説明

重合性組成物、歯科用又は外科用硬化性材料及び硬化材料、並びに、歯科用又は外科用成形品の製造方法

【課題】硬化感度に優れた重合性組成物及び歯科用又は外科用硬化性材料を提供すること、並びに、耐摩耗性及び安定性に優れた歯科用又は外科用硬化材料、成形品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】式(I)で表される化合物、式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子及び/又はその他の付加重合型高分子、並びに、無機粒子を含有する重合性組成物。


式(I)(II)中、Q1はシアノ基又は−COX2基を表し、X1はヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、ハロゲン原子を表し、X2はヘテロ原子を介してカルボニル基に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、Ra、Rbは水素原子、ハロゲン原子、シアノ基又は有機残基を表し、X1とX2、RaとRb、X1とRa又はRbとが結合して環状構造を形成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物、歯科用又は外科用硬化性材料及び硬化材料、並びに、歯科用又は外科用成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科及び外科用の人工骨補填材料は本来、歯(骨)を構成するハイドロキシアパタイトCa10(PO46(OH)2と同様の硬度を有するものがよい。特に歯科用材料においては、硬すぎる場合、噛み合わせる歯を傷める恐れがあり、柔らかい場合には、長時間の噛み合わせにより人工材料の方が削れてしまうからである。一方、硬度の点では、上記アパタイト類を含めた無機材料をそのまま人工材料として使用したいところであるが、無機材料は加工成形が困難である問題がある。その問題を回避するために、無機材料を充填剤として、加工成形性の観点で優れる光重合性有機化合物との複合化が盛んに行われている。そして、本来の目的である硬度の点を考えると無機材料の含有率を如何に上げることができるかが重要である。例えば、歯科用としては、種々の無機有機複合材料の試作がなされている。
【0003】
無機物を多官能メタクリレートに充填した複合材料であるコンポジットレジンを例に挙げれば、コンポジットレジンの技術の変遷は無機物の粒径制御の歴史といえる。
創成時には粒径数十μmのマクロフィラーを用いたものが開発されたが、研磨性が不良なため前歯部の修復に使用することができなかった。第2世代として粒径数十nmのミクロフィラーを用いたものが登場したが、多官能メタクリレートに直接配合する充填法によるもので、1次粒子の高次凝集により高充填が図れないために低収縮性、耐摩耗性、剛性の点で十分なものとは言えず、また高次凝集しているために外観は不透明であった。そのためミクロフィラーの充填性を改良する目的で、ミクロフィラーを多官能メタクリレートに配合したものを重合硬化し数十μmに粉砕した有機質複合フィラーが開発されたが、不定形であるために充填性に劣り、収縮率を抑制するほどに十分な高充填化は図れなかった。また有機質複合フィラーの中でミクロフィラーが凝集しているため、外観はやはり不透明であった。
このような粒径数十nmのミクロフィラーを多官能メタクリレートに直接配合する充填法では、高次凝集により均一な分散状態が得られないために、高充填化が図れなかった。さらにミクロフィラーを用いた有機質複合フィラーでも、粉砕による不定形であるために、十分な高充填化は達成できなかった。そのために複合材料として充填性、低収縮性、耐摩耗性、研磨性、剛性、透明性などに優れた高性能歯科材料は得られていなかった。
【0004】
特に、重要な分散安定化の点では、nmオーダの微細無機粒子を懸濁重合によりポリマーで包含(ポリマ−ビーズ化)し、使用することが開示されているが(特許文献1)、充填剤を予めポリマーで被覆する際の手間がかかるだけでなく、充填剤含有率を高めることが難しく、本来の充填剤に由来する硬度を十分に発揮できていない問題がある。
【0005】
また、充填複合体のような歯科修復材料の使用の後にしばしば生じる2次的な虫歯を予防することが歯科学において非常に必要であり続けている。こういうわけで、口腔内でイオン(例えば、フッ素、カルシウム又はヒドロキシルイオン)を放出し得る充填複合体もまた近年研究されている。これらのイオンは、再石灰化、生物活性、又は齲蝕原性(cariostatic)作用を有するので、有利である。
【0006】
フッ素源(例えば、特定のフッ化クロロヘキシジン)を含むために虫歯阻害作用を生じる修復性歯科材料が開示されている(非特許文献1)。イオン放出充填材料のさらなる例は、ガラスイオノマーセメント、又はその有機マトリックスが常にカルボキシル基を有するモノマー、オリゴマー、又はポリマーから作られるコンポマー(compomer)であることが開示されている(非特許文献2〜4)。
【0007】
これらの充填材料は、高い度合いのイオン放出を示すが、機械的特性、とりわけ強度の明らかな低下は、水との長期の接触後に生じる。更に、信頼できる材料として又はセメントとして使用される歯科複合材料が開示されている(特許文献2)。慣習的な(メタ)アクリレートに加えて、複合材料は、カルシウムイオン及びヒドロキシルイオンを放出する特定のガラスを含む。しかし、ガラスは乳白度が高すぎ、その結果、複合材料に不自然な活気のない外観を与え、それゆえ美的修復を要求する分野では使用され得ない。低い半透明性はまた、複合材料の光硬化(light curing)を妨げ、その結果、深いキャビティの充填材料の場合に精密に必要とされる高い透過硬化(through−curing)深度が達成され得ない。最終的に、ガラスはまた、必要に応じてフラックスとして用いられるクリオライト、NaF、又はKFに由来し得る非常に少ない量のフッ素を含むのみである。
【0008】
【特許文献1】特開平7−17820号公報
【特許文献2】欧州特許第0449339号明細書
【非特許文献1】U.Salz, Phillip Journal, 1997, vol.14, p.296
【非特許文献2】A.D.Wilson, J.W.McLean, Glass Ionomer Cement,Quintessence Publishers, Chicago, 1988
【非特許文献3】J.Nicholson, M.Anstice, Trends Polym.Sci., 1994, vol.2, p.272
【非特許文献4】R.Hickel, L.Kremers,C.Haffner, Quintessenz, 1996, vol.47, p.1581
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、深い層においてでさえ光及び/又は熱により完全に硬化する重合性組成物を提供することであり、さらに美的外観を要求する歯科修復材料として使用することができる高い透明性の硬化材料を与える重合性組成物を提供することである。
歯科用又は外科用硬化性材料としては、無機粒子及び硬化性化合物が安定に分散した組成物を与え、光重合及び/又は熱重合により硬化性が良好な組成物であり、また、得られた硬化材料が水分と長期間接触しても劣化を防止できることが課題である。さらに、数mm〜数cmの硬化材料を形成する点から、高感度の硬化性(深さ方向に対する硬化性、並びに、露光又は加熱作業時間短縮)が重要となり、さらには、歯や骨などの基材との密着性も良好であることが求められている。
以上述べたように本発明が解決しようとする課題は、硬化感度に優れた重合性組成物及び歯科用又は外科用硬化性材料を提供すること、並びに、耐摩耗性及び安定性に優れた歯科用又は外科用硬化材料、成形品及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、下記に記載の手段により達成された。
<1>式(I)で表される化合物、式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子及び/又はその他の付加重合型高分子、並びに、無機粒子を含有することを特徴とする重合性組成物、
【0011】
【化1】

