説明

重金属の除去方法および装置、汚染土壌の浄化方法および浄化装置

【課題】 短時間で、かつ充分に重金属を吸着除去することができる方法およびその方法を実現するための装置を提供する。
【解決手段】 本発明の重金属除去装置は、汚染土壌と水とを収容する容器10と、汚染土壌と水とを撹拌混合し、土粒子に付着している重金属イオンを土粒子間に存在する間隙水および上澄み液に浮遊させる撹拌手段11と、所定間隔で配列する複数の電極棒12を備える電極ユニットと、隣り合う電極棒12間に電圧を印加する印加手段13とを備える吸着装置とを含む。本発明の方法は、汚染土壌を容器10に収容し、水を加えて撹拌混合し、土粒子に付着している重金属イオンを土粒子間に存在する間隙水および上澄み液に浮遊させる工程と、複数の電極棒12を備える電極ユニットを汚染土壌に差し込み、隣り合う電極棒12間に電圧を印加する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌に含まれる重金属の除去方法および該除去方法を実施するための装置に関し、さらに、該除去方法を前処理工程として含む汚染土壌の浄化方法および該浄化方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水銀製剤の製造工場等の排水から水銀、鉛鉱山の廃水や鉛管等から鉛、カドミウム含有製品の製造工場の排水からカドミウムが重金属として地下水や土壌に混入している。重金属は、微生物による分解等が行われないため、土壌や地下水に蓄積し、その濃度が増加するという問題がある。これら重金属は、魚や野菜等の食物を通して人体に入り、各種の病気を引き起こし、人体に悪影響を及ぼしている。
【0003】
これらの問題から、近年、工場等から排出される排水中の重金属濃度が厳しく規制され、土壌や地下水中の重金属濃度の増加がゆるやかになっている。しかしながら、上記のように、重金属は分解等されず、土壌や地下水中に蓄積されていくものであるため、土壌や地下水中のこれら濃度を何らかの方法および装置で低減させる必要がある。
【0004】
従来、重金属のうち、低沸点のもの、具体的には砒素(沸点615℃)や水銀(沸点357℃)は、低温加熱によって揮発させ、活性炭に吸着させることにより除去している。また、六価クロムは、過熱蒸気や薬品によって無害の三価クロムにされている。バッテリーやはんだ等に使用される鉛は、クエン酸溶液等の洗浄液に汚染土壌を浸漬させ、その後、水により洗浄する洗浄浄化により除去されるが、この方法では初期濃度の半分程度しか下げることができない。したがって、セメント等によって汚染土壌を固化し、不溶化させる処理が行われている。
【0005】
その他の方法として、例えば、湿潤した汚染土壌内に所定の間隔をおいて電極を設置し、両電極間に電流を流して、土壌中の汚染物質を取り除く方法や装置が提案されている(例えば、特許文献1〜8参照)。これらの方法は、水を含んだ汚染土壌に陽極と陰極とを設置し、それら電極間を通電させ、イオン化している重金属を電極に吸着させて除去するというものである。
【0006】
重金属イオンを効果的に電極に吸着させるためには、電極間の距離、電圧が重要で、距離を離せば高電圧を印加する必要があり、距離を短くすれば低電圧でも効果を有するものの、吸着除去できる範囲が狭くなる。高電圧の印加は、施工現場での作業において危険を伴うといった問題があり、低電圧の印加では重金属イオンの移動量に制限がある。一般に、電極間の距離は、ある程度離れているため、重金属イオンの移動距離は長く、電極に吸着し、析出するまでに長期間を要し、月あるいは年単位でなければ効果を得ることができない。
【0007】
広い範囲の土壌中の重金属イオンを短時間に吸着除去する方法として、多くの電極を好適な位置にそれぞれ設置し、それらの間に電圧を印加する方法がある。しかしながら、この方法では、湿潤した状態の土壌において、多くの電極を好適な位置にそれぞれを設置することは困難であり、設置するだけで時間を要し、結果的に2つの電極で吸着処理するほうが短時間で済むという結果になる。また、一度設置した電極は、終了するまで設置したままであり、1つの電極で吸着できる量は限られており、その土壌の重金属イオン濃度が高い場合、充分に除去することができない。
【0008】
また、土壌中に含まれる重金属の種類によっては、イオン化傾向に従ってイオン交換されるため、目的とする重金属が土壌中に残存する可能性がある。いずれも電極間を通電させるため、水を供給したり、地下浸透水流によって汚染土壌を湿潤した状態にしてはいるものの、含水比がそれほど高くないため、充分に重金属イオンを移動させることができず、移動させることができたとしても、土粒子等の固体に衝突するなどしてその後の移動を困難にさせるという問題があった。
