量子化ビット数拡張方法および量子化ビット数拡張装置

【課題】デジタルオーディオ信号の量子化ビット数の拡張を簡易な処理で行い、顕著な音質の向上を可能にした量子化ビット数拡張方法を提供する。
【解決手段】オーディオ信号から平坦区間を検出する平坦区間検出部、平坦区間直前の前段差値の正負および平坦区間直後の後段差値の正負に応じて平坦区間の形状パターンを判定するパターン判定部、形状パターンおよび前段差値:後段差値の比率に基づいて平坦区間の詳細波形を推定する波形推定部、詳細波形に基づき平坦区間の各サンプル時刻のサンプル値を大きい量子化ビット数で決定するサンプル値決定部、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、デジタルオーディオ信号の量子化ビット数の拡張方法および量子化ビット数拡張装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルオーディオの先がけであるCD(コンパクト・ディスク)に記録されるオーディオ信号の品質は、44.1kHzのサンプリング周波数で16ビットリニアの量子化ビット数である。CDが実用化された当時は、これで十分な品質であると考えられていたが、現在ではサンプリング周波数が48kHzや96kHzで量子化ビット数が24ビットや32ビットのオーディオソースやオーディオ機器が一般化している。
【0003】
このようなオーディオ機器で、CDを再生する場合、オーディオ機器の性能に合わせてオーディオ信号の量子化ビット数を16ビットから24ビットまたは32ビットまで拡張することが好ましい。
【0004】
従来より、デジタルオーディオ信号の量子化ビット数を拡張する方法・装置が、提案されている (たとえば特許文献1)。特許文献1の方式は、自然楽器の楽音等でよく現れる波形を振幅パターンとして記憶しておき、小さい音(実質的な量子化ビット数が少ない音)にその振幅パターンに一致する波形が現れたとき、記憶している振幅パターンを用いて量子化ビット数を拡張するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−248797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、特許文献1の量子化ビット数拡張方式は、実質的な量子化ビット数が少ない小さい音の音質を改善することが目的のものであり、予め記憶されている振幅パターンに一致した波形の量子化ビット数を改善することしかできないものであった。しかし、低ビット信号の量子化ノイズは小さい音のみで発生するものではなく、オーディオ信号波形全体に発生し、特に振幅がゆっくり変化する箇所で目立つものである。また、高度な演算でビット数を拡張しようとすれば高機能なDSPが必要になるという問題点があった。
【0007】
この発明は、デジタルオーディオ信号の量子化ビット数の拡張を簡易な処理で行い、顕著な音質の向上を可能にした量子化ビット数拡張方法、量子化ビット数拡張装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明である量子化ビット数拡張方法は、デジタル化されたオーディオ信号から、同じサンプル値を有する複数のサンプルが連続する区間である平坦区間を検出する平坦区間検出手順、前記平坦区間直前のサンプルのサンプル値を前記平坦区間のサンプル値から減じた差である前段差値の正負、および、前記平坦区間のサンプル値を前記平坦区間直後のサンプルのサンプル値から減じた差である後段差値の正負に応じて、前記平坦区間の形状パターンを判定するパターン判定手順、前記判定された形状パターン、および、前記前段差値と前記後段差値の比率または前記平坦区間の連続サンプル数の少なくとも一方を含む波形推定要素に基づいて、前記平坦区間の、前記オーディオ信号の波形よりも高分解能の、詳細波形を推定する波形推定手順、前記詳細波形に基づき、前記平坦区間の各サンプル時刻のサンプル値を、前記オーディオ信号の量子化ビット数よりも大きい量子化ビット数で決定するサンプル値決定手順、を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、上記発明において、前記波形