説明

酸素吸収性バリアー樹脂組成物、これからなるフィルム、多層構造体及び包装容器

【課題】 高湿度下においても酸素ガスバリアー性に優れ、しかも剥離強度に優れた多層構造体を得ることが可能な酸素吸収性バリアー樹脂組成物、この酸素吸収性バリアー樹脂組成物からなる酸素吸収性バリアーフィルム、及びこの酸素吸収性バリアーフィルムからなる層を少なくとも有する多層構造体及びこの多層構造体からなる包装容器を提供する。
【解決手段】 酸素透過度が100cc/m・day・atm以下の樹脂(A)からなるマトリックス中に、酸素吸収速度が0.001cc/cm・day以上の樹脂(B)が分散されてなり、樹脂(B)が長手方向に垂直な断面の最大径の平均が1.0μm以下である棒状構造を形成している酸素吸収性バリアー樹脂組成物。樹脂(B)が不飽和結合減少率10%以上の共役ジエン重合体環化物であることが好ましい。酸素吸収性バリアー樹脂組成物からなる酸素吸収性バリアーフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素吸収性バリアー樹脂組成物、この酸素吸収性バリアー樹脂組成物からなる酸素吸収性バリアーフィルム、酸素吸収性バリアーフィルムからなる層を少なくとも有する酸素バリアー性多層構造体及びこの酸素バリアー性多層構造体からなる包装容器に関する。より詳しくは、特に高湿度下において優れた酸素バリアー性を発揮し、しかもフィルムにしたときの剥離強度に優れる酸素吸収性バリアー樹脂組成物、この酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収性バリアーフィルム、酸素吸収性バリアーフィルムからなる層を少なくとも有する酸素バリアー性多層構造体及びこの酸素バリアー性多層体からなる包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、飲料、医薬品等は、酸素により品質の劣化が起こるため、それらを酸素不存在下又は酸素が極めて少ない条件下で、貯蔵することが要求される。
このため、食品、飲料、医薬品等を貯蔵する容器又は包装には、ガラス瓶や金属缶が使用されてきた。しかしながら、これらの容器は、酸素を透過させないものの、容易に割れたり変形したりする上、重いため、流通上、問題がある。そこで、最近では、軽量で耐衝撃性にも比較的優れた各種プラスチック容器が使用されることが多くなっている。ところが、プラスチック容器は、その容器壁を酸素が容易に透過するので、酸素による内容物の変質が起きるという大きな問題がある。
【0003】
この問題への対応として、最近では、樹脂製の容器又は包装材料自体に酸素吸収性を持たせる一方、容器又は包装材料を構成する樹脂としてガスバリアー性を有するものを使用することが検討されている。
例えば、特許文献1には、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂で形成されたマトリックスと、このマトリックスに層状に分散している芳香族ポリアミド樹脂で形成されたフィルムが開示されている。
また、特許文献2には、連続層を形成する熱可塑性ポリエステル樹脂等の基材樹脂成分とポリアミド樹脂、酸化性有機成分及び遷移金属触媒からなる不連続層を形成する酸素吸収機能性成分とからなる酸素吸収層を有する包装容器が開示されている。
しかしながら、これらの包装容器等においては、ポリエステル樹脂の耐水性により高温下では一定のガスバリアー性を発揮できるものの、基本的にガスバリアー性のないポリエステル樹脂が連続層を形成しているため、そのガスバリアー性は、十分とはいい難い。
【0004】
一方、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物をガスバリアー性樹脂として、これにステアリン酸コバルト等の酸化触媒等を配合した酸素ガスバリアー性樹脂組成物が知られている(特許文献3及び4)。
エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物、ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール重合体は、熱可塑性であって各種成形方法が適用可能であり、包装容器材料としては有用であるが、水蒸気透過率が高く、湿度により酸素透過率が大きく変化する。このため、特に高湿度環境下において、酸素ガスバリアー性が劣るという問題がある。また、これらのポリビニルアルコール重合体とポリプロピレンフィルム等とをラミネートして得られるフィルムは、両者間の剥離強度が低いという問題をも有している。
【0005】
【特許文献1】特開2001−164002号公報
【特許文献2】特開2005−112468号公報
【特許文献3】特開平4−211444号公報
【特許文献3】特開平5−170980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、低湿度環境下は勿論のこと、高湿度下においても酸素バリアー性に優れ、しかも剥離強度に優れた多層構造体を得ることが可能な酸素吸収性バリアー樹脂組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、この酸素吸収性バリアー樹脂組成物からなる酸素吸収性バリアーフィルムを提供することにある。
本発明の更に他の目的は、酸素吸収性バリアーフィルムからなる層を少なくとも有する酸素バリアー性多層構造体及びこの酸素バリアー性多層構造体からなる包装容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の酸素透過度を有するマトリックス樹脂中に特定の酸素吸収速度を有する樹脂を特定の構造で分散させた樹脂組成物が、上記目的に適うことを見出し、この知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、酸素透過度が100cc/m・day・atm(20μm)以下の樹脂(A)からなるマトリックス中に、酸素吸収速度が0.001cc/cm・day(20μm)以上の樹脂(B)が分散されてなり、樹脂(B)が長手方向に垂直な断面の最大径の平均が1.0μm以下である棒状構造を形成していることを特徴とする酸素吸収性バリアー樹脂組成物が提供される。
本発明の酸素吸収性バリアー樹脂組成物において、樹脂(B)が不飽和結合減少率10%以上の共役ジエン重合体環化物であることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、酸素透過度が100cc/m・day・atm(20μm)以下の樹脂(A)からなるマトリックス中に、酸素吸収速度が0.001cc/cm・day(20μm)以上の樹脂(B)が分散されてなり、樹脂(B)が長手方向に垂直な断面の最大径の平均が1.0μm以下である棒状構造を形成していることを特徴とする酸素吸収性バリアーフィルムが提供される。
本発明の酸素吸収性バリアーフィルムは、表面層(1)/コア層/表面層(2)の3層構造を有し、3層の合計厚さに対する各層の厚さの比率が、表面層(1)、コア層及び表面層(2)について、それぞれ、15〜40%、20〜70%及び15〜40%であることが好ましい。
また、上記3層構造を有する酸素吸収性バリアーフィルムにおいて、樹脂(B)の長手方向に垂直な断面の短径に対する長径の比率が、表面層(1)及び表面層(2)において2.0未満であり、コア層において2.0以上であることが好ましい。
本発明の酸素吸収性バリアーフィルムにおいて、樹脂(B)が不飽和結合減少率10%以上の共役ジエン重合体環化物であることが好ましい。
【0010】
更に、本発明によれば、上記酸素吸収性バリアーフィルムからなる層を少なくとも有する酸素バリアー性多層構造体が提供される。
更に、本発明によれば、上記酸素バリアー性多層構造体からなる包装容器が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸素吸収性ガスバリアー樹脂組成物は、低湿度環境下ばかりでなく、高湿度環境下においても酸素バリアー性に優れ、これから得られる多層構造体は優れた剥離強度を有している。この酸素吸収性バリアー樹脂組成物を使用して得られる本発明の酸素吸収性バリアーフィルム並びに多層構造体は、酸素ガスバリアー性に優れ、多層構造体の剥離強度にも優れているので、各種食品、化学品、医薬品、化粧品等の包装材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の酸素吸収ガスバリアー性樹脂組成物は、25℃及び相対湿度65%の環境下において、厚さ20μmのフィルムについて100cc/m・day・atm以下の酸素透過度〔本発明においては、これを「100cc/m・day・atm以下(20μm)」と表記する。なお、環境条件を変更するときは、これを付記する。〕を有する樹脂(A)からなるマトリックス中に、酸素吸収速度が、同上条件下において、0.001cc/cm・day以上〔本発明においては、これを「0.001cc/cm・day以上(20μm)」と表記する。〕の樹脂(B)が分散されてなる。
【0013】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物において、樹脂(A)と樹脂(B)との含有量比率は、樹脂(A)/樹脂(B)重量比で好ましくは95/5〜50/50、より好ましくは90/10〜50/50である。樹脂(A)と樹脂(B)との含有量比率が上記範囲内にあるとき、高湿度下での酸素吸収性に特に優れ、また、剥離強度の大きい酸素吸収性バリアー樹脂組成物を得ることができる。