式(I)及び式(II)中、Q1はシアノ基又は−COX2基を表し、X1は、ヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、X2は、ヘテロ原子を介してカルボニル基に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、Ra、Rbは各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基又は有機残基を表し、X1とX2、RaとRb、X1とRa又はRbとが互いに結合して環状構造を形成してもよい、
<2>前記X1の該ヘテロ原子が、酸素原子である<1>に記載の重合性組成物、
<3>前記X1が、ヒドロキシ基、エーテル結合及びエステル結合よりなる群から選ばれた少なくとも1つの基又は結合を有する<1>又は<2>に記載の重合性組成物、
<4>前記X1及び/又はX2がヒドロキシ基を有する<1>〜<3>いずれか1つに記載の重合性組成物、
<5>前記無機粒子の含有率が、重合性組成物全量に対して20〜80重量%である<1>〜<4>いずれか1つに記載の重合性組成物、
<6>前記無機粒子が、シリカゾル、コロイダルシリカ及びハイドロキシアパタイトよりなる群から選ばれた少なくとも1種である<1>〜<5>いずれか1つに記載の重合性組成物、
<7><1>〜<6>いずれか1つに記載の重合性組成物を含有する歯科用又は外科用硬化性材料、
<8><1>〜<6>いずれか1つに記載の重合性組成物を硬化して得られた歯科用又は外科用硬化材料、
<9>歯科用又は外科用成形品の製造方法であって、<1>〜<6>いずれか1つに記載の重合性組成物に光重合開始剤を添加し、光重合性組成物を調製する工程、前記光重合性組成物を供給する工程、及び、前記供給した光重合性組成物に活性放射線を照射して、前記光重合性組成物を硬化させる工程を含むことを特徴とする歯科用又は外科用成形品の製造方法、
<10>歯科用又は外科用成形品の製造方法であって、<1>〜<6>いずれか1つに記載の重合性組成物に熱重合開始剤を添加し、熱重合性組成物を調製する工程、前記熱重合性組成物を供給する工程、及び、前記供給した熱重合性組成物を加熱して硬化させる工程を含むことを特徴とする歯科用又は外科用成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硬化感度に優れた重合性組成物及び歯科用又は外科用硬化性材料を提供すること、並びに、耐摩耗性及び安定性に優れた歯科用又は外科用硬化材料、成形品及びその製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<重合性組成物>
本発明の重合性組成物は、式(I)で表される化合物、式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子及び/又はその他の付加重合型高分子、並びに、無機粒子を含有することを特徴とする。
【0014】
【化2】

式(I)及び式(II)中、Q1はシアノ基又は−COX2基を表し、X1は、ヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、X2は、ヘテロ原子を介してカルボニル基に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、Ra、Rbは各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基又は有機残基を表し、X1とX2、RaとRb、X1とRa又はRbとが互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【0015】
式(I)で表される化合物について以下に説明する。
【0016】
【化3】

【0017】
式(I)中、Q1はシアノ基又は−COX2基を表し、X1は、ヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、X2は、ヘテロ原子を介してカルボニル基に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、Ra、Rbは各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基又は有機残基を表し、X1とX2、RaとRb、X1とRa又はRbとが互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【0018】
本発明において、式(I)で表される化合物は、エチレン性不飽和二重結合を形成する片方の炭素原子に2つの置換基が結合したエチレン性不飽和基を少なくとも1つ有する。
1及びX2は1価の有機残基でも良く、2価若しくはn価(n≧3;nは3以上の整数を表す。)の有機連結基によってX1同士若しくはX2同士が連結して2官能型若しくはn官能型となっていても良く、また、オリゴマー又はポリマー中のモノマー単位の残基を形成して高分子型となってもよい。
【0019】
以下に式(I)で表される代表的な化合物群i)〜iv)について説明する。
以下の説明において、X2はエチレン性不飽和結合のα−位にあるカルボニル基に直接結合するので、X1と同じく、「ヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、1価の有機残基、又はハロゲン原子」ともいうことにする。
式(I)で示される化合物は、Q1が−COX2を表す場合において、X1及びX2がヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、1価の有機残基、又はハロゲン原子である場合には、後掲のi)単官能型エチレン性不飽和化合物となり(例示化合物A−1〜A−42)、X1とX2、RaとRb、X1とRaあるいはRbとが互いに結合して環状構造を形成する場合には、環状構造を有する単官能型エチレン性不飽和化合物となる(例示化合物B−1〜B−9)。
式(I)で示される化合物は、Q1が−COX2を表す場合において、X1がヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、1価の有機残基、又はハロゲン原子であって、X2がヘテロ原子を介して2つのカルボニル基に結合する2価の基である場合には、ii)2官能型エチレン性不飽和化合物となり(例示化合物C−1〜C−14)、X1がヘテロ原子を介して2つのα炭素に結合する2価の有機残基であって、X2が水素原子、1価の有機残基又はハロゲン原子である場合にもやはり2官能型エチレン性不飽和化合物となる(例示化合物D−1〜D−30)。
式(I)で示される化合物は、X1が1価の基であって、X2がn価の有機残基(n≧3)である場合には、iii)3官能型以上の官能基数を有するn官能型エチレン性不飽和化合物となり(例示化合物E−1〜E−22)、X1がn価の有機残基(n≧3)であってX2が水素原子、1価の有機残基又はハロゲン原子である場合にもやはりn官能型エチレン性不飽和化合物となる(例示化合物F−1〜F−30)。
また、式(I)で示される化合物は、X1又はX2のいずれかが、好ましくはX2が、付加重合又は付加共重合により生成するオリゴマー又は高分子のモノマー単位の残基である場合には、iv)高分子型エチレン性不飽和化合物となる(例示化合物G−1〜G−15)。
式(I)で示される化合物は、Q1がシアノ基を表す場合においても、Q1がCOX2である場合と同様にして、後掲のようなi)単官能型、ii)2官能型、iii)多官能型、及び、iv)高分子型の化合物となることができる(H−1〜H−8)。
1が−COX2又は−CNを表す場合において、上記の4つの化合物群以外にも、当業者は多くのバリエーションの化合物を製造できることはいうまでもない。
【0020】
上述の高分子型エチレン性不飽和化合物では、X1、X2のうち少なくとも片方で、重合体の主鎖に結合している。即ち、重合体鎖の側鎖に式(I)から誘導される構造が存在する形態を採っている。ここで、重合体としては次の線状有機高分子重合体が例示できる。
すなわち、ポリウレタン、ノボラック、ポリビニルアルコール、ポリヒドロシスチレン、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリル酸アミド等のようなビニル系高分子、ポリアセタールが例示できる。これら重合体はホモポリマーでも、コポリマー(共重合体)でもよい。
【0021】
式(I)においてQ1がシアノ基又は−COX2基であり、X1又はX2において、α炭素及び有機残基等に結合するヘテロ原子は、炭素以外の原子を意味し、好ましくは非金属原子であり、具体的には酸素原子、イオウ原子、窒素原子、リン原子が挙げられ、酸素原子、イオウ原子、窒素原子が好ましく、酸素原子、窒素原子がより好ましい。
1においてα炭素及び有機残基等に結合するヘテロ原子は酸素原子が好ましい。
1又はX2がハロゲン原子である場合、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、及びフッ素原子等が挙げられ、塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0022】
1は、好ましくは、ヒドロキシ基、置換オキシ基、メルカプト基、置換チオ基、アミノ基、置換アミノ基、スルホ基、スルホナト基、置換スルフィニル基、置換スルホニル基、ホスホノ基、置換ホスホノ基、ホスホナト基、置換ホスホナト基、ニトロ基及びヘテロ環基(但し、ヘテロ原子で連結している)よりなる群から選ばれた、ヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、有機残基又はポリマー鎖であり、より好ましくは、ヒドロキシ基、エーテル結合及びカルボン酸エステル結合よりなる群から選ばれた少なくとも1つの基若しくは結合を有する有機残基又はポリマー鎖であり、特に好ましくは、少なくとも1つのヒドロキシ基を有する有機残基又はポリマー鎖である。
【0023】
2は、好ましくは、ヘテロ原子を介してカルボニル基に結合している水素原子、有機残基又はポリマー鎖であり、ヒドロキシ基、置換オキシ基、メルカプト基、置換チオ基、アミノ基、置換アミノ基、ヘテロ環基(但し、ヘテロ原子で連結している)が例示できる。X1及び/又はX2がヒドロキシ基を有することが好ましい。ヒドロキシ基を有する場合、無機粒子の分散性に優れ、歯科用又は外科用硬化性材料として用いた場合に生体適合性に優れる。
【0024】
a、Rbは、各々独立して、より好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、又は有機残基を表し、有機残基は置換基を有していても良くかつ不飽和結合を含んでいてもよい、炭化水素基、置換オキシ基、置換チオ基、置換アミノ基、置換カルボニル基、カルボキシラート基を表し、またRaとRbは互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【0025】
次に、式(I)におけるX1、X2、Ra、Rbに許容される置換基の例を示す。この置換基には、さらに置換基を有していても良くかつ不飽和結合を含んでいてもよい炭化水素基、アシル基、ヘテロ環基が含まれる。
【0026】
上記の置換基を有していても良くかつ不飽和結合を含んでいてもよい炭化水素基としては、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基及び置換アルキニル基が挙げられる。
【0027】
上記のアシル基には、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルスルフホニル基、アリールスルホニル基が含まれる。
【0028】
上記のヘテロ環基には、窒素、酸素、硫黄原子をヘテロ原子として含む5員又は6員のヘテロ環基及びこれに芳香族基が縮合した基が含まれる。
【0029】
アルキル基としては炭素原子数が1から20までの直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基を挙げることができ、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、2−ノルボルニル基をあげることができる。これらの中では、炭素原子数1から12までの直鎖状、炭素原子数3から12までの分岐状、ならびに炭素原子数5から10までの環状のアルキル基がより好ましい。
【0030】
置換アルキル基は置換基とアルキレン基との結合により構成される基であり、その置換基としては、水素を除く一価の非金属原子(団)が挙げられ、式(I)で示される化合物の重合反応を阻害しない限り任意の原子又は基が許容される。置換アルケニル基、置換アルキニル基、置換アリール基も同様に定義できる。これらの基において、好ましい置換基の例としては、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシルオキシ基、シアノ基が例示できる。その他の許容できる置換基は、特開2001−92127の段落0017〜0041に記載されている。
【0031】
アリール基としては、炭素数が6〜20であり、1個から3個のベンゼン環が縮合環を形成したもの、ベンゼン環と5員不飽和環が縮合環を形成したものをあげることができ、具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、インデニル基、アセナブテニル基、フルオレニル基、をあげることができ、これらのなかでは、フェニル基、ナフチル基がより好ましい。
【0032】
アルケニル基としては、炭素数2〜20の基が好ましい。置換アルケニル基は、置換基がアルケニル基の水素原子と置き換わり結合したものであり、この置換基としては、上述の置換アルキル基における置換基が用いられる。
【0033】
アルキニル基としては、炭素数2〜20であることが好まし。置換アルキニル基は、置換基がアルキニル基の水素原子と置き換わり、結合したものであり、この置換基としては、上述の置換アルキル基における置換基が用いられる。
【0034】
次に、X1とX2、RaとRb、又はX1とRaあるいはRbとが互いに結合して形成する環状構造の例を示す。X1とX2、RaとRb、又はX1とRaあるいはRbとが互いに結合して形成する脂肪族環としては、5員環、6員環、7員環及び8員環の脂肪族環をあげることができ、より好ましくは、5員環、6員環の脂肪族環をあげることができる。これらは更に、これらを構成する炭素原子上に置換基を有していても良く(置換基の例としては、前述の置換アルキル基に許容される置換基をあげることができる)、また、環構成炭素の一部が、ヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子、窒素原子等)で置換されていてもよい。また更に、この脂肪族環の一部が芳香族環の一部を形成していてもよい。
【0035】
以下に式(I)で示される化合物を前に説明したi)単官能型、ii)2官能型、iii)多官能型、及び、iv)高分子型の順に例示化合物を示す。
【0036】
なお、以下に例示する具体例以外にも特開2001−92127の段落0043〜0066及び特開2002−105128の段落0043〜0051に他の具体例が例示されている。
【0037】
【化4】

