説明

重合性黄色染料として好適な化合物;それらを含む、重合性及び/又は架橋性組成物、ポリマーマトリックス、並びに、眼内レンズ

【課題】重合性黄色染料として好適な化合物;それらを含む、重合性及び/又は架橋性組成物、ポリマーマトリックス、並びに、眼内レンズの提供
【解決手段】本発明は、以下に関する:
・CAS番号2832−40−8で登録され、C.I.Disperse Yellow 3として知られている黄色染料製品の重合可能な官能性誘導体であり、下記式(I)を有する新規化合物;
[化1]


・上記新規の化合物の調製;
・黄色染料としてのそれらの使用;
・それらを含む、重合性及び/又は架橋性組成物;
・そのような組成物から得ることができる着色されたポリマーマトリックス;並びに、
・全体又は一部がそのような着色されたポリマーマトリックスからなる眼内レンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、重合性黄色染料として好適な化合物、及び、より具体的には、眼内レンズを着色するためのそれらの使用に関する。
【0002】
本発明は、さらに正確に言えば:
・CAS番号2832−40−8(すなわち、4−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニルアゾ)アセトアニリド)で登録され、C.I.Disperse Yellow 3として知られている黄色染料製品の重合可能な官能性誘導体である新規化合物;
・上記新規化合物の調製;
・黄色染料としてのそれらの使用;
・それらを含む、重合性及び/又は架橋性組成物;
・そのような組成物から得ることができる着色されたポリマーマトリックス;並びに、
・全体又は一部がそのような着色されたポリマーマトリックスからなる眼内レンズ
に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、白内障の外科治療及び眼内レンズという背景の中で開発された。
【0004】
天然の水晶体を眼内レンズに取り替えた高齢者は、一般的に、青視症(彼らの周りのものが、黄色の補色である青色に見える傾向)を患う。この視覚の変化は、天然の水晶体の透過スペクトルが、上記天然の水晶体の黄変が原因で、加齢と共に変化するのに対して、上記老化した(すなわち、黄変した)天然の水晶体と取り替えられた眼内レンズは無色であるという事実によって説明される。従って、黄色い眼内レンズを使用してこの視覚の変化を補正することが、ここ数年間にわたって提案されている。
【0005】
このような黄色い眼内レンズは、青色の光(400〜500nm)が網膜に対して引き起こし得る損傷という脈絡でも提案されている。
【0006】
以下のような極めて多数のパラメーターが、カラーコンタクトレンズなど、これら着色された眼内レンズの生産に関与している:
・当該黄色染料の性質、
・それが使用されるマトリックスの性質、
・上記マトリックス中における上記染料の使用の態様:単純分散であるか、又は、結合固定(true fixation)であるか(固定の目的は、いずれも、溶出による染料の脱離を防止することである)、
・当該結合固定の様式:染料の化学構造におけるスペーサー基の任意の挿入など、含まれる化学基の性質。
【0007】
有利な調整条件下において、安定した高性能な製品を提供することが目的であるのは、極めて明白である。
【0008】
この種の製品は、特許文献、特に以下の企業:Menikon、Hoya、Alcon及びCanon−Staarによる特許文献に記載されている。
【0009】
Menikonは、以下を提案している:
・特許文献1において:アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、ビニル又はアリル系の重合可能な基を化学式中に含んでおり、着色されたポリマーマトリックスの調製においてコモノマーとして使用されるように意図されている、可溶性染料、
・特許文献2において:染料にもUVフィルターにもなり、さらに、ポリマーマトリックスにおける使用も意図されている、重合性化合物、
・特許文献3において:カラーコンタクトレンズの生産方法、
・特許文献4において:ポリマーマトリックスにおける使用も意図されている、重合性染料。
【0010】
Hoyaは以下を提案している:
・特許文献5において:青視症を補正でき、構成材料に黄色、黄茶色、又は、オレンジ色染料を含む、眼内レンズの生産方法、
・特許文献6において:重合可能なキノン系染料、及び、それらを含むソフトコンタクトレンズ、
・特許文献7において:ピラゾロン系の重合性黄色染料と、共重合によるソフト眼内レンズの生産におけるその使用;
・特許文献8において:プラスチック製眼科用レンズ向けの重合性黄色染料としても好適である、重合可能な1,2−ジピラゾエテン。
【0011】
Alconは以下を提案している:
・特許文献9において:他の重合性黄色染料(2段階合成によって得られる)、及び、眼科用レンズ生産におけるそれらの使用。上記染料は、アクリル及びメタクリル基から選択される少なくとも1種の重合可能な基が式中に存在することによって重合可能である。上記文献の教示にしたがうと、これらアクリル系の基は、ビニル系の基よりも優れた効果を発揮することが示されている。
【0012】
最後に、Canon−Staarは、以下を提案している:
・特許文献10において:重合性染料の2つの新規なファミリー、そのような染料をシリコーン材料へ組み入れたもの、及び、上記染料を含む眼内レンズ。
【特許文献1】特開平01−280464号公報
【特許文献2】特開平02−232056号公報
【特許文献3】欧州特許出願公開第634518号明細書
【特許文献4】米国特許第6242551号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第359829号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第799864号明細書
【特許文献7】特開平10−195324号公報
【特許文献8】欧州特許出願公開第1043365号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第674684号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2003/0078359号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況の下、出願人は重合性黄色染料の新規なファミリーを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記染料は、二官能性であって、調製の容易さ、安定性及び反応性によって重合可能である製品として、また、眼内レンズを着色する染料(その色によって、25歳の男性が有する天然の水晶体に類似するUV可視スペクトルを上記レンズに付与することが可能である)として、特に有用である。実際、上記染料は、以下を付与することが可能である:
・400nmまではほぼゼロの透過率、
・400から500nm間においては一定の増加率を有する透過率、及び、
・より長波長(無害な光線に相当する)においては最大の透過率。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
第一の態様によれば、本発明は下記式(I)に示す新規の化合物に関する:
【0016】
【化1】

