説明

酸素富化空気製造装置及び酸素富化空気製造方法

【課題】磁場を利用して空気から酸素富化空気を安価に製造することが可能な酸素富化空気製造装置及び酸素富化空気製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、管壁を有する流路管20、20A、20B、20Cであって、この管壁が、非磁性体で且つ当該流路管20、20A、20B、20Cの内部の圧力よりも当該流路管20、20A、20B、20Cの外部の圧力が低いときに前記内部を流れる空気の一部が当該管壁を通過して外部に排出されるような素材で形成される流路管20、20A、20B、20Cの内部に磁場を形成し、流路管20、20A、20B、20Cの内部に少なくとも層流条件で流れる領域が形成されるよう当該流路管20、20A、20B、20C内に前記空気を供給し、所定の圧力まで流路管20、20A、20B、20Cの外部の圧力を減圧することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気から当該空気に含まれる窒素の一部を除去することによって前記空気よりも酸素濃度を高くした酸素富化空気を製造する酸素富化空気製造装置、及び酸素富化空気製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低炭素社会とエネルギー確保との両立には、石炭や石油等の化石燃料の有効利用が効果的である。例えば、比較的大きなCO排出源となる製鉄高炉や石炭発電での石炭の燃焼において、現状の大気(空気)の代わりに酸素(純酸素)または前記大気よりも酸素濃度を高くした空気(酸素富化空気)を吹き込んで燃やすことにより石炭を高カロリー燃焼させることができ、その結果、熱効率が向上する。
【0003】
このような化石燃料の高カロリー燃焼に用いられる純酸素を製造する方法としては、特許文献1に記載の深冷分離方式が知られている。この方法では、空気を冷却して液化した後、酸素と窒素との沸点の違いを利用して前記空気から酸素を分留する。
【0004】
また、常温(300K程度)の空気を用いて酸素富化空気を製造する装置として、特許文献2に記載の装置が知られている。
【0005】
この装置は、空気を構成する成分において酸素のみが常磁性体であり、他の成分が非磁性体であることを利用して空気中から窒素の一部を除去することによって酸素富化空気を製造する。
【0006】
具体的に、この装置は、図14に示されるように、内部を空気が流れ且つ非磁性体で形成された筒状の容器102と、前記空気の流れと直交する方向の磁場を容器102内に形成する一対の磁石104、104とを備える。容器102の一方の端部102aからは容器102内を流れる前記空気が供給される。また、容器102の他方の端部102bには、一対の磁石104、104によって形成される磁場内に始端部を有し、前記磁場と直交し且つ互いに平行な姿勢で配置されることにより容器102内における前記他方の端部側の領域を前記磁場と直交する方向に3分割する2枚の分割板106、106が配置されている。2枚の分割板106、106に挟まれた中央流路108の端部に開口する出口108bには第1通路管110が接続され、中央流路108を挟んで上下両側に位置する両側流路112、112に開口する各出口112bにはそれぞれ第2通路管114が接続される。
【0007】
以上の装置100では、容器102内において一方の端部102aから供給された空気が他方の端部102bに向かって流れ、この空気が一対の磁石104、104によって形成された磁場中に進入すると空気中の酸素のみが磁化される。そのため、空気中の酸素以外の成分は磁場の影響を受けずに他方の端部102bに向かって真っ直ぐに進むが、磁化された酸素はその進路を一対の磁石104、104により形成された磁場によって曲げられる。図14において、磁化された酸素は、上側若しくは下側に曲げられて両側流路112、112に進入する。これにより、酸素を多く含む空気(酸素富化空気)が第2通路管114に排出され、これを集めることにより所定量の酸素富化空気が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−218603号公報
【特許文献2】特開2004−49998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の深冷分離方式は、実用化されている酸素または酸素富化空気の製造方法の中では酸素等の製造単価が最も低いが、近年、より安価な酸素または酸素富化空気が求められている。
【0010】
しかし、上記の深冷分離方式では空気を液化するために極低温まで冷却することから、原理的にカルノー冷凍機の効率という理論限界を超えることができない。具体的には、深冷分離方式におけるエネルギー効率は、理論値で34%以下と低く、これ以上のエネルギー効率を得ることができない。
【0011】
そのため、製造単価がより低くなるように酸素または酸素富化空気を製造することは極めて困難である。
【0012】
また、上記の磁場を利用した装置100を用いて常温(300K)の空気から酸素富化空気を製造する場合のシミュレーションを行ったところ、常温の空気とこの空気から製造された酸素富化空気との酸素濃度の差が0.1%程度であった。しかも、上記の装置100では、容器102内において空気の流れる方向に100T/mのような極めて急激な磁場勾配を形成しなければならない。そのため、現実的且つ実用的な装置化を図ることは極めて困難である。
【0013】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、磁場を利用して空気から酸素富化空気を安価に製造することが可能な酸素富化空気製造装置及び酸素富化空気製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、種々検討した結果、上記課題は、以下の本発明により解消されることを見出した。即ち、本発明の一態様にかかる酸素富化空気製造装置は、投入空気よりも酸素濃度の高い酸素富化空気を製造する酸素富化空気製造装置であって、所定の減圧領域を密閉状態で囲う密閉容器部と、少なくともその一部が前記密閉容器部内を通過するように配置される流路管と、前記流路管の内部に空気を供給する空気供給部と、前記密閉容器部内の圧力を前記流路管の内部の圧力よりも低くなるように減圧する減圧部と、前記流路管の内部に磁場を形成する磁場形成部と、を備える。そして、前記流路管の内部には前記空気供給部によって供給された空気が少なくとも層流条件で流れる領域があり、前記流路管における前記密閉容器部内に位置する部位である減圧領域部位の管壁が、非磁性体で且つ当該減圧領域部位の内部の圧力よりも前記密閉容器部内の圧力が低いときに当該減圧領域部位の内部を流れる前記空気の一部が当該管壁を通過して外部に排出されるような素材によって形成される。
