説明

酸性環境中での酸素還元および水素発生用カーボン担持CoSe2ナノ粒子

本願発明の対象は、界面活性剤を用いない直接製造法によるカーボン担持CoSeナノ粒子の作製並びに酸素還元および水素発生反応同カーボン担持CoSeナノ粒子を用いる方法である。作製するCoSeナノ粒子は、2種類の構造のものであり、異なる温度で熱処理を受ける。すなわち、300℃熱処理された斜方晶と400℃熱処理された立方晶である。後者の構造の方が前者の構造よりも、0.5MHSO中での酸素還元活性度と水素発生活性度が高い。300℃および400℃熱処理された20wt%CoSe/Cナノ粒子の酸素還元過程における酸素分子あたりの電子移動個数は、それぞれ約3.5個および約3.7個であった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願以前に2009年2月19日に出願された米国仮特許出願第61/153、855号と本出願以前に2010年2月18日に出願された米国特許出願第12/708、162号の優先権を本特許出願は主張する。また、これら特許出願の内容のすべてはあらゆる目的のために本特許出願に引用される。
【0002】
本願発明は界面活性剤を用いないカーボン担持CoSeナノ粒子作製に関するものである。本願発明の方法により作製されるCoSeナノ粒子は酸素還元および水素発生を特に活性化させる。
【背景技術】
【0003】
新たに生まれた数多くの技術の一つである燃料電池は、エネルギ変換効率を明らかに改善し、エネルギ源の一つである石油への依存度を下げるものである。この燃料電池技術は、輸送機器用、固定式および携帯型電源に幅広い用途を有する。一般に、酸性媒体中での酸素還元反応(以下、「ORR」という)用触媒としては、白金基材料が最良であり、最も多く用いられている。しかし、白金金属は地球上部大陸地殻上で最も高価でしかも最も希少な金属の一つである。白金基電極触媒が高価であることが、燃料電池の商品化の主要な障壁であると言われている。炭素基材上および合金中の白金量を減少させること、または例えばルテニウム、パラジウムのような他の貴金属基触媒やコバルト、鉄のような卑金属基触媒を用いて白金基触媒を完全に代替することのために多くの科学者が努力している。
【0004】
1986年にアロンソ−ヴァンテらが、酸性媒体中での酸素還元反応に対するシェブレル相MoSe(例MoRuSe)の触媒活性が高いことを初めて報告して以来、可能性のある燃料電池用カソード触媒として遷移金属カルコゲニドに対する関心が高くなっている。しかし、ルテニウム金属は白金同様、比較的高価で希少な金属である。
【0005】
コバルトと鉄はORR用燃料電池カソード触媒として可能性のある数少ない卑金属である。1970年代にバレセルらおよびベーレトらによって、これらの遷移金属材料について報告されている。様々な遷移金属カルコゲニド上でのカソード酸素還元についてさらに報告されている。例えば、300℃から650℃の温度範囲で合成されたCoスピネルは、1MHSO電解質中で水素電極に対して約0.8Vの開回路電位(以下、「OCP」という)を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カーボンブラック上での立方晶相CoSeナノ粒子の作製、並びにこのナノ粒子の酸性環境中での分子状酸素の、電気化学還元反応および水素発生反応(以下、「HER」という)の両反応に対する触媒活性度について、発明者らは、本明細書で報告する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の対象は、担持材料とCo前駆体とSe前駆体とから、カーボンに担持されたCoSeナノ粒子の作製する方法である。前記担持材料と前記Co前駆体とを接触させて、水と界面活性剤を含まない反応混合物とし、前記反応混合物を約200℃以下の最高温度まで加熱する。前記反応混合物を冷却し、前記Se前駆体を接触させ、前記反応混合物を約200℃以下の最高温度まで加熱し、担持されたCoSeを含む成分を単離する。
【0008】
本願発明は、さらに酸素を用意し、CoとSeとを含有する電極触媒成分を用意して酸素を還元する方法を含む。前記酸素を前記CoとSeとを含有する電極触媒成分に接触させ、酸素分子あたり3個から4個の電子を前記電極触媒から前記酸素に移動させて前記酸素を還元する。また、前記CoとSeとを含有する電極触媒成分を用いて、水素発生反応(以下、「HER」という)により水素を製造することができる。
【0009】