【0017】
式中、
R及びR’は、それぞれ、1から4個の炭素原子を含む直鎖状のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり;
i及びjは、それぞれ、0、1、2、3及び4から選択される整数であり、i=2、3又は4である場合、各Rは同一でも又は異なっていてもよく、j=2、3又は4である場合、各R’は同一でも又は異なっていてもよく;かつ、
、R、R’、及び、R’は、それぞれ、水素又はメチル基である。
【0018】
上記新規化合物は、上記新規染料を構成する。
【0019】
上記式(I)において、iがゼロ以外の値を有している場合は、Rは1若しくは2個の炭素原子を含む直鎖状のアルキル又はヒドロキシアルキルであることが好ましい;jがゼロ以外の値を有している場合は、R’は1若しくは2個の炭素原子を含む直鎖状のアルキル又はヒドロキシアルキルであることが好ましい。
【0020】
上記式(I)においては、以下の定義が好ましい:
(R’)=(R)
R’=R、及び、
R’=R
【0021】
上記式(I)においては、以下の定義が非常に好ましい:
i=j=0、及び、R=R=R’=R’=H。
【0022】
従って、下記式(Ia)の化合物が特に好ましい。
【0023】
【化2】

【0024】
第2の態様によれば、本発明は、上記式(I)に示す新規化合物の調製方法に関する。その方法は類推方法(analogy proces)による、すなわち、下記式(II)の化合物(4−(2−ヒドロキシ−5−メチル−フェニルアゾ)アセトアニリド)におけるヒドロキシル基のエーテル化、及び、アミド基のアルキル化の方法である。
【0025】
【化3】

【0026】
上記エーテル化及びアルキル化の方法は、KOHのような強塩基の存在下、アルカリ性の、非プロトン性極性溶媒媒体中で行われる。ジメチルスルホキシド(DMSO)又はジメチルホルムアミド(DMF)中で行われることが好ましい。
【0027】
上記方法において、上記式(II)の化合物は、下記式(III)で示されるスチレン誘導体の少なくとも1種と反応させられる:
【0028】
【化4】

