説明

酸化物超電導バルク体の製造方法および酸化物超電導バルク体

【課題】本発明は、短い時間で結晶成長可能とし、捕捉磁場特性の優れた酸化物超電導バルク体を製造する技術の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、種結晶の結晶構造を基に半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とする方法であって、前駆体を包晶温度よりも低く、結晶化開始温度よりも低い温度域において、複数段のステップで徐々に温度降下させ、各ステップにおいては等温保持する予備的段階降温等温処理を施し、次いで、前駆体を包晶温度以上の温度に加熱し、結晶成長のための処理として複数段のステップで徐々に温度降下させ、各ステップにおいては等温保持する主体的段階降温等温処理を施して前駆体を結晶化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トップシード溶融凝固法に基づいて酸化物超電導バルク体を製造する方法及び酸化物超電導バルク体に関し、ファセットが十分に成長した状態であって捕捉磁場の大きな大型かつ高品質の酸化物超電導バルク体を得ることができるようにした技術に関する。
【背景技術】
【0002】
大型の酸化物超電導バルク体を製造する方法の一例として溶融法が知られている。
この溶融法とは、REBaCu7−X(REは希土類元素を示す)なる組成の酸化物超電導バルク体を製造するに際し、REBaCu相またはREBaCu10相と、Ba-Cu-Oを主成分とした液相とが共存する温度領域まで加熱した後、REBaCu7−X相が生成する包晶温度直上の温度まで冷却し、その温度から徐冷することにより結晶成長させ、核生成と結晶方位の制御を行い、酸化物超電導バルク体を得る製造方法である。
【0003】
また、1つの種結晶を使用し、結晶成長開始温度が異なる材料を順次組み合わせて核生成、結晶方位および結晶成長方向を制御して酸化物超電導バルク体を製造するトップシード溶融凝固法(Top Seeding Melt Growth)が知られている。(特許文献1参照)
この特許文献1に記載されたトップシード溶融凝固法では、酸化物超電導バルク体を構成する元素の化合物粉末を目的の組成比で混合してなる原料粉末を圧密して前駆体を得た後、この前駆体を利用してREBaCu7−X(REは希土類元素を示す)なる組成の酸化物超電導体を製造するに際し、REBaCu相またはREBaCu10相と、Ba-Cu-Oを主成分とした液相とが共存する温度領域まで前駆体を加熱して半溶融状態とした後、半溶融状態の前駆体上に種結晶を設置し、REBaCu7−X相が生成する包晶温度直上の温度まで冷却し、その温度から徐冷することにより半溶融状態の前駆体の内部で種結晶に沿わせて徐々に結晶成長を行い、前駆体全体を酸化物超電導バルク体とする方法の一例として記載されている。
【0004】
更に、先のトップシード溶融凝固法を用いて希土類酸化物超電導バルク体を製造する方法において他の文献も知られている。(特許文献2参照)
この特許文献2に記載されたトップシード溶融凝固法は、REBaCu7−x系超電導体(ここでREはYを含む希土類元素の1種類又はその組み合わせ)の原料成形体を溶融加熱処理し、これを冷却してREBaCu7−x相中にREBaCuO相又はREBaCu10相が分散した酸化物超電導体を製造する方法において、前記原料成形体上に種結晶を載置してから溶融加熱処理を行う方法として開示されている。
この特許文献2の実施例1においては、原料粉末から形成した円盤状成形体を1150℃に加熱した後に、1080℃において種結晶を設置し、1060℃まで30分で降温し、更にここから1040℃まで120時間かけて徐冷し、結晶成長を行ったと記載されている。次にこの特許文献2の実施例2においては、970℃まで110時間かけて徐冷したと記載され、実施例3では960℃まで110時間かけて徐冷したと記載され、実施例4では1045℃まで120時間かけて徐冷したと記載され、実施例5では970℃まで110時間かけて徐冷し結晶成長を行ったと記載され、実施例6では960℃まで110時間かけて徐冷したと記載され、実施例7では970℃まで110時間かけて徐冷し、結晶成長を行ったと記載されている。
【特許文献1】特開平5−170598号公報
【特許文献2】特開2001−233696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先に記載した特許文献に記載されたトップシード溶融凝固法においては、いずれも、目的の酸化物超電導体の組成に応じて望ましい温度に加熱した成形体の温度を一端、包晶温度直上の温度まで冷却し、その温度から100時間を超える長い時間をかけてわずかな温度勾配をかけて徐冷する温度勾配冷却を行い、酸化物超電導バルク体を製造していた。従ってこの種の酸化物超電導バルク体を製造するために極めて長い時間、例えば100時間〜500時間程度の加熱処理が必要であり、製造効率が悪いという問題を有していた。
【0006】
また、この種のトップシード溶融凝固法を用いて酸化物超電導バルク体を製造する場合、結晶を成長させる温度は組成に応じて一義的に決まるものではなく、経験的な温度決めが必要不可欠であった。例えば、目的の組成比通りに前駆体を製造し、事前に熱分析により溶融温度を測定しておいたとしても、実際に製造に用いる加熱炉の温度分布や成形体のサイズ、成形体を製造する場合の製造条件のわずかなばらつき、あるいは、加熱条件などの微妙な差異により、溶融時に組成ずれが必ず起こり、先の熱分析値による指標温度も経験的な温度決めの予備的要素にしかならないケースが多いものであった。
また、加熱温度が1000℃を超える温度範囲となった場合、成形体試料の温度自体を精密に制御したり、計測すること自体が難しく、単に加熱炉に投入して加熱炉の設定温度を制御したのみでは、精密な温度制御は難しいものであるとともに、1000℃を超える成形体の温度状態を精密にモニターし、成形体の中心部と外周部で精密に温度制御すること自体困難なものであった。
【0007】
更に、前記いずれの製造方法において製造するにしても、酸化物超電導体を構成する元素は希土類元素を多く含み、不純物の混入を嫌うので、原材料単価自体が極めて高いとともに、100時間以上もの長い時間をかけて製造し、良好な条件の元で製造したとしてもわずかな条件等の手違いが起因となって歩留まりが大幅に低下するとして知られており、例えば数10〜100個程度製造を試みて数個程度の良品が得られるのみであって極めて歩留まりが悪いという問題があった。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、従来方法では100時間を超える徐冷処理による結晶成長が必要であったものを本発明では数時間〜10数時間程度の短い時間で結晶成長可能とし、捕捉磁場特性の優れた酸化物超電導バルク体を製造する技術の提供を目的とする。
また、長期の時間と多大な経費、精密な温度制御を長時間行って製造するという作業を簡略化し、本発明では安価かつ容易に捕捉磁場特性の優れた酸化物超電導バルク体を製造することができるようになる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、先に特願平2004−104592号特許明細書に記載の如く、包晶温度以上の温度に希土類系酸化物超電導体の前駆体を加熱した後、複数段のステップで徐々に温度降下させるとともに、各ステップにおいては等温保持する段階降温等温処理を施すことで、単に緩い温度勾配で徐冷して結晶成長させる従来技術よりも遙かに早く結晶成長させることができる効果があることを知見し、その技術について特許出願した。
本発明者はこの技術を元に更に応用し、研究を進めた結果、本願発明に到達した。
