説明

醤油配合食品

【課題】大豆醤油を配合していないにも拘わらず、大豆醤油特有のコク味と香りを有する醤油配合食品を提供する。
【解決手段】あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油から選ばれる少なくとも1種とてんさい糖を配合し、あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油の合計1部に対してんさい糖を0.05〜20部配合してレトルト処理を施す醤油配合食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆醤油をあわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油から選ばれる少なくとも1種に置換えたにも拘わらず、大豆醤油特有のコク味と香りを有する醤油配合食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乳幼児から成人に至るまで、特定の食物が原因でアレルギー症状を起こす食物アレルギー患者が増加しており、湿疹や下痢、時には死に至るほど重篤な症状に陥る場合がある。食物アレルギー患者は、アレルギーの原因となる食物を除くか、アレルギーの原因とならない食物に置換えた食事を強いられており、いかにレシピに工夫を加えたとしても食事本来の味付けを楽しむことは難しい。特に、大豆アレルギー患者は、醤油、味噌等の日本料理の味付けには欠かせない調味料の摂取を避けなければならないため深刻な問題となっている。
【0003】
大豆の置換え食品の製造方法として、例えば、特許2999441号公報(特許文献1)には、新鮮な魚類を主原料とし、魚肉自体が有する自己消化酵素で処理するか、又は、自己消化酵素および蛋白質分解酵素で処理することにより、魚肉質を液化した後、アレルゲンとなる可能性のある高分子のタンパク質、脂質等を除去した低分子ペプチドを主成分とする魚醤油の製造方法が記載されている。また、特開平8−196232号公報(特許文献2)には、アマランサス、あわ、ひえ、きび等の雑穀粒を蒸煮し、種麹を接種して製麹を行った後、塩水に仕込み熟成させ醤油もろみ様のものを得、この液体の濾過等で得られる清澄な液を、雑穀を素材とする麺への調味用添加料として用いるか、又はこの液に甘味料として甜涼茶抽出物やオリゴ糖を添加し、麺つゆとすることのできる食品材料、若しくはこれらの加工食品の製法が記載されている。しかしながら、これらの醤油又醤油配合食品は、酵素や発酵の作用により旨味を増強しているものの大豆醤油特有のコク味と香りを有しておらず、消費者の要望を十分に満足するものではなかった。
【0004】
【特許文献1】特許第2999441号公報
【特許文献2】特開平8−196232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、大豆醤油を配合していないにも拘わらず、大豆醤油特有のコク味と香りを有する醤油配合食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油から選ばれる少なくとも1種とてんさい糖を特定比率で配合し、レトルト処理を施した醤油配合食品は、意外にも大豆醤油特有のコク味と香りを有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油から選ばれる少なくとも1種とてんさい糖を配合し、あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油の合計1部に対してんさい糖を0.05〜20部配合してレトルト処理を施す醤油配合食品、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大豆醤油を配合していないにも拘わらず、大豆醤油特有のコク味と香りを有する醤油配合食品を提供することができる。これにより、大豆アレルギー患者が安心して食べられる醤油配合食品を簡便かつ安定的に製することができるようになり、食品市場の更なる拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0010】
本発明の醤油配合食品は、あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油から選ばれる少なくとも1種とてんさい糖を配合し、あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油の合計1部に対してんさい糖を0.05〜20部配合してレトルト処理を施す。
【0011】
