酸化物超電導線材、超電導構造体、酸化物超電導線材の製造方法、超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびに超電導マグネットを含む製品
【課題】臨界電流密度を高くすることができるとともに交流損失を低くすることができる酸化物超電導線材、超電導構造体、酸化物超電導線材の製造方法、超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびに超電導マグネットを含む製品を提供する。
【解決手段】Bi−2223系酸化物超電導体を含むフィラメントの複数がマトリクス中に埋め込まれてなるテープ状の酸化物超電導線材であって、酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面の断面積が0.5mm2以下であり、酸化物超電導線材の断面において、フィラメントの1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材の断面積の0.2%以上6%以下である酸化物超電導線材である。
【解決手段】Bi−2223系酸化物超電導体を含むフィラメントの複数がマトリクス中に埋め込まれてなるテープ状の酸化物超電導線材であって、酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面の断面積が0.5mm2以下であり、酸化物超電導線材の断面において、フィラメントの1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材の断面積の0.2%以上6%以下である酸化物超電導線材である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材、超電導構造体、酸化物超電導線材の製造方法、超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびにその超電導マグネットを含む製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Bi−2223系酸化物超電導体を用いた酸化物超電導線材は、液体窒素温度での使用が可能であり、比較的高い臨界電流密度が得られることおよび長尺化が比較的容易であることから、超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびにその超電導マグネットを含む製品などへの応用が期待されている。
【0003】
このようなBi−2223系酸化物超電導体を用いた酸化物超電導線材の製造方法がたとえば特許文献1に開示されている。この製造方法は以下のようにして行なわれている。まず、Bi−2223系酸化物超電導体を含む原料粉末を銀パイプ中に充填する。次に、原料粉末が充填された銀パイプを伸線加工して単芯超電導線を形成する。次いで、複数の単芯超電導線を銀パイプ中に収容して多芯超電導線を形成する。そして、多芯超電導線について捩じり加工が行なわれる。その後、多芯超電導線を圧延加工し、圧延加工後の多芯超電導線について熱処理が行なわれて、テープ幅が3.0mmで厚さが0.22mmのテープ状の酸化物超電導線材が完成する(特許文献1の[0045]〜[0047]参照)。
【特許文献1】特開平7−105753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化物超電導線材を交流用の超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびにその超電導マグネットを含む製品などに応用する場合には、臨界電流密度を高くし、交流損失を低くすることが重要となる。
【0005】
しかしながら、ビーンモデルに基づいた基本式においては、交流損失は、臨界電流密度、酸化物超電導線材の厚さおよび印加磁場の積に比例しているため、臨界電流密度を高くして交流損失を低くすることは非常に難しかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、臨界電流密度を高くすることができるとともに交流損失を低くすることができる酸化物超電導線材、超電導構造体、酸化物超電導線材の製造方法、その酸化物超電導線材、その超電導構造体またはその酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびにその超電導マグネットを含む製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Bi−2223系酸化物超電導体を含むフィラメントの複数がマトリクス中に埋め込まれてなるテープ状の酸化物超電導線材であって、酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面の断面積が0.5mm2以下であり、酸化物超電導線材の断面において、フィラメントの1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材の断面積の0.2%以上6%以下である酸化物超電導線材である。
【0008】
ここで、本発明の酸化物超電導線材においては、フィラメントの平均アスペクト比が10よりも大きいことが好ましい。
【0009】
また、本発明の酸化物超電導線材において、フィラメントは酸化物超電導線材の長手方向の中心軸を回転軸として旋回しており、フィラメントの旋回するピッチであるツイストピッチは8mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。
【0010】
また、本発明の酸化物超電導線材において、フィラメントの間にバリア層が形成されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明の酸化物超電導線材においては、マトリクスの表面上に金属テープが備えられていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の酸化物超電導線材においては、マトリクスの表面上に絶縁被膜が備えられていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の酸化物超電導線材においては、マトリクスの表面上に金属テープが備えられているとともに、金属テープの表面上に絶縁被膜が備えられていることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記の酸化物超電導線材の複数が撚り合わされてなる超電導構造体であって、エッジワイズ方向に曲げられた少なくとも1本の酸化物超電導線材が撚り合わされてなる超電導構造体である。
【0015】
また、本発明は、上記の酸化物超電導線材をテープ状の保護膜中に複数含み、保護膜の対向する主面の両面にそれぞれ金属テープを備えている超電導構造体である。
【0016】
ここで、本発明の超電導構造体においては、隣り合う酸化物超電導線材の間に保護膜よりも高抵抗の高抵抗体が設置されていることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、上記の酸化物超電導線材をテープ状の絶縁性保護膜中に複数含む超電導構造体である。
【0018】
さらに、本発明は、第1金属シース中に酸化物超電導体粉末および非超電導体粉末を含む原料粉末を充填する工程と、原料粉末が充填された第1金属シースを伸線加工して単芯超電導線を形成する工程と、単芯超電導線の複数を第2金属シース中に収容する工程と、単芯超電導線が収容された第2金属シースを伸線加工して多芯超電導線を形成する工程と、多芯超電導線を圧延加工する工程と、圧延加工後の多芯超電導線を熱処理する工程と、を含み、原料粉末において粒径が2μm以下の非超電導体粉末が非超電導体粉末全体の個数の95%以上を占めており、圧延加工前の多芯超電導線における単芯超電導線の断面積の変動係数(COV)が15%以下であり、圧延加工における圧延圧下率が82%以下であって、熱処理は200気圧以上の圧力下で行なわれる酸化物超電導線材の製造方法である。
【0019】
ここで、本発明の酸化物超電導線材の製造方法においては、圧延加工前に多芯超電導線を捩じる工程を複数回行なうことが好ましい。
【0020】
また、本発明の酸化物超電導線材の製造方法においては、酸化物超電導線材中にバリア層を形成することが好ましい。
【0021】
また、本発明は、上記のいずれかの酸化物超電導線材、上記のいずれかの超電導構造体または上記のいずれかの酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む超電導ケーブルである。
【0022】
さらに、本発明は、上記のいずれかの酸化物超電導線材、上記のいずれかの超電導構造体または上記のいずれかの酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む超電導マグネットである。
【0023】
また、本発明は、上記の超電導マグネットを含むモータ電機子である。
また、本発明は、上記の超電導マグネットを含む冷凍機冷却型マグネットシステムである。
【0024】
また、本発明は、上記の超電導マグネットを含むMRI(Magnetic Resonance Imaging)である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、臨界電流密度を高くすることができるとともに交流損失を低くすることができる酸化物超電導線材、超電導構造体、そのような酸化物超電導線材を製造することができる酸化物超電導線材の製造方法、その酸化物超電導線材、その超電導構造体またはその酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびにその超電導マグネットを含む製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0027】
図1に本発明の酸化物超電導線材の好ましい一例の一部の斜視図を示し、図2に図1に示す酸化物超電導線材の長手方向に直交するII−IIに沿った断面を模式的に示す。本発明の酸化物超電導線材1はテープ状に形成されており、マトリクス2と、マトリクス2中に埋め込まれているBi−2223系酸化物超電導体を含むフィラメント3と、を備えている。なお、フィラメント3は、金属シース中にBi−2223系酸化物超電導体が収容された構成となっている。
【0028】
ここで、本発明においては、図2に示す酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面の断面積が0.5mm2以下であり、この酸化物超電導線材1の断面積において、フィラメント3の1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材1の断面積の0.2%以上6%以下、好ましくは2%以上6%以下であることを特徴としている。
【0029】
本発明者は、上記のビーンモデルに基づいた基本式に基づき、フィラメント3の芯数をなるべく減少させずに酸化物超電導線材1の断面積をできるだけ小さくすることによって、臨界電流密度を高くしつつ交流損失の低下を抑制することができるのではないかと考え、鋭意検討を行なった。その結果、酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面の断面積を0.5mm2以下としたとき、フィラメント3を構成する超電導体としてBi−2223系酸化物超電導体を用い、かつ、フィラメント3の1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材1の断面積の0.2%以上6%以下、好ましくは2%以上6%以下とした場合には、酸化物超電導線材の臨界電流密度を高くすることができるとともに交流損失を低くすることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0030】
なお、酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面におけるフィラメント3の1本当たりの平均断面積は、酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面に複数存在しているフィラメント3の断面積の総和を求め、その総和をフィラメント3の本数で割ることによって求めることができる。
【0031】
また、本発明において、Bi−2223系酸化物超電導体とは、BiαPbβSrγCaδCuεOx(ただし、1.7≦α≦2.1、0≦β≦0.4、1.7≦γ≦2.1、1.7≦δ≦2.2、ε=3.0、9.8≦x≦10.2)の組成式で表わされる超電導体のことである。ここで、Biはビスマスを示し、Pbは鉛を示し、Srはストロンチウムを示し、Caはカルシウムを示し、Cuは銅を示し、Oは酸素を示す。また、αはビスマスの組成比を示し、βは鉛の組成比を示し、γはストロンチウムの組成比を示し、δはカルシウムの組成比を示し、εは銅の組成比を示し、xは酸素の組成比を示す。なお、マトリクス2の材料としては、たとえば銀などが用いられる。
【0032】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、フィラメント3の平均アスペクト比が10よりも大きいことが好ましい。フィラメント3の平均アスペクト比が10よりも大きい場合には、本発明の酸化物超電導体1の臨界電流密度がさらに高くなる傾向にある。なお、フィラメント3の平均アスペクト比は、酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面に複数存在しているフィラメント3の幅との厚さの比の平均値である。たとえば図2を参照すると、1本のフィラメント3のアスペクト比は、(フィラメント3の幅d)/(フィラメント3の厚さt)の式により得られる。そして、この式により得られたアスペクト比を酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面に存在している複数のフィラメント3のそれぞれについて求め、それを総和し、その総和をフィラメント3の本数で割ることによってフィラメント3の平均アスペクト比を求めることができる。
【0033】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、たとえば図3の斜視透視図に示すように、フィラメント3が捩れた状態(酸化物超電導線材1の長手方向の中心軸を回転軸として旋回している状態)でマトリクス2中に埋め込まれていることが好ましい。この場合には、交流損失をさらに低減することができる傾向にある。なお、酸化物超電導線材1の長手方向の中心軸は、酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面の中心を通る軸であって、酸化物超電導線材1の長手方向に沿って伸びる軸である。また、後述する圧延加工前の多芯超電導線を従来から公知の方法で捩じることによって、その捩じられた多芯超電導線について圧延加工および熱処理して得られる酸化物超電導線材1中においてフィラメント3を捩れた状態(酸化物超電導線材1の長手方向の中心軸を回転軸として旋回している状態)にすることができる。
【0034】
ここで、フィラメント3の旋回するピッチであるツイストピッチが短いほど交流損失を低減することができる傾向にあり、交流損失を低減する観点からは、フィラメント3のツイストピッチは8mm以下であることが好ましい。また、臨界電流密度をより高くするとともに交流損失をより低くする観点からは、ツイストピッチは5mm以下であることが好ましい。なお、フィラメント3のツイストピッチは図3に示す長さLとなる。従来のフィラメントは長手方向に直交する断面の断面積が大きいために加工上の問題からツイストピッチを8mmよりも大きくすることは困難であったが、本発明の酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面の断面積は0.5mm2以下と非常に小さいためにツイストピッチを8mm以下、好ましくは5mm以下とすることが可能となる。