また、本明細書は、まずCoとSeとを含有する化合物を用意し、このCoとSeとを含有する化合物を約300℃に加熱して斜方晶構造を有するCoとSeとを含有する化合物を生成させることにより、CoとSeとを含有する化合物の構造を変化させる方法を開示する。生成した斜方晶化合物を単離し、さらに約400℃に加熱して立方晶構造を有するCoとSeとを含有する化合物を生成させる。
【0010】
さらに、本明細書は、カーボンに担持されたCoSeナノ粒子電極触媒を含み、前記CoSeナノ粒子は、斜方晶または立方晶構造のCoSeナノ粒子であることを特徴とする酸素分子還元または水素発生用に用いる電極触媒を開示する。立方晶構造品のCoSeナノ粒子は公知のPt含有電極触媒組成を上回る極めて高い性能を有しているようである。
【0011】
本明細書は、20wt%CoSe/Cナノ粒子を約200℃未満の温度での加熱による穏やかな条件で界面活性剤を用いないで直接合成することができたことを報告する。300℃の熱処理によって斜方晶構造を有するCoSe/Cナノ粒子を窒素雰囲気下400℃で熱処理することによって立方晶構造に変化させることができる。この立方晶CoSe/Cナノ粒子は、0.5MHSO中で、斜方晶CoSe/Cナノ粒子よりも高いORR活性度およびHER活性度を示した。300℃から400℃までの温度で熱処理されたカーボンに担持されたCoSeナノ粒子は卑金属電極触媒であるが、0.5MHSO中でのORRに対する触媒活性度が高くなっており、その最大OCP値は約水素基準電極に対して約0.81Vである。CoSe−300℃およびCoSe−400℃のORR中の酸素分子あたりの電子移動数は、それぞれ約3.5個および約3.7個である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本願発明をより深く理解するために含まれている添付した図面は、本明細書に取り込まれ、本明細書の一部を構成し、本願発明の好ましい実施形態を示し、本願発明の詳細な説明と一緒に本願発明の原理を説明するものである。
【0013】
【図1】粉末X線回折パターンである。
【図2】粉末X線回折パターンである。
【図3】粉末X線回折パターンである。
【図4】異なる電圧におけるKoutecky−Levichプロットであり、酸素還元曲線は左上隅に示す。
【図5】異なる電圧におけるKoutecky−Levichプロットであり、酸素還元曲線は左上隅に示す。
【図6】3種類の異なる熱処理を受けたCoSe電極触媒の電極触媒活性度を示すグラフである。
【図7】熱処理を受けたCoSe電極触媒の水素発生性能を示すプロットである。
【図8】熱処理を受けたCoSe電極触媒の水素発生性能を示すプロットである。
【図9】熱処理を受けたCoSe電極触媒の水素発生性能を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書は、まず担持材料とCo前駆体とSe前駆体とを用意することによりカーボンに担持されたCoSeナノ粒子を作製する方法を説明する。前記した最初の2つの材料を接触させて水と界面活性剤を含まない反応混合物とし、約200℃以下である最高温度まで加熱する。この反応混合物を室温まで冷却し、前記Se前駆体をこの反応混合物に添加する。添加後の反応混合物を再び約200℃以下である最高温度まで加熱し、担持されたCoSeを含む成分を冷却した反応混合物から単離することができる。
【0015】
この単離された担持CoSeを含む成分を約300℃で加熱すれば、担持された斜方晶相CoSeを含む成分を製造できる。また、この単離されたCoSeを含む成分を約400℃で加熱すれば、担持された立方晶相CoSeを含む成分を製造できる。これらの加熱ステップは連続して行なってもよく、約400℃に加熱して前記した立方晶相を生成させる前に、前記した斜方晶相を単離することもできる。また、前記したCoSeを含む成分を直接約400℃に加熱して、前記した立方晶相を生成させることもできる。
【0016】
前記したCoSeを含む成分を生成させる間に、各加熱ステップにおいて約200℃以下の最高温度で保持する時間は、反応を実質的に完了させるまでに必要な時間である。これらの熱処理ステップの温度と時間は独立に変化させることができ、1時間未満の加熱とすることもできるし、30分未満の加熱とすることもできる。ある実施形態では、各加熱ステップは約150℃以下の最高温度に加熱することができる。例えば、限定するわけではないが、p−キシレンを溶媒として用いる場合、最高温度はp−キシレンの沸点である約138℃よりも低い温度とすることもできる。
【0017】
本明細書が開示する方法は、担持されたCoSeを含む成分を生成させること目指しており、適切な担持材料の一つは、カーボンである。担持材料は、例えば、アルミナやゼオライトとしてもよい。