【0010】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、酸化物超電導体製造用の原料を仮焼きして圧密成形し、酸化物超電導体の前駆体を形成するとともに、該酸化物超電導体の前駆体を加熱して半溶融状態とした後に冷却し、前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とするトップシード溶融凝固法によって酸化物超電導バルク体を製造する方法であって、前記前駆体を前記仮焼き温度よりも高い温度であって酸化物超電導体の包晶温度よりも低い温度に加熱後、前記包晶温度よりも低く、結晶化温度よりも低い温度域であって、前記仮焼き温度よりも高い温度域において複数段のステップで徐々に温度降下させるとともに、各ステップにおいては等温保持する予備的段階降温等温処理を施し、次いで、前記予備的段階降温等温処理後の前駆体を前記包晶温度以上の温度に加熱し、半溶融状態とした後、結晶成長のための処理として複数段のステップで徐々に温度降下させるとともに、各ステップにおいては等温保持する主体的段階降温等温処理を施して前駆体を結晶化することを特徴とする。
【0011】
酸化物超電導バルク体を製造する場合、包晶温度よりも低く、結晶化開始温度よりも低い温度に加熱し、そこから複数段のステップで徐々に温度降下させるとともに、各ステップにおいては等温保持する予備的段階降温等温処理を施しても、種結晶を元にする前駆体の結晶化は進行しない。
しかし、包晶温度よりも低く、結晶化温度よりも低いが、仮焼き温度よりも高い温度に加熱し、そこから予備的段階降温等温処理を施しておくことにより、前駆体内部の種結晶に近い部分及びその他の部分では、結晶化が明確に進行しないまでも、結晶化を開始するのに近い組織状態になっているものと想定される。
この状態から、包晶温度よりも高い温度に再加熱し、そこから結晶化開始温度前後において複数段のステップで徐々に温度降下させるとともに、各ステップにおいては等温保持する主体的段階降温等温処理を施すことにより、結晶化開始状態に近い状態となっていた種結晶回りの前駆体の部分、およびその他の部分は、円滑に結晶化を開始し、むしろ、単に初めから直接、段階降温等温処理を施すよりも円滑に結晶化が進行する。
この結果、従来方法よりも遙かに短時間で良好な結晶化を行うことができ、捕捉磁場特性の良好な高品質の酸化物超電導バルク体を得ることができる。
【0012】
本発明は、前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とする際、前駆体の組成比に応じた理論的結晶成長温度を中心としてそれよりも高い温度域から主体的段階降温等温処理を開始し、結晶成長温度よりも低い温度域まで主体的段階降温等温処理を施し、その後、常温まで冷却することを特徴とする。
酸化物超電導バルク体をトップシード溶融凝固法に基づいて前駆体から製造する場合、前駆体を製造するための原料粉末の混合比や組成比あるいは前駆体製造時の種々の条件に影響される結果、前駆体が結晶化を開始する温度は製造しようとする前駆体毎に微妙に異なる。従って前駆体毎に最も好ましい結晶化温度は異なるので、前駆体の組成比に応じた理論的結晶成長温度よりも高い温度域から主体的段階降温等温処理を施し、理論的結晶成長温度よりも低い温度域まで主体的段階降温等温処理を施すことで、個々の前駆体の微妙な結晶化開始温度の差異に影響されることなく、良好な結晶成長を図ることができる。
【0013】
本発明は、前記予備的段階降温等温処理において前記前駆体に結晶化の目安であるファセットを生じていないものを得るとともに、前記主体的段階降温等温処理によりファセットを生じさせた前駆体結晶とすることを特徴とする。
【0014】
本発明は、得ようとする酸化物超電導バルク体としてREBaCu7−x系の酸化物超電導体(REはYを含む希土類元素の1種類又は2種以上を示す。)または前記組成にAgまたはPtを含む組成系の酸化物超電導体からなるものとすることを特徴とする。
【0015】
本発明の酸化物超電導バルク体は、銀を添加してなる酸化物超電導体の前駆体を加熱して半溶融状態とした後に冷却し、前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とするトップシード溶融凝固法により形成されたREBaCu7−x系酸化物超電導バルク体(REはYを含む希土類元素の1種類又は2種以上を示す。)であって、前記添加した銀の一部が銀析出物となって表面に複数分散析出されてなることを特徴とする。
【0016】
本発明の酸化物超電導バルク体は、前記種結晶の結晶構造を元に結晶化された領域にファセットが形成されてなることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導バルク体は、REBaCu7−xなる組成の酸化物超電導体からなる素地の内部にREBaCuOなる組成の常伝導体粒子と銀粒子が分散析出され、表面においては前記銀粒子とは別に半球状の銀析出物が複数分散析出されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
包晶温度よりも低い温度域であって、結晶化開始温度よりも低い温度域において予備的段階降温等温処理を施して結晶化の進行準備を行っておいてから、包晶温度以上の温度に加熱し、その温度域から結晶化開始温度前後において主体的段階降温等温処理を施すならば、前駆体における結晶化が円滑に進行し、捕捉磁場特性の良好な品質の良好な酸化物超電導バルク体を得ることができる。
【0018】
本発明において、複数段のステップで等温保持させながら徐々にステップ毎に温度を下げつつ加熱処理することで、単に緩い温度勾配で徐冷して結晶成長させるよりも遙かに早く結晶成長させることができる効果がある。例えば、従来技術では緩い温度勾配で100時間を超える徐冷処理が必要であったのに比較して数時間〜10時間程度の段階降温等温処理で結晶成長ができるようになる。従って従来技術よりも数倍〜数10倍の速度で結晶成長させることができるようになる。即ちこの結晶成長方法により、種結晶を元として前駆体を結晶化する場合、結晶成長が完全に進行した目安となるファセットが、種結晶の設置部分から前駆体の外周部まで完全に到達し、完全結晶成長した酸化物超電導バルク体を従来よりも数倍〜数10倍の速度で確実に製造できるようになる。
【0019】
種結晶を元に前駆体を結晶成長させる場合、前駆体の原料の配合組成比に応じた理論的結晶成長温度を中心として、それよりも高い温度域から段階的降温等温処理を行い、理論的結晶成長温度よりも低い温度まで段階的降温等温処理を行うことで、前駆体の製造過程での原料の混合不均一性や原料自体の組成ずれ、原料混合比のずれ、その他の前駆体の製造過程での種々の製造要因などに起因して、組成比に応じた理論的結晶開始温度からわずかにずれた温度で結晶成長を開始する場合の温度ずれを吸収して結晶成長させることができる。従ってこの方法の採用により、前駆体の製造条件のばらつきを吸収して確実な結晶成長を促すことができる。
【0020】
前述の方法により銀を添加した酸化物超電導体を製造すると、前駆体を結晶化できた目安の1つとなるファセットが生成するとともに、添加した銀の一部が銀析出物となって表面に複数分散析出されてなる銀析出物を有する酸化物超電導体を得ることができる。
本発明の酸化物超電導バルク体は、REBaCu7−xなる組成の酸化物超電導体からなる素地の内部にREBaCuOなる組成の常伝導体粒子と銀粒子が分散析出された構造となるので、捕捉磁場特性が向上する。なお、一般的に酸化物超電導バルク体を製造する従来の技術において、REBaCuOなる組成の常伝導体粒子を微細化することは極めて難しい。
しかし、本願で得られる酸化物超電導バルク体は数μmレベルまでREBaCuOなる組成の常伝導体粒子を微細化できるので、この微細化が捕捉磁場特性の向上に寄与しているものと推定できる。