【0014】
25℃及び相対湿度65%の環境下において、酸素透過度が100cc/m・day・atm(20μm)以下の樹脂(A)の具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール重合体を挙げることができる。酸素透過度は、同条件下において20cc/m・day・atm(20μm)以下であることが好ましい。
ポリアミド樹脂は、特に限定されないが、好ましくは、(a)ジカルボン酸成分とジアミン成分とから誘導される脂肪族、脂環族もしくは半芳香族ポリアミド、(b)アミノカルボン酸もしくはそのラクタムから誘導されるポリアミド、又は(c)これらのコポリアミドもしくはブレンド物である。
【0015】
ポリアミド樹脂を合成するためのジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等の炭素数4ないし15の脂肪族ジカルボン酸や、テレフタル酸やイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
また、ジアミン成分としては、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン等の炭素数4〜25の、特に6〜18の、直鎖状又は分岐鎖状アルキレンジアミンや、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、特にビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、1,3−ビス(アミノシクロヘキシル)メタン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジアミン、m−キシリレンジアミン及び/又はp−キシリレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0016】
アミノカルボン酸成分としては、脂肪族アミノカルボン酸、例えばα,β,ω−アミノカプロン酸、ω−アミノオクタン酸、ω−アミノウンデカン酸、ω−アミノドデカン酸や、例えばp−アミノメチル安息香酸、p−アミノフェニル酢酸等の芳香族アミノカルボン酸等を挙げることができる。
【0017】
本発明の目的には、これらのポリアミド樹脂の内でもキシリレン基含有ポリアミドが好ましく、具体的には、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリメタキシリレンセバカミド、ポリメタキシリレンスベラミド、ポリパラキシリレンピメラミド、ポリメタキシリレンアゼラミド等の単独重合体;メタキシリレン/パラキシリレンアジパミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンピメラミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンセバカミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンアゼラミド共重合体等の共重合体;これらの単独重合体または共重合体の成分と、ヘキサメチレンジアミンの如き脂肪族ジアミン、ピペラジンの如き脂環式ジアミン、p−ビス(2−アミノエチル)ベンゼンの如き芳香族ジアミン、テレフタル酸の如き芳香族ジカルボン酸、ε−カプロラクタムの如きラクタム、7−アミノヘプタン酸の如きω−アミノカルボン酸、p−アミノメチル安息香酸の如き芳香族アミノカルボン酸等とを、共重合した共重合体が挙げられる。
これらの内、m−キシリレンジアミン及び/又はp−キシリレンジアミンを主成分とするジアミン成分と、脂肪族ジカルボン酸及び/又は芳香族ジカルボン酸とからなるジカルボン酸とから得られるポリアミドを特に好適に用いることができる。
【0018】
ポリアミド樹脂の分子量は、濃度1.0g/dlの濃硫酸溶液について、30℃で測定した相対粘度が1.1以上、特に1.5以上であることが望ましい。ポリアミド樹脂がこれらの分子量を有するとき、フィルム形成性に優れるので、酸素吸収性バリアー樹脂フィルムを形成するのに好適である。
【0019】
ポリビニルアルコール重合体は、ビニルアルコールをその構成単位とする重合体又は共重合体である。共重合体としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のα−オレフィン−ビニルアルコール共重合体を挙げることができる。本発明においては、エチレン−ビニルアルコール共重合体を好適に使用することができる。
エチレン−ビニルアルコール共重合体は、構造上、エチレンとビニルアルコールとを主構成単位とする共重合体であるが、実際には、エチレンと脂肪酸ビニルエステルとの共重合体を、アルカリ触媒等によって鹸化することによって得られる。
エチレンと共重合する脂肪酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、そのほかに、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等をも使用することができる。本発明で使用するエチレン−ビニルアルコール共重合体は、鹸化の方法によって特に限定されない。
【0020】
本発明で使用するエチレン−ビニルアルコール共重合体において、エチレン含有量は、15モル%以上であることが好ましく、25モル%以上であることがより好ましく、30〜45モル%であることが特に好ましい。なお、エチレン含有量は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
エチレン含有量がこの範囲内にあることにより、酸素吸収性成分として使用する樹脂(B)との相溶性が良好となり、得られる樹脂組成物の酸素吸収バリアー性が優れたものとなる。
エチレン−ビニルアルコール共重合体は、一種類を単独で使用しても、二種類以上を併用してもよい。
異なるエチレン含有量を有する二種類以上を併用するときのエチレン−ビニルアルコール共重合体混合物におけるエチレン含有量は、その配合重量比から求めることができる。
【0021】
エチレン−ビニルアルコール共重合体のビニルエステル部分の鹸化度(ビニルアルコール構造を有する単量体単位部分とビニルエステル構造を有する単量体単位部分との合計に対するビニルアルコール構造を有する単量体単位部分の比率)は、好適には90モル%以上であり、より好適には95モル%以上であり、特に好適には97%以上である。
鹸化度は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
エチレン−ビニルアルコール共重合体の鹸化度が上記範囲内にあるとき、これを用いて得られる本発明の樹脂組成物のガスバリアー性が優れたものとなる。また、エチレン−ビニルアルコール共重合体の熱安定性が良好で、これを用いて得られる樹脂組成物の成形物にゲルや、いわゆるブツ等の異物が生じることがない。
異なる鹸化度を有する二種類以上を併用するときのエチレン−ビニルアルコール共重合体混合物における鹸化度は、その配合重量比から求める。
【0022】
本発明で使用する樹脂(B)は、20μmの厚さのフィルムについて、23℃、相対湿度65%の条件下で測定したときに、0.001cc/cm・day(20μm)以上の酸素吸収速度を有するものである。
【0023】
本発明で使用する樹脂(B)の好適な例としては、10%以上の不飽和結合減少率を有する共役ジエン重合体環化物を挙げることができる。不飽和結合減少率は、30%以上、65%以下であることが好ましく、45〜60%の範囲内にあることが特に好ましい。この不飽和結合減少率10%以上の共役ジエン重合体環化物を使用することにより、本発明の酸素吸収性バリアー樹脂組成物の酸素バリアー性が優れたものとなる。
【0024】
共役ジエン重合体環化物は、共役ジエン重合体を、酸触媒の存在下に環化反応させて得られるものである。
共役ジエン重合体としては、共役ジエン単量体の単独重合体及び共重合体並びに共役ジエン単量体とこれと共重合可能な単量体との共重合体を使用することができる。
【0025】
共役ジエン単量体は、特に限定されず、その具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン等が挙げられる。
これらの単量体は、単独で使用しても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
共役ジエン単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、o−クロルスチレン、m−クロルスチレン、p−クロルスチレン、p−ブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体;エチレン、プロピレン、1−ブテン等の鎖状オレフィン単量体;シクロペンテン、2−ノルボルネン等の環状オレフィン単量体;1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等の非共役ジエン単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド等のその他の(メタ)アクリル酸誘導体;等が挙げられる。
