説明

里芋加工食品の製造方法

【課題】里芋の供給不足を解消することができ、特に、サイズの小さい里芋の供給不足を解消することができる食品製造方法を提供する。
【解決手段】里芋の親芋の皮を剥き、所定の大きさに切断する等の前処理を行い(S11)、減圧乾燥(S12)を行った後に、粉末加工する(S13)。減圧乾燥は、990hPa以下の気圧で、40℃以下の温度で行う。その後、粉末状の親芋に水を加えて蒸練し(S14)、蒸練された親芋を所定の形状(例えば、だんご状)に成型して(S15)、冷凍する(S16)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、里芋加工食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
里芋(サトイモ)は、サトイモ科の植物で、茎の地下部分(塊茎)を食するものである。里芋は、親芋から子芋ができ、子芋から孫芋ができるというように多くの芋ができることでも知られている。
【0003】
ここで、里芋の1株当たりの収穫量は、約2kg〜4kgで、1株における芋のうち、親芋が約35重量%、親芋以外の芋(つまり、子芋、孫芋、ひ孫芋等)が約65重量%である。また、親芋以外の芋は、大きさの大きい順で、Lサイズ、Mサイズ、Sサイズ、2Sサイズに分類されるが、LサイズとMサイズのものが、1株における芋のうち約30重量%で、Sサイズのものが、1株における芋のうち約20重量%で、2Sサイズのものが1株における芋のうち約15重量%となっている。なお、2Sサイズは、加工前(皮を剥く前)の状態で直径3〜4cm、加工済(皮を剥いた後)の状態で直径2〜3cmであり、Sサイズは、加工前(皮を剥く前)の状態で直径4〜5cm、加工済(皮を剥いた後)の状態で直径3〜4.5cmであり、Mサイズは、加工前(皮を剥く前)の状態で直径5〜6cm、加工済(皮を剥いた後)の状態で直径4.5〜6cmである。また、Lサイズは、上記Mサイズよりも大きいサイズをいう。
【0004】
親芋以外の芋において、LサイズとMサイズのものは一般の流通によりスーパーマーケット等で販売されるが、Sサイズや2Sサイズのものは、規格外として一般の流通には乗らず、Sサイズのものは冷凍食材として生活協同組合を通じて流通し、2Sサイズのものは学校給食用に流通している程度である。一方、従来より、親芋は、食用には用いられておらず、廃棄されていた。
【0005】
なお、出願人は、先行技術文献として、特許文献1に記載の文献を知得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−5833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、近時、安全性の理由から国産の里芋が志向されており、里芋が供給不足になっている問題がある。特に、Sサイズや2Sサイズのものは、値段も安いために好まれるが、供給不足となっているという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、里芋の供給不足を解消することができ、特に、サイズの小さい里芋の供給不足を解消することができる食品製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記問題点を解決するために創作されたものであって、第1には、里芋加工食品の製造方法であって、里芋の親芋の皮を剥く前処理工程と、前処理工程を行った親芋を40℃以下の温度で減圧乾燥する減圧乾燥工程と、減圧乾燥された親芋を粉末状にする粉末加工工程と、粉末状の親芋に水を加えて蒸練する蒸練工程と、蒸練された親芋を成型する成型工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
第1の構成の里芋加工食品の製造方法によれば、従来廃棄されていた里芋の親芋を利用するので、里芋の供給不足を解消することができ、特に、小さいサイズに成型することにより、サイズの小さい里芋の供給不足を解消することができる。
【0011】
また、従来廃棄されていた里芋の親芋を利用するので、資源の有効利用となり、芋を販売することによる収益と廃棄処理の費用を削減することによる収益により、農業生産者の収益を上げることができる。
【0012】
また、里芋における親芋は子芋に比べて栄養価が高いので、従来からの子芋に比べても十分な栄養価の食材を得ることができる。また、減圧乾燥に際して、40℃以下の温度で乾燥するので、里芋の品質を劣化させることがない。
【0013】
また、第2には、上記第1の構成において、減圧乾燥工程において、990hPa以下の気圧で乾燥を行うことを特徴とする。よって、短時間で効率よく乾燥を行うことができ、粉末状の親芋の生産効率を向上させることができる。
【0014】
また、第3には、上記第1又は第2の構成において、減圧乾燥工程において、38℃以上の温度で乾燥を行うことを特徴とする。よって、短時間で効率よく乾燥を行うことができ、粉末状の親芋の生産効率を向上させることができる。
【0015】
また、第4には、上記第1から第3までのいずれかの構成において、前処理工程において、皮を剥いた親芋を加熱滅菌した後に水で冷却することを特徴とする。