なお、REBaCuOなる組成の常伝導体粒子微細化の実現について、後述する本発明の実施例で得られる組織写真の解析から推定するならば、圧密体を部分溶融してから冷却する際に生じる素地内の微細空洞内にも銀粒子が閉じ込められるように分散し、この分散した微細な銀粒子がREBaCuOなる組成の常伝導体粒子の凝集を抑制していることが原因ではないかと推定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1〜図3は本発明に係る製造方法を実施して得られる酸化物超電導バルク体を説明するための図であり、図1は円盤状をなす酸化物超電導体の前駆体1の上部中央に種結晶2を設置した状態を示し、図2は図1に示す前駆体1に対して以下に説明する方法を実施することにより得られた熱履歴物としての前駆体3を示し、図3は図2に示す前駆体3に対して後に説明する方法を実施することにより得られた酸化物超電導バルク体6を示している。なお、この形態において前駆体1は、厚型の上部前駆体1Aと薄型の下部前駆体1Bとの積層構造とされている。
【0022】
本発明で用いる酸化物超電導バルク体製造用の前駆体1とは、目的とする酸化物超電導バルク体の組成と同じ組成、あるいは、近似する組成の原料混合体の圧密体であり、本発明を適用できる酸化物超電導体として例えば、RE-Ba-Cu-O系(REはYを含む希土類元素La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種または2種以上を示す。)のものを例示することができる。なお、これらの各系においてもSm-Ba-Cu-O系、Gd-Ba-Cu-O系、Nd-Ba-Cu-O系、Y-Ba-Cu-O系のものが実用的には有用である。
【0023】
ここで目的の酸化物超電導体がRE-Ba-Cu-O系の酸化物超電導体である場合、前駆体1として例えば、REの化合物粉末とBaの化合物粉末とCuの化合物粉末をRE:Ba:Cu=1:2:3、またはそれに近似する組成で混合した原料混合粉末を圧密したものなどを用いることができる。より具体的には、Sm-Ba-Cu-O系の酸化物超電導バルク体を製造する場合、Sm粉末とBaCO粉末とCuO粉末の混合粉末を用いることができる。
先の化合物粉末をRE:Ba:Cu=1:2:3に近似する組成で混合する場合、REBaCu7−X相成分(R123相成分)に対するREBaCu相成分(R211相成分)の比で1.1以上、1.8以下の範囲、モル比では5モル%以上、40モル%以下の範囲とする混合比を例示することができる。なお、得られる酸化物超電導バルク体の臨界電流密度の値は1.4近傍で飽和する傾向にある。また、R123相に対するR211相の比を1.1未満にすると、溶融凝固時に正常な結晶化の反応が進行し難くなるが、これらの範囲に本発明が制限されるものではなく、組成比に応じて望ましい範囲を選択すれば良い。
【0024】
前記モル比の具体的な数値として例えば、R123相成分とR211相成分の比を1.1(5モル%R211相成分)、1.2(10モル%R211相成分)、1.4(20モル%R211相成分)、1.8(40モル%R211相成分)に設定することができる。ここで例えば、比が1.8とは、Sm123のSmモル数が10モルに対してSm211のSmモル数が8モルになるようにすることを意味する。
即ち、10(REBaCu7−X)+4(REBaCu)=100(REBaCu7−X)+40(REBaCu)の関係となるような百分率と考える。従って本明細書で用いる比で1.1とは5モル%R211相成分を意味し、比で1.2とは10モル%R211相成分を意味し、比で1.4とは20モル%R211相成分を意味し、比で1.8とは40モル%R211相成分を意味する。
【0025】
この形態において前駆体1は先の組成の原料混合粉末を後述する如く仮焼きした後、プレス装置、あるいは、CIP装置(静水圧装置)などの加圧装置により円盤状に成形したものを用いる。勿論、CIP装置が高価であるならば、プレス装置で前駆体1を製造する方が製造コストは安くなる。また、前駆体1の大きさは任意で良く、用いるプレス装置やCIP装置で製造可能な大きさの前駆体とすれば良い。
この形態において前駆体1を製造する場合、原料混合粉末を得た後、725℃〜950℃程度で仮焼きしてから粉砕装置で粉砕した仮焼原料を再度混合するという仮焼き粉砕操作を必要回数行ったものを成形に使用することが好ましい。粉末混合粉砕と仮焼き温度の条件の一例として、めのう乳鉢あるいはアトライタやボールミル等の粉砕混合装置を用いて1時間程度混合した後に900℃程度で15時間程度仮焼きする条件を例示することができる。なお、仮焼き温度は600℃以上であれば採用可能であるが、Baの融点である725℃以上が適切と思われる。また、上述の範囲でも800〜950℃の範囲が好ましいと考えられる。
【0026】
また、繰り返し複数回仮焼きして最終粉砕して混合する際、後に行う半溶融凝固法の際の溶融温度を下げるためと機械的強度を向上させる目的でAgOを添加すること、あるいは、R211相の微細化触媒としてのPtを添加物質として混合して成形体としたものを前駆体1とすることが好ましい。なお、他の元素としてAuを添加物質として混合することもあり得る。
これらの添加物質は最終的に得られる酸化物超電導体の超電導特性を向上させるもの、あるいは超電導特性を阻害しないものであれば良い。例えば添加物質がAgであれば、酸化物超電導体に5〜20wt%程度の範囲で添加できることが知られているので、AgあるいはAgOを先の範囲で添加しても良い。
Agを添加する場合、例えば前記モル比でSm1.7の酸化物超電導体であるならば、Ag添加量=0の場合の融点が1060℃であるのに対し、Ag添加量5〜15wt%の範囲において995℃前後まで融点を下げることができるので、45℃〜50℃程度融点を下げることができる。
【0027】
図1に示すように前駆体1の上に種結晶2を設置し、これらを加熱炉に装入し、1回目のトップシード溶融凝固法に基づいて熱処理する予備的段階降温等温処理を行う。
ここで行う1回目のトップシード溶融凝固法による予備的段階降温等温処理とは、予め酸化物超電導体の前駆体に種結晶を載せておくか、あるいは種結晶を載せずに、この前駆体を目的の組成系の酸化物超電導体の包晶温度よりも低い温度であって、前記仮焼き温度よりも高い温度に加熱し、この温度域から冷却して目的の組成系の酸化物超電導体の結晶化開始温度未満の温度域において段階降温等温処理を行う方法である。
なお、本実施形態では、前駆体に種結晶を載せてから加熱してゆくコールドシーディング(cold seeding)法を元に説明するが、前駆体を加熱状態にしてから種結晶を設置するホットシーディング法を利用しても差し支えないのは勿論である。
【0028】
この実施形態で用いる種結晶2とは、目的とする希土類酸化物超電導体よりも高融点または高包晶温度の希土類酸化物超電導体の単結晶体か薄膜を用いる。
例えば、目的の酸化物超電導体がSm系のものである場合、Sm系よりも包晶温度の高いNd系の酸化物超電導体の単結晶体あるいは単結晶薄膜を用いることができる。即ち、種結晶2は後述する前駆体の半溶融温度において結晶状態を確実に維持している必要があるので、用いる前駆体よりも包晶温度の高いものを用いることが好ましい。
種結晶2として酸化物超電導薄膜を用いる場合に、MgOなどの耐熱性基板の上に成膜法により形成したNd系の酸化物超電導体の単結晶状のフィルムを有するものなどを適用できる。勿論、この他に、希土類として、Gd系、Dy系、Ho系、Y系など、半溶融凝固法に一般的に適用できる種々の系の単結晶体あるいは超電導薄膜を種結晶として適用することができる。
【0029】
なお、図1では略しているが、前駆体1の下には、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)の膜あるいは板(厚さ0.1〜0.2mmのシート)を敷き、更にそれらを支持する板状、ボート状、坩堝状などの耐熱材料製の基台を設置しておき、加熱時にこれらの基台とともに加熱炉に装入すれば良い。
