説明

酸素化物の合成方法、触媒、及び反応装置

【課題】合成ガスを原料とする触媒反応によって、酸素化物を高い選択率で合成できる触媒、該触媒を使用した酸素化物の合成方法、及び該触媒を備えた合成装置の提供。
【解決手段】(1) 水素および一酸化炭素を含む混合ガスを、触媒に接触させて、酸素化物を合成する方法であって、前記触媒が、ロジウム、ホウ素、及びアルカリ金属を含有することを特徴とする、酸素化物の合成方法。(2)前記触媒において、ホウ素のモル数≧ロジウムのモル数であることを特徴とする、(1)に記載の酸素化物の合成方法。(3)触媒2が内部に配された反応管1を備え、反応管1には、ガス導入口3およびガス排出口4が設けられていることを特徴とする反応装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素化物の合成方法、触媒、及び反応装置に関する。より詳しくは、水素および一酸化炭素を含む混合ガスを原料とし、触媒反応によって、酸素化物を合成する方法、該方法に使用しうる触媒、及び該触媒を備えた反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素と水素の混合ガス(合成ガス)は、C1化学における重要な原料の一つである。合成ガスは天然ガス、石炭、バイオマス等の石油以外の資源から得られるため、石油依存を脱却する化学として従来から研究が盛んである。近年では、バイオマスを有効利用するC1化学は、COの排出を低減し、地球温暖化を改善するとともに、持続可能な工業文明の構築にも資するものとして期待されている。
【0003】
従来、ロジウムおよびアルカリ金属を含む触媒に、合成ガスを接触させることによって、酸素化物である、エタノール、酢酸、アセトアルデヒドを合成する方法が知られている(特許文献1〜2参照)。
しかし、開示された触媒による酸素化物の生成比率に着目すると、アセトアルデヒド、エタノール、酢酸のいずれもが、同程度の比率で含まれるため、一つの成分を単離するための工程に時間やエネルギーが多く必要である問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭61−36730号公報
【特許文献2】特公昭61−36731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、合成ガスを原料とする触媒反応によって、酸素化物を高い選択率で合成でき、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率が高い触媒、該触媒を使用した酸素化物の合成方法、及び該触媒を備えた合成装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載の酸素化物の合成方法は、水素および一酸化炭素を含む混合ガスを、触媒に接触させて、酸素化物を合成する方法であって、前記触媒が、ロジウム、ホウ素、及びアルカリ金属を含有することを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の酸素化物の合成方法は、請求項1において、前記触媒において、ホウ素のモル数≧ロジウムのモル数であることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の酸素化物の合成方法は、請求項1又は2において、前記酸素化物が酢酸であることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の酸素化物の合成方法は、請求項1〜3のいずれか一項において、生成される炭素数2の前記酸素化物に含まれる酢酸の比率が50モル%以上であり、前記触媒中のロジウム:ホウ素のモル比が1:1〜1:5の範囲であり、前記触媒中のロジウム:アルカリ金属のモル比が1:0.1〜1:1の範囲であり、前記触媒中のホウ素:アルカリ金属のモル比が1:0.02〜1:1の範囲であること、を特徴とする。
本発明の請求項5に記載の酸素化物の合成方法は、請求項1〜4のいずれか一項において、前記混合ガスを前記触媒に接触させる際の温度が、150〜450℃の範囲であることを特徴とする。
本発明の請求項6に記載の酸素化物の合成方法は、請求項1〜5のいずれか一項において、前記混合ガスを前記触媒に接触させる際の圧力が、0.5MPa〜10MPaの範囲であることを特徴とする。
本発明の請求項7に記載の酸素化物の合成方法は、請求項1〜6のいずれか一項において、前記触媒が担持触媒であることを特徴とする。
本発明の請求項8に記載の酸素化物の合成方法は、請求項7において、前記担持触媒の担体が、シリカであることを特徴とする。
本発明の請求項9に記載の触媒は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の酸素化物を合成する方法に使用する触媒であって、ロジウム、ホウ素、及びアルカリ金属を含有することを特徴とする。
