説明

重合性組成物、それを用いた平版印刷版原版、防汚性部材、及び、防曇性部材

【課題】高い架橋密度が得られる重合性組成物、及び、高い架橋密度と親水性が得られる重合性組成物を提供する。これらの重合性組成物を用いた、耐刷性に優れた平版印刷版を与え、かつ、機上現像性に優れた平版印刷版原版、並びに、防汚性、防曇性に優れた部材を提供する。
【解決手段】(A)側鎖に、エチレン性二重結合とウレア結合を有する特定の構造を有する繰り返し単位を有する高分子化合物、及び(B)重合開始剤を含有することを特徴とする重合性組成物。高分子化合物は、更に、ベタイン構造を側鎖に有する繰り返し単位を有することが好ましい。該重合性組成物を画像記録層に有する平版印刷版原版。更に、該重合性組成物の重合硬化膜を有する防汚性、防曇性部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物、それを用いた平版印刷版原版、防汚性部材、及び、防曇性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性組成物として、架橋性を高めるためにエチレン性不飽和二重結合を有する高分子化合物を使用することは、一般に知られている。重合性組成物の架橋密度を高めることは、重合性組成物を用いる分野において、最も重要な技術である。
例えば、これら重合性組成物を、水溶液などによる現像処理が必要な用途、あるいは硬化膜における親水性が機能する用途に用いる場合には、親水性成分を重合性組成物中に導入する必要があるが、水中での耐久性、あるいは、非膨潤性などの要求を満たすためには、重合硬化膜が高い架橋密度を有することが必要となる。
【0003】
このような重合性組成物を用いた材料として平版印刷版原版が挙げられる。
平版印刷版原版は、親水性の支持体上に親油性の画像記録層を設けてなり、レーザーによる画像露光を行った後、アルカリ性現像液などによる現像処理を行い、画像部に対応する画像記録層を残存させ、非画像部に対応する不要な画像記録層を溶解除去して、平版印刷版を得るのに用いられる。
【0004】
地球環境課題への対応の観点から、上記現像処理を簡易化や無処理化することが指向されている。その簡易化の一つとして、「機上現像」と呼ばれる方法が行われている。これは、平版印刷版原版を露光後、従来の現像処理は行わず、そのまま印刷機に装着して、画像記録層の不要部分の除去を通常の印刷工程の初期段階で、湿し水及び/又はインキによって行う方法である。また、簡易現像の方法としては、画像記録層の不要部分の除去を、従来の高アルカリ性現像液ではなく、pHが中性に近いフィニッシャー又はガム液によって行う「ガム現像」と呼ばれる方法も行われている。
【0005】
上述のような製版作業の簡易化においては、作業のしやすさの点から明室又は黄色灯下で取り扱い可能な平版印刷版原版及び光源を用いるシステムが好ましいので、光源としては、波長760〜1200nmの赤外線を放射する半導体レーザー及びYAGレーザー等の固体レーザーが用いられる。また、UVレーザーを用いることができる。
【0006】
機上現像可能な平版印刷版原版としては、例えば特許文献1には、支持体上に、赤外線吸収剤とラジカル重合開始剤と重合性化合物とを含有する画像記録層(感光層)を設けた平版印刷版原版が記載されている。また、ガム現像可能な平版印刷版原版としては、例えば、特許文献2、3のような、pHが中性に近いフィニッシャー又はガム液によって現像を行う方式の平版印刷版原版が知られている。
これら簡易処理型の平版印刷版原版においては、pHが中性に近い現像液や印刷機上の湿し水による現像を可能にするため、親水性の高い画像記録層を用いており、その結果、印刷中の湿し水により画像部の強度が弱くなり、十分な耐刷が得られない欠点があった。
【0007】
上記問題に鑑み、特許文献4、5には、ラジカル重合性基を有する高分子化合物を含有するレーザー感受性重合性組成物からなる画像記録層を有する機上現像可能な平版印刷版原版が提案されている。しかしながら、これらの特許文献に記載されているラジカル重合性基では、まだ十分な耐刷性が得らなかった。また、これらの高分子化合物では、簡易処理による現像性も満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−287334号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第1751625号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1868036号明細書
【特許文献4】特開2006−111860号公報
【特許文献5】特開2009−29124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、より高い架橋密度が得られる重合性組成物を提供することにある。また、より高い架橋密度と親水性が得られる重合性組成物を提供することにある。更に、かかる重合性組成物を用いた、耐刷性に優れた平版印刷版を与え、かつ、機上現像性に優れた平版印刷版原版を提供することにある。また、別の目的として、かかる重合性組成物の特性である優れた親水性と膜強度を利用した防汚性、防曇性に優れた部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下のとおりである。
1.(A)(a1)下記一般式(a1−1)で表される構造を側鎖に有する繰り返し単位を有する高分子化合物、及び(B)重合開始剤を含有することを特徴とする重合性組成物。
【0011】
【化1】

【0012】
〔一般式(a1−1)中、R11、R12は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、スルホ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基又はカルバモイル基を表す。R13、R14、R15は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。Lは、二価の連結基を表す。Yは単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。*は高分子化合物の主鎖と連結する部位を表す。〕
【0013】
2.前記(A)の高分子化合物が、更に(a2)下記一般式(a2−1)又は(a2−2)で表される双性イオン構造を側鎖に有する繰り返し単位を有することを特徴とする前記前記1に記載の重合性組成物。
【0014】
【化2】

【0015】
〔上記一般式(a2−1)中、R21及びR22は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はヘテロ環基を表し、R21とR22は互いに連結し、環構造を形成してもよく、L21は、二価の連結基を表す。Aは、アニオンを有する構造を表す。Yは、単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。*は高分子化合物の主鎖と連結する部位を表す。上記一般式(a2−2)中、L22は二価の連結基を表し、Eは、カチオンを有する構造を表す。Yは、単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。*は高分子化合物の主鎖と連結する部位を表す。〕
【0016】
3.前記(a2)の繰り返し単位における双性イオン構造を有する側鎖が、一般式(a2−1)で表される構造であり、一般式(a2−1)中、Aがスルホナートであることを特徴とする前記1又は2に記載の重合性組成物。
4.支持体上に、前記1〜3のいずれか1項に記載の重合性組成物を含有する画像記録層を有することを特徴とする平版印刷版原版。
5.画像記録層が印刷インキ及び湿し水の少なくともいずれかにより除去可能であることを特徴とする前記4に記載の平版印刷版原版。
6.前記2又は3に記載の重合性組成物を硬化して得られることを特徴とする防汚性部材。
7.前記2又は3に記載の重合性組成物を硬化して得られることを特徴とする防曇性部材。
【0017】
本発明の効果は、以下の理由により発現できていると推測している。
一般式(a−1)で表される構造を側鎖に有する高分子化合物は、ウレア構造に由来する水素結合により、高分子化合物が有するラジカル重合性エチレン性不飽和結合同士が近くに配置され、ラジカル重合開始剤からラジカルが発生すると、高効率でラジカル重合が進行し、強固な3次元架橋膜が形成されるものと推測している。
更に、高親水性の双性イオン構造を側鎖に導入しても、強固な3次元架橋膜が形成されるため、耐刷性に優れた平版印刷版を与え、かつ、機上現像性に優れる平版印刷版原版を提供することが可能である。
また、架橋膜として、水に対して膨潤しにくく、耐摩耗性に優れた防汚性部材、防曇性部材を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ラジカル重合により強固な3次元架橋を形成する重合性組成物及び、現像性、耐刷性に優れる平版印刷版原版、更には、コンピューター等のデジタル信号から各種レーザーを用いて直接製版できる、いわゆるダイレクト製版可能な高い生産性を有する平版印刷版原版であって、印刷機上現像により速やかに現像が可能であり、しかも高耐刷である平版印刷版を提供できる平版印刷版原版が得られる。
また、基板表面の防汚性、防曇性に優れる親水性部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明について、以下に詳細に説明する。
〔重合性組成物〕
本発明の重合性組成物は、(A)(a1)下記一般式(a1−1)で表される構造を側鎖に有する繰り返し単位を有する高分子化合物(以下では特定高分子化合物と称す)、及び(B)重合開始剤を含有することを特徴とする。
以下、特定高分子化合物、重合開始剤、その他の要素について詳細に説明する。
【0020】
<(A)特定高分子化合物>
【0021】
(a1)一般式(a1−1)で表される構造を側鎖に有する繰り返し単位
本発明の特定高分子化合物は、一般式(a1−1)で表される構造を側鎖に有する繰り返し単位を有する。
【0022】
【化3】

【0023】
〔一般式(a1−1)中、R11、R12は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、スルホ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基又はカルバモイル基を表す。R13、R14及びR15は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。Lは二価の連結基を表す。Yは単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。*は高分子化合物の主鎖と連結する部位を表す。〕
【0024】
更に詳しくは、R11、R12で表されるアルキル基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよい、置換若しくは無置換のアルキル基を表す。それらは、直鎖又は分岐のアルキル基(好ましくは炭素数1から30の置換若しくは無置換のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−オクチル基、エイコシル基、2−クロロエチル基、2−シアノエチル基、2―エチルヘキシル基)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3から30の置換又は無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5から30の置換若しくは無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5から30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基、例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル基、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル基)、更に環構造が多いトリシクロ構造なども包含するものである。以下に説明する置換基の中のアルキル基(例えばアルキルチオ基のアルキル基)もこのような概念のアルキル基を表す。
【0025】
11、R12で表されるアリール基は、好ましくは炭素数6から30の置換若しくは無置換のアリール基を表し、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基、m−クロロフェニル基、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル基が挙げられる。R11、R12で表されるヘテロ環基は、好ましくは5又は6員の、置換若しくは無置換の芳香族若しくは非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、更に好ましくは、炭素数3から30の5若しくは6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基が挙げられる。R11、R12で表されるアルキルスルホニル基は、好ましくは炭素数1から30の置換又は無置換のアルキルスルホニル基であり、アリールスルホニル基は、好ましくは炭素数6から30の置換又は無置換のアリールスルホニル基である。例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−メチルフェニルスルホニル基が挙げられる。R11、R12で表されるアシル基は、好ましくはホルミル基、炭素数2から30の置換又は無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7から30の置換若しくは無置換のアリールカルボニル基、又は、炭素数4から30の置換若しくは無置換の、炭素原子でカルボニル基と結合しているヘテロ環カルボニル基であり、例えば、アセチル基、ピバロイル基、2−クロロアセチル基、ステアロイル基、ベンゾイル基、p−n−オクチルオキシフェニルカルボニル基、2―ピリジルカルボニル基、2―フリルカルボニル基が挙げられる。R11、R12で表されるアリールオキシカルボニル基は、好ましくは、炭素数7から30の置換若しくは無置換のアリールオキシカルボニル基であり、例えば、フェノキシカルボニル基、o−クロロフェノキシカルボニル基、m−ニトロフェノキシカルボニル基、p−t−ブチルフェノキシカルボニル基が挙げられる。R11、R12で表されるアルコキシカルボニル基は、好ましくは、炭素数2から30の置換若しくは無置換アルコキシカルボニル基であり、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、n−オクタデシルオキシカルボニル基が挙げられる。R11、R12で表されるカルバモイル基は、好ましくは、炭素数1から30の置換若しくは無置換のカルバモイル基であり、例えば、カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基が挙げられる。
【0026】
11、R12として、なかでも好ましいのは、水素原子又はアルキル基である。アルキル基としてはメチル基及びエチル基が特に好ましい。
【0027】
一般式(a1−1)のR13、R14又はR15で表されるアルキル基及びアリール基としては、R11、R12の説明で述べたアルキル基及びアリール基が好ましく使用される。
【0028】
で表される二価の連結基は、好ましくは、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる連結基であり、好ましくは、後述の有していてもよい置換基の炭素数を含めて、炭素数30以下である。より好ましいものとしては、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜10)、及び、フェニレン基、キシリレン基などのアリーレン基(好ましくは炭素数5〜15、より好ましくは炭素数6〜10)が挙げられる。具体例として、例えば、以下の連結基が挙げられる。
【0029】
【化4】

