説明

酸化物触媒及びそれを用いた気体中の有機物成分の分解方法

【課題】酸化物触媒本来の分解性能を阻害することなく、気体中の揮発性有機化合物(VOC)、有機物ミスト、有機物微粒子等の有機物成分を効果的に分解処理することができる酸化物触媒及びそれを用いた気体中の有機物成分の分解方法を提供する。
【解決手段】本発明の酸化物触媒1は、酸化物半導体の熱励起を利用した酸化物触媒であり、金属、セラミックス、炭素のいずれかからなる支持体2の表面2aに、金属酸化物を電気泳動法により固着してなる酸化物半導体被膜3を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物触媒及びそれを用いた気体中の有機物成分の分解方法に関し、更に詳しくは、酸化物触媒本来の分解性能を阻害することなく、気体中の揮発性有機化合物(VOC:volatile organic compound)蒸気、有機物ミスト、有機物微粒子等の有機物成分を効果的に分解処理することが可能な酸化物触媒、この酸化物触媒を用いることにより気体中の有機物成分を効果的に分解処理することが可能な気体中の有機物成分の分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化チタン(TiO)は、白色顔料(チタンホワイト)として化粧品、医薬品、磁器原料等に幅広く用いられており、近年では、酸化チタンの光触媒作用を利用した抗菌・環境浄化のための様々な製品が提案され実用化されている(例えば、非特許文献1等参照)。
これらの製品は、酸化チタン粉末を、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属、ゼオライト、ガラス等のセラミックス、カーボン等の基材上に、塗布法、ディップ法、電気泳動法等により担持させたもので、プレート状、線材、ハニカム状等、様々な形状のものが提案されている。また、比較的低温の温度域で高熱量を発生させることのできる燃焼補助剤として、表面をポリカーボネイトで被覆した酸化チタン粉末等も提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、酸化チタン(TiO)が3.2eVのギャップエネルギー(Eg)を有する半導体であることから、この酸化チタンの熱励起により大量に生成される正孔を利用した有機廃棄物の分解システムが提案されている(非特許文献2)。
この分解システムは、酸化チタンを350〜500℃という高温に加熱することにより、この酸化チタンに大量に生成する正孔により有機廃棄物から電子を奪うことで該有機廃棄物内にラジカルを生成し、このラジカルによる逐次的な開裂により該有機廃棄物をフラグメント化して低分子有機化合物とし、この低分子有機化合物を大気中にて完全燃焼し、無害化するシステムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−265966号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】藤嶋 昭、「注目されている光触媒」、セラミックス、(社)日本セラミックス協会、2004年、第39巻、第7号、p.499−503
【非特許文献2】J.ミズグチ、T.シンバラ、「ディスポウザル オブ ユーズトオプティカル ディスクス ユーティライジング サーマリ−イクサイテド ホウルズ インチタニウム ジオキサイド アット ハイ テンパラチュアズ:ア コンプリート ディコンポズィション オブ ポリカーボネート」、ジャーナル オブ アプライド フィジックス、米国物理学会、2004年、第96巻、p.3514−3519
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の酸化チタンの熱励起により有機廃棄物を分解するシステムでは、酸化チタン粉末を用いているために、本来高い分解能力を有しているにもかかわらず、本来の酸化チタンの分解性能を充分に発揮するまでには至っていないという問題点があった。
そこで、酸化チタン粉末を金属基板等の上に担持させることが考えられるが、上記のシステムが熱履歴を繰り返すことから、酸化チタン粉末を金属基板等の上に担持させただけでは、酸化チタン粉末を担持し続けることが難しい。そこで、上記のシステムを実用化するためには、酸化チタン粉末をハニカム等に担持することが必要であり、特に、有機物成分を含有する気体中の有機物成分の処理には、酸化チタンの担持方法が要素技術となる。