【0029】
式(III)中、
Yは、1から4個の炭素原子を含む直鎖状のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり;
zは、0、1、2、3及び4から選択される整数であり、z=2、3又は4である場合、各Yは同一でも又は異なっていてもよく;
及びYは、それぞれ、水素又はメチル基であるのだが、
上記スチレン誘導体の少なくとも1種が化学量論的過剰量で使用される。
【0030】
式(III)で示される化合物の1種が使用される場合は、得られた式(I)の化合物は2つの類似する末端を有する。
【0031】
式(Ia)の好ましい化合物を調製するため、式(II)の化合物のヒドロキシル基及びアミド基は、4−クロロメチルスチレン(式IIIで示される特有の化合物が使用される)で、それぞれ、エーテル化及びアルキル化される。
【0032】
少なくとも2種の互いに異なる、式(III)で示される化合物が使用される場合には、複数種の式(I)の化合物の混合物が得られる。すなわち、式(I)の化合物は2つの類似した末端を有しており、また、式(I)の化合物は互いに異なる末端を有している。式(I)で示される所望の化合物は、それ自体公知の方法で、そのような混合物から単離することができる。
【0033】
式IIIのスチレン誘導体は(又は、式IIIで示されるスチレン誘導体の複数種は、全体として)、常に化学量論的過剰量で使用される。
【0034】
従って、目的は、式(II)の化合物のヒドロキシル基及びアミド基を反応させることである。
【0035】
通常、少なくとも1種の上記スチレン誘導体は、化学量論的量の少なくとも2倍に相当する量で、好ましくは前記化学量論的量の少なくとも3倍に相当する量で使用される。
【0036】
当業者にとっては、式(III)の化合物(スチレン誘導体)の調製は特に困難なことではない。
【0037】
上記で示したように、CAS番号2832−40−8で登録された、式(II)で示される化合物は、C.I.Disperse Yellow 3として知られている。これは、高性能な黄色染料である。
【0038】
そのような公知の化合物(公知の染料)から出発することで、本発明の方法により、1工程(特許文献9の教示する方法と比較すると、明確な利点となる)で、本発明の式(I)の新規化合物を得ることが可能となる。これらは、それ自体が高性能な染料である特に有用な化合物である。
【0039】
第3の態様によれば、本発明は、そのような染料に関する、言い換えると、式(I)の化合物の染料としての使用に関する。これら新規染料は、以下の理由から特に有用であり、高性能である:
・その合成は1工程のみで済む;
・重合可能な基を有しているエーテル基及びアミド基は、生理的条件下で開裂しない;
・重合可能な基(スチレン基)は極めて反応性が高く、反応後は非常に安定した結合を生じる;
・上記新規染料は、それらが由来する化合物、すなわち、C.I.Disperse Yellow 3の色を実質的に保持している(別の関連においては、分散状態で染料を含む重合性及び/又は架橋性組成物と、共有結合された状態で上記染料を含むポリマーマトリックスとの間でわずかな色の変化が観察され、前者は一般的に黄茶色であり、後者は一般的に黄橙色である);
・上記染料により、紫外・可視スペクトルが25歳の男性のものに類似するマトリックスを調製することが可能となる。
【0040】
本発明の他の態様は全て、以下のものに対する、式(I)の新規化合物の染料としての使用に関する:
・重合性及び/又は架橋性組成物;並びに
・そのような組成物から得ることができ、特に眼内レンズの構成材料として有用である、着色されたポリマーマトリックス。
【0041】
従って、第4の態様によれば、本発明は、フリーラジカル法によって重合可能、及び/又は、架橋可能である組成物に関するものであり、該組成物には以下の混合物が含まれる:
・ポリマーマトリックスの前駆体;及び
・有効量の、本発明の少なくとも1種の染料(式(I)の化合物)。
【0042】
上記組成物は、単数又は複数の染料が捕捉され、少なくとも1つの反応性の高い重合可能な基を介して固定されているマトリックスに変換されるいずれの組成物でもよい。
【0043】
当該前駆体はモノマーでもよく、本発明の染料は混合物中でコモノマーを構成する。この種の混合物は共重合させられ、通常はさらに架橋されて、凝集性のポリマーマトリックスを生じる。
【0044】
当該前駆体はポリマーでもよく、この場合、本発明の染料は、それらが架橋される前及び/又は架橋される際に、それら前駆体の骨格構造に固定される。
【0045】
本発明の染料が使用される厳密な状況に関係なく、これらが最終産物に所望の色を付与するために有効量で使用され、それにより、上記最終産物の前駆体である組成物に対して所望の色が付与されることは、極めて明白である。当該有効量とは、混合物(主に:マトリックスの前駆体+染料、すなわち、反応混合物)の概ね0.02から0.15重量%である。
【0046】
反応により、染料が固定されたマトリックスを生成させることになっている当該混合物には、通常、従来法では以下のものが含まれる:
有効量の、少なくとも1種の重合開始剤;及び/又は
有効量の、少なくとも1種の架橋剤。
【0047】
この種の試薬は、共重合させるコモノマーの混合物において非常によく使用される。
【0048】
特にアクリル系コモノマーの、熱処理によるフリーラジカル共重合開始剤としては、以下を使用することが推奨される:
・亜リン酸ナトリウム及びリン酸ナトリウムの混合物(若しくは他の任意のレドックス対)
・アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、若しくは、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)(AIVN)等のアゾ化合物(これは製品番号V65として具体的にはWAKOから市販されている)
[これらの化合物の構造式は以下に示される通りであり:
【0049】
【化5】

