酸性セラミダーゼおよび細胞の生存を促進する方法
本発明は、細胞を酸性セラミダーゼで処理することによって細胞の生存を促進する方法に関する。雌性対象の体外受精の結果を予測する方法に加えて、エクスビボにおける細胞の生存を促進するためのキットも開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、2007年1月5日に出願された米国仮特許出願第60/883,661号、および2007年5月21日に出願された米国仮特許出願第60/939,178号の恩典を主張する。
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所によって供与された助成金番号R01 DK54830の下で、政府の支援を受けて行われた。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、酸性セラミダーゼを使用して細胞の生存を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
酸性セラミダーゼ(「AC」;N-アシルスフィンゴシンデアシラーゼ、I.U.B.M.B. Enzyme No. EC 3.5.1.23)は、ヒトの遺伝病であるファーバー脂肪肉芽腫症(Farber Lipogranulomatosis;「FD」)との関連のために、セラミダーゼ酵素ファミリーのなかで最も詳細に研究されている酵素である。このタンパク質は、複数の供給源から精製されており、かつヒトおよびマウスのcDNAおよび遺伝子が得られている(Bernardo ら、「Purification, Characterization, and Biosynthesis of Human Acid Ceramidase」、J. Biol. Chem. 270:11098-102 (1995)(非特許文献1);Kochら、「Molecular Cloning and Characterization of a Full-length Complementary DNA Encoding Human Acid Ceramidase. Identification of the First Molecular Lesion Causing Farber Disease」、J. Biol. Chem. 2711 :33110-5 (1996)(非特許文献2);Liら、「Cloning and Characterization of the Full-length cDNA and Genomic Sequences Encoding Murine Acid Ceramidase」、Genomics 50:267-74 (1998)(非特許文献3);Liら、「The Human Acid Ceramidase Gene (ASAH): Chromosomal Location, Mutation Analysis, and Expression」、Genomics 62:223-31 (1999)(非特許文献4))。このセラミダーゼおよび他のセラミダーゼの生物学的側面に関する関心の増大は、これらの酵素がセラミド代謝に中心的な役割を果たすという事実に基づく。セラミドは、さまざまな刺激に反応して産生されるシグナル伝達性の脂質である(Hannun、「Function of Ceramide in Coordinating Cellular Responses to Stress」、Science 274:1855-9 (1996)(非特許文献5);Spiegelら、「Signal Transduction Through Lipid Second Messengers」、Curr. Opin. Cell. Biol. 8:159-67 (1996)(非特許文献6))。セラミドは、通常は低量で存在するが、これらの因子に反応すると細胞表面で速やかに産生され、アポトーシスにつながる膜の再構成および下流のシグナル伝達を招く。刺激後、続いてACおよび/または他のセラミダーゼはセラミドを個々の脂肪酸成分およびスフィンゴシン成分に加水分解することができる(Gatt、「Enzymic Hydrolysis and Synthesis of Ceramide」、J. Biol. Chem. 238:3131-3 (1963)(非特許文献7);Gatt、「Enzymatic Hydrolysis of Sphingolipids. 1. Hydrolysis and Synthesis of Ceramides by an Enzyme from Rat Brain」、J. Biol. Chem. 241:3724-31 (1966)(非特許文献8);HasslerおよびBell、「Ceramidase: Enzymology and Metabolic Roles」、Adv. Lip. Res. 26:49-57 (1993)(非特許文献9))。セラミドの分解は、細胞内スフィンゴシンの唯一の供給源であるので(Rotherら、「Biosynthesis of Sphingolipids: Dihydroceramide and Not Sphinganine Is Desaturated by Cultured Cells」、Biochem. Biophys. Res. Commun. 189:14-20 (1992)(非特許文献10))、これらの酵素は、この化合物の細胞内レベルの決定における律速段階である可能性もある。重要な点は、スフィンゴシンの誘導体であるスフィンゴシン-1-リン酸(「S1P」)が、セラミドのアポトーシス作用に拮抗可能なことであり(Cuvillierら、「Suppression of Ceramide-mediated Programmed Cell Death by Sphingosine-1-phosphate」、Nature 381 :800-3 (1996)(非特許文献11))、このためセラミダーゼは、細胞の成長と死との適切なバランスを維持する「加減抵抗器(rheostat)」となり得ることが示唆されている(SpiegelおよびMerrill、「Sphingolipids Metabolism and Cell Growth Regulation」、FASEB J. 10:1388-97 (1996)(非特許文献12))。
【0005】
排卵された卵は、受精が成功しない限り、アポトーシスに特徴的な分子レベルの変化を生じる(MarstonおよびChang、「The Fertilizable Life of Ova and Their Morphology Following Delayed Insemination in Mature and Immature Mice」、J. Exp. Zool. 155:237-52 (1964)(非特許文献13);Tarinら、「Long-term Effects of Postovulatory Aging of Mouse Eggs on Offspring: A Two-generational Study」、Biol. Reprod. 61 :1347-55 (1999)(非特許文献14))。セラミドを含む多数の因子が、この過程に関与するアポトーシス促進因子であると見なされている一方で(Perezら、「A Central Role for Ceramide in the Age-related Acceleration of Apoptosis in the Female Germline」、FASEB J. 19:860-2 (2005)(非特許文献15);Miaoら、「Cumulus Cells Accelerate Aging of Mouse Oocytes」、Biol. Reprod. 73:1025-1031 (2005)(非特許文献16);Kerrら、「Morphological Criteria for Identifying Apoptosis」、in 1 CELL BIOLOGY: A LABORATORY HANDBOOK 319-29 (Julio E. Celis ed., 1994)(非特許文献17);Gordoら、「Intracellular Calcium Oscillations Signal Apoptosis Rather Than Activation in in Vitro Aged Mouse Eggs」、Bio. Reprod. 66:1828-37 (2002)(非特許文献18))、卵または胚の生存を維持する諸因子についてはほとんどわかっていない。
【0006】
本発明は、当技術分野におけるこれらの、また他の短所を克服することに関する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bernardo ら、「Purification, Characterization, and Biosynthesis of Human Acid Ceramidase」、J. Biol. Chem. 270:11098-102 (1995)
【非特許文献2】Kochら、「Molecular Cloning and Characterization of a Full-length Complementary DNA Encoding Human Acid Ceramidase. Identification of the First Molecular Lesion Causing Farber Disease」、J. Biol. Chem. 2711 :33110-5 (1996)
【非特許文献3】Liら、「Cloning and Characterization of the Full-length cDNA and Genomic Sequences Encoding Murine Acid Ceramidase」、Genomics 50:267-74 (1998)
【非特許文献4】Liら、「The Human Acid Ceramidase Gene (ASAH): Chromosomal Location, Mutation Analysis, and Expression」、Genomics 62:223-31 (1999)
【非特許文献5】Hannun、「Function of Ceramide in Coordinating Cellular Responses to Stress」、Science 274:1855-9 (1996)
【非特許文献6】Spiegelら、「Signal Transduction Through Lipid Second Messengers」、Curr. Opin. Cell. Biol. 8:159-67 (1996)
【非特許文献7】Gatt、「Enzymic Hydrolysis and Synthesis of Ceramide」、J. Biol. Chem. 238:3131-3 (1963)
【非特許文献8】Gatt、「Enzymatic Hydrolysis of Sphingolipids. 1. Hydrolysis and Synthesis of Ceramides by an Enzyme from Rat Brain」、J. Biol. Chem. 241:3724-31 (1966)
【非特許文献9】HasslerおよびBell、「Ceramidase: Enzymology and Metabolic Roles」、Adv. Lip. Res. 26:49-57 (1993)
【非特許文献10】Rotherら、「Biosynthesis of Sphingolipids: Dihydroceramide and Not Sphinganine Is Desaturated by Cultured Cells」、Biochem. Biophys. Res. Commun. 189:14-20 (1992)
【非特許文献11】Cuvillierら、「Suppression of Ceramide-mediated Programmed Cell Death by Sphingosine-1-phosphate」、Nature 381 :800-3 (1996)
【非特許文献12】SpiegelおよびMerrill、「Sphingolipids Metabolism and Cell Growth Regulation」、FASEB J. 10:1388-97 (1996)
【非特許文献13】MarstonおよびChang、「The Fertilizable Life of Ova and Their Morphology Following Delayed Insemination in Mature and Immature Mice」、J. Exp. Zool. 155:237-52 (1964)
【非特許文献14】Tarinら、「Long-term Effects of Postovulatory Aging of Mouse Eggs on Offspring: A Two-generational Study」、Biol. Reprod. 61 :1347-55 (1999)
【非特許文献15】Perezら、「A Central Role for Ceramide in the Age-related Acceleration of Apoptosis in the Female Germline」、FASEB J. 19:860-2 (2005)
【非特許文献16】Miaoら、「Cumulus Cells Accelerate Aging of Mouse Oocytes」、Biol. Reprod. 73:1025-1031 (2005)
【非特許文献17】Kerrら、「Morphological Criteria for Identifying Apoptosis」、in 1 CELL BIOLOGY: A LABORATORY HANDBOOK 319-29 (Julio E. Celis ed., 1994)
【非特許文献18】Gordoら、「Intracellular Calcium Oscillations Signal Apoptosis Rather Than Activation in in Vitro Aged Mouse Eggs」、Bio. Reprod. 66:1828-37 (2002)
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1の局面は、エクスビボにおける細胞の生存を促進する方法に関する。この方法は、1個または複数の細胞をエクスビボで提供する段階、およびその1個または複数の細胞の生存を促進するのに有効な条件で、その1個または複数の細胞を酸性セラミダーゼによって処理する段階を含む。
【0009】
本発明の第2の局面は、雌性哺乳類対象における1個または複数の細胞のインビボにおける生存を促進する方法に関する。この方法は、その雌性哺乳類対象における1個または複数の細胞の生存を促進するのに有効な条件で、その雌性哺乳類対象に酸性セラミダーゼを投与する段階を含む。
【0010】
本発明の第3の局面は、エクスビボにおける初代細胞の生存を促進するためのキットに関する。キットは、細胞培地および酸性セラミダーゼを含む。
【0011】
本発明の第4の局面は、体外受精の結果を予測する方法に関する。この方法は、雌性対象に由来する血清または卵胞液の試料を提供する段階、および酸性セラミダーゼの活性レベルに関して試料をスクリーニングする段階を含む。該スクリーニング段階で得られた酸性セラミダーゼの活性レベルは次に、雌性対象を対象とした体外受精の結果の予測に関連づけられる。
【0012】
本発明では、ACが初期胚の生存に必要な1つの因子であることを示す。マウスにおけるAC遺伝子(Asah1)を不活性化するためには遺伝子ターゲティングが使用されている(Liら、「Insertional Mutagenesis of the Mouse Acid Ceramidase Gene Leads to Early Embryonic Lethality in Homozygotes and Progressive Lipid Storage Disease in Heterozygotes」、Genomics 79:218-24 (2002))。これらの動物を対象とした初期の解析では、ヘテロ接合マウス(「Asah1+/-」)が進行性の脂質貯蔵症の表現型を有すること、およびAC活性が完全に消失すると変異体個体が得られなくなることが明らかにされた。しかしながら、Asah1-/-胚が形成されたか否か、あるいは、形成された場合に初期胚発生中に死亡するか否かについては不明である。
【0013】
本発明では、分子生物学、生化学、および形態学の方法を組み合わせることで、Asah1+/-の交雑から得られた個々の胚の発生を追跡することについて記述する。これらの解析から、Asah1-/-胚は形成され得るが、2細胞期においてアポトーシス死を生じることが判明した。これらの胚が、培地にS1Pを添加することで救済可能であり、少なくとも4〜8細胞期まで生存させることが可能なことは重要である。Asah1が、新規に形成された胚で発現される最初期遺伝子の1つであることも証明されている。さらにACは、未受精卵中の主要なタンパク質であり、このタンパク質および遺伝子の発現は、受精が生じない限り、卵の加齢に伴って低下してゆくことが報告されている。全体として、これらの結果は、ACが新規形成胚の不可欠な要素であり、また2細胞期以降における生存に必要なことを示している。
【0014】
本発明は、酸性セラミダーゼが培養中の細胞の生存率を高めることも示す。酸性セラミダーゼの使用には、低毒性、容易な輸送、ならびに固有かつ特異的な機能といった、他の潜在的な抗アポトーシス因子を上回る複数の利点がある。
【0015】
酸性セラミダーゼは、正常細胞の天然の成分であることから、毒性作用が低いか、または全くないはずである。加えて、細胞に前駆体(不活性)型を提供することで、細胞そのものが活性化の速度を、また生存に必要な活性タンパク質の量を制御できるようになる可能性がある。さらに、セラミド代謝を制御すること、およびスフィンゴシン/スフィンゴシン-1-リン酸を産生させることは、酸性セラミダーゼの唯一の既知の機能である。したがって、細胞中の酸性セラミダーゼ活性を高めても、他の細胞シグナル伝達経路には影響を及ぼさないはずである。
【0016】
酸性セラミダーゼは、卵母細胞、ニューロン、および滑膜線維芽細胞を含む、さまざまな細胞タイプに位置するマンノース受容体および/またはマンノース-6-リン酸受容体を介して細胞内に侵入する天然の能力を有する。加えて、これらの受容体を有さない細胞は、ACの内部移行を導く可能性のある「スカベンジング(scavenging)」受容体を含む。これは、培地への酸性セラミダーゼの添加が、培養中の細胞中のその酵素のレベルを高める可能性があり、これが細胞内におけるセラミドレベルの低下につながることを意味する。酸性セラミダーゼは卵母細胞の透明帯を通過する可能性があるようでもあり、これは大半の分子では不可能なことである。
【0017】
細胞内セラミドレベルが高まると、ほぼ常に細胞死に至り、セラミダーゼは、セラミドを加水分解可能な唯一の酵素である。細胞内における酸性セラミダーゼの発現には、セラミドの除去と、スフィンゴシンおよびスフィンゴシン-1-リン酸(詳細が明らかな2種類の抗アポトーシス性の脂質)の産生という、少なくとも2つの帰結がある。したがって、特定の理論に拘束されることなく、酸性セラミダーゼが細胞の生存を、以下の少なくとも2つの様式で促進することが推定される:セラミドを除去すること、ならびにスフィンゴシンおよびスフィンゴシン-1-リン酸を産生させること。酸性セラミダーゼは、この2つのいずれも可能な唯一の既知の分子である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アガロースゲル。野生型のAsah1対立遺伝子(「wt」)を対象とした長鎖増幅およびネステッド増幅によって、それぞれ約9 kbと180 bpのDNA断片が産生された。破壊型のAsah1-/-対立遺伝子(「変異体」)の増幅では、それぞれ約7 kbと255 bpのDNA断片が産生された。Asah1+/-の交雑から、この方法で得られた個々の2細胞期胚を対象に遺伝子型解析を行った。ネステッドPCR増幅の代表的なゲルを示す。Asah1-/-胚は、この段階(レーン3)で存在することがわかる。負の対照(「負の対照」)には、テンプレートDNAは反応混合物に添加されなかった。レーン「対照Asah1+/+」および「対照Asah1+/-」は、記載の遺伝子型を有することが既知の成体マウスに由来するテンプレートDNAを含む。DNAラダー中の個々のマーカー断片のサイズをパネルの左側に示す。
【図2】光学顕微鏡写真(図2Aおよび図2D)、アネキシンV染色像(図2Bおよび図2E)、ならびにAsah1-/-胚が2細胞期中にアポトーシス死を生じていることを示す合成像(図2Cおよび図2F)。これらの写真は、細胞の形状(図2A、図2C〜D、および図2F)、ならびにAsah1+/-の交雑によって得られた、代表的な野生型(「wt」)およびAsah1-/-(「変異体」)の2細胞期のマウス胚のアネキシンV染色パターン(図2B〜Cおよび図2E〜F)を示す(実施例9参照)。「PB」は極体を示す。バー=10 μm。
【図3】未受精マウス卵に由来する細胞抽出物のAC活性を示すグラフ、および代表的なウエスタンブロット(挿入図)。400個のプールされた卵に由来する細胞抽出物をウエスタンブロットで解析した(実施例10参照)。ヤギ抗ヒトAC IgGを使用して、マウスのAC前駆タンパク質(55 kDa)およびACのβサブユニット(40 kDa)を検出した。AC活性アッセイ法では、65個のプールされた卵から細胞抽出物を調製し、BODIPY結合C12セラミドとともに37℃で22時間インキュベートし、その後、HPLCで解析した。これらの抽出物のAC活性は、ブランク対照と比較して有意に高かった(t検定、p<0.005)。これらのデータから、ACが、未受精の健康なマウス卵で高レベルで発現されていることがわかる。データは、n=3の独立した実験の平均±S.E.Mを示す。
【図4】固定された未受精卵の代表的な免疫組織化学的な画像。ヒトACに対してヤギIgGを使用し(図4Aおよび図4D)、リソソームマーカーLamp1に対してラットIgGを使用した(図4Bおよび図4E)。図4Cおよび図4Fは合成像を示す。一次抗体の局在を、蛍光二次抗体(Cy-3/2)およびレーザー走査型共焦点顕微鏡を使用して可視化した(実施例5参照)。二次抗体のみによって標識された卵を対照として使用した(図4G)。バー=10 μm。データは、3回の独立した実験を示し、ACが健康なマウス卵において高レベルで発現されることが確認される。
【図5】マウスの若齢未受精卵(「卵」)、高齢未受精MII卵(「高齢卵」)、および2細胞期の胚における相対的なmRNAレベルを示すグラフ。「mAC」:ACのmRNA;「mActb」:βアクチンのmRNA;「mG3」:グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼのmRNA;「RPS11」:リボソームタンパク質S11のmRNA。データは、n=3の独立した実験の平均±S.E.M.を示す。これらの結果から、未受精マウス卵ではACの発現が加齢に伴って低下することがわかる。しかしながら、仮に受精が生じると、健康な2細胞期の胚ではACは増加する。
【図6】酸性セラミダーゼの非存在下(「-AC」)(図6A)、または存在下(「+AC」)(図6B)でインキュベートしたマウス卵母細胞の染色像。バー=10 mm。
【図7】以下の条件でインキュベートした卵母細胞のアポトーシス率を示すグラフ:ACを含まないM2培地(「M2-AC」)、ACを発現しない親CHO細胞株から採取された培地(「CHO-AC」)、純粋なAC(10 μg/ml)が添加されたM2培地(「M2+AC」)、またはACを安定に発現し、かつ分泌するCHO細胞系列から採取された培地(「CHO6+AC」)。データは、3回の独立した実験を示す。
【図8】卵核胞期(「GV」)、卵核崩壊期(「GVBD」)、MI期、またはMII期における、ヒトの裸化卵母細胞、および固定卵母細胞の染色像。卵母細胞を、ポリクローナル抗AC抗体(赤;図8C、図8G、図8K、および図8O)、ポリクローナル抗LAMP抗体(緑;図8B、図8F、図8J、および図8N)、またはHoechst DNA特異的蛍光色素33342(青;図8A、図8E、図8I、および図8M)とともにインキュベートした。図8D、図8H、図8L、および図8Pは、以上の3つの像が相互に重ね合わされた像(「合成」)を示し、ACとLAMPおよび/または細胞DNAが共局在することがわかる。バー=10 μm。これらのデータは、ヒト卵母細胞におけるACの発現を示す最初の結果である。
【図9】裸化され、かつ固定された低グレードのヒト胚の染色像。胚を、Hoechst DNA特異的蛍光色素33342(青;図9A)、抗酸性スフィンゴミエリナーゼ抗体(「ASM」)(緑;図9B)、またはポリクローナル抗AC抗体(赤;図9C)とともにインキュベートした。図9Dは、図9A〜Cが相互に重ね合わされた像(「合成」)を示し、ACとDNAおよび/またはASMが共局在することがわかる。一次抗体の局在を、二次抗体であるCy-3またはCy-2、およびレーザー走査型共焦点顕微鏡を使用して画像化した。胚を、内部細胞塊および外部細胞塊の形状にしたがって等級づけた。データは、3回の独立した実験を示す。これらのデータは、ヒト胚におけるACの発現を示す最初の結果である。
【図10】裸化され、かつ固定された高グレードのヒト胚の染色像。胚を、Hoechst DNA特異的蛍光色素33342(青;図10A)、抗ASM抗体(緑;図10B)、またはポリクローナル抗AC抗体(赤;図10C)とともにインキュベートした。図10Dは、図10A〜Cが相互に重ね合わされた像(「合成」)を示し、ACとDNAおよび/またはASMが共局在することがわかる。一次抗体の局在を、二次抗体であるCy-3またはCy-2、およびレーザー走査型共焦点顕微鏡を使用して画像化した。胚を、内部細胞塊および外部細胞塊の形状にしたがって等級づけた。データは、3回の独立した実験を示す。
【図11】AC前駆タンパク質またはACのα-サブユニットに対する抗体を使用した、ヒト卵胞液試料のウエスタンブロット。1 μlの試料をレーン1にロードし(「FF 1λ」)、10 μlの試料をレーン2にロードした(「FF 10λ」)。純粋なACを、対照(「対照AC」)としてレーン3にロードした。
【図12】母体年齢(歳)の関数としてのヒト卵胞液におけるAC活性のプロット。
【図13】ACの存在下で(図13B)、またはACの非存在下で(図13A)、インビトロで培養した未成熟ヒト卵母細胞のスライド。
【図14】ACの存在下で(「+AC」)、またはACの非存在下で(「-AC」)培養したヒト卵母細胞の染色像(図14A〜B)およびスライド(図14C〜D)。卵母細胞DNAをHoechst DNA特異的蛍光色素33342によって染色し、蛍光シグナルをレーザー走査型共焦点顕微鏡で可視化した。凝縮クロマチン(「凝縮」)、中期板、および極体(「PB」)が見られる。データは、2回の独立した実験を示す。
【図15】ACの存在下で(「+AC」)、またはACの非存在下で(「-AC」)培養したヒト卵母細胞のTUNEL染色像(図15A〜B)およびスライド(図15C〜D)。中期板および極体(「PB」)が見られる。データは、2回の独立した実験を示す。
【図16】通常培地(「対照」)で、またはアミロイド-βペプチド(「Aβ」)、アミロイドβペプチドとAC(「Aβ+AC」)、過酸化水素(「H2O2」)、または過酸化水素とAC(「H2O2+AC」)が添加された培地で成長させた初代ラット海馬ニューロン培養物におけるアポトーシス細胞のパーセンテージを示すグラフ。*3回の独立した実験に基づくp<0.01。
【図17】ヒトACの存在下で(「+AC」)、またはヒトACの非存在下で(「-AC」)成長させた初代ラット滑膜線維芽細胞におけるスフィンゴシン-1-リン酸(「S1P」)のレベルを示すグラフ。*p<0.001。
【図18】MTS試薬を使用して決定された(490ナノメートルにおける吸光度によって定量)、ヒトACの存在下で(黒丸)、またはヒトACの非存在下で(白丸)培養した初代ネコ滑膜線維芽細胞の増殖を示すグラフ。*p<0.001。
【図19】AC前駆タンパク質(55 kDa)およびACのβサブユニット(40 kDa)の存在を示す、マウス胚性幹細胞のウエスタンブロット。これはACが、未分化マウスES細胞において高レベルで発現されていることを示す。
