説明

酸素分離膜材料の製造と該材料の還元膨張率測定方法

【課題】酸素分離膜用材料の還元膨張率を適切に測定する方法を提供すること。
【解決手段】本発明により提供される還元膨張率測定方法は、酸素分離膜用材料の還元膨張率を測定する方法であって、測定対象となる材料16について還元雰囲気下でX線回折測定を行い、その材料16の還元雰囲気下における還元雰囲気下格子定数を求める工程と、材料16について空気雰囲気下でX線回折測定を行い、その材料16の空気雰囲気下における空気雰囲気下格子定数を求める工程と、得られた還元雰囲気下格子定数と空気雰囲気下格子定数とに基づいて、材料の還元膨張率を算出する工程とを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素分離膜材料とその製造に関し、詳しくは該材料の還元膨張率を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素イオン(典型的にはO2−;酸化物イオンとも呼ばれる。)伝導性を有する酸素イオン伝導体として、いわゆるペロブスカイト型構造の酸化物セラミックスが知られている。特に、酸素イオン伝導体であることに加え、電子伝導性を兼ね備えた酸素イオン−電子混合伝導体(混合伝導体)であるペロブスカイト型酸化物からなる緻密なセラミック材、典型的には膜状に形成されたセラミック材は、その両面を短絡させるための外部電極や外部回路を用いることなく一方の面から他方の面に連続して酸素イオンを透過させることができる。このため、一方の面に供給された酸素含有ガス(例えば空気)から酸素を他方の面に選択的に透過させる酸素分離膜用材料として、特に使用温度が800℃以上1000℃未満というような高温域で好適に使用することができる。
【0003】
例えば、ペロブスカイト型酸化物等の混合伝導体から構成される酸素分離膜は、多孔質基材(多孔質支持体)上に形成されて酸素分離膜エレメントとして用いられ、深冷分離法やPSA(Pressure Swing Adsorption)法に代わる有効な酸素精製手段として好適に使用することができる。また、かかる構成の酸素分離膜エレメントは、酸素含有ガス(空気)と炭化水素ガスとを隔絶し、酸素を選択的に透過させて炭化水素の部分酸化反応を行うための酸化反応装置、いわゆる隔膜リアクタの構成要素として好適に利用することができる。すなわち、酸素分離膜の一方側の表面に酸素含有ガス、他方側の表面に炭化水素ガス(例えばメタン)をそれぞれ接触させると、一方の表面から酸素分離膜内を透過して供給される酸素イオンによって、他方の面において炭化水素が部分酸化される。このように酸素分離膜を利用して炭化水素を部分酸化する技術は、合成液体燃料(メタノール等)を製造するGTL(Gas To Liquid)技術、あるいは燃料電池分野で好適に使用される。
【0004】
この種の従来技術として、特許文献1〜6には、混合伝導体であるペロブスカイト型酸化物としてLaSrCoFe系酸化物、LaGaO系酸化物を用いることが記載されている。また、特許文献7、8には、混合伝導体であるペロブスカイト型酸化物としてLaSrTiCoFeO系酸化物、LaSrZrFeO系酸化物を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−228136号公報
【特許文献2】特開平11−335164号公報
【特許文献3】特開2000−251534号公報
【特許文献4】特開2000−251535号公報
【特許文献5】特表2000−511507号公報
【特許文献6】特開2001−93325号公報
【特許文献7】国際公開第WO2003/040058号パンフレット
【特許文献8】特開2007−51036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記GTL技術や燃料電池分野に用いられる酸素分離膜用材料としては、酸素イオンが透過した側、即ち炭化水素ガス供給側(燃料極側)が還元雰囲気となるため、そのような雰囲気で且つ高温域で使用する際にもクラック(割れ)が発生し難い還元雰囲気に対する耐久性(以下、単に「還元耐久性」という。)が求められている。かかる還元耐久性は、酸素分離膜用材料を構成する金属元素の比率や、酸素分離膜用材料を合成するときの合成条件(焼成時間や焼成温度等の合成条件)によって容易に変わるため、酸素分離膜材料の還元耐久性を事前に検査しておくことが望ましい。従来、酸素分離膜用材料の還元耐久性を検査する方法の一つとして、TMA(Thermo Mechanical Analysis)が用いられている。TMAによる検査では、酸素分離膜用材料粉末から棒状(円柱状)の試験片を作製し、その試験片を還元雰囲気下で加熱したときの寸法変化から還元耐久性の目安(還元膨張係数、即ち還元雰囲気における膨張率)を定量的に算出する。
【0007】
