説明

重合性化合物の重合体

【課題】平面表示パネルやこれに用いられるバックライト用の有機発光素子(OLED)に用いられる高分子系発光材料の前駆体である重合性化合物の重合体を提供する。
【解決手段】高発光効率で大面積化が可能であり、かつ量産可能な有機発光素子を得るための高分子系発光材料として、ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体部分と重合性官能基(例えばビニル基)とを有する重合性化合物の重合体とこれら重合性化合物の合成に必要な新規化合物である中間体、及びこれら重合性化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面表示パネルやこれに用いられるバックライト用の有機発光素子(OLED)に用いられる高分子系発光材料の前駆体である重合性化合物の重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、1987年にコダック社のC.W.Tangらにより高輝度の発光が示されて(非特許文献1参照。)以来、材料開発、素子構造の改良が急速に進み、最近になってカーオーディオや携帯電話用のディスプレイなどから実用化が始まった。この有機EL(エレクトロルミネッッセンス)の用途を更に拡大するために、発光効率向上、耐久性向上のための材料開発、フルカラー表示の開発などが現在活発に行われている。特に、中型パネルや大型パネル、あるいは照明用途への展開を考える上では発光効率の向上による更なる高輝度化と、大面積化に適した量産方法の確立が必要である。
【0003】
先ず、発光効率に関しては、現在の発光材料で利用されているのは励起一重項状態からの発光、すなわち蛍光であり、非特許文献2によれば、電気的励起における励起一重項状態と励起三重項状態の励起子の生成比が1:3であることから、有機ELにおける発光の内部量子効率は25%が上限である。
【0004】
これに対し、M.A.Baldoらは励起三重項状態から燐光発光するイリジウム錯体を用いることにより外部量子効率7.5%を得、これは外部取り出し効率を20%と仮定すると内部量子効率37.5%に相当し、蛍光色素を利用した場合の上限値である25%という値を上回ることが可能なことを示した(非特許文献3、特許文献1参照。)。
【0005】
次に、パネルの量産方法に関しては、従来から真空蒸着法が用いられてきた。しかし、この方法は真空設備を必要とする点、大面積になるほど有機薄膜を均一の厚さに成膜することが困難になる点などの問題点を有しており、必ずしも大面積パネルの量産に適した方法とは言えない。
【0006】
これに対し、大面積化が容易な方法として高分子系発光材料を用いた製造方法、すなわちインクジェット法や印刷法が開発されている。特に、印刷法は連続して長尺の成膜が行え、大面積化と量産性に優れている。
【0007】
上記のように、発光効率が高くかつ大面積の有機発光素子を得るためには、燐光発光性の高分子材料が必要となる。このような燐光発光性の高分子材料としては、ルテニウム錯体を高分子の主鎖または側鎖に組み込んだものがある(非特許文献4参照。)。しかし、これらはイオン性化合物であるため、電圧を印加した場合に電極での酸化還元反応による電気化学発光が起こる。これは応答速度が分オーダーと極めて遅く、通常のディスプレイパネルとしては使用できない。
また、厳密な意味では高分子材料とは言えないが、ポリ(N−ビニルカルバゾール)に燐光発光性の低分子化合物であるイリジウム錯体を混合したものがある(非特許文献5参照。)。しかし、これは均質な高分子材料に較べて熱安定性が劣り、相分離や偏析を起こす可能性がある。
【0008】
【非特許文献1】「アプライド フィジカル レター(Applied Physical Letter)」,1987年,第51巻,p.913
【非特許文献2】「月刊ディスプレイ「有機ELディスプレイ」」,1998年,10月号別冊,p.58
【非特許文献3】「アプライド フィジカル レター(Applied Physical Letter)」,1999年,第75巻,p.4
【非特許文献4】「ポリマー プレプリンツ(Polymer Preprints)」,1999年,第40巻,第2号,p.1212
【非特許文献5】「ポリマー プレプリンツ(Polymer Preprints)」,2000年,第41巻,第1号,p.770
【特許文献1】国際公開第00/70655号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、発光効率が高くかつ大面積の有機発光素子を量産するために必要とされる実用的な高分子系の燐光発光性材料は未だ存在しない。そこで、本発明は上記のような従来技術の問題点を解決し、高発光効率で大面積化が可能であり、かつ量産可能な有機発光素子を得るための高分子系発光材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々検討した結果、有機発光素子の発光材料として有用なイリジウム錯体部分を有する重合性化合物を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[42]で示される新規化合物である重合性化合物とこれら重合性化合物の合成に必要な新規化合物である中間体、及びこれら重合性化合物の製造方法に関する。
【0012】
[1] 式(1)で示される重合性化合物。
【化25】

〔式中、X1、Y1、Z1の少なくとも1つは重合性官能基を有する置換基を表し、X1、Y1、Z1のうちの残りはそれぞれ独立に水素原子ヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。R1〜R12はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
【0013】
[2] 前記式(1)におけるX1またはZ1のいずれか一方が重合性官能基を有する置換基である[1]に記載の重合性化合物。
【0014】
[3]式(2)で示される重合性化合物。
【化26】

〔式中、X1は重合性官能基を有する置換基を表し、Q1およびQ2はそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
【0015】
[4] 重合性官能基が炭素−炭素二重結合である[1]〜[3]のいずれか一つに記載の重合性化合物。
【0016】
[5] 式(3)で示される重合性化合物。
【化27】

【0017】
[6] 重合性官能基がスチリル基である[1]〜[3]のいずれか一つに記載の重合性化合物。
【0018】
[7] 式(4)で示される重合性化合物。
【化28】

【0019】
[8] 重合性官能基がアクリレート基またはメタクリレート基である[1]〜[3]のいずれか一つに記載の重合性化合物。
【0020】
[9] 式(5)で示される重合性化合物。
【化29】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕
【0021】
[10] 式(6)で示される重合性化合物。
【化30】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕
【0022】
[11] 式(7)で示される重合性化合物。
【化31】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕
【0023】
[12]式(8)で示される重合性化合物。
【化32】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕
【0024】
[13] 式(9)で示される重合性化合物。
【化33】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕
【0025】
[14] 式(10)で示される重合性化合物。
【化34】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕
【0026】
[15] 式(11)で示される重合性化合物。
【化35】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕
【0027】
[16] 式(12)で示される重合性化合物。
【化36】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕
【0028】
[17] 式(13)で示される重合性化合物。
【化37】

【0029】
[18] 前記式(1)におけるY1が重合性官能基を有する置換基である[1]に記載の重合性化合物。
【0030】
[19] 式(14)で示される重合性化合物。
【化38】

〔式中、Y1は重合性官能基を有する置換基を表し、Q2およびQ3はそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
【0031】
[20] 重合性官能基が炭素−炭素二重結合である[18]または[19]に記載の重合性化合物。
[21] 重合性官能基がスチリル基である[18]または[19]に記載の重合性化合物。
[22] 重合性官能基がアクリレート基またはメタクリレート基である[18]または[19]に記載の重合性化合物。
【0032】
[23] 式(15)で示される重合性化合物。
【化39】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕
【0033】
[24] 式(16)で示される重合性化合物。
【化40】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕
【0034】
[25] 式(17)で示されるイリジウム二核錯体と式(18)で示される重合性官能基を有する化合物を反応させることを特徴とする単核イリジウム錯体部分を含む重合性化合物の製造方法。
【化41】