【図20】ACの存在下で(「+AC」)、またはACの非存在下で(「-AC」)インキュベートした細胞における、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(「PARP」)(図20A)、Bax(図20B)、およびアクチン(図20C)(対照)の相対量を示す、マウス胚性幹細胞のウエスタンブロット。これらのデータから、マウスES細胞をACの存在下で成長させると、複数のアポトーシスマーカー(PARPおよびBax)の発現レベルが低下することがわかる。タンパク質は、個々のタンパク質に対するポリクローナル抗体を使用して検出された。
【図21】アミロイド-βペプチド(「Aβ」)および/または組換えヒトAC(「rhAC」)の存在下で(「+」)、またはこれらの非存在下で(「-」)培養したラット神経細胞培養物におけるセラミドのレベルを示すグラフ。正常脳と比較時、*p<0.05。値は、平均±S.D.(N=3)で示す。
【図22】非処理の(「対照」)ラット神経細胞培養物、および組換えヒトAC前処理時(「+Aβ +AC」)、または前処理なし(「+Aβ」)で、アミロイド-βペプチドに曝露した培養物におけるカスパーゼ3の活性を示すグラフ。正常脳と比較時、**p<0.01。値は、平均±S.D.(N=3)で示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明の第1の局面は、細胞のエクスビボにおける生存を促進する方法に関する。この方法は、1個または複数の細胞をエクスビボで提供する段階、およびその1個または複数の細胞の生存を促進するのに有効な条件下で、その1個または複数の細胞を酸性セラミダーゼによって処理する段階を含む。
【0020】
酸性セラミダーゼ(「AC」)は、セラミドのスフィンゴシンおよび遊離脂肪酸への加水分解を触媒する酵素である(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Bernardoら、「Purification, Characterization, and Biosynthesis of Human Acid Ceramidase」、J. Biol. Chem. 270(19): 11098-102 (1995))。成熟型のACは、αサブユニット(約13 kDa)およびβサブユニット(約40 kDa)を含む約50 kDaのタンパク質である(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Bernardoら、「Purification, Characterization, and Biosynthesis of Human Acid Ceramidase」、J. Biol. Chem. 270(19): 11098-102 (1995))。これは、Asah1遺伝子の産物(参照により全体が本明細書に組み入れられる、NCBI UniGene GeneID No. 427)であるAC前駆タンパク質の切断によって産生される(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Ferlinzら、「Human Acid Ceramidase: Processing, Glycosylation, and Lysosomal Targeting」、J. Biol. Chem. 276(38):35352-60 (2001))。本発明は、ACが細胞の生存を促進することを示す。
【0021】
本発明のこの局面によって生存が促進され得る細胞は、さまざまな細胞(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Obeidら、「Programmed Cell Death Induced by Ceramide」、Science 259:1769-71 (1993))、例えば肝細胞(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Aroraら、「Ceramide Induces Hepatocyte Cell Death Through Disruption of Mitochondrial Function in the Rat」、Hepatol. 25 :958-63 (1997))、皮膚線維芽細胞(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Mizushimaら、「Ceramide, a Mediator of Interleukin 1, Tumour Necrosis Factor α, as Well as Fas Receptor Signalling, Induces Apoptosisof Rheumatoid Arthritis Synovial Cells」、Ann. Rheum. Dis. 57:495-9 (1998))、軟骨細胞(参照により全体が本明細書に組み入れられる、MacRaeら、「Ceramide Inhibition of Chondrocyte Proliferation and Bone Growth Is IGF-I Independent」、J. Endocrinol. 191(2):369-77 (2006))、肺上皮(参照により全体が本明細書に組み入れられる、ChanおよびGoldkorn、「Ceramide Path in Human Lung Cell Death」、Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 22(4):460-8 (2000))、赤血球(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Langら、「Mechanisms of Suicidal Erythrocyte Death」、Cell. Physiol. Biochem. 15:195-202 (2005))、心筋細胞(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Parraら、「Changes in Mitochondrial Dynamics During Ceramide-induced Cardiomyocyte Early Apoptosis」、Cardiovasc. Res. (2007))、ならびにリンパ球(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Gombosら、「Cholesterol and Sphingolipids as Lipid Organizers of the Immune Cells' Plasma Membrane: Their Impact on the Functions of MHC Molecules, Effector T-lymphocytes and T-cell Death」、Immunol. Lett. 104(1-2): 59-69 (2006))、卵、胚、ニューロン、精子、滑膜線維芽細胞、および胚性幹細胞を含む、セラミダーゼアポトーシス経路を利用する細胞を含むが、これらに限定されない。好ましい細胞タイプは、卵(受精卵または未受精卵)、胚、初代細胞(例えばニューロン)、精子、滑膜線維芽細胞、および胚性幹細胞である。さらに、セラミドが関与するアポトーシス経路は、哺乳類の種を超えて保たれているようである(LeeおよびAmoscato、「TRAIL and Ceramide」、Vitam. Horm. 67:229-55 (2004);それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、Samadi、「Ceramide-induced Cell Death in Lens Epithelial Cells」、Mol. Vis. 13:1618-26 (2007)(ヒト);Parraら、「Changes in Mitochondrial Dynamics During Ceramide-induced Cardiomyocyte Early Apoptosis」、Cardiovasc. Res. (2007)(ラット);de Castro E PaulaおよびHansen、「Ceramide Inhibits Development and Cytokinesis and Induces Apoptosis in Preimplantation Bovine Embryos」、Mol. Reprod. Devel, DOI No. 10.1002/mrd.20841 (2007)(ウシ)も参照)。したがって、上記の個々の細胞タイプに関しては、適切な細胞は、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、イヌ、およびネコの細胞を含むことが推定される。好ましい態様では、この方法によって、体外受精措置中における卵および/または胚の生存が延長され、特に高齢のヒト女性を対象とした、および獣医学的な繁殖措置時の再着床用の、健康な胚の同定および選択が容易になる。
【0022】
本発明のこの局面の細胞は、当業者に明らかな方法によって提供され得る。例として、細胞は動物から、または既存のエクスビボ供給源(例えば組織試料、細胞培養物など)から標準的な手法で得られる。細胞をエクスビボで処理する段階は、同種培養物中に存在する細胞、ならびに異種培養物(例えば組織試料)中に存在する細胞を処理する段階を含む。
【0023】
本発明のこの局面および全ての局面で使用可能な酸性セラミダーゼは、表1に記載された酵素を含むが、これらに限定されない。本発明のこの局面および全ての局面(後述するインビボ法を含む)では、酸性セラミダーゼは、処理対象の1個または複数の細胞に対して、同種(すなわち同じ種に由来)、または異種(すなわち異なる種に由来)であってよい。
【0024】
(表1)例示的な酸性セラミダーゼファミリーのメンバー
【0025】
本発明のこの局面による処理段階は、当業者に明らかな方法で細胞に酸性セラミダーゼを接触させることで実施される。
【0026】
いくつかの態様では、処理段階は、後に細胞によって活性型の酸性セラミダーゼタンパク質へと変換される酸性セラミダーゼ前駆タンパク質を細胞に導入することで実施される。特にAC前駆タンパク質は、活性型(αサブユニットおよびβサブユニットを含む)への自己タンパク質分解的な切断を生じる。これは細胞内環境によって促進され、種を越えてAC前駆タンパク質の切断部位において高度に保存された配列に基づき、全てとは言わないまでも大半の細胞タイプにおいて生じることが予想される。適切な酸性セラミダーゼ前駆タンパク質は、上記の表1に記載されたタンパク質を含む。当業者に明らかなように、前駆タンパク質は任意で、細胞が曝露される培地中に含まれる場合がある。前駆タンパク質が関心対象の細胞によって取り込まれて活性型の酸性セラミダーゼに変換される態様、および前駆タンパク質が、培地中に存在するさまざまな細胞または薬剤によって酸性セラミダーゼに変換される態様の両方が想定される。
【0027】
タンパク質薬剤またはポリペプチド薬剤(例えば酸性セラミダーゼ、酸性セラミダーゼ前駆タンパク質)を輸送する方法は、所望のタンパク質またはポリペプチドと、安定化することで結合状態のタンパク質またはポリペプチドの酵素的分解を回避するポリマーとの結合を含む。このタイプの結合状態のタンパク質またはポリペプチドは、参照により全体が本明細書に組み入れられる、Ekwuribeによる米国特許第5,681,811号に記載されている。
【0028】
タンパク質薬剤またはポリペプチド薬剤を輸送する、さらに別の方法は、参照により全体が本明細書に組み入れられる、Heartleinらによる米国特許第5,817,789号によるキメラタンパク質の作製を含む。キメラタンパク質は、リガンドドメインおよびポリペプチド薬剤(例えば酸性セラミダーゼ、酸性セラミダーゼ前駆タンパク質)を含む場合がある。リガンドドメインは、標的細胞上に位置する受容体に特異的である。したがって、キメラタンパク質が細胞または培地に輸送されると、キメラタンパク質は標的細胞に吸収され、標的細胞はキメラタンパク質を内在化する。
【0029】
いくつかの態様では、酸性セラミダーゼ(または上記の酸性セラミダーゼ前駆タンパク質)をコードする核酸分子を細胞または培地に導入することで、酸性セラミダーゼを添加してもよい(それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、JOSEPH SAMBROOKおよびDAVID W. RUSSELL, 1-3 MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL (3d ed. 2001);SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (Frederick M. Ausubelら eds., 1999);CohenおよびBoyerによる米国特許第4,237,224号)。適切な核酸分子は、上記の表1に記載された分子を含む。これは、核酸分子を含み(かつ発現し)、かつ酸性セラミダーゼ/酸性セラミダーゼ前駆タンパク質を培地中に分泌する細胞を培地に添加する段階を含む。
【0030】
本発明の方法に使用される核酸薬剤は、当技術分野で既知のいくつかの方法で細胞内に輸送することができる。例えば、核酸をベクター中に、例えば細胞内に輸送されて、内在する核酸の発現を可能とするベクター中に含めることができる。このようなベクターは、染色体ベクター(例えば人工染色体)、非染色体ベクター、および合成核酸を含む。ベクターは、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ベクターなどの、プラスミド、ウイルス、およびファージを含む。
【0031】
当業者に明らかなように、核酸薬剤は細胞内にエクスビボ法で輸送することができる。例えば、核酸およびベクターを細胞内に、物理的手段で、例えばエレクトロポレーション、脂質、陽イオン性脂質、リポソーム、DNA銃、リン酸カルシウム沈殿、注入、または裸の核酸の輸送によって輸送することができる。
【0032】
上述の核酸の非感染性の輸送に代わる方法として、酸性セラミダーゼ/酸性セラミダーゼ前駆タンパク質をコードする組換え遺伝子を含む裸のDNAまたは感染性形質転換用ベクターを輸送に使用することができる。続いて、核酸分子を形質転換細胞中で発現させることができる。
【0033】
組換え遺伝子は、相互に作動可能に結合された、遺伝子が発現される細胞内で作動可能な上流のプロモーター、および任意で他の適切な調節エレメント(すなわちエンハンサーまたはインデューサーエレメント)、核酸をコードするコード配列、ならびに下流の転写終結領域を含む。任意の適切な構成的プロモーターまたは誘導的プロモーターを使用して、組換え遺伝子の転写を調節することが可能であり、当業者であれば、このようなプロモーターを、現時点で既知であるか、または今後開発されるかにかかわらず、容易に選択および利用することができる。プロモーターは、生存が促進される細胞内における発現に特異的な場合もある。組織特異的なプロモーターを、例えばTetO応答エレメントを使用して誘導的/抑制的とすることもできる。他の誘導的エレメントを使用することもできる。既知の組換え手法を利用して組換え遺伝子を作製し、これを発現ベクター(使用される場合)中に移し、ベクターまたは裸のDNAを細胞に投入することができる。例示的な手順は、参照により全体が本明細書に組み入れられる、SAMBROOKおよびRUSSELL, 1-3 MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL (3d ed. 2001)に記載されている。当業者であれば、これらの手順を、必要に応じて、本明細書に記載された手順の既知の変法を使用して容易に改変することができる。
【0034】
任意の適切なウイルス性または感染性の形質転換ベクターを使用することができる。例示的なウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、およびレトロウイルスベクター(レンチウイルスベクターを含む)を含むが、これらに限定されない。
【0035】
アデノウイルス遺伝子輸送媒体は、それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、Berkner、「Development of Adenovirus Vectors for the Expression of Heterologous Genes」、Biotechniques 6:616-29 (1988);Rosenfeldら、「Adenovirus-mediated Transfer of a Recombinant α1-antitrypsin Gene to the Lung Epithelium in Vivo」、Science 252:431-434 (1991);CurielらによるPCT Publication No. WO/1993/007283;PerricaudetらによるPCT Publication No. WO/1993/006223;およびCurielらによるPCT Publication No. WO/1993/007282に記載された内容に従って容易に作製および利用することができる。他のタイプのアデノウイルスベクターは、それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、Wickhamらによる米国特許第6,057,155号;BoutおよびHoebenによる米国特許第6,033,908号;Wilsonらによる米国特許第6,001,557号;ChamberlainおよびKumar-Singhによる米国特許第5,994,132号;KochanekおよびSchniednerによる米国特許第5,981,225号;SpoonerおよびEpenetosによる米国特許第5,885,808号;ならびにCurielによる米国特許第5,871,727号に記載されている。
【0036】
アデノ随伴ウイルス遺伝子輸送媒体を構築および使用することで、所望の核酸をコードする組換え遺伝子を細胞中に輸送することができる。インビトロにおけるアデノ随伴ウイルス遺伝子輸送媒体の使用は、それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、Chatterjeeら、「Dual-target Inhibition of HIV-1 in Vitro by Means of an Adeno-associated Virus Antisense Vector」、Science 258:1485-8 (1992);Walshら、「Regulated High Level Expression of a Human γ-Globin Gene Introduced into Erythroid Cells by an Adeno-associated Virus Vector」、Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 89:7257-61 (1992);Walshら、「Phenotypic Correction of Fanconi Anemia in Human Hematopoietic Cells with a Recombinant Adeno-associated Virus Vector」、J. Clin. Invest. 94:1440-8 (1994);Flotteら、「Expression of the Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator from a Novel Adeno-associated Virus Promoter」、J. Biol. Chem. 268:3781-90 (1993);Ponnazhaganら、「Suppression of Human α-Globin Gene Expression Mediated by the Recombinant Adeno-associated Virus 2-based Antisense Vectors」、J. Exp. Med. 179:733-8 (1994);Millerら、「Recombinant Adeno-associated Virus (rAAV)-mediated Expression of a Human γ-Globin Gene in Human Progenitor-derived Erythroid Cells」、Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 91 :10183-7 (1994);Einerhandら、「Regulated High-level Human β-Globin Gene Expression in Erythroid Cells Following Recombinant Adeno-associated Virus-mediated Gene Transfer」、Gene Ther. 2:336-43 (1995);Luoら、「Adeno-associated Virus 2-mediated Gene Transfer and Functional Expression of the Human Granulocyte-macrophage Colony-stimulating Factor」、Exp. Hematol. 23:1261-7 (1995);およびZhouら、「Adeno-associated Virus 2-mediated Transduction and Erythroid Cell-specific Expression of a Human β-Globin Gene」、Gene Ther. 3:223-9 (1996)に記載されている。
【0037】
感染性形質転換系を形成するように改変されたレトロウイルスベクターを使用して、所望の核酸産物をコードする組換え遺伝子を標的細胞中に輸送することもできる。このようなタイプの1つのレトロウイルスベクターは、参照により全体が本明細書に組み入れられる、KrieglerおよびPerezによる米国特許第5,849,586号に開示されている。それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、Aryaによる米国特許第6,790,657号、およびKafriらによる米国特許出願第2004/0170962号、およびAryaによる米国特許出願第2004/0147026号に記載されたベクターを含むレンチウイルスベクターを使用することもできる。
【0038】
酸性セラミダーゼ処理は、必要に応じて何度も、また細胞の生存を促進するのに適切な期間にわたって実施することができる。例えば処理は、1回または複数回にわたって実施することができる。
【0039】
添加される酸性セラミダーゼの量が、特定の条件に依存して変動することは言うまでもない。一般に酸性セラミダーゼは、細胞の生存を改善するのに有効な量を達成するように投与される。所望の効果を得るのに必要な量は、細胞のタイプ、培養条件、および細胞の生存が促進されるのに望ましい期間に依存して変動する場合がある。当業者であれば、有効量を実験から決定することができる。これは例えば、培養物中の細胞にさまざまな量の酸性セラミダーゼを添加して、望ましい結果を得るのに有効な濃度を計算するアッセイ法を含んでもよい。
【0040】
好ましい態様では、酸性セラミダーゼ/酸性セラミダーゼ前駆タンパク質が培地中に導入され、かつ1個もしくは複数の細胞が、酸性セラミダーゼ/酸性セラミダーゼ前駆タンパク質の導入前または導入後に培地に曝露される。
【0041】
本発明のこの局面および全ての局面による生存の促進は、細胞が死滅するまでの時間の延長、および細胞の死の完全な防止を含む、細胞の生存率の任意の上昇を意味する。
【0042】
本発明の第2の局面は、雌性哺乳類対象における1個または複数の細胞のインビボにおける生存を促進する方法に関する。この方法は、その雌性哺乳類対象における1個または複数の細胞の生存を促進するのに有効な条件で、その雌性哺乳類対象に酸性セラミダーゼを投与する段階を含む。
【0043】
本発明のこの局面の哺乳類は、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、イヌ、およびネコを含むが、これらに限定されない。
【0044】
本発明のこの局面の細胞は、上記の細胞を含む。好ましい態様では、1個または複数の細胞は卵(受精卵または未受精卵)である。
【0045】
酸性セラミダーゼは、放射線療法および/または化学療法を受けている女性の卵母細胞/胚を保護可能なことが推定される。というのは、これらの治療法は、セラミド経路を介して卵のアポトーシスを誘導することが知られているからである(それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、Jurisicovaら、「Molecular Requirements for Doxorubicin-mediated Death in Murine Oocytes」、Cell Death Differ. 13:1466-74 (2006);TillyおよびKolesnick、「Sphingolipids, Apoptosis, Cancer Treatments and the Ovary: Investigating a Crime Against Female Fertility」、Biochem. Biophys. Acta 1585:135-8 (2002))。したがって好ましい態様では、細胞は卵であり、および対象は、酸性セラミダーゼの投与後に化学療法を受けるヒト女性である。
【0046】
別の好ましい態様では、本発明のこの局面の方法は、卵母細胞の細胞死をインビボで防ぐことで、農業関連動物(例えばウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ)、家畜動物(例えばイヌ、ネコ、モルモット、ハムスター)、および/または実験動物(例えばサル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター)の繁殖率を高めるために実施される。
【0047】
エクスビボ輸送に関して上述したように、活性型の酸性セラミダーゼは、対象に直接投与することが可能であり、かつ/または酸性セラミダーゼ前駆タンパク質、および/または酸性セラミダーゼ/酸性セラミダーゼ前駆タンパク質をコードする核酸の形状で輸送することができる。例示的なタンパク質および核酸は、上記の表1に記載されたタンパク質および核酸を含む。上記の結合型タンパク質、およびキメラのタンパク質またはポリペプチド薬剤も、本発明のこの局面に適している。
【0048】
当業者に明らかなように、投与段階は一般に既知の方法で実施することができる。例示的な方法を以下に示す。
【0049】
投与は、対象への全身投与か、または患部の組織、器官、および/または細胞への標的投与のいずれかを介して達成することができる。治療用薬剤(すなわち酸性セラミダーゼ、酸性セラミダーゼ前駆タンパク質、酸性セラミダーゼ/酸性セラミダーゼ前駆タンパク質をコードする核酸)は、標的となる組織、器官、もしくは細胞への治療用薬剤の移動(および/または標的となる組織、器官、もしくは細胞による取り込み)を促進する1種類もしくは複数の薬剤とともに非標的部位に投与することができる。当業者に明らかなように、追加的および/または代替的に、所望の組織、器官、または細胞へのその輸送(および所望の組織、器官、または細胞による取り込み)を促進するように、治療用薬剤そのものを改変することができる。卵の生存を促進する際の好ましい標的組織は、卵巣組織および子宮組織を含む。
【0050】
薬剤を輸送する任意の適切な方法を利用して、本発明のこの局面を実施することができる。典型的には治療用薬剤は、標的となる細胞、組織、または器官に治療用薬剤を輸送する媒体に含まれた状態で患者に投与される。
【0051】
例示的な投与経路は、気管内注入、吸引、気道注入、エアロゾル化、噴霧、鼻内注入、口内注入もしくは経鼻胃注入、腹腔内注射、静脈内注射、局所注射、経皮注射、非経口注射、皮下注射、静脈内注射、動脈内注射(肺動脈を介する注射など)、筋肉内注射、胸膜内注入、脳室内、病巣内による経路、粘膜(鼻、咽頭、気管支、性器、および/または肛門の粘膜など)への塗布、または放出媒体の埋め込みを含むが、これらに限定されない。
【0052】
