説明

重合体組成物、それを用いて製造される高分子電解質膜ならびにそれを含んで構成される燃料電池

【課題】水分が多い環境における吸水膨潤による寸法安定性と、高いプロトン伝導性、特に相対湿度20〜40%程度の低湿度条件下での高いプロトン伝導性とを兼ね備えた高分子電解質膜、またそれを製造するための重合体組成物、さらにはそれを含んで構成される燃料電池を提供する。
【解決手段】ブロック共重合体および混合溶媒を含んでなり、該ブロック共重合体が酸基を含有するセグメント(A)と酸基を実質的に含有しないセグメント(B)から構成され、該混合溶媒が特定の溶媒(C)と溶媒(D)を含む重合体組成物である。更にはそれを用いてなる高分子電解質膜および燃料電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素、アルコールなどを燃料に用いる燃料電池などにおいて用いられる高分子電解質膜を製造するための重合体組成物、その重合体組成物を用いて製造される高分子電解質膜、ならびにそれを含んで構成される燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、種々のものがあるが、代表的なものとして、高分子電解質型燃料電池が挙げられる。高分子電解質型燃料電池とは電解質膜としてプロトン伝導性高分子電解質を用いる燃料電池で、水素やメタノールなどの燃料を酸素または空気を用いて電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに変換して取り出すものである。高分子電解質型燃料電池には、燃料として、ボンベ、配管などから供給される純水素を用いるタイプのほか、改質器によりガソリンやメタノールから水素を発生させて用いるタイプなどがある。また、燃料としてメタノール水溶液を用いて直接発電を行う直接メタノール型燃料電池(DMFC:DirectMethanol Fuel Cell)も開発されている。
高分子電解質型燃料電池は、高分子電解質膜とこの両側に接触して配置される正極および負極から構成される。燃料の水素あるいはメタノールは負極において電気化学的に酸化されてプロトンと電子を生成する。このプロトンは高分子電解質膜内を、酸素が供給される正極に移動する。一方、負極で生成した電子は電池に接続された負荷を通り、正極に流れ、正極においてプロトンと電子が反応して水を生成する。そのため、電解質膜には高いプロトン伝導性が求められる。
【0003】
高いプロトン伝導性を有する高分子電解質膜としては、例えばデュポン社製「Nafion(登録商標)」などのプロトン酸基を含有するフッ素系高分子電解質膜が知られている。しかしながらこのフッ素系高分子電解質膜は、例えば80℃以上の高温域になると機械的強度が著しく低減し始め、プロトン伝導性も高温域では低下する虞がある。さらには煩雑な製造工程を必要とし、実質的に全フッ素型の高分子であるということから非常に高価格であり、廃棄時に焼却するとフッ酸ガスが発生する課題、また条件によっては燃料電池の運転条件にてフッ化水素酸(HF)が生じる虞がある。またメタノールの透過性が高いため、DMFCの電解質膜として用いた場合、メタノールのクロスオーバーによる電圧低下や発電効率低下がおこる虞がある。
【0004】
そこで、プロトン酸基を含有する炭化水素系重合体を用いた非フッ素系の高分子電解質膜の開発が進められている。プロトン酸基を含有する炭化水素系重合体は低価格で製造できる優位性があるほか、焼却時のハロゲン系ガス発生の問題もない。特に、芳香族炭化水素系重合体は、ガラス転移温度がプロトン酸基含有フッ素系重合体に比べて高いため、一般に低くとも150℃程度までは熱的機械強度が安定であり、また脂肪族炭化水素系重合体に比べて化学的耐久性に優れるため、数多くの開発がなされてきている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
これらプロトン酸基を含有する芳香族炭化水素系重合体からなる高分子電解質膜のプロトン伝導性を高める方法として、高分子電解質膜中のプロトン酸基の量を増大させる方法が一般的に知られている。しかしながら、当該膜中のプロトン酸基量の増大に伴い、例えば水に浸漬するなどの水分が多い環境において、当該膜自体が水分を多量に吸収、保持して膨潤し、乾燥時と湿潤時での膜の寸法変化が大きくなり、寸法安定性が悪化する。そのことにより、例えばMEA(膜と電極接合体)として加工した際に、湿度変化が生じる運転条件にて当該膜と電極が剥がれたり、セル(MEAとセパレータのセット)やスタック(セルが重なったもの)に応力がかかることで、場合によってずれたりするなどの支障をきたす虞がある。すなわち、プロトン伝導性と膨潤による寸法安定性は、高分子電解質膜中のプロトン酸基の量を変数因子として、トレードオフの関係に一般的にある。
また、これらプロトン酸基を含有する芳香族炭化水素からなる高分子電解質膜は一般的に、湿度が高い条件(目安として相対湿度で80%以上)では、プロトン酸基を含有するフッ素系高分子電解質膜と同レベルあるいはそれ以上のプロトン伝導性を有するが、湿度が低い条件(目安として20〜40%以下)ではプロトン伝導性が著しく低下してしまう特性を持つ(例えば、非特許文献2参照)。定置型の小型燃料電池や自動車用燃料電池のように、水素あるいは改質水素などを燃料とする固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte FuelCell)では特に、燃料に水分が存在しないため、運転条件によっては電解質膜中の湿度が低くなる。加湿装置などで湿度を補う方法も提案されているが、装置の簡略化や小型化、またコスト面から見ても、低湿度条件においても高いプロトン伝導性を有することが期待されている。
【0006】
これらの課題に対して、ナフタレン環を導入したプロトン伝導性ブロック共重合体が報告されている(特許文献1参照)。この技術の効果として、少ないスルホン酸基量で高いプロトン伝導度を発揮することができるため、吸水膨潤を抑制しつつ相対湿度26%の低湿度条件でも高いプロトン伝導性を発現することが挙げられている。しかしその効果、性能は未だ十分なものではない。
【0007】
【特許文献1】特願2005−315701
【非特許文献1】Chemical Reviews, Vol.104, No.10,4587−4612 (2004)
【非特許文献2】Macromolecules, Vol.38, 7121−7126 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、水分が多い環境における吸水膨潤による寸法安定性と、プロトン伝導性、特に相対湿度20〜40%程度の低湿度条件下でのプロトン伝導性とを兼ね備えた高分子電解質膜、またそれを製造するための重合体組成物、さらにはそれを含んで構成される燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の酸基を含有するブロック共重合体と特定の混合溶媒からなる重合体組成物が、吸水膨潤による寸法安定性と低湿度条件下での高いプロトン伝導性とを兼ね備えた高分子電解質膜を製造するのに有効な組成物であり、その高分子電解質膜は特に燃料電池の部材として適したものであることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
ブロック共重合体および混合溶媒を含んでなり、該ブロック共重合体が酸基を含有するセグメント(A)と酸基を実質的に含有しないセグメント(B)から構成され、該混合溶媒が溶媒(C)と溶媒(D)を含み、溶媒(C)がセグメント(A)のみから構成される重合体(a)を良好に溶解するがセグメント(B)のみから構成される重合体(b)を溶解せず、溶媒(D)がセグメント(B)のみから構成される重合体(b)を良好に溶解し、溶媒(C)の沸点が溶媒(D)の沸点よりも高いことを特徴とする重合体組成物、
および、
当該重合体組成物を基板上に膜状に塗布し、次いで加熱して混合溶媒を除去することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法、
更には、当該重合体組成物を用いてなる高分子電解質膜、ならびに当該高分子電解質膜を含んで構成される燃料電池、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の重合体組成物を用いることにより、例えば水に浸漬した条件など水分が多い環境における吸水膨潤による寸法安定性と、プロトン伝導性、特に相対湿度20〜40%程度の低湿度条件下でのプロトン伝導性とを兼ね備えた高分子電解質膜を効率よく製造することができ、この高分子電解質膜は、広範な湿度条件で寸法安定性と優れた発電性能とを発現する燃料電池用のプロトン伝導性高分子電解質膜として有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る重合体組成物、それを用いて製造される高分子電解質膜ならびにそれを含んで構成される燃料電池について具体的に説明する。
【0012】
[重合体組成物]
本発明の重合体組成物は、ブロック共重合体を含み、当該ブロック共重合体は、酸基を含有するセグメント(A)と酸基を実質的に含有しないセグメント(B)から構成される。セグメント(A)とセグメント(B)は、同一分子内でそれぞれがある程度の固まりとして存在しており、それにより一つの共重合体において酸基を含有する固まり部分と酸基を実質的に含有しない固まり部分が適度に分散して存在している。これら酸基を含有する固まり部分と酸基を実質的に含有しない固まり部分の化学的性質は異なり、このように化学的性質が異なる複数の部分が同一重合体内に含まれることにより当該ブロック共重合体は両親媒性となり、そのことが本発明の目的を達成する上で重要であると考えられる。セグメント(A)とセグメント(B)とがランダムに結合したランダム共重合体では、二つの化学的性質が平均化され、同一分子内に異なる化学的性質を併有する重合体ではないため、本発明の効果を十分に発揮させることができない。
【0013】
<セグメント(A)>
本発明に係るセグメント(A)は、酸基を有する。酸基を有することでブロック共重合体のセグメント(A)の部分がプロトン伝導性を実質的に発現し、親水性を示す。本発明に係るセグメント(A)は、酸基を有するものであれば良いがその中でも、以下の一般式(1)の構造であることが好ましい。
【0014】


(式中、Ar〜Arはそれぞれ独立して芳香環であり、X〜Xはそれぞれ独立して水素原子または酸基でそのうち少なくとも一つが酸基であり、A〜Aは直接結合、−CH−、−C(CH−、−C(CF−、−O−、−S−、−SO−または−CO−でありそれぞれ独立しており、a、bおよびcそれぞれ独立して0または1を示し、g、h、i、jおよびkはそれぞれ独立して0、1、2または3を示し、芳香環の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基又はシアノ基にそれぞれ独立して置換されていても良い)。
【0015】
一般式(1)中の酸基は種々のものを用いることができるが、スルホン酸基を含有していることが好ましい。スルホン酸基は、セグメント(A)中の芳香環に直接結合または間接結合していても良い。間接結合する場合には、スルホン酸基が脂肪族鎖あるいは芳香族鎖を介してセグメント(A)中の芳香環に間接的に結合していても良く、脂肪族鎖あるいは芳香族鎖中に酸素原子などのヘテロ原子を含んでいても良い。スルホン酸基は、具体的には、下記の(7)〜(9)が例示される。
【0016】