【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
【化7】

【0041】
【化8】

【0042】
【化9】

【0043】
【化10】

【0044】
【化11】

【0045】
【化12】

【0046】
【化13】

【0047】
【化14】

【0048】
【化15】

【0049】
【化16】

【0050】
【化17】

【0051】
【化18】

【0052】
前掲の例示化合物の中で、A−1、A−12、A−17、A−22、A−27、A−38、B−5、C−1、D−7、E−4、F−3、G−5及びG−13については、特許文献3の段落0322〜0335に合成方法が記載されている。その他の例示化合物についても、これらの合成方法に準じて合成することができる。また、例示化合物H−1、H−2、H−3、H−4及びH−5についても特開2002−105128の段落0178〜0182にそれらの合成方法が記載されており、その他の例示化合物についても、これらの合成方法に準じて合成可能である。
【0053】
<式(I)で表される化合物以外の重合性化合物>
本発明の重合性組成物には、式(I)で表される化合物以外の重合性化合物を併用することができる。式(I)で表される化合物以外の重合性化合物には、アクリル酸エステル類、α位にヘテロ原子を有しない通常のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、α−位にヘテロ原子を有しない通常のメタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレンなどの芳香族基を有するエチレン性不飽和化合物、アクリルニトリル類、(メタ)アクリルアミド類、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知の重合性化合物が含まれ、中でも(メタ)アクリル酸エステル類及びα位にヘテロ原子を有しない通常のメタクリル酸エステル類が好ましい。
【0054】
適切な重合性化合物は、重合性化合物自体、それから生成される重合可能なプレポリマー、ならびにそれらの混合物である。重合性化合物として特に適切なのは、単官能性又は多官能性(メタ)アクリル酸エステルであり、それは単独で又は混合物において使用され得る。
【0055】
単官能性(メタ)アクリル酸エステル類の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシエチルトリメロット酸エステル及びその酸無水物等が例示できる。
【0056】
多官能(メタ)アクリル酸エステル類の具体例としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、及び、エトキシ化ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレートが挙げられ、ビス−GMA(2,2−ビス−4−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−フェニルプロパン)並びにイソシアネート、とりわけジ−及び/又はトリイソシアネート、及びOH基含有(メタ)アクリレートからの反応生成物が挙げられる。
イソシアネートの反応生成物の例は、1モルのヘキサメチレンジイソシアネートと2モルの2−ヒドロキシエチルメタクリレートの変換生成物、1モルの(トリ(6−イソシアナト−ヘキシル)ビウレットと3モルのヒドロキシエチルメタクリレートの変換生成物、及び1モルのトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2モルのヒドロキシエチルメタクリレートの変換生成物であり、これらはまたウレタンジメタクリレートとも呼ばれる。
【0057】
本発明において、
(a)少なくとも1つの非酸性、非イオン性の親水性架橋モノマー、及び、
(b)少なくとも1つの1Pa・sより少ない粘度を有する非酸性、非イオン性の親水性希釈モノマー、
の混合物が、式(I)で表される化合物以外の重合性化合物として特に好ましく用いられる。
【0058】
架橋モノマー及び希釈モノマーは親水性であることが好ましい。すなわち、これらは無機粒子との親水性の相互作用が可能であることが好ましい。1つ以上、好ましくは1から2のウレタン結合及び/又はOH基、好ましくはOH基を含むモノマーが好ましい。
非酸性のモノマーとは、カルボキシ基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、又はスルホン酸基のような強酸基を有さず、好ましくはフェノール性OH基、SH基、又はCH酸性基(例えば、βジケトン基又はβジケトエステル基)のような弱酸性基を有さないモノマーをいう。
非イオン性のモノマーとは、カチオン性アンモニウム基、スルホニウム基、又は上記の強酸基のアニオン性酸残基のようなイオン性基を含まないモノマーをいう。
【0059】
<非酸性、非イオン性の親水性架橋モノマー>
架橋モノマーは、モノマー分子あたり少なくとも2つ、好ましくは2から4つの重合可能な基を含むモノマーを表す。
好ましい架橋モノマーは、2,2−ビス−4−(3−メタクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−フェニルプロパン)(ビス−GMA)、即ちグリシジルメタクリレート及びビスフェノールA(OH基を含有する)の反応生成物、及び7,7,9,−トリメチル−4,13−ジオキソ−3,14−ジオキサ−5,12−ジアザヘキサデカン−1,16−ジイル−ジメタクリレート(UDMA)、即ち2モルの2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及び1モルの2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(ウレタン基を含有する)から得られるウレタンジメタクリレートである。
また架橋モノマーとして好ましいのは、グリシジルメタクリレートと他のビスフェノール(例えば、ビスフェノール−B(2,2'−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−ブタン)、ビスフェノール−F(2,2'−メチレンジフェノール)又は4,4'−ジヒドロキシジフェニル)との反応生成物、並びに2モルのHEMA又は2−ヒドロキシプロピル−(メタ)アクリレートと、特に1モルの既知のジイソシアネート(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート又はトルイレンジイソシアネート)との反応生成物である。
【0060】
<非酸性、非イオン性の親水性希釈モノマー>
希釈モノマーは、1Pa・s未満、好ましくは100mPa・s未満の粘度を有するモノマーを意味すると理解され、それらは通常高粘度な架橋モノマーを希釈するために適切である。このようにして高い無機粒子含量を有する重合性組成物の生成が可能になる。粘度は、23℃で、DIN53018によるプレート又は回転粘度計により測定される。
希釈モノマーはまた、少なくとも2つ、好ましくは2〜3つの重合し得る基を含み、そして少なくとも1つ、好ましくは1〜2つのOH基及び/又はウレタン結合、好ましくは、OH基を含む。
特に好ましい希釈モノマーは、グリセロールジメタクリレート(GDMA)である。他の好ましい希釈モノマーは、低粘度のジ−又はトリエポキシド(例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル又はトリメチロールプロパントリグリシジルエーテル)と(メタ)アクリル酸との反応により生成され得る。さらに好ましいのはまた、2又は3モルのメタクリル酸とグリセロールトリグリシジルエーテル、又はトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルとの反応生成物である。
【0061】
その他モノマーの具体例としては、特開2002−107927号公報の段落0051〜段落0056に記載された重合性化合物が含まれる。
【0062】
式(I)で表される化合物の含有率は、重合性化合物全量に対して30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることが特に好ましい。
【0063】
本発明の重合性組成物は、式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子又はその他の付加重合性高分子を含む。
式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子について説明する。
【0064】
【化19】

【0065】
式(II)中、Q1、X1、X2、Ra及びRbは、式(I)におけるQ1、X1、X2、Ra及びRbと同義であり、好ましい範囲も同様である。なお、式(I)で表される化合物及び式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子を併用する場合において、Q1、X1、X2、Ra及びRbはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0066】
上記式(II)で表されるモノマー単位のみから成るホモポリマーであってもよいが、他の構成単位をも含む共重合体であってもよい。好適に用いられる他の構成単位としては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知のモノマーより導入されるモノマー単位が挙げられる。
【0067】
式(II)で表される構造を有するモノマー単位を重合して得られるポリマーは、ランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマ−等いずれでもよいが、ランダムポリマーであることが好ましい。次に式(II)で表される構造を有するモノマー単位を重合して得られるポリマーの具体例を示す。
【0068】
【化20】