【特許文献1】特開2004−181407号公報
【特許文献2】特開2003−320363号公報
【特許文献3】特開2003−290760号公報
【特許文献4】特開2003−260458号公報
【特許文献5】特開2003−154350号公報
【特許文献6】特開2000−218261号公報
【特許文献7】特開2000−140819号公報
【特許文献8】特開平11−221553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の方法や装置では、重金属の吸着除去に時間およびコストを要し、また、重金属の除去が充分でない場合がある。
【0010】
本発明は、この問題に鑑み、短時間で、かつ充分に重金属を吸着除去することができる方法およびその方法を実現するための装置を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明では、上記重金属除去方法を前処理として含む汚染土壌の浄化方法、上記重金属除去装置を含む汚染土壌の浄化装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、重金属の吸着除去をその場で行うのではなく、容器に入れて、高い含水比にし、撹拌混合によって土粒子に付着した重金属イオンを間隙水および上澄み液に浮遊させ、電極に移動させやすくするとともに、複数の電極棒を備える電極ユニットを使用して一回の電圧印加により、短時間に、かつ充分に重金属を吸着除去することができることを見出した。上記課題は、本発明の重金属除去方法および重金属除去装置を提供することにより解決される。
【0013】
すなわち、本発明の重金属の除去方法は、汚染土壌を容器に収容し、水を加えて撹拌混合し、土粒子に付着している重金属イオンを該土粒子間に存在する間隙水および上澄み液に浮遊させる工程と、所定間隔で配列する複数の電極棒を備える電極ユニットを汚染土壌に差し込み、隣り合う電極棒間に電圧を印加する工程とを含むものである。
【0014】
上記浮遊させる工程では、水を加えて含水比を2〜5にすることが好ましい。また、浮遊させる工程は、汚染土壌に酸またはアルカリを添加し、汚染土壌に含まれる重金属をイオン化させる工程を含むことができる。ここで吸着除去される重金属は、銅、亜鉛、鉛、カドミウム、水銀、ヒ素等である。
【0015】
本発明の方法は、汚染土壌に含まれる難分解性有機化合物をガス化して分離除去するガス化工程の前処理として実施することができ、電圧を印加する工程後、重金属が除去された汚染土壌を脱水する工程を含むことができる。
【0016】
本発明の重金属除去装置は、汚染土壌と水とを収容する容器と、汚染土壌と水とを撹拌混合し、土粒子に付着している重金属イオンを該土粒子間に存在する間隙水および上澄み液に浮遊させる撹拌手段と、所定間隔で配列する複数の電極棒を備える電極ユニットと、隣り合う電極棒間に電圧を印加する印加手段とを備え、重金属イオンを吸着する吸着装置とを含む。
【0017】
上記電極ユニットは、導電性を有する第1平板と、第1平板の平面から突出するように延び、正または負の一方の電極となる複数の第1電極棒とからなる第1電極部材と、導電性を有する第2平板と、第2平板の平面から突出するように延び、他方の電極となる複数の第2電極棒とからなり、第2平板に、複数の第1電極棒の各々が接触することなく該複数の第1電極棒の各々を挿通可能にする複数の挿通孔が設けられた第2電極部材と、第1電極部材と第2電極部材との間に配置され、第1電極部材と第2電極部材とを電気的に分離する絶縁材とから構成される。印加手段は、第1電極部材または第2電極部材の一方に直流電流を供給する。
【0018】
本発明の浄化方法は、重金属および難分解性有機化合物を含む汚染土壌を浄化する方法であり、上記浮遊させる工程と、上記電圧を印加する工程と、汚染土壌をガス化装置に供給し、ガス化装置で間接加熱し、汚染土壌中の難分解性有機化合物をガス化する工程とを含む。この方法では、電圧を印加する工程で重金属イオンを吸着除去した後、汚染土壌を脱水する工程をさらに含むことができる。
【0019】
本発明の浄化装置は、上記容器と、上記撹拌手段と、上記吸着装置と、重金属が吸着され除去された汚染土壌を受け入れ、該汚染土壌を間接加熱するための加熱手段を備え、該汚染土壌中の難分解性有機化合物をガス化させるガス化装置とを含む。この装置では、汚染土壌に遠心力を与えて該汚染土壌を脱水する脱水装置をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の重金属の除去方法および除去装置を提供することにより、短期間で、かつ充分に重金属を吸着除去することができる。