【0017】
本発明に係る一般式(1)は、Ar〜Arがそれぞれ独立してベンゼン環またはナフタレン環であり、X〜Xの少なくとも二つ以上が酸基であり、Aが−SO−または−CO−であることがより好ましい。また、本発明に係る一般式(1)は、下記一般式(3)であることが好ましい。
【0018】


(式中X〜XおよびXはそれぞれ独立して一般式(3)中のベンゼン環に直接結合したスルホン酸基、または脂肪族鎖あるいは芳香族鎖を介して一般式(3)中のベンゼン環に間接的に結合したスルホン酸基であり、Aは−SO−または−CO−であり、gおよびhはそれぞれ独立して1、2または3を示し、iおよびkはそれぞれ独立して0、1または2を示す)。
【0019】
これらの中でも、一般式(3)の繰り返し構造単位で表される構造のみから構成される重合体が、エチレングリコール(以下、「EG」という。)、ジエチレングリコール(以下、「DEG」という。)、トリエチレングリコール(以下、「TrEG」という。)、テトラエチレングリコール(以下、「TtEG」という。)、グリセリン(以下、「GLY」という。)、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」という。)から選ばれる少なくとも1種類以上の溶媒に25℃において20重量%の濃度にて均一に溶解する特性を有する構造であることがより好ましい。
【0020】
更に、本発明に係る一般式(3)は、下記一般式(5)であることが好ましい。
【0021】


(式中、X〜Xはそれぞれ独立して一般式(5)中のベンゼン環に直接結合したスルホン酸基である)。
【0022】
その中でも式(10)〜(30)の構造であることが好ましい。このような構造であれば、本発明の効果をより良く得ることができる。
【0023】






【0024】
本発明に係るセグメント(A)の中の酸基の濃度は、酸基を含めたセグメント(A)全体の重量1gに対して、0.1〜20ミリモル/gの範囲であることが好ましく、0.5〜15ミリモル/gの範囲であることがより好ましく、1〜10ミリモル/gの範囲であることが更に好ましい。例えば、セグメント(A)が式(10)で表される繰り返し単位の場合、4.5ミリモル/gであり、式(11)で表される繰り返し単位の場合、5.7ミリモル/gであり、また式(12)で表される繰り返し単位の場合は、7.8ミリモル/gであり、これらは本発明において好適な例の一部として挙げることができる。
【0025】
本発明に係るセグメント(A)の大きさは、1セグメントあたりの酸基の平均数が3〜100であることが好ましく、4〜70であることがより好ましく、5〜30であることが更に好ましい。例えば、セグメント(A)が式(11)で表される繰り返し単位の場合、その平均繰り返し数は2.5〜15が好適であり、式(12)で表される繰り返し単位の場合、その平均繰り返し数は1.7〜10が好適であり、式(13)で表される繰り返し単位の場合、その平均繰り返し数は1〜5が好適な範囲である。
【0026】
本発明の重合体組成物中において、本発明に係るブロック共重合体のセグメント(A)は塩であることが好ましい。酸基を構成するイオンが、プロトン(水素イオン)のみで構成されているよりも、セグメント(A)が塩である方が、高分子電解質膜とした際のプロトン伝導性が高くなるため好ましい。酸基を含む重合体から高分子電解質膜を製造する方法としては一般に、酸基を構成するイオンがプロトン(水素イオン)の形で適切な溶媒で溶液(ワニス)を作成し、その溶液を膜状に塗布した後に溶媒を除去する方法が広く用いられているが、本発明では、例えば酸基に対応する陽イオンがプロトン(水素イオン)のみで構成されているよりも、一部あるいは全てが例えばナトリウムイオンやカリウムイオンなどの金属イオンあるいは金属原子を含む錯イオンで構成されている方が好ましい。塩を構成する陽イオンは、種々のものを用いることができるが、金属イオンあるいは金属原子を含む錯イオンであることが好ましい。金属イオンの中では、アルカリ金属イオンあるいはアルカリ土類金属イオンがより好ましく、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオンが更に好ましい。金属原子を含む錯イオンの例としては、例えば[Co(NH3+などを挙げることができる。陽イオンのうち、金属イオンあるいは金属原子を含む錯イオンが占める割合は高いほうが好ましく、金属イオンあるいは金属原子を含む錯イオンの割合が、酸基を構成する陽イオン全体に対するモル数換算で、20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。金属イオンあるいは金属原子を含む錯イオンは、一つから構成されていても良く、複数から構成されていても良い。例えば、酸基としてスルホン酸基が導入されたモノマーを原料に本発明のブロック型共重合体を製造する場合、そのモノマーのスルホン酸基はナトリウムイオン型やカリウムイオン型として重合する方法が好適に用いられるため、重合が完了したブロック共重合体は、必要に応じて溶媒や副生成物からの単離操作を行うが、そのまま酸基の陽イオンを変更することなく、本発明の重合体組成物を作成する方法などを採用することができ、その際には酸基を構成する陽イオンはナトリウムイオンとカリウムイオンが混在したものとなる。
【0027】
<セグメント(B)>
本発明に係るセグメント(B)は酸基を実質的に含有しない。酸基を実質的に含有しないとは、酸基を全く含有しないこと、および、酸基を含有するが含有量が少ないことである。
本発明に係るセグメント(B)における酸基の好ましい濃度は、酸基を含有するセグメント(A)における酸基の濃度との関連性が高く、セグメント(A)とのバランスを勘案して適宜選択できる。通常、セグメント(B)全体の重量1gに対する酸基のモル量が、セグメント(A)全体の重量1gに対する酸基のモル量の0.3倍以下が好ましく、0.2倍以下がより好ましく、0.1倍以下が更に好ましい。例えば、セグメント(A)が式(10)で表される繰り返し単位の場合、セグメント(B)全体の重量1gに対する酸基のモル量は0.45ミリモル/g以下であることが好適であり、式(11)で表される繰り返し単位の場合、0.57ミリモル/g以下であることが好適であり、また式(12)で表される繰り返し単位の場合は、0.78ミリモル/g以下であることが好ましい。
【0028】
セグメント(B)の大きさは、セグメント(A)の構造ならびに大きさと、ブロック共重合体全体の重量1gに対する酸基の全モル量を規定することにより、一義的に定まる。
本発明のセグメント(B)で表される繰り返し構造単位は、下記一般式(2)であることが好ましい。
【0029】


(式中、Ar〜Ar10はそれぞれ独立して芳香環であり、A〜Aは直接結合、−CH−、−C(CH−、−C(CF−、−O−、−S−、−SO−または−CO−でありそれぞれ独立しており、d、eおよびfはそれぞれ独立して0または1を示し、芳香環の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基又はシアノ基にそれぞれ独立して置換されていても良い)。
【0030】
本発明に係る一般式(2)は、Ar〜Ar10がそれぞれベンゼン環またはナフタレン環であり、Aが−SO−または−CO−であることがより好ましい。また、本発明に係る一般式(2)は、下記一般式(4)であることが好ましい。
【0031】


【0032】
これらの中でも、一般式(4)の繰り返し構造単位で表される構造のみから構成される重合体が、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」という。)、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」という。)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という。)、テトラヒドロフラン(以下、「THF」という。)、1,4−ジオキサン(以下、「DX」という。)、クロロホルム(以下、「CHCl3」という。)、ジクロロメタン(以下、「CH2Cl2」という。)から選ばれる少なくとも1種類以上の溶媒に、25℃において5重量%の濃度にて均一に溶解する特性を有する構造であることがより好ましい。
【0033】
更に、本発明に係る一般式(4)は、下記一般式(6)であることが好ましい。
【0034】


(芳香環の水素原子は、メチル基またはt−ブチル基で置換されていても良い)
【0035】
その中でも式(31)〜(44)の構造であることが好ましい。このような構造であれば、本発明の効果をより良く得ることができる。
【0036】

