説明

重金属捕捉剤

【課題】重金属吸着剤において、天然にも存在するアルギン酸以外の多糖類を用いつつ、重金属の吸着量を低下させること無く当該原料の量を増加させて機械強度を高めることが可能な手段を提供する。
【解決手段】活性水素化合物の少なくとも一部としてカラジーナンと、イソシアナト基を少なくとも二つ有するイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリウレタンからなる重金属捕捉剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属を適用対象から捕捉する技術、例えば、重金属で汚染された土壌、水及び大気等の浄化技術やレアメタルの回収技術等に関するものであり、より具体的には、例えば、重金属で汚染された土壌等から短期間に重金属を除去できると共に、捕捉した重金属の再溶出を防止し得る重金属捕捉剤(重金属固定化剤)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛、カドミウム、水銀等といった重金属は、毒性が強いものが多く、繰り返し摂取した場合、微量であっても体内に蓄積される。例えば、有害重金属の一つである鉛は、金属鉛としては、鉛蓄電池の電極板、半田、真鍮、放射線遮蔽板等に利用され、無機鉛化合物としては、顔料、塗料、農薬、塩化ビニル安定剤等に利用されている。更には、工業油、ガソリン、自動車の排気ガス中にも存在する。そして、飲食や呼吸等を介して体内に取り込まれた鉛化合物は、血液に移行し、各種臓器に分布すると共に、多くが骨に沈着する。その結果、中枢神経や抹消神経への影響、血色素合成の異常と貧血、腎障害といった鉛中毒を引き起こす。
【0003】
そこで、これら有害の重金属に関しては、環境基本法に基づく各種環境基準(例えば、水質汚濁基準、土壌汚染基準、大気汚染基準)が定められており、この基準値以下の水準を保つことが必要とされている。これを受け、化学工場の跡地等における重金属汚染土壌や、河川や海洋における重金属汚染水等を、当該環境基準に従って浄化する対策が必要となってきた。
【0004】
ここで、当該浄化対策としては、例えば、重金属汚染土壌については、化学的処理を行った後に封じ込めする方法やコンクリートで固化する方法があり、また、物理的な対策としては汚染された表層土壌をある深さにわたって排土し、次いで汚染されていない土壌を客土する方法等が知られている。しかし、こうした従来の方法には、薬剤費、工事費、土壌運搬費等の高コスト、土壌の不溶化処理技術、排水処理技術等の諸問題がある(特許文献1の「従来の技術」の欄から抜粋)。
【0005】
更に、重金属汚染土壌や汚染水に添加することにより、当該汚染土壌や汚染水から重金属を取り除くための重金属捕捉剤も提案されている。例えば、特許文献2には、アルギン酸塩と粉末活性炭を多価陽イオン溶液に滴下して得られるアルギン酸ゲルからなる水処理剤が開示されている。ここで、アルギン酸は、乾燥した海藻から抽出される分子量約24万の多糖であり、カルボキシル基を有するため陽電荷を持つ重金属のイオン交換等により重金属を吸着可能である。
【特許文献1】特開2002−233858
【特許文献2】特開平11−70384
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、アルギン酸ゲルからなる水処理剤は、ゲルであるが故に機械強度に乏しい。したがって、土壌に適用するといった、外部から比較的大きな力が負荷される環境に配された場合には、容易に破砕してしまうという問題がある。更には、熱、電解質成分の存在、イオン強度又はpHの変化により、ゾル−ゲル転移を起こし、安定性に欠くという問題もある。例えば、アルギン酸カルシウムゲルは、塩化ナトリウム水溶液中ではゲルの溶解や崩壊が起きる。この場合、せっかく重金属を当該処理剤が吸着したとしても、当該処理剤がゾル化することにより、重金属と結合したアルギン酸が環境中に再び放出される結果となる。
【0007】
そこで、本発明者らは、活性水素化合物の少なくとも一部としてアルギン酸と、イソシアナト基を少なくとも二つ有するイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリウレタンからなる、重金属吸着性と耐久性の両方を兼ね備えた重金属捕捉剤を既に提案している(特願2006−181155)。ここで、当該アルギン酸ベースのポリウレタンの機械強度を増すためには、アルギン酸の使用量を増してその構成要素であるβ−D−マンヌロン酸とα−L−グルロン酸のポリマーの架橋点として働くことができる−OHや−COOHの量を増加させる必要があるが、その後の研究で、理由は定かでないがアルギン酸の量を増すと吸着量が低下することが判明した。