本発明の請求項10に記載の触媒は、請求項9において、ホウ素のモル数≧ロジウムのモル数であることを特徴とする。
本発明の請求項11に記載の触媒は、請求項10において、前記酸素化物が酢酸であることを特徴とする。
本発明の請求項12に記載の触媒は、請求項9〜11のいずれか一項において、前記触媒中のロジウム:ホウ素のモル比が1:1〜1:5の範囲であり、前記触媒中のロジウム:アルカリ金属のモル比が1:0.1〜1:1の範囲であり、前記触媒中のホウ素:アルカリ金属のモル比が1:0.02〜1:1の範囲であること、を特徴とする。
本発明の請求項13に記載の触媒は、請求項9〜12のいずれか一項において、前記触媒が担持触媒であることを特徴とする。
本発明の請求項14に記載の触媒は、請求項9〜13のいずれか一項において、前記担持触媒の担体が、シリカであることを特徴とする。
本発明の請求項15に記載の反応装置は、請求項9〜14のいずれか一項に記載の触媒が内部に配された反応管を備え、前記反応管には、ガス導入口およびガス排出口が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の酸素化物の合成方法によれば、酸素化物を高い選択率で合成でき、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を高められる。また、副生成物の発生を低減できる。さらに、CO転化率を高められる。
本発明の触媒を、混合ガスから酸素化物を合成する際の触媒反応に使用すれば、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を高められる。また、副生成物の発生を低減できる。さらに、CO転化率を高められる。
本発明の装置を、混合ガスを原料とする酸素化物の合成に使用すれば、反応管の内部に配された触媒による触媒反応によって、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を高められる。また、副生成物の発生を低減できる。さらに、CO転化率を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明にかかる反応装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳しく説明する。
<酸素化物の合成方法>
本発明の酸素化物の合成方法は、水素および一酸化炭素を含む混合ガスを、触媒に接触させて、酸素化物を合成する方法であって、前記触媒が、ロジウム、ホウ素、及びアルカリ金属を含有する方法である。
前記触媒が、これらの金属を含有することによって、酸素化物を高い選択率で合成できる。つまり、酸素化物を主成分(選択率50モル%以上)として合成できる(ただし、水は生成物とみなさない。)また、前記触媒がこれらの金属を含有することによって、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を高められる。
【0010】
前記混合ガスにおける水素ガスと一酸化炭素との混合比(体積比)は、水素ガス:一酸化炭素ガス=5:1〜1:5の範囲が好ましく、3:1〜1:2の範囲がより好ましく、2.5:1〜1:1の範囲がさらに好ましい。
上記範囲であると、酸素化物を高い選択率で合成でき、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を高められる。さらに、副生成物の発生を低減でき、CO転化率を高められる。
【0011】
本発明において、「選択率」とは、「合成ガス中の消費されたCOのモル数のうち、特定の酸素化物へ変換されたCのモル数が占める百分率」を意味する。例えば、以下の反応式(A)によれば、酸素化物である酢酸の選択率は100モル%である。一方、以下の反応式(B)によれば、酸素化物である酢酸の選択率は50モル%であり、酸素化物であるアセトアルデヒドの選択率も50モル%である。
(A)2H+2CO → CHCOOH
(B)5H+4CO → CHCOOH+CHCHO+H
【0012】
また、「CO転化率」とは、「合成ガス中のCOのモル数のうち、消費されたCOのモル数が占める百分率」を意味する。
【0013】
前記触媒は、ロジウム、ホウ素、及びアルカリ金属を含有するものである。
前記触媒中の金属は、合金を形成していてもよく、形成していなくてもよい。これら金属は、前記混合ガスとの接触面積が大きくなる状態であることが好ましい。例えば、金属を粉体にしたもの、金属を多孔性の担体の表面および細孔内に担持させて担持触媒にしたもの等が挙げられる。
前記担持触媒の担体としては、シリカ、チタニア、アルミナ、セリア等が挙げられるが、触媒反応の選択率を高める観点、CO転化率を高める観点、比表面積や細孔径が異なる種々の製品が市場で調達できることから、シリカが好ましい。
【0014】
