説明

酸化防止剤を含む希土類化合物のコロイド分散体及び内燃エンジン用ディーゼル燃料用の添加剤としてのその使用

本発明は、希土類化合物(特にセリウムの化合物)の粒子、酸及び有機相を含むタイプの分散体であって、さらに酸化防止剤、特にフェノールの置換誘導体、芳香族アミン又はトコフェロールから選択することができる酸化防止剤を含むことを特徴とする、前記分散体に関する。この分散体は、内燃エンジン用のディーゼル燃料の添加剤として、特にディーゼルエンジン用のディーゼル燃料の添加剤として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化防止剤を含む希土類化合物のコロイド分散体及び内燃エンジン用ディーゼル燃料添加剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン中におけるディーゼル燃料の燃焼の際に炭素質物質がすすを形成する傾向があることが知られており、このすすは環境及び健康の両方に対して有害であると考えられる。長年の間、これらの炭素質粒子の放出を減少させるための技術が求められてきている。
【0003】
1つの満足できる解決策は、フィルターに捕集されたすすが頻繁に自然発火するのを可能にする触媒をすす中に導入することから成る。この目的のためには、すすの自然発火温度が充分に低く、エンジンの通常運転の間に頻繁にこの自然発火温度に達するようなものでなければならない。
【0004】
エンジン用燃料の添加剤として用いられる希土類化合物の分散体は、すすの自然発火温度を下げるのに貢献できることが知られている。
【0005】
これらの分散体は特に、高い安定性を有していなければならず、これは、希土類化合物が燃料中に懸濁状のままでいなければならず、分散体が燃料と接触した時に沈殿してはならないということを意味する。実際、この安定性はディーゼル燃料の品質、特にその組成中に含ませることができる添加剤に依存することがあるということがわかっている。従って、用いるディーゼル燃料の品質に拘らず安定な分散体が得られれば特に有利である。
【特許文献1】国際公開WO01/10545号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、かかる分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的で、本発明の分散体は、希土類化合物の粒子、酸及び有機相を含むタイプのものであって、さらに酸化防止剤を含むことを特徴とする。
【0008】
酸化防止剤の存在は、本発明の分散体の安定性をこの分散体が添加されるディーゼル燃料に依存しないものにするという利点を有する。
【0009】
本発明のその他の特徴、詳細及び利点は、以下の説明及び本発明を例示するために提供された様々な具体的な(しかし非限定的な)実施例を読めばもっとよくわかるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下の説明において、希土類とは、イットリウム及び元素周期表の原子番号57〜71の元素より成る群の元素を意味する。参照される元素周期表は、Supplement au Bulletin de la Societe Chimique de France, No. 1 (1966年1月)に示されたものである。
【0011】
以下、本発明が適用されるコロイド分散体をより詳細に説明する。
【0012】
「希土類化合物のコロイド分散体」という表現は、この化合物をベースとするコロイド寸法の固体微粒子が液相中に分散状になっているものを意味し、前記粒子はさらに、例えば硝酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン又はアンモニウムイオンのような結合したイオン又は吸着したイオンを残留量で含有していてもよい。コロイド寸法とは、約1nm〜約500nmの範囲の寸法を意味する。前記粒子は、より特定的には、約250nm以下、特に100nm以下、好ましくは20nm以下、さらにより一層好ましくは15nm以下の平均寸法を有していてよい。上記の寸法は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定される。かかる分散体中で希土類は、完全にコロイドの形で見出されてもよく、イオンの形とコロイドの形とが同時に見出されてもよいということに注目することができる。
【0013】
希土類化合物は一般的には酸化物及び/又は水和酸化物(水酸化物)である。
【0014】
希土類に関しては、これはより特定的にはセリウム、ランタン、イットリウム、ネオジム、ガドリニウム及びプラセオジムから選択することができる。好ましくは、希土類はセリウム、ランタン、イットリウム及びプラセオジムから選択される。