【0008】
そこで、本発明は、重金属吸着剤において、天然にも存在するアルギン酸以外の多糖類を用いつつ、重金属の吸着量を低下させること無く当該原料の量を増加させて機械強度を高めることが可能な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、アルギン酸より多くの−OH基を1セグメントに持つD−ガラクトースと硫酸で構成されるカラジーナンを使用することにより、重金属の吸着量を低下させることなくより多くの多糖類を使用できることを発見し、本発明を完成させたものである。具体的には以下の発明(1)〜(5)である。
【0010】
即ち、本発明(1)は、活性水素化合物の少なくとも一部としてカラジーナンと、イソシアナト基を少なくとも二つ有するイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリウレタンからなる重金属捕捉剤である。
【0011】
本発明(2)は、前記ポリウレタンが発泡ポリウレタンである、前記発明(1)の重金属捕捉剤である。
【0012】
本発明(3)は、前記ポリウレタンが疎水性ポリウレタンである、前記発明(1)又は(2)の重金属捕捉剤である。
【0013】
本発明(4)は、活性水素化合物の少なくとも一部としてカラジーナンと、少なくとも二個のイソシアナト基を含有するイソシアネート化合物とを反応させる工程を含む、ポリウレタンから構成される重金属捕捉剤の製造方法である。
【0014】
本発明(5)は、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの重金属捕捉剤を含む製品である。
【発明の効果】
【0015】
本発明(1)及び(4)によれば、従来の重金属捕捉剤と比較し、機械強度及び熱安定性が著しく高いので、劣悪な環境下に配された場合でも破砕せず安定的に重金属を捕捉し続けることができるという効果を奏する。更には、イオン架橋により形成されたゲルと異なり、カラジーナン部位がウレタン結合を介して構造内に存在しているため、自然環境の変化によっても、溶解したり分解し難い結果、重金属の捕捉能を維持できると共に、一旦捕捉した重金属を再び環境中に放出する事態も回避できるという効果を奏する。また、カラジーナンを使用することにより、カーボンフリーの重金属捕捉剤となり、地球環境にやさしいという効果をも奏する。加えて、アルギン酸を原料とした重金属捕捉剤と比較すると、重金属の吸着量を低下させること無く当該原料の量を増加させて機械強度を高めることが可能となるという効果を奏する。
【0016】
本発明(2)によれば、前記効果に加え、重金属捕捉剤が発泡形態であるため、内部に多量の液を取り込めると共に、重金属捕捉し得る表面積が大きいので、迅速かつ大量の重金属を捕捉できるという効果を奏する。
【0017】
本発明(3)によれば、前記効果に加え、極めて吸水能の高い形態である親水性ポリウレタンと異なり疎水性であるにもかかわらず、迅速かつ大量の重金属を捕捉できるという予想外の効果を奏する。
【0018】
本発明(5)によれば、前記効果に加え、製品が当該重金属捕捉剤を含んでいるので、当該製品が配される環境中に存在する重金属を除去することができる(例えば、当該製品が自動車用シートである場合、排気ガスに含まれる鉛やカドミウムを除去することができる)という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る重金属捕捉剤は、活性水素化合物の少なくとも一部としてカラジーナンと、イソシアナト基を少なくとも二つ有するイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリウレタンである。以下、当該構成要件を分説する。
【0020】
まず、本発明に係る「重金属」は、特に限定されず、例えば、鉛、カドミウム、水銀、銀、金、白金、亜鉛、スズ、銅、マンガン、クロム、鉄、ウラン等を挙げることができる。尚、本発明に係る重金属捕捉剤は、イオン化傾向が大きくなる程捕捉能が向上すると理解される。
【0021】
次に、本発明に係る「ポリウレタン」は、通常のポリウレタンと同様、活性水素化合物と、少なくとも二つのイソシアナト基を含有するイソシアネート化合物との反応により得られる構造体であるが、前記活性水素化合物の少なくとも一部としてカラジーナンを用いたことを特徴とする。この結果、得られるポリウレタンは、カラジーナン骨格を当該ポリウレタン骨格内に共有結合的に有していると共に、重金属と結合する官能基として機能する硫酸エステル基(―OSO)が、このカラジーナン骨格から剥き出しになっている。尚、「活性水素化合物」とは、反応性が大きく酸化体に対する還元力が強い水素を有する化合物を指し、例えば、電気陰性度の大きなOやN等に結合したOHやNH等を有する化合物(例えば有機化合物)や、電子求引性の大きな−COR、−CN、−NO、−COR等の基が少なくとも2つ以上結合した炭素上に結合した水素原子を有する化合物を挙げることができる。