【0050】
【化6】

【0051】
後者の化合物は、毒性が低い(同様にその分解生成物も毒性が低い)ことから、特に好ましい(しかし、一般的に重合開始剤は極めて少量で使用され、また、一般的には本発明の眼内レンズの生産方法の最終工程で除去されることに留意されたい)];又は、
・過酸化ベンゾイル等の過酸化物。
【0052】
使用される上記フリーラジカル重合開始剤の量(概して、共重合させるモノマー100重量部あたり1重量部未満)を制御する方法、及び、一般的には、反応媒体の重合速度は、当業者にとって既知である。彼らは、特に、酸素が上記重合開始剤の作用を中和するため、温度が上昇する前に反応混合物からそれを除去することが極めて好ましいと知っている。上記反応混合物を不活性ガスでバブリングすることが大いに推奨される。加熱プログラムに関する限りでは、その最適化は当業者の能力の及ぶ範囲内である。
【0053】
光化学処理による重合性組成物の調製は、本発明の構成から排除されない。この場合、少なくとも1種の従来の光開始剤、例えば、ベンゾフェノン系の光開始剤が有効量で上記組成物に使用される。
【0054】
少なくとも1種の架橋剤の有効量についても言及されている。そのような架橋は、マトリックスの密着性及びその安定性を確かなものにするために不可欠であることが証明され得る。従って、一般的には、有効量の架橋剤(少なくとも二官能性)が、コモノマーの共重合又はポリマーの架橋において使用される。この有効量は、当然ながら適度な量でなければならない(通常、反応物100重量部あたり多くても数重量部であり、すなわち、基本的には0.5から5重量部、好ましくは0.5から2.5重量部である)。例えば、使用された架橋剤は、「コモノマー」を構成しないはずであり、結果として、期待される共重合体の特性、とりわけ機械特性を変化させないはずである。
【0055】
いずれの場合であっても、当業者は、使用される架橋剤の割合が大きくなるにつれて、ヒドロゲルの水分含有量が減少し、それらのガラス転移温度が高くなることを認識している。
【0056】
上記架橋剤の反応基に関して、これらは、アクリレート基及び/又はメタクリレート基であることが好ましい。当業者は、そのような基を有している架橋剤を多数熟知しており、具体的には以下のものが挙げられる:
ブタンジオールジメタクリレート及びジアクリレート、
ヘキサンジオールジメタクリレート及びジアクリレート、
デカンジオールジメタクリレート及びジアクリレート、
エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、
テトラエチレングリコールジメタクリレート。
【0057】
本発明の構成においては、上記に記載された架橋剤、とりわけEDMAを使用することが推奨されるが、これによって何ら限定されることはない。
【0058】
このように、本発明の重合性及び/又は架橋性組成物には、一般的にこの種(又は、同等の種)の架橋剤が含まれ、その痕跡が、上記組成物から得られたポリマーマトリックス中にはっきりと見られる。
【0059】
眼内レンズの生産という状況において、上記組成物は、一般的に、有効量の紫外線吸収剤を少なくとも1種また含み得ることを当業者は理解している。この種の化合物(UVフィルターとして作用する)が、眼内レンズの構造内で安定化されるという重要性を、当業者は無視できない。上記紫外線吸収剤がそれ自体もまた共重合可能である場合、すなわち、二重結合又はアクリレート基若しくはメタクリレート基等の適切な反応性の化学的要素をその式中に有している場合には、求められている安定性は最適なものであろう。
【0060】
当業者は、そのような化合物についてよく知っており、具体的に以下に示されるように、そのうちのいくつかは市販されている:
4−(2−アクリルオキシエトキシ)−2−ヒドロキシベンゾフェノン、
4−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン(MOBP)、
1,3−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)−2−プロピルアクリレート、
2−(2’−メタクリルオキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール。
【0061】
これらの化合物は全て本発明の構成範囲内で好適であるが、眼内レンズの製造において長年このUVフィルターを取り扱っている限りでは、出願人はとりわけMOBPを使用してきた。
【0062】
UVフィルターは、通常は、反応混合物中で0.25から5重量部の量で、好ましくは0.25から2重量部の量で使用される。
【0063】
本発明の重合性及び/又は架橋性組成物は、本発明の少なくとも1種の染料を有効量で含んでいるポリマーマトリックス前駆体を主剤とする。
【0064】
好ましくは、上記ポリマーマトリックス前駆体は、ポリシロキサン及びアクリル系モノマーから選択される。より好ましくは、これらはアクリル系モノマーから選択される。
【0065】
使用される(架橋可能な)ポリシロキサンは当業者に公知である。実際に取り扱われるのは以下の2つの溶液である:
・ビニル末端基を有している少なくとも1つのポリシロキサン、及び、触媒を含む第1の溶液、
・ビニル末端基を有している少なくとも1つのポリシロキサン、及び、水素化ケイ素基を有しているポリシロキサンを含む第2の溶液。
【0066】
これらの2つの溶液を接触させると、基
【0067】
【化7】

【0068】
は、基
【0069】
【化8】

【0070】
と反応して、樹脂(マトリックス)を形成する。本発明の染料が存在する場合には、上記樹脂中に固定され、捕捉される。
【0071】
当該アクリル系モノマーは2つのカテゴリーに分けることができる。これらは親水性マトリックス、又は、疎水性マトリックスを生じさせるのに適しているものであり得る。慣例上、親水性とは、ヒドロキシル基を有しており、水の吸収が可能であるマトリックスを意味する。そのようなマトリックスはヒドロゲルとも呼ばれる。
【0072】
親水性マトリックスにおいては、好ましい前駆体混合物は、以下を主剤とするものである:
・2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及び
・少なくとも1種のC1〜C8アルキル又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート。
【0073】
以下のタイプの混合物がさらに特に好ましい:
・2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及びメチルメタクリレート(MMA)、
特に、MENTOR社がMEMORYLENS(登録商標)の名称で現在市販しているレンズの生産に用いた混合物;
・2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及びエチルメタクリレート(EMA)、特に、仏国特許出願公開第2757065号明細書に記載されている混合物;又は、
・2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及び6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート(HHMA)、特に、米国特許第5217491号明細書に記載されている混合物。
【0074】
疎水性マトリックスにおいては、好ましい前駆体混合物は、式(IV):
【0075】
【化9】