【0035】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、たとえば図4および図5の模式的断面図に示すように、隣接しているフィラメント3の間にバリア層4が形成されていることが好ましい。この場合には交流損失が低減する傾向にあり、特にフィラメント3が捩れている場合にはその傾向はさらに大きくなる。なお、バリア層4の材料としては、室温(25℃)で銀の10倍以上の電気抵抗を有する材料が用いられ、たとえば、炭酸ストロンチウム、酸化銅、ジルコニアまたはBi−2201超電導体などを用いることができる。
【0036】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、たとえば図6の模式的断面図に示すように、マトリクス2の表面上に金属テープ10が備えられていることが好ましい。この場合には、本発明の酸化物超電導線材1は金属テープ10により補強されていることから、本発明の酸化物超電導線材1を用いたコイル巻き線および超電導ケーブルの作製が容易となる傾向にある。ここで、金属テープ10は、たとえば銅またはステンレスなどの金属からなるテープをハンダなどを用いてマトリクス2の表面に貼り合わせることによって、マトリクス2の表面上に設置することができる。
【0037】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、たとえば図7の模式的断面図に示すように、マトリクス2の表面上に絶縁被膜11が備えられていることが好ましい。この場合には、本発明の酸化物超電導線材1の表面が予め絶縁されているため、本発明の酸化物超電導線材1を用いたコイル巻き線の作製が容易となる傾向にある。ここで、絶縁被膜11は、たとえばポリイミドなどの樹脂からなるテープをマトリクス2の表面にハーフラップで巻きつける(テープの幅の半分だけ重ね合わせて巻きつける)ことによって、マトリクス2の表面上に設置することができる。また、たとえば、本発明の酸化物超電導線材1よりも幅の広いポリイミドなどの樹脂からなる2枚のテープを酸化物超電導線材1の長手方向に沿って貼り合わせることによっても絶縁被膜11の設置は可能である。
【0038】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、たとえば図8の模式的断面図に示すように、マトリクス2の表面上に金属テープ10が備えられているとともに、金属テープ10の表面上に絶縁被膜11が備えられていることが好ましい。この場合には、絶縁被膜11で絶縁性が確保されるとともに金属テープ10で補強されることによって、運転時に大きな力が加わる超電導マグネットや設置時に大きな負荷が加わる大容量の超電導ケーブルへの応用が可能となる傾向にある。ここで、金属テープ10は、たとえば銅またはステンレスなどの金属からなるテープをハンダなどを用いてマトリクス2の表面に貼り合わせることによってマトリクス2の表面上に設置することができ、絶縁被膜11は、たとえばポリイミドなどの樹脂からなるテープを金属テープ10の表面に貼りつけることによって、金属テープ10の表面上に設置することができる。
【0039】
また、上述した図7または図8に示す絶縁被膜11で被覆された酸化物超電導線材1の少なくとも1本をエッジワイズ方向に曲げ、エッジワイズ方向に曲げられた酸化物超電導線材1を含む複数の酸化物超電導線材1を撚り合わせることによって、超電導構造体を作製することができる。このような構成の超電導構造体は、低損失、大容量かつコンパクトに作製することができるため、このような構成の超電導構造体を用いた場合には、大容量の交流機器(たとえば、超電導ケーブルまたは超電導マグネットなど)を作製することができる傾向にある。なお、本発明において、「エッジワイズ方向に曲げる」とは、複数の酸化物超電導線材1のうち内側に位置する酸化物超電導線材1についてはその一部が外側に位置するように曲げることをいい、外側に位置する酸化物超電導線材1についてはその一部が内側に位置するように曲げることをいう。このような構成の超電導構造体は、たとえば、絶縁被膜11で被覆された3本の酸化物超電導線材1をエッジワイズ方向に曲げ径1000mmで連続的に曲げながら撚り合わせることにより作製することができる。
【0040】
また、たとえば図9の模式的断面図に示すように、上記の酸化物超電導線材1をテープ状の保護膜13中に複数含ませ、保護膜13の対向する主面13aの両面のそれぞれに金属テープ12を設置することによって超電導構造体14を作製することもできる。このような構成の超電導構造体14においては、保護膜13の主面13aに対して垂直方向の磁場に対する交流損失を低減することができ、酸化物超電導線材1の1本当たりの容量が増大する傾向にある。このような構成の超電導構造体14は、交流損失が低く、かつ大容量が必要とされる交流機器に好適に用いることができる。なお、保護膜13としては、たとえば、ハンダなどの合金を用いることができる。
【0041】
ここで、図9に示す超電導構造体14においては、たとえば図10の模式的断面図に示すように、隣り合う酸化物超電導線材1の間に保護膜13よりも高抵抗の高抵抗体15が設置されることが好ましい。この場合には、保護膜13の主面13aに対して垂直方向の磁場に対する交流損失をさらに低減することができ、酸化物超電導線材1の1本当たりの容量がさらに増大する傾向にある。
【0042】
また、たとえば図11の模式的断面図に示すように、上記の酸化物超電導線材1をテープ状のポリエステルなどからなる絶縁性保護膜16中に複数含ませることによって超電導構造体14を作製することができる。このような構成の超電導構造体14においても、絶縁性保護膜16の主面16aに対して垂直方向の磁場に対する交流損失を低減することができる傾向にある。また、このような構成の超電導構造体14は可撓性を有するため、取扱いが容易となる傾向にある。なお、絶縁性保護膜16としては、ポリエステル以外にも、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレンまたはポリイミドなどを用いることができる。
【0043】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、フィラメント3中のBi−2223系酸化物超電導体の相対密度は99%以上であることが好ましい。この場合には臨界電流密度がさらに向上する傾向にある。なお、本発明において、相対密度(%)は、100×(酸化物超電導体全体の体積−空孔全体の体積)/(酸化物超電導体全体の体積)の式で求められる。また、本発明において、臨界電流密度は、(酸化物超電導線材1の臨界電流量)/(酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面の断面積)の式で求められる。
【0044】
次に、本発明の酸化物超電導線材の製造方法について説明する。図12に、本発明の酸化物超電導線材の製造方法の好ましい一例のフローチャートを示す。
【0045】
図12を参照して、まず、ステップS1においては、たとえば図13の模式的斜視図に示すように、第1金属シース5中に酸化物超電導体粉末および非超電導体粉末を含む原料粉末6を充填する。ここで、本発明においては、原料粉末6において粒径が2μm以下の非超電導体粉末が原料粉末6に含まれている非超電導体粉末全体の個数の95%以上を占めている。なお、非超電導体粉末は、酸化物超電導体粉末の臨界温度で酸化物超電導体粉末よりも電気抵抗が高い粉末である。非超電導体粉末の材料としては、たとえば(Ca,Sr)2CuO3、(Ca,Sr)2PbO4または(Ca,Sr)14Cu24O3などが挙げられる。また、本発明の酸化物超電導線材の製造方法で用いられる酸化物超電導体粉末の材料としては、たとえば上記のBi−2223系酸化物超電導体などが用いられる。
【0046】
次に、ステップS2においては、たとえば図14の模式的斜視図に示すように、原料粉末6が充填された第1金属シース5を伸線加工して単芯超電導線7を形成する。
【0047】
次いで、ステップS3においては、たとえば図15の模式的斜視図に示すように、単芯超電導線7の複数を第2金属シース8中に収容する。
【0048】
続いて、ステップS4においては、たとえば図16の模式的斜視図に示すように、単芯超電導線7が収容された第2金属シース8を伸線加工して多芯超電導線9を形成する。ここで、本発明においては、圧延加工前の多芯超電導線における単芯超電導線の断面積の変動係数(COV)が15%以下である。なお、圧延加工前の多芯超電導線における単芯超電導線の断面積の変動係数(COV)とは、圧延加工前の多芯超電導線の長手方向に直交する断面における複数の単芯超電導線の断面積の標準偏差をこれらの単芯超電導線の断面積の平均値で割った値のことである。
【0049】
そして、ステップS5においては、たとえば図17の模式的斜視図に示すように、多芯超電導線9を圧延加工することによりテープ状とする。ここで、本発明においては、圧延加工における圧延圧下率が82%以下である。なお、圧延圧下率(%)とは、たとえば図18の模式的側面図に示すように、圧延加工前の多芯超電導線9の厚みt2に対する圧延加工後の多芯超電導線9の厚みt1の割合(100×{1−(t1/t2)})のことである。
【0050】
その後、ステップS6においては、圧延加工後の多芯超電導線9を熱処理することによって、テープ状の酸化物超電導体が製造される。ここで、本発明においては、熱処理は200気圧以上の圧力下で行なわれる。
【0051】
本発明者が酸化物超電導線材の臨界電流密度を維持したままで酸化物超電導線材の長手方向に直交する方向の断面の断面積を小さくすることを検討したところ、酸化物超電導線材の長手方向に直交する方向の断面の断面積を小さくした場合には臨界電流密度も低下するということがわかった。
【0052】
そして、臨界電流密度が低下する原因としては、酸化物超電導線材の長手方向に直交する方向の断面の断面積を小さくすると伸線加工度が向上してCOVが大きくなり、これにより酸化物超電導線材に流れる電流が阻害されていることによるものであることがわかった。
【0053】
さらに、本発明者が、伸線加工度の向上とCOVの大きさとの関係について調査したところ、酸化物超電導線材の断面積を小さくする際に、粒径が2μm以下の非超電導体の塊が単芯超電導線の均一な変形を妨げる起点になっていることがわかった。そして、非超電導体の粒径は、第1金属シースへの充填時から圧延加工後までほとんど変化していないことがわかった。
【0054】
以上の結果に基づき、本発明者が鋭意検討した結果、粒径が2μm以下の非超電導体粉末が非超電導体粉末全体の個数の95%以上を占めている場合にはCOVが15%以下となり、酸化物超電導線材の断面積を小さくすることができることがわかった。
【0055】
しかしながら、上記のようにして断面積を小さくした酸化物超電導線材の臨界電流密度にばらつきが生じた。そこで、本発明者が臨界電流密度の低い酸化物超電導線材を調査したところ、その表面にピンホールが数多く形成されており、その部分のフィラメントを構成する酸化物超電導体の相対密度が低いことがわかった。さらに詳細に調査すると、多芯超電導線を圧延加工する際の圧延圧下率とピンホール量とに相関がある可能性があった。
【0056】
そこで、本発明者が多芯超電導線を圧延加工する際の圧延圧下率を70%〜85%まで変化させ、さらに、酸化物超電導線材中のフィラメントを構成する酸化物超電導体の相対密度を高くするために200気圧以上の圧力下で圧延加工後の多芯超電導線の熱処理を行なった。その結果、粒径が2μm以下の非超電導体粉末が非超電導体粉末全体の個数の95%以上を占める原料粉末を用い、圧延加工前の多芯超電導線における単芯超電導線の断面積の変動係数(COV)を15%以下とし、圧延加工における圧延圧下率を82%以下として、圧延加工後の多芯超電導線を200気圧以上の圧力下で熱処理を行なって得られた酸化物超電導線材は、その長手方向における断面積が0.5mm2以下であって、高い臨界電流密度を有することが確認された。また、酸化物超電導線材の臨界電流密度をより高くするとともに交流損失をより低くする観点からは、本発明の酸化物超電導線材の製造方法において製造された酸化物超電導線材の断面積において、フィラメントの1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材の断面積の0.2%以上6%以下であることが好ましく、2%以上6%以下であることがより好ましい。
【0057】
ここで、本発明の酸化物超電導線材の製造方法においては、圧延加工前の多芯超電導線を捩じる工程を複数回行なうことが好ましい。この場合には、酸化物超電導線材に含まれるフィラメントのツイストピッチをより小さくすることができ、ツイストピッチを8mm以下、より好ましくは5mm以下とした場合には、上述したように、交流損失をさらに低減することができる傾向にある。
【0058】
図19に、圧延加工前の多芯超電導線を捩じる工程を複数回行なう工程のフローチャートの好ましい一例を示す。ここで、圧延加工前の多芯超電導線を伸線加工し、その後、軟化工程を経て、多芯超電導線が捩じられる。その後、再び、軟化工程を経て、多芯超電導線が捩じられる。そして、再び、軟化工程が行なわれ、スキンパスを経た後に、圧延加工がされる。なお、軟化工程は、たとえば、200℃以上300℃以下の温度の大気下で0.5時間以上多芯超電導線を放置することにより行なわれる。また、スキンパスは、多芯超電導線をたとえばダイスに通してその表面を平滑化する工程である。
【0059】
また、本発明の酸化物超電導線材の製造方法においては、酸化物超電導線材中にバリア層を形成することが好ましい。この場合には交流損失が低減する傾向にあり、特にフィラメントが捩れている場合にはその傾向はさらに大きくなる。ここで、バリア層は、たとえば、表面にバリア層の形成材料が塗布された単芯超電導線を用いて酸化物超電導線材を作製することによって、酸化物超電導線材を構成するフィラメントとマトリクスとの間に形成することができる。なお、本明細書においては、上記熱処理前は単芯超電導線と表現し、上記熱処理後はフィラメントと表現している。
【0060】
また、本発明の酸化物超電導線材の製造方法により得られた酸化物超電導線材のフィラメント中の酸化物超電導体の相対密度は99%以上であることが好ましい。この場合には臨界電流密度がさらに向上する傾向にある。
【0061】
なお、上記の本発明の酸化物超電導線材1および本発明の酸化物超電導線材の製造方法によって製造された酸化物超電導線材はそれぞれその長手方向に直交する断面の断面積が小さいことから、コンパクトな転位が可能となる。ここで、転位とは、交流通電時の偏流対策として、たとえば図20の模式図に示すように、酸化物超電導線材1の外側と内側とを反転させることである。その転位の手法としては、たとえば図21の模式図に示すように、酸化物超電導線材1をエッジワイズ方向に曲げる方法がある。
【0062】
従来の酸化物超電導線材は、その長手方向に直交する断面の断面積が大きかったために、臨界電流密度を維持するためには、エッジワイズ方向の曲げ直径を1000mm程度にしか曲げることができなかった。しかし、本発明の酸化物超電導線材および本発明の酸化物超電導線材の製造方法によって製造された酸化物超電導線材はそれぞれその長手方向に直交する断面の断面積が小さいことから、エッジワイズ方向の曲げ直径を500mm程度にすることができるために、よりコンパクトな転位が可能となった。
【0063】
また、本発明の酸化物超電導線材1、その酸化物超電導線材1を含む本発明の超電導構造体14および本発明の酸化物超電導線材の製造方法によって製造された酸化物超電導線材はそれぞれその長手方向に直交する断面の断面積が小さいことから、超電導ケーブルまたは超電導マグネットなどに用いた場合には、そのコンパクト化および軽量化を図ることができる。
【0064】
また、本発明の酸化物超電導線材、その酸化物超電導線材を含む本発明の超電導構造体および本発明の酸化物超電導線材の製造方法によって製造された酸化物超電導線材を含む超電導マグネットは、モータ電機子、冷凍機冷却型マグネットシステムまたはMRIなどの製品に用いることができる。