【0015】
そして、本発明の他の一態様にかかる酸素富化空気製造方法は、投入空気よりも酸素濃度の高い酸素富化空気を製造する方法において、管壁を有する流路管であって、この管壁が、非磁性体で且つ当該流路管の内部の圧力よりも当該流路管の外部の圧力が低いときに前記内部を流れる空気の一部が当該管壁を通過して外部に排出されるような素材で形成される流路管の内部に磁場を形成する磁場形成工程と、前記流路管の内部に少なくとも層流条件で流れる領域が形成されるよう当該流路管内に前記空気を供給する空気供給工程と、所定の圧力まで前記外部の圧力を減圧する減圧工程と、を備える。
【0016】
これらの構成によれば、流路管の内部の空気の流れにおいて常磁性体である酸素が磁場によって流路管の中心(管軸)側に移動するため、流路管の内周面と隣接する領域(少なくとも層流条件で空気の流れる領域(内周面近傍))の空気において窒素の割合が増加する(即ち、内周面近傍の空気において窒素が濃縮される)。このため、流路管の外部(周囲)の圧力を当該流路管の内部の圧力よりも低くしてこの窒素が濃縮された内周面近傍の空気を管壁を通じて流路管の外部に排出することによって流路管の内部に残った空気の酸素濃度が高くなり、これにより、酸素富化空気が得られる。しかも、上記の構成によれば、カルノー冷凍機の効率の理論限界よりも大きなエネルギー効率の達成が可能となる。即ち、当該酸素富化空気製造装置及び酸素富化空気製造方法によれば、常温の空気から酸素富化空気を製造するため、そのエネルギー効率がカルノー冷凍機の効率の理論限界に制限されず、これにより、例えば深冷分離方式よりも安価に酸素富化空気を製造することが可能となる。
【0017】
尚、流路管の内部を流れる空気に含まれる窒素が管壁を通じて外部に排出されるため、この空気は流路管の下流側に進むに従って前記排出された窒素の量に応じた流量の減少が生じる。このため、流路管の内部における層流条件で空気の流れる領域を維持し続けるためには、前記流路管は、その内部の前記空気が流れる流路空間における当該流路管の管軸と直交する断面の断面積が下流側に向かって段階的または連続的に減少する形状を有することが好ましい。また、このように、流路管の外部に排出された窒素の量に応じて当該流路管を流れる空気の流量が減るため、前記流路管では、前記空気が供給される側の端部である入口部の開口面積とこの入口部と反対側の端部である排気部の開口面積との比の値は、前記排気部から排気される前記酸素富化空気の酸素濃度に基づいて設定されている。
【0018】
本発明に係る酸素富化空気製造装置は、前記流路管を複数備え、各流路管は、互いに平行に配置されてもよい。
【0019】
かかる構成によれば、装置の大型化を防ぎつつ、流路管の内部を流れる空気の流量当たりの流路管表面積を増やすことによって酸素富化空気を効率よく製造することができる。
【0020】
また、前記流路管は、螺旋状または蛇行するように配置され、少なくともその一部が前記密閉容器部内を通過してもよい。
【0021】
かかる構成によれば、装置の小型化を図りつつ、密閉容器部内における流路管(減圧領域部位)の長さを十分に確保して流路管の外部に排出される窒素の量を大きくすることができる。
【0022】
前記酸素富化空気製造装置は、前記空気供給部と前記減圧部とを制御する制御部を備え、前記制御部は、前記流路管の内部に前記空気が少なくとも層流条件で流れる領域が形成されると共に前記流路管の内周面と隣接する領域における前記空気の流速勾配が一定となるように前記空気供給部と前記減圧部とによって前記流路管の内部に供給される空気の流量と前記密閉容器部内の圧力とをそれぞれ調整することが好ましい。
【0023】
かかる構成によれば、制御部によって空気供給部と減圧部とが制御されることにより流路管の内部の空気の流れにおいて層流条件で空気の流れる領域が維持されるため、当該装置の運転操作を簡略化することができる。
【0024】
尚、前記酸素富化空気製造装置においては、前記磁場形成部が前記減圧領域部位の内部に3T以上の磁場を形成することにより、空気(投入空気)から酸素富化空気を製造することが可能となる。即ち、3T以上の磁場が形成されることによって、磁化された酸素が流路管内の空気の流れにおいて中心(管軸)側に濃縮され、これにより、流路管の内周面近傍に窒素が濃縮される。この窒素が濃縮された空気が流路管の外部に排出されることによって、前記流路管内を流れる空気の酸素濃度が向上する。
【0025】
前記酸素富化空気製造装置では、前記磁場形成部が複数のソレノイドコイルを有し、前記複数のソレノイドコイルは、各ソレノイドコイルの中心軸が互いに平行となり且つ当該中心軸が所定の円周上に並ぶように配置されると共に、隣り合うソレノイドコイルの磁極の向きが互いに逆になるように配置され、前記流路管が前記ソレノイドコイル内を挿通してもよい。
【0026】
このように複数のソレノイドコイルが配置されることによって、各ソレノイドコイルが形成する漏れ磁場が打ち消しあい、これにより、各ソレノイドコイルの外部に発生する磁場を抑制することができる。即ち、ソレノイドコイルの配置のみによって装置外部への漏れ磁場を効果的に抑制することができる。
【0027】
また、前記酸素富化空気製造装置では、前記減圧領域部位の管壁は、窒素の透過率が酸素の透過率よりも大きな素材によって形成されてもよい。
【0028】
かかる構成によれば、流路管内を流れる空気中の酸素の流路管外部への排出を抑えつつ、前記空気中の窒素の流路管外部への排出をより効果的に行うことができる。
【0029】
前記流路管は、その内部を流れる空気の流れを整える整流部材を有してもよい。
【0030】
かかる構成によれば、流路管内における当該流路管の内周面と隣接する領域を含めたより多くの領域において空気が層流条件で流れ、これにより、流路管内の空気の流れにおいて中心(管軸)側に酸素がより効果的に濃縮される(即ち、前記内周面と隣接する領域を流れる空気中の窒素がより効果的に濃縮される)。その結果、流路管内を流れる空気中から窒素が流路管の外部により好適に排出される。
【発明の効果】
【0031】