しかしながら、上記TMAで得られる還元膨張係数は、試験片全体の還元雰囲気下における膨張率(還元膨張率)を測定したマクロな材料評価にすぎず、結晶粒オーダーで生じる微小な膨張量(寸法変化)を厳密に測定したものではない。そのため、TMAによる検査では、個々の結晶粒レベルで生じる微小な還元応力を正確に把握することができなかった。また、TMAに用いられる試験片の寸法は、例えば、直径3mm×長さ15mmのミリオーダーであり、その試験片の作製は、材料粉末を棒状に加工することにより行われる。そのため、測定のたびに上記サイズを持つ棒状の試験片の作製が必要となり、作業時間と手間がかかる。また、測定後の試験片は再利用できないので、上記サイズを持つミリオーダーの材料が無駄となり、その分コスト高になる。さらに、薄膜製造時に材料の還元耐久性を検査しようとすると、ロット毎にサンプリング抽出する必要があるため、個々の薄膜が本当に所要の還元耐久性を有するものであるかどうかは確認することができなかった。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、酸素分離膜用材料の還元膨張率をより適切に把握することができる還元膨張率測定方法を提供することである。また、他の目的は、そのような還元膨張率測定方法を好適に用いた酸素分離膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によって提供される測定方法は、酸素分離膜用材料の還元膨張率を測定する方法である。この測定方法は、測定対象となる材料について還元雰囲気下でX線回折測定を行い、その材料の還元雰囲気下における還元雰囲気下格子定数を求める工程と、上記材料について空気雰囲気下でX線回折測定を行い、その材料の空気雰囲気下における空気雰囲気下格子定数を求める工程と、上記得られた還元雰囲気下格子定数と空気雰囲気下格子定数とに基づいて、上記材料の還元膨張率を算出する工程とを包含する。
【0010】
本発明の還元膨張率測定方法によれば、X線回折を用いて酸素分離膜用材料の結晶格子間に生じる微小な寸法変化(膨張量)から還元膨張率を算出するので、従来のTMA(試験片全体の膨張量から還元膨張係数を算出する方法)に比べて、還元膨張率を精度よく求めることができる。また、従来のような棒状の試験片の作製が不要となるため、還元膨張率を簡易に測定できる。さらに、X線を用いて非破壊で測定できるので、測定後の酸素分離膜用材料を廃棄しなくてもよい。このため、かかる還元膨張率測定方法を、酸素分離膜の製造プロセスに容易に組み込むことができる。
【0011】
ここに開示される測定方法の好ましい一態様では、上記材料を粉末状にして上記X線回折測定を行う。この場合、従来のような棒状の試験片の作製が不要になるため、還元膨張率を簡易に測定できる。また、ここに開示される測定方法の好ましい一態様では、上記材料を膜状にして上記X線回折測定を行う。この場合、実際の使用形態(薄膜状)と同じ形態で測定できるので、より的確な還元膨張率が得られる。
【0012】
ここに開示される測定方法の好ましい一態様では、上記還元雰囲気として、少なくとも水素を含む還元性ガス雰囲気を形成する。この場合、本発明の目的に適した還元雰囲気を簡易に形成することができる。
【0013】
また、本発明によると、ここで開示されるいずれかの還元膨張率測定方法の実施を包含する酸素分離膜を製造する方法が提供される。
即ち、ここで開示される酸素分離膜製造方法は、
酸素分離膜用材料を用意し、該材料の還元膨張率をここで開示されるいずれかの還元膨張率測定方法により測定すること、
上記測定された還元膨張率に基づいて上記材料が良品であるか否かを判定すること、および、
上記判定において良品とされた材料を用いて構成された酸素分離膜を採用すること、
を包含する。例えば、上記酸素分離膜用材料としての粉末状材料を用意して該材料の還元膨張率を測定した場合には、上記判定において良品とされた粉末状材料を用いて(換言すれば不良と判定された材料は使用しないで)酸素分離膜を作製することを包含する。
【0014】
本発明の製造方法によれば、酸素分離膜用材料(典型的には粉末状材料若しくは膜状に形成した後の材料)の還元膨張率を、上述したX線回折により測定し、その測定された還元膨張率に基づいて該材料が良品であるか否かを判定し、その判定において良品とされた材料のみを採用するので、所望の還元耐久性を満たす高品質な酸素分離膜が効率よく提供できる。また、X線を用いて非破壊で検査できるので、従来のようなロット毎のサンプリング抽出を行う必要がなく、薄膜の全件検査が可能になる。そのため、予め不良品が形成されるリスクを軽減し、信頼性の高い酸素分離膜を効率よく製造することができる。
【0015】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記判定において上記材料の還元膨張率が0.50%以下のときに良品と判定する。これにより、還元耐久性に優れた酸素分離膜が効率よく得られる。
【0016】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記酸素分離膜用材料は、酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスから成る材料である。ペロブスカイト構造酸化物セラミックスは、酸素分離膜として好ましい性質を有する一方で、還元雰囲気下に晒されると還元膨張しやすい性質がある。そのため、上記酸素分離膜用材料がペロブスカイト構造酸化物セラミックスで構成された場合、本発明を適用して酸素分離膜用材料の還元膨張率を検査することによる効果が特によく発揮され得る。
【0017】