前記アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等が挙げられる。これらのなかでも、触媒反応の選択率を高める観点、生成する炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を高める観点、および副生成物の発生を低減し、CO転化率を高める観点から、リチウムが好ましい。
【0015】
ロジウム、ホウ素、及びアルカリ金属をシリカ等の担体の表面及び細孔内に担持(付着)させる方法としては、いわゆる含浸法が適用できる。より具体的には、ロジウム、ホウ素、及びアルカリ金属の水溶液を調製し、これにシリカを浸漬して、該水溶液をシリカの細孔中に含浸させた後、該シリカを110℃で3時間加熱し、さらに450℃で3時間加熱することによって、行う方法が例示できる。前記水溶液中のロジウム、ホウ素、アルカリ金属の濃度比(質量比)が、前記触媒中のロジウム、ホウ素、アルカリ金属の存在比(質量比)とほぼ同じになる。
前記水溶液を調製する方法としては、例えば、ロジウム塩化物、ホウ酸、アルカリ金属の塩化物をそれぞれ水に溶解して調製することができる。
含浸は、各金属を同時に含浸させてもよいし、別々に水溶液を作製し、逐次含浸させてもよい。また、アルカリ金属は2種類以上を使用してもよい。
また、触媒活性、選択率を向上させるためにその他の元素を助触媒として添加しても良い。
【0016】
ロジウム、ホウ素、及び前記アルカリ金属が各々シリカに担持された担持触媒を、例えばステンレス製の反応管の内部に配することによって、本発明の反応装置とすることができる。反応装置については後述するが、例えば、前記反応管のガス導入口から前記混合ガスを流入することによって、該反応管のガス排出口から酸素化物を含有するガスを得ることができる。
【0017】
前記触媒を内部に配した前記反応管内に、前記合成ガスを流通させる空間速度(単位時間あたり合成ガス流通量÷触媒容量)は、標準状態換算で10h−1〜100000h−1が好ましく、1000〜50000h−1がより好ましく、3000〜20000h−1がさらに好ましい。上記範囲から、目的とする酸素化物に適した反応圧力、反応温度、及び合成ガスの組成に応じて適宜調整すればよい。
【0018】
本発明において、「酸素化物」は、酢酸、エタノール、アセトアルデヒド、メタノール、プロパノール、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチルなどの、炭素原子と水素原子と酸素原子からなる分子を意味する。本発明において、酸素化物は、酢酸、エタノール、及びアセトアルデヒドのうち、何れか一つ以上を含むことが好ましい。
前記混合ガスから前記酸素化物が生成する触媒反応としては、以下の化学式が考えられる。
(1)2H+2CO → CHCOOH
(2)3H+2CO → CHCHO+H
(3)2H+CHCOOH → CHCHOH+H
(4)H+CHCHO → CHCHOH
(5)4H+2CO → CHCHOH+H
【0019】
前記触媒において、ホウ素のモル数≧ロジウムのモル数であることが好ましい。酸素化物を高い選択率で合成でき、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を高められる。また、副生成物の発生を低減できる。さらに、CO転化率を高められる。
【0020】
本発明の酸素化物の合成方法において、得られる全生成物中の酸素化物の選択率を50モル%以上とし、且つ、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を50モル%以上とするためには、前記触媒中のロジウム:ホウ素のモル比を1:1〜1:5の範囲とし、且つ、前記触媒中のロジウム:アルカリ金属のモル比を1:0.1〜1:1の範囲とし、且つ、前記触媒中のホウ素:アルカリ金属のモル比を1:0.02〜1:1の範囲とすることが好ましい。
【0021】
本発明の酸素化物の合成方法において、得られる全生成物中の酸素化物の選択率を60モル%以上とし、且つ、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を60モル%以上とするためには、前記触媒中のロジウム:ホウ素のモル比を1:1〜1:2の範囲とし、且つ、前記触媒中のロジウム:アルカリ金属のモル比を1:0.2〜1:0.5の範囲とし、且つ、前記触媒中のホウ素:アルカリ金属のモル比を1:0.1〜1:0.5の範囲とすることがより好ましい。
【0022】
本発明において、前記混合ガスを前記触媒に接触させる際の温度としては、150〜450℃の範囲が好ましく、200〜400℃の範囲がより好ましく、250〜350℃の範囲がさらに好ましい。
上記範囲とすることにより、高い選択率で酸素化物を得ることができ、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を高められる。さらに、副生成物の発生を低減でき、CO転化率を高められる。
上記範囲の下限値以上とすることにより、触媒反応の速度を充分に高められる。上記範囲の上限値以下とすることにより、酸素化物の生成反応を主反応とすることができる。