【0037】
<ブロック共重合体>
本発明に係るブロック共重合体は、セグメント(A)とセグメント(B)からなり、ブロック共重合体に含まれるそれぞれのセグメントの数は、本発明の効果が損なわれない範囲であれば特に規定されるものではないが、平均的にそれぞれ1つ以上ずつ含まれていることが好ましく、それぞれ2つ以上ずつ含まれていることがより好ましい。
本発明に係るブロック共重合体のイオン交換基当量(EW:Equivalent weight、イオン交換基すなわち酸基1モルあたりのブロック共重合体の分子量。以下、「EW」という。)は、150〜5000g/molであることが好ましく、300〜4000g/molであることがより好ましく、500〜3000g/molの範囲であることが更に好ましい。
本発明の重合体組成物中において、本発明の条件を満たす範囲であれば、セグメント(A)またはセグメント(B)の種類や長さ、酸基の種類、酸基に対応する陽イオン、EWなどが異なる複数のブロック共重合体を混合して用いても良い。
【0038】
<ブロック共重合体の製造方法>
本発明に係るブロック共重合体の製造方法には、種々の方法があり、例えば、以下のような方法をとることができる。セグメント(A)を構成するモノマーを重合してセグメント(A)を得た後に、それにセグメント(B)を構成するモノマーを重合してブロック共重合体を製造する方法、セグメント(B)を構成するモノマーを重合してセグメント(B)を得た後に、それにセグメント(A)を構成するモノマーを重合してブロック共重合体を製造する方法、あるいはセグメント(A)を構成するモノマーを重合してセグメント(A)を得て、別にセグメント(B)を構成するモノマーを重合してセグメント(B)を得て、それらを混合し、互いに重合してブロック共重合体を製造する方法、また既に重合が完了した重合体に選択的部分的に酸基を導入する方法などを好適な例として挙げることができる。
【0039】
具体的な例示として、セグメント(A)を構成するモノマーを重合してセグメント(A)を得た後に、それにセグメント(B)を構成するモノマーを混合して重合し、ブロック共重合体を製造する方法について記述する。セグメント(A)の平均繰り返し単位が所望の値となるように、セグメント(A)を構成する芳香族ジハライド化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物のモル比を1:1以外になるように混合し、適切な溶媒中で炭酸カリウムなどを共存させ、例えば140〜180℃の温度域にて脱水重縮合する。この際、生成する水を効率良く除去するために、例えばトルエンなどの共沸溶剤を用いる方法を好適に採用することもできる。またセグメント(A)を合成する際の反応溶媒としては、例えばDMSOが好適に挙げることができる。芳香族ジハライド化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物とのモル比は、例えば5:4とすることにより、セグメント(A)の平均繰り返し単位数を4.5に制御することができる。このようにして得られたセグメント(A)の分子量を35℃における還元粘度として表すと、その値はセグメント(A)の構造にも依存するが、0.02〜0.7dL/gが本発明の好適な範囲として挙げることができる。
【0040】
次いで得られたセグメント(A)と、セグメント(B)を構成する芳香族ジハライド化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物とを混合し、適切な溶媒中で炭酸カリウムなどを共存させ、例えば140〜180℃の温度域にて脱水重縮合する。この際にも、生成する水を効率良く除去するために、例えばトルエンなどの共沸溶剤を用いる方法を好適に採用することもできる。またこの工程における反応溶媒としては、例えばDMSOが好適に挙げることができるが、セグメント(B)の溶解性によっては、NMPやDMAcなどを用いたり、DMSOと混合したりすることも好適に可能である。セグメント(B)を構成する芳香族ジハライド化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物の量は、セグメント(A)を構成する芳香族ジハライド化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物の量も勘案して、全体で芳香族ジハライド化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物とが等モル量あるいはその近傍とすることにより、分子量がより高いブロック共重合体が得られ好ましい。このようにして得られたブロック共重合体の分子量を35℃における還元粘度として表すと、その値はセグメント(A)およびセグメント(B)の構造、それぞれのセグメントの長さ、その組み合わせなどにも依存するが、0.2〜4.0dL/gが好適な範囲、0.3〜2.0dL/gがより好適な範囲として挙げることができる。
【0041】
セグメント(A)を構成する芳香族ジハライド化合物およびジヒドロキシ化合物、ならびにセグメント(B)を構成する芳香族ジハライド化合物およびジヒドロキシ化合物としては、特に制限されるものではないが、代表的な具体例として以下のものを挙げることができる。セグメント(A)を構成する芳香族ジハライド化合物としては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、3,3’−ビス(スルホン酸ナトリウム)−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、3,3’−ビス(スルホン酸ナトリウム)−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ビス(3−スルホン酸ナトリウム−4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(3−スルホン酸ナトリウム−4−クロロフェニル)スルホン、3,3’−ビス(スルホン酸カリウム)−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、3,3’−ビス(スルホン酸カリウム)−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ビス(3−スルホン酸カリウム−4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(3−スルホン酸カリウム−4−クロロフェニル)スルホンなどを好適な例として挙げることができ、セグメント(A)を構成する芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2−(1,1−ジメチルエチル)フェノール)、4,4’−ビフェノール、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ハイドロキノンスルホン酸カリウム、ハイドロキノン−2,5−ジスルホン酸カリウム、ハイドロキノン−2,6−ジスルホン酸カリウムなどを好適な例として挙げることができ、セグメント(B)を構成する芳香族ジハライド化合物としては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(4−クロロフェニル)スルホンなどを好適な例として挙げることができ、セグメント(B)を構成する芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2−(1,1−ジメチルエチル)フェノール)、4,4’−ビフェノール、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノンなどを好適な例として挙げることができる。
【0042】
<混合溶媒>
本発明の重合体組成物は、混合溶媒を含み、当該混合溶媒は溶媒(C)及び溶媒(D)を含む。
【0043】
(溶媒(C))
本発明に係る溶媒(C)はセグメント(A)のみから構成される重合体(a)を良好に溶解する特徴を持ち、セグメント(B)のみから構成される重合体(b)を溶解しない特徴を併せ持つ。溶媒(C)とセグメント(A)との相互親和性は高いほど好ましく、セグメント(B)との相互親和性は低いほど好ましい。
【0044】
「セグメント(A)のみから構成される重合体(a)を良好に溶解する」とは、溶媒(C)と重合体(a)との合計量を100重量%としたとき、重合体(a)を20重量%の濃度(溶液温度25℃)で溶解して均一な溶液となることをいう。尚、ここにおいて重合体(a)は、通常は、35℃における還元粘度として表される分子量が0.2〜1.5dL/gの範囲のものを用いるが、分子量が1.5dL/gを越えるものであっても良好に溶解すれば用いることができる。重合体(a)の分子量が大きすぎる場合には、見かけ上均一な溶液にならなかったり、均一な溶液になっても粘度が非常に増して擬似的にゲル状態になることがあり、また分子量が小さい場合には見かけ上、溶解するような挙動が見られることがある。
【0045】
また、「セグメント(B)のみから構成される重合体(b)を溶解しない」とは、溶媒(C)と重合体(b)との合計量を100重量%としたとき、重合体(b)を20重量%の濃度(溶液温度25℃)で溶解して均一な溶液とすることができない、あるいは溶液がゲル状態となることである。好ましくは溶媒(C)の沸点より30℃低い温度において20重量%の濃度で均一に溶解できない、あるいはゲル状態となることであり、より好ましくは溶媒の沸点より30℃低い温度において15重量%の濃度で均一に溶解できない、あるいはゲル状態となることである。尚、ここにおいて重合体(b)は、通常は、35℃における還元粘度として表される分子量が0.2〜1.5dL/gの範囲のものを用いるが、分子量が0.2dL/g未満ものでも前述の条件にて均一に溶解できない、あるいはゲル状態となるようであれば、用いることができる。
このように、溶媒(C)はセグメント(A)とセグメント(B)に対して、相反する溶解性を併せ持つことが必要であり、この特性が本発明を効果的に発現させるために重要と考えられる。
【0046】
本発明に係る溶媒(C)は、種々のものを用いることができ、例えば、EG(沸点198℃)、DEG(沸点246℃)、TrEG(沸点285℃)、TtEG(沸点327℃)、GLY(沸点291℃)、DMSO(沸点189℃)及び水など、金属イオンとの親和性が高い溶媒を好適な例として挙げることができる。溶媒の種類の数に制限は特になく、一種類または二種類以上の溶媒を用いても良い。
具体的には、セグメント(A)で表される繰り返し構造単位が前記一般式(3)のみからなる重合体は、EG、DEG、TEG、TtEG、GLY及びDMSOから選ばれる少なくとも1種類以上の溶媒に25℃において20重量%の濃度にて均一に溶解するものを好適に用いることができる。
【0047】
(溶媒(D))
本発明に係る溶媒(D)は、セグメント(B)のみから構成される重合体(b)を良好に溶解する特徴を持つ。
【0048】
「セグメント(B)のみから構成される重合体(b)を良好に溶解する」とは、溶媒(D)と重合体(b)との合計量を100重量%としたとき、重合体(b)を5重量%の濃度(溶液温度25℃)で溶解して均一な溶液となることをいい、好ましくは10重量%、より好ましくは15重量%、更に好ましくは20重量%の濃度で均一に溶解できる状態のことである。尚、ここにおいて重合体(b)は、通常は、35℃における還元粘度として表される分子量が0.2〜1.5dL/gの範囲のものを用いるが、分子量が1.5dL/gを越えるものであっても良好に溶解すれば用いることができる。重合体(b)の分子量が大きすぎる場合には、見かけ上均一な溶液にならなかったり、均一な溶液になっても粘度が非常に増して擬似的にゲル状態になることがある。また分子量が小さい場合には見かけ上、溶解するような挙動が見られることがある。
【0049】
セグメント(A)のみから構成される重合体(a)に対する溶媒(D)の溶解性は、特に制限されるものではないが、低い方が好ましい。より具体的には、溶媒(D)と重合体(a)との合計量を100重量%としたとき、重合体(a)を20重量%の濃度(溶液温度25℃)で溶解して均一な溶液とすることができない、あるいは溶液がゲル状態となることが好ましく、溶媒(C)の沸点より30℃低い温度において20重量%の濃度で均一に溶解できない、あるいはゲル状態となることがより好ましく、溶媒の沸点より30℃低い温度において15重量%の濃度で均一に溶解できない、あるいはゲル状態となることが更に好ましい。尚、ここにおいて重合体(a)は、通常は、35℃における還元粘度として表される分子量が0.2〜1.5dL/gの範囲のものを用いるが、分子量が0.2dL/g未満ものでも前述の条件にて均一に溶解できない、あるいはゲル状態となるようであれば、好適な例として挙げることができる。
【0050】
本発明に係る溶媒(D)は、種々のものを用いることができ、例えば、NMP(沸点202℃)、DMAc(沸点166℃)、DMF(沸点153℃)、THF(沸点66℃)、DX(沸点101℃)、CHCl3(沸点61℃)及びCH2Cl2(沸点40℃)など、芳香族ポリエーテルとの親和性が高い溶媒を好適な例として挙げることができる。溶媒の種類の数に制限は特になく、一種類または二種類以上の溶媒を用いても良い。
具体的には、セグメント(B)で表される繰り返し構造単位が前記一般式(4)のみからなる重合体は、NMP、DMAc、DMF、THF、DX、CHCl3及びCH2Cl2から選ばれる少なくとも1種類以上の溶媒に25℃において5重量%の濃度にて均一に溶解するものを好適に用いることができる。
【0051】
(混合溶媒)
本発明に係る混合溶媒は、前記溶媒(C)と前記溶媒(D)とからなる。
溶媒(C)はセグメント(A)との相互親和性は高いほど好ましく、セグメント(B)との相互親和性は低いほど好ましい。この相互親和性は、本発明の重合体組成物から加熱などにより溶媒を除去して高分子電解質膜を形成させる過程において、電解質膜内に形成されるセグメント(A)とセグメント(B)の相分離構造に大きく寄与するものと考えられる。プロトンなどのイオンの伝導性は、相分離構造が大きく影響することが考えられる。相分離構造とは特に、セグメント(A)が分子レベルにおいて連続的で貫通したイオンが伝導する道筋を多く持ち、この道筋が多岐に渡って枝分かれし、且つ、効率よく網目状に連続性を持って結合した状態であり、セグメント(B)とは分離して存在する状態が好ましい。このような相分離構造を形成するために、溶媒(C)のブロック共重合体に対する溶解特性が重要な役割を果たしていると考えられる。すなわち、溶媒(C)中においてブロック共重合体は、セグメント(B)同士が貧溶解性から凝集する傾向にある一方で、セグメント(A)は溶媒(C)との高い親和性により凝集せずに全体に広がりを持った状態となることが推察される。この状態を維持したまま溶媒(C)が例えば加熱などにより揮発して除去されていくと、セグメント(A)が上述のような理想的な相分離構造となり、本発明の効果が発現するものと推察される。この際、セグメント(B)は、高分子電解質膜全体の主に物理的機械的特性を担う部分となるため、その相分離構造は独立した島状よりもむしろ、ある程度網目状に三次元的にネットワークを形成するような構造であることが好ましいと推察される。これは島状の構造となると、例えば水に浸漬した時や湿度が高い時などの水分が多い条件においてセグメント(A)が吸水した際に、膜の膨潤を抑制する効果が小さくなるためである。すなわち、セグメント(A)からなる網目とセグメント(B)からなる網目とが、お互いに入り組んだ状態が好ましい。
【0052】
前記ブロック共重合体は、溶媒(C)または溶媒(D)のみでは、均一に溶解しなかったり、重合体組成物がゲル状態になるなど均質な粘性のある溶液(ワニス)にならない虞れがある。そのため、前記溶媒(C)と溶媒(D)を含む混合溶媒を用いる。溶媒(D)を用いれば、前記重合体組成物を均一に溶解し粘性のある溶液とすることができ、高分子電解質膜を製造する際に取り扱いやすくなる。溶媒(D)は、沸点が溶媒(C)よりも低いため、高分子電解質膜を製造する際に先に重合体組成物から消失し、その後に前述のように溶媒(C)とブロック共重合体との相互作用により、本発明の効果が発現するような高分子電解質膜を形成していくと考えられる。
【0053】
溶媒(C)の沸点は、溶媒(D)の沸点よりも高い。溶媒(C)の沸点は溶媒(D)の沸点よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましく、30℃以上高いことが更に好ましい。混合溶媒は、溶媒(C)および溶媒(D)を、種々の組み合わせで用いることがでる。それぞれ一種類の溶媒であっても、どちらかの溶媒または両方の溶媒が二種類以上であっても良い。二種類以上の溶媒を組み合わせる場合は、溶媒(C)中で最も沸点が高い溶媒の沸点が、溶媒(D)の中で最も沸点が低い溶媒の沸点より高いことが好ましい。
【0054】
溶媒(C)と溶媒(D)の組み合わせとしては、上述の条件を満たすものであれば特に制限されるものではなく、ブロック共重合体のセグメント(A)およびセグメント(B)構造や溶媒に対する溶解性、酸基に対応する陽イオンの種類、各セグメントの長さ、両セグメントの比などによって適宜選択できる。代表的な具体例として以下のものを挙げることができる。EGとDMAc、EGとDMF、EGとTHF、EGとDX、DEGとNMP、DEGとDMAc、DEGとDMF、DEGとTHF、DEGとDX、DMSOとDMAc、DMSOとDMF、DMSOとTHF、DMSOとDX、DMSOとCHCl3、DMSOとCH2Cl2、水とTHFを好適な例として挙げることができ、その中でも、EGとDMAc、EGとDMF、EGとTHF、EGとDX、DMSOとDMAc、DMSOとDMF、DMSOとTHF、DMSOとDX、DMSOとCHCl3、DMSOとCH2Cl2の組み合わせが好ましい。
なお、例えばメタノールやエタノール、シクロヘキサノール等のモノオールなどは、金属イオンとの親和性が高い溶媒ではないため、本発明の溶媒(C)としては通常好適な溶媒ではない。
【0055】
本発明に係る混合溶媒の溶媒(C)および溶媒(D)の混合比率は、特に限定されるものではなく、重合体組成物が、ブロック共重合体が溶媒に均一に溶解し粘性のある溶液(すなわちワニス)となる混合比の範囲から適宜選択することができる。通常は溶媒(C)と溶媒(D)のみで均一に混合させることが出来る比率を選択するが、溶媒(C)と溶媒(D)のみでは均一に混合しない比率であっても、本発明のブロック共重合重合体が共存することによって均一な重合体組成物を形成する場合には、当該比率も好適に用いることができる。
【0056】
溶媒(C)および溶媒(D)の最適な混合比率は、重合体組成物の粘性を勘案して選定するのが好ましい。本発明においては、全般的には、溶媒(C)の占める割合が高い方が本発明の効果がより高く発現する傾向にあり、全てに該当するわけではないが、溶媒(C)と溶媒(D)の全体に対する溶媒(C)の割合が50重量%あるいは75重量%といった溶媒(C)の割合が高い条件も好適に採用することができる。
【0057】
例えば、重合体組成物100重量%に対して、ブロック共重合体を5〜30重量%の濃度で溶解を試みた場合、ブロック共重合体の分子量にも影響されるが、重合体組成物は一般にゲル状態や膨潤状態、あるいは、ブロック共重合体の全てまたは一部が不溶の状態となる。これは、本発明に係るブロック共重合体は溶媒(C)に対して良溶解性のセグメント(A)と貧溶解性のセグメント(B)の両方を併せ持っているため、通常は溶媒(C)のみには溶解しにくいと考えられる。この状態からブロック共重合体の濃度を変えずに溶媒(D)の混合比を増大させていくと、通常はある範囲で粘性のある溶液状態(ワニス)となる。さらに溶媒(D)の割合を増大させると、ブロック共重合体の分子量にも影響されるが、一般に重合体組成物が再度ゲル状態や膨潤状態、あるいは、ブロック共重合体の全てまたは一部が不溶の状態となる。この粘性のある溶液状態(ワニス)となる範囲は、セグメント(A)およびセグメント(B)の構造、その大きさ、それらの比、ブロック共重合体全体のEW、酸基に対応する陽イオンの種類、溶媒(C)および溶媒(D)の種類などに依存することが多い。また、溶媒(C)と溶媒(D)との溶媒同士の親和性にも依存することがある。