【0018】
本明細書はさらに酸素とCoとSeを含む電極触媒成分を用意して、酸素を還元する方法を提供する。還元される酸素をCoとSeを含む電極触媒成分と接触させ、酸素分子あたり3から4個の電子を当該電極触媒から当該酸素に移動させることにより、当該酸素を還元する。
【0019】
本願発明の方法のある実施形態においては、前記したCoとSeを含む電極触媒成分は、斜方晶構造または立方晶構造のいずれかのCoSeナノ粒子を含むものとしてよい。好ましくは、前記したCoSeナノ粒子は立方晶構造である。
【0020】
この電子の移動方法は、例えば、0.5MHSO溶液のような酸性媒体中で可能なものです。前記CoとSeを含む電極触媒成分は、カーボンに担持されたCoとSeを含む電極触媒成分のような担持されたCoとSeを含む電極触媒成分でよい。
【0021】
本願発明の酸素還元方法は、酸素分子あたり3から4個の間の任意の数の電子を移動させるものである。本願発明の酸素還元方法では、酸素分子あたり約3.5個の電子を移動させることができる。また、本願発明の酸素還元方法では、酸素分子あたり約3.7個の電子を移動させることができる。条件によっては、本願発明の酸素還元方法では、酸素分子あたり約4個の電子を移動させることもできる。
【0022】
本明細書は、またコバルトとセレンを含む化合物を用意し、このコバルトとセレンを含む化合物を約300℃に加熱し、斜方晶のコバルトとセレンを含む化合物を生成させることにより、コバルトとセレンを含む化合物の構造を変化させる方法を開示する。この斜方晶のコバルトとセレンを含む化合物を単離させて、さらに400℃に加熱して立方晶のコバルトとセレンを含む化合物を生成させることもできる。
【0023】
本願発明の方法の熱処理プロセスは、所望の斜方晶または立方晶構造のCoSeナノ粒子を生成させるのに十分な時間、所定温度で加熱させるものである。
【0024】
本明細書はさらに酸素分子還元または水素発生用のカーボン担持CoSeナノ粒子からなる電極触媒であって、前記カーボン担持CoSeナノ粒子は、斜方晶または立方晶構造のCoSeナノ粒子を含む電極触媒を開示する。
【0025】
本明細書が開示する電極触媒は、高分子電解質燃料電池のカソードにおいて4個の電子を移動させることにより、分子状態の酸素の還元反応、または水素発生反応を進行させることができる。他の実施形態では、本明細書が開示する電極触媒は、酸素分子あたり3個から4個の任意の数の電子を移動させる。
【0026】
本明細書は、また、水素源とCoとSeを含む電極触媒成分とを用意して水素を発生させる方法を提供する。前記水素源を前記CoとSeを含む電極触媒成分に接触させて、電子を前記電極触媒から前記水素源に移動させ、水素を発生させる。
【0027】
この水素発生方法で利用される前記CoとSeを含む電極触媒成分は、CoSeナノ粒子、特に立方晶構造のCoSeナノ粒子を含むものでよい。水素発生を酸性媒体中でおこすことができる。
【0028】
この水素発生方法は、カーボンに担持されたCoとSeを含む電極触媒成分のような担持されたCoとSeを含む電極触媒成分を含むCoとSeを含む電極触媒成分を利用する。
【0029】
本願発明が開示する電極触媒成分のCoSeナノ粒子の特徴を粉末X線回折(「PXRD」)により調べた。その結果を図1乃至3に示す。
【0030】
具体的に、図1乃至3は、それぞれ、未熱処理20wt%CoSe/Cナノ粒子のPXRDパターン、300℃熱処理後のPXRDパターンおよび400℃熱処理後の熱処理後のPXRDパターンである。複数の垂直線はセレン(No.00−006−0362)、斜方晶CoSe(No.00−053−0449)および立方晶CoSe(No.03−065−3327)のICDD−PDF2−2004カードを示す。(hkl)ブラッグ反射ピークの中には、図中で対応する(hkl)を示したものもある。
【0031】
図1の未熱処理サンプルのPXRDパターンは、ICDD PDF カードNo.00−006−0362から、主にセレン粉末に由来するものである。このパターンは、セレンがコバルト粒子と完全に反応せずに、最終製品上に残っていることを示している。Co粒子は、Co(CO)前駆体の分解により生じたものである。
【0032】
300℃熱処理したCoSeの斜方晶構造(ICDD No.00−053−0449、図2参照)および400℃熱処理したCoSeの立方晶構造(Pa3、No.205、ICDD No.03−065−3327、図3参照)という、CoSeの異なる相の特徴的なPXRDパターンが認められる。35.96°/2θと47.72°/2θにある前記斜方晶構造の(120)および(211)のブラッグ反射ピークが加熱により次第に消えていき、400℃加熱後に37.57°/2θと51.70°/2θにある前記立方晶構造の(211)および(311)のピークが現れる。