これらの単量体は、単独で使用しても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
共役ジエン重合体の具体例としては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム(BIR)等の共役ジエンの単独又は共重合体;スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレン−イソブチレン共重合体ゴム(IIR)、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体ゴム(EPDM)、スチレン−イソプレンブロック共重合体等の芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体、等の共役ジエンとこれと共重合可能な単量体との共重合体を挙げることができる。中でも、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム及びスチレン−イソプレンブロック共重合体が好ましく、ポリイソプレンゴム及びスチレン−イソプレンブロック共重合体がより好ましい。
【0028】
共役ジエンとこれと共重合可能な単量体との共重合体における共役ジエン単量体単位の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択されるが、通常、40モル%以上、好ましくは60モル%以上、更に好ましくは80モル%以上である。中でも、実質的に共役ジエン単量体単位のみからなるものが好ましい。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、適切な範囲の不飽和結合減少率を得ることが困難になる恐れがある。
共役ジエン重合体環化物が芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の環化物である場合、環化物中の芳香族ビニル単量体単位含量は、特に限定されないが、通常、1〜90重量%、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%である。この含量が少なすぎると、酸素吸収性バリアー樹脂組成物の初期の機械的強度が低下する傾向にあり、また、酸素吸収後の機械的強度の低下が大きくなる傾向にある。逆に、芳香族ビニル単量体単位含量が多すぎると、共役ジエン重合体環化物ブロックの割合が相対的に低下して、酸素バリアー性が低下する傾向にある。
【0029】
共役ジエン重合体の重合方法は常法に従えばよく、例えば、チタン等を触媒成分として含むチーグラー系重合触媒、アルキルリチウム重合触媒又はラジカル重合触媒等の適切な触媒を用いて、溶液重合又は乳化重合により行われる。
【0030】
本発明で用いる共役ジエン重合体環化物は、前記の共役ジエン重合体を、酸触媒の存在下に環化反応させて得られる。
環化反応に用いる酸触媒としては、公知のものが使用できる。その具体例としては、硫酸;フルオロメタンスルホン酸、ジフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、炭素数2〜18のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸、これらの無水物及びアルキルエステル等の有機スルホン酸化合物;三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、塩化アルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロリド、エチルアンモニウムクロリド、臭化アルミニウム、五塩化アンチモン、六塩化タングステン、塩化鉄等のルイス酸;等が挙げられる。これらの酸触媒は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。中でも、有機スルホン酸化合物が好ましく、p−トルエンスルホン酸やキシレンスルホン酸がより好ましい。
酸触媒の使用量は、共役ジエン重合体100重量部当たり、通常、0.05〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.3〜2重量部である。
【0031】
環化反応は、通常、共役ジエン重合体を炭化水素溶媒中に溶解して行なう。
炭化水素溶媒としては、環化反応を阻害しないものであれば特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素;等が挙げられる。これらの炭化水素溶媒の沸点は、70℃以上であることが好ましい。
共役ジエン重合体の重合反応に用いる溶媒と環化反応に用いる溶媒とは、同一種であってもよい。この場合は、重合反応が終了した重合反応液に環化反応用の酸触媒を添加して、重合反応に引き続いて環化反応を行なうことができる。
炭化水素溶媒の使用量は、共役ジエン重合体の固形分濃度が、通常、5〜60重量%、好ましくは20〜40重量%となる範囲である。
【0032】
環化反応は、加圧、減圧及び大気圧のいずれの圧力下でも行なうことができるが、操作の簡便性の点から大気圧下で行なうことが望ましい。環化反応を、乾燥気流下、特に乾燥窒素や乾燥アルゴンの雰囲気下で行なうと水分によって引き起こされる副反応を抑えることができる。
環化反応における、反応温度や反応時間は、特に限定されない。反応温度は、通常、50〜150℃、好ましくは70〜110℃であり、反応時間は、通常、0.5〜10時間、好ましくは2〜5時間である。
環化反応を行った後、常法により、酸触媒を不活性化し、酸触媒残渣を除去し、次いで炭化水素系溶媒を除去して、固形状の共役ジエン重合体環化物を得ることができる。
【0033】
共役ジエン重合体環化物の不飽和結合減少率は、共役ジエン重合体中の共役ジエン単量体単位部分において、不飽和結合が環化反応によって減少した程度を表す指標であり、以下のようにして求められる数値である。即ち、プロトンNMR分析により、共役ジエン重合体中の共役ジエン単量体単位部分において、全プロトンのピーク面積に対する二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積の比率を、環化反応前後について、それぞれ求め、その減少率を計算する。
いま、共役ジエン重合体中の共役ジエン単量体単位部分において、環化反応前の全プロトンピーク面積をSBT、二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積をSBU、環化反応後の全プロトンピーク面積をSAT、二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積をSAUとすると、
環化反応前の二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積比率(SB)は、
SB=SBU/SBT
環化反応後の二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積比率(SA)は、
SA=SAU/SAT
従って、不飽和結合減少率は、下記式により求められる。
不飽和結合減少率(%)=100×(SB−SA)/SB
【0034】
共役ジエン重合体環化物の不飽和結合減少率は、環化反応における酸触媒の量、反応温度及び反応時間等を適宜選択して調節することができる。
所望の不飽和結合減少率を有する共役ジエン重合体環化物を得るためには、環化反応における酸触媒の量、反応温度及び反応時間等についてそれぞれあらかじめ検量線を作成して、これに基づいて環化反応を行なう等の方法を採用すればよい。
【0035】
本発明で使用する共役ジエン重合体環化物の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィで測定される標準ポリスチレン換算値で、10,000〜1,000,000であることが好ましく、20,000〜700,000であることがより好ましく、30,000〜500,000であることが更に好ましい。
また、共役ジエン重合体環化物が芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の環化物である場合、芳香族ビニル重合体ブロックの重量平均分子量は、好ましくは1,000〜500,000、より好ましくは3,000〜300,000、更に好ましくは5,000〜100,000、特に好ましくは8,000〜50,000である。この重量平均分子量が低すぎると、酸素吸収性バリアー樹脂組成物の初期の機械的強度が低下する傾向にあり、また、酸素吸収後の機械的強度の低下が大きくなる傾向にある。逆に、重量平均分子量が高すぎると、共役ジエン重合体環化物ブロックの割合が相対的に低下して、酸素バリアー性が低下する傾向にある。
共役ジエン重合体環化物の重量平均分子量は、環化に供する共役ジエン重合体の重量平均分子量を適宜選択して調節することができる。
共役ジエン重合体環化物の重量平均分子量が低すぎると、フィルムに成形し難く、機械的強度が低くなる恐れがある。共役ジエン重合体環化物の重量平均分子量が高すぎると、環化反応の際の溶液粘度が上昇して、取り扱い難くなると共に、押出成形する場合の加工性が低下する恐れがある。