推定手順は、予めテーブルに記憶された複数の波形の中から、前記形状パターンおよび前記比率に基づいて前記詳細波形を選択することにより、前記詳細波形を推定することを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、上記発明において、前記パターン判定手順は、前段差値が正且つ後段差値が負のとき山型、前段差値が負且つ後段差値が正のとき谷型、前段差値が正且つ後段差値が正のとき右上がり型、および、前段差値が負且つ後段差値が負のとき右下がり型と、前記平坦区間の形状パターンを判定する手順であり、前記波形推定手順は、前記形状パターンが山型と判定されたとき前記平坦区間の中間部が高い山型の詳細波形を推定し、前記形状パターンが谷型と判定されたとき前記平坦区間の中間部が低い谷型の詳細波形を推定し、前記形状パターンが右上がり型と判定されたとき前記平坦区間の右端が高い右上がり型の詳細波形を推定し、前記形状パターンが右下がり型と判定されたとき前記平坦区間の右端が低い右下がり型の詳細波形を推定する手順であることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、上記発明において、前記波形推定手順は、前記形状パターンが山型または谷型と判定されたとき、前記平坦区間のサンプル数に基づいて前記中間部の値を決定することを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、上記発明において、前記波形推定手順は、前記オーディオ信号のサンプル値を含む前記オーディオ信号の1量子間隔の範囲内で前記詳細波形を推定することを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明である量子化ビット数拡張装置は、デジタル化されたオーディオ信号を入力する入力部と、前記オーディオ信号から同じサンプル値を有する複数のサンプルが連続する区間である平坦区間を検出する平坦区間検出部と、前記平坦区間直前のサンプルのサンプル値を前記平坦区間のサンプル値から減じた差である前段差値の正負、および、前記平坦区間のサンプル値を前記平坦区間直後のサンプルのサンプル値から減じた差である後段差値の正負に応じて、前記平坦区間の形状パターンを判定するパターン判定部と、
前記判定された形状パターン、および、前記前段差値と前記後段差値の比率または前記平坦区間の連続サンプル数の少なくとも一方を含む波形推定要素に基づいて、前記平坦区間の、前記オーディオ信号の波形よりも高分解能の、詳細波形を推定する波形推定部と、前記詳細波形に基づき、前記平坦区間の各サンプル時刻のサンプル値を、前記オーディオ信号の量子化ビット数よりも大きい量子化ビット数で決定するサンプル値決定部と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明は、上記発明において、前記波形推定部は、複数の波形を記憶したテーブルを有し、該テーブルに記憶された複数の波形の中から、前記形状パターンおよび前記比率に基づいて前記詳細波形を選択することにより、前記詳細波形を推定することを特徴とする。
【0015】
請求項8の発明は、上記発明において、前記パターン判定部は、前段差値が正且つ後段差値が負のとき山型、前段差値が負且つ後段差値が正のとき谷型、前段差値が正且つ後段差値が正のとき右上がり型、および、前段差値が負且つ後段差値が負のとき右下がり型と、前記平坦区間の形状パターンを判定し、前記波形推定部は、前記形状パターンが山型と判定されたとき前記平坦区間の中間部が高い山型の詳細波形を推定し、前記形状パターンが谷型と判定されたとき前記平坦区間の中間部が低い谷型の詳細波形を推定し、前記形状パターンが右上がり型と判定されたとき前記平坦区間の右端が高い右上がり型の詳細波形を推定し、前記形状パターンが右下がり型と判定されたとき前記平坦区間の右端が低い右下がり型の詳細波形を推定することを特徴とする。
【0016】
請求項9の発明は、上記発明において、前記波形推定部は、前記形状パターンが山型または谷型と判定されたとき、前記平坦区間のサンプル数に基づいて前記中間部の値を決定することを特徴とする。
【0017】
