説明

醗酵セルロース表面処理粉体及びこれを含有する化粧料

【課題】水中への分散性、耐水性及び吸水性が良好で、化粧料に配合した場合にべたつきが生じず、化粧崩れを防止することができる表面処理粉体を提供することを課題とする。
【解決手段】
粉体表面を醗酵セルロースで処理することにより、粉体の凝集が抑制されることにより水中への分散性が改善され、耐水性及び吸水性が良好で、化粧料に配合した場合にべたつきが生じず、化粧崩れを防止することができる表面処理粉体及びこれを含有する化粧料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醗酵セルロース表面処理粉体及びこれを含有する化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料などに於いて、粉体は色剤、紫外線防護剤、隠蔽剤、質感付与剤、光沢付与剤などの用途で広く使用されている。この様な粉体の多くは鉱物性物質又はその加工物であり、金属酸化物及びその複合体の構造を有している。これら粉体を使用した化粧料の耐水性を改善するために予め疎水化処理を施した表面処理粉体が利用されており、表面処理法としては、ハイドロジェンメチルポリシロキサンやジメチルポリシロキサンを焼き付けたシリコーン処理、シリルカップリング剤で処理したシリルカップリング処理、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸で処理した金属石鹸処理、アシルグルタミン酸誘導体で処理したアミノ酸誘導体処理、ポリ燐酸ナトリウムなどの燐酸塩で処理した燐酸塩処理、パーフルオロアルキル構造を部分構造に含む化合物で処理したパーフルオロアルキル処理、レシチンなどで処理した燐脂質処理などが例示できる。疎水化処理された粉体は一般的に油剤へ分散させて利用されるが、みずみずしく、のびの良い使用感を有する水系化粧料に比べてベタツク、油性感が強いなどの欠点を有している。一方、ファンデーション、アイシャドー等のメイクアップ化粧品においては、皮膚上に塗布した場合、皮膚上の皮脂や水分により経時的にテカリ、化粧くずれ及びみずみずしさが低下するといったことが起こっていた。このようなテカリ、化粧くずれ及びみずみずしさが低下するといったことを防止するためには、皮膚上の余分な油分を吸収する吸油性と共に、吸湿保湿性を保つ必要があるが、前記無機顔料には、ある程度の吸油性や吸湿保湿性があるものの満足できるものではないため、該無機顔料の表面を処理することで、より大きな吸油性、吸湿保湿性を持たすことができないかが検討されている。例えば、特許文献1 には、微細結晶性セルロースを用いて顔料の表面を処理することが提案されている。しかし、このように表面の処理された顔料は、吸湿保湿性に優れるものの、吸油性については十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−15979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記要望等に鑑み、水中への分散性、耐水性及び吸水性が良好で、化粧料に配合した場合にべたつきが生じず、化粧崩れを防止することができる表面処理粉体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、粉体表面を醗酵セルロースで処理することにより、水中への分散性、耐水性及び吸水性が良好で、化粧料に配合した場合にべたつきが生じず、化粧崩れを防止することができる表面処理粉体が得られることを見出し本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、醗酵セルロースで表面処理されていることを特徴とする表面処理粉体であることを第一の要旨とする。
また、本発明は、前記表面処理粉体を含有することを特徴とする化粧料を第2の要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の表面処理粉体は醗酵セルロースで処理されることにより親水性粉体の凝集を抑制し水中への分散性を改善できる。また、疎水性粉体を醗酵セルロースで処理することにより、耐水性を維持したまま水に分散することができるため、疎水性粉体を油剤に分散した場合のべたつきを防止することができ、粉体表面の醗酵セルロースにより吸水性、吸油性を改善して化粧崩れを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。本発明の表面処理粉体は醗酵セルロースで処理されてなることを特徴とするものである。本発明の表面処理粉体の基体となる粉体は、化粧料の分野で通常使用されている粉体であれば特段の限定無く用いることができる。具体的には、二酸化チタン、酸化鉄、紺青、群青、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、チタン酸リチウムコバルト等の顔料類、シリカ、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、セリサイト、マイカ等の体質粉体類及びこれらの複合体などが例示できる。複合体としては混合焼結体やドープ粉体などが例示できる。
