説明

重症の集中治療患者への人工栄養のための脂肪乳剤

本発明は、重症多発神経障害(CIP)および重症ミオパシー(CIM)の予防および治療のための医薬調製物に関するものである。さらに本発明は、奇数の炭素原子を有する少なくとも1個の脂肪酸基[ここで、この脂肪酸基は、5〜15個の炭素原子を有する炭素鎖を含む]を含む少なくとも1個のトリグリセリドを含む等張性脂肪乳剤に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重症多発神経障害(CIP)および重症ミオパシー(CIM)の予防および治療のための医薬製剤に関するものである。さらに本発明は、奇数の炭素原子を有する少なくとも1個の脂肪酸残基[ここで、この脂肪酸残基は、5〜15個の炭素原子を有する炭素鎖を含む]を含む少なくとも1個のトリグリセリドを含む等張性脂肪乳剤に関するものである。加えて本発明は、食餌製品としての等張性脂肪乳剤の使用に関するものであり、さらに本発明は、非経口栄養の範囲内での、または食餌製品の構成成分としての該医薬製剤/等張性脂肪乳剤の使用、特に、敗血症の集中治療患者への人工栄養のための脂肪乳剤の使用に関するものである。
【0002】
近年および最近数十年間の集中治療医療の進歩(それは特に、新規な治療概念、分類体系および的確に狙いの定められた介入によるものであった)により、極めて重症の集中治療患者の生存期間が著しく延長されることがあり得る。しかしながらその結果、従来まれまたは未知であった臨床像がこの患者群に観察されている。即ち、集中治療患者は敗血症発症リスクが特に高く、それはその後の経過において重大な合併症を引き起こし得る。これらの中で、集中治療患者における神経学的なおよび筋肉の問題に関する系統的研究において重症多発神経障害(CIP)および重症ミオパシー(CIM)が確定された。両症例は後天的な筋力低下、即ちCIP(これは主として軸索型である)およびCIM(これは主として筋肉型である)を含む。どちらの症例においても全身麻痺、筋無力症および呼吸器離脱困難が最も重要且つ一般的な症状であり、さらに、両疾患は同時に起こり得ることから、CIPとCIMの臨床的境界設定は極めて困難である(O. Friedrich, E. Hund, Anaesthesist 2006, 55, 1271-1280)。CIP/CIMの有病率については、重度の敗血症および多臓器不全の患者に対して70〜80%という数値が現在提示されている。CIP/CIM単独に起因する死亡率は恐らく高くないものの、CIP/CIMの発症は集中治療を延長させ、リハビリテーションを遅延させ、それにより、治療およびマクロ経済コストの膨大な増加を導く。さらに、例えば重度のARDSに罹患している患者の筋力低下および急速疲労は、集中治療終了の12ヶ月後においてさえも、制限された生活の質の最も重要な原因であると考えられる(M.S. Herridge, A.M. Cheung, C.M. Tansey, N. Engl. J. Med. 2003, 348, 683-693)。CIP/CIMの正確な原因は現在なお不明であり、集中治療医学において研究中である。炎症仲介物質、異化、インスリン抵抗性、コルチコステロイドの適用、グルカゴン感受性増大、エネルギー供給障害、筋弛緩剤の適用、酸化ストレスならびに全身微小循環および/または炎症反応が、特に危険因子であると論じられている。そのような訳で、CIP/CIMの特異的治療法は今なお知られていない。文献によれば、多くの著者が、CIP/CIM治療の最重要因子としてSIRSおよび敗血症の積極的治療(「早期決着を目指す治療」)を考えていることが見て取れる。さらに、強化インスリン療法が罹患率を44%低下させ、また、もう一つの治療選択肢が免疫グロブリンの静脈内投与に認められる(M. Alb, S. Hirner, T. Luecke, Anasthesiol. Intensivmed. Notfallmed. Schmerzther. 2007, 4, 250-258)。
【0003】
本発明のもう一つの背景は、静脈内適用のための脂肪乳剤による、または脂質含有食餌製品による集中治療患者の人工栄養の分野にある。
【0004】
非経口栄養のための脂肪乳剤は、正常な経口摂取が不可能、または医学的に禁忌である場合に脂肪を静脈内に許容される剤型で供給するのに役立つ。先行技術においてよく見られる脂肪乳剤は、植物油、例えばベニバナ油またはダイズ油から製造され、場合によっては中鎖脂肪酸のトリグリセリド(いわゆる中鎖トリグリセリド(MCT))および/または海産物由来の油(魚油、大抵は冷水魚に由来する)をさらに含有する。
【0005】
したがってDE−OS−3721137は、エイコサペンタエン酸トリグリセリドおよび/またはドコサヘキサエン酸トリグリセリド、またはこのようなトリグリセリドを含有する魚油、ならびにオメガ−6脂肪酸を含有する植物油、およびMCTを含む非経口栄養のための脂質乳剤を記載している。
【0006】
EP0120169B1は、グリセロール分子の中央炭素原子に多価不飽和脂肪酸(好ましくはエイコサペンタエン酸)を有し得る合成トリグリセリドを開示している。この定義に従って製造されたグリセリドは、栄養摂取のために、またはサプリメントもしくは治療的栄養摂取のための医薬として使用できる。
【0007】
US−4526902は、医薬品または脂肪含有食品、例えばバターなどの成分として使用される、25〜75%(重量)のエイコサペンタエン酸およびオメガ−6脂肪酸を含む混合物を記載している。
【0008】
US6740679は、長鎖脂肪酸分解障害に罹患している患者のエネルギー源としてのn−ヘプタン酸を記載している。
【0009】
US2008/0132571 A1は、患者の異化作用の処置のための製剤および方法を開示しており、そこでは、奇数脂肪酸およびそれらのグリセリドが、AMP対ATPの細胞内比率増大およびAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性増強のために適用される。
【0010】
CIPおよびCIMの有効な治療法は殆ど知られていない。さらに、敗血症および集中治療法の二次的合併症、例えばCIPおよび/またはCIMを治療するための有効な栄養法もまた今のところ殆どわかっていない。
【0011】
このように、集中治療患者の人工栄養および付随する栄養学的処置のための物質および製剤に対する必要性が存在し、また、CIPおよび/またはCIMの予防および治療のための製剤および方法に対する緊急の必要性が存在する。
【0012】
この背景を前にして、本発明の目的は、重症の、例えば敗血症の集中治療患者の付随的栄養学的処置のための、ならびに、集中治療法の二次的合併症、例えばCIPおよび/またはCIMの予防および治療のための、医薬製剤を提供することである。
【0013】
驚くべきことに、奇数の炭素原子を有する脂肪酸残基を伴うトリグリセリドを含有する脂肪乳剤を供給することにより、前記合併症の発現頻度が低下し、または疾患の重篤度が軽減し、またはその経過が短縮され得ることが見出された。
【0014】
したがって本発明は、式(I):
【化1】


[式中、基R、RまたはRのうち少なくとも1個は、独立して、5〜15個の奇数の炭素原子を有するアルカノイル基である]
で示される少なくとも1個のトリグリセリド(A)を含有する脂肪乳剤を含む、CIPおよび/またはCIMの予防または治療のための医薬製剤に関するものである。
【0015】
本発明に従って使用される脂肪乳剤のトリグリセリド(A)は、その中の少なくとも1個は5〜15個の炭素原子を有する奇数の炭素原子を有する脂肪酸でエステル化されたグリセロールで構成されている。
【0016】
本発明によれば、この奇数アルカノイルは炭素原子5〜15個の鎖長を有する。好ましくはそれらは、ペンタン酸(C5:0、n−吉草酸)、ヘプタン酸(C7:0、エナント酸)、ノナン酸(C9:0、ペラルゴン酸)、ウンデカン酸(C11:0、ウンデシル酸)、トリデカン酸(C13:0、トリデシル酸)およびペンタデカン酸(C15:0、ペンタデシル酸)より成る群から選ばれる脂肪酸のうち1以上から誘導されるアルカノイルである。
【0017】
好ましくは、トリグリセリド(A)中の基R、RまたはRのうち少なくとも1個は、独立して、炭素原子5〜9個の鎖長を有する。
【0018】
