説明

酸化物超電導線材およびその製造方法

【課題】 交流損失の小さい酸化物超電導線材を提供する。
【解決手段】 酸化物超電導線材は、酸化物超電導体としてのフィラメント27と、フィラメント27に接触してフィラメント27を被覆し、フィラメント27の運転温度において非超電導体となるセラミックス被覆層22と、セラミックス被覆層22に接触してセラミックス被覆層22を被覆する金属管としての銀シース24とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸化物超電導線材およびその製造方法に関し、特に、電力、輸送、高エネルギー、医療などの分野で用いられる酸化物超電導線材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物の焼結体が高い臨界温度で超電導特性を示すことが報告され、この超電導体を利用して超電導技術の実用化が促進されている。イットリウム系の酸化物は温度90Kで、ビスマス系の酸化物は温度110Kで超電導現象を示すことが報告されている。これらの酸化物超電導体は、比較的安価で入手できる液体窒素中で超電導特性を示すため、実用化が期待されている。
【0003】
このような超電導体に、たとえば電力供給用の交流電流を流すためには、超電導体を銀シースで被覆し、その銀シースを高抵抗体で被覆し、その高抵抗体をさらに金属で被覆するような超電導線材が用いられている。
【0004】
上述のような構造の超電導線材は、たとえば国際公開公報WO96/28853号、特開平11−7846号公報(特許公報第2992502号)、特開平10−50152号公報、特開平10−247428号公報、特開平3−15116号公報、特開平11−312420号公報、特開平3−15115号公報および特開平1−140520号公報(特許公報第2877149号)に開示されている。
【0005】
国際公開公報WO96/28853号は、酸化物超電導体の周囲を銀などで被覆し、さらにその周囲を金属で被覆し、その金属を酸化させることにより、銀と金属との間に金属酸化物からなる高抵抗層を形成した酸化物超電導線材を開示している。
【0006】
また、特開平11−7846号公報は、超電導体セラミックスで形成された芯が銀を主成分とする合金でできた第1の被覆で取囲まれ、その被覆自体が酸素を透過する非超電導体セラミックス層で取囲まれ、そのセラミックス層自体が銀を主成分とする合金でできた第2の被覆層で取囲まれる酸化物高温超電導線材を開示している。
【0007】
特開平10−50152号公報は、酸化物超電導体を銀で被覆し、その周囲を抵抗性合金(高抵抗体)で被覆し、その抵抗性合金を酸化させることにより銀と高抵抗合金との間に絶縁性酸化物を形成する酸化物超電導線材を開示している。
【0008】
特開平10−247428号公報は、酸化物超電導体を金属材層で被覆してなる素線を複数本配置した多芯構造の酸化物超電導線材において、素線は、金属材層の外側にこの金属材層より抵抗率の高い高抵抗率材層を備えた酸化物超電導線材を開示している。
【0009】
特開平3−15116号公報は、異方性を有する酸化物超電導体の線材であって、線材の芯部と、酸化物超電導体の特定の結晶軸の方向が芯部に向いて配列するように芯部のまわりを取囲む超電導層とを備え、超電導層が複数に分割して形成され、かつ半径方向よりも周方向に長い形状に形成されている酸化物超電導線材を開示している。また、この公報は、複数の超電導層間に設けられる、電気抵抗の高い物質からなる高抵抗層をさらに備えた酸化物超電導線材を開示している。
【0010】
また、特開平11−312420号公報は、酸化物高温超電導体と、酸化物高温超電導体を被覆し、銀を含む材料からなるシース体と、シース体を被覆し、耐熱性セラミックスを含む材料からなる高抵抗体と、高温酸化性雰囲気中で高抵抗体に対して不活性な材料からなり、高抵抗体を被覆する被覆体とを備えた酸化物高温超電導線材が開示されている。
【0011】
また、特開平3−15115号公報では、耐食酸化性金属を構成材とするクラッド材を被覆金属として用いたことを特徴とする金属被覆酸化物超電導線材が開示されている。
【0012】
また、特開平1−140520号公報(特許公報第2877149号)は、セラミックス原料粉末を金属製のパイプに充填し、金属製のパイプの断面積を縮小させる塑性変形を行い、その後熱処理する技術および金属製パイプを熱間塑性変形することにより十分な強度と靭性を有するとともに、細い直径でかつ高い臨界電流密度および臨界温度を有する酸化物超電導線材の製造方法を開示している。
【特許文献1】国際公開公報WO96/28853号
【特許文献2】特開平11−7846号公報(特許公報第2992502号)
【特許文献3】特開平10−50152号公報
【特許文献4】特開平10−247428号公報
【特許文献5】特開平3−15116号公報
【特許文献6】特開平11−312420号公報
【特許文献7】特開平3−15115号公報
【特許文献8】特開平1−140520号公報(特許公報第2877149号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述のような酸化物超電導線材では以下のような問題があった。
銀シースを用いた多芯酸化物超電導線材では、シースである銀の抵抗値が小さいために、交流損失が十分に低減されないという問題があった。上述の公報に記載された技術では、銀シース多芯酸化物超電導線材の交流損失を低減することを目的として、超電導フィラメント(銀母材)の周囲に絶縁性または抵抗性の金属酸化物等のバリアを配置する構造が開示されている。しかしながら、フィラメントに挟まれた狭い領域に密度および厚さが均一なバリアを作ることが難しく、結果として、フィラメント間の垂直抵抗が十分に高くならない。その結果、交流損失の低減が十分にできないという問題があった。また、十分な抵抗値を得るためにバリア層を厚くすると、酸化物超電導線材の全体に占める超電導体の割合が小さくなり、電流密度が低下するという問題があった。
【0014】
さらに、通常、金属酸化物等のバリアは銀シース線の周囲に金属酸化物を含むスラリを塗布することにより形成される。そのため、被覆した段階ではバリア層の密度が低いため、不均一な変形が起こり、均一なバリア層が形成されないといいう問題があった。
【0015】
また、特開昭63−239741号公報では、酸化物系超電導体および非超電導性無機物のスラリを非超電導性無機物が酸化物系超電導体を取囲むように配置し、スラリの自重または加圧によりダイスを用いスラリを押出して複合線とし、複合線を加熱乾燥させた後減面加工を施し、次いで捻じり加工を施しながら外周に金属テープを巻く超電導線の製造方法が開示されている。
【0016】
しかしながら、この方法で製造された超電導線では、外周に金属テープが巻かれているため、この超電導線を伸線または圧延加工することができない。その結果、酸化物超電導体の結晶方位を揃えることができず臨界電流値が低くなり、超電導線材として実用に供することができない。
【0017】
