説明

酸化錫系ガスセンサの製造方法及び酸化錫系ガスセンサ

【課題】製造が簡易で安価で且つ検出感度の優れた酸化錫系ガスセンサの製造方法及び低コストで高感度の酸化錫系ガスセンサを提供する
【解決手段】 酸化錫にPd、Pt、Auのいずれかの貴金属触媒を担持させてなる酸化錫系ガスセンサの製造方法において、Snの酸性水溶液に炭酸水素アンモニウム水溶液及び/又はアンモニア水溶液を加えて水酸化錫ゲルを生成させ更にこの水酸化錫ゲルから水熱反応によりSnOゾルを形成させる一連の工程の、いずれかの段階でPd、Pt、Auのいずれかの貴金属を加え、少なくとも最終工程を、Pd、Pt、Auのいずれかの貴金属の存在下で行う。このような工程で得られる貴金属含有のSnOゾルを、Alなどの絶縁基板11の電極部12(例えば櫛歯型Au電極部)に含浸させ乾燥した後焼成することにより、貴金属触媒を担持させた多孔性の膜13からなる酸化錫系ガスセンサ素子10を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化錫系ガスセンサの製造方法及び酸化錫系ガスセンサに関する。さらに詳しくは、酸化錫にPd、Pt、Auのいずれかの貴金属触媒を担持させてなる酸化錫系ガスセンサの製造方法及びこの製造方法により得られる酸化錫系ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
、CH4、等のガスは可燃性で引火により爆発することがあり、またCO、HS等のガスは人体や生物に対する毒性を有しており、特にHSは不快感を与えるため、これ等の漏洩ガスに対する検出感度の高いガスセンサが要望されている。
【0003】
この種のガスセンサとして、例えば、酸化錫等の酸化物半導体に、感度向上のためにPd、Pt、Au等の貴金属触媒を担持させてなる酸化錫系ガスセンサが広く知られている。検出原理は、上記酸化物半導体に接触する微量のガス濃度に応じて急変する電気抵抗値の変化を、ガスセンサの出力電圧の変化として捉えるものである。酸化錫半導体は上記のようなガスが接触することにより電気抵抗値が低くなる特性を示す。
【0004】
このようなガスセンサを製造する汎用の方法としては、例えば、下記特許文献1に開示されているように、電極付きのAl等の絶縁基板上にSnOゾル溶液を付着乾燥させた後焼成することによりSnO粒子からなる多孔性の膜を予め形成し、このSnO膜の表面にPd、Pt、Au等の貴金属触媒の酸水溶液或いはコロイド液を含浸させて乾燥させ、これを高温の空気中で焼成することにより、ガスセンサを得る方法が一般的である。
【特許文献1】特開2000−2680号公報
【0005】
ところが、上記従来方法にあっては、予めSnO粒子からなる多孔性の膜を形成しておき、これに貴金属触媒の酸水溶液或いはコロイド液を含浸させるもので、酸化錫の粒子形成と貴金属触媒の担持とが二つ工程で行われるので、その製造が煩瑣でありコスト高になり、より簡易な製造方法が望まれる。さらに、上記従来方法にあっては、膜表面に貴金属の微細粒子が凝集しやすく、しかも膜内部にいくほど貴金属触媒が少なくなり、そのため比較的多量の貴金属触媒を担持せねばガスの感度向上がなされず、貴金属触媒は高価であるためコスト高になるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術における問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、製造が簡易で低コストで得られ且つ検出感度の優れた酸化錫系ガスセンサの製造方法及び低コストで高感度の酸化錫系ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、酸化錫にPd、Pt、Auのいずれかの貴金属触媒を担持させてなる酸化錫系ガスセンサの製造方法において、Snの酸性水溶液に炭酸水素アンモニウム水溶液及び/又はアンモニア水溶液を加えて水酸化錫ゲルを生成させ更にこの水酸化錫ゲルから水熱反応によりSnOゾルを形成させる一連の工程を含み、この一連の工程のうち少なくとも最終工程が、Pd、Pt、Auのいずれかの貴金属の存在下で行われることを特徴とする酸化錫系ガスセンサの製造方法である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、酸化錫にPd、Pt、Auのいずれかの貴金属触媒を担持させてなる酸化錫系ガスセンサの製造方法において、Snの酸性水溶液とPd、Pt、Auのいずれかの貴金属の酸性水溶液とに、炭酸水素アンモニウム水溶液及び/又はアンモニア水溶液を加えて水酸化錫ゲルを生成させ、更にこの水酸化錫ゲルから水熱反応により上記貴金属を含有するSnOゾルを形成させることを特徴とする酸化錫系ガスセンサの製造方法である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の方法により得られる貴金属を含有するSnOゾルを電極付き絶縁基板上に付着乾燥させた後焼成することを特徴とする酸化錫系ガスセンサの製造方法である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、Snの酸性水溶液及びPd、Pt、Auのいずれかの酸性水溶液が塩化物水溶液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化錫系ガスセンサの製造方法である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、Snの酸性水溶液から水酸化錫ゲルを生成させるために加える液およびPd、Pt、Auのいずれかの酸性水溶液に加える液が炭酸水素アンモニウム水溶液及びアンモニア水溶液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化錫系ガスセンサの製造方法である。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化錫系ガスセンサの製造方法により得られることを特徴とする酸化錫系ガスセンサである。
【0013】
本発明において、Snの酸性水溶液は、ガスセンサの主材料となるSnO粒子からなる多孔性の膜を形成するためのSnOゾルの合成に用いるものであって、SnCl、Sn(CHCOO)、SnC等の錫の塩酸水溶液、酢酸塩水溶液やしゅう酸塩水溶液等も使用できる。特に、塩酸水溶液が好ましく、取り扱いの便宜上、Snを塩酸で溶かして生成するSnClの塩酸水溶液(塩酸塩水溶液)が好適に用いられる。これ等の濃度は、0.5モル/リットル〜1.5モル/リットルであることが好ましい。酸性水溶液であるのは後に炭酸水素アンモニウム水溶液またはアンモニア水溶液にて中和しさらにアルカリ化させて水酸化錫の微結晶にてなるゲルを発生させるためである。
【0014】
Pd、Pt、Auのいずれかの酸性水溶液としては、それぞれの塩酸溶液が好ましく、更に塩化物水溶液が取り扱いの便宜上好適に用いられる。例えば塩化パラジウム(PdCl)、ヘキサクロロ白金酸六水和物(HPtCl・6HO)、テトラクロロ金酸四水和物(HAuCl・4HO)のような塩酸水溶液(塩化物水溶液)が好適に用いられるが、その他、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム等のパラジウム塩も使用できる。これ等の濃度は、0.5ミリモル/リットル〜10.0ミリモル/リットルであることが好ましい。
【0015】
また、炭酸水素アンモニウム水溶液またはアンモニア水溶液は、Snの酸性水溶液やPd、Pt、Auのいずれかの貴金属の酸性水溶液を中和しさらにアルカリ化させてこれ等の金属水酸化物からなる沈澱物を得るために用いられるもので、このような水溶液は加熱により炭酸ガスやアンモニアとなって容易に気化し、得られるSnO粒子の膜中に余計な元素が残らないため最適である。特に、炭酸水素アンモニウム(重炭酸アンモニウム)水溶液が好ましく、その濃度は、0.5モル/リットル〜1.5モル/リットルであることが好ましい。
【0016】
Snの酸水溶液から水酸化錫ゲルを生成させるために加える液およびPd、Pt、Auのいずれかの酸水溶液に加える液が炭酸水素アンモニウム水溶液及びアンモニア水溶液であることが好ましい。炭酸水素アンモニウム水溶液を用いることで中和が正確にできるからであり、更にアルカリ化して水酸化物を析出させるためにはアンモニア水溶液が好ましい。
【0017】
本発明においては、Snの酸性水溶液に炭酸水素アンモニウム水溶液及び/又はアンモニア水溶液を加えて水酸化錫ゲルを生成させ、更にこの水酸化錫ゲルから水熱反応によりSnOゾルを形成させる一連の工程を有するものであるが、この一連の工程の少なくとも最終工程が、Pd、Pt、Auのいずれかの貴金属の存在下で行われることにより、貴金属を含む水酸化錫の微結晶にてなるゲルが生成し、更に水熱反応を行うことにより、上記貴金属触媒を含有するSnOゾルが得られる。
すなわち一連の工程のいずれかの段階でPd、Pt、Auのいずれかの貴金属を加え、Snと共存させ、以降の工程を貴金属の共存下で行う。ここで加える時の貴金属の状態は問わない。すなわち加える時の貴金属はイオンであると、単体であると、水酸化物等であることを問わない。一連の最終工程でいずれかの元素がイオン等の状態を問わず共存しておればよい。
【0018】
水熱反応の温度は、150〜300℃の高温で行われるのが好ましく、特に150〜200℃が設備上および安全性の観点からさらに好ましい。