共役ジエン重合体環化物のゲル(トルエン不溶分)量は、通常、10重量%以下、好ましくは5重量%以下であるが、実質的にゲルを有しないことが特に好ましい。ゲル量が多いと、フィルムにしたときに、その平滑性を損なう恐れがある。
【0036】
本発明において、共役ジエン重合体環化物の加工時の熱安定性を確保するため、共役ジエン重合体環化物に酸化防止剤を添加することができる。酸化防止剤の量は、特に限定されないが、共役ジエン重合体環化物の重量に対して、通常、10〜5,000ppm、好ましくは30〜3,000ppm、更に好ましくは50〜2,000ppmの範囲である。
【0037】
また、本発明の酸素吸収性バリアー樹脂組成物における酸化防止剤の量は、通常、10〜3,000ppm、好ましくは30〜2,000ppm、更に好ましくは50〜1,000ppmの範囲である。但し、酸化防止剤の添加量が多すぎると酸素吸収性を低下させるので、酸素吸収性バリアー樹脂組成物加工時の安定性を考慮しながら、添加量を適宜調節することが肝要である。
【0038】
酸化防止剤は、樹脂材料又はゴム材料の分野において通常使用されるものであれば、特に制限されない。このような酸化防止剤の代表的なものとしては、ヒンダードフェノール系、リン系及びラクトン系の酸化防止剤を挙げることができる。これらの酸化防止剤は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。特に、フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤との併用が好ましい。また、アミン系光安定化剤(HALS)を添加してもよい。
【0039】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリストールテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、チオジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド〕、ジエチル〔〔3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル〕メチル〕ホスフォネート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、ヘキサメチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−2’−ヒドロキシ−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−〔1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−フェニル)エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート等を示すことができる。
【0040】
リン系酸化防止剤としては、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、亜リン酸ビス〔2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル〕エチルエステル、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)〔1,1−ビフェニル〕−4,4’−ジイルビスホスホナイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト等を示すことができる。
また、ラクトン系酸化防止剤としては、5,7−ジ−t−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オン等とo−キシレンとの反応生成物を挙げることができる。
【0041】
共役ジエン重合体環化物には、そのほか、必要に応じて、通常添加される各種の化合物を配合してもよい。そのような化合物としては、炭酸カルシウム、アルミナ、酸化チタン等の充填剤;粘着性付与剤(水添石油樹脂、水添テルペン樹脂、ひまし油誘導体、ソルビタン高級脂肪酸エステル、低分子量ポリブテン);可塑剤(フタル酸エステル、グリコールエステル);界面活性剤;レベリング剤;紫外線吸収剤;光安定剤;脱水剤;ポットライフ延長剤(アセチルアセトン、メタノール、オルト酢酸メチル等);ハジキ改良剤;等を挙げることができる。
【0042】
本発明において、必要に応じて、共役ジエン重合体環化物にポリα−オレフィン樹脂を併用することができる。これにより、酸素吸収性バリアー樹脂組成物の引張強さが向上する。
ポリα−オレフィン樹脂は、α−オレフィンの単独重合体、2種以上のα−オレフィンの共重合体又はα−オレフィンとα−オレフィン以外の単量体との共重合体の何れであってもよく、また、これらの(共)重合体を変性したものであってもよい。
ポリα−オレフィン樹脂の具体例としては、エチレン、プロピレン等のα−オレフィンの単独重合体又は共重合体、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、メタロセンポリエチレン等のポリエチレン、ポリプロピレン、メタロセンポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン等のα−オレフィン単独重合体;エチレンと他のα−オレフィンとの共重合体、例えば、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン−ポリブテン−1共重合体、エチレン−環状オレフィン共重合体等;α−オレフィンを主体とする、α−オレフィンとカルボン酸不飽和アルコールとの共重合体及びその鹸化物、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体等;α−オレフィンを主体とする、α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸エステル又はα,β−不飽和カルボン酸等との共重合体、例えば、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体(エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体等)、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸共重合体(エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等)等;ポリエチレンやポリプロピレン等のα−オレフィン(共)重合体をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマール酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリα−オレフィン樹脂;エチレンとメタクリル酸との共重合体等にNaイオンやZnイオンを作用させたアイオノマー樹脂;これらの混合物;等を挙げることができる。
ポリα−オレフィン樹脂は、1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。ポリα−オレフィン樹脂の使用量は、共役ジエン重合体環化物とポリオレフィン樹脂との合計100重量部に対して、0〜90重量%が好ましく、10〜80重量%がより好ましく、15〜70重量%が更に好ましく、20〜60重量%が特に好ましい。上記範囲内において、酸素吸収性バリアー樹脂組成物の酸素バリアー性と機械的強度とのバランスが良好に保たれ、共役ジエン重合体環化物の割合が高い程、酸素バリアー性が良好なものとなる。
【0043】
本発明の酸素吸収性バリアー樹脂組成物において、樹脂(B)は、樹脂(A)のマトリックス中において、長手方向に垂直な断面の最大径の平均が1.0μm以下である棒状構造を形成していることが必要である。
樹脂(B)が、上記状態で分散していることにより、本発明の酸素吸収性バリアー樹脂組成物の酸素バリアー性が良好なものとなり、また、これから得られるフィルムの酸素バリアー性及びオレフィンフィルムとの接着性が良好なものとなる。
ここで、樹脂(B)の長手方向に垂直な断面の最大径(以下、単に「断面最大径」ということがある。)は、平均で1μm以下であればよいが、好ましくは、断面最大径が1.0μm以下のものの比率が70%以上、より好ましくは90%以上である。
また、樹脂(A)のマトリックス中において、樹脂(B)の長手方向長さと断面最大径との比(長手方向長さ/断面最大径)は、好ましくは5より大きい。
【0044】
本発明の酸素吸収性バリアー樹脂組成物には、耐熱安定剤;紫外線吸収剤;酸化防止剤;着色剤;顔料;中和剤;フタル酸エステル、グリコールエステル等の可塑剤;充填剤;界面活性剤;レベリング剤;光安定剤;アルカリ土類金属酸化物等の脱水剤;活性炭やゼオライト等の脱臭剤;粘着性付与剤(ひまし油誘導体、ソルビタン高級脂肪酸エステル、低分子量ポリブテン);ポットライフ延長剤(アセチルアセトン、メタノール、オルト酢酸メチル等);ハジキ改良剤;他の樹脂(ポリα−オレフィン等);等を配合することができる。
また、必要に応じて、ブロッキング防止剤、防曇剤、耐候性安定剤、滑剤、帯電防止剤、補強剤、難燃剤、カップリング剤、発泡剤、離型剤等を添加することができる。
【0045】