【0033】
斜方晶から立方晶へのCoSeの構造変化が観察されたのは初めてのはずである。理論によって限定することなく、本明細書におけるカーボン担持されたCoSe触媒の斜方晶と立方晶の間のORR活性度の増大は、この構造変化が原因である。
【0034】
CoSe含有量が20wt%となるCoSeナノ粒子であって、カーボン上に担持された同CoSeナノ粒子のORR活性度を測定し、同ORR活性度に対応するKoutecky−Levichプロットを図4および図5に示す。
【0035】
図4および図5は、300℃で熱処理された20wt%CoSe/Cナノ粒子(CoSe−300℃)および400℃で熱処理された20wt%CoSe/Cナノ粒子(CoSe−400℃)の25℃の酸素飽和0.5MHSO溶液中でのガラスカーボン電極上で測定した、基準水素電極に対して0.4V、0.3Vおよび0.2VにおけるKoutecky−LevichプロットとORR曲線(左上部に挿入)を示す。
【0036】
300℃で熱処理された触媒のORR曲線(図4挿入部)では、OCP値が基準水素電極に対して+0.81Vであり、回転速度が400rpmから2500rpmの場合、基準水素電極に対して+0.1Vから+0.44Vの範囲のカソード拡散電流が平坦となっている。
【0037】
この観察されたOCP値は、S.A.Campbelとその共著者らが報告している卑金属ORR触媒のOCP値である、Co1−xSe薄膜の基準水素電極に対して0.74V、CoSe1−x/C粉末およびFeS薄膜の基準水素電極に対して0.78V、(Fe、Co)SおよびNiS薄膜の基準水素電極に対して0.80V、並びにCoS薄膜の基準水素電極に対して0.82Vのそれぞれに同等である。このOCP値は、(Co、Ni)S薄膜のOCP値(基準水素電極に対して0.89V)より低い。
【0038】
一方、1600rpmにおける、基準水素電極に対して0.4Vでの約2.5mA・cm−2というカソード電流密度は、前記したCoSe1−x/C粉末、並びにCo1−xSe、FeS、(Fe、Co)S、CoS、およびNiSの薄膜の値よりも高く、2000rpmにおける、基準水素電極に対して0.4Vでの(Fe、NI)Sの値に等しい。
【0039】
Koutecky−Levich式に基づいて、Koutecky−Levichプロットを描いた。図4に示すCoSe−300℃の場合、基準水素電極に対する3つの電位、0.4V、0.3Vおよび0.2Vについて、分子状態の酸素の電気化学還元が一次速度則であることを示す線型で平行な関係になっている。3つの電位でのω―1/2に対するi−1の式から平均の傾き(B−1=0.14±0.01μA−1rpm1/2)を求めることができる。B=0.2nFAD2/3−1/6Coによれば、還元がなされている間、酸素分子あたり約3.5個の電子が移動していたことになる(ここで本試験条件において、F=96500C、A=0.07cm、D=1.40×10−5cm−1、v=0.01cm−1およびCo=1.1×10−6molcm−3)。さらに、これら3つの電位に対する傾きは図4からわかるように4個の電子の理論傾きに近い。
【0040】
図5に示すCoSe−400℃の場合、3つの電位でのω―1/2に対するi−1の式から平均の傾き(B−1=0.13±0.01μA−1rpm1/2)を求めることができる。この場合、B=0.2nFAD2/3−1/6Coによれば、還元がなされている間、同じ試験条件で酸素分子あたり約3.7個の電子が移動していたことになる。
【0041】
図5に挿入されているORR曲線では、OCP値が基準水素電極に対して+0.81Vであり、回転速度が400rpmから2500rpmの場合、基準水素電極に対して+0.1Vから+0.5Vの範囲でのカソード拡散電流が平坦になっている。
【0042】
熱処理温度の電極触媒のORR性能に対する効果は図6からわかる。図6は未熱処理、300℃および400℃の3つのそれぞれの熱処理温度で熱処理後の20wt%CoSe/Cナノ粒子の電極触媒活性度を示している。前記したように、CoSeナノ粒子は300℃での熱処理後は斜方晶であり、さらに400℃で熱処理後に立方晶に変化する。未熱処理のCoSe/Cナノ粒子のORR活性度は極めて低く、これは未反応のセレンの影響と考えられる。400℃までの温度での熱処理により、ORR活性度が高くなっている。例えば、未熱処理CoSeについて測定したOCP値が基準水素電極に対して0.67Vであるが、CoSe−400℃ついて測定したOCP値は基準水素電極に対して0.81Vである。2500rpmで基準水素電極に対して0.50Vの状態で測定したカソード電流密度についても熱処理の効果があることがわかる。未熱処理CoSeのカソード電流密度が0.04mA・cm−2であるのに対して、CoSe−300℃のカソード電流密度が2.5mA・cm−2であり、CoSe−400℃のカソード電流密度が3.1mA・cm−2である。