上記水熱反応は、高温高圧の水が関与する反応(加水分解、脱水反応)であって、水溶液中でのイオンの溶解、析出により反応が進行し、水溶液から溶解度の低い貴金属触媒含有のSnOの微粒子の沈澱物が生成されるが、その結晶構造、微粒子の粒径などは水熱反応の条件により制御することができる。SnOの粒子径は一般に0.05μm以下、貴金属触媒の粒径は一般に10nm(0.01μm)以下とされる。
【0019】
本発明においては、貴金属を含有するSnOゾルを得る方法としては、上述のように、Snの酸性水溶液とPd、Pt、Auのいずれかの酸性水溶液とを加え、これに炭酸水素アンモニウム水溶液及び/又はアンモニア水溶液を加えてこれ等の金属水酸化物からなる沈澱物を生成させる方法のほか、Snの酸性水溶液に炭酸水素アンモニウム水溶液及び/又はアンモニア水溶液を加えて水酸化錫ゲルからなる沈澱物を生成させ、その後からPd、Pt、Auのいずれかの酸性水溶液を加え、先に生成した水酸化錫ゲルからなる沈澱物を核としてその表面に貴金属水酸化物からなる沈澱物を生成させる方法を採用してもよい。また、Pd、Pt、Auのいずれかの酸性水溶液に炭酸水素アンモニウム水溶液及び/又はアンモニア水溶液を加えて、先に生成した水酸化錫ゲルに加えることにより貴金属を含有するSnOゾルを生成させる方法を採用してもよい。
【0020】
特に、本発明においては、Snの酸性水溶液とPd、Pt、Auのいずれかの貴金属の酸性水溶液とに、炭酸水素アンモニウム水溶液及び/又はアンモニア水溶液を加えて水酸化錫ゲルを生成させ更にこの水酸化錫ゲルから水熱反応により上記貴金属を含有するSnOゾルを形成させる方法を採用するのが好ましい。
【0021】
こうして得られた貴金属触媒を含有するSnOゾルは、通常、櫛歯型Au電極のような電極付きのAl等の絶縁基板上に滴下するなどの方法で付着乾燥させた後、これを高温の空気中で焼成することによりSnOの焼結性が高められた多孔性の膜が形成され、酸化錫にPd、Pt、Auのいずれかの貴金属触媒を担持させた酸化錫系ガスセンサが得られる。焼成温度は、十分な膜強度を得るため、500〜1000℃が好ましい。
【0022】
ここで、上記絶縁基板上に形成される貴金属触媒担持のSnO粒子からなる膜は透明な多孔膜である。酸化錫への貴金属触媒の担持量は、十分な増感効果を得るためには一般に0.1〜5.0重量%が適当であるが、これに限定されない。また、透明な多孔膜の膜厚は、触媒効果の観点から、一般に20〜100μmが適当であるが、これに限定されない。上記貴金属による触媒効果は、拡散長と活性との積で表されるからである。
【0023】
なお、電極付きのAl等の絶縁基板の裏面には、ガスセンサの素子特性を制御するために公知の膜状のヒータが設けられてもよく、また上記ガスセンサの表面には、検出を妨害する雑ガスの影響を避けるために、必要に応じて公知のフィルタ膜などが設けられてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、Snの酸性水溶液に炭酸水素アンモニウム水溶液及び/又はアンモニア水溶液を加えて水酸化錫ゲルを生成させ、更にこの水酸化錫ゲルから水熱反応によりSnOゾルを形成させる一連の工程の少なくとも最終工程が、Pd、Pt、Auのいずれかの貴金属の存在下で行われるもので、水熱反応により酸化錫の粒子形成と貴金属触媒の担持とが一つの工程で行われるものであり、従来の汎用方法のように、予めSnO粒子からなる多孔性の膜を形成しておき、これに貴金属の酸水溶液或いはコロイド液を含浸させて貴金属触媒の担持を行うという二つの工程を要しないため、製造が簡易で低コストで安価で貴金属触媒担持の酸化錫系ガスセンサを製造することができる。
【0025】
しかも、高温高圧の熱水反応を採用することにより、水溶液中でのイオンの溶解、析出により反応が進行し、水溶液から溶解度の低い均質な貴金属触媒含有のSnO微粒子の沈澱物が生成されることにより、貴金属触媒はSnOの多孔性の膜の表面のみならず膜内までも均一に分散担持される。そのため、本発明方法で得られる酸化錫系ガスセンサによれば、比較的少量の貴金属触媒量でもって高感度のガスセンサを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の具体的な実施例と比較例とを挙げる。なお、本発明はこれ等の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形実施が可能である。
【実施例1】
【0027】
(貴金属担持SnOゾルの調製)
(Pd担持SnOゾルの調製)