【0021】
本発明の浄化方法および浄化装置を提供することにより、土壌中の重金属を環境基準値以下に下げることができ、難分解性有機化合物も環境基準値以下に下げることができる。また、重金属および難分解性有機化合物を除去して浄化された土壌は、埋め戻す等して再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を、図面を参照して詳細に説明するが、図面に示された実施形態に限定されるものではない。まず、本発明の重金属除去方法および除去装置について説明する。図1は、本発明の重金属除去装置を例示した図である。図1を参照して、装置の構成を説明するとともに、重金属除去方法について説明する。
【0023】
図1に示す装置は、汚染土壌を収容する容器10と、容器10に収容された汚染土壌を撹拌する撹拌手段11と、複数の電極棒12を備える電極ユニットと隣り合う電極棒12間に電圧を印加する印加手段13とを備える吸着装置とから構成されている。
【0024】
容器10は、所定厚さを有する底板と、底板に連続し、所定厚さを有する側板とから構成され、上部が開口とされている。その開口から所定量の汚染土壌を受け入れ、その所定量の汚染土壌を収容することができる。容器10は、汚染土壌に水、さらに必要に応じて酸またはアルカリが添加され、撹拌して充分に混合されるため、破損しない強度を有し、酸またはアルカリにより腐食しない材料から製造される。例えば、硬化塩化ビニルや繊維強化プラスチック(FRP)、ステンレス鋼等の材料から製造することができ、幅1m、奥行き1m、高さ1mの容量とすることができる。
【0025】
撹拌手段11は、回転軸と、回転軸に周設される撹拌翼と、回転軸を所定回転数で回転させるモータ等の動力装置とを含んで構成されるものとすることができる。撹拌手段11は、容器10内に収容された汚染土壌と、加えられた水とを充分に撹拌混合するために使用される。また、必要に応じて添加される酸またはアルカリを混合するためにも使用される。
【0026】
電極ユニットは、所定間隔で配列する複数の電極棒12を備える。図2〜図5を参照して詳細に説明する。図2(a)、図3(a)、図4(a)は各部材の底面図で、図2(b)、図3(b)、図4(b)は正面図、図5(a)は接合前の正面図、図5(b)は接合後の正面図である。図2に示すような導電性を有する第1平板20と、第1平板20の平面から突出するように延びる複数の第1電極棒21とからなる第1電極部材と、図3に示すような導電性を有する第2平板22と、第2平板22の平面から突出するように延びる複数の第2電極棒23とからなる第2電極部材と、第1電極部材と第2電極部材との間に配置され、それらを電気的に分離する図4に示すような絶縁材25とから構成される。図3に示すように、第2平板22には、第1電極部材の複数の第1電極棒21の各々を挿通可能にする複数の挿通孔24が設けられている。この挿通孔24は、第1電極棒21が接触することなく挿通される大きさとされている。
【0027】
第1電極部材と絶縁材25、第2電極部材と絶縁材25はそれぞれ、接着剤等によって接着される。絶縁材25は、各挿通孔24に挿通され、第1電極棒21と第2平板22とを導通させないように電気的に分離する複数の突出部26を備えている。この突出部26は、第1電極棒21を挿通させるための穴27が設けられている。
【0028】
図5に示すように第1電極部材、絶縁材25、第2電極部材を配置し、第2平板22の各挿通孔24に突出部26を挿入し、接着等することにより、第2電極部材と絶縁材25とを接合し、各穴27に各第1電極棒21を通し、接着等することにより、第1電極部材と絶縁材25とを接合し、電極ユニットを形成することができる。第1電極部材および第2電極部材は、導電性を有する材料であればいかなる材料であってもよく、例えば、鉄、銅、銀、白金、アルミニウム等の金属材料のほか、黒鉛等の炭素系材料、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性ポリマーを挙げることができる。酸またはアルカリが添加される場合、腐食しない材料が好ましく、白金やアルミニウム、炭素系材料、導電性ポリマーが好ましい。絶縁材25は、導電性を有しない材料であればいかなる材料であってもよく、例えば、木、プラスチック、セラミック等とすることができる。接着剤を塗布して接合する場合には、その接着剤を絶縁材25として用いることもできる。第1平板20および第2平板22の大きさは、図1に示す容器10の開口に挿入可能な大きさとすることができ、第1電極棒21、第2電極棒23の長さおよび径は、容器10の底板に接触しない長さで、第1平板20および第2平板22の大きさ、配置する数、強度等を考慮して適切な径とすることができる。各電極棒間の間隔は、等間隔が好ましく、例えば、約0.1m〜約0.2m間隔とすることができる。