【0076】
のモノマーを主剤とするものであり、式中、Rは水素又はメチル基であり、R’は1から5個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又は、(C1〜C5アルキル)フェニル基である。
【0077】
さらに特に好ましい混合物は、メチルメタクリレート(MMA)を主剤とするもの、又は、エチルアクリレート(EA)及びエチルメタクリレート(EMA)を主剤とするものである(特に、特許文献9に記載の混合物)。
【0078】
第5の態様によれば、本発明は、上記の重合性及び/又は架橋性組成物をフリーラジカル共重合、及び/又は、架橋させて得ることができる、着色されたポリマーマトリックスに関する。上記マトリックスには、式(I)の黄色染料が含まれることが特徴的であり、上記黄色染料は安定してその中に含まれる。それら染料は上記マトリックスの一体部分を成す。それら染料は、その二重結合を介して反応し、マトリックスの構造に組み入れられる。
【0079】
着色されたマトリックスは、ポリシロキサン又はアクリル系であることが好ましい(上記参照)。
【0080】
最終の態様によれば、本発明は、最終的に、全体又は一部が本発明の着色されたポリマーマトリックスから構成されている眼内レンズに関する。従って、上記レンズの少なくとも光学部は、本発明の着色されたポリマーマトリックスから作成される。好ましくは、上記レンズの光学部及び支持部は本発明の着色されたポリマーマトリックスから作成される。
【0081】
本明細書で上述された、マトリックス内において黄色染料として使用される式(I)の化合物の利点を考慮すると、このようなレンズは特に高性能である。
【0082】
本発明は、以下の実施例、及び、添付の図面によって説明される。
【0083】
第1の工程は、本発明に係る重合性黄色染料(式(Ia)の化合物)を調製することである。その後、この染料を重合性及び架橋性組成物に組み入れ、この組成物を重合及び架橋して、眼内レンズの構成材料として申し分なく好適な着色されたポリマーマトリックスを生成した。
【0084】
図1は、調製された上記式(Ia)の化合物のH NMRスペクトルを表す。以下の特徴的なピークが上記スペクトルにおいて見られる:
・7から8ppm間での芳香環、
・6.70、5.75及び5.20ppmでのビニル結合、
・5.25ppmでのCH−N、
・4.95ppmでのCH−Ar、
・2.31ppmでのCH−Ar、並びに、
・1.97ppmでのCH−CO−N。
【0085】
図2は透過スペクトルを表し、これに関して以下で考察する。
【実施例】
【0086】
式(Ia)の化合物の調製
上記調製は室温で行う。
【0087】
1gのC.I.Disperse Yellow 3(CAS番号2832−40−8)を丸底フラスコに入れ、その後、50mlのジメチルホルムアミドで覆う。全体を1時間攪拌する。0.32gの水酸化カリウムを添加して、溶液を紫色に変化させる。その後、40分間攪拌し続ける。
【0088】
それから、4−クロロメチルスチレン(0.48ml)を添加する。反応媒体を42時間攪拌する。
【0089】
42時間が経過すると、100mlの脱イオン水を上記反応媒体に添加する。
【0090】
モノマー(式(Ia)の化合物)をエーテルで抽出する。その後、有機相を100mlの脱イオン水で5回洗浄し、それから硫酸ナトリウム上で乾燥させる。溶媒を蒸発させる。
【0091】
先に硫酸ナトリウム上で乾燥させたエーテルからモノマーが再結晶化する。
【0092】
着色された親水性マトリックスの調製
式(Ia)の化合物をガラスフラスコ中に計量し、その後、以下:
・82.5gの2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、
・17.5gのエチルメタクリレート(EMA)、
・0.8gのエチレングリコールジメタクリレート、及び、
・0.5gの4−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、
を含むモノマー溶液に、試料に応じて染料濃度が0.02から0.15重量%となるように添加する。
【0093】