そこで、この発明は上述のような問題点を解決するためになされたものであり、交流損失を低減することができる酸化物超電導線材およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明は、複数の酸化物超電導体と、複数の酸化物超電導体に接触して酸化物超電導体を被覆し、酸化物超電導体の運転温度において非超電導体となるセラミックス被覆体と、セラミックス被覆体に接触してセラミックス被覆体を被覆する金属管とを備え、金属管で囲まれた領域内には金属導電体が存在していない酸化物超電導線材の製造方法であって、酸化物超電導体の原料を成形してロッドを形成する工程と、セラミックス粉末を含むセラミックス被覆層をロッドの表面に形成してセラミックス被覆ロッドを形成する工程と、複数本のセラミックス被覆ロッドを金属管内に挿入して多芯ビレットを形成する工程と、多芯ビレットを塑性加工して多芯線を形成する工程と、多芯線に熱処理を行ない酸化物超電導体を形成する工程とを備える。
【0019】
この発明は、複数の酸化物超電導体と、複数の酸化物超電導体に接触して酸化物超電導体を被覆し、酸化物超電導体の運転温度において非超電導体となるセラミックス被覆体と、セラミックス被覆体に接触してセラミックス被覆体を被覆する金属管とを備え、金属管で囲まれた領域内には金属導電体が存在していない酸化物超電導線材の製造方法であって、セラミックス粉末を成形してセラミックスパイプを形成する工程と、セラミックスパイプ内に酸化物超電導体の原料を充填してセラミックス被覆ロッドを形成する工程と、複数本のセラミックス被覆ロッドを金属管内に挿入して多芯ビレットを形成する工程と、多芯ビレットを塑性加工して多芯線を形成する工程と、多芯線に熱処理を行ない酸化物超電導体を形成する工程とを備える。
【0020】
この発明は、複数の酸化物超電導体と、複数の酸化物超電導体に接触して酸化物超電導体を被覆し、酸化物超電導体の運転温度において非超電導体となるセラミックス被覆体と、セラミックス被覆体に接触してセラミックス被覆体を被覆する金属管とを備え、金属管で囲まれた領域内には金属導電体が存在していない酸化物超電導線材の製造方法であって、セラミックス粉末を成形して長手方向に延びる複数の孔を有するセラミックスビレットを形成する工程と、セラミックスビレットの複数の孔に酸化物超電導体の原料を充填してセラミックス被覆ロッドを形成する工程と、セラミックス被覆ロッドを金属管内に挿入して多芯ビレットを形成する工程と、多芯ビレットを塑性加工して多芯線を形成する工程と、多芯線に熱処理を行ない酸化物超電導体を形成する工程とを備える。
【0021】
好ましくは、酸化物超電導体の原料が酸化物超電導体の組成の一部を含み、セラミックス粉末が酸化物超電導体の組成の残りの組成を含む。
【0022】
好ましくは、熱処理前の多芯線を捻じる工程をさらに備える。
好ましくは、セラミックス粉末は、ビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、チタン、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステン、バナジウム、ジルコニウム、銅および銀からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む酸化物を含む。
【0023】
好ましくは、酸化物超電導体は、ビスマス系超電導体である。
好ましくは、セラミックス粉末はアルカリ土類金属と銅とを含む酸化物を含む。
【0024】
好ましくは、金属管は銀、銅、マンガン、マグネシウム、アンチモン、鉄、クロムおよびニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
【0025】
酸化物超電導線材は、上記のいずれかの方法で製造される。
この発明に従った酸化物超電導線材は、酸化物超電導体と、酸化物超電導体に接触して酸化物超電導体を被覆し、酸化物超電導体の運転温度において非超電導体となるセラミックス被覆体と、セラミックス被覆体に接触してセラミックス被覆体を被覆する金属管とを備える。
【0026】
このように構成された酸化物超電導線材では、酸化物超電導体が被覆体と接触するため、酸化物超電導体を高抵抗体または絶縁体としてのセラミックスで確実に分離することができ、高い垂直抵抗が得られる。そのため、交流損失を大幅に低減することができる。さらに、超電導体は、従来の銀シース酸化物超電導線と同様の体積率を有するため、高い臨界電流密度(Je)を発揮することができる。
【0027】
また従来の酸化物超電導体では、超電導体が銀シースで覆われているため反応の過程で発生する酸素等のガスが線材の外部に放出され難い。そのため、ある程度反応が進むとフィラメント内部の気圧が高くなって結晶粒の間を押し広げるので、フィラメント内部に隙間が残る。そこで、特開平3−138820号公報(特許公報第2636049号)では、第2の塑性加工を施すことによってこの隙間を潰してフィラメントの密度を上げてから第2の熱処理を施して高い臨界電流密度を示す酸化物超電導体を得る方法を開示している。しかしながら、反応によって一旦形成された複数の酸化物超電導体の結晶の間では、その後に熱処理や塑性加工を加えても完全な接合を得ることができない。接合のために熱処理温度を上げ過ぎると酸化物超電導体が溶融して一旦形成された酸化物超電導体が非超電導体の異相を含む相に分解する。また塑性加工の減面率や圧縮応力を上げると、酸化物超電導体の結晶に割れが生じて、かえって接合の弱い部分が増える。このように従来の方法は条件によっては逆に臨界電流密度を低減される要因となる。この方法で最も臨界電流密度が高くなる条件を選んでも、実際にはフィラメントは数μmの小さな結晶粒の集まりであり、これらの間に非超電導体の異相が分散して残っており、超電導相の結晶間には小さな磁界や電流で抵抗性を示す結合状態の弱い部分が残っている。その結果、臨界電流密度が小さくなる。
【0028】
本発明では、ある程度空気を透過するセラミックスにより酸化物超電導体が覆われるため反応の過程で発生する酸素等のガスが線材の外部に放出されやすくなる。その結果、フィラメントが高密度となり、酸化物超電導体の結晶が強固に結合して高い臨界電流密度が得られる。
【0029】
また、従来の酸化物超電導線材では、金属製パイプとして、酸化物超電導体との相性を考慮して、もっぱら高価な銀が用いられていた。さらに、これらの方法で多芯超電導線材を作製すると、単芯線の加工と多芯線の加工の両方で長い加工工程が必要である。以上の理由から、製造コストが高くなり、工業製品として普及させる上で最大の障害となっていた。
【0030】
しかしながら、本発明では酸化物超電導体がセラミックスに接触して覆われるため銀の使用量が少なくなる。その結果、コストを大幅に低減することができる。
【0031】
また、被覆層は酸化物超電導体と金属管との拡散を防止するため、高い臨界電流密度を達成するとともに、金属管の材料の選択の幅を広げることができる。
【0032】
また好ましくは、酸化物超電導体は複数に分割されている。この場合、交流損失をさらに低下させることができる。
【0033】
好ましくは、酸化物超電導体は、酸化物超電導線材の中心軸に対して螺旋状に延びるように配置されている。この場合においても、交流損失をさらに低下させることができる。
【0034】
