説明

重力式岸壁の耐震補強工法

【課題】環境に配慮し、地盤の安定性を低下させず、改修工事に要する工期・工事費を低く抑えることができる重力式岸壁の耐震補強工法を提供する。
【手段】側壁部に囲まれた中空のケーソン13を設置し、ケーソン13の中空部に砂14を詰めて施工した既設の重力式岸壁を、補修して耐震補強する重力式岸壁の耐震補強工法であって、地滑り防止用アンカー22を、ケーソン13の天端から鉛直下向きにケーソン内を挿通させて、地盤11,12に打設する工程を備えたことを特徴とする。なお、中空部に中詰めした砂14の一部を砂より軽量の中詰め材(例えば、海水)23に置換する工程を備えた構成も例示できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重力式岸壁の耐震補強技術に関するものである。詳しくは、耐震性を増やす目的で重力式岸壁を補強する重力式岸壁の耐震補強工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重力式岸壁は、コンクリートの箱(ケーソン)の中に砂と水を詰めて、その重さで陸側(背面)の土を止める形式の土留め壁のことをいう。この重力式岸壁は重力により生じる地盤との摩擦力で背面の土を止めている。
【0003】
重力式岸壁は、震度法と呼ばれる設計法で設計されている。すなわち、供用期間中に発生する確率が高い地震動であるレベルの地震(比較的小さく、頻繁に発生する地震のレベル;レベル1という)に対して安全度が保てるように(すなわち、構造物が無傷で耐えるように)設計されている。
【0004】
ところで、レベル1に耐える設計法で設計された重力式岸壁は、供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度を持つ地震動であるレベルの地震(想定しうる範囲でかなり大きい地震;レベル2という)が発生した場合には、被災する可能性が高い。
【0005】
実際、1995年兵庫県南部地震においては、阪神・淡路地区の重力式岸壁が軒並み被災し、重力式の土留め壁が海側(前面)に2〜3m(大きいところでは4〜5m)動いてしまった。このため、船舶からの物資の輸送ルートが閉ざされ、港湾としての機能を果たすことが困難な状態に陥った。このことから、従来の設計法で想定された地震動(レベル1)を上回る地震動(レベル2)に対しても、ある程度の被害を受けるが、大規模な変形により周囲に甚大な被害を及ぼさない程度に押さえることができ、所期の機能を保持できるようにように設計する合理的な対応に迫られている。
【0006】
このような背景の中、国土交通省においては、レベル2地震の際にも、物流拠点として使用できる港湾の整備を目標に岸壁の耐震強化を推進している。また、1999年4月に改訂された「港湾の施設の技術上の基準・同解説」では、耐震性能設計の概念を導入し、レベル1及びレベル2と定めた地震動のそれぞれに対応する技術上の基準に基づき耐震強化施設の設計を行う、と記載された。すなわち、レベル1地震動に対しては「健全性の確保」の耐震性能を有する震度法による断面設計を行い、レベル2地震動に対しては「所期の機能の保持」の耐震性能を有する震度法による断面設計を行う。
【0007】
そこで、従来の設計基準で施工された既設の港湾施設を耐震強化岸壁に改修する工事が行われている。例えば、重力式岸壁の場合、既設の岸壁を耐震強化岸壁に改修工事を行う工法としては、(a)岸壁法線を前出しする工法と、(b)法線を変更しない工法との何れかで行われている。
【0008】
すなわち、(a)岸壁法線を前出しする工法では、既設岸壁の前面に新規の桟橋を構築したり、前面に打設したコンクリートと一体化させ堤体重量を増加させるなどの工法が行われている。また、(b)法線を変更しない工法としては、背面土圧低減を目的とした背面土砂の改良や中詰め材の重量化などの工法が行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来の改修工法は、(a)岸壁法線を前出しする工法の場合、環境に与える負
荷が大きく、航路幅が縮小してしまうといった問題や、堤体の重量増加に伴う地盤の安定性低下などの問題を抱えている。また、(b)法線を変更しない工法の場合、背後地での広範囲にわたる地盤改良を必要とするなどの問題や、中詰め材の重量増加に伴う地盤の安定性低下などの問題も抱えている。更に、これら従来の改修工法は、広範囲で施工し、多くの資材を使用することから改修工事に要する工期・工事費が多くかかるといったコスト高の問題も抱えている。
【0010】
本発明は、上記の技術的課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、環境に配慮し、地盤の安定性を低下させず、改修工事に要する工期・工事費を低く抑えることができる重力式岸壁の耐震補強工法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、重力式岸壁の耐震補強工法であり、前述の技術的課題を解決すべく以下のような構成とされている。
