説明

酸化的病原性毒素およびUV照射を原因とする有害な影響からのヒトの細胞、特にヒト皮膚の細胞の保護を改善するための製剤

【課題】酸化的病原性毒素および紫外線照射の有害な影響からヒトの皮膚細胞のミトコンドリアを保護することを改善するための局所製剤を提供する。
【解決手段】前記製剤は、有効成分として、ミトコンドリア膜を貫通することが可能であるタンパク質内容物を特徴とする。前記薬剤は、薬理学的に認容可能な賦形剤を含んでいてもよい。前記有効成分は、ミトコンドリアのテロメラーゼ逆転写酵素、または、ポリメラーゼガンマであってもよい。本発明はまた、ヒトの皮膚を手当てするための対応する化粧方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化的病原性毒素およびUV照射を原因とする有害な影響からのヒト細胞のミトコンドリア、特にヒト皮膚の細胞のミトコンドリアの保護の改善のための製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、細胞のエネルギー産生にとって特別に重要な要素である細胞内小器官である。ミトコンドリアは脂肪酸の分解を保証し、クエン酸回路、電子伝達系および酸化的リン酸化がここで発生する。これらの過程について、その小器官に完全な一揃いの酵素が提供される。いわば、ミトコンドリアは、ヒト細胞の動力装置なので、細胞代謝のエネルギー変換全体に責務を負う。その内部構造のために、ミトコンドリアは、毒性環境の影響および特定波長の紫外線(UVAおよびUVB)の照射に特別に敏感である。
【0003】
これらの病原性毒素およびストレス因子の影響下で、酸素の存在は、ラジカルおよびいわゆる活性酸素種(ROS)を生じ、それらは、正しくエネルギーを変換するミトコンドリアの能力を損なう。これらの機能的な障害およびチトクロームCのようなほかの因子は、ミトコンドリアの効率性が細胞の加齢とともに連続的に低下し、最終的にはチトクロームCの影響下でのアポトーシスの形態での細胞死をもたらすという事実に関与する。これらの過程は自然な加齢として認知されている。
【0004】
ミトコンドリアの弱化は、今や結果としてROSのさらなる増加を生じるので、これらは、最終的には対応する酵素の天然の防御メカニズムを利用することができず、細胞死をさらに加速する。上述の酸化的過程の間にラジカルが作用して、特に過酸化水素化合物から形成されるものを増やす。
今のところ、ヒト細胞の加齢過程における遊離ラジカルの影響は揺るぎないとみなされている。概略的な観点から、上述の過程では、水素から水への酸化の間に産生される内因性エネルギーの老廃物として遊離ラジカルは主として産生される。電子が伝達系から逃れ、酸素原子によって捕捉される場合、または酸化が完全には行われず、目的とされる酸素原子の不活性気体の殻が水素との連結の間でのみ部分的に達成されるのであれば、前記は、電子伝達系の要因の範囲内で生じる。それらが不活性気体の殻のエネルギー飽和に寄与することができるという条件で、過酸化物またはヒドロキシルラジカルの形態での発生しつつある生成物は、今や特別に反応性であり、反応体としての無作為の原子を求める。その過程で、細胞病原性の副生成物が生じる。生体では、それらは一種の連鎖反応を開始し、そこでは、たとえば、脂質またはDNAのような近隣の分子を接続し、そのために、それらを変化させることによって、「断片」が、酸素原子の完全な外殻を形成し損なっている電子を獲得しようとする。
【0005】
ラジカルについて最も敏感な弱点はミトコンドリアである。特にミトコンドリアDNA(mt−DNA)と同様にミトコンドリア膜が損傷されるので、そこでは破壊的作用が発生する。それは酸化的攻撃に対して特に敏感に反応する。それは1ダースをはるかに上回るタンパク質をコード化(遺伝暗号の指定)しており、それらはエネルギー産生の機能に重要なので、損傷は無視できない。染色体の中心的DNAが、酸化されたDNAを切断し、それらを置き換えることができる多数の酵素系を有する一方で、生物学的進化の観点から見てさらに古いMt−DNAはそのような修正システムを有していない。さらに、それは、さもなければ遺伝物質を覆うことができるヒストンも欠く。この理由で、酸化的損傷はミトコンドリアで特に劇的である。損傷されたミトコンドリアでは、あらゆる細胞生物学過程のエネルギー担体であるATPの産生量が次第に減ると同時に、それらは、老廃物としての遊離ラジカルをますます放出し、それは言い換えれば今やミトコンドリアへのさらなる損傷の原因となるので悪循環が生じる。