以上より、本発明によれば、磁場を利用して空気から酸素富化空気を安価に製造することが可能な酸素富化空気製造装置及び酸素富化空気製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施形態に係る酸素富化空気製造装置の概略構成図である。
【図2】前記酸素富化空気製造装置における酸素富化空気の製造原理を説明するための模式図である。
【図3】前記酸素富化空気製造装置における酸素富化空気の製造工程のフローを示す図である。
【図4】強磁場下での酸素の磁化率と粘度変化率とを示す図である。
【図5】流速勾配のある流れの一部における酸素分子モデルを示す図である。
【図6】流路管の内部における空気の流速分布を示す図である。
【図7】粘性分離現象が生じているかを確認するための実験装置の概略構成図である。
【図8】配管抵抗と磁場強度との関係を示す図である。
【図9】配管の直径と表面積との関係を説明するための図である。
【図10】第2実施形態に係る酸素富化空気製造装置の概略構成図である。
【図11】他実施形態に係る酸素富化空気製造装置の概略構成図である。
【図12】他実施形態に係る酸素富化空気製造装置の概略構成図である。
【図13】磁場形成部としてマルチポールソレノイドコイルが用いられた酸素富化製造装置を説明するための図である。
【図14】従来の磁場を利用した酸素富化空気製造装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の第1実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0034】
本実施形態に係る酸素富化空気製造装置(以下、単に「製造装置」とも称する。)は、例えば、製鉄高炉や発電等において石炭や石油等の化石燃料を燃焼させるときに熱効率の向上及び排出ガス(COガス等)の削減を目的として吹き込ませる酸素濃度の高い空気(酸素富化空気)を製造するためのものである。尚、酸素富化空気は、大気に比べて酸素濃度の高い空気のことである。
【0035】
製造装置は、投入空気よりも酸素濃度の高い酸素富化空気を製造する酸素富化空気製造装置であって、所定の減圧領域を密閉状態で囲う密閉容器部と、少なくともその一部が前記密閉容器部内を通過するように配置される流路管と、前記流路管の内部に空気を供給する空気供給部と、前記密閉容器部内の圧力を前記流路管の内部の圧力よりも低くなるように減圧する減圧部と、前記流路管の内部に磁場を形成する磁場形成部と、を備える。そして、前記流路管の内部には前記空気供給部によって供給された空気が少なくとも層流条件で流れる領域があり、前記流路管における前記密閉容器部内に位置する部位である透過部(減圧領域部位)の管壁が、非磁性体で且つ当該減圧領域部位の内部の圧力よりも前記密閉容器部内の圧力が低いときに当該透過部の内部を流れる前記空気の一部が当該管壁を通過して外部に排出されるような素材によって形成される。
【0036】
この製造装置では、以下のようにして常温の投入空気(以下、単に「空気」とも称する。)から当該空気に含まれる窒素の一部が除去され、酸素富化空気が製造される。
【0037】
空気には酸素が含まれ、この酸素は常磁性体であるため所定の強度以上の磁場下において磁化する。また、磁性粒子が分散した流体が磁化すると、外部磁場との相互作用と磁性粒子同士の相互作用(例えば凝集力)とにより、磁場の関数として前記流体の粘度が増大する。従って、空気を磁場中で流すことによって当該空気に含まれる酸素(詳しくは酸素ガス)の粘度が増大する。即ち、空気を磁場中で流すことにより、空気中の酸素以外の成分は非磁性体であるため磁化されずにその粘度が維持される一方、酸素のみが磁化されてその粘度が増大する。
【0038】
空気では酸素と窒素とがその大部分を占めるため(体積比で21%と約79%)、空気を酸素と窒素との2成分混合流体と見なすことができる。ここで、単相粘度の異なる2成分混合流体が、少なくとも内周面(流路管の内周面)と隣接する領域において層流条件となるよう、流路管の内部において流されることにより、粘度の大きい成分は中心(管軸)側に移動し、粘度の小さい成分は管壁の内周面近傍に残る。このとき、少なくとも内周面と隣接する領域において層流条件となるよう、空気が流路管の内部を流れていれば、流路管の中心部において乱流が生じていてもよい。
【0039】
これにより、中心側では粘度の大きい成分が濃縮される一方、内周面近傍では粘度の小さい成分が濃縮される(いわゆる粘性分離/粘性偏析が生じる)。従って、流路管の内部に磁場を形成し、少なくとも内周面(流路管の内周面)と隣接する領域において層流条件となるよう、前記流路管の内部に空気を流すことによって、粘度の増大した酸素が流路管の中心(管軸)側に濃縮されると共に窒素が流路管の内周面近傍に濃縮される。尚、前記2成分混合流体が流路管内全域において層流条件となるように流されても、流路管の内部に磁場が形成されることにより、流路管の中心側に酸素が濃縮されると共に流路管の内周面近傍(管壁側)に窒素が濃縮される。
【0040】
内部に磁場が形成された流路管の管壁が、非磁性体で且つ流路管の内部の圧力よりも当該流路管の外部(周囲)の圧力が低いときに当該流路管の内部を流れる空気の一部が管壁を通過して外部に排出されるような素材によって形成されている。このため、流路管の外部の圧力をその内部の圧力よりも低くすることにより前記内周面近傍に濃縮された窒素(詳しくは、窒素が濃縮された空気)が管壁を通じて流路管の外部に排出される。これにより、磁場が形成された流路管の内部を流れる空気に含まれる窒素の割合が減る一方、これに伴って前記空気に含まれる酸素の割合が大きくなり、その結果、酸素富化空気が得られる。
【0041】
より具体的に、このような製造装置は、図1及び図2に示されるように、密閉容器部12と流路部13と空気供給部14と減圧部16と磁場形成部30と制御部35とを備える。
【0042】
密閉容器部12は、所定の領域(減圧領域/減圧空間)Sを密閉状態で囲う。具体的に、密閉容器部12は、非磁性体で形成され、磁場形成部30によって磁場が形成される領域(本実施形態では、超電導コイル32のボア内)を密閉状態で囲う。この密閉容器部12は、例えば、SUS316Lステンレスやアルミ合金によって形成されるのが好ましいが、これらに限定されない。
【0043】
流路部13は、空気分配部19と、複数の流路管20、20、…と、空気集合部21と、を有する。
【0044】
空気分配部19は、空気供給部14から供給された空気(投入空気)を各流路管20に分配する。本実施形態の空気分配部19は、各流路管20における空気の流量が略等しくなるよう、空気供給部14から供給された空気を各流路管20に分配する。