また、本発明によると、酸素分離膜を検査(性能評価)する方法が提供される。この製造方法は、ここで開示されるいずれかの還元膨張率測定方法により酸素分離膜の還元膨張率を測定し、得られた還元膨張率に基づいて該酸素分離膜の還元耐久性を検査する(評価する)ことを特徴とする。このことによって、所望の還元耐久性を有する高品質な酸素分離膜を容易に選抜することができるとともに、還元耐久性の低い酸素分離膜を使用前に排除することができるため、信頼性の高い酸素分離膜を効率よく提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を示す模式図である。
【図2】一実施例に係るペロブスカイト型酸化物セラミックス粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図3】一試験例に係る還元耐久性評価用モジュールを模式的に説明する部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0020】
本発明の一実施形態に係る還元膨張率の測定方法は、酸素分離膜用材料の還元膨張率を測定する方法である。この測定方法では、測定対象となる材料について還元雰囲気下でX線回折(XRD:X-ray diffraction)測定を行い、その材料の還元雰囲気下における還元雰囲気下格子定数を求める。また、測定対象となる材料について空気雰囲気下でX線回折測定を行い、その材料の空気雰囲気下における空気雰囲気下格子定数を求める。そして、得られた還元雰囲気下格子定数と空気雰囲気下格子定数とに基づいて、酸素分離膜用材料の還元膨張率を算出する。かかる測定方法によれば、X線回折を用いて酸素分離膜用材料の結晶格子間に生じる微小な寸法変化(膨張量)から還元膨張率を算出するので、従来のTMA(試験片全体の膨張量から還元膨張係数を算出する方法)に比べて、還元膨張率を精度よく求めることができる。
【0021】
以下、本実施形態の還元膨張率測定方法についてさらに説明する。図1は、本実施形態に係るX線回折測定装置20を示す概略図である。本実施形態のX線回折測定では、X線発生源10から照射されるX線14を試料16(酸素分離膜用材料)の試料面16aに入射する。試料面16aは、材料粉末からなる面である。この際、試料16を所定の走査軸で回転走査しながら試料16に対する入射角度をステップ的または連続的に変化させてX線14を照射し、試料16によって回析されたX線18を検査器12でとらえる。そして、X線の回析方向と入射方向の角度差(回折角2θ)と、回析X線強度を測定する。かかるX線回折測定は、種々の測定装置メーカーから市販されているX線回折測定装置20を用いて検査できる。例えば、株式会社リガク製のX線回折測定装置RINT−2000を用いることができる。
【0022】
本実施形態においては、まず、測定対象となる酸素分離膜用材料について還元雰囲気下で上記X線回折測定を行う。X線回折測定時に還元雰囲気下とするためには、X線回折測定時に水素(H)などの還元性のガスが存在する状態とすればよい。例えば、X線回折測定装置のチャンバ22内に水素(H)などの還元性ガス26を供給することによって還元雰囲気下とすることができる。還元性ガスとしては、水素ガス若しくは水素ガスやアンモニアガスを含む混合ガスの他にメタン(CH)ガス、炭酸(CO)ガス等を用いることができる。還元性ガスは、チャンバ22内に直接供給してもよく、あるいは、窒素(N)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスで希釈して供給してもよい。希釈の程度については特に限定されないが、通常は、還元性ガス濃度が5vol%以上であれば十分であり、例えば5vol%〜50vol%にすることが好ましい。還元性ガスを供給する際には、チャンバ22内の酸素(O)の供給を完全に遮断することが好ましいが、酸素分圧が概ね10−10MPa以下(例えば10−24MPa程度)となるように調整すれば十分である。
【0023】
ここに開示される技術では、酸素分離膜の実際の使用時に近い還元雰囲気をチャンバ22内に形成することが好ましい。例えば、実際の使用時に酸素分離膜が水素(H)と窒素(N)の混合ガス雰囲気下に晒される場合には、水素(H)と窒素(N)の混合ガス雰囲気をチャンバ22内に形成することが好ましい。また、実際の使用時に酸素分離膜が高温雰囲気(例えば800℃〜1000℃)に晒される場合には、該高温雰囲気(例えば800℃〜1000℃)をチャンバ22内に形成することが好ましい。かかる高温雰囲気の加熱は、例えばチャンバ内に配置された試料16のまわりに加熱装置(ヒータ等)24を付設して行うとよい。このように実際の使用時に近い還元雰囲気を形成することによって、酸素分離膜の実際の使用時における還元耐久性を正確に把握することができる。
【0024】
このようにして還元雰囲気下でX線回折測定を行ったら、次いで、測定対象となる酸素分離膜用材料について空気雰囲気下でX線回折測定を行う。X線回折測定時に空気雰囲気下とするためには、X線回折測定時に空気が存在する状態とすればよい。例えば、X線回折測定装置のチャンバ22内に大気組成ガスを供給することによって空気雰囲気下とすることができる。大気組成ガスを供給する際には、チャンバ内の酸素分圧が概ね0.1MPa以下(例えば0.02MPa程度)となるように調整するとよい。なお、X線回折測定を行う順番は上記に限定されず、空気雰囲気下でX線回折測定を行った後、還元雰囲気下でX線回折測定を行ってもよい。
【0025】