また好ましくは、セラミックス被覆体はビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、チタン、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステン、バナジウム、ジルコニウム、銅および銀からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む酸化物を含む。酸化物超電導体は、ビスマス系超電導体を含む。この場合、酸化物超電導体がいわゆるビスマス系のものとなるため、臨界温度が高くなるとともに、その周囲のセラミックス被覆体がビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、チタン、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステン、バナジウム、ジルコニウム、銅および銀からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む酸化物であるため加工性が良く、セラミックス被覆層とフィラメントが直接接触していてもフィラメントに酸化物超電導体が形成される。その結果、酸化物超電導体と接触するように確実に被覆体を形成することができる。
【0035】
また好ましくは、セラミックス被覆体は、アルカリ土類金属と銅とを含む酸化物を含む。この場合、被覆体と酸化物超電導体との結晶構造がほぼ等しく、複合加工性が良いので、均一な断面組織が得られる。その結果、臨界電流密度が高く、交流損失の低い線材が得られる。
【0036】
さらに好ましくは、金属管は、銀、銅、マンガン、マグネシウム、アンチモン、鉄、クロムおよびニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。この場合、これらは化学的に安定であるため、被覆体および酸化物超電導体と反応せず、超電導特性を確実に発揮させることができる。さらに、マンガン、マグネシウム、アンチモン、鉄、クロムおよびニッケルを用いることにより機械的強度を向上させることができる。なお、特開平5−74233号公報では、酸化物超電導体と、主として銀からなる外被覆からなる超電導複合体において、被覆材料として酸化物分散強化または高強度化が可能な銀合金を用いることを特徴とする超電導複合体を提案している。つまり、線材の機械的強度を、銀シースの一部を銀合金シースで置換えることによって改善する方法であって、合金の添加物の添加量を多くするほど強度は改善される。しかしながら、実際には添加元素はフィラメント内の超電導相の生成反応に影響を及ぼし、臨界電流密度を低下させるため、添加量はかなり低い濃度に限定される。その結果、十分な強度の改善が得られない。
【0037】
銀シース線材にステンレス鋼などの補強材を複合する方法も提案されている。この方法では、被覆材料に予め合金を用いる方法と比べると、酸化物超電導体の臨界電流密度に影響を与えずに高い強度が得られる。しかしながら、補強材によって導体の体積が増えるので、電流値を導体全面積で除した臨界電流密度、すなわち、実質的に重要な臨界電流密度が低下してしまい、超電導応用システムの最大の特徴であるコンパクト化の利点が損なわれる。また、非常に薄くて強度が高い補強材を複合することによってサイズをそれほど増やさず強度を改善することができたとしても、そのような補強材を超電導線材と別に準備して、これを複合するために増える製造コストが問題である。
【0038】
本発明によれば、上述の問題点を解決して酸化物超電導体の機械的強度を向上させることができる。
【0039】
この発明の別の局面に従った酸化物超電導線材は、酸化物超電導体と、酸化物超電導体を被覆し、押出し加工により形成され、酸化物超電導体の運転温度において非電導体となるセラミックス被覆体と、セラミックス被覆体を被覆する金属管とを備える。この場合、押出し加工によりセラミックス被覆体を形成するため、被覆層が高密度になりセラミックス被覆体内に気泡などが発生しない。その結果、交流損失を向上させることができる。また、セラミックス被覆体は金属管内に収納されるので、この金属管を伸線加工や圧延加工することができる。その結果、酸化物超電導体の結晶方位を揃えることができ、臨界電流密度を向上させやすくなる。
【0040】
また好ましくは、酸化物超電導線材は、酸化物超電導体とセラミックス被覆体との間に介在する、銀を含むシース体をさらに備える。この場合、シース体内の酸化物超電導体を容易に加工することができる。
【0041】
また好ましくは、セラミックス被覆体は、酸化物超電導体と接触して酸化物超電導体を被覆している。
【0042】
この発明の1つの局面に従った酸化物超電導線材の製造方法は、以下の工程を備える。
(a) 酸化物超電導体の原料を成形してロッドを形成する工程。
【0043】
(b) セラミックス粉末を含むセラミックス被覆層をロッドの表面に形成してセラミックス被覆ロッドを形成する工程。
【0044】
(c) 複数本のセラミックス被覆ロッドを金属管内に挿入して多芯ビレットを形成する工程。
【0045】
(d) 多芯ビレットを塑性加工して多芯線を形成する工程。
(e) 多芯線に熱処理を行ない酸化物超電導体を形成する工程。
【0046】
このような工程を備えた酸化物超電導線材の製造方法に従えば、酸化物超電導体の原料により構成されるロッドの表面にセラミックス被覆層が形成される。そのため、従来のようにロッドの表面に銀の被覆層を形成することがなく、酸化物超電導体の垂直抵抗を向上させることができる。その結果、交流損失を低下させることができる。
【0047】
この発明の別の局面に従った酸化物超電導線材の製造方法は、以下の工程を備える。
(a) セラミックス粉末を成形してセラミックスパイプを形成する工程。
【0048】
(b) セラミックスパイプ内に酸化物超電導体の原料を充填してセラミックス被覆ロッドを形成する工程。
【0049】
(c) 複数本のセラミックス被覆ロッドを金属管内に挿入して多芯ビレットを形成する工程。
【0050】
(d) 多芯ビレットを塑性加工して多芯線を形成する工程。
(e) 多芯線に熱処理を行ない酸化物超電導体を形成する工程。
【0051】
このような工程を備えた酸化物超電導線材の製造方法に従えば、酸化物超電導体の原料の表面にセラミックス被覆層が形成される。そのため、従来のように酸化物超電導体の表面に銀の被覆層を形成することがなく、酸化物超電導体の垂直抵抗を向上させることができる。その結果、交流損失を低下させることができる。
【0052】
この発明のさらに別の局面に従った酸化物超電導線材の製造方法は、以下の工程を備える。
【0053】
(a) セラミックス粉末を成形して長手方向に延びる複数の孔を有するセラミックスビレットを形成する工程。
【0054】
(b) セラミックスビレットの複数の孔に酸化物超電導体の原料を充填してセラミックス被覆ロッドを形成する工程。
【0055】
(c) セラミックス被覆ロッドを金属管内に挿入して多芯ビレットを形成する工程。
(d) 多芯ビレットを塑性加工して多芯線を形成する工程。
【0056】
(e) 多芯線に熱処理を行ない酸化物超電導体を形成する工程。
このような工程を備えた酸化物超電導線材の製造方法に従えば、酸化物超電導体の原料の表面にセラミックス粉末からなるセラミックスビレットが形成される。そのため、従来のように酸化物超電導体の原料の表面に銀の被覆層を形成することがなく、酸化物超電導体の垂直抵抗を向上させることができる。その結果、交流損失を低下させることができる。