【0029】
この電極ユニットは、第1電極棒21および第2電極棒23が突出しており、これら突出した電極棒を汚染土壌に差し込むことにより、簡単に設置することができる。また、第1電極棒21および第2電極棒23は、第1平板20および第2平板22に取り付け、取り外し可能なように、端部がねじ切りされているものとすることができる。この場合、第1平板20および第2平板22は、その端部と嵌合するねじ溝を備えるものとされる。ここでは、取り付けおよび取り外しを容易にする構造として、ねじ切りされ、ねじ溝を備える構成を説明したが、容易に取り付けおよび取り外しすることができれば、これまで知られたいかなる構造であってもよい。
【0030】
再び図1を参照する。印加手段13は、図2および図3に示す第1電極部材または第2電極部材の一方に直流電流を供給することができる装置とすることができる。第1電極部材に直流電流を供給した場合、第1電極棒と第2電極棒との間に介在する土壌を通して電流が流れ、第2電極部材を通して印加手段13に戻すことができる。直流電流を供給することができる装置としては、例えば、電池、バッテリー充放電電源装置を挙げることができる。
【0031】
ここで、重金属が電極に吸着する原理について説明する。地盤環境の土壌を構成する粘土層界面は、一般に負に帯電しており、主な重金属は土壌中で陽イオン化している。このため、陽イオン化している重金属は粘土層界面に静電力によって吸着されている。この重金属が吸着されている粘土層界面は電気的に中性になっていて、陰イオンは排斥され、陽イオンが多く存在する状態となっている。これに電極棒12を設置し、直流電圧を印加すると、三種類の動電学的現象により重金属は電極棒12へと移動し、電極棒表面に重金属の濃縮が始まる。
【0032】
土壌に電極棒12を差し込み、電極棒12間に直流電流を印加すると、土壌に含まれる間隙水の水分子への電子の授受により、次式で表される電気分解反応が生じる。1つ目の動電学的現象は、この電気分解である。
【0033】
【化1】

【0034】
【化2】

【0035】
上記化式1で表される反応は、陽極で生じる反応で、上記化式2で表される反応は、陰極で生じる反応である。この電気分解反応の陽極で発生した水素イオンHは、電気泳動により陰極側へ、陰極で発生した水酸化物イオンOHは、電気泳動により陽極側へ移動する。2つ目の動電学的現象は、この電気泳動である。電気泳動は、陽イオンが陰極へ、陰イオンが陽極へ移動する現象である。
【0036】
土壌は、陽極側から酸性化し、同時に陰極側からアルカリ化する。しかしながら、水素イオンHの移動速度が、水酸化物イオンOHの移動速度より速いため、酸性化される領域が陰極側へも広がる。これは、土壌が酸性化することを意味する。このため、粘土層に吸着されている重金属は、イオン交換反応により水素イオンと交換され、粘土層界面から脱着し、土壌に含まれる間隙水中に溶出する。なお、酸性化される領域では、重金属の沈殿物(水酸化物)が溶解され、アルカリ化される領域では、重金属イオンが水酸化物として沈殿する。
【0037】
地盤環境の粘土層界面に吸着された陽イオンは、強く吸着されたイオンと、弱い力で吸着されたイオンとがある。弱い力で吸着されたイオンは、電場中におかれると、陰極側へと移動する。この移動の際、周囲に存在する水分子と衝突しながら陰極側へと移動していくため、水分子も陰極側へと引きずられるように移動する。この現象を、電気浸透という。3つ目の動電学的現象がこの電気浸透である。
【0038】
重金属は、銅、鉛、亜鉛、カドミウム、砒素、六価クロム、水銀等がある。上記のように直流電流を印加することにより、上記銅、鉛、亜鉛、カドミウム、水銀は、銅イオン、鉛イオン、亜鉛イオン、カドミウムイオン、水銀イオンに陽イオン化し、陰極側へ移動する。上記六価クロムや砒素は、クロム酸イオン、酸化砒素イオンに陰イオン化し、陽極側へ移動する。その他、土壌には重金属ではないが、オキソニウムイオン、シアンイオン、フッ素イオン、硝酸イオンも含まれており、オキソニウムイオンは陰極側へ、シアンイオン、フッ素イオン、硝酸イオンは陽極側へ移動する。陽極および陰極へ移動した各イオンは、陽極および陰極に吸着する。