【0030】
上記の中でもLは、耐汚れ性の観点から、炭素数2〜5の直鎖アルキレン基が好ましく、更に炭素数2若しくは3の直鎖アルキレン基が好ましく、炭素数2の直鎖アルキレン基が最も好ましい。
【0031】
なお、これらの連結基は、置換基を更に有していてもよい。
置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基及びジアリールアミノ基等が挙げられる。
【0032】
は、単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。
上記の組み合わせからなるYの具体例を以下に挙げる。なお、下記例において左側が主鎖に結合する。
L1:−CO−O−二価の脂肪族基−
L2:−CO−O−二価の芳香族基−
L3:−CO−NH−二価の脂肪族基−
L4:−CO−NH−二価の芳香族基−
【0033】
ここで二価の脂肪族基とは、アルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、置換アルケニレン基、アルキニレン基、置換アルキニレン基又はポリアルキレンオキシ基を意味する。なかでもアルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、及び置換アルケニレン基が好ましく、アルキレン基及び置換アルキレン基が更に好ましい。
二価の脂肪族基は、環状構造よりも鎖状構造の方が好ましく、更に分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造の方が好ましい。二価の脂肪族基の炭素数は、1乃至20であることが好ましく、1乃至15であることがより好ましく、1乃至12であることが更に好ましく、1乃至10であることが特に好ましく、1乃至8であることが最も好ましい。
【0034】
二価の脂肪族基の置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基及びジアリールアミノ基等が挙げられる。
【0035】
上記の二価の芳香族基とは、置換基を有してもよいアリーレン基を意味する。具体的には、置換又は無置換の、フェニレン基、ナフタレン基、アンスリレン基などが挙げられる。なかでもフェニレン基が好ましい。
二価の芳香族基の置換基の例としては、上記二価の脂肪族基の置換基の例に加えて、アルキル基が挙げられる。
【0036】
一般式(a1−1)で表される構造の具体例としては次の構造が挙げられる。
【0037】
【化5】

【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
ラジカル重合性基を少なくとも一つ有する、本発明の(a1)一般式(a1−1)で表される構造を側鎖に有する繰り返し単位は、具体的には下記(A1)で表される繰り返し単位であることが好ましい。
【0041】
【化8】

【0042】
一般式(A1)において、R101〜R103はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はハロゲン原子を表す。Tは上述の一般式(a1−1)で表される構造を表し、好ましい態様も上述の一般式(a1−1)の好ましい態様と同じである。
【0043】
一般式(a1−1)で表される構造を側鎖に有する高分子化合物は、側鎖にアミン構造を有する高分子化合物を前駆体として合成することができる。アミン化合物は、一般的に求核反応性が高いため、プロティック溶媒中でも所望の反応を行うことが可能となる。
アプロティック溶媒への溶解性が低く、アルコール類、水などのプロティック溶媒の溶解性が高い高親水性の高分子化合物においても、アミン構造の反応性を利用することで、プロティック溶媒中で重合性基を導入することができる。
【0044】
特定高分子化合物において、このような(a1)一般式(a1−1)で表される構造を側鎖に有する繰り返し単位は、特定高分子化合物を構成する全繰り返し単位に対して、1〜50モル%含まれることが好ましく、1〜30モル%含まれることがより好ましく、1〜20モル%含まれることが最も好ましい。
【0045】
(a2)双性イオン構造を側鎖に有する繰り返し単位
本発明の特定高分子化合物は、その効果を十分に発揮するためには、双性イオン構造を側鎖に有する繰り返し単位を有することが好ましい。双性イオン構造を有する側鎖は、下記一般式(a2−1)又は(a2−2)で表されることが好ましい。
【0046】
【化9】

【0047】
上記一般式(a2−1)中、R21及びR22は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はヘテロ環基を表し、R21とR22は互いに連結し、環構造を形成してもよく、L21は、二価の連結基を表し、Aは、アニオンを有する構造を表す。Yは、単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。*は高分子化合物の主鎖と連結する部位を表す。
【0048】
上記R21及びR22が互いに連結して形成する環構造は、酸素原子などのヘテロ原子を有していてもよく、好ましくは5〜10員環、より好ましくは5又は6員環である。
21及びR22の炭素数は、後述の有していてもよい置換基の炭素数を含めて、炭素数1〜30が好ましく、炭素数1〜20がより好ましく、炭素数1〜15が特に好ましく、炭素数1〜8が最も好ましい。
【0049】
21及びR22で表されるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、オクチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、イソペンチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
21及びR22で表されるアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プレニル基(例えば、ジメチルアリル基、ゲラニル基など)、オレイル基等が挙げられる。
21及びR22で表されるアルキニル基の例としては、エチニル基、プロパルギル基、トリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。
また、R21及びR22で表されるアリール基の例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられる。更に、ヘテロ環基としては、フラニル基、チオフェニル基、ピリジニル基などが挙げられる。
【0050】
これらの基は更に置換基を有していてもよい。置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基及びジアリールアミノ基等が挙げられる。
【0051】
21及びR22として、効果及び入手容易性の観点から、特に好ましい例としては、水素原子、メチル基、又はエチル基を挙げることができる。
【0052】
で表される二価の連結基としては、単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。
【0053】
上記の組み合わせからなるYの具体例を以下に挙げる。なお、下記例において左側が主鎖に結合する。
L1:−CO−O−二価の脂肪族基−
L2:−CO−O−二価の芳香族基−
L3:−CO−NH−二価の脂肪族基−
L4:−CO−NH−二価の芳香族基−
L5:−CO−二価の脂肪族基−
L6:−CO−二価の芳香族基−
L7:−CO−二価の脂肪族基−CO−O−二価の脂肪族基−
L8:−CO−二価の脂肪族基−O−CO−二価の脂肪族基−
L9:−CO−二価の芳香族基−CO−O−二価の脂肪族基−
L10:−CO−二価の芳香族基−O−CO−二価の脂肪族基−
L11:−CO−二価の脂肪族基−CO−O−二価の芳香族基−
L12:−CO−二価の脂肪族基−O−CO−二価の芳香族基−
L13:−CO−二価の芳香族基−CO−O−二価の芳香族基−
L14:−CO−二価の芳香族基−O−CO−二価の芳香族基−
L15:−CO−O−二価の芳香族基−O−CO−NH−二価の脂肪族基−
L16:−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−NH−二価の脂肪族基−
【0054】
上記の二価の脂肪族基及び二価の芳香族基は、前記Yにおける二価の脂肪族基及び二価の芳香族基と同じであり、二価の脂肪族基及び二価の芳香族基の置換基の例もYの場合と同じものが挙げられる。
【0055】
なかでもYとして好ましくは、単結合、−CO−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基、前記L1〜L4である。更に耐汚れ性の観点から、Yは、前記L1又はL3であることが好ましく、L3であることが更に好ましい。更にL3の二価の脂肪族基が、炭素数2〜4の直鎖アルキレン基であることが好ましく、合成上、炭素数3の直鎖アルキレン基であることが最も好ましい。
【0056】
21は前記Lと同義である。なかでも耐汚れ性の観点から、L21としては炭素数3〜5の直鎖アルキレン基が好ましく、更に炭素数4若しくは5の直鎖アルキレン基がより好ましく、炭素数4の直鎖アルキレン基が最も好ましい。
【0057】
前記一般式(a2−1)において、Aは、好ましくは、カルボキシラート、スルホナート、ホスホナート、又はホスフィナートを表す。
具体的には、以下の陰イオンが挙げられる。
【0058】
【化10】

【0059】
耐汚れ性の観点から、Aはスルホナートであることが最も好ましい。更に、式(a2−1)において、L21が、炭素数4若しくは5の直鎖アルキレン基であり、かつAがスルホナートの組み合わせが好ましく、L21が、炭素数4の直鎖アルキレン基であり、かつAがスルホナートの組み合わせが最も好ましい。
【0060】
は前記L1又はL3であり、R21及びR22がエチル基又はメチル基であり、L21が炭素数4若しくは5の直鎖アルキレン基であり、Aがスルホナート基である組み合わせが好ましい。
更にYは前記L3であり、R21、R22がメチル基であり、L21が炭素数4の直鎖アルキレン基であり、かつAがスルホナートの組み合わせがより好ましい。
一般式(a2−1)で表される双性イオン構造として、具体的には下記構造を挙げることができる。
【0061】
【化11】

【0062】
また、前記一般式(a2−2)において、L22は二価の連結基を表し、好ましくは、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる。その具体的な例及び好ましい例については、前述のL21で表される連結基と同様である。
は、前記一般式(a2−1)のYと同義であり、好ましい例も同じである。
は、カチオンを有する構造を表し、好ましくはアンモニウム、又はホスホニウムを有する構造を表す。特に好ましくはアンモニウムを有する構造である。カチオンを有する構造の例としては、トリメチルアンモニオ基、トリエチルアンモニオ基、トリブチルアンモニオ基、ベンジルジメチルアンモニオ基、ジエチルヘキシルアンモニオ基、(2−ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニオ基、ピリジニオ基、N−メチルイミダゾリオ基、N−アクリジニオ基、トリメチルホスホニオ基、トリエチルホスホニオ基、トリフェニルホスホニオ基などが挙げられる。
*は高分子化合物の主鎖と連結する部位を表す。
22、Y、Eの最も好ましい組み合わせは、L22が炭素数2〜4のアルキレン基であり、Yは前記L1又はL3であり、Eはトリメチルアンモニオ基又はトリエチルアンモニオ基、である。
一般式(a2−2)で表される双性イオン構造として、具体的には、下記の構造を挙げることができる。
【0063】
【化12】