SnCl・5HO5.0gを15mlのイオン交換水に溶解させ、これに塩化パラジウムPdClを、(SnOに対する)Pd含有量が0.5重量%となるように予め配合量を算出して17.9mgを10mlのイオン交換水に溶解させたものを加え、さらに(NH)HCO5.64gを71mlのイオン交換水に溶解させたものを加えて撹拌混合し、さらにNHの25%水溶液40mlを加えてpH10.5に調節して、上記貴金属を含有するSnO前駆体(Sn(OH))が沈澱した溶液を調製した。
【0028】
次いで、上記沈澱物を有する溶液を12時間熟成した後、溶液中の塩化物を除去するために、上澄み溶液をデカンテーションし、この沈澱物にpH10.5のNH水溶液200mlを加えて撹拌混合し、さらに12時間熟成した後、遠心分離によって上記貴金属を含有する前駆体ゲルを回収した。得られた前駆体ゲル(白色)をpH10.5、50mlのNHの水溶液に分散させて、密閉反応容器内で200℃の温度で3時間水熱処理することにより、Pdを担持したSnOゾルを調製した。Pdを担持したSnOゾルは無色透明であった。
【0029】
(Pt担持SnOゾルの調製)
上記Pd担持SnOゾルの調製において、塩化パラジウムの代わりに、(SnOに対する)Pt含有量が0.5重量%となるように、ヘキサクロロ白金酸六水和物HPtCl・6HOを28.5mgを10mlのイオン交換水に溶解させたものを加えたこと以外は同様にして、Ptを担持したSnOゾルを調製した。Ptを担持したSnOゾルは薄黄色を呈した。
【0030】
(Au担持SnOゾルの調製)
Au担持SnOゾルの調製において、塩化パラジウムの代わりに、(SnOに対する)Au含有量が0.5重量%となるように、テトラクロロ金酸四水和物HAuCl・4HO22.5mgを10mlのイオン交換水に溶解させたものを加えたこと以外は同様にして、Auを担持したSnOゾルを調製した。Auを担持したSnOゾルはピンク色を呈するがAuのプラズモン吸収によるものと思われる。
【0031】
(ガスセンサ素子の作製)
図1に示すように、一対の櫛歯型Au電極(電極幅400μm、電極間隔200μm)12を有するAl絶縁基板(縦9mm×横13mm)11を用意した。14はPtからなるリード線であり、櫛歯型Au電極金櫛型電極12の端部に接続されている。
【0032】
上記Al絶縁基板11の櫛歯型Au電極部12に、上記貴金属担持のSnOゾルをそれぞれ20μlを滴下することにより付着させ、これを35℃で乾燥し、この滴下と乾燥とを3回繰り返した後、900℃の温度で3時間空気中で焼成することにより透明な多孔性の膜13(図中点線で囲まれた部分)を形成した。こうして、酸化錫にPd、Pt、Auのいずれかの貴金属触媒を担持させてなる酸化錫系ガスセンサ素子10を作製した。
【0033】
(比較例1)
(貴金属塩化物溶液の含浸によるガスセンサ素子の作製)
SnCl・5HO5.0gを15mlのイオン交換水に溶解させ、これに(NH)HCO5.64gを71mlのイオン交換水に溶解させたものを混合し、さらにNHの25%水溶液40mlを加えてpH10.5に調節して、SnO前駆体(Sn(OH))が沈澱した溶液を調製した。
【0034】
次いで、上記沈澱物を有する溶液を12時間熟成した後、溶液中の塩化物を除去するために、上澄み溶液をデカンテーションし、この沈澱物にpH10.5のNH水200mlを加えて撹拌し、さらに12時間熟成した後、遠心分離によって前駆体ゲルを回収した。得られた前駆体ゲルをpH10.5、50mlのNH水溶液に分散させて、密閉反応容器内で200℃の温度で3時間水熱処理することにより、SnOゾルを調製した。
【0035】
上記SnOゾルをAl基板上の金櫛型電極部分に20ml滴下し35℃で乾燥し、これを3回繰り返し、900℃で3時間空気中で乾燥することにより、透明な多孔性のSnO膜を形成した。
【0036】
上記透明な多孔性のSnO膜の表面に、貴金属の塩化物(塩化パラジウムPdCl、ヘキサクロロ白金酸六水和物HPtCl・6HO、テトラクロロ金酸4水和物HAuCl・4HO)を、それぞれ表1に示すように、所定量を10mlのイオン交換水に溶解させたものを所定量を滴下することにより含浸させ乾燥後、塩素イオンを除去するために300℃で3時間水素とアルゴンの混合ガスの雰囲気で還元処理した。その後、900℃の温度で3時間空気中で焼成することにより、酸化錫にPd、Pt、Auのいずれかの貴金属触媒を担持させてなる、酸化錫系ガスセンサ素子を作製した。
【0037】
【表1】

【0038】
(比較例2)
(貴金属ゾルの含浸によるガスセンサ素子の作製)
比較例1と同様な方法で形成された透明な多孔性のSnO膜の表面に、市販の貴金属ゾル(Pd、Pt、Auのいずれかの貴金属ゾル)を、それぞれ表2に示すように、所定量を滴下後、乾燥させ、その後、900℃の温度で3時間空気中で焼成することにより、酸化錫にPd、Pt、Auのいずれかの貴金属触媒を担持させてなる、酸化錫系のガスセンサ素子を作製した。