請求項10の発明は、上記発明において、前記波形推定部は、前記オーディオ信号のサンプル値を含む前記オーディオ信号の1量子間隔の範囲内で前記詳細波形を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、再生時に量子化ノイズが目立つ信号波形であるゆっくり振幅が変化し、同じサンプル値が複数サンプル連続する平坦区間に着目してなされたものである。この発明では、この平坦区間と前後のサンプルとの大小関係で形状パターン、前段差値、後段差値を求め、これら形状パターン、前段差値、後段差値を用いて平坦区間の量子化ビット数を拡張する。このように、簡易な処理で最も量子化ノイズが目立つ箇所の量子化ビット数の拡張を行うため、簡易な処理であるにもかかわらず効果的な量子化ビット数の拡張および音質の向上を計ることが可能になる。
【0019】
また、この発明では、複数の波形が予め記憶されたテーブルを用いて平坦区間の詳細波形を推定することにより、スプライン演算等の複雑な演算が不要になり、リアルタイム処理が容易になる。また、テーブルに実際の楽器の波形など種々の波形を記憶しておくことにより、量子化ビット数を拡張されたオーディオ信号に音色の特徴を持たせることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施形態である量子化ビット数拡張装置の構成を示す図
【図2】同量子化ビット数拡張装置で処理されるオーディオ信号波形の例を示す図
【図3】同量子化ビット数拡張装置が判定する信号波形の形状パターンの種類を示す図
【図4】同量子化ビット拡張装置が行う量子化ビット拡張処理を説明する図
【図5】補間曲線テーブルの記憶内容の例を示す図
【図6】補間曲線テーブルの記憶内容の例を示す図
【図7】アップサンプリングされたオーディオ信号に対する量子化ビット拡張処理の例を示す図
【図8】補間曲線テーブルの記憶内容の例を示す図
【図9】補間曲線テーブルの記憶内容の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照してこの発明の実施形態である量子化ビット数拡張装置について説明する。量子化ビット数拡張装置は、低ビット深度のデジタルオーディオ信号の量子化ビット数を拡張して高ビット深度のデジタルオーディオ信号に変換する装置である。この量子化ビット数拡張装置は、たとえばCDなどのデジタルオーディオソースを再生する再生装置やデジタルオーディオアンプに組み込まれる。以下の説明ではデジタルオーディオ信号を単にオーディオ信号と呼ぶ。なお、この実施形態では、16ビットのオーディオ信号を入力して24ビットのオーディオ信号に変換・出力する装置を例に挙げて説明するが、本発明における入力オーディオ信号、出力オーディオ信号のビット数はこれに限定されない。
【0022】
量子化ビット数拡張装置1は、入力バッファ10、拡張処理部11および出力バッファ12を有する。また、拡張処理部11は、平坦区間検出部13、パターン判定部14および補間部15を有している。入力バッファ10は、ストリーミング入力される16ビットのオーディオ信号を所定時間分バッファする。拡張処理部11は、入力バッファ10にバッファされたオーディオ信号の量子化ビット数を24ビットに拡張する。拡張処理部11は、入力バッファ10にバッファされたオーディオ信号で同じ値が2サンプル以上連続する平坦区間21、22(図2参照)を検出し、この平坦区間21、22に起伏をつける処理をすることで量子化ビット数を拡張する。
【0023】
なお、この処理により付加される起伏の範囲は、元の16ビットのオーディオ信号の1量子間隔 (1LSB)の範囲である。LSBは、元の16ビットのサンプル値の量子間隔の意味である。各点の値を元のサンプル値を含む1LSBの範囲内としているのは、量子化ビット数を24ビットに拡張しても元の16ビットのサンプル値の範囲から外れないようにするためである。
【0024】
たとえば、量子化が四捨五入で行われる場合には;
元のサンプル値−0.5LSB≦新たなサンプル値<元のサンプル値+0.5LSB
の範囲で起伏が付加される。
また、量子化が切り捨てで行われる場合には;
元のサンプル値≦新たなサンプル値<元のサンプル値+1LSB
の範囲で起伏が付加される。