【0069】
【化21】

【0070】
【化22】

【0071】
【化23】

【0072】
<一般式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子の合成>
<合成例1:化合物P−1>
フラスコ内にA−1(0.8mol)とメタクリル酸メチル(0.2mol)、V−65(和光純薬社製、アゾ系熱重合開始剤)(0.03mol)、N,N−ジメチルアセトアミド(1L)を混合し、70℃で5時間撹拌した。反応後、水5Lに撹拌しながら少量ずつ反応液を入れていくと白色粉末が析出した。この粉末を濾過し、乾燥することでP−1を収量90%で得た。この物質の構造はNMR、IR、GPCにより確認した。
<合成例2:化合物P−5>
フラスコ内にα−ベンジルオキシメタクリレート(0.7mol)とメタクリル酸メチル(0.3mol)、V−65(和光純薬社製、アゾ系熱重合開始剤)(0.03mol)、N,N−ジメチルアセトアミド(1L)を混合し、70℃で5時間撹拌した。反応後、水5Lに撹拌しながら少量ずつ反応液を入れていくと白色粉末が析出した。この粉末を濾過し、乾燥することでP−5を収量95%で得た。この物質の構造はNMR、IR、GPCにより確認した。
<合成例3:化合物P−14>
フラスコ内にα−アセトアミドメタクリル酸(0.7mol)とメタクリル酸メチル(0.3mol)、V−65(和光純薬社製、アゾ系熱重合開始剤)(0.03mol)、N,N−ジメチルアセトアミド(1L)を混合し、70℃で5時間撹拌した。反応後、水5Lに撹拌しながら少量ずつ反応液を入れていくと白色粉末が析出した。この粉末を濾過し、乾燥することでP−14を収量94%で得た。この物質の構造はNMR、IR、GPCにより確認した。
以上の合成例に準じて具体例に示した全てのポリマーを合成できる。
【0073】
本発明の重合性組成物は、式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子の替わりに、又は、式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子に加えて、他の高分子を含んでいてもよい。
他の高分子には、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、イタコン酸共重合体、クロトン酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合体等が含まれる。式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子に他の高分子を併用する場合には両者が相溶性を有することが好ましい。他の高分子の具体例として、特開2002−107927号公報の段落0063に記載された高分子が含まれる。
【0074】
式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子の含有率は、高分子の全成分の重量に対して30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることが特に好ましい。
【0075】
<無機粒子>
本発明の重合性組成物は、無機粒子を含有する。無機粒子を含有することで硬化時の収縮を減少でき、硬化後の成形品の耐摩耗性を高めることができる。無機粒子は、平均粒径1nm〜100μmであることが好ましい。ここで、平均は、重量平均をいう。
【0076】
無機粒子は、例えば、二酸化ケイ素粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、カルシウム化合物などが挙げられ、中でも二酸化ケイ素粒子、酸化ジルコニウム粒子及びカルシウム化合物粒子が好ましい。
【0077】
また、無機粒子には上記の無機粒子由来の混合酸化物に基づくアモルファス球状材料、微細無機粒子(例えば、熱分解法シリカ又は沈殿性シリカ)、マクロ又はミニ無機粒子(例えば、石英)、ガラスセラミック又は0.01〜5μmの平均粒子サイズを有するガラス粉末、X線不透過性無機粒子(例えば、三フッ化イッテルビウム)等を含む。
【0078】
イオンを放出し、そして例えば、ガラスイオノマーセメントの生産について既知である他のガラスの使用もまた可能である。約0.05から15μmの平均粒子サイズを有する通例のケイ酸フルオロアルミニウムガラスのガラス粉末が存在し、それらは、酸化シリコン、酸化アルミニウム及び酸化カルシウムを主成分として含む(A.D.Wilson,J.W.McLean,Glasinomerzement,Quintessenz Verlags−GmbH,1988,Berlin,21頁以下参照)。
【0079】
本発明に使用する無機粒子は(非)金属酸化物ゾルが好ましい。(非)金属酸化物ゾルとは(非)金属酸化物粒子が液体中に均一に安定に分散しているものを意味する。具体的にはシリカゾル、コロイダルシリカ及びジルコニアゾル等を例示でき、シリカゾル、コロイダルシリカが好ましい。本発明に使用する無機粒子としてコロイダルシリカは好ましい一例であり、その好ましい平均粒子径は、10〜500nmである。
【0080】
金属酸化物ゾルを用いる場合、その分散媒は特に限定されないが、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、セロソルブ類、水、ジメチルアセトアミド及びキシレン等が挙げられ、アルコール類、セロソルブ類及び水が好ましい。
【0081】
本発明のα−ヘテロ置換メチルアクリル基を有する重合性化合物及び高分子は、α位に置換されたヘテロ原子からなる置換基が、重合することにより近接した多数の弱い相互作用サイトとなり、まるで溶媒和するかのごとくに無機粒子を安定的に分散状態にする。
従って無機粒子の表面処理を特に必要としないが、更に親和性を増すため、無機粒子表面を、有機セグメントを含む表面修飾剤で処理してもよい。表面修飾剤は、無機粒子と結合を形成するか無機粒子に吸着しうる官能基と、有機成分と高い親和性を有する官能基を同一分子内に有するものが好ましい。
【0082】
無機粒子に結合又は吸着し得る官能基を有する表面修飾剤としては、シラン化合物、アルミニウム化合物、チタニウム化合物及びジルコニウム化合物等の金属アルコキシド表面修飾剤や、リン酸基、硫酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等のアニオン性基を有する表面修飾剤が挙げられ、金属アルコキシド表面修飾剤が好ましく、シラン化合物がより好ましい。
さらに有機成分との親和性の高い官能基としては単に有機成分と親疎水性を合わせただけのものでもよいが、有機成分と化学的に結合しうる官能基が好ましく、特にエチレン性不飽和基若しくは開環重合性基が好ましい。
これら表面修飾剤の代表例として不飽和二重結合含有のカップリング剤や、リン酸基含有有機硬化性樹脂、硫酸基含有有機硬化性樹脂、カルボン酸基含有有機硬化性樹脂等が挙げられる。
【0083】
本発明において、無機粒子は予め表面修飾剤として式(III)で表されるシラン化合物により処理することが好ましい。
【0084】
[化24]
SiL1a2b(OL3c (III)
式中、L1及びL2は、それぞれ独立してエーテル結合、エステル結合、炭素−炭素二重結合又はアミノ基を含んでもよい炭素数1〜10の炭化水素残基を表す。
3は水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素残基、a及びbはそれぞれ独立に0〜3の整数、cは4−a−bであって1〜4の整数を表す。
【0085】
式(III)のシラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、β−アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、p−ビニルフェニルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びこれらの部分縮合物等が挙げられ、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
これらのシラン化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0086】
無機粒子の表面修飾は溶液中でなされることが好ましい。
