説明

酸性糖鎖捕捉用基材

【課題】
酸性糖類を基材に安定して捕捉する方法、およびその基材。
【解決手段】
酸性糖類を基材に安定して捕捉する方法であって、基材の一方の面側に、親水性基を有するモノマーと、架橋可能な官能基を有するモノマーと、酸性糖を捕捉可能な化合物を固定化するための官能基を有するモノマーとの共重合体で構成される樹脂層と、前記酸性糖を捕捉可能な化合物で構成される固定層とが、この順に積層されてなることを特徴とする酸性糖類捕捉方法および基材。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸性糖類を基材に固定化する方法、および前記基材を含む。
【背景技術】
【0002】
生体内において糖タンパク質、糖ペプチドは、細胞膜表面に存在して細胞膜受容体として働いたり、血清などの体液中に分泌されたり、また細胞外マトリックスの構成物として存在している。近年、こうした糖鎖が、生体活動に重要な役割を果たしていることが明らかにされて来ている。
このような糖鎖と細胞の分化増殖、細胞認識、免疫反応及び細胞癌化との関係が明確にされれば、この糖鎖と、細胞工学あるいは臓器工学とを密接に関連させ、新たな糖鎖工学の展開を図ることが期待される。
生体内に最も豊富に存在する糖類はグリコサアミノグリカン(GAG)類であり、それらは、植物には存在せず、動物にのみ存在する分子で、生体のあらゆる結合組織中に存在することが知られている。
【0003】
GAG類は、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸などが存在しており、主に動物の結合組織に多数存在し、また、ヘパリンは抗血液凝固剤として有名であり、医薬品に利用されている。
GAG類は、生体内で種々のタンパク質と特異的な相互作用をしており、それにより生体機能を調整していることが知られている。
GAG類は、硫酸基が付加した二糖の繰り返し構造から形成されており、多数の硫酸基が含まれていることから負に帯電した分子であり、酸性糖であることが良く知られている。
従ってこうした酸性糖とタンパク質との相互作用を調べ、機能の調整を検証することは学術的な意味だけではなく、医学の発展に重要なテーマである。
これを調べるには、まず、それぞれの酸性糖分子を基材表面に固定化し、それに対しどのようなタンパク質が結合するかを調べることが重要である。
【0004】
その特性を利用して基材表面にGAG類を固定化する方法が、特許文献1に記されている。特許文献1では、GAG類を捕捉するために、アミノ基を持つモノマーを基材表面にプラズマ重合し、正電化の豊富な基材表面を構成させ、それに対してGAG類を静電相互作用で固相化させる方法が記載されている。一度の反応で表面に正電荷を持つ基材を構築することが可能であり、この方法によると簡便に基材表面に正電荷を導入することが可能である。しかしながら、該方法においては、静電相互作用のみでなく基材本体への非特異的吸着も同時に発生するため、ブロッキング操作が必要となる。
【0005】
また、特許文献2においては、糖鎖を還元させて作成したアルデヒドにHN−X−SH(式中、Xは炭素数1〜3のアルキレン基またはフェニレン基)等からなるリンカー化合物と反応させることにより固体表面に糖鎖を固定化する。さらに特許文献2では、糖類とタンパク質との相互作用を破断力で測定する方法にも言及されている。しかしながら、この方法では、糖鎖を還元させているので糖鎖構造の一部は変化しておりその状態で固体表面に徒弟させているので、糖鎖本来の機能を発揮しているのか疑問である。また、相互作用を破断力で測定することは方法の一つであり、それのみで糖鎖の機能を測ることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−504822
【特許文献2】特開2008−105978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸性糖を基材表面に固定化し、かつ非特異吸着を抑制することで酸性糖のみを安定的に基材表面に保持せしめ、酸性糖結合物質等との相互作用検出用の表面を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(11)に記載の本発明により達成される。
(1)酸性糖を捕捉するための捕捉基材であって、
基材の一方の面側に、親水性基を有するモノマーと、架橋可能な官能基を有するモノマーと、前記酸性糖を捕捉可能な化合物を固定化するための官能基を有するモノマーとの共重合体で構成される樹脂層と、前記酸性糖を捕捉可能な化合物で構成される固定層とが、この順に積層されてなることを特徴とする捕捉基材。
(2)前記酸性糖を捕捉可能な化合物を固定化するための官能基を有するモノマーの官能基が、活性エステル基である(1)に記載の捕捉基材。
(3)前記活性エステル基は、p−ニトロフェニルエステル基およびN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基の少なくともいずれか一方である(2)に記載の捕捉基材。
(4)前記酸性糖を捕捉可能な化合物は、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミンおよびポリリジンの少なくとも一つ以上である(1)ないし(3)のいずれかに記載の捕捉基材。
(5)親水性基を有するモノマーがアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーで、下記の一般式で表されるモノマーであることを特徴とする(1)記載の捕捉基材。