より好ましくは、トリグリセリド(A)中の基R、RまたはRのうち少なくとも1個は、独立して、n−ヘプタノイル、即ち、少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個のヒドロキシ基がヘプタン酸でエステル化されている、エステル化グリセロールで構成されるトリグリセリドである。
【0019】
特に、トリグリセリド(A)はトリヘプタノイン、即ち、3個のヒドロキシ基がn−ヘプタン酸でエステル化されているグリセロールである。
【0020】
トリグリセリド(A)の合成は当業者によく知られている。必要な奇数脂肪酸(ペンタン酸、ヘプタン酸、ノナン酸、ウンデカン酸、トリデカン酸およびペンタデカン酸)は例えばSigma Chemicals Co. から商業的に入手できる。さらに、トリグリセリド(A)自身の様々な変形物の商業的供給源が多数存在する。例えば、トリヘプタノインはSpecial Oil 107としてCondea Chemie GmbH(Witten, Germany)から購入できる。トリノナノイン、トリウンデカノインまたはトリペンタデカノインは例えばChemos GmbH(Regenstauf, Germany)により提供され得る。
【0021】
本発明に係る、5〜15の奇数炭素原子数を有する必須脂肪酸残基に加えて、トリグリセリド(A)は、他の偶数脂肪酸残基をも含み得る。この場合、本発明の医薬製剤には、少なくとも1個の脂肪酸残基がオメガ−3および/またはオメガ−6脂肪酸から誘導されるトリグリセリド(A)を含有する脂肪乳剤が好ましい。オメガ−3およびオメガ−6脂肪酸は、人体自身が完全には生産することができず、プロスタグランジン類、エイコサノイド類および細胞膜の構造成分の前駆体として機能する、生体に必須の構築ブロック/栄養素である。ダイズ油およびベニバナ油などのような植物起源の様々な油がオメガ−6脂肪酸の原料として働き、静脈内脂肪乳剤製造のためのそれらの使用が先行技術に含まれている。静脈内脂肪乳剤中のオメガ−3脂肪酸の原料としての海産物起源の油(「魚油」)の加工もまた先行技術に含まれており(EP−A−0298293)、そこでは高精製魚油濃縮液が好ましく、それは冷水魚、例えばサケ、ニシン、イワシまたはサバから取得する。それらのオメガ−3−脂肪酸含有量は好ましくは40%またはそれ以上である。
【0022】
さらに好ましいのは、少なくとも1個の脂肪酸残基が、中鎖脂肪酸(例えば、カプリル酸C8:0、カプリン酸C10:0、ラウリン酸C12:0)、長鎖飽和脂肪酸(例えば、ミリスチン酸C14:0、パルミチン酸C16:0、ステアリン酸C18:0)、モノ不飽和脂肪酸(パルミトレイン酸C16:1、オレイン酸C18:1)、オメガ−3およびオメガ−6型多価不飽和脂肪酸、例えばエイコサペンタエン酸(EPA、C20:5 オメガ−3)、ドコサヘキサエン酸(DHA、C22:6 オメガ−3)、リノール酸(LA、C18:2 オメガ−6)またはγ−リノレン酸(GLA、C18:3 オメガ−6)より成る群から選ばれるトリグリセリド(A)である。
【0023】
本発明のさらに好ましい態様では、トリグリセリド(A)が、奇数の炭素数を持つアルカノイル残基および偶数の炭素数を持つアルカノイル残基がトリグリセリド分子(A)のsn−1、sn−2およびsn−3位においてランダムに分布している、ランダム構造脂質の形態となっている。或いは、そして特に好ましくは、トリグリセリド(A)は、化学的に定義された構造脂質の形態、即ち、トリグリセリド分子のsn−1およびsn−3位に奇数の炭素数を持つアルカノイル残基、そしてsn−2位に偶数の炭素数を持つアルカノイル残基が化学的に定義された分布をしている。
【0024】
本発明に従って使用される脂肪乳剤の全体またはその一部が化学的に定義されたまたはランダム化された構造脂質を含有している場合、この構造脂質の製造のためには、植物油が好ましくはオメガ−6脂肪酸の供給源の役割を果たし、魚油がオメガ−3脂肪酸の供給源の役割を果たす。ランダム化構造トリグリセリドは、例えば所望の植物油および/または魚油の混合物を、5〜15の鎖長を有する奇数脂肪酸より成るトリグリセリドで化学的エステル交換を行うことにより取得できる。化学的に定義された構造脂質の場合、エステル交換は、同じ原料物質から酵素的に達成される。