典型的には治療用薬剤は、治療用薬剤および任意の薬学的に許容される補助剤、担体、賦形剤、および/または安定剤を含む薬学的製剤として投与され、かつ錠剤、カプセル剤、粉末剤、液剤、懸濁剤、もしくは乳濁剤などの、固体状もしくは液体状であってよい。組成物は好ましくは、約0.01〜約99重量パーセント、より好ましくは約2〜約60重量パーセントの治療用薬剤を、補助剤、担体、および/または賦形剤とともに含む。このような治療的に有用な組成物中の活性化合物の量は、適切な単位投与量が得られるような量である。
【0053】
薬剤は、例えば不活性希釈剤とともに、もしくは吸収性食用担体とともに経口投与することが可能であるか、硬カプセルもしくは軟カプセル中に封入することが可能であるか、錠剤中に圧縮することが可能であるか、食物中に直接含めることが可能である。治療薬を経口投与する場合、これらの活性化合物は、賦形剤とともに混合し、また錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤などの形状で使用することができる。このような組成物および調製物は、少なくとも0.1%の薬剤を含むべきである。このような組成物中の薬剤のパーセンテージが変動する場合があることは言うまでもないが、利便性を考慮して、重量単位で約2%〜約60%であってよい。このような治療的に有用な組成物中の薬剤の量は、適切な投与量が得られるような量である。
【0054】
錠剤やカプセル剤などには、トラガカントゴム、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチンなどの結合剤;第二リン酸カルシウムなどの賦形剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプン、またはアルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;およびショ糖、乳糖、またはサッカリンなどの甘味剤を含めることもできる。単位投与剤形がカプセルの場合、上記タイプの材料に加えて、脂肪油などの液体担体を含めてもよい。
【0055】
他のさまざまな材料を被覆剤として存在させるか、単位投与剤形の物理的形状を改変するように使用することができる。例えば錠剤を、シェラック、糖、またはこれらの両方によって被覆することができる。シロップには、活性成分に加えて、甘味剤としてショ糖を、保存剤としてメチルパラベンおよびプロピルパラベンを、色素を、ならびにチェリー香料やオレンジ香料などの香味剤を含めることができる。
【0056】
薬剤は非経口的に投与することもできる。薬剤の溶液または懸濁液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性物質とが適切に混合された水によって調製することができる。分散液も、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの油中混合物を溶媒として調製することができる。例示的な油には、石油、動物油、植物油、もしくは合成油、例えばラッカセイ油、ダイズ油、または鉱油などがある。一般に、水、生理食塩水、水性デキストロースおよび関連糖溶液、ならびにプロピレングリコールやポリエチレングリコールなどのグリコールが、特に注射液用の好ましい液体担体である。保存および使用の通常の条件では、これらの調製物は、微生物の成長を防ぐための保存剤を含む。
【0057】
注射可能な用途に適した薬学的剤形は、無菌性の水溶液または分散液、および無菌性の注射液または分散液の即時調製用の無菌性粉末剤を含む。いずれの場合も、このような形状は無菌性でなければならず、かつ容易なシリンジ充填性が存在する程度に液状でなければならない。これは、製造および保存の条件で安定であり、かつ細菌や真菌などの微生物の混入作用を防ぐように保存されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール)、これらの適切な混合物、ならびに植物油を含む、溶媒または分散媒であってよい。
【0058】
本発明のこの局面の薬剤は、エアロゾル状で気道に直接投与することもできる。エアロゾルとして使用される場合は、溶液中または懸濁液中の本発明の化合物は、適切な噴霧剤、例えばプロパン、ブタン、またはイソブタンなどの炭化水素噴霧剤を一般的な補助剤とともに、加圧されたエアロゾル容器内に収めることができる。本発明の材料は非加圧状態で投与することもできる。
【0059】
例示的な輸送用装置は、ネブライザー、アトマイザー、リポソーム(能動的および受動的な薬剤輸送法用の両方)(それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、WangおよびHuang、「pH-Sensitive Immunoliposomes Mediate Target-cell-specific Delivery and Controlled Expression of a Foreign Gene in Mouse」、Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 84:7851-5 (1987);Banghamら、「Diffusion of Univalent Ions Across the Lamellae of Swollen Phospholipids」、J. Mol. Biol. 13:238-52 (1965);Hsuによる米国特許第5,653,996号;Leeらによる米国特許第5,643,599号;Hollandらによる米国特許第5,885,613号;DzauおよびKanedaによる米国特許第5,631,237号;ならびにLoughreyらによる米国特許第5,059,421号;Wolffら、「The Use of Monoclonal Anti-Thy1 IgG1 for the Targeting of Liposomes to AKR-A Cells in Vitro and in Vivo」、Biochim. Biophys. Acta 802:259-73 (1984))、経皮パッチ、インプラント、埋め込み可能または注入可能なタンパク質デポ組成物、およびシリンジを含むが、これらに限定されない。本発明のこの局面を有効とするために、当業者に既知の他の輸送系を利用して、インビボにおける所望の器官、組織、または細胞への治療用薬剤の望ましい輸送を達成することもできる。
【0060】
投与は、必要に応じて複数回にわたって、かつ細胞生存の有効な促進を可能とするのに適切な期間にわたって実施することができる。例えば投与は、単回の徐放性投与剤形によって、または1日に複数回の投与によって実施することができる。
【0061】
投与される量が、治療レジメンに応じて変動することは言うまでもない。一般に薬剤は、細胞の生存を改善するのに有効な量を達成するように投与される。したがって治療的有効量は、細胞死の開始の遅延を含む、細胞のアポトーシスを少なくとも部分的に防ぐことが可能な量であってよい。有効量を得るのに必要な用量は、薬剤、製剤、細胞のタイプ、細胞の生存が促進されることが望ましい期間、および薬剤が投与される個体に依存して変動する場合がある。
【0062】
有効量の決定は、さまざまな用量の薬剤を培養物中の細胞に投与し、インビボで必要な濃度を計算するために、細胞の生存を促進するのに有効な薬剤の濃度を決定するインビトロアッセイ法を含んでもよい。有効量は、インビボ動物試験に基づく場合もある。当業者であれば、治療的有効量を実験的に決定することができる。
【0063】
本発明の第3の局面は、エクスビボにおける初代細胞の生存を促進するためのキットに関する。キットは、細胞培地および酸性セラミダーゼを含む。
【0064】
本発明のこの局面の適切な細胞培地は、卵母細胞および胚用のM2、多くの初代細胞(線維芽細胞を含む)用のRPMIおよびDMEM、ならびにニューロン用のB27を含むが、これらに限定されない。
【0065】
本発明のこの局面の酸性セラミダーゼは上記の酵素を含む。酸性セラミダーゼはタンパク質の形状、および/または酸性セラミダーゼをコードする核酸分子の形状を取り得る。
【0066】
本発明のこの局面のキットは任意で培地中に上記の任意の細胞を含む1個または複数の細胞を含んでもよい。当業者に明らかなように、複数の細胞が含まれる場合、細胞は、同種(すなわち同じ種に由来する同じ細胞タイプ)、または異種(すなわち異なる種に由来する異なる細胞タイプおよび/または細胞)であってよい。
【0067】
本発明の第4の局面は、体外受精の結果を予測する方法に関する。この方法は、雌性対象に由来する血清または卵胞液の試料を提供する段階を含む。この試料は、酸性セラミダーゼの活性レベルに関してスクリーニングされ、酸性セラミダーゼの活性レベルが、雌性対象における体外受精の結果の予測に関連づけられる。
【0068】
試料は、当業者に明らかな方法で提供され得る。例えば血清は標準的な採血法で得られる。卵胞液は、人工受精時の卵母細胞の採取時に得られる。
【0069】
本発明のこの局面の適切な対象は上記の対象を含む。好ましい態様では、対象はヒトである。
【0070】
試料を酸性セラミダーゼ活性に関して、当業者に明らかな方法でスクリーニングすることができる。適切な方法は例えば、AC活性アッセイ法(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Eliyahuら、「Acid Ceramidase Is a Novel Factor Required for Early Embryo Survival」、FASEB J. 21(7): 1403-9 (2007)、試料中に存在するACの相対量を決定するウエスタンブロッティング(より高量のACタンパク質は、より高いAC活性レベルと相関する)(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Eliyahuら、「Acid Ceramidase Is a Novel Factor Required for Early Embryo Survival」、FASEB J. 21(7): 1403-9 (2007))、およびRIA(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Ferlinzら、「Human Acid Ceramidase: Processing, Glycosylation, and Lysosomal Targeting」、J. Biol. Chem. 276(38):35352-60 (2001))を含む。
【0071】
血清および/または卵胞液中のACが低い女性は、アポトーシスの卵のパーセンテージがより高く、したがって体外受精に関する推定結果が不良であることが予測される。したがって、試料のAC活性レベルは、標準レベルと比較することで、推定結果と関連づけることが可能である。標準は、さまざまな年齢の女性の集団データを使用して決定することができる(例えば以下の実施例14を参照)。
【0072】
本発明を、以下の実施例を参照して、さらに説明する。
【0073】
実施例
実施例1−マウスの卵および胚の採取
動物を対象とした全ての実験は、適切な施設内動物飼育および利用委員会の承認を受け、かつ同委員会の定めるガイドラインを厳格に遵守して実施された。7〜8週齢の129-SV/IMJおよびC57-Black/6の雌マウス(Jackson Labs, Bar Harbor, Maine)を、10国際単位(「IU」)の妊馬血清性性腺刺激ホルモン(「PMSG」;Syncro-part, Sanofi, France)、続いて48時間後に10 IUのヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(「hCG」;Sigma, St. Louis, MO)によって過排卵させた。hCGの注射のそれぞれ16時間後または46時間後に、卵管膨大部(oviductal ampullae)から成熟および高齢のMII期の卵を採取した。Todd-Hewitt溶媒中の400 IU/mlの高純度ヒアルロニダーゼ(H-3631;Sigma)(参照により全体が本明細書に組み入れられる、EliyahuおよびShalgi、「A Role for Protein Kinase C During Rat Egg Activation」、Biol. Reprod. 67:189-95 (2002))への短時間曝露によって卵丘細胞を除去した。2細胞期胚の採取時には、過排卵の雌を、生殖能力が確認済みの雄とともにケージ内に収容し、hCGの注射の46時間後に安楽死させた。胚を卵管膨大部から単離し、5% CO2および95%空気の加湿空気中で37℃で培養した。
【0074】
実施例2−単一細胞長鎖ネステッドPCRによる遺伝子型決定
個々の胚に由来するDNAを対象に、2セットの長鎖および短鎖(ネステッド)のプライマーの混合物を使用してPCR増幅を行った。野生型Asah1対立遺伝子を対象とした、長鎖(1回目)および短鎖(2回目)のPCR増幅を、フォワードおよびリバースのプライマー
を使用して行い、それぞれ約9 kbと180 bpのDNA断片を得た。フォワードおよびリバースのプライマー
を使用した変異型Asah1対立遺伝子の増幅によって、それぞれ約7 kbおよび約255 bpのDNA断片を得た。
【0075】
実施例3−ウエスタンブロットによる解析
卵および胚を、50 mM Tris-HCL、150 mM NaCl、2 mM EDTA、1% NP-40、1 mMバナジン酸、5 mM Naf、および10 μg/ml アプロチニン(pH 7.4)を含む緩衝液に溶解した。10%または12%のプレキャストのNupage Bis/Trisゲル、およびMESランニング緩衝液(Invitrogen)を使用して還元条件でSDS-PAGEによってタンパク質を分離し、半乾燥(semi-dry)トランスファー装置(BioRad)およびNupage-MOPSトランスファー緩衝液を使用してニトロセルロース膜(Amersham Biosciences)にトランスファーした。イムノブロット解析ではブロットを、5%ドライミルクを含むTBS/Tweenでブロック後に、酸性セラミダーゼに対するヤギIgG(「AC」)(βサブユニットに特異的)とともにインキュベートした。結合状態の抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼに結合させた二次抗体によって認識した。検出は、高感度化学発光検出用試薬(Amersham Biosciences)によって行った。概算の分子量を、染色済みのタンパク質標準(BioRad)の移動と比較することで決定した。
【0076】
実施例4−酸性セラミダーゼの活性アッセイ法
卵を0.25%ショ糖溶液中に溶解した。全細胞抽出物を、0.1 M クエン酸/リン酸緩衝液(pH 4.5)、150 mM NaCl、0.05% BSA、および0.1% Igepal CA-630を溶媒とする0.1 ng/mlのBODIPY結合C12セラミドとともに37℃で22時間インキュベートした。反応完了後に、5μlのアッセイ混合物を除去して95 μlのエタノールに加え、混合後に10,000×gで5分間遠心分離した。次に上清を、Watersガラス製サンプリング用バイアルに移し、5μl(当初の反応混合物の2.5%)をWIPS 712(Waters)自動サンプラーによって、逆相カラム(BetaBasic-18, 4.6 x 30 mm, Keystone Scientific Inc., Bellefonte, PA)が接続された高性能液体クロマトグラフ上に自動サンプリングし、メタノール/水(95:5 v/v)によって1 ml/分の流速でイソクラティックに溶出した。励起波長および放射波長がそれぞれ505 nmと540 nmに設定されたWaters 474蛍光検出器を使用して蛍光を定量した。消化されていない基質(すなわちBODIPY結合C12セラミド)および生成物(すなわち脂肪酸)のピークを、それらの保持時間を標準と比較することで同定し、生成物の量を、BODIPY結合C12脂肪酸を使用した標準曲線から作成された回帰式を使用して計算した。
【0077】
実施例5−免疫組織化学的検査
卵を単離し、3%パラホルムアルデヒドで固定した。固定後に、プロナーゼ(Sigma)によって透明帯(「ZP」)を除去し、ZPを含まない卵をNP-40によって透過処理した。次に卵を、さまざまな一次抗体および二次抗体(参照により全体が本明細書に組み入れられる、EliyahuおよびShalgi、「A Role for Protein Kinase C During Rat Egg Activation」、Biol. Reprod. 67:189-95 (2002))とともにインキュベートした。蛍光試薬を可視化し、Ziess共焦点レーザー走査型顕微鏡で写真を撮影した。アポトーシスの検出では、生きている2細胞期胚を、Annexin V Apoptosis Detectionキット(Santa Cruz Biotechnology, Inc.)を使用して標識した。
【0078】
実施例6−ポリメラーゼ連鎖反応によるmRNAの定量
等しい数の卵および胚から全mRNAを抽出し、製造業者(Invitrogen)の指示書に従って逆転写した。QuantiTect SYBR Green PCRキット(QIAGEN)によるマウスのACのPCR増幅には、Mac990
およびmac1137r
を使用した。高齢卵および2細胞期胚におけるACのmRNAレベルの相対的な変化を、それぞれ2^(Ct若齢-Ct高齢)および2^(Ct若齢-Ct2細胞期胚)の式を用いて、若齢卵におけるACのmRNAレベルに対して評価した。ハウスキーピングタンパク質であるβアクチン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質S11(RPS11)を、胚のmRNA発現の内部対照として使用した。
【0079】
実施例7−データの提示および統計解析
全ての実験は、異なるマウスについて、独立に少なくとも3回繰り返して実施した。反復実験で得られた統合データをt検定解析にかけ、P<0.005の場合に、結果を統計的に有意であると見なした。グラフは、反復実験で得られた統合データの平均±s.e.m.を示す。卵の形状、アネキシンV標識、および免疫組織化学アッセイ法に関する代表的な顕微鏡写真を示す。
【0080】
実施例8−Asah1-/-マウス胚は形成されるが2〜4細胞期の移行中に死滅した
Asah1-/-マウスの致死表現型の基礎となる病理学的機序に関する知見を得るために、単一細胞長鎖ネステッド(「SCLN」)PCRによる遺伝子型決定法を開発した。この手法により、受精直後における個々の胚の遺伝子型の決定が可能となった。ヒト絨毛性腺刺激ホルモン注射の36〜60時間後に、Asah1+/-の交雑から2〜8細胞期の胚を採取し、M2培地で培養した。1個の胚からDNAを得て、長鎖および短鎖ネステッドPCR用のプライマー混合物を使用して、実施例1〜2に記載された手順でSCLN PCR増幅を行った。これらの交雑に由来する196個の胚の遺伝子型決定の結果、図1に示すように、Asah1-/-胚が形成される可能性があることが判明した。しかしながら、表2に示すように、2細胞期以降のAsah1-/-胚は同定されなかったことから、AC活性の欠損は2〜4細胞期の移行中に胚を死に至らせたことが示唆される。特に、予想より多くのAsah1+/-胚が、4〜8細胞期において同定され、野生型:ヘテロ接合体の推定比は1:2であったが、実際の比は表2に示すように約1:2.8であった。これは、これらの胚の産生に高齢のAsah1+/-雄マウスが使用され、かつこのようなマウスの変異体精子が野生型精子と比較して受精上の利点を有していたという事実に帰せられる。
【0081】
(表2)胚の遺伝子型決定の結果
Asah1-/-の交雑に由来する2〜8細胞期の胚を対象に、SCLN PCRによる遺伝子型決定を実施した。データは、8匹の雌マウスから得られた100%の胚の遺伝子型決定を示す。
【0082】
実施例9−Asah1-/-マウスの胚は2細胞期中にアポトーシス死を生じる
セラミドを介するシグナル伝達は、しばしばアポトーシスに至る(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Spiegelら、「Signal Transduction Through Lipid Second Messengers」、Curr. Opin. Cell. Biol. 8:159-67 (1996))。したがって、Asah1遺伝子の不活性化の1つの帰結は、細胞周期の停止またはアポトーシスに至る、胚中におけるセラミドの増加である可能性がある(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Hannun、「Function of Ceramide in Coordinating Cellular Responses to Stress」、Science 274:1855-9 (1996);Spiegelら、「Signal Transduction Through Lipid Second Messengers」、Curr. Opin. Cell. Biol. 8:159-67 (1996))。卵中のセラミドレベルは、インビボおよびインビトロにおける加齢中に上昇することが報告されている(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Perezら、「A Central Role for Ceramide in the Age-related Acceleration of Apoptosis in the Female Germline」、FASEB J. 19 : 860-2 (2005))。これらのデータは、ACがセラミドの除去によって、卵/胚の生存に重要な役割を果たすという結論を支持する。
【0083】
発生中におけるACの関与をさらに詳しく調べるために、またAsah1-/-胚の死に至る機序を解析するために、アポトーシス細胞死の可能性をアネキシンVによる染色によって評価した(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Chanら、「Plasma Membrane Phospholipid Asymmetry Precedes DNA Fragmentation in Different Apoptotic Cell Models」、Histochem. Cell Biol. 110:553-8 (1998))。この解析を実施するために、Asah1+/-の交雑に由来する86個の生きている2細胞期胚を採取して番号を割り当てた。個々の胚を、アポトーシスによる形状およびアネキシンV結合に関して、レーザー走査型共焦点顕微鏡を使用して独立に調べ、続いてSCLN PCRによって遺伝子型を決定した。これらの解析の結果から、全てのAsah1-/-胚が、図2Dおよび図2Fに示すようにアポトーシスの形状を示し、かつ図2E〜Fに示すようにアネキシンVによる染色が陽性である一方で、野生型の胚は、図2Aおよび図2Cに示すように正常な形状を有しており、アネキシンV染色は、図2B〜Cに示すようにアポトーシス性極体を除いて認められないことが判明した。表3からわかるように、アポトーシスを生じた野生型胚(11%)およびヘテロ接合胚(5%)のパーセンテージは、Asah1-/-胚(100%)と比較して無視できるものであった(t検定、P<0.00001)。
【0084】
(表3)Asah1-/-胚は2細胞期中にアポトーシス死を生じる
データは、4匹の雌マウスから得られた100%の胚の解析を示す。
【0085】
したがって以上の知見から、機能性のACの非存在が2細胞期中にアポトーシス死を引き起こすことがわかり、これはACの活性が2細胞期から4細胞期への移行に不可欠であるという、インビボにおける直接的な証拠となる。この発生上の時期は、胚のゲノムの活性化の開始点となる。
【0086】
実施例10−マウス未受精卵母細胞における酸性セラミダーゼの発現
ACは胚発生の最初期段階に必要とされると考えられるので、胚が生き延びるためには、胚ゲノムの活性化(「EGA」)の前に、ドナー卵によって酵素が新規形成胚に提供されるに違いないと仮定された。この仮説を検証するために、400個のプールされた未受精MII卵(hCG注射の16時間後に採取)から細胞抽出物を調製し、ウエスタンブロットによる解析を行ってACタンパク質を同定した。図3からわかるように、AC前駆タンパク質(55 kDa)およびβサブユニット(40 kDa)は受精前の卵中で発現される。処理後のβサブユニットの存在は、ACの一部が活性となった可能性が高いことを意味する。したがって細胞抽出物を、追加の65個のプールされた未受精卵から調製してAC活性アッセイ法を行った。図3に示すように、これらの解析から酵素活性が高いことが判明し(t検定、p<0.005)、ウエスタンブロットの結果が確認された。
【0087】
卵中におけるACの細胞内の位置に関する情報を得るために、後期エンドソーム/リソソーム検出用の抗LAMP-1染色と組み合わせた抗AC特異的抗体を使用して免疫組織化学的手法を実施した。ACおよびLAMP-1シグナルの蛍光分布を卵の赤道面および皮質において可視化し、図4A〜Gに示すように、Ziess共焦点レーザー走査型顕微鏡で写真を撮影した。これらの試験により、図4Aおよび図4Dからわかるように、ACが主に卵の皮質に局在すること、また図4Bおよび図4D〜Fからわかるように、後期エンドソーム/リソソーム中ではLAMP-1と共局在することがわかる。
【0088】
実施例11−正常マウス胚は酸性セラミダーゼを胚ゲノムの活性化時に発現する
2細胞期におけるAC欠損胚の死は、正常胚ではAC遺伝子の発現が、EGAと同時期に生じることで胚の生存を維持していることを意味する。この仮説の正しさを確認するために、高齢未受精MII卵および2細胞期胚(いずれもhCG注射の46時間後に採取)におけるACのmRNAレベルの変化を、若齢未受精卵(hCG注射の16時間後に採取)におけるレベルに対して評価した。等しい数の卵および胚から全mRNAを抽出し、QuantiTect SYBR Green PCRキットを使用して定量した(実施例6参照)。ハウスキーピングタンパク質であるβ-アクチン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質S11を、胚のmRNA発現の内部対照として使用した。図5に示すように、ACのmRNAは、若齢未受精卵と比較して高齢未受精卵では有意に減少した(t検定、p<0.0003)。これは予測通りに、セラミドの増加およびアポトーシス細胞死に至った。一方で図5に示すように、ACのmRNAレベルは、受精した健康な2細胞期胚では上昇したことから(t検定、p<0.0005)、EGA中にAC遺伝子が活性化されることがわかる。
【0089】
PCRによる知見を確認するために、ACタンパク質のレベルを、140個の2細胞期の胚と比較して、140個のプールされた未受精卵を対象にウエスタンブロット解析によって評価し、続いてアクチンを対照とした濃度測定解析を行った。AC前駆体のレベルは、未受精卵と比較して2細胞期胚では上昇し、mRNAに関する知見と一致した。図5に示すように、受精直後の最初期に発現される遺伝子の1つであるリボソームタンパク質S11も、EGAの開始をマークするための対照として使用した。図5に示すように、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼを負の対照として使用した。全体としては、ACが若齢卵で受精前に発現され、かつACのレベルが加齢過程中に低下したという事実は、EGA中にACの発現が亢進したという事実とあいまって、この酵素が胚の生存に重要であることを明確に示している。これらのデータから、胚におけるAC遺伝子の発現が2細胞期中に開始されることがわかる。
【0090】
実施例1〜11に関する考察