【0015】
本発明に従うコロイド分散体は2種又はそれより多くの希土類をベースとする化合物を含んでもよいということに注目することができる。
【0016】
少なくとも2種の希土類をベースとする化合物の場合、これらの希土類は異なる酸化度を有するものであってもよい。希土類の酸化度は、一般的には3又は4である。
【0017】
希土類がセリウムである特定的な場合、これは主としてセリウムIVの形にある。例えば、セリウムIVに対するセリウムIIIの含有率(CeIII/全Ceの原子比で表わした含有率)は一般的に40%以下である。これは用いる分散体の具体例に応じて変化してもよく、かくして5%以下、より特定的には1%以下、さらにより一層特定的には0.5%以下であってよい。
【0018】
本発明の特定的な具体例に従えば、コロイド分散体はまた、元素周期表第IIA、IVA、VIIA、VIII、IB、IIB、IIIB及びIVB族から選択される少なくとも1種の別の元素(E)も含んでいてよい。
【0019】
これに関しては、より特定的には鉄、銅、ストロンチウム、ジルコニウム、チタン、ガリウム、パラジウム及びマンガンを挙げることができる。
【0020】
上に挙げた化合物の組成中に入る元素のそれぞれの割合に関しては、少なくとも1種の希土類と少なくとも1種の元素(E)とを共に存在させる場合の希土類の割合は、酸化物として表わした希土類元素及び(E)の合計モル数に対するモル数として、好ましくは少なくとも10%、より特定的には少なくとも20%、さらにより一層特定的には少なくとも50%である。
【0021】
上に挙げた粒子に加えて、本発明に従うコロイド分散体には、少なくとも1種の酸、有利には両親媒性のものを含ませる。この酸は、より特定的には少なくとも6個の炭素原子を有するもの、さらにより一層特定的には10〜60個の炭素原子を有するもの、好ましくは15〜25個の炭素原子を有するものから選択される。
【0022】
これらの酸は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。これらは、アリール系、脂肪族系又はアリール脂肪族系の酸であってよく、随意に他の官能基を有していてもよいが、これらの官能基は本発明に従う分散体が用いられる媒体中で安定であることを条件とする。かくして、例えば約10〜約40個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸、脂肪族スルホン酸、脂肪族ホスホン酸、アルキルアリールスルホン酸及びアルキルアリールホスホン酸を用いることができ、天然のものでも合成のものでもよい。もちろん、酸の混合物を用いることも可能である。
【0023】
また、炭素鎖がケトン官能基を有するカルボン酸、例えばケトン官能基のα位が置換されたピルビン酸を用いることもできる。これにはまた、α−ハロゲノカルボン酸やα−ヒドロキシカルボン酸も包含され得る。カルボキシル基に結合した鎖は、不飽和を有していてもよい。しかしながら、セリウムは二重結合の架橋を触媒するので、一般的には二重結合が多すぎないようにする。前記鎖は、カルボキシル基を持つ鎖の親油性が過度に変えられないことを条件として、エーテル官能基やエステル官能基で中断されていてもよい。
【0024】
例として、トール油、大豆油、獣脂又は亜麻仁油の脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸及びその異性体、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、2−エチルヘキサン酸、ナフテン酸、ヘキサン酸、トルエンスルホン酸、トルエンホスホン酸、ラウリルスルホン酸、ラウリルホスホン酸、パルミチルスルホン酸並びにパルミチルホスホン酸を挙げることができる。
【0025】
本発明に関して用語「両親媒性酸」とは、例えばポリオキシエチレンホスフェートアルキルエーテルのような他の両親媒性試薬を示すこともある。これは、次式:
【化1】

のホスフェートや、
次式:
【化2】

のジアルキルポリオキシエチレンホスフェートに当てはまる。
{ここで、R1、R2及びR3は同一であっても異なっていてもよく、直鎖状又は分枝鎖状アルキル基(特に2〜20個の炭素原子を有するもの);フェニル基;アルキルアリール基、より特定的にはアルキルフェニル基(特に8〜12個の炭素原子を有するアルキル鎖を1つ有するもの);アリールアルキル基、より特定的にはフェニルアリール基を表わし;
nはエチレンオキシドの数であり、例えば0〜12の範囲であってよく;
Mは水素、ナトリウム又はカリウム原子を表わす。}
【0026】