しかしながら、酸化チタンの担持については、光触媒の分野では検討されているものの、酸化チタンの熱励起による有機物の分解システムでは、何等検討されていないのが現状である。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、酸化物触媒本来の分解性能を阻害することなく、気体中の揮発性有機化合物蒸気、有機物ミスト、有機物微粒子等の有機物成分を効果的に分解処理することができる酸化物触媒及びそれを用いた気体中の有機物成分の分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、金属、セラミックス、炭素のいずれかからなる支持体の表面に、金属酸化物を電気泳動法により固着してなる酸化物半導体被膜を形成することにより、酸化物触媒本来の分解性能を阻害することなく、気体中の揮発性有機化合物、有機物ミスト、有機物微粒子等の有機物成分が効果的に分解されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の酸化物触媒は、酸化物半導体の熱励起を利用して気体中の有機物成分の分解を行う酸化物触媒であって、金属、セラミックス、炭素のいずれかからなる支持体の表面に、金属酸化物を電気泳動法により固着してなる酸化物半導体被膜が形成されてなり、前記有機物成分は、揮発性有機化合物、有機ミスト、有機微粒子のいずれかからなり、前記金属は、チタン、亜鉛、ジルコニウム、鉄、スズ、ニッケル、マンガン、コバルトの群から選択される1種からなる金属または合金であり、前記セラミックスは、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、ガラスのいずれかであり、前記炭素は、グラファイトであることを特徴とする。
【0010】
この酸化物触媒では、前記酸化物半導体被膜は、前記支持体と熱膨張係数及び格子定数が近似してなることが好ましい。
前記酸化物半導体被膜と前記支持体との間に、熱膨張係数及び格子定数が前記酸化物半導体被膜及び前記支持体と近似した中間層を形成してなることが好ましい。
前記支持体の形状は、球状、多面体状、柱状、筒状、板状、薄板状、ワイヤ状、網状、ハニカム状のいずれかであることが好ましい。
【0011】
本発明の気体中の有機物成分の分解方法は、本発明の酸化物触媒を用いて有機物成分を含有する気体中の有機物成分を分解する方法であって、前記酸化物触媒を加熱し、この加熱した酸化物触媒に前記有機物成分を含有する気体を通過させて前記有機物成分を分解することを特徴とする。
【0012】
この有機物成分の分解方法は、前記有機物成分は、揮発性有機化合物蒸気であり、この揮発性有機化合物を前記酸化物触媒により分解処理することが好適に適用可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の酸化物触媒によれば、金属、セラミックス、炭素のいずれかからなる支持体の表面に、金属酸化物を電気泳動法により固着してなる酸化物半導体被膜を形成したので、支持体と酸化物半導体被膜との強固な固着が達成され、酸化物触媒本来の分解性能を阻害することなく、気体中の有機物成分を効果的に分解処理することができる。
【0014】
本発明の気体中の有機物成分の分解方法によれば、本発明の酸化物触媒を加熱し、この加熱した酸化物触媒に有機物成分を含有する気体を通過させて前記有機物成分を分解するので、塗装、印刷、石油化学等の工場あるいはクリーニング、給油等の施設の排気に含まれる揮発性有機化合物等の光化学スモッグ原因物質、さらには建物内の空気中のシックハウス原因物質、悪臭成分等を、簡単な構成で、しかも安価かつ効果的に分解処理することができ、建物内外の環境改善に大きく貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態の酸化物触媒を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の有機物成分の分解装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の酸化物触媒及びそれを用いた気体中の有機物成分の分解方法を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
本発明の酸化物触媒は、酸化物半導体の熱励起を利用した酸化物触媒であり、次の(1)、(2)のいずれかからなる酸化物触媒である。
(1)金属、セラミックス、炭素のいずれかからなる支持体の表面に、金属または低次酸化物を酸化処理してなる酸化物半導体被膜が形成された酸化物触媒。