正常な発生中、卵は、受精が起こらない限りアポトーシスを生じる。死と生存のこの微妙なバランスの制御に必要とされる複雑な調節経路のうち、スフィンゴ脂質を介するシグナル伝達が重要な要素である。実際、加齢中の卵におけるセラミドの蓄積はアポトーシスを招き、抗アポトーシス性の脂質であるスフィンゴシン-1-リン酸(「S1P」)はセラミドの作用に拮抗して卵の生存を促進する可能性があることが報告されている(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Perezら、「A Central Role for Ceramide in the Age-related Acceleration of Apoptosis in the Female Germline」、FASEB J. 19:860-2 (2005);Miaoら、「Cumulus Cells Accelerate Aging of Mouse Oocytes」、Biol. Reprod. 73:1025-1031 (2005))。Ca2+の周期的変動を含む、未受精卵および初期胚に見られる他の生理学的変化も、この調節の決定に重要な要素である。受精時に、若齢の健康な卵は、デフォルトのアポトーシス経路に打ち勝つために、十分な抗アポトーシス性のタンパク質およびmRNAを新規形成胚に供給しなければならない。続いて新規形成胚はこれらの因子を、胚ゲノムの活性化(「EGA」)時に、それ自身のゲノムの発現を介して供給しなければならない。マウスでは、EGAは2細胞期中に始まる(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Flachら、「The Transition from Maternal to Embryonic Control in the 2-Cell Mouse Embryo」、EMBO J. 1 :681-6 (1982))が、ヒトでは、主な活性化現象は4細胞期と8細胞期の間に生じる(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Telfordら、「Transition from Maternal to Embryonic Control in Early Mammalian Development: A Comparison of Several Species」、Mol. Reprod. Dev. 26:90-100 (1990))。EGA時に発現される遺伝子/タンパク質の中には抗アポトーシス性因子が存在するはずであるが、現時点でこのような因子はほとんど同定されていない。
【0091】
加齢卵におけるセラミドレベルの上昇がアポトーシスにつながることを示す、過去に得られた証拠と一致して(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Perezら、「A Central Role for Ceramide in the Age-related Acceleration of Apoptosis in the Female Germline」、FASEB J. 19:860-2 (2005);Miaoら、「Cumulus Cells Accelerate Aging of Mouse Oocytes」、Biol. Reprod. 73:1025-1031 (2005))、セラミドの加水分解およびスフィンゴシン(S1Pの前駆体)の産生を担う酵素であるACが、胚の生存に必要な不可欠な因子である可能性があることが仮定されている。AC活性の非存在下では、2〜4細胞期のACノックアウト胚におけるセラミドレベルが上昇してアポトーシスに至ることも仮定されている。個々の胚中のセラミドを正確に定量することは、利用可能な手法の感度の限界のために、かつ/または、そのような手法では、それに続く遺伝子型の決定(例えば免疫組織化学的な方法)を妨げるという事実のために可能ではないものの、本研究は、胚由来のACがマウス発生の2細胞期中に発現される最初のタンパク質の1つであること、およびその活性が、それに続く正常な発生プログラムの発現に必要であることを明らかに示している。この活性が存在しないと胚はアポトーシス死を生じる。
【0092】
加えて、ACの活性は胚発生中だけでなく、出生後の生存においても不可欠である。ヒトではAC活性の低下は、脂質蓄積症であるファーバー脂肪肉芽腫症(「FD」)に至る。FDは極めてまれな致死的な脂質貯蔵症であり、少なくとも2例の胎児死亡が報告されている(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Kattnerら、「Hydropsfetalis: Manifestation in Lysosomal Storage Diseases Including Farber Disease」、Eur. J. Ped. 156:292-5 (1997);Van Lijnschotenら、「Intrauterine Fetal Death Due to Farber Disease: Case Report」、Pediatr. Dev. Pathol. 3:597-602 (2000))。生存FD患者を対象に実施された変異解析では、完全な機能喪失を引き起こす可能性の高い大規模な遺伝子の欠失、再編成、またはフレームシフト変異ではなく、小規模な点突然変異が異常の大半を説明することが明らかにされている。実際、これらの小規模な点突然変異は、重篤な臨床状態に至る場合がしばしばあり(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Moserら、「Acid Ceramidase Deficiency: Farber Lipogranulomatosis」、in THE METABOLIC & MOLECULAR BASIS OF INHERITED DISEASE 3573-88 (Charles R. Scriverら eds., 8th ed. 2001))、正常な出生後発育にACの活性が不可欠であるということのさらなる証拠となっている。この実施例は、完全な機能喪失型のAsah1対立遺伝子がホモ接合であるマウスが、2細胞期においてアポトーシス死を生じることを示す。これらの知見は、FD患者の完全な機能喪失型変異が初期胚致死に至る可能性があることを意味し、また小規模な点突然変異を有する患者だけが生存するという事実と矛盾しない。
【0093】
歴史的にはACは、FD患者における脂質貯蔵性の小胞の外見がリソソームに似ていること、ならびに酸性pHにおけるインビトロ活性の亢進のために、「リソソーム酵素」に分類されてきた。この実施例では、未受精卵におけるACの細胞内における位置について説明し、かつこのタンパク質がリソソームの内部と外部の両方に存在することを示す。複数の報告で、リソソーム中で産生されたセラミドが細胞シグナル伝達に関与しないことが示唆されているものの(例えば、参照により全体が本明細書に組み入れられる、OhanianおよびOhanian、「Sphingolipids in Mammalian Cell Signaling」、Cell. Mol. Life Sci. 58:2053-68 (2001))、ACが非リソソーム性、ならびにリソソーム内のセラミドプールの加水分解に寄与する可能性があることを認識することは重要である。実際、関連する脂質加水分解酵素である酸性スフィンゴミエリナーゼは、リソソーム区画と非リソソーム区画の両方におけるスフィンゴミエリンを加水分解可能であり、さまざまな刺激を受けると細胞表面に速やかに移動する(参照により全体が本明細書に組み入れられる、OhanianおよびOhanian、「Sphingolipids in Mammalian Cell Signaling」、Cell. Mol. Life Sci. 58:2053-68 (2001))。
【0094】
ACに関する単一細胞PCRによる遺伝子型決定法の開発は、リスクを有するカップルを対象としたFD胚の着床前診断を容易にする可能性を秘めている。この方法は、マウスからヒトに適合されなければならないものの、遺伝子が高度に保存されていることから問題を生じないはずである。さらに、この知見を元に医師は、ACを使用してIVF措置中における卵/胚の生存期間を延長することで、特に高齢女性を対象とした再着床用の健康な胚の同定および選択を容易にすることが可能である。結論として、これらのデータから、哺乳類の胚発生の最初期段階に、ACがこれまで知られていなかった重要な役割を果たすことがわかり、さらに、インビトロおよび/またはインビボで卵/胚の生存を促進するために、同酵素および/または遺伝子が使用可能であることが示唆される。
【0095】
実施例12−酸性セラミダーゼはマウス卵母細胞の寿命を延長する
過排卵状態の雌マウスからMII卵母細胞を採取し、新鮮な培地中に移した。卵母細胞を加湿インキュベーター内で37℃で、酸性セラミダーゼの非存在下または存在下で24時間にわたってインキュベートした。卵母細胞を固定し、DNA標識用のHoechstで染色した。形状およびDNA染色を、レーザー走査型共焦点顕微鏡で可視化した。図6A〜Bに示すように、インキュベーション用培地への酸性セラミダーゼの添加は、卵母細胞の寿命を延長した。
【0096】
MII卵母細胞を(ACの添加時と非添加時の)M2培地中で24時間にわたってインキュベートし、ACを発現しないCHO細胞系列から培地を採取するか、またはACを安定に発現して分泌するCHO細胞系列から培地を採取した。図7に示すように、アポトーシス率は、ACを含む培地でインキュベートした卵母細胞では有意に減少した。
【0097】
実施例13−ヒトの卵母細胞および初期胚における酸性セラミダーゼの発現および局在
卵細胞質内精子注入法による体外受精が計画されている女性に由来する卵母細胞および胚を、卵母細胞については黄体形成ホルモンの注射の約32時間後に、また胚については3〜5日後に採取した。
【0098】
共免疫組織化学アッセイ法を実施して、ヒト卵母細胞の成熟中における局在、およびACとリソソーム膜タンパク質(「LAMP」)(リソソーム酵素のマーカー)との潜在的な相互作用を検出した。卵母細胞を、ACタンパク質、細胞DNA、およびLAMPに関して3重標識し、共局在を免疫蛍光共焦点顕微鏡で調べた。図8A〜Hに示すように、ACは主に皮質および膜に局在しており、かつ胚胞期(図8A〜D)と胚胞崩壊期(図8E〜H)のいずれにおいてもLAMPと共局在している。加えてACは、図8E〜Hに示すように、GV膜の破壊と共局在している。図8I〜Lに示すように、ACタンパク質はLAMPと、またMI期中はDNAと共局在している。MII期中は、ACは細胞質全体に均一に分布しており、膜および皮質に顕著な局在が見られ、また図8M〜Pに示すように紡錘体中に共局在している。これらのデータは、AC発現の発生パターンがヒト卵の成熟中に変化することを明瞭に示している。これは、ACがヒト卵母細胞で発現されることを示す、知られている限り初めての研究である。
【0099】
初期胚発生中におけるACの局在、およびACと、スフィンゴミエリンをセラミドに加水分解する関連酵素である酸性スフィンゴミエリナーゼ(「ASM」)との潜在的な相互作用を検出するために、共免疫組織化学アッセイ法も実施した。胚を、ACタンパク質、細胞DNA、およびASMに関して3重標識し、共局在を免疫蛍光共焦点顕微鏡で調べた。図9A〜Dおよび図10A〜Dに示すように、ACは胚液(embryonic fluid)中に局在しており、また主に内部細胞塊および外部細胞塊中ではASMと共局在している。さらに、胚液中のACは、低グレードの胚より高グレードの胚(図10A〜D)で強く発現されていることがわかる(図9A〜D)。したがって、高グレードの胚は低グレードの胚より、セラミドレベルが低く、かつS1Pレベルが高いので、生存率が(より低いアポトーシス発生率のために)より高いと推定される。
【0100】
実施例14−ヒト卵胞液中における酸性セラミダーゼの発現および活性
インビトロにおける卵細胞質内精子注入用の卵母細胞に由来するヒト卵胞液試料を卵母細胞の採取時に採取した。卵胞液中のACの総量をウエスタンブロット解析で評価した。タンパク質はSDS-PAGEで分離した。モノクローナルマウスの抗ヒトAC IgMを使用してAC前駆タンパク質(55 kDa)を検出した。図11に示すように、AC前駆タンパク質はヒト卵胞液中で強く発現されていた。
【0101】
ヒト卵胞液中のACの活性をインビトロ活性アッセイ法で評価した。卵胞液試料を酸性条件で22時間にわたって37℃でBODIPY結合C12セラミドとともにインキュベートした後に、HPLCで解析した。この活性アッセイ法の結果は、Pearson相関検定を用いて、患者の年齢と相関していた。図12に示すように、ACの活性は加齢とともに低下する傾向が認められた。これは、卵胞液中のACの測定値が妊娠可能齢のマーカーとして使用可能なことを示唆する。
【0102】
実施例15−酸性セラミダーゼはヒト卵母細胞の寿命を延長する
インビトロにおける卵細胞質内精子注入が計画されている女性に由来する未成熟な卵母細胞を、LH注射の約24時間後に採取し、LH注射の約32時間後に、5% HASを含み、ヒトACが添加または非添加のQuinns Advantage Cleavage培地中に移した。卵母細胞を裸化して、インビトロにおける培養開始の24時間後に、油の下部の50 μlの液滴中に固定した。卵母細胞の質を、膜および細胞質の形状、ならびにDNAの外観および完全性を元に評価した。DNAの完全性は、アポトーシスの指標となる断片化したDNAを検出するTUNEL染色アッセイ法で評価した。
【0103】
図13Aに示すように、対照群に由来する卵母細胞は固定に対する感受性が強く、かつ、アポトーシスの指標となる、膜の小疱形成(blebbing)および細胞質の断片化の開始を示した。これとは対照的に、ACの存在下で培養した卵母細胞は、より強固な膜を有しており、また図13Bに示すように、固定後は完全かつ滑らかに見えた。中期板の形状は、対照群では6個中4個のMII卵母細胞では損なわれていた。図14Aに示すように、ACの非存在下で培養した卵母細胞は、アポトーシスの初期徴候の1つである、(おそらく紡錘糸の崩壊に起因する)視認可能な凝縮したクロマチンを有している。これとは対照的に、ACの存在下で培養した卵母細胞の7個中6個は、適切な中期板を保存しており、また明瞭に識別可能な染色体(すなわち凝縮クロマチンではない)を有していた。DNAの凝縮に関する説明については図14A〜Dを参照されたい。これは、ACを添加せずに培養した卵母細胞が、ACの存在下で培養した卵母細胞よりアポトーシスに対する感受性が高いことを示唆している。これをさらに直接的に確認するためにTUNEL染色を実施した。図15A〜Bに示すように、対照群の卵母細胞は、より強いTUNEL染色によって示されるようにDNA断片化の規模が大きかったが、ACの存在下で培養した卵母細胞は、より低いTUNEL染色を示した。加えて図15C〜Dは、ACの非存在下で培養した卵母細胞の膜の崩壊および形状の変化を明瞭に示している一方で、ACの存在下で培養した卵母細胞は正常で健康な形状を有していた。これらの結果から、組換えACの添加が、インビトロにおけるヒト卵母細胞の成熟中のアポトーシス率を低下させることが明瞭にわかる。
【0104】
実施例12〜15に関する考察
スフィンゴ脂質の代謝およびスフィンゴ脂質を介するシグナル伝達は、哺乳類の受精および初期発生に重要な役割を果たしているようである。ACはスフィンゴ脂質代謝における中心的な酵素であり、アポトーシス促進性の脂質であるセラミドを抗アポトーシス性の脂質であるスフィンゴシン-1-リン酸へと加水分解する。したがってACは、生か死かの細胞の運命を制御するのに有用な加減抵抗器である。これらの実施例は、組換えAC酵素の添加が、新鮮な、または老化したマウス卵母細胞において、インビトロにおけるアポトーシス率の低下を招くことで、DNAおよび細胞質の断片化を妨げていることを示している。これは同酵素が、培養中の卵母細胞の生存に重要な役割を果たすことの確証となる。
【0105】
実施例16−組換え型のヒト酸性セラミダーゼは初代ラットニューロンのストレス誘導性のアポトーシスを防ぐ
初代ラット海馬ニューロンを、病原性のアルツハイマー病タンパク質であるアミロイドβペプチド(1 mM)の存在下で、または酸化ストレス条件(すなわち50 mMの過酸化水素が添加された状態)で、培地中の組換えヒト酸性セラミダーゼの存在(2 mg/ml)または非存在下で17時間かけて成長させた。酸性セラミダーゼを培地に含めた際に、アポトーシス(TUNEL染色によって評価)が図16に示すように有意に減少したことは注目に値する。
【0106】
実施例17−酸性セラミダーゼはネコの滑膜線維芽細胞の生存率および増殖率を高める
初代ネコ滑膜線維芽細胞を、組換えヒト酸性セラミダーゼ(2 mg/ml)を添加して、または添加せずに24時間かけて成長させ、生存因子であるスフィンゴシン-1-リン酸(「S1P」)のレベルを決定した。図17に示すように、S1Pのレベルは、ACとともにインキュベートした線維芽細胞で顕著に高かった。これはACが、インビトロにおける滑膜線維芽細胞の生存率の改善に使用可能なことを示唆する。
【0107】
初代ネコ滑膜線維芽細胞の増殖率を、培地に組換え酸性セラミダーゼを添加(2 mg/ml)または添加しない条件で、MTSアッセイ法で決定した(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Barltropら、「5-(3-Arboxymethoxyphenyl)-2-(4,5-dimenthylthiazoly)-3-(4-sulfophenyl) Tetrazolium, Inner salt (MTS) and Related Analogs of 3-(4,5-Dimethylthiazolyl)-2,5-diphenyltetrazolium Bromide (MTT) Reducing to Purple Water Soluble Formazans as Cell-viability Indicators」、Bioorg. Med. Chem. Lett. 1 :611-4 (1991))。図18に示すように、ACの存在下で培養した初代滑膜線維芽細胞は、ACの非存在下で培養した細胞より有意に速く増殖した。この結果から、ACがインビトロにおける滑膜線維芽細胞の生存率の改善に使用可能なことが確認される。
【0108】
実施例18−酸性セラミダーゼはマウス胚性幹細胞の生存率を改善する
マウス胚性幹細胞(「ESC」)中のACの総量をウエスタンブロット解析で評価した。タンパク質をSDS-PAGEで分離し、ACβサブユニットに対するポリクローナル抗体を使用して検出した。図19に示すように、ACタンパク質はESC中で高レベルで発現され、かつ活性である。これらの結果は、ACがESCの生存に関与する可能性があることを示唆している。
【0109】
2つのアポトーシス促進因子であるポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(「PARP」)およびBaxのレベルに対するACの作用も評価した。ESCをACの非存在下または存在下で、加湿インキュベーター内で37℃で24時間にわたってインキュベートした。次にこれらの細胞を溶解し、100 mgの全タンパク質をSDS-PAGEで分離した。図20A〜Cに示すように、2つの重要なアポトーシス促進因子であるPARPおよびBaxの量はACの存在下では減少する。これらの結果は、ACがESCの寿命を潜在的に延長する可能性を有することを示唆している。
【0110】
実施例19−酸性セラミダーゼはラット神経細胞培養物のアポトーシスを妨げる
化学物質および試薬
細胞培養用の材料は、Fisher Scientific (Pittsburgh, PA, USA)から入手した。他の全ての生化学試薬は、Sigma Chemical Co.(St. Louis, MO, USA)から入手した。
【0111】
細胞培養
成体ラットの海馬からニューロン前駆細胞を単離し、2% B27、0.5 mM グルタミン、100単位/ml ペニシリン、100 μg/ml ストレプトマイシン、および10 ng/ml FGFからなるNeurobasal A培地中で、加湿5% CO2空気中で37℃で培養した(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Chenら、「Trophic Factors Counteract Elevated FGF-2-induced Inhibition of Adult Neurogenesis」、Neurobiol. Aging 28:1148-62 (2007))。培地は、常用の手順で2〜3日毎に交換した。細胞が約80%のコンフルエンシーに達したら、FGFを5 μM レチノイン酸および10%ウシ胎仔血清と交換することで分化させた。分化用培地における成長の3〜5日後の実験には一般に、ニューロン培養物を使用した。この段階では約80%の細胞が、ニューロンマーカーであるβIII-チューブリンおよび微小管結合タンパク質2を発現していた。細胞の5%未満が、アストログリアのマーカーであるGFAP、またはオリゴデンドログリアのマーカーであるO4を発現していた。このように、分化した細胞を、以降の実験の神経細胞培養モデルとして使用した。
【0112】
神経細胞培養物におけるセラミドレベルおよびアポトーシスに対する酸性セラミダーゼの作用
分化用培地における3〜5日間の成長後に、ニューロン培養物を、組換えヒトACによる1時間の前処理(1 μg/ml)を行うか、または行わずに、1 μMのAβで30分間かけて処理した。セラミドレベルをDAGキナーゼ法で検証した(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Heら、「An Enzymatic Assay for Quantifying Sphingomyelin in Tissues and Plasma from Humans and Mice with Niemann-Pick Disease」、Anal. Biochem. 293:204-11 (2001))。カスパーゼ3活性を、EnzCheckカスパーゼ-3アッセイ法キットを使用して測定した。
【0113】
酸性スフィンゴミエリナーゼの活性は、AD脳では、またニューロン培養物のアミロイドβペプチド処理後には有意に上昇する。図21に示すように、セラミドレベルも、ニューロン培養物のAβによる処理後に有意に上昇する。図22に示すように、より多くのアポトーシス細胞も、カスパーゼ3活性による判定によって見出される。しかしながら、セラミドレベルおよびカスパーゼ3活性が、図21および図22に示すように、精製済みのrhACを培地に含めた際にAβに反応して上昇しなかったことは重要であり、ACが、ニューロン細胞におけるセラミドを介するアポトーシスの保護に使用可能なことが示唆される。要約すると図21〜22から、セラミドレベルおよびアポトーシスがACの存在下では低下することがわかる。
【0114】
本明細書では、好ましい態様について詳細に記述および説明したが、さまざまな変更、追加、置換などが、本発明の趣旨から解離することなく成され得ること、ならびにしたがってそれらが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれると見なされることは、当業者に明らかであろう。
【技術分野】
【0001】
本出願は、それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、2007年1月5日に出願された米国仮特許出願第60/883,661号、および2007年5月21日に出願された米国仮特許出願第60/939,178号の恩典を主張する。
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所によって供与された助成金番号R01 DK54830の下で、政府の支援を受けて行われた。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、酸性セラミダーゼを使用して細胞の生存を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
酸性セラミダーゼ(「AC」;N-アシルスフィンゴシンデアシラーゼ、I.U.B.M.B. Enzyme No. EC 3.5.1.23)は、ヒトの遺伝病であるファーバー脂肪肉芽腫症(Farber Lipogranulomatosis;「FD」)との関連のために、セラミダーゼ酵素ファミリーのなかで最も詳細に研究されている酵素である。このタンパク質は、複数の供給源から精製されており、かつヒトおよびマウスのcDNAおよび遺伝子が得られている(Bernardo ら、「Purification, Characterization, and Biosynthesis of Human Acid Ceramidase」、J. Biol. Chem. 270:11098-102 (1995)(非特許文献1);Kochら、「Molecular Cloning and Characterization of a Full-length Complementary DNA Encoding Human Acid Ceramidase. Identification of the First Molecular Lesion Causing Farber Disease」、J. Biol. Chem. 2711 :33110-5 (1996)(非特許文献2);Liら、「Cloning and Characterization of the Full-length cDNA and Genomic Sequences Encoding Murine Acid Ceramidase」、Genomics 50:267-74 (1998)(非特許文献3);Liら、「The Human Acid Ceramidase Gene (ASAH): Chromosomal Location, Mutation Analysis, and Expression」、Genomics 62:223-31 (1999)(非特許文献4))。このセラミダーゼおよび他のセラミダーゼの生物学的側面に関する関心の増大は、これらの酵素がセラミド代謝に中心的な役割を果たすという事実に基づく。セラミドは、さまざまな刺激に反応して産生されるシグナル伝達性の脂質である(Hannun、「Function of Ceramide in Coordinating Cellular Responses to Stress」、Science 274:1855-9 (1996)(非特許文献5);Spiegelら、「Signal Transduction Through Lipid Second Messengers」、Curr. Opin. Cell. Biol. 8:159-67 (1996)(非特許文献6))。セラミドは、通常は低量で存在するが、これらの因子に反応すると細胞表面で速やかに産生され、アポトーシスにつながる膜の再構成および下流のシグナル伝達を招く。刺激後、続いてACおよび/または他のセラミダーゼはセラミドを個々の脂肪酸成分およびスフィンゴシン成分に加水分解することができる(Gatt、「Enzymic Hydrolysis and Synthesis of Ceramide」、J. Biol. Chem. 238:3131-3 (1963)(非特許文献7);Gatt、「Enzymatic Hydrolysis of Sphingolipids. 1. Hydrolysis and Synthesis of Ceramides by an Enzyme from Rat Brain」、J. Biol. Chem. 241:3724-31 (1966)(非特許文献8);HasslerおよびBell、「Ceramidase: Enzymology and Metabolic Roles」、Adv. Lip. Res. 26:49-57 (1993)(非特許文献9))。セラミドの分解は、細胞内スフィンゴシンの唯一の供給源であるので(Rotherら、「Biosynthesis of Sphingolipids: Dihydroceramide and Not Sphinganine Is Desaturated by Cultured Cells」、Biochem. Biophys. Res. Commun. 189:14-20 (1992)(非特許文献10))、これらの酵素は、この化合物の細胞内レベルの決定における律速段階である可能性もある。重要な点は、スフィンゴシンの誘導体であるスフィンゴシン-1-リン酸(「S1P」)が、セラミドのアポトーシス作用に拮抗可能なことであり(Cuvillierら、「Suppression of Ceramide-mediated Programmed Cell Death by Sphingosine-1-phosphate」、Nature 381 :800-3 (1996)(非特許文献11))、このためセラミダーゼは、細胞の成長と死との適切なバランスを維持する「加減抵抗器(rheostat)」となり得ることが示唆されている(SpiegelおよびMerrill、「Sphingolipids Metabolism and Cell Growth Regulation」、FASEB J. 10:1388-97 (1996)(非特許文献12))。