基R1は特にヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オレイル又はノニルフェニル基であってよい。
【0027】
このタイプの両親媒性化合物の例としては、Rhodia社より販売されている商品名Lubrosphos(登録商標)及びRhodafac(登録商標)の市販のもの、特に次の製品を挙げることができる:
・Rhodafac(登録商標)RA 600ポリオキシエチレン(C8〜C10)アルキルホスフェートエーテル
・Rhodafac(登録商標)RS 710又はRS 410ポリオキシエチレントリデシルホスフェートエーテル
・Rhodafac(登録商標)PA 35ポリオキシエチレンオレオセチルホスフェートエーテル
・Rhodafac(登録商標)PA 17ポリオキシエチレンノニルフェニルホスフェートエーテル
・Rhodafac(登録商標)RE 610ポリオキシエチレンノニル(分枝鎖状)ホスフェートエーテル。
【0028】
本発明の分散体はさらに、有機相である液相を含み、この中に前記粒子が分散状になる。
【0029】
有機相の例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンのような脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘプタンのような不活性環状脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、液状ナフタレンのような芳香族炭化水素を挙げることができる。また、IsoparやSolvesso(EXXON社の商標)のタイプの石油留分、特にSolvesso 100(これはメチルエチルベンゼンとトリメチルベンゼンとの混合物を本質的に含有する)、Solvesso 150(これはアルキルベンゼンの混合物、特にジメチルベンゼンとテトラメチルベンゼンとの混合物を含有する)及びIsopar(これはC11及びC12イソパラフィン系及びシクロパラフィン系炭化水素を本質的に含有する)も好適である。また、その他の石油留分の中では、Petrolink社製のPetrolink(登録商標)タイプやTotal社製のIsane(登録商標)タイプのものを挙げることもできる。
【0030】
また、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びクロロトルエンのような塩素化炭化水素も、有機相として用いることができる。エーテル類並びに脂肪族及び環状脂肪族ケトン類、例えばジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、メシチルオキシドも考えられる。
【0031】
エステル類も考えられるが、しかしこれらは加水分解する危険性という欠点を有する。用いるのに好適なエステルとしては、酸とC1〜C8アルコールとの反応によって製造されるもの、特にイソプロパノールのような第2アルコールのパルミチン酸エステルを挙げることができる。酢酸ブチルを例として挙げることもできる。
【0032】
もちろん、この有機相は2種又はそれより多くの炭化水素又は上記のタイプの化合物の混合物をベースとするものであってよい。
【0033】
本発明に従う分散体中の希土類化合物及び随意としての元素Eの濃度は、分散体の総重量に対する希土類酸化物及び元素E酸化物の重量として一般的に40重量%までであることができる。40%より上では、特に低温において、分散体の粘度が高くなりすぎる恐れがある。しかしながら、この濃度は少なくとも5%であるのが好ましい。それより低い濃度では液相の容量が大きくなりすぎるので、経済的な魅力が乏しくなる。
【0034】
有機相と酸(群)との間の割合は臨界的なものではない。有機相と酸(群)との間の重量比は、0.3〜2.0の範囲となるように選択するのが好ましい。
【0035】
本発明の分散体はまた、様々な特定的具体例に従った形を採ることができる。
【0036】
かくして、第1の具体例に従えば、この分散体は、粒子の少なくとも90%が単結晶粒子であるようなものである。「単結晶」粒子とは、TEM(高解像度透過型電子顕微鏡)によって分散体を検査した時に個別化されて単一のクリスタライト(微結晶)から成っているように見える粒子を意味する。
【0037】
また、基本粒子の凝集状態を測定するためには、極低温TEM技術を用いることもできる。この技術においては、サンプルをそれらの自然媒体{これは水や有機希釈剤、例えば芳香族若しくは脂肪族溶剤(例えばSolvesso及びIsopar)又はある種のアルコール(例えばエタノール)である}中に凍結させてあるものを透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察する。