【0065】
なお、本発明に係る酸化物超電導線材および超電導構造体は交流損失を低減することができるため、本発明に係る酸化物超電導線材または超電導構造体を含む超電導マグネットおよびその超電導マグネットを含むモータ電機子、冷凍機冷却型マグネットシステムまたはMRIなどは、これらを冷却する負荷を低減することができる傾向にある。
【0066】
また、本発明に係る酸化物超電導線材および超電導構造体は断面積が小さく薄いテープ状にすることができるため、本発明に係る酸化物超電導線材または超電導構造体を含む超電導ケーブルにおいては、芯材への巻き付け時の歪みが減少し、臨界電流量が低減しない傾向にある。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3およびCuOを用いて、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.79:0.4:1.96:2.18:3の組成比になるように、これらの粉末を混合した。この混合した粉末に対して、加熱および粉砕を行ない、Bi−2223系酸化物超電導体粉末を含む原料粉末を得た。そして、この原料粉末を外径12mm、内径10mmの第1金属シースとしての銀パイプ中に充填した。
【0068】
この粉末が充填された銀パイプを直径2mmになるまで伸線加工することによって単芯超電導線を作製した。そして、単芯超電導線の表面に炭酸ストロンチウムからなるバリア層を塗布した。そして、バリア層が表面に塗布された単芯超電導線を外径36mm、内径27mmの第2金属シースとしての銀パイプ中に91本収容した。次に、単芯超電導線が収容された銀パイプを直径0.9mmになるまでさらに伸線加工して多芯超電導線を作製した。
【0069】
その後、多芯超電導線を250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程と軟化工程後に多芯超電導線を捩じる工程とを、本実施例において得られる酸化物超電導線材中のフィラメントのツイストピッチが8mmとなるように交互に繰り返した。そして、その多芯超電導線について、再度、250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程を行ない、その後、スキンパスを経て圧延加工を行なった。
【0070】
その後、圧延加工後の多芯超電導線について、1回目の焼結を大気圧中で行ない、さらに圧延加工を行なった後、200気圧の圧力下で850℃で50時間の熱処理を行なうことにより、テープ状の酸化物超電導線材(実施例1の酸化物超電導線材)を得た。
【0071】
この実施例1の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0072】
そして、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。また、その断面において、フィラメント1本当たりの平均断面積は、酸化物超電導線材全体の断面積の0.2%であった。また、実施例1の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0073】
このようにして得られた実施例1の酸化物超電導線材について、77K(ケルビン)、0T(テスラ)の条件下で臨界電流密度を測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1の酸化物超電導線材の臨界電流密度は11kA/cm2であることが確認された。
【0074】
また、実施例1の酸化物超電導線材について、交流損失を測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1の酸化物超電導線材の交流損失は、15μJ/A/m/cycleであることが確認された。
【0075】
(実施例2)
直径3.8mmの単芯超電導線を37本収容することによって、フィラメント1本当たりの平均断面積を酸化物超電導線材全体の断面積の1%となるように調整したこと以外は実施例1と同一の方法および同一の条件で実施例2の酸化物超電導線材を作製した。
【0076】
この実施例2の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0077】
そして、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。また、実施例2の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0078】
そして、実施例2の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例2の酸化物超電導線材の臨界電流密度は12kA/cm2であり、交流損失は14μJ/A/m/cycleであった。
【0079】
(実施例3)
直径5.3mmの単芯超電導線を19本収容することによって、フィラメント1本当たりの平均断面積を酸化物超電導線材全体の断面積の2%となるように調整したこと以外は実施例1と同一の方法および同一の条件で実施例3の酸化物超電導線材を作製した。
【0080】
この実施例3の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0081】
そして、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。また、実施例3の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0082】
そして、実施例3の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例3の酸化物超電導線材の臨界電流密度は13kA/cm2であり、交流損失は11μJ/A/m/cycleであった。
【0083】
(実施例4)
直径8.5mmの単芯超電導線を7本収容することによって、フィラメント1本当たりの平均断面積を酸化物超電導線材全体の断面積の6%となるように調整したこと以外は実施例1と同一の方法および同一の条件で実施例4の酸化物超電導線材を作製した。
【0084】
この実施例4の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0085】
そして、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。また、実施例4の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0086】
そして、実施例4の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例4の酸化物超電導線材の臨界電流密度は12kA/cm2であり、交流損失は10μJ/A/m/cycleであった。
【0087】
(比較例1)
直径1.7mmの単芯超電導線を127本収容することによって、フィラメント1本当たりの平均断面積を酸化物超電導線材全体の断面積の0.15%となるように調整したこと以外は実施例1と同一の方法および同一の条件で比較例1の酸化物超電導線材を作製した。
【0088】
この比較例1の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0089】
そして、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。また、比較例1の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0090】
そして、比較例1の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、比較例1の酸化物超電導線材の臨界電流密度は5kA/cm2であり、交流損失は24μJ/A/m/cycleであった。
【0091】
(比較例2)
外径36mm、内径27mmの第2金属シースを用いてフィラメント1本当たりの平均断面積を酸化物超電導線材全体の断面積の6.5%となるように調整したこと以外は実施例4と同一の方法および同一の条件で比較例2の酸化物超電導線材を作製した。
【0092】
この比較例2の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0093】
そして、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。また、比較例2の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0094】
そして、比較例2の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、比較例2の酸化物超電導線材の臨界電流密度は6kA/cm2であり、交流損失は22μJ/A/m/cycleであった。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示すように、Bi−2223系酸化物超電導体を含むフィラメントが銀からなるマトリクス中に埋め込まれており、酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面の断面積が0.5mm2以下であって、酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面においてフィラメントの1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材全体の断面積の0.2%以上6%以下の範囲にある実施例1〜4の酸化物超電導線材は、酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面においてフィラメントの1本当たりの平均断面積がそれぞれ酸化物超電導線材全体の断面積の0.15%(比較例1)、6.5%(比較例2)となっている比較例1〜2の酸化物超電導線材と比べて、臨界電流密度を高くすることができるとともに、交流損失を低減できることがわかる。
【0097】
また、酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面においてフィラメントの1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材全体の断面積の2%以上6%以下の範囲にある実施例3〜4の酸化物超電導線材は、特に、臨界電流密度を高くすることができるとともに交流損失も低減できることがわかる。
【0098】
(実施例5)
実施例1と同一の方法および同一の条件で、Bi−2223系酸化物超電導体粉末を含む原料粉末を得た。そして、この原料粉末を構成するBi−2223系酸化物超電導体粉末以外の非超電導体粉末の粒径について調査したところ、粒径2μm以下の非超電導体粉末が原料粉末を構成する非超電導体粉末全体の個数の95%以上を占めていることが確認された。
【0099】
次に、この原料粉末を外径12mm、内径10mmの第1金属シースとしての銀パイプ中に充填した。
【0100】
この銀パイプ中に充填された粉末を2mmまで伸線加工することによって単芯超電導線を作製した。そして、単芯超電導線の表面に炭酸ストロンチウムからなるバリア層を塗布した。そして、バリア層が表面に塗布された単芯超電導線を外径36mm、内径27mmの第2金属シースとしての銀パイプ中に91本収容した。次に、単芯超電導線が収容された銀パイプを直径0.9mmになるまでさらに伸線加工して多芯超電導線を作製した。ここで、多芯超電導線における単芯超電導線の断面積の変動係数であるCOVについて調査したところ、COVは15%以下であることが確認された。
【0101】
その後、多芯超電導線を250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程と軟化工程後に多芯超電導線を捩じる工程とを、本実施例において得られる酸化物超電導線材中のフィラメントのツイストピッチが8mmになるまで交互に繰り返した。そして、その多芯超電導線について、再度、250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程を行ない、その後、スキンパスを経て圧延加工を行なった。ここで、圧延加工は、圧延圧下率が82%以下とされた。
【0102】
その後、圧延加工後の多芯超電導線について、200気圧の圧力下で850℃で50時間の熱処理を行なうことにより、テープ状の酸化物超電導線材(実施例5の酸化物超電導線材)を得た。
【0103】
この実施例5の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。また、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。
【0104】
このようにして得られた実施例5の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果、実施例5の酸化物超電導線材の臨界電流密度は10kA/cm2以上であり、交流損失は15μJ/A/m/cycleであった。
【0105】
(実施例6〜12)
Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3およびCuOを用いて、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.79:0.4:1.96:2.18:3の組成比になるように、これらの粉末を混合した。この混合した粉末に対して、加熱および粉砕を行ない、Bi−2223系酸化物超電導体粉末を含む原料粉末を得た。そして、この原料粉末を外径12mm、内径10mmの第1金属シースとしての銀パイプ中に充填した。
【0106】
この粉末が充填された銀パイプを直径1.5mmになるまで伸線加工することによって単芯超電導線を作製した。そして、単芯超電導線の表面に炭酸ストロンチウムからなるバリア層を塗布した。そして、バリア層が表面に塗布された単芯超電導線を外径12mm、内径9mmの第2金属シースとしての銀パイプ中に19本収容した。次に、単芯超電導線が収容された銀パイプを直径0.5mmになるまでさらに伸線加工して多芯超電導線を作製した。
【0107】
その後、一部の多芯超電導線について250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程と軟化工程後に多芯超電導線を捩じる工程とを交互に繰り返し、実施例6〜12の酸化物超電導線材中のフィラメントのツイストピッチが互いに異なるように、多芯超電導線を複数作製した。
【0108】
これらの多芯超電導線に対して250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程を行ない、その後、スキンパスを経て圧延加工を行なった。その後、圧延加工後の多芯超電導線について、1回目の焼結を大気圧中で行ない、さらに圧延加工を行なった後、200気圧の圧力下で850℃で50時間の熱処理を行なうことにより、表2に示す構成の実施例6〜12のテープ状の酸化物超電導線材を得た。なお、実施例12の酸化物超電導線材については多芯超電導線の軟化工程および捩じる工程はされていないので表2のツイストピッチの欄には記載がされていない。
【0109】
ここで、実施例6〜12の酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0110】
また、実施例6〜12の酸化物超電導線材の断面の断面積は0.3mm2であった。また、その断面において、フィラメント1本当たりの平均断面積は、酸化物超電導線材全体の断面積の1%であった。また、実施例6〜12の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0111】
そして、実施例6〜12の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