図2に、酸素分離膜用材料がLa0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.93−δである場合のX線回折パターンを示している。図2中、x1は還元雰囲気下(水素5(vol%)と窒素95(vol%)との混合ガス雰囲気下)で1000℃に晒したときの回折パターンであり、x2は空気雰囲気下で1000℃に晒したときの回折パターンである。図2に示すように、La0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.93−δの回折パターンでは、回折角20°〜65°の範囲において、(110)面、(112)面、(202)面、(220)面、(310)面、(204)面に由来する回折ピークが生じる。これら何れのピークにおいても還元雰囲気x1のピーク位置が空気雰囲気x2のピーク位置よりも低角度側へシフトする。
【0026】
このようにして得られた還元雰囲気下での回折パターンx1から材料の還元雰囲気下における還元雰囲気下格子定数を求める。また、空気雰囲気下での回折パターンx2から材料の空気雰囲気下における空気雰囲気下格子定数を求める。回折パターンx1,x2から格子定数を求める方法としては、従来の回折パターンから格子定数を算出する場合と同じであればよく特に制限されない。例えば、各回折パターンx1,x2にリートベルト法を適用することにより格子定数を求めてもよい。この場合、格子定数を正確に得ることができる。あるいは、結晶構造が立方晶である場合には、回折パターンの(hkl)面に由来するピーク位置からa=d×(h+k+l1/2の式を用いて格子定数を求めてもよい。ここで、a:格子定数、d=λ/(2sinθ)、λ:測定X線波長、θ:ブラッグ角(回折角/2)である。この場合、格子定数が簡易に得られる。
【0027】
表1に、図2の回折パターンx1、x2にリートベルト法を適用して得られた格子定数の一例を示す。この例では、La0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.93−δの結晶構造は斜方晶(空間群:Pbnm62)であり、回折パターンx1から得られた還元雰囲気下格子定数はa=5.6225Å,b=5.6074Å,c=7.9331Åとなり、回折パターンx2から得られた空気雰囲気下格子定数はa=5.6070Å,b=5.5907Å,c=7.9148Åとなる。
【0028】
【表1】

【0029】
このようにして得られた還元雰囲気下格子定数(a,b,c)と空気雰囲気下格子定数(a,b,c)とに基づいて、酸素分離膜用材料の還元膨張率αを算出する。還元膨張率αの算出は、例えば、下記(1)式に従って行うとよい。
【0030】
α=[(v−v)/v]×100 (1)

【0031】
ここで、α:還元膨張率、v:還元雰囲気下格子定数(a,b,c)から得られた還元雰囲気下結晶格子体積、v:空気雰囲気下格子定数(a,b,c)から得られた空気雰囲気下結晶格子体積である。例えば、結晶構造が斜方晶の場合、還元雰囲気下結晶格子体積v=a×b×cより算出され、空気雰囲気下結晶格子体積v=a×b×cより算出され得る。La0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.93−δの場合、還元雰囲気下結晶格子体積v=250.1(Å)となり、空気雰囲気下結晶格子体積v=248.1(Å)となる。そして、還元膨張率α=0.81(%)と算出され得る。このようにして、還元雰囲気下格子定数(a,b,c)と空気雰囲気下格子定数(a,b,c)とに基づいて、酸素分離膜用材料の還元膨張率αを算出することができる。
【0032】
このようにして得られた還元膨張率αは、結晶粒オーダーで生じた微小な膨張量(寸法変化)を厳密に反映したものとなるので、従来のTMA(試験片全体の膨張量から還元膨張係数を算出する方法)に比べて、還元膨張率を精度よく求めることができる。また、従来のような棒状の試験片の作製が不要となるため、還元膨張率を簡易に測定できる。さらに、X線を用いて非破壊で測定できるので、測定後の酸素分離膜用材料を廃棄しなくてもよい。このため、かかる還元膨張率測定方法を、酸素分離膜の製造プロセスに容易に組み込むことができる。
【0033】
次に、実際に、上述した還元膨張率測定方法の実施を包含する酸素分離膜の製造方法について説明する。
【0034】
ここに開示される方法は、上記のとおり、酸素分離膜に用いられる酸素分離膜用材料について、還元雰囲気下でのX線回折測定により得られた還元雰囲気下格子定数(a,b,c)と、空気雰囲気下でのX線回折測定により得られた空気雰囲気下格子定数(a,b,c)とに基づいて、酸素分離膜用材料を検査する検査工程を包含することによって特徴付けられるものであり、その他の条件(酸素分離膜用材料の合成方法や、酸素分離膜用材料をエレメントとして酸素分離膜を構築する方法)は特に制限されない。
【0035】
例えば、酸素分離膜の形状(外形)は特に限定されない。例えば、板状(平面状、球面状等を含む。)、管状(両端が開口した開管状、一端が開口し他端が閉じている閉管状等を含む。)、ハニカム状、あるいはこれらが組み合わさった形状等とすることができる。例えば、燃料電池やGTLに好適に使用し得る板状や膜状のものが特に好適な形状の例として挙げられる。厚さ10mm以下、特に5mm以下、さらに1mm以下の酸素分離膜は、高い酸素透過性能を発揮し易く好ましい。この膜の両側で酸素分圧を異ならせることにより、膜の一方の面から他方の面へと酸素イオンを効率よく透過させることができる。製造される酸素分離膜は緻密であって実質的にガス不透性であることが好ましい。