先のYSZの膜あるいは板は前駆体1への不純物の侵入を阻止するもので、この膜あるいは板を下に敷いておかないと下側の前駆体1が他の物質に接触した部分から結晶化が起こり、最終的に得られる結晶が多結晶体になるか配向性の悪い結晶体になってしまうおそれがある。
また、耐熱性の基台と前駆体1との反応を抑制するなどの目的で、基台の上に更に別途耐熱層や耐熱材料製の中間層、下地材などを適宜敷設しても良い。
【0030】
加熱炉では、まず、前駆体1の包晶温度よりも若干低い最高到達温度(Tmax)に加熱する。また、加熱雰囲気としては、大気中でも良いし、不活性ガス中に微量の酸素を供給した酸素雰囲気でも良い。例えば一例として、1%O濃度のArガス雰囲気を選択できる。
この際の加熱温度は、目的とする酸化物超電導体の組成によって、あるいは、熱処理する場合の雰囲気ガスの成分により若干異なるが、概ね1%O不活性ガス雰囲気中においてNd123系の酸化物超電導体であるならば包晶温度が約1090℃であるので、1090℃未満、かつ、仮焼き温度の850℃よりも高い温度、好ましくは900〜1080℃の範囲、Sm123系の酸化物超電導体であるならば包晶温度が約1060℃であるので、1060℃未満、かつ、仮焼き温度の850℃よりも高い温度、好ましくは900℃〜1050℃の範囲、Gd123系の酸化物超電導体であるならば包晶温度が約1040℃であるので、1040℃未満、かつ、仮焼き温度の850℃よりも高い温度、好ましくは900℃〜1030℃の範囲、Y123系の酸化物超電導体であるならば包晶温度が約1010℃であるので、1010℃未満、かつ、仮焼き温度の850℃よりも高い温度、好ましくは900℃〜1000℃の範囲を例示することができるが、これらは一応の目安であり、これらの範囲に制限されるものではない。
なお、最高到達温度(Tmax)は、得ようとするバルク体のサイズが大きくなると高めに設定する必要を生じる場合があるので、前述の範囲に拘束されるものではなく、例えば、バルク体のサイズと適用する組成系に鑑みて、1100℃〜1200℃の範囲で選択しても良い。
【0031】
また、昇温する際に急激に前駆体1を加熱するとクラック等の欠陥部分を導入する危険性があるので、徐々に温度を上げることが好ましい。また、前駆体1を加熱して最高到達温度にするまでの間の温度勾配は、どのような温度勾配でも差し支えないが、最高到達温度付近で温度勾配を緩やかにしないと加熱炉の温度調整機能に依存して最高到達温度を遥かに飛び越した温度条件になってしまう可能性があるので、最高到達温度付近で温度勾配を緩やかにすることが好ましい。
なお、本発明者はこれまでの研究結果の考察から、例えばSm123系において包晶温度1060℃近傍で結晶成長を発生させていることから、種結晶を事前に載せてから結晶成長させる場合は、経験的に結晶成長温度を決定する以外にないと考えている。また、種結晶を事前に載せない手法では、1060℃以下なら結晶成長可能と考えている。
このことは、結晶成長することの理由が、最初に結晶が発生する部分が銀のない微小部分であるからではと考えている。つまりは、包晶温度以上から降温させると、銀がない部分において認識できないほどの微小な結晶が多数形成され、それらを核として銀を含む包晶温度の低い部分が結晶成長を起こすからと考えており、これがステップ法の原理と考えている。
従って予備的段階降温等温処理において、結晶成長が発生しているバルク体は、主体的段階降温等温処理において全面結晶の再現が非常に困難となると考えられる。
【0032】
次に、前記最高到達温度から、前駆体1の組成比に応じた状態図から推定される理論的結晶化開始温度と目される温度よりも低い温度、あるいは、先の前駆体1の熱分析から推定される溶融温度から計算される結晶化開始温度(本発明ではこの温度も理論的結晶化開始温度の概念に含めるものとする)よりも低い温度に降温し、この温度から段階降温等温処理を施す。ここで結晶化開始温度と目される温度、あるいは、計算される結晶化開始温度よりも低い温度とは、前駆体試料作成時のばらつきなどにより実際の結晶化開始温度が予想より数℃程度低くなっていることも鑑み、数℃程度低い温度ではなく、余裕を見て20〜50℃程度低い温度範囲とすることが好ましい。
【0033】
段階降温等温処理の一例として、先の結晶化開始温度よりも低い設定温度から、以下に説明する段階降温等温処理の条件で1回目の降温等温処理を開始する。
この例の段階降温等温処理は、複数の等温保持ステップ毎に徐々に降温させる処理、換言すると、所定の温度に必要時間保持し、次に先の保持温度よりも若干低い所定の温度に必要時間保持し、続いて更に先の保持温度よりも若干低い所定の温度に必要時間保持するという段階的ステップの温度処理を施すものを意味する。
ここで先の温度よりも若干低い温度とは、最初の所定の温度から例えば1℃〜数℃ずつ下がる温度ステップを意味し、保持時間は数10分〜数時間程度の範囲で選択することができる。例えば2〜3℃ステップで徐々に段階的に降温し、3〜8段階に温度を下げるステップとして、各温度ステップの保持時間を数10分〜数時間程度とする段階的ステップを例示することができる。
【0034】
以上説明のような予備的段階降温等温処理においては、最高到達温度を包晶温度よりも低くしているとともに、結晶化開始温度よりも低い温度域において段階降温等温処理を施しているので、種結晶2を基点とする前駆体1の単結晶化は進行しない。従って図2に示すように予備的降温等温処理後の前駆体3は特にファセットなどの生じていない形状とされる。なお、前駆体3の表面には前駆体3の仮焼き粒子が集合したと思われる不定形の粒界線が多数形成される。
また、この予備的段階降温等温処理を施したならば、前駆体3を常温あるいは常温に近い温度まで冷却してから次の工程に移行する。あるいは、ここで、常温まで冷却しなくとも、予備的段階降温等温処理後に直ちに次の工程に移行しても良い。
【0035】
前記予備的段階降温等温処理を施した後、以下に説明する主体的段階降温等温処理を前駆体3に施す。
この主体的段階降温等温処理とは、まず、前駆体3の融点よりも若干高い、包晶温度以上の最高到達温度(Tmax)に全体を加熱して前駆体3を半溶融状態とする。また、加熱雰囲気としては、大気中でも良いし、不活性ガス中に微量の酸素を供給した酸素雰囲気でも良い。例えば一例として、1%O濃度のArガス雰囲気を選択できる。
この際の加熱温度は、目的とする酸化物超電導体の組成によって、あるいは、熱処理する場合の雰囲気ガスの成分により若干異なるが、概ね1%O不活性ガス雰囲気中においてNd系の酸化物超電導体であるならば1000〜1200℃の範囲、他の系の酸化物超電導体でも概ね950〜1200℃の範囲である。
【0036】
この際の加熱温度は、目的とする酸化物超電導体の組成によって、あるいは、熱処理する場合の雰囲気ガスの成分により若干異なるが、概ね1%O不活性ガス雰囲気中においてNd123系の酸化物超電導体であるならば包晶温度が約1090℃であるので、それよりも30〜60℃高い温度域、Sm123系の酸化物超電導体であるならば包晶温度が約1060℃であるので、1060℃よりも30〜60℃高い温度域、Gd123系の酸化物超電導体であるならば包晶温度が約1040℃であるので、1040℃よりも30〜60℃高い温度域、Y123系の酸化物超電導体であるならば包晶温度が約1010℃であるので、1010℃よりも30〜60℃高い温度域を例示することができる。勿論、更に高い温度域に加熱しても良いが、前駆体が完全溶融してしまわない温度域とする必要がある。
【0037】
また、前駆体3を昇温する際に急激に加熱するとクラック等の欠陥部分を導入する危険性があるので、徐々に温度を上げることが好ましい。また、前駆体3を加熱して半溶融状態にするまでの間の温度勾配は、どのような温度勾配でも差し支えないが、最高到達温度付近で温度勾配を緩やかにしないと加熱炉の温度調整機能に依存して最高到達温度を遥かに飛び越した温度条件になってしまう可能性があるので、最高到達温度付近で温度勾配を緩やかにすることが好ましい。