【0006】
したがって、細胞が利用できるエネルギーが次第に減る。遊離ラジカルによって誘導された損傷が蓄積し、結果的にミトコンドリアの機能の損失を高めるので、組織や臓器、特にヒトの最大の器官である皮膚の老化が同様に外側から目に見えるようになる。
50年以上、遊離ラジカルは老化過程の鍵となる因子とみなされており、可能な限り、老化過程に対する揺るぎない影響を防ぐ多数の試みが以前から行われている。「ミトコンドリア医学」との調和を保つことにおいて、これら細胞小器官の保護および/または修復に連動させる老化防止医学のアプローチがある。しかしながら、現在、研究者が未だ、損傷されたミトコンドリアDNAの修復に関与する酵素過程を完全に説明することをやり遂げていないので、このアプローチは特に困難な過程にある。
【0007】
下記特許文献1は、ミトコンドリアの電子伝達系のエネルギー供与体の合成を増す化粧製剤または医薬製剤を製造し、塗布することによって、老化に対してならびに環境毒素およびUV照射による有害な影響に対してヒトの皮膚を保護することができることと、同時に細胞代謝における活性酸素種(ROS)の比率を減らすこととを明らかにした。この方法では、言及された病原性毒素に対する保護としてヒトの皮膚細胞が刺激されることになる。
【0008】
下記特許文献1に由来する理論では、ヒトの呼吸系のエネルギー供与体(たとえば、ATP、クレアチンリン酸、グルコース−6−リン酸、ピロリン酸およびホスホエノールピルビン酸)によるミトコンドリアの活性化、すなわち、その特定の構造のために、エネルギー供給過程とエネルギー消費過程との間の化学結合のエネルギーの転移(移送)を引き受け、同時にROSを増やすことがない化合物の活性化は、野菜抽出物、および異なった活性物質、好ましくは抗酸化剤、たとえば、アスコルビン酸、酵母およびグリコーゲンの組み合わせと少なくとも1つのほかの活性化合物とを用いて高めることができるとされている。最後に言及した混合物は、細胞のエネルギー収支に対して相乗効果を発揮することができ、言及された損傷に対してそれを保護する[0015−0017]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第1382327号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
多数の活性のある抗酸化剤[0018]の中で、構造的に完全に異なる物質が言及されているが、それらの間にタンパク質はない。今に至るまで、細胞のエネルギー収支への直接的な影響に主として注意が払われていたと思われる。この点で、提案された手順では、区別することなくあらゆるROSが妨害されるので、細胞におけるシグナル経路に必須である活性酸素種が影響を被るという事実が無視されている。したがって、上記特許文献1に記載された理論は実践的に本当に実行することができることに深刻な疑いがある。結局のところ、専門家が、多数の活性があるとされる部類の物質から本当に有用な個々の物質を同定し、選択することはほとんどできない。
【0011】
しかしながら、本発明によれば、上述の目的は、新しい、思いがけなく有効な、特に再現可能な方法で実行される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、上述の修復系によって、損傷されたmt−DNAの区分に含まれ、ミトコンドリア中で活性のある特定の反応性タンパク質が、mt−DNAを介してヒト皮膚細胞に対して優れた保護作用を生み出し、そのために、改変により、この作用はさらにかなり高めることができることが見い出された。ポリメラーゼガンマおよびテロメラーゼ逆転写酵素の酵素がミトコンドリアに活性のあるタンパク質として特に有効であることが分かった。
【0013】
皮膚における好適な局所キャリアによって、これらのタンパク質が皮膚細胞のミトコンドリアに輸送されると、それらは、非常に特殊な方法で活性酸素種(ROS)の攻撃に対して要求された作用を展開し、すなわち、細胞におけるシグナル経路の機能に必要とされる活性酸素種は損傷を受けないままである。言及された酵素は、AIDS研究の枠組み内のみならず、世界中で鋭意検討されたが、その作用のメカニズムは未だ不明である。