本発明の醤油配合食品に用いるあわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油とは、一般的な大豆醤油の製法に準じ、大豆及び小麦をあわ、ひえ及びきびから選ばれる少なくとも1種に置換えて発酵したものである。例えば、あわ醤油の場合、まず、あわを蒸煮冷却後、麹菌(Aspergillus Oryzae等)を加え発酵し麹を調製する。次に、得られた麹と食塩水を混合したもろみを木桶等に移し発酵、熟成後、もろみ発酵液の圧搾液を火入れ、ろ過して調製する。ひえ醤油及びきび醤油についても前記あわ醤油と同様に調製する。
【0012】
本発明の醤油配合食品は、あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油から選ばれる少なくとも1種を用いれば良いが、特にあわ醤油を用いた場合、大豆醤油特有のコク味と香りにもっとも近い風味を有するようになり好ましい。
【0013】
本発明の醤油配合食品に用いるあわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油の合計配合量は、醤油配合食品全体に対し、特に限定されないが0.05〜30%が好ましく、0.1〜15%がより好ましい。あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油の合計配合量が前記範囲より少ない場合、大豆醤油特有のコク味と香りを有さない場合がある。前記範囲より多い場合、配合量を増やしたとしても本発明の効果が増し難く経済的でない場合がある。
【0014】
本発明の醤油配合食品に用いるてんさい糖とは、てんさい(砂糖大根)から精製した砂糖であり、てんさい糖として市販されているものを用いれば良い。一般的には、まず裁断した根部から温湯等を用いて糖液を抽出後、石灰清浄法や炭酸飽充法等を用いて不純物を除去する。次に、亜硫酸ガス、イオン交換樹脂等で軟化後、濃縮し結晶を析出させて製造する。
【0015】
本発明の醤油配合食品に用いるてんさい糖の配合量は、あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油の合計1部に対し、0.05〜20部配合し0.2〜5部配合することが好ましい。あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油の合計配合量が前記範囲より少ない又は多い場合、大豆醤油特有のコク味と香りが得られ難い。
【0016】
本発明の醤油配合食品は、当該食品の中心部の品温を120℃、4分間以上又はこれと同等以上の効力を有する条件で加熱するいわゆるレトルト処理を施した場合において、はじめて大豆醤油特有のコク味と香りを有するようになる。なお、レトルト処理の上限の温度としては、200℃以下が好ましい。
【0017】
本発明の醤油配合食品は、前記あわ醤油、ひえ醤油、きび醤油、てんさい糖以外に、本発明の効果を損わない範囲で適宜選択し配合することができる。具体的には、例えば、鶏肉、牛肉、豚肉、羊肉等の畜肉類、さんま、ぶり、さば、あじ、たい、かれい、ひらめ、かつお、さけ、たら、かじき、あなご、うなぎ、あさり、しじみ、かき、えび、いか、たこ等の魚介類、たまねぎ、にんじん、じゃがいも、だいこん、ねぎ、たけのこ、ごぼう、かぶ、ほうれんそう、さつまいも、さといも、はくさい、キャベツ、ブロッコリー等の野菜類、えんどう、いんげん等の豆類、しいたけ、まいたけ等のきのこ類、砂糖、醤油、酒、みりん、食塩、酢、味噌、片栗粉、豆板醤、コチュジャン、ブイヨン、グルタミン酸ナトリウム、アミノ酸、核酸等の調味料、にんにく、しょうが、こしょう、ごま等の香辛料、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、ワキシコーンスターチ、もち米澱粉、湿熱処理澱粉、加工澱粉等の増粘剤、クエン酸、酢酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸又はその塩、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、着色料、香料等を配合することができる。
【実施例】
【0018】
以下に本発明の醤油配合食品を実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0019】
〔実施例1〕
鍋にじゃがいも(6つ切り)250g、たまねぎ(2cm幅のくし型)250g、豚肉(細切れ)150g、にんじん(半月切り)100g、あわ醤油60g、みりん20g、てんさい糖36g、清水134gを投入後、攪拌しながら90℃、10分間加熱を行う。次に、180g容レトルトパウチに180gずつ充填後、開口部を密閉シールした。シール後、レトルト処理(120℃、30分間)を施し、本発明の醤油配合食品(肉じゃが)を得た。
【0020】
〔実施例2〕
あわ醤油をひえ醤油に置換えた以外は、実施例1に準じて本発明の醤油配合食品(肉じゃが)を得た。
【0021】