式〔1〕

(式中R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレングリコール残基を示し、pは1〜100の整数を示す。繰り返されるXは、同一であっても、または異なるアルキレングリコール残基の連鎖であってもよい。)
(6)酸性糖を捕捉可能な化合物を固定化するための官能基を有するモノマーが、エチレン系不飽和重合性モノマーエチレン系不飽和重合性モノマーであって、下記の一般式で表されるモノマーであることを特徴とする(1)−(3)記載の捕捉基材。

式〔2〕

(7)架橋可能な官能基を有するモノマーが、官能基としてアルコキシリル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーで下記の一般式で表されるモノマーであることを特徴とする(1)記載の捕捉基材。

式〔3〕

(式中R3は水素原子またはメチル基を示し、Zは炭素数1〜20のアルキル基を示す。qは2〜20の整数を示す。Wは官能基を示し、A1,A2,A3の内、少なくとも1個は加水分解可能なアルコシキ基であり、その他はアルキル基を示す。)
(8)前記酸性糖が、グリコサアミノグリカン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸から選択される少なくとも一つの酸性糖であることを特徴とする(1)−()記載の捕捉基材。
(9)基材表面に酸性糖を捕捉可能な化合物を固定化する為の官能基を有する物質を基材上にあらかじめコーティングされたことを特徴とする(1)−(8)記載の捕捉基材。
(10)
請求項1−9記載の酸性糖捕捉基材であって、
(a)固相表面に官能基を含む高分子物質をコートする工程
(b)酸性糖を捕捉可能な化合物を活性エステルと反応させて固定化する工程
(c)酸性糖を有する物質を正電荷と反応させて、表面に固相化する工程
からなる、捕捉方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸性糖を効率よく簡単に固相担体に結合する事が可能となり、また、該酸性糖と反応する別の物質の非特異吸着を効果的に抑制する事から、簡便かつハイスループットな検査容器やバイオチップの作製と評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】固定ヘパリンへの線維芽細胞増殖因子2(FGF2)結合の測定結果
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、酸性糖を捕捉するための方法として、
(a)官能基と親水性を同時に有する高分子物質を基材に導入し
(b)その官能基を使ってアミノ基を豊富に有する化合物を固定化
(c)前述のアミノ基を有する化合物を介して酸性糖を固相化した
ものであり、更に、
(d)親水性により、非特異吸着を抑制すること、を特徴としている。
【0012】
具体的には、親水性を獲得するために、アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合モノマーと官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー、さらに基材と高分子物質との結合を確実にするために架橋可能な官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーを共重合して得られる高分子物質を使用する。
本発明に用いる高分子物質に使用する、アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーは、特に構造を限定しないが、一般式〔1〕で表される(メタ)アクリル基と炭素数1〜10のアルキレングリコール残基Xの連鎖からなる化合物が好ましい
式〔1〕

式〔1〕中のアルキレン残基Xの炭素数は1〜10であり、より好ましくは1〜6であり、さらに好ましくは2〜4である。アルキレングリコール残基Xの繰り返し数pは、1〜100の整数であり、より好ましくは2〜100の整数であり、さらに好ましくは2〜95の整数であり、最も好ましくは20〜90の整数である。繰り返し数2以上100以下の場合は、繰り返されるアルキレングリコール残基Xの炭素数は同一であっても、異なっていても良い。
【0013】
前記エチレン系不飽和重合モノマーとしては、例えばメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基の一置換エステルの(メタ)アクリレート類、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールを側鎖とする(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられるが、入手性から、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートが好ましい。
本発明に用いる官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーの官能基としては、化学的に活性な基があるが、特に限定するものではない。具体的な例としては、アルデヒド基、活性エステル基、エポキシ基、ビニルスルホン基、チオール基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、アクリレート基、マレイミド基、ヒドラジド基、アジド基、スルホネート基などがある。これらの中でも、アミノ基との反応性の点から、アルデヒド基、活性エステル基、エポキシ基、ビニルスルホン基が好ましい。中でもモノマーの保存安定性の観点から活性エステル基が最も好ましい。
本発明に用いる官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーは特に構造を限定しないが、一般式〔2〕で表される(メタ)アクリル基と活性エステル基Wが炭素数1〜10のアルキレングリコール残基の連鎖またはアルキル基Yを介して結合した化合物であることが望ましい。