【0022】
尚、本発明に係る「ポリウレタン」は、特に限定されず、軟質、半硬質、硬質等の一切を含み、用途の広範性と作業性の観点から、軟質が好ましい。また、本発明に係る「ポリウレタン」は、非発泡(ソリッド)でも、独立気泡の発泡体でも、連続気泡の発泡体でもよい。但し、処理効果からは連続気泡の発泡体が好ましい。尚、吸着強度が求められる場合{例えば、長時間通水(循環)する場合}には、耐久性がある疎水性ポリウレタンが好適であり、安定した吸着を目的とする場合や、耐久性が特に求められない場合(例えば、貯水している場所に投入)には、親水性ポリウレタンが好適である。
【0023】
ここで、当該ポリウレタンを製造する際に使用される各種原料を順番に説明する。まず、「活性水素化合物」の少なくとも一部は、カラジーナンである。一般にカラジーナンは、数種の成分の混合物であって、κ−カラジーナン、λ−カラジーナン、ι−カラジーナン、μ−カラジーナンと呼ばれている成分があるが、本発明においては、そのうちのいずれの成分を単独で又は組み合わせて用いてもよい。尚、本明細書にいう「カラジーナン」とは、前記カラジーナンのみならず、カラジーナン塩やカラジーナン誘導体{但し、硫酸エステル基(―OSO)及び水酸基は完全には修飾されていないものに限られる}をも包含し、例えば、カラジーナン;カラジーナンナトリウム、カラジーナンカルシウム、カラジーナンアンモニウムといったカラジーナン塩;カラジーナンプロピレングリコール(例えば30〜150cP)といった部分硫酸エステルのようなカラジーナン誘導体を挙げることができる。これらの中では、水溶性のカラジーナン塩(特にカラジーナンナトリウム)が好適である。また、カラジーナンの分子量は、重量平均分子量100,000〜500,000であることが好適であり、より好適には100,000〜300,000である。分子量が大きすぎると粘度が高くなりすぎる。したがって、カラジーナンの性能が維持される状態で出来る限り小さい分子量のものが望ましい。ここで、製造コストや不要物利用等に鑑みると、天然物中のカラジーナンを利用することが好適である。例えば、カラジーナンは、イバラノリ科イバラノリ属(Hypnea)、ミリン科キリンサイ属(Eucheuma)又はスギノリ科ツノマタ属(Chondrus)、スギノリ属(Gigartina)若しくはギンナンソウ属(Iridaea)の全藻より、熱時水又はアルカリ性水溶液で抽出し、精製して得ることができる。
【0024】
また、カラジーナン以外の「活性水素化合物」を含んでいてもよい。例えば、疎水性ポリウレタンを製造する場合、「他の活性水素化合物」として、少なくとも二つの水酸基を有するポリオールやアミン触媒が包含され得る。更には、アルギン酸等の他の多糖類と組み合わせてもよい。また、疎水性・発泡ポリウレタンを製造する場合、「他の活性水素化合物」として、少なくとも二つの水酸基を有するポリオールやアミン触媒の他、発泡剤としての水や整泡剤としての界面活性剤が包含され得る。また、親水性ポリウレタンを製造する場合、「他の活性水素化合物」として、必須的に存在する水の他、少なくとも二つの水酸基を有するポリオール、アミン触媒、整泡剤としての界面活性剤をも包含され得る。尚、他の活性水素化合物としてどのような化合物を用いるかに関しては、求められる物性に応じ、適宜決定する。
【0025】
ここで、疎水性ポリウレタンを製造する場合に用いられる疎水性のポリオールとしては、ポリエーテルポリオールが用いられ、中でもオキシアルキレン単位における、アルキル基の炭化水素鎖が長い方が望ましい。具体的には、ポリエーテルポリオールにおける、オキシアルキレン単位には、一般にオキシエチレン/オキシプロピレンが用いられるが、オキシエチレン単位が10重量%未満、好ましくは、オキシエチレン単位を含まないものが、疎水性が顕著となり好ましい。例えば、オキシエチレン単位を含まない、オキシプロピレン100%のポリエーテルポリオールが用いられる。尚、ポリオールの分子中に平均2.0〜3.5の水酸基を有するものが好ましい。
【0026】