無機粒子を機械的に微細分散する時に一緒に表面修飾剤を存在させるか、無機粒子を微細分散したあとに表面修飾剤を添加して撹拌するか、又は、無機粒子を微細分散する前に表面修飾を行って(必要により、加温、乾燥した後に加熱、又はpH調整してもよい。)、その後で微細分散を行う方法でもよい。表面修飾剤を溶解する溶液としては、極性の大きな有機溶剤が好ましい。具体的には、アルコール、ケトン、エステル等の公知の溶剤が挙げられる。
【0087】
無機粒子を得るためのシラン化合物の使用量は特に限定されないが、無機粒子(金属酸化物ゾルの固形分)100重量部に対して、式(III)で表されるシラン化合物を好ましくは5〜200重量部、さらに好ましくは25〜100重量部用いる。
【0088】
無機粒子としてコロイダルシリカ又はジルコニアゾルを用いる場合は、式(III)で表されるシラン化合物をコロイド分散液中に混合して、系中の水又は新たに加える水により加水分解すれば、この加水分解物で表面が修飾された無機粒子が得られる。シラン化合物の加水分解反応を行う際の触媒として、無機酸又は有機酸を使用することが可能である。無機酸としては、例えば塩酸、フッ化水素酸、臭化水素酸等のハロゲン化水素酸や硫黄、硝酸、リン酸等が用いられる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、シュウ酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
【0089】
シラン化合物の加水分解反応系には、反応を温和に、かつ均一に行うために溶媒を用いることができる。この溶媒としては、反応物であるシランアルコキシドと水、触媒を相溶させ得るものが望ましい。具体的には、水、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジオキサン等のエーテル類などを挙げることができる。
これらの溶媒として、前述したコロイドの分散媒をそのまま用いてもよいし、新たに必要量加えてもよい。溶媒の使用量は反応物を均一に溶解できる量であれば特に制限はないが、反応物の濃度が希薄になり過ぎると、反応速度が著しく遅くなる恐れがある。シラン化合物の加水分解と縮合反応は、室温〜120℃程度の温度で30分〜24時間程度の条件下で、好ましくは室温〜溶媒の沸点程度の温度で1〜10時間程度の条件下で行われる。
【0090】
表面修飾された無機粒子を、重合性化合物中に均一分散させる方法は、特に限定されるものではないが、例えばコロイダルシリカの分散液に式(III)で表されるシラン化合物及び必要ならば水や触媒を混合し、前述した反応条件で反応させ、この反応後の液中に重合性化合物を混合し、次いでコロイダルシリカの分散媒及びシラン化合物の加水分解反応で生成した揮発分を除去する方法が無機粒子の凝集を防止できるので特に好ましい。
【0091】
本発明において、無機粒子としてカルシウム化合物を好ましく用いることができる。
カルシウム化合物としては、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等が好ましく用いられ、リン酸カルシウムをより好ましく用いることができる。これらは1種を単独で使用しても2種を同時に使用してもよい。
【0092】
リン酸カルシウムとしては、ハイドロキシアパタイト、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、γ−リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム及び非晶質リン酸カルシウムが挙げられ、ハイドロキシアパタイトが好ましい。これらは1種を単独で使用しても2種以上を同時に使用してもよい。
【0093】
ハイドロキシアパタイトの製造方法には特に限定はなく、いかなる方法で製造したものであってもよい。ハイドロキシアパタイトの製造方法としては、例えば、乾式法、半乾式法、湿式法等が挙げられる。
【0094】
本発明に使用する無機粒子の平均粒径は1nm〜100μmであることが好ましく、5nm〜30μmであることがより好ましく、10nm〜10μmであることが更に好ましく、10nm以上2μm未満であることが特に好ましい。
無機粒子の重量平均粒径が上記の範囲であると、硬化物の外観と耐摩耗性に優れる。
【0095】
また、無機粒子としてシリカを使用する場合には、前述のように平均粒径は1nm〜500nmであることが好ましく、10nm〜100nmがより好ましく、10nm〜50nmであることが更に好ましい。上記の数値の範囲内であると、可視光線の波長(380nm〜780nm)よりも小さい粒径のシリカが均一に分散しているため重合性組成物の透明性に優れ、可視光を用いて重合させる場合に深部まで硬化させることができる。
【0096】
また、無機粒子としてハイドロキシアパタイトを使用する場合には、重量平均粒径は0.5〜100μmであることが好ましく、0.5〜30μmがより好ましく、0.5〜10μmであることが更に好ましく、0.5〜3μmが特に好ましい。上記の数値の範囲内であると、外科用硬化物に適した硬化強度を与えるために好ましい。
本発明に使用する無機粒子として、ハイドロキシアパタイトはコロイダルシリカと並び好ましく使用することができる。コロイダルシリカを無機粒子として含有する重合性組成物は、歯科用の硬化性材料として好ましく使用でき、また、ヒドロシキアパタイトを無機粒子として含有する重合性組成物は外科用の硬化性材料として使用できる。
【0097】
無機粒子の含有率は、硬度と感度の点で、重合性組成物全量の20〜80重量%が好ましく、30〜70重量%がより好ましく、40〜60重量%が更に好ましい。上記の数値の範囲内であると、重合性組成物の感度及び成形品の硬度に優れる。
【0098】
<配合比>
本発明の重合性組成物には、(1)式(I)で示される化合物と式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子の併用、(2)式(I)で示される化合物とPMMAなどのα位にヘテロ原子を有しないエチレン性不飽和化合物の重合体の併用、及び、(3)MMAなどのα位にヘテロ原子を有しないエチレン性不飽和モノマーと式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子の併用、の3態様があるが、(1)及び(2)の両態様が好ましく、(1)の態様がより好ましい。
【0099】
重合性組成物中、エチレン性不飽和モノマー(式(I)で表される化合物及び/又は併用可能な重合性化合物。)、及び、高分子(式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子及び/又はその他の付加重合性高分子。)の含有率は、10〜80重量%が好ましく、30〜70重量%がより好ましく、50〜60重量%が更に好ましい。
上記の数値の範囲内であると、重合性組成物の感度並びに硬化後の成形品の硬度及び安定性に優れる。
【0100】
エチレン性不飽和モノマー(式(I)で表される化合物及び/又は併用可能な重合性化合物。)の含有率は、20〜80重量%が好ましく、30〜70重量%がより好ましく、40〜60重量%が更に好ましい。
【0101】
本発明において、式(II)で表される高分子を用いる場合、その使用比率は重合性組成物全量に対して0.1〜30重量%が好ましく、0.1〜20重量%がより好ましく、0.1〜10%が更に好ましい。上記の数値の範囲内であると、重合性組成物の感度及び成型品の硬度の点で優れる。
【0102】
本発明において、明確な機構は不明であるが、主成分であるα−ヘテロ置換メチルアクリル基を有する重合性化合物の直接的な無機粒子との相互作用が重要であると考えている。
すなわち、α−ヘテロ置換メチルアクリル基を有する重合性化合物及び該重合体は、α位に置換されたヘテロ原子からなる置換基が、重合することにより近接した多数の弱い相互作用サイトとなり、まるで溶媒和するかのごとくに無機粒子を安定的に分散状態にするものと考える。
【0103】
また、α−ヘテロ置換メチルアクリル基を有する重合性化合物においては、α位に置換基を有する重合性の低いイタコン酸基やα−アルキルアクリル基などとは違いα位に置換されたヘテロ原子の電子的効果及び立体的効果により重合性が向上し、アクリル系に匹敵する重合性をもつ基であること。特にα−ヘテロ置換メチルアクリル基を有する化合物と光開始剤の組み合わせにより、酸素の重合阻害の影響が大幅に低減でき、高感度化し保存安定性がよい光重合性組成物を得られること、それは、重合成長速度定数や停止速度定数や開始剤とのマッチングによる連鎖成長末端が酸素と反応しにくい等の理由によるものであることが、特開2001−92127により開示されているが、無機粒子を含有した際の光硬化性においては十分に理解されていない。