すなわち、本発明の重力式岸壁の耐震補強工法は、
地滑り防止用アンカーを、前記ケーソンの天端から鉛直下向きに前記ケーソン内を貫通させて、地盤に打設する工程を備えたことを特徴とする。この構成によれば、鉛直下向きにアンカー力を導入することにより滑動抵抗力を増加させることができる。地滑り防止用アンカーは、ピッチや本数を適切に配置することにより、地盤反力分布を均等化させることができる。地滑り防止用アンカーの配置は、港内側のみ、港外側と港内側の併用の2種類を条件に応じて使い分ける。
【0012】
また、本発明の重力式岸壁の耐震補強工法において、前記中空部に中詰めした砂の一部を前記砂より軽量の中詰め材に置換する工程を備えた構成も例示できる。この構成によれば、基礎地盤が軟弱な場合、中詰砂を砂より軽量の中詰め材に置換することにより堤体重量を軽量化して地盤反力を低減し、支持力安定性の低下を防止することができる。更に、砂より軽量の中詰め材として海水を用いることで、地震時の慣性力を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、(1)岸壁の法線を変更しないため、環境に与える負荷を最小限に抑えることができ、航路幅への影響もない。(2)港外側・港内側のアンカー力を適切に配分することにより、改修前よりも地盤反力分布を均等にすることができるため、支持力や円形すべりに対する地盤の安定性が向上する。(3)基礎地盤が軟弱な場合には、中詰め砂を海水に置換することにより鉛直力を改修前と同程度とし、地盤反力の増加を防止する。また、海水に置換することによって地震時の慣性力を低減することが可能となり、さらに地震時の安定性が向上する。(4)ケーソン堤体幅程度の改修範囲で施工が可能であるため、工事中も背後地が利用できる。(5)アンカーの設置のみで耐震強化岸壁化が図れるため、従来工法と比較して工期・工事費ともに抑えることができる。
【0014】
従って、本発明は、環境に考慮し、地盤の安定性を低下させず、改修工事に要する工期・工事費を抑えることができる重力式岸壁の耐震補強工法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。なお、本発明に係る最良の形態の重力式岸壁の耐震補強工法は、港湾や漁港における既設の重力式岸壁(図2参照)を耐震強化岸壁に改修工事し、図1に示すように、形成されるものである。
【0016】
[既設の重力式岸壁の概要]
まず、既設の重力式岸壁について図2に基づき説明する。
既設の重力式岸壁は、港湾や漁港における係船岸などの護岸構造物であり、高潮や津波、波浪などから港湾施設や後背地を防護するためのものである。
【0017】
既設の重力式岸壁は、図2に示すように、改良した地盤11上に捨石をマウンド状に積み上げて基礎とした基礎捨石部12を形成し、この基礎捨石部12上に中空箱状のケーソン13を載置したものである。
【0018】
そして、ケーソン13を載置した後、ケーソン13の内部に中詰め材(この実施の形態では中詰め砂)14を充填し、ケーソン13の背後地側に裏込石15を基礎捨石部12からケーソン13上部まで盛り上げ、ケーソン13及び裏込石15の上部に上部工を構築する。すなわち、既設の重力式岸壁は、ケーソン13の中に砂14を詰めて、その重力により生じる基礎捨石部12(及び地盤11)との摩擦力で陸側(背後地側)の土(裏込石15)を止めている。
【0019】
上部工は、ケーソン13及び裏込石15の上部に積み上げた埋立土16と、更に埋立土16を覆う上部コンクリート17と、で構築する。
【0020】
[重力式岸壁の耐震補強工法の説明]
次に、本発明の重力式岸壁の耐震補強工法について説明する。なお、ここでは既設の重力式岸壁(図2参照)を図1に示す重力式岸壁に改修するものとして説明する。
【0021】
この重力式岸壁の耐震補強工法は、(1)上部工の撤去、(2)アンカー打設、(3)中詰め材の置換、(4)上部工の構築、の施工手順により行われる。
【0022】
まず、上部工の撤去作業を行う。上部工の撤去作業は、後述するアンカー打設と中詰め材の置換との作業を容易にするために行うものであり、上部工の撤去は、ケーソン13の上側のみでよい。具体的には、ブレーカおよびバックホウを用いて上部工である上部コンクリート17と埋立土16を撤去する。
【0023】
次に、アンカー打設作業を行う。なお、地滑り防止用アンカー22(図1参照)は、摩擦型アンカーを用いる。摩擦型アンカー22は、アンカー体周面と定着地盤との摩擦抵抗により、アンカー引抜力を定着地盤に伝達する。また、摩擦型アンカー22は、アンカー体22a・引張り部22b・アンカー頭部22cから構成される。アンカー引張り部22bの材料には、高張力が作用することから、鋼材のリラクゼーションを少なくする等の理由により、一般にPC鋼材(PC鋼棒、PC鋼より線等)が用いられる。
