説明

酸素製造方法及び酸素製造装置

【課題】小型でエネルギー原単位の小さい効率的な酸素製造方法を提供する。
【解決手段】空気を冷却、液化することにより、酸素富化気体Aoを製造する方法において、吸入空気aを絶対圧0.15〜0.2MPaに圧縮後空冷し、これを絶対圧0.1MPaまで膨張冷却し、それぞれの冷却後に結露した水分を除去する圧縮・膨張工程を数回繰り返すことにより、0℃以下の低温で絶対湿度がモル比で0.5%以下の乾燥空気Daを製造後、その乾燥空気Daを絶対圧0.15〜0.2MPaに圧縮し、圧縮後の乾燥空気Daを環流空気との熱交換で液化直前温度まで冷却し、冷却後の乾燥空気Daを絶対圧で0.1MPaまで断熱膨張させることにより、モル比で吸入空気の10%前後の酸素富化気体Aoを製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気を冷却、液化することにより、酸素富化気体を製造する酸素製造方法及び酸素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気を冷却液化して酸素を分離する深冷酸素製造法は、排気空気を減らして酸素ないし窒素の生成歩留まりを上げるため、また生成物気体を高圧タンクに充填して出荷するため、空気を絶対圧で最低0.5MPa(5気圧)以上に圧縮後、冷却してから膨張による空気の液化を行っている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−85167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、従来の方法では、酸素製造のエネルギー原単位は0.3kW/kg程度まで小さくできるが、空気の圧縮機が大型化するだけでなく、熱交換器や蒸留塔も高圧に対応して大型化するという問題があった。
【0005】
一方、特許文献1のように材料空気を圧縮することなく、パルスチューブ冷凍機のような別の冷却手段で空気を冷却液化する方法も提案されているが、液化能力が数W、冷凍機の効率も数%と小さい上、1L/分(1.3g/分)程度の酸素を作るのに1kW程度の動力を必要とし、エネルギー原単位は上記の50倍程度と大きい。
【0006】
そこで、本発明の目的は、小型でエネルギー原単位の小さい効率的な酸素製造方法及び酸素製造装置を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、エネルギー効率の高い低公害内燃機関用酸素製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、空気を冷却、液化することにより、酸素富化気体を製造する方法において、吸入空気を絶対圧0.15〜0.2MPaに圧縮後空冷し、これを絶対圧0.1MPaまで膨張冷却し、それぞれの冷却後に結露した水分を除去する圧縮・膨張工程を数回繰り返すことにより、0℃以下の低温で絶対湿度がモル比で0.5%以下の乾燥空気を製造後、その乾燥空気を絶対圧0.15〜0.2MPaに圧縮し、圧縮後の乾燥空気を環流空気との熱交換で液化直前温度まで冷却し、冷却後の乾燥空気を絶対圧で0.1MPaまで断熱膨張させることにより、モル比で吸入空気の10%前後の酸素富化気体を製造する酸素製造方法である。
【0009】
請求項2の発明は、上記乾燥空気を液化直前温度まで冷却した後、液化、蒸留し、酸素含有量が99%程度のほぼ純粋液体酸素を得る請求項1記載の酸素製造方法である。
【0010】
請求項3の発明は、上記ほぼ純粋液体酸素を気化して酸素含有量が99%程度のほぼ純粋気体酸素を得る請求項2記載の酸素製造方法である。
【0011】
請求項4の発明は、吸入空気中の窒素をArに置き換え、Ar含有量が1%程度のほぼ純粋気体酸素を得る請求項3記載の酸素製造方法である。
【0012】
請求項5の発明は、空気を冷却、液化することにより、酸素富化気体を製造する装置において、
吸入空気を絶対圧0.15〜0.2MPaに圧縮する圧縮機、圧縮後の乾燥空気を空冷する冷却器、さらに膨張冷却する膨張機、結露した水分を除去する除湿器からなる複数段の圧縮・膨張手段と、