【0043】
図1、図2および図3のPXRD結果と比較することにより、ORR触媒の中心はCoSe相であると考えられ、立方晶CoSeの酸性媒体中でのORR活性度、斜方晶CoSeの酸性媒体中でのORR活性度よりも高い。20wt%CoSe/Cナノ粒子のOCP値は基準水素電極に対して0.81Vであり、Pt/C(基準水素電極に対して0.94V)よりも低いのに対し、20wt%CoSe/Cナノ粒子の電流密度は、標準20wt%Pt/C(例えばE−TEK)の約半分であることは興味深い。
【0044】
カーボン上に担持されCoSeを20wt%含むCoSe/Cナノ粒子の水素発生活性度も測定した。その測定結果を図7、図8および図9に示す。図7、図8および図9は具体的に25℃の0.5MHSO中での、未熱処理CoSe、CoSe−300℃およびCoSe−400℃それぞれの水素発生特性を示している。これらの測定の各々は、基準水素電極に対して0.0Vから−0.30Vまで1mV/sの速度で走査して行った。未熱処理CoSe/Cの活性度は極めて低く、その最大電流密度は6mA・cm−2であり、過電圧は200mVであった。一方、熱処理をされたCoSe−300℃およびCoSe−400℃の過電圧はともに160mVであった。CoSe−400℃の最大電流は28mA・cm−2であり、23mA・cm−2であるCoSe−300℃より高いことがわかる。さらに、CoSe−400℃は0.5MHSO中でCoSe−300℃よりも安定であることがわかる。水素発生活性度の上昇は、CoSeの斜方晶から立方晶への変化によるものであり、同変化に起因するものと考えられる。
【0045】
ワイ.ジェイ.フェング、ティー.ヘーおよびエヌ.アロンソ−ヴァンテらによる「酸性媒体中酸素還元用カーボン担持CoSe/Cナノ粒子」、Fuel Cells、第10巻、第1号、77−83頁(2009年12月)とワイ.ジェイ.フェング、ティー.ヘーおよびエヌ.アロンソ−ヴァンテらによる「カーボン担持CoSeおよびCoSeナノ粒子の界面活性剤を用いない直接合成およびORR−電気化学」、Chem.Matter.、第20巻、26−28頁(2007年12月)を参照すれば、CoSeナノ粒子の作製および特徴についての詳細がわかる。また、これら文献の内容のすべては、あらゆる目的で本明細書に取り入れられるものである。
【0046】
本明細書が引用する刊行物、記事、論文、特許公報および他の参考文献のすべては、そのすべてが参考としてあらゆる目的で本明細書に取り入れられる。
【0047】
前記した記載は本願発明の好ましい実施形態にかかるものであるが、本願発明の技術的範囲から逸脱しない他の変更や変形例が可能であることは当業者にとって自明である。
【実施例】
【0048】
実験
カーボン基材を除く化学薬品は、アルドリッチーシグマ社、アルファ エーサル社およびメルク社から購入し、さらに精製せずにそのまま用いた。カーボン基材は、カボット社のValcan XC−72 カーボン製であり、高純度窒素雰囲気中で、400℃で4時間活性化させた後に用いた。Milli−Q水(18MΩ・cm)を電気化学測定に用いた。
【0049】
還流温度まで加熱する界面活性剤を用いない直接合成法によって、カーボン担持CoSeナノ粒子(20wt%)を合成した。本願発明による代表的な作製ルートは、まず0.135グラムのCo(CO)(0.395mmol)と0.68グラムのカーボン(Valcan XC−72)とを10mlのp−キシレン中に入れて窒素雰囲気中で、室温で30分間激しく撹拌して分散させることから始める。次に、この混合物懸濁液を還流するまで加熱する。その後、この懸濁液を加熱還流保持せずに室温まで冷却させ、このコバルト粉末とカーボンを含む懸濁液に、超音波を30分間かけて8mlのp−キシレン中に分散させた0.125グラムのセレン(1.58mmol)を添加する。添加したセレンは通常p−キシレン溶液には完全には溶解しない。セレンを添加した懸濁液を室温で30分間混合する。この懸濁液を再び還流するまで加熱し、そのまま30分間加熱還流させる。最終黒色粉末をミリポアフィルタ(径0.22μm、孔径)により回収し無水エタノールで洗浄し、真空中で室温乾燥する。さらに、高純度窒素雰囲気下で300℃(以後、「CoSe−300℃」という)と400℃(以後、「CoSe−400℃」という)とでそれぞれ3時間アニール処理をした後、電気化学測定を行う。