式〔2〕

【0014】
本発明に使用する架橋可能な官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーは、架橋可能な官能基の反応が高分子物質合成中に進行しないものであれば特に制限されるものでない。
架橋可能な官能基としては、例えば加水分解によるシラノーラ基を生成する官能基やエポキシ基、(メタ)アクリル基、グリシジル基などが用いられるが、架橋処理が容易なことから、加水分解によりシラノーラ基を生成しやすいアルコキシシリル基が最も好ましい。
【0015】
加水分解によりシラノーラ基を生成する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーは、(メタ)アクリル基とアルコキシシリル基が単層数1〜20のアルキル鎖を介しするか、または直接結合した一般式〔3〕で表されるエチレン系不飽和重合モノマーであることが好ましい。

式〔3〕

式3中R3は水素原子またはメチル基を示し、Zは炭素数1〜20のアルキル基を示す。qは2〜20の整数を示す。Wは官能基を示し、A1,A2,A3の内、少なくとも1個は加水分解可能なアルコシキ基であり、その他はアルキル基を示す。
【0016】
アルコキシシリル基を含有するエチレン系不飽和重合性モノマーとしては、例えば、3−(メタ)アクリロキシプロペニルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、8−(メタ)アクリロキシオクタニルトリメトキシシラン、11−(メタ)アクリロキシウンデニルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシアルキルシラン化合物等を挙げることができる。なかでも3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシランがアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーとの共重合性が優れている点、入手が容易である点等から好ましい。これらのアルコキシシリル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーは、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。
【0017】
本発明の高分子物質の合成方法は、特に限定されるものではないが、合成の容易さから、少なくともアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(A)、官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(B)、および架橋のための官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(C)を含む混合物を、重合開始剤存在下、溶媒中でラジカル重合することが好ましい。
溶媒としてはそれぞれのエチレン系不飽和重合性モノマーが溶解するものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、t−ブチルアルコール、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。プラスチック担体に該高分子物質を塗布する場合は、エタノール、メタノールが担体を変性させないため好ましい。
重合開始剤としては通常のラジカル開始剤ならいずれでもよく、例えば、2,2’−アゾビスイソブチルニトリル(以下「AIBN」という)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1 −カルボニトリル)等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の有機過酸化物等を挙げることができる。
【0018】
本発明の高分子物質の化学構造は、少なくともアルキレングリコール残基、生理活性物質を固定化する官能基及び架橋可能な官能基を有する各エチレン系不飽和重合性モノマーが共重合されたものであれば、その結合方式がランダム、ブロック、グラフト等いずれの形態をなしていてもかまわない。
本発明の高分子物質の分子量は、高分子物質と未反応の単量体との分離精製が容易になることから、数平均分子量は5000以上が好ましく、10000以上がより好ましい。
本発明の高分子物質を担体表面に結合させて被覆することにより、生理活性物質の非特異的吸着を抑制する性質を容易に付与することが可能である。さらに、高分子主鎖同士を架橋させる性質を併せ持つことから、担体表面を被覆した後に架橋させることが可能である。これにより、担体上の高分子に不溶性を付与することができ、担体洗浄による信号低下を低減することができる。
【0019】
担体表面と高分子物質との結合は、共有結合、静電的相互作用、水素結合、疎水効果による結合等どのような結合様式であっても良く、本発明においては、例えば高分子物質を有機溶剤に0.05〜50重量%濃度になるように溶解し、この高分子溶液を浸漬、吹き付け等の公知の方法で担体表面に塗布した後、室温下ないしは加湿下にて乾燥させることにより行われる。その後、架橋可能な官能基に応じた任意の方法で高分子の主鎖同士を架橋させる。架橋可能な官能基が加水分解によりシラノール基を生成する官能基を用いた場合の高分子化合物の被覆については、有機溶剤中に水を含有させた混合溶液を用いてもよい。
含有される水により加水分解が生じ、該合成高分子中にシラノール基が生成し、さらに加熱することにより主鎖同士が結合され、高分子化合物が不溶になる。
【0020】
含水量が少ないとシラノール基の生成が不十分で、架橋結合が弱くなる。一方、含水量が多くなると高分子化合物が溶媒に不溶となる恐れがある。理論上加水分解によりシラノール基を生成するのに必要な水が含有されていれば十分であるが、容積の調製の容易さを考えると、含水量が約0.01〜15重量%程度のものが好ましい。
【0021】
有機溶剤としてはエタノール、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、シクロヘキサノール等アルコール類、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルブチルケトンエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノン等を挙げることができる。
これらの溶媒は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。中でも、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、シクロヘキサノール等アルコール類がプラスチック基材を変性させず、乾燥させやすいため好ましい。また、溶液中で高分子化合物を加水分解させる場合にも、水と任意の割合で混ざるので好ましい。
【0022】
本発明において使用する正電荷を有する物質は、アミノ基を一分子中に複数残基持つ化合物であれば、特に限定するものではないが、入手性、保存安定性から、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリリジンの使用が好ましい。
【0023】
(基材の材質、形状)
本発明において、共重合体を塗布する基材の材質は、ガラス、プラスチック、金属その他を用いることができるが、本発明に使用する基材としては、表面処理の容易性、量産性の観点からプラスチックが好適である。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテン等の直鎖状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、飽和環状ポリオレフィンを用いることがより好ましい。本発明に使用する基材の形状はスライドガラスに代表される板状の基板、96穴や384穴に代表されるマルチウェルプレート状、またはビーズ状のもの、あるいはそれらの複合体が挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
<実施例1>
(高分子化合物の合成例1)
ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(別名メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)(PEGMA、数平均分子量=約475 Aldrich製)、p−ニトロフェニルオキシカルボニル−ポリエチレングリコールメタクリレート(MEONP)、3−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン(MPDES GELEST,INC.製)をそれぞれ順に0.90mol/L、0.05mol/L、0.05mol/L、になるように脱水エタノールに溶解させ、モノマー混合溶液を作製した。そこにさらに0.002mol/Lの2、2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN 和光純薬株式会社製)を添加し、均一になるまで撹拌した。その後、アルゴンガス雰囲気下、60℃で1.5時間反応させた後、反応溶液をジエチルエーテル中に滴下し、沈殿を収集した。得られた高分子化合物を重エタノール溶媒中1H―NMRで測定し、0.15ppm付近に現れるMPDESのSiに結合したメチル基に帰属されるピーク、3.35ppm付近に現れるPEGMAの末端メトキシ基に帰属されるピーク、7.6および8.4ppm付近に現れるMEONPのベンゼン環に帰属されるピーク、それぞれの積分値より、この高分子化合物の組成比を算出した。表1に結果を示した。