【0025】
本発明のさらに好ましい態様では、本発明の医薬製剤は、(A)とは異なる少なくとも1個のさらなるトリグリセリド(B)を含む脂肪乳剤を含む。
【0026】
好ましくは、トリグリセリド(B)は海産物または植物起源のトリグリセリドを包含する。魚油または植物油からの純粋なオメガ−3もしくはオメガ−6脂肪酸の回収またはこれらの脂肪酸の化学合成は冗長で費用がかかる一方で、上記の海産物または植物起源の油は対応する脂肪酸の含有量が高いことから、本発明によれば、これらの油からオメガ−3もしくはオメガ−6脂肪酸またはオメガ−3もしくはオメガ−6脂肪酸を含有するトリグリセリドを単離する必要はなく、本発明に従って使用される脂肪乳剤の製造に当該油をそのまま使用することができる。
【0027】
魚油および特にダイズまたはベニバナ油の使用は同様に、自動的に長鎖飽和脂肪酸、例えば代表である上述のミリスチン酸、パルミチン酸およびステアリン酸、ならびにモノ不飽和であり海産油およびオリーブ油(特に高濃度である)の両方に含まれているオレイン酸をも提供する。
【0028】
中鎖脂肪酸またはトリグリセリドは、半合成MCT油(ミグリオール油)に含まれており、即ち、90%以上(全脂肪酸含有量を基準として)がカプリル酸およびカプリン酸として含まれている。この形態においてこれらは本発明に従って使用される脂肪乳剤中のトリグリセリド(B)として使用するのに特に好適である。
【0029】
好ましい態様では、本発明による医薬製剤は、トリグリセリド(A)に加えて、中鎖脂肪酸(例えば、カプリル酸C8:0、カプリン酸C10:0、ラウリン酸C12:0)、長鎖飽和脂肪酸(例えば、ミリスチン酸C14:0、パルミチン酸C16:0、ステアリン酸C18:0)、モノ不飽和脂肪酸(パルミトレイン酸C16:1、オレイン酸C18:1)、オメガ−3およびオメガ−6型多価不飽和脂肪酸、例えばエイコサペンタエン酸(EPA、C20:5 オメガ−3)、ドコサヘキサエン酸(DHA、C22:6 オメガ−3)、リノール酸(LA、C18:2 オメガ−6)またはγ−リノレン酸(GLA、C18:3 オメガ−6)より成る群から選ばれる少なくとも1個の脂肪酸残基を含む少なくとも1個の別のトリグリセリド(B)を含む乳剤を含んでいる。
【0030】
本発明のさらなる好ましい態様では、トリグリセリド(A)の量は、乳剤中の全トリグリセリドの総重量を基準として50〜80%(重量)、より好ましくは60〜70%(重量)である。
【0031】
好ましくは本発明に係る医薬製剤は、医薬製剤総量を基準として5〜30%(重量)、より好ましくは10〜20%(重量)の量のトリグリセリドを含む。
【0032】
トリグリセリド(A)および場合により他のトリグリセリド/脂質に加えて、本発明に係る医薬製剤の脂肪乳剤は、注射用水ならびに静脈内脂肪乳剤の製造における最新技術に対応するさらなる補助物質および添加剤、例えば乳化剤、共乳化剤、安定剤および等張性を調節するための適当な物質を含有させるのが有利である。
【0033】
生理学的忍容性の優れた乳化剤、例えば動物または植物起源のリン脂質が、前記乳化剤として使用される。精製レシチン、例えば大豆レシチンもしくは鶏卵レシチンまたはそれらから得られる部分的画分が好ましく使用される。本発明に従って使用される乳剤中のリン脂質含有量は、好ましくは各々乳剤の総重量を基準として0.4〜2.0%(重量)、好ましくは0.6〜1.5%(重量)である。
【0034】
さらに、共乳化剤、例えば長鎖脂肪酸のアルカリ塩(例えばステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなど)、または単独の共乳化剤として、もしくは他のものと組み合わせて、コレステロールまたはコレステロールエステル(例えば酢酸コレステロール)を使用できる。共乳化剤として長鎖脂肪酸のアルカリ塩を使用する場合、そしてまたコレステロールまたはコレステロールエステルを単独でまたは他の共乳化剤と組み合わせて使用する場合、それらの濃度は、乳剤の総重量を基準として各々0.01%(重量)〜0.1%(重量)、好ましくは0.02〜0.04%(重量)である。
【0035】