【0064】
本発明において、双性イオン構造を有する繰り返し単位は、具体的には下記(A2)で表されることが好ましい。
【0065】
【化13】

【0066】
式中、R201〜R203はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はハロゲン原子を表す。Gは、双性イオン構造を有する側鎖を表し、前記一般式(a2−1)又は(a2−2)で表される構造が好ましい。一般式(a2−1)及び(a2−2)の好ましい例及び組み合わせは、上述したものと同じである。
【0067】
(A2)において特に好ましい側鎖Gは、一般式(a2−1)で表される構造である。
【0068】
本発明における特定高分子化合物中の(a2)双性イオン構造を有する繰り返し単位の割合は、親水性の観点から、特定高分子化合物を構成する全繰り返し単位に対して、5〜95モル%の範囲であることが好ましく、5〜80モル%の範囲であることがより好ましく、10〜70モル%の範囲であることが最も好ましい。
【0069】
本発明における特定高分子化合物は、既知の方法によっても合成可能であるが、その合成には、ラジカル重合法、かつそれに続く、ポリマー側鎖のアミノ基と、ラジカル重合性基を有するイソシアネート類を用いたウレア化反応、が好ましく用いられる。
【0070】
一般的なラジカル重合法は、例えば、新高分子実験学3(高分子学会編、共立出版、1996年3月28日発行)、高分子の合成と反応1(高分子学会編、共立出版、1992年5月発行)、新実験化学講座19、高分子化学(I)(日本化学会編、丸善、昭和55年11月20日発行)、物質工学講座高分子合成化学(東京電気大学出版局、1995年9月発行)等に記載されており、これらを適用することができる。
【0071】
また、(A)特定高分子化合物は、上述のくり返し単位以外の他の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。特定高分子化合物に共重合させることができるモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、スチレン類、アクリロニトリル類、メタクリロニトリル類などから選ばれるモノマーが挙げられる。
【0072】
具体的には、アクリル酸エステル類としては、アルキルアクリレート(該アルキル基の炭素数は1〜20のものが好ましく、より具体的には、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸−t−オクチル、クロルエチルアクリレート、2,2−ジメチルヒドロキシプロピルアクリレート、5−ヒドロキシペンチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ペンタエリヌリトールモノアクリレート、グリシジルアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレートなど)、アリールアクリレート(例えば、フェニルアクリレートなど)が挙げられる。
メタクリル酸エステル類としては、アルキルメタクリレート(該アルキル基の炭素原子は1〜20のものが好ましく、より具体的には、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、クロルベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、5−ヒドロキシペンチルメタクリレート、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、グリシジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートなど)、アリールメタクリレート(例えば、フェニルメタクリレート、クレジルメタクリレート、ナフチルメタクリレートなど)が挙げられる。
スチレン類としては、スチレン、アルキルスチレン(例えば、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、シクロヘキシルスチレン、デシルスチレン、ベンジルスチレン、クロルメチルスチレン、トリフルオルメチルスチレン、エトキシメチルスチレン、アセトキシメチルスチレンなど)、アルコキシスチレン(例えばメトキシスチレン、4−メトキシ−3−メチルスチレン、ジメトキシスチレンなど)、ハロゲン含有スチレン(例えばクロルスチレン、ジクロルスチレン、トリクロルスチレン、テトラクロルスチレン、ペンタクロルスチレン、ブロムスチレン、ジブロムスチレン、ヨードスチレン、フルオルスチレン、トリフルオルスチレン、2−ブロム−4−トリフルオルメチルスチレン、4−フルオル−3−トリフルオルメチルスチレンなど)が挙げられる。
その他の具体例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリル酸、アクリル酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等も挙げられる。
【0073】
本発明における特定高分子化合物の質量平均モル質量(Mw)は、性能設計により任意に設定できる。質量平均モル質量として、2,000〜1,000,000が好ましく、2,000〜500,000であることがより好ましく、10,000〜500,000であることが最も好ましい。この範囲内で、十分なラジカル重合性が得られる。
【0074】
以下に、特定高分子化合物の具体例を、その質量平均モル質量と共に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、組成比を表す数字はモル百分率である。
【0075】
【化14】

【0076】
【化15】

【0077】
【化16】

【0078】
【化17】

【0079】
【化18】

【0080】
本発明の特定高分子化合物は重合性組成物中に1.0〜99質量%含まれていることが好ましく、5〜90質量%含まれていることがより好ましく、10〜70質量%含まれていることが最も好ましい。この含有量範囲内で、優れた重合性の効果が得られる。
【0081】
<(B)重合開始剤>
本発明における重合開始剤としてはラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。ラジカル重合開始剤としては、当業者間で公知のものを制限なく使用でき、具体的には、例えば、トリハロメチル化合物、カルボニル化合物、有機過酸化物、アゾ化合物、アジド化合物、メタロセン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、有機ホウ素化合物、ジスルホン化合物、オキシムエステル化合物、オニウム塩化合物、鉄アレーン錯体が挙げられる。重合性組成物の用途によって、好ましい重合開始剤が異なるが、平版印刷版原版用としては、なかでも、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、オニウム塩、トリハロメチル化合物及びメタロセン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、特にヘキサアリールビイミダゾール化合物及びオニウム塩が好ましい。着色しないことが要件となる防汚性部材用などにはカルボニル化合物が好ましい。上記のラジカル重合開始剤は、2種以上を適宜併用することもできる。
【0082】
ヘキサアリールビイミダゾール化合物としては、特公昭45−37377号、特公昭44−86516号の各公報記載のロフィンダイマー類、例えば2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2′−ビス(o,o′−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−メチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−トリフルオロメチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
ヘキサアリールビイミダゾール系化合物は、後述する350〜450nmの波長域に極大吸収を有する増感色素と併用して用いることが特に好ましい。
【0083】
本発明において好適に用いられるオニウム塩は、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩が好ましく用いられる。特にジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩が好ましく用いられる。オニウム塩は、750〜1400nmの波長域に極大吸収を有する赤外線吸収剤と併用して用いられることが特に好ましい。
【0084】
その他のラジカル重合開始剤としては、特開2007−206217号公報の段落番号〔0071〕〜〔0129〕に記載の重合開始剤を好ましく用いることができる。
【0085】
本発明における重合開始剤は単独若しくは2種以上の併用によって好適に用いられる。
本発明における重合性組成物中の重合開始剤の使用量は重合性組成物全固形分の質量に対し、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは0.1〜15質量%である。更に好ましくは1.0質量%〜10質量%である。
【0086】
<その他の成分>
本発明に用いられる重合性組成物は(C)増感色素、及び(D)重合性化合物を含有することが好ましい。
【0087】
<(C)増感色素>
本発明の重合性組成物に用いられる増感色素としては、画像露光時の光を吸収して励起状態となり、前述の重合開始剤に電子移動、エネルギー移動又は発熱などでエネルギーを供与し、重合開始機能を向上させるものであれば特に限定せず用いることができる。特に、350〜450nm又は750〜1400nmの波長域に極大吸収を有する増感色素が好ましく用いられる。
【0088】
350〜450nmの波長域に極大吸収を有する増感色素としては、メロシアニン色素類、ベンゾピラン類、クマリン類、芳香族ケトン類、アントラセン類、等を挙げることができる。
【0089】
350nmから450nmの波長域に極大吸収を持つ増感色素のうち、高感度の観点からより好ましい色素は下記一般式(I)で表される色素である。
【0090】
【化19】

【0091】
〔一般式(I)中、Aは置換基を有してもよい芳香族環基又はヘテロ環基を表し、Xは酸素原子、硫黄原子又はN−(R)をあらわす。R、R及びRは、それぞれ独立に、一価の非金属原子団を表し、AとR又はRとRはそれぞれ互いに結合して、脂肪族性又は芳香族性の環を形成してもよい。〕
【0092】
一般式(I)について更に詳しく説明する。R、R及びRは、それぞれ独立に、一価の非金属原子団であり、好ましくは、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換の芳香族複素環残基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアルキルチオ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子を表す。
【0093】
次に、一般式(I)におけるAについて説明する。Aは置換基を有してもよい芳香族環基又はヘテロ環基を表し、置換基を有してもよい芳香族環又はヘテロ環の具体例としては、一般式(I)中のR、R及びRで記載した置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換の芳香族複素環残基と同様のものが挙げられる。
【0094】
このような増感色素の具体例としては特開2007−58170号公報の段落番号〔0047〕〜〔0053〕に記載の化合物が挙げられる。
【0095】
更に、下記一般式(II)又は(III)で示される増感色素も用いることができる。
【0096】
【化20】

【0097】
【化21】

【0098】
一般式(II)中、R〜R14は各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基又はハロゲン原子を表す。但し、R〜R10の少なくとも一つは炭素数2以上のアルコキシ基を表す。
一般式(III)中、R15〜R32は各々独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基又はハロゲン原子を表す。但し、R15〜R24の少なくとも一つは炭素数2以上のアルコキシ基を表す。
【0099】
このような増感色素の具体例としては、欧州特許出願公開第1349006号明細書や国際公開第2005/029187号パンフレットに記載の化合物が好ましく用いられる。
【0100】
また、特開2007−171406号、特開2007−206216号、特開2007−206217号、特開2007−225701号、特開2007−225702号、特開2007−316582号、特開2007−328243号の各公報に記載の増感色素も好ましく用いることができる。
【0101】
続いて、本発明にて好適に用いられる750〜1400nmの波長域に極大吸収を有する増感色素(以降、「赤外線吸収剤」と称する場合がある)について詳述する。赤外線吸収剤は染料又は顔料が好ましく用いられる。
【0102】
染料としては、市販の染料及び例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。更に、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい例として下記一般式(a)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0103】
【化22】

【0104】
一般式(a)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、−N(R)(R10)、−X−L又は以下に示す基を表す。ここで、R及びR10は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族炭化水素基、炭素数1〜8のアルキル基、水素原子を表し、またRとR10とが互いに結合して環を形成してもよい。なかでもフェニル基が好ましい。Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは、炭素数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子(N、S、O、ハロゲン原子、Se)を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素数1〜12の炭化水素基を示す。Xは後述するZと同様に定義され、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0105】
【化23】