【0008】
本発明に使用する醗酵セルロースは、工業的に微生物を通気撹拌培養し、菌体から作られた非常に細い繊維状のセルロースを分離・回収し得られたものである。具体的には、アセトバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属の微生物により、静置培養、撹拌培養などの方法で培養する。本発明における培養条件は、通常の培養条件であればよく、培養液として、微生物の栄養素として炭素源、窒素源、無機塩類および必要に応じてアミノ酸、ビタミンなどを含有する培養液を用いればよい。特に、これらの栄養を含有している穀物(コメ、ムギなど)、野菜(キャベツ、ケール、タマネギなど)、果物(ミカンなどの柑橘類やイチゴ、パイナップルなど)を培養液として用いると臭いが少なく、安全性の面からも好ましいため、好適に用いられる。もちろん、穀物を一度発酵させて得られた酢を用いてもよい。また、培養におけるpHは、用いる菌によって異なるが、pH2〜9、好ましくはpH2〜7程度である。このようにして調製された培養液に前述のセルロースを生産する微生物を播種し、培養を行う。培養温度は10℃〜40℃であり、培養時間は1日〜60日である。このようにして培養することで醗酵セルロースを得ることができる。
【0009】
本発明の表面処理粉体は、基体となる粉体を醗酵セルロースで処理することにより得ることができる。該処理方法としては、例えば、以下に示すような方法が挙げられる。まず、所定量の醗酵セルロースを溶媒に分散させ、該分散液をホモミキサー等の攪拌機を用いて攪拌する。次いで、その分散液に所定量の基体となる粉体を加え、攪拌して分散させスラリー状物とする。次いで、前記スラリー状物をスプレードライ等の乾燥機を用いて乾燥させることで本発明の粉体を得る。
【0010】
本発明の表面処理粉体の醗酵セルロースによる処理量は、表面処理粉体の水系での分散性の観点から固形分の重量比で粉体/醗酵セルロースで100/1〜100/20 の範囲が好ましく、100/3〜100/10 の範囲がさらに好ましい。
【0011】
本発明の表面処理粉体は本発明の効果を妨げない範囲で醗酵セルロースに加えて水溶性高分子により表面処理することができる。本発明に使用する水溶性高分子は化粧料の分野で、通常使用されているものであれば特段の限定無く用いることができる。具体的には、アラビアガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、トラガントガム、ガティガム、アルギン酸及びその塩、デンプン、ヒアルロン酸、ペクチン、ジェランガム、カラヤガム、水溶性ヘミセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)類、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等があげられ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。これらのうち表面処理を行う際の醗酵セルロースの分散性改善の点よりカルボキシメチルセルロース塩、キサンタンガム、及びグアーガムが好ましい。本発明に使用する水溶性高分子の処理量は 醗酵セルロースの分散性の観点から醗酵セルロースと水溶性高分子の比率は固形分の重量比で100/10〜100/1500、好ましくは100/20 〜100/200 である。
【0012】
本発明の基体となる粉体としては、撥水性処理剤で処理されてなることが好ましい。該撥水性処理剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、高粘土シリコーン、架橋型シリコーン、アクリル変性シリコーン、シリコーン樹脂、等のシリコーン化合物、非イオン界面活性剤、リン脂質、等の界面活性剤、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、等の金属石鹸、ポリイソブチレン、イソステアリルセバシン酸、等のエステル油、ポリエチレン、ワックス、高級脂肪酸、高級アルコール、等の油剤、N−ラウロイルリジン、等のN−長鎖アシルアミノ酸、パーフルオロアルキルリン酸およびその塩、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロポリエーテルアルキルリン酸、ポリビニルピロリドン−ヘキサデセンのコポリマー、等のポリビニルピロリドン変性ポリマー等が挙げられ、これら一種または二種以上用いることができる。