他方、重金属捕捉剤が親水性ポリウレタンである場合、「他の活性水素化合物」として、親水性の高分子ポリオール(例えば、オキシエチレン単位やヒドロキシエチルアクリル酸単位のような親水性単位を含むもの)を添加することが好適である。具体例として、親水性で軟質のポリウレタンを形成するために、任意成分として用いられる「他の活性水素化合物」としては、ポリエーテルポリオールが好ましく、一種でも二種以上の併用でも差し支えなく、分子中に平均2.0〜3.5の水酸基を有するものが好ましい。尚、後述の界面活性剤として配合される水酸基含有界面活性剤が、併用されるポリオールの一部を構成してもよい。ここで、親水性のポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、及び、ポリオールのオキシエチレン単位が10重量%以上の、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位の共重合体が例示され、部分的に他の構成単位、例えばオキシトリメチレン単位やオキシテトラメチレン単位を含む共重合体であってもよい。オキシエチレン単位は、好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上で、親水性が顕著となる。
【0027】
尚、疎水性及び親水性のいずれのポリエーテルポリオールにおいても、ポリエーテルポリオールにおける重合部分が共重合体からなる場合、共重合体は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でも差し支えない。直鎖状ポリエーテルポリオールは、出発物質として、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールのような二価アルコールを用い、エチレンオキシド及び必要に応じてプロピレンオキシドのような環状オキシド化合物を開環重合させて、合成することができる。分岐鎖状ポリエーテルポリオールは、出発物質としてグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ソルビトール、グルコース、スクロースのような三価以上の多価アルコールを用い、上記と同様の環状オキシド化合物を開環重合させて合成することにより、上記の多価アルコールに由来する分岐単位を分子中に含ませることができる。また、別法として、まず二官能性のポリオールを合成し、次いで三価以上の多価アルコールと反応させて、分子中に分岐を導入することもできる。ポリエーテルポリオールの数平均分子量は、通常、800〜4,000、好ましくは900〜3,500である。
【0028】
次に、「少なくとも二つのイソシアナト基を含有するイソシアネート化合物」は、分子中に少なくとも二個のイソシアナト基を含む限り特に限定されず、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、上記二者の混合物、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、上記二者の混合物、m−キシレンジイソシアネート、テトラメチルm−キシレンジイソシアネートのような芳香族イソシアネート化合物;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートのような脂肪族または脂環式イソシアネート化合物;それらのイソシアヌレート体、アロファネート体、ビウレット体等が例示され、トリレンジイソシアネート及びジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0029】
また、これらのイソシアネート化合物を、ポリエーテルポリオール(例えば、前記に記載した「他の活性水素化合物」としてのポリエーテルポリオール)やポリエステルポリオールのようなポリオールと反応させて得られる、分子末端にイソシアナト基を少なくとも二つ有するプレポリマーを、イソシアネート化合物の一部又は全部の代わりに用いることもできる。優れた反応速度が達成でき、整泡剤なしでも均質で優れたポリウレタンシートが得られることから、MDI類をポリオールと反応させて得られるプレポリマーを用いることが好ましい。
【0030】
尚、親水性ポリウレタンを製造する際には、「少なくとも二つのイソシアナト基を有するイソシアネート化合物」の少なくとも一部に当該プレポリマーを用いることが必須である。
【0031】
以上で、本発明に係るポリウレタンを製造する際の主材料を説明したので、以下では補助成分を説明する。まず、活性水素化合物(例えば、カラジーナン、ポリオール等)と少なくとも二つのイソシアナト基を有するイソシアネート化合物(例えば、前述のプレポリマー)との反応に際し、より低い温度及び/又はより短時間に反応を完了させるために、触媒を配合してもよい。