【0045】
各流路管20は、非磁性体によって形成される中空筒状の部材であり、少なくともその一部が密閉容器部12内(減圧領域S)を通過するように配置される。この流路管20は、内部を空気が層流条件で流れる。具体的に、各流路管20は、管軸方向の各位置において管軸と直交する断面が円形の筒状であり、非透過部22と透過部(減圧領域部位)24とを有する。尚、本実施形態では、空気が流路管20内の略全域を層流条件で流れるが、これに限定されない。即ち、少なくとも内周面(流路管20の内周面)と隣接する領域において層流条件となるよう、空気が流路管20の内部を流れていればよく、中心部(管軸付近)において乱流が生じていてもよい。
【0046】
非透過部22は、流路管20における密閉容器部12の外部に位置する部位である。非透過部22の管壁は、当該非透過部22の内部を流れる空気が外部に漏れない素材によって形成される。
【0047】
透過部24は、流路管20における密閉容器部12の内部(減圧領域S内)に位置する部位である。透過部24の管壁は、当該透過部24の内部の圧力よりも外部(減圧領域S)の圧力が低いときに当該透過部24の内部を流れる空気の一部が当該管壁を通過するような素材によって形成される。具体的に、透過部24の管壁は多孔質部材により形成されている。これにより、密閉容器部12内を負圧排気して透過部24の内部の圧力よりも減圧領域Sの圧力を低くすることで、透過部24において管壁の内周面近傍の空気が管壁の微細孔を通じて外部に排出される。本実施形態の透過部24の管壁は、素焼きの陶器によって形成されているが、これに限定されず、例えば、非磁性体金属を焼結させたものや多数の微細孔(ポーラス)を有する高分子樹脂等によって形成されてもよい。また、透過部24の管壁は、例えば、シリコンのような窒素の透過率が酸素の透過率よりも大きな素材によって形成されてもよい。
【0048】
各流路管20の透過部24は、その内部の空気が流れる流路空間における前記管軸と直交する断面の断面積が下流側に向かって連続的に減少する形状をそれぞれ有する。
【0049】
尚、図2は、製造装置10の原理を説明するための模式図である。そのため、図2においては、1つの流路管20だけが示されている。
【0050】
この流路管20では、空気が供給される側の端部である入口部20aの開口面積と、この入口部20aと反対側の端部である排気部20bの開口面積との比は、排気部20bから排気される酸素富化空気の酸素濃度に基づいて設定される。これは、密閉容器部12内の圧力が十分に減圧されて流路管20(透過部24)の内部の圧力よりも低くなったときに、流路管20の透過部24において下流側に進むに従って徐々に空気中の窒素が除去(流路管20の外部に排出)されるため、流路管20の内部を流れる空気の流量が下流側に進むに従って徐々に減るためである(図2参照)。
【0051】
具体的には、酸素濃度がX%の酸素富化空気を得る場合には、入口部20aの開口面積と排気部20bの開口面積との面積比が21/Xとなるように設定される。これを入口部20aと排気部20bとの内径比で表すと
【0052】
【数1】

となる。この「21」は、空気中の酸素の体積比(21%)の値である。
【0053】
尚、流路管20(透過部24)は、内径が下流側に向かって連続的又は断続的に減少する形状に限定されない。即ち、流路管20(透過部24)は、管軸方向における各位置の内径が一定となる形状であってもよい。換言すると、流路管20(透過部24)では、その内部の空気が流れる流路空間における管軸と直交する断面の断面積が管軸方向の各位置において一定であってもよい。
【0054】
空気集合部21は、各流路管20から排出された空気(酸素富化空気)を合流(集合)させて排出する。
【0055】
尚、流路部13において、流路管20が透過部24のみによって構成されてもよい(即ち、非透過部22が無くてもよい)。この場合、透過部24は、空気分配部19と空気集合部21とに、直接、接続される。
【0056】
空気供給部14は、流路管20の内部に空気を供給する。この空気供給部14は、制御部35に接続され、この制御部35からの指令信号に従って流路管20の内部に供給する空気の流量、流速等を調整する。空気供給部14は、その周囲(又は流路管20の入口部20aの周囲)の空気を圧縮や加熱等することなく流路管20の内部に送り込む。本実施形態の空気供給部14は、ファン15を回転させることにより空気を送り込む送風機である。また、空気供給部14は、ファン15と空気分配部19との間に設けられるフィルターfを有する。このフィルターfは、空気分配部19(各流路管20内)に供給される空気から煤塵等を取り除く。
【0057】
減圧部16は、密閉容器部12内(減圧領域S)の圧力を流路管20(詳しくは透過部24)の内部の圧力よりも低くなるように減圧する。具体的に、減圧部16は、密閉容器部12内を排気することによって減圧する。また、減圧部16は、制御部35に接続され、この制御部35からの指令信号に従って排気量を調整する。本実施形態の減圧部16は排気ポンプであるが、これに限定されず、密閉容器部12内を所定の圧力まで減圧でき、その圧力を維持できれば他の装置でもよい。
【0058】
磁場形成部30は、各流路管20の内部に磁場を形成する。本実施形態の磁場形成部30は、超電導コイル32を有する超電導電磁石であり、超電導コイル32のボア内に配置される密閉容器部12内に位置する各流路管20(本実施形態では透過部24)の内部に磁場を形成する。具体的に、磁場形成部30は、ボア内(流路管20におけるボア内に配置された部位の内部)に3T以上の一様(または略一様)な磁場を形成する。この磁場形成部30は、流路管20の各直管部(透過部24)の内部にその管軸方向に沿った磁場を形成する。
【0059】
尚、流路管20の内部に形成される磁場の向きは限定されない。本実施形態の磁場形成部30は、直管部(透過部24)の内部にその管軸方向に沿った磁場を形成するが、例えば、流路管20に対して直交する方向の磁場を形成するように構成されてもよく、また、流路管20に対して傾斜(交差)する方向の磁場を形成するように構成されてもよい(図10参照)。また、磁場形成部30が形成する磁場は一様でなくてもよい。また、磁場形成部30は、超電導コイル32を有する超電導電磁石に限定されず、対向配置され且つその間に磁力線が一方から他方に向かうような磁場を形成する一対の磁石等でもよい。
【0060】