【0026】
(実施例2)
(プレートの作製)
環状ポリオレフィン(日本ゼオン社製:ZEONOR1430R)で成型した96穴プレート内を合成例1で合成したポリマー0.3wt%エタノール溶液を分注して、30分静置後、溶液を廃棄した。室温で乾燥した後100℃で6時間処理し、冷却した。次いで1%ポリアリルアミン水溶液(日東紡社製:N15C)を分注し37℃で15間静置した。溶液を廃棄後、超純水で3回洗浄し、遠心乾燥により乾燥することによりプレートを作製した。
【0027】
ヘパリンの固定化
5μg/mLのヘパリンナトリウム(ナカライテスク社製:17513−54)/リン酸緩衝液(PBS、日水製薬製、05913)溶液を作製し、実施例1にて作製したプレートに分注し、室温で終夜静置した。PBSで3回洗浄した。
【0028】
FGF2の反応
ヘパリンに対して結合性を持つ線維芽細胞増殖因子2(FGF2、Peproteck社製:品番100−18B)を1%BSA/PBSにFGF2濃度が50、25、12.5、6.3、3.2、1.5、0ng/mLとなるように希釈し、プレートに分注した。室温で2時間静置した。PBSで3回洗浄した。
【0029】
抗FGF2抗体の反応
ヘパリンに結合したFGF2量を、抗FGF2抗体を用いて測定した。具体的には、1%BSA/BSにマウス由来の抗FGF2抗体(Peprotech社製:500−M38)が1μg/mLとなるように希釈し、プレートに分注した。室温で1時間静置した後、PBSで3回洗浄した。
【0030】
標識化反応
1%BSA/PBSにペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG抗体(DAKO社製:P0260)が1μg/mLとなるように希釈し、プレートに分注した。室温で1時間静置した後、PBSで3回洗浄した。
【0031】
発色反応
ペルオキシダーゼ発色キット(T)(住友ベークライト社製:ML−1120T)を用いて発色した。
【0032】
(比較例1)
市販のヘパリンバインディングプレート(ベクトンディッキンソン社製:354676)を用いた。
【0033】
ヘパリンの固定化
5μg/mLのヘパリンナトリウム/PBS溶液を作製し、実施例1にて作製したプレートに分注した。室温で終夜静置した後、PBSで3回洗浄した。
【0034】
ブロッキング
1%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBSを分注し、1時間静置した。PBSで3洗浄し、本発明の実施形態と同じである非特異吸着を抑制したヘパリンバインディングプレートを作製した。これ以降の作業は実施例に同じ。
【0035】
測定
マイクロプレートリーダー(TECAN社製:Infinit200)を用いて450nmの波長を用いて吸光度を測定した。
【0036】
結果は、図1に示すように、実施例、比較例の濃度応答曲線によると、FGF2濃度に対する勾配には差が見られないが、実施例では0点からグラフが立ち上がっておりバックグランド値が、ほとんどOであり、ヘパリンに代表される酸性糖鎖の評価系において、非特異吸着が抑制され有効なことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、酸性糖を効率よく簡単に固相担体に結合する事が可能となり、また、該酸性糖と反応する別の物質の非特異吸着を効果的に抑制する事から、酸性糖結合タンパク質やその他の酸性糖結合分子の解析に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性糖を捕捉するための捕捉基材であって、
基材の一方の面側に、親水性基を有するモノマーと、架橋可能な官能基を有するモノマーと、前記酸性糖を捕捉可能な化合物を固定化するための官能基を有するモノマーとの共重合体で構成される樹脂層と、前記酸性糖を捕捉可能な化合物で構成される固定層とが、この順に積層されてなることを特徴とする捕捉基材。
【請求項2】
前記酸性糖を捕捉可能な化合物を固定化するための官能基を有するモノマーの官能基が、活性エステル基である請求項1に記載の捕捉基材。
【請求項3】
前記活性エステル基は、p−ニトロフェニルエステル基およびN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基の少なくともいずれか一方である請求項2に記載の捕捉基材。
【請求項4】
前記酸性糖を捕捉可能な化合物は、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミンおよびポリリジンの少なくとも一つ以上である請求項1ないし3のいずれかに記載の捕捉基材。
【請求項5】
親水性基を有するモノマーがアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーで、下記の一般式で表されるモノマーであることを特徴とする請求項1記載の捕捉基材。