これら複数段の圧縮・膨張手段から得られる乾燥空気を絶対圧0.15〜0.2MPaに圧縮する主圧縮機と、
主圧縮機からの乾燥空気を環流空気との熱交換で液化直前温度まで冷却する熱交換器と、
熱交換器からの乾燥空気を液化するコンデンサと、
コンデンサからの液体空気を蒸留し、ほぼ純粋液体酸素と窒素に分離する蒸留器と、
蒸留器からのほぼ純粋液体酸素を気化する複数段の気化器と
を備えた酸素製造装置である。
【0013】
請求項6の発明は、上記圧縮機と上記膨張機は、同軸で直接、あるいは間接的に連結される請求項5記載の酸素製造装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、空気を0.2MPa以下の低い圧力に圧縮するだけであり、小型でエネルギー原単位の小さい酸素富化気体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。まず、本実施形態に係る酸素製造装置を説明する。
【0016】
図1は、本発明の好適な実施形態を示す酸素製造装置の概略図である。図1中の点線矢印は気体の流れや配管を、実線矢印は液体の流れや配管を示す。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る酸素製造装置(以下、装置ともいう)1は、空気を冷却、液化することにより、酸素富化気体を製造するものであり、外気(吸入空気)aから液体空気(液体Air)Laを製造する液化部2(図1中の上半分の部分)と、その液化部2に接続され、液体空気Laからほぼ純粋液体酸素(液体O2 )Loと酸素富化気体としての酸素(ほぼ純粋気体酸素)Aoとを製造する気化部3(図1中の下半分の部分)とで主に構成される。
【0018】
液化部2は、外気aを繰り返し圧縮・膨張して乾燥空気Daを製造する複数段の圧縮・膨張手段4と、これら複数段の圧縮・膨張手段4からの乾燥空気Daを絶対圧0.15〜0.2MPa(約1.5〜2気圧)に圧縮し、主に乾燥空気Daを断熱圧縮するための主圧縮機5と、主圧縮機5からの乾燥空気Daを空冷する第3冷却器6と、第3冷却器6からの乾燥空気Daを環流空気との熱交換で液化直前温度まで冷却する逆流型の熱交換器7と、熱交換器7からの乾燥空気Daを液化して液体空気Laを製造するコンデンサ(凝縮器、あるいは復水器)8とからなる。
【0019】
本実施形態では、複数段の圧縮・膨張手段4は、第1圧縮・膨張手段4aと第2圧縮・膨張手段4bとの2段で構成される例で説明する。外気aと第1圧縮・膨張手段4a間には、固形不純物粒子などの固形物を除去するフィルターが設けられる。
【0020】
第1圧縮・膨張手段4aは、外気aを絶対圧0.15〜0.2MPaに圧縮する第1圧縮機9aと、第1圧縮機9aからの外気aを空冷する第1冷却器(放熱器)10aと、第1冷却器10aからの外気aの結露した水分を除去する第1除湿器11aと、第1除湿器11aからの外気aを膨張冷却する第1膨張機12aとを備える。
【0021】
第1圧縮機9aには加圧用のブロアーや容積型のコンプレッサーを用いる。第1冷却器10aには空冷式、水冷式のいずれの冷却器を用いてもよい。第1除湿器11aには遠心分離式のドライヤーを用いる。第1膨張機12aにはタービン膨張機を用いる。
【0022】
第2圧縮・膨張手段4bも第1圧縮・膨張手段4aと同じ構成であり、第2圧縮機9bと、第2冷却器10bと、第2除湿器11bと、第2膨張機12bとを備える。
【0023】
第1圧縮機9aと第1膨張機12aは、同軸で直接、あるいは間接的に連結される。同様に、第2圧縮機9bと第2膨張機12bも、同軸で直接、あるいは間接的に連結される。図1では、第1圧縮機9aと第1膨張機12a、第2圧縮機9bと第2膨張機12bがモータ13を介して同軸で直接連結される例で示した。
【0024】
本実施形態では、第1冷却器10aと第1膨張機12a間に第1除湿器11aを、第2冷却器10bと第2膨張機12b間に第1除湿器11bを設けたが、この構成に加え、さらに第1膨張機12aと第2圧縮機9b間に第3除湿器を、第2膨張機12bと主圧縮機6間に第4除湿器を設けてもよい。
【0025】