【0014】
この新しい種類の作用の発見は特別な驚きであり、認められた効果は、技術の既知の範囲を超えている。
細胞膜を介したミトコンドリアへの取り込みが特に容易に可能なので言及されたタンパク質をリポソームに詰めれば、相当する組成物の調製の特に有効な方法が達成される。内皮細胞では、ミトコンドリアのテロメラーゼ逆転写酵素(mt−TERT)によって特に良好な保護効果が見い出された。
【0015】
本発明の目的は、低アレルギー性キャリアと少なくとも1つの均質に一体化されたミトコンドリア膜貫通タンパク質とから成る、ヒトに塗布される局所組成物である。これらのタンパク質は、mt−DNAの天然の修復過程に関与する多数の酵素から選択される。ポリメラーゼガンマ及びmt−TERTの酵素が好ましい。
本発明の別の目的は、ヒトの皮膚の細胞の老化に対する保護および治療のための、mt−DNAの天然の修復過程に関与する一連の酵素に由来する少なくとも1つのミトコンドリア膜貫通タンパク質の使用である。
【0016】
本発明の別の目的は、ヒトの皮膚の細胞の老化に対する保護および治療のために局所剤を製造するための、mt−DNAの天然の修復過程に関与する一連の酵素に由来する少なくとも1つのミトコンドリア膜貫通タンパク質の使用である。
本発明に係る組成物の製造については、上記で言及されたタンパク質を好適なキャリアと一体化させ、必要であれば、および必要なとき、通常の補助剤とできるだけ均質に混合する。
【0017】
局所塗布をサポートする補助剤として、乳化剤、溶媒、濃厚剤(シックナー)、充填材料、安定剤、防腐剤、抗酸化剤および香料を使用してもよい。
たとえば、ポリオキシエチレンソルビタン酸、および胆汁酸のエステルまたは塩のような表面活性剤を用いて生体利用効率を潜在的に改善してもよい。さらに、皮膚の保護のために好適な有効成分を添加することができる。これらの成分としては、それらが、有効成分として使用されるミトコンドリアのタンパク質と相溶性であるという条件で、たとえば、ビタミン、抗菌剤、静真菌剤、または殺真菌剤が挙げられる。すでに言及されたように、相応してリポソームに詰められたタンパク質は特に有効である。
【0018】
本発明に従って使用されるタンパク質および/または酵素は既知であり、市販されている物質である。
本発明の別の目的は、局所に塗布され、記載されたミトコンドリアのタンパク質を含有する組成物によってヒトの皮膚の細胞におけるミトコンドリアの有効な保護を達成することである。
【0019】
ヒトの呼吸系で重要であり、かつヒトmt−DNAを修復することができるだけでなく、病原性毒素による攻撃に対して保護することもできるミトコンドリアのタンパク質を局所製剤の形態で接触させ、効果をもたらすという事実によってその目的が達成される。
ミトコンドリアに対するミトコンドリア膜貫通タンパク質のそのような保護的メカニズムおよび有効な作用は今に至るまで知られていなかった。
【0020】
本発明に従って調製される、上記で記載された塗布が好ましい。
たとえば、クリーム、エマルションまたはローションの形態で、有効成分として少なくとも1種のミトコンドリア膜貫通タンパク質を含有する、本発明に従って調製される組成物の皮膚または上皮への塗布は、各理論的根拠に基づいて設計されるべきであり、本発明に従った有効成分とミトコンドリアとの間の相互作用が保証される限り、この意味で無作為であり、有効成分が、選択された生薬を介してできるだけ強くミトコンドリアに作用できることである。
【0021】
本発明に従って投与されるミトコンドリア膜貫通タンパク質は、ヒトの皮膚への塗布に好適な剤形に加工することができる。前記剤形は、たとえば、チンキ、ハイドロゲル、水中油エマルション、油中水エマルション、ローション、クリーム、軟膏またはスプレーである。最も都合の良い濃度は、使用される支持物質の重量に対して0.01〜20.0重量パーセントの範囲である。好ましい濃度は0.1〜10重量パーセントである。
【0022】