【0039】
図1に示す装置を用いた重金属の吸着除去について詳細に説明する。土壌中に含まれる重金属は大部分がイオンとして存在し、土粒子に付着している。まず、重金属を含む所定量の汚染土壌を、バックホウ等を使用して容器10に入れる。容器10に収容された汚染土壌が高い含水比を有する土壌であれば水を加える必要はないが、一般には低い含水比であるため、次に、含水比が約2〜約5になるように水を加え、汚染土壌と水とを撹拌混合してスラリー状にする。ここで、含水比とは、水と乾燥土壌との質量比であり、含水比2とは、乾燥土壌1kgに対し、水2kgを含むことを意味する。なお、5以上の含水比であっても良い。これは、イオンが水中を移動するためであり、含水比が高いほどイオンの移動が容易になるからである。また、撹拌混合するのは、土粒子に弱い力で付着したイオンを、土粒子間に存在する間隙水や、粒子径の大きい土粒子が沈降することにより生じる上澄み液に浮遊させるためである。
【0040】
その後、汚染土壌に電極ユニットの複数の電極棒12を差し込み、電圧を印加する。このように、水中にイオンを浮遊させた後に電圧を印加することにより、イオンに対して有効に電界を与えることができる。撹拌混合後、しばらく静置すると、粒子径の大きい土粒子は沈降し、水と土粒子とが分離する。上側の水は上澄み液となる。その上澄み液では、電極へのイオンの移動に障害となる土粒子等も存在せず、スムーズに、少ない電流供給量でイオンを電極に向けて移動させることができる。含水比が高い土壌では、土粒子間の間隔も広くなっており、間隙水に浮遊するイオンもスムーズに移動させることができる。
【0041】
本発明では、必要に応じて酸またはアルカリを添加し、重金属をイオン化することができる。汚染土壌中の重金属は、大部分がイオン化しているが、イオン化傾向が小さい金属、例えば鉛等は、イオン化しないまま存在する。そこで、酢酸等を加え、弱酸性にすることにより水素イオンを生成させ、鉛に比較してイオン化傾向が小さい水素イオンは鉛とイオン交換し、2価の鉛イオンとなる。
【0042】
所定の電流を供給して隣り合う電極棒12間に電圧を印加すると、浮遊するイオンが一方の電極棒12に向けて移動する。すなわち、陰イオンは正電極側へ、陽イオンは負電極側へ移動する。この電圧の印加により、上述した電気分解、電気泳動、電気浸透も生じ、土粒子に強く吸着したイオンも脱着し、所定の電極に向けて移動する。所定時間電流を流した後の電極棒12の表面には、各重金属イオンが吸着し、表面を覆っているため、取り替える等して再度吸着を繰り返すことができる。陽極および陰極に吸着した各イオンは、簡単には脱着せず、処理が終了した後に、電極ごと処分場に廃棄されるか、他の方法により脱着させて重金属が回収される。例えば、銅イオンやクロムイオンは水酸化カルシウムに溶解させ、水酸化物を生成して沈殿させることにより、回収することができる。
【0043】
このようにして重金属をイオンとして吸着除去した後の土壌は、高い含水比を有するものであり、その状態では再利用することはできない。埋め戻し等に再利用する場合、脱水装置にこの土壌を入れ、所定含水比以下になるまで脱水する。例えば、含水比が約0.1〜約0.5になるまで脱水する。脱水装置としては、遠心脱水することができる遠心脱水機を挙げることができる。この遠心脱水機は、重金属除去装置で重金属が除去された土壌を収容する収容部を備え、収容部の側面に複数の孔が設けられ、収容部を回転することにより、土壌を収容部に残したまま、水分を、それら複数の孔を通過させ、土壌と水分とを分離する。遠心脱水機は、収容部の回転数を制御することにより、含水比が約2〜約5の土壌に含まれる水を、約0.1〜約0.5になるように脱水することができる。なお、脱水装置によって分離された水は、重金属除去において含水比を高めるために加えられる水として再使用することができる。
【0044】
水中のイオンの移動速度は、イオンに作用する加速度から推測することができる。このイオンに作用する加速度は、下記式によって算出することができる。
【0045】
【数1】

【0046】
上記数式1中aは加速度(m/s)で、qはイオンの電気量(C)で、Eは電界の強さ(V/m)で、mはイオンの質量(kg)である。また、電界の強さEは、電極間の距離をd(m)とした場合、下記式で表すことができる。
【0047】
【数2】

【0048】
上記数式2中Vは電圧(V)である。上記数式1によれば、強い電界を加えることで加速度aを大きくすることができ、これにより、移動速度を大きくすることができる。