主圧縮機5は単独でモータ13に連結される。この主圧縮機5は、装置1内で消費電力や吐出圧が最も大きい。熱交換器7に流入させる環流空気は、装置1の初期運転時に、コンデンサ8から排気される未液化の乾燥空気Daを用いる。定常運転時の環流空気は、後述する酸素Aoおよび窒素nである。
【0026】
コンデンサ8は、少なくとも1入力3出力型のものを使用する。コンデンサ8の入力部には熱交換器7が接続され、第1出力部には液体空気ライン18を介して後述する蒸留器13が接続され、第2出力部には後述する未液化空気ライン19を介して第4圧縮機15aが接続され、第3出力部には図示しない環流空気ラインを介して熱交換器7が接続される。
【0027】
気化部3は、コンデンサ8からの液体空気Laを蒸留し、ほぼ純粋液体酸素Loと窒素(濃縮N2 、あるいは窒素富化気体)nに分離する蒸留器(蒸留塔)13と、蒸留器13からのほぼ純粋液体酸素Loを気化して酸素Aoを製造する複数段の気化器14とを備える。
【0028】
蒸留器13は、少なくとも1入力3出力型のものを使用する。蒸留器13の入力部にはコンデンサ8が接続され、第1出力部には後述する第1気化器14aが接続され、第2出力部には窒素nの排気ライン21が接続され、第3出力部にはほぼ純粋液体酸素Loを取り出す第1取り出しライン20aが接続される。排気ライン21は、熱交換器7を経由し、外気aに開放される。
【0029】
本実施形態では、複数段の気化器14は、第1気化器14aと第2気化器14bの2段で構成される例で説明する。
【0030】
第2気化器14bの出力部には、酸素Aoを外部に取り出す第2取り出しライン20bが接続される。第2取り出しライン20bは、熱交換器7を経由し、酸素タンクや内燃機関などの外部に接続される。
【0031】
第2気化器14bには、未液化空気ライン19からの未液化空気naを絶対圧0.15〜0.2MPaに圧縮して第2気化器14bに流入させる第4圧縮機(低温用第1圧縮機)15aと、第2気化器14bからの未液化空気naを膨張させる第4膨張機(低温用第1膨張機)16aとが接続される。
【0032】
第4圧縮機15aには低温でも動作する加圧用のブロアーや容積型のコンプレッサーを用いる。第4膨張機16aには低温でも動作するタービン膨張機を用いる。
【0033】
第1気化器14aにも、第2気化器14bに接続される第4圧縮機15a、第4膨張機16aと同様に、第5圧縮機(低温用第2圧縮機)15bと、第5膨張機(低温用第2膨張機)16bとが接続される。
【0034】
第4圧縮機15aと第4膨張機16aは、同軸で直接、あるいは間接的に連結される。同様に、第5圧縮機15bと第5膨張機16bも、同軸で直接、あるいは間接的に連結される。図1では、第4圧縮機15aと第4膨張機16a、第5圧縮機15bと第5膨張機16bが同軸で直接連結される例で示した。第4圧縮機15aと第4膨張機16a間、第5圧縮機15bと第5膨張機16b間、あるいは単独で第4圧縮機15aと第5圧縮機15bとには、図示しないモータが接続される。
【0035】
第4膨張機16aと第5圧縮機15b間には、未液化空気naと、第2気化器14bに流入する液体酸素Loの気化熱で未液化空気naの一部が液化した液体空気Laとを分離する第1分離器(セパレータ)17aが接続される。第1分離器17aには、液体空気Laを液体空気ライン18に戻す液体空気戻しライン22が接続される。
【0036】
第5膨張機16bと排気ライン21間には、第1分離器17aと同様の第2分離器17bが接続される。第2分離器17bの第1出力部は、第1気化器14aに流入する液体酸素Loの気化熱で未液化空気naの一部が液化した液体空気Laを液体空気ライン18に戻す液体空気戻しライン22に接続される。第2分離器17bの第2出力部は、熱交換器7よりも上流側の排気ライン21に接続され、ほぼ窒素である未液化空気naが排気される。
【0037】
次に、本実施形態に係る酸素製造方法を(1)〜(14)の工程に分けて、酸素製造装置1の動作と共に説明する。
【0038】
酸素製造装置1は定常状態で運転しているものとし、初期運転時の説明を省略する。定常運転時、熱交換器7における乾燥空気Daの温度は、流入(吸気)口で約30℃、流出(排気)口で約−183℃である。