【0057】
また好ましくは、酸化物超電導体の原料が酸化物超電導体の組成の一部を含み、セラミックス粉末が酸化物超電導体の組成の残りの組成を含む。
【0058】
この発明のさらに別の局面に従った酸化物超電導線材の製造方法は、以下の工程を備える。
【0059】
(a) 銀を含むシース体に酸化物超電導体の原料を充填して被覆ロッドを形成する工程。
【0060】
(b) 被覆ロッドの表面に、押出し加工によりセラミックス粉末の層を形成してセラミックス被覆ロッドを形成する工程。
【0061】
(c) 複数本のセラミックス被覆ロッドを金属管内に挿入して多芯ビレットを形成する工程。
【0062】
(d) 多芯ビレットを塑性加工して多芯線を形成する工程。
(e) 多芯線に熱処理を行い酸化物超電導体を形成する工程。
【0063】
このような工程を備えた酸化物超電導線材の製造方法に従えば、押出し加工によりセラミックス粉末の層を形成するため、この高抵抗層となるセラミックス粉末の層に気泡が生じることがない。その結果、この層が高密度となり、交流損失を低下させることができる。
【0064】
さらに好ましくは、熱処理前の多芯線を捻じる工程をさらに備える。この場合、交流損失をさらに低下させることができる。
【0065】
また好ましくは、酸化物超電導体の原料は、セラミックス粉末は、ビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、チタン、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステン、バナジウム、ジルコニウム、銅および銀からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む酸化物を含む。酸化物超電導体は、ビスマス系超電導体である。この場合、酸化物超電導体がいわゆるビスマス系のものとなるため、臨界温度が高くなるとともに、その周囲のセラミックス被覆体がビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、チタン、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステン、バナジウム、ジルコニウム、銅および銀からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む酸化物を含むため加工性が良く、セラミックス被覆層とフィラメントが直接接触していてもフィラメントに酸化物超電導体が形成される。その結果、酸化物超電導体と接触するように確実に被覆体を形成することができる。
【0066】
また好ましくは、セラミックス粉末は、アルカリ土類金属と銅とを含む酸化物を含む。
この場合、この場合、被覆体と酸化物超電導体との結晶構造がほぼ等しく、複合加工性が良いので、均一な断面組織が得られる。その結果、臨界電流密度が高く、交流損失の低い線材が得られる。
【0067】
また好ましくは、金属管は、銀、銅、マンガン、マグネシウム、アンチモン、鉄、クロムおよびニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。この場合、金属管が化学的に安定になるとともに、機械的強度が向上する。
【0068】
さらに好ましくは、セラミックス被覆層、セラミックスパイプおよびセラミックスビレットが押出し法により形成される。この場合、セラミックス被覆層、セラミックスパイプおよびセラミックスビレットに気泡が生じなくなり、これらが高密度になる。その結果、均一な断面組織が得られるので、交流損失を低減することができる。
【0069】
以上のこの発明の酸化物超電導線材およびその製造方法では、複数の酸化物超電導体のフィラメントがセラミックス母材に埋込まれ、その外側に金属管が配置された酸化物超電導線材が得られる。これらの酸化物超電導線材の製造方法では、従来のパウダーインチューブ法による銀被覆酸化物超電導線材の製造方法と比べて、フィラメントのまわりの銀がセラミックスに置換えられるため、銀の使用量が従来のおよそ半分にすることができる。さらに、単芯線の加工プロセスが大幅に短縮されている。これにより、製造コストを大幅に低減できる。また、従来のフィラメントを取囲む母材が従来の金属と比べて気体の透過性に優れたセラミックス体であるため、反応の過程でフィラメント内に発生した酸素等の気体を拡散させることができる。これにより、フィラメントを高密度にすることができる。その結果、酸化物超電導体内の結晶が強固に結合して高い臨界電流密度を得ることができる。
【0070】
さらに、セラミックス母材は金属管とフィラメントとの拡散障壁として有効であるため、臨界電流密度を低下させずにこれまでは使用できなかった材料を金属管として用いることができる。
【0071】
また、これまでに提案されているフィラメントを囲む銀母材の周囲にのみバリア層を配置する構造よりも抵抗体の厚さを厚くすることができるため、超電導フィラメントを抵抗体で確実に分離でき高い垂直抵抗率を得ることができる。このため、交流損失を大幅に低減することができる。また、従来の銀シース酸化物超電導線と同様の酸化物超電導体の体積率を維持できるので、同時に高い電流密度も得られる。また、セラミックス母材は、絶縁体を基本とする組成に、適当なキャリアを添加することによって、導電性を持たせることができる。これによって、端末接続と交流損失の観点から適切な抵抗率を調整することができる。
【0072】
さらに、この発明の酸化物超電導体の製造方法では、酸化物超電導線のフィラメントの原料となる粉末またはこれを成形したロッドが酸化物超電導体の組成の一部を含み、セラミックスの被覆体が酸化物超電導体の残りの組成を含む構造を適用することができる。
【0073】
具体的な一例として、最終的に(BiPb)2Sr2Ca2Cu3X超電導体を形成する場合には、フィラメントの原料になる粉末、またはこれを成形したロッドには、(BiPb)2Sr2CaCu2X超電導体の単相を使用し、セラミックス母材には、(Ca,Sr)CuO2化合物の単相を使用する。この場合、線材製造の最終段階で加える熱処理の前には、(Ca,Sr)CuO2化合物の母材の中に、複数の(BiPb)2Sr2CaCu2X超電導体のフィラメントが埋込まれ、(Ca,Sr)CuO2母材の外側に金属管が配置された構造となっている。つまり、各々のフィラメントの外周は、(BiPb)2Sr2CaCu2Xと(Ca,Sr)CuO2の界面が形成されている。
【0074】
熱処理の初期段階では、まず、これらの界面の拡散反応によって(BiPb)2Sr2Ca2Cu3Xが形成される。この時点では、フィラメントの中央部は依然として(BiPb)2Sr2CaCu2Xであって、その外周に薄い(BiPb)2Sr2Ca2Cu3X相が形成されている。さらに、その外周は(Ca,Sr)CuO2母材である。反応が進むと(BiPb)2Sr2CaCu2Xフィラメント母材に母相からCaとCuが供給されて(BiPb)2Sr2Ca2Cu3X結晶が次第に大きく成長し、最終的にはフィラメント全体が(BiPb)2Sr2Ca2Cu3Xの大きな結晶で占められるようになる。