【0013】
本発明の化粧料は前記表面処理粉体を含有することを特徴とする。本発明の化粧料には、例えばローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤といった種々の剤形が含まれ、一般品、医薬品、医薬部外品の何れの範疇に含まれるものであってもよい。具体的な剤形としては、化粧水、化粧クリーム、ジェル、乳液、クリーム、ヘアトニック、ヘアクリーム、シャンプー、ヘアリンス、トリートメント、ボディシャンプー、洗顔剤、石けん、ファンデーション、アイカラー、チークカラー、口紅、育毛剤、水性軟膏、日焼け止めクリーム、日焼け止めローションなどが例示できる。
【0014】
本発明の化粧料に含有する前記粉体の含有量は、化粧料の種類や性状に応じて適宜調節することができるが使用感触、UV散乱や隠蔽力などの効果の観点から化粧料100重量部に対し1〜80重量部が好ましく、3〜50重量部がより好ましい。
【0015】
本発明の化粧料には前記粉体の他に本発明の効果を妨げない範囲で、通常、化粧料に配合される成分を配合することができる。前記成分としては、特に限定されないが、具体的にはエタノール、水および含水アルコール;デキストリン等の賦形剤;香料や着色料、防腐剤;シリコーン系ポリマーやアクリル系ポリマー、カルボキシビニル系ポリマーなどの合成系増粘剤;EDTA等のキレート剤;スクラロースやトレハロース等の甘味料;メントール等の清涼剤;リノール酸やリノレン酸、DHA、EPA等の不飽和脂肪酸及びその誘導体;椰子油やオリーブ油、米ぬか油等の油類;コラーゲンやヒアルロン酸、コンドロイチン等の保湿剤;アルギン酸やグルコマンナン、ペクチン等の水溶性食物繊維;レシチンや脂肪酸エステル類等の界面活性剤;酸化チタンや酸化亜鉛等の紫外線吸収剤等が例示できる。これらの1種以上を適宜組み合わせて利用することができる。また、薬用成分として抗酸化剤、ビタミン類、抗炎症剤、細胞賦活化剤、ホルモン剤、活性酸素除去剤等が例示できる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
(醗酵セルロースの調整)
グルコース25g、酵母エキス5g、ペプトン3gを精製水1000mLに溶解し、pHを6に調整してからオートクレーブにて滅菌し、培養液を得た。この培養液100mLに、アセトバクターキシリナム(Acetobacterxylinum IFO13693)を播種し、25℃、14日間静置培養を行った。3日後に、培養液の表層にできたセルロース膜を回収した。回収した膜は、水で良く洗浄し、1200mLの2%水酸化ナトリウム溶液で1時間煮沸し、次いで、水で中性になるまで洗浄して、醗酵セルロースを得た。
(表面処理粉体の調整)
(実施例1)
上記で得られた醗酵セルロース3重量部(固形分重量)、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(製品名:セロゲンF−SA、第一工業製薬(株)製)0.5重量部、及びキサンタンガム(製品名:サンエースNXG−S、三栄源エフ・エス・アイ(株) 製)1.5重量部を秤量し、400 重量部の水を加え、更に予めエタノール(特級、和光純薬(株)製)95重量部と混合したシリコーン処理微粒子酸化亜鉛(製品名:SAS-UFZO-450(13%),三好化成(株)製)95重量部を加え、ホモミキサーで約10分間攪拌してスラリー状物とした。該スラリー状物をスプレードライの乾燥機(熱風温度:180℃、スプレー圧:4kgf/cm2)を用いて粉体を製造した。
(実施例2〜10)
下記表1に示すように、各成分と配合量を変更した以外は実施例1と同様に粉体を製造した。
【0017】
【表1】

(表面処理粉体の評価)
このようにして得られた各粉体を用い、下記の基準に従って各特定の評価を行った。これらの結果を、上記の表1にあわせて示した。
<水への分散性>
処理粉体を10重量部を水90重量部に加え、ホモミキサーで約10分間攪拌して調製した水分散体を、スライドガラスに挟んで目視で確認し、凝集の程度により評価した。
◎:凝集が全くない
○:凝集が殆どない
△:凝集している
×:著しく凝集している
<撥水性>
各実施例及び比較例の水系分散体をスライドガラスに塗布し、固液界面解析装置(協和界面科(株)製)にて塗布膜上に滴下した液滴を所定の角度から撮影し、撮影された画像と撮影角度とを用いて液滴の接触角を算出した。上記で算出したものを下記の基準に従い評価した。
◎:接触角90℃以上
○:接触角70℃以上90℃未満
△:接触角30℃以上70℃未満