すなわち、無機粒子を含有する場合、重合性成分の含有率が下がるため、通常は充填剤無添加に対し、硬化性(重合性)が低下することが一般的であるが、本発明においては、低下のないことが確認された。
この点においては、上述の充填剤との相互作用が、擬似架橋構造をとり、むしろ硬化性を補助することに効いて、本来、無機粒子を入れた場合に硬化性が低下するところを相殺したものと考えている。
【0104】
<その他の添加剤>
本発明の重合性組成物には、必要に応じて無機フィラー(平均粒径100μmを越えるシリカ粉、石英粉、ガラス粉など)、を配合することもできる。
また必要に応じて、ゴム、顔料(例えば酸化チタン、酸化鉄等)、溶剤(例えばエタノール、酢酸エチルなど)、重合禁止剤(例えばハイドロキノン、フェノール類など)、酸化安定剤、紫外線吸収剤などを添加することもできる。
【0105】
その他添加剤の含有率は、重合性組成物全量の0.1〜15重量%が好ましく、0.1〜10重量%がより好ましく、0.1〜5重量%が更に好ましい。上記の数値の範囲内であると硬化性組成物の感度及び得られた成型品の硬度に優れる。
【0106】
<成形品の製造方法>
本発明の他の側面は、成形品の製造方法に係り、(1)前述の<1>〜<6>いずれか1つに記載の重合性組成物に光重合開始剤を添加し、光重合性組成物を調製する工程、及び(2)前記光重合性組成物を供給する工程、及び、(3)前記供給した光重合性組成物に活性放射線を照射して前記光重合性組成物を硬化させる工程を含むことを特徴とする。
ここで、光重合性組成物とは、本発明の重合性組成物に光重合開始剤を添加したものをいい、光重合開始剤の替わりに熱重合開始剤を使用した熱重合性組成物としてもよい。熱重合性組成物とは、重合性組成物に熱重合開始剤を添加したものをいう。
以下本発明の成形品の製造方法について説明する。
【0107】
上記の成形品は、歯科用又は外科用に使用することができる。
また、重合性組成物を供給する工程を例示すれば、歯治療部である凹部に供給すること、義歯やインプラントを製造するための硬化型に供給してもよく、また、人工骨の補填材料とする場合には、所望の形状を有する硬化枠内に供給してもよい。
【0108】
<重合開始剤>
本発明において、重合開始剤としては公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
本発明の重合性化合物に用いることのできるラジカル重合開始剤は、外部エネルギーを吸収してラジカル重合開始種を生成する化合物である。重合を開始するために使用される外部エネルギーは、熱及び活性放射線に大別され、それぞれ、熱重合開始剤及び光重合開始剤が使用される。活性放射線としては、γ線、β線、電子線、紫外線、可視光線、赤外線が例示できる。
ラジカル重合開始剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。それぞれの歯科用又は外科用硬化性材料にふさわしい重合形式に応じて任意に選択され用いられる。
【0109】
<熱重合開始剤>
本発明に使用することができる熱重合開始剤は、熱エネルギーによりラジカルを発生し、重合性のエチレン性不飽和基を有する化合物の重合を開始、促進させる化合物を指す。
本発明において、熱ラジカル発生剤は公知の熱重合開始剤や、結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物を選択して使用でき、例えば、オニウム塩化合物、トリハロメチル基を有するトリアジン化合物、有機過酸化化合物、アゾ系重合開始剤、アジド化合物、キノンジアジド化合物、メタロセン化合物等が挙げられるが、中でも有機過酸化化合物を好ましく用いることができる。
有機過酸化化合物としてはジアシルペルオキシド、ペルオキシジカルボナート、ペルオキシエステル、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド等が挙げられ、中でも、ジアシルペルオキシドが好ましい。
【0110】
具体的には、ジアシルペルオキシドとしてはオクタノイルペルオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、コハク酸ペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド及びm−トルイルペルオキシドが挙げられ;ペルオキシジカルボナートとしてはジ−n−プロピルペルオキシジカルボナート、ジイソプロピルペルオキシジカルボナート、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカルボナート、ジ−(2−エトキシエチル)ペルオキシジカルボナートが挙げられ;ペルオキシエステルとしてはtert−ブチルペルオキシイソブチラート、tert−ブチルペルオキシピバラート、tert−ブチルペルオキシオクタノアート、オクチルペルオキシオクタノアート、tert−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノアート、tert−ブチルペルオキシネオドデカノアート、オクチルペルオキシネオドデカノアート、tert−ブチルペルオキシラウラート、tert−ブチルペルオキシベンゾアートが挙げられ;ジアルキルペルオキシドとしてはジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサンが挙げられ;ペルオキシケタールとしては2,2−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルペルオキシ)バレラートが挙げられ;ケトンペルオキシドとしてはメチルエチルケトンペルオキシドが挙げられ;ヒドロペルオキシドとしてはp−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドが挙げられ、中でもジベンゾイルペルオキシドが好ましい。
【0111】
本発明において熱重合開始剤としては、10時間半減期温度が好ましくは60℃以上、望ましくは70℃以上のものを単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0112】
熱重合開始剤の添加量は、重合性組成物100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.01〜1重量%がより好ましく、0.01〜0.1重量%が更に好ましい。
【0113】
<光重合開始剤>
光重合開始剤としてはベンゾフェノン類、ベンゾインジメチルエーテルのようなケタール化合物、ベンゾインアルキルエーテル類、アントラキノン類、チオキサントン類、アシルホスフィンオキサイド類及びα−ジケトン類が挙げられ、中でもα−ジケトン類が好ましい。
α−ジケトン類としては、9,10−フェナントレンキノン、ジアセチル、フリル、アニシル、4,4'−ジクロロベンジル、4,4’−ジアルコキシベンジル及びカンファーキノンが挙げられ、中でもカンファーキノンが好ましい。
また光重合の場合には、第3級アミンなどの還元剤を併用してもよい。さらに過酸化物などの酸化剤と還元剤とを別々に配合して、使用時に混合してレドックス重合を行わせてもよい。
第3級アミンとしては、シアノエチルメチルアニリン、ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルアニリン、N−メチルジフェニルアミン、及びN,N−ジメチル−sym.−キシリジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノ安息香酸及びp−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等が挙げられ、中でもp−ジメチルアミノ安息香酸がより好ましい。
【0114】
光重合開始剤の添加量は、重合性組成物100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.01〜7重量%がより好ましく、0.01〜5重量%が更に好ましい。
【0115】