本発明の酸素吸収性バリアー樹脂組成物の製造方法は、樹脂(A)と樹脂(B)とを均一に混合できるものであれば、特に限定されず、公知の方法、例えば、樹脂(A)と樹脂(B)とを溶媒に溶かした後、概ね平坦な面上に溶液を塗布・乾燥する溶液キャスト法;樹脂(A)と樹脂(B)とを押出機、ニーダー、及び/又はバンバリーミキサー等の混練機で溶融混練する方法;等を採用することができる。
【0046】
本発明の酸素吸収性バリアーフィルムは、酸素透過度が100cc/m・day・atm(20μm)以下の樹脂(A)からなるマトリックス中に、酸素吸収速度が0.001cc/cm・day(20μm)以上の樹脂(B)が分散されてなり、樹脂(B)が長手方向に垂直な断面の最大径の平均が1.0μm以下である棒状構造を形成していることを特徴とする。
【0047】
本発明の酸素吸収性バリアーフィルムにおいて、樹脂(B)は、樹脂(A)のマトリックス中において、長手方向に垂直な断面の最大径の平均が1.0μm以下である棒状構造を形成していることが必要である。
樹脂(B)が、上記状態で分散していることにより、本発明の酸素吸収性バリアーフィルムの酸素バリアー性及びオレフィンフィルムとの接着性が良好なものとなる。
ここで、樹脂(B)の長手方向に垂直な断面の最大径(以下、単に「断面最大径」ということがある。)は、平均で1.0μm以下であればよいが、好ましくは、断面最大径が1.0μm以下のものの比率が70%以上、より好ましくは90%以上である。
また、樹脂(A)のマトリックス中において、樹脂(B)の長手方向長さと断面最大径との比(長手方向長さ/断面最大径)は、好ましくは5より大きい。
【0048】
本発明の酸素吸収性バリアーフィルムは、本発明の酸素吸収性バリアー樹脂組成物から得ることができる。
ここで、厳密には、フィルムとシートとをその厚さにより区別することがあるが、本発明においては、フィルムとは、シートをも包含する概念である。
【0049】
本発明の酸素吸収性バリアーフィルムの厚さは、特に制限されないが、一般に1〜300μm、特に3〜50μmの範囲にあるのが好ましい。酸素吸収性バリアーフィルムの厚さが上記範囲内にあるとき、酸素バリアー性が良好であり、また、透明性、可撓性、柔軟性等の点でも有利である。
【0050】
本発明の酸素吸収性バリアーフィルムは、表面層(1)/コア層/表面層(2)の3層構造を有し、3層の合計厚さに対する各層の厚さの比率が、表面層(1)、コア層及び表面層(2)について、それぞれ、15〜40%、20〜70%及び15〜40%であることが好ましい。
各層の厚さの比率が上記範囲内にあるとき、酸素吸収性バリアーフィルムの酸素バリアー性が良好で、オレフィンフィルムとの接着性にも優れる。
酸素吸収性バリアーフィルムの構造を上記のようにするには、酸素吸収性バリアー樹脂組成物の組成、これを構成する樹脂A及び樹脂Bの溶融粘度、樹脂Aと樹脂Bとの相溶性等を適宜に構成する。
【0051】
本発明の酸素吸収性バリアーフィルムにおいて、マトリックス樹脂(A)中に分散している樹脂(B)の長手方向に垂直な断面の短径に対する長径の比率が、表面層(1)及び表面層(2)において2.0未満であり、コア層において2.0以上であることが好ましい。
樹脂(B)がこの条件を満たすときに、酸素吸収性バリアーフィルムの酸素バリアー性が良好で、オレフィンフィルムとの接着性にも優れる。
【0052】
本発明の酸素吸収性バリアーフィルムは、25℃、相対湿度65%の条件下で、樹脂Aとして酸素透過度3〜5cc/m・day・atm(20μm)の酸素バリアー樹脂を用いたとき、1cc/m・day・atm(20μm)以下の酸素透過度を有する。また、本発明の酸素吸収性バリアーフィルムは、25℃、相対湿度90%の条件下で、樹脂Aとして酸素透過度3〜5cc/m・day・atm(20μm)の酸素バリアー樹脂を用いたとき、2cc/m・day・atm(20μm)以下の酸素透過度を有する。
【0053】
本発明の酸素吸収性バリアー樹脂組成物から本発明の酸素吸収性バリアーフィルムを得る方法は、特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、本発明の酸素吸収性バリアー樹脂組成物を溶媒に溶かした後、概ね平坦な面上に溶液を塗布・乾燥する溶液キャスト法によりフィルムが得られる。また、例えば、樹脂組成物等を押出し機で溶融混練した後、T−ダイ、サーキュラーダイ(リングダイ)等を通して所定の形状に押出すことにより、T−ダイ法フィルム又はフィルム、ブローンフィルム又はフィルム等が得られる。押出し機としては、一軸押出し機、二軸押出し機、バンバリーミキサー等の混練機を使用することができる。Tダイフィルム又はフィルムはこれを二軸延伸することにより、二軸延伸フィルム又はフィルムとすることができる。
【0054】
本発明の酸素バリアー性多層構造体は、本発明の酸素吸収性バリアーフィルムからなる層(以下、「酸素吸収性バリアーフィルム層」ということがある。)を少なくとも有する。
本発明の酸素バリアー性多層構造体において、酸素吸収性バリアーフィルム層は、本発明の効果を損なわない限り、本発明の酸素吸収性ガスバリアー樹脂組成物以外に、公知の酸素吸収性成分を含有していてもよい。本発明の酸素吸収性ガスバリアー樹脂組成物以外の酸素吸収性成分の量は、酸素吸収性成分の全量(本発明の酸素吸収性ガスバリアー樹脂組成物と本発明の酸素吸収性ガスバリアー樹脂組成物以外の酸素吸収性成分との合計量)に対して、50重量%未満、好ましくは40重量%未満、更に好ましくは30重量%未満である。
本発明の酸素バリアー性多層構造体の酸素吸収性バリアーフィルム層は、多層構造体の構成に応じて、外部から透過してくる酸素を吸収し、また、酸素バリアー性多層構造体からなる包装材料を用いて、例えば、袋状の包装容器を構成したときに、密封材層を介して包装材料内部の酸素を吸収する機能を有する層となる。
【0055】
本発明の酸素バリアー性多層構造体は、酸素吸収性バリアーフィルム層以外に、密封材層、支持基材層、脱臭剤層、表面樹脂層及び保護層の内、一種以上の層を有してなる。一般に、酸素バリアー性多層構造体は、酸素吸収剤層やガスバリアー層を必須とするが、本発明の酸素バリアー性多層構造体においては、酸素吸収性バリアーフィルム層がそれらの機能を有するので、酸素吸収剤層やガスバリアー層を別途設ける必要はない。
【0056】
本発明の酸素バリアー性多層構造体の構造は、特に限定されず、フィルムであっても、それ以外の構造を有していてもよい。
本発明の酸素バリアー性多層構造体において、これを構成する各層の積層の順序は、特に限定されないが、通常、密封材層/酸素吸収性バリアーフィルム層/脱臭剤層/表面樹脂層/保護層である。必要に応じてこれらの各層のうち、必要な層を設ければよい。
【0057】
密封材層は、熱によって溶融して相互に接着する(ヒートシールされる)ことによって、包装容器に包装容器外部と遮断された空間を形成する機能を有し、かつ、包装容器内部において酸素吸収性バリアーフィルム層と被包装物との直接接触を防ぎつつ酸素を透過させて酸素吸収性バリアーフィルム層に吸収させる層である。
【0058】
密封材層の形成に用いられるヒートシール性樹脂の具体例としては、α−オレフィンの単独重合体;エチレンとα−オレフィンとの共重合体;α−オレフィンを主体とする、α−オレフィンと酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等との共重合体;α−オレフィン(共)重合体を不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリα−オレフィン樹脂;アイオノマー樹脂;これらの混合物;等が挙げられる。
【0059】
密封材層の25℃における酸素透過度は、層の数や膜厚、構成材料によらずに200cc/m・atm・day(20μm)以上であることが好ましく、400cc/m・atm・day(20μm)以上であることが特に好ましい。
なお、透過度は、単位分圧差で単位時間に単位面積の試験片を通過する気体の体積で表され、JIS K7126「プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験方法」に規定された方法によって測定することができる。
【0060】
本発明の酸素バリアー性多層構造体は、脱臭成分を含有する脱臭剤層を有していてもよい。
脱臭成分としては、公知のものを使用することができる。脱臭成分は、臭気成分を吸着作用によって捕捉する吸着剤であってもよく、また、化学反応等によって臭気成分を無臭成分に変化させる脱臭作用を有する脱臭剤であってもよい。また、吸着作用と脱臭作用とを兼ね備えるものであってもよい。
【0061】
吸着剤は、大豆粉、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等の有機吸着剤でも、天然ゼオライト、合成ゼオライト、シリカゲル、活性炭、添着活性炭、活性白土、活性酸化アルミニウム、クレー、珪藻土、カオリン、タルク、ベントナイト、酸化マグネシウム、酸化鉄、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化鉄、珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、合成ハイドロタルサイト、二酸化珪素、セピオライト、雲母等の粘土鉱物等の無機吸着剤でもよいが、耐熱性の観点からは、無機吸着剤が好ましい。
【0062】