【0039】
(1)まず、フィルター等で固形不純物粒子等を除去したほぼ0.1MPa(大気圧)の外気aを、第1圧縮・冷却手段4aにおいて、第1圧縮機9aで絶対圧0.15〜0.2MPaに加圧して断熱圧縮し、温度を40〜60K昇温させる。
【0040】
(2)第1圧縮機9aからの外気aを第1放熱器10aで空冷してほぼ外気温に冷却し、結露した水分があれば、これを第1除湿器11aで除去し、圧縮冷却空気を得る。
【0041】
(3)この圧縮冷却空気を第1膨張機12aで絶対圧0.1MPaまで断熱膨張により冷却させる。このとき、外気aは十分乾燥していれば最大40〜60K温度低下するが、実際には外気aに水蒸気が含まれているため、モル湿度で1%の水蒸気が結露すると水の気化熱41kJ/molと空気の定圧比熱29J/K・molの関係から温度低下は約14K(=41000×1/100÷29)小さくなる。そこで、結露した水分を第1除湿器11aで除去する。
【0042】
(4)第1圧縮機9aと第1膨張機12aは、同軸で直接、あるいは間接的に連結されるため、吸気される空気の温度差が小さく、またそれぞれの吸気口と排気口の圧力差は同じであるから、第1圧縮機9aを駆動するエネルギーの大部分は第1膨張機12aで発生する膨張エネルギーで賄うことができ、駆動のためのエネルギーを節約できる。
【0043】
(5)同様に、第2圧縮・膨張手段4bにおいて、上述した第1圧縮・冷却手段4aと同様の工程を行うことで、圧縮・膨張工程を2回繰り返す。これにより、外気aの温度を0℃、モル湿度を0.5%以下にすることができる。すなわち、0℃以下の低温で絶対湿度がモル比で0.5%以下の乾燥空気Daが得られる。
【0044】
(6)ただし、圧縮・膨張工程の繰り返し回数は、当然外気aの温度や湿度によって異なるので、各膨張機の出口の温度を検出し、温度が所定の温度を下回った場合は下流の圧縮機と膨張機の対は停止し、所定の温度以下になった吸気を切替バルブによって主圧縮機5に供給する。
【0045】
(7)除湿冷却された乾燥空気Daを、主圧縮機5で絶対圧0.15〜0.2MPaに加圧して断熱圧縮し、40〜60K温度上昇させ、第3冷却器6で空冷した後、熱交換器7に送る。熱交換器7内では、環流空気としての気化した酸素Aoおよび分離された窒素nによって、乾燥空気Daは液化直前の温度約90Kまで冷却され、熱交換の相手気体(酸素Aoおよび窒素n)を外気温まで昇温させる。
【0046】
(8)液化直前温度まで冷却された乾燥空気Daを、コンデンサ8内で再び大気の圧力0.1MPaまで断熱膨張し、モル比で10%程度の外気aを液化させる。このとき、外気a中の酸素は窒素に比べて沸点が高く、蒸気圧が低いため窒素より多く液化しやすく、大気のモル濃度約20%に比べて酸素の濃い液体空気Laが生成される。一方、乾燥空気Daのうち、コンデンサ8で液化しない未液化空気naは、未液化空気ライン19で第4圧縮機15aに送られる。
【0047】
(9)液体空気Laは液体空気ライン18で蒸留器13に送られ、蒸留器13で窒素と酸素の蒸気圧の差を用いて、気体の窒素nと液体酸素Loに分離される。ここで、蒸留器13の第1取り出しライン20aから液体酸素Loを取り出せば、酸素含有量が99%程度のほぼ純粋液体酸素が得られる。
【0048】
(10)液体酸素Loは第1気化器14aに送られ、続いて第2気化器14bに送られる。一方、未液化空気naを、第4圧縮機15aで絶対圧0.15〜0.2MPaに断熱圧縮し、10〜15K昇温させることで、第2気化器14bにおいて、第2気化器14bを通る液体酸素Loの残部を気化する。このとき、未液化空気naは、液体酸素Loの気化熱により液体酸素Loの温度−183℃(90K)に再冷却される。
【0049】
第2気化器14bからの未液化空気naを、第4膨張機16aで絶対圧0.1MPaに加圧して断熱膨張し、冷却して一部を液化する。その後、液体分を有する未液化空気naは、第1分離器17aに送られ、第1分離器17aで液体分が分離され、第5膨張機15bに送られる。分離された液体分は、液体空気Loとして液体空気戻しライン22で液体空気ライン18に戻される。