(2)金属、セラミックス、炭素のいずれかからなる支持体の表面に、金属酸化物を電気泳動法により固着してなる酸化物半導体被膜が形成された酸化物触媒。
ここで、低次酸化物とは、TiO2に対するTiOあるいはSnO2に対するSnOのように、金属原子の酸化状態が低い(価数が低い)酸化物のことである。
【0018】
次に、この酸化物触媒について、詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態の酸化物触媒を示す断面図であり、図において、1は酸化物触媒であり、球状の支持体2の表面2aに酸化物半導体被膜3が形成されている。
【0019】
この支持体2は、金属、セラミックス、炭素のいずれかからなるもので、金属としては、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)等の金属、あるいはこれらの元素を成分とする合金が好適に用いられる。また、セラミックスとしては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、ガラス等のセラミックスが好適に用いられる。また、炭素としては、グラファイトが好適に用いられる。
【0020】
この支持体2の形状は、酸化物触媒の用途、大きさ、使用形態等に応じて様々な形状が適用可能であり、図1に示す球状の他、多面体状、柱状、筒状、板状、薄板状、ワイヤ状、網状、ハニカム状のいずれかが適宜選択される。
特に、球状のものは、分解処理する有機物成分を含有する気体が均一かつ円滑に通過する空隙を容易に形成することができる点で好ましい。
【0021】
酸化物半導体被膜3は、支持体2の表面2aに形成された金属または低次酸化物を含む被膜を酸化処理、あるいは支持体2の表面2aに金属酸化物を電気泳動法により固着することにより、酸素雰囲気下でも半導体として動作する被膜である。この金属としては、酸化した場合に半導体となるチタン(Ti)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)等の金属、あるいはこれらの元素を成分とする合金が好適に用いられる。
【0022】
また、電気泳動法の場合、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化鉄(Fe)、酸化スズ(SnO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化マンガン(MnO)、酸化コバルト(CoO)等の金属酸化物、あるいはこれらを成分とする複合酸化物が好適に用いられる。
例えば、ルチル型の酸化チタン(TiO)を電気泳動法により固着することにより、ルチル型の酸化チタン(TiO)からなる被膜が形成される。
【0023】
この酸化物半導体被膜3の膜厚は、機械的強度を保ちつつ触媒としての機能を発揮することができる膜厚であればよく、例えば、支持体2の直径を100〜1000μmとしたとき、酸化物半導体被膜3の膜厚は1〜10μmが好ましく、より好ましくは1〜3μmである。
【0024】
この酸化物触媒1では、酸化物半導体被膜3は、支持体2と熱膨張係数及び格子定数が近似していることが好ましく、例えば、±10%の範囲内で近似していることがより好ましい。
その理由は、酸化物半導体被膜3の熱膨張係数及び格子定数が、支持体2の熱膨張係数及び格子定数と大きく異なっていると、この酸化物触媒1を、例えば、従来の酸化チタンの熱励起により有機廃棄物を分解するシステムに適用した場合、このシステムが熱履歴を繰り返すことにより、熱膨張係数及び格子定数の違いにより酸化物半導体被膜3が支持体2から剥がれ易くなり、酸化物半導体被膜3を支持体2の表面2aに担持し続けることができなくなるからである。
【0025】
例えば、支持体2を酸化アルミニウム(Al)とし、酸化物半導体被膜3をルチル型の酸化チタン(TiO)とした場合、酸化アルミニウム(Al)の熱膨張係数は8×10−6/℃、ルチル型の酸化チタン(TiO)の熱膨張係数は7.19×10−6/℃〜9.94×10−6/℃であるので、好適な組み合わせとして例示される。
【0026】
また、この酸化物半導体被膜3と支持体2との間に、熱膨張係数及び格子定数が酸化物半導体被膜3及び支持体2と近似した中間層を形成してもよい。
例えば、支持体2をアルミニウム(Al)、酸化物半導体被膜3をルチル型の酸化チタン(TiO)とした場合、中間層としては、酸化アルミニウム(Al)、酸化クロム(Cr)等の被膜が好適である。
【0027】
この酸化物触媒1は、次の(1)または(2)の方法により作製することができる。