このような触媒としては、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N,N’N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’N’−テトラメチルテトラメチレンジアミン、N,N,N’N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、1,4−ジアザ[2.2.2]ビシクロオクタン、N−エチルモルホリンのようなアミン類;オクタン酸スズ、ナフテン酸スズ、オクタン酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛のような金属有機酸塩;ジブチルスズジオクトアート、ジブチルスズジラウラートのような有機スズ化合物;アセチルアセトナト鉄のような金属キレート化合物等が例示される。また、これらの触媒のほかに、ジイソシアネート化合物の二量化、三量化を促進する触媒、例えばピリジンのような第三級アミンを配合することもできる。
【0032】
更に、親水性ポリウレタンを製造する場合には、プレポリマーと水とカラジーナン(場合により、親水性ポリオールも)との反応によるポリウレタンの形成をより均一に行う(乳化状態で行う)ために、界面活性剤を配合してもよい。界面活性剤としては、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル塩型、ポリマー型のような両性界面活性剤、並びに;オキシエチレン・オキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルのようなノニオン型界面活性剤が好ましく用いられ、1種でも2種以上を併用してもよい。ここで、均質で良好な発泡体を得るためには、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体;ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテルのようなノニオン型界面活性剤、及び/又は、ポリシロキサン・ポリオキシアルキレングラフト共重合体のような整泡剤の存在下で発泡させることが好ましい。
【0033】
尚、これらの界面活性剤のうち、オキシエチレン・オキシプロピレンブロック共重合体のように、分子中に複数個の水酸基を有するものは、プレポリマーのイソシアナト基と反応して、ポリウレタンの一部を構成する。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのように、分子中に1個の水酸基を有するものは、プレポリマーのイソシアナト基と反応して、ポリウレタンの側鎖を構成する。
【0034】
その他、必要に応じて、充填剤、着色剤、安定剤等を配合してもよく、更に、用途に応じて、当該用途で必須又は好適である各種成分(例えば、難燃成分、殺菌成分、香料成分等)を配合してもよい。
【0035】
次に、本発明に係る重金属捕捉剤の製造方法を説明する。尚、上記の重金属捕捉剤の項目においても、製造方法に関連した記載を一部既に行っているので、当該記載に関しては省略することとする。まず、本製造方法は、活性水素化合物の少なくとも一部としてカラジーナンと、少なくとも二個のイソシアナト基を含有するイソシアネート化合物とを反応させる工程を含む。ここでは、ポリオール、カラジーナン、イソシアネート化合物と他補助成分からなる発泡ポリウレタンの製造方法に関し説明する。発泡ポリウレタンの製造方法は一般にワンショット法、又はプレポリマー法が採用される。一般的に、疎水性発泡ポリウレタンの製造方法としては、ワンショット法が、親水性発泡ポリウレタンの製造方法としては、プレポリマー法が好ましく用いられる。
【0036】
まず、疎水性発泡ポリウレタンの製造方法としてのワンショット法は、ポリオール、カラジーナン、イソシアネート化合物、及び他補助成分を、注入機内のチャンバに直接、噴射し、混合攪拌、吐出して反応させる方法である。ここでは、ポリオール(例えば、グリセリン−ポリオキシプロピレントリオール:重量平均分子量3,000)、カラジーナン、水、界面活性剤(あるいは整泡剤)、及び触媒等の補助成分からなる混合液と、イソシアネート化合物を混合、攪拌して反応、硬化させ発泡ポリウレタンを得ることができる。
【0037】
次に親水性発泡ポリウレタンの製造方法としてのプレポリマー法は、まず、撹拌機及び加熱・冷却装置を備えた反応槽を、窒素のような不活性気体の雰囲気にして、ポリオールを仕込み、例えばポリエチレングリコール(平均分子量1,000)の場合は、温度を45±5℃で撹拌しつつ、必要に応じてトリメチロールプロパンのような多官能性化合物を加えて昇温し、液温50〜60℃でイソシアネート化合物を添加する。110±5℃で2時間反応させた後、50℃以下に冷却してフィルタを通すことにより、プレポリマーを合成する。尚、反応は、無触媒でも進行するが、必要に応じて触媒を添加してもよい。ここで、当該プレポリマーを製造する際には、ポリオールの水酸基に対して、イソシアナト基のモル比が1.5〜3.5となるように反応させることが好ましく、2.0〜3.0となるように反応させることが更に好ましい。