〔式中、R1〜R24はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
【化42】

〔式中、X1、Y1、Z1の少なくとも1つは重合性官能基を有する置換基、X1、Y1、Z1のうちの残りはそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
【0035】
[26] 前記式(18)におけるX1またはZ1が重合性官能基を有する置換基である[25]に記載の単核イリジウム錯体部分を含む重合性化合物の製造方法。
[27] 前記式(18)におけるY1が重合性官能基を有する置換基である[25]に記載の単核イリジウム錯体部分を含む重合性化合物の製造方法。
【0036】
[28] 式(17)で示されるイリジウム二核錯体と式(19)で示される反応性置換基を有する化合物を反応させた後、得られた単核イリジウム錯体の反応性置換基と重合性官能基を有する化合物を反応させることを特徴とする単核イリジウム錯体部分を含む重合性化合物の製造方法。
【化43】

〔式中、R1〜R24はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
【化44】

〔式中、X2、Y2、Z2の少なくとも1つは反応性置換基、X2、Y2、Z2のうちの残りはそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
【0037】
[29] 式(19)におけるX2またはY2が水酸基を有する置換基である[28]に記載の単核イリジウム錯体部分を含む重合性化合物の製造方法。
[30] 式(19)におけるY2が水酸基を有する置換基である請求項28に記載の単核イリジウム錯体部分を含む重合性化合物の製造方法。
【0038】
[31] 式(20)で示される化合物。
【化45】

〔式中、X2、Y2、Z2の少なくとも1つは水酸基を有する置換基を表し、X2、Y2、Z2のうちの残りはそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。R1〜R12はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
[32] 式(20)におけるX2またはZ2が水酸基を有する置換基である[31]に記載の化合物。
【0039】
[33] 式(21)で示される化合物。
【化46】

〔式中、nは0〜20の整数を表し、Q1およびQ2はそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
【0040】
[34]式(22)で示される化合物。
【化47】

〔式中、nは0〜20の整数を表し、Q1およびQ2はそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
[35] 式(20)におけるY2が水酸基を有する置換基である[31]に記載の化合物。
【0041】
[36] 式(23)で示される化合物。
【化48】

〔式中、nは0〜20の整数を表し、Q2およびQ3はそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
【0042】
[37] [1]〜[24]のいずれか一つに記載の重合性化合物の重合体。
[38] [1]〜[24]のいずれか一つに記載の重合性化合物を1種以上含む組成物を重合してなる重合体。
[39] [1]〜[24]のいずれか一つに記載の重合性化合物を含むことを特徴とする発光材料。
[40] [1]〜[24]のいずれか一つに記載の重合性化合物を重合してなる発光材料。
[41] [1]〜[24]のいずれか一つに記載の重合性化合物を1種以上含む組成物を重合してなる発光材料。
[42] [1]〜[24]のいずれか一つに記載の発光材料を用いた有機発光素子。
【発明の効果】
【0043】
本発明の新規な重合性化合物はイリジウム錯体部分を含む新規な重合体を与え、これを有機発光素子の発光材料として使用することにより励起三重項状態から高効率で発光し、かつ大面積化が可能で量産に適した有機発光素子を提供することができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明により式(1)
【化49】

〔式中、X1、Y1、Z1の少なくとも1つは重合性官能基を有する置換基を表し、X1、Y1、Z1のうちの残りはそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。R1〜R12はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕で表される重合性化合物が提供される。
【0045】
式(1)におけるX1、Y1、Z1のうちの重合性官能基を有する置換基は、ラジカル重合性、カチオン重合性、アニオン重合性、付加重合性、縮合重合性のいずれであってもよいが、ラジカル重合性の官能基が好ましい。この重合性官能基としては、ビニル基、アリル基、アルケニル基、アクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、スチリル基及びその誘導体、ビニルアシド基及びその誘導体などを有する置換基を挙げることができる。これらの重合性官能基の中で、その重合性という観点から、アクリレート基、メタアクリレート基、ウレタン(メタ)アクリレート基が好ましい。
【0046】
各式におけるX1、Y1、Z1のうちの重合性官能基を有しない置換基、Q1〜Q3としては水素原子、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ターシャリーブチル、アミル、ヘキシル等のアルキル基、またメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソブトキシ、ターシャリーブトキシ等のアルコキシ基、アセトキシ基、プロポキシカルボニル基などのエステル基、アリール基等の有機基を挙げることができる。
【0047】
各式におけるR1〜R12およびR13〜R24としては水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、スルホン酸メチル等のスルホン酸エステル基、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ターシャリーブチル、アミル、ヘキシル等のアルキル基、またメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソブトキシ、ターシャリーブトキシ等のアルコキシ基、アセトキシ基、プロポキシカルボニル基などのエステル基、アリール基等の有機基を挙げることができる。また、これらの有機基は、更にハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基等の置換基を有していてもよい。
【0048】
次に、本発明による重合性化合物の合成方法の例を以下に挙げるが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0049】
その第1の合成方法は、式(17)で示されるイリジウムの二核錯体と式(18)で示される重合性置換基を有する化合物を反応させることにより単核イリジウム錯体部分を含む重合性化合物を得る方法である。
【化50】

〔式中、R1〜R24はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
【化51】

〔式中、X1、Y1、Z1の少なくとも1つは重合性官能基を有する置換基、X1、Y1、Z1のうちの残りはそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
【0050】
式(17)のイリジウムの二核錯体は公知の方法(S. Lamansky et al., Inorganic Chemistry, 40, 1704 (2001))により合成することができる。式(17)のR1〜R24としては水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、スルホン酸メチル等のスルホン酸エステル基、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ターシャリーブチル、アミル、ヘキシル等のアルキル基、またメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソブトキシ、ターシャリーブトキシ等のアルコキシ基、更にはアセトキシ基、プロポキシカルボニル基などのエステル基等の有機基を挙げることができる。また、これらの有機基は、更にハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基等の置換基を有していてもよい。
【0051】
式(18)で示される化合物の置換基X1、Y1、Z1の少なくとも1つは重合性官能基を有する置換基であり、式(1)の説明と同じものを意味する。また、式(18)で示される化合物の置換基X1、Y1、Z1のうちの重合性官能基を有しない置換基も式(1)の場合と同様である。
【0052】
本発明による重合性化合物の第2の合成方法は、式(17)で示されるイリジウムの二核錯体と式(19)で示される反応性置換基を有する化合物を反応させることにより反応性置換基を有する単核のイリジウム錯体を中間体として得、この中間体の反応性置換基と重合性置換基を有する化合物を反応させることにより単核イリジウム錯体部分を含む重合性化合物を得る方法である。
【化52】