以下の説明では、四捨五入で量子化された16ビットのオーディオ信号を処理する場合について説明する。
【0025】
拡張処理部11は、量子化ビット数を拡張したオーディオ信号を出力バッファ12にバッファする。出力バッファ12にバッファされたオーディオ信号は、後段の装置によって順次読み出される。
【0026】
以下、拡張処理部11の各機能部の処理を説明する。
平坦区間検出部13は、入力バッファ10にバッファされているオーディオ信号の各サンプルデータの値を読み取り、同じ値が複数サンプル連続する平坦区間を検出する。図2は、入力される16ビットのオーディオ信号の波形例を示す図である。図示のオーディオ信号には、平坦区間21、22が存在している。平坦区間21は、サンプル時刻T2,T3,T4の連続する3サンプルでサンプル値がM3である。また、平坦区間22は、T5,T6,T7の連続する3サンプルでサンプル値がM4である。平坦区間検出部13は、このような平坦区間を検出して、その旨をパターン判定部14に通知する。
【0027】
パターン判定部14は、検出された平坦区間とその前後のサンプル値で形成される波形の形状パターンを判定する。判定した形状パターンは、後段の補間部15に通知される。この波形の形状パターンに応じて、補間部15が平坦区間の量子化ビット数を拡張する。形状パターンは、山型、谷型、右上がり型、右下がり型の4つに分類される。図3は、各形状パターンの波形例を示す図である。山型(図3(A)参照)は、直前のサンプル値が平坦区間の値よりも小さく、かつ、直後のサンプル値が平坦区間の値よりも小さい形状である。谷型(図3(B)参照)は、直前のサンプル値が平坦区間の値よりも大きく、かつ、直後のサンプル値が平坦区間の値よりも大きい形状である。右上がり型(図3(C)参照)は、直前のサンプル値が平坦区間の値よりも小さく、かつ、直後のサンプル値が平坦区間の値よりも大きい形状である。右下がり型(図3(D)参照)は、直前のサンプル値が平坦区間の値よりも大きく、かつ、直後のサンプル値が平坦区間の値よりも小さい形状である。したがって、図2の平坦区間21は右上がり型であり、平坦区間22は山型である。
【0028】
補間部15は、パターン判定部14から通知された形状パターンに応じて、平坦区間の各サンプル値を24ビットに拡張する。以下、図4〜図6を参照して量子化ビット数の拡張方法について説明する。
【0029】
図4は、平坦区間を含むオーディオ信号の一部波形を示す図である。同図において、破線で接続した▲マークでプロットされたサンプルが元の16ビットのオーディオ信号である。このオーディオ信号では、サンプル時刻S1〜S6の6サンプルが平坦区間になっている。
【0030】
量子化ビット数の拡張処理において、最初に、平坦区間の直前のサンプル時刻に始点を定め、直後のサンプル時刻に終点を定める。図4の例では、サンプル時刻S1に始点30が定められ、サンプル時刻S7に終点31が定められている。なお、この始点・終点は、平坦区間(S2〜S6)のサンプル値の量子化ビット数を拡張するための補間曲線の始点・終点となるのみのサンプル時刻であり、そのサンプル時刻のサンプル値は書き換えられない。
【0031】
そして、直前のサンプル時刻のサンプル値(以下、直前のサンプル値と呼ぶ)と平坦区間のサンプル値との差(以下、前段差と呼ぶ)、および、直後のサンプル時刻のサンプル値(以下、直後のサンプル値と呼ぶ)と平坦区間のサンプル値との差(以下、後段差と呼ぶ)を用いて平坦区間の時間長を内分し、その内分した時間軸上に中間点を定める。図4において、前段差36の値(絶対値)は1であり、後段差37の値(絶対値)は2である。したがって、中間点32は平坦区間を1:2の内分比率で内分した位置に定められる。この仮想的な中間点は、平坦区間を正確に比例配分した実数値であり、平坦区間のいずれかのサンプル時刻(整数値)と一致させる必要はない。
【0032】
上の処理でサンプル時刻が定められた始点、中間点、終点のサンプル値として、形状パターンに応じて以下のような値を当てはめる。
【0033】
山型
始 点:平坦区間のサンプル値−0.5LSB以上
中間点:平坦区間のサンプル値+0.5LSB未満
終 点:平坦区間のサンプル値−0.5LSB以上