一般に、本発明に従った有効成分は、周知の方法で、従来の低アレルギー性で薬理学的に有害ではない補助物質及び添加物質を用いて、生薬的に加工することができる。そのような添加物質は、たとえば、乳化剤、溶媒、濃厚剤、充填材料、安定剤、防腐剤、抗酸化剤または香料である。たとえば、ポリオキシエチレンソルビタン酸、および胆汁酸のエステルまたは塩のような表面活性剤を用いて生体利用効率を、可能であれば、および可能なとき、改善してもよい。
【0023】
ミトコンドリア膜貫通タンパク質以外に、そのほかの適当な有効成分も皮膚の保護に採用されてもよく、それらが、本発明に従ったミトコンドリア膜貫通タンパク質に影響を及ぼさないという条件で、たとえば、ビタミン類、無機または有機の紫外線フィルター、およびに抗菌剤、静真菌剤、または殺真菌剤が挙げられる。
たとえば、無機酸化物または顔料のような不溶物を含めるために、必要であれば、および必要なとき、たとえば、ポリアクリレート、リグニン、タンニン酸塩またはそのほかの誘導体のような分散剤を加える。濃厚剤として、たとえば、コロイド状酸化珪素が使用される。たとえば、グリセリン、グリコールのような親水性有機溶媒または脂肪族アルコールと共にハイドロゲルを製造することができる。さらに、本発明に従って、そのほかの補助成分およびそのほかの有効成分から切り離して、有効成分含有のリポソームもしくはミクロソームの形態で、またはリポソームもしくはミクロソームに内包された有効成分として、本発明に従った有効成分を使用することが可能である。
【0024】
以下の実施例を用いて本発明を説明するが、以下の実施例は決して前記発明を限定するものではない。
実施例1
【0025】
【表1】

【0026】
実施例2
【0027】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化的病原性毒素および紫外線照射を原因とする有害な影響に対するヒトの皮膚細胞の保護を改善するための皮膚科学製剤または化粧製剤であって、有効成分と従来の薬理学的に認容可能な賦形剤とを含み、前記有効成分が少なくとも1種のミトコンドリア膜貫通タンパク質であることを特徴とする製剤。
【請求項2】
前記有効成分がミトコンドリアのテロメラーゼ逆転写酵素であることを特徴とする請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記有効成分がポリメラーゼガンマであることを特徴とする請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
酸化的病原性毒素および紫外線照射を原因とする有害な影響に対するヒトの皮膚細胞の保護を改善するためのミトコンドリア膜貫通タンパク質の塗布。
【請求項5】
前記ミトコンドリア膜貫通タンパク質がミトコンドリアのテロメラーゼ逆転写酵素であることを特徴とする請求項4に記載の塗布。
【請求項6】
前記ミトコンドリアのタンパク質がポリメラーゼガンマであることを特徴とする請求項4に記載の塗布。
【請求項7】
従来の薬理学的に認容可能な賦形剤と共に有効成分を接触させることによって、酸化的病原性毒素および紫外線照射を原因とする有害な影響に対するヒトの皮膚細胞の保護を改善するための化粧方法であって、前記有効成分が少なくとも1種のミトコンドリア膜貫通タンパク質であることを特徴とする化粧方法。
【請求項8】
前記ミトコンドリア膜貫通タンパク質がミトコンドリアのテロメラーゼ逆転写酵素であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ミトコンドリア膜貫通タンパク質がポリメラーゼガンマであることを特徴とする請求項7に記載の方法。

【公表番号】特表2010−533134(P2010−533134A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515404(P2010−515404)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005587
【国際公開番号】WO2009/010220
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(510008961)インスティチュート フュア ウムヴェルトメディツィーニッシェ フォルシュング ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】