【0049】
1ファラデー(F)の電気容量を与えた場合、1g当量のイオンを析出させることができる。ちなみに、1(F)は、96500(C)である。また、電極間に1アンペア(A)の電流を流した場合、この電極間には1C/sの電気量が流れることになる。これらのことから、電極間の電流を任意に設定することにより、イオンの析出量を任意に設定することができる。例えば、9650秒間(約2.7時間)、1(A)の電流を流すことにより、0.1gのイオンを析出させることができる。
【0050】
図6を参照して、本発明の浄化装置および浄化方法について説明する。図6は、浄化装置の概略を示した図である。図6に示す浄化装置は、図1に示す重金属除去装置に加え、脱水装置30と、ガス化装置40を含んで構成される。
【0051】
汚染された土壌には、環境基準値を超える重金属のほか、環境基準値を超えるダイオキシン等の難分解性有機化合物が含まれている場合がある。土壌汚染に係る環境基準(環告46号、48号)によれば、検液1リットルにつき、鉛、カドミウム、砒素は0.01mg以下であり、六価クロムは0.05mg以下であり、総水銀は0.0005mgである。ダイオキシンについては、2,3,7,8−四塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシンの毒性に換算した値で、土壌1gにつき、1000pg−TEQ以下である。
【0052】
重金属除去装置および脱水装置30については上述したので、ここではガス化装置40について説明する。重金属が除去され、所定含水比にまで脱水された土壌は、ガス化装置40内に供給される。ガス化装置40は、密閉可能な円筒形の容器41に、ニクロム線等の加熱手段42が周設されていて、内部に供給された土壌を、容器の側壁を介して間接加熱する構成とされている。
【0053】
また、ガス化装置40は、内部に、容器41の長さ方向の一端と他端とに跨って支持される中心軸43と、その中心軸43に周設される螺旋状羽根44と、中心軸43を所定の回転数で回転させるモータ等の駆動装置とをさらに備えている。
【0054】
土壌は、ホッパー50およびフィーダ等を使用して供給口から容器41内に供給され、螺旋状羽根44の回転により容器41の長さ方向に、加熱手段42によって加熱されながら移動する。容器41内部の温度は、難分解性有機化合物がガス化する温度を超える温度とされ、約400℃〜約600℃とされる。
【0055】
常温で入れられる土壌は、加熱手段42によって間接加熱されるとともに、螺旋状羽根44によって移動および撹拌され、内部にまで熱が伝えられ、沸点を超えることでガス化する。ガス化した難分解性有機化合物は、上部のガス排出口から排出され、難分解性有機化合物が除去された土壌は、浄化土壌として下部の土壌排出口から排出される。ガス化装置40では、難分解性有機化合物を充分にガス化するため、中心軸43の回転方向を変えて、排出口から供給口に向けて加熱しつつ移動させ、再び中心軸43の回転方向を変えて供給口から排出口に向けて加熱しつつ移動させることができる。
【0056】
ガス化装置40の内部では、土壌に含まれる水分も蒸発され、過熱蒸気となってガス排出口から排出される。ガス化装置40の加熱手段42が与える熱量は、難分解性有機化合物のガス化に使用される熱量や土壌を加熱するための熱量に比べて、水の蒸発に使用される熱量の占める割合が高い。土壌中に含まれる水分が多いほど、加熱手段42にかかる負荷が大きくなり、消費電力も多くなる。これは、その発熱量を確保できるだけの加熱手段を必要とし、装置容量を大きくさせ、装置コストおよび運転コストがかかり、広い設置スペースが必要になることを意味する。このため、脱水装置30で予め脱水した後にガス化装置40に供給することが好ましい。
【0057】
容器41は、供給口として供給ノズル、ガス排出口としてガス排出ノズル、土壌排出口として土壌排出ノズルを備えるベッセルとされ、そのベッセルの内部に中心軸43がベッセルの長さ方向に延びるように回転可能に支持される。中心軸43および螺旋状羽根44を備える部材としては、スクリューを挙げることができる。土壌を移動させることができれば、このスクリューに限られるものではなく、ピストンであってもよい。容器41は、加熱手段42からの熱を間接的に土壌に与えるため、熱伝導率が高い材料が好ましい。例えば、鋼製とすることができる。また、加熱手段42と接触する部分以外は、安全および熱ロスを抑制するため、断熱材で覆うことができる。
【0058】