〔式中、R1〜R24はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
【化53】

〔式中、X2、Y2、Z2の少なくとも1つは反応性置換基、X2、Y2、Z2のうちの残りはそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕
【0053】
式(19)のX2、Y2、Z2の少なくとも1つは反応性置換基であり、水酸基などの官能基を有する。官能基としては水酸基、アミノ基、カルボキシル基などを例示することができるが、何らこれに限定されるものではない。これら官能基を有する反応性置換基としては水酸基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシフェニル基などが挙げられる。
【0054】
また、この反応性置換基は保護基で保護されていてもよい。尚、この場合は保護基により保護されたまま反応を行って単核イリジウム錯体を得た後、脱保護により反応性置換基を有する単核イリジウム錯体を中間体として得る。その後、この中間体の反応性置換基と重合性官能基を有する化合物と反応させることにより、単核イリジウム錯体部分を含む重合性化合物を得る。なお、これら反応性置換基の官能基としては前述の重合性官能基は除かれる。
【0055】
式(19)で示される化合物の置換基X2、Y2、Z2のうちの反応性置換基でない置換基としては水素原子、ハロゲン原子、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ターシャリーブチル、アミル、ヘキシル等のアルキル基、またメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソブトキシ、ターシャリーブトキシ等のアルコキシ基、アセトキシ基、プロポキシカルボニル基などのエステル基、アリール基等の有機基を挙げることができる。また、これらの有機基は、更にハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0056】
イリジウム二核錯体と反応性置換基を有する式(19)で示される化合物との反応で得られる反応性置換基を有する単核イリジウム錯体と反応させる重合性官能基を有する化合物は重合性の基以外に式(19)の反応性置換基X2、Y2、Y3と反応する基を有する官能基を有して必要がある。本発明による重合性化合物の第2の合成法による場合には式(17)のR1〜R24は上記の単核イリジウム錯体と反応させる重合性官能基を有する化合物と反応しない基を選択しておく必要がある。
【0057】
上記単核イリジウム錯体と反応させる重合性官能基を有する化合物としては重合性酸塩化物や重合性イソシアネートを例示することができるが、何らこれらに限定されるものではない。これらの化合物における重合性官能基は、ラジカル重合性、カチオン重合性、アニオン重合性、付加重合性、縮合重合性のいずれであってもよいが、ラジカル重合性の官能基が好ましい。この重合性官能基としてはビニル基、アリル基、アルケニル基、アクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、スチリル基及びその誘導体、ビニルアシド基及びその誘導体など有するものを挙げることができる。これらの重合性官能基の中で、その重合性という観点から、アクリレート基、メタアクリレート基、ウレタン(メタ)アクリレート基が好ましい。具体的には、重合性酸塩化物としてはアクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド等が挙げられ、重合性イソシアネートとしてはメタクリロイルイソシアネート、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート等が挙げられる。
なお、本発明の化合物を示す式(1)などの化学式は金属錯体構造を表し、O−C−C−Oは共鳴構造を表すが、化学的に許容される構造を含むことは言うまでもない。
【実施例】
【0058】
以下に本発明について代表的な例を示し、更に具体的に説明する。尚、これらは説明のための単なる例示であって、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0059】
<測定装置等>
1)1H−NMR
日本電子(株)製 JNM EX270
270Mz 溶媒:重クロロホルムまたは重ジメチルスルホシキド
2)元素分析装置
REC0社製 CHNS−932型

【0060】
<試薬類>
特に断らない限り、市販品(特級)を精製することなく使用した。

【0061】
(実施例1)重合性化合物:(8−ノネン−2,4−ジオナート)ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(以下Ir(ppy)2(1−Bu−acac)と略す)の合成
スキーム(1A)に示すように、常法に従い合成したビス(μ−クロロ)テトラキス(2−フェニルピリジン)ジイリジウム(III)(以下[Ir(ppy)2Cl]2と略す)と、公知の方法(H. Gerlach et al.,
Helv. Chim. Acta, 60, 638 (1977))により合成した8−ノネン−2,4−ジオンを反応させてIr(ppy)2(1−Bu−acac)を合成した。即ち、[Ir(ppy)2Cl]2 261mg(0.24mmol)を30mlの窒素ガスで脱気したメタノール中に懸濁させ、8−ノネン−2,4−ジオン87mg(0.56mmol)とトリエチルアミン76mg(0.75mmol)を加えて油浴上で3時間加熱還流させた。得られた薄黄色の反応液を室温にまで冷却し、ロータリーエバポレータで濃縮した。次に希塩酸水溶液200mlとクロロホルム50mlを加えて激しく攪拌し、クロロホルム層を分取して硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧して溶媒を留去した。得られた黄色の残渣をジクロロメタンに溶解し、ジクロロメタンを溶出液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで薄黄色の主生成物を分取した。この溶液を減圧して濃縮後、少量のヘキサンを加えて−20℃に冷却し、目的とするIr(ppy)2(1−Bu−acac)270mg(0.41mmol)を薄黄色結晶として得た(収率85%)。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0062】
1H NMR (CDCl3): d 8.49 (d, J = 5.7 Hz, 2 H,
ppy), 7.83 (t, J = 7.8 Hz, 2 H, ppy), 7.70 (m, 2 H, ppy), 7.54 (t, J = 6.8 Hz,
2 H, ppy), 7.10 (m, 2 H, ppy), 6.80 (t, J = 7.3 Hz, 2 H, ppy), 6.68 (m, 2 H,
ppy), 6.35 (d, J = 6.2 Hz, 1 H, ppy), 6.25 (d, J = 6.2 Hz, 1 H, ppy), 5.61 (m,
1 H, -CH=CH2), 5.19 (s, 1
H, diketonate-methine), 4.86 (m, 2 H, -CH=CH2), 1.99 (t, J = 7.3 Hz, 2 H, methylene), 1.79 (s, 3 H, CH3), 1.72 (m, 2 H, methylene), 1.38
(m, 2 H, methylene). E.A.: Calcd for C31H29IrN2O2: C, 56.95; H, 4.47; N, 4.28. Found: C, 55.84; H,
4.32; N, 3.97.
【0063】
【化54】

【0064】
(実施例2)重合性化合物:[6−(4−ビニルフェニル)−2,4−ヘキサンジオナート]ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(以下Ir(ppy)2[1−(St−Me)−acac]と略す)の合成
スキーム(2A)に示すように、アセチルアセトンと4−ビニルベンジルクロライドを反応させて6−(4−ビニルフェニル)−2,4−ヘキサジオンを合成した。即ち、水素化ナトリウム1.23g(60% in oil)(31mmol)を窒素雰囲気下で秤量し、これに乾燥テトラヒドロフラン(以下THFと略す)60mlを加えて氷浴で0℃に冷却した。この懸濁液にアセチルアセトン2.5g(24mmol)とヘキサメチルホスホリックトリアミド1mlの混合溶液を滴下すると無色の沈殿が生成した。0℃で10分間攪拌した後、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M)17.5ml(28mmol)を滴下すると沈殿が溶解し、更に0℃で20分間攪拌した。得られた薄黄色の溶液に4−ビニルベンジルクロライド4.0g(26mmol)を滴下し、反応液を室温に戻して20分間攪拌後、希塩酸を加えて水層を酸性にした。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去した。得られた反応混合物をシリカゲルカラムに加えてヘキサン/ジクロロメタンの1:1(体積比)混合溶媒で展開し、主生成物を分取した。得られた溶液から減圧で溶媒を留去することにより、目的とする6−(4−ビニルフェニル)−2,4−ヘキサジオン3.0g(14mmol)を褐色の液体として得た。収率56%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0065】
1H NMR (CDCl3): enol; d 7.33 (d, J = 8.1 Hz, 2 H,
aromatic), 7.14 (d, J = 8.4 Hz, 2 H, aromatic), 6.68 (dd, J = 8.1 Hz, 1 H,
vinylic), 5.70 (d, J = 17.0 Hz, 1 H, vinylic), 5.46 (s, 1 H,
diketonate-methine), 5.20 (d, J = 11.1 Hz, 1 H, vinylic), 2.91 (t, J = 5.7 Hz,
2 H, methylene), 2.58 (t, J = 7.3 Hz, 2 H, methylene), 2.03 (s, 3 H,
methyl). keto; d 7.33 (d, J = 8.1 Hz, 2 H, aromatic), 7.14 (d, J = 8.4 Hz, 2 H,
aromatic), 6.68 (dd, J = 8.1 Hz, 1 H, vinylic), 5.70 (d, J = 17.0 Hz, 1 H,
vinylic), 5.20 (d, J = 11.1 Hz, 1 H, vinylic), 3.53 (s, 2 H, C(=O)CH2C(=O)), 2.89 (m, 4 H, ethylene),
2.19 (s, 3 H, methyl). enol : keto = 6 : 1. E.A.: Calcd for C14H9O2:
C, 77.75; H, 7.46. Found: C, 77.49; H, 7.52.
【0066】
【化55】