【0039】
なお、市販の貴金属コロイド液は、平均粒径20〜100nmの貴金属超微粒子が超純水(電気伝導度0.1μm/Scm以下)の中で極めて安定な分散状態にある金属ゾルである。Pd金属ゾル(商品名TCP−211)、Pt金属ゾル(商品名TCP−241)、Au金属ゾル(商品名TCP−111)は、いずれも戸田工業社製である。
【0040】
【表2】

【0041】
(ガス検出感度の測定)
合成空気(酸素22%、窒素78%の医療用)、酸素、HS含有の窒素(HS濃度5ppm)の各高圧ボンベを用意し、各ボンベからガスの混合割合をマスフローコントローラにより調節し、HS含有空気(HS濃度3ppm)を調製した。
【0042】
実施例1および比較例1〜2で得られた各ガスセンサ素子に空気及び上記HS含有空気を流通させ、空気からHS含有空気に切り替えた時のセンサ抵抗の変化をモニタした。出力が安定したところで、Ra(空気中でのセンサ抵抗)およびRg(HS含有空気中でのセンサ抵抗)を感ガス体部が250℃となるよう外部ヒータで加熱して測定し、ガス感度(Ra/Rg)を算出した。その結果を表3に示す。表3から明らかなように、実施例1で得られた本発明のガスセンサ素子は、比較例1、2で得られた従来汎用のガスセンサ素子に比べて優れたガス感度を有していた。
【0043】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明方法で得られた酸化錫系ガスセンサ素子の一例を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 酸化錫系ガスセンサ素子
11 Al絶縁基板
12 櫛歯型Au電極部分
13 貴金属触媒担持の酸化錫膜
14 Ptリード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化錫にPd、Pt、Auのいずれかの貴金属触媒を担持させてなる酸化錫系ガスセンサの製造方法において、Snの酸性水溶液に炭酸水素アンモニウム水溶液及び/又はアンモニア水溶液を加えて水酸化錫ゲルを生成させ、更にこの水酸化錫ゲルから水熱反応によりSnOゾルを形成させる一連の工程を含み、この一連の工程のうち少なくとも最終工程が、Pd、Pt、Auのいずれかの貴金属の存在下で行われることを特徴とする酸化錫系ガスセンサの製造方法。
【請求項2】
酸化錫にPd、Pt、Auのいずれかの貴金属触媒を担持させてなる酸化錫系ガスセンサの製造方法において、Snの酸性水溶液とPd、Pt、Auのいずれかの貴金属の酸性水溶液とに、炭酸水素アンモニウム水溶液及び/又はアンモニア水溶液を加えて水酸化錫ゲルを生成させ、更にこの水酸化錫ゲルから水熱反応により上記貴金属を含有するSnOゾルを形成させることを特徴とする酸化錫系ガスセンサの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法により得られる貴金属を含有するSnOゾルを電極付き絶縁基板上に付着乾燥させた後焼成することを特徴とする酸化錫系ガスセンサの製造方法。
【請求項4】
Snの酸性水溶液及びPd、Pt、Auのいずれかの酸性水溶液が塩化物水溶液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化錫系ガスセンサの製造方法。
【請求項5】
Snの酸性水溶液から水酸化錫ゲルを生成させるために加える液およびPd、Pt、Auのいずれかの酸性水溶液に加える液が炭酸水素アンモニウム水溶液及びアンモニア水溶液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化錫系ガスセンサの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化錫系ガスセンサの製造方法により得られることを特徴とする酸化錫系ガスセンサ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−20411(P2008−20411A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194474(P2006−194474)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度、独立行政法人科学技術振興機構、大学発ベンチャー創出推進事業「消臭による快適介護環境の創出に関する研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)」
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】