説明

酸素同位体の濃縮方法

【課題】半導体レーザを用いた特定の酸素同位体を濃縮する方法において、オゾンを使用する場合に、より安全性を高めた酸素同位体の濃縮方法を提供する。
【解決手段】オゾンを含む混合流体が液化/気化する際に、オゾンが液相において局所的に濃縮されるのを防ぐため、白金粉末などの触媒を充填した低温分解槽にて、前記混合流体中の半量程度のオゾンを分解し、ついで全量気化したあと、室温において通常のオゾン分解触媒にて分解するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザを用いた酸素同位体を濃縮する方法に関し、より安全性を高めた酸素同位体の濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学や医学の分野で、トレーサーとして利用されている酸素同位体の17Oや18Oは、自然界における存在比が極めて小さいため、使用に際しては、これらを濃縮する必要がある。
酸素同位体を濃縮する方法には、例えば蒸留を用いた方法がある(特許文献1、2)。これらの方法は、レーザ光を利用した光反応によるオゾンの分解反応を利用して、存在比が極めて小さな酸素の安定同位体である17Oや18Oを選択的に濃縮するものである。
【0003】
特許文献1、2に開示された方法は、いずれも、
(A)酸素を原料として、その一部をオゾンに変換し、オゾン−酸素系の混合流体を得る工程、
(B)オゾン−酸素混合流体に希釈ガスを加えてオゾン−酸素−希釈ガス混合流体とし、オゾン−酸素−希釈ガス混合流体を蒸留して、オゾン−希釈ガス流体混合流体を分離する工程、
(C)オゾン−希釈ガス混合流体に特定波長の半導体レーザ光を照射し、特定の酸素同位体を含むオゾンを選択的に分解し、酸素を発生させる工程、
(D)オゾン−酸素−希釈ガスの混合流体から酸素を蒸留分離し、もって当該酸素同位体が濃縮された酸素を得る工程、
(E)工程(D)から排出されるオゾン−希釈ガス系混合流体中のオゾンを分解する工程、
(F)オゾン−希釈ガス系混合流体から希釈ガスを回収する工程、
から構成される半導体レーザを用いた酸素同位体の濃縮方法である。
【0004】
特許文献1には、蒸留操作におけるオゾン濃度を爆発下限界未満にする方法として、希ガスで希釈する方法が開示されている。また、特許文献2には、希ガスの替わりにCFを用いる方法が開示されている。
特許文献1では、プロセス流体としてオゾン−酸素−希ガス系を使用しており、また特許文献2では、オゾン−酸素−CF系を使用しており、いずれの系についても、オゾンは最も沸点の高い成分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-040668
【特許文献2】特開2006-272090
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記オゾン−酸素−希釈ガス(希ガスもしくはCF)混合流体は、液化する際にはオゾンが最も液化し易く、気化する際にはオゾンが最も気化し難い。よって、オゾン−酸素−希釈ガス混合流体は、液化/気化の操作を伴うプロセスにおいて、液相にオゾンが濃縮されやすい。オゾンは自己分解爆発性の物質であるため、このような操作において、混合流体中のオゾン濃度が爆発下限界を超えないように制御する必要がある。
【0007】
前記工程(E)は、例えば、以下の2つの工程で構成することができる。
(E’)工程(D)において蒸留塔下部から排出されたオゾン−希釈ガス混合流体を気化させる工程
(E’’)気化させたオゾン−希釈ガス混合流体中のオゾンを全て分解し、酸素−希釈ガス混合流体とする工程
このような工程(E’)においては、液化した混合流体を気化させる際に、希釈ガスの方がより蒸発し易く、液中のオゾン濃度が上昇する恐れがある。あるいは、緊急時など装置が停止した際に、蒸留塔から混合液を蒸発させて排出する必要が生じた場合、過渡的に混合液のオゾン濃度が大きく上昇する恐れがある。
【0008】
このようなオゾン濃度上昇の対策として、例えば、仕込み時のオゾン濃度を低くし、各工程でオゾン濃度を測定管理する方法が考えられる。しかし、仕込み時のオゾン濃度を低くし過ぎると、前記工程(C)における光吸収が小さくなり、同位体濃縮効率が低下する問題が起きる。すなわち、オゾン濃度の管理値は、安全率と製造効率のトレードオフによって設定することになるため、安全率を上げすぎると収率が下がるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記工程(E’)での気化においては、局所的な液中のオゾン濃度上昇が考えられる。よって、気化操作前に、混合流体中のオゾン濃度を低くすることができれば、安全性を高めることが可能になる。