制御部35は、空気供給部14と減圧部16とを制御する。具体的に、制御部35は、透過部24において、その内周面と隣接する領域(内周面近傍)の空気が管壁を通じて外部に排出されるように減圧部16を制御して密閉容器部12内(減圧領域S)の圧力を調整する一方、流路管20の管軸方向全域に亘って当該流路管20の内部を流れる空気が層流条件を満たし且つ流路管20の内周面近傍の前記空気の流速勾配が一定となるように空気供給部14を制御して流路管20の内部に供給される空気の流量等を調整する。
【0061】
尚、制御部35は、少なくとも流路管20の内周面近傍(内周面と隣接する領域)において層流条件で空気が流れ、且つ当該流路管20の内周面近傍における前記空気の流速勾配が一定となるように空気供給部14を制御して流路管20の内部に供給される空気の流量等を調整すればよい。
【0062】
このような製造装置10によれば、図3及び以下のようにして酸素富化空気が製造される。
【0063】
まず、磁場形成部30(本実施形態では超電導電磁石)が密閉容器部12内(減圧領域S)に磁場を形成する(ステップS1)。この状態で、制御部35は、空気供給部14によって空気分配部19を介して各流路管20の入口部20aから流路管20の内部に空気を供給する(ステップS2)。このとき、空気供給部14は、流路管20の内部を流れる空気が層流となるように当該流路管20の内部に空気を供給する。これにより、空気供給部14によって供給された空気は、各流路管20の内部を、入口部20aから排気部20bに向かって層流条件を満たしつつ流れる。即ち、流路管20の内部では、その管軸方向全域に亘って空気の流れが層流となっている。この空気は、主に、非磁性体の窒素と常磁性体の酸素とによって構成されている。具体的には、体積比で、窒素が約79%、酸素が21%である。そのため、この空気を窒素と酸素との2成分流体とみなすことができる。
【0064】
この空気が磁場形成部30によって形成された磁場内に侵入すると、常磁性体の酸素は磁化される。本実施形態では、空気の温度が例えば300K、磁場の強度が例えば10Tであるため、図4に示されるように、前記空気に含まれる酸素の磁化率は約2%である。この図4に示される磁化曲線は、磁場に比例して増加し、数百ステラ以上で50%となり、やがて飽和曲線をたどる。
【0065】
磁性粒子が分散した流体が磁化すると、外部磁場との相互作用と磁性粒子同士の相互作用(凝集力等)とにより、磁場の関数として前記流体の粘度が増大する。そのため、流路管20の内部を流れる空気において当該空気に含まれる酸素が磁化すると、酸素(詳しくは空気中における酸素ガス)の粘度が増大する。
【0066】
具体的に、酸素の粘度は以下の式(2)で表される。
【0067】
【数2】

ここで、ξはランジュバン関数における規格化パラメータであって磁場の強さと絶対温度との比で決まるものであり、ηは粘性(Pa/s)であり、φは分散粒子(酸素分子)の体積分率である。
【0068】
この式(2)において磁場の効果が現れるのは第3項である。この第3項は、簡単に説明すると、せん断速度に起因する回転摩擦トルクの効果を示す。ここで、図5を用いてこの第3項の直感的意味を説明する。
【0069】
流速勾配(ずり速度/せん断速度)のある流れの一部における酸素分子は、あたかもすべり摩擦と転がり摩擦とを受けながら転がる剛体球としてモデル化することができる。実際には、図5に示すような傾斜面はないが、平均流速で移動する座標系から見たときに、面の反対側から衝突してくる窒素分子や酸素分子の衝撃反作用が剛性を有する前記傾斜面に相等すると考える。このモデルにおいて、無磁場領域から転がってきた酸素分子が外部磁場(本実施形態では磁場形成部30により形成される磁場)のある領域に入ると酸素の磁化モーメントが外部磁場の相互作用(トルク)を受けて急に転がり摩擦が大きくなって酸素分子は転がり難くなり、すべり摩擦による抵抗が顕著になる。この効果が粘度の増大となって現れる。この磁場効果は、式(2)の第3項のように、磁化率と同様の規格化パラメータξの関数として計算でき、粘度変化率として図4に示すようになる。
【0070】
また、式(2)の第4項は、強磁場領域における分子間相互作用による凝集効果を表す。具体的には、粘性は、気体分子同士の衝突に起因した輸送特性のマクロ現象であるが、酸素分子同士の衝突では、強磁場下において両者の磁化モーメントの方向が揃った状態での衝突頻度が高くなり、引力的(凝集力)な相互作用(図5における波線参照)が加わる。この効果(相互作用)は、粘性をさらに大きくする。
【0071】
以上のように内部に磁場が形成された流路管20を流れる空気において、常磁性体である酸素の粘度だけが増大し、非磁性体である窒素の粘度が変化しないため、この空気を単相粘度が異なる2成分(酸素及び窒素)混合流体と見なすことができる。
【0072】
ここで、単相粘度の異なる2成分混合流体が円管に層流条件となるように流されると、粘度の大きい成分が中央(管軸)側において濃縮されると共に粘度の小さい成分が管壁の内周面近傍において濃縮される(粘性分離/粘性偏析と呼ばれる)。
【0073】
従って、内部に磁場が形成された流路管20を流れる空気において、中央(管軸)側に前記粘度の増大した酸素が集まる(即ち、中央側において酸素が濃縮される)一方、この酸素の中央側への移動によって内周面近傍には窒素が残る(即ち、内周面近傍において窒素が濃縮される)。詳しくは、以下に説明する。
【0074】
空気が酸素と窒素との混合気体と見なされ、この空気が層流条件となるように円管状の流路管20に流される。ここで、層流条件を
【0075】
【数3】

とする。
【0076】
この空気の流れは、ハーゲン−ポアズイユ流となる。このとき、流速分布は、流路管20の中央(管軸)に軸を持つ放物線形状となり(図2及び図6参照)、以下の式(4)によって表される。
【0077】
【数4】

ここで、Qは全流量であり、U=2<U>=8Q/πDであり、<U>は平均流速である。
【0078】
この式(4)から以下の式(5)が求められる。
【0079】
【数5】

このように流路管20の内部において流れる空気の流速勾配は、中央(管軸/r=0)において0、管壁の内周面(r=D/2)において最大値(2U/D)となる。この管壁の内周面に隣接する領域(内周面近傍)における流速の急勾配(即ち、大きなずり速度)によって上記の粘性分離現象が生じる。
【0080】