(1)酸化処理による方法
金属、セラミックス、炭素のいずれかからなる支持体2の表面2aに、金属粒子の高速噴射、真空蒸着、スパッタリング、スラリー塗布等の手法で、金属被膜または低次酸化物被膜を形成し、この被膜を、酸素雰囲気中での熱酸化、陽極酸化、湿潤水素による酸化処理等の手法で酸化して酸化物半導体被膜とする方法である。
【0028】
上記の熱酸化による場合、酸素含有雰囲気、例えば大気中にて、500℃以上、好ましくは800℃以上の温度にて0.5〜1時間熱処理することが好ましい。
また、陽極酸化の場合、金属としてはアルミニウム(Al)、チタン(Ti)等が好適に用いられ、このときの浴組成としては、純水200mlに濃硫酸(純度:95%)30gを溶解した電解液が好適である。 例えば、アルミニウム(Al)を電流密度1.8A/dmにて約60秒陽極酸化した場合、膜厚が1〜3μmのα−アルミナ(α−Al)が、チタン(Ti)を電流密度1.8A/dmにて約60秒陽極酸化した場合、膜厚が1〜3μmのアナターゼ型チタニア(TiO)が、それぞれ得られる。
【0029】
そして、湿潤水素による酸化処理において、湿潤水素とは、水蒸気を含んだ水素のことであり、水素ガスを水中にてバブリングすることで得ることができる。この方法は、予め、金属等の被酸化物の表面を水素で還元処理して清浄な表面とし、次いで、この清浄な表面を、約1000℃の湿潤水素雰囲気下にて、水蒸気(HO)の熱分解により生じた酸素を用いて酸化する方法であり、膜厚が一様でかつ緻密な酸化膜を形成することができるという特徴がある。
【0030】
(2)電気泳動による方法
金属酸化物微粒子の粒径及び表面積を保つため、金属酸化物微粒子を有機溶媒中に分散した分散液を作製し、この分散液中に、金属、セラミックス、炭素のいずれかからなる支持体2を浸漬し、電気泳動法により支持体2の表面2aに金属酸化物微粒子を固着させ、酸化物半導体被膜とする方法である。
【0031】
このようにして得られた酸化物触媒1は、酸化物触媒本来の分解性能を阻害することなく、気体中の有機物成分を効果的に分解処理することができる。
この酸化物触媒1を用いて分解装置を構成すれば、気体中の有機物成分を安価かつ効果的に分解処理することができる。
【0032】
図2は、本発明の一実施形態の有機物成分の分解装置を示す断面図であり、図において、11は有機物成分分解装置であり、耐熱ガラス管12に酸化物触媒1が所定量充填され、この耐熱ガラス管12の外周面には酸化物触媒1を所定の温度に加熱・保持するためのヒータ13が巻回され、この耐熱ガラス管12の両端には有機物成分含有気体Gを導入する有機物成分含有気体導入管14及び分解処理された気体gを排出する処理気体排出管15が設けられている。
【0033】
この有機物成分含有気体G中の有機物成分としては、揮発性有機化合物、有機ミスト、有機微粒子のいずれであってもよいが、揮発性有機化合物、特に、ディーゼルエンジンの排ガス等に含まれるトルエン、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素は、酸素存在下で完全燃焼した場合に水と二酸化炭素に完全に分解するので、分解処理するのに好都合である。
【0034】
この有機物成分分解装置11を用いて有機物成分含有気体Gを分解処理するには、予め、制御装置(図示略)を用いてヒータ13に通電して酸化物触媒1を所定の温度、例えば350℃〜500℃に加熱・保持しておき、この加熱された酸化物触媒1に有機物成分含有気体導入管14により有機物成分含有気体Gを導入する。
酸化物触媒1は、350℃〜500℃に加熱されることで酸化物半導体被膜3が熱励起され、この酸化物半導体被膜3中に大量に正孔が生成し、この大量の正孔が有機物成分から電子を奪い、有機物成分中にラジカルを生成する。このラジカルによる逐次的な開裂により有機物成分はフラグメント化された低分子となり、充分な酸素下で完全燃焼して水と二酸化炭素に変化する。
この無害化された気体gは処理気体排出管15により外部へ向けて排出される。
【0035】
この有機物成分の分解方法によれば、加熱により熱励起された酸化物触媒1に有機物成分含有気体Gを通過させて分解処理するので、気体中の有機物成分を、簡単な構成で、しかも安価かつ効果的に分解処理することができる。
また、酸化物触媒1が球形の場合、酸化物触媒1を最密充填しても酸化物触媒1間に26%程度の空隙が生じ、有機物成分含有気体Gを定常的に通過させて分解処理することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0037】