【0038】
前駆体3を最高到達温度の半溶融状態としたならば、前駆体3の温度を先の温度から数10℃、例えば20〜50℃程度下げた後、その温度で所定の時間(例えば数時間程度)保持する予備加熱を行う。なお、ここで行う予備加熱は結晶化温度よりも高い温度で先の最高到達温度よりも低い任意の温度(例えば包晶温度付近等)で行うことができるが、本発明では必ずしも行う必要はなく、予備加熱を略しても良い。
この例の主体的段階降温等温処理とは、複数の等温保持ステップ毎に徐々に降温させる処理、換言すると、所定の温度に必要時間保持し、次に先の保持温度よりも若干低い所定の温度に必要時間保持し、続いて更に先の保持温度よりも若干低い所定の温度に必要時間保持するという段階的ステップの温度処理を施すものを意味する。
ここで先の温度よりも若干低い温度とは、最初の結晶化開始温度から例えば1℃〜数℃ずつ下がる温度ステップを意味し、保持時間は数10分〜数時間程度の範囲で選択することができる。例えば2〜3℃ステップで徐々に段階的に降温し、3〜8段階に温度を下げるステップとして、各温度ステップの保持時間を数10分〜数時間程度とする段階的ステップを例示することができる。
【0039】
半溶融状態の前駆体3に対して、結晶化温度前後の温度で降温等温処理することで、前駆体1の内部ではREBaCu相(R211相)とL相(液相:3BaCuO+2CuO)とに分解し、種結晶を起点として、液相がR211相を下側に(種結晶から離れる側に)押し出すように移動しながら種結晶を起点としてREBaCu7−X(R123相)なる組成比の酸化物超電導前駆体の結晶を成長させることができ、その結果として最終的に前駆体3を結晶化させてREBaCu7−X相(R123相)の酸化物超電導バルク前駆体とすることができる。ここで結晶成長が十分になされた試料では図3に示す如くファセットと称される領域5が成長した区域が生成される。
【0040】
また、主体的段階降温等温処理を終了させる場合の温度は、理論的結晶化開始温度よりも若干低い温度(数℃から10℃程度低い温度)まで行うものとすることが好ましい。これは、作成した前駆体3の状態により、実際に結晶化開始する温度が微妙に異なり、状態図を基に組成比から推定される結晶化開始温度、あるいは、前駆体3の熱分析などにより予想される結晶化開始温度で、いずれの前駆体も結晶化開始するとは限らないので、実際に用いた前駆体の結晶化開始温度が低温側にずれている場合でも目的とする結晶化を進行させるためである。なお、先のような事情から実際の前駆体の結晶化開始温度が高温側にわずかにずれることも考えられるので、段階降温等温処理の開始温度は先に述べたとおり、理論的結晶化開始温度よりも若干高い温度(数℃から10℃程度高い温度)から行うものとすることが好ましい。
【0041】
例えばSm系の酸化物超電導バルク体を一般的にトップシード溶融凝固法により結晶成長させようとする場合の結晶成長温度は銀添加なしで1050℃〜1060℃であるので、本発明ではこの温度を挟むように主体的段階降温等温処理を施すものとする。また、Sm系に銀を10wt%程度添加した酸化物超電導体の場合は、1015℃〜1035℃の範囲、より好ましくは1018℃〜1024℃の範囲を結晶成長温度と見ることができるので、この範囲を段階降温等温処理で通過する温度とすればよい。
また、他に、結晶成長温度は、Y系1000℃、Eu系1050℃、Gd系1030℃、Dy系1010℃、Ho系990℃、Er系980℃、Tm系960℃、Yb系900℃、Lu系880℃とそれぞれ考えられるので、これらの組成系に応じて結晶化開始温度を挟むように段階降温等温処理を施すならば、本発明方法を種々の組成系に適用することができる。勿論、これらの理論的結晶成長開始温度は1つの目安であり、実際に製造した組成系の前駆体を熱分析してからその前駆体の結晶成長開始温度を推定し、その温度を挟むように段階降温等温処理を行うこともできる。なお、これらの系に銀を添加すると結晶成長温度を低下できるので、銀を添加した系については更に上記の温度から銀の添加量に応じて数10℃低い適切な温度で成長させればよい。
【0042】
より具体的には、AgO:10wt%含有Sm系の酸化物超電導体を製造する場合、室温から900℃まで1時間程度かけて昇温し、そこから包晶温度以上の1100℃±20℃まで1時間かけて徐々に昇温し、その温度に3時間程度保持し、5分程度かけて冷却して目的の結晶化温度を挟んだステップの段階降温等温処理を行う。
ここで例えば6ステップの段階降温等温処理の一例として、結晶化開始温度を1030℃とした場合、一例として、先の予備加熱温度から1034℃に降温して3時間保持し、以下、1032℃に降温して3時間保持、1030℃に降温して3時間保持、1028℃に降温して3時間保持、1026℃に降温して3時間保持、1024℃に降温して3時間保持する6ステップの段階的等温保持処理を行う処理を例示できる。
【0043】
以上のような段階的ステップの主体的段階降温等温処理により、図2に示すような前駆体3を図3に示す如きファセット5が成長した単結晶化した酸化物超電導バルク体6とすることができる。また、この酸化物超電導バルク体6に対して酸素アニールを350℃程度の降温で100時間程度施す標準的な酸素アニール処理を施すことにより、超電導電子を流すためのCuO面を形成して目的とする酸化物超電導体バルク体とすることができる。
なお、図3に示す酸化物超電導バルク体6のファセット5は一例であって、ファセット5が薄く存在していたり、ファセットを肉眼で正確に区別できなくとも、後述する捕捉磁場特性に優れているならば、有用な酸化物超電導バルク体を得たこととなる。
【0044】
全てのステップの段階降温等温処理が終了したならば、その後に1時間程度かけて900℃まで降温し、その後に室温まで炉冷するという熱処理条件を例示できる。なお、先の1100±2℃まで一気に昇温しても差し支えないが、昇温時の温度勾配が高過ぎると半溶融温度の上限に定めた1100℃を飛び越えて加熱してしまい、前駆体を部分的に溶解させてしまうおそれがあるので、昇温の際の温度勾配は定めた1100±20℃を越えないように設定する必要がある。勿論、加熱装置が前駆体1を規定の温度に精密に制御できるものであるならば前述の昇温条件に拘束されるものではなく、また、組成に応じて定めた目的の半溶融温度の範囲に合わせて適宜の割合で昇温しても良いのは勿論である。
【0045】
前述の如く、半溶融状態でREBaCu相(R211相)とL相(液相:3BaCuO+2CuO)とした状態から種結晶2を起点として、液相がR211相を押し出すように移動しながら全体の結晶化を図ることができる。
ここで従来の温度勾配を有する徐冷処理とは異なり、本発明では等温保持するので、この等温保持の間に結晶が成長し、円滑な結晶成長がなされる結果として、従来方法よりも格段に早く結晶成長させることができる。例えば、従来100時間程度降温のために施していた処理時間を10数時間に短縮できる。
【0046】
次に、上述の如く得られた酸化物超電導バルク体6の上面の一形状例を図3に示す。
本発明で用いる2回目の段階降温等温処理によるトップシード溶融凝固法によれば、上面中央部に設置した種結晶2を基にして放射状に単結晶領域が成長し、ファセットライン5を有する表面状態を呈する。また、本実施形態により得られる酸化物超電導バルク体6にあっては、AgOを10wt%含んでいるが、その上面及び周面にAgが直径100μm程度の大きさの半球状の銀析出物7として複数分散析出されている。