×:接触角30℃未満
【0018】
上記表1の結果から明らかなように実施例1〜10品は、いずれも水への分散性及び撥水性が良好であった。
これに対して、表面処理を行っていない粉体である比較例1及び2品は、実施例品と比較して水への分散性及び撥水性のいずれの評価においても劣っていることが確認された。
【0019】
(O/Wファンデーションの調製)
(実施例11)
乳化剤成分であるショ糖脂肪酸エステル(コスメライクS-50、第一工業製薬(株)製)1重量部、並びにショ糖脂肪酸エステル(コスメライクS-160、第一工業製薬(株)製)1重量部、1,3−ブチレングリコール(ダイセル化学工業(株)製)8重量部、メチルパラベン(メッキンスM、上野製薬(株)製)0.1重量部、フェノキシエタノール(フェノキシエタノールS、第一工業製薬(株)製)0.5重量部及び精製水52.85重量部を8 0 ℃ に加温した後、エタノール(特級、和光純薬(株)製)7.79重量部及び粉体成分である前記醗酵セルロース0.7重量部(固形分重量部)、シリコーン処理酸化チタン(SA−チタンCR−50(10%)、三好化成(株)製)8重量部、シリコーン処理タルク(SA−JA−68R、三好化成(株)製)4重量部、シリコーン処理黄酸化鉄(SA−LL−XLO、三好化成(株)製)0.5重量部、シリコーン処理黒酸化鉄(SA−BL−100、三好化成(株)製)0.06重量部、並びにシリコーン処理ベンガラ(SA−ベンガラ七宝、三好化成(株)製)0.5重量部を加えて分散させた。 次いで、80℃に加温した油性原料であるスクワラン10重量部及びシリコン系オイル(シリコン995、信越化学工業(株)製)5重量部を加えてホモミキサーで乳化した。乳化後、室温まで冷却してO / W リキッドファンデーションを得た。
【0020】

(実施例12,13及び比較例3)
下記表2に示すように、各成分と配合量を変更した以外は実施例11と同様にO/Wファンデーションを調整した。
【0021】
【表2】

(O/Wファンデーションの評価)
このようにして得られたO/Wファンデーションを用いて下記の基準に従って各特定の評価を行った。これらの結果を、上記の表2にあわせて示した。
<経時安定性>
各実施例及び比較例のサンスクリーン剤をガラス製サンプル瓶に充填し、40℃で1ヶ月放置した後、組成物の分離状態を目視にて観察した。
◎:全く分離が認められない。
○:ほとんど分離が認められない。
△:わずかに分離が認められる。
×:完全に分離している。
<化粧崩れ>
パネル5名で官能評価を行った。塗布2時間後の状態を5段階(1:化粧くずれがひどい、2:化粧くずれしている、3:やや化粧くずれしている、4:ほとんど化粧くずれしていない、5:全く化粧くずれしていない)で評価し、平均点で判定した。
【0022】
◎: 4.2以上
○: 3.5以上4.2未満
△: 2.5以上3.5未満
×: 2.5未満
<耐水性>
水系分散体をスライドガラスに塗布し、流水中に15分間浸漬後、固液界面解析装置(協和界面科学(株)製)にて塗布膜上に滴下した液滴を所定の角度から撮影し、撮影された画像と撮影角度とを用いて液滴の接触角を算出した。上記で算出したものを下記の基準に従い評価した。
◎:接触角90℃以上
○:接触角70℃以上90℃未満
△:接触角30℃以上70℃未満
×:接触角30℃未満
【0023】
上記表2の結果から明らかなように実施例12及び13品は、いずれも経時安定性、化粧崩れ、及び耐水性が良好であった。
これに対して、醗酵セルロース等に代えて結晶セルロースを用いた比較例3品は耐水性については実施例品と同等であるが、経時安定性、化粧崩れの評価において劣っていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の表面処理粉体は化粧料に配合することができ、具体的にはファンデーション、アイカラー、チークカラー、口紅、乳液、クリーム、日焼け止め等の化粧料に配合することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
醗酵セルロースで表面処理されていることを特徴とする粉体。
【請求項2】
表面処理前の粉体が疎水化処理粉体であることを特徴とする請求項1に記載の粉体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粉体を含有してなる化粧料。




【公開番号】特開2011−68621(P2011−68621A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223094(P2009−223094)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】