【0067】
次いで、スキーム(2B)に示すように、この6−(4−ビニルフェニル)−2,4−ヘキサンジオンと常法に従い合成した[Ir(ppy)2Cl]2を反応させてIr(ppy)2[1−(St−Me)−acac]を合成した。即ち、[Ir(ppy)2Cl]2342mg(0.32mmol)、炭酸ナトリウム158mg(1.5mmol)および2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール5mg(0.023mmol)を5 mlのN,N−ジメチルホルムアミド(以下DMFと略す)に溶解し、これに6−(4−ビニルフェニル)−2,4−ヘキサンジオン210mg(0.97mmol)を加えて65℃で1時間加熱攪拌した。次に室温まで冷却した反応溶液に希塩酸水溶液を加えた後、薄黄色の成分をクロロホルムで抽出した。ロータリーエバポレータを用いて溶媒を留去後、残渣を少量のジクロロメタンに溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:ジクロロメタン)で黄色の主生成物を分取した。この溶液を減圧乾固し、ジクロロメタン−ヘキサン混合溶液を加えて−20℃で再結晶を行い、目的とするIr(ppy)2[1−(St−Me)−acac]354mg(0.49mmol)を薄黄色結晶として得た。収率78%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0068】
1H NMR (CDCl3): d 8.47 (d, J = 5.7 Hz, 1 H,
ppy), 8.21 (d, J = 5.7 Hz, 1 H, ppy), 7.9 – 7.5 (m, 6 H, ppy), 7.18
(d, J = 8.1 Hz, 2 H, stylyl-aromatic), 7.00 (m, 2 H, ppy), 6.89 (d, J = 8.1 Hz,
2 H, stylyl-aromatic), 6.75 (m, 5 H, ppy and vinylic), 6.28 (t, J = 7.3 Hz, 2
H, ppy), 7.67 (d, J = 17.6 Hz, 1 H, vinylic), 5.19 (d, J = 9.5 Hz, 1 H,
vinylic), 5.17 (s, 1 H, diketonate-methine), 2.60 (t, J = 7.3 Hz, 2 H,
ethylene), 2.36 (m, 2 H, ethylene), 1.75 (s, 3 H, methyl). E.A.: Calcd for C36H31IrN2O2: C, 60.40; H, 4.36; N, 3.91.
Found: C, 61.35; H, 4.34; N, 3.83.
【0069】
【化56】

【0070】
(実施例3)重合性化合物:(9−アクリロイルオキシ−2,4−ノナンジオナート)ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(以下Ir(ppy)2[1−(A−Bu)−acac]と略す)の合成
スキーム(3A)に示すように、常法に従い、(9−ヒドロキシ−2,4−ノナンジオナート)ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(以下Ir(ppy)2[1−(OH−Bu)−acac]と略す)を合成した。即ち、実施例1と同様にして合成したIr(ppy)2(1−Bu−acac)167mg(0.26mmol)をTHF10mlに溶解し、これに9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナン(以下9−BBNと略す)の0.5M THF溶液1.0ml(0.5mmol)を滴下した。この溶液を25分間加熱還流した後、得られた反応混合物に3M
NaOH水溶液0.2ml(0.60mmol)と35%H22溶液0.060ml(0.62mmol)を順に加えて室温で12時間攪拌した。次に20mlの水を加えてロータリーエバポレータで濃縮し、クロロホルムを加えてよく振盪した後、有機層を減圧乾固した。得られた黄色固体を少量のジクロロメタンに溶解してシリカゲルカラムに加え、まずジクロロメタンを流して溶出した不純物を除いた。引き続きジクロロメタン/酢酸エチルの1:1(体積比)混合溶媒を流すと薄黄色の錯体が溶出した。これを回収して減圧乾燥し、ジクロロメタン/ヘキサン混合溶液から−20℃で再結晶することによりIr(ppy)2[1−(OH−Bu)−acac] 23mg(0.034mmol)を薄黄色の固体として得た。収率13%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0071】
1H NMR (CDCl3): d 8.50 (d, J = 5.9 Hz, 2 H,
ppy), 7.82 (t, J = 7.0 Hz, 2 H, ppy), 7.72 (t, J = 7.3 Hz, 2 H, ppy), 7.55 (t,
J = 7.0 Hz, 2 H, ppy), 7.12 (t, J = 5.9 Hz, 2 H, ppy), 6.81 (t, J = 7.6 Hz, 2
H, ppy), 6.69 (t, J = 7.3 Hz, 2 H, ppy), 6.31 (d, J = 5.9 Hz, 1 H, ppy), 6.26
(d, J = 5.9 Hz, 1 H, ppy), 5.19 (s, 1 H, diketonate-methine), 3.44 (t, J = 7.0
Hz, 2 H, CH2OH), 1.98 (t,
J = 7.0 Hz, 2 H, methylene), 1.79 (s, 3 H, methyl), 1.34 (m, 4 H, methylene),
1.05 (m, 2 H, methylene). E.A.: Calcd for C31H31IrN2O3: C, 55.42; H, 4.65; N, 4.17. Found: C, 55.76; H,
4.71; N, 4.19.
【0072】
【化57】

【0073】
次いで、スキーム(3B)に示すように、このIr(ppy)2[1−(OH−Bu)−acac]とアクリル酸クロライドを反応させることによりIr(ppy)2[1−(A−Bu)−acac]を合成した。即ち、Ir(ppy)2[1−(OH−Bu)−acac] 95mg(0.14mmol)をジクロロメタン10mlに溶解し、これにトリエチルアミン0.10ml(0.72mmol)を加えた。この溶液にアクリル酸クロライド0.060ml(0.74mmol)を加えて室温で30分間攪拌した。次にメタノール1mlを加えた後、減圧下、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムに通して(展開液:ジクロロメタン)最初に溶出した黄色の溶液を分取して減圧乾固し、ジクロロメタン−ヘキサン混合溶液から−20℃で再結晶することにより目的とするIr(ppy)2[1−(A−Bu)−acac] 99mg(0.14mmol)を
薄黄色の固体として得た。収率96%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0074】
1H NMR (CDCl3): d 8.50 (d, J = 5.9 Hz, 2 H,
ppy), 7.80 (m, 4 H, ppy), 7.51 (t, J = 7.3 Hz, 2 H, ppy), 7.18 (t, J = 5.9 Hz,
2 H, ppy), 6.84 (t, J = 7.3 Hz, 2 H, ppy), 6.70 (t, J = 7.6 Hz, 2 H, ppy), 6.25
(m, 3 H, ppy + vinylic), 6.12 (dd, J = 15.6, 9.3 Hz, 1 H, vinylic), 5.75 (d, J
= 9.3 Hz, 1 H, vinylic), 5.17 (s, 1 H, diketonate-methine), 4.05 (t, J = 7.0
Hz, 2 H, -COOCH2-), 1.84
(t, J = 7.0 Hz, 2 H, methylene), 1.80 (s, 3 H, methyl), 1.34 (m, 4 H,
methylene), 1.06 (m, 2 H, methylene). E.A.: Calcd for C34H33IrN2O4: C, 56.26; H, 4.58; N, 3.86.
Found: C, 56.55; H, 4.53; N, 3.60.
【0075】
【化58】