また、後述の実施例で得られた酸化物超電導バルク体6の部分的組織写真の模式図を図4に示すが、この模式図から、本発明に係る酸化物超電導バルク体6は、Sm123からなる素地10の内部に粒径1μm〜10μm程度の微細なSm211粒子11が多数分散析出されるとともに、それらの間に粒径数μm〜数10μmの銀粒子12が複数分散された組織構造とされている。このような組織構造を呈する酸化物超電導バルク体6にあっては、常伝導体であるSm211粒子11が磁束のピンニングポイントなるので、捕捉磁場特性に有利な酸化物超電導バルク体6を得ることができる。
【0047】
図3に示す形状の酸化物超電導バルク体6を製造する場合、従来の技術によれば結晶成長のために結晶化温度から100時間程度かけて降温していたが、先に説明したとおり本実施の形態では複数ステップの各ステップ毎に数時間程度、合計すると3〜8ステップであれば3〜30時間程度の範囲の段階降温等温処理を2回施すことで結晶成長させることができるので、従来よりも遙かに短い時間で処理ができる。
例えば、2℃ずつ降温して1時間保持する3ステップ処理であれば、2℃降温するために5分程度要するとしても3〜6時間程度で結晶成長させることができ、予備的段階降温等温処理と主体的段階降温等温処理を合計しても従来の結晶成長時間100時間に対して格段に短縮できる。
【0048】
以上説明した如く本発明によれば、複数ステップに基づく予備的段階降温等温処理と主体的段階降温等温処理により前駆体1の結晶成長を行うので、種結晶2を半溶融状態の前駆体1(原料成形体)に接触させて結晶成長させる場合に従来よりも遙かに短時間で結晶成長を行わせることができる効果がある。また、得られた酸化物超電導バルク体2はファセットを有する単結晶領域が充分に発達した実用性の高いもの、および、Sm123の素地の内部に微細なSm211粒子が分散した捕捉磁場特性に優れた酸化物超電導バルク体が得られる。
ところで、酸素熱処理を経て完成品とした酸化物超電導バルク体は、外部磁場を印加してから該外部磁場を取り除いた場合に酸化物超電導バルクが補足する磁場の強さにおいて、捕捉磁場が大きいものが要求されるが、先のSm211粒子がμmオーダーで微細に分散された状態のものであるならば、高い捕捉磁場を有する高品質ものが得られる。
【0049】
以上の説明から鑑みて換言すると、1回目の結晶化温度未満の段階降温等温処理により生成されたファセットが未発達の熱履歴物としての前駆体3に対し、仮に、酸素アニール処理を施して捕捉磁場の値が低い酸化物超電導バルク体となる。
なお、前述の仮焼段階では収縮が殆ど起きていないが、予備的段階降温等温処理では結晶成長とほぼ同じ収縮が起きている。故に、疎な空間が存在していないので、主体的段階降温等温処理のときにエネルギーポテンシャルが低くなる要因(種結晶)が存在すると、ステップ法よりも早く(急速に)結晶成長が起こるか、あるいは、組成の組み替えが起こると考えられる。これは原子から見れば、遠くのものを集めるよりも、近くのものを組み替えた方がエネルギー的に低いからと考えられる。
このような熱履歴物としての前駆体3に対して本願発明では予備的と主体的の2回の段階降温等温処理を施して単結晶成長を促進させることで、単結晶の成長を促進し、ファセットを良好に成長できたものと推定できる。
【実施例】
【0050】
「実験例1」
AgとPtを添加したSmBaCu7−X系の酸化物超電導バルク体を製造する目的で、酸化サマリウム(Sm)粉末と炭酸バリウム(BaCO)粉末をR123相成分(SmBaCu7−X相成分)とR211相成分(SmBaCu相成分)の比を1.7(35モル%R211相成分)になるように個別に秤量し、個別にめのう乳鉢を用いて混合し、試験用の原料混合粉末を作製した。
その後、各原料混合粉末を900℃で15時間仮焼きし、更に粉砕し、次いで900℃で15時間2回目の仮焼きを行って原料混合粉末を得た。また、先の仮焼き粉にAgO粉末を10wt%、Ptとして白金黒を0.5%配合し、更に1時間混合して原料混合粉を得た。これらの各原料混合粉、40gと10gを秤量し、各々を一軸加圧プレスにより直径30mmになるように、55.5MPaの圧力でペレットに成型した。仮焼き後10gのペレットに40gのペレットを積み重ねて複数の前駆体とした。
これらのペレット状の前駆体に種結晶としてNdBaCu7−Xの組成の薄膜を設置し、大気中において以下の加熱パターンに応じて予備的段階降温等温処理と主体的段階降温等温処理した。この薄膜はMgOの基板上に先の組成比の10×10mmの厚さ700nmの酸化物超電導薄膜を成膜し、これを1×2mm角程度の大きさにカットしたものを使用した。
【0051】
予備的段階降温等温処理においては、先の原料混合粉末から得られた前駆体試料の1つについて以下の条件で行った。まず、大気中において前駆体試料に対して室温から1058℃まで約2時間かけて加熱し、この温度で1時間30分保持し、次に10分かけて1011℃(以下前駆体の温度は加熱炉設定温度ではなく全て実測値)まで降温して1時間保持し、その後に1010℃まで降温して1時間保持し、その後に1007℃まで降温して1時間保持し、その後に1005℃まで降温して3時間保持し、その後に1003℃まで降温して3時間保持し、その後に1001℃まで降温して3時間保持し、その後常温まで炉冷して熱履歴物として前駆体試料を得た。この熱履歴について参考のために温度と時間の関係を図5に示す。図5において縦軸は温度(℃)、横軸は時間を示している。図5のグラフ横軸の時間について、2.8時間は10000秒、5.6時間は20000秒、8.3時間は30000秒、11.1時間は40000秒、13.9時間は50000秒、16.7時間は60000秒、19.4時間は70000秒を示す。
この予備的段階降温等温処理を施して得られた前駆体試料の表面の状態を撮影した組織写真を図6に示す。
図6に示すようにこの前駆体試料はファセットの成長が見られず、仮焼粒子が集合した不定形の表面状態を呈していたので、ファセット未成長の熱履歴物としての前駆体であった。
【0052】
前記のファセット未成長の前駆体に対して、主体的段階降温等温処理を施す。
大気中において前駆体に対して室温から1098℃まで2時間かけて加熱して3時間保持し、次に1059℃(以下前駆体の温度は加熱炉設定温度ではなく全て実測値)まで降温し、1時間保持し、その後1024℃まで降温して3時間保持し、その後1022℃まで降温して3時間保持し、その後1020℃まで降温して3時間保持し、その後1018℃まで降温して3時間保持し、その後1016℃まで降温して3時間保持し、その後1014℃まで降温して3時間保持し、その後常温まで炉冷し、酸化物超電導バルク体試料を得た。この熱履歴について参考のために温度と時間の関係を図7に示す。図7において縦軸は温度(℃)、横軸は時間を示している。図5のグラフ横軸の時間について、5.6時間は20000秒、11.1時間は40000秒、16.7時間は60000秒、22.2時間は80000秒、27.8時間は100000秒を示す。
【0053】
この主体的段階降温等温処理を施して得られた酸化物超電導バルク体試料の表面を撮影した組織写真を図8に示す。
図6と図8の組織写真の比較から、図6の試料では確認できなかったファセットが図8の試料では試料外周部まで広がるように明確に生成され、ファセットが広く成長していることから、予備的段階降温等温処理と主体的段階降温等温処理を順次施すことにより品質の良好な酸化物超電導バルク体を得られることが判明した。なお、図6、8において縮尺の1目盛りは1mmを示す。
【0054】
また、得られた酸化物超電導バルク体試料の表面(上面及び周面)には粒径約100μmの多数の半球状の銀析出物が分散析出されており、図8では白い微細な斑点状に表示されている。この斑点状の銀析出物の拡大写真を図9に示す。
図9に示すスケールが目盛り10個で100μmであることの比較から、この銀析出物は直径約150μmであり、しかもこの銀析出物を摘出して観察した結果、半球状であることが判明した。
【0055】