式〔1〕

(式中R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレングリコール残基を示し、pは1〜100の整数を示す。繰り返されるXは、同一であっても、または異なるアルキレングリコール残基の連鎖であってもよい。)
【請求項6】
酸性糖を捕捉可能な化合物を固定化するための官能基を有するモノマーが、エチレン系不飽和重合性モノマーエチレン系不飽和重合性モノマーであって、下記の一般式で表されるモノマーであることを特徴とする請求項1−3記載の捕捉基材。

式〔2〕

【請求項7】
架橋可能な官能基を有するモノマーが、官能基としてアルコキシリル基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーで下記の一般式で表されるモノマーであることを特徴とする請求項1記載の捕捉基材。

式〔3〕

(式中R3は水素原子またはメチル基を示し、Zは炭素数1〜20のアルキル基を示す。qは2〜20の整数を示す。Wは官能基を示し、A1,A2,A3の内、少なくとも1個は加水分解可能なアルコシキ基であり、その他はアルキル基を示す。)
【請求項8】
前記酸性糖が、グリコサアミノグリカン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸から選択される少なくとも一つの酸性糖であることを特徴とする請求項1−7記載の捕捉基材。
【請求項9】
基材表面に酸性糖を捕捉可能な化合物を固定化する為の官能基を有する物質を基材上にあらかじめ導入したことを特徴とする請求項1−8記載の捕捉基材。
【請求項10】
請求項1−9記載の捕捉基材であって、
(a)固相表面に官能基を含む高分子物質をコートする工程
(b)酸性糖を捕捉可能な化合物を活性エステルと反応させて固定化する工程
(c)酸性糖を有する物質を正電荷と反応させて、表面に固相化する工程
からなる、捕捉方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−83670(P2011−83670A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236761(P2009−236761)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】