【0010】
本発明は、以下の工程(A)〜(F)を含む半導体レーザを用いた酸素同位体を濃縮する方法であって、工程(E)が、液体状態のオゾン−希釈ガス混合流体中の少なくとも一部のオゾンを低温用オゾン分解触媒にて分解しオゾン−希釈ガス−酸素混合流体を得る工程(E−1)、前記オゾン−希釈ガス−酸素混合流体を気化する工程(E−2)、気化したオゾン−希釈ガス−酸素混合流体中のオゾンを分解塔にて完全に酸素に分解する工程(E−3)とを含むことを特徴とする酸素同位体の濃縮方法である。
(A)酸素を原料として、その一部をオゾンに変換し、オゾン−酸素混合流体を得る工程
(B)前記オゾン−酸素混合流体に希釈ガスを加えてオゾン−酸素−希釈ガス混合流体とし、該混合流体を蒸留して、オゾン−希釈ガス混合流体と酸素とに分離する工程(蒸留操作1)
(C)前記オゾン−希釈ガス混合流体に特定波長の半導体レーザ光を照射し、目的の酸素同位体を含むオゾンを選択的に分解し、酸素を発生させる工程
(D) オゾン−酸素−希釈ガス混合流体から酸素を蒸留分離し、目的の酸素同位体が濃縮された酸素を得る工程(蒸留操作2)
(E)工程(D)で排出されるオゾン−希釈ガス混合流体中のオゾンを分解する工程
(F)オゾン−希釈ガス系混合流体から希釈ガスを回収する工程
【0011】
前記希釈ガスは、Kr、Xe、Rn、CHF3あるいはCF4であることが好ましい。
【0012】
前記低温用オゾン分解触媒は、白金粉末あるいはパラジウム粉末であることが好ましい。
【0013】
このとき、前記低温用オゾン分解触媒を、あらかじめ冷却しておき、オゾン−酸素−希釈ガス混合流体を導入する際の気化を抑えることが好ましい。
【0014】
このときの冷却方法は、前記希釈ガスを液化したものを触媒を充填した容器に入れて低温保持することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、半導体レーザを用いた酸素同位体の濃縮方法において、系内の混合流体にオゾンを含む場合、前記混合流体の液化/気化によって、液相のオゾン濃度が局所的に上昇することを回避することが可能となり、目的の酸素同位体を含む酸素を安全に濃縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
図1は、本発明の酸素安定同位体の濃縮法に関する第1の実施形態例を示す概略図である。
本実施形態は、酸素を原料とし、その一部をオゾンに変換してオゾン−酸素混合流体を得る工程(A)を行うオゾナイザー、前記オゾン−酸素混合流体に希釈ガスを加えてオゾン−酸素−希釈ガス混合流体とし、該混合流体を蒸留して、オゾン−希釈ガス混合流体と酸素とに分離する工程(B)を行う蒸留塔1、前記オゾン−希釈ガス混合流体に特定波長の半導体レーザ光を照射し、目的の酸素同位体を含むオゾンを選択的に分解し、酸素を発生させる工程(C)を行なう光反応セル、オゾン−酸素−希釈ガス混合流体から酸素を蒸留分離し、目的の酸素同位体が濃縮された酸素を得る工程(D)を行なう蒸留塔2、蒸留塔2の底部から排出されるオゾン−希釈ガス混合流体中のオゾンを酸素に分解する工程(E)を行うためのオゾン分解装置、オゾン分解装置からの酸素−希釈混合ガス中の希釈ガスを回収する工程(F)を行う希釈ガス回収装置からなる。
【0017】
ここで、工程(C)における分解現象は、多光子解離ではなく、1光子による前期解離である。
【0018】
工程(E)を行うオゾン分解装置は、低温用オゾン分解触媒として白金粉末、もしくはパラジウム粉末を充填した低温触媒槽と、混合液を蒸発させるための気化器、酸化マンガンもしくは銅触媒を充填したオゾンを完全分解するための分解塔からなる。
【0019】
蒸留塔2の塔頂からは、目的の酸素同位体である17Oが濃縮された酸素が製品として得られる。一方、蒸留塔2の下部には、オゾン−希釈ガス混合流体が濃縮される。これを蒸留塔下部から排出し、白金粉末あるいはパラジウム粉末を充填した低温触媒槽に移送、貯液し、ゆっくりと液体オゾンを分解する。このとき、低温触媒槽内で混合流体が気化しないように、触媒は希釈ガスの沸点よりも低い90〜150K程度に予め冷却しておくことが必要である。このとき、このプロセスで使用する希釈ガスを液化して冷媒として使用し、触媒を冷却するとよい。希釈ガスを用いれば、系内が汚染される心配がなく、混合流体が導入された際、オゾン濃度を低下させることにもなり、より好適な方法である。