【0050】
(11)さらに、上述と同様にして液化空気naを、第5圧縮機15bで絶対圧0.15〜0.2MPaに断熱圧縮し、10〜15K昇温させることで、第1気化器14aにおいて、第1気化器14aを通る液体酸素Loの一部を気化する。このとき、未液化空気naは、液体酸素Loの気化熱により液体酸素Loの温度−183℃(90K)に再冷却される。
【0051】
第1気化器14aからの未液化空気naを、第5膨張機16bで絶対圧0.1MPaに加圧して断熱膨張し、冷却して一部を液化する。その後、液体分を有する未液化空気naは、第2分離器17bに送られ、第2分離器17bで液体分が分離され、窒素nとして排気ライン18に送られる。分離された液体分は、液体空気Loとして液体空気戻しライン22で液体空気ライン18に戻される。
【0052】
(12)これにより、定常運転時には、蒸留器13にモル比で外気aの50%の液体空気Loが流入される。また、液体酸素Loは第1,2気化器14a,14bで気化され、酸素Aoとして第2取り出しライン20bに送られる。
【0053】
第1気化器14aで気化する液体酸素Loの気化熱と、この気化熱で冷却後断熱膨張により一部が液化する未液化空気naの潜熱とはほぼ等しいことから、気化する液体酸素Loの量と液化する未液化空気naの量はほぼ等しい。これを続けて第2気化器14bで繰り返すことにより、液体空気Laの量を初期運転時にコンデンサ8で液化する外気aの数倍に増やすことができる。
【0054】
液体空気Laを蒸留塔13を使用せず、前述の第1,第2気化器14a,14bで気化してもよい。この場合、酸素富化気体として酸素含有量が約40%程度未満の酸素Aoが得られ、これを医療用、あるいは運動用酸素補充空気として利用できる。
【0055】
(13)第2取り出しライン20bからの酸素Aoと、排気ライン21からの窒素nは、環流空気として熱交換器7に流入され、外気aと熱交換することで、外気温まで加熱される。その後、酸素Aoは第2取り出しライン20bから酸素タンクや内燃機関などの外部に送られる。この酸素Aoは、モル比で外気aの10%前後の酸素富化気体であり、酸素含有量が99%程度のほぼ純粋気体酸素である。窒素nは排気ライン21から外気aに放出される。
【0056】
(14)外気a中の窒素をArに置き換え、例えば、酸素富化気体としての酸素Aoを製造してもよい。例えば、酸素98%、窒素1%未満、Ar1%程度の酸素Aoを製造し、これを内燃機関の作動気体として用いれば、車両の燃費が向上し、炭酸ガスの排出量が削減できるだけでなく、NOxや煤のような有害な排気ガスの発生を防止できる。また、この酸素Aoをディーゼルエンジンの作動気体として使用すれば、DPF(Diesel Particulate Filter)が不要となる。(13)で酸素Aoを製造後、これとArを所定の割合で混合し、これを内燃機関の作動気体として用いてもよい。
【0057】
本実施形態の作用を説明する。
【0058】
本実施形態に係る酸素製造方法は、まず、液化部2の複数段の圧縮・膨張手段4で外気aを低圧で繰り返し圧縮・膨張し、絶乾状態の乾燥空気Daを製造している。この乾燥空気Daを熱交換器7でほどよく冷やし、その一部をコンデンサ8で液化(初期運転時はモル比で外気aの10%前後、定常運転時はモル比で外気aの50%前後)して液体酸素Loを製造している。さらに、気化部3で未液化空気naを用いて液体酸素Loを繰り返し気化することで、酸素Aoを製造している。
【0059】
つまり、本実施形態に係る酸素製造方法は、外気aを0.2MPa以下の低圧で膨張・膨張する工程を繰り返した後、一部を液化して液体酸素Loを製造し、これを未液化空気naで繰り返し気化する際、未液化空気naを0.2MPa以下の低圧で圧縮・膨張する工程を繰り返している。
【0060】
したがって、本実施形態に係る酸素製造方法は、外気aや未液化空気naを圧縮エネルギーが小さい低圧で圧縮しているので、小型の装置1でエネルギー原単位の小さい酸素富化気体としての酸素Aoを製造できる。
【0061】