〔実施例3〕
あわ醤油をきび醤油に置換えた以外は、実施例1に準じて本発明の醤油配合食品(肉じゃが)を得た。
【0022】
〔比較例1〕
あわ醤油をこめ醤油に置換えた以外は、実施例1に準じて醤油配合食品(肉じゃが)を得た。
【0023】
〔比較例2〕
あわ醤油を魚醤油に置換えた以外は、実施例1に準じて醤油配合食品(肉じゃが)を得た。
【0024】
〔比較例3〕
てんさい糖をさとうきび糖に置換えた以外は、実施例1に準じて醤油配合食品(肉じゃが)を得た。
【0025】
〔比較例4〕
てんさい糖をメープルシュガーに置換えた以外は、実施例1に準じて醤油配合食品(肉じゃが)を得た。
【0026】
〔試験例1〕
あわ醤油を大豆醤油に置換え、てんさい糖をグラニュ糖に置換えた以外は実施例1に準じて調製した醤油配合食品(肉じゃが)を対照にして、実施例1〜3及び比較例1〜4の醤油配合食品(肉じゃが)の風味が、大豆醤油特有のコク味と香りを有しているか官能評価を行った。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

<評価基準>
A:大豆醤油特有のコク味と香りを有する
B:やや大豆醤油特有のコク味と香りを有する
C:大豆醤油とは異なる風味を有し、品位を損ねる
【0028】
表1の結果、あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油から選ばれる少なくとも1種とてんさい糖を配合し、あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油の合計1部に対してんさい糖を0.05〜20部配合しレトルト処理を施した場合、大豆醤油を使用していないにも拘わらず、大豆醤油特有のコク味と香りを有し好ましかった(実施例1〜3)。特に、あわ醤油を配合した場合、より大豆醤油特有のコク味と香りに近づけることができ非常に好ましかった(実施例1)。一方、あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油以外の醤油を用いた場合、及びてんさい糖以外の糖を用いた場合は、大豆醤油特有のコク味と香りは得られなかった(比較例1〜4)。
【0029】
〔試験例2〕
あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油の合計1部に対するてんさい糖の配合量が、本発明に及ぼす影響を調べるため、あわ醤油及びてんさい糖の配合量を変更した以外は実施例1に準じて醤油配合食品(肉じゃが)を製した。得られた醤油配合食品(肉じゃが)を上記試験例1の評価基準に沿って官能評価を行った。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2の結果、あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油の合計に対するてんさい糖の配合量が0.05〜20部の場合、大豆醤油を使用していないにも拘わらず、大豆醤油特有のコク味と香りを有し好ましかった(No.2〜5)。特に、0.2〜5部の場合、より大豆醤油特有のコク味と香りに近づけることができ非常に好ましかった(No.3、4)。一方、0.05部未満又は20部より多い場合、大豆醤油特有のコク味と香りを有していなかった(No.1、6)。
【0032】
〔比較例5〕
レトルト処理(120℃、30分間)を施さなかった以外は、実施例1に準じて醤油配合食品(肉じゃが)を調製した。得られた醤油配合食品(肉じゃが)は、大豆醤油特有のコク味と香りを有していなかった。
【0033】
〔実施例4〕
200g容レトルトパウチに米60g、あさりの身10g、にんじん(せん切り)6g、しいたけ(せん切り)6g、たけのこ(せん切り)6g、ごぼう(ささがき)6g、ひえ醤油10g、日本酒4g、てんさい糖1g、清水91gを充填後、開口部を密閉シールした。シール後、レトルト処理(120℃、20分間)を施し、本発明の醤油配合食品(五目ごはん)を調製した。得られた醤油配合食品(五目ごはん)は、大豆醤油を使用していないにも拘わらず大豆醤油特有のコク味と香りを有し好ましかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油から選ばれる少なくとも1種とてんさい糖を配合し、あわ醤油、ひえ醤油及びきび醤油の合計1部に対してんさい糖を0.05〜20部配合してレトルト処理を施すことを特徴とする醤油配合食品。

【公開番号】特開2010−227027(P2010−227027A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78879(P2009−78879)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】