【0020】
白金粉末あるいはパラジウム粉末を用いたオゾンの分解反応は、非常にゆるやかに反応するため、本発明における低温用オゾン分解触媒として最適である。
【0021】
低温触媒槽では、混合流体に含まれる半量程度のオゾンを酸素に分解する。低温触媒槽の下部から導出したオゾン−酸素−希釈ガス混合流体を気化器に導入し、全量を気化させる。ガス化したオゾン−酸素−希釈ガス混合流体は更に加温してから、酸化マンガンもしくは銅などのオゾン分解触媒を充填したオゾン分解塔に導入し、混合流体に含まれる残りのオゾンを完全に酸素へと分解する。
【0022】
低温触媒槽にて全てのオゾンを分解する必要はない。半分程度を分解し、オゾン−酸素−希釈ガスの混合流体とし、分解塔にて残りのオゾンを完全に分解すればよい。このような構成にすることで、高価な低温オゾン分解触媒を少なくすることができる。
【0023】
低温オゾン分解触媒としてニッケルを用いた場合、初期にはオゾンが分解されるが、酸化すると触媒活性がなくなり分解しなくなる。なお、酸化マンガン、銅は、低温での触媒活性が小さく、低温オゾン分解触媒としては適当でない。
【0024】
(他の実施形態)
装置停止時など、蒸留塔から混合流体を排出しなければいけない場合がある。このような場合に備え、図2に示すように、蒸留塔1の塔底からの缶出液を導出する先として、緊急オゾン分解装置を設けるとよい。
緊急オゾン分解装置は、前記オゾン分解装置と基本的に同じ構成をとれるが、緊急オゾン分解装置の場合、連続してオゾンを分解しないので、白金あるいはパラジウムより安価なニッケルを触媒として用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明方法を実施する酸素同位体濃縮装置の系統図である。
【図2】本発明方法を実施する酸素同位体濃縮装置の他の系統図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸素を原料として、その一部をオゾンに変換し、オゾン−酸素混合流体を得る工程、
(B)前記オゾン−酸素混合流体に希釈ガスを加えてオゾン−酸素−希釈ガス混合流体とし、当該オゾン−酸素−希釈ガス混合流体を蒸留して、オゾン−希釈ガス混合物を分離する工程、
(C)前記オゾン−希釈ガス混合流体に半導体レーザ光を照射し、目的の酸素同位体を含むオゾンを選択的に分解し、目的の酸素同位体を多く含む酸素を得る工程、
(D)前記オゾン−酸素−希釈ガス混合流体から酸素を蒸留分離し、目的の酸素同位体が濃縮された酸素を得る工程、
(E)工程(D)で排出されるオゾン−希釈ガス混合流体中のオゾンを分解する工程、
(F)オゾン−希釈ガス系混合流体から希釈ガスを回収する工程、
から成る、半導体レーザを用いた酸素同位体を濃縮する方法において、
前記工程(E)が、液体状態のオゾン−希釈ガス混合流体中の少なくとも一部のオゾンを低温用オゾン分解触媒にて分解しオゾン−希釈ガス−酸素混合流体を得る工程(E−1)と、前記オゾン−希釈ガス−酸素混合流体を気化する工程(E−2)と、気化したオゾン−希釈ガス−酸素混合流体中のオゾンを分解塔にて完全に酸素に分解する工程(E−3)を含むことを特徴とする酸素同位体の濃縮方法。
【請求項2】
前記希釈ガスが、Kr、Xe、Rn、CHF3あるいはCF4である請求項1記載の酸素同位体の濃縮方法。
【請求項3】
前記低温用オゾン分解触媒が、白金粉末あるいはパラジウム粉末である請求項1記載の酸素同位体の濃縮方法。
【請求項4】
前記低温用オゾン分解触媒が充填された低温触媒槽および前記触媒を、あらかじめ冷却しておく請求項1記載の酸素同位体の濃縮方法。
【請求項5】
前記冷却方法が、液化した前記希釈ガスを用いる方法である請求項4記載の酸素同位体の濃縮方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−212610(P2011−212610A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84014(P2010−84014)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】