次いで、過酸化ベンゾイル(0.2g)を添加する。
【0094】
混合物を超音波で均質化し、アルゴンで脱気する。その後、重合(架橋)を40℃で96時間行う。100℃、3時間の重合後の熱処理段階によって、後に続くレンズ素材の硬化を確かなものにする。
【0095】
重合(架橋)反応の効力、より正確には、染料捕捉の効力を、以下に明記する方法で評価した。
【0096】
水和させたペレットを、等体積のメタノールと蒸留水との混合物を用いて、少なくとも6時間かけて抽出した。抽出前及び後における上記ペレットの紫外・可視スペクトルを比較した。
【0097】
上記ペレットの吸光度の低下は、400から500nmでは10%未満に留まり、350から400nmでは20%に達しわずかな透過性を示した。このような吸光度の低下は、重要な問題ではない。
【0098】
さらに、得られた材料は青色光線に対するフィルタリング力に優れ、これは、25歳の男性の天然の水晶体によって得られるフィルタリング力と同程度であり、青色よりも長波長については極めて良好な透過性を提供する。
【0099】
その他の、着色された親水性マトリックスの調製
式(Ia)の化合物をガラスフラスコ中に計量し、その後、以下:
・82.5gの2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、
・17.5gのメチルメタクリレート(MMA)、
・0.8gのエチレングリコールジメタクリレート、及び、
・0.5gの4−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、
を含むモノマー溶液に、試料に応じて染料濃度が0.02から0.15重量%となるように添加する。
【0100】
次いで、過酸化ベンゾイル(0.2g)を添加する。
【0101】
混合物を超音波で均質化し、アルゴンで脱気する。その後、重合(架橋)を40℃で96時間行う。100℃、3時間の重合後の熱処理段落によって、後に続くレンズ素材の硬化を確かなものにする。
【0102】
得られた材料は青色光線に対するフィルタリング力に優れ、これは、25歳の男性の天然の水晶体によって得られるフィルタリング力と同程度であり、青色よりも長波長については極めて良好な透過性を提供する。これを添付の図2に示す。
【0103】
上記図2は、3つの透過スペクトルT=f(λ)を示す:
・最初の(−・・−)は、25歳の男性の天然の水晶体を示し、
・第3の(−)は、上記で調製した着色されたマトリックス(HEMA+MMA+0.075重量%の割合の本発明の染料)を示し、
・第2の(−)は、染料を使用せずに同じ方法で調製された、対応する透明なマトリックス(HEMA+MMA)を示している。
【0104】
着色された疎水性ポリマーマトリックスの調製
式(Ia)の化合物をガラスフラスコ中に計量し、その後、以下:
・100gのメチルメタクリレート(MMA)、
・0.8gのエチレングリコールジメタクリレート、及び、
・0.5gの4−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン
を含むモノマー溶液に、試料に応じて染料濃度が0.02から0.15重量%となるように添加する。
【0105】
次いで、過酸化ベンゾイル(0.2g)を添加する。
【0106】
この混合物を超音波で均質化し、アルゴンで脱気する。その後、重合(架橋)を40℃で96時間行う。100℃、3時間の重合後の熱処理段落によって、後に続くレンズ素材の硬化を確かなものにする。
【0107】
得られた材料は青色光線に対するフィルタリング力に優れ、これは、25歳の男性の天然の水晶体によって得られるフィルタリング力と同程度であり、青色よりも長波長については極めて良好な透過性を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】調製された上記式(Ia)の化合物のH NMRスペクトルを表す。
【図2】3つ(25歳の男性の天然の水晶体、着色されたマトリックス、透明なマトリックス)の透過スペクトルT=f(λ)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式の化合物:
【化1】