【0050】
特性評価方法
ブルッカーD5005回折装置を用いて、40kVで40mAにおけるCuKα(λ=1.5418Å)照射の条件で粉末X線回折測定を行った。非配向粉末である被測定サンプルをステップごとのカウンタ時間を5秒として、20°から70°の範囲を0.03°(2θ)ステップで走査した。アントン パール HTK 1200オーブンが付いているブルッカーD8回折装置を用いて、25℃から900℃の範囲で5℃/minで昇温させ、空気中で高温粉末X線回折を行った。所定温度に到達し、その温度で30分間保持後、5秒おきに0.03°(2θ)ステップで走査を行った。
【0051】
回転ディスク電極(「RDE」)測定をポテンショスタット(マイクロ−オートラボ タイプII)を用いて、25℃の3電極電気化学セル中で行った。作用電極は直径3mm(0.07cm)のガラス状カーボンディスクであった。触媒インクは4mgの粉末を、超音波槽中の、250μlのナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製の低級脂肪族アルコールと水の混合溶液中の5重量%品)と1250μlの超高純度水(18MΩ・cm)との混合水溶液中で2時間分散させて作製した。作製した触媒インクをアルミナ粉末(5A)で研磨した前記ガラス状カーボンディスク上に被着させた。電解質として0.5MHSO水溶液を用いた。ガラス状カーボン電極と実験室で作製した水素電極を対極と参照電極として用いた。電気化学測定の前に、用いた電解質は高純度窒素を30分間バブリングさせて脱気した。窒素雰囲気下で10サイクルのサイクリックボルタメトリを行って電極表面を清浄にした後、例えば、400、900、1225、1600、2500rpmのような様々な回転速度の前記カーボンディスクを基準水素電極に対して5mV/sで走査して、線型掃引電圧電流曲線を記録した。
【0052】
本願発明の様々な実施形態についての前記した詳細な説明は、例示と説明の目的で提示したものである。同詳細な説明は包括的であるというつもりはないし、開示したそのままの実施形態に本願発明を限定しようとするものでもない。当業者にとって多くの変形例および変更例が可能であることは明らかである。本明細書の実施形態は本願発明の原理を最もよく説明するために選んで記載したものである。本明細書の実施形態に基づき、当業者は本願発明が様々な実施形態を含み、特有な用途に適した様々な変形例が可能であることがわかるはずである。本願発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の請求項およびそれらと均等な物および方法によって画定されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担持材料を用意し、
Co前駆体を用意し
Se前駆体を用意し、
前記担持材料と前記Co前駆体とを接触させて、水と界面活性剤を含まない反応混合物とし、
前記反応混合物を約200℃以下の最高温度まで加熱し、
前記反応混合物に前記Se前駆体を接触させ、
前記反応混合物を約200℃以下の最高温度まで加熱し、
担持されたCoSeを含む成分を単離することを特徴とするカーボンに担持されたCoSeナノ粒子を作製する方法
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、さらに前記担持されたCoSeを含む成分を約300℃に加熱して担持された斜方晶相CoSeを含む成分を生成させることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、さらに前記担持されたCoSeを含む成分を約400℃に加熱して担持された立方晶相CoSeを含む成分を生成させることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記担持材料がカーボンを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、各加熱ステップは約1時間未満の加熱であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、各加熱ステップは約30分未満の加熱であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、各加熱ステップは約150℃以下の最高温度までの加熱であることを特徴とする方法。