【0005】
排卵された卵は、受精が成功しない限り、アポトーシスに特徴的な分子レベルの変化を生じる(MarstonおよびChang、「The Fertilizable Life of Ova and Their Morphology Following Delayed Insemination in Mature and Immature Mice」、J. Exp. Zool. 155:237-52 (1964)(非特許文献13);Tarinら、「Long-term Effects of Postovulatory Aging of Mouse Eggs on Offspring: A Two-generational Study」、Biol. Reprod. 61 :1347-55 (1999)(非特許文献14))。セラミドを含む多数の因子が、この過程に関与するアポトーシス促進因子であると見なされている一方で(Perezら、「A Central Role for Ceramide in the Age-related Acceleration of Apoptosis in the Female Germline」、FASEB J. 19:860-2 (2005)(非特許文献15);Miaoら、「Cumulus Cells Accelerate Aging of Mouse Oocytes」、Biol. Reprod. 73:1025-1031 (2005)(非特許文献16);Kerrら、「Morphological Criteria for Identifying Apoptosis」、in 1 CELL BIOLOGY: A LABORATORY HANDBOOK 319-29 (Julio E. Celis ed., 1994)(非特許文献17);Gordoら、「Intracellular Calcium Oscillations Signal Apoptosis Rather Than Activation in in Vitro Aged Mouse Eggs」、Bio. Reprod. 66:1828-37 (2002)(非特許文献18))、卵または胚の生存を維持する諸因子についてはほとんどわかっていない。
【0006】
本発明は、当技術分野におけるこれらの、また他の短所を克服することに関する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bernardo ら、「Purification, Characterization, and Biosynthesis of Human Acid Ceramidase」、J. Biol. Chem. 270:11098-102 (1995)
【非特許文献2】Kochら、「Molecular Cloning and Characterization of a Full-length Complementary DNA Encoding Human Acid Ceramidase. Identification of the First Molecular Lesion Causing Farber Disease」、J. Biol. Chem. 2711 :33110-5 (1996)
【非特許文献3】Liら、「Cloning and Characterization of the Full-length cDNA and Genomic Sequences Encoding Murine Acid Ceramidase」、Genomics 50:267-74 (1998)
【非特許文献4】Liら、「The Human Acid Ceramidase Gene (ASAH): Chromosomal Location, Mutation Analysis, and Expression」、Genomics 62:223-31 (1999)
【非特許文献5】Hannun、「Function of Ceramide in Coordinating Cellular Responses to Stress」、Science 274:1855-9 (1996)
【非特許文献6】Spiegelら、「Signal Transduction Through Lipid Second Messengers」、Curr. Opin. Cell. Biol. 8:159-67 (1996)
【非特許文献7】Gatt、「Enzymic Hydrolysis and Synthesis of Ceramide」、J. Biol. Chem. 238:3131-3 (1963)
【非特許文献8】Gatt、「Enzymatic Hydrolysis of Sphingolipids. 1. Hydrolysis and Synthesis of Ceramides by an Enzyme from Rat Brain」、J. Biol. Chem. 241:3724-31 (1966)
【非特許文献9】HasslerおよびBell、「Ceramidase: Enzymology and Metabolic Roles」、Adv. Lip. Res. 26:49-57 (1993)
【非特許文献10】Rotherら、「Biosynthesis of Sphingolipids: Dihydroceramide and Not Sphinganine Is Desaturated by Cultured Cells」、Biochem. Biophys. Res. Commun. 189:14-20 (1992)
【非特許文献11】Cuvillierら、「Suppression of Ceramide-mediated Programmed Cell Death by Sphingosine-1-phosphate」、Nature 381 :800-3 (1996)
【非特許文献12】SpiegelおよびMerrill、「Sphingolipids Metabolism and Cell Growth Regulation」、FASEB J. 10:1388-97 (1996)
【非特許文献13】MarstonおよびChang、「The Fertilizable Life of Ova and Their Morphology Following Delayed Insemination in Mature and Immature Mice」、J. Exp. Zool. 155:237-52 (1964)
【非特許文献14】Tarinら、「Long-term Effects of Postovulatory Aging of Mouse Eggs on Offspring: A Two-generational Study」、Biol. Reprod. 61 :1347-55 (1999)
【非特許文献15】Perezら、「A Central Role for Ceramide in the Age-related Acceleration of Apoptosis in the Female Germline」、FASEB J. 19:860-2 (2005)
【非特許文献16】Miaoら、「Cumulus Cells Accelerate Aging of Mouse Oocytes」、Biol. Reprod. 73:1025-1031 (2005)
【非特許文献17】Kerrら、「Morphological Criteria for Identifying Apoptosis」、in 1 CELL BIOLOGY: A LABORATORY HANDBOOK 319-29 (Julio E. Celis ed., 1994)
【非特許文献18】Gordoら、「Intracellular Calcium Oscillations Signal Apoptosis Rather Than Activation in in Vitro Aged Mouse Eggs」、Bio. Reprod. 66:1828-37 (2002)
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1の局面は、エクスビボにおける細胞の生存を促進する方法に関する。この方法は、1個または複数の細胞をエクスビボで提供する段階、およびその1個または複数の細胞の生存を促進するのに有効な条件で、その1個または複数の細胞を酸性セラミダーゼによって処理する段階を含む。
【0009】
本発明の第2の局面は、雌性哺乳類対象における1個または複数の細胞のインビボにおける生存を促進する方法に関する。この方法は、その雌性哺乳類対象における1個または複数の細胞の生存を促進するのに有効な条件で、その雌性哺乳類対象に酸性セラミダーゼを投与する段階を含む。
【0010】
本発明の第3の局面は、エクスビボにおける初代細胞の生存を促進するためのキットに関する。キットは、細胞培地および酸性セラミダーゼを含む。
【0011】
本発明の第4の局面は、体外受精の結果を予測する方法に関する。この方法は、雌性対象に由来する血清または卵胞液の試料を提供する段階、および酸性セラミダーゼの活性レベルに関して試料をスクリーニングする段階を含む。該スクリーニング段階で得られた酸性セラミダーゼの活性レベルは次に、雌性対象を対象とした体外受精の結果の予測に関連づけられる。
【0012】
本発明では、ACが初期胚の生存に必要な1つの因子であることを示す。マウスにおけるAC遺伝子(Asah1)を不活性化するためには遺伝子ターゲティングが使用されている(Liら、「Insertional Mutagenesis of the Mouse Acid Ceramidase Gene Leads to Early Embryonic Lethality in Homozygotes and Progressive Lipid Storage Disease in Heterozygotes」、Genomics 79:218-24 (2002))。これらの動物を対象とした初期の解析では、ヘテロ接合マウス(「Asah1+/-」)が進行性の脂質貯蔵症の表現型を有すること、およびAC活性が完全に消失すると変異体個体が得られなくなることが明らかにされた。しかしながら、Asah1-/-胚が形成されたか否か、あるいは、形成された場合に初期胚発生中に死亡するか否かについては不明である。
【0013】
本発明では、分子生物学、生化学、および形態学の方法を組み合わせることで、Asah1+/-の交雑から得られた個々の胚の発生を追跡することについて記述する。これらの解析から、Asah1-/-胚は形成され得るが、2細胞期においてアポトーシス死を生じることが判明した。これらの胚が、培地にS1Pを添加することで救済可能であり、少なくとも4〜8細胞期まで生存させることが可能なことは重要である。Asah1が、新規に形成された胚で発現される最初期遺伝子の1つであることも証明されている。さらにACは、未受精卵中の主要なタンパク質であり、このタンパク質および遺伝子の発現は、受精が生じない限り、卵の加齢に伴って低下してゆくことが報告されている。全体として、これらの結果は、ACが新規形成胚の不可欠な要素であり、また2細胞期以降における生存に必要なことを示している。
【0014】
本発明は、酸性セラミダーゼが培養中の細胞の生存率を高めることも示す。酸性セラミダーゼの使用には、低毒性、容易な輸送、ならびに固有かつ特異的な機能といった、他の潜在的な抗アポトーシス因子を上回る複数の利点がある。
【0015】
酸性セラミダーゼは、正常細胞の天然の成分であることから、毒性作用が低いか、または全くないはずである。加えて、細胞に前駆体(不活性)型を提供することで、細胞そのものが活性化の速度を、また生存に必要な活性タンパク質の量を制御できるようになる可能性がある。さらに、セラミド代謝を制御すること、およびスフィンゴシン/スフィンゴシン-1-リン酸を産生させることは、酸性セラミダーゼの唯一の既知の機能である。したがって、細胞中の酸性セラミダーゼ活性を高めても、他の細胞シグナル伝達経路には影響を及ぼさないはずである。
【0016】
酸性セラミダーゼは、卵母細胞、ニューロン、および滑膜線維芽細胞を含む、さまざまな細胞タイプに位置するマンノース受容体および/またはマンノース-6-リン酸受容体を介して細胞内に侵入する天然の能力を有する。加えて、これらの受容体を有さない細胞は、ACの内部移行を導く可能性のある「スカベンジング(scavenging)」受容体を含む。これは、培地への酸性セラミダーゼの添加が、培養中の細胞中のその酵素のレベルを高める可能性があり、これが細胞内におけるセラミドレベルの低下につながることを意味する。酸性セラミダーゼは卵母細胞の透明帯を通過する可能性があるようでもあり、これは大半の分子では不可能なことである。
【0017】
細胞内セラミドレベルが高まると、ほぼ常に細胞死に至り、セラミダーゼは、セラミドを加水分解可能な唯一の酵素である。細胞内における酸性セラミダーゼの発現には、セラミドの除去と、スフィンゴシンおよびスフィンゴシン-1-リン酸(詳細が明らかな2種類の抗アポトーシス性の脂質)の産生という、少なくとも2つの帰結がある。したがって、特定の理論に拘束されることなく、酸性セラミダーゼが細胞の生存を、以下の少なくとも2つの様式で促進することが推定される:セラミドを除去すること、ならびにスフィンゴシンおよびスフィンゴシン-1-リン酸を産生させること。酸性セラミダーゼは、この2つのいずれも可能な唯一の既知の分子である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アガロースゲル。野生型のAsah1対立遺伝子(「wt」)を対象とした長鎖増幅およびネステッド増幅によって、それぞれ約9 kbと180 bpのDNA断片が産生された。破壊型のAsah1-/-対立遺伝子(「変異体」)の増幅では、それぞれ約7 kbと255 bpのDNA断片が産生された。Asah1+/-の交雑から、この方法で得られた個々の2細胞期胚を対象に遺伝子型解析を行った。ネステッドPCR増幅の代表的なゲルを示す。Asah1-/-胚は、この段階(レーン3)で存在することがわかる。負の対照(「負の対照」)には、テンプレートDNAは反応混合物に添加されなかった。レーン「対照Asah1+/+」および「対照Asah1+/-」は、記載の遺伝子型を有することが既知の成体マウスに由来するテンプレートDNAを含む。DNAラダー中の個々のマーカー断片のサイズをパネルの左側に示す。
【図2】光学顕微鏡写真(図2Aおよび図2D)、アネキシンV染色像(図2Bおよび図2E)、ならびにAsah1-/-胚が2細胞期中にアポトーシス死を生じていることを示す合成像(図2Cおよび図2F)。これらの写真は、細胞の形状(図2A、図2C〜D、および図2F)、ならびにAsah1+/-の交雑によって得られた、代表的な野生型(「wt」)およびAsah1-/-(「変異体」)の2細胞期のマウス胚のアネキシンV染色パターン(図2B〜Cおよび図2E〜F)を示す(実施例9参照)。「PB」は極体を示す。バー=10 μm。
【図3】未受精マウス卵に由来する細胞抽出物のAC活性を示すグラフ、および代表的なウエスタンブロット(挿入図)。400個のプールされた卵に由来する細胞抽出物をウエスタンブロットで解析した(実施例10参照)。ヤギ抗ヒトAC IgGを使用して、マウスのAC前駆タンパク質(55 kDa)およびACのβサブユニット(40 kDa)を検出した。AC活性アッセイ法では、65個のプールされた卵から細胞抽出物を調製し、BODIPY結合C12セラミドとともに37℃で22時間インキュベートし、その後、HPLCで解析した。これらの抽出物のAC活性は、ブランク対照と比較して有意に高かった(t検定、p<0.005)。これらのデータから、ACが、未受精の健康なマウス卵で高レベルで発現されていることがわかる。データは、n=3の独立した実験の平均±S.E.Mを示す。
【図4】固定された未受精卵の代表的な免疫組織化学的な画像。ヒトACに対してヤギIgGを使用し(図4Aおよび図4D)、リソソームマーカーLamp1に対してラットIgGを使用した(図4Bおよび図4E)。図4Cおよび図4Fは合成像を示す。一次抗体の局在を、蛍光二次抗体(Cy-3/2)およびレーザー走査型共焦点顕微鏡を使用して可視化した(実施例5参照)。二次抗体のみによって標識された卵を対照として使用した(図4G)。バー=10 μm。データは、3回の独立した実験を示し、ACが健康なマウス卵において高レベルで発現されることが確認される。
【図5】マウスの若齢未受精卵(「卵」)、高齢未受精MII卵(「高齢卵」)、および2細胞期の胚における相対的なmRNAレベルを示すグラフ。「mAC」:ACのmRNA;「mActb」:βアクチンのmRNA;「mG3」:グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼのmRNA;「RPS11」:リボソームタンパク質S11のmRNA。データは、n=3の独立した実験の平均±S.E.M.を示す。これらの結果から、未受精マウス卵ではACの発現が加齢に伴って低下することがわかる。しかしながら、仮に受精が生じると、健康な2細胞期の胚ではACは増加する。
【図6】酸性セラミダーゼの非存在下(「-AC」)(図6A)、または存在下(「+AC」)(図6B)でインキュベートしたマウス卵母細胞の染色像。バー=10 mm。
【図7】以下の条件でインキュベートした卵母細胞のアポトーシス率を示すグラフ:ACを含まないM2培地(「M2-AC」)、ACを発現しない親CHO細胞株から採取された培地(「CHO-AC」)、純粋なAC(10 μg/ml)が添加されたM2培地(「M2+AC」)、またはACを安定に発現し、かつ分泌するCHO細胞系列から採取された培地(「CHO6+AC」)。データは、3回の独立した実験を示す。
【図8】卵核胞期(「GV」)、卵核崩壊期(「GVBD」)、MI期、またはMII期における、ヒトの裸化卵母細胞、および固定卵母細胞の染色像。卵母細胞を、ポリクローナル抗AC抗体(赤;図8C、図8G、図8K、および図8O)、ポリクローナル抗LAMP抗体(緑;図8B、図8F、図8J、および図8N)、またはHoechst DNA特異的蛍光色素33342(青;図8A、図8E、図8I、および図8M)とともにインキュベートした。図8D、図8H、図8L、および図8Pは、以上の3つの像が相互に重ね合わされた像(「合成」)を示し、ACとLAMPおよび/または細胞DNAが共局在することがわかる。バー=10 μm。これらのデータは、ヒト卵母細胞におけるACの発現を示す最初の結果である。
【図9】裸化され、かつ固定された低グレードのヒト胚の染色像。胚を、Hoechst DNA特異的蛍光色素33342(青;図9A)、抗酸性スフィンゴミエリナーゼ抗体(「ASM」)(緑;図9B)、またはポリクローナル抗AC抗体(赤;図9C)とともにインキュベートした。図9Dは、図9A〜Cが相互に重ね合わされた像(「合成」)を示し、ACとDNAおよび/またはASMが共局在することがわかる。一次抗体の局在を、二次抗体であるCy-3またはCy-2、およびレーザー走査型共焦点顕微鏡を使用して画像化した。胚を、内部細胞塊および外部細胞塊の形状にしたがって等級づけた。データは、3回の独立した実験を示す。これらのデータは、ヒト胚におけるACの発現を示す最初の結果である。
【図10】裸化され、かつ固定された高グレードのヒト胚の染色像。胚を、Hoechst DNA特異的蛍光色素33342(青;図10A)、抗ASM抗体(緑;図10B)、またはポリクローナル抗AC抗体(赤;図10C)とともにインキュベートした。図10Dは、図10A〜Cが相互に重ね合わされた像(「合成」)を示し、ACとDNAおよび/またはASMが共局在することがわかる。一次抗体の局在を、二次抗体であるCy-3またはCy-2、およびレーザー走査型共焦点顕微鏡を使用して画像化した。胚を、内部細胞塊および外部細胞塊の形状にしたがって等級づけた。データは、3回の独立した実験を示す。
【図11】AC前駆タンパク質またはACのα-サブユニットに対する抗体を使用した、ヒト卵胞液試料のウエスタンブロット。1 μlの試料をレーン1にロードし(「FF 1λ」)、10 μlの試料をレーン2にロードした(「FF 10λ」)。純粋なACを、対照(「対照AC」)としてレーン3にロードした。
【図12】母体年齢(歳)の関数としてのヒト卵胞液におけるAC活性のプロット。
【図13】ACの存在下で(図13B)、またはACの非存在下で(図13A)、インビトロで培養した未成熟ヒト卵母細胞のスライド。
【図14】ACの存在下で(「+AC」)、またはACの非存在下で(「-AC」)培養したヒト卵母細胞の染色像(図14A〜B)およびスライド(図14C〜D)。卵母細胞DNAをHoechst DNA特異的蛍光色素33342によって染色し、蛍光シグナルをレーザー走査型共焦点顕微鏡で可視化した。凝縮クロマチン(「凝縮」)、中期板、および極体(「PB」)が見られる。データは、2回の独立した実験を示す。
【図15】ACの存在下で(「+AC」)、またはACの非存在下で(「-AC」)培養したヒト卵母細胞のTUNEL染色像(図15A〜B)およびスライド(図15C〜D)。中期板および極体(「PB」)が見られる。データは、2回の独立した実験を示す。
【図16】通常培地(「対照」)で、またはアミロイド-βペプチド(「Aβ」)、アミロイドβペプチドとAC(「Aβ+AC」)、過酸化水素(「H2O2」)、または過酸化水素とAC(「H2O2+AC」)が添加された培地で成長させた初代ラット海馬ニューロン培養物におけるアポトーシス細胞のパーセンテージを示すグラフ。*3回の独立した実験に基づくp<0.01。
【図17】ヒトACの存在下で(「+AC」)、またはヒトACの非存在下で(「-AC」)成長させた初代ラット滑膜線維芽細胞におけるスフィンゴシン-1-リン酸(「S1P」)のレベルを示すグラフ。*p<0.001。
【図18】MTS試薬を使用して決定された(490ナノメートルにおける吸光度によって定量)、ヒトACの存在下で(黒丸)、またはヒトACの非存在下で(白丸)培養した初代ネコ滑膜線維芽細胞の増殖を示すグラフ。*p<0.001。
【図19】AC前駆タンパク質(55 kDa)およびACのβサブユニット(40 kDa)の存在を示す、マウス胚性幹細胞のウエスタンブロット。これはACが、未分化マウスES細胞において高レベルで発現されていることを示す。
【図20】ACの存在下で(「+AC」)、またはACの非存在下で(「-AC」)インキュベートした細胞における、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(「PARP」)(図20A)、Bax(図20B)、およびアクチン(図20C)(対照)の相対量を示す、マウス胚性幹細胞のウエスタンブロット。これらのデータから、マウスES細胞をACの存在下で成長させると、複数のアポトーシスマーカー(PARPおよびBax)の発現レベルが低下することがわかる。タンパク質は、個々のタンパク質に対するポリクローナル抗体を使用して検出された。
【図21】アミロイド-βペプチド(「Aβ」)および/または組換えヒトAC(「rhAC」)の存在下で(「+」)、またはこれらの非存在下で(「-」)培養したラット神経細胞培養物におけるセラミドのレベルを示すグラフ。正常脳と比較時、*p<0.05。値は、平均±S.D.(N=3)で示す。
【図22】非処理の(「対照」)ラット神経細胞培養物、および組換えヒトAC前処理時(「+Aβ +AC」)、または前処理なし(「+Aβ」)で、アミロイド-βペプチドに曝露した培養物におけるカスパーゼ3の活性を示すグラフ。正常脳と比較時、**p<0.01。値は、平均±S.D.(N=3)で示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明の第1の局面は、細胞のエクスビボにおける生存を促進する方法に関する。この方法は、1個または複数の細胞をエクスビボで提供する段階、およびその1個または複数の細胞の生存を促進するのに有効な条件下で、その1個または複数の細胞を酸性セラミダーゼによって処理する段階を含む。
【0020】
酸性セラミダーゼ(「AC」)は、セラミドのスフィンゴシンおよび遊離脂肪酸への加水分解を触媒する酵素である(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Bernardoら、「Purification, Characterization, and Biosynthesis of Human Acid Ceramidase」、J. Biol. Chem. 270(19): 11098-102 (1995))。成熟型のACは、αサブユニット(約13 kDa)およびβサブユニット(約40 kDa)を含む約50 kDaのタンパク質である(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Bernardoら、「Purification, Characterization, and Biosynthesis of Human Acid Ceramidase」、J. Biol. Chem. 270(19): 11098-102 (1995))。これは、Asah1遺伝子の産物(参照により全体が本明細書に組み入れられる、NCBI UniGene GeneID No. 427)であるAC前駆タンパク質の切断によって産生される(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Ferlinzら、「Human Acid Ceramidase: Processing, Glycosylation, and Lysosomal Targeting」、J. Biol. Chem. 276(38):35352-60 (2001))。本発明は、ACが細胞の生存を促進することを示す。
【0021】