表2に示すように、ツイストピッチが8mm以下である実施例6〜9の酸化物超電導線材は、ツイストピッチが8mmよりも大きい実施例10〜12の酸化物超電導線材と比べて、交流損失が低減できていることが確認された。
【0114】
また、ツイストピッチが5mm以下である実施例6〜8の酸化物超電導線材は、ツイストピッチが8mmよりも大きい実施例9〜12の酸化物超電導線材と比べて、交流損失が低減できていることが確認された。
【0115】
(比較例3〜8)
Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3およびCuOを用いて、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.79:0.4:1.96:2.18:3の組成比になるように、これらの粉末を混合した。この混合した粉末に対して、加熱および粉砕を行ない、Bi−2223系酸化物超電導体粉末を含む原料粉末を得た。そして、この原料粉末を外径12mm、内径10mmの第1金属シースとしての銀パイプ中に充填した。
【0116】
この粉末が充填された銀パイプを直径2mmになるまで伸線加工することによって単芯超電導線を作製した。そして、単芯超電導線の表面に炭酸ストロンチウムからなるバリア層を塗布した。そして、バリア層が表面に塗布された単芯超電導線を外径12mm、内径9mmの第2金属シースとしての銀パイプ中に19本収容した。次に、単芯超電導線が収容された銀パイプを直径1.8mmになるまでさらに伸線加工して多芯超電導線を作製した。
【0117】
その後、一部の多芯超電導線について250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程と軟化工程後に多芯超電導線を捩じる工程とを交互に繰り返し、比較例3〜8の酸化物超電導線材中のフィラメントのツイストピッチが互いに異なるように多芯超電導線を複数作製した。このとき、ツイストピッチを8mm以下にしようとすると断線が多発して加工できなかった。
【0118】
加工ができた多芯超電導線に対して250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程を行ない、その後、スキンパスを経て圧延加工を行なった。その後、圧延加工後の多芯超電導線について、1回目の焼結を大気圧中で行ない、さらに圧延加工を行なった後、200気圧の圧力下で850℃で50時間の熱処理を行なうことにより、表3に示す構成の比較例6〜8のテープ状の酸化物超電導線材を得た。なお、比較例3〜5のテープ状の酸化物超電導線材は、上記の捩じり加工において断線が多発したために作製することができなかった。また、比較例8の酸化物超電導線材については多芯超電導線の軟化工程および捩じる工程はされていないので表3のツイストピッチの欄には記載がされていない。
【0119】
ここで、比較例6〜8の酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0120】
また、比較例6〜8の酸化物超電導線材の断面の断面積は0.8mm2であった。また、その断面において、フィラメント1本当たりの平均断面積は、酸化物超電導線材全体の断面積の1%であった。
【0121】
そして、比較例6〜8の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表3に示す。なお、比較例3〜5の酸化物超電導線材は作製できなかったために臨界電流密度および交流損失は測定できなかった。
【0122】
【表3】
【0123】
表3に示すように、比較例6〜8の酸化物超電導線材は、実施例1〜12の酸化物超電導線材と比べて交流損失が大きくなっていることが確認された。
【0124】
(実施例13〜18)
単芯超電導線の表面に炭酸ストロンチウムからなるバリア層を塗布しなかったこと以外は実施例1と同一の方法および同一の条件でツイストピッチが互いに異なる実施例13〜18の酸化物超電導線材を作製した。なお、実施例18の酸化物超電導線材については多芯超電導線の軟化工程および捩じる工程はされていないので表4のツイストピッチの欄には記載がされていない。
【0125】
ここで、実施例13〜18の酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されているが、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれていない構成となっていた。
【0126】
また、実施例13〜18の酸化物超電導線材の断面の断面積は0.5mm2であった。また、その断面において、フィラメント1本当たりの平均断面積は、酸化物超電導線材全体の断面積の1%であった。また、実施例13〜18の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0127】
そして、実施例13〜18の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表4に示す。
【0128】
【表4】
【0129】
表4に示すように、ツイストピッチが8mm以下である実施例13〜14の酸化物超電導線材は、ツイストピッチが8mmよりも大きい実施例15〜18の酸化物超電導線材と比べて、交流損失が大きく低減できていることが確認された。
【0130】
(実施例19)
実施例1の酸化物超電導線材の表面にポリイミド系のテープをハーフラップで巻きつけたものを実施例19の酸化物超電導線材とした。そして、実施例19の酸化物超電導線材の全長にわたって上記のテープで絶縁されていることを確認した後、パンケーキコイルを作製した。
【0131】
従来においては、パンケーキコイルの作製の際、酸化物超電導線材間の絶縁性確保のために絶縁シートを酸化物超電導線材と共に巻いて絶縁性を確保していた。しかしながら、実施例19の酸化物超電導線材はその表面にポリイミド系のテープがハーフラップで巻きつけられているために絶縁シートを酸化物超電導線材と共に巻く必要がなく、作業性が著しく向上した。
【0132】
(実施例20)
実施例1の酸化物超電導線材の主面(最も面積の大きい表面)の両面にその長手方向に沿って銅テープを貼り付けたものを実施例20の酸化物超電導線材とした。
【0133】
実施例20の酸化物超電導線材の引っ張り試験を実施したところ、実施例1の酸化物超電導線材の引っ張り強度の1.5倍以上となった。これにより、酸化物超電導線材の強度によって規定されるコイル巻き線の張力の設計や、超電導ケーブルの引き込み時の荷重設計に余裕が生じ、フレキシブルな設計ができるようになった。
【0134】
(実施例21)
実施例1の酸化物超電導線材の主面の両面にその長手方向に沿って銅テープを貼り付けるとともに、銅テープの貼り付け後の酸化物超電導線材の主面の両面からポリテトラフルオロエチレンからなる2枚の絶縁テープを酸化物超電導線材の長手方向に沿って貼り合わせたものを実施例21の酸化物超電導線材とした。
【0135】
そして、実施例21の酸化物超電導線材の全長にわたって絶縁されているのを確認した後、実施例21の酸化物超電導線材について引っ張り試験を実施したところ、実施例1の酸化物超電導線材の引っ張り強度の2倍以上となった。
【0136】
(実施例22)
実施例19の酸化物超電導線材を3本、エッジワイズ方向に曲げ径1000mmで連続的に曲げながら撚り合せて実施例22の超電導構造体を作製した。実施例22の超電導構造体でソレノイドコイルを作製したところ、3本の超電導構造体間の偏流が抑制されていることをロゴスキーコイルで確認した。
【0137】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明によれば、臨界電流密度を高くすることができるとともに交流損失を低くすることができる酸化物超電導線材、そのような酸化物超電導線材を含む超電導構造体、そのような酸化物超電導線材を製造することができる酸化物超電導線材の製造方法、その酸化物超電導線材またはその酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびにその超電導マグネットを含む製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の酸化物超電導線材の好ましい一例の一部の斜視図である。
【図2】図1に示す酸化物超電導線材の長手方向に直交するII−IIに沿った断面を模式的に示す図である。
【図3】本発明の酸化物超電導線材の他の好ましい一例の一部の斜視透視図である。
【図4】本発明の酸化物超電導線材の他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図5】本発明の酸化物超電導線材のさらに他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図6】本発明の酸化物超電導線材のさらに他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図7】本発明の酸化物超電導線材のさらに他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図8】本発明の酸化物超電導線材のさらに他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図9】本発明の超電導構造体の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図10】本発明の超電導構造体のさらに他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図11】本発明の超電導構造体のさらに他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図12】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の好ましい一例のフローチャートである。
【図13】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を図解するための模式図である。
【図14】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を図解するための模式図である。
【図15】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を図解するための模式図である。
【図16】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を図解するための模式図である。
【図17】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を図解するための模式図である。
【図18】本発明の酸化物超電導線材の製造方法における圧延圧下率を図解するための模式図である。
【図19】本発明の酸化物超電導線材の製造方法において圧延加工前の多芯超電導線を捩じる工程を複数回行なう工程の好ましい一例のフローチャートである。
【図20】酸化物超電導線材の転位を図解する模式図である。
【図21】酸化物超電導線材をエッジワイズ方向に曲げた状態を図解する模式的な平面図である。
【符号の説明】
【0140】
1 酸化物超電導線材、2 マトリクス、3 フィラメント、4 バリア層、5 第1金属シース、6 原料粉末、7 単芯超電導線、8 第2金属シース、9 多芯超電導線、10,12 金属テープ、11 絶縁被膜、13 保護膜、13a,16a 主面、14 超電導構造体、15 高抵抗体、16 絶縁性保護膜。
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材、超電導構造体、酸化物超電導線材の製造方法、超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびにその超電導マグネットを含む製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Bi−2223系酸化物超電導体を用いた酸化物超電導線材は、液体窒素温度での使用が可能であり、比較的高い臨界電流密度が得られることおよび長尺化が比較的容易であることから、超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびにその超電導マグネットを含む製品などへの応用が期待されている。
【0003】
このようなBi−2223系酸化物超電導体を用いた酸化物超電導線材の製造方法がたとえば特許文献1に開示されている。この製造方法は以下のようにして行なわれている。まず、Bi−2223系酸化物超電導体を含む原料粉末を銀パイプ中に充填する。次に、原料粉末が充填された銀パイプを伸線加工して単芯超電導線を形成する。次いで、複数の単芯超電導線を銀パイプ中に収容して多芯超電導線を形成する。そして、多芯超電導線について捩じり加工が行なわれる。その後、多芯超電導線を圧延加工し、圧延加工後の多芯超電導線について熱処理が行なわれて、テープ幅が3.0mmで厚さが0.22mmのテープ状の酸化物超電導線材が完成する(特許文献1の[0045]〜[0047]参照)。
【特許文献1】特開平7−105753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化物超電導線材を交流用の超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびにその超電導マグネットを含む製品などに応用する場合には、臨界電流密度を高くし、交流損失を低くすることが重要となる。
【0005】
しかしながら、ビーンモデルに基づいた基本式においては、交流損失は、臨界電流密度、酸化物超電導線材の厚さおよび印加磁場の積に比例しているため、臨界電流密度を高くして交流損失を低くすることは非常に難しかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、臨界電流密度を高くすることができるとともに交流損失を低くすることができる酸化物超電導線材、超電導構造体、酸化物超電導線材の製造方法、その酸化物超電導線材、その超電導構造体またはその酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびにその超電導マグネットを含む製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Bi−2223系酸化物超電導体を含むフィラメントの複数がマトリクス中に埋め込まれてなるテープ状の酸化物超電導線材であって、酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面の断面積が0.5mm2以下であり、酸化物超電導線材の断面において、フィラメントの1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材の断面積の0.2%以上6%以下である酸化物超電導線材である。
【0008】
ここで、本発明の酸化物超電導線材においては、フィラメントの平均アスペクト比が10よりも大きいことが好ましい。
【0009】
また、本発明の酸化物超電導線材において、フィラメントは酸化物超電導線材の長手方向の中心軸を回転軸として旋回しており、フィラメントの旋回するピッチであるツイストピッチは8mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。
【0010】
また、本発明の酸化物超電導線材において、フィラメントの間にバリア層が形成されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明の酸化物超電導線材においては、マトリクスの表面上に金属テープが備えられていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の酸化物超電導線材においては、マトリクスの表面上に絶縁被膜が備えられていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の酸化物超電導線材においては、マトリクスの表面上に金属テープが備えられているとともに、金属テープの表面上に絶縁被膜が備えられていることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記の酸化物超電導線材の複数が撚り合わされてなる超電導構造体であって、エッジワイズ方向に曲げられた少なくとも1本の酸化物超電導線材が撚り合わされてなる超電導構造体である。