「実施例1」
アセトン50mlに、ニトロセルロース0.3g、ルチル型酸化チタンST−01(石原産業社製)5gを投入して強力に撹拌混合し、さらに、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)5μl、及び濃硫酸5μlを加え、電着液を調製した。
次いで、支持体2として直径500μm、長さ50mmのニクロム線を用い、このニクロム線とアルミニウム板を電着液中に浸漬し、ニクロム線を正極、アルミニウム板を負極として、300Vにて0.3秒、電着を行った。その後、ヘアドライヤを用いて乾燥し、実施例1の酸化物触媒を得た。
【0038】
この酸化物触媒における酸化物半導体被膜の膜厚は15μmであった。
また、この酸化物触媒を500℃に加熱し、酸素ガスをキャリアとしてトルエン中にバブリングした混合ガスを毎分200mlの流速で分解処理したところ、排出されたガスは水及び二酸化炭素を含むのみであり、従来の酸化チタン粉末と同等の分解性能を有することが確認された。
【0039】
「実施例2」
支持体2として直径500μm、長さ50mmのアルミニウム線を用い、このアルミニウム線とアルミニウム板を実施例1の電着液中に浸漬し、アルミニウム線を正極、アルミニウム板を負極として、500Vにて0.1秒、電着を行った。その後、ヘアドライヤを用いて乾燥し、実施例2の酸化物触媒を得た。
この酸化物触媒における酸化物半導体被膜の膜厚は10μmであった。
また、この酸化物触媒を500℃に加熱し、酸素ガスをキャリアとしてトルエン中にバブリングした混合ガスを毎分200mlの流速で分解処理したところ、排出されたガスは水及び二酸化炭素を含むのみであり、従来の酸化チタン粉末と同等の分解性能を有することが確認された。
【0040】
「実施例3」
支持体2として直径500μm、長さ70mmのグラファイトを用い、このグラファイトとアルミニウム板を実施例1の電着液中に浸漬し、グラファイトを正極、アルミニウム板を負極として、500Vにて0.1秒、電着を行った。その後、ヘアドライヤを用いて乾燥し、実施例3の酸化物触媒を得た。
この酸化物触媒における酸化物半導体被膜の膜厚は20μmであった。
また、この酸化物触媒を500℃に加熱し、酸素ガスをキャリアとしてトルエン中にバブリングした混合ガスを毎分200mlの流速で分解処理したところ、排出されたガスは水及び二酸化炭素を含むのみであり、従来の酸化チタン粉末と同等の分解性能を有することが確認された。
【0041】
「実施例4」
支持体2として厚み1mm、縦横ともに10mmのカーボンフェルト綿(KF綿) KF−1700(東洋紡社製)を用い、このKF綿とアルミニウム板を実施例1の電着液中に浸漬し、KF綿を正極、アルミニウム板を負極として、550Vにて0.1秒、電着を行った。その後、ヘアドライヤを用いて乾燥し、実施例4の酸化物触媒を得た。
この酸化物触媒における酸化物半導体被膜の膜厚は10μmであった。
また、この酸化物触媒を500℃に加熱し、酸素ガスをキャリアとしてトルエン中にバブリングした混合ガスを毎分200mlの流速で分解処理したところ、排出されたガスは水及び二酸化炭素を含むのみであり、従来の酸化チタン粉末と同等の分解性能を有することが確認された。
【0042】
「実施例5」
支持体2として直径100μm、長さ150mmのスチール綿を用い、このスチール綿とアルミニウム板を実施例1の電着液中に浸漬し、スチール綿を正極、アルミニウム板を負極として、400Vにて0.2秒、電着を行った。その後、ヘアドライヤを用いて乾燥し、実施例5の酸化物触媒を得た。
この酸化物触媒における酸化物半導体被膜の膜厚は15μmであった。
また、この酸化物触媒を500℃に加熱し、酸素ガスをキャリアとしてトルエン中にバブリングした混合ガスを毎分100mlの流速で分解処理したところ、排出されたガスは水及び二酸化炭素を含むのみであり、従来の酸化チタン粉末と同等の分解性能を有することが確認された。
【0043】
「実施例6」
支持体2として直径0.4mmのジルコニア(ZrO2)球を用い、このジルコニア球に真空中でチタンを蒸着し、ジルコニア球の表面に膜厚が0.65−1μmの金属チタン皮膜を形成した。このような被膜を形成した粒子の表面は、光沢のない灰色を帯びた金属色を呈した。
次いで、このチタン被膜付きジルコニア球を、大気中、800℃にて1時間加熱し、チタン被膜をルチル型酸化チタン被膜とし、実施例6の酸化物触媒とした。この粒子の外観は、白色であった。
【0044】