【0058】
例えば、同一のブロック共重合体であっても、溶媒(C)および溶媒(D)の種類によっては、粘性のある溶液状態(ワニス)となる組成は異なる場合があり、セグメント(A)およびセグメント(B)の構造が同じで、用いる溶媒(C)および溶媒(D)も同じでも、セグメント(A)およびセグメント(B)の大きさ(すなわち繰り返し単位の数)、EWによって、粘性のある溶液状態(ワニス)となる組成は異なる場合がある。またブロック共重合体全体のEW、セグメント(B)の構造、用いる溶媒(C)および溶媒(D)が同じでも、セグメント(A)の酸基の濃度によって、粘性のある溶液状態(ワニス)となる組成が異なる場合がある。一般的には、例えばEWが低くなるにつれて(重合体中の全体の酸基量が増すにつれて)溶媒(C)の割合が増大する傾向にあり、セグメント(A)における酸基の濃度が高くなるにつれて溶媒(C)の割合が増大する傾向にあり、溶媒(C)とセグメント(A)の親和性が高いほど、また溶媒(D)とセグメント(B)の親和性が高いほど溶媒(C)の割合が増大する傾向にある。
【0059】
<重合体組成物に含まれる他の物質>
本発明の重合体組成物は、用途に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、種々公知の化合物を含んでいても良い。例えば、他の高分子重合体、低分子化合物、無機物、溶媒、添加剤などを含んでいても良い。具体的には、電気伝導性を有する導電材、水素の酸化反応や酸素の還元反応を促進する触媒、電気伝導性を持たない酸化物や樹脂などのフィラーを挙げることができる。
【0060】
[重合体組成物の製造方法]
本発明の重合体組成物の製造方法は、種々の方法をとることができ、例えば、ブロック共重合体、溶媒(C)ならびに溶媒(D)を同一容器内で攪拌し、溶解させるなどの操作により製造できる。この際、溶解を促進させるために必要に応じて加熱や超音波付与などの操作を行っても良い。
【0061】
[高分子電解質膜]
本発明に係る高分子電解質膜は、前記の重合体組成物を用いてなる。本発明の高分子電解質膜は、水分が多い環境での吸水膨潤が少ないため寸法安定性を有し、また高いプロトン伝導性、特に相対湿度20〜40%程度の低湿度条件下での高いプロトン伝導性を兼ね備えた高分子電解質膜である。通常は、フィルム状またはシート状である。
本発明の高分子電解質膜は、吸水および膨潤が少なく寸法安定性が良く、併せて低湿度条件下でのプロトン伝導性が良好である。これは本発明の重合体組成物が、ブロック共重合体に対して特定の性質の混合溶媒を含んでいるため、高分子電解質膜の核となるブロック共重合体酸基部分を、低湿度条件下でのプロトン伝導性の発現に効率よく寄与できるような分子レベルでの立体的配置を自己組織的に施すことができるためと推察され、ブロック共重合体の潜在的な能力を十分に引き出すことができるためであると考えられる。水分が多い環境における吸水膨潤による寸法安定性は、酸基の立体的配置には実質的に関連性が低く、酸基の量自体に主に関連する。水分が多い環境における吸水膨潤による寸法安定性と、低湿度条件下での高いプロトン伝導性発現との両立のためには、酸基を増やすことなくプロトン伝導性を高めることが必要であるが、従来技術では両者を同時に満たすことは困難であった(トレードオフ)と考えられていた。本発明の高分子電解質膜は、従来より抱えていたこのような課題を打破した材料である。
【0062】
本発明の高分子電解質膜のEW(イオン交換基すなわち酸基1モルあたりの分子量)は、150〜5000g/molであることが好ましく、300〜4000g/molであることがより好ましく、500〜3000g/molの範囲であることが更に好ましい。
【0063】
本発明の高分子電解質膜は、構成するブロック共重合体の構造やEWなどに依存するが、例示すると、EWが約1000〜1200g/molの場合、減圧乾燥した後に室温で24時間蒸留水に浸漬させた際の膜の体積膨潤率は15〜30体積%と低く、寸法安定性に優れる一方、80℃、相対湿度20%の低湿度条件でのプロトン伝導度は0.05〜0.5mS/cm、相対湿度40%では1〜5mS/cmと高い伝導度を発現する。またEWが約600〜700の場合、室温で24時間蒸留水に浸漬させた際の膜の体積膨潤率は50〜80体積%である一方、80℃、相対湿度20%の低湿度条件でのプロトン伝導度は0.2〜0.8mS/cm、相対湿度40%では3〜8mS/cmと高い伝導度を発現する。
【0064】
本発明の高分子電解質膜は、種々の用途に用いることができ、例えば、電気デバイス用の膜として用いることができ、燃料電池用に用いることができる。例えば電池中などにおいては、膜単体の自立膜のみならず、基材、電極膜や他の高分子電解質膜などに密着した塗膜などとして用いることができる。高分子電解質膜の厚さには特に制限はないが、自立膜である場合には5〜300μm、塗膜である場合には0.1〜200μmが好適な範囲として挙げることができる。本発明の高分子電解質膜には、電気伝導性を有する導電材、水素の酸化反応、酸素の還元反応を促進する触媒などと複合されていても良い。また、電気伝導性を持たない酸化物や樹脂などのフィラーが含まれていても良い。
【0065】
[高分子電解質膜の製造方法]
本発明の高分子電解質膜の製造方法は種々の方法をとることができるが、例えば、重合体組成物を基板上に塗布して膜状物にし、次いで膜状物を加熱して溶媒を除去する方法が、好適な方法として挙げることができる。重合体組成物を塗布する基板は特に限定されないが、例えば基板上に形成した膜を剥離して用いる場合には、基板から高分子電解質膜を剥離することが容易なものが好ましく、例えば、ガラスや石英などの無機物や無機酸化物、銅、金又はアルミニウムなどの金属、及びそれら金属の酸化物、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンなどの樹脂類などを好適な例として挙げることができる。必要に応じて、重合体組成物を塗布する前に予め基板に表面処理などを施しても良い。重合体組成物を基板に塗布する方法も特に限定されるものではなく、バーコート法、スピンコート法などを挙げることができる。重合体組成物を塗布する厚さは、重合体組成物中のブロック共重合体の濃度や高分子電解質膜の厚さの目標値などによって選択できるが、通常は0.01mm〜10mmの範囲である。
【0066】
塗布する際の温度も特に規定されるものではないが、溶媒(C)および溶媒(D)、重合体組成物に含まれる他の揮発性を有する物質の沸点などを勘案し、例えば−20〜100℃程度が好適な範囲として例示することができる。作業効率性などから、10〜40℃程度の領域が選択されることが一般的である。溶媒(C)や溶媒(D)の沸点に比べて温度が高い条件では、均一に塗布することが通常容易でないため、これらの沸点よりも低い温度条件から選択することが一般的に好適である。
【0067】
塗布した膜を加熱し、溶媒を除去する際の条件も特に制限されるものではないが、溶媒(C)および溶媒(D)の沸点に対して低すぎる場合には、溶媒が十分に除去されず本発明の効果が十分に発現しない場合がある。加熱温度は、通常は溶媒(C)の沸点よりも150℃低い温度よりも高い温度であることが好ましく、100℃低い温度よりも高い温度であることがより好ましく、80℃低い温度よりも高い温度であることが更に好ましく、50℃低い温度よりも高い温度であることが特に好ましい。例えば溶媒(C)としてEGを用いた場合には、48℃以上が好ましく、98℃以上がより好ましく、118℃以上が更に好ましく、148℃以上であることが特に好ましい。本発明の効果が損なわれない範囲であれば、加熱温度が溶媒(C)の沸点よりも高い温度も好適に用いることができる。なお、重合体組成物中におけるブロック共重合体の酸基に対応する陽イオンの一部または全てが水素イオン(プロトン)の場合、加熱条件によってはブロック重合体が変性したり劣化したりすることがある。加熱温度の設定は、このような変性や劣化が起こらない範囲から選定する必要はある。溶媒(C)を二種類以上用いるときには、それらの沸点や混合の割合などにも影響されるが、溶媒(C)の中で沸点が高い溶媒の沸点を基準、もしくは最も割合の高い成分の沸点を基準にして設定される温度が通常好ましい。
加熱時間も限定されるものではないが、1分から10時間の範囲が好ましい条件の一例として例示できる。
【0068】
重合体組成物を基板上に膜状に塗布し、次いで加熱して溶媒を除去することにより高分子電解質膜を作成した後、その高分子電解質膜を酸性溶液に浸漬させる方法を、好適な手法として挙げることができる。これは、重合体組成物中のブロック共重合体の酸基に対応する陽イオンとして金属イオンあるいは金属原子を含む錯イオンを用いた場合、プロトンなどのイオン伝導性をより発現させるために対応する陽イオンをプロトン(水素イオン)とするためである。その方法は特に限定されるものではないが、例えば0.1〜5Nの濃度の十分な量の強酸水溶液に高分子電解質膜を1分〜240時間浸漬させる方法を好適な例として挙げることができる。必要に応じて、複数回数浸漬させても良い。強酸水溶液としては、例えば硫酸水溶液、塩酸水溶液、リン酸水溶液、硝酸水溶液などを例示できる。
【0069】
[燃料電池]
本発明の燃料電池は、前記の高分子電解質膜を用いてなる。燃料電池としては、種々公知のものが挙げられ、例えば燃料源として水素、炭化水素またはメタノールなどを用いる燃料電池が挙げられる。本発明の燃料電池は、水分が多い環境における吸水膨潤が少なく寸法安定性があり、特に相対湿度20〜40%程度の低湿度条件下でのプロトン伝導性が高い高分子電解質膜を用いているため、広範な湿度条件において安定的に効率良く発電することができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。尚、室温とは25℃を示す。
【0071】
実施例中の各種試験の試験方法は次に示すとおりである。
(1)還元粘度(ηinh)[dL/g]
重合体0.10gを所定の溶媒20mLに溶解したのち、35℃において、ウベローデ粘度計で測定した。
(2)イオン交換基当量(EW:スルホン酸基1モル当たりの重量[g/mol])
重合体または高分子電解質膜(厚さ約30〜60μm程度)を約50mg分取し、減圧下100℃で2時間乾燥させた後に精秤して、密閉容器中に入れ、そこに過剰量の塩化ナトリウム水溶液を添加して一晩放置した。発生した塩化水素を0.01N水酸化ナトリウム標準水溶液にてフェノールフタレイン指示薬を用いて滴定し、EWを算出した。
(3)体積膨潤率[%]
高分子電解質膜(厚さ約30〜60μm)を縦横約30mm×30mmに切り取り、減圧下100℃で2時間乾燥させた後に、膜の縦、横および厚さを精密に測定する。その膜を室温で24時間蒸留水に浸漬させ、水分を吸収した膜の縦、横および厚さを精密に測定する。蒸留水に浸漬させた前後の縦、横および厚さの値より体積膨潤率を算出した。なお、数値は膨潤した分を表す。例えば、蒸留水浸漬前を基準にして浸漬後の縦、横の長さ、厚さがそれぞれ、110%、110%、120%の場合、体積膨潤率は45%と算出される。
(4)プロトン伝導度[S/cm]
高分子電解質膜(厚さ約30〜60μm)を幅約5mm、長さ約50mmに切り取り、減圧下100℃で2時間乾燥させた後に、膜の幅および厚さを精密に測定した。高分子電解質膜を、PTFE製ホルダー上に設置し、4本の電極を圧接し、4端子法の交流インピーダンス法で求まる円弧から抵抗率を測定し、伝導度に換算した。電圧端子間は16.3mmとした。インピーダンスの測定は、LCRメーター(日置電機社製3532)を用いた。高分子電解質膜および電極端子を含めたPTFE製ホルダーは、アルミブロック製の恒温恒湿槽に設置され、恒温恒湿槽内の温度はアルミブロックの加熱により、また湿度は所定濃度の水蒸気を含有する空気を常圧にて恒温恒湿槽に送入することにより、一定温度および一定湿度を維持した。槽内の実温度および実湿度は、Rotronic社製露点計により測定した。なお、本方法において精密に測定が可能な下限値は0.01mS/cmであり、0.01mS/cm未満の値が得られた場合、あるいは伝導度が低いために実質的に測定が出来なかった場合には、本発明においては測定限界以下と記す。
【0072】
尚、以下、化合物名は、以下のように記載する。
DMSO:ジメチルスルホキシド
EG:エチレングリコール
DEG:ジエチレングリコール
TrEG:トリエチレングリコール
GLY:グリセリン
THF:テトラヒドロフラン
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
CHCl3:クロロホルム
CH2Cl2:ジクロロメタン
【0073】
<重合体の作成>
以下のようにして重合体を得た。
(合成例1)重合体Aの作成
窒素導入管、温度計、分液器を備えた冷却器、及び撹拌装置を備えたフラスコに、3,3’−ビス(スルホン酸ナトリウム)−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン12.669g(0.03mol)、ハイドロキノンスルホン酸カリウム6.848g(0.03mol)および無水炭酸カリウム4.98g(0.036mol)を、窒素ボックス内で精秤した。これにDMSO73gおよびトルエン25gを加え、窒素ガスを通じ撹拌した状態で、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行った。この際、留出する水は分液器より回収した。反応マスを室温まで冷やしてジメチルスルホキシドで適宜希釈した後、加圧濾過により固形分を除去した。この濾液を、ホモミキサーを用いてトルエン中に再沈殿させ、濾別した後に80℃で12時間、さらに150℃で8時間、窒素気流中にて乾燥させた。これによりスルホン酸基を有する部分のみから成る重合体A(15.4g、収率84%、還元粘度1.81dL/g(DMSO溶媒)、スルホン酸基部分はナトリウム塩型とカリウム塩型の混合)を得た。
【0074】
(合成例2)重合体Bの作成
合成例1において、ハイドロキノンスルホン酸カリウム6.848g(0.03mol)の代わりにレゾルシノール3.303g(0.03mol)を用いた以外は、合成例1と同様にして重合体B(12.5g、収率85%、還元粘度0.98dL/g(DMSO溶媒)、スルホン酸基部分はナトリウム塩型とカリウム塩型の混合)を得た。
【0075】
(合成例3)重合体Cの作成
窒素導入管、温度計、分液器を備えた冷却器、及び撹拌装置を備えたフラスコに、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン10.910g(0.05mol)、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン16.812g(0.05mol)および無水炭酸カリウム8.29g(0.06mol)を、窒素ボックス内で精秤した。これにDMAc160gおよびトルエン30gを加え、窒素ガスを通じ撹拌した状態で、140〜150℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、さらにトルエンを抜いて160℃で30時間、重合反応を行った。この際、留出する水は分液器より回収した。反応マスを室温まで冷やしてDMAcで適宜希釈した後、ホモミキサーを用いてメタノール中に再沈殿させた。濾別した後に蒸留水中で攪拌洗浄し、再度濾別した後に80℃で12時間、さらに150℃で8時間、窒素気流中にて乾燥させた。これによりスルホン酸基を有さない重合体C(22.5g、収率88%、還元粘度1.30dL/g(NMP溶媒))を得た。
【0076】
(合成例4)重合体Dの作成
窒素導入管、温度計、分液器を備えた冷却器、及び撹拌装置を備えたフラスコに、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン12.713g(0.05mol)、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン16.812g(0.05mol)および無水炭酸カリウム8.29g(0.06mol)を、窒素ボックス内で精秤した。これにNMP100gおよびトルエン30gを加え、窒素ガスを通じ撹拌した状態で、140〜150℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、さらにトルエンを抜いて160℃で6時間、重合反応を行った。この際、留出する水は分液器より回収した。反応マスを室温まで冷やしてNMPで適宜希釈した後、ホモミキサーを用いてメタノール中に再沈殿させた。濾別した後に蒸留水中で攪拌洗浄し、再度濾別した後に80℃で12時間、さらに150℃で8時間、窒素気流中にて乾燥させた。これによりスルホン酸基を有さない重合体D(23.9g、収率92%、還元粘度0.69dL/g(NMP溶媒))を得た。
【0077】
(合成例5)重合体Eの作成
窒素導入管、温度計、分液器を備えた冷却器、及び撹拌装置を備えたフラスコに、3,3’−ビス(スルホン酸ナトリウム)−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン13.936g(0.033mol)、ハイドロキノンスルホン酸カリウム6.026g(0.0264mol)および無水炭酸カリウム4.38g(0.03168mol)を、窒素ボックス内で精秤した。これにDMSO120gおよびトルエン30gを加え、窒素ガスを通じ撹拌しながら、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行い、最後はトルエンを留去した。この際、留出する水は分液器より回収した。これにより、スルホン酸基を有するセグメントの平均繰り返し単位数が4.5となるオリゴマー(還元粘度0.15dL/g(DMSO溶媒))を得た。
次に、当該オリゴマーに、スルホン酸基を有しないセグメント部分を結合させてブロック共重合体Eを合成するために、窒素ボックス内で精秤した4,4’−ジフルオロベンゾフェノン14.325g(0.06565mol)、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン24.281g(0.07222mol)および無水炭酸カリウム12.0g(0.08666mol)を、反応マスに追加した。これにDMSO90gおよびトルエン40gを加え、窒素ガスを通じ撹拌した状態で、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行った。この際、留出する水は分液器より回収した。続いてトルエンを留去し、NMP100gを加え、160℃で10時間、引き続き重合反応を行った。反応マスを室温まで冷やしてDMSOおよびNMPで適宜希釈した後、ホモミキサーを用いてメタノール中に再沈殿させ、濾別した後に蒸留水中で攪拌洗浄し、再度濾別した後に80℃で12時間、さらに150℃で8時間、窒素気流中にて乾燥させた。これによりブロック共重合体E(43.0g、収率79%、還元粘度1.07dL/g(DMSOとNMPの混合溶媒(体積比1:1))、スルホン酸基部分はナトリウム塩型とカリウム塩型の混合)を得た。
【0078】
(合成例6)重合体Fの作成
窒素導入管、温度計、分液器を備えた冷却器、及び撹拌装置を備えたフラスコに、3,3’−ビス(スルホン酸ナトリウム)−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン10.946g(0.02592mol)、ハイドロキノンスルホン酸カリウム5.177g(0.02268mol)および無水炭酸カリウム3.76g(0.02722mol)を、窒素ボックス内で精秤した。これにDMSO60gおよびトルエン20gを加え、窒素ガスを通じ撹拌しながら、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行い、最後はトルエンを留去した。この際、留出する水は分液器より回収した。これにより、スルホン酸基を有するセグメントの平均繰り返し単位数が7.5となるオリゴマー(還元粘度0.22dL/g(DMSO溶媒))を得た。