【0036】
ここに開示される製造方法で用いられる酸素分離膜用材料は、従来の酸素分離膜に用いられる酸素分離膜用材料と同様であればよく特に制限されない。この実施形態では、酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の複合酸化物セラミックス粉末を酸素分離膜用材料として使用する。或いは当該複合酸化物セラミックス粉末から成形された膜状材料を採用してもよい。
【0037】
上記酸化物セラミックスとしては、特定の構成元素のものに限られないが、酸素イオン伝導性と電子伝導性の両方を有する優れた混合伝導体となるような元素で構成されることが好ましい。ここで開示される酸素分離膜材が混合伝導性を有する場合には、酸素分離膜の一方の側(酸素含有ガスが供給される側)と他方の側(酸素分離膜材を透過した酸素イオンが酸素ガスとして酸化される側、あるいは供給された炭化水素ガスと反応する側)とを短絡させるための外部電極や外部回路を用いることなく、一方から他方へと連続的に酸素イオンを透過させることができるとともに、酸素イオンの透過速度を上げることができるため好ましい。
【0038】
この種の酸化物セラミックスとしては、一般式(1):Ln1−xMO3−δで表わされる組成のペロブスカイト型酸化物が好ましい。ここで、式中のLnは、ランタノイドから選択される少なくとも一種(典型的にはランタン(La))である。Aは、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)およびカルシウム(Ca)のうちの1種または2種以上の元素であり、特に好ましくはSrである。また、Mは、ペロブスカイト型構造を構成し得る金属元素であり、例えばマグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe、銅(Cu)、インジウム(In)、錫(Sn)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、スカンジウム(Sc)およびイットリウム(Y)のうちの1種または2種以上である。
【0039】
また、上記一般式(1)における「x」は、このペロブスカイト型構造においてLn(典型的にはLa)がAによって置き換えられた割合を示す値である。このxの取り得る範囲は、ペロブスカイト型構造を崩すことなく該構造を維持し得る限りにおいて特に限定されないが、0≦x<1が適当であり、好ましくは0.4≦x≦0.6である。なお、上記δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。上記一般式における酸素原子数は、ペロブスカイト型構造の一部を置換する原子の種類および置換割合その他の条件により変動するため正確に表示することが困難である。このため、電荷中性条件を満たすように定まる値として、1を超えない正の数δ(0<δ<1)を採用し、酸素原子数を3−δと表示する。
【0040】
上記ペロブスカイト型酸化物は、予め所定の組成に調製されている市販のペロブスカイト型酸化物を用いることができる。あるいは、製造しようとするペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素を含む酸化物あるいは加熱により酸化物となり得る化合物(当該金属原子の炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、オキシハロゲン化物等)がそれぞれ該ペロブスカイト型酸化物の組成比に対応するような配合比で配合されたものを出発原料(粉末)とし、これを焼成(仮焼)することにより得られたものを上記酸素分離膜用の材料として用いることもできる。
【0041】
ここで、上記酸素分離膜用材料(ペロブスカイト型酸化物)としては、酸素イオンが透過した側が還元雰囲気となるため、そのような雰囲気で且つ高温域で使用する際にもクラック(割れ)が発生し難い還元耐久性が求められている。かかる還元耐久性は、酸素分離膜用材料を構成する金属元素の比率や、酸素分離膜用材料を合成するときの合成条件(焼成時間や焼成温度等の合成条件)によって容易に変わるため、酸素分離膜製造時には材料の還元耐久性を事前に検査しておくことが望ましい。しかしながら、従来のTMAによる検査では、検査のたびに棒状の試験片を作製する必要があり、作業時間と手間がかかる。また、検査後の試験片を再利用できないので、ミリオーダーの材料が無駄となる。さらに、ロット毎のサンプリング抽出であるため、個々の薄膜が本当に所要の還元耐久性を有するものであるかどうかは確認することができない等の問題があった。
【0042】
そこで、本構成においては、まず、酸素分離膜に用いられるセラミックス材料(ペロブスカイト型酸化物;典型的には粉末状材料若しくは膜状に形成した後の材料)について、X線回折を用いて還元膨張率αを測定し、その測定された還元膨張率αに基づいてセラミックス材料が良品であるか否かを判定する。そして、その判定において良品とされたセラミックス材料を用いて構成された酸素分離膜を採用する。例えば、上記セラミックス材料としての粉末状材料を用意して該材料の還元膨張率を測定した場合には、上記判定において良品とされた粉末状材料を用いて(換言すれば不良と判定された材料は使用しないで)酸素分離膜を作製するとよい。