【0038】
凍結は、水性サンプルについては液状エタン中、その他のものについては液体窒素中で、厚さ50〜100nmの薄いフィルム上で実施する。
【0039】
極低温TEMにより、粒子の分散状態がうまく保持され、自然媒体中に存在する状態を象徴する。
【0040】
この具体例に従えば、粒子は微細で狭い粒子寸法分布を有する。実際、これらは1〜5nmの範囲、好ましくは2〜3nmの範囲のd50を有する。
【0041】
本明細書において粒子寸法分布特徴については、dnタイプの表記法(ここで、nは1〜99の数である)を用いる。この表記法は、粒子のn%(数を基準)がその寸法と等しい寸法又はそれより小さい寸法を有するものであるような粒子の寸法を表わす。例えば、3nmのd50とは、粒子の50%(数を基準)が3nm又はそれより小さい寸法のものであることを意味する。
【0042】
粒子寸法分布は、透過型電子顕微鏡(TEM)により、慣用的には銅グリッド上に支持された炭素膜上で前もって乾燥させておいたサンプルに対して、測定される。
【0043】
この調製技術は、粒子寸法測定においてより良好な精度を可能にするので好ましい。測定のために選択されるゾーンは、極低温TEMにおいて観察されるものと同様の分散状態を示すものである。
【0044】
上記の具体例に従う分散体は、より特定的にはヨーロッパ特許公開第1210172A号公報に記載されているので、その教示を参照することができる。
【0045】
本発明の分散体はまた、第2のより特定的な具体例に従って、粒子が200nm以下である形を採ることもできる。これらの分散体はまた、次の特徴の内の少なくとも1つも有する:
(i)前記粒子がクリスタライトの凝集体の形にあってそのd80(有利にはd90)が5nm以下であり、前記凝集体の90重量%が1〜5個(好ましくは1〜3個)のクリスタライトを含むこと;
(ii)前記酸が11〜50個の炭素原子を有し且つ酸性水素を有する原子に対してα、β、γ及び/又はδ位に少なくとも1つの枝分かれを有する少なくとも1種の酸を含む両親媒性酸であること。
【0046】
上記の特徴(ii)を満たす分散体については、粒子寸法がそれほど特殊でなくてもよく、特徴(i)を満たす分散体について与えられる粒子寸法とは異なっていてもよい。かくして、この場合のクリスタライトの凝集体から成る粒子のd80(有利にはd90)は、10nm以下、より特定的には8nm以下であることができる。凝集体(及び従って前記粒子)を構成するクリスタライトは、5nm以下の寸法を有する。しかしながら、特徴(ii)を満たす分散体は、(i)の場合に上に挙げた組成及び粒子寸法に関する特徴を有することも可能である。
【0047】
検討した2つの場合について及び別の具体例に従えば、前記凝集体の80重量%は3〜4個のクリスタライトを含む。
【0048】
より特定的には、前記の特徴(ii)の両親媒性酸は、特徴(ii)に合致する1種又はそれより多くの酸をベースとする両親媒性酸系である。この両親媒性系の酸についての炭素原子数の好ましい範囲は15〜25個である。特に鎖長が短い(14個未満の炭素原子)時、単一の枝分かれの場合及び特にこの枝分かれが酸性水素を有する原子に対してγ又はδ位に位置する場合に、より良好な結果を得るためには、この枝分かれが少なくとも2個(有利には少なくとも3個)の炭素原子を有するのが非常に望ましい。
【0049】
最も長い直鎖部分が少なくとも6個、好ましくは少なくとも8個の炭素原子を有するのが好ましい。
【0050】
前記の酸の内の少なくとも1種の酸のpKaが5以下、好ましくは4.5以下であるのが有利である。
【0051】
また、前記の枝分かれ酸の側鎖が少なくとも2個の炭素原子、好ましくは少なくとも3個の炭素原子を有することも有利である。
【0052】
特に有利な酸としては、イソステアリン酸の名称で知られている酸の混合物から成る酸を挙げることができる。
【0053】
希土類酸化物1モル当たりの酸のモル数で表わした両親媒性酸の使用量は広い範囲内で変えることができ、例えば希土類酸化物1モル当たりに1/10〜1モルの範囲にすることができる。上限は臨界的ではないが、それより多くの酸を用いる必要はない。希土類酸化物1モル当たりに1/5〜4/5モルの割合で両親媒性酸を用いるのが好ましい。このモル比はここでは、モル数に有効酸官能基数nを乗じたものを両親媒性酸のモルとすることによって計算される。より正確には、用いる酸が一官能価である場合には酸の当量数が酸のモル数を表わし、二酸や三酸の場合にはこの数を2倍、3倍にしなければならず、より一般的には、ポリ酸の場合には酸官能基の数を乗じなければならない。
【0054】
