説明

野生動物を忌避することのできる法面の施工方法

【課題】 草本に対する食害を防ぐことができるとともに、野生動物の忌避効果を長期にわたって維持することができ、更に法面からの生育基盤材や植生の脱落を防止することのできる新規な野生動物を忌避することのできる法面の施工方法の開発を技術課題とした。
【解決手段】 忌避剤としてアスファルト油分15bを用い、このアスファルト油分15bを骨材15aに対してコーティングしてプレコート骨材15を形成し、このプレコート骨材15と、緑化基盤材11と、粘結剤13とを混合して生育基盤材1とし、このものを法面Sに吹き付けることを特徴として成るものであり、法面Sに吹き付けられた生育基盤材1中にはプレコート骨材15が散在することとなるため、法面S全域にわたってアスファルト油分15bの忌避効果、植生の脱落防止効果を発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は道路側脇部に面した法面等の緑化工法に関するものであり、特に野生動物による植生の食害を法面全域にわたって長期間防止することのできる手法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、山間部に建設された道路の側脇部に面した法面等には、崩落等の災害防止を目的とした、石積み、モルタル吹き付け等、機能性、安全性を重視した施工が行われてきた。
しかしながら最近では、モルタル面等による圧迫感からの開放、周辺環境との調和や生態系保全のための自然環境の連続性確保等を目的として、法面に対して客土を設置するとともに植物またはその種子を設置し、この植物の生長によって修景を行う緑化工法を施すことが主流となっている。
【0003】
ところで特に秋から冬にかけては自然界において草本類が不足するため、特に新芽の出る春先に鹿や野兎等の野生動物が餌を求めて緑化された施工法面等に侵入し、幼苗、頂芽、葉、小枝、樹皮に対する食害が発生してしまうことがあった。これにより甚だしい場合には設置された客土材の崩落を引き起こしてしまうこともあった。
そこでこのような野生動物による食害及びそれに伴い発生する客土の崩落を回避するための忌避剤として、アスファルトを適用したものが開発されるとともに(商品名:東亜ブラマック)特許出願がなされ、既に特許として成立している(特許文献1参照)。
このものは、原油の常圧蒸留の重質油より製造される油分を有効成分として含有するとともに、当該油分として芳香族炭化水素を60重量%以上含有するものであって、動植物に害を与えることがなく、また悪臭や刺激臭がなく、更に主成分が水不溶性の粘稠液体であるため忌避効果の持続性に優れていることから既に市場において一定の評価を得ているものである。
そして実際の使用にあたっては、既に定着している木本類に対しては、溶液を樹皮等にハケで塗布したりあるいは噴霧器で散布するといった手法が採られ、また植栽前の苗木に対しては、苗木を溶液に浸漬させた後、このものを植栽するといった手法が採られている。
【0004】
ところで法面等の緑化は、木本の他にも草本を主体として行われることもあり、芝やホワイトクローバーの種子を法面に蒔き、ここで発芽させて法面全域に群生させることとなるが、この場合には前記忌避剤の塗布や散布を発芽の直後に行う必要があり、遅れてしまった場合には食害にあってしまう。また草本の生育に応じて複数回の塗布・散布が要求されていた。
更に特に鹿等の大型野生生物が施工法面等に侵入してきた場合には、上述したような食害の他にも、歩行によって客土が掘り起こされてしまい、その後、客土や植生が雨水によって法面から脱落してしまうといった害もあった。
【特許文献1】特許第1812130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、特に草本に対する食害を防ぐことができるとともに、野生動物の忌避効果を長期にわたって維持することができ、更に法面からの生育基盤材や植生の脱落を防止することのできる新規な野生動物を忌避することのできる法面の施工方法の開発を試みたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち請求項1記載の野生動物を忌避することのできる法面の施工方法は、野生動物による植生の食害を回避するために、法面等の施工面に対して野生動物の忌避剤を設置する方法において、前記忌避剤としてアスファルト油分を用い、このアスファルト油分を骨材に対してコーティングしてプレコート骨材を形成し、このプレコート骨材と、バークを主原料とした緑化基盤材と、粘結剤とを混合して生育基盤材とし、このものを法面に吹き付けることを特徴として成るものである。
この発明によれば、法面に吹き付けられた生育基盤材中にはプレコート骨材が散在することとなるため、法面全域にわたってアスファルト油分の忌避効果を発揮することができるとともに、骨材成分が入ることにより、生育基盤材全体が固く締まり、野生動物によって生育基盤材が掘り起こされてしまうのを回避することが可能となる。
【0007】
また請求項2記載の野生動物を忌避することのできる法面の施工方法は、前記要件に加え、前記生育基盤材に対し、種子または肥料の何れか一方又は双方を混入することを特徴として成るものである。
この発明によれば、施工後の生育基盤材において種子が発芽し、芝生等を群生させて緑化を行うことができるとともに、その生育過程において終始野生動物を忌避して生育を確実なものとすることができる。
【0008】
更にまた請求項3記載の野生動物を忌避することのできる法面の施工方法は、前記要件に加え、前記生育基盤材に対し、アスファルト油分またはアスファルト乳剤のいずれか一方または双方を添加することを特徴として成るものである。