特に、それが多価不飽和脂肪酸、例えばオメガ−3またはオメガ−6脂肪酸を含有する場合、本発明に係る医薬製剤の脂肪乳剤は、望ましくない過酸化物の生成から保護する抗酸化剤で強化され得る。とりわけビタミンE(α−、β−、またはγ−トコフェロール)およびビタミンC(例えばパルミチン酸アスコルビルとして)が抗酸化剤として使用できる(ここで、ビタミンEおよびCまたはそれらの異性体もしくは誘導体は、単独または組み合わせであってよい)。本発明の製剤中の長鎖、特に多価不飽和脂質の含有量にもよるが、抗酸化剤の重量比は、本発明に従って使用される乳剤の総重量を基準として、各々0.002〜0.03%(α−トコフェロール)または0.001〜0.015%(パルミチン酸アスコルビル)である。
【0036】
特別な態様では、本発明の医薬製剤において本発明に従って使用されるべき脂肪乳剤はさらに、該乳剤の総重量を基準として、好ましくは各々0.01〜0.1%(重量)の量のL−カルニチンを含有する。
【0037】
さらなる態様では、本発明の製剤はさらに、ビタミン ビオチンおよび/またはコバラミンを含有できる。それらの濃度は、該製剤の脂質画分100gあたりビオチン1〜10mgまたはコバラミン0.1〜1mgである。
【0038】
この脂肪乳剤の等張化は、好ましくはポリオール、例えばグリセロール、キシリトールまたはソルビトールによって行い、それらは好ましくは乳剤の総重量を基準として各々2〜3%(重量)の量が適用される。グリセロールが好ましい等張化剤である。
【0039】
本発明の医薬は薬学的に有効な量で投与される。好ましくは、薬学的有効量、即ち、重大な、例えば敗血症のような疾患およびその集中治療の合併症を回避し、その強度を軽減し期間を短縮するために本発明の医薬製剤と共に提供されるトリグリセリド(A)の量は、1日あたり体重1kgにつき1〜2gである。この提供は好ましくは24時間/日にわたり連続して実施するが、幾つかの部分に分けてもよく、ここで、1時間あたり体重1kgにつき脂質0.25gの点滴速度を超えてはならない。本発明の効果を達成するためには一般に数日間の中期ないし長期投与が必要である。
【0040】
本発明の医薬製剤は、完全非経口栄養または併用非経口/経腸栄養の構成成分として、疾患もしくは徴候の複雑な経過または切迫性神経障害を示す、重症の、例えば敗血症の集中治療患者を適応として適用される。非経口または併用経腸/非経口栄養による総カロリー供給量の中の、本発明の乳剤の高いエネルギー含有量を考慮しなければならない。適用される本発明の脂肪乳剤の態様(即ち、必須脂肪酸(オメガ−3またはオメガ−6)の均衡が取れている、または取れていない)にもよるが、必須脂肪酸を追加的に補う必要はない。とりわけ、乳剤中にオメガ−3脂肪酸残基が特に好ましく存在することにより、そしてそれらの抗炎症性により、相乗効果が達成され治癒プロセスがさらに促進される。
【0041】
本発明はさらに、式(I):
【化2】


[式中、基R、RまたはRのうち少なくとも1個は、5〜15個の奇数の炭素原子を有するアルカノイル基である]
で示されるトリグリセリド(A)を含み、(A)とは異なる、そして、カプリル酸、カプリン酸またはラウリン酸を包含する中鎖脂肪酸、ミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸を包含する長鎖飽和脂肪酸、パルミトレイン酸またはオレイン酸を包含するモノ不飽和脂肪酸、ならびに、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸およびγ−リノレン酸を包含するオメガ−3およびオメガ−6型多価不飽和脂肪酸より成る群から選ばれる少なくとも1個の脂肪酸残基を有する少なくとも1個のさらなるトリグリセリド(B)を含む、等張性脂肪乳剤に関するものである。
【0042】
本発明に係る等張性脂肪乳剤のさらに好ましい態様は、本発明の医薬製剤において本発明に従って使用される脂肪乳剤に対応する。
【0043】
本発明はさらに、食餌製品としての本発明に係る等張性脂肪乳剤の使用に関するものである。この目的のため、該等張性脂肪乳剤は好ましくは経腸栄養のために使用される。
【0044】