この具体例においては、一般的な場合におけるように、有機相と両親媒性酸(群)との間の割合は臨界的ではない。有機相と両親媒性酸(群)との間の重量比は、0.3〜2.0の範囲で選択するのが好ましい。
【0055】
この第2の具体例に従う分散体は、より特定的にはヨーロッパ特許公開第671205A号公報に記載されているので、その教示も参照することができる。
【0056】
最後に、第3の具体例に従えば、分散体は、次の工程を含む方法によって得られた希土類化合物の粒子を含むものであってよい:
(a)少なくとも1種の希土類可溶性塩(好ましくは希土類の酢酸塩及び/又は塩化物)を含む溶液を調製し;
(b)前記溶液を塩基性媒体と接触させ、こうして形成された反応混合物を塩基性pHに保ち;
(c)形成した沈殿を噴霧又は凍結乾燥によって回収する。
【0057】
この第3の具体例に従う分散体は、より特定的にはヨーロッパ特許公開第862537A号公報に記載されているので、その教示も参照することができる。
【0058】
本発明の分散体の本質的な特徴に従えば、これは酸化防止剤を含有する。これは、特に有機化合物の酸化を防止することができる物質を意味し、この酸化は例えば二重結合や三重結合、共役二重結合又はアルコール官能基の攻撃によって起こる可能性があるものである。
【0059】
酸化防止剤は、まず最初に、フェノールの置換誘導体から選択することができ、これらの誘導体は、モノフェノール若しくはポリフェノールタイプ又はヒドロキノンタイプのものであることができる。
【0060】
モノフェノールタイプの誘導体の場合、これらは例えば式(R')(R)(R)Φ(OH)のアルキルフェノール又はアルコキシフェノールタイプの物質である。ここで、R及びR'はアルキル又はアルコキシ基、例えばt−ブチル、メチル又はメトキシ基であり、Φはベンゼン環である。
【0061】
非限定的な例として、2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(若しくは2,6−ジ−t−ブチル−1−メチルフェノール)、又は2−t−ブチル−4−メトキシフェノールを挙げることができる。また、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロ桂皮酸オクタデシルを挙げることもできる。
【0062】
ポリフェノールタイプの誘導体については、まずビスフェノール、例えば2,2−メチレンビス(6−t−ブチル−p−クレゾール)、4,4’−ブチリデンビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)を挙げることができる。
【0063】
このポリフェノールは、特に式(R)(OH)(CH3)Φ−R'−Φ(R)(OH)(CH3)に合致するものであることができる。ここで、Rはt−ブチルのようなアルキル基であり、R'はメチレンのような(CH2)nタイプの基であり、Φはベンゼン環である。また、p−クレゾールとジシクロペンタジエンとの反応のブチル化生成物を挙げることもできる。
【0064】
ヒドロキノンに関しては、例えば2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン及びt−ブチルヒドロキノンを挙げることができる。
【0065】
酸化防止剤はまた、芳香族アミンから選択することもできる。
【0066】
特に式RHN−Φ−NR'Hのp−フェニレンジアミンを挙げることができる。ここで、Rは1,3−ジメチルブチルのようなアルキル基であり、R'はフェニル基である。より特定的には、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン及びジアリール(フェニル/トリル)−p−フェニレンジアミン混合物を挙げることができる。
【0067】
その他の酸化防止剤アミンとしては、トリメチルジヒドロキノリン類、例えば6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン又は2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン(重合した形のもの)を用いることもできる。
【0068】
また、式RΦ−NH−ΦRのアルキル化ジフェニルアミンを挙げることもできる。ここで、Rはアルキル基、例えばオクチルである。これらの物質の例としては、オクチルジフェニルアミン及びノニルジフェニルアミンを挙げることができる。
【0069】
また、アミンとアセトンとの縮合生成物及びアミンとアルデヒドとの縮合生成物、例えばジフェニルアミンとアセトンとの縮合生成物も好適である。
【0070】
最後に、p−アニリノフェノール及び4,4’−ジ−sec−ブチルアミノジフェニルメタンのようなアミンを挙げることもできる。