次に、当該オリゴマーに、スルホン酸基を有しないセグメント部分を結合させてブロック共重合体Fを合成するために、窒素ボックス内で精秤した4,4’−ジフルオロベンゾフェノン11.939g(0.05472mol)、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン19.480g(0.05794mol)および無水炭酸カリウム9.67g(0.06998mol)を、反応マスに追加した。これにDMSO120gおよびトルエン40gを加え、窒素ガスを通じ撹拌した状態で、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行った。この際、留出する水は分液器より回収した。続いてトルエンを留去し、NMP100gを加え、160℃で10時間、引き続き重合反応を行った。反応マスを室温まで冷やしてDMSOおよびNMPで適宜希釈した後、ホモミキサーを用いてメタノール中に再沈殿させ、濾別した後に蒸留水中で攪拌洗浄し、再度濾別した後に80℃で12時間、さらに150℃で8時間、窒素気流中にて乾燥させた。得られたブロック共重合体F(24.4g、収率55%、還元粘度0.69dL/g(DMSOとNMPの混合溶媒(体積比1:1))、スルホン酸基部分はナトリウム塩型とカリウム塩型の混合)を得た。
【0079】
(合成例7)重合体Gの作成
窒素導入管、温度計、分液器を備えた冷却器、及び撹拌装置を備えたフラスコに、3,3’−ビス(スルホン酸ナトリウム)−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン9.291g(0.022mol)、ハイドロキノンスルホン酸カリウム4.018g(0.0176mol)および無水炭酸カリウム2.92g(0.02112mol)を、窒素ボックス内で精秤した。これにDMSO80gおよびトルエン20gを加え、窒素ガスを通じ撹拌しながら、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行い、最後はトルエンを留去した。この際、留出する水は分液器より回収した。これにより、スルホン酸基を有するセグメントの平均繰り返し単位数が4.5となるオリゴマー(還元粘度0.15dL/g(DMSO溶媒))を得た。
次に、当該オリゴマーに、スルホン酸基を有しないセグメント部分を結合させてブロック共重合体Gを合成するために、窒素ボックス内で精秤した4,4’−ジフルオロベンゾフェノン16.668g(0.07639mol)、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン27.153g(0.08076mol)および無水炭酸カリウム13.5g(0.09768mol)を、反応マスに追加した。これにDMSO120gおよびトルエン40gを加え、窒素ガスを通じ撹拌した状態で、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行った。この際、留出する水は分液器より回収した。続いてトルエンを留去し、NMP100gを加え、160℃で10時間、引き続き重合反応を行った。反応マスを室温まで冷やしてDMSOおよびNMPで適宜希釈した後、ホモミキサーを用いてメタノール中に再沈殿させ、濾別した後に蒸留水中で攪拌洗浄し、再度濾別した後に80℃で12時間、さらに150℃で8時間、窒素気流中にて乾燥させ、ブロック共重合体G(42.0g、収率79%、還元粘度0.73dL/g(DMSOとNMPの混合溶媒(体積比1:1))、スルホン酸基部分はナトリウム塩型とカリウム塩型の混合)を得た。
【0080】
(合成例8)重合体Hの作成
ランダム共重合体を合成するため、窒素導入管、温度計、分液器を備えた冷却器、及び撹拌装置を備えたフラスコに、4種のモノマーすなわち3,3’−ビス(スルホン酸ナトリウム)−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン6.757g(0.016mol)、ハイドロキノンスルホン酸カリウム2.922g(0.0128mol)、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン12.219g(0.056mol)、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン19.905g(0.0592mol)および無水炭酸カリウム11.94g(0.0864mol)を、窒素ボックス内で精秤した。なお、この4種のモノマーの各分量は、合成例7にてブロック共重合体Gを合成する際の各分量と同等である。これにDMSO140gおよびトルエン35gを加え、窒素ガスを通じ撹拌した状態で、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行った。この際、留出する水は分液器より回収した。続いてトルエンを留去し、NMP100gを加え、160℃で10時間、引き続き重合反応を行った。反応マスを室温まで冷やしてDMSOおよびNMPで適宜希釈した後、ホモミキサーを用いてメタノール中に再沈殿させ、濾別した後に蒸留水中で攪拌洗浄し、再度濾別した後に80℃で12時間、さらに150℃で8時間、窒素気流中にて乾燥させた。これにより、ランダム共重合体H(31.2g、収率81%、還元粘度1.52dL/g(DMSOとNMPの混合溶媒(体積比1:1))、スルホン酸基部分はナトリウム塩型とカリウム塩型の混合)を得た。
【0081】
(合成例9)重合体Iの作成
窒素導入管、温度計、分液器を備えた冷却器、及び撹拌装置を備えたフラスコに、3,3’−ビス(スルホン酸ナトリウム)−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン14.595g(0.03456mol)、レゾルシノール3.330g(0.03024mol)および無水炭酸カリウム5.02g(0.03629mol)を、窒素ボックス内で精秤した。これにDMSO66gおよびトルエン20gを加え、窒素ガスを通じ撹拌した状態で、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行い、最後はトルエンを留去した。この際、留出する水は分液器より回収した。これにより、スルホン酸基を有するセグメントの平均繰り返し単位数が7.5となるオリゴマー(還元粘度0.23dL/g(DMSO溶媒))を得た。
次に、当該オリゴマーに、スルホン酸基を有しないセグメント部分を結合させてブロック共重合体Iを合成するために、窒素ボックス内で精秤した4,4’−ジフルオロベンゾフェノン10.072g(0.04616mol)、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン16.965g(0.05046mol)および無水炭酸カリウム8.42g(0.06091mol)を、反応マスに追加した。これにDMSO110gおよびトルエン50gを加え、窒素ガスを通じ撹拌した状態で、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行った。この際、留出する水は分液器より回収した。続いてトルエンを留去し、NMP100gを加え、160℃で10時間、引き続き重合反応を行った。反応マスを室温まで冷やしてDMSOおよびNMPで適宜希釈した後、ホモミキサーを用いてメタノール中に再沈殿させ、濾別した後に蒸留水中で攪拌洗浄し、再度濾別した後に80℃で12時間、さらに150℃で8時間、窒素気流中にて乾燥させた。これにより、ブロック共重合体I(32.3g、収率78%、還元粘度1.44dL/g(DMSOとNMPの混合溶媒(体積比1:1))、スルホン酸基部分はナトリウム塩型とカリウム塩型の混合)を得た。
【0082】
(合成例10)重合体Jの作成
窒素導入管、温度計、分液器を備えた冷却器、及び撹拌装置を備えたフラスコに、3,3’−ビス(スルホン酸ナトリウム)−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン11.824g(0.028mol)、レゾルシノール2.466g(0.0224mol)および無水炭酸カリウム3.72g(0.02688mol)を、窒素ボックス内で精秤した。これにDMSO54gおよびトルエン20gを加え、窒素ガスを通じ撹拌しながら、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行い、最後はトルエンを留去した。この際、留出する水は分液器より回収した。これにより、スルホン酸基を有するセグメントの平均繰り返し単位数が4.5となるオリゴマー(還元粘度0.15dL/g(DMSO溶媒))を得た。
次に、当該オリゴマーに、スルホン酸基を有しないセグメント部分を結合させてブロック共重合体Jを合成するために、窒素ボックス内で精秤した4,4’−ジフルオロベンゾフェノン7.580g(0.03474mol)、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン13.549g(0.04030mol)および無水炭酸カリウム6.73g(0.04872mol)を、反応マスに追加した。これにDMSO110gおよびトルエン50gを加え、窒素ガスを通じ撹拌した状態で、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行った。この際、留出する水は分液器より回収した。続いてトルエンを留去し、NMP100gを加え、160℃で10時間、引き続き重合反応を行った。反応マスを室温まで冷やしてDMSOおよびNMPで適宜希釈した後、ホモミキサーを用いてメタノール中に再沈殿させ、濾別した後に蒸留水中で攪拌洗浄し、再度濾別した後に80℃で12時間、さらに150℃で8時間、窒素気流中にて乾燥させた。これにより、ブロック共重合体J(22.1g、収率67%、還元粘度1.73dL/g(DMSOとNMPの混合溶媒(体積比1:1))、スルホン酸基部分はナトリウム塩型とカリウム塩型の混合)を得た。
【0083】
(合成例11)重合体Kの作成
窒素導入管、温度計、分液器を備えた冷却器、及び撹拌装置を備えたフラスコに、3,3’−ビス(スルホン酸ナトリウム)−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン9.122g(0.0216mol)、レゾルシノール2.081g(0.0189mol)および無水炭酸カリウム3.14g(0.02268mol)を、窒素ボックス内で精秤した。これにDMSO42gおよびトルエン15gを加え、窒素ガスを通じ撹拌しながら、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行い、最後はトルエンを留去した。この際、留出する水は分液器より回収した。これにより、スルホン酸基を有するセグメントの平均繰り返し単位数が7.5となるオリゴマー(還元粘度0.23dL/g(DMSO溶媒))を得た。
次に、当該オリゴマーに、スルホン酸基を有しないセグメント部分を結合させてブロック共重合体を合成するために、窒素ボックス内で精秤した4,4’−ジフルオロベンゾフェノン12.838g(0.05884mol)、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン20.682g(0.0615mol)および無水炭酸カリウム10.30g(0.07452mol)を、反応マスに追加した。これにDMSO130gおよびトルエン50gを加え、窒素ガスを通じ撹拌した状態で、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行った。この際、留出する水は分液器より回収した。続いてトルエンを留去し、NMP100gを加え、160℃で10時間、引き続き重合反応を行った。反応マスを室温まで冷やしてDMSOおよびNMPで適宜希釈した後、ホモミキサーを用いてメタノール中に再沈殿させ、濾別した後に蒸留水中で攪拌洗浄し、再度濾別した後に80℃で12時間、さらに150℃で8時間、窒素気流中にて乾燥させた。これにより、ブロック共重合体K(26.8g、収率65%、還元粘度0.93dL/g(DMSOとNMPの混合溶媒(体積比1:1))、スルホン酸基部分はナトリウム塩型とカリウム塩型の混合)を得た。
【0084】
(合成例12)重合体Lの作成
窒素導入管、温度計、分液器を備えた冷却器、及び撹拌装置を備えたフラスコに、3,3’−ビス(スルホン酸ナトリウム)−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン9.502g(0.0225mol)、レゾルシノール1.982g(0.018mol)および無水炭酸カリウム2.99g(0.0216mol)を、窒素ボックス内で精秤した。これにDMSO43gおよびトルエン15gを加え、窒素ガスを通じ撹拌しながら、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行い、最後はトルエンを留去した。この際、留出する水は分液器より回収した。これにより、スルホン酸基を有するセグメントの平均繰り返し単位数が4.5となるオリゴマー(還元粘度0.15dL/g(DMSO溶媒))を得た。
次に、当該オリゴマーに、スルホン酸基を有しないセグメント部分を結合させてブロック共重合体Lを合成するために、窒素ボックス内で精秤した4,4’−ジフルオロベンゾフェノン12.645g(0.05796mol)、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン20.985g(0.06241mol)および無水炭酸カリウム10.45g(0.0756mol)を、反応マスに追加した。これにDMSO130gおよびトルエン50gを加え、窒素ガスを通じ撹拌した状態で、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行った。この際、留出する水は分液器より回収した。続いてトルエンを留去し、NMP100gを加え、160℃で10時間、引き続き重合反応を行った。反応マスを室温まで冷やしてDMSOおよびNMPで適宜希釈した後、ホモミキサーを用いてメタノール中に再沈殿させ、濾別した後に蒸留水中で攪拌洗浄し、再度濾別した後に80℃で12時間、さらに150℃で8時間、窒素気流中にて乾燥させた。これにより、ブロック共重合体L(38.1g、収率91%、還元粘度1.12dL/g(DMSOとNMPの混合溶媒(体積比1:1))、スルホン酸基部分はナトリウム塩型とカリウム塩型の混合)を得た。
【0085】
(合成例13)重合体Mの作成
合成例12にて得られたブロック共重合体L20gを2規定の硫酸水溶液1Lに投入し、室温で4時間攪拌した。その後に濾別し、再度2規定の硫酸水溶液に投入し、室温で4時間攪拌した。このような「濾別、硫酸水溶液中での攪拌」操作を合計4回行い、その後、硫酸水溶液に代えて蒸留水を用いた操作を合計4回行い、濾別して十分に水分を除いた後、100℃減圧下で3時間乾燥させた。これにより、ブロック共重合体M(16.8g、収率86%、還元粘度1.29dL/g(DMSOとNMPの混合溶媒(体積比1:1))、スルホン酸基部分はプロトン型)を得た。
【0086】
(合成例14)重合体Nの作成
窒素導入管、温度計、分液器を備えた冷却器、及び撹拌装置を備えたフラスコに、3,3’−ビス(スルホン酸ナトリウム)−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン11.149g(0.0264mol)、レゾルシノール2.543g(0.0231mol)および無水炭酸カリウム3.83g(0.02772mol)を、窒素ボックス内で精秤した。これにDMSO60gおよびトルエン20gを加え、窒素ガスを通じ撹拌しながら、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行い、最後はトルエンを留去した。この際、留出する水は分液器より回収した。これにより、スルホン酸基を有するセグメントの平均繰り返し単位数が7.5となるオリゴマー(還元粘度0.22dL/g(DMSO溶媒))を得た。
次に、当該オリゴマーに、スルホン酸基を有しないセグメント部分を結合させてブロック共重合体Nを合成するために、窒素ボックス内で精秤したビス(4−フルオロフェニル)スルホン18.459g(0.0726mol)、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン25.520g(0.0759mol)および無水炭酸カリウム12.59g(0.09108mol)を、反応マスに追加した。これにDMSO120gおよびトルエン40gを加え、窒素ガスを通じ撹拌した状態で、140〜160℃の範囲でトルエンを還流させながら8時間、重合反応を行った。この際、留出する水は分液器より回収した。続いてトルエンを留去し、NMP100gを加え、160℃で10時間、引き続き重合反応を行った。反応マスを室温まで冷やしてDMSOおよびNMPで適宜希釈した後、ホモミキサーを用いてメタノール中に再沈殿させ、濾別した後に蒸留水中で攪拌洗浄し、再度濾別した後に80℃で12時間、さらに150℃で8時間、窒素気流中にて乾燥させた。このようにしてブロック共重合体N(40.95g、収率77%、還元粘度0.91dL/g(DMSOとNMPの混合溶媒(体積比1:1))、スルホン酸基部分はナトリウム塩型とカリウム塩型の混合)を得た。
【0087】
<重合体A〜Dの溶媒に対する溶解性>
合成例1〜4で得られた重合体A〜Dの、溶媒に対する溶解性を以下のように試験した。その結果を表1に示す。
【0088】
(参考例1)
重合体A〜Dを濃度20重量%となるように、EGにそれぞれ入れて室温で攪拌した。スルホン酸基を有する部分のみから成る重合体Aおよび重合体Bを入れたものは粘性のある均一な溶液となった。一方、スルホン酸基を有さない重合体Cおよび重合体Dは、重合体の外観に大きな変化はなく、実質的にほとんどEGに溶解しなかった。そこでさらにEGの沸点より30℃低い168℃まで加熱をしたが、実質的にほとんど溶解しなかった。
これによりEGは、重合体Aおよび重合体Bを良好に溶解し、重合体Cおよび重合体Dを溶解しないことが分かった。
【0089】
(参考例2〜5)
参考例1に準拠して、DEG、TrEG、GLY、水に対する重合体A〜Dの溶解性を検討したところ、EGと同様の結果となった。尚、表1中、ア〜オは以下のことを示す。
・ 室温において20重量%の濃度で溶解
・ 室温において20重量%の濃度で不溶し、各溶媒の沸点より30℃低い温度において20重量%の濃度で不溶
・ 室温において20重量%の濃度で不溶し、各溶媒の沸点より30℃低い温度において20重量%の濃度で膨潤または一部が溶解
・ 室温において5重量%の濃度で溶解
・ 室温において5重量%の濃度で不溶
【0090】
(参考例6)
重合体A〜Dを濃度20重量%となるよう、DMSOにそれぞれ入れて室温で攪拌した。スルホン酸基を有する部分のみから成る重合体Aおよび重合体B、並びにスルホン酸基を有さない重合体Dを入れたものは粘性のある均一な溶液となった。一方、スルホン酸基を有さない重合体Cは、重合体が若干膨潤したように見えるものの、実質的にほとんどDMSOに溶解しなかった。さらにDMSOの沸点より30℃低い159℃まで加熱をしたところ、全体的に膨潤したような外観となり、その一部分がDMSOに溶解しているように見られたが、大半は溶解しなかった。これによりDMSOは、重合体A、重合体Bおよび重合体Dを良好に溶解し、重合体Cを溶解しないことが分かった。
【0091】
(参考例7)
重合体A〜Dを濃度5重量%となるよう、THFにそれぞれ入れて室温で攪拌した。スルホン酸基を有さない重合体Cおよび重合体Dは、粘性のある均一な溶液(ワニス)となった。一方、スルホン酸基を有する部分のみから成る重合体Aおよび重合体Bは、重合体の外観に大きな変化はなく、実質的にほとんどTHFに溶解しなかった。
これによりTHFは、重合体Cおよび重合体Dを良好に溶解し、重合体Aおよび重合体Bを溶解しないことが分かった。
【0092】
(参考例8〜13)
参考例7に準拠して、NMP、DMAc、DMF、CHCl3、CH2Cl2およびアニソールに対する重合体A〜Dの溶解性を検討したところ、THFと同様の結果となった。結果を表1にまとめて示す。
【0093】
(参考例14)
重合体A〜Dを濃度5重量%となるよう、シクロヘキサノールにそれぞれ入れて室温で攪拌した。いずれの重合体もの外観に大きな変化はなく、実質的にほとんどシクロヘキサノールに溶解しなかった。
【0094】
【表1】