【0023】
本発明において、前記混合ガスを前記触媒に接触させる際の圧力としては、0.5MPa〜10MPaの範囲が好ましく、1MPa〜7.5MPaの範囲がより好ましく、2MPa〜5MPaの範囲がさらに好ましい。
上記範囲とすることにより、高い選択率で酸素化物を得ることができ、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を高められる。さらに、副生成物の発生を低減でき、CO転化率を高められる。
上記範囲の下限値以上とすることにより、触媒反応の速度を充分に高められる。上記範囲の上限値以下とすることにより、酸素化物の生成反応を主反応とすることができる。
【0024】
<触媒>
本発明の触媒は、水素および一酸化炭素を含む混合ガスを、触媒に接触させて、酸素化物を合成する方法に使用する触媒であって、ロジウム、ホウ素、及びアルカリ金属を含有するものである。
【0025】
前記混合ガスの説明は、前述の通りである。
前記触媒中のロジウム(Rh)は、前記混合ガスとの接触面積が大きくなる状態であることが好ましい。例えば、ロジウムを粉体にしたもの、ロジウムを多孔性の担体の表面および細孔中に、粒径1〜10nm程度の粒子として担持させて担持触媒にしたもの等が挙げられる。
【0026】
前記触媒中のホウ素(B)は、前記混合ガスとの接触面積が大きくなる状態であることが好ましい。例えば、ホウ素を粉体にしたもの、ホウ素を多孔性の担体の表面および細孔内に、粒径1〜10nm程度の粒子として担持させて担持触媒にしたもの等が挙げられる。
【0027】
前記触媒中のアルカリ金属は、前記混合ガスとの接触面積が大きくなる状態であることが好ましい。例えば、アルカリ金属を粉体にしたもの、アルカリ金属を多孔性の担体の表面および細孔内に、粒径1〜10nm程度の粒子として担持させて担持触媒にしたもの等が挙げられる。
【0028】
前記アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等が挙げられる。これらのなかでも、触媒反応の選択率を高める観点、生成する炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を高める観点、および副生成物の発生を低減し、CO転化率を高める観点から、リチウムが好ましい。
これら金属は、それぞれ単独で存在しても良いし、互いが接触して存在しても良い。また、これら金属の一部または全部が合金を形成していてもよい。
【0029】
前記担持触媒の担体としては、金属触媒の担体として周知のものが使用できるが、比表面積が10〜1000m/gで、多孔質性のものが好ましい。具体的には、シリカ、チタニア、アルミナ、セリア等が挙げられるが、シリカが好ましい。
前記シリカは粒子径(大きさ)の分布が狭いものが好ましい。その平均粒子径は特に制限されないが、例えば、0.5μm〜5000μmのものが適用可能である。
【0030】
ロジウム、ホウ素、及びアルカリ金属をシリカ等の担体の表面および細孔内に担持(付着)させる方法としては、前述の様に、いわゆる含浸法が適用できる。
ロジウム、ホウ素、及びアルカリ金属の各元素の合計の質量と、担体であるシリカとの質量比は、0.0005:1〜0.1:1の範囲が好ましい。
【0031】
ロジウム、ホウ素、及び前記アルカリ金属が各々シリカに担持された担持触媒を、例えばステンレス製の反応管の内部に配することによって、本発明の反応装置とすることができる。反応装置については後述するが、例えば、前記反応管のガス導入口から前記混合ガスを流入させることによって、該反応管のガス排出口から酸素化物を含有するガスを得ることができる。
【0032】
本発明において、「酸素化物」は、酢酸、エタノール、アセトアルデヒド、メタノール、プロパノール、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチルなどの炭素原子と水素原子と酸素原子からなる分子を意味する。本発明において、酸素化物は、酢酸、エタノール、及びアセトアルデヒドのうち、何れか一つ以上を含むことが好ましい。
【0033】
本発明の触媒において、前記触媒中のロジウム:ホウ素のモル比を1:1〜1:5の範囲とし、且つ、前記触媒中のロジウム:アルカリ金属のモル比を1:0.1〜1:1の範囲とし、且つ、前記触媒中のホウ素:アルカリ金属のモル比を1:0.02〜1:1の範囲とすることが好ましい。
上記範囲とすることによって、得られる全生成物中の酸素化物の選択率を50モル%以上とし、且つ、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を50モル%以上とすることができる。
【0034】
本発明の触媒において、前記触媒中のロジウム:ホウ素のモル比を1:1〜1:2の範囲とし、且つ、前記触媒中のロジウム:アルカリ金属のモル比を1:0.2〜1:0.5の範囲とし、且つ、前記触媒中のホウ素:アルカリ金属のモル比を1:0.1〜1:0.5の範囲とすることがより好ましい。