本発明のこの局面によって生存が促進され得る細胞は、さまざまな細胞(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Obeidら、「Programmed Cell Death Induced by Ceramide」、Science 259:1769-71 (1993))、例えば肝細胞(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Aroraら、「Ceramide Induces Hepatocyte Cell Death Through Disruption of Mitochondrial Function in the Rat」、Hepatol. 25 :958-63 (1997))、皮膚線維芽細胞(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Mizushimaら、「Ceramide, a Mediator of Interleukin 1, Tumour Necrosis Factor α, as Well as Fas Receptor Signalling, Induces Apoptosisof Rheumatoid Arthritis Synovial Cells」、Ann. Rheum. Dis. 57:495-9 (1998))、軟骨細胞(参照により全体が本明細書に組み入れられる、MacRaeら、「Ceramide Inhibition of Chondrocyte Proliferation and Bone Growth Is IGF-I Independent」、J. Endocrinol. 191(2):369-77 (2006))、肺上皮(参照により全体が本明細書に組み入れられる、ChanおよびGoldkorn、「Ceramide Path in Human Lung Cell Death」、Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 22(4):460-8 (2000))、赤血球(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Langら、「Mechanisms of Suicidal Erythrocyte Death」、Cell. Physiol. Biochem. 15:195-202 (2005))、心筋細胞(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Parraら、「Changes in Mitochondrial Dynamics During Ceramide-induced Cardiomyocyte Early Apoptosis」、Cardiovasc. Res. (2007))、ならびにリンパ球(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Gombosら、「Cholesterol and Sphingolipids as Lipid Organizers of the Immune Cells' Plasma Membrane: Their Impact on the Functions of MHC Molecules, Effector T-lymphocytes and T-cell Death」、Immunol. Lett. 104(1-2): 59-69 (2006))、卵、胚、ニューロン、精子、滑膜線維芽細胞、および胚性幹細胞を含む、セラミダーゼアポトーシス経路を利用する細胞を含むが、これらに限定されない。好ましい細胞タイプは、卵(受精卵または未受精卵)、胚、初代細胞(例えばニューロン)、精子、滑膜線維芽細胞、および胚性幹細胞である。さらに、セラミドが関与するアポトーシス経路は、哺乳類の種を超えて保たれているようである(LeeおよびAmoscato、「TRAIL and Ceramide」、Vitam. Horm. 67:229-55 (2004);それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、Samadi、「Ceramide-induced Cell Death in Lens Epithelial Cells」、Mol. Vis. 13:1618-26 (2007)(ヒト);Parraら、「Changes in Mitochondrial Dynamics During Ceramide-induced Cardiomyocyte Early Apoptosis」、Cardiovasc. Res. (2007)(ラット);de Castro E PaulaおよびHansen、「Ceramide Inhibits Development and Cytokinesis and Induces Apoptosis in Preimplantation Bovine Embryos」、Mol. Reprod. Devel, DOI No. 10.1002/mrd.20841 (2007)(ウシ)も参照)。したがって、上記の個々の細胞タイプに関しては、適切な細胞は、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、イヌ、およびネコの細胞を含むことが推定される。好ましい態様では、この方法によって、体外受精措置中における卵および/または胚の生存が延長され、特に高齢のヒト女性を対象とした、および獣医学的な繁殖措置時の再着床用の、健康な胚の同定および選択が容易になる。
【0022】
本発明のこの局面の細胞は、当業者に明らかな方法によって提供され得る。例として、細胞は動物から、または既存のエクスビボ供給源(例えば組織試料、細胞培養物など)から標準的な手法で得られる。細胞をエクスビボで処理する段階は、同種培養物中に存在する細胞、ならびに異種培養物(例えば組織試料)中に存在する細胞を処理する段階を含む。
【0023】
本発明のこの局面および全ての局面で使用可能な酸性セラミダーゼは、表1に記載された酵素を含むが、これらに限定されない。本発明のこの局面および全ての局面(後述するインビボ法を含む)では、酸性セラミダーゼは、処理対象の1個または複数の細胞に対して、同種(すなわち同じ種に由来)、または異種(すなわち異なる種に由来)であってよい。
【0024】
(表1)例示的な酸性セラミダーゼファミリーのメンバー
【0025】
本発明のこの局面による処理段階は、当業者に明らかな方法で細胞に酸性セラミダーゼを接触させることで実施される。
【0026】
いくつかの態様では、処理段階は、後に細胞によって活性型の酸性セラミダーゼタンパク質へと変換される酸性セラミダーゼ前駆タンパク質を細胞に導入することで実施される。特にAC前駆タンパク質は、活性型(αサブユニットおよびβサブユニットを含む)への自己タンパク質分解的な切断を生じる。これは細胞内環境によって促進され、種を越えてAC前駆タンパク質の切断部位において高度に保存された配列に基づき、全てとは言わないまでも大半の細胞タイプにおいて生じることが予想される。適切な酸性セラミダーゼ前駆タンパク質は、上記の表1に記載されたタンパク質を含む。当業者に明らかなように、前駆タンパク質は任意で、細胞が曝露される培地中に含まれる場合がある。前駆タンパク質が関心対象の細胞によって取り込まれて活性型の酸性セラミダーゼに変換される態様、および前駆タンパク質が、培地中に存在するさまざまな細胞または薬剤によって酸性セラミダーゼに変換される態様の両方が想定される。
【0027】
タンパク質薬剤またはポリペプチド薬剤(例えば酸性セラミダーゼ、酸性セラミダーゼ前駆タンパク質)を輸送する方法は、所望のタンパク質またはポリペプチドと、安定化することで結合状態のタンパク質またはポリペプチドの酵素的分解を回避するポリマーとの結合を含む。このタイプの結合状態のタンパク質またはポリペプチドは、参照により全体が本明細書に組み入れられる、Ekwuribeによる米国特許第5,681,811号に記載されている。
【0028】
タンパク質薬剤またはポリペプチド薬剤を輸送する、さらに別の方法は、参照により全体が本明細書に組み入れられる、Heartleinらによる米国特許第5,817,789号によるキメラタンパク質の作製を含む。キメラタンパク質は、リガンドドメインおよびポリペプチド薬剤(例えば酸性セラミダーゼ、酸性セラミダーゼ前駆タンパク質)を含む場合がある。リガンドドメインは、標的細胞上に位置する受容体に特異的である。したがって、キメラタンパク質が細胞または培地に輸送されると、キメラタンパク質は標的細胞に吸収され、標的細胞はキメラタンパク質を内在化する。
【0029】
いくつかの態様では、酸性セラミダーゼ(または上記の酸性セラミダーゼ前駆タンパク質)をコードする核酸分子を細胞または培地に導入することで、酸性セラミダーゼを添加してもよい(それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、JOSEPH SAMBROOKおよびDAVID W. RUSSELL, 1-3 MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL (3d ed. 2001);SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (Frederick M. Ausubelら eds., 1999);CohenおよびBoyerによる米国特許第4,237,224号)。適切な核酸分子は、上記の表1に記載された分子を含む。これは、核酸分子を含み(かつ発現し)、かつ酸性セラミダーゼ/酸性セラミダーゼ前駆タンパク質を培地中に分泌する細胞を培地に添加する段階を含む。
【0030】
本発明の方法に使用される核酸薬剤は、当技術分野で既知のいくつかの方法で細胞内に輸送することができる。例えば、核酸をベクター中に、例えば細胞内に輸送されて、内在する核酸の発現を可能とするベクター中に含めることができる。このようなベクターは、染色体ベクター(例えば人工染色体)、非染色体ベクター、および合成核酸を含む。ベクターは、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ベクターなどの、プラスミド、ウイルス、およびファージを含む。
【0031】
当業者に明らかなように、核酸薬剤は細胞内にエクスビボ法で輸送することができる。例えば、核酸およびベクターを細胞内に、物理的手段で、例えばエレクトロポレーション、脂質、陽イオン性脂質、リポソーム、DNA銃、リン酸カルシウム沈殿、注入、または裸の核酸の輸送によって輸送することができる。
【0032】
上述の核酸の非感染性の輸送に代わる方法として、酸性セラミダーゼ/酸性セラミダーゼ前駆タンパク質をコードする組換え遺伝子を含む裸のDNAまたは感染性形質転換用ベクターを輸送に使用することができる。続いて、核酸分子を形質転換細胞中で発現させることができる。
【0033】
組換え遺伝子は、相互に作動可能に結合された、遺伝子が発現される細胞内で作動可能な上流のプロモーター、および任意で他の適切な調節エレメント(すなわちエンハンサーまたはインデューサーエレメント)、核酸をコードするコード配列、ならびに下流の転写終結領域を含む。任意の適切な構成的プロモーターまたは誘導的プロモーターを使用して、組換え遺伝子の転写を調節することが可能であり、当業者であれば、このようなプロモーターを、現時点で既知であるか、または今後開発されるかにかかわらず、容易に選択および利用することができる。プロモーターは、生存が促進される細胞内における発現に特異的な場合もある。組織特異的なプロモーターを、例えばTetO応答エレメントを使用して誘導的/抑制的とすることもできる。他の誘導的エレメントを使用することもできる。既知の組換え手法を利用して組換え遺伝子を作製し、これを発現ベクター(使用される場合)中に移し、ベクターまたは裸のDNAを細胞に投入することができる。例示的な手順は、参照により全体が本明細書に組み入れられる、SAMBROOKおよびRUSSELL, 1-3 MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL (3d ed. 2001)に記載されている。当業者であれば、これらの手順を、必要に応じて、本明細書に記載された手順の既知の変法を使用して容易に改変することができる。
【0034】
任意の適切なウイルス性または感染性の形質転換ベクターを使用することができる。例示的なウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、およびレトロウイルスベクター(レンチウイルスベクターを含む)を含むが、これらに限定されない。
【0035】
アデノウイルス遺伝子輸送媒体は、それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、Berkner、「Development of Adenovirus Vectors for the Expression of Heterologous Genes」、Biotechniques 6:616-29 (1988);Rosenfeldら、「Adenovirus-mediated Transfer of a Recombinant α1-antitrypsin Gene to the Lung Epithelium in Vivo」、Science 252:431-434 (1991);CurielらによるPCT Publication No. WO/1993/007283;PerricaudetらによるPCT Publication No. WO/1993/006223;およびCurielらによるPCT Publication No. WO/1993/007282に記載された内容に従って容易に作製および利用することができる。他のタイプのアデノウイルスベクターは、それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、Wickhamらによる米国特許第6,057,155号;BoutおよびHoebenによる米国特許第6,033,908号;Wilsonらによる米国特許第6,001,557号;ChamberlainおよびKumar-Singhによる米国特許第5,994,132号;KochanekおよびSchniednerによる米国特許第5,981,225号;SpoonerおよびEpenetosによる米国特許第5,885,808号;ならびにCurielによる米国特許第5,871,727号に記載されている。
【0036】
アデノ随伴ウイルス遺伝子輸送媒体を構築および使用することで、所望の核酸をコードする組換え遺伝子を細胞中に輸送することができる。インビトロにおけるアデノ随伴ウイルス遺伝子輸送媒体の使用は、それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、Chatterjeeら、「Dual-target Inhibition of HIV-1 in Vitro by Means of an Adeno-associated Virus Antisense Vector」、Science 258:1485-8 (1992);Walshら、「Regulated High Level Expression of a Human γ-Globin Gene Introduced into Erythroid Cells by an Adeno-associated Virus Vector」、Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 89:7257-61 (1992);Walshら、「Phenotypic Correction of Fanconi Anemia in Human Hematopoietic Cells with a Recombinant Adeno-associated Virus Vector」、J. Clin. Invest. 94:1440-8 (1994);Flotteら、「Expression of the Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator from a Novel Adeno-associated Virus Promoter」、J. Biol. Chem. 268:3781-90 (1993);Ponnazhaganら、「Suppression of Human α-Globin Gene Expression Mediated by the Recombinant Adeno-associated Virus 2-based Antisense Vectors」、J. Exp. Med. 179:733-8 (1994);Millerら、「Recombinant Adeno-associated Virus (rAAV)-mediated Expression of a Human γ-Globin Gene in Human Progenitor-derived Erythroid Cells」、Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 91 :10183-7 (1994);Einerhandら、「Regulated High-level Human β-Globin Gene Expression in Erythroid Cells Following Recombinant Adeno-associated Virus-mediated Gene Transfer」、Gene Ther. 2:336-43 (1995);Luoら、「Adeno-associated Virus 2-mediated Gene Transfer and Functional Expression of the Human Granulocyte-macrophage Colony-stimulating Factor」、Exp. Hematol. 23:1261-7 (1995);およびZhouら、「Adeno-associated Virus 2-mediated Transduction and Erythroid Cell-specific Expression of a Human β-Globin Gene」、Gene Ther. 3:223-9 (1996)に記載されている。
【0037】
感染性形質転換系を形成するように改変されたレトロウイルスベクターを使用して、所望の核酸産物をコードする組換え遺伝子を標的細胞中に輸送することもできる。このようなタイプの1つのレトロウイルスベクターは、参照により全体が本明細書に組み入れられる、KrieglerおよびPerezによる米国特許第5,849,586号に開示されている。それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、Aryaによる米国特許第6,790,657号、およびKafriらによる米国特許出願第2004/0170962号、およびAryaによる米国特許出願第2004/0147026号に記載されたベクターを含むレンチウイルスベクターを使用することもできる。
【0038】
酸性セラミダーゼ処理は、必要に応じて何度も、また細胞の生存を促進するのに適切な期間にわたって実施することができる。例えば処理は、1回または複数回にわたって実施することができる。
【0039】
添加される酸性セラミダーゼの量が、特定の条件に依存して変動することは言うまでもない。一般に酸性セラミダーゼは、細胞の生存を改善するのに有効な量を達成するように投与される。所望の効果を得るのに必要な量は、細胞のタイプ、培養条件、および細胞の生存が促進されるのに望ましい期間に依存して変動する場合がある。当業者であれば、有効量を実験から決定することができる。これは例えば、培養物中の細胞にさまざまな量の酸性セラミダーゼを添加して、望ましい結果を得るのに有効な濃度を計算するアッセイ法を含んでもよい。
【0040】
好ましい態様では、酸性セラミダーゼ/酸性セラミダーゼ前駆タンパク質が培地中に導入され、かつ1個もしくは複数の細胞が、酸性セラミダーゼ/酸性セラミダーゼ前駆タンパク質の導入前または導入後に培地に曝露される。
【0041】
本発明のこの局面および全ての局面による生存の促進は、細胞が死滅するまでの時間の延長、および細胞の死の完全な防止を含む、細胞の生存率の任意の上昇を意味する。
【0042】
本発明の第2の局面は、雌性哺乳類対象における1個または複数の細胞のインビボにおける生存を促進する方法に関する。この方法は、その雌性哺乳類対象における1個または複数の細胞の生存を促進するのに有効な条件で、その雌性哺乳類対象に酸性セラミダーゼを投与する段階を含む。
【0043】
本発明のこの局面の哺乳類は、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、イヌ、およびネコを含むが、これらに限定されない。
【0044】
本発明のこの局面の細胞は、上記の細胞を含む。好ましい態様では、1個または複数の細胞は卵(受精卵または未受精卵)である。
【0045】
酸性セラミダーゼは、放射線療法および/または化学療法を受けている女性の卵母細胞/胚を保護可能なことが推定される。というのは、これらの治療法は、セラミド経路を介して卵のアポトーシスを誘導することが知られているからである(それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、Jurisicovaら、「Molecular Requirements for Doxorubicin-mediated Death in Murine Oocytes」、Cell Death Differ. 13:1466-74 (2006);TillyおよびKolesnick、「Sphingolipids, Apoptosis, Cancer Treatments and the Ovary: Investigating a Crime Against Female Fertility」、Biochem. Biophys. Acta 1585:135-8 (2002))。したがって好ましい態様では、細胞は卵であり、および対象は、酸性セラミダーゼの投与後に化学療法を受けるヒト女性である。
【0046】
別の好ましい態様では、本発明のこの局面の方法は、卵母細胞の細胞死をインビボで防ぐことで、農業関連動物(例えばウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ)、家畜動物(例えばイヌ、ネコ、モルモット、ハムスター)、および/または実験動物(例えばサル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター)の繁殖率を高めるために実施される。
【0047】
エクスビボ輸送に関して上述したように、活性型の酸性セラミダーゼは、対象に直接投与することが可能であり、かつ/または酸性セラミダーゼ前駆タンパク質、および/または酸性セラミダーゼ/酸性セラミダーゼ前駆タンパク質をコードする核酸の形状で輸送することができる。例示的なタンパク質および核酸は、上記の表1に記載されたタンパク質および核酸を含む。上記の結合型タンパク質、およびキメラのタンパク質またはポリペプチド薬剤も、本発明のこの局面に適している。
【0048】
当業者に明らかなように、投与段階は一般に既知の方法で実施することができる。例示的な方法を以下に示す。
【0049】
投与は、対象への全身投与か、または患部の組織、器官、および/または細胞への標的投与のいずれかを介して達成することができる。治療用薬剤(すなわち酸性セラミダーゼ、酸性セラミダーゼ前駆タンパク質、酸性セラミダーゼ/酸性セラミダーゼ前駆タンパク質をコードする核酸)は、標的となる組織、器官、もしくは細胞への治療用薬剤の移動(および/または標的となる組織、器官、もしくは細胞による取り込み)を促進する1種類もしくは複数の薬剤とともに非標的部位に投与することができる。当業者に明らかなように、追加的および/または代替的に、所望の組織、器官、または細胞へのその輸送(および所望の組織、器官、または細胞による取り込み)を促進するように、治療用薬剤そのものを改変することができる。卵の生存を促進する際の好ましい標的組織は、卵巣組織および子宮組織を含む。
【0050】
薬剤を輸送する任意の適切な方法を利用して、本発明のこの局面を実施することができる。典型的には治療用薬剤は、標的となる細胞、組織、または器官に治療用薬剤を輸送する媒体に含まれた状態で患者に投与される。
【0051】
例示的な投与経路は、気管内注入、吸引、気道注入、エアロゾル化、噴霧、鼻内注入、口内注入もしくは経鼻胃注入、腹腔内注射、静脈内注射、局所注射、経皮注射、非経口注射、皮下注射、静脈内注射、動脈内注射(肺動脈を介する注射など)、筋肉内注射、胸膜内注入、脳室内、病巣内による経路、粘膜(鼻、咽頭、気管支、性器、および/または肛門の粘膜など)への塗布、または放出媒体の埋め込みを含むが、これらに限定されない。
【0052】
典型的には治療用薬剤は、治療用薬剤および任意の薬学的に許容される補助剤、担体、賦形剤、および/または安定剤を含む薬学的製剤として投与され、かつ錠剤、カプセル剤、粉末剤、液剤、懸濁剤、もしくは乳濁剤などの、固体状もしくは液体状であってよい。組成物は好ましくは、約0.01〜約99重量パーセント、より好ましくは約2〜約60重量パーセントの治療用薬剤を、補助剤、担体、および/または賦形剤とともに含む。このような治療的に有用な組成物中の活性化合物の量は、適切な単位投与量が得られるような量である。
【0053】
薬剤は、例えば不活性希釈剤とともに、もしくは吸収性食用担体とともに経口投与することが可能であるか、硬カプセルもしくは軟カプセル中に封入することが可能であるか、錠剤中に圧縮することが可能であるか、食物中に直接含めることが可能である。治療薬を経口投与する場合、これらの活性化合物は、賦形剤とともに混合し、また錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤などの形状で使用することができる。このような組成物および調製物は、少なくとも0.1%の薬剤を含むべきである。このような組成物中の薬剤のパーセンテージが変動する場合があることは言うまでもないが、利便性を考慮して、重量単位で約2%〜約60%であってよい。このような治療的に有用な組成物中の薬剤の量は、適切な投与量が得られるような量である。
【0054】
錠剤やカプセル剤などには、トラガカントゴム、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチンなどの結合剤;第二リン酸カルシウムなどの賦形剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプン、またはアルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;およびショ糖、乳糖、またはサッカリンなどの甘味剤を含めることもできる。単位投与剤形がカプセルの場合、上記タイプの材料に加えて、脂肪油などの液体担体を含めてもよい。
【0055】
他のさまざまな材料を被覆剤として存在させるか、単位投与剤形の物理的形状を改変するように使用することができる。例えば錠剤を、シェラック、糖、またはこれらの両方によって被覆することができる。シロップには、活性成分に加えて、甘味剤としてショ糖を、保存剤としてメチルパラベンおよびプロピルパラベンを、色素を、ならびにチェリー香料やオレンジ香料などの香味剤を含めることができる。
【0056】
薬剤は非経口的に投与することもできる。薬剤の溶液または懸濁液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性物質とが適切に混合された水によって調製することができる。分散液も、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの油中混合物を溶媒として調製することができる。例示的な油には、石油、動物油、植物油、もしくは合成油、例えばラッカセイ油、ダイズ油、または鉱油などがある。一般に、水、生理食塩水、水性デキストロースおよび関連糖溶液、ならびにプロピレングリコールやポリエチレングリコールなどのグリコールが、特に注射液用の好ましい液体担体である。保存および使用の通常の条件では、これらの調製物は、微生物の成長を防ぐための保存剤を含む。
【0057】
注射可能な用途に適した薬学的剤形は、無菌性の水溶液または分散液、および無菌性の注射液または分散液の即時調製用の無菌性粉末剤を含む。いずれの場合も、このような形状は無菌性でなければならず、かつ容易なシリンジ充填性が存在する程度に液状でなければならない。これは、製造および保存の条件で安定であり、かつ細菌や真菌などの微生物の混入作用を防ぐように保存されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール)、これらの適切な混合物、ならびに植物油を含む、溶媒または分散媒であってよい。
【0058】
本発明のこの局面の薬剤は、エアロゾル状で気道に直接投与することもできる。エアロゾルとして使用される場合は、溶液中または懸濁液中の本発明の化合物は、適切な噴霧剤、例えばプロパン、ブタン、またはイソブタンなどの炭化水素噴霧剤を一般的な補助剤とともに、加圧されたエアロゾル容器内に収めることができる。本発明の材料は非加圧状態で投与することもできる。
【0059】
例示的な輸送用装置は、ネブライザー、アトマイザー、リポソーム(能動的および受動的な薬剤輸送法用の両方)(それぞれが参照により全体が本明細書に組み入れられる、WangおよびHuang、「pH-Sensitive Immunoliposomes Mediate Target-cell-specific Delivery and Controlled Expression of a Foreign Gene in Mouse」、Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 84:7851-5 (1987);Banghamら、「Diffusion of Univalent Ions Across the Lamellae of Swollen Phospholipids」、J. Mol. Biol. 13:238-52 (1965);Hsuによる米国特許第5,653,996号;Leeらによる米国特許第5,643,599号;Hollandらによる米国特許第5,885,613号;DzauおよびKanedaによる米国特許第5,631,237号;ならびにLoughreyらによる米国特許第5,059,421号;Wolffら、「The Use of Monoclonal Anti-Thy1 IgG1 for the Targeting of Liposomes to AKR-A Cells in Vitro and in Vivo」、Biochim. Biophys. Acta 802:259-73 (1984))、経皮パッチ、インプラント、埋め込み可能または注入可能なタンパク質デポ組成物、およびシリンジを含むが、これらに限定されない。本発明のこの局面を有効とするために、当業者に既知の他の輸送系を利用して、インビボにおける所望の器官、組織、または細胞への治療用薬剤の望ましい輸送を達成することもできる。