【0095】
<高分子電解質膜の評価>
得られた重合体を溶媒に溶解して重合体組成物とし、それらを用いて高分子電解質膜を得て、評価を行った。結果は、表2に示す。
【0096】
(実施例1)
EGとTHFの混合溶媒(重量比1:2)に、合成例5で得られたブロック共重合体Eを16重量%の濃度で入れて室温で攪拌し、均一な粘性のある溶液(重合体組成物)を得た。十分に洗浄したガラス板上に、室温にてバーコーターを用いて厚さ0.5mmで重合体組成物を均一に塗布した。すぐに窒素が流入されているイナートオーブンに入れ、室温より200℃まで2時間かけてほぼ一定の昇温速度で昇温し、さらに200℃で4時間保持した後にオーブン内で放冷した。これにより高分子電解質膜がガラス板上に形成された。ガラス板を蒸留水に浸すことにより高分子電解質膜を剥がし取った。これにより、スルホン酸基部分がアルカリイオン型(ナトリウムイオンとカリウムイオンの混合(表中、「Na+K」と示す。)の高分子電解質膜が得られた。
次いで、スルホン酸基部分をアルカリイオン型からプロトン型(表中、「H」と示す。)に代えるために、高分子電解質膜を十分な量の2規定の硫酸水溶液に2時間浸漬し、2時間後にさらに真新しい2規定の硫酸水溶液に浸漬し直し、その中で20時間保持した。その後、十分な量の蒸留水に2時間浸漬し、2時間後にさらに真新しい蒸留水に浸漬し直し、その中で20時間保持した。そののちに高分子電解質膜を引き上げ、表面水分を拭き取って室温で一晩放置した後、減圧下100℃にて2時間乾燥させ、プロトン型の高分子電解質膜(EW650g/mol、体積膨潤率75%)を得た。プロトン伝導度は、相対湿度20%、80℃の条件にて、0.71mS/cm、相対湿度40%、80℃の条件にて、7.5mS/cmであった。
【0097】
(実施例2)
混合溶媒を、DMSOとDMFとの混合溶媒とした以外は実施例1に準拠して高分子電解質膜を作成し、諸特性を評価した。
【0098】
(比較例1)
EG単独の溶媒にブロック共重合体Eを15重量%の濃度になるように入れて、室温で攪拌した。一部が膨潤したように見えたが、実質的に溶解せず、高分子電解質膜を得ることができなかった。
【0099】
(比較例2〜4)
DMSO単独(比較例2)、NMP単独(比較例3)またはDMF単独(比較例4)の溶媒に、それぞれブロック共重合体Eを15重量%の濃度となるように入れて、室温で攪拌した。いずれも透明で比較的強固なゲルが得られ、「ブロック共重合体Eが均一に溶媒に溶解し、且つ、粘性のある」溶液にならず、実施例1で示したような方法で高分子電解質膜を得ることができなかった。
【0100】
(比較例5〜7)
THF単独(比較例5)、シクロヘキサノール単独(比較例6)、またはアニソール単独(比較例7)の溶媒にブロック共重合体Eを15重量%の濃度となるように入れて、室温で攪拌した。いずれも一部が膨潤したような様子が見られたが、実質的に不溶せず、高分子電解質膜を得ることができなかった。
【0101】
(比較例8)
シクロヘキサノールとアニソールの混合溶媒に、ブロック共重合体Eを15重量%の濃度で溶解させようとしたが、溶媒の組成を広範に変化させたにもかかわらず、いずれの組成においても、実質的に不溶であった。
【0102】
(実施例3〜17、比較例9〜14、比較例24〜26、比較例29)
実施例1と同様に高分子電解質膜を作成し、諸特性を評価した。
【0103】
(比較例15〜23)
比較例1と同様にして、重合体の各溶媒への溶解性を試験した。
【0104】
(比較例27)
バーコーターを用いて重合体組成物を均一に塗布し、窒素が流入されているイナートオーブンに入れて加熱する条件が、室温より120℃まで2時間かけてほぼ一定の昇温速度で昇温し、さらに120℃で4時間保持する条件とする以外は、実施例1に準拠して高分子電解質膜を作成し、諸特性を評価した。
【0105】
(比較例28)
シクロヘキサノールとアニソールの混合溶媒(重量比1:1)に、17重量%の濃度でスルホン酸基部分がプロトン型のブロック共重合体Mを入れて室温で攪拌し、均一な粘性のある溶液(ワニス)を得た。
十分に洗浄したガラス板上に、室温にてバーコーターを用いて厚さ0.50mmでワニスを均一に塗布した。すぐに窒素が流入されているイナートオーブンに入れ、室温より80℃まで30分かけてほぼ一定の昇温速度で昇温し、80℃で30分間保持し、さらに80℃より120℃まで30分かけてほぼ一定の昇温速度で昇温し、120℃で60分間保持した後にオーブン内で放冷した。高分子電解質膜と一体となって得られたガラス板を蒸留水に浸すことにより高分子電解質膜を剥がし取り、次いで蒸留水に20時間浸漬した。その後に高分子電解質膜を引き上げ、表面水分を拭き取って室温で一晩放置した後、減圧下100℃にて2時間乾燥させ、プロトン型の高分子電解質膜(EW1267g/mol、体積膨潤率14%)を得た。プロトン伝導度は、相対湿度20%、80℃の条件にて測定限界以下、相対湿度40%、80℃の条件にて、0.26mS/cmであった。
【0106】
(参考例15〜16)
シクロヘキサノール単独、またはアニソール単独の溶媒に、ブロック共重合体Mを15重量%の濃度で溶解させようとしたが、一部膨潤したような様子は見られたが、いずれの場合にも実質的に不溶であった。
【0107】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック共重合体および混合溶媒を含んでなり、該ブロック共重合体が酸基を含有するセグメント(A)と酸基を実質的に含有しないセグメント(B)から構成され、該混合溶媒が溶媒(C)と溶媒(D)を含み、溶媒(C)がセグメント(A)のみから構成される重合体(a)を良好に溶解するがセグメント(B)のみから構成される重合体(b)を溶解せず、溶媒(D)がセグメント(B)のみから構成される重合体(b)を良好に溶解し、溶媒(C)の沸点が溶媒(D)の沸点よりも高いことを特徴とする重合体組成物。
【請求項2】
セグメント(A)が下記一般式(1)の繰り返し構造単位で表される構造を含有し、セグメント(B)が下記一般式(2)の繰り返し構造単位で表される構造を含有することを特徴とする請求項1記載の重合体組成物