【0075】
従来のように、最初から(BiPb)2Sr2Ca2Cu3Xの組成に合わせて原料粉末を調整した仮焼粉末をフィラメントに用いる方法では、1つのフィラメントの中に多くの超電導相の核とともに、それ以外の多くの非超電導異相が含まれている。先に述べたように、反応が進むに従ってフィラメントに占める(BiPb)2Sr2Ca2Cu3Xの比率は大きくなり非超電導異相は小さくなるが、完全には異相はなくならず(BiPb)2Sr2Ca2Cu3X結晶同士の弱い結合部分が残留する。
【0076】
本発明による酸化物超電導線材の製造方法において、セラミックス被覆層、セラミックスパイプおよびセラミックスビレットは押出し加工で形成することができる。これによって、セラミックス体の密度と厚さを均一化することができる。またこの方法では、少ないバインダ量で密度の高いセラミックス体を形成できるので、バインダ類を熱分解した後でもセラミックス被覆層の密度の低下が小さい。よって、その後で行なう塑性加工で不均一な変形が起こって断面形状が崩れるのを防止することができる。
【0077】
予めセラミックス被覆ロッドに所定の熱処理を加えてバインダ類を熱分解してからこれらを複数本束ねて多芯ビレットとしてもよい。この方法では、セラミックス被覆層のまわりに気体の出入りを妨げるものがない状態で熱処理できるので、バインダの熱分解を短時間で均一に行なうことができる。また、先にバインダの熱分解を行なうことによってより充填率の高い多芯ビレットができるので、その後に行なう塑性加工でより均一な断面形状を得ることができる。
【発明の効果】
【0078】
この発明に従えば交流損失の小さな酸化物超電導線材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0079】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に従った酸化物超電導線材の断面図である。図1を参照して、酸化物超電導線材29は、酸化物超電導体としてのフィラメント27と、フィラメント27に接触してフィラメント27を被覆し、金属酸化物を含みフィラメント27の運転温度において非電導体となるセラミックス被覆体としてのセラミックス被覆層22と、セラミックス被覆層22に接触してセラミックス被覆層22を被覆する金属管としての銀シース24とを備える。酸化物超電導線材29はテープ状であり、紙面の手前側から奥側に向って延びる。フィラメント27、セラミックス被覆層22および銀シース24は横方向に延びるように偏平形状に形成されている。フィラメント27は、たとえば(BiPb)2Sr2Ca2Cu3Xで構成する。酸化物超電導線材29内には複数本のフィラメント27が配置され、それらを覆うようにセラミックス被覆層22が形成されている。複数本のフィラメント27は酸化物超電導線材29の中心軸に対して螺旋状に延びるように形成されている。
【0080】
次に、図1で示す酸化物超電導線材の製造方法について説明する。まず、図2で示すように酸化物超電導線のフィラメントの原料となる粉末を成形する。これによりロッド21を形成する。
【0081】
図3および図4を参照して、押出し加工装置301aにロッド21を挿入する。押出し加工装置301aは、ベース体302と、ベース体302に取付けられたホッパー311と、脱気孔304とクロスヘッドマンドレル305とスクリュー303とを備える。ホッパー311は上方に向いて開口しており、矢印311aで示す方向から粉体が投入される。脱気孔304はベース体302を貫通しており、ベース体302内に充填されるセラミックス粉末310を圧縮した際に発生するガスを矢印304aで示す方向に排出する。ベース体302は中空形状であり、その内部にはスクリュー303が設けられ、スクリュー303を覆うようにセラミックス粉末310が充填されている。スクリュー303が回転することによりセラミックス粉末310が矢印で示す方向に移動する。なお、スクリュー303はプランジャに取替えることも可能である。
【0082】
ロッド21をクロスヘッドマンドレル305へ矢印21aで示す方向から挿入する。またスクリュー303を回転させる。これにより、スクリュー303で圧縮されたセラミックス粉末310はロッド21に沿うように流れてロッド21に接触して被覆する。これにより、図5で示すように、ロッド21と被覆層としてのセラミックス被覆層22とを備えたセラミックス被覆ロッド23を形成する。
【0083】
図6を参照して、複数本のセラミックス被覆ロッド23を銀シース24に嵌め合わせて多芯ビレット25を形成する。多芯ビレット25に熱処理を加えて、セラミックス被覆層22に含まれるバインダ類を熱分解する。
【0084】
図7を参照して、バインダ類を熱分解した後で、多芯ビレット25を塑性加工で線引きして多芯丸線26を形成する。
【0085】
図1を参照して、多芯丸線26に矩形断面成形と熱処理を行ない、フィラメントに酸化物超電導体を生成することによって複数の酸化物超電導体のフィラメント27がセラミックス被覆層22に埋込まれ、その外側に銀シース24が配置された酸化物超電導線材29を得ることができる。
【0086】
(実施の形態2)
図8は、この発明の実施の形態2に従った酸化物超電導線材の断面図である。図8を参照して、この発明の実施の形態2に従った酸化物超電導線材39は、酸化物超電導体としてのフィラメント37と、フィラメント37に接触してフィラメント37を被覆し、フィラメント37の運転温度において非電導体となるセラミックス被覆体としてのセラミックス被覆層31と、セラミックス被覆層31に接触してセラミックス被覆層31を被覆する金属管としての銀シース34とを備える。酸化物超電導線材39はテープ状であり、紙面の手前側から奥側に向って延びる。フィラメント37、セラミックス被覆層31および銀シース34は横方向に延びるように偏平形状に形成されている。フィラメント37は、たとえば(BiPb)2Sr2Ca2Cu3Xで構成する。酸化物超電導線材39内には複数本のフィラメント37が配置され、それらを覆うようにセラミックス被覆層31が形成されている。複数本のフィラメント37は酸化物超電導線材39の中心軸に対して螺旋状に延びるように形成されている。
【0087】
図9〜図14は、図8で示す酸化物超電導線材の製造工程を示す図である。まず、図9を参照して、押出し加工装置301bを用意する。この押出し加工装置301bは、図3および4で示した押出し加工装置301aと同様のホッパー311、ベース体302、脱気孔304およびスクリュー303を有する。ベース体302の先端部にマンドレル307が設けられており、マンドレル307の中央部には円柱棒307aが配置されている。ベース体302内にセラミックス粉末310が充填されており、スクリュー303が回転することによりマンドレル307から粉末が押出されてセラミックスパイプにより構成される図10で示すセラミックス被覆層31が矢印31aで示す方向に延びるように形成される。
【0088】
次に、図11を参照して、実施の形態1と同様の方法に従い、酸化物超電導線のフィラメントの原料となる粉末を成形してロッド32を形成する。
【0089】
図12を参照して、セラミックス被覆層31内にロッド32を差し込む。これによりセラミックス被覆ロッド33を複数本形成する。