次いで、この酸化物触媒を直径3mmのパイレックス(登録商標)管に充填し、この酸化物触媒を500℃に加熱し、そこに、酸素ガスをキャリアとしたトルエンの飽和蒸気を毎分50mlの流速で流し、分解処理したところ、排出されたガスは水及び二酸化炭素を含むのみであり、トルエンが完全に分解していることが分かった。これにより、従来の酸化チタン粉末と同等の分解性能を有することが確認された。
【0045】
「実施例7」
支持体2として直径0.4mmのジルコニア(ZrO2)球を用い、このジルコニア球に真空中でチタンを蒸着し、ジルコニア球の表面に膜厚が0.65〜1μmの金属チタン皮膜を形成した。
次いで、このチタン被膜付きジルコニア球を水素炉に入れ、予め水素を水の中でバブリングして得られた湿潤水素を毎分15Lの流速で流し、1000℃にて40分間、酸化してチタン被膜をルチル型酸化チタン被膜とし、実施例7の酸化物触媒を得た。
【0046】
次いで、この酸化物触媒を直径3mmのパイレックス(登録商標)管に充填し、この酸化物触媒を500℃に加熱し、そこに、酸素ガスをキャリアとしたベンゼンの飽和蒸気を毎分50mlの流速で流し、分解処理したところ、排出されたガスは水及び二酸化炭素を含むのみであり、ベンゼンが完全に分解していることが分かった。これにより、従来の酸化チタン粉末と同等の分解性能を有することが確認された。
【0047】
「実施例8」
支持体2として直径4mmのアルミナ球を用い、このアルミナ球に金属チタン粒子を噴射し、アルミナ球の表面に膜厚が1〜3μmの金属チタンを主成分とする被膜を形成した。このような被膜を形成した粒子の表面は、光沢のない灰色を帯びた金属色を呈した。
次いで、このチタン被膜付きアルミナ球を、大気中、800℃にて1時間加熱し、チタン被膜をルチル型酸化チタン被膜とし、実施例8の酸化物触媒とした。この粒子の外観は、白色であった。
【0048】
次いで、この酸化物触媒を直径3mmのパイレックス(登録商標)管に充填し、この酸化物触媒を500℃に加熱し、そこに、酸素ガスをキャリアとしたトルエンの飽和蒸気を毎分50mlの流速で流し、分解処理したところ、排出されたガスは水及び二酸化炭素を含むのみであり、トルエンが完全に分解していることが分かった。これにより、従来の酸化チタン粉末と同等の分解性能を有することが確認された。
【0049】
「実施例9」
支持体2として直径4mmのアルミナ球を用い、このアルミナ球に金属チタン粒子を噴射し、アルミナ球の表面に膜厚が1〜3μmの金属チタンを主成分とする被膜を形成した。
次いで、このチタン被膜付きアルミナ球を水素炉に入れ、予め水素を水の中でバブリングして得られた湿潤水素を毎分15Lの流速で流し、1000℃にて40分間、酸化してチタン被膜をルチル型酸化チタン被膜とし、実施例9の酸化物触媒を得た。
【0050】
次いで、この酸化物触媒を直径3mmのパイレックス(登録商標)管に充填し、この酸化物触媒を500℃に加熱し、そこに、酸素ガスをキャリアとしたトルエンの飽和蒸気を毎分50mlの流速で流し、分解処理したところ、排出されたガスは水及び二酸化炭素を含むのみであり、トルエンが完全に分解していることが分かった。これにより、従来の酸化チタン粉末と同等の分解性能を有することが確認された。
【0051】
「実施例10」
支持体2として直径0.5mm、長さ100mmの螺旋状のニクロム発熱体(Ni/Cr=80/20:600W)を用い、このニクロム発熱体を水素炉に入れ、予め水素を水の中でバブリングして得られた湿潤水素を毎分15Lの流速で流し、980℃にて30分間、酸化した。この酸化処理により、ニクロム発熱体中のクロム(Cr)が選択的に酸化され、表面が緑がかった黒色の酸化クロム(Cr)となった実施例10の酸化物触媒を得た。
【0052】
次いで、この酸化物触媒に100V、6Aの電力を印加して500℃に加熱し、そこに、酸素ガスをキャリアとしたベンゼンの飽和蒸気を毎分50mlの流速で流し、分解処理したところ、排出されたガスは水及び二酸化炭素を含むのみであり、ベンゼンが完全に分解していることが分かった。これにより、従来の酸化チタン粉末と同等の分解性能を有することが確認された。
【0053】
「実施例11」
支持体2として直径0.5mm、長さ100mmの螺旋状のニクロム発熱体(Ni/Cr=80/20:600W)を用い、このニクロム発熱体とアルミニウム板を実施例1の電着液中に浸漬し、ニクロム発熱体を正極、アルミニウム板を負極として、500Vにて0.1秒、電着を行った。その後、ヘアドライヤを用いて乾燥し、実施例11の酸化物触媒を得た。
この酸化物触媒における酸化物半導体被膜の膜厚は5μmであった。
【0054】