【0076】
(実施例4)
重合性化合物:{1−[4−(2−メタクリロイルオキシ)カルバモイルオキシフェニル]−3−フェニル−1,3−プロパンジオナート}ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(以下Ir(ppy)2(MOI−Ph−acac)と略す)の合成
スキーム(4A)に示すように、常法に従い合成したビス(μ−クロロ)テトラキス(2−フェニルピリジン)ジイリジウム(III)([Ir(ppy)2Cl]2)と、公知の方法(M. Cushman
et al., Tetrahedron Lett., 31, 6497 (1990))を参考に合成したp−ヒドロキシ−ジベンゾイルメタンを反応させて[1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−1,3−プロパンジオナート]ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(以下Ir(ppy)2(OH−Ph−acac)と略す)を合成した。即ち、[Ir(ppy)2Cl]2 112mg(0.10mmol)と炭酸ナトリウム64mg(0.60mmol)およびp−ヒドロキシ−ジベンゾイルメタン76mg(0.32mmol)をDMF10mlに溶解し、60℃で0.5時間加熱攪拌した。得られた反応溶液を100mlの希塩酸水溶液中に注ぎ、クロロホルムでイリジウム錯体を抽出した。ロータリーエバポレータを用いてクロロホルムを留去し、残渣を少量のジクロロメタンに溶解してシリカゲルカラムに加えた。ジクロロメタン/アセトンの30:10(体積比)混合溶媒で展開するとオレンジ色の成分が溶出してくるため、これを回収して減圧乾固した。得られた固体を少量のジエチルエーテルに溶解し、ヘキサンを加えて析出した錯体沈殿物を濾取して減圧乾燥することにより、目的とするIr(ppy)2(OH−Ph−acac)111mg(0.15mmol)をオレンジ色の固体として得た。収率72%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0077】
1H NMR (CDCl3): d 8.58 (d, 2 H, ppy), 7.9 – 6.7 (m, 21 H,
ppy + phenyl), 6.52 (s, 1 H, diketonate-methine), 6.37 (d, 2 H, ppy), 4.91 (s,
1 H, OH). E.A.: Calcd for C37H27IrN2O3:
C, 60.07; H, 3.68; N, 3.79. Found: C, 60.77; H, 3.75; N, 3.62.
【0078】
【化59】

【0079】
次いで、スキーム(4B)に示すように、このIr(ppy)2(OH−Ph−acac)とメタクリロイルオキシエチルイソシアネート(商品名:MOI、昭和電工製)を反応させることによりIr(ppy)2(MOI−Ph−acac)を合成した。即ち、Ir(ppy)2(OH−Ph−acac)110mg(0.15mmol)をトルエン50mlに溶解し、これに2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(以下BHTと略す)5mg(0.023mmol)、ジブチル錫(IV)ジラウレート(以下DBTLと略す)32mg(0.051mmol)及びMOI 121mg(0.78mmol)を加えて70℃で6時間加熱攪拌した。得られた反応混合物を室温にまで空冷してシリカゲルカラムに加え、ジクロロメタン/アセトンの20:1(体積比)混合溶媒で展開すると橙色の化合物が溶出した。この溶液をロータリーエバポレータで減圧乾固し、得られた固体を少量のジクロロメタンに溶解してヘキサンを少しずつ加えると橙色の沈殿が析出した。これを濾取して減圧乾燥することにより、目的とするIr(ppy)2(MOI−Ph−acac)100mg(0.11mmol)を橙色の固体として得た。収率75%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0080】
1H NMR (CDCl3): d 8.60 (d, 2 H, ppy), 7.9 – 6.7 (m, 21 H,
ppy and phenyl), 6.56 (s, 1 H, diketonate-methine), 6.39 (d, 2 H, ppy), 6.18
(s, 1 H, olefinic), 5.65 (s, 1 H, olefinic), 5.29 (s, 1 H, NH), 4.31 (t, 2 H,
ethylene), 3.59 (t, 2 H, ethylene), 2.00 (s, 3 H, methyl). E.A.: Calcd for C44H36IrN3O6: C, 59.05; H, 4.05; N, 4.70.
Found: C, 59.79; H, 4.05; N, 4.64.
【0081】
【化60】

【0082】
(実施例5)重合性化合物:[6−(4−メタクリロイルオキシフェニル)−2,4−ヘキサンジオナート]ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(以下Ir(ppy)2[1−(MA−Ph−Me)−acac]と略す)の合成
スキーム(5A)に示すように、アセチルアセトンと、公知の方法(C. Cativiela, et al., J. Org. Chem., 60, 3074 (1995))により合成した4−ベンジルオキシベンジルイオダイドを反応させて6−(ベンジルオキシフェニル)−2,4−ヘキサンジオンを合成した。即ち、水素化ナトリウム(60% in oil)0.30g(7.5mmol)を窒素雰囲気下で秤量し、これにTHF20mlを加えて水浴で0℃に冷却した。この懸濁液にアセチルアセトン0.75g(7.5mmol)とヘキサメチルホスホリックトリアミド0.5mlの混合溶液を滴下すると無色の沈殿が生成した。0℃で10分間攪拌後、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M)4.6ml(7.5mmol)を滴下し、更に0℃で20分間攪拌した。得られた薄黄色の透明な溶液に、4−ベンジルオキシベンジルイオダイド2.28g(7.0mmol)をTHF10mlに溶かした溶液を滴下した。反応溶液を室温で1時間攪拌し、再び0℃に冷却した後、希塩酸を加えて中和した。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、ロータリーエバポレータで溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムに通し(展開液:ジクロロメタン/ヘキサンの1:1(体積比)混合溶媒)、主生成物を分取して減圧乾固することにより、目的とする6−(ベンジルオキシフェニル)−2,4−ヘキサンジオン1.31g(4.4mmol)を薄黄色の固体として得た。収率63%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0083】
1H NMR (CDCl3): enol; d 7.5 – 6.8 (m, 9 H,
aromatic), 5.46 (s, 1 H, enol-methine), 5.04 (s, 2 H, -O-CH2-), 2.88 (t, J = 7.6 Hz, 2 H,
ethylene), 2.55 (t, J = 8.4 Hz, 2 H, ethylene), 2.04 (s, 3 H, methyl).
keto; d 7.5 – 6.8 (m, 9 H, aromatic), 5.04 (s, 2 H, -O-CH2-), 3.53 (s, 2 H, C(=O)CH2C(=O)), 2.84 (m, 4 H, ethylene),
2.19 (s, 3 H, methyl). enol : keto = 5 : 1. E.A.: Calcd for C19H20O3:
C, 77.00; H, 6.86. Found: C, 77.46; H, 6.77.
【0084】
【化61】

【0085】
次いで、スキーム(5B)に示すように、この6−(ベンジルオキシフェニル)−2,4−ヘキサンジオンを水素化することにより6−(ヒドロキシフェニル)−2,4−ヘキサンジオンを生成した。即ち、窒素雰囲気下でPd−活性炭(10%)1.5gを秤量し、ジクロロメタン20mlと6−(ベンジルオキシフェニル)−2,4−ヘキサンジオン1.31g(4.4mmol)を加えた。反応系内を1気圧の水素で置換し、室温で11時間攪拌した。得られた反応溶液を濾過して不溶物を除き、減圧で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムに加えてまずジクロロメタンで展開し、副生成物を除いた。続いてアセトン/ヘキサンの1:1(体積比)混合溶媒で溶出した化合物を含む溶液を減圧乾燥することにより目的とする6−(ヒドロキシフェニル)−2,4−ヘキサンジオン0.70g(3.4mmol)を薄黄色の固体として得た。収率77%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0086】
1H NMR (CDCl3): enol; d 7.04 (d, J = 8.4 Hz, 2 H,
aromatic), 6.65 (d, J = 8.4 Hz, 2 H, aromatic), 5.55 (br, 1 H, OH), 5.47 (s, 1
H, enol-methine), 2.86 (t, J = 7.3 Hz, 2 H, ethylene), 2.55 (t, J = 7.3 Hz, 2
H, ethylene), 2.04 (s, 3 H, methyl). keto; d 7.04 (d, J = 8.4 Hz, 2 H,
aromatic), 6.65 (d, J = 8.4 Hz, 2 H, aromatic), 5.55 (br, 1 H, OH), 3.55 (s, 2
H, C(=O)CH2C(=O)), 2.83
(m, 4 H, ethylene), 2.19 (s, 3 H, methyl). enol : keto = 5 : 1.
E.A.: Calcd for C12H14O3: C, 69.88; H, 6.84. Found: C, 69.67; H, 6.79.
【0087】
【化62】