本発明において、脱臭剤としては、塩基性化合物が好適である。これは、本発明において、酸素吸収性バリアーフィルム層の有効成分である共役ジエン重合体環化物の酸素吸収作用は、先ず、共役ジエン重合体環化物の活性水素が引き抜かれてラジカルが発生し、次いで、このラジカルが酸素分子を捕捉してパーオキシラジカルとなり、このパーオキシラジカルが水素原子を引き抜くというサイクルを繰り返すという機構で進み、その結果、アルデヒドや酸といった酸性成分が発生すると考えられるからである。
【0063】
塩基性化合物としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;水酸化鉄等のその他の水酸化物;アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩;アンモニア;アミノ基又はイミノ基を含有する化合物;アミド基又はイミド基を含有する化合物;尿素結合含有化合物;等の有機塩基性化合物を挙げることができる。
【0064】
本発明の酸素バリアー性多層構造体において、酸素吸収性バリアーフィルム層の外側に表面樹脂層を設けてもよい。
表面樹脂層の形成に使用する樹脂は、加熱により溶融して相互に融着することができ、押出成形が可能であるヒートシール性樹脂が好ましい。
また、酸素バリアー性多層チューブを各種容器として使用するときに内容物の表示等のために、グラビア印刷やフレキソ印刷等による印刷が可能であることが好ましい。
【0065】
表面樹脂層の膜厚は、構成材料によらず、5〜150μmの範囲であることが好ましく、10〜100μmの範囲であることがより好ましい。表面樹脂層の膜厚が上記範囲内にあるときに、十分な酸素吸収能力が発揮される。
【0066】
酸素吸収性バリアーフィルム層の外側に、耐熱性付与等の目的で、保護層を形成することができる。
保護層に用いる樹脂としては、高密度ポリエチレン等のエチレン重合体;プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体等のプロピレン重合体;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;等を挙げることができる。これらのうち、ポリアミド及びポリエステルが好ましい。
【0067】
本発明の酸素バリアー性多層構造体は、必要に応じて支持基材層を有していてもよい。支持基材層を構成する材料としてはポリα−オレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂;ポリアミド6やポリアミド6−ポリアミド66共重合体等のポリアミド樹脂;天然繊維;合成繊維;これらを抄造して得られる紙;が用いられる。
本発明の酸素バリアー性多層構造体において、支持基材層を設ける位置は特に限定されない。
【0068】
また、各層間を接着するために接着剤層を形成してもよい。接着剤層には、熱によって溶融し相互に融着し得る樹脂のフィルムを使用することができる。このような樹脂の具体例としては、例えば、α−オレフィンの単独重合体又は共重合体;酸変性ポリα−オレフィン樹脂;アイオノマー樹脂;これらの混合物;等を挙げることができる。
【0069】
本発明の酸素バリアー性多層構造体に、必要に応じて設けるこれら保護層、密封材層、脱臭剤層、表面樹脂層、支持基材層、接着剤層等には、酸素吸収性バリアー樹脂組成物に配合しうると同様の各種配合剤を添加してもよい。
【0070】
本発明の酸素バリアー性多層構造体において、密封材層、酸素吸収性バリアー樹脂層、脱臭剤層、表面樹脂層、保護層及び必要に応じて設けるその他の層は、いずれも、単一層であっても複数層であってもよく、複数層であるとき、それぞれ、同一であっても相異なるものであってもよい。
【0071】
本発明の酸素バリアー性多層構造体の厚みは、その用途によって適宜選定すればよい。
本発明の酸素バリアー性多層構造体の製造方法は特に限定されず、多層体を構成する各層の単層フィルムを得て、これらを積層してもよく、多層体を直接成形してもよい。
単層フィルムは、本発明の酸素吸収性樹脂組成物をフィルムにする方法と同様の方法で得ることができる。
以上のようにして得られた単層フィルムから、押出しコート法や、サンドイッチラミネーション、ドライラミネーションによって多層構造体を製造することができる。
【0072】
多層構造体の製造には、公知の共押出成形法を用いることができ、例えば樹脂の種類に応じた数の押出機を用いて、多層多重ダイを用いる以外は上記と同様にして押出成形を行なえばよい。
共押出成形法としては、共押出ラミネーション法、共押出フィルム成形法、共押出インフレーション成形法等を挙げることができる。
一例を示せば、水冷式又は空冷式インフレーション法により、ガスバリアー材層、酸素吸収剤層及び密封材層を、それぞれ、構成する各樹脂を、数台の押出機によりそれぞれ溶融加熱し、多層環状ダイから、例えば、190〜210℃の押出温度で押出し、直ちに冷却水等の液状冷媒により急冷固化させることによってチューブ状原反とすることができる。
【0073】
多層構造体の製造に当たっては、多層構造体を構成する各層用樹脂の温度を160〜250℃とすることが好ましい。160℃未満では厚みむらや多層体の切断を生じ、250℃を超えると多層構造体の切断を引き起こす場合がある。より好ましくは、170〜230℃である。
多層構造体製造時の巻取り速度は、通常、2〜200m/分、好ましくは50〜100m/分である。巻取り速度が2m/分以下であると生産効率が悪くなる恐れがあり、200m/分を超えると多層構造体の冷却を十分に行なうことができず、巻取り時に融着する場合がある。
【0074】
多層構造体が延伸可能な材料からなり、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン等のように、延伸することによってその特性が向上する場合は、共押出によって得られた多層フィルムを更に一軸又は二軸延伸することができる。必要であれば、更にヒートセットすることもできる。
延伸倍率は、特に限定されないが、通常、縦方向(MD)及び横方向(TD)に、それぞれ、1〜5倍、好ましくは、縦横方向に、それぞれ、2.5〜4.5倍である。
延伸は、テンター延伸方式、インフレーション延伸方式、ロール延伸方式等の公知の方法で行なうことができる。延伸の順序は、縦横いずれが先でも構わないが、同時が好ましく、チューブラー同時二軸延伸法を採用してもよい。
【0075】
本発明の酸素バリアー性多層構造体は、各種形状の包装容器に成形して使用することが可能である。
包装容器は、その目的、用途等により、密封材層側を内面として、種々の形態の容器、例えば、ゲーベルトップ、ブリックタイプ、立方体、正四面体等の形状を有する液体包装用容器、その他トレーやカップ状の容器、パウチ状の容器等として使用することができる。
包装容器は、その目的、用途等により、種々の形態の容器、例えば、ゲーベルトップ、ブリックタイプ、立方体、正四面体等の形状を有する液体包装用容器、その他トレーやカップ状の容器、パウチ状の容器等として使用することができる。
【0076】
これらの包装容器を得るための成形法は、特に限定されず、酸素吸収性多層体を、これを構成する樹脂の融点以下の温度で再加熱し、絞り成形、真空成形、圧空成形、プレス成形等の熱成形法、ロール延伸法、パンタグラフ式延伸法、又はインフレーション延伸法等により、一軸又は二軸延伸することによって、延伸された成形品を得ることができる。
【0077】
本発明の酸素吸収性多層体から得られる包装容器は、例えば、牛乳、ジュース、日本酒、ウイスキー、焼酎、コーヒー、茶、ゼリー飲料、健康飲料等の液体飲料;調味液、ソース、醤油、ドレッシング、液体だし、マヨネーズ、味噌、すり下ろし香辛料等の調味料;ジャム、クリーム、チョコレートペースト、ヨーグルト、ゼリー等のペースト状食品;液体スープ、煮物、漬物、シチュー等の液体加工食品;等に代表される液体系食品や、そば、うどん、ラーメン等の生麺及びゆで麺;精米、調湿米、無洗米等の調理前の米類や調理された炊飯米、五目飯、赤飯、お粥等の加工米製品類;粉末スープ、だしの素等の粉末調味料;等に代表される高水分食品、コンビニエンスストアーで使用される弁当箱;その他農薬や殺虫剤等の固体状や溶液状の化学薬品;液体及びペースト状の医薬品;化粧水、化粧クリーム、化粧乳液、整髪料、染毛剤等の化粧用品;シャンプー、石鹸、洗剤等の洗剤類;電子材料、記録媒体;等種々の物品を収納することができる。本発明の酸素吸収性多層体から得られる包装容器は、容器内部の酸素が酸素吸収性層によって吸収されることから、物品の酸化腐食等が防止され、長期間の良好な品質保持が可能となる。
【実施例】
【0078】
以下に製造例及び実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、各例中の部及び%は特に断りのない限り、質量基準である。
なお、各特性は、以下の方法により評価した。
〔共役ジエン重合体環化物の重量平均分子量(Mw)〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算分子量として求める。
【0079】
〔共役ジエン重合体環化物の不飽和結合減少率〕
下記(i)及び(ii)の文献に記載された方法を参考にして、プロトンNMR測定により求める。
(i) M.A.Golub and J.Heller,Can.J.Chem.,第41巻,937(1963).