この発明によれば、プレコート骨材をコーティングするアスファルト油分の忌避効果に加え、生育基盤材全域に分散するアスファルト乳剤による忌避効果がもたらされるため、忌避効果をより広域且つ長期にわたって持続することができる。
【0009】
更にまた請求項4記載の野生動物を忌避することのできる法面の施工方法は、前記要件に加え、前記生育基盤材を吹き付けた後、その表面にアスファルト油分またはアスファルト乳剤のいずれか一方または双方を散布することを特徴として成るものである。
この発明によれば、法面に吹き付けられた生育基盤材の表面を硬化させることができるため、野生動物によって生育基盤材が掘り起こされてしまうのを回避することが可能となる。
そしてこれら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、野生動物に対する忌避効果を長期にわたって維持することができるとともに、法面からの生育基盤材や植生の脱落を防止することができるため、草本による法面の緑化を長期にわたって維持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を実施するための最良の形態について、図示の実施例に基づいて説明するものであるが、この実施例に対して、本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
【実施例】
【0012】
本発明の「野生動物を忌避することのできる法面の施工方法」は、山間部に建設された道路の側脇部に面した法面S等を施工対象とするものであり、法面Sに設置された生育基盤材1に対して木本・草本等の植生2を植栽することにより、周辺環境との調和や生態系保全のための自然環境の連続性を確保しながら緑化を行うものであって、更に鹿や野兎等の野生動物による植生2の食害等を長期にわたって回避することを可能にする施工方法である。
【0013】
以下、本発明の「野生動物を忌避することのできる法面の施工方法」について説明を行うものであり、始めに本工法において供する諸部材について説明を行う。
まず前記生育基盤材1は、少なくとも緑化基盤材11と、粘結剤13と、プレコート骨材15とを混合して成る、植生2が生育するための人工土壌である。
ここで前記緑化基盤材11としては、一例として樹皮を粉砕し堆肥化したバークを主原料とするものであり、適宜ピートモスを混合したものが採用される。また前記バークとして、近年の資源循環の社会的需要に基づいて、伐開材、剪定枝等を粉砕した生チップや、このものを堆肥化した木質堆肥等を採用することもできる。
【0014】
なおこの実施例では一例として、無機質肥料である高度化成肥料(15−15−15)が採用された肥料12を育成基盤材1に添加するようにした。なお肥料12に植生2の種類に適した緩効性肥料を配合してもよく、更に肥料12として有機質肥料を採用するようにしてもよい。
【0015】
また前記粘結剤13としては、一例としてセメントまたは高分子樹脂を主成分として成るものが採用される。
【0016】
また前記プレコート骨材15は、砕石、アスファルト再生材等の骨材15aに対してアスファルト油分15bをコーティングして成るものである。
ここで前記アスファルト油分15bとは、石油精製工程における原油の常圧蒸留工程において得られる重質油から製造されるものであり、芳香族炭化水素を60重量%以上含有するものである。このものは動植物に害を与えることがなく、また悪臭や刺激臭がなく、更に主成分が水不溶性の粘稠液体であるため忌避効果の持続性に優れたものである。
【0017】
更にまた、前記生育基盤材1に添加されるアスファルト乳剤16は、前記アスファルト油分15bに対して希釈剤、界面活性剤、分散剤等を加えることにより乳剤の形態としたものである。
なおアスファルト油分15bまたはアスファルト乳剤16のいずれか一方または双方は図2に示すように、事前に生育基盤材1に対して添加された状態で図4(a)に示すように法面Sに吹き付けられる他、図4(b)に示すように法面Sに吹き付けられた生育基盤材1の表面に散布されて供される場合もあり、これら工法の違いについては続いて示す本発明の方法の説明中において詳しく説明する。
【0018】
〔法面清掃工程〕
初めに施工面たる法面Sの清掃を行うものであり、浮石、草木の根など、生育基盤材1の設置に悪影響を及ぼすものを除去する。
また極端な凹凸がある場合は適宜慣らすとともに、更に湧水があった場合には適切な処理を施すようにする。
【0019】
〔ラス網張り工程〕
次に前記法面Sの凹凸に従ってラス網3を敷設するものであり、適宜大小のアンカーピン31を用いて法面Sの表面に固定する。なおこの際、ラス網3の重ね合わせは10cm以上とし、またアンカーピン31の打設はハンマーによる打ち込み、ハンマードリルによる削孔・打設とする。
なお前記ラス網3としては、一例としてφ2.0×50×50mmの金網を用いた。
またラス網3の代わりにポリエチレン、レーヨン、ジュート麻等で編まれたネットを用いてもよい。
なおこの実施例では一例として図1、4に示すように土壌の法面Sに対して直接ラス網3を敷設し、その上に生育基盤材1が設置されるような施工が行われるものとしたが、前記法面S上にモルタル面を形成し、その上にラス網3を敷設し、更にその上に生育基盤材1を設置するようにしてもよい。
【0020】
〔生育基盤材の配合〕