【0015】
また、本発明は、上記の酸化物超電導線材をテープ状の保護膜中に複数含み、保護膜の対向する主面の両面にそれぞれ金属テープを備えている超電導構造体である。
【0016】
ここで、本発明の超電導構造体においては、隣り合う酸化物超電導線材の間に保護膜よりも高抵抗の高抵抗体が設置されていることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、上記の酸化物超電導線材をテープ状の絶縁性保護膜中に複数含む超電導構造体である。
【0018】
さらに、本発明は、第1金属シース中に酸化物超電導体粉末および非超電導体粉末を含む原料粉末を充填する工程と、原料粉末が充填された第1金属シースを伸線加工して単芯超電導線を形成する工程と、単芯超電導線の複数を第2金属シース中に収容する工程と、単芯超電導線が収容された第2金属シースを伸線加工して多芯超電導線を形成する工程と、多芯超電導線を圧延加工する工程と、圧延加工後の多芯超電導線を熱処理する工程と、を含み、原料粉末において粒径が2μm以下の非超電導体粉末が非超電導体粉末全体の個数の95%以上を占めており、圧延加工前の多芯超電導線における単芯超電導線の断面積の変動係数(COV)が15%以下であり、圧延加工における圧延圧下率が82%以下であって、熱処理は200気圧以上の圧力下で行なわれる酸化物超電導線材の製造方法である。
【0019】
ここで、本発明の酸化物超電導線材の製造方法においては、圧延加工前に多芯超電導線を捩じる工程を複数回行なうことが好ましい。
【0020】
また、本発明の酸化物超電導線材の製造方法においては、酸化物超電導線材中にバリア層を形成することが好ましい。
【0021】
また、本発明は、上記のいずれかの酸化物超電導線材、上記のいずれかの超電導構造体または上記のいずれかの酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む超電導ケーブルである。
【0022】
さらに、本発明は、上記のいずれかの酸化物超電導線材、上記のいずれかの超電導構造体または上記のいずれかの酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む超電導マグネットである。
【0023】
また、本発明は、上記の超電導マグネットを含むモータ電機子である。
また、本発明は、上記の超電導マグネットを含む冷凍機冷却型マグネットシステムである。
【0024】
また、本発明は、上記の超電導マグネットを含むMRI(Magnetic Resonance Imaging)である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、臨界電流密度を高くすることができるとともに交流損失を低くすることができる酸化物超電導線材、超電導構造体、そのような酸化物超電導線材を製造することができる酸化物超電導線材の製造方法、その酸化物超電導線材、その超電導構造体またはその酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびにその超電導マグネットを含む製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0027】
図1に本発明の酸化物超電導線材の好ましい一例の一部の斜視図を示し、図2に図1に示す酸化物超電導線材の長手方向に直交するII−IIに沿った断面を模式的に示す。本発明の酸化物超電導線材1はテープ状に形成されており、マトリクス2と、マトリクス2中に埋め込まれているBi−2223系酸化物超電導体を含むフィラメント3と、を備えている。なお、フィラメント3は、金属シース中にBi−2223系酸化物超電導体が収容された構成となっている。
【0028】
ここで、本発明においては、図2に示す酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面の断面積が0.5mm2以下であり、この酸化物超電導線材1の断面積において、フィラメント3の1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材1の断面積の0.2%以上6%以下、好ましくは2%以上6%以下であることを特徴としている。
【0029】
本発明者は、上記のビーンモデルに基づいた基本式に基づき、フィラメント3の芯数をなるべく減少させずに酸化物超電導線材1の断面積をできるだけ小さくすることによって、臨界電流密度を高くしつつ交流損失の低下を抑制することができるのではないかと考え、鋭意検討を行なった。その結果、酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面の断面積を0.5mm2以下としたとき、フィラメント3を構成する超電導体としてBi−2223系酸化物超電導体を用い、かつ、フィラメント3の1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材1の断面積の0.2%以上6%以下、好ましくは2%以上6%以下とした場合には、酸化物超電導線材の臨界電流密度を高くすることができるとともに交流損失を低くすることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0030】
なお、酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面におけるフィラメント3の1本当たりの平均断面積は、酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面に複数存在しているフィラメント3の断面積の総和を求め、その総和をフィラメント3の本数で割ることによって求めることができる。
【0031】
また、本発明において、Bi−2223系酸化物超電導体とは、BiαPbβSrγCaδCuεOx(ただし、1.7≦α≦2.1、0≦β≦0.4、1.7≦γ≦2.1、1.7≦δ≦2.2、ε=3.0、9.8≦x≦10.2)の組成式で表わされる超電導体のことである。ここで、Biはビスマスを示し、Pbは鉛を示し、Srはストロンチウムを示し、Caはカルシウムを示し、Cuは銅を示し、Oは酸素を示す。また、αはビスマスの組成比を示し、βは鉛の組成比を示し、γはストロンチウムの組成比を示し、δはカルシウムの組成比を示し、εは銅の組成比を示し、xは酸素の組成比を示す。なお、マトリクス2の材料としては、たとえば銀などが用いられる。
【0032】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、フィラメント3の平均アスペクト比が10よりも大きいことが好ましい。フィラメント3の平均アスペクト比が10よりも大きい場合には、本発明の酸化物超電導体1の臨界電流密度がさらに高くなる傾向にある。なお、フィラメント3の平均アスペクト比は、酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面に複数存在しているフィラメント3の幅との厚さの比の平均値である。たとえば図2を参照すると、1本のフィラメント3のアスペクト比は、(フィラメント3の幅d)/(フィラメント3の厚さt)の式により得られる。そして、この式により得られたアスペクト比を酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面に存在している複数のフィラメント3のそれぞれについて求め、それを総和し、その総和をフィラメント3の本数で割ることによってフィラメント3の平均アスペクト比を求めることができる。
【0033】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、たとえば図3の斜視透視図に示すように、フィラメント3が捩れた状態(酸化物超電導線材1の長手方向の中心軸を回転軸として旋回している状態)でマトリクス2中に埋め込まれていることが好ましい。この場合には、交流損失をさらに低減することができる傾向にある。なお、酸化物超電導線材1の長手方向の中心軸は、酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面の中心を通る軸であって、酸化物超電導線材1の長手方向に沿って伸びる軸である。また、後述する圧延加工前の多芯超電導線を従来から公知の方法で捩じることによって、その捩じられた多芯超電導線について圧延加工および熱処理して得られる酸化物超電導線材1中においてフィラメント3を捩れた状態(酸化物超電導線材1の長手方向の中心軸を回転軸として旋回している状態)にすることができる。
【0034】
ここで、フィラメント3の旋回するピッチであるツイストピッチが短いほど交流損失を低減することができる傾向にあり、交流損失を低減する観点からは、フィラメント3のツイストピッチは8mm以下であることが好ましい。また、臨界電流密度をより高くするとともに交流損失をより低くする観点からは、ツイストピッチは5mm以下であることが好ましい。なお、フィラメント3のツイストピッチは図3に示す長さLとなる。従来のフィラメントは長手方向に直交する断面の断面積が大きいために加工上の問題からツイストピッチを8mmよりも大きくすることは困難であったが、本発明の酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面の断面積は0.5mm2以下と非常に小さいためにツイストピッチを8mm以下、好ましくは5mm以下とすることが可能となる。
【0035】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、たとえば図4および図5の模式的断面図に示すように、隣接しているフィラメント3の間にバリア層4が形成されていることが好ましい。この場合には交流損失が低減する傾向にあり、特にフィラメント3が捩れている場合にはその傾向はさらに大きくなる。なお、バリア層4の材料としては、室温(25℃)で銀の10倍以上の電気抵抗を有する材料が用いられ、たとえば、炭酸ストロンチウム、酸化銅、ジルコニアまたはBi−2201超電導体などを用いることができる。
【0036】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、たとえば図6の模式的断面図に示すように、マトリクス2の表面上に金属テープ10が備えられていることが好ましい。この場合には、本発明の酸化物超電導線材1は金属テープ10により補強されていることから、本発明の酸化物超電導線材1を用いたコイル巻き線および超電導ケーブルの作製が容易となる傾向にある。ここで、金属テープ10は、たとえば銅またはステンレスなどの金属からなるテープをハンダなどを用いてマトリクス2の表面に貼り合わせることによって、マトリクス2の表面上に設置することができる。
【0037】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、たとえば図7の模式的断面図に示すように、マトリクス2の表面上に絶縁被膜11が備えられていることが好ましい。この場合には、本発明の酸化物超電導線材1の表面が予め絶縁されているため、本発明の酸化物超電導線材1を用いたコイル巻き線の作製が容易となる傾向にある。ここで、絶縁被膜11は、たとえばポリイミドなどの樹脂からなるテープをマトリクス2の表面にハーフラップで巻きつける(テープの幅の半分だけ重ね合わせて巻きつける)ことによって、マトリクス2の表面上に設置することができる。また、たとえば、本発明の酸化物超電導線材1よりも幅の広いポリイミドなどの樹脂からなる2枚のテープを酸化物超電導線材1の長手方向に沿って貼り合わせることによっても絶縁被膜11の設置は可能である。
【0038】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、たとえば図8の模式的断面図に示すように、マトリクス2の表面上に金属テープ10が備えられているとともに、金属テープ10の表面上に絶縁被膜11が備えられていることが好ましい。この場合には、絶縁被膜11で絶縁性が確保されるとともに金属テープ10で補強されることによって、運転時に大きな力が加わる超電導マグネットや設置時に大きな負荷が加わる大容量の超電導ケーブルへの応用が可能となる傾向にある。ここで、金属テープ10は、たとえば銅またはステンレスなどの金属からなるテープをハンダなどを用いてマトリクス2の表面に貼り合わせることによってマトリクス2の表面上に設置することができ、絶縁被膜11は、たとえばポリイミドなどの樹脂からなるテープを金属テープ10の表面に貼りつけることによって、金属テープ10の表面上に設置することができる。
【0039】
また、上述した図7または図8に示す絶縁被膜11で被覆された酸化物超電導線材1の少なくとも1本をエッジワイズ方向に曲げ、エッジワイズ方向に曲げられた酸化物超電導線材1を含む複数の酸化物超電導線材1を撚り合わせることによって、超電導構造体を作製することができる。このような構成の超電導構造体は、低損失、大容量かつコンパクトに作製することができるため、このような構成の超電導構造体を用いた場合には、大容量の交流機器(たとえば、超電導ケーブルまたは超電導マグネットなど)を作製することができる傾向にある。なお、本発明において、「エッジワイズ方向に曲げる」とは、複数の酸化物超電導線材1のうち内側に位置する酸化物超電導線材1についてはその一部が外側に位置するように曲げることをいい、外側に位置する酸化物超電導線材1についてはその一部が内側に位置するように曲げることをいう。このような構成の超電導構造体は、たとえば、絶縁被膜11で被覆された3本の酸化物超電導線材1をエッジワイズ方向に曲げ径1000mmで連続的に曲げながら撚り合わせることにより作製することができる。
【0040】
また、たとえば図9の模式的断面図に示すように、上記の酸化物超電導線材1をテープ状の保護膜13中に複数含ませ、保護膜13の対向する主面13aの両面のそれぞれに金属テープ12を設置することによって超電導構造体14を作製することもできる。このような構成の超電導構造体14においては、保護膜13の主面13aに対して垂直方向の磁場に対する交流損失を低減することができ、酸化物超電導線材1の1本当たりの容量が増大する傾向にある。このような構成の超電導構造体14は、交流損失が低く、かつ大容量が必要とされる交流機器に好適に用いることができる。なお、保護膜13としては、たとえば、ハンダなどの合金を用いることができる。
【0041】
ここで、図9に示す超電導構造体14においては、たとえば図10の模式的断面図に示すように、隣り合う酸化物超電導線材1の間に保護膜13よりも高抵抗の高抵抗体15が設置されることが好ましい。この場合には、保護膜13の主面13aに対して垂直方向の磁場に対する交流損失をさらに低減することができ、酸化物超電導線材1の1本当たりの容量がさらに増大する傾向にある。
【0042】
また、たとえば図11の模式的断面図に示すように、上記の酸化物超電導線材1をテープ状のポリエステルなどからなる絶縁性保護膜16中に複数含ませることによって超電導構造体14を作製することができる。このような構成の超電導構造体14においても、絶縁性保護膜16の主面16aに対して垂直方向の磁場に対する交流損失を低減することができる傾向にある。また、このような構成の超電導構造体14は可撓性を有するため、取扱いが容易となる傾向にある。なお、絶縁性保護膜16としては、ポリエステル以外にも、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレンまたはポリイミドなどを用いることができる。
【0043】