【0090】
図13を参照して、複数本のセラミックス被覆ロッド33を束ねて銀シース34内に挿入する。これにより多芯ビレット35を形成する。多芯ビレット35に熱処理を加えて、セラミックス被覆層31に含まれるバインダ類を熱分解する。
【0091】
図14を参照して、バインダ類を熱分解した後で、多芯ビレット35を線引きして多芯丸線36とする。
【0092】
図8を参照して、多芯丸線36に矩形断面成形と熱処理を行ない、フィラメントに酸化物超電導体を生成することによって複数の酸化物超電導体からなるフィラメント37がセラミックス被覆層31に埋込まれて、その外側に銀シース34が配置された酸化物超電導線材39を得ることができる。
【0093】
(実施の形態3)
図15は、この発明の実施の形態3に従った酸化物超電導線材の断面図である。図15を参照して、この発明の実施の形態3に従った酸化物超電導線材49は、酸化物超電導体としてのフィラメント47と、フィラメント47に接触してフィラメント47を被覆し、フィラメント47の運転温度において非電導体となるセラミックス被覆体としてのセラミックス被覆層48と、セラミックス被覆層48に接触してセラミックス被覆層48を被覆する金属管としての銀シース44とを備える。酸化物超電導線材49はテープ状であり、紙面の手前側から奥側に向って延びる。フィラメント47、セラミックス被覆層48および銀シース44は横方向に延びるように偏平形状に形成されている。フィラメント47は、たとえば(BiPb)2Sr2Ca2Cu3Xで構成する。酸化物超電導線材49内には複数本のフィラメント47が配置され、それらを覆うようにセラミックス被覆層48が形成されている。複数本のフィラメント47は酸化物超電導線材49の中心軸に対して螺旋状に延びるように形成されている。
【0094】
図16〜図20は、図15で示すこの発明の実施の形態3に従った酸化物超電導線材の製造方法を示す図である。図16を参照して、まず押出し加工装置301cを準備する。押出し加工装置301cは、実施の形態1の押出し加工装置301aと同様のベース体302、ホッパー311、脱気孔304およびスクリュー303を有する。ベース体302の先端にマンドレル308が形成されており、マンドレル308には複数本の円柱棒308aが配置される。スクリュー303が回転するとセラミックス粉末310が押出されてハニカム状のセラミックスビレット41が形成する。このセラミックスビレット41は、図17で示すように複数の孔41aを有する。孔41aは、セラミックスビレット41の延びる方向に沿って延びる。
【0095】
図18を参照して、実施の形態1と同様に、酸化物超電導線のフィラメントの原料となる粉末を成形してロッド42を形成する。
【0096】
図19を参照して、複数本のロッド42を孔41aに嵌め合わせる。これによりセラミックス被覆ロッド43を形成する。セラミックス被覆ロッド43を金属管としての銀シース44に挿入して多芯ビレット45を形成する。多芯ビレット45に熱処理を加えてセラミックスビレット41に含まれるバインダ類を熱分解する。
【0097】
図20を参照して、バインダ類を熱分解した後で多芯ビレット45を塑性加工で線引き加工して多芯丸線46を形成する。
【0098】
図15を参照して、多芯丸線46に矩形断面成形と熱処理を行ない、フィラメントに酸化物超電導体を生成することによって複数の酸化物超電導体のフィラメント47がセラミックス被覆層48に埋込まれ、その外側に銀シース44が配置された酸化物超電導線材49を得ることができる。
【0099】
(実施の形態4)
図21は、この発明の実施の形態4に従った酸化物超電導線材の断面図である。図21を参照して、酸化物超電導線材120は、酸化物超電導体としてのフィラメント117と、フィラメント117を被覆し、押出し法により形成され、フィラメント117の運転温度において非電導体となるセラミックス被覆体としてのセラミックス被覆層112と、セラミックス被覆層112を被覆する金属管としての銀シース114とを有する。フィラメント117とセラミックス被覆層112との間には銀からなるシース体110が設けられている。酸化物超電導線材120はテープ状であり、紙面の手前側から奥側に向って延びる。フィラメント117、銀シース110、セラミックス被覆層112および銀シース114は横方向に延びるように偏平形状に形成されている。フィラメント117は、たとえば(BiPb)2Sr2Ca2Cu3Xで構成する。酸化物超電導線材120内には複数本のフィラメント117が配置され、それらを覆うように銀シース110およびセラミックス被覆層112が形成されている。複数本のフィラメント117は酸化物超電導線材120の中心軸に対して螺旋状に延びるように形成されている。
【0100】
図22〜図25は図21で示す酸化物超電導線材の製造方法を説明するための図である。図22を参照して、酸化物超電導フィラメントの原料となる粉末を成形してロッド100を形成する。ロッド100を銀からなる銀シース110に挿入して銀被覆ロッド101を得る。
【0101】
図23を参照して、実施の形態1で示したのと同様の押出し加工により銀シース110の外側にセラミックス被覆層112を形成する。これにより、セラミックス/銀被覆ロッド113を形成する。
【0102】
図24を参照して、複数本のセラミックス/銀被覆ロッド113を銀シース114内に挿入して多芯ビレット115を形成する。多芯ビレット115に熱処理を加えてセラミックスに含まれるバインダ類を熱分解する。
【0103】
図25を参照して、熱分解後の多芯ビレット115を塑性加工で線引きして多芯丸線116とする。
【0104】
図21を参照して、多芯丸線116に矩形断面成形と熱処理を行ない、フィラメントに酸化物超電導体を生成することによって、複数の酸化物超電導体のフィラメント117がセラミックス被覆層112に埋込まれ、その外側に銀シース114が配置された酸化物超電導線材120を得ることができる。
【0105】
(比較の形態1)
図26は、比較の形態1に従った酸化物超電導線材の断面図である。図26を参照して、酸化物超電導線材109は、酸化物超電導体により構成されるフィラメント105と、銀母材107と、銀シース102とを有する。フィラメント105を取囲むように銀母材107が形成され、それらを覆うように銀シース102が設けられる。フィラメント105は複数本形成され、それらは酸化物超電導線材109の延びる方向に沿って螺旋状に形成されている。
【0106】
図27〜図29は、図26で示す酸化物超電導線材の製造方法を説明するための図である。図27を参照して、まず酸化物超電導線のフィラメントの原料となる粉末を成形してロッド100を形成する。ロッド100を銀シース110で覆う。これを伸線して銀被覆ロッド101を得る。
【0107】
図28を参照して、複数本の銀被覆ロッド101を銀シース102に挿入して多芯ビレット103を形成する。
【0108】
図29を参照して、多芯ビレット103を塑性加工で線引きして多芯丸線104を形成する。
【0109】
図26を参照して、多芯丸線104に矩形断面成形と熱処理を行ない、フィラメントに酸化物超電導体を生成することによって複数本の酸化物超電導体からなるフィラメント105が銀母材107に取囲まれ、その外側に銀シース102が配置された酸化物超電導線材109を得ることができる。