【0043】
例えば、本発明者の検討によると、製造に用いられるセラミックス材料(ペロブスカイト型酸化物)の還元膨張率が凡そ0.60%を上回ると、該セラミックス材料を用いて構築された酸素分離膜の還元耐久試験においてリークが発生し易くなることが分かった。即ち、還元膨張率が凡そ0.60%を上回るようなセラミックス材料を用いて構築された酸素分離膜では、還元雰囲気下で生じた応力により膜の破壊が進行する可能性が高いと考えられる。この場合、例えば、製造に用いられるセラミックス材料について、X線回折を用いて還元膨張率αを測定し、その測定された還元膨張率が0.50%以下の場合にセラミックス材料を良品として判定し、当該還元膨張率が0.50%を上回る場合にセラミックス材料を不良とするとよい。そして、その判定において良品とされたセラミックス材料のみを用いた酸素分離膜を採用するとよい。
【0044】
なお、上記セラミックス材料を用いて酸素分離膜を構築する方法は特に限定されず、従来公知の種々の手法を採用することができる。一好適例としては、まず、上記ペロブスカイト型酸化物からなるセラミックス材料粉末を適当なバインダー、分散剤、可塑剤、溶媒等と混合してスラリーを調製し、スプレードライヤ等の造粒機を用いて所望する粒径(例えば平均粒径が10μm〜100μm)に造粒する。次いで、得られた造粒粉末を一軸圧縮成形、静水圧プレス(CIP)その他のプレス成形のような従来公知の成形法を用いて加圧成形し、所定形状の成形体を形成する。そして、得られた成形体を適当な温度で焼成し、得られた焼結体を加工する(例えば機械的研磨を施す)することによって、例えば膜厚が5mm以下、好ましくは1mm以下のような薄膜状の酸素分離膜を製造することができる。
【0045】
なお、必要に応じて、酸素分離膜(例えば薄板状の酸素分離材を含む。)の表面の触媒を付着させて酸素分離性能及び/又は酸素イオンによる酸化反応性を向上させることができる。例えば、酸素分離膜の空気を送り込む側(以下「空気側」という。)の表面に、酸素イオンの透過を促進する触媒が付着した構成とすることができる。かかる酸素イオン透過触媒としては(LaSr1−x)M’O(ただし)、0.1≦x<1であり、M’はCo,Cu,Fe,Mnから選択される一種以上である)を含むものが好ましく用いられる。このような酸素イオン促進触媒を含む酸素分離膜は、酸素分離装置や種々の酸化対象ガスを酸化するための酸化用反応装置(例えば炭化水素部分酸化用反応装置)等に好ましく試用することができる。
【0046】
また、酸素分離膜の他の面側、即ち透過した酸素イオンを対象ガス(例えばメタンのような燃料ガス)と酸化反応させる側(以下「反応側」という。)の表面には、酸化反応を促進する触媒が付着した構成とすることができる。かかる酸化反応促進触媒としては、Ni,Rh,Ag,Au,Bi,Mn,V,Pt,Pd,Ru,Cu,Zn,Co,Cr,Fe,In−Pr混合物およびIn−Sn混合物からなる群から選択される少なくとも一種の金属及び/又は金属酸化物を含有する化合物のような従来公知の酸化触媒及び/又は脱水素触媒などを用いることができる。これらのうち、ニッケル触媒またはロジウム触媒を好ましく用いることができる。
【0047】
酸素分離膜の表面に上記のような触媒を付着させる方法は特に限定されない。例えば、触媒粉末を含むスラリーを調製し、このスラリーを酸素分離膜(緻密な焼結体)の表面に塗布して乾燥させることにより目的の触媒を付着(コーティング)させることができる。その後に付着触媒粉末をさらに焼成することによって酸素分離膜の表面に担持させてもよい。なお、かかる酸素イオン透過促進触媒や酸化反応促進触媒を付与する方法自体は従来公知の方法であればよく特に本発明を特徴付けるものではないためこれ以上の詳細な説明は省略する。
【0048】
本実施形態の製造方法によれば、酸素分離膜用材料の還元膨張率をX線回折により測定し、その測定された還元膨張率に基づいて材料が良品であるか否かを判定し、その判定において良品とされた材料を用いた酸素分離膜を採用するので、所望の還元耐久性を満たす高品質な酸素分離膜を効率よく提供できる。また、X線を用いて非破壊で検査できるため、従来のようなロット毎のサンプリング抽出を行う必要がなく、予め製造しておいた膜状材料(酸素分離膜として作製したものを包含する。)の全件検査(還元耐久性の評価)を行うこともできる。そのため、不良品のみを廃棄してコスト削減を図るとともに、信頼性の高い酸素分離膜を製造することができる。
【0049】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0050】
<X線回折を用いた還元膨張率の測定>
酸素分離膜材料粉末として、組成が異なる5種類のペロブスカイト型酸化物セラミックス粉末(下記表2参照)を用意し、それぞれ還元雰囲気下において粉末X線回折測定を行った。具体的には、X線回折測定装置のチャンバ内に収容された試料(ペロブスカイト型酸化物セラミックス粉末)を1000℃に加熱した。かかる温度条件下でチャンバ内に水素(4vol%)と窒素(96vol%)との混合ガスを凡そ100mL/分の流量で供給し、チャンバ内の酸素分圧が10−24MPaとなるように調節した。そして、得られた回折パターンにリートベルト法を適用することによって還元雰囲気下格子定数(a,b,c)を導出した。なお、上記X線回折測定条件としては、Rigaku RINT2000を用いて(X 線源にCuKα(波長0.154nm)を使用)、2θ=20°〜70°の範囲でステップ幅0.02°、ステップ時間2sに設定した。