【請求項8】
酸素を用意し、
CoとSeとを含有する電極触媒成分を用意し、
前記酸素を前記CoとSeとを含有する電極触媒成分に接触させ、
酸素分子あたり3個から4個の電子を前記電極触媒から前記酸素に移動させて前記酸素を還元することを特徴とする酸素を還元する方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記CoとSeとを含有する電極触媒成分はCoSeナノ粒子を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、前記CoSeナノ粒子は斜方晶構造および立方晶構造のいずれかであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法において、前記CoSeナノ粒子は立方晶構造であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項8に記載の方法において、前記した電子の移動は酸性媒体中でおきることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記酸性媒体は0.5MHSOを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項8に記載の方法において、前記CoとSeとを含有する電極触媒成分は担持されたCoとSeとを含有する電極触媒成分を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記担持されたCoとSeとを含有する電極触媒成分はカーボンに担持されたCoとSeとを含有する電極触媒成分を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項8に記載の方法において、前記した電子の移動は、酸素分子あたり約3.5個の電子を酸素に移動することを含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項8に記載の方法において、前記した電子の移動は、酸素分子あたり約3.7個の電子を酸素に移動することを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
カーボンに担持されたCoSeナノ粒子電極触媒を含み、
前記CoSeナノ粒子は、斜方晶または立方晶構造を有するCoSeナノ粒子を含むことを特徴とする酸素分子還元または水素発生用に用いる電極触媒。
【請求項19】
前記酸素分子還元は高分子電解質燃料電池のカソードでの4電子移動を含むことを特徴とする請求項18に記載の電極触媒。
【請求項20】
水素源を用意し、
CoとSeとを含有する電極触媒成分を用意し、
前記水素源を前記CoとSeとを含有する電極触媒成分に接触させ、
前記電極触媒から前記水素源に電子を移動させて水素を発生させることを特徴とする水素を発生させる方法
【請求項21】
請求項20に記載の方法において、前記CoとSeとを含有する電極触媒成分はCoSeナノ粒子を含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法において、前記CoSeナノ粒子は立方晶構造であることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項20に記載の方法において、前記した水素の発生は酸性媒体中でおきることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項20に記載の方法において、前記CoとSeとを含有する電極触媒成分は担持されたCoとSeとを含有する電極触媒成分を含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法において、前記担持されたCoとSeとを含有する電極触媒成分はカーボンに担持されたCoとSeとを含有する電極触媒成分を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−518532(P2012−518532A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551237(P2011−551237)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/024666
【国際公開番号】WO2010/096616
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(511203695)
【Fターム(参考)】