【0110】
(比較の形態2)
図30は、比較の形態2に従った酸化物超電導線材の断面図である。図30を参照して、この発明の比較の形態2に従った酸化物超電導線材220では、セラミックス被覆層212の製造方法が異なる。すなわち、実施の形態4では、セラミックス被覆層112が押出し法により形成されたのに対し、比較の形態2では、セラミックス被覆層212が塗布により形成される。
【0111】
図31〜34は、図30で示す酸化物超電導線材の製造方法を説明するための図である。図31を参照して、まず、酸化物超電導フィラメントの原料となる粉末を成形してロッド100を形成する。ロッド100を銀からなる銀シース110に挿入して銀被覆ロッド101を得る。
【0112】
セラミックスとバインダを混合したものを銀シース110上に塗布してセラミックス被覆層212を形成することによりセラミックス/銀被覆ロッド113とする。このときセラミックスとバインダとの混合物に対するバインダの体積比率を約50%とした。
【0113】
図33を参照して、複数のセラミックス/銀被覆ロッド113を束ねて銀シース114内に挿入することにより多芯ビレット115を形成する。多芯ビレット115に熱処理を加えて、セラミックス被覆層212に含まれるバインダ類を熱分解する。
【0114】
図34を参照して、バインダ類を熱分解した後で多芯ビレット115を塑性加工で線引きして多芯丸線116とする。
【0115】
図30を参照して、多芯丸線116に矩形断面成形と熱処理を行ない、フィラメントに酸化物超電導体を生成することによって複数の酸化物超電導体により構成されるフィラメント117が銀シース110とセラミックス被覆層212に埋込まれ、その外側に銀シース114が配置された酸化物超電導線材220を得ることができる。
【実施例】
【0116】
(試料の作製)
(1) 試料A〜Fについて
まず、以下の表1で示す試料を作成した。
【0117】
【表1】

【0118】
試料A〜Fについては、(BiPb)2Sr2Ca2Cu3X超電導体の組成比に合わせて、Bi、Pb、Sr、CaおよびCuの酸化物または炭酸塩を混合して大気熱処理と粉砕を数回繰返して得た仮焼粉末を出発材料とした。この出発材料から実施の形態1〜4および比較の形態1〜2の方法に従い超電導線材を形成した。なお、それぞれの製造方法においては、線材の塑性加工の最終段階の矩形断面を成形する前にツイストを行なった。さらに、フィラメントの芯数は61本とし、最終的にできた酸化物超電導線材はテープ形状であり、その幅は3.5mmであり、厚さは0.23mmであった。
【0119】
(2) 試料Gについて
試料Gでは、出発材料として、(BiPb)2Sr2CaCu2Xの組成比に合わせて、Bi、Pb、Sr、CaおよびCuの酸化物または炭酸塩を混合して大気熱処理と粉砕を数回繰返して得た仮焼粉末を出発材料とした。また、セラミックス被覆体を(Ca、Sr)−Cu酸化物とした。この材料を用いて、実施の形態1で示す方法に従い酸化物超電導線材を形成した。なお、試料A〜Fと同様の工程でツイスト加工を行ない、得られた酸化物超電導線材のフィラメントの芯数は61本であり、寸法は幅が3.5mmであり、厚みが0.23mmのテープ形状となった。また、最終形状の線材に施す熱処理で母材の(Ca、Sr)−Cu酸化物と出発材料とが反応して、(BiPb)2Sr2Ca2Cu3X超電導体を形成した。
【0120】
(超電導特性の測定)
それぞれの試料A〜Gについて、温度が77Kの液体窒素中での臨界電流値Icを測定した。それぞれの試料A〜Gについて、温度が77Kの液体窒素中で外部磁場(磁界:0.1T、周波数:50Hz)を線材の長さ方向に垂直でテープ面に平行な方向に印加することにより磁化法で交流損失を測定した。測定した試料の長さと臨界電流値からそれぞれの試料についての交流損失を以下の式に従って求めた。
【0121】
i=(試料iの交流損失/[(試料iの臨界電流値)・(試料iの長さ)]
なお、Wiの単位はW/A・mである。
【0122】
この交流損失値を試料Aの交流損失値で除した値を以下の式に従い規格化した交流損失とした。
【0123】
規格化した交流損失<Wi>=Wi/WA
規格化した交流損失の結果を表1に示す。
【0124】
表1より、比較品である試料AおよびBでは交流損失が比較的大きいのに対して、本発明品である試料C〜Gでは、交流損失が極めて小さくなっていることがわかる。よって、この発明に従えば、交流損失が小さい酸化物超電導線材を得ることができる。
【0125】
以上、この発明について説明したが、ここで示した実施の形態はさまざまに変形することが可能である。ます、酸化物超電導体として、ビスマスの2223系だけでなく、ビスマスの2212系を用いることができる。
【0126】
さらに、超電導体を被覆するセラミックス粉末としては、好ましくは、ビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウムおよび銅のセラミックスを用いることができる。最も好ましくは、セラミックス粉末は、カルシウム、ストロンチウムおよび銅の酸化物を含む。
【0127】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】この発明の実施の形態1に従った酸化物超電導線材の断面図である。
【図2】図1で示す酸化物超電導線材の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図3】図1で示す酸化物超電導線材の製造方法の第2工程を示す斜視図である。
【図4】図3で示す装置の模式的な断面図である。
【図5】図1で示す酸化物超電導線材の製造方法の第3工程を示す斜視図である。
【図6】図1で示す酸化物超電導線材の製造方法の第4工程を示す斜視図である。
【図7】図1で示す酸化物超電導線材の製造方法の第5工程を示す斜視図である。
【図8】この発明の実施の形態2に従った酸化物超電導線材の断面図である。
【図9】図8で示す酸化物超電導線材の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図10】図8で示す酸化物超電導線材の製造方法の第2工程を示す斜視図である。
【図11】図8で示す酸化物超電導線材の製造方法の第3工程を示す斜視図である。
【図12】図8で示す酸化物超電導線材の製造方法の第4工程を示す斜視図である。
【図13】図8で示す酸化物超電導線材の製造方法の第5工程を示す斜視図である。
【図14】図8で示す酸化物超電導線材の製造方法の第6工程を示す斜視図である。
【図15】この発明の実施の形態3に従った酸化物超電導線材の断面図である。
【図16】図15で示す酸化物超電導線材の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図17】図15で示す酸化物超電導線材の製造方法の第2工程を示す斜視図である。
【図18】図15で示す酸化物超電導線材の製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図19】図15で示す酸化物超電導線材の製造方法の第4工程を示す斜視図である。