【0106】
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜12の炭化水素基を示す。重合性組成物の保存安定性から、R及びRは、炭素数2個以上の炭化水素基であることが好ましい。また、RとRとは互いに結合し環を形成してもよく、環を形成する際は5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0107】
Ar、Arは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y、Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R、Rは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素数12個以下のアルコキシ基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。R、R、R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Zaは、対アニオンを示す。ただし、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZaは必要ない。好ましいZaは、重合性組成物の保存安定性から、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0108】
好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落番号[0017]〜[0019]に記載されたものを挙げることができる。
【0109】
また、特に好ましい他の例として更に、特開2002−278057号公報に記載の特定インドレニンシアニン色素が挙げられる。
【0110】
顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0111】
これら増感色素の好ましい添加量は、重合性組成物の全固形分100質量部に対し、好ましくは0.05〜30質量部、更に好ましくは0.1〜20質量部、最も好ましくは0.2〜10質量部の範囲である。
【0112】
<(D)重合性化合物>
本発明における重合性組成物に用いる重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。これらは、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物などの化学的形態をもつ。モノマーの例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシ基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類あるいはエポキシ類との付加反応物、及び単官能若しくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。これらは、特表2006−508380号公報、特開2002−287344号公報、特開2008−256850号公報、特開2001−342222号公報、特開平9−179296号公報、特開平9−179297号公報、特開平9−179298号公報、特開2004−294935号公報、特開2006−243493号公報、特開2002−275129号公報、特開2003−64130号公報、特開2003−280187号公報、特開平10−333321号公報、を含む参照文献に記載されている。
【0113】
多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド(EO)変性トリアクリレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等がある。メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等がある。また、多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。
【0114】
また、イソシアネートとヒドロキシ基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(b)で示されるヒドロキシ基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
CH2=C(R)COOCH2CH(R)OH (b)
(ただし、R及びRは、H又はCH3を示す。)
【0115】
また、特開昭51−37193号公報、特公平2−32293号公報、特公平2−16765号公報、特開2003−344997号公報、特開2006−65210号公報に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号公報、特公昭56−17654号公報、特公昭62−39417号公報、特公昭62−39418号公報、特開2000−250211号公報、特開2007−94138号公報記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類や、米国特許第7153632号明細書、特表平8−505958号公報、特開2007−293221号公報、特開2007−293223号公報記載の親水基を有するウレタン化合物類も好適である。
【0116】
上記の中でも、機上現像性に関与する親水性と耐刷性に関与する重合能のバランスに優れる点から、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ビス(アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレートなどのイソシアヌル酸エチレンオキシド変性アクリレート類が特に好ましい。
【0117】
これらの重合性化合物の構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、重合性組成物の最終的な用途形態(例えば、平版印刷版原版など)の性能設計にあわせて任意に設定できる。上記の重合性化合物は、重合性組成物の全固形分に対して、好ましくは5〜75質量%、更に好ましくは10〜70質量%、特に好ましくは15〜60質量%の範囲で使用される。
【0118】
次に上記重合性組成物を、平版印刷版原版及び防水性部材、防曇性部材として使用する場合の好ましい態様、及びその使用形態について述べる。
【0119】
[平版印刷版原版に使用する場合]
本発明の平版印刷版原版は、上記の重合性組成物を含有する画像記録層を有する平版印刷版原版である。この平版印刷版原版は、必要に応じて、支持体と画像記録層の間に下塗り層を、画像記録層の上に保護層を有することができる。
【0120】
(画像記録層)
本発明における画像記録層は、上記重合性組成物を含有するが、更に必要に応じて、その他の化合物を含有することができる。以下、それらの化合物について説明する。
【0121】
(1)特定高分子化合物と併用可能なポリマーバインダー
本発明の画像記録層には、画像記録膜強度を向上させるため、ポリマーバインダーを用いることができる。本発明に用いることができるポリマーバインダーは、従来公知のものを制限なく使用でき、皮膜性を有するポリマーが好ましい。なかでも、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0122】
なかでも本発明に好適なポリマーバインダーとしては、特開2008−195018号公報に記載のような、画像部の皮膜強度を向上するための架橋性官能基を主鎖又は側鎖、好ましくは側鎖に有しているものが挙げられる。架橋性基によってポリマー分子間に架橋が形成され、硬化が促進する。
【0123】
架橋性官能基としては、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基、スチリル基などのエチレン性不飽和基やエポキシ基等が好ましく、これらの基は高分子反応や共重合によってポリマーに導入することができる。例えば、カルボキシ基を側鎖に有するアクリルポリマーやポリウレタンとグリシジルメタクリレートとの反応、あるいはエポキシ基を有するポリマーとメタクリル酸などのエチレン性不飽和基含有カルボン酸との反応を利用できる。
【0124】
ポリマーバインダー中の架橋性基の含有量は、ポリマーバインダー1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは0.25〜7.0mmol、最も好ましくは0.5〜5.5mmolである。
【0125】
また、本発明のポリマーバインダーは、更に親水性基を有することが好ましい。親水性基は画像記録層に機上現像性を付与するのに寄与する。特に、架橋性基と親水性基を共存させることにより、耐刷性と現像性の両立が可能になる。
【0126】
親水性基としては、たとえば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキレンオキシド構造、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、スルホ基、リン酸基等などがあり、なかでも、炭素数2又は3のアルキレンオキシド単位を1〜120個有するアルキレンオキシド構造が好ましく、2〜120個有するものが好ましい。ポリマーバインダーに親水性基を付与するには親水性基を有するモノマーを共重合すればよい。
これらのポリマーは例えば、国際公開第2003/087939号パンフレットに記載されているような微粒子であってもよく、平均粒径は30nm〜1000nmが好ましく、より好ましくは60nm〜300nmである。
【0127】
また、本発明のポリマーバインダーには、着肉性を制御するため、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基などの親油性の基を導入できる。具体的には、メタクリル酸アルキルエステルなどの親油性基含有モノマーを共重合すればよい。
【0128】
以下に本発明に用いられるポリマーバインダーの具体例(1)〜(11)を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお下記ポリマーバインダーの繰り返し単位の比はモル比である。
【0129】
【化24】

【0130】
【化25】

【0131】
なお、本発明におけるポリマーバインダーは質量平均モル質量(Mw)が2000以上であることが好ましく、5000以上であるのがより好ましく、1万〜30万であるのが更に好ましい。
【0132】
本発明では必要に応じて、特開2008−195018号公報に記載のポリアクリル酸、ポリビニルアルコールなどの親水性ポリマーを用いることができる。また、親油的なポリマーバインダーと親水的なポリマーバインダーを併用することもできる。
【0133】
ポリマーバインダーの含有量は、画像記録層の全固形分に対して、5〜90質量%であるのが好ましく、5〜80質量%であるのがより好ましく、10〜70質量%であるのが更に好ましい。
【0134】
(2)疎水化前駆体
本発明では、機上現像性を向上させるため、疎水化前駆体を用いることができる。本発明における疎水化前駆体とは、熱が加えられたときに画像記録層を疎水性に変換できる微粒子を意味する。微粒子としては、疎水性熱可塑性ポリマー微粒子、熱反応性ポリマー微粒子、重合性基を有するポリマー微粒子、疎水性化合物を内包しているマイクロカプセル、及びミクロゲル(架橋ポリマー微粒子)から選ばれる少なくともひとつであることが好ましい。なかでも、重合性基を有するポリマー微粒子及びミクロゲルが好ましい。
【0135】
疎水性熱可塑性ポリマー微粒子としては、1992年1月のResearch Disclosure No.333003、特開平9−123387号公報、同9−131850号公報、同9−171249号公報、同9−171250号公報及び欧州特許第931647号明細書などに記載の疎水性熱可塑性ポリマー微粒子を好適なものとして挙げることができる。
このようなポリマー微粒子を構成するポリマーの具体例としては、エチレン、スチレン、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルカルバゾール、ポリアルキレン構造を有するアクリレート又はメタクリレートなどのモノマーのホモポリマー若しくはコポリマー又はそれらの混合物を挙げることができる。その中で、より好適なものとして、ポリスチレン、スチレン及びアクリロニトリルを含む共重合体、ポリメタクリル酸メチルを挙げることができる。
【0136】
本発明に用いられる疎水性熱可塑性ポリマー微粒子の平均粒径は0.01〜2.0μmが好ましい。
【0137】
本発明に用いられる熱反応性ポリマー微粒子としては、熱反応性基を有するポリマー微粒子が挙げられ、これらは、熱反応による架橋、及びその際の官能基変化により疎水化領域を形成する。
【0138】
本発明に用いる熱反応性基を有するポリマー微粒子における熱反応性基としては、化学結合が形成されるならば、どのような反応を行う官能基でもよいが、重合性基であることが好ましく、その例として、ラジカル重合反応を行うエチレン性不飽和基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基など)、カチオン重合性基(例えば、ビニル基、ビニルオキシ基、エポキシ基、オキセタニル基など)、付加反応を行うイソシアナート基又はそのブロック体、エポキシ基、ビニルオキシ基及びこれらの反応相手である活性水素原子を有する官能基(例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基など)、縮合反応を行うカルボキシ基及び反応相手であるヒドロキシ基又はアミノ基、開環付加反応を行う酸無水物及び反応相手であるアミノ基又はヒドロキシ基などを好適なものとして挙げることができる。
【0139】
本発明で用いられるマイクロカプセルとしては、例えば、特開2001−277740号公報、特開2001−277742号公報に記載のごとく、画像記録層の構成成分の全て又は一部をマイクロカプセルに内包させたものである。なお、画像記録層の構成成分は、マイクロカプセル外にも含有させることもできる。更に、マイクロカプセルを含有する画像記録層は、疎水性の構成成分をマイクロカプセルに内包し、親水性の構成成分をマイクロカプセル外に含有することが好ましい態様である。
【0140】
本発明においては、架橋樹脂粒子、すなわちミクロゲルを含有する態様であってもよい。このミクロゲルは、その中又は表面の少なくとも一方に、画像記録層の構成成分の一部を含有することができ、特に、ラジカル重合性基をその表面に有することによって反応性ミクロゲルとした態様が、画像形成感度や耐刷性の観点から特に好ましい。
【0141】
画像記録層の構成成分をマイクロカプセル化、若しくはミクロゲル化する方法としては、公知の方法が適用できる。
【0142】
上記のマイクロカプセルやミクロゲルの平均粒径は、0.01〜3.0μmが好ましい。0.05〜2.0μmが更に好ましく、0.10〜1.0μmが特に好ましい。この範囲内で良好な解像度と経時安定性が得られる。
【0143】
疎水化前駆体の含有量としては、画像記録層全固形分の5〜90質量%の範囲であることが好ましい。
【0144】
(3)低分子親水性化合物
本発明における画像記録層は、耐刷性を低下させることなく機上現像性を向上させるために、低分子親水性化合物を含有してもよい。
低分子親水性化合物としては、例えば、水溶性有機化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類及びそのエーテル又はエステル誘導体類、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等のポリオール類、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等の有機アミン類及びその塩、アルキルスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸類及びその塩、アルキルスルファミン酸等の有機スルファミン酸類及びその塩、アルキル硫酸、アルキルエーテル硫酸等の有機硫酸類及びその塩、フェニルホスホン酸等の有機ホスホン酸類及びその塩、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、アミノ酸類等の有機カルボン酸類及びその塩、ベタイン類、等が挙げられる。
【0145】
本発明においてはこれらの中でも、ポリオール類、有機硫酸塩類、有機スルホン酸塩類、ベタイン類の群から選ばれる少なくとも一つを含有させることが好ましい。
【0146】
有機スルホン酸塩の具体的な化合物としては、n−ブチルスルホン酸ナトリウム、n−ヘキシルスルホン酸ナトリウム、2−エチルヘキシルスルホン酸ナトリウム、シクロヘキシルスルホン酸ナトリウム、n−オクチルスルホン酸ナトリウムなどのアルキルスルホン酸塩;5,8,11−トリオキサペンタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、5,8,11−トリオキサヘプタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、13−エチル−5,8,11−トリオキサヘプタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、5,8,11,14−テトラオキサテトラデコサン−1−スルホン酸ナトリウムなどのエチレンオキシド鎖を含むアルキルスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウム、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、p−ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、p−スチレンスルホン酸ナトリウム、イソフタル酸ジメチル−5−スルホン酸ナトリウム、1−ナフチルスルホン酸ナトリウム、4−ヒドロキシナフチルスルホン酸ナトリウム、1,5−ナフタレンジスルホン酸ジナトリウム、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸トリナトリウムなどのアリールスルホン酸塩、特開2007−276454号公報段落番号〔0026〕〜〔0031〕、特開2009−154525号公報段落番号〔0020〕〜〔0047〕に記載の化合物などが挙げられる。塩は、カリウム塩、リチウム塩でもよい。
【0147】
有機硫酸塩としては、ポリエチレンオキシドのアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール又は複素環モノエーテルの硫酸塩が挙げられる。エチレンオキシド単位は1〜4であるのが好ましく、塩は、ナトリウム塩、カリウム塩又はリチウム塩が好ましい。これらの具体例としては、特開2007−276454号公報段落番号〔0034〕〜〔0038〕に記載の化合物が挙げられる。
【0148】
ベタイン類としては、窒素原子への炭化水素置換基の炭素数が1〜5である化合物が好ましく、具体例としては、トリメチルアンモニウムアセタート、ジメチルプロピルアンモニウムアセタート、3−ヒドロキシ−4−トリメチルアンモニオブチラート、4−(1−ピリジニオ)ブチラート、1−ヒドロキシエチル−1−イミダゾリオアセタート、トリメチルアンモニウムメタンスルホナート、ジメチルプロピルアンモニウムメタンスルホナート、3−トリメチルアンモニオ−1−プロパンスルホナート、3−(1−ピリジニオ)−1−プロパンスルホナートなどが挙げられる。
【0149】
上記の低分子親水性化合物は、疎水性部分の構造が小さくて界面活性作用がほとんどないため、湿し水が画像記録層露光部(画像部)へ浸透して画像部の疎水性や皮膜強度を低下させることがなく、画像記録層のインキ受容性や耐刷性を良好に維持できる。
【0150】
これら低分子親水性化合物の画像記録層への添加量は、画像記録層全固形分量の0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1質量%以上15質量%以下であり、更に好ましくは2質量%以上10質量%以下である。この範囲で良好な機上現像性と耐刷性が得られる。
これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0151】
(4)感脂化剤
本発明の画像記録層には、着肉性を向上させるために、画像記録層にホスホニウム化合物、含窒素低分子化合物、アンモニウム基含有ポリマーなどの感脂化剤を用いることができる。特に、保護層に無機質の層状化合物を含有させる場合、これらの化合物は、無機質の層状化合物の表面被覆剤として機能し、無機質の層状化合物による印刷途中の着肉性低下を防止する。
【0152】
好適なホスホニウム化合物としては、特開2006−297907号公報及び特開2007−50660号公報に記載のホスホニウム化合物を挙げることができる。具体例としては、テトラブチルホスホニウムヨージド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、1,4−ビス(トリフェニルホスホニオ)ブタン=ジ(ヘキサフルオロホスファート)、1,7−ビス(トリフェニルホスホニオ)ヘプタン=スルファート、1,9−ビス(トリフェニルホスホニオ)ノナン=ナフタレン−2,7−ジスルホナートなどが挙げられる。
【0153】
上記含窒素低分子化合物としては、アミン塩類、第4級アンモニウム塩類が挙げられる。またイミダゾリニウム塩類、ベンゾイミダゾリニウム塩類、ピリジニウム塩類、キノリニウム塩類も挙げられる。なかでも、第4級アンモニウム塩類、及びピリジニウム塩類が好ましい。具体例としては、テトラメチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、テトラブチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ドデシルトリメチルアンモニウム=p−トルエンスルホナート、ベンジルトリエチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ベンジルジメチルオクチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、特開2008−284858号公報の段落番号[0021]〜[0037]、特開2009−90645号公報の段落番号[0030]〜[0057]に記載の化合物などが挙げられる。
【0154】
上記アンモニウム基含有ポリマーとしては、その構造中にアンモニウム基を有すれば如何なるものでもよいが、側鎖にアンモニウム基を有する(メタ)アクリレートを共重合成分として5〜80モル%含有するポリマーが好ましい。具体例としては、特開2009−208458号公報の段落番号[0089]〜[0105]に記載のポリマーが挙げられる。
【0155】
上記アンモニウム塩含有ポリマーは、下記の測定方法で求められる還元比粘度(単位:ml/g)の値で、5〜120の範囲のものが好ましく、10〜110の範囲のものがより好ましく、15〜100の範囲のものが特に好ましい。上記還元比粘度を質量平均モル質量に換算すると、10000〜150000が好ましく、17000〜140000がより好ましく、20000〜130000が特に好ましい。
【0156】
<還元比粘度の測定方法>
30質量%ポリマー溶液3.33g(固形分として1g)を、20mlのメスフラスコに秤量し、N−メチルピロリドンでメスアップする。この溶液を30℃の恒温槽で30分間静置し、ウベローデ還元比粘度管(粘度計定数=0.010cSt/s)に入れて30℃にて流れ落ちる時間を測定する。なお測定は同一サンプルで2回測定し、その平均値を算出する。同様にブランク(N−メチルピロリドンのみ)の場合も測定し、下記式から還元比粘度(ml/g)を算出した。
【0157】
【数1】