本発明はさらに、式(I)で示される少なくとも1個のトリグリセリド(A)を含む食餌製品に関するものである。好ましくはこの食餌製品は本発明の等張性脂肪乳剤を含む。
【0045】
本発明はさらに、敗血症の集中治療患者への人工栄養および/または非経口栄養のための、本発明に係る等張性脂肪乳剤、または式(I)で示される少なくとも1個のトリグリセリド(A)を含む脂肪乳剤、または本発明の医薬製剤の使用に関するものである。
【0046】
本発明はさらに、式(I):
【化3】


[式中、基R、RまたはRのうち少なくとも1個は、独立して、5〜15個の奇数の炭素原子を有するアルカノイル基である]
で示される少なくとも1個のトリグリセリド(A)、および(A)とは異なる少なくとも1個の別のトリグリセリド(B)を含む医薬に関するものである。好ましくは該医薬は本発明の等張性脂肪乳剤を含む。
【0047】
本発明の医薬製剤および本発明の等張性脂肪乳剤および本発明の医薬の製造のためには、以下の表に記載の親油性成分1〜9(製造例により必要に応じて)を大まかに混合し、Ultra−Turraxホモジナイザーで分散させる。次に、オレイン酸ナトリウムまたはステアリン酸ナトリウムおよびNaOH水溶液を用いて親水性成分10〜13を加え、この初期混合物のpHを、後者の成分を用いて8.0〜9.0の値に調節する。続いて混合物の実際のホモジナイズを高圧ホモジナイザーで約400kg/cm2の圧力下に実施する。完成した乳剤を適当なガラスまたはプラスチック容器に充填し、非経口調製物に通常適用される方法によって加熱滅菌する。結果は、無菌、無発熱性物質および安定な、平均粒子径0.5μm未満、且つ室温で少なくとも24ヶ月の保存可能期間を有する脂肪乳剤である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
実施例
【表1】


1)中鎖トリグリセリド(カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド)の比率については市販の混合物(ミグリオール812。Sasol Germany GmbH, Witten, Germany)を使用した。
2)構造脂質として、トリグリセリドのsn−1およびsn−3位がヘプタン酸で、そしてsn−2位がエイコサペンタエン酸(EPA;C20:5 オメガ−3)でエステル化されたグリセロールより成るトリグリセリド(A)を使用した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化4】


[式中、基R、RまたはRのうち少なくとも1個は、独立して、5〜15個の奇数の炭素原子を有するアルカノイル基である]
で示される少なくとも1個のトリグリセリド(A)を含有する脂肪乳剤を含む、CIPおよび/またはCIMの予防または治療のための医薬製剤。
【請求項2】
脂肪乳剤が、(A)とは異なる、そして、カプリル酸、カプリン酸またはラウリン酸を包含する中鎖脂肪酸、ミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸を包含する長鎖飽和脂肪酸、パルミトレイン酸またはオレイン酸を包含するモノ不飽和脂肪酸、ならびに、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸およびγ−リノレン酸を包含するオメガ−3およびオメガ−6型多価不飽和脂肪酸より成る群から選ばれる少なくとも1個の脂肪酸残基を有する少なくとも1個のさらなるトリグリセリド(B)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
トリグリセリド(A)が、ランダム化されたまたは化学的に定義された構造トリグリセリドの形態であることを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
トリグリセリド(A)中の基R、RまたはRのうち少なくとも1個が、独立して、5〜9個の炭素原子の鎖長を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