【図20】図15で示す酸化物超電導線材の製造方法の第5工程を示す斜視図である。
【図21】この発明の実施の形態4に従った酸化物超電導線材の断面図である。
【図22】図21で示す酸化物超電導線材の製造方法の第1工程を示す斜視図である。
【図23】図21で示す酸化物超電導線材の製造方法の第2工程を示す斜視図である。
【図24】図21で示す酸化物超電導線材の製造方法の第3工程を示す斜視図である。
【図25】図21で示す酸化物超電導線材の製造方法の第4工程を示す斜視図である。
【図26】比較の形態1に従った酸化物超電導線材の製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図27】図26で示す酸化物超電導線材の製造方法の第1工程を示す斜視図である。
【図28】図26で示す酸化物超電導線材の製造方法の第2工程を示す斜視図である。
【図29】図26で示す酸化物超電導線材の製造方法の第3工程を示す斜視図である。
【図30】比較の形態2に従った酸化物超電導線材の断面図である。
【図31】図30で示す酸化物超電導線材の製造方法の第1工程を示す斜視図である。
【図32】図30で示す酸化物超電導線材の製造方法の第2工程を示す斜視図である。
【図33】図30で示す酸化物超電導線材の製造方法の第3工程を示す斜視図である。
【図34】図30で示す酸化物超電導線材の製造方法の第4工程を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0129】
21,32,42,100 ロッド、22,31,48,112 セラミックス被覆層、23,33,43 セラミックス被覆ロッド、24,34,44,114 銀シース、25,35,45,115 多芯ビレット、26,36,46,116 多芯丸線、27,37,47 フィラメント、29,39,49 酸化物超電導線材、41 セラミックスビレット、101 銀被覆ロッド被覆ロッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の酸化物超電導体と、前記複数の酸化物超電導体に接触して前記酸化物超電導体を被覆し、前記酸化物超電導体の運転温度において非超電導体となるセラミックス被覆体と、前記セラミックス被覆体に接触して前記セラミックス被覆体を被覆する金属管とを備え、前記金属管で囲まれた領域内には金属導電体が存在していない酸化物超電導線材の製造方法であって、
酸化物超電導体の原料を成形してロッドを形成する工程と、
セラミックス粉末を含むセラミックス被覆層を前記ロッドの表面に形成してセラミックス被覆ロッドを形成する工程と、
複数本の前記セラミックス被覆ロッドを金属管内に挿入して多芯ビレットを形成する工程と、
前記多芯ビレットを塑性加工して多芯線を形成する工程と、
前記多芯線に熱処理を行ない酸化物超電導体を形成する工程とを備えた、酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
複数の酸化物超電導体と、前記複数の酸化物超電導体に接触して前記酸化物超電導体を被覆し、前記酸化物超電導体の運転温度において非超電導体となるセラミックス被覆体と、前記セラミックス被覆体に接触して前記セラミックス被覆体を被覆する金属管とを備え、前記金属管で囲まれた領域内には金属導電体が存在していない酸化物超電導線材の製造方法であって、
セラミックス粉末を成形してセラミックスパイプを形成する工程と、
前記セラミックスパイプ内に酸化物超電導体の原料を充填してセラミックス被覆ロッドを形成する工程と、
複数本の前記セラミックス被覆ロッドを金属管内に挿入して多芯ビレットを形成する工程と、
前記多芯ビレットを塑性加工して多芯線を形成する工程と、
前記多芯線に熱処理を行ない酸化物超電導体を形成する工程とを備えた、酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
複数の酸化物超電導体と、前記複数の酸化物超電導体に接触して前記酸化物超電導体を被覆し、前記酸化物超電導体の運転温度において非超電導体となるセラミックス被覆体と、前記セラミックス被覆体に接触して前記セラミックス被覆体を被覆する金属管とを備え、前記金属管で囲まれた領域内には金属導電体が存在していない酸化物超電導線材の製造方法であって、
セラミックス粉末を成形して長手方向に延びる複数の孔を有するセラミックスビレットを形成する工程と、
前記セラミックスビレットの複数の孔に酸化物超電導体の原料を充填してセラミックス被覆ロッドを形成する工程と、
前記セラミックス被覆ロッドを金属管内に挿入して多芯ビレットを形成する工程と、
前記多芯ビレットを塑性加工して多芯線を形成する工程と、
前記多芯線に熱処理を行ない酸化物超電導体を形成する工程とを備えた、酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記酸化物超電導体の原料が前記酸化物超電導体の組成の一部を含み、前記セラミックス粉末が前記酸化物超電導体の組成の残りの組成を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
熱処理前の前記多芯線を捻じる工程をさらに備えた、請求項1から4のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックス粉末は、ビスマス、鉛、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、チタン、ニオブ、モリブデン、タンタル、タングステン、バナジウム、ジルコニウム、銅および銀からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む酸化物を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項7】
前記酸化物超電導体は、ビスマス系超電導体である、請求項1から6のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項8】
前記セラミックス粉末はアルカリ土類金属と銅とを含む酸化物を含む、請求項6に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項9】
前記金属管は銀、銅、マンガン、マグネシウム、アンチモン、鉄、クロムおよびニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかの方法で製造した酸化物超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2006−24576(P2006−24576A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241612(P2005−241612)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【分割の表示】特願2000−258753(P2000−258753)の分割
【原出願日】平成12年8月29日(2000.8.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】