【0060】
投与は、必要に応じて複数回にわたって、かつ細胞生存の有効な促進を可能とするのに適切な期間にわたって実施することができる。例えば投与は、単回の徐放性投与剤形によって、または1日に複数回の投与によって実施することができる。
【0061】
投与される量が、治療レジメンに応じて変動することは言うまでもない。一般に薬剤は、細胞の生存を改善するのに有効な量を達成するように投与される。したがって治療的有効量は、細胞死の開始の遅延を含む、細胞のアポトーシスを少なくとも部分的に防ぐことが可能な量であってよい。有効量を得るのに必要な用量は、薬剤、製剤、細胞のタイプ、細胞の生存が促進されることが望ましい期間、および薬剤が投与される個体に依存して変動する場合がある。
【0062】
有効量の決定は、さまざまな用量の薬剤を培養物中の細胞に投与し、インビボで必要な濃度を計算するために、細胞の生存を促進するのに有効な薬剤の濃度を決定するインビトロアッセイ法を含んでもよい。有効量は、インビボ動物試験に基づく場合もある。当業者であれば、治療的有効量を実験的に決定することができる。
【0063】
本発明の第3の局面は、エクスビボにおける初代細胞の生存を促進するためのキットに関する。キットは、細胞培地および酸性セラミダーゼを含む。
【0064】
本発明のこの局面の適切な細胞培地は、卵母細胞および胚用のM2、多くの初代細胞(線維芽細胞を含む)用のRPMIおよびDMEM、ならびにニューロン用のB27を含むが、これらに限定されない。
【0065】
本発明のこの局面の酸性セラミダーゼは上記の酵素を含む。酸性セラミダーゼはタンパク質の形状、および/または酸性セラミダーゼをコードする核酸分子の形状を取り得る。
【0066】
本発明のこの局面のキットは任意で培地中に上記の任意の細胞を含む1個または複数の細胞を含んでもよい。当業者に明らかなように、複数の細胞が含まれる場合、細胞は、同種(すなわち同じ種に由来する同じ細胞タイプ)、または異種(すなわち異なる種に由来する異なる細胞タイプおよび/または細胞)であってよい。
【0067】
本発明の第4の局面は、体外受精の結果を予測する方法に関する。この方法は、雌性対象に由来する血清または卵胞液の試料を提供する段階を含む。この試料は、酸性セラミダーゼの活性レベルに関してスクリーニングされ、酸性セラミダーゼの活性レベルが、雌性対象における体外受精の結果の予測に関連づけられる。
【0068】
試料は、当業者に明らかな方法で提供され得る。例えば血清は標準的な採血法で得られる。卵胞液は、人工受精時の卵母細胞の採取時に得られる。
【0069】
本発明のこの局面の適切な対象は上記の対象を含む。好ましい態様では、対象はヒトである。
【0070】
試料を酸性セラミダーゼ活性に関して、当業者に明らかな方法でスクリーニングすることができる。適切な方法は例えば、AC活性アッセイ法(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Eliyahuら、「Acid Ceramidase Is a Novel Factor Required for Early Embryo Survival」、FASEB J. 21(7): 1403-9 (2007)、試料中に存在するACの相対量を決定するウエスタンブロッティング(より高量のACタンパク質は、より高いAC活性レベルと相関する)(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Eliyahuら、「Acid Ceramidase Is a Novel Factor Required for Early Embryo Survival」、FASEB J. 21(7): 1403-9 (2007))、およびRIA(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Ferlinzら、「Human Acid Ceramidase: Processing, Glycosylation, and Lysosomal Targeting」、J. Biol. Chem. 276(38):35352-60 (2001))を含む。
【0071】
血清および/または卵胞液中のACが低い女性は、アポトーシスの卵のパーセンテージがより高く、したがって体外受精に関する推定結果が不良であることが予測される。したがって、試料のAC活性レベルは、標準レベルと比較することで、推定結果と関連づけることが可能である。標準は、さまざまな年齢の女性の集団データを使用して決定することができる(例えば以下の実施例14を参照)。
【0072】
本発明を、以下の実施例を参照して、さらに説明する。
【0073】
実施例
実施例1−マウスの卵および胚の採取
動物を対象とした全ての実験は、適切な施設内動物飼育および利用委員会の承認を受け、かつ同委員会の定めるガイドラインを厳格に遵守して実施された。7〜8週齢の129-SV/IMJおよびC57-Black/6の雌マウス(Jackson Labs, Bar Harbor, Maine)を、10国際単位(「IU」)の妊馬血清性性腺刺激ホルモン(「PMSG」;Syncro-part, Sanofi, France)、続いて48時間後に10 IUのヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(「hCG」;Sigma, St. Louis, MO)によって過排卵させた。hCGの注射のそれぞれ16時間後または46時間後に、卵管膨大部(oviductal ampullae)から成熟および高齢のMII期の卵を採取した。Todd-Hewitt溶媒中の400 IU/mlの高純度ヒアルロニダーゼ(H-3631;Sigma)(参照により全体が本明細書に組み入れられる、EliyahuおよびShalgi、「A Role for Protein Kinase C During Rat Egg Activation」、Biol. Reprod. 67:189-95 (2002))への短時間曝露によって卵丘細胞を除去した。2細胞期胚の採取時には、過排卵の雌を、生殖能力が確認済みの雄とともにケージ内に収容し、hCGの注射の46時間後に安楽死させた。胚を卵管膨大部から単離し、5% CO2および95%空気の加湿空気中で37℃で培養した。
【0074】
実施例2−単一細胞長鎖ネステッドPCRによる遺伝子型決定
個々の胚に由来するDNAを対象に、2セットの長鎖および短鎖(ネステッド)のプライマーの混合物を使用してPCR増幅を行った。野生型Asah1対立遺伝子を対象とした、長鎖(1回目)および短鎖(2回目)のPCR増幅を、フォワードおよびリバースのプライマー
を使用して行い、それぞれ約9 kbと180 bpのDNA断片を得た。フォワードおよびリバースのプライマー
を使用した変異型Asah1対立遺伝子の増幅によって、それぞれ約7 kbおよび約255 bpのDNA断片を得た。
【0075】
実施例3−ウエスタンブロットによる解析
卵および胚を、50 mM Tris-HCL、150 mM NaCl、2 mM EDTA、1% NP-40、1 mMバナジン酸、5 mM Naf、および10 μg/ml アプロチニン(pH 7.4)を含む緩衝液に溶解した。10%または12%のプレキャストのNupage Bis/Trisゲル、およびMESランニング緩衝液(Invitrogen)を使用して還元条件でSDS-PAGEによってタンパク質を分離し、半乾燥(semi-dry)トランスファー装置(BioRad)およびNupage-MOPSトランスファー緩衝液を使用してニトロセルロース膜(Amersham Biosciences)にトランスファーした。イムノブロット解析ではブロットを、5%ドライミルクを含むTBS/Tweenでブロック後に、酸性セラミダーゼに対するヤギIgG(「AC」)(βサブユニットに特異的)とともにインキュベートした。結合状態の抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼに結合させた二次抗体によって認識した。検出は、高感度化学発光検出用試薬(Amersham Biosciences)によって行った。概算の分子量を、染色済みのタンパク質標準(BioRad)の移動と比較することで決定した。
【0076】
実施例4−酸性セラミダーゼの活性アッセイ法
卵を0.25%ショ糖溶液中に溶解した。全細胞抽出物を、0.1 M クエン酸/リン酸緩衝液(pH 4.5)、150 mM NaCl、0.05% BSA、および0.1% Igepal CA-630を溶媒とする0.1 ng/mlのBODIPY結合C12セラミドとともに37℃で22時間インキュベートした。反応完了後に、5μlのアッセイ混合物を除去して95 μlのエタノールに加え、混合後に10,000×gで5分間遠心分離した。次に上清を、Watersガラス製サンプリング用バイアルに移し、5μl(当初の反応混合物の2.5%)をWIPS 712(Waters)自動サンプラーによって、逆相カラム(BetaBasic-18, 4.6 x 30 mm, Keystone Scientific Inc., Bellefonte, PA)が接続された高性能液体クロマトグラフ上に自動サンプリングし、メタノール/水(95:5 v/v)によって1 ml/分の流速でイソクラティックに溶出した。励起波長および放射波長がそれぞれ505 nmと540 nmに設定されたWaters 474蛍光検出器を使用して蛍光を定量した。消化されていない基質(すなわちBODIPY結合C12セラミド)および生成物(すなわち脂肪酸)のピークを、それらの保持時間を標準と比較することで同定し、生成物の量を、BODIPY結合C12脂肪酸を使用した標準曲線から作成された回帰式を使用して計算した。
【0077】
実施例5−免疫組織化学的検査
卵を単離し、3%パラホルムアルデヒドで固定した。固定後に、プロナーゼ(Sigma)によって透明帯(「ZP」)を除去し、ZPを含まない卵をNP-40によって透過処理した。次に卵を、さまざまな一次抗体および二次抗体(参照により全体が本明細書に組み入れられる、EliyahuおよびShalgi、「A Role for Protein Kinase C During Rat Egg Activation」、Biol. Reprod. 67:189-95 (2002))とともにインキュベートした。蛍光試薬を可視化し、Ziess共焦点レーザー走査型顕微鏡で写真を撮影した。アポトーシスの検出では、生きている2細胞期胚を、Annexin V Apoptosis Detectionキット(Santa Cruz Biotechnology, Inc.)を使用して標識した。
【0078】
実施例6−ポリメラーゼ連鎖反応によるmRNAの定量
等しい数の卵および胚から全mRNAを抽出し、製造業者(Invitrogen)の指示書に従って逆転写した。QuantiTect SYBR Green PCRキット(QIAGEN)によるマウスのACのPCR増幅には、Mac990
およびmac1137r
を使用した。高齢卵および2細胞期胚におけるACのmRNAレベルの相対的な変化を、それぞれ2^(Ct若齢-Ct高齢)および2^(Ct若齢-Ct2細胞期胚)の式を用いて、若齢卵におけるACのmRNAレベルに対して評価した。ハウスキーピングタンパク質であるβアクチン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質S11(RPS11)を、胚のmRNA発現の内部対照として使用した。
【0079】
実施例7−データの提示および統計解析
全ての実験は、異なるマウスについて、独立に少なくとも3回繰り返して実施した。反復実験で得られた統合データをt検定解析にかけ、P<0.005の場合に、結果を統計的に有意であると見なした。グラフは、反復実験で得られた統合データの平均±s.e.m.を示す。卵の形状、アネキシンV標識、および免疫組織化学アッセイ法に関する代表的な顕微鏡写真を示す。
【0080】
実施例8−Asah1-/-マウス胚は形成されるが2〜4細胞期の移行中に死滅した
Asah1-/-マウスの致死表現型の基礎となる病理学的機序に関する知見を得るために、単一細胞長鎖ネステッド(「SCLN」)PCRによる遺伝子型決定法を開発した。この手法により、受精直後における個々の胚の遺伝子型の決定が可能となった。ヒト絨毛性腺刺激ホルモン注射の36〜60時間後に、Asah1+/-の交雑から2〜8細胞期の胚を採取し、M2培地で培養した。1個の胚からDNAを得て、長鎖および短鎖ネステッドPCR用のプライマー混合物を使用して、実施例1〜2に記載された手順でSCLN PCR増幅を行った。これらの交雑に由来する196個の胚の遺伝子型決定の結果、図1に示すように、Asah1-/-胚が形成される可能性があることが判明した。しかしながら、表2に示すように、2細胞期以降のAsah1-/-胚は同定されなかったことから、AC活性の欠損は2〜4細胞期の移行中に胚を死に至らせたことが示唆される。特に、予想より多くのAsah1+/-胚が、4〜8細胞期において同定され、野生型:ヘテロ接合体の推定比は1:2であったが、実際の比は表2に示すように約1:2.8であった。これは、これらの胚の産生に高齢のAsah1+/-雄マウスが使用され、かつこのようなマウスの変異体精子が野生型精子と比較して受精上の利点を有していたという事実に帰せられる。
【0081】
(表2)胚の遺伝子型決定の結果
Asah1-/-の交雑に由来する2〜8細胞期の胚を対象に、SCLN PCRによる遺伝子型決定を実施した。データは、8匹の雌マウスから得られた100%の胚の遺伝子型決定を示す。
【0082】
実施例9−Asah1-/-マウスの胚は2細胞期中にアポトーシス死を生じる
セラミドを介するシグナル伝達は、しばしばアポトーシスに至る(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Spiegelら、「Signal Transduction Through Lipid Second Messengers」、Curr. Opin. Cell. Biol. 8:159-67 (1996))。したがって、Asah1遺伝子の不活性化の1つの帰結は、細胞周期の停止またはアポトーシスに至る、胚中におけるセラミドの増加である可能性がある(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Hannun、「Function of Ceramide in Coordinating Cellular Responses to Stress」、Science 274:1855-9 (1996);Spiegelら、「Signal Transduction Through Lipid Second Messengers」、Curr. Opin. Cell. Biol. 8:159-67 (1996))。卵中のセラミドレベルは、インビボおよびインビトロにおける加齢中に上昇することが報告されている(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Perezら、「A Central Role for Ceramide in the Age-related Acceleration of Apoptosis in the Female Germline」、FASEB J. 19 : 860-2 (2005))。これらのデータは、ACがセラミドの除去によって、卵/胚の生存に重要な役割を果たすという結論を支持する。
【0083】
発生中におけるACの関与をさらに詳しく調べるために、またAsah1-/-胚の死に至る機序を解析するために、アポトーシス細胞死の可能性をアネキシンVによる染色によって評価した(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Chanら、「Plasma Membrane Phospholipid Asymmetry Precedes DNA Fragmentation in Different Apoptotic Cell Models」、Histochem. Cell Biol. 110:553-8 (1998))。この解析を実施するために、Asah1+/-の交雑に由来する86個の生きている2細胞期胚を採取して番号を割り当てた。個々の胚を、アポトーシスによる形状およびアネキシンV結合に関して、レーザー走査型共焦点顕微鏡を使用して独立に調べ、続いてSCLN PCRによって遺伝子型を決定した。これらの解析の結果から、全てのAsah1-/-胚が、図2Dおよび図2Fに示すようにアポトーシスの形状を示し、かつ図2E〜Fに示すようにアネキシンVによる染色が陽性である一方で、野生型の胚は、図2Aおよび図2Cに示すように正常な形状を有しており、アネキシンV染色は、図2B〜Cに示すようにアポトーシス性極体を除いて認められないことが判明した。表3からわかるように、アポトーシスを生じた野生型胚(11%)およびヘテロ接合胚(5%)のパーセンテージは、Asah1-/-胚(100%)と比較して無視できるものであった(t検定、P<0.00001)。
【0084】
(表3)Asah1-/-胚は2細胞期中にアポトーシス死を生じる
データは、4匹の雌マウスから得られた100%の胚の解析を示す。
【0085】
したがって以上の知見から、機能性のACの非存在が2細胞期中にアポトーシス死を引き起こすことがわかり、これはACの活性が2細胞期から4細胞期への移行に不可欠であるという、インビボにおける直接的な証拠となる。この発生上の時期は、胚のゲノムの活性化の開始点となる。
【0086】
実施例10−マウス未受精卵母細胞における酸性セラミダーゼの発現
ACは胚発生の最初期段階に必要とされると考えられるので、胚が生き延びるためには、胚ゲノムの活性化(「EGA」)の前に、ドナー卵によって酵素が新規形成胚に提供されるに違いないと仮定された。この仮説を検証するために、400個のプールされた未受精MII卵(hCG注射の16時間後に採取)から細胞抽出物を調製し、ウエスタンブロットによる解析を行ってACタンパク質を同定した。図3からわかるように、AC前駆タンパク質(55 kDa)およびβサブユニット(40 kDa)は受精前の卵中で発現される。処理後のβサブユニットの存在は、ACの一部が活性となった可能性が高いことを意味する。したがって細胞抽出物を、追加の65個のプールされた未受精卵から調製してAC活性アッセイ法を行った。図3に示すように、これらの解析から酵素活性が高いことが判明し(t検定、p<0.005)、ウエスタンブロットの結果が確認された。
【0087】
卵中におけるACの細胞内の位置に関する情報を得るために、後期エンドソーム/リソソーム検出用の抗LAMP-1染色と組み合わせた抗AC特異的抗体を使用して免疫組織化学的手法を実施した。ACおよびLAMP-1シグナルの蛍光分布を卵の赤道面および皮質において可視化し、図4A〜Gに示すように、Ziess共焦点レーザー走査型顕微鏡で写真を撮影した。これらの試験により、図4Aおよび図4Dからわかるように、ACが主に卵の皮質に局在すること、また図4Bおよび図4D〜Fからわかるように、後期エンドソーム/リソソーム中ではLAMP-1と共局在することがわかる。
【0088】
実施例11−正常マウス胚は酸性セラミダーゼを胚ゲノムの活性化時に発現する
2細胞期におけるAC欠損胚の死は、正常胚ではAC遺伝子の発現が、EGAと同時期に生じることで胚の生存を維持していることを意味する。この仮説の正しさを確認するために、高齢未受精MII卵および2細胞期胚(いずれもhCG注射の46時間後に採取)におけるACのmRNAレベルの変化を、若齢未受精卵(hCG注射の16時間後に採取)におけるレベルに対して評価した。等しい数の卵および胚から全mRNAを抽出し、QuantiTect SYBR Green PCRキットを使用して定量した(実施例6参照)。ハウスキーピングタンパク質であるβ-アクチン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質S11を、胚のmRNA発現の内部対照として使用した。図5に示すように、ACのmRNAは、若齢未受精卵と比較して高齢未受精卵では有意に減少した(t検定、p<0.0003)。これは予測通りに、セラミドの増加およびアポトーシス細胞死に至った。一方で図5に示すように、ACのmRNAレベルは、受精した健康な2細胞期胚では上昇したことから(t検定、p<0.0005)、EGA中にAC遺伝子が活性化されることがわかる。
【0089】
PCRによる知見を確認するために、ACタンパク質のレベルを、140個の2細胞期の胚と比較して、140個のプールされた未受精卵を対象にウエスタンブロット解析によって評価し、続いてアクチンを対照とした濃度測定解析を行った。AC前駆体のレベルは、未受精卵と比較して2細胞期胚では上昇し、mRNAに関する知見と一致した。図5に示すように、受精直後の最初期に発現される遺伝子の1つであるリボソームタンパク質S11も、EGAの開始をマークするための対照として使用した。図5に示すように、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼを負の対照として使用した。全体としては、ACが若齢卵で受精前に発現され、かつACのレベルが加齢過程中に低下したという事実は、EGA中にACの発現が亢進したという事実とあいまって、この酵素が胚の生存に重要であることを明確に示している。これらのデータから、胚におけるAC遺伝子の発現が2細胞期中に開始されることがわかる。
【0090】
実施例1〜11に関する考察
正常な発生中、卵は、受精が起こらない限りアポトーシスを生じる。死と生存のこの微妙なバランスの制御に必要とされる複雑な調節経路のうち、スフィンゴ脂質を介するシグナル伝達が重要な要素である。実際、加齢中の卵におけるセラミドの蓄積はアポトーシスを招き、抗アポトーシス性の脂質であるスフィンゴシン-1-リン酸(「S1P」)はセラミドの作用に拮抗して卵の生存を促進する可能性があることが報告されている(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Perezら、「A Central Role for Ceramide in the Age-related Acceleration of Apoptosis in the Female Germline」、FASEB J. 19:860-2 (2005);Miaoら、「Cumulus Cells Accelerate Aging of Mouse Oocytes」、Biol. Reprod. 73:1025-1031 (2005))。Ca2+の周期的変動を含む、未受精卵および初期胚に見られる他の生理学的変化も、この調節の決定に重要な要素である。受精時に、若齢の健康な卵は、デフォルトのアポトーシス経路に打ち勝つために、十分な抗アポトーシス性のタンパク質およびmRNAを新規形成胚に供給しなければならない。続いて新規形成胚はこれらの因子を、胚ゲノムの活性化(「EGA」)時に、それ自身のゲノムの発現を介して供給しなければならない。マウスでは、EGAは2細胞期中に始まる(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Flachら、「The Transition from Maternal to Embryonic Control in the 2-Cell Mouse Embryo」、EMBO J. 1 :681-6 (1982))が、ヒトでは、主な活性化現象は4細胞期と8細胞期の間に生じる(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Telfordら、「Transition from Maternal to Embryonic Control in Early Mammalian Development: A Comparison of Several Species」、Mol. Reprod. Dev. 26:90-100 (1990))。EGA時に発現される遺伝子/タンパク質の中には抗アポトーシス性因子が存在するはずであるが、現時点でこのような因子はほとんど同定されていない。
【0091】
加齢卵におけるセラミドレベルの上昇がアポトーシスにつながることを示す、過去に得られた証拠と一致して(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Perezら、「A Central Role for Ceramide in the Age-related Acceleration of Apoptosis in the Female Germline」、FASEB J. 19:860-2 (2005);Miaoら、「Cumulus Cells Accelerate Aging of Mouse Oocytes」、Biol. Reprod. 73:1025-1031 (2005))、セラミドの加水分解およびスフィンゴシン(S1Pの前駆体)の産生を担う酵素であるACが、胚の生存に必要な不可欠な因子である可能性があることが仮定されている。AC活性の非存在下では、2〜4細胞期のACノックアウト胚におけるセラミドレベルが上昇してアポトーシスに至ることも仮定されている。個々の胚中のセラミドを正確に定量することは、利用可能な手法の感度の限界のために、かつ/または、そのような手法では、それに続く遺伝子型の決定(例えば免疫組織化学的な方法)を妨げるという事実のために可能ではないものの、本研究は、胚由来のACがマウス発生の2細胞期中に発現される最初のタンパク質の1つであること、およびその活性が、それに続く正常な発生プログラムの発現に必要であることを明らかに示している。この活性が存在しないと胚はアポトーシス死を生じる。
【0092】
加えて、ACの活性は胚発生中だけでなく、出生後の生存においても不可欠である。ヒトではAC活性の低下は、脂質蓄積症であるファーバー脂肪肉芽腫症(「FD」)に至る。FDは極めてまれな致死的な脂質貯蔵症であり、少なくとも2例の胎児死亡が報告されている(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Kattnerら、「Hydropsfetalis: Manifestation in Lysosomal Storage Diseases Including Farber Disease」、Eur. J. Ped. 156:292-5 (1997);Van Lijnschotenら、「Intrauterine Fetal Death Due to Farber Disease: Case Report」、Pediatr. Dev. Pathol. 3:597-602 (2000))。生存FD患者を対象に実施された変異解析では、完全な機能喪失を引き起こす可能性の高い大規模な遺伝子の欠失、再編成、またはフレームシフト変異ではなく、小規模な点突然変異が異常の大半を説明することが明らかにされている。実際、これらの小規模な点突然変異は、重篤な臨床状態に至る場合がしばしばあり(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Moserら、「Acid Ceramidase Deficiency: Farber Lipogranulomatosis」、in THE METABOLIC & MOLECULAR BASIS OF INHERITED DISEASE 3573-88 (Charles R. Scriverら eds., 8th ed. 2001))、正常な出生後発育にACの活性が不可欠であるということのさらなる証拠となっている。この実施例は、完全な機能喪失型のAsah1対立遺伝子がホモ接合であるマウスが、2細胞期においてアポトーシス死を生じることを示す。これらの知見は、FD患者の完全な機能喪失型変異が初期胚致死に至る可能性があることを意味し、また小規模な点突然変異を有する患者だけが生存するという事実と矛盾しない。
【0093】