また、本発明の酸化物超電導線材1においては、フィラメント3中のBi−2223系酸化物超電導体の相対密度は99%以上であることが好ましい。この場合には臨界電流密度がさらに向上する傾向にある。なお、本発明において、相対密度(%)は、100×(酸化物超電導体全体の体積−空孔全体の体積)/(酸化物超電導体全体の体積)の式で求められる。また、本発明において、臨界電流密度は、(酸化物超電導線材1の臨界電流量)/(酸化物超電導線材1の長手方向に直交する断面の断面積)の式で求められる。
【0044】
次に、本発明の酸化物超電導線材の製造方法について説明する。図12に、本発明の酸化物超電導線材の製造方法の好ましい一例のフローチャートを示す。
【0045】
図12を参照して、まず、ステップS1においては、たとえば図13の模式的斜視図に示すように、第1金属シース5中に酸化物超電導体粉末および非超電導体粉末を含む原料粉末6を充填する。ここで、本発明においては、原料粉末6において粒径が2μm以下の非超電導体粉末が原料粉末6に含まれている非超電導体粉末全体の個数の95%以上を占めている。なお、非超電導体粉末は、酸化物超電導体粉末の臨界温度で酸化物超電導体粉末よりも電気抵抗が高い粉末である。非超電導体粉末の材料としては、たとえば(Ca,Sr)2CuO3、(Ca,Sr)2PbO4または(Ca,Sr)14Cu24O3などが挙げられる。また、本発明の酸化物超電導線材の製造方法で用いられる酸化物超電導体粉末の材料としては、たとえば上記のBi−2223系酸化物超電導体などが用いられる。
【0046】
次に、ステップS2においては、たとえば図14の模式的斜視図に示すように、原料粉末6が充填された第1金属シース5を伸線加工して単芯超電導線7を形成する。
【0047】
次いで、ステップS3においては、たとえば図15の模式的斜視図に示すように、単芯超電導線7の複数を第2金属シース8中に収容する。
【0048】
続いて、ステップS4においては、たとえば図16の模式的斜視図に示すように、単芯超電導線7が収容された第2金属シース8を伸線加工して多芯超電導線9を形成する。ここで、本発明においては、圧延加工前の多芯超電導線における単芯超電導線の断面積の変動係数(COV)が15%以下である。なお、圧延加工前の多芯超電導線における単芯超電導線の断面積の変動係数(COV)とは、圧延加工前の多芯超電導線の長手方向に直交する断面における複数の単芯超電導線の断面積の標準偏差をこれらの単芯超電導線の断面積の平均値で割った値のことである。
【0049】
そして、ステップS5においては、たとえば図17の模式的斜視図に示すように、多芯超電導線9を圧延加工することによりテープ状とする。ここで、本発明においては、圧延加工における圧延圧下率が82%以下である。なお、圧延圧下率(%)とは、たとえば図18の模式的側面図に示すように、圧延加工前の多芯超電導線9の厚みt2に対する圧延加工後の多芯超電導線9の厚みt1の割合(100×{1−(t1/t2)})のことである。
【0050】
その後、ステップS6においては、圧延加工後の多芯超電導線9を熱処理することによって、テープ状の酸化物超電導体が製造される。ここで、本発明においては、熱処理は200気圧以上の圧力下で行なわれる。
【0051】
本発明者が酸化物超電導線材の臨界電流密度を維持したままで酸化物超電導線材の長手方向に直交する方向の断面の断面積を小さくすることを検討したところ、酸化物超電導線材の長手方向に直交する方向の断面の断面積を小さくした場合には臨界電流密度も低下するということがわかった。
【0052】
そして、臨界電流密度が低下する原因としては、酸化物超電導線材の長手方向に直交する方向の断面の断面積を小さくすると伸線加工度が向上してCOVが大きくなり、これにより酸化物超電導線材に流れる電流が阻害されていることによるものであることがわかった。
【0053】
さらに、本発明者が、伸線加工度の向上とCOVの大きさとの関係について調査したところ、酸化物超電導線材の断面積を小さくする際に、粒径が2μm以下の非超電導体の塊が単芯超電導線の均一な変形を妨げる起点になっていることがわかった。そして、非超電導体の粒径は、第1金属シースへの充填時から圧延加工後までほとんど変化していないことがわかった。
【0054】
以上の結果に基づき、本発明者が鋭意検討した結果、粒径が2μm以下の非超電導体粉末が非超電導体粉末全体の個数の95%以上を占めている場合にはCOVが15%以下となり、酸化物超電導線材の断面積を小さくすることができることがわかった。
【0055】
しかしながら、上記のようにして断面積を小さくした酸化物超電導線材の臨界電流密度にばらつきが生じた。そこで、本発明者が臨界電流密度の低い酸化物超電導線材を調査したところ、その表面にピンホールが数多く形成されており、その部分のフィラメントを構成する酸化物超電導体の相対密度が低いことがわかった。さらに詳細に調査すると、多芯超電導線を圧延加工する際の圧延圧下率とピンホール量とに相関がある可能性があった。
【0056】
そこで、本発明者が多芯超電導線を圧延加工する際の圧延圧下率を70%〜85%まで変化させ、さらに、酸化物超電導線材中のフィラメントを構成する酸化物超電導体の相対密度を高くするために200気圧以上の圧力下で圧延加工後の多芯超電導線の熱処理を行なった。その結果、粒径が2μm以下の非超電導体粉末が非超電導体粉末全体の個数の95%以上を占める原料粉末を用い、圧延加工前の多芯超電導線における単芯超電導線の断面積の変動係数(COV)を15%以下とし、圧延加工における圧延圧下率を82%以下として、圧延加工後の多芯超電導線を200気圧以上の圧力下で熱処理を行なって得られた酸化物超電導線材は、その長手方向における断面積が0.5mm2以下であって、高い臨界電流密度を有することが確認された。また、酸化物超電導線材の臨界電流密度をより高くするとともに交流損失をより低くする観点からは、本発明の酸化物超電導線材の製造方法において製造された酸化物超電導線材の断面積において、フィラメントの1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材の断面積の0.2%以上6%以下であることが好ましく、2%以上6%以下であることがより好ましい。
【0057】
ここで、本発明の酸化物超電導線材の製造方法においては、圧延加工前の多芯超電導線を捩じる工程を複数回行なうことが好ましい。この場合には、酸化物超電導線材に含まれるフィラメントのツイストピッチをより小さくすることができ、ツイストピッチを8mm以下、より好ましくは5mm以下とした場合には、上述したように、交流損失をさらに低減することができる傾向にある。
【0058】
図19に、圧延加工前の多芯超電導線を捩じる工程を複数回行なう工程のフローチャートの好ましい一例を示す。ここで、圧延加工前の多芯超電導線を伸線加工し、その後、軟化工程を経て、多芯超電導線が捩じられる。その後、再び、軟化工程を経て、多芯超電導線が捩じられる。そして、再び、軟化工程が行なわれ、スキンパスを経た後に、圧延加工がされる。なお、軟化工程は、たとえば、200℃以上300℃以下の温度の大気下で0.5時間以上多芯超電導線を放置することにより行なわれる。また、スキンパスは、多芯超電導線をたとえばダイスに通してその表面を平滑化する工程である。
【0059】
また、本発明の酸化物超電導線材の製造方法においては、酸化物超電導線材中にバリア層を形成することが好ましい。この場合には交流損失が低減する傾向にあり、特にフィラメントが捩れている場合にはその傾向はさらに大きくなる。ここで、バリア層は、たとえば、表面にバリア層の形成材料が塗布された単芯超電導線を用いて酸化物超電導線材を作製することによって、酸化物超電導線材を構成するフィラメントとマトリクスとの間に形成することができる。なお、本明細書においては、上記熱処理前は単芯超電導線と表現し、上記熱処理後はフィラメントと表現している。
【0060】
また、本発明の酸化物超電導線材の製造方法により得られた酸化物超電導線材のフィラメント中の酸化物超電導体の相対密度は99%以上であることが好ましい。この場合には臨界電流密度がさらに向上する傾向にある。
【0061】
なお、上記の本発明の酸化物超電導線材1および本発明の酸化物超電導線材の製造方法によって製造された酸化物超電導線材はそれぞれその長手方向に直交する断面の断面積が小さいことから、コンパクトな転位が可能となる。ここで、転位とは、交流通電時の偏流対策として、たとえば図20の模式図に示すように、酸化物超電導線材1の外側と内側とを反転させることである。その転位の手法としては、たとえば図21の模式図に示すように、酸化物超電導線材1をエッジワイズ方向に曲げる方法がある。
【0062】
従来の酸化物超電導線材は、その長手方向に直交する断面の断面積が大きかったために、臨界電流密度を維持するためには、エッジワイズ方向の曲げ直径を1000mm程度にしか曲げることができなかった。しかし、本発明の酸化物超電導線材および本発明の酸化物超電導線材の製造方法によって製造された酸化物超電導線材はそれぞれその長手方向に直交する断面の断面積が小さいことから、エッジワイズ方向の曲げ直径を500mm程度にすることができるために、よりコンパクトな転位が可能となった。
【0063】
また、本発明の酸化物超電導線材1、その酸化物超電導線材1を含む本発明の超電導構造体14および本発明の酸化物超電導線材の製造方法によって製造された酸化物超電導線材はそれぞれその長手方向に直交する断面の断面積が小さいことから、超電導ケーブルまたは超電導マグネットなどに用いた場合には、そのコンパクト化および軽量化を図ることができる。
【0064】
また、本発明の酸化物超電導線材、その酸化物超電導線材を含む本発明の超電導構造体および本発明の酸化物超電導線材の製造方法によって製造された酸化物超電導線材を含む超電導マグネットは、モータ電機子、冷凍機冷却型マグネットシステムまたはMRIなどの製品に用いることができる。
【0065】
なお、本発明に係る酸化物超電導線材および超電導構造体は交流損失を低減することができるため、本発明に係る酸化物超電導線材または超電導構造体を含む超電導マグネットおよびその超電導マグネットを含むモータ電機子、冷凍機冷却型マグネットシステムまたはMRIなどは、これらを冷却する負荷を低減することができる傾向にある。
【0066】
また、本発明に係る酸化物超電導線材および超電導構造体は断面積が小さく薄いテープ状にすることができるため、本発明に係る酸化物超電導線材または超電導構造体を含む超電導ケーブルにおいては、芯材への巻き付け時の歪みが減少し、臨界電流量が低減しない傾向にある。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3およびCuOを用いて、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.79:0.4:1.96:2.18:3の組成比になるように、これらの粉末を混合した。この混合した粉末に対して、加熱および粉砕を行ない、Bi−2223系酸化物超電導体粉末を含む原料粉末を得た。そして、この原料粉末を外径12mm、内径10mmの第1金属シースとしての銀パイプ中に充填した。
【0068】
この粉末が充填された銀パイプを直径2mmになるまで伸線加工することによって単芯超電導線を作製した。そして、単芯超電導線の表面に炭酸ストロンチウムからなるバリア層を塗布した。そして、バリア層が表面に塗布された単芯超電導線を外径36mm、内径27mmの第2金属シースとしての銀パイプ中に91本収容した。次に、単芯超電導線が収容された銀パイプを直径0.9mmになるまでさらに伸線加工して多芯超電導線を作製した。
【0069】
その後、多芯超電導線を250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程と軟化工程後に多芯超電導線を捩じる工程とを、本実施例において得られる酸化物超電導線材中のフィラメントのツイストピッチが8mmとなるように交互に繰り返した。そして、その多芯超電導線について、再度、250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程を行ない、その後、スキンパスを経て圧延加工を行なった。
【0070】
その後、圧延加工後の多芯超電導線について、1回目の焼結を大気圧中で行ない、さらに圧延加工を行なった後、200気圧の圧力下で850℃で50時間の熱処理を行なうことにより、テープ状の酸化物超電導線材(実施例1の酸化物超電導線材)を得た。
【0071】
この実施例1の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0072】
そして、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。また、その断面において、フィラメント1本当たりの平均断面積は、酸化物超電導線材全体の断面積の0.2%であった。また、実施例1の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0073】
このようにして得られた実施例1の酸化物超電導線材について、77K(ケルビン)、0T(テスラ)の条件下で臨界電流密度を測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1の酸化物超電導線材の臨界電流密度は11kA/cm2であることが確認された。
【0074】
また、実施例1の酸化物超電導線材について、交流損失を測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1の酸化物超電導線材の交流損失は、15μJ/A/m/cycleであることが確認された。
【0075】
(実施例2)
直径3.8mmの単芯超電導線を37本収容することによって、フィラメント1本当たりの平均断面積を酸化物超電導線材全体の断面積の1%となるように調整したこと以外は実施例1と同一の方法および同一の条件で実施例2の酸化物超電導線材を作製した。
【0076】
この実施例2の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0077】
そして、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。また、実施例2の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0078】
そして、実施例2の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例2の酸化物超電導線材の臨界電流密度は12kA/cm2であり、交流損失は14μJ/A/m/cycleであった。
【0079】
(実施例3)
直径5.3mmの単芯超電導線を19本収容することによって、フィラメント1本当たりの平均断面積を酸化物超電導線材全体の断面積の2%となるように調整したこと以外は実施例1と同一の方法および同一の条件で実施例3の酸化物超電導線材を作製した。
【0080】
この実施例3の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0081】
そして、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。また、実施例3の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0082】
そして、実施例3の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例3の酸化物超電導線材の臨界電流密度は13kA/cm2であり、交流損失は11μJ/A/m/cycleであった。
【0083】
(実施例4)
直径8.5mmの単芯超電導線を7本収容することによって、フィラメント1本当たりの平均断面積を酸化物超電導線材全体の断面積の6%となるように調整したこと以外は実施例1と同一の方法および同一の条件で実施例4の酸化物超電導線材を作製した。
【0084】
この実施例4の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0085】