【0158】
以下に、アンモニウム基含有ポリマーの具体例を示す。
(1)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=p−トルエンスルホナート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比10/90 Mw4.5万)
(2)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw6.0万)
(3)2−(エチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=p−トルエンスルホナート/ヘキシルメタクリレート共重合体(モル比30/70 Mw4.5万)
(4)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/2−エチルヘキシルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw6.0万)
(5)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=メチルスルファート/ヘキシルメタクリレート共重合体(モル比40/60 Mw7.0万)
(6)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比 25/75 Mw6.5万)
(7)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルアクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw6.5万)
(8)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=13−エチル−5,8,11−トリオキサ−1−ヘプタデカンスルホナート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw7.5万)
(9)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート/2−ヒドロキシ−3−メタクロイルオキシプロピルメタクリレート共重合体(モル比15/80/5 Mw6.5万)
【0159】
上記感脂化剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して0.01〜30.0質量%が好ましく、0.1〜15.0質量%がより好ましく、1〜10質量%が更に好ましい。
【0160】
(5)連鎖移動剤
画像記録層は、更に連鎖移動剤を含有することができる。連鎖移動剤としては、例えば、分子内にSH、PH、SiH、GeHを有する化合物群が用いられる。これらは、低活性のラジカル種に水素供与して、ラジカルを生成するか、若しくは、酸化された後、脱プロトンすることによりラジカルを生成しうる。
画像記録層には、特に、チオール化合物(例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール類、2−メルカプトベンズチアゾール類、2−メルカプトベンズオキサゾール類、3−メルカプトトリアゾール類、5−メルカプトテトラゾール類、等)を連鎖移動剤として好ましく用いることができる。
連鎖移動剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して1〜10質量%が好ましい。
【0161】
(6)その他
更にその他の成分として、界面活性剤、着色剤、焼き出し剤、重合禁止剤、高級脂肪酸誘導体、可塑剤、無機微粒子、無機質層状化合物などを添加することができる。具体的には、特開2008−284817号公報の段落番号[0114]〜[0159]、特開2006−091479号公報の段落番号[0023]〜[0027]、米国特許公開2008/0311520号明細書[0060]に記載の化合物及び添加量が好ましい。
【0162】
<画像記録層の形成>
本発明を平版印刷版原版に適用した場合、画像記録層は、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0142]〜[0143]に記載のように、必要な上記各成分を公知の溶剤に分散又は溶解して塗布液を調製し、これを支持体上にバーコーター塗布など公知の方法で塗布し、乾燥することで形成される。塗布、乾燥後に得られる支持体上の画像記録層塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般的に0.3〜3.0g/mが好ましい。この範囲で、良好な感度と画像記録層の良好な皮膜特性が得られる。
【0163】
画像記録層は、露光後にpH2〜11の現像液が供給されることによって未露光部が除去されることが好ましく、画像記録層中の各成分の種類及び量の少なくとも一方を、適宜、調整することにより、このような画像記録層を構成することができる。
また、画像記録層は、露光後に印刷機上で印刷インキ及び湿し水の少なくとも一方が供給されることによって未露光部が除去されることが好ましく、画像記録層中の各成分の種類及び量の少なくとも一方を、適宜、調整することにより、このような画像記録層を構成することができる。
【0164】
塗布液に使用する溶剤としては、2−ブタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、γ−ブチルラクトン等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独又は混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0165】
塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。
【0166】
(下塗り層)
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層と支持体との間に下塗り層(中間層と呼ばれることもある)を設けることが好ましい。下塗り層は、露光部においては支持体と画像記録層との密着を強化し、未露光部においては画像記録層の支持体からのはく離を生じやすくさせるため、耐刷性を損なわず現像性を向上させるのに寄与する。
【0167】
下塗り層を設ける場合には、下塗り層用化合物として、従来公知の下塗り層用高分子化合物が用いられる。
【0168】
下塗り層には、上記高分子化合物の他に、公知の、キレート剤、第2級又は第3級アミン、重合禁止剤、アミノ基又は重合禁止能を有する官能基とアルミニウム支持体表面と相互作用する基とを有する化合物等(例えば、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、2,3,5,6−テトラヒドロキシ−p−キノン、クロラニル、スルホフタル酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸など)を含有することができる。
【0169】
下塗り層は、公知の方法で塗布される。下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/m2であるのが好ましく、1〜30mg/m2であるのがより好ましい。
【0170】
(保護層)
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層の上に保護層(オーバーコート層)を設けることが好ましい。保護層は酸素遮断によって画像形成阻害反応を抑制する機能の他、画像記録層における傷の発生防止、及び高照度レーザー露光時のアブレーション防止の機能を有する。
【0171】
このような特性の保護層については、例えば、米国特許第3,458,311号明細書及び特公昭55−49729号公報に記載されている。保護層に用いられる酸素低透過性のポリマーとしては、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマーのいずれをも適宜選択して使用することができ、必要に応じて2種類以上を混合して使用することもできる。具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース誘導体、ポリ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
変性ポリビニルアルコールとしては、カルボキシ基又はスルホ基を有する酸変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。具体的には、特開2005−250216号公報、特開2006−259137号公報記載の変性ポリビニルアルコールが好適に挙げられる。
【0172】
また、保護層には酸素遮断性を高めるため、特開2005−119273号公報に記載のように天然雲母、合成雲母等の無機質の層状化合物を含有することが好ましい。
また、保護層には、可撓性付与のための可塑剤、塗布性を向上させための界面活性剤、表面の滑り性を制御する無機微粒子など公知の添加物を含むことができる。また、画像記録層の説明に記載した感脂化剤を保護層に含有させることもできる。
【0173】
保護層は、公知の方法で塗布される。保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.01〜10g/mの範囲であることが好ましく、0.02〜3g/mの範囲がより好ましく、最も好ましくは0.02〜1g/mの範囲である。
【0174】
(支持体)
本発明の平版印刷版原版の支持体には、公知の支持体が用いられる。なかでも、公知の方法で粗面化処理され、陽極酸化処理されたアルミニウム板が好ましい。
また、上記アルミニウム板は必要に応じて、特開2001−253181号公報や特開2001−322365号公報に記載されている陽極酸化皮膜のマイクロポアの拡大処理や封孔処理、及び米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、同第3,280,734号及び同第3,902,734号の各明細書に記載されているようなアルカリ金属シリケートあるいは米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号及び同第4,689,272号の各明細書に記載されているようなポリビニルホスホン酸などによる表面親水化処理を適宜選択して行うことができる。
支持体は、中心線平均粗さが0.10〜1.2μmであるのが好ましい。
【0175】
本発明の支持体には必要に応じて、裏面に、特開平5−45885号公報に記載されている有機ポリマーバインダー、特開平6−35174号公報に記載されているケイ素のアルコキシ化合物を含むバックコート層を設けることができる。
【0176】
〔製版方法〕
本発明における平版印刷版原版を画像露光して現像処理を行うことで平版印刷版を作製する。現像処理としては、(1)アルカリ現像液(pHが11より大きい)にて現像する方法、(2)pHが2〜11の現像液にて現像する方法、(3)印刷機上で、湿し水及び/又はインキを加えながら現像する方法(機上現像)が挙げられるが、本発明においては、(2)pHが2〜11の現像液にて現像する方法、(3)印刷機上で、湿し水及び/又はインキを加えながら現像する方法(機上現像)が好ましい。
【0177】
<機上現像方法>
機上現像は、画像露光後の平版印刷版原版を、なんらの現像処理を施すことなく、印刷機に装着したのち、油性インキと水性成分とを供給して印刷を開始することによって行う。すなわち、この印刷途上の初期段階で、油性インキ及び/又は水性成分により未露光領域の画像記録層が溶解又は分散して除去され、親水性支持体表面が露出して非画像部が形成される。一方、露光により硬化した画像記録層が、親油性表面を有する印刷インキ受容部(画像部)を形成する。その結果、湿し水は露出した親水性の表面に付着し、印刷インキは露光領域の画像記録層に着肉して通常の印刷が可能になる。
【0178】
画像様の露光は平版印刷版原版を印刷機に装着した後、印刷機上で行ってもよいし、プレートセッターなどで別途行ってもよい。油性インキ及び水性成分としては、通常の平版印刷用の印刷インキと湿し水が用いられる。
ここで、最初に版面に供給されるのは、湿し水でもよく、印刷インキでもよいが、湿し水が除去された画像記録層成分によって汚染されることを防止する点で、最初に印刷インキを供給するのが好ましい。
【0179】
<pHが2〜11の現像液にて現像する方法>
(1)のアルカリ現像液を用いた通常の現像工程においては、前水洗工程により保護層を除去し、次いでアルカリ現像を行い、後水洗工程でアルカリを水洗除去し、ガム液処理を行い、乾燥工程で乾燥するが、本発明の平版印刷版原版を用いてpH2〜11の現像液で現像する場合は、保護層及び非露光部の画像記録層を一括除去した後、直ちに印刷機にセットして印刷することができる。このようなpH2〜11の現像液は、現像液中に界面活性剤及び/又は不感脂化性の水溶性ポリマーを含有することにより、現像とガム液処理を同時に行うことができ、アルカリ現像後に行われていた後水洗工程は特に必要とせず、一液で現像とガム液処理を行ったのち、乾燥工程を行うことができる。乾燥は、現像及びガム処理の後に、スクイズローラを用いて余剰の現像液を除去した後、行うことが好ましい。すなわち、一液による現像・ガム処理−乾燥という大幅に簡略された処理工程(ガム現像)が可能となる。
本発明における現像は、常法に従って、液温0〜60℃、好ましくは15〜40℃で、画像露光した平版印刷版原版を、例えば、現像液に浸漬してブラシで擦る方法、スプレーにより現像液を吹き付けてブラシで擦る方法等により行う。
【0180】
上記pH2〜11の現像液としては、水を主成分(現像液質量の60質量%以上含有)とする水溶液が好ましく、特に、界面活性剤(アニオン系、ノニオン系、カチオン系、両性イオン系等)を含有する水溶液や、水溶性ポリマーを含有する水溶液が好ましい。界面活性剤と水溶性ポリマーの両方を含有する水溶液も好ましい。該現像液のpHは、より好ましくは5〜10.7、更に好ましくは6〜10.5、最も好ましくは7.5〜10.3である。
【0181】
上記現像液に用いられるアニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム類、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ヒマシ油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。これらの中でも、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0182】
上記現像液に用いられるカチオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、従来公知のものを用いることができる。例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、アルキルイミダゾリニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体が挙げられる。
【0183】
上記現像液に用いられるノニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール型の高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、アルキルナフトールエチレンオキサイド付加物、フェノールエチレンオキサイド付加物、ナフトールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ジメチルシロキサン−エチレンオキサイドブロックコポリマー、ジメチルシロキサン−(プロピレンオキサイド−エチレンオキサイド)ブロックコポリマー等や、多価アルコール型のグリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。この中でも、芳香環とエチレンオキサイド鎖を有するものが好ましく、アルキル置換又は無置換のフェノールエチレンオキサイド付加物又は、アルキル置換又は無置換のナフトールエチレンオキサイド付加物がより好ましい。
上記現像液に用いられる両性イオン系界面活性剤は、特に限定されず、アルキルジメチルアミンオキシドなどのアミンオキシド系、アルキルベタインなどのベタイン系、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウムなどのアミノ酸系等が挙げられる。特に、置換基を有してもよいアルキルジメチルアミンオキシド、置換基を有してもよいアルキルカルボキシベタイン、置換基を有してもよいアルキルスルホベタインが好ましく用いられる。これらの具体例は、特開2008−203359号の段落番号[0255]〜[0278]、特開2008−276166号の段落番号[0028]〜[0052]等に記載されている。更に好ましい具体例としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、N−ラウリン酸アミドプロピルジメチルベタイン、N−ラウリン酸アミドプロピルジメチルアミンオキシド等が挙げられる。
【0184】
界面活性剤は2種以上用いてもよく、現像液中に含有する界面活性剤の比率は、0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましい。
【0185】
また、上記pH2〜11の現像液に用いられる水溶性ポリマーとしては、大豆多糖類、変性澱粉、アラビアガム、デキストリン、繊維素誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース等)及びその変性体、プルラン、ポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びアクリルアミド共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0186】
上記大豆多糖類は、公知のものが使用でき、例えば市販品として商品名ソヤファイブ(不二製油(株)製)があり、各種グレードのものを使用することができる。好ましく使用できるものは、10質量%水溶液の粘度が10〜100mPa/secの範囲にあるものである。
【0187】
上記変性澱粉も、公知のものが使用でき、トウモロコシ、じゃがいも、タピオカ、米、小麦等の澱粉を酸又は酵素等で1分子当たりグルコース残基数5〜30の範囲で分解し、更にアルカリ中でオキシプロピレンを付加する方法等で作ることができる。
【0188】
水溶性ポリマーは2種以上を併用することもできる。水溶性ポリマーの現像液中における含有量は、0.1〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0189】
本発明で使用するpH2〜11の現像液には、更にpH緩衝剤を含ませることができる。
pH緩衝剤としては、pH2〜11に緩衝作用を発揮する緩衝剤であれば特に限定なく用いることができる。本発明においては弱アルカリ性の緩衝剤が好ましく用いられ、例えば(a)炭酸イオン及び炭酸水素イオン、(b)ホウ酸イオン、(c)水溶性のアミン化合物及びそのアミン化合物のイオン、及びそれらの併用などが挙げられる。すなわち、例えば(a)炭酸イオン−炭酸水素イオンの組み合わせ、(b)ホウ酸イオン、又は(c)水溶性のアミン化合物−そのアミン化合物のイオンの組み合わせなどが、現像液においてpH緩衝作用を発揮し、現像液を長期間使用してもpHの変動を抑制でき、pHの変動による現像性低下、現像カス発生等を抑制できる。特に好ましくは、炭酸イオン及び炭酸水素イオンの組み合わせである。
【0190】
炭酸イオン、炭酸水素イオンを現像液中に存在させるには、炭酸塩と炭酸水素塩を現像液に加えてもよいし、炭酸塩又は炭酸水素塩を加えた後にpHを調整することで、炭酸イオンと炭酸水素イオンを発生させてもよい。炭酸塩及び炭酸水素塩は、特に限定されないが、アルカリ金属塩であることが好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられ、ナトリウムが特に好ましい。これらは単独でも、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0191】
pH緩衝剤として(a)炭酸イオンと炭酸水素イオンの組み合わせを採用するとき、炭酸イオン及び炭酸水素イオンの総量は、現像液の全質量に対して0.05〜5mol/Lが好ましく、0.1〜2mol/Lがより好ましく、0.2〜1mol/Lが特に好ましい。
【0192】
また、上記現像液には、有機溶剤を含有してもよい。含有可能な有機溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、“アイソパーE、H、G”(エッソ化学(株)製)等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、あるいはハロゲン化炭化水素(メチレンジクロライド、エチレンジクロライド、トリクレン、モノクロルベンゼン等)や、極性溶剤が挙げられる。極性溶剤としては、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、1−デカノール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、2−エトキシエタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、メチルフェニルカルビノール、n−アミルアルコール、メチルアミルアルコール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、エチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸ベンジル、乳酸メチル、乳酸ブチル、エチレングリコールモノブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールアセテート、ジエチルフタレート、レブリン酸ブチル等)、その他(トリエチルフォスフェート、トリクレジルホスフェート、N−フェニルエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等)等が挙げられる。
現像液に含有する有機溶剤は、2種以上を併用することもできる。
【0193】
また、上記有機溶剤が水に不溶な場合は、界面活性剤等を用いて水に可溶化して使用することも可能であり、現像液に、有機溶剤を含有する場合は、安全性、引火性の観点から、溶剤の濃度は40質量%未満が望ましい。
【0194】
pH2〜11の現像液には上記の他に、防腐剤、キレート化合物、消泡剤、有機酸、無機酸、無機塩などを含有することができる。具体的には、特開2007−206217号公報段落番号〔0266〕〜〔0270〕に記載の化合物を好ましく用いることができる。
【0195】
上記の現像液は、露光された平版印刷版原版の現像液及び現像補充液として用いることができ、後述の自動処理機に適用することが好ましい。自動処理機を用いて現像する場合、処理量に応じて現像液が疲労してくるので、補充液又は新鮮な現像液を用いて処理能力を回復させてもよい。
【0196】
本発明におけるpH2〜11の現像液による現像処理は、現像液の供給手段及び擦り部材を備えた自動処理機により好適に実施することができる。擦り部材として、回転ブラシロールを用いる自動処理機が特に好ましい。更に自動処理機は現像処理手段の後に、スクイズローラ等の余剰の現像液を除去する手段や、温風装置等の乾燥手段を備えていることが好ましい。
【0197】
その他、本発明の平版印刷版原版からの平版印刷版の製版プロセスとしては、必要に応じ、露光前、露光中、露光から現像までの間に、全面を加熱してもよい。この様な加熱により、該画像記録層中の画像形成反応が促進され、感度や耐刷性の向上や感度の安定化といった利点が生じ得る。更に、画像強度・耐刷性の向上を目的として、現像後の画像に対し、全面後加熱若しくは全面露光を行う事も有効である。通常現像前の加熱は150℃以下の穏和な条件で行う事が好ましい。温度が高すぎると、未露光部が硬化してしまう等の問題を生じる。現像後の加熱には非常に強い条件を利用する。通常は100〜500℃の範囲である。温度が低いと十分な画像強化作用が得られず、高すぎる場合には支持体の劣化、画像部の熱分解といった問題を生じる。
【0198】
<画像露光>
上記の現像処理に先立って、平版印刷版原版は、線画像、網点画像等を有する透明原画を通してレーザー露光するかデジタルデータによるレーザー光走査等で画像様に露光される。
望ましい光源の波長は350nmから450nm又は750nmから1400nmの波長が好ましく用いられる。350nmから450nmの場合は、この領域に吸収極大を有する増感色素を画像記録層に有する平版印刷版原版が用いられ、750nmから1400nmの場合は、この領域に吸収を有する増感色素である赤外線吸収剤を含有する平版印刷版原版が用いられる。350nmから450nmの光源としては、半導体レーザーが好適である。750nmから1400nmの光源としては、赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーが好適である。露光機構は、内面ドラム方式、外面ドラム方式、フラットベッド方式等の何れでもよい。
赤外線レーザーに関しては、出力は100mW以上であることが好ましく、1画素当たりの露光時間は20マイクロ秒以内であるのが好ましく、また照射エネルギー量は10〜300mJ/cmであるのが好ましい。
レーザーにおいては、露光時間を短縮するためマルチビームレーザーデバイスを用いるのが好ましい。
【0199】
現像液処理を必要とする平版印刷版原版の場合は、画像露光後、現像処理して得た平版印刷版を印刷機の版胴に装着して、印刷を行う。
機上現像型の平版印刷版原版の場合は、画像露光後、そのまま印刷機の版胴に装着して印刷を開始する。レーザー露光装置付きの印刷機の場合は、平版印刷版原版を印刷機の版胴に装着したのち画像露光される。
【0200】
[防汚性部材、防曇性部材として使用する場合]
本発明における防汚性部材、防曇性部材とは、本発明の重合性組成物を重合硬化させた良好な防汚性、防曇性を有する重合硬化膜を備えた部材をいう。本発明の重合性組成物から得られる重合硬化膜は、架橋膜であり、更にウレア構造間の水素結合の形成によって高強度の硬化膜となっているため、高親水性成分を有しているにもかかわらず、水による膨潤を受けにくく、耐傷性が高い。このため、この重合硬化膜を有する部材は、防汚性部材、防曇性部材として使用することができる。その好ましい態様と使用形式を詳細に説明する。
【0201】
<防汚性部材>
前記本発明の重合性組成物から得られる重合硬化膜は、高い親水性とその持続性を有するため、部材表面に硬化膜を形成することで、部材表面への油性汚れの付着を防止することができる。すなわち、その高い表面親水性により、油性の汚れ、例えば、人が使用することによって付着する指紋、皮脂、汗、化粧品等の汚れ、あるいは、工場や調理設備における油性の汚れが、その表面に付着し難くなり、あるいは、付着した場合でも、拭き取りや水洗などにより容易に除去できるようになる。
本発明の防汚性部材は、重合性組成物を、適切な基材上に塗布し、乾燥したのち、光照射によって塗膜を硬化膜にすることにより得ることができる。
本発明の防汚性部材の一般的な応用例としては、反射防止膜、光学フィルター、光学レンズ、眼鏡レンズ、鏡等の光学部材の表面における使用が挙げられる。
【0202】
本発明に係わる重合硬化膜が用いられる基材には制限はなく、本発明に係わる重合硬化膜が形成されるものであれば、どのような基材にも用いることができる。
例えば、特に光学部材に使用する場合には、透明な基材が好ましく、その材質はガラスや、酸化チタン、ITO(Indium Tin Oxide)等の金属酸化物;フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等の金属ハロゲン化物;などで形成した無機化合物層を備えたガラス板等の無機基材や、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、あるいは、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、アクリル系樹脂、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セロファン等のセルロース系樹脂などの可視光透過性のプラスチック類や、前記ガラス板に積層したのと同様の無機化合物層を有する透明プラスチック板等が好適に利用できる。
【0203】
本発明の重合性組成物を適用しうる基材については、本願出願人が先に提案した特開2003−206472公報の段落番号〔0029〕乃至〔0036〕に詳細に記載され、このような基材を本発明に係る架橋親水性膜を形成するための基材として使用しうる。
また、重合性組成物溶液を基材に塗布する前に、必要に応じて、基材表面を表面処理したり、下塗り層を設けたりすることができる。表面処理及び下塗り処理の方法としては、特開2009−256575号公報に記載の方法が挙げられる。
【0204】
基材に塗布して得られた重合性組成物膜は、光照射して耐久性のある重合硬化膜にすることによって防汚性部材がつくられる。光照射の光源としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、中圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、各種レーザーなどが挙げられる。光照射は、大気中でもよいが、窒素置換した雰囲気下、又は減圧若しくは真空下で行うのが好ましい。本発明の重合性組成物による部材は、重合硬化膜を有する基板をイオン交換水に浸漬、洗浄し、約100℃、1分乾燥させ、重合硬化膜における架橋構造形成を促進できる。
【0205】
前記親水性硬化膜の厚さは、0.1μm〜10μmが好ましく、0.1μm〜5μmがより好ましい。上記範囲であれば乾燥むら等の欠陥が生じることがなく、親水性を充分発揮するため好ましい。
【0206】
本発明の防汚性部材の適用可能な用途としては、車両用バックミラー、浴室用鏡、洗面所用鏡、歯科用鏡、道路鏡のような鏡;眼鏡レンズ、光学レンズ、写真機レンズ、内視鏡レンズ、照明用レンズ、半導体用レンズ、複写機用レンズのようなレンズ;プリズム、ブラウン管等が挙げられ、光学部材以外の用途としては、建物や監視塔の窓ガラス;自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、ロープウエイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、宇宙船のような乗物の窓ガラス;自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、スノーモービル、オートバイ、ロープウエイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、宇宙船のような乗物の風防ガラス;防護用ゴーグル、スポーツ用ゴーグル、防護用マスクのシールド、スポーツ用マスクのシールド、ヘルメットのシールド、冷凍食品陳列ケースのガラス;計測機器のカバーガラス、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルムなどが挙げられる。
【0207】
防汚性部材を、透明性を必要としない基材に適用しようとする場合には、上記の透明基材に加えて、例えば、金属、セラミックス、木、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、それらの組み合わせ、それらの積層体などが、いずれも好適に利用できるが、適用可能な用途としては、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、構造部材、乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、交通標識、各種表示装置、広告塔、道路用防音壁、鉄道用防音壁、橋梁、ガードレールの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー、ビニールハウス、車両用照明灯のカバー、住宅設備、便器、浴槽、洗面台、照明器具、照明カバー、台所用品、食器、食器洗浄器、食器乾燥器、流し、調理レンジ、キッチンフード、換気扇、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルム、家庭用電気製品のハウジングや部品や外装及び塗装、OA機器製品のハウジングや部品や外装及び塗装、及び上記物品表面に貼付させるためのフィルムなどが挙げられる。
【0208】
<防曇性部材>
前記本発明の重合硬化膜を有する部材は、高い親水性とその持続性を表面に有するので、部材表面の結露による水滴の付着を効果的に防止することができ、防曇部材として有用である。すなわち、親水性膜により高い親水性を有する表面は、温度や湿度の影響で大気中の水蒸気が結露して表面に付着した場合でも、表面に水滴を形成することなく、速やかに拡散することから、表面の曇りを抑制することができる。
このため、本発明の上記部材は、反射防止膜、光学フィルター、光学レンズ、眼鏡レンズ、鏡等の光学部材、あるいは、視認性を必要とする窓ガラスや車両ガラスなどにおいて、防曇部材として好適に使用しうる。
防曇性部材に適用可能な基材は、先に防汚性部材において挙げたものと同様であり、また、用途も同様である。防汚性部材の用途として挙げた態様において、油性汚れの付着のみならず、高い親水性による結露の防止を必要とする部材に、本発明は好適に使用することができる。
【実施例】
【0209】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、高分子化合物の分子量は質量平均モル質量(Mw)であり、本発明の特定高分子化合物及び比較用高分子化合物についての繰り返し単位の比率はモル百分率、その他の高分子化合物についての繰り返し単位の比率はモル百分率である。
【0210】
[特定高分子化合物の合成例]
【0211】
〔合成例1:特定高分子化合物(33)の合成〕
(1)N−アミノエチルメタクリルアミドの合成
エチレンジアミン24.04g(0.4mol)を、メタノール100ml及び蒸留水96gに溶解させ、氷冷しながら、5.0M塩酸104g(0.52mol)を加える。−10℃を維持しながら、メタクリル酸無水物61.65gを滴下し、滴下後、−10℃で2時間攪拌する。その後、酢酸エチル400mlを加えて抽出を行い、水層を集める。集めた水層に、水酸化ナトリウム21g(0.52mol)を加えて、析出する白色結晶をろ過で除去し、アセトニトリル400mlで、抽出処理を行う。アセトニトリル溶液を硫酸マグネシウム40gで2時間乾燥後、アセトニトリルを留去し、14.4gのN−アミノエチルメタクリルアミドを得た。(収率28%)
【0212】
(2)4−スルホナトブチル[3−(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニウムの合成
N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド 130g(0.764mol)、ブタンスルトン 104g、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシ 234mgを、アセトニトリル380mlに溶解させて、70℃で6時間加熱した。放冷後、アセトン 1350ml及びメタノール150mlを加えて、室温で1時間撹拌し、析出した結晶をろ過し、アセトンで結晶をよく洗浄し、4−スルホナトブチル[3−(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニウム 200.0gを得た。(収率:85%)
【0213】
(3)重合工程
コンデンサー、攪拌器を取り付けた500mlフラスコに、蒸留水:87.4gを入れ、窒素気流下、55℃まで加熱した。上記で合成した、N−アミノエチルメタクリルアミド 2.56g、及び、4−スルホナトブチル[3−(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチルアンモニウム24.51g、メタクリル酸メチル 10.01g(和光純薬工業(株)製)、重合開始剤VA046B(和光純薬工業(株)製):0.965g、蒸留水:87.4gからなる溶液を、2時間かけて滴下した。滴下終了後、55℃で2時間撹拌し、重合開始剤VA046B(和光純薬工業(株)製):0.965gを加え、55℃のまま2時間更に撹拌し、特定高分子化合物(33)前駆体を得た。
上記で得られた特定高分子化合物(33)前駆体に、カレンズMOI(昭和電工(株)製) 33.51gを加え、40℃のまま6時間攪拌した。その後、析出した白色結晶物をろ過で除去し、特定高分子化合物(33)を得た。得られた特定高分子化合物(33)を、ポリエチレングリコールを標準物質としたゲルバミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、質量平均モル質量(Mw)を測定した結果、100,000であった。
【0214】
本実施例に用いた前述した特定高分子化合物(31)、(32)、(34)〜(68)は、上記合成例の繰り返し単位のモノマー成分、及び重合開始剤VA046B量を変更すること、更に必要により既存の合成手法により合成を行った。
また、以下に比較例で用いる比較用高分子化合物(R−1)〜(R−6)の構造を示す。
【0215】
【化26】