【0038】
一方、水にカラジーナンを添加し、必要に応じて触媒、界面活性剤及び/又は整泡剤等の添加剤を配合したカラジーナン水溶液を調製する。そして、上記プレポリマーと当該水溶液を、室温で激しく混合してエマルション状態で反応させ、架橋と発泡を進行させて、親水性ポリウレタンを得る。尚、当該親水性ポリウレタンの製造に際しては、過剰の水を使用し、比較的低い温度で発泡体を形成させる。したがって、当該方法は、カラジーナンの熱分解を防止できるという観点から好適である。
【0039】
ここで、本発明によれば、アルギン酸を使用した場合と異なり、重金属吸着能を低下させること無く、原料であるカラジーナンの量を増加させることができる。具体的には、使用するカラジーナンの量は、添加されるポリオール100重量部に対して0.1〜10.0重量部であることが好適であり、1.0〜5.0重量部であることがより好適である。
【0040】
次に、本発明に係る重金属捕捉剤の使用方法について説明する。本捕捉剤は、重金属汚染が問題となり得るありとあらゆる環境に使用可能である。例えば、河川や海等の水系、土壌及び大気中における重金属の除去に利用可能である。更には、レアメタルの回収剤としても利用可能である。以下、環境中の重金属除去剤としての重金属捕捉剤を順に説明する。
【0041】
まず、水系における適用対象としては、例えば、各種産業廃水、実験研究室廃水、病院廃水、鉱山廃水、都市ゴミ焼却場の洗煙廃水を挙げることができる。更には、重金属汚染が危惧される河川の水を飲料水とするための浄化剤としても利用可能である。また、適用形態は、例えば、散布剤、濾過カラム及びフィルタの形態である。
【0042】
次に、大気における適用対象としては、例えば、都市ゴミ焼却場や産業廃棄物、医療廃棄物等の焼却廃ガスや、自動車の排気ガスを挙げることができる。また、適用形態は、例えば、濾過装置やフィルタの形態等である。尚、大気中の重金属は、大気中に存在する水分と共にトラップされることになる。
【0043】
次に、土壌における適用対象としては、農業用地、工業用地、市街地、住宅地等を挙げることができる。例えば、工場跡地のような、人工的に重金属汚染が進行した土壌上に、住宅や公園等の施設を設ける場合、特に有用である。この場合、適用形態は、例えば、散布剤やシート又はマット形態である。
【0044】
更には、生活用品(例えば、壁、シートのクッション、ソファー)、医療用品、衛生用品、電化製品等、ヒトや動物の生活環境に配される製品に当該重金属捕捉剤を適用してもよい。例えば、自動車のシート素材として、当該重金属捕捉剤(重金属捕捉作用を備えたポリウレタンとも言い得る)を用いることにより、自動車の排気ガス中の重金属による影響を低減させることが可能になる。
【0045】
尚、使用後における重金属を捕捉した重金属捕捉剤は、捕捉された当該重金属が再び環境に排出されない方法で分解乃至は処分してもよい。また、当該重金属捕捉剤を洗浄することにより捕捉剤を再生し、再び重金属の捕捉に用いてもよい。例えば、酸性域(例えばpH3〜4)で重金属を外し、水で洗浄することにより再生可能である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって、本発明を更に詳細に説明する。尚、以下の例において、部は重量部、配合比などは重量比(重量%等)を示す。また、本発明の技術的範囲は、これらの例によって限定されるものではない。
【0047】
製造例1(プレポリマーの製造)
平均分子量1,000のポリエチレングリコール100部を反応槽に仕込み、50℃に加温して液状にし、次いで65℃まで昇温して、トリメチロールプロパン4.7部及び水酸化カリウム1.0部を加えて攪拌し、トリメチロールプロパンを融解させ、脱水反応によって末端反応性の中間体を得た。40℃まで冷却して水酸化カリウムを中和することにより、分子中に三官能性単位と三個の水酸基を有し、分岐点のトリメチロールプロパン単位以外はオキシエチレン単位からなるポリエーテルポリオールを得た。これに、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの80:20の混合物54部を加えて、110℃で2時間反応させることにより、分子末端がイソシアナト基で閉塞されたプレポリマーP−1を、淡黄色液状物として得た。NCO基含量は8.5%、25℃における粘度は27.5Pa・sであった。その平均分子量は、1,800であった。
【0048】
製造例2(親水性発泡ポリウレタンの製造)