(式中、Ar〜Arはそれぞれ独立して芳香環であり、X〜Xはそれぞれ独立して水素原子または酸基でそのうち少なくとも一つが酸基であり、A〜Aは直接結合、−CH−、−C(CH−、−C(CF−、−O−、−S−、−SO−または−CO−でありそれぞれ独立しており、a、bおよびcそれぞれ独立して0または1を示し、g、h、i、jおよびkはそれぞれ独立して0、1、2または3を示し、芳香環の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基又はシアノ基にそれぞれ独立して置換されていても良い)


(式中、Ar〜Ar10はそれぞれ独立して芳香環であり、A〜Aは直接結合、−CH−、−C(CH−、−C(CF−、−O−、−S−、−SO−または−CO−でありそれぞれ独立しており、d、eおよびfはそれぞれ独立して0または1を示し、芳香環の水素原子は、フッ素原子、塩素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基又はシアノ基にそれぞれ独立して置換されていても良い)。
【請求項3】
酸基が、芳香環に直接結合したスルホン酸基、または脂肪族鎖あるいは芳香族鎖を介して芳香環に結合したスルホン酸基であることを特徴とする請求項2記載の重合体組成物。
【請求項4】
Ar〜Ar10がそれぞれ独立してベンゼン環またはナフタレン環であり、X〜Xの少なくとも二つ以上が酸基であり、AおよびAがそれぞれ独立して−SO−または−CO−であることを特徴とする請求項2又は3記載の重合体組成物。
【請求項5】
一般式(1)が下記一般式(3)であり、一般式(2)が下記一般式(4)である請求項2〜4のいずれかに記載の重合体組成物