【0071】
最後に、トコフェロール類を酸化防止剤として用いることもできる。
【0072】
もちろん、様々な酸化防止剤を組合せとして用いること、特に上に挙げた2つに類のそれぞれの物質の組合せを用いることもできる。
【0073】
本発明の分散体は、上記したもののような初期分散体に酸化防止剤を添加することによって得ることができる。酸化防止剤/(希土類+元素E)の原子比で表わした該剤の量は、0.5〜5の範囲、より特定的には0.2〜3の範囲、さらにより一層特定的には0.5〜2の範囲にすることができる。
【0074】
上記の有機コロイド分散体は、内燃エンジン用の燃料添加剤として、より特定的にはディーゼルエンジン用のディーゼル燃料の添加剤として、用いることができる。
【0075】
最後に、本発明は、上記のもののようなコロイド分散体を含有させた内燃エンジン用燃料に関する。この燃料は、本発明の分散体と混合することによって得られる。
【0076】
上記のように、本発明の分散体を燃料中に使用すると、燃料、特にディーゼル燃料中の希土類化合物の粒子の安定性が高められ、即ち、有意の量の沈殿が形成することなく粒子が燃料中に懸濁状で保たれる。さらに、この分散体は常にすす自然発火温度を下げるという利点を有する。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を提供する。
【0078】
これらの実施例において用いたコロイド分散体は、国際公開WO01/10545号パンフレットの例3に従って調製されたセリウム及び鉄の有機分散体(Isopar)であって、Ce/Fe原子比が1であり且つセリウム(金属)及び鉄(金属)濃度が6.5%であるものに、酸化防止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを含ませたものである。
【0079】
酸化防止剤を含有させた分散体又は含有させていない分散体を次いでディーゼル燃料と混合し、この混合物を様々な時間においてエージングする。エージングが終わったら、混合物を濾過し、誘導結合プラズマ原子発光分析法(ICP−AES)技術によってこの液体のセリウム含有率を測定する。用いた装置は、Jobin Yvon社製のUltimaである。
【0080】
例1
この例は、スウェーデンで販売されている「クリア」ディーゼル燃料にOctel社製のOLI 9950潤滑添加剤を含ませたものに適用する。このディーゼル燃料は次の特性を有する:
硫黄含有率:2ppm
初期蒸留温度:180℃
最終蒸留温度:285℃
密度:814kg/m3
セタン価:54
芳香族の容量%:4%。
【0081】
ディーゼル燃料及び分散体の量は、形成される混合物の初期セリウム含有率が7ppmになるような量とする。酸化防止剤含有率は、ディーゼル燃料/分散体混合物中で測定したものである。
【0082】
得られた結果を下記の表1に与える。
【表1】

【0083】
酸化防止剤の不在下では液相中に多量のセリウムはもはや見出されないことが観察でき、これはエージングの間にセリウムの多くが沈殿したことを示す。酸化防止剤を存在させた場合には、対照的に、初期セリウムの全部又はほぼ全部が見出され、これはセリウムがコロイド分散体の状態に保たれることを示す。
【0084】
例2〜8
これらの例は、ドイツで販売されている「クリア」ディーゼル燃料に様々な潤滑剤を含ませたものに適用する。
【0085】
このディーゼル燃料は、次の特性を有する:
硫黄含有率:40ppm
初期蒸留温度:180℃
最終蒸留温度:360℃
密度:840kg/m3
セタン価:51
芳香族の容量%:20%。
【0086】
形成されたディーゼル燃料/分散体混合物のそれぞれのセリウム及び酸化防止剤の含有率はそれぞれ7ppm及び10ppmである。
【0087】
得られた結果を下記の表2に与える。比較例の行に与えられた数値は、分散体が酸化防止剤を含有しない場合に相当する。
【表2】

【0088】
用いた潤滑剤のタイプ:
例2:PC 32
例3:R 655
例4:R 639
例5:R 650
例6:Hitec 4848 A
例7:Hitec 4140 A
例8:Kerokor LA 99
【0089】
また、酸化防止剤を存在させた場合には、酸化防止剤の不在の場合とは違って、初期セリウムのほとんどが常にコロイド分散体の状態で見出されることを観察することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類化合物の粒子、酸及び有機相を含むコロイド分散体であって、酸化防止剤をさらに含むことを特徴とする、前記コロイド分散体。
【請求項2】