トリグリセリド(A)中の基R、RまたはRのうち少なくとも1個が、独立してn−ヘプタノイルであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項6】
トリグリセリド(A)がトリヘプタノインであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項7】
トリグリセリドの量が医薬製剤総量を基準として5〜30%(重量)であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項8】
トリグリセリドの量が医薬製剤総量を基準として10〜20%(重量)であることを特徴とする、請求項7に記載の医薬製剤。
【請求項9】
トリグリセリド(A)の量が乳剤中の全トリグリセリド総量を基準として50〜80%(重量)であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項10】
トリグリセリド(A)の量が乳剤中の全トリグリセリド総量を基準として60〜70%(重量)であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項11】
式(I):
【化5】


[式中、基R、RまたはRのうち少なくとも1個は、5〜15個の奇数の炭素原子を有するアルカノイル基である]
で示されるトリグリセリド(A)を含み、(A)とは異なる、そして、カプリル酸、カプリン酸またはラウリン酸を包含する中鎖脂肪酸、ミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸を包含する長鎖飽和脂肪酸、パルミトレイン酸またはオレイン酸を包含するモノ不飽和脂肪酸、ならびに、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸およびγ−リノレン酸を包含するオメガ−3およびオメガ−6型多価不飽和脂肪酸より成る群から選ばれる少なくとも1個の脂肪酸残基を有する少なくとも1個のさらなるトリグリセリド(B)を含む、等張性脂肪乳剤。
【請求項12】
食餌製品としての請求項11に記載の等張性脂肪乳剤の使用。
【請求項13】
経腸栄養のための請求項12に記載の使用。
【請求項14】
式(I):
【化6】


[式中、基R、RまたはRのうち少なくとも1個は、独立して、5〜15個の奇数の炭素原子を有するアルカノイル基である]
で示される少なくとも1個のトリグリセリド(A)、および(A)とは異なる少なくとも1個の別のトリグリセリド(B)を含む医薬。
【請求項15】
請求項11に記載の等張性脂肪乳剤を含むことを特徴とする、請求項14に記載の医薬。
【請求項16】
敗血症の集中治療患者に人工栄養を行うための、式(I):
【化7】


[式中、基R、RまたはRのうち少なくとも1個は、5〜15個の奇数の炭素原子を有するアルカノイル基である]
で示されるトリグリセリド(A)を含む脂肪乳剤の、または請求項11に記載の等張性脂肪乳剤の、または請求項1〜10に定義される医薬製剤の使用。
【請求項17】
非経口栄養のための、式(I):
【化8】


[式中、基R、RまたはRのうち少なくとも1個は、5〜15個の奇数の炭素原子を有するアルカノイル基である]
で示されるトリグリセリド(A)を含む脂肪乳剤の、または請求項11に記載の等張性脂肪乳剤の、または請求項1〜10に定義される医薬製剤の使用。

【公表番号】特表2012−509292(P2012−509292A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536823(P2011−536823)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064839
【国際公開番号】WO2010/057804
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(591002131)ベー・ブラウン・メルズンゲン・アクチエンゲゼルシャフト (12)
【氏名又は名称原語表記】B.BRAUN MELSUNGEN AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】