カラジーナン(κ―カラジーナン、和光純薬工業、重量平均分子量:100,000〜300,000)1部と両末端に水酸基を有するポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンブロック共重合体(ポリオキシプロピレン部分の平均分子量1,750、オキシエチレン単位含量20)1部を水100部に加えて攪拌し、界面活性剤が分散したカラジーナン水溶液を調製した。これを激しく攪拌しながら、先に合成したプレポリマーP−1の100部と20℃で混合し、乳化状態で反応させて、カラジーナンが架橋体構造に組み込まれたウレタンフォームを得た。フォームは水を含んでいるので、室温で1日自然放置して、水分を揮散させた。得られたウレタンフォームは、セル数50個/25mm、密度85kg/m3の連続気泡であった。このフォームを水に浸漬したところ、自重に対して18倍の吸水があり、親水性であった。
【0049】
製造例3{疎水性(汎用乃至は通常)発泡ポリウレタンの製造}
水4.3部に、N,N−ジメチル−シクロヘキシルアミン0.75部、N,N−ジメチル−シクロヘキシル−メチルアミン0.25部、ポリシロキサン・ポリオキシプロピレングラフト共重合体である整泡剤1.0部及びオクタン酸スズ0.2部を配合して撹拌し、発泡剤混液を調製した。次に、グリセリン−ポリオキシプロピレントリオール(平均分子量3,000)100部に、上記発泡剤混液とカラジーナン1.6部(ウレタンフォーム時1wt%となるよう配合)を添加し、次いで、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの80:20の混合物54部を加えて、プロペラ撹拌機を用いて20℃で混合液を撹拌して開口容器に移し、硬化と発泡の反応により、ワンショット法によって標記発泡ポリウレタン(ウレタンフォーム)を得た。得られたウレタンフォームは、セル数40個/25mm、密度30kg/m3の連続気泡であった。なお、セル数はJIS K 6400−1付属書1に準じ、密度はJIS K 7222に準じ測定された。
【0050】
試験1(カラジーナン濃度を変化させた際の吸着試験)
カラジーナン濃度を各種変更した上で、製造例3記載の方法に準じて疎水性ポリウレタンk0〜3{カラジーナン濃度:k0=0wt%、k1=0.5wt%、k2=1.0wt%(製造例3のポリウレタン)、k3=3.0wt%}を調製した。前記k0、k1、k2、k3の疎水性ポリウレタンを用いて、24時間経過後の各イオンの吸着量を調べた。詳細には、モデルサンプルとして単独の金属イオンが存在する100mlの金属イオン溶液(カドミウム、カルシウム、鉛及びマグネシウムの各イオン濃度:100μM)をそれぞれ調製し、当該モデルサンプル100mlに、疎水性発泡ポリウレタン0.5gを入れ、振とう機で撹拌することによって吸着実験を行った。残存溶液濃度は、誘導結合プラズマ原子発光分析法(ICP−AES)を用いて測定した。結果を表1及び図1に示した。尚、表中の数値は、残留濃度(μM)である。その結果、概ね、カラジーナン濃度が増加するに伴い吸着性能が向上することが判明した。
【0051】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、試験1の結果(平均値)のプロット図である。横軸は疎水性ポリウレタンに含まれるカラジーナンの濃度(wt%)であり、縦軸はモデルサンプル中の各金属の残留濃度(μM)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性水素化合物の少なくとも一部としてカラジーナンと、イソシアナト基を少なくとも二つ有するイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリウレタンからなる重金属捕捉剤。
【請求項2】
前記ポリウレタンが発泡ポリウレタンである、請求項1記載の重金属捕捉剤。
【請求項3】
前記ポリウレタンが疎水性ポリウレタンである、請求項1又は2記載の重金属捕捉剤。
【請求項4】
活性水素化合物の少なくとも一部としてカラジーナンと、少なくとも二個のイソシアナト基を含有するイソシアネート化合物とを反応させる工程を含む、ポリウレタンから構成される重金属捕捉剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項記載の重金属捕捉剤を含む製品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−165966(P2009−165966A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7281(P2008−7281)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】