【0024】
アンカー打設作業では、まず、アンカー用孔21を削孔し、このアンカー用孔21に沿って摩擦型アンカー22を打設する。
【0025】
アンカー用孔21は、ケーソン13の天端から鉛直下向きにケーソン13の側壁部を挿通させて地盤(基礎捨石部12、基礎地盤)まで削孔される。
【0026】
次に、アンカー用孔21に摩擦型アンカー22を挿入し、アンカー体22aを基礎地盤に打設する。このように、摩擦型アンカー22を打設して、鉛直下向きにアンカー力を導入することにより堤体の滑動抵抗力を増加させる。
【0027】
次に、中詰め材の置換作業を行う。すなわち、クラムシェルにて中詰め砂14を撤去し、中詰め砂14より軽量の中詰め材、例えば海水23に置換する。特に、基礎地盤が軟弱
地盤である場合は、摩擦型アンカー22を基礎地盤に打設したことが、地盤の支持力や円弧滑りにおいて不利に作用する虞もあり、かかる場合、ケーソン13の中詰め砂14の一部を砂14より軽量の中詰め材(海水23)に置換することによって堤体の軽量化を図り、地盤反力を低減させる。
【0028】
次に、上部工の構築作業を行う。すなわち、ケーソン13及び裏込石15の上部に埋立土16を積み上げ、更に上部コンクリート17で埋立土16を覆い、上部工を構築する。
【0029】
この実施の形態によれば、鉛直下向きにアンカー力を導入することにより滑動抵抗力を増加させることができる。摩擦型アンカー22は、配置やピッチを適切に行うことにより、地盤反力分布を均等化させることができる。摩擦型アンカー22の配置は、港内側のみ、港外側と港内側の併用の2種類を条件に応じて使い分ける。また、基礎地盤が軟弱な場合は、中詰砂14を海水23に置換することにより堤体(ケーソン、砂及び水)13の重量を軽量化して地盤反力を低減し、支持力安定性の低下を防止することができる。
【0030】
すなわち、この実施の形態によれば、(1)岸壁の法線を変更しないため、環境に与える負荷を最小限に抑えることができ、航路幅への影響もない。(2)港外側・港内側のアンカー力を適切に配分することにより、改修前よりも地盤反力分布を均等にすることができるため、支持力や円形すべりに対する地盤の安定性が向上する。(3)基礎地盤が軟弱な場合には、中詰め砂をこの砂より軽量の中詰め材(海水)に置換することにより鉛直力を改修前と同程度とし、地盤反力の増加を防止する。また、砂より軽量の中詰め材(海水)に置換することによって地震時の慣性力を低減することが可能となり、さらに地震時の安定性が向上する。(4)ケーソン堤体幅程度の改修範囲で施工が可能であるため、工事中も背後地が利用できる。(5)アンカーの設置のみで耐震強化岸壁化が図れるため、従来工法と比較して工期・工事費ともに抑えることができる。
【0031】
なお、この実施の形態では、地滑り防止用アンカーとして、摩擦型アンカーを用いたが、地滑り防止用アンカーは摩擦型アンカーに限定されるものではなく、鉛直下向きにアンカー力を導入することにより堤体の滑動抵抗力を増加させる機能を有するものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の重力式岸壁の耐震補強工法を示す断面図である。
【図2】改修前の重力式岸壁を示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
11 改良した地盤
12 基礎捨石部
13 ケーソン
14 中詰め砂
15 裏込石
16 埋立土
17 上部コンクリート
21 アンカー用孔
22 地滑り防止用アンカー(摩擦型アンカー)
22a アンカー体
22b 引張り部
22c アンカー頭部
23 海水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側壁部に囲まれた中空のケーソンを設置し、前記ケーソンの中空部に砂を詰めて施工した既設の重力式岸壁を、補修して耐震補強する重力式岸壁の耐震補強工法であって、
地滑り防止用アンカーを、前記ケーソンの天端から鉛直下向きに前記ケーソン内を挿通させて、地盤に打設する工程を備えたことを特徴とする重力式岸壁の耐震補強工法。
【請求項2】
前記中空部に中詰めした砂の一部を前記砂より軽量の中詰め材に置換する工程を備えたことを特徴とする請求項1に記載の重力式岸壁の耐震補強工法。
【請求項3】
前記砂より軽量の中詰め材は、海水であることを特徴とする請求項2に記載の重力式岸壁の耐震補強工法。

【図1】
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【図2】
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