歴史的にはACは、FD患者における脂質貯蔵性の小胞の外見がリソソームに似ていること、ならびに酸性pHにおけるインビトロ活性の亢進のために、「リソソーム酵素」に分類されてきた。この実施例では、未受精卵におけるACの細胞内における位置について説明し、かつこのタンパク質がリソソームの内部と外部の両方に存在することを示す。複数の報告で、リソソーム中で産生されたセラミドが細胞シグナル伝達に関与しないことが示唆されているものの(例えば、参照により全体が本明細書に組み入れられる、OhanianおよびOhanian、「Sphingolipids in Mammalian Cell Signaling」、Cell. Mol. Life Sci. 58:2053-68 (2001))、ACが非リソソーム性、ならびにリソソーム内のセラミドプールの加水分解に寄与する可能性があることを認識することは重要である。実際、関連する脂質加水分解酵素である酸性スフィンゴミエリナーゼは、リソソーム区画と非リソソーム区画の両方におけるスフィンゴミエリンを加水分解可能であり、さまざまな刺激を受けると細胞表面に速やかに移動する(参照により全体が本明細書に組み入れられる、OhanianおよびOhanian、「Sphingolipids in Mammalian Cell Signaling」、Cell. Mol. Life Sci. 58:2053-68 (2001))。
【0094】
ACに関する単一細胞PCRによる遺伝子型決定法の開発は、リスクを有するカップルを対象としたFD胚の着床前診断を容易にする可能性を秘めている。この方法は、マウスからヒトに適合されなければならないものの、遺伝子が高度に保存されていることから問題を生じないはずである。さらに、この知見を元に医師は、ACを使用してIVF措置中における卵/胚の生存期間を延長することで、特に高齢女性を対象とした再着床用の健康な胚の同定および選択を容易にすることが可能である。結論として、これらのデータから、哺乳類の胚発生の最初期段階に、ACがこれまで知られていなかった重要な役割を果たすことがわかり、さらに、インビトロおよび/またはインビボで卵/胚の生存を促進するために、同酵素および/または遺伝子が使用可能であることが示唆される。
【0095】
実施例12−酸性セラミダーゼはマウス卵母細胞の寿命を延長する
過排卵状態の雌マウスからMII卵母細胞を採取し、新鮮な培地中に移した。卵母細胞を加湿インキュベーター内で37℃で、酸性セラミダーゼの非存在下または存在下で24時間にわたってインキュベートした。卵母細胞を固定し、DNA標識用のHoechstで染色した。形状およびDNA染色を、レーザー走査型共焦点顕微鏡で可視化した。図6A〜Bに示すように、インキュベーション用培地への酸性セラミダーゼの添加は、卵母細胞の寿命を延長した。
【0096】
MII卵母細胞を(ACの添加時と非添加時の)M2培地中で24時間にわたってインキュベートし、ACを発現しないCHO細胞系列から培地を採取するか、またはACを安定に発現して分泌するCHO細胞系列から培地を採取した。図7に示すように、アポトーシス率は、ACを含む培地でインキュベートした卵母細胞では有意に減少した。
【0097】
実施例13−ヒトの卵母細胞および初期胚における酸性セラミダーゼの発現および局在
卵細胞質内精子注入法による体外受精が計画されている女性に由来する卵母細胞および胚を、卵母細胞については黄体形成ホルモンの注射の約32時間後に、また胚については3〜5日後に採取した。
【0098】
共免疫組織化学アッセイ法を実施して、ヒト卵母細胞の成熟中における局在、およびACとリソソーム膜タンパク質(「LAMP」)(リソソーム酵素のマーカー)との潜在的な相互作用を検出した。卵母細胞を、ACタンパク質、細胞DNA、およびLAMPに関して3重標識し、共局在を免疫蛍光共焦点顕微鏡で調べた。図8A〜Hに示すように、ACは主に皮質および膜に局在しており、かつ胚胞期(図8A〜D)と胚胞崩壊期(図8E〜H)のいずれにおいてもLAMPと共局在している。加えてACは、図8E〜Hに示すように、GV膜の破壊と共局在している。図8I〜Lに示すように、ACタンパク質はLAMPと、またMI期中はDNAと共局在している。MII期中は、ACは細胞質全体に均一に分布しており、膜および皮質に顕著な局在が見られ、また図8M〜Pに示すように紡錘体中に共局在している。これらのデータは、AC発現の発生パターンがヒト卵の成熟中に変化することを明瞭に示している。これは、ACがヒト卵母細胞で発現されることを示す、知られている限り初めての研究である。
【0099】
初期胚発生中におけるACの局在、およびACと、スフィンゴミエリンをセラミドに加水分解する関連酵素である酸性スフィンゴミエリナーゼ(「ASM」)との潜在的な相互作用を検出するために、共免疫組織化学アッセイ法も実施した。胚を、ACタンパク質、細胞DNA、およびASMに関して3重標識し、共局在を免疫蛍光共焦点顕微鏡で調べた。図9A〜Dおよび図10A〜Dに示すように、ACは胚液(embryonic fluid)中に局在しており、また主に内部細胞塊および外部細胞塊中ではASMと共局在している。さらに、胚液中のACは、低グレードの胚より高グレードの胚(図10A〜D)で強く発現されていることがわかる(図9A〜D)。したがって、高グレードの胚は低グレードの胚より、セラミドレベルが低く、かつS1Pレベルが高いので、生存率が(より低いアポトーシス発生率のために)より高いと推定される。
【0100】
実施例14−ヒト卵胞液中における酸性セラミダーゼの発現および活性
インビトロにおける卵細胞質内精子注入用の卵母細胞に由来するヒト卵胞液試料を卵母細胞の採取時に採取した。卵胞液中のACの総量をウエスタンブロット解析で評価した。タンパク質はSDS-PAGEで分離した。モノクローナルマウスの抗ヒトAC IgMを使用してAC前駆タンパク質(55 kDa)を検出した。図11に示すように、AC前駆タンパク質はヒト卵胞液中で強く発現されていた。
【0101】
ヒト卵胞液中のACの活性をインビトロ活性アッセイ法で評価した。卵胞液試料を酸性条件で22時間にわたって37℃でBODIPY結合C12セラミドとともにインキュベートした後に、HPLCで解析した。この活性アッセイ法の結果は、Pearson相関検定を用いて、患者の年齢と相関していた。図12に示すように、ACの活性は加齢とともに低下する傾向が認められた。これは、卵胞液中のACの測定値が妊娠可能齢のマーカーとして使用可能なことを示唆する。
【0102】
実施例15−酸性セラミダーゼはヒト卵母細胞の寿命を延長する
インビトロにおける卵細胞質内精子注入が計画されている女性に由来する未成熟な卵母細胞を、LH注射の約24時間後に採取し、LH注射の約32時間後に、5% HASを含み、ヒトACが添加または非添加のQuinns Advantage Cleavage培地中に移した。卵母細胞を裸化して、インビトロにおける培養開始の24時間後に、油の下部の50 μlの液滴中に固定した。卵母細胞の質を、膜および細胞質の形状、ならびにDNAの外観および完全性を元に評価した。DNAの完全性は、アポトーシスの指標となる断片化したDNAを検出するTUNEL染色アッセイ法で評価した。
【0103】
図13Aに示すように、対照群に由来する卵母細胞は固定に対する感受性が強く、かつ、アポトーシスの指標となる、膜の小疱形成(blebbing)および細胞質の断片化の開始を示した。これとは対照的に、ACの存在下で培養した卵母細胞は、より強固な膜を有しており、また図13Bに示すように、固定後は完全かつ滑らかに見えた。中期板の形状は、対照群では6個中4個のMII卵母細胞では損なわれていた。図14Aに示すように、ACの非存在下で培養した卵母細胞は、アポトーシスの初期徴候の1つである、(おそらく紡錘糸の崩壊に起因する)視認可能な凝縮したクロマチンを有している。これとは対照的に、ACの存在下で培養した卵母細胞の7個中6個は、適切な中期板を保存しており、また明瞭に識別可能な染色体(すなわち凝縮クロマチンではない)を有していた。DNAの凝縮に関する説明については図14A〜Dを参照されたい。これは、ACを添加せずに培養した卵母細胞が、ACの存在下で培養した卵母細胞よりアポトーシスに対する感受性が高いことを示唆している。これをさらに直接的に確認するためにTUNEL染色を実施した。図15A〜Bに示すように、対照群の卵母細胞は、より強いTUNEL染色によって示されるようにDNA断片化の規模が大きかったが、ACの存在下で培養した卵母細胞は、より低いTUNEL染色を示した。加えて図15C〜Dは、ACの非存在下で培養した卵母細胞の膜の崩壊および形状の変化を明瞭に示している一方で、ACの存在下で培養した卵母細胞は正常で健康な形状を有していた。これらの結果から、組換えACの添加が、インビトロにおけるヒト卵母細胞の成熟中のアポトーシス率を低下させることが明瞭にわかる。
【0104】
実施例12〜15に関する考察
スフィンゴ脂質の代謝およびスフィンゴ脂質を介するシグナル伝達は、哺乳類の受精および初期発生に重要な役割を果たしているようである。ACはスフィンゴ脂質代謝における中心的な酵素であり、アポトーシス促進性の脂質であるセラミドを抗アポトーシス性の脂質であるスフィンゴシン-1-リン酸へと加水分解する。したがってACは、生か死かの細胞の運命を制御するのに有用な加減抵抗器である。これらの実施例は、組換えAC酵素の添加が、新鮮な、または老化したマウス卵母細胞において、インビトロにおけるアポトーシス率の低下を招くことで、DNAおよび細胞質の断片化を妨げていることを示している。これは同酵素が、培養中の卵母細胞の生存に重要な役割を果たすことの確証となる。
【0105】
実施例16−組換え型のヒト酸性セラミダーゼは初代ラットニューロンのストレス誘導性のアポトーシスを防ぐ
初代ラット海馬ニューロンを、病原性のアルツハイマー病タンパク質であるアミロイドβペプチド(1 mM)の存在下で、または酸化ストレス条件(すなわち50 mMの過酸化水素が添加された状態)で、培地中の組換えヒト酸性セラミダーゼの存在(2 mg/ml)または非存在下で17時間かけて成長させた。酸性セラミダーゼを培地に含めた際に、アポトーシス(TUNEL染色によって評価)が図16に示すように有意に減少したことは注目に値する。
【0106】
実施例17−酸性セラミダーゼはネコの滑膜線維芽細胞の生存率および増殖率を高める
初代ネコ滑膜線維芽細胞を、組換えヒト酸性セラミダーゼ(2 mg/ml)を添加して、または添加せずに24時間かけて成長させ、生存因子であるスフィンゴシン-1-リン酸(「S1P」)のレベルを決定した。図17に示すように、S1Pのレベルは、ACとともにインキュベートした線維芽細胞で顕著に高かった。これはACが、インビトロにおける滑膜線維芽細胞の生存率の改善に使用可能なことを示唆する。
【0107】
初代ネコ滑膜線維芽細胞の増殖率を、培地に組換え酸性セラミダーゼを添加(2 mg/ml)または添加しない条件で、MTSアッセイ法で決定した(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Barltropら、「5-(3-Arboxymethoxyphenyl)-2-(4,5-dimenthylthiazoly)-3-(4-sulfophenyl) Tetrazolium, Inner salt (MTS) and Related Analogs of 3-(4,5-Dimethylthiazolyl)-2,5-diphenyltetrazolium Bromide (MTT) Reducing to Purple Water Soluble Formazans as Cell-viability Indicators」、Bioorg. Med. Chem. Lett. 1 :611-4 (1991))。図18に示すように、ACの存在下で培養した初代滑膜線維芽細胞は、ACの非存在下で培養した細胞より有意に速く増殖した。この結果から、ACがインビトロにおける滑膜線維芽細胞の生存率の改善に使用可能なことが確認される。
【0108】
実施例18−酸性セラミダーゼはマウス胚性幹細胞の生存率を改善する
マウス胚性幹細胞(「ESC」)中のACの総量をウエスタンブロット解析で評価した。タンパク質をSDS-PAGEで分離し、ACβサブユニットに対するポリクローナル抗体を使用して検出した。図19に示すように、ACタンパク質はESC中で高レベルで発現され、かつ活性である。これらの結果は、ACがESCの生存に関与する可能性があることを示唆している。
【0109】
2つのアポトーシス促進因子であるポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(「PARP」)およびBaxのレベルに対するACの作用も評価した。ESCをACの非存在下または存在下で、加湿インキュベーター内で37℃で24時間にわたってインキュベートした。次にこれらの細胞を溶解し、100 mgの全タンパク質をSDS-PAGEで分離した。図20A〜Cに示すように、2つの重要なアポトーシス促進因子であるPARPおよびBaxの量はACの存在下では減少する。これらの結果は、ACがESCの寿命を潜在的に延長する可能性を有することを示唆している。
【0110】
実施例19−酸性セラミダーゼはラット神経細胞培養物のアポトーシスを妨げる
化学物質および試薬
細胞培養用の材料は、Fisher Scientific (Pittsburgh, PA, USA)から入手した。他の全ての生化学試薬は、Sigma Chemical Co.(St. Louis, MO, USA)から入手した。
【0111】
細胞培養
成体ラットの海馬からニューロン前駆細胞を単離し、2% B27、0.5 mM グルタミン、100単位/ml ペニシリン、100 μg/ml ストレプトマイシン、および10 ng/ml FGFからなるNeurobasal A培地中で、加湿5% CO2空気中で37℃で培養した(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Chenら、「Trophic Factors Counteract Elevated FGF-2-induced Inhibition of Adult Neurogenesis」、Neurobiol. Aging 28:1148-62 (2007))。培地は、常用の手順で2〜3日毎に交換した。細胞が約80%のコンフルエンシーに達したら、FGFを5 μM レチノイン酸および10%ウシ胎仔血清と交換することで分化させた。分化用培地における成長の3〜5日後の実験には一般に、ニューロン培養物を使用した。この段階では約80%の細胞が、ニューロンマーカーであるβIII-チューブリンおよび微小管結合タンパク質2を発現していた。細胞の5%未満が、アストログリアのマーカーであるGFAP、またはオリゴデンドログリアのマーカーであるO4を発現していた。このように、分化した細胞を、以降の実験の神経細胞培養モデルとして使用した。
【0112】
神経細胞培養物におけるセラミドレベルおよびアポトーシスに対する酸性セラミダーゼの作用
分化用培地における3〜5日間の成長後に、ニューロン培養物を、組換えヒトACによる1時間の前処理(1 μg/ml)を行うか、または行わずに、1 μMのAβで30分間かけて処理した。セラミドレベルをDAGキナーゼ法で検証した(参照により全体が本明細書に組み入れられる、Heら、「An Enzymatic Assay for Quantifying Sphingomyelin in Tissues and Plasma from Humans and Mice with Niemann-Pick Disease」、Anal. Biochem. 293:204-11 (2001))。カスパーゼ3活性を、EnzCheckカスパーゼ-3アッセイ法キットを使用して測定した。
【0113】
酸性スフィンゴミエリナーゼの活性は、AD脳では、またニューロン培養物のアミロイドβペプチド処理後には有意に上昇する。図21に示すように、セラミドレベルも、ニューロン培養物のAβによる処理後に有意に上昇する。図22に示すように、より多くのアポトーシス細胞も、カスパーゼ3活性による判定によって見出される。しかしながら、セラミドレベルおよびカスパーゼ3活性が、図21および図22に示すように、精製済みのrhACを培地に含めた際にAβに反応して上昇しなかったことは重要であり、ACが、ニューロン細胞におけるセラミドを介するアポトーシスの保護に使用可能なことが示唆される。要約すると図21〜22から、セラミドレベルおよびアポトーシスがACの存在下では低下することがわかる。
【0114】
本明細書では、好ましい態様について詳細に記述および説明したが、さまざまな変更、追加、置換などが、本発明の趣旨から解離することなく成され得ること、ならびにしたがってそれらが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれると見なされることは、当業者に明らかであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、エクスビボにおける細胞の生存を促進する方法:
1個または複数の細胞をエクスビボで提供する段階、および
該1個または複数の細胞の生存を促進するのに有効な条件下で、該1個または複数の細胞を酸性セラミダーゼによって処理する段階。
【請求項2】
1個または複数の細胞が培地中に提供され、かつ処理する段階の間に該培地に酸性セラミダーゼが添加される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
1個または複数の細胞が、卵、初代細胞、ニューロン、精子、滑膜線維芽細胞、および胚性幹細胞である群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
1個または複数の細胞が1個または複数の卵である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
1個または複数の卵が未受精卵である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
1個または複数の卵が受精卵である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
1個または複数の卵がヒトに由来する、請求項4記載の方法。
【請求項8】
処理する段階が、タンパク質の形状の酸性セラミダーゼによって実施される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
処理する段階が、酸性セラミダーゼをコードする核酸によって実施される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
以下の段階を含む、雌性哺乳類対象における1個または複数の細胞のインビボにおける生存を促進する方法:
雌性哺乳類対象における1個または複数の細胞の生存を促進するのに有効な条件で、該雌性哺乳類対象に酸性セラミダーゼを投与する段階。
【請求項11】
1個または複数の細胞が1個または複数の卵である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
1個または複数の卵が未受精卵である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
1個または複数の卵が受精卵である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
対象が、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、およびネコである群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項15】
対象がヒトである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
雌性哺乳類対象が、投与する段階に続いて化学療法を受ける、請求項15記載の方法。
【請求項17】
投与する段階が、タンパク質の形状の酸性セラミダーゼによって実施される、請求項10記載の方法。
【請求項18】
投与する段階が、酸性セラミダーゼをコードする核酸によって実施される、請求項10記載の方法。
【請求項19】
以下を含む、エクスビボにおける細胞の生存を促進するためのキット:
細胞培地、および
酸性セラミダーゼ。
【請求項20】
以下をさらに含む、請求項19記載のキット:
細胞培地中における1個または複数の細胞。
【請求項21】
1個または複数の細胞が、卵、初代細胞、ニューロン、精子、滑膜線維芽細胞、および胚性幹細胞である群より選択される、請求項19記載のキット。
【請求項22】
1個または複数の細胞が1個または複数の卵である、請求項21記載のキット。
【請求項23】
1個または複数の卵が未受精卵である、請求項22記載のキット。
【請求項24】
1個または複数の卵が受精卵である、請求項22記載のキット。
【請求項25】
1個または複数の卵が、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、またはネコに由来する、請求項22記載のキット。
【請求項26】
1個または複数の卵がヒトに由来する、請求項25記載のキット。
【請求項27】
酸性セラミダーゼがタンパク質の形状である、請求項19記載のキット。
【請求項28】
酸性セラミダーゼが、酸性セラミダーゼをコードする核酸分子の形状である、請求項19記載のキット。
【請求項29】
以下の段階を含む、体外受精の結果を予測する方法:
雌性対象に由来する血清または卵胞液の試料を提供する段階;
該試料を酸性セラミダーゼ活性レベルに関してスクリーニングする段階;および
スクリーニングする段階で得られた酸性セラミダーゼ活性レベルを、該雌性対象の体外受精の結果の予測に関連づける段階。
【請求項30】
対象がヒトである、請求項29記載の方法。
【請求項31】
スクリーニングする段階が、タンパク質の形状の酸性セラミダーゼに関して行われる、請求項29記載の方法。
【請求項32】
スクリーニングする段階が、酸性セラミダーゼをコードする核酸として酸性セラミダーゼに関して行われる、請求項29記載の方法。
【請求項33】
試料が血清である、請求項29記載の方法。
【請求項34】
試料が卵胞液である、請求項29記載の方法。
【請求項1】
以下の段階を含む、エクスビボにおける細胞の生存を促進する方法:
1個または複数の細胞をエクスビボで提供する段階、および
該1個または複数の細胞の生存を促進するのに有効な条件下で、該1個または複数の細胞を酸性セラミダーゼによって処理する段階。
【請求項2】
1個または複数の細胞が培地中に提供され、かつ処理する段階の間に該培地に酸性セラミダーゼが添加される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
1個または複数の細胞が、卵、初代細胞、ニューロン、精子、滑膜線維芽細胞、および胚性幹細胞である群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
1個または複数の細胞が1個または複数の卵である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
1個または複数の卵が未受精卵である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
1個または複数の卵が受精卵である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
1個または複数の卵がヒトに由来する、請求項4記載の方法。
【請求項8】
処理する段階が、タンパク質の形状の酸性セラミダーゼによって実施される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
処理する段階が、酸性セラミダーゼをコードする核酸によって実施される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
以下の段階を含む、雌性哺乳類対象における1個または複数の細胞のインビボにおける生存を促進する方法:
雌性哺乳類対象における1個または複数の細胞の生存を促進するのに有効な条件で、該雌性哺乳類対象に酸性セラミダーゼを投与する段階。
【請求項11】
1個または複数の細胞が1個または複数の卵である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
1個または複数の卵が未受精卵である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
1個または複数の卵が受精卵である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
対象が、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、およびネコである群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項15】
対象がヒトである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
雌性哺乳類対象が、投与する段階に続いて化学療法を受ける、請求項15記載の方法。
【請求項17】
投与する段階が、タンパク質の形状の酸性セラミダーゼによって実施される、請求項10記載の方法。
【請求項18】
投与する段階が、酸性セラミダーゼをコードする核酸によって実施される、請求項10記載の方法。
【請求項19】
以下を含む、エクスビボにおける細胞の生存を促進するためのキット:
細胞培地、および
酸性セラミダーゼ。
【請求項20】
以下をさらに含む、請求項19記載のキット:
細胞培地中における1個または複数の細胞。
【請求項21】
1個または複数の細胞が、卵、初代細胞、ニューロン、精子、滑膜線維芽細胞、および胚性幹細胞である群より選択される、請求項19記載のキット。
【請求項22】
1個または複数の細胞が1個または複数の卵である、請求項21記載のキット。
【請求項23】
1個または複数の卵が未受精卵である、請求項22記載のキット。
【請求項24】
1個または複数の卵が受精卵である、請求項22記載のキット。
【請求項25】
1個または複数の卵が、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、またはネコに由来する、請求項22記載のキット。
【請求項26】
1個または複数の卵がヒトに由来する、請求項25記載のキット。
【請求項27】
酸性セラミダーゼがタンパク質の形状である、請求項19記載のキット。
【請求項28】
酸性セラミダーゼが、酸性セラミダーゼをコードする核酸分子の形状である、請求項19記載のキット。
【請求項29】
以下の段階を含む、体外受精の結果を予測する方法:
雌性対象に由来する血清または卵胞液の試料を提供する段階;
該試料を酸性セラミダーゼ活性レベルに関してスクリーニングする段階;および
スクリーニングする段階で得られた酸性セラミダーゼ活性レベルを、該雌性対象の体外受精の結果の予測に関連づける段階。
【請求項30】
対象がヒトである、請求項29記載の方法。
【請求項31】
スクリーニングする段階が、タンパク質の形状の酸性セラミダーゼに関して行われる、請求項29記載の方法。
【請求項32】
スクリーニングする段階が、酸性セラミダーゼをコードする核酸として酸性セラミダーゼに関して行われる、請求項29記載の方法。
【請求項33】
試料が血清である、請求項29記載の方法。
【請求項34】
試料が卵胞液である、請求項29記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公表番号】特表2010−515436(P2010−515436A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545009(P2009−545009)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/050418
【国際公開番号】WO2008/086296
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(509189042)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/050418
【国際公開番号】WO2008/086296
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(509189042)
【Fターム(参考)】
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