ここで、各点の値を平坦区間のサンプル値±0.5LSB以内としているのは、量子化ビット数を24ビットに拡張しても、四捨五入して元の16ビットデータに戻したときに元の16ビットのサンプル値の範囲から外れないようにするためである。具体的には、たとえば以下の値が当てはめられる。
【0034】
始 点:平坦区間のサンプル値−0.5LSB
中間点:平坦区間のサンプル値+0.49LSB
終 点:平坦区間のサンプル値−0.5LSB
の値が割り当てられる。
【0035】
他の形状パターンの場合も同様に以下の値が割り当てられる。
谷型
(基準)
始 点:平坦区間のサンプル値+0.5LSB以下
中間点:平坦区間のサンプル値−0.5LSB以上
終 点:平坦区間のサンプル値+0.5LSB以下
ここで、始点、終点のサンプル値を平坦区間のサンプル値+0.5LSB未満とせずに、「以下」としたのは、始点、終点は仮想的に設定された端部であって、始点、終点をこのように設定しても実際に量子化ビット数が拡張される平坦区間はこれよりも小さい値(平坦区間のサンプル値+0.5LSB未満)になるからである。
(具体例)
始 点:平坦区間のサンプル値+0.5LSB
中間点:平坦区間のサンプル値−0.5LSB
終 点:平坦区間のサンプル値+0.5LSB
【0036】
右上がり型
(基準)
始 点:平坦区間のサンプル値−0.5LSB以上
中間点:平坦区間のサンプル値
終 点:平坦区間のサンプル値+0.5LSB以下
(具体例)
始 点:平坦区間のサンプル値−0.5LSB
中間点:平坦区間のサンプル値
終 点:平坦区間のサンプル値+0.5LSB
【0037】
右下がり型
(基準)
始 点:平坦区間のサンプル値+0.5LSB以下
中間点:平坦区間のサンプル値
終 点:平坦区間のサンプル値−0.5LSB以上
(具体例)
始 点:平坦区間のサンプル値+0.5LSB
中間点:平坦区間のサンプル値
終 点:平坦区間のサンプル値−0.5LSB
【0038】
図4の例の場合、形状パターンが右下がり型であるため、始点30のサンプル値は、直前のサンプル時刻の平坦区間+0.5LSBに定められ、終点31のサンプル値は、平坦区間のサンプル値−0.5LSBに定められる。そして、中間点32のサンプル値は、平坦区間のサンプル値に定められる。
【0039】
そして、このようにして定めた3点(始点30、中間点32、終点31)を補間曲線でつなぐ。補間曲線としては、たとえばスプライン曲線を用いることができる。そして、平坦区間の各サンプル時刻(S1〜S6)におけるサンプル値を、上の手順で描かれた補間曲線がそのサンプル時刻を横切った値とする。これにより、元の16ビットの量子間隔よりも細かい間隔(24ビットの量子間隔)でサンプル値を定めることができ、量子化ビット数を拡張することができる。また、±0.5LSB (16ビット)の範囲で量子化ビット数を拡張するため、元の16ビットのサンプル値から外れない範囲でビット深度を深くすることができる。
【0040】
なお、補間曲線は、補間部15がリアルタイムで演算してもよいが、予めテーブル化しておけば、補間部15がこのテーブル値を当てはめることで処理量を減らして高速に補間が可能になる。
【0041】
図5、図6は、補間曲線を記憶した補間曲線テーブルの内容の例を示す図である。図5は、右上がり型の補間曲線テーブルを示し、図6は山型の補間曲線テーブルを示している。
【0042】
図5の補間曲線テーブルには、右上がり型の平坦区間を補間するためのスプライン曲線が10種類記憶されている。各スプライン曲線は、中間点の位置の内分比率が1:1〜10:1の場合の補間曲線である。各スプライン曲線の時間長(x軸)は10サンプリングクロック(両端を含めて11サンプル)である。また、図6の補間曲線テーブルには、山型の平坦区間を補間するためのスプライン曲線が5種類記憶されている。各スプライン曲線は、中間点の位置の内分比率が1:1〜5:1の場合の補間曲線である。各スプライン曲線の時間長(x軸)は10サンプリングクロック(両端を含めて11サンプル)である。
【0043】
平坦区間の形状パターン、前後段差、長さ(始点−終点間の長さ)が検出されれば、上記補間曲線テーブルから適当な補間曲線を読み出して当てはめることにより、平坦区間の各サンプル時刻のサンプル値を求めることができる。