【0051】
また、上記5種類のペロブスカイト型酸化物セラミックス粉末について、それぞれ空気雰囲気下において粉末X線回折測定を行った。具体的には、X線回折測定装置のチャンバ内に収容された試料(ペロブスカイト型酸化物セラミックス粉末)を1000℃に加熱した。かかる温度条件下でチャンバ内に空気組成ガスを凡そ100mL/分の流量で供給し、チャンバ内の酸素分圧が0.02MPaとなるように調節した。そして、得られたX線回折パターンにリートベルト法を適用することによって空気雰囲気下格子定数(a,b,c)を導出した。使用した5種類のペロブスカイト型酸化物セラミックス粉末は、何れも斜方晶であり、空間群はPbnm62となった。一例として、La0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.93−δを用いた場合のX線回折パターンを図2に示す。図2中、x1は還元雰囲気下の回折パターンであり、x2は空気雰囲気下の回折パターンである。また、回折パターンx1、x2から導出された還元雰囲気下格子定数(a,b,c)及び空気雰囲気下格子定数(a,b,c)を表1に示す。なお、空気雰囲気下のX線回折測定条件としては、チャンバ内に空気組成ガスを導入したこと以外は上述した還元雰囲気下と同じ条件に設定した。
【0052】
上記得られた還元雰囲気下格子定数(a,b,c)と空気雰囲気下格子定数(a,b,c)とから前述した(1)式に従って還元膨張率αを算出した。その結果を表2に示す。表2に示すように、使用した5種類のペロブスカイト型酸化物セラミックス粉末の還元膨張率は、互いに異なるものとなった。
【0053】
【表2】

【0054】
<TMAを用いた還元膨張率の測定>
さらに、参考のために、上述した5種類のペロブスカイト型酸化物セラミックス粉末について、示差膨張方式(TMA)に基づく熱膨張係数(室温(25℃)〜1000℃の間の平均値))を測定した。ここで、TMAによる還元膨張率は、25℃〜1000℃の間での還元雰囲気中(水素(5vol%)と窒素(95vol%)との混合ガス雰囲気中)における熱膨張率(%)をEred、空気(大気)中における熱膨張率(%)をEairとしたとき、以下の式より求められる値である。
【0055】
TMAによる還元膨張率(%)=[{(1+Ered/100)−(1+Eair/100)}/(1+Eair/100)]×100

【0056】
<酸素分離膜の作製>
上述したペロブスカイト型酸化物セラミックス粉末に、適当量の一般的なバインダーと溶剤(水)を混合してスラリーを調製し、スプレードライヤ等の造粒機を用いて粒径が約50μmの粒子に造粒した。かかる造粒粒子をプレス成形し、直径約30mm、厚さ約4mmの円板形状のプレス成形体を得た。得られたプレス成形体を大気中凡そ1400℃で6時間焼成することにより上記成形体を焼成した。こうして本実施例に係る焼結体を得た。
【0057】
<モジュールの製造と還元耐久性の評価>
以上のようにして得られた円板形状の焼結体を用いて図3に示す還元耐久性評価用モジュール50を作製した。即ち、上記円板形状の焼結体を機械研磨して厚みが0.5mmの酸素分離膜(直径30mm)30を作製した。次いで、得られた酸素分離膜30の一方の面(反応側)の表面30aには、酸素反応促進触媒としてのNi酸化物をコーティングした。さらに、他方の面(空気側)の表面30bには、酸素イオン透過促進触媒としてLaSrCo酸化物をコーティングした。
【0058】
そして、図3に模式的に示すように、触媒付き酸素分離膜30を、一方の面30aの反応側(図の上側)、他方の面が空気側(図の下側)となるようにして、当該反応(燃料)側のアルミナ製円筒管32及び空気側のアルミナ製円筒管34の間に挟んで配置した。これらアルミナ製円筒管32,34と酸素分離膜30との接触部分はガラス系シール部材35によって密閉した。また、反応側及び空気側のアルミナ製円筒管32,34の内部には、それぞれ、燃料ガス(ここではCHガス)供給用のアルミナ内管36及び空気(Air)供給用のアルミナ内管38を設置した。また、アルミナ製円筒管32,34の外方にはヒータ40を設置した。
【0059】
このように構築されたモジュール50において、ヒータ40により内部を約1000℃まで加熱した。そして先ず、反応側のアルミナ内管36から混合ガス(水素5%+窒素95%)を導入してNi酸化物を還元した。次いで、このアルミナ内管36から純メタンガスを10mL/分〜200mL/分で導入し、空気側のアルミナ内管38からは空気を10mL/分〜500mL/分で導入した。この試験を3〜10時間連続して行った。この間に反応側のアルミナ製円筒管32から放出された合成ガスをガスクロマトグラフで測定し、ガスクロマトグラフによる組成測定から合成ガス中に含有する窒素量を測定した。そして、合成ガス全体に含まれる窒素量の割合をリーク率(%)とし、酸素分離膜の還元耐久性を評価した。ここで3〜10時間でリーク率が1%以下のものを良好(○)、3時間以内のリーク率が1%を超えて3%以下のものを適(△)、3時間以内のリーク率が3%を超えたものを不適(×)とした。なお、メタンガス流入前の段階ではリーク率は1%以下であった。即ち還元応力により膜の破壊が進行するとリークの割合が増大することを反映している。