小型の装置1でエネルギー原単位の小さい酸素Aoを製造できる理由として、液化部2や気化部3における圧縮・膨張工程で、各圧縮機と各膨張機間を流れる気体の温度差が小さいこと、従来のように5気圧以上で空気を圧縮する方法に比べ、各部品内や各部品間を接続する配管も薄くできることも挙げられる。
【0062】
さらに、本実施形態に係る酸素製造方法は、乾燥空気Daと環流空気を熱交換する逆流型の熱交換器7を1個使用するだけであり、全体として酸素製造装置1の容積が小さくできる。
【0063】
また、本実施形態に係る酸素製造方法は、従来のPSA(Pressure Swing Adsorption)式の酸素濃縮器では、酸素含有量が96%程度の酸素しか製造できなかったのに対し、酸素含有量が99%程度のほぼ純粋気体酸素である酸素Aoを製造できる。
【0064】
本実施形態に係る酸素製造装置1を使用すれば、本実施形態に係る酸素製造方法を簡単に実施できる。この酸素製造装置1を車両に搭載すれば、酸素Aoを内燃機関の作動気体として用いることで、車両の燃費を向上でき、さらには燃料電池車の燃費の向上も期待できる。
【実施例】
【0065】
図1の酸素製造装置1を使用して本実施形態に係る酸素製造方法を実施するにあたり、シミュレーションを行った。
【0066】
1.計算条件
(1)外気a中の各分子の物性
【0067】
【表1】

【0068】
表1の物性に基づき、以下の計算を行った。
【0069】
2.除湿時の温度
(1)圧縮
空気を断熱圧縮・膨張する場合の温度変化は空気の比熱比を1.4とすると、一定量の理想気体の断熱変化の方程式より、
TV1.4-1=Const.、PV1.4=Const. より
1.4/P0.4=Const.
断熱圧縮前の絶対圧力をP1、絶対温度T1、圧縮後の絶対圧力をP2、絶対温度をT2とすると、
T11.4/P10.4=T21.4/P20.4 より
T2=T1×(P2/P1)0.4/1.4
0.1MPa、300Kの空気を0.15〜0.2MPaに断熱圧縮した場合の温度はそれぞれ
300×1.50.4/1.4=337K (+37K)
300×20.4/1.4 =366K (+66K)
となる。
【0070】
(2)膨張
0.15〜0.2MPa、300Kの乾燥空気を0.1MPaに断熱圧縮した場合の温度はそれぞれ
300/1.50.4/1.4=267K (−33K)
300/20.4/1.4 =246K (−54K)
となる。
【0071】
(3)除湿のシミュレーション
温度t℃、絶対圧0.1MPa(大気圧)における飽和モル湿度をh%とすると、
h=100.029t-0.22
外気が30℃で飽和湿度であったとするとモル湿度は
h=100.029×30-0.22=4.5%となる。
これを0.15MPaまで圧縮後、空冷で30℃に冷却すると飽和蒸気圧が同じ
0.1×4.5/100=0.0045MPaであるから、
モル湿度は0.0045/0.15×100=3%に除湿される。
これを0.1MPaに断熱膨張したときの温度変化ΔT(K)は、断熱膨張時の除湿量をΔh%とすると、水の潜熱40.6kJ/molと空気の定圧比熱29j/K・molの関係から
ΔT+Δh/100×40600/29=乾燥空気の温度変化(=33K)から求められる。
【0072】
以上の式を用いて0.1→0.15MPaの圧縮、空冷、0.15→0.1MPaの膨張を繰り返したときの温度とモル湿度の変化は以下の表2のようになる。
【0073】
【表2】

【0074】
表2に示すように、この場合は4回の圧縮・膨張が必要であるが、外気aのモル湿度1.7%以下であれば、また、圧縮時の圧力が0.15MPaより高ければ、さらに圧縮膨張の回数を低減できる。
【0075】
3.空気の液化
(1)コンデンサ8での断熱膨張
除湿空気Daをさらに0.15〜0.2MPaに圧縮空冷し、未液化空気naや液化後の気化酸素Aoとの熱交換で液化直前温度の90Kまで冷却し、0.1MPaまで断熱膨張した場合の過冷却温度(液化せずに気体のまま冷却する温度)はそれぞれ
90/1.50.4/1.4=80K (−10K)
90/20.4/1.4 =74K (−18K)
(2)コンデンサ8での液化率
過冷却温度低下が−10〜−16Kの場合に、温度変化分が全て空気の液化に使われると、それぞれの液化率(%)は空気の平均潜熱31kJ/molと平均定圧比熱29j/K・molの関係から
