025】
主成分がFe23:51.5〜57.5モル%、ZnO:8.5〜13.5モル%、CuO:0〜5.5モル%、残部をMnOとなる様に秤量し、ボールミルを用いて混合し、大気雰囲気中850℃で2時間仮焼し、副成分としてSiO2を0.03wt%、CaOを0.05wt%、Nb25を0.05wt%、CoOを0.25wt%添加した後、ボールミルで微粉砕を行った。微粉砕後、バインダーを添加し、スプレードライヤーにて造粒した。次に、φ30×φ25×5mmのトロイダル形状に成形して、酸素分圧をコントロールした還元雰囲気中1250℃で6時間焼結した。
【0026】
又、従来材として同様な方法により、Fe23:53.0モル%、MnO:35.0モル%、残部をZnOの主成分組成で、副成分としてSiO2を0.03wt%、CaOを0.05wt%、Nb25を0.05wt%添加し、同条件にて試料を作製した。
【0027】
次に、得られたコアに巻線をし、周波数100kHz、磁束密度200mTの測定条件下でコアロスを交流BHトレーサーより室温から140℃まで測定した。直流BHトレーサーで1194A/mでの磁束密度を100℃まで測定した。その後、インピーダンスアナライザーで透磁率の測定を行った。室温及び140℃でのコアロス、及びコアロスの極小温度、室温での100kHzの透磁率、100℃での飽和磁束密度を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
試料1〜3は、本発明の実施例であり、試料4〜7は、主成分組成が特許請求範囲外の比較例である。また、試料29は従来例である。
【0030】
図1は、室温から140℃の温度範囲でのコアロスの温度特性を示した図である。表1、図1より、試料1〜3では、高い飽和磁束密度及び透磁率を示し、室温から140℃までコアロス(Pcv)が低くなっている事が分かる。
【実施例2】
【0031】
主成分がFe23:54.0モル%、ZnO:11.0モル%、CuO:2.5モル%、残部をMnOとなる様に秤量し、ボールミルを用いて混合し、大気雰囲気中850℃で2時間仮焼し、副成分としてSiO2を0.001〜0.06wt%、CaOを0.005〜0.15wt%、Nb25を0.005〜0.15wt%、CoOを0.005〜0.55wt%した後、ボールミルで微粉砕を行った。微粉砕後、バインダーを添加し、スプレードライヤーにて造粒したその後、φ30×φ25×5mmのトロイダル形状に成形して、酸素分圧をコントロールした還元雰囲気中1250℃で6時間焼結した。
【0032】
又、従来例として同様な方法により、Fe23:53.0モル%、MnO:35.0モル%、残部をZnOの主成分組成で、副成分としてSiO2を0.03wt%、CaOを0.05wt%、Nb25を0.05wt%添加し、同条件にて試料を作製した。
【0033】
次に、得られたコアに巻線をし、周波数100kHz、磁束密度200mTの測定条件下でコアロスを交流BHトレーサーより室温から140℃まで測定した。直流BHトレーサーで1194A/mでの磁束密度を100℃まで測定した。その後、インピーダンスアナライザーで透磁率の測定を行った。室温及び140℃でのコアロス、及びコアロスの極小温度、室温での100kHzの透磁率、100℃での飽和磁束密度を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
試料8〜15は、本発明の実施例であり、試料16〜23は、副成分組成が特許請求範囲外の比較例である。また、試料29は従来例である。表2より、試料8〜15では、室温から140℃まで低損失で、飽和磁束密度が高く、透磁率も高いことが分かる。
【実施例3】
【0036】
主成分がFe23:54.0モル%、ZnO:11.0モル%、CuO:2.5モル%、残部をMnOとなるように秤量し、ボールミルを用いて混合し、大気雰囲気中850℃で2時間仮焼し、副成分としてSiO2を0.03wt%、CaOを0.05wt%、Nb25を0.05wt%、CoOを0.25wt%した後、ボールミルで微粉砕を行った。微粉砕後、バインダーを添加し、スプレードライヤーにて造粒した。その後、φ30×φ25×5mmのトロイダル形状に成形して、酸素分圧をコントロールした還元雰囲気中1180〜1350℃で6時間焼結した。
【0037】
又、従来例として同様な方法により、Fe23:53.0モル%、MnO:35.0モル%、残部:ZnOの主成分組成で、副成分としてSiO2を0.03wt%、CaOを0.05wt%、Nb25を0.05wt%添加し、同条件にて試料を作製した。
【0038】
次に、得られたコアに巻線をし、周波数100kHz、磁束密度200mTの測定条件下でコアロスを交流BHトレーサーより室温から140℃まで測定した。直流BHトレーサーで1194A/mでの磁束密度を100℃まで測定した。その後、インピーダンスアナライザーで透磁率の測定を行った。室温及び140℃でのコアロス、及びコアロスの極小温度、室温での100kHzの透磁率、100℃での飽和磁束密度を表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
試料1、24、25は、本発明の実施例であり、試料26〜28は、焼結体の密度または、焼結体の結晶粒径が特許請求範囲外の比較例である。また、試料29は従来例である。表3より、焼結体密度が4.95g/cc以上、結晶粒径が10〜15μmである試料1,24,25では、室温から140℃まで低損失となっていて、飽和磁束密度が高く、透磁率も高いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例に係わる室温から140℃の温度範囲でのコアロスの温度特性を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として、酸化鉄をFe23換算で52.0〜56.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で8.0〜13.0モル%、酸化銅をCuO換算で0〜5.0モル%(0を含まず)、残部が酸化マンガン(MnO)からなり、副成分として、酸化ケイ素をSiO2換算で0.005〜0.05wt%、酸化カルシウムをCaO換算で0.01〜0.1wt%、酸化ニオブをNb換算で0.01〜0.5wt%、酸化コバルトをCoO換算で0.01〜0.5wt%含有してなることを特徴とする酸化物磁性材料。
【請求項2】
焼結体の密度が4.95g/cc以上であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物磁性材料。
【請求項3】
焼結体の結晶粒径が10〜15μmであることを特徴とする請求項1に記載の酸化物磁性材料。

【図1】
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【公開番号】特開2007−311387(P2007−311387A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136127(P2006−136127)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】