より詳しくは、例えば、本実施形態における酸素の磁化率が2%であることから、一つの酸素分子に着目すると、この酸素分子は、透過部24を流れている時間の平均2%の間、磁化する。この磁化したときに、酸素分子は、外部磁場(磁場形成部30によって形成される磁場)により回転にブレーキがかかる。ここで、酸素分子が流速勾配の大きい領域(管壁の内周面近傍)において漂っているとすると、この酸素分子は、速度の大きな流線と速度の小さな流線との間に挟まれて転がりながら流れていると見なせ、その転がりが外部磁場によって急激に妨げられると反跳して流速勾配のより小さい場所へと弾かれる(図5における反跳軌跡参照)。これが、磁性流体/常磁性流体に特有の磁場下における粘性分離現象である。
【0081】
このような粘性分離現象は、3T以上の磁場下において生じる。これは、図7に示される実験装置200によって確認することができる。
【0082】
この実験装置200は、ガス供給部202と、配管がホイーストン・ブリッジ回路形状に設置された配管部(以下、単に「回路状配管部」とも称する。)204と、を備える。
【0083】
ガス供給部202は、回路状配管部204に向けて窒素ガスと酸素ガスとの混合ガスを供給する。このガス供給部202は、回路状配管部204に供給する混合ガスの成分比(即ち、窒素ガスに対する酸素ガスの濃度)を任意に変更でき、且つ、回路状配管部204に供給する混合ガスの流量を調整する。
【0084】
回路状配管部204では、第1〜第5配管211〜215がホイーストン・ブリッジ回路形状に配置され、ホイーストン・ブリッジ回路における電流計の配置位置に相当する部位(第5配管215)に微差圧計206が設けられている。また、回路状配管部204では、微差圧計206よりも下流側の2つの配管(第3配管213及び第4配管214)のうちの一方の配管(第4配管)214内に磁場を形成する例えば無冷媒超電導マグネット等の磁場発生部208が設けられている。この回路状配管部204を通過した混合ガスは、大気開放されている。
【0085】
この実験装置200において、ガス供給部202が所定の成分比の混合ガスを回路状配管部204に供給しつつ、磁場発生部208が第4配管214内に0〜6Tの磁場を発生させ、このときの第5配管215の端部間の差圧が微差圧計206によって計測される。図8は、この測定結果をプロットした図である。
【0086】
この測定結果から、回路状配管部204に供給される混合ガスの酸素濃度が0%(即ち、窒素濃度が100%)の場合は、磁場が印加されても配管抵抗の値が変化せず、混合ガスの酸素濃度が100%の場合は、酸素の磁場効果によって0〜2Tの間は配管抵抗の値が変化するが、2T付近で配管抵抗の値が一定となり、それ以上磁場が大きくなっても配管抵抗の値は変化しないことがわかる。
【0087】
また、前記測定結果から、混合ガスの酸素濃度が20%と40%の場合は、2T付近までは酸素濃度が100%の場合と同様に配管抵抗の値が変化していることから、酸素の磁場効果による配管抵抗の値の変化であることがわかる。これに対し、前記測定結果における2T以上の領域においては、酸素濃度が100%の場合と異なった配管抵抗の値の変化であるため、2T以上の領域における配管抵抗の値の変化は、磁場中の混合ガスに偏流が発生することによって生じていることがわかる。この酸素濃度が100%の場合と異なった配管抵抗の値の変化は、3T以上の領域において顕著となっていることから、3T以上の領域において粘性分離現象が生じていることが確認できる。
【0088】
制御部35は、以上の流路管20への空気の供給と共に、減圧領域Sの圧力が流路管20の内部の圧力よりも低くなるまで減圧部16によって密閉容器部12内を排気(減圧)する(ステップS3)。これにより、透過部24の管壁を通じて内周面近傍(内周面と隣接する領域)の空気が流路管20の外部に排出される(図2参照)。このとき、上記の粘性分離現象によって内周面近傍において窒素が濃縮された空気が存在するため、この空気が排出されることにより、流路管20の内部を流れる空気に含まれる酸素の比率が高くなる。即ち、酸素濃度が高くなる。流路管20において、下流側に進むに従って窒素が透過部24の管壁を通じて漸次排出されるため、酸素濃度が徐々に高くなる。このようにして酸素濃度が高くなった空気(酸素富化空気)が各流路管20の排気部20bから空気集合部21に排気される。空気集合部21は、各流路管20から排気された空気(酸素富化空気)を合流させた後、後段の製鉄高炉や発電等に送り出す。
【0089】
尚、減圧部16からは、流路管20の内部を流れる空気から密閉容器部12内(減圧領域S)に排出された窒素を多く含む空気(窒素が濃縮された空気)が排気される。
【0090】
また、上記のステップS2とステップS3とは、同時に行われてもよく、いずれか一方のステップが先に行われてもよい。
【0091】
以上のように、製造装置10では、流路管20の内部の空気の流れにおいて常磁性体である酸素が磁場によって流路管20の中心側に移動するため、流路管20の内周面近傍の空気において窒素の割合が増加する(即ち、内周面近傍の空気において窒素が濃縮される)。そして、製造装置10では、流路管20の外部(周囲)の圧力が当該流路管20の内部の圧力よりも低くされ、この窒素が濃縮された内周面近傍の空気が管壁を通じて流路管20の外部に排出されることによって流路管20の内部に残った空気の酸素濃度が高くなる。このようにして、製造装置10では、酸素富化空気が得られる。しかも、上記の製造装置10によれば、カルノー冷凍機の効率の理論限界よりも大きなエネルギー効率の達成が可能となる。即ち、当該装置10は、常温の空気から酸素富化空気を製造するため、そのエネルギー効率がカルノー冷凍機の効率の理論限界に制限されず、これにより、例えば深冷分離方式よりも安価に酸素富化空気を製造可能である。
【0092】
また、上記製造装置10では、透過部24において内部を流れる空気に含まれる窒素(詳しくは窒素が濃縮された空気)が管壁を通じて外部に排出されるため、流路管20を流れる空気の流量が下流側に進むに従って減少するが、流路管20がその内部の流路空間における当該流路管20の管軸と直交する断面の断面積が下流側に向かって連続的に減少する形状を有することにより、流路管20の内部を流れる空気の層流条件が維持される。
【0093】
また、上記製造装置10によれば、複数の流路管20が平行に配置されることにより、装置の大型化を防ぎつつ、密閉容器部12内において流路管20の内部を流れる空気の流量当たりの流路管表面積を増やすことによって酸素富化空気を効率よく製造することができる。
【0094】