上記範囲とすることによって、得られる全生成物中の酸素化物の選択率を60モル%以上とし、且つ、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を60モル%以上とすることができる。
【0035】
<反応装置>
本発明の反応装置は、前述の本発明にかかる触媒が内部に配された反応管を少なくとも備え、前記反応管には、ガス導入口およびガス排出口が設けられているものである。
前記ガス導入口から前記原料である混合ガスを反応管内に導入し、反応管内において混合ガスと触媒とが接触することによって触媒反応が起き、酸素化物が生成する。この酸素化物を含むガスをガス排出口から回収することによって、酸素化物を得ることができる。
【0036】
前記反応管内に配された触媒中の、ロジウム、ホウ素、及び前記アルカリ金属の分布は、これらの元素が反応管内になるべく均一に配されることが好ましい。すなわち、原料である混合ガスおよび中間生成物を含むガスが、ロジウム、ホウ素、及び前記アルカリ金属に充分接触するように配することが好ましい。
【0037】
具体例として、ロジウム、ホウ素、及び前記アルカリ金属が各々シリカに担持された担持触媒を、ステンレス製の反応管の内部に均一に配することによって、本発明の反応装置とすることができる。前記反応管には、前記混合ガスを流入させるガス導入口と、反応管内の触媒反応によって生成した酸素化物等を含むガスを排出させるガス排出口とが少なくとも設けられている。
【0038】
前記反応管としては、原料ガス及び生成物に対して不活性な材料からなるものが好ましく、100〜500℃程度の加熱、又は10Mpa程度の加圧に耐えうる形状のものが好ましい。例えば、ステンレス製の円筒型(直径1インチ、長さ15インチ)で、その両端にガス導入バルブ及びガス排出バルブが各々備えられたものが挙げられる。
前記反応管を加熱又は加圧する方法は、周知の方法が適用できる。つまり、本発明の反応装置には、電気炉等の温度制御部、マスフロー等のガスの流量を調整するガス流量制御部、圧力弁等の圧力を調整する圧力制御部、などの周知の装置構成が備えられていてもよい。
【0039】
前記反応管の内部に触媒を配する際には、前記混合ガスを流通させる空間速度(単位時間あたり混合ガス流通量×触媒容量)が、標準状態換算で10h−1〜100000h−1の範囲となるようにすることが好ましい。目的とする酸素化物に適した反応圧力、反応温度、及び混合ガスの組成に応じて、より適した空間速度となるように、上記範囲内で適宜調整すればよい。
【実施例】
【0040】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
塩化ロジウム(RhCl・3HO)0.10g、ホウ酸(HBO)0.026g、塩化リチウム(LiCl・HO)0.0070gを精製水2.2mlに溶解させて、水溶液を得た。この水溶液において、ロジウム:ホウ酸=1:1.1、ロジウム:リチウム=1:0.31、ホウ酸:リチウム=1:0.28である。
つぎに、比表面積270m/gのシリカ2.0gに上記水溶液を少しずつ滴下し、含浸させた。水溶液Aを含浸させたシリカを110℃で3時間加熱し、さらに450℃で3時間加熱した。
得られたシリカ担持触媒前駆体1gを直径1インチ、長さ10インチのステンレス製反応管に充填し、常圧で水素−窒素混合ガス(体積比で、H:N=1:2)を30ml/分で流通させながら、350℃で3時間加熱し、水素還元を行った。
240℃まで降温したのち、水素と一酸化炭素の混合ガス(体積比で、H:CO=2:1)を空間速度8000〜15000h−1で流通させ、反応温度303℃、圧力2MPaまで昇温・昇圧した。
約3時間反応を継続させた後、生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した。
得られたデータからCO転化率(モル%)、各成分の選択率(モル%)を計算した。この結果を表1に示す。
【0042】
ここで、「選択率」の定義は、前述のとおり、「合成ガス中の消費されたCOのモル数のうち、特定の酸素化物へ変換されたCのモル数が占める百分率」である。
「CO転化率」とは、「合成ガス中のCOのモル数のうち、消費されたCOのモル数が占める百分率」である。
【0043】
[比較例1]
塩化ロジウム(RhCl・3HO)0.10gのみを使用し、ホウ酸、および塩化リチウムを使用しない以外は、実施例1と同様に行った。
その結果を、表1に併記する。
【0044】
[比較例2]
塩化ロジウム(RhCl・3HO)0.10g、および塩化リチウム(LiCl・HO)0.043gを使用し、ホウ酸を使用しない以外は、実施例1と同様に行った。
その結果を、表1に併記する。
【0045】
[比較例3]
塩化ロジウム(RhCl・3HO)0.10g、ホウ酸(HBO)を0.0048gを使用し、塩化リチウムを使用しない以外は、実施例1と同様に行った。