(式中X〜XおよびXはそれぞれ独立して一般式(3)中のベンゼン環に直接結合したスルホン酸基、または脂肪族鎖あるいは芳香族鎖を介して一般式(3)中のベンゼン環に間接的に結合したスルホン酸基であり、Aは−SO−または−CO−であり、gおよびhはそれぞれ独立して1、2または3を示し、iおよびkはそれぞれ独立して0、1または2を示す)。


【請求項6】
一般式(3)が下記一般式(5)であり、一般式(4)が一般式(6)である請求項5記載の重合体組成物


(式中、X〜Xはそれぞれ独立して一般式(5)中のベンゼン環に直接結合したスルホン酸基である)



(芳香環の水素原子は、メチル基またはt−ブチル基で置換されていても良い)。
【請求項7】
セグメント(A)が塩であり、塩を構成する陽イオンが、金属イオンあるいは金属原子を含む錯イオンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の重合体組成物。
【請求項8】
金属イオンが、アルカリ金属イオンあるいはアルカリ土類金属イオンであることを特徴とする請求項7記載の重合体組成物。
【請求項9】
溶媒(C)の沸点が溶媒(D)の沸点よりも10℃以上高いことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の重合体組成物。
【請求項10】
溶媒(C)が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシドから選ばれる少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の重合体組成物。
【請求項11】
溶媒(D)が、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、クロロホルム、ジクロロメタンから選ばれる少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の重合体組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の重合体組成物を基板上に膜状に塗布し、次いで加熱して混合溶媒を除去することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項13】
請求項12の製造方法で得られた高分子電解質膜を、酸性溶液に浸漬させることを特徴とする請求項12記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれかに記載の重合体組成物を用いてなる高分子電解質膜。
【請求項15】
請求項14記載の高分子電解質膜が、燃料電池用である高分子電解質膜。
【請求項16】
請求項14または15記載の高分子電解質膜を含んで構成される燃料電池。

【公開番号】特開2008−106098(P2008−106098A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288384(P2006−288384)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】