次に図10に、先の如く得られた酸化物超電導バルク体試料の表面の金属組織写真(78倍)を示す。図10の組織写真の中央部には半球状の銀粒子の剥離した後の凹部を複数観察することができ、これらの凹部の1つの拡大組織写真を図11(500倍)に示す。 また、拡大率を変えて撮影した同酸化物超電導バルク体試料の金属組織写真を図12(50倍)に示すが、図12には多数の凹部が黒点状に形成されている部位を観察することができ、組織内には部分的に空孔を含んでいることが判る。
図13に同酸化物超電導バルク体試料の部分拡大組織写真(2000倍)を示す。この組織写真において、Sm123からなる素地の内部に粒径1μm〜10μm程度の微細なSm211粒子が多数分散析出されるとともに、それらの間に粒径数μm〜数10μmの銀粒子が複数分散された組織構造とされている。このような組織構造を呈する酸化物超電導バルク体にあっては、常伝導体であるSm211粒子が磁束のピンニングポイントなるので、後述する捕捉磁場特性の面において有利となる。
【0056】
「実験例2」
先の例と同等の組成の前駆体試料に対し、予備的段階等温処理において図14に示す以下の条件で処理した。
大気中において試験体に対して室温から1058℃まで2時間かけて加熱し、この温度で1時間保持し、次に1018℃まで降温して1時間保持し、その後1016℃まで降温して1時間保持し、その後に1015℃まで降温して1時間保持し、その後1012℃まで降温して3時間保持し、その後1010℃まで降温して3時間保持し、その後に1008℃まで降温して3時間保持する6ステップの予備的段階降温等温処理を施し、その後常温まで炉冷し、前駆体試料を得た。
この予備的段階降温等温処理を施して得られた前駆体試料の表面の状態を撮影した組織写真を図15に示す。
図15に示すようにこの前駆体試料はファセットの成長が見られず、多結晶領域が多数形成された表面状態を呈していたので、ファセット未成長の熱履歴物としての前駆体であった。
【0057】
前記のファセット未成長の前駆体に対して、主体的段階降温等温処理を施す。
大気中において前駆体に対して室温から1098℃まで2時間かけて加熱して3時間保持し、次に1059℃(以下前駆体の温度は加熱炉設定温度ではなく全て実測値)まで降温し、1時間保持し、その後1024℃まで降温して3時間保持し、その後1022℃まで降温して3時間保持し、その後1020℃まで降温して3時間保持し、その後1018℃まで降温して3時間保持し、その後1016℃まで降温して3時間保持し、その後1014℃まで降温して3時間保持し、その後常温まで炉冷し、酸化物超電導バルク体試料を得た。この熱履歴について参考のために温度と時間の関係を図16に示す。図16において縦軸は温度(℃)、横軸は時間を示している。
この主体的段階降温等温処理を施して得られた酸化物超電導バルク体試料の表面を撮影した組織写真を図17に示す。
【0058】
図15と図17の比較から、図15の試料では確認できなかったファセットが図17の試料では試料外周部まで一部広がるように薄く確認することができ、ファセットの存在は表面観察では明瞭ではないが、広く成長しているものと推定でき、予備的段階降温等温処理と主体的段階降温等温処理を順次施すことにより品質の良好な酸化物超電導バルク体を得られることが判明した。
また、得られた酸化物超電導バルク体試料の表面(上面及び周面)には粒径約100μmの多数の半球状の銀析出物が分散析出されており、図16では白い微細な斑点状に表示されている。この斑点状の銀析出物は図9に示す実験例の銀析出物とほぼ同形状のものであった。
【0059】
「捕捉磁場試験」
先の実験例1、2で得られた図8、図17に示す試料を350℃にて100時間、酸素アニール処理した酸化物超電導バルク体を用いて捕捉磁場の測定実験を行った結果を図18に示す。
図18のグラフにおいて縦軸は捕捉磁場の強さを示し、横軸の2つは試料X方向と試料Y方向の測定位置をmm単位で示す。縦軸の単位は(Oe)で示すが、100(Oe)は8000A/mを示し、500(Oe)は40000A/mを示す。
実験例1で得られた酸化物超電導バルク体試料は図18に示す如く大きな単峰ピークを明確に示し、しかも単峰ピークの裾野も広くなっており、優れた捕捉磁場特性を得ることができ、この酸化物超電導バルク体試料は優れた捕捉磁場特性を示す優れた超電導バルク体であることが明らかとなった。この酸化物超電導バルク体試料は外部磁場0.5Tの磁場中冷却で最高0.2253Tを示した。
また、この酸化物超電導バルク体試料のTcはSQIDによる転移温度において93〜94Kであり、この試料の一部から切り出した厚さ1mmの切断試料の臨界電流密度は磁場1Tにおいて1×10(A/cm)であった。
【0060】
更に、実施例1で得られた酸化物超電導バルク体試料において図13に示す拡大図に示す素地部分のSm123相部分をCuκ線を用いたX線組成分析した結果、O:62.38%、Cu:19.56%、Ba:11.47%、Sm:6.56%、の結果が得られ、この部分がSm123相であることを確認できた。
また、同様に、実施例1で得られた酸化物超電導バルク体試料において図13に示す拡大図に示す素地部分のSm211粒子部分をCuκ線を用いたX線組成分析した結果、O:65.68%、Cu:11.97%、Ba:8.29%、Sm:14.06%、の結果が得られ、この部分がSm211相であることを確認できた。
【0061】
実験例2で得られた酸化物超電導バルク体試料は図19に示す如く大きな単峰ピークを明確に示し、しかも単峰ピークの裾野も広くなっており、優れた捕捉磁場特性を得ることができ、この酸化物超電導バルク体試料は優れた捕捉磁場特性を示す優れた超電導バルク体であることが明らかとなった。
【0062】
次に実験例1で得られた酸化物超電導バルク体試料について、表面から以下の表に示す厚さに輪切り状にスライスして切り出し、各スライス片について特性を調査した。
「表1」
重量 厚さ 直径 嵩密度 最大値 最大値/厚さ
(g) (mm) (mm) (g/cm) (mT) (mT/mm)
最上面 2 0.9 23 5.6 48 51
中段1 14 5.2 23 6.5 114 22
中段2 17 6.4 23 6.4 169 26
最下面 9 3.6 23 5.8 101 28
【0063】
また、これらの結果の内、捕捉磁場特性を酸化物超電導バルク体試料の部位毎に測定した結果を図20に示す。
これらの測定結果から、前述の酸化物超電導バルク体試料は最上面から最下面まで高いレベルで嵩密度が揃い、磁気特性も高いレベルを維持しているので、本発明により得られた酸化物超電導バルク体試料は最上面から最下面側まで、従来より遙かに短時間の予備的段階降温等温処理と主体的段階降温等温処理により均一な結晶化が進行していることが判明した。
【0064】
「実験例3」
これまでの試験例ではいずれの例においても前駆体上に種結晶を配置して予備的段階降温等温処理と主体的段階降温等温処理を施す例について説明したが、種結晶を前駆体上に載置することなく予備的段階降温等温処理を施し、その後に種結晶を前駆体上に配置して主体的段階降温等温処理を施した例について以下に説明する。
実験例1と同等の条件で製造した前駆体に種結晶を設置することなく実験例1と同等の条件で予備的段階降温等温処理施し、次いで実験例1と同等条件で主体的段階降温等温処理を施して試料を得た。
【0065】
先の予備的段階降温等温処理を施して得られた前駆体試料の表面の状態を撮影した組織写真を図21に示す。
図21に示すようにこの前駆体試料はファセットの成長が見られず、多結晶領域が多数形成された表面状態を呈していたので、ファセット未成長の熱履歴物としての前駆体であった。
この主体的段階降温等温処理を施して得られた酸化物超電導バルク体試料の表面を撮影した組織写真を図22に示す。
この図22に示す試料に対して前記の場合と同等の酸素雰囲気中で熱処理して得た酸化物超電導バルク体を用いて捕捉磁場の測定実験を行った結果を図23に示す。