【0016】
また、第5には、上記第1から第4までのいずれかの構成において、成型工程の後に、成型された親芋を冷凍する冷凍工程を有することを特徴とする。よって、品質劣化や腐敗を防止することが可能となる。
【0017】
また、第6には、上記第1から第5までのいずれかの構成において、蒸練工程において、粉末状の親芋に水の他に米粉を加えて蒸練することを特徴とする。このように米粉を加えることにより、里芋加工食品に米の風味を加えることができ、さらに、米の消費を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に基づく里芋加工食品の製造方法によれば、従来廃棄されていた里芋の親芋を利用するので、里芋の供給不足を解消することができ、特に、小さいサイズに成型することにより、サイズの小さい里芋の供給不足を解消することができる。
【0019】
また、従来廃棄されていた里芋の親芋を利用するので、資源の有効利用となり、芋を販売することによる収益と廃棄処理の費用を削減することによる収益により、農業生産者の収益を上げることができる。
【0020】
また、里芋における親芋は子芋に比べて栄養価が高いので、従来からの子芋に比べても十分な栄養価の食材を得ることができる。また、減圧乾燥に際して、40℃以下の温度で乾燥するので、里芋の品質を劣化させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】里芋加工食品の製造工程を示すフローチャートである。
【図2】前処理の工程を示すフローチャートである。
【図3】里芋の親芋と子芋の栄養成分を示す比較表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明においては、里芋の供給不足を解消することができ、特に、サイズの小さい里芋の供給不足を解消することができる食品製造方法を提供するという目的を以下のようにして実現した。
【0023】
本実施例の里芋加工食品は、里芋の親芋を減圧乾燥した後に粉末状にし、該粉末を蒸練したものを成型したものである。
【0024】
本実施例の里芋加工食品の製造方法を図1、図2を使用して説明する。まず、里芋の親芋に対して、減圧乾燥前の前処理を行う(S11、前処理工程)。
【0025】
すなわち、前処理工程は、図2に示すように行われる。すなわち、親芋の皮を除去し(S21)、皮が除去された親芋を所定の大きさに切断(裁断でもよい)し(S22、切断工程)、切断した親芋を滅菌し(S23、滅菌工程)、滅菌した親芋を冷却し(S24、冷却工程)、冷却した親芋を洗浄する(S25、洗浄工程)。
【0026】
ここで、里芋の親芋は、里芋の地下茎(塊茎)の中央にある大きな塊であり、この親芋の周りに子芋ができる。
【0027】
また、上記切断工程(S22)においては、親芋を所定の厚み(例えば、5〜10mmの厚み)に切断する。また、滅菌工程(S23)においては、切断された親芋を加熱された水(例えば、95〜98℃の水)で数分間(例えば、1分〜2分)加熱する。また、冷却工程(S24)においては、加熱された親芋を常温の水で急冷する。また、洗浄工程(S25)においては、シャワー状の水により洗浄する。
【0028】
洗浄工程を行うことにより前処理が完了したら、親芋を減圧乾燥する(S12、減圧乾燥工程)。減圧乾燥に際しては、990hPa(ヘクトパスカル)以下の気圧(好適には、980hPa以上990hPa以下の気圧)で、乾燥温度を38℃以上40℃以下とし、乾燥時間を15〜18時間とする。
【0029】
減圧乾燥によれば、減圧により水分の蒸発が促進されるとともに、乾燥対象物の内部から水分を引き出す力が加わるので、短時間で乾燥させることができる。
【0030】
なお、40℃以下で乾燥するので、親芋の品質が劣化することがなく、また、38℃以上で乾燥するので、親芋を十分乾燥させることができる。つまり、40℃を超えると、里芋の品質が劣化するおそれがあり、38℃未満とすると十分乾燥させることができない。また、気圧が990hPaを超えると、減圧の効果(乾燥時間の短縮)を十分得ることができない。また、乾燥時間が15時間未満の場合には、乾燥が不十分であり、一方、乾燥時間が18時間を超える場合には、十分乾燥されているのでそれ以上の時間乾燥する必要がなく、乾燥コストが掛かってしまう。
【0031】
なお、より具体的には、減圧平衡発熱乾燥法により減圧乾燥を行う。つまり、乾燥庫に、減圧を行うための減圧ファンと、庫内の空気を循環させる循環ファンとを設けて、減圧ファンにより、乾燥庫内を減圧して水分の蒸発力を高めるとともに、減圧ファンと空気の摩擦熱によって熱が発生し、その熱と循環ファンによる空気の移動によって乾燥をより促進するものである。
【0032】
親芋を減圧乾燥したら、粉末加工して粉末状にする(S13、粉末加工工程)。すなわち、粉砕器で親芋を粉砕して、粉末(例えば、120〜150μmの粒径の粉末)を製造する。
【0033】
以上のようにして、親芋の粉末を製造したら、親芋の粉末を蒸練機により蒸練する(S14、蒸練工程)。つまり、親芋の粉末に水を加えて蒸練する。なお、水以外には添加しないものとする。ここで、「蒸練」とは蒸し工程と混練工程とを含めた概念であるが、既に混練された後の単なる蒸し工程と、蒸しと混練を同時に行う工程の双方を意味するものとする。つまり、親芋の粉末を混練した後に蒸してもよいし、蒸しと混練とを同時に行うようにしてもよい。