そして、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。また、実施例4の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0086】
そして、実施例4の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例4の酸化物超電導線材の臨界電流密度は12kA/cm2であり、交流損失は10μJ/A/m/cycleであった。
【0087】
(比較例1)
直径1.7mmの単芯超電導線を127本収容することによって、フィラメント1本当たりの平均断面積を酸化物超電導線材全体の断面積の0.15%となるように調整したこと以外は実施例1と同一の方法および同一の条件で比較例1の酸化物超電導線材を作製した。
【0088】
この比較例1の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0089】
そして、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。また、比較例1の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0090】
そして、比較例1の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、比較例1の酸化物超電導線材の臨界電流密度は5kA/cm2であり、交流損失は24μJ/A/m/cycleであった。
【0091】
(比較例2)
外径36mm、内径27mmの第2金属シースを用いてフィラメント1本当たりの平均断面積を酸化物超電導線材全体の断面積の6.5%となるように調整したこと以外は実施例4と同一の方法および同一の条件で比較例2の酸化物超電導線材を作製した。
【0092】
この比較例2の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0093】
そして、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。また、比較例2の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0094】
そして、比較例2の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、比較例2の酸化物超電導線材の臨界電流密度は6kA/cm2であり、交流損失は22μJ/A/m/cycleであった。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示すように、Bi−2223系酸化物超電導体を含むフィラメントが銀からなるマトリクス中に埋め込まれており、酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面の断面積が0.5mm2以下であって、酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面においてフィラメントの1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材全体の断面積の0.2%以上6%以下の範囲にある実施例1〜4の酸化物超電導線材は、酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面においてフィラメントの1本当たりの平均断面積がそれぞれ酸化物超電導線材全体の断面積の0.15%(比較例1)、6.5%(比較例2)となっている比較例1〜2の酸化物超電導線材と比べて、臨界電流密度を高くすることができるとともに、交流損失を低減できることがわかる。
【0097】
また、酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面においてフィラメントの1本当たりの平均断面積が酸化物超電導線材全体の断面積の2%以上6%以下の範囲にある実施例3〜4の酸化物超電導線材は、特に、臨界電流密度を高くすることができるとともに交流損失も低減できることがわかる。
【0098】
(実施例5)
実施例1と同一の方法および同一の条件で、Bi−2223系酸化物超電導体粉末を含む原料粉末を得た。そして、この原料粉末を構成するBi−2223系酸化物超電導体粉末以外の非超電導体粉末の粒径について調査したところ、粒径2μm以下の非超電導体粉末が原料粉末を構成する非超電導体粉末全体の個数の95%以上を占めていることが確認された。
【0099】
次に、この原料粉末を外径12mm、内径10mmの第1金属シースとしての銀パイプ中に充填した。
【0100】
この銀パイプ中に充填された粉末を2mmまで伸線加工することによって単芯超電導線を作製した。そして、単芯超電導線の表面に炭酸ストロンチウムからなるバリア層を塗布した。そして、バリア層が表面に塗布された単芯超電導線を外径36mm、内径27mmの第2金属シースとしての銀パイプ中に91本収容した。次に、単芯超電導線が収容された銀パイプを直径0.9mmになるまでさらに伸線加工して多芯超電導線を作製した。ここで、多芯超電導線における単芯超電導線の断面積の変動係数であるCOVについて調査したところ、COVは15%以下であることが確認された。
【0101】
その後、多芯超電導線を250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程と軟化工程後に多芯超電導線を捩じる工程とを、本実施例において得られる酸化物超電導線材中のフィラメントのツイストピッチが8mmになるまで交互に繰り返した。そして、その多芯超電導線について、再度、250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程を行ない、その後、スキンパスを経て圧延加工を行なった。ここで、圧延加工は、圧延圧下率が82%以下とされた。
【0102】
その後、圧延加工後の多芯超電導線について、200気圧の圧力下で850℃で50時間の熱処理を行なうことにより、テープ状の酸化物超電導線材(実施例5の酸化物超電導線材)を得た。
【0103】
この実施例5の酸化物超電導線材の一部をその長手方向に直交する方向に切断したところ、その断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。また、その断面の断面積を測定したところ、0.5mm2であった。
【0104】
このようにして得られた実施例5の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果、実施例5の酸化物超電導線材の臨界電流密度は10kA/cm2以上であり、交流損失は15μJ/A/m/cycleであった。
【0105】
(実施例6〜12)
Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3およびCuOを用いて、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.79:0.4:1.96:2.18:3の組成比になるように、これらの粉末を混合した。この混合した粉末に対して、加熱および粉砕を行ない、Bi−2223系酸化物超電導体粉末を含む原料粉末を得た。そして、この原料粉末を外径12mm、内径10mmの第1金属シースとしての銀パイプ中に充填した。
【0106】
この粉末が充填された銀パイプを直径1.5mmになるまで伸線加工することによって単芯超電導線を作製した。そして、単芯超電導線の表面に炭酸ストロンチウムからなるバリア層を塗布した。そして、バリア層が表面に塗布された単芯超電導線を外径12mm、内径9mmの第2金属シースとしての銀パイプ中に19本収容した。次に、単芯超電導線が収容された銀パイプを直径0.5mmになるまでさらに伸線加工して多芯超電導線を作製した。
【0107】
その後、一部の多芯超電導線について250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程と軟化工程後に多芯超電導線を捩じる工程とを交互に繰り返し、実施例6〜12の酸化物超電導線材中のフィラメントのツイストピッチが互いに異なるように、多芯超電導線を複数作製した。
【0108】
これらの多芯超電導線に対して250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程を行ない、その後、スキンパスを経て圧延加工を行なった。その後、圧延加工後の多芯超電導線について、1回目の焼結を大気圧中で行ない、さらに圧延加工を行なった後、200気圧の圧力下で850℃で50時間の熱処理を行なうことにより、表2に示す構成の実施例6〜12のテープ状の酸化物超電導線材を得た。なお、実施例12の酸化物超電導線材については多芯超電導線の軟化工程および捩じる工程はされていないので表2のツイストピッチの欄には記載がされていない。
【0109】
ここで、実施例6〜12の酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0110】
また、実施例6〜12の酸化物超電導線材の断面の断面積は0.3mm2であった。また、その断面において、フィラメント1本当たりの平均断面積は、酸化物超電導線材全体の断面積の1%であった。また、実施例6〜12の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0111】
そして、実施例6〜12の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
表2に示すように、ツイストピッチが8mm以下である実施例6〜9の酸化物超電導線材は、ツイストピッチが8mmよりも大きい実施例10〜12の酸化物超電導線材と比べて、交流損失が低減できていることが確認された。
【0114】
また、ツイストピッチが5mm以下である実施例6〜8の酸化物超電導線材は、ツイストピッチが8mmよりも大きい実施例9〜12の酸化物超電導線材と比べて、交流損失が低減できていることが確認された。
【0115】
(比較例3〜8)
Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3およびCuOを用いて、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.79:0.4:1.96:2.18:3の組成比になるように、これらの粉末を混合した。この混合した粉末に対して、加熱および粉砕を行ない、Bi−2223系酸化物超電導体粉末を含む原料粉末を得た。そして、この原料粉末を外径12mm、内径10mmの第1金属シースとしての銀パイプ中に充填した。
【0116】
この粉末が充填された銀パイプを直径2mmになるまで伸線加工することによって単芯超電導線を作製した。そして、単芯超電導線の表面に炭酸ストロンチウムからなるバリア層を塗布した。そして、バリア層が表面に塗布された単芯超電導線を外径12mm、内径9mmの第2金属シースとしての銀パイプ中に19本収容した。次に、単芯超電導線が収容された銀パイプを直径1.8mmになるまでさらに伸線加工して多芯超電導線を作製した。
【0117】
その後、一部の多芯超電導線について250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程と軟化工程後に多芯超電導線を捩じる工程とを交互に繰り返し、比較例3〜8の酸化物超電導線材中のフィラメントのツイストピッチが互いに異なるように多芯超電導線を複数作製した。このとき、ツイストピッチを8mm以下にしようとすると断線が多発して加工できなかった。
【0118】
加工ができた多芯超電導線に対して250℃の雰囲気下で1時間放置する軟化工程を行ない、その後、スキンパスを経て圧延加工を行なった。その後、圧延加工後の多芯超電導線について、1回目の焼結を大気圧中で行ない、さらに圧延加工を行なった後、200気圧の圧力下で850℃で50時間の熱処理を行なうことにより、表3に示す構成の比較例6〜8のテープ状の酸化物超電導線材を得た。なお、比較例3〜5のテープ状の酸化物超電導線材は、上記の捩じり加工において断線が多発したために作製することができなかった。また、比較例8の酸化物超電導線材については多芯超電導線の軟化工程および捩じる工程はされていないので表3のツイストピッチの欄には記載がされていない。
【0119】
ここで、比較例6〜8の酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されており、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれた構成となっていた。
【0120】
また、比較例6〜8の酸化物超電導線材の断面の断面積は0.8mm2であった。また、その断面において、フィラメント1本当たりの平均断面積は、酸化物超電導線材全体の断面積の1%であった。
【0121】
そして、比較例6〜8の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表3に示す。なお、比較例3〜5の酸化物超電導線材は作製できなかったために臨界電流密度および交流損失は測定できなかった。
【0122】
【表3】
【0123】
表3に示すように、比較例6〜8の酸化物超電導線材は、実施例1〜12の酸化物超電導線材と比べて交流損失が大きくなっていることが確認された。
【0124】
(実施例13〜18)
単芯超電導線の表面に炭酸ストロンチウムからなるバリア層を塗布しなかったこと以外は実施例1と同一の方法および同一の条件でツイストピッチが互いに異なる実施例13〜18の酸化物超電導線材を作製した。なお、実施例18の酸化物超電導線材については多芯超電導線の軟化工程および捩じる工程はされていないので表4のツイストピッチの欄には記載がされていない。
【0125】
ここで、実施例13〜18の酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面は、銀からなるマトリクス中にフィラメントが埋設されているが、それぞれのフィラメントはバリア層によって取り囲まれていない構成となっていた。
【0126】
また、実施例13〜18の酸化物超電導線材の断面の断面積は0.5mm2であった。また、その断面において、フィラメント1本当たりの平均断面積は、酸化物超電導線材全体の断面積の1%であった。また、実施例13〜18の酸化物超電導線材を構成するフィラメントの平均アスペクト比は10よりも大きかった。
【0127】
そして、実施例13〜18の酸化物超電導線材について、実施例1と同一の方法および同一の条件で、臨界電流密度および交流損失をそれぞれ測定した。その結果を表4に示す。
【0128】
【表4】
【0129】
表4に示すように、ツイストピッチが8mm以下である実施例13〜14の酸化物超電導線材は、ツイストピッチが8mmよりも大きい実施例15〜18の酸化物超電導線材と比べて、交流損失が大きく低減できていることが確認された。
【0130】
(実施例19)
実施例1の酸化物超電導線材の表面にポリイミド系のテープをハーフラップで巻きつけたものを実施例19の酸化物超電導線材とした。そして、実施例19の酸化物超電導線材の全長にわたって上記のテープで絶縁されていることを確認した後、パンケーキコイルを作製した。
【0131】
従来においては、パンケーキコイルの作製の際、酸化物超電導線材間の絶縁性確保のために絶縁シートを酸化物超電導線材と共に巻いて絶縁性を確保していた。しかしながら、実施例19の酸化物超電導線材はその表面にポリイミド系のテープがハーフラップで巻きつけられているために絶縁シートを酸化物超電導線材と共に巻く必要がなく、作業性が著しく向上した。
【0132】
(実施例20)
実施例1の酸化物超電導線材の主面(最も面積の大きい表面)の両面にその長手方向に沿って銅テープを貼り付けたものを実施例20の酸化物超電導線材とした。
【0133】
実施例20の酸化物超電導線材の引っ張り試験を実施したところ、実施例1の酸化物超電導線材の引っ張り強度の1.5倍以上となった。これにより、酸化物超電導線材の強度によって規定されるコイル巻き線の張力の設計や、超電導ケーブルの引き込み時の荷重設計に余裕が生じ、フレキシブルな設計ができるようになった。