浄化装置は、さらに、容器41から排出される土壌を収容しておくための土壌収容容器45を含むことができる。この土壌収容容器では、加熱された土壌が常温になるまで放冷される。常温の土壌は、再利用のため、取り出し口から取り出される。
【0059】
図6を参照して、浄化装置を用いた浄化方法について説明する。汚染土壌を容器10に収容し、水を加え、図示しない撹拌手段によって撹拌混合する。この撹拌混合により、土粒子に付着している重金属イオンは、土粒子から脱着し、土粒子間に存在する間隙水や、その後の静置によって土粒子は沈降し、それによって発生する上澄み液14に浮遊する。所定間隔で配列する複数の電極棒12を備える電極ユニットを汚染土壌に差し込み、隣り合う電極棒12間に電圧を印加する。隣り合う電極棒12の一方が陽極、他方が陰極となり、水中に浮遊するイオンはいずれかの電極に移動し、吸着する。
【0060】
電極棒12に所定時間電圧を印加した後、容器10に収容された土壌および水は脱水装置30に入れられる。脱水装置30では、水分が除去され、含水比が約0.1〜約0.5の土壌となる。
【0061】
脱水装置30で脱水された土壌は、ホッパー50に入れられ、弁51を開くことにより、容器41内に土壌を供給する。加熱手段42に電流を供給する等して容器41を加熱する。内部に入れられた土壌は、容器41から熱を受け、所定温度まで加熱される。ガス化装置40は、中心軸43と螺旋状羽根44とを備える移動手段を含んで構成されており、螺旋状羽根44を所定回転数で回転することにより所定速度で排出口に向けて移動させることができる。
【0062】
土壌は、移動中、容器41から熱を受けて加熱され、まず、内部に含まれる水分が蒸発する。これは、難分解性有機化合物に比較して水は沸点が低いからである。その後、土壌の温度が上昇するにつれて沸点が低い成分からガス化する。ダイオキシン等の難分解性有機化合物において最も沸点が高い成分は、その沸点が約400℃であるため、最終的に約400℃まで加熱される。これにより、土壌中の難分解性有機化合物はガス化し、分離除去される。このガス化した難分解性有機化合物は、容器41上部のガス排出ノズルから排出される。
【0063】
難分解性有機化合物が分離除去された土壌は、容器41下部の土壌排出ノズルから排出され、土壌収容容器45に収容される。
【0064】
これまで本発明の重金属除去装置および方法、さらには浄化装置および方法を、図面を参照して詳細に説明してきたが、本発明の装置は図面に示された実施形態に限定されるものではなく、容器の大きさ、形状はいかなる大きさ、形状であってもよく、それに応じて、電極棒の数、長さ、配列を決定することができる。使用する酸は、上記の酢酸に限られるものではなく、塩酸、硫酸、硝酸であってもよい。陰イオンになる重金属に対しては、アルカリを添加することができ、アルカリとして、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等を添加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の重金属除去装置を示した図。
【図2】重金属除去装置に使用される電極ユニットを例示した図。
【図3】電極ユニットの第1電極部材を例示した図。
【図4】電極ユニットの第2電極部材を例示した図。
【図5】電極ユニットの絶縁材を例示した図。
【図6】本発明の浄化装置を示した図。
【符号の説明】
【0066】
10…容器
11…撹拌手段
12…電極棒
13…印加手段
14…上澄み液
20…第1平板
21…第1電極棒
22…第2平板
23…第2電極棒
24…挿通孔
25…絶縁材
26…突出部
27…穴
30…脱水装置
40…ガス化装置
41…容器
42…加熱手段
43…中心軸
45…土壌収容容器
44…螺旋状羽根
50…ホッパー
51…弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌中の重金属を除去する方法であって、
前記汚染土壌を容器に収容し、水を加えて撹拌混合し、土粒子に付着している重金属イオンを該土粒子間に存在する間隙水および上澄み液に浮遊させる工程と、
所定間隔で配列する複数の電極棒を備える電極ユニットを前記汚染土壌に差し込み、隣り合う電極棒間に電圧を印加する工程とを含む、重金属の除去方法。
【請求項2】