【0088】
スキーム(5C)に示すように、この6−(4−ヒドロキシフェニル)−2,4−ヘキサンジオンと、常法に従い合成したビス(μ−クロロ)テトラキス(2−フェニルピリジン)ジイリジウム(III)([Ir(ppy)2Cl]2)を反応させて[6−(4−ヒドロキシフェニル)−2,4−ヘキサンジオナート]ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(以下Ir(ppy)2[1−(OH−Ph−Me)−acac]と略す)を合成した。即ち、[Ir(ppy)2Cl]2)71mg(0.066mmol)と炭酸ナトリウム47mg(0.44mmol)の混合物に、6−(4−ヒドロキシフェニル)−2,4−ヘキサンジオン41mg(0.20mmol)をDMF5mlに溶かした溶液を加えて65℃で1時間加熱攪拌した。得られた反応溶液に希塩酸とクロロホルムを加えてよく振盪し、分離した有機層を硫酸マグネシウムで乾燥して減圧下溶媒留去した。残渣をシリカゲルカラムに通し(展開液:ヘキサン/酢酸エチルの1:1(体積比)混合溶媒)、少量の薄黄色の副生成物の次に溶出した薄黄色の溶液を回収して減圧乾固した。得られた固体を少量のジクロロメタンに溶解し、ヘキサンを加えて−20℃に冷却することにより、目的とするIr(ppy)2[1−(OH−Ph−Me)−acac]86mg(0.12mmol)を薄黄色の固体として得た。収率92%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0089】
1H NMR (CDCl3): d 8.48 (d, J = 6.2 Hz, 1 H,
ppy), 8.23 (d, J = 5.9 Hz, 1 H, ppy), 7.9 – 7.6 (m, 4 H, ppy), 7.53
(t, J = 7.3 Hz, 2 H, ppy), 7.11 (t, J = 7.0 Hz, 1 H, ppy), 6.99 (t, J = 7.0 Hz,
1 H, ppy), 6.8 – 6.4 (m, 8 H, ppy + C6H4OH), 6.27 (t, J = 8.1 Hz, 2 H, ppy),
5.18 (s, 1 H, diketonate-methine), 5.10 (br, 1 H, OH), 2.54 (t, J = 7.0 Hz, 2
H, methylene), 2.31 (m, 2 H, methylene), 1.75 (s, 3 H, methyl). E.A.:
Calcd for C34H29IrN2O3:
C, 57.86; H, 4.14; N, 3.97. Found: C, 58.03; H, 4.11; N, 3.86.
【0090】
【化63】

【0091】
次いで、スキーム(5D)に示すように、このIr(ppy)2[1−(OH−Ph−Me)−acac]とメタクリル酸クロライドを反応させることによりIr(ppy)2[1−(MA−Ph−Me)−acac]を合成した。即ち、窒素雰囲気下でIr(ppy)2[1−(OH−Ph−Me)−acac]169mg(0.24mmol)をジクロロメタン10mlに溶解し、トリエチルアミン0.30ml(2.2mmol)を加えた。この溶液にメタクリル酸クロライド0.060ml(0.61mmol)を加えると速やかに生成物を生じた。更に少量のメタノールを加えた後、減圧で溶媒を留去した。残渣をヘキサン/ジクロロメタン/アセトンの混合溶媒(10:10:1(体積比))を用いてシリカゲルカラムに通し、黄色の主生成物を分取した。減圧で溶媒留去後、ジクロロメタン−ヘキサン混合溶液から再結晶することにより目的とするIr(ppy)2[1−(MA−Ph−Me)−acac]141mg(0.18mmol)を黄色の固体として得た。収率76%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0092】
1H NMR (CDCl3): d 8.48 (d, J = 5.1 Hz, 1 H,
ppy), 8.27 (d, J = 5.9 Hz, 1 H, ppy), 7.9 – 7.5 (m, 6 H, ppy), 7.12
(t, J = 7.0 Hz, 1 H, ppy), 7.04 (t, J = 7.0 Hz, 1 H, ppy), 6.9 – 6.6 (m, 8 H,
aromatic), 6.33 (s, 1 H, olefinic), 6.27 (d, J = 7.6 Hz, 2 H, ppy), 5.74 (s, 1
H, olefinic), 5.17 (s, 1 H, diketonate-methine), 2.61 (t, J = 7.0 Hz, 2 H,
ethylene), 2.34 (m, 2 H, ethylene), 2.07 (s, 3 H, methacryl-methyl), 1.76 (s, 3
H, diketonate-methyl). E.A.: Calcd for C38H33IrN2O4: C, 58.98; H, 4.30; N, 3.62. Found: C, 58.69; H,
4.17; N, 3.81.
【0093】
【化64】

【0094】
(実施例6)重合性化合物:(1−メタクリロイルオキシ−2,4−ペンタンジオナート)ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(以下Ir(ppy)2(1−MA−acac)と略す)の合成
スキーム(6A)に示すように、常法に従い合成したビス(μ−クロロ)テトラキス(2−フェニルピリジン)ジイリジウム(III)([Ir(ppy)2Cl]2)と、公知の方法(欧州特許EP0514217)を参考に合成した1−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)−2,4−ペンタジオンを反応させて(1−ヒドロキシ−2,4−ペンタンジオナート)ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(以下Ir(ppy)2(1−OH−acac)と略す)を合成した。即ち、[Ir(ppy)2Cl]2492mg(0.46mmol)と炭酸ナトリウム139mg(1.31mmol)をDMF10ml中に溶解し、1−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)−2,4−ペンタジオン(1−TBDMSO−2,4−ペンタジオン)321mg(1.39mmol)を加えて70℃で1時間加熱撹拌した。得られた反応混合物を室温にまで冷却した後、100mlの飽和塩化アンモニウム水溶液および50mlのクロロホルムを加えてよく振盪した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥して減圧で溶媒留去し、残渣をジクロロメタンを溶出液とするシリカゲルカラムに通し黄色の溶液を得た。これを減圧乾燥した後に得られた黄色の固体をTHF20ml中に溶解し、テトラ−n−ブチルアンモニウムフルオライド(以下Bun4NFと略す)の1.0M THF溶液0.46ml(0.46mmol)を激しく撹拌しながら滴下した。この反応溶液を室温で0.5時間撹拌後、減圧で溶媒留去した。残渣をシリカゲルカラムに通し(溶出液:ヘキサン/ジクロロメタン/アセトンの1:3:1(体積比)の混合溶媒)、溶出した黄色の主生成物を回収して減圧乾燥した。得られた粗生成物をジクロロメタン/ヘキサン混合溶液から再結晶することにより、目的とするIr(ppy)2(1−OH−acac)389mg(0.63mmol)を黄色の固体として得た。収率69%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0095】
1H NMR (CDCl3): d 8.48 (d, J = 5.7 Hz, 1 H,
ppy), 8.42 (d, J = 5.7 Hz, 1 H, ppy), 7.86 (m, 2 H, ppy), 7.74 (t, J = 7.6 Hz,
2 H, ppy), 7.54 (t, J = 5.9 Hz, 2 H, ppy), 7.14 (t, J = 5.9 Hz, 2 H, ppy), 6.82
(t, J = 7.3 Hz, 2 H, ppy), 6.69 (m, 2 H, ppy), 6.28 (d, J = 6.8 Hz, 1 H, ppy),
6.23 (d, J = 6.5 Hz, 1 H, ppy), 5.17 (s, 1 H, diketonate-methine), 3.88 (dd, J
= 8.1, 5.4 Hz, 1 H, -CHH’-O-), 3.78 (dd, J = 8.1, 4.3 Hz, 1 H, -CHH’-O-), 3.10 (t, J = 4.6 Hz,
1 H, OH), 1.82 (s, 3 H, methyl). E.A.: Calcd for C27H23IrN2O3: C, 52.67; H, 3.77; N, 4.55.
Found: C, 52.45; H, 3.68; N, 4.79.
【0096】
【化65】