図23のグラフにおいて縦軸は捕捉磁場の強さ(G)を示し、横軸の2つは試料X方向と試料Y方向の測定位置をmm単位で示す。縦軸の単位は(Oe)で示すが、100(Oe)は8000A/mを示し、500(Oe)は40000A/mを示す。
【0066】
図23に示す如く本実験例で得られた試料は、0.5Tの外部磁場を印加して捕捉した磁場の強さがピーク領域で2500Gを越えた(最大値2713G)ので、この分野における酸化物超電導バルク体の試料として驚異的に優秀な捕捉磁場特性を示していることが判明した。
また、図23に示す如く得られた捕捉磁場ピークにおいては、裾野の広い良好な単峰ピークとなっており、単結晶状態として極めて優秀な状態の酸化物超電導バルク体を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は本発明方法を実施する場合に用いる前駆体に種結晶を設置した状態を示す側面図である。
【図2】図2は本発明方法に従い、補助的段階降温等温処理により得られた前駆体の一例を示す平面図である。
【図3】図3は本発明方法に従い、主体的段階降温等温処理により得られた酸化物超電導バルク体の一例を示す平面図である。
【図4】図4は本発明方法に従い、主体的段階降温等温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織構造を拡大した模式図である。
【図5】図5は実験例1において補助的段階降温等温処理を行う場合の加熱時間と加熱温度の関係を示す図である。
【図6】図6は実験例1において補助的段階降温等温処理により得られた前駆体の組織写真を示す図である。
【図7】図7は実験例1において主体的段階降温等温処理を行う場合の加熱時間と加熱温度の関係を示す図である。
【図8】図8は実験例1において主体的段階降温等温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図9】図9は実験例1において得られた酸化物超電導バルク体の表面に析出した銀析出物の拡大写真を示す図である
【図10】図10は実験例1で得られた酸化物超電導バルク体の組織を78倍に拡大して撮影した写真を示す図である。
【図11】図11は同酸化物超電導バルク体の銀析出物を除去した部分の組織を500倍に拡大して撮影した写真を示す図である。
【図12】図12は同酸化物超電導バルク体の組織を50倍に拡大して撮影した写真を示す図である。
【図13】図13は同酸化物超電導バルク体の組織を2000倍に拡大して撮影した写真を示す図である。
【図14】図14は実験例2において補助的段階降温等温処理を行う場合の加熱時間と加熱温度の関係を示す図である。
【図15】図15は実験例2において補助的段階降温等温処理により得られた前駆体の組織写真を示す図である。
【図16】図16は実験例2において主体的段階降温等温処理を行う場合の加熱時間と加熱温度の関係を示す図である。
【図17】図17は実験例2において主体的段階降温等温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図18】図18は実験例1において得られた酸化物超電導バルク体試料の捕捉磁場測定結果を示す図である。
【図19】図19は実験例2において得られた酸化物超電導バルク体試料の捕捉磁場測定結果を示す図である。
【図20】図20は実験例1において得られた試料の捕捉磁場特性を酸化物超電導バルク体試料の部位毎に測定した結果を示すグラフである。
【図21】図21は実験例3において補助的段階降温等温処理により得られた前駆体の組織写真を示す図である。
【図22】図22は実験例3において主体的段階降温等温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図23】図23は実験例3において得られた酸化物超電導バルク体試料の捕捉磁場測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1…前駆体、2…種結晶、3…前駆体、5…ファセット、6…酸化物超電導バルク体。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導体製造用の原料を仮焼きして圧密成形し、酸化物超電導体の前駆体を形成するとともに、該酸化物超電導体の前駆体を加熱して半溶融状態とした後に冷却し、前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とするトップシード溶融凝固法によって酸化物超電導バルク体を製造する方法であって、
前記前駆体を前記仮焼き温度よりも高い温度であって酸化物超電導体の包晶温度よりも低い温度に加熱後、前記包晶温度よりも低く、結晶化開始温度よりも低い温度域であって、前記仮焼き温度よりも高い温度域において複数段のステップで徐々に温度降下させるとともに、各ステップにおいては等温保持する予備的段階降温等温処理を施し、
次いで、前記予備的段階降温等温処理後の前駆体を前記包晶温度以上の温度に加熱し、半溶融状態とした後、結晶成長のための処理として複数段のステップで徐々に温度降下させるとともに、各ステップにおいては等温保持する主体的段階降温等温処理を施して前駆体を結晶化することを特徴とする酸化物超電導バルク体の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とする際、前駆体の組成比に応じた理論的結晶成長温度を中心としてそれよりも高い温度域から主体的段階降温等温処理を開始し、結晶成長温度よりも低い温度域まで主体的段階降温等温処理を施し、その後、常温まで冷却することを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導バルク体の製造方法。
【請求項3】
前記予備的段階降温等温処理において前記前駆体に結晶化の目安であるファセットを生じていないものを得るとともに、前記主体的段階降温等温処理によりファセットを生じさせた結晶体とすることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導バルク体の製造方法。
【請求項4】
得ようとする酸化物超電導バルク体としてREBaCu7−x系の酸化物超電導体(REはYを含む希土類元素の1種類又は2種以上を示す。)または前記組成にAgまたはPtを含む組成系の酸化物超電導体からなるものとすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物超電導バルク体の製造方法。
【請求項5】
銀を添加してなる酸化物超電導体の前駆体を加熱して半溶融状態とした後に冷却し、前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とするトップシード溶融凝固法により形成されたREBaCu7−x系酸化物超電導バルク体(REはYを含む希土類元素の1種類又は2種以上を示す。)であって、前記添加した銀の一部が銀析出物となって表面に複数分散析出されてなることを特徴とする酸化物超電導バルク体。
【請求項6】
前記種結晶の結晶構造を元に結晶化された領域にファセットが形成されてなることを特徴とする請求項5に記載の酸化物超電導バルク体。
【請求項7】
REBaCu7−xなる組成の酸化物超電導体からなる素地の内部にREBaCuOなる組成の常伝導体粒子と銀粒子が分散析出され、表面においては前記銀粒子とは別に前記銀粒子よりも大径の半球状の銀析出物が複数分散析出されてなることを特徴とする請求項5または6に記載の酸化物超電導バルク体。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2007−131510(P2007−131510A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43634(P2006−43634)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】