前記浮遊させる工程では、前記水を加えて含水比を2〜5にすることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記浮遊させる工程は、前記汚染土壌に酸またはアルカリを添加し、前記汚染土壌に含まれる前記重金属をイオン化させる工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記汚染土壌に含まれる難分解性有機化合物をガス化して分離除去するガス化工程の前処理として実施され、前記電圧を印加する工程後、前記重金属が除去された前記汚染土壌を脱水する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
汚染土壌中の重金属を除去するための装置であって、
前記汚染土壌と水とを収容する容器と、
前記汚染土壌と前記水とを撹拌混合し、土粒子に付着している重金属イオンを該土粒子間に存在する間隙水および上澄み液に浮遊させる撹拌手段と、
所定間隔で配列する複数の電極棒を備える電極ユニットと、隣り合う電極棒間に電圧を印加する印加手段とを備え、前記重金属イオンを吸着する吸着装置とを含む、重金属除去装置。
【請求項6】
前記電極ユニットは、
導電性を有する第1平板と、前記第1平板の平面から突出するように延び、正または負の一方の電極となる複数の第1電極棒とからなる第1電極部材と、
導電性を有する第2平板と、前記第2平板の平面から突出するように延び、他方の電極となる複数の第2電極棒とからなり、前記第2平板に、前記複数の第1電極棒の各々が接触することなく該複数の第1電極棒の各々を挿通可能にする複数の挿通孔が設けられた第2電極部材と、
前記第1電極部材と前記第2電極部材との間に配置され、前記第1電極部材と前記第2電極部材とを電気的に分離する絶縁材とから構成される、請求項5に記載の重金属除去装置。
【請求項7】
前記印加手段は、前記第1電極部材または前記第2電極部材の一方に直流電流を供給する、請求項6に記載の重金属除去装置。
【請求項8】
重金属および難分解性有機化合物を含む汚染土壌を浄化する方法であって、
前記汚染土壌を容器に収容し、水を加えて撹拌混合し、土粒子に付着している重金属イオンを該土粒子間に存在する間隙水および上澄み液に浮遊させる工程と、
所定間隔で配列する複数の電極棒を備える電極ユニットを前記汚染土壌に差し込み、隣り合う電極棒間に電圧を印加する工程と、
前記汚染土壌をガス化装置に供給し、前記ガス化装置で間接加熱し、前記汚染土壌中の前記難分解性有機化合物をガス化する工程とを含む、汚染土壌の浄化方法。
【請求項9】
前記電圧を印加する工程で前記重金属イオンを吸着除去した後、前記汚染土壌を脱水する工程をさらに含む、請求項8に記載の浄化方法。
【請求項10】
重金属および難分解性有機化合物を含む汚染土壌を浄化する装置であって、
前記汚染土壌と水とを収容する容器と、
前記汚染土壌と前記水とを撹拌混合し、土粒子に付着している重金属イオンを該土粒子間に存在する間隙水および上澄み液に浮遊させる撹拌手段と、
所定間隔で配列する複数の電極棒を備える電極ユニットと、隣り合う電極棒間に電圧を印加する印加手段とを備え、前記重金属イオンを吸着する吸着装置と、
前記重金属が吸着され除去された汚染土壌を受け入れ、該汚染土壌を間接加熱するための加熱手段を備え、該汚染土壌中の前記難分解性有機化合物をガス化させるガス化装置とを含む、浄化装置。
【請求項11】
前記汚染土壌に遠心力を与えて該汚染土壌を脱水する脱水装置をさらに含む、請求項10に記載の浄化装置。
【請求項12】
前記電極ユニットは、
導電性を有する第1平板と、前記第1平板の平面から突出するように延び、正または負の一方の電極となる複数の第1電極棒とからなる第1電極部材と、
導電性を有する第2平板と、前記第2平板の平面から突出するように延び、他方の電極となる複数の第2電極棒とからなり、前記第2平板に、前記複数の第1電極棒の各々が接触することなく該複数の第1電極棒の各々を挿通可能にする複数の挿通孔が設けられた第2電極部材と、
前記第1電極部材と前記第2電極部材との間に配置され、前記第1電極部材と前記第2電極部材とを電気的に分離する絶縁材とから構成される、請求項10または11に記載の浄化装置。
【請求項13】
前記印加手段は、前記第1電極部材または前記第2電極部材の一方に直流電流を供給する、請求項12に記載の浄化装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−307432(P2007−307432A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83345(P2006−83345)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(593147531)大旺建設株式会社 (15)
【Fターム(参考)】