【0044】
なお、図5、図6では、右上がり型、山型の補間曲線テーブルを示したが、右下がり型、谷型は、これらのテーブルの曲線を上下反転して用いればよい。また、内分比率が1:1〜1:10の場合には、これらのテーブルの曲線を左右反転して用いればよい。また、上記スプライン曲線は、平坦区間の長さに応じて時間長を伸縮してもちいればよい。また、内分比率が補間曲線テーブルに記憶されているスプライン曲線と異なる場合には、その内分比率に隣接する2つのスプライン曲線の値を補間して、当該内分比率のスプライン曲線を求めればよい。なお、比率がテーブルでスプライン曲線を規定している最大値を超える場合には最大値のものを用いればよい。たとえば、テーブルに1:1から10:1までのスプライン曲線を規定している場合に、10:1を超える比率の波形が入力された場合には、この波形の補間に10:1のスプライン曲線を用いる。
【0045】
なお、補間曲線テーブルに記憶する補間曲線は、スプライン補間に限定されない。たとえば、実際のオーディオ信号をサンプリングした波形曲線などを補間曲線として記憶してもよい。また、補間曲線テーブルを適宜交換・切り換えることで音色を好みのものに設定することも可能である。
【0046】
図7は、アップサンプリングされたオーディオ信号に、本発明の量子化ビット数拡張方法を適用した例を示す図である。この図ではオーディオ信号を8倍にアップサンプリングした例を示している。8倍のアップサンプリングにより、同じサンプル値のデータが8サンプル連続して現れるため、オーディオ信号の波形は、8サンプルの平坦区間が繰り返す波形になる。このようなオーディオ信号を本発明の量子化ビット数拡張方法を用いて量子化ビット数を拡張すると、同図に示したような波形になり、単純なローパスフィルタ等を用いて滑らかにした波形とは異なる特徴のある波形にすることが可能になる。
【0047】
以上は、同じサンプル値が2サンプル以上連続する平坦区間のビット数を拡張する場合について説明したが、図2の凹部23のような1サンプルのみの凹凸についても、上述の手法で量子化ビット数を拡張することが可能である。
【0048】
また、上記実施形態では、山型の平坦区間の量子化ビット数を拡張する場合、その平坦区間の長さや前後の段差の大きさにかかわらず、中間点の高さ(サンプル値)を一律に「平坦区間のサンプル値+0.49LSB」としているが、平坦区間の長さや前後段差の大きさに応じて中間点の高さを変更するようにしてもよい。
【0049】
図8は平坦区間の長さに応じて中間点の高さを変更する場合の補間曲線テーブルの記憶内容の例を示す図である。すなわち、山型の平坦区間の場合、平坦区間が長いほど盛り上がりが大きく、中間点が高くなると考えられるため、この補間曲線テーブルでは中間点の高さを平坦区間の長さに連動させた補間曲線を記憶している。平坦区間の長さが1サンプルの場合には、中間点をもとの平坦区間のサンプル値よりも0.0625LSBだけ高く設定する。平坦区間の長さが1サンプル長くなるごとに0.0625LSBずつ中間点の高さを高くしてゆき、平坦区間の長さが8サンプルのとき、中間点が0.5LSB(または0.49LSB)となるようにする。平坦区間の長さが8サンプルを超える場合には、中間点の高さが0.5LSBの補間曲線を時間軸方向に伸ばして補間してゆく。これにより、元データの0.5LSBを超えない範囲で平坦区間の長さに対応した量子化ビット数の拡張を行うことができる。なお、平坦区間の長さが1サンプル(凸型)の場合、中間点の値を元の平坦区間 (凸部)のサンプル値よりも小さくしてもよい。
【0050】
図8は中間点が平坦区間の中央にある場合(前段差と後段差が等しい場合)の例を示しているが、前段差と後段差の値が異なる場合には、その比率で平坦区間を内分した点が中間点となるように補間曲線を変形すればよい。
【0051】
次に、図9は、前後の段差の値に基づいて中間点の高さを変更する場合の補間曲線テーブルの記憶例を示す図である。すなわち、形状パターンが山型の場合、前後の段差が大きいほど山が急峻で中間点が高いと考えられるため、この補間曲線テーブルでは、前後段差(=前段差+後段差)の値に応じた補間曲線を記憶している。同図(A)はそのうち前後段差が2の場合と4の場合の補間曲線を図示している。また、同図(B)は前後段差が3の場合と5の場合の補間曲線を図示している。