【0097】
次いで、スキーム(6B)に示すように、このIr(ppy)2(1−OH−acac)とメタクリル酸クロライドを反応させることによりIr(ppy)2(1−MA−acac)を合成した。即ち、Ir(ppy)2(1−OH−acac)200mg(0.32mmol)を乾燥ジクロロメタン15mlに溶解し、トリエチルアミン0.25ml(1.8mmol)と0.20mlのメタクリル酸クロライド0.20ml(2.0mmol)を加えて室温で1時間撹拌した。次に反応溶液を炭酸ナトリウム水溶液20mlで洗浄し、減圧で溶媒を留去した。残渣を再びジクロロメタンに溶解してシリカゲルカラム上部に加え、ヘキサン/ジクロロメタン/アセトンの2:4:1(体積比)の混合溶媒で展開した。最初に得られる黄色溶液を回収して減圧で乾燥することにより、目的とするIr(ppy)2(1−MA−acac)165mg(0.24mmol)を黄色の固体として得た。収率74%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0098】
1H NMR (CDCl3): d 8.53 (d, J = 5.7 Hz, 1 H,
ppy), 8.48 (d, J = 5.4 Hz, 1 H, ppy), 7.84 (d, J = 7.8 Hz, 2 H, ppy), 7.73 (t,
J = 7.0 Hz, 2 H, ppy), 7.53 (t, J = 6.8 Hz, 2 H, ppy), 5.14 (m, 2 H, ppy), 6.79
(m, 2 H, ppy), 6.69 (m, 2 H, ppy), 6.29 (d, J = 7.6 Hz, 1 H, ppy), 6.23 (d, J =
7.6 Hz, 1 H, ppy), 6.04 (s, 1 H, olefinic), 5.51 (s, 1 H, olefinic), 5.31 (s, 1
H, diketonate-methine), 4.38 (d, J = 15.4 Hz, 1 H, -CHH¢-OC(=O)-), 4.27 (d, J =
14.9 Hz, 1 H, -CHH¢-OC(=O)-), 1.87 (s, 3 H, methacryl-methyl), 1.82 (s, 3 H,
diketonate-methyl). E.A.: Calcd for C31H27IrN2O4: C, 54.45; H, 3.98; N, 4.10. Found: C, 54.18; H,
3.96; N, 4.33.
【0099】
【化66】

【0100】
(実施例7)重合性化合物:[6−(4−ビニルフェニル)−2,4−ヘキサンジオナート]ビス[2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジン]イリジウム(III)(以下Ir(2,4−F−ppy)2[1−(St−Me)acac]と略す)の合成
スキーム(7A)に示すように、常法に従い2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジンを合成した。即ち、アルゴン気流下において2−ブロモピリジン8.69g(55.0mmol)を脱水テトラヒドロフラン200mlに溶解して−78℃まで冷却し、1.6M n−ブチルリチウムのヘキサン溶液38.7ml(61.9mmol)を30分かけて滴下した。滴下後、さらに塩化亜鉛7.5g(55.0mmol)を脱水テトラヒドロフラン50mlに溶解した溶液を30分かけて滴下した。滴下後、0℃までゆっくりと昇温し、1−ブロモ−2,4−ジフルオロベンゼン9.65g(55.0mmol)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) 2.31g(2.0mmol)を加え、還流下に6時間攪拌した後、反応液に飽和食塩水200mlを加えジエチルエーテルで抽出した。抽出液を乾燥後、濃縮し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル;クロロホルム/ヘキサン(1/1:体積比))で精製することにより、2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジン6.00g(31.4mmol)を無色透明のオイルとして得た。収率63%。同定は1H NMRとCHN元素分析で行った。
【0101】
1H NMR(270 MHz, CDCl3), ppm: 8.71(d, 1H, J 4.6 Hz),
8.00(td, 1H, J 8.9, 6.5 Hz), 7.8 - 7.7(m, 2H), 7.3 - 7.2(over wrapped with CHCl3, 1H), 7.1 - 6.8(m, 2H). E. A.
: Found: C 68.98, H 3.80, N 7.31. Calcd: C 69.11, H 3.69, N 7.33.
【0102】
【化67】

【0103】
次いで、スキーム(7B)に示すように、この2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジンとヘキサクロロイリジウム(III)酸ナトリウムn水和物を反応させることによりビス(μ−クロロ)テトラキス[2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジン]ジイリジウム(III)(以下[Ir(2,4−F−ppy)2Cl]2と略す)を合成した。即ち、2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジン0.96g(5.0mmol)とヘキサクロロイリジウム(III)酸ナトリウムn水和物1.00gを2−エトキシエタノール:水=3:1(体積比)の混合溶媒40mlに溶解し、30分間アルゴンガスを吹き込んだ後、還流下に5時間攪拌した。生じた沈殿を濾取し、エタノールと少量のアセトンで洗浄し、真空下で5時間乾燥することにより、目的とする[Ir(2,4−F−ppy)2Cl]20.79g(0.65mmol)を黄色粉末として得た。収率86%。同定は1H NMRとCHN元素分析で行った。
【0104】
1H NMR(270 MHz, CDCl3), ppm: 9.12(d, 4H, J = 5.7 Hz),
8.31(d, 4H, J = 8.6 Hz), 7.83(dd, 4H, J = 7.6, 7.6 Hz), 6.82(dd, 4H, J = 7.3, 7.3 Hz), 6.34(ddd, 4H, J =
11.6, 10.0, 2.4 Hz), 5.29(dd, 4H, J = 9.5, 2.4 Hz). Anal. Found: C 43.39, H 2.03,
N 4.55. Calcd: C 43.46, H 1.99, N 4.61.
【0105】
【化68】

【0106】
次いで、スキーム(7C)に示すように、この[Ir(2,4−F−ppy)2Cl]2と6−(4−ビニルフェニル)−2,4−ヘキサジオンを反応させることによりIr(2,4−F−PPy)2[1−(ST−Me)acac]を合成した。即ち、[Ir(2,4−F−ppy)2Cl]2 243mg(0.20mmol)、炭酸ナトリウム212mg(2.00mmol)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール1.3mg、実施例2と同様に合成した6−(4−ビニルフェニル)−2,4−ヘキサジオン130mg(0.60mmol)をアルゴン気流下にDMF20mlに溶解し、80℃で2時間攪拌した後、反応液に水を加え、クロロホルムで抽出した。抽出液を乾燥後、濃縮し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル;クロロホルム)で精製し、さらにクロロホルム/ヘキサン溶液から再結晶することにより、Ir(2,4−F−PPy)2[1−(ST−Me)acac]261mg(0.33mmol)を黄色結晶として得た。収率83%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0107】
1H NMR(270 MHz, CDCl3), ppm: 8.39(d, 1H, J = 5.7 Hz), 8.3
- 8.2(m, 2H), 8.04(d, 1H, J = 5.7 Hz), 7.8 - 7.7(m, 2H), 7.19(d, 2H, J = 7.8
Hz), 7.15(dd, 1H, J = 6.6, 6.6 Hz), 6.97(dd, 1H, J = 6.6, 6.6 Hz), 6.89(d, 2H,
J = 7.8 Hz), 6.67(dd, 1H, J = 17.6, 10.8 Hz), .6.4 - 6.2(m, 2H), 5.7 - 5.6(m,
3H), 5.22(s, 1H), 5.21(d, 1H, J = 11.1 Hz), 2.62(t, 2H, J = 7.0 Hz), 2.39(m,
2H), 1.78(s, 3H). Anal. Found: C 54.82, H 3.50, N 3.49. Calcd: C 54.88, H
3.45, N 3.56.
【0108】
【化69】