【0216】
[実施例1〜20及び比較例1〜3]
【0217】
〔平版印刷版原版(1)〜(20)及び(R−1)〜(R−3)の作製と評価〕
【0218】
(1)支持体の作製
厚み0.3mmのアルミニウム板(材質JIS A 1050)の表面の圧延油を除去するため、10質量%アルミン酸ソーダ水溶液を用いて50℃で30秒間、脱脂処理を施した後、毛径0.3mmの束植ナイロンブラシ3本とメジアン径25μmのパミス−水懸濁液(比重1.1g/cm)を用いアルミニウム表面を砂目立てして、水でよく洗浄した。この板を45℃の25質量%水酸化ナトリウム水溶液に9秒間浸漬してエッチングを行い、水洗後、更に60℃で20質量%硝酸に20秒間浸漬し、水洗した。この時の砂目立て表面のエッチング量は約3g/mであった。
【0219】
次に、60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃であった。交流電源波形は、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で30A/dm、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。硝酸電解における電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量175C/dmであった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0220】
続いて、塩酸0.5質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃の電解液にて、アルミニウム板が陽極時の電気量50C/dmの条件で、硝酸電解と同様の方法で電気化学的な粗面化処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
次に、この板に15質量%硫酸水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)を電解液として電流密度15A/dmで2.5g/mの直流陽極酸化皮膜を設けた後、水洗、乾燥して支持体(1)を作製した。
その後、非画像部の親水性を確保するため、支持体(1)に2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて60℃で10秒間、シリケート処理を施し、その後、水洗して支持体(2)を得た。Siの付着量は10mg/mであった。この基板の中心線平均粗さ(Ra)を直径2μmの針を用いて測定したところ、0.51μmであった。
【0221】
(2)下塗り層の形成
次に、上記支持体(2)上に、下記下塗り層用塗布液(1)を乾燥塗布量が20mg/mになるよう塗布して、以下の実験に用いる下塗り層を有する支持体を作製した。
【0222】
<下塗り層用塗布液(1)>
・下記構造の下塗り層用化合物(1) 0.18g
・ヒドロキシエチルイミノ二酢酸 0.10g
・メタノール 55.24g
・水 6.15g
【0223】
【化27】