また事前にあるいは上記ラス網張り工程と並行して図2に示すように、生育基盤材1の配合を行うものであり、80m2 の法面Sを施工面として3cmの厚さで吹き付ける場合の一例として、緑化基盤材11を4990リットル、粘結剤13を13kg、プレコート骨材15を1250リットル配合するようにした。更にこの実施例では、肥料12を32kg、アスファルト乳剤16を28kg、種子20を3120g添加するようにした。なおここで前記アスファルト乳剤16に代えて、あるいはアスファルト乳剤16と併用してアスファルト油分15bを添加してもよい。
ここで前記種子20としては、ハイランドベンドグラス、クリーピングレッドフェスク等の芝生種、メドハギ、ホワイトクローバー等の多年草等のものが採用されるものであり、この実施例では上記四種を適宜の比率で混合するようにした。
【0021】
〔生育基盤材の吹き付け〕
次いで生育基盤材1をモルタル吹付機を用いて施工面たる法面Sに対して吹き付けるものであり、このときモルタル吹付機に対して適量の水を注水する。
そして図3(a)、(b)に示すように、作業員MがロープRを伝って法面Sを降下しながらモルタル吹付機に接続された材料圧送ホースHを操作して、一定幅での吹き付けを法面Sの幅方向に繰り返す作業が行われる。
なお図4(b)に示すように、アスファルト乳剤16が配合されていない生育基盤材1を吹き付けた場合には、その上からアスファルト乳剤16を1000m2 あたり20リットル(1/2希釈)を目安として散布するようにする。このときにアスファルト油分15bを添加するようにしてもよい。
またアスファルト乳剤16やアスファルト油分15bが配合された生育基盤材1を法面Sに吹き付けた後、その表面に更にアスファルト乳剤16やアスファルト油分15bを散布するようにしてもよい。
【0022】
〔植生の生育による修景と野生動物の忌避〕
上述のようにして法面Sに対する施工が完了すると、やがて種子20が発芽して植生2が生育することにより、法面Sの修景すなわち緑化が進行してゆく。
この際、法面Sの表面に層状に形成された生育基盤材1中には、アスファルト油分15bがコーティングされたプレコート骨材15が散在したおり、更にアスファルト乳剤16も分散しているため、鹿や野兎等の野生動物を忌避することができるものであり、法面S全域において植生2が食害に遭ってしまうのを回避することが可能となる。
特に従来は、発芽後、間もない植生2に忌避剤を散布することは困難であったが、本発明によると種子20が発芽する前の段階から、その生育過程において終始野生動物を忌避して生育を確実なものとすることができる。
また骨材15aが入ることにより生育基盤材1全体が固く締まり、鹿等の野生動物が侵入してきてしまった場合であっても、生育基盤材1が掘り起こされてしまうとともに法面Sから脱落してしまうのを回避することが可能となり、更に図4(b)に示すように、生育基盤材1の表面にアスファルト乳剤16やアスファルト油分15bを散布した場合には、より一層生育基盤材1を保護することができる。
なお植生2の根が伸びてラス網3に絡みつくことにより、生育基盤材1の崩落は更により一層防止されることとなる。
【0023】
なお上述した実施例においては、生育基盤材1中に種子20を配合するようにしたが、種子20を含まない生育基盤材1を法面Sに吹き付けた後、別途、苗木を植生するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の施工方法により緑化された法面を一部拡大して示す断面図である。
【図2】生育基盤材の配合の様子を示す説明図である。
【図3】生育基盤材の吹き付けの様子を段階的に示す斜視図である。
【図4】施工直後の法面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 生育基盤材
11 緑化基盤材
12 肥料
13 粘結剤
15 プレコート骨材
15a 骨材
15b アスファルト油分
16 アスファルト乳剤
2 植生
20 種子
3 ラス網
31 アンカーピン
H 材料圧送ホース
M 作業員
R ロープ
S 法面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生動物による植生の食害を回避するために、法面等の施工面に対して野生動物の忌避剤を設置する方法において、前記忌避剤としてアスファルト油分を用い、このアスファルト油分を骨材に対してコーティングしてプレコート骨材を形成し、このプレコート骨材と、バークを主原料とした緑化基盤材と、粘結剤とを混合して生育基盤材とし、このものを法面に吹き付けることを特徴とする野生動物を忌避することのできる法面の施工方法。
【請求項2】
前記生育基盤材に対し、種子または肥料の何れか一方又は双方を混入することを特徴とする請求項1記載の野生動物を忌避することのできる法面の施工方法。
【請求項3】
前記生育基盤材に対し、アスファルト油分またはアスファルト乳剤のいずれか一方または双方を添加することを特徴とする請求項1または2記載の野生動物を忌避することのできる法面の施工方法。
【請求項4】
前記生育基盤材を吹き付けた後、その表面にアスファルト油分またはアスファルト乳剤のいずれか一方または双方を散布することを特徴とする請求項1、2または3記載の野生動物を忌避することのできる法面の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−50795(P2008−50795A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226377(P2006−226377)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(390037268)富士見緑化株式会社 (5)
【出願人】(390019998)東亜道路工業株式会社 (42)
【Fターム(参考)】