(ii) Y.Tanaka and H.Sato,J.Polym.Sci:Poly.Chem.Ed.,第17巻,3027(1979).
いま、共役ジエン重合体中の共役ジエン単量体単位部分において、環化反応前の全プロトンピーク面積をSBT、二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積をSBU、環化反応後の全プロトンピーク面積をSAT、二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積をSAUとすると、
環化反応前の二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積比率(SB)は、
SB=SBU/SBT
環化反応後の二重結合に直接結合したプロトンのピーク面積比率(SA)は、
SA=SAU/SAT
従って、不飽和結合減少率は、下記式により求められる。
不飽和結合減少率(%)=100×(SB−SA)/SB
【0080】
〔樹脂(B)の分散構造(長手方向に垂直な断面の最大径の平均(本実施例において、「分散径」という。)、表面層(1)/コア層/表面層(2)の厚さ比率)〕
酸素吸収性バリアーフィルムから幅5mm、長さ10mmの試料片を切り出し、クライオウルトラミクロトームを用いて、−80℃で試料片断面を面出し後、オスミウム蒸気染色を30分、カーボン蒸着を約20nmの厚みになるよう実施する。電解放出型走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、商品名「S−4700」)で加速電圧を5kVとし、YAG検出器を用いて前処理した試験片断面の反射電子像を観察する。
【0081】
〔酸素透過度〕
JIS K7126に準拠した差圧法により、差圧式ガス・蒸気透過率測定装置(差圧式ガス透過装置:GTRテック社製、「GTR−30XAD2」,検出器:ヤナコテクニカルサイエンス社製、「G2700T・F」)を用いて、温度25±2℃、相対湿度65%又は90%、透過面の形状:直径4.4cmの円の条件で、測定し、厚さ20μmに換算する。単位は、cc/m・day・atm(20μm)である。
【0082】
〔酸素吸収速度〕
酸素吸収性バリアーフィルムを100mm×100mmの大きさに裁断し、300mm×400mmの大きさのアルミパウチ(桜物産社製、商品名「ハイレトルトアルミ ALH−9」)に入れ、内部の空気を完全に除去した後、酸素濃度20.7%の100ccの空気を封入して、23℃で5日間保存した後、酸素濃度計(米国セラマテック社製、商品名「フードチェッカー HS−750」)を用いて測定する。
この酸素濃度と、試験開始前の酸素濃度20.7%とから、酸素吸収速度(cc/cm・day)(20μm)を計算する。この数値が大きいほど、酸素吸収速度に優れている。
【0083】
〔剥離強度〕
フィルムと無延伸ポリプロピレンフィルム(MFR=6.9、出光石油化学社製、商品名「F−734NP」)とを160℃に設定したホットロールラミネーター(EXCELAM II 355Q:Gmp CO.LTD製)を用いてラミネート接着させる。得られたラミネートフィルム(多層構造体)を15mm幅×150mmの短冊状に裁断し、プロピレンフィルムと試験フィルムとの間の180°剥離強度を引張試験機(テンシロンUCT−5T、オリエンテック社製)を用いて、200mm/分の速度で測定する。
【0084】
(参考例1)
攪拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた耐圧反応器に、10mm角に裁断したポリイソプレン(シス−1,4単位73%、トランス−1,4単位22%、3,4−単位5%、重量平均分子量154,000)300部を、シクロヘキサン700部とともに仕込んだ。反応器内を窒素置換した後、75℃に加温して攪拌下でポリイソプレンをシクロヘキサンに完全に溶解した後、p−トルエンスルホン酸(トルエン中で、水分量が150ppm以下になるように、還流脱水したもの)2.19部を投入し、80℃以下で環化反応を行った。7時間反応させた後、炭酸ナトリウム0.84部を含む25%炭酸ナトリウム水溶液を投入して反応を停止した。80℃で、共沸還流脱水により水を除去した後、孔径2μmのガラス繊維フィルターにて系中の触媒残渣を除去して共役ジエン重合体環化物(B1)の溶液を得た。得られた共役ジエン重合体環化物(B1)の重量平均分子量は141,000、不飽和結合減少率は48.9%であった。また、この共役ジエン重合体環化物(B1)の酸素吸収速度は、0.03cc/cm・day(20μm)であった。
【0085】
(実施例1)
〔酸素吸収性バリアー樹脂組成物〕
上記共役ジエン重合体環化物(B1)500部の溶液に、共役ジエン重合体環化物(B1)に対して、100ppmに相当する量の酸化防止剤:チオジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製、商品名「イルガノックス1010」)及び低密度ポリエチレン(MFR=4.0、出光石油化学社製、商品名「モアテック0438」)(P1)500部を添加した後、溶液中のシクロヘキサンの一部を留去し、更に真空乾燥を行って、トルエンを除去して、固形状の共役ジエン重合体環化物(B1)/低密度ポリエチレン(P1)ブレンド物(ブレンド比=50/50)を得た。ブレンド物を粉砕し、短軸混練押し出し機(ダイスφ3mm×1穴)を使用して丸ペレット化して、ペレット(a)を得た。このペレット(a)40部及びエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)(酸素透過度3.2cc/m・day・atm(20μm)、エチレン含有量44モル%。クラレ社製、商品名「E105B」)(A1)のペレット60部とのドライブレンドを行い、本発明の酸素吸収性バリアー樹脂組成物(1)を得た。
【0086】
(実施例2)
〔酸素吸収性バリアーフィルム〕
実施例1で作成した酸素吸収性バリアー樹脂組成物(1)を、ラボプラストミル二軸押出機にTダイ、二軸延伸試験装置(ともに、東洋精機製作所社製)を接続して押し出し、幅100mm、厚さ20μmの酸素吸収性バリアーフィルム(f1)を得た。
【0087】
〔酸素吸収性バリアーフィルムの構造〕
得られた酸素吸収性バリアーフィルム(f1)を電子顕微鏡観察した結果を図1(TD方向断面)及び図2(MD方向断面)に示す。
図1は、棒状構造の樹脂(B)(共役ジエン重合体環化物(B1)と低密度ポリエチレン(P1)とのブレンド物)(以下、単に「樹脂(B)ブレンド物」という。)の長手方向に垂直な断面を示しており、図2は、棒状構造の樹脂(B)ブレンド物の長手方向の長さを示している。
【0088】
図1及び図2から、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A1)の海部分の中に、樹脂(B)ブレンド物からなる棒状構造の島部分(棒状構造体)が存在する海島構造が形成されていることが分かる。
また、図1及び図2から、酸素吸収性フィルムが図の左上から右下方向に、順に、表面層(1)/コア層/表面層(2)の3層構造(表面層とコア層とでは、棒状構造体の密度が異なっている。)を形成していることが分かる。
図1から、樹脂(B)ブレンド物の長手方向に垂直な断面の最大径の平均が1.0μm以下であること、及び、樹脂(B)の長手方向に垂直な断面の短径に対する長径の比率が、表面層(1)及び表面層(2)において2.0未満であり、コア層において2.0以上であることが分かる。
更に、図1及び図2から、棒状構造の樹脂(B)ブレンド物の長手方向長さと断面最大径との比(長手方向長さ/断面最大径)が5より大きいことが分かる。