【0034】
親芋の粉末の蒸練を行ったら、蒸練された粉末を所定の形状に成型する(S15、成型工程)。すなわち、成型機により所定の形状(例えば、だんご状(球状としてもよい))に成型する。なお、成型する大きさとしては任意であるが、例えば、上記のSサイズや2Sサイズのものは、値段も安いために好まれるが供給不足となっているので、これらのサイズに成型するのが好ましい。つまり、Sサイズの場合には、直径3〜4.5cmの球状とし、2Sサイズの場合には、直径2〜3cmの球状とする。
【0035】
その後、所定の形状に成型したものを急速冷凍して(S16、冷凍工程)、里芋加工食品を製造する。このように冷凍するので、品質劣化や腐敗を防止することができる。
【0036】
上記のように製造された里芋加工食品は、通常の里芋と同様に食材として使用する。つまり、上記のように里芋加工食品は冷凍されているので、これを解凍する等して料理の食材として使用する。
【0037】
上記のように製造された里芋加工食品及びその製造方法によれば、従来廃棄されていた里芋の親芋を利用するので、資源の有効利用となる。従来廃棄されていた親芋を有効利用するので、親芋を販売することによる収益と廃棄処理の費用を削減することによる収益により、農業生産者の収益を上げることができる。また、親芋を廃棄処理しないので、親芋を廃棄することによる環境悪化を防止することができる。
【0038】
また、従来廃棄されていた里芋の親芋を利用するので、里芋の供給不足を解消することができ、特に、小さいサイズに成型することにより、サイズの小さい里芋の供給不足を解消することができる。
【0039】
また、図3に示すように、里芋における親芋はもともと子芋に比べて栄養価が高く、特に、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC等において親芋は子芋に比べて遙かに大きな栄養価を有しており、従来からの子芋に比べても十分な栄養価の食材を得ることができる。特に、上記のように、減圧乾燥に際して、40℃以下の温度で乾燥するので、高温で乾燥する場合に比べて、里芋の品質を劣化させることがない。また、990hPa以下の減圧下で乾燥するので、40℃以下の温度で乾燥しても短時間で効率よく乾燥させることができる。
【0040】
また、親芋を一旦粉状にしたものを蒸練して成型するので、従来の里芋(子芋)と味や歯ごたえが極めて近似したものとすることができ、里芋の代替商品として遜色ないものとすることができる。
【0041】
また、成型に際して大きさを調整できるので、所望の大きさとすることができ、不足している里芋の大きさの種類に応じて、大きさを決定することによりその大きさの里芋の代わりの食材を提供することができる。
【0042】
なお、上記の説明において、蒸練工程において、親芋の粉末に水のみを加えて蒸練するものとして説明したが、親芋の粉末に米粉と水を加えて蒸練するようにしてもよい。このように米粉を加えることにより、里芋加工食品に米の風味を加えることができ、さらに、米の消費を向上させることができる。その場合の里芋の親芋の粉末と米粉の配合割合としては、親芋の粉末と米粉の合計重量に対する割合を、里芋の親芋の粉末を50〜70重量%(好適には、60重量%)とし、米粉を30〜50重量%(好適には、40重量%)とするのが好ましい。なお、里芋の風味を強く出すには、親芋の粉末と米粉の合計重量に対する割合を、里芋の親芋の粉末を65〜70重量%とし、米粉を30〜35重量%とするのが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
里芋加工食品の製造方法であって、
里芋の親芋の皮を剥く前処理工程と、
前処理工程を行った親芋を40℃以下の温度で減圧乾燥する減圧乾燥工程と、
減圧乾燥された親芋を粉末状にする粉末加工工程と、
粉末状の親芋に水を加えて蒸練する蒸練工程と、
蒸練された親芋を成型する成型工程と、
を有することを特徴とする里芋加工食品の製造方法。
【請求項2】
減圧乾燥工程において、990hPa以下の気圧で乾燥を行うことを特徴とする請求項1に記載の里芋加工食品の製造方法。
【請求項3】
減圧乾燥工程において、38℃以上の温度で乾燥を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の里芋加工食品の製造方法。
【請求項4】
前処理工程において、皮を剥いた親芋を加熱滅菌した後に水で冷却することを特徴とする請求項1又は2又は3に記載の里芋加工食品の製造方法。
【請求項5】
成型工程の後に、成型された親芋を冷凍する冷凍工程を有することを特徴とする請求項1又は2又は3又は4に記載の里芋加工食品の製造方法。
【請求項6】
蒸練工程において、粉末状の親芋に水の他に米粉を加えて蒸練することを特徴とする請求項1又は2又は3又は4又は5に記載の里芋加工食品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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