具体的には、図9(A)及び図9(B)に示すように、直径がD1の配管60が磁場中に設置される場合と、この配管60の設置スペース(図9(B)の点線で示す領域)内に複数の配管(例えば、直径が(3/8)×D1の配管)62、62、…が設置される場合と、を比較すると、配管60の表面積がD1×πであるのに対し、複数の配管62、62、…の表面積の合計は(3/8)×D1×π×3=(9/8)×D1×πとなり、配管60の表面積よりも複数の配管を並列に配置した場合の表面積の方が大きくなる。ここで、磁場中における配管の表面積が大きい程、配管の内部から外側へ引き出される窒素(窒素が濃縮された空気)の量が多くなる。従って、複数の流路管20が平行に配置されることにより、酸素富化空気が効率よく製造される。
【0095】
また、上記製造装置10によれば、流路管20の内部の空気の流れにおいて層流条件で空気の流れる領域が維持されるように空気供給部14と減圧部16とを制御する制御部35を備えることによって、当該製造装置10の運転操作を簡略化することができる。
【0096】
次に、本発明の第2実施形態について図10を参照しつつ説明するが、上記第1実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成ついてのみ詳細に説明する。
【0097】
本実施形態に係る製造装置10Aと第1実施形態の製造装置10Aとでは、流路部が異なる。具体的に、本実施形態の製造装置10Aでは、流路部が1本の流路管20Aによって構成されている。
【0098】
流路管20Aは、平行に並ぶ直管形状の複数(図10に示す例では9本)の透過部24、24、…と、流路管20Aが蛇行するように、隣り合う透過部24、24の端部同士を左右交互に接続する湾曲管形状の複数(図10に示す例では8本)の非透過部22、22、…とを有する。そして、各透過部24においてその内径は管軸方向の各位置において一定となるように形成され、隣り合う透過部24、24同士では、上流側の透過部24の内径よりも下流側の透過部24の内径の方が小さい。これにより、流路管20Aにおいてその流路空間の前記管軸と直交する断面の断面積が下流側に向かって段階的に減少する。
【0099】
尚、流路管20Aは、図2に示されるように、その流路空間における前記管軸と直交する断面積が下流側に向かって連続的に減少する形状を有していてもよい。
【0100】
空気供給部14のフィルターfは、ファン15と流路管20の入口部20aとの間に設けられる。
【0101】
以上の製造装置10Aによれば、流路管20Aが蛇行するように配置されることにより、装置10Aの小型化を図りつつ、密閉容器部12内における流路管20A(透過部24)の長さを十分に確保して流路管20の外部に排出される窒素の量を大きくする、即ち、酸素濃度のより大きな酸素富化空気を得ることができる。
【0102】
尚、本発明の酸素富化空気製造装置及び酸素富化空気製造方法は、上記第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0103】
流路管20の具体的な配置は限定されない。上記第2実施形態では、流路管20Aは蛇行するように配置されているがこれに限定されない。例えば、図11に示されるように、流路管20Bは、螺旋状に配置されてもよい。このとき、螺旋状の部位全体が密閉容器部12内(減圧領域S)に配置されてもよく、螺旋状の部位の一部が密閉容器部12内(減圧領域S)に配置されてもよい。
【0104】
また、流路管20Aが蛇行するように配置された場合、上記第2実施形態のように直管部(図10における透過部24に相等する部位)のみが密閉容器部12内(減圧領域S)に配置される構成に限定されず、前記直管部に加えて湾曲部(図10において透過部24同士を接続している部位)も密閉容器部12内(減圧領域S)に配置されてもよい。
【0105】
また、流路管20、20A、20Bの密閉容器部12内(減圧領域S)に配置された部位全体が透過部24であってもよく、一部が透過部24であってもよい。
【0106】
また、図12に示されるように、流路管20Cは、内部を流れる空気が循環する複数(図12に示す例では3つ)の循環部120(第1循環部121、第2循環部122、及び第3循環部123)と、隣接する循環部121、122(または122、123)同士を接続する複数(図12に示す例では2つ)の接続部125と、を有する構成でもよい。各循環部120において密閉容器部12内(減圧領域S)に配置される部位が透過部24Aであり、密閉容器12部の外側に配置される部位が非透過部22Aである。また、各接続部125も非透過部である。このように流路管20Cが複数の循環部121、122、…を有する構成の場合、各接続部125にバルブ等の流量調整部126が設けられ、この流量調整部126が接続部125を流れる空気の流量を調整することによって、第1循環部121で循環する空気の一部が所定の流量で第2循環部122に流れ込む。また、第2循環部122で循環する空気の一部が所定の流量で第3循環部123に流れ込む。また、空気が循環し易いように、各循環部120には、送風ファン127がそれぞれ設けられている。
【0107】
このように流路管20Cに循環部120を設けて内部を流れる空気を循環させることによって、密閉容器部12を大きくすることなく空気の透過部24A内を流れる距離を十分に大きくすることができ、これにより、窒素の分離効率を向上させることができる。
【0108】
また、上記第1実施形態の製造装置10では磁場形成部30が10Tの磁場を形成するが3T以上の磁場が形成されればよい。但し、実用において十分な酸素濃度の酸素富化空気をより確実に製造するためには、磁場形成部30が形成する磁場の大きさは、10T以上が好ましい。これにより、流路管20内の酸素の磁化率がより高くなり、流路管の内部を流れる空気において中心(管軸)側に酸素がより濃縮されると共に流路管の内周面近傍に窒素がより濃縮し、その結果、空気中から窒素をより効率よく除去することが可能となる。
【0109】
また、磁場形成部は、マルチポールソレノイドコイルによって構成されてもよい。このマルチポールソレノイドコイルは、図13に示されるように、複数(図13の例では、6個)のソレノイドコイル50、50、…が、各ソレノイドコイル50の中心軸が互いに平行となり且つ当該中心軸が所定の円周上に並ぶように配置されている。そして、各ソレノイドコイル50は、隣り合うソレノイドコイル50、50の磁極の向きが互いに逆になるように配置されている。この場合、流路管20は、各ソレノイドコイル50内を挿通するように配置される。各ソレノイドコイル50を挿通する流路管20の数は、1つでもよく、複数(2つ以上)でもよい。
【0110】