前記酸化防止剤がフェノールの置換誘導体、特にアルキルフェノール又はアルコキシフェノールから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
前記酸化防止剤が2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール又は2−t−ブチル−4−メトキシフェノールから選択されることを特徴とする、請求項2に記載の分散体。
【請求項4】
前記酸化防止剤が芳香族アミンから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の分散体。
【請求項5】
前記酸化防止剤がトコフェロールから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の分散体。
【請求項6】
前記希土類がセリウム、ランタン、イットリウム、ネオジム、ガドリニウム及びプラセオジムから選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の分散体。
【請求項7】
元素周期表第IIA、IVA、VIIA、VIII、IB、IIB、IIIB及びIVB族から選択される少なくとも1種の別の元素(E)を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の分散体。
【請求項8】
前記酸が両親媒性酸であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の分散体。
【請求項9】
前記粒子の少なくとも90%が単結晶質であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の分散体。
【請求項10】
前記粒子が1〜5nmの範囲、好ましくは2〜3nmの範囲のd50を有することを特徴とする、請求項9に記載の分散体。
【請求項11】
200nm以下の粒子を含むこと、並びに次の特徴:
・前記粒子がクリスタライトの凝集体の形にあってそのd80、有利にはd90が5nm以下であり、前記凝集体の90重量%が1〜5個、好ましくは1〜3個のクリスタライトを含むこと;
・前記酸が11〜50個の炭素原子を有し且つ酸性水素を有する原子に対してα、β、γ又はδ枝分かれを少なくとも1つ有する少なくとも1種の酸を含む両親媒性酸であること:
の内の少なくとも1つを有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の分散体。
【請求項12】
次の工程:
(a)少なくとも1種の希土類可溶性塩、好ましくは希土類の酢酸塩及び/又は塩化物を含む溶液を調製し;
(b)前記溶液を塩基性媒体と接触させ、こうして形成された反応混合物を塩基性pHに保ち;
(c)形成した沈殿を噴霧又は凍結乾燥によって回収する:
を含む方法によって得られた希土類化合物の粒子を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の分散体。
【請求項13】
前記酸がトール油、大豆油、獣脂又は亜麻仁油の脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸及びその異性体、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、2−エチルヘキサン酸、ナフテン酸、ヘキサン酸、トルエンスルホン酸、トルエンホスホン酸、ラウリルスルホン酸、ラウリルホスホン酸、パルミチルスルホン酸並びにパルミチルホスホン酸から選択されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の分散体。
【請求項14】
希土類化合物の粒子の安定性が強化された内燃エンジン用燃料添加剤としての、請求項1〜13のいずれかに記載のコロイド分散体の使用。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれかに記載のコロイド分散体を通常の燃料と混合することによって得られることを特徴とする、内燃エンジン用燃料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類化合物の粒子、酸及び有機相を含むコロイド分散体であって、酸化防止剤をさらに含むことを特徴とする、前記コロイド分散体。
【請求項2】
前記酸化防止剤がフェノールの置換誘導体から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
前記酸化防止剤がアルキルフェノール又はアルコキシフェノールから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の分散体。