【0052】
前後段差が2の場合とは、前段差、後段差がともに1の場合(1:1)である。この場合には、同図(A)に示す平坦区間の中央に中間点があり、その高さが0.125LSBの補間曲線を平坦区間に適用して量子化ビット数を拡張する。
【0053】
また、前後段差が3の場合とは、前段差=2、後段差=1の場合(2:1)、または、前段差=1、後段差=2の場合(1:2)である。この場合には、同図(B)に示す高さが0.25LSBの補間曲線(2:1または1:2)を平坦区間に適用して量子化ビット数を拡張する。
【0054】
前後段差が4の場合とは、前段差=2、後段差=2の場合(2:2)、前段差=3、後段差=1の場合(3:1)、または、前段差=1、後段差=3の場合(1:3)である。この場合には、同図 (A)に示す高さが0.375LSBの補間曲線(3:1、2:2または1:3)を平坦区間に適用して量子化ビット数を拡張する。
【0055】
同様に、前後段差が5の場合とは、前段差=4、後段差=1の場合(4:1)、前段差=3、後段差=2の場合(3:2)、前段差=2、後段差=3の場合(2:3)、または、前段差=1、後段差=4の場合(1:4)である。この場合には、同図(B)に示す高さが0.5LSBの補間曲線(4:1、3:2、2:3または1:4)を平坦区間に適用して量子化ビット数を拡張する。
【0056】
図9の場合において、前後段差が5を超える場合には、図6に示した場合と同様に、中間点のサンプル値を「平坦区間のサンプル値+0.49LSB」とし、内分比率に応じて補間曲線を変形させて平坦区間の量子化ビット数を拡張すればよい。
【0057】
なお、図8、図9は平坦区間の形状パターンが山型の場合について説明したが、谷型の平坦区間の場合には、図8、図9の補間曲線を上下反転させて適用すればよい。
【0058】
以上の実施形態では、波形推定要素として、前段差(値)と後段差(値)の比率、平坦区間の連続サンプル数、前後段差を示したが、これ以外の要素を波形推定要素として用いてもよい。また、これら波形推定要素を単独で用いて詳細波形を推定するのみでなく、これらの波形推定要素を組み合わせて詳細波形を推定してもよい。たとえば、前段差(値)と後段差(値)の比率と平坦区間の連続サンプル数とを組み合わせる、または、平坦区間の連続サンプル数と前後段差を組み合わせる等である。
【符号の説明】
【0059】
10 入力バッファ
11 拡張処理部
12 出力バッファ
13 平坦区間検出部
14 パターン判定部
15 補間部
21,22 平坦区間
30 始点
31 終点
32 中間点
36 前段差
37 後段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル化されたオーディオ信号から、同じサンプル値を有する複数のサンプルが連続する区間である平坦区間を検出する平坦区間検出手順、
前記平坦区間直前のサンプルのサンプル値を前記平坦区間のサンプル値から減じた差である前段差値の正負、および、前記平坦区間のサンプル値を前記平坦区間直後のサンプルのサンプル値から減じた差である後段差値の正負に応じて、前記平坦区間の形状パターンを判定するパターン判定手順、
前記判定された形状パターン、および、前記前段差値と前記後段差値の比率または前記平坦区間の連続サンプル数の少なくとも一方を含む波形推定要素に基づいて、前記平坦区間の、前記オーディオ信号の波形よりも高分解能の、詳細波形を推定する波形推定手順、
前記詳細波形に基づき、前記平坦区間の各サンプル時刻のサンプル値を、前記オーディオ信号の量子化ビット数よりも大きい量子化ビット数で決定するサンプル値決定手順、
を有する量子化ビット数拡張方法。
【請求項2】
前記波形推定手順は、予めテーブルに記憶された複数の波形の中から、前記形状パターンおよび前記比率に基づいて前記詳細波形を選択することにより、前記詳細波形を推定する請求項1に記載の量子化ビット拡張方法。
【請求項3】
前記パターン判定手順は、前段差値が正且つ後段差値が負のとき山型、前段差値が負且つ後段差値が正のとき谷型、前段差値が正且つ後段差値が正のとき右上がり型、および、前段差値が負且つ後段差値が負のとき右下がり型と、前記平坦区間の形状パターンを判定する手順であり、