その結果を、表1に併記する。
【0046】
【表1】

【0047】
表1の結果から、得られた炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸の比率を求めた。また、全生成物のうち、得られた全酸素化物の選択率を求めた。これらの結果を表2に併記する。
【0048】
【表2】

【0049】
以上の結果から、本発明によれば、酸素化物を選択率60%以上という高い選択率で合成でき、生成される炭素数2の酸素化物に含まれる酢酸が74モル%以上という高い比率で合成できることが明らかである。また、副生成物である炭化水素の発生を低減できること、およびCO転化率高いことも明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の酸素化物の合成方法、触媒、及び該触媒は、合成ガスから工業的に有用な酸素化物を製造するために広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…反応管、2…触媒、3…ガス導入口、4…ガス排出口、10…反応装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素および一酸化炭素を含む混合ガスを、触媒に接触させて、酸素化物を合成する方法であって、
前記触媒が、ロジウム、ホウ素、及びアルカリ金属を含有することを特徴とする、酸素化物の合成方法。
【請求項2】
前記触媒において、ホウ素のモル数≧ロジウムのモル数であることを特徴とする請求項1に記載の酸素化物の合成方法。
【請求項3】
前記酸素化物が酢酸であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸素化物の合成方法。
【請求項4】
生成される炭素数2の前記酸素化物に含まれる酢酸の比率が50モル%以上であり、
前記触媒中のロジウム:ホウ素のモル比が1:1〜1:5の範囲であり、
前記触媒中のロジウム:アルカリ金属のモル比が1:0.1〜1:1の範囲であり、
前記触媒中のホウ素:アルカリ金属のモル比が1:0.02〜1:1の範囲であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸素化物の合成方法。
【請求項5】
前記混合ガスを前記触媒に接触させる際の温度が、150〜450℃の範囲であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸素化物の合成方法。
【請求項6】
前記混合ガスを前記触媒に接触させる際の圧力が、0.5MPa〜10MPaの範囲であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸素化物の合成方法。
【請求項7】
前記触媒が担持触媒であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の酸素化物の合成方法。
【請求項8】
前記担持触媒の担体が、シリカであることを特徴とする、請求項7に記載の酸素化物の合成方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の酸素化物を合成する方法に使用する触媒であって、ロジウム、ホウ素、及びアルカリ金属を含有することを特徴とする触媒。
【請求項10】
ホウ素のモル数≧ロジウムのモル数であることを特徴とする請求項9に記載の触媒。
【請求項11】
前記酸素化物が酢酸であることを特徴とする請求項10に記載の触媒。
【請求項12】
前記触媒中のロジウム:ホウ素のモル比が1:1〜1:5の範囲であり、
前記触媒中のロジウム:アルカリ金属のモル比が1:0.1〜1:1の範囲であり、
前記触媒中のホウ素:アルカリ金属のモル比が1:0.02〜1:1の範囲であることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項13】
前記触媒が担持触媒であることを特徴とする、請求項9〜12のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項14】
前記担持触媒の担体が、シリカであることを特徴とする、請求項13に記載の触媒。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか一項に記載の触媒が内部に配された反応管を備え、前記反応管には、ガス導入口およびガス排出口が設けられていることを特徴とする反応装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−111693(P2012−111693A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259228(P2010−259228)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】