(式中、
R及びR’は、それぞれ、1から4個の炭素原子を含む直鎖状のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり;
i及びjは、それぞれ、0、1、2、3及び4から選択される整数であり、i=2、3又は4である場合、各Rは同一でも又は異なっていてもよく、j=2、3又は4である場合、各R’は同一でも又は異なっていてもよく;かつ、
、R、R’、及び、R’は、それぞれ、水素又はメチル基である)。
【請求項2】
(R’)=(R)
R’=R、及び、
R’=R
である、請求項1に記載の式(I)の化合物。
【請求項3】
下記式の、請求項1又は2に記載の化合物。
【化2】

【請求項4】
式(II)の化合物:
【化3】

を、アルカリ性の、非プロトン性極性溶媒媒体中で、式(III):
【化4】

(式中、
Yは、1から4個の炭素原子を含む直鎖状のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり;
zは、0、1、2、3及び4から選択される整数であり、z=2、3又は4である場合、各Yは同一である又は異なることが可能であり;
及びYは、それぞれ、水素又はメチル基である)
のスチレン誘導体の少なくとも1種と反応させる工程を含み、前記スチレン誘導体の少なくとも1種が化学量論的過剰量で使用されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の化合物の調整方法。
【請求項5】
前記式(III)の少なくとも1種の化合物が、化学量論的量の少なくとも2倍に相当する量で、好ましくは前記化学量論的量の少なくとも3倍に相当する量で使用されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記式(II)の化合物を4−クロロメチルスチレンと反応させる工程を含むことを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1項に記載の化合物からなる重合性黄色染料。
【請求項8】
フリーラジカル法によって重合可能な及び/又は架橋可能な組成物であって、以下:
・ポリマーマトリックスの前駆体;及び、
・有効量の、請求項7に記載の少なくとも1種の重合性黄色染料
の混合物を含み、
前記有効量は、概ね、前記混合物の0.02から0.15重量%に相当することを特徴とする組成物。
【請求項9】
前記混合物は、有効量の重合開始剤を少なくとも1種、及び/又は、有効量の架橋剤を少なくとも1種含んでいることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記混合物は、有効量の紫外線吸収剤を少なくとも1種含んでおり、有利には前記紫外線吸収剤が共重合可能であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリマーマトリックス前駆体は、ポリシロキサン及びアクリル系モノマーから選択されることを特徴とする、請求項8から10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記前駆体が、親水性マトリックスを作成するのに好適なアクリル系モノマーであることを特徴とする、請求項8から11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
アクリル系モノマーは、2−ヒドロキシエチルメタクリレ−ト(HEMA)及び少なくとも1つのC1〜C8アルキル又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレ−トからなることを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記アクリル系モノマーが以下の混合物:
・2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及びメチルメタクリレート(MMA);
・2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及びエチルメタクリレート(EMA);又は、
・2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)及び6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート(HHMA)、
からなることを特徴とする、請求項12又は13に記載の組成物。
【請求項15】
前記前駆体が、疎水性マトリックスを作成するのに好適なアクリル系モノマーであることを特徴とする、請求項8から11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記アクリル系モノマーが下記式を有していることを特徴とする、請求項15に記載の組成物:
【化5】

(式中、Rは水素又はメチル基であり、R’は、1から5個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又は、(C1〜C5アルキル)フェニル基である)。
【請求項17】
請求項8から16のいずれか1項に記載の重合性及び/又は架橋性組成物をフリーラジカル共重合、及び/又は、架橋させて得ることができる、着色されたポリマーマトリックス。
【請求項18】
光学部及び支持部を有する眼内レンズであって、前記光学部(前記光学部及び前記支持部)は、請求項17に記載の着色されたポリマーマトリックスから作成されることを特徴とする眼内レンズ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−510209(P2009−510209A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532839(P2008−532839)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050945
【国際公開番号】WO2007/036672
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(508093849)
【Fターム(参考)】