光重合性組成物に活性放射線を照射して、前記光重合性組成物を硬化させる工程について説明する。
【0116】
<活性放射線>
本発明の光重合性組成物は活性放射線を照射することによって硬化する。
これは、本発明の光重合性組成物に含まれる光重合開始剤が活性放射線の照射により分解して、ラジカル、酸、塩基などの開始種を発生し、その開始種の機能にラジカル重合性化合物の重合反応が生起、促進されるためである。活性放射線としては、γ線、β線、電子線、紫外線、可視光線、赤外線が例示でき、紫外線及び可視光線が好ましく、可視光線がより好ましい。
【0117】
本発明の熱重合性組成物は加熱により硬化する。
熱重合性組成物を硬化させる際には、適宜好適な硬化条件を選択できる。
好ましい40〜80℃、さらに好ましくは50〜70℃の熱媒を用いて1時間〜3時間成形品を加熱することが好ましい。
更に、この加熱の後、好ましくは60〜100℃、さらに好ましくは70℃〜90℃の温度範囲で、1時間〜3時間、後加熱して重合させることが好ましい。
【0118】
<用途>
本発明の重合性組成物は、歯科材料として使用することができる。歯科材料として使用する場合、重合性組成物を治療しようとする天然又は人工の歯の欠損部に適用したり、必要に応じて義歯又はインプラント用の型枠に注入した後、重合して硬化する。本発明の重合性組成物は、キャビティの充填材料のような修復材料として特に好ましく使用することができる。
また、本発明の重合性組成物は、外科用の人工骨補填材等としての利用が可能であり、外科、整形外科などの分野で骨欠損部の骨補填材料として用いることができる。
【実施例】
【0119】
以下、具体的に実施例と比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特にことわりのない限り「%」は重量%を、「部」は重量部を表すものとする。
【0120】
<光重合性組成物>
(実施例1)
表1の重合性化合物(X)A−6 50部
表1の高分子(Y)P−1 7部
無機粒子:表面処理コロイダルシリカ(触媒化成工業(株)製) 40部
光重合開始剤:カンファ−キノン/p−ジメチルアミノ安息香酸=1/4重量比
3部
を溶解し、光重合性組成物とした。
なお、無機粒子は、イソプロピルアルコール分散型コロイダルシリカ(シリカ含量30%、平均粒径15nm、触媒化成工業(株)製、商品名OSCAL−1432)100部に、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン11.2部、0.01規定の塩酸水溶液3部を加え、40℃で1時間撹拌したものを使用した。
【0121】
<耐摩耗性の評価>
光重合性組成物を、下面に厚さ0.1mmのカバーグラスを付けた内径10mm、厚さ1mmのステンレス製金型に充填し、上面に同じカバーグラスを密着させた後に、両面より可視光照射器「G−ライト」((株)ジーシー製)で60秒ずつ光照射を行い、硬化物を得た。可視光の出力ピーク波長域は465nm〜475nmであった。
さらに該硬化物について、歯科材料の評価で常用される歯ブラシ摩耗試験(条件;歯ブラシ「プロスペック」((株)ジーシー製)、荷重100g、水中で5万回ストローク)を実施し、耐摩耗試験を行い、評価をした。なお、摩耗深さの許容レベルは3μm以下である。結果を表1に示す。
【0122】
<感度の評価>
光重合性組成物を、下面に厚さ0.1mmのカバーグラスを付けた内径10mm、厚さ1mmのステンレス製金型に充填し、上面に同じカバーグラスを密着させた後に、両面より可視光照射器「G−ライト」((株)ジーシー製)で45秒ずつ光照射を行い、硬化物を得た。
さらに該硬化物について、前記歯ブラシ摩耗試験を実施した。なお、摩耗深さの許容レベルは5μm以下である。摩耗深さが照射時間60秒に対して、変化せず、かつ、数字が小さいものが感度良好と判断した。結果を表1に示す。
【0123】
<安定性の評価>
光重合性組成物を、下面に厚さ0.1mmのカバーグラスを付けた内径10mm、厚さ1mmのステンレス製金型に充填し、上面に同じカバーグラスを密着させた後に、両面より可視光照射器「G−ライト」((株)ジーシー製)で60秒ずつ光照射を行い、硬化物を得た。
さらに該硬化物について、60℃の水中で一週間保持した。その後、前記歯ブラシ摩耗試験実施した。なお、摩耗深さの許容レベルは5μm以下である。結果を表1に示す。
【0124】
(実施例2〜8)
表1に記載の重合性化合物及び高分子を用いた以外は実施例1と同様にして耐摩耗性、感度及び安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0125】
(実施例9及び10)
表1に記載の重合性化合物を用い、高分子としてポリメタクリル酸メチルを用いた以外は実施例1と同様にして耐摩耗性、感度及び安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0126】
(比較例1〜4)
表1に記載の重合性化合物及び高分子を用いた以外は実施例1と同様にして耐摩耗性、感度及び安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
表中の記号は以下に示す通りである。
X1:トリエチレングリコールジメタクリレート/A−15=50/50(%)
X2:トリエチレングリコールジメタクリレート/D−11=70/30(%)
T1:2,2−ビス−4−(3−メタクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)フェニルプロパン
T2:ヘキサンジオールジメタクリレート
T3:トリエチレングリコールジメタクリレート
T4:ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート
PMMA:ポリメタクリル酸メチル Mw5.0万
【0129】
<熱重合性組成物>
(実施例13)
表2の重合性化合物(X)A−1 50部
表2の高分子(Y)P−5 10部
無機粒子:ハイドロキシアパタイト粉末(平均粒径1μm ペンタックス(株)製)
40部
熱重合開始剤:過酸化ベンゾイル 0.05部
を溶解し、熱重合性組成物とした。
【0130】
<耐摩耗性の評価>
熱重合性組成物を、下面に厚さ0.1mmのカバーグラスを付けた内径10mm、厚さ1mmのステンレス製金型に充填し、上面に同じカバーグラスを密着させた後に、60℃で2時間加熱し、次いで80℃で2時間、後加熱して硬化物を得た。
さらに該硬化物について、歯科材料の評価で常用される歯ブラシ摩耗試験(条件;歯ブラシ「プロスペック」((株)ジーシー製)、荷重100g、水中で5万回ストローク)を実施し、耐摩耗試験を行い、評価をした。なお、摩耗深さの許容レベルは3μm以下である。結果を表2に示す。
【0131】
<感度の評価>
熱重合性組成物を、下面に厚さ0.1mmのカバーグラスを付けた内径10mm、厚さ1mmのステンレス製金型に充填し、上面に同じカバーグラスを密着させた後に、60℃で2時間加熱し、次いで80℃で1時間、後加熱を行い、硬化物を得た。
さらに該硬化物について、前記歯ブラシ摩耗試験を実施した。なお、摩耗深さの許容レベルは5μm以下である。摩耗深さが後加熱2時間に対して、変化せず、かつ、数字が小さいものが感度良好と判断した。結果を表2に示す。
【0132】
<安定性の評価>
熱重合性組成物を、下面に厚さ0.1mmのカバーグラスを付けた内径10mm、厚さ1mmのステンレス製金型に充填し、上面に同じカバーグラスを密着させた後に、両面より可視光照射器「G−ライト」((株)ジーシー製)で60秒ずつ光照射を行い、硬化物を得た。
さらに該硬化物について、60℃の水中で一週間保持した。その後、前記歯ブラシ摩耗試験を実施した。なお、摩耗深さの許容レベルは5μm以下である。結果を表2に示す。
【0133】
(実施例14〜22)
表2に記載の重合性化合物及び高分子を用いた以外は実施例13と同様にして、耐摩耗性、感度及び安定性を評価した。結果を表2に示す。
【0134】
(実施例23及び24)
表2に記載の重合性化合物を用い、高分子としてポリメタクリル酸メチルを用いた以外は実施例13と同様にして耐摩耗性、感度及び安定性を評価した。結果を表2に示す。
【0135】
(比較例5〜8)
表2に記載の重合性化合物及び高分子を用いた以外は実施例13と同様にして耐摩耗性、感度及び安定性を評価した。結果を表2に示す。
【0136】
【表2】