前記波形推定手順は、前記形状パターンが山型と判定されたとき前記平坦区間の中間部が高い山型の詳細波形を推定し、前記形状パターンが谷型と判定されたとき前記平坦区間の中間部が低い谷型の詳細波形を推定し、前記形状パターンが右上がり型と判定されたとき前記平坦区間の右端が高い右上がり型の詳細波形を推定し、前記形状パターンが右下がり型と判定されたとき前記平坦区間の右端が低い右下がり型の詳細波形を推定する手順である
請求項1または請求項2に記載の量子化ビット拡張方法。
【請求項4】
前記波形推定手順は、前記形状パターンが山型または谷型と判定されたとき、前記平坦区間のサンプル数に基づいて前記中間部の値を決定する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の量子化ビット拡張方法。
【請求項5】
前記波形推定手順は、前記オーディオ信号のサンプル値を含む前記オーディオ信号の1量子間隔の範囲内で前記詳細波形を推定する請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の量子化ビット拡張方法。
【請求項6】
デジタル化されたオーディオ信号を入力する入力部と、
前記オーディオ信号から同じサンプル値を有する複数のサンプルが連続する区間である平坦区間を検出する平坦区間検出部と、
前記平坦区間直前のサンプルのサンプル値を前記平坦区間のサンプル値から減じた差である前段差値の正負、および、前記平坦区間のサンプル値を前記平坦区間直後のサンプルのサンプル値から減じた差である後段差値の正負に応じて、前記平坦区間の形状パターンを判定するパターン判定部と、
前記判定された形状パターン、および、前記前段差値と前記後段差値の比率または前記平坦区間の連続サンプル数の少なくとも一方を含む波形推定要素に基づいて、前記平坦区間の、前記オーディオ信号の波形よりも高分解能の、詳細波形を推定する波形推定部と、
前記詳細波形に基づき、前記平坦区間の各サンプル時刻のサンプル値を、前記オーディオ信号の量子化ビット数よりも大きい量子化ビット数で決定するサンプル値決定部と、
を備えた量子化ビット数拡張装置。
【請求項7】
前記波形推定部は、複数の波形を記憶したテーブルを有し、該テーブルに記憶された複数の波形の中から、前記形状パターンおよび前記比率に基づいて前記詳細波形を選択することにより、前記詳細波形を推定する請求項6に記載の量子化ビット拡張装置。
【請求項8】
前記パターン判定部は、前段差値が正且つ後段差値が負のとき山型、前段差値が負且つ後段差値が正のとき谷型、前段差値が正且つ後段差値が正のとき右上がり型、および、前段差値が負且つ後段差値が負のとき右下がり型と、前記平坦区間の形状パターンを判定し、
前記波形推定部は、前記形状パターンが山型と判定されたとき前記平坦区間の中間部が高い山型の詳細波形を推定し、前記形状パターンが谷型と判定されたとき前記平坦区間の中間部が低い谷型の詳細波形を推定し、前記形状パターンが右上がり型と判定されたとき前記平坦区間の右端が高い右上がり型の詳細波形を推定し、前記形状パターンが右下がり型と判定されたとき前記平坦区間の右端が低い右下がり型の詳細波形を推定する
請求項6または請求項7に記載の量子化ビット拡張装置。
【請求項9】
前記波形推定部は、前記形状パターンが山型または谷型と判定されたとき、前記平坦区間のサンプル数に基づいて前記中間部の値を決定する請求項6乃至請求項8のいずれかに記載の量子化ビット拡張装置。
【請求項10】
前記波形推定部は、前記オーディオ信号のサンプル値を含む前記オーディオ信号の1量子間隔の範囲内で前記詳細波形を推定する請求項6乃至請求項9のいずれかに記載の量子化ビット拡張装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−180479(P2011−180479A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46209(P2010−46209)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】