このように複数のソレノイドコイル50、50、…が配置されることによって、各ソレノイドコイル50が形成する漏れ磁場が打ち消しあい、これにより、各ソレノイドコイル50の外部に発生する磁場を抑制することができる。即ち、ソレノイドコイル50の配置のみによって製造装置外部への漏れ磁場を効果的に抑制することができる。
【0111】
尚、複数のマルチポールソレノイドコイル(複数のソレノイドコイル50、50、…のユニット)が、流路管20内の空気の流れ方向に対して直列に配置されると、酸素濃度のより高い酸素富化空気が得られる。また、複数のマルチポールソレノイドコイルが、流路管20内の空気の流れ方向に対して並列に配置されると、得られる酸素富化空気の流量が多くなる。
【0112】
また、流路管20、20A、20B、20Cには、その内部を流れる空気(投入空気)の流れを整えるための整流板等の整流部材が設けられてもよい。この整流部材は、例えば、第1実施形態の流路管20の入口部20aや、第2実施形態の流路管20Aにおける透過部24の上流側端部等に設けられる。
【0113】
この構成によれば、透過部24内における当該透過部24の内周面と隣接する領域を含めたより多くの領域において空気が層流条件で流れ、これにより、透過部24内の空気の流れにおいて中心(管軸)側に酸素がより効果的に濃縮される(即ち、前記内周面と隣接する領域を流れる空気中の窒素がより効果的に濃縮される)。その結果、透過部24内を流れる空気中から窒素が透過部24の外部により好適に排出される。
【符号の説明】
【0114】
10 酸素富化空気製造装置
12 密閉容器部
14 空気供給部
16 減圧部
20 流路管
24 透過部(減圧領域部位)
30 磁場形成部
35 制御部
S 減圧領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投入空気よりも酸素濃度の高い酸素富化空気を製造する酸素富化空気製造装置であって、
所定の減圧領域を密閉状態で囲う密閉容器部と、
少なくともその一部が前記密閉容器部内を通過するように配置される流路管と、
前記流路管の内部に空気を供給する空気供給部と、
前記密閉容器部内の圧力を前記流路管の内部の圧力よりも低くなるように減圧する減圧部と、
前記流路管の内部に磁場を形成する磁場形成部と、を備え、
前記流路管の内部には前記空気供給部によって供給された空気が少なくとも層流条件で流れる領域があり、
前記流路管における前記密閉容器部内に位置する部位である減圧領域部位の管壁が、非磁性体で且つ当該減圧領域部位の内部の圧力よりも前記密閉容器部内の圧力が低いときに当該減圧領域部位の内部を流れる前記空気の一部が当該管壁を通過して外部に排出されるような素材によって形成される酸素富化空気製造装置。
【請求項2】
前記流路管は、その内部の前記空気が流れる流路空間における当該流路管の管軸と直交する断面の断面積が下流側に向かって段階的または連続的に減少する形状を有する請求項1に記載の酸素富化空気製造装置。
【請求項3】
前記流路管では、前記空気が供給される側の端部である入口部の開口面積とこの入口部と反対側の端部である排気部の開口面積との比が前記排気部から排気される前記酸素富化空気の酸素濃度に基づく値である請求項1または2に記載の酸素富化空気製造装置。
【請求項4】
前記流路管を複数備え、各流路管は、互いに平行に配置されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の酸素富化空気製造装置。
【請求項5】
前記流路管は、螺旋状または蛇行するように配置され、少なくともその一部が前記密閉容器部内を通過する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の酸素富化空気製造装置。
【請求項6】
前記空気供給部と前記減圧部とを制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記流路管の内部には前記空気が少なくとも層流条件で流れる領域が形成されると共に前記流路管の内周面と隣接する領域における前記空気の流速勾配が一定となるように前記空気供給部と前記減圧部とによって前記流路管の内部に供給される空気の流量と前記密閉容器部内の圧力とをそれぞれ調整する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の酸素富化空気製造装置。
【請求項7】
前記磁場形成部は、前記減圧領域部位の内部に3T以上の磁場を形成する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の酸素富化空気製造装置。
【請求項8】
前記磁場形成部は、複数のソレノイドコイルを有し、
前記複数のソレノイドコイルは、各ソレノイドコイルの中心軸が互いに平行となり且つ当該中心軸が所定の円周上に並ぶように配置されると共に、隣り合うソレノイドコイルの磁極の向きが互いに逆になるように配置され、
前記流路管は、前記ソレノイドコイル内を挿通する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の酸素富化空気製造装置。
【請求項9】
前記減圧領域部位の管壁は、窒素の透過率が酸素の透過率よりも大きな素材によって形成される請求項1乃至8のいずれか1項に記載の酸素富化空気製造装置。
【請求項10】
前記流路管は、その内部を流れる空気の流れを整える整流部材を有する請求項1乃至9のいずれか1項に記載の酸素富化空気製造装置。
【請求項11】
投入空気よりも酸素濃度の高い酸素富化空気を製造する方法において、
管壁を有する流路管であって、この管壁が、非磁性体で且つ当該流路管の内部の圧力よりも当該流路管の外部の圧力が低いときに前記内部を流れる空気の一部が当該管壁を通過して外部に排出されるような素材で形成される流路管の内部に磁場を形成する磁場形成工程と、
前記流路管の内部に少なくとも層流条件で流れる領域が形成されるよう当該流路管内に前記空気を供給する空気供給工程と、
所定の圧力まで前記外部の圧力を減圧する減圧工程と、を備える酸素富化空気製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2012−254437(P2012−254437A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89129(P2012−89129)
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】