【0134】
(実施例21)
実施例1の酸化物超電導線材の主面の両面にその長手方向に沿って銅テープを貼り付けるとともに、銅テープの貼り付け後の酸化物超電導線材の主面の両面からポリテトラフルオロエチレンからなる2枚の絶縁テープを酸化物超電導線材の長手方向に沿って貼り合わせたものを実施例21の酸化物超電導線材とした。
【0135】
そして、実施例21の酸化物超電導線材の全長にわたって絶縁されているのを確認した後、実施例21の酸化物超電導線材について引っ張り試験を実施したところ、実施例1の酸化物超電導線材の引っ張り強度の2倍以上となった。
【0136】
(実施例22)
実施例19の酸化物超電導線材を3本、エッジワイズ方向に曲げ径1000mmで連続的に曲げながら撚り合せて実施例22の超電導構造体を作製した。実施例22の超電導構造体でソレノイドコイルを作製したところ、3本の超電導構造体間の偏流が抑制されていることをロゴスキーコイルで確認した。
【0137】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明によれば、臨界電流密度を高くすることができるとともに交流損失を低くすることができる酸化物超電導線材、そのような酸化物超電導線材を含む超電導構造体、そのような酸化物超電導線材を製造することができる酸化物超電導線材の製造方法、その酸化物超電導線材またはその酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む超電導ケーブルおよび超電導マグネットならびにその超電導マグネットを含む製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の酸化物超電導線材の好ましい一例の一部の斜視図である。
【図2】図1に示す酸化物超電導線材の長手方向に直交するII−IIに沿った断面を模式的に示す図である。
【図3】本発明の酸化物超電導線材の他の好ましい一例の一部の斜視透視図である。
【図4】本発明の酸化物超電導線材の他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図5】本発明の酸化物超電導線材のさらに他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図6】本発明の酸化物超電導線材のさらに他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図7】本発明の酸化物超電導線材のさらに他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図8】本発明の酸化物超電導線材のさらに他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図9】本発明の超電導構造体の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図10】本発明の超電導構造体のさらに他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図11】本発明の超電導構造体のさらに他の好ましい一例の模式的な断面図である。
【図12】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の好ましい一例のフローチャートである。
【図13】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を図解するための模式図である。
【図14】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を図解するための模式図である。
【図15】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を図解するための模式図である。
【図16】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を図解するための模式図である。
【図17】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を図解するための模式図である。
【図18】本発明の酸化物超電導線材の製造方法における圧延圧下率を図解するための模式図である。
【図19】本発明の酸化物超電導線材の製造方法において圧延加工前の多芯超電導線を捩じる工程を複数回行なう工程の好ましい一例のフローチャートである。
【図20】酸化物超電導線材の転位を図解する模式図である。
【図21】酸化物超電導線材をエッジワイズ方向に曲げた状態を図解する模式的な平面図である。
【符号の説明】
【0140】
1 酸化物超電導線材、2 マトリクス、3 フィラメント、4 バリア層、5 第1金属シース、6 原料粉末、7 単芯超電導線、8 第2金属シース、9 多芯超電導線、10,12 金属テープ、11 絶縁被膜、13 保護膜、13a,16a 主面、14 超電導構造体、15 高抵抗体、16 絶縁性保護膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi−2223系酸化物超電導体を含むフィラメントの複数がマトリクス中に埋め込まれてなるテープ状の酸化物超電導線材であって、
前記酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面の断面積が0.5mm2以下であり、
前記酸化物超電導線材の断面において、前記フィラメントの1本当たりの平均断面積が前記酸化物超電導線材の断面積の0.2%以上6%以下であることを特徴とする、酸化物超電導線材。
【請求項2】
前記フィラメントの平均アスペクト比が10よりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【請求項3】
前記フィラメントは前記酸化物超電導線材の長手方向の中心軸を回転軸として旋回しており、前記フィラメントの旋回するピッチであるツイストピッチが8mm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の酸化物超電導線材。
【請求項4】
前記ツイストピッチが5mm以下であることを特徴とする、請求項3に記載の酸化物超電導線材。
【請求項5】
前記フィラメントの間にバリア層が形成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の酸化物超電導線材。
【請求項6】
前記マトリクスの表面上に金属テープを備えていることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の酸化物超電導線材。
【請求項7】
前記マトリクスの表面上に絶縁被膜を備えていることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の酸化物超電導線材。
【請求項8】
前記マトリクスの表面上に金属テープを備えるとともに、前記金属テープの表面上に絶縁被膜を備えていることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の酸化物超電導線材。
【請求項9】
請求項7または8に記載の酸化物超電導線材の複数が撚り合わされてなる超電導構造体であって、エッジワイズ方向に曲げられた少なくとも1本の酸化物超電導線材が撚り合わされてなることを特徴とする、超電導構造体。
【請求項10】
請求項1から5のいずれかに記載の酸化物超電導線材をテープ状の保護膜中に複数含み、前記保護膜の対向する主面の両面にそれぞれ金属テープを備えている、超電導構造体。
【請求項11】
隣り合う前記酸化物超電導線材の間に前記保護膜よりも高抵抗の高抵抗体が設置されていることを特徴とする、請求項10に記載の超電導構造体。
【請求項12】
請求項1から5のいずれかに記載の酸化物超電導線材をテープ状の絶縁性保護膜中に複数含む、超電導構造体。
【請求項13】
第1金属シース中に酸化物超電導体粉末および非超電導体粉末を含む原料粉末を充填する工程と、
前記原料粉末が充填された前記第1金属シースを伸線加工して単芯超電導線を形成する工程と、
前記単芯超電導線の複数を第2金属シース中に収容する工程と、
前記単芯超電導線が収容された前記第2金属シースを伸線加工して多芯超電導線を形成する工程と、
前記多芯超電導線を圧延加工する工程と、
前記圧延加工後の前記多芯超電導線を熱処理する工程と、を含み、
前記原料粉末において粒径が2μm以下の前記非超電導体粉末が前記非超電導体粉末全体の個数の95%以上を占めており、
前記圧延加工前の前記多芯超電導線における前記単芯超電導線の断面積の変動係数(COV)が15%以下であり、
前記圧延加工における圧延圧下率が82%以下であって、
前記熱処理は200気圧以上の圧力下で行なわれることを特徴とする、酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項14】
前記圧延加工前に前記多芯超電導線を捩じる工程を複数回行なうことを特徴とする、請求項13に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項15】
酸化物超電導線材中にバリア層を形成することを特徴とする、請求項13または14に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項16】
請求項1から8のいずれかに記載の酸化物超電導線材、請求項9から12のいずれかに記載の超電導構造体または請求項13から15のいずれかに記載の酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む、超電導ケーブル。
【請求項17】
請求項1から8のいずれかに記載の酸化物超電導線材、請求項9から12のいずれかに記載の超電導構造体または請求項13から15のいずれかに記載の酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む、超電導マグネット。
【請求項18】
請求項17に記載の超電導マグネットを含む、モータ電機子。
【請求項19】
請求項17に記載の超電導マグネットを含む、冷凍機冷却型マグネットシステム。
【請求項20】
請求項17に記載の超電導マグネットを含む、MRI。
【請求項1】
Bi−2223系酸化物超電導体を含むフィラメントの複数がマトリクス中に埋め込まれてなるテープ状の酸化物超電導線材であって、
前記酸化物超電導線材の長手方向に直交する断面の断面積が0.5mm2以下であり、
前記酸化物超電導線材の断面において、前記フィラメントの1本当たりの平均断面積が前記酸化物超電導線材の断面積の0.2%以上6%以下であることを特徴とする、酸化物超電導線材。
【請求項2】
前記フィラメントの平均アスペクト比が10よりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【請求項3】
前記フィラメントは前記酸化物超電導線材の長手方向の中心軸を回転軸として旋回しており、前記フィラメントの旋回するピッチであるツイストピッチが8mm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の酸化物超電導線材。
【請求項4】
前記ツイストピッチが5mm以下であることを特徴とする、請求項3に記載の酸化物超電導線材。
【請求項5】
前記フィラメントの間にバリア層が形成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の酸化物超電導線材。
【請求項6】
前記マトリクスの表面上に金属テープを備えていることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の酸化物超電導線材。
【請求項7】
前記マトリクスの表面上に絶縁被膜を備えていることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の酸化物超電導線材。
【請求項8】
前記マトリクスの表面上に金属テープを備えるとともに、前記金属テープの表面上に絶縁被膜を備えていることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の酸化物超電導線材。
【請求項9】
請求項7または8に記載の酸化物超電導線材の複数が撚り合わされてなる超電導構造体であって、エッジワイズ方向に曲げられた少なくとも1本の酸化物超電導線材が撚り合わされてなることを特徴とする、超電導構造体。
【請求項10】
請求項1から5のいずれかに記載の酸化物超電導線材をテープ状の保護膜中に複数含み、前記保護膜の対向する主面の両面にそれぞれ金属テープを備えている、超電導構造体。
【請求項11】
隣り合う前記酸化物超電導線材の間に前記保護膜よりも高抵抗の高抵抗体が設置されていることを特徴とする、請求項10に記載の超電導構造体。
【請求項12】
請求項1から5のいずれかに記載の酸化物超電導線材をテープ状の絶縁性保護膜中に複数含む、超電導構造体。
【請求項13】
第1金属シース中に酸化物超電導体粉末および非超電導体粉末を含む原料粉末を充填する工程と、
前記原料粉末が充填された前記第1金属シースを伸線加工して単芯超電導線を形成する工程と、
前記単芯超電導線の複数を第2金属シース中に収容する工程と、
前記単芯超電導線が収容された前記第2金属シースを伸線加工して多芯超電導線を形成する工程と、
前記多芯超電導線を圧延加工する工程と、
前記圧延加工後の前記多芯超電導線を熱処理する工程と、を含み、
前記原料粉末において粒径が2μm以下の前記非超電導体粉末が前記非超電導体粉末全体の個数の95%以上を占めており、
前記圧延加工前の前記多芯超電導線における前記単芯超電導線の断面積の変動係数(COV)が15%以下であり、
前記圧延加工における圧延圧下率が82%以下であって、
前記熱処理は200気圧以上の圧力下で行なわれることを特徴とする、酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項14】
前記圧延加工前に前記多芯超電導線を捩じる工程を複数回行なうことを特徴とする、請求項13に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項15】
酸化物超電導線材中にバリア層を形成することを特徴とする、請求項13または14に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項16】
請求項1から8のいずれかに記載の酸化物超電導線材、請求項9から12のいずれかに記載の超電導構造体または請求項13から15のいずれかに記載の酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む、超電導ケーブル。
【請求項17】
請求項1から8のいずれかに記載の酸化物超電導線材、請求項9から12のいずれかに記載の超電導構造体または請求項13から15のいずれかに記載の酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材を含む、超電導マグネット。
【請求項18】
請求項17に記載の超電導マグネットを含む、モータ電機子。
【請求項19】
請求項17に記載の超電導マグネットを含む、冷凍機冷却型マグネットシステム。
【請求項20】
請求項17に記載の超電導マグネットを含む、MRI。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2007−273452(P2007−273452A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3724(P2007−3724)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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