10×29/3100×100= 9%
16×29/3100×100=15%
(3)気化熱の活用
90Kの未液化空気を0.15〜0.2MPaに断熱圧縮すると圧縮後の温度はそれぞれ
90×1.50.4/1.4=101K (+11K)
90×20.4/1.4 =110K (+20K)
この圧縮空気を酸素富化液化空気または蒸留後の分離液化酸素の気化器で90Kに冷却後、0.1MPaまで断熱膨張させると、
過冷却温度や液化率は3.(1)および(2)のコンデンサ8とほぼ同じとなる。
【0076】
すなわち、未液化空気naの断熱圧縮、第1および第2気化器14a,14bによる冷却・断熱膨張による液化を繰り返すと、累計液化率は増加するが、液体空気Loの酸素濃度(モル比で外気aの約50%が望ましい)や蒸留器13での酸素分離効率は低下するため、最適な回数(図1では2回の例を示した)に抑える必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の好適な実施形態を示す酸素製造装置と酸素製造方法を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0078】
1 酸素製造装置
2 液化部
3 気化部
4 圧縮・膨張手段
7 熱交換器
8 コンデンサ
13 蒸留器
14a 第1気化器
14b 第2気化器
a 外気(吸入空気)
Da 乾燥空気
La 液体空気
Lo 液体酸素
na 未液化空気
Ao 酸素(酸素富化気体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を冷却、液化することにより、酸素富化気体を製造する方法において、吸入空気を絶対圧0.15〜0.2MPaに圧縮後空冷し、これを絶対圧0.1MPaまで膨張冷却し、それぞれの冷却後に結露した水分を除去する圧縮・膨張工程を数回繰り返すことにより、0℃以下の低温で絶対湿度がモル比で0.5%以下の乾燥空気を製造後、その乾燥空気を絶対圧0.15〜0.2MPaに圧縮し、圧縮後の乾燥空気を環流空気との熱交換で液化直前温度まで冷却し、冷却後の乾燥空気を絶対圧で0.1MPaまで断熱膨張させることにより、モル比で吸入空気の10%前後の酸素富化気体を製造することを特徴とする酸素製造方法。
【請求項2】
上記乾燥空気を液化直前温度まで冷却した後、液化、蒸留し、酸素含有量が99%程度のほぼ純粋液体酸素を得る請求項1記載の酸素製造方法。
【請求項3】
上記ほぼ純粋液体酸素を気化して酸素含有量が99%程度のほぼ純粋気体酸素を得る請求項2記載の酸素製造方法。
【請求項4】
吸入空気中の窒素をArに置き換え、Ar含有量が1%程度のほぼ純粋気体酸素を得る請求項3記載の酸素製造方法。
【請求項5】
空気を冷却、液化することにより、酸素富化気体を製造する装置において、
吸入空気を絶対圧0.15〜0.2MPaに圧縮する圧縮機、圧縮後の乾燥空気を空冷する冷却器、さらに膨張冷却する膨張機、結露した水分を除去する除湿器からなる複数段の圧縮・膨張手段と、
これら複数段の圧縮・膨張手段から得られる乾燥空気を絶対圧0.15〜0.2MPaに圧縮する主圧縮機と、
主圧縮機からの乾燥空気を環流空気との熱交換で液化直前温度まで冷却する熱交換器と、
熱交換器からの乾燥空気を液化するコンデンサと、
コンデンサからの液体空気を蒸留し、ほぼ純粋液体酸素と窒素に分離する蒸留器と、
蒸留器からのほぼ純粋液体酸素を気化する複数段の気化器と
を備えたことを特徴とする酸素製造装置。
【請求項6】
上記圧縮機と上記膨張機は、同軸で直接、あるいは間接的に連結される請求項5記載の酸素製造装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−122035(P2008−122035A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309209(P2006−309209)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【Fターム(参考)】