【0224】
(3)画像記録層の形成
上記のようにして形成された下塗り層上に、下記組成の画像記録層塗布液(1)をバー塗布した後、100℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.0g/mの画像記録層を形成した。
画像記録層塗布液(1)は下記感光液(1)及びミクロゲル液(1)を塗布直前に混合し攪拌することにより得た。
【0225】
<感光液(1)>
・特定高分子化合物又は比較用高分子化合物〔表1記載〕 0.240g
・赤外線吸収染料(1)〔下記構造〕 0.030g
・重合開始剤(1)〔下記構造〕 0.162g
・ラジカル重合性化合物
トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート
(NKエステルA−9300、新中村化学(株)製) 0.192g
・低分子親水性化合物
トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート 0.062g
・低分子親水性化合物(1)〔下記構造〕 0.050g
・感脂化剤 ホスホニウム化合物(1)〔下記構造〕 0.055g
・感脂化剤
ベンジル−ジメチル−オクチルアンモニウム・PF6塩 0.018g
・感脂化剤 アンモニウム基含有ポリマー
[下記構造、還元比粘度44cSt/g/ml] 0.035g
・フッ素系界面活性剤(1)〔下記構造〕 0.008g
・2−ブタノン 1.091g
・1−メトキシ−2−プロパノール 8.609g
【0226】
<ミクロゲル液(1)>
・ミクロゲル(1) 2.640g
・蒸留水 2.425g
【0227】
上記の、赤外線吸収染料(1)、重合開始剤(1)、ホスホニウム化合物(1)、低分子親水性化合物(1)、アンモニウム基含有ポリマー、及びフッ素系界面活性剤(1)の構造は、以下に示す通りである。
【0228】
【化28】