【0137】
表中の記号は以下に示す通りである。
X1:メタクリル酸メチル/A−5=50/50(%)
X2:メタクリル酸メチル/D−21=70/30(%)
T4:n−ブチルメタクリレート
T5:メタクリル酸メチル/ヘキサンジオールジメタクリレート=70/30(%)
T6:メタクリル酸メチル/ペンタエリスリトールテトラメタクリレート=70/30(%)
MMA:メタクリル酸メチル
【0138】
表1、2に示す結果より本発明の重合性組成物は、特に歯科用重合性組成物において、無機粒子の分散安定性が良好であり、高感度、高耐摩耗性、高安定性である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される化合物、
式(II)で表されるモノマー単位を有する高分子及び/又はその他の付加重合型高分子、並びに、
無機粒子を含有することを特徴とする
重合性組成物。
【化1】

式(I)及び式(II)中、Q1はシアノ基又は−COX2基を表し、X1は、ヘテロ原子を介してα炭素に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、X2は、ヘテロ原子を介してカルボニル基に結合する水素原子、有機残基若しくはポリマー鎖、又は、ハロゲン原子を表し、Ra、Rbは各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基又は有機残基を表し、X1とX2、RaとRb、X1とRa又はRbとが互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【請求項2】
前記X1の該ヘテロ原子が、酸素原子である請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
前記X1が、ヒドロキシ基、エーテル結合及びエステル結合よりなる群から選ばれた少なくとも1つの基又は結合を有する請求項1又は2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
前記X1及び/又はX2がヒドロキシ基を有する請求項1〜3いずれか1つに記載の重合性組成物。
【請求項5】
前記無機粒子の含有率が、重合性組成物全量に対して20〜80重量%である請求項1〜4いずれか1つに記載の重合性組成物。
【請求項6】
前記無機粒子が、シリカゾル、コロイダルシリカ及びハイドロキシアパタイトよりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜5いずれか1つに記載の重合性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1つに記載の重合性組成物を含有する歯科用又は外科用硬化性材料。
【請求項8】
請求項1〜6いずれか1つに記載の重合性組成物を硬化して得られた歯科用又は外科用硬化材料。
【請求項9】
歯科用又は外科用成形品の製造方法であって、
請求項1〜6いずれか1つに記載の重合性組成物に光重合開始剤を添加し、光重合性組成物を調製する工程、
前記光重合性組成物を供給する工程、及び、
前記供給した光重合性組成物に活性放射線を照射して、前記光重合性組成物を硬化させる工程を含むことを特徴とする
歯科用又は外科用成形品の製造方法。
【請求項10】
歯科用又は外科用成形品の製造方法であって、
請求項1〜6いずれか1つに記載の重合性組成物に熱重合開始剤を添加し、熱重合性組成物を調製する工程、
前記熱重合性組成物を供給する工程、及び、
前記供給した熱重合性組成物を加熱して硬化させる工程を含むことを特徴とする
歯科用又は外科用成形品の製造方法。

【公開番号】特開2008−201892(P2008−201892A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39402(P2007−39402)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】