次いで、この酸化物触媒に100V、6Aの電力を印加して500℃に加熱し、そこに、酸素ガスをキャリアとしたベンゼンの飽和蒸気を毎分150mlの流速で流し、分解処理したところ、排出されたガスは水及び二酸化炭素を含むのみであり、従来の酸化チタン粉末と同等の分解性能を有することが確認された。
【0055】
「実施例12」
支持体2として直径0.4mmのジルコニア(ZrO)球を用い、このジルコニア球に真空中でスズを蒸着し、ジルコニア球の表面に膜厚が0.8〜1.2μmの金属スズ皮膜を形成した。このような酸化スズ被膜を形成した粒子の表面は、光沢のない灰色を帯びた金属色を呈した。
次いで、このスズ被膜付きジルコニア球を、大気中、500℃にて1時間加熱し、スズ被膜を酸化スズ被膜とし、実施例12の酸化物触媒とした。この粒子の外観は、白色であった。
【0056】
この酸化物触媒を直径3mmのパイレックス(登録商標)管に充填し、この酸化物触媒を350℃に加熱し、そこに、酸素ガスをキャリアとしたトルエンの飽和蒸気を毎分50mlの流速で流し、分解処理したところ、排出されたガスは水及び二酸化炭素を含むのみであり、トルエンが完全に分解していることが分かった。
【0057】
「実施例13」
実施例12と同様に酸化スズ皮膜をジルコニア球状に形成した球をこの酸化物触媒を直径3mmのパイレックス(登録商標)管に充填し、この酸化物触媒を450℃に加熱し、そこに、酸素ガスをキャリアとしたベンゼンの飽和蒸気を毎分50mlの流速で流し、分解処理したところ、排出されたガスは水及び二酸化炭素を含むのみであり、ベンゼンが完全に分解していることが分かった。
【符号の説明】
【0058】
1 酸化物触媒
2 支持体
2a 表面
3 酸化物半導体被膜
11 有機物成分分解装置
12 耐熱ガラス管
13 ヒータ
14 有機物成分含有気体導入管
15 処理ガス排出管
G 有機物成分含有気体
g 分解処理された気体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物半導体の熱励起を利用して気体中の有機物成分の分解を行う酸化物触媒であって、
金属、セラミックス、炭素のいずれかからなる支持体の表面に、金属酸化物を電気泳動法により固着してなる酸化物半導体被膜が形成されてなり、
前記有機物成分は、揮発性有機化合物、有機ミスト、有機微粒子のいずれかからなり、
前記金属は、チタン、亜鉛、ジルコニウム、鉄、スズ、ニッケル、マンガン、コバルトの群から選択される1種からなる金属または合金であり、前記セラミックスは、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、ガラスのいずれかであり、前記炭素は、グラファイトであることを特徴とする酸化物触媒。
【請求項2】
前記酸化物半導体被膜は、前記支持体と熱膨張係数及び格子定数が近似してなることを特徴とする請求項1記載の酸化物触媒。
【請求項3】
前記酸化物半導体被膜と前記支持体との間に、熱膨張係数及び格子定数が前記酸化物半導体被膜及び前記支持体と近似した中間層を形成してなることを特徴とする請求項1または2記載の酸化物触媒。
【請求項4】
前記支持体の形状は、球状、多面体状、柱状、筒状、板状、薄板状、ワイヤ状、網状、ハニカム状のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の酸化物触媒。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の酸化物触媒を用いて有機物成分を含有する気体中の有機物成分を分解する方法であって、
前記酸化物触媒を加熱し、この加熱した酸化物触媒に前記有機物成分を含有する気体を通過させて前記有機物成分を分解することを特徴とする気体中の有機物成分の分解方法。
【請求項6】
前記有機物成分は、揮発性有機化合物であることを特徴とする請求項5記載の気体中の有機物成分の分解方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−176404(P2012−176404A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−104978(P2012−104978)
【出願日】平成24年5月1日(2012.5.1)
【分割の表示】特願2007−60770(P2007−60770)の分割
【原出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【出願人】(000154082)株式会社不二機販 (25)
【Fターム(参考)】