【0109】
(実施例8)重合性化合物:{3−[4−(2−メタクリロイルオキシエチル)カルバモイルオキシフェニルメチル]−2,4−ペンタンジオナート}ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(以下Ir(ppy)2[3−(MOI−Ph−Me)−acac]と略す)の合成
スキーム(8A)に示すように、常法に従い合成したビス(μ−クロロ)テトラキス(2−フェニルピリジン)ジイリジウム(III)([Ir(ppy)2Cl]2)と3−(4−ヒドロキシフェニルメチル)−2,4−ペンタンジオンを反応させて[3−(4−ヒドロキシフェニルメチル)−2,4−ペンタンジオナート]ビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(以下Ir(ppy)2[1−(OH−Ph−Me)−acac]と略す)を合成した。即ち、[Ir(ppy)2Cl]2)56mg(0.052mmol)および炭酸ナトリウム44mg(0.42mmol)をDMF5mlに溶解した。この溶液に、公知の方法(C. Cativiela et al., J. Org. Chem., 60, 3074 (1995))により合成した3−(4−ヒドロキシフェニルメチル)−2,4−ペンタンジオン30mg(0.15mmol)をDMF5mlに溶解した溶液を加えて80℃で1.5時間加熱攪拌した。次に、室温にまで冷却した反応溶液に希塩酸とクロロホルムを加えてよく振とうし、有機層を分取してロータリーエバポレータで溶媒を留去した。残渣をヘキサン/酢酸エチルの1:1(体積比)混合溶媒を展開液とするシリカゲルカラムに通し、主生成物のバンドを分取した。得られた薄黄色の溶液から減圧で溶媒を留去し、ジクロロメタン/ヘキサンの混合溶液から再結晶することによりIr(ppy)2[1−(OH−Ph−Me)−acac]34mg(0.048mmol)を薄黄色の固体として得た。収率46%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。
【0110】
1H NMR (CDCl3): d 8.58 (d, J = 5.9 Hz, 2 H,
ppy), 7.84 (d, J = 7.8 Hz, 2 H, ppy), 7.73 (t, J = 6.5 Hz, 2 H, ppy), 7.55 (d,
J = 7.6 Hz, 2 H, ppy), 7.1 – 6.6 (m, 10 H, aromatic), 6.27 (d, J = 7.6 Hz, 2 H, ppy), 4.86
(br-s, 1 H, OH), 3.62 (s, 2 H, benzyl), 1.80 (s, 6 H, methyl). E.A.: Calcd
for C34H29IrN2O3:
C, 57.86; H, 4.14; N, 3.97. Found: C, 57.97; H, 4.22; N, 4.15.
【0111】
【化70】

【0112】
次いで、スキーム(8B)に示すように、このIr(ppy)2[1−(OH−Ph−Me)−acac]とメタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI:商品名、昭和電工製)を反応させることによりIr(ppy)2[1−(MOI−Ph−Me)−acac]を合成した。即ち、Ir(ppy)2[1−(OH−Ph−Me)−acac]71mg(0.10mmol)と2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール3mg(0.014mmol)、ジブチル錫(IV)ジラウレート27mg(0.12mmol)及びMOI 55mg(0.35mmol)をTHF10mlに溶解し、70℃で2時間加熱攪拌した。得られた反応混合物をロータリーエバポレータで減圧乾固し、残渣をヘキサン/酢酸エチルの1:1(体積比)混合溶媒を展開液とするシリカゲルカラムに通した。最初に溶出する薄黄色の副生成物の次に溶出する薄黄色の溶液を回収して減圧乾固した。得られた固体を少量のジクロロメタンに溶解し、ヘキサンを加えて生成した沈殿を濾取して減圧で乾燥することにより目的とするIr(ppy)2[3−(MOI−Ph−Me)−acac]59mg(0.069mmol)を薄黄色の固体として得た。収率68%。同定はCHN元素分析、1H−NMRで行った。1H NMR
(CDCl3): d 8.58 (d, J =
5.9 Hz, 2 H, ppy), 7.88 (d, J = 7.8 Hz, 2 H, ppy), 7.76 (t, J = 6.5 Hz, 2 H,
ppy), 7.57 (d, J = 7.6 Hz, 2 H, ppy), 7.2 – 6.6 (m, 10 H, aromatic),
6.27 (d, J = 7.6 Hz, 2 H, ppy), 6.16 (s, 1 H, olefinic), 5.63 (s, 1 H,
olefinic), 5.31 (br-s, 1 H, NH), 4.31 (m, 2 H, ethylene), 3.69 (s, 2 H,
benzyl), 3.59 (m, 2 H, ethylene), 1.98 (s, 3 H, methacryl-methyl), 1.80 (s, 6
H, diketonate-methyl). E.A.: Calcd for C41H38IrN3O6:
C, 57.20; H, 4.45; N, 4.88. Found: C, 57.36; H, 4.43; N, 4.91.
【0113】
【化71】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)又は式(2)のいずれかで示される重合性化合物の重合体。

【化1】


〔式中、X1、Y1、Z1の少なくとも1つはラジカル重合性の官能基を有する置換基を表し、X1、Y1、Z1のうちの残りはそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。R1〜R12はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕

【化2】


〔式中、X1は重合性官能基を有する置換基を表し、Q1およびQ2はそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕



【請求項2】
前記式(1)におけるX1またはZ1のいずれか一方がラジカル重合性の官能基を有する置換基である請求項1に記載の重合性化合物の重合体。

【請求項3】
ラジカル重合性の官能基が炭素−炭素二重結合である請求項1又は請求項2のいずれかに記載の重合性化合物の重合体。

【請求項4】
式(3)で示される重合性化合物の重合体。
【化3】

【請求項5】
重合性官能基がスチリル基である請求項1又は請求項2のいずれかに記載の重合性化合物の重合体。

【請求項6】
式(4)で示される重合性化合物の重合体。
【化4】

【請求項7】
重合性官能基がアクリレート基またはメタクリレート基である請求項1又は請求項2のいずれかに記載の重合性化合物の重合体。

【請求項8】
式(5)で示される重合性化合物の重合体。
【化5】


〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕

【請求項9】
式(8)で示される重合性化合物の重合体。

【化6】


〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕

【請求項10】
式(9)で示される重合性化合物の重合体。

【化7】


〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕

【請求項11】
式(10)で示される重合性化合物の重合体。

【化8】


〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕

【請求項12】
式(11)で示される重合性化合物の重合体。

【化9】


〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕

【請求項13】
式(13)で示される重合性化合物の重合体。

【化10】



【請求項14】
前記式(1)におけるY1ラジカル重合性の官能基を有する置換基である請求項1に記載の重合性化合物の重合体。

【請求項15】
式(14)で示される重合性化合物の重合体。

【化11】


〔式中、Y1ラジカル重合性の官能基を有する置換基を表し、Q2およびQ3はそれぞれ独立に水素原子またはヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を表す。〕

【請求項16】
ラジカル重合性の官能基が炭素−炭素二重結合である請求項14または15に記載の重合性化合物の重合体。

【請求項17】
重合性官能基がスチリル基である請求項14または15に記載の重合性化合物の重合体。

【請求項18】
重合性官能基がアクリレート基またはメタクリレート基である請求項14または15に記載の重合性化合物の重合体。

【請求項20】
式(16)で示される重合性化合物の重合体。

【化12】


〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。〕


【請求項21】
請求項1〜20のいずれか一つに記載の重合性化合物の重合体を含むことを特徴とする発光材料。

【請求項22】
請求項21に記載の発光材料を用いた有機発光素子。

【公開番号】特開2007−211243(P2007−211243A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27557(P2007−27557)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【分割の表示】特願2001−306282(P2001−306282)の分割
【原出願日】平成13年10月2日(2001.10.2)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】