【0229】
【化29】

【0230】
−ミクロゲル(1)の合成−
油相成分として、トリメチロールプロパンとキシレンジイソシアナート付加体(三井化学ポリウレタン(株)製、タケネートD−110N)10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬(株)製、SR444)3.15g、及びパイオニンA−41C(竹本油脂(株)製)0.1gを酢酸エチル17gに溶解した。水相成分としてポリビニルアルコール((株)クラレ製PVA−205)の4質量%水溶液40gを調製した。油相成分及び水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12,000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、50℃で3時間攪拌した。このようにして得られたミクロゲル液の固形分濃度を、15質量%になるように蒸留水を用いて希釈し、これを前記ミクロゲル(1)とした。ミクロゲルの平均粒径を光散乱法により測定したところ、平均粒径は0.2μmであった。
【0231】
(4)保護層の形成
上記画像記録層上に、更に下記組成の保護層用塗布液(1)をバー塗布した後、120℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.15g/mの保護層を形成して平版印刷版原版(1)〜(20)〔実施例1〜20用〕、及び平版印刷版原版(R−1)〜(R−3)〔比較例1〜3用〕を得た。
【0232】
<保護層用塗布液(1)>
・無機質層状化合物分散液(1) 1.5g
・ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製CKS50、スルホン酸変性、
けん化度99モル%以上、重合度300)6質量%水溶液 0.55g
・ポリビニルアルコール((株)クラレ製PVA−405、
けん化度81.5モル%、重合度500)6質量%水溶液 0.03g
・日本エマルジョン(株)製界面活性剤
(エマレックス710)1質量%水溶液 0.86g
・イオン交換水 6.0g
【0233】
(無機質層状化合物分散液(1)の調製)
イオン交換水193.6gに合成雲母ソマシフME−100(コープケミカル(株)製)6.4gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)が3μmになるまで分散した。得られた分散粒子のアスペクト比は100以上であった。
【0234】
(5)評価
得られた平版印刷版原版を赤外線半導体レーザー搭載の富士フイルム(株)製Luxel PLATESETTER T−6000IIIにて、外面ドラム回転数1000rpm、レーザー出力70%、解像度2400dpiの条件で露光した。露光画像にはベタ画像及び20μmドットFMスクリーンの50%網点チャートを含むようにした。
得られた露光済み原版を現像処理することなく、(株)小森コーポレーション製印刷機LITHRONE26の版胴に取り付けた。Ecolity−2(富士フイルム(株)製)/水道水=2/98(容量比)の湿し水とValues−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業(株)製)とを用い、LITHRONE26の標準自動印刷スタート方法で湿し水とインキとを供給して機上現像した後、毎時10000枚の印刷速度で、特菱アート(76.5kg)紙に印刷を行った。
【0235】
<機上現像性>
画像記録層の未露光部の印刷機上での機上現像が完了し、非画像部にインキが転写しない状態になるまでに要した印刷用紙の枚数を機上現像性として計測した。これらの結果を表1に示す。
【0236】
<経時後の機上現像性>
60℃相対湿度60%に設定した恒温恒湿室中に4日間放置した平版印刷版原版を上記方法で露光、機上現像、印刷を行い、画像記録層の未露光部の印刷機上での機上現像が完了し、非画像部にインキが転写しない状態になるまでに要した印刷用紙の枚数を機上現像性として計測した。これらの結果を表1に示す。
【0237】
<耐刷性>
上述した機上現像性の評価を行った後、更に印刷を続けた。印刷枚数を増やしていくと徐々に画像記録層が磨耗するため印刷物上のインキ濃度が低下した。印刷物におけるFMスクリーン50%網点の網点面積率をグレタグ濃度計で計測した値が印刷100枚目の計測値よりも5%低下したときの印刷部数を刷了枚数として耐刷性を評価した。
【0238】
【表1】

【0239】
表1から明らかなように、実施例1〜実施例20の平版印刷版原版は、優れた耐刷性を有することがわかる。一方、本発明とは異なる高分子化合物を用いた場合は、耐刷性が不十分なレベルであった。
【0240】
[実施例21〜38及び比較例4〜6]
【0241】
〔防汚性部材、防曇性部材の作製と評価〕
本発明の重合性組成物から重合硬化膜を作製し、防汚性部材、防曇性部材としての評価を行った。
【0242】
〔重合硬化膜の作製〕
下記重合組成物溶液(1)を、支持体であるガラス板(遠藤科学製)に乾燥後の塗布量が1g/mとなるように塗布し、120℃、2分加熱乾燥させて支持体上に重合性組成物膜を形成した。上記重合性組成物膜を形成した支持体をバットに入れ、上面をフォーラップ(リケンテクノス(株)社製)で封じ、ラップ内を窒素で置換し、400w高圧水銀灯(UVL−400P,理工科学産業(株)製)を使用し、10分間照射した。得られた重合硬化膜を有する支持体をイオン交換水に浸漬、洗浄を行い、100℃、1分乾燥させ、重合硬化膜における架橋構造形成を促進させ、実施例21〜38用及び比較例4〜6用の防汚性、防曇性部材重合硬化膜を得た。
【0243】
重合組成物溶液(1)
・特定高分子化合物又は比較用高分子化合物(表2記載の化合物) 4g
・エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート
(日本化薬社製 SR−9035) 2.7g
・イルガキュア2959 (チバガイギー(株)社製) 0.5g
・水 100g
【0244】
〔防汚性部材、防曇性部材としての評価〕
(1)耐摩擦性の評価
得られた実施例21〜38及び比較例4〜6用の部材表面を、不織布(BEMCOT、旭化学繊維社製)で100回擦り、その前後の接触角(空中水滴接触角)を、協和界面科学(株)製、DropMaster500を用いて測定し、以下の基準で評価した。結果を下記表2に示す。
【0245】
○:擦り前後の接触角の変化が1°以下
△:擦り前後の接触角の変化が1°より大きく2°以下
×:擦り前後の接触角の変化が2°より大きい
【0246】
擦り前後の接触角の変化が少ないものほど、親水性が低下せず耐久性に優れると評価する。
【0247】
(2)耐水性の評価
上記で得られたサンプル部材表面を水中で加重1kgをかけてスポンジ往復10回こすり処理を行い、その前後の質量変化から残膜率を測定。耐水性はこの残膜率で判断した。
【0248】
○:残膜率が、80%以上
△:残膜率が、60%以上、80%未満
×:残膜率が、60%未満
【0249】
(3)防曇性の評価
上記で得られたサンプル部材に、1分間水蒸気を当て、水蒸気から離した後、25℃、RH10%の環境下に配置し、部材表面の曇り具合及びその変化を観察し、下記基準により三段階で評価した。実験及び観察は室内の蛍光灯下で行った。結果を下記表2に示す。
【0250】
○:曇りが観察されない
△:曇っているが、10秒以内に回復し、曇りが見られなくなる
×:曇っており、曇りが10秒経過しても回復しない
【0251】
(4)防汚性の評価
上記で得られたサンプル部材表面に油性インク(三菱鉛筆(株)製、油性マーカー)で線を書き、水を掛け続け、インクが流れ落ちるかを下記基準で官能評価した。結果を下記表2に示す。
○:インクが1分以内に取れる
△:1分を経過した後インクが取れる
×:10分間にわたり実施してもインクがとれない
【0252】
【表2】

【0253】
表2に明らかなように、実施例21〜実施例38の部材は、表面の親水性とその耐久性に優れ、油性汚れの付着、水滴の付着に起因する曇りを抑制することができ、優れた表面防汚性、防曇性を有しており、防汚性部材、防曇性部材として十分な実用性能を有することがわかった。一方、本発明の範囲外の親水性ポリマーを用いた比較例4〜6の部材は、表面親水性の耐摩擦性に劣り、防汚性部材、防曇性部材としては実用上不十分なレベルであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a1)下記一般式(a1−1)で表される構造を側鎖に有する繰り返し単位を有する高分子化合物、及び(B)重合開始剤を含有することを特徴とする重合性組成物。
【化1】

〔一般式(a1−1)中、R11、R12は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、スルホ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基又はカルバモイル基を表す。R13、R14、R15は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。Lは、二価の連結基を表す。Yは単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。*は高分子化合物の主鎖と連結する部位を表す。〕
【請求項2】
前記(A)の高分子化合物が、更に(a2)下記一般式(a2−1)又は(a2−2)で表される双性イオン構造を側鎖に有する繰り返し単位を有することを特徴とする前記請求項1に記載の重合性組成物。
【化2】

〔上記一般式(a2−1)中、R21及びR22は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はヘテロ環基を表し、R21とR22は互いに連結し、環構造を形成してもよく、L21は、二価の連結基を表す。Aは、アニオンを有する構造を表す。Yは、単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。*は高分子化合物の主鎖と連結する部位を表す。上記一般式(a2−2)中、L22は二価の連結基を表し、Eは、カチオンを有する構造を表す。Yは、単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。*は高分子化合物の主鎖と連結する部位を表す。〕
【請求項3】
前記(a2)の繰り返し単位における双性イオン構造を有する側鎖が、一般式(a2−1)で表される構造であり、一般式(a2−1)中、Aがスルホナートであることを特徴とする請求項1又は2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
支持体上に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合性組成物を含有する画像記録層を有することを特徴とする平版印刷版原版。
【請求項5】
画像記録層が印刷インキ及び湿し水の少なくともいずれかにより除去可能であることを特徴とする請求項4に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
請求項2又は3に記載の重合性組成物を硬化して得られることを特徴とする防汚性部材。
【請求項7】
請求項2又は3に記載の重合性組成物を硬化して得られることを特徴とする防曇性部材。

【公開番号】特開2012−72369(P2012−72369A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181584(P2011−181584)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】