【0089】
また、図3は、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(A1)及び樹脂(B)ブレンド物から成る海島分散構造体が、図の上から下の方向に、表面層(1)/コア層/表面層(2)の2種3層の構造体からなり、図中矢印で示す各層の厚さは、順に5.3μm、8.3μm及び7.5μmであることを示す。これから計算した各層の厚さの比率は、25:39:36である。
【0090】
〔酸素吸収性バリアーフィルムの酸素透過度〕
実施例2で得られた酸素吸収性バリアーフィルム(f1)について、酸素透過度を測定した。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例3)
〔ラミネートフィルムの剥離強度〕
酸素吸収性バリアーフィルム(f1)と無延伸ポリプロピレンフィルムとから調製したラミネートフィルム(酸素バリアー性多層構造体)(F1)について、剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
(実施例4〜6)
配合組成を表1に示すように変更する(なお、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、酸素透過度1.4cc/m・day・atm(20μm)、エチレン含有量38モル%。クラレ社製、商品名「H171B」(A2)を使用した。)他は、実施例1と同様にして、本発明の酸素吸収性バリアー樹脂組成物(2)を得た(実施例4)。
この酸素吸収性バリアー樹脂組成物(2)から、実施例2と同様にして得られた酸素吸収性バリアーフィルム(f2)について、酸素透過度を測定した(実施例5)。また、酸素吸収性バリアーフィルム(f2)を用いて実施例3と同様にして得られたラミネートフィルム(F2)について、剥離強度を測定した(実施例6)。
これらの結果を表1に示す。
【0094】
(比較例1〜3)
実施例1で使用したエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)(酸素透過度3.2cc/m・day・atm(20μm)、エチレン含有量44モル%。クラレ社製、商品名「E105B」)(A1)を単独で用いて酸素吸収性バリアー樹脂(C1)とした(比較例1)。
これを用いて、実施例2と同様に操作して酸素吸収性バリアーフィルム(fc1)を作成し、その酸素透過度を測定した(比較例2)。また、実施例3と同様にして得られたラミネートフィルム(FC1)について剥離強度を測定した(比較例3)。
これらの結果を表1に示す。
【0095】
(比較例4〜6)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)として、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)(酸素透過度3.2cc/m・day・atm(20μm)、エチレン含有量44モル%。日本合成化学社製、商品名「A4412」)(A3)を用いるほかは、比較例1〜3と同様の試験を行なった。結果を表1に示す。
【0096】
表1の結果から以下のようなことがわかる。
本発明によれば、酸素透過度が100cc/m・day・atm(20μm)以下の樹脂(A)からなるマトリックス中に、酸素吸収速度が0.001cc/cm・day(20μm)以上の樹脂(B)が分散されてなり、樹脂(B)が長手方向に垂直な断面の最大径の平均が1.0μm以下である棒状構造を形成していることを特徴とする酸素吸収性バリアー樹脂組成物が得られる。
【0097】
この酸素吸収性バリアー樹脂組成物から得られ、同様の構造を有する酸素吸収性バリアーフィルムは、表面層(1)/コア層/表面層(2)の3層構造を有し、3層の合計厚さに対する各層の厚さの比率が、表面層(1)、コア層及び表面層(2)について、それぞれ、15〜40%、20〜70%及び15〜40%である。
【0098】
また、この酸素吸収性バリアーフィルムは、低湿度下では勿論、高湿度下においても非常に低い酸素透過度を有し、また、これを有してなる多層フィルムは、優れた剥離強度を示す。
これに対して、エチレン−ビニルアルコール共重合体のみからなるフィルムは、低湿度下でも酸素透過度が大きく、特に高湿度下では非常に大きい酸素透過度を有し、これを有してなる多層フィルムは、剥離強度も非常に低い。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の酸素吸収性バリアーフィルムにおける樹脂(B)ブレンド物の分散状態を示す、フィルムのTD方向断面の電子顕微鏡写真である。図中、線分の長さは5μmである。
【図2】本発明の酸素吸収性バリアーフィルムにおける樹脂(B)ブレンド物の分散状態を示す、フィルムのMD方向断面の電子顕微鏡写真である。図中、線分の長さは5μmである。
【図3】本発明の酸素吸収性バリアーフィルムの3層構造を示す、フィルムのTD方向断面の電子顕微鏡写真である。図中、線分の長さは5μmである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素透過度が100cc/m・day・atm(20μm)以下の樹脂(A)からなるマトリックス中に、酸素吸収速度が0.001cc/cm・day(20μm)以上の樹脂(B)が分散されてなり、樹脂(B)が長手方向に垂直な断面の最大径の平均が1.0μm以下である棒状構造を形成していることを特徴とする酸素吸収性バリアー樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂(B)が不飽和結合減少率10%以上の共役ジエン重合体環化物である請求項1記載の酸素吸収性バリアー樹脂組成物。
【請求項3】
酸素透過度が100cc/m・day・atm(20μm)以下の樹脂(A)からなるマトリックス中に、酸素吸収速度が0.001cc/cm・day(20μm)以上の樹脂(B)が分散されてなり、樹脂(B)が長手方向に垂直な断面の最大径の平均が1.0μm以下である棒状構造を形成していることを特徴とする酸素吸収性バリアーフィルム。
【請求項4】
表面層(1)/コア層/表面層(2)の3層構造を有し、3層の合計厚さに対する各層の厚さの比率が、表面層(1)、コア層及び表面層(2)について、それぞれ、15〜40%、20〜70%及び15〜40%である請求項3に記載の酸素吸収性バリアーフィルム。
【請求項5】
樹脂(B)の長手方向に垂直な断面の短径に対する長径の比率が、表面層(1)及び表面層(2)において2.0未満であり、コア層において2.0以上である請求項4に記載の酸素吸収性バリアーフィルム。
【請求項6】
樹脂(B)が不飽和結合減少率10%以上の共役ジエン重合体環化物である請求項3〜5の何れかに記載の酸素吸収性バリアーフィルム。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれかに記載の酸素吸収性バリアーフィルムからなる層を少なくとも有する酸素バリアー性多層構造体。
【請求項8】
請求項7に記載の酸素バリアー性多層構造体からなる包装容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−189693(P2008−189693A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314232(P2005−314232)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】