【0060】
結果を表2の該当欄に示す。この結果から明らかなように、本実施例により得られた還元膨張率と還元耐久性との間に一定の相関があることが確かめられた。具体的には、酸素分離膜材料の還元膨張率が減少するに従い、膜の還元耐久性が向上することが確認された。特に還元膨張率が0.50%以下になると、ガスリークが1%以下となり、高い還元耐久性が得られた。この結果から、本発明を適用して酸素分離膜用材料の還元耐久性を検査する場合には、凡そ0.50%を材料の良否判定の閾値にすればよいことが確かめられた。
【0061】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【0062】
例えば、上述した例では、酸素分離膜材料を粉末状にしてX線回折測定を行う場合を例示したが、これに限定されない。例えば、材料粉末を膜状にして(典型的には酸素分離膜を構築してから)、その膜に対してX線回折測定を行ってもよい。この場合、実際の使用形態(酸素分離膜)と同じ形態で測定できるので、より的確な還元膨張率が得られる。
【0063】
また、本発明により得られる還元膨張率は、酸素分離膜材料の還元耐久性を相対的に評価する指標となり得るものであればよく、種々の改変が可能である。例えば、上述した例では、酸素分離膜材料(ペロブスカイト型酸化物セラミックス)の結晶構造が斜方晶であり、前述した(1)式を用いて結晶格子の体積変化から還元膨張率αを算出する場合を例示したが、これに限定されない。例えば、酸素分離膜材料が等方的または異方的な還元膨張を示す場合には、格子定数の一軸の寸法(長さ)変化から還元膨張率α’=[(a−a)/a]×100を算出してもよい。ここで、a:還元雰囲気下格子定数の所定軸の一辺の長さ、a:空気雰囲気下格子定数の所定軸の一辺の長さである。この場合でも、酸素分離膜材料の還元耐久性を相対的に評価する指標を得ることができる。
【0064】
なお、本発明によって製造される酸素分離膜の一形態として、酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の複合酸化物セラミックスから成る酸素分離膜の少なくとも一方の面側に、この複合酸化物セラミックス(酸素分離膜)を機械的に支持する多孔質支持体を備える構成としてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 X線発生源
12 検査器
14 X線
16 試料
16a 試料面
18 X線
20 X線回折測定装置
22 チャンバ
24 加熱装置
26 還元性ガス
30 酸素分離膜
32、34 アルミナ製円筒管
35 ガラス系シール部材
36、38 アルミナ内管
40 ヒータ
50 還元耐久性評価用モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素分離膜用材料の還元膨張率を測定する方法であって、
測定対象となる材料について還元雰囲気下でX線回折測定を行い、その材料の還元雰囲気下における還元雰囲気下格子定数を求める工程と、
前記材料について空気雰囲気下でX線回折測定を行い、その材料の空気雰囲気下における空気雰囲気下格子定数を求める工程と、
前記得られた還元雰囲気下格子定数と空気雰囲気下格子定数とに基づいて、前記材料の還元膨張率を算出する工程と
を包含する、還元膨張率測定方法。
【請求項2】
前記材料を粉末状または膜状にして前記X線回折測定を行う、請求項1に記載の還元膨張率測定方法。
【請求項3】
前記還元雰囲気として、少なくとも水素を含む還元性ガス雰囲気を形成する、請求項1または2に記載の還元膨張率測定方法。
【請求項4】
酸素分離膜を製造する方法であって、
酸素分離膜用材料を用意し、該材料の還元膨張率を、請求項1〜3のいずれかに記載の方法により測定すること、
前記測定された還元膨張率に基づいて前記材料が良品であるか否かを判定すること、および、
前記判定において良品とされた材料を用いて構成された酸素分離膜を採用すること
を包含する、酸素分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記判定において前記材料の還元膨張率が0.50%以下のときに良品と判定する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸素分離膜用材料は、酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスから成る材料である、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
酸素分離膜を検査する方法であって、請求項1〜3のいずれかに記載の方法により酸素分離膜の還元膨張率を測定し、得られた還元膨張率に基づいて該酸素分離膜の還元耐久性を検査することを特徴とする、酸素分離膜の検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−220776(P2011−220776A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88834(P2010−88834)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】