【請求項4】
前記酸化防止剤が2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール又は2−t−ブチル−4−メトキシフェノールから選択されることを特徴とする、請求項に記載の分散体。
【請求項5】
前記酸化防止剤が芳香族アミンから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の分散体。
【請求項6】
前記酸化防止剤がトコフェロールから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の分散体。
【請求項7】
前記希土類がセリウム、ランタン、イットリウム、ネオジム、ガドリニウム及びプラセオジムから選択されることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の分散体。
【請求項8】
元素周期表第IIA、IVA、VIIA、VIII、IB、IIB、IIIB及びIVB族から選択される少なくとも1種の別の元素(E)を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の分散体。
【請求項9】
前記酸が両親媒性酸であることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の分散体。
【請求項10】
前記粒子の少なくとも90%が単結晶質であることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の分散体。
【請求項11】
前記粒子が1〜5nmの範囲の50を有することを特徴とする、請求項10に記載の分散体。
【請求項12】
200nm以下の粒子を含むこと、並びに次の特徴:
・前記粒子がクリスタライトの凝集体の形にあってその805nm以下であり、前記凝集体の90重量%が1〜5個のクリスタライトを含むこと;
・前記酸が11〜50個の炭素原子を有し且つ酸性水素を有する原子に対してα、β、γ又はδ枝分かれを少なくとも1つ有する少なくとも1種の酸を含む両親媒性酸であること:
の内の少なくとも1つを有することを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の分散体。
【請求項13】
次の工程:
(a)少なくとも1種の希土類可溶性塩を含む溶液を調製し;
(b)前記溶液を塩基性媒体と接触させ、こうして形成された反応混合物を塩基性pHに保ち;
(c)形成した沈殿を噴霧又は凍結乾燥によって回収する:
を含む方法によって得られた希土類化合物の粒子を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の分散体。
【請求項14】
前記希土類可溶性塩が希土類の酢酸塩及び/又は塩化物であることを特徴とする、請求項13に記載の分散体。
【請求項15】
前記酸がトール油、大豆油、獣脂又は亜麻仁油の脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸及びその異性体、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、2−エチルヘキサン酸、ナフテン酸、ヘキサン酸、トルエンスルホン酸、トルエンホスホン酸、ラウリルスルホン酸、ラウリルホスホン酸、パルミチルスルホン酸並びにパルミチルホスホン酸から選択されることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の分散体。
【請求項16】
希土類化合物の粒子の安定性が強化された内燃エンジン用燃料添加剤としての、請求項1〜15のいずれかに記載のコロイド分散体の使用。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれかに記載のコロイド分散体を通常の燃料と混合することによって得られることを特徴とする、内燃エンジン用燃料。

【公表番号】特表2006−523748(P2006−523748A)
【公表日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505760(P2006−505760)
【出願日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【国際出願番号】PCT/FR2004/000776
【国際公開番号】WO2004/089528
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(503124252)ロディア エレクトロニクス アンド カタリシス (13)