説明

金ナノコロイド水による好中球の機能制限方法、好中球の機能制限用金ナノコロイド水、金ナノコロイド水を用いた飲料及び食品

【課題】好中球による活性酸素種の産生を抑え、好中球の機能を制限する方法、該好中球機能制限用の剤、及びその剤を用いた飲料及び食品の提供。
【解決手段】好中球に金ナノコロイド水を接触させることによる好中球機能を制限する方法、該好中球機能制限用の金ナノコロイド水、及びその剤を用いた飲料及び食品。該金ナノコロイド水は、高圧放電発生装置の電極の一方を金電極とし、他方の電極との間で水中においてプラズマ放電することによって金イオン蒸気を発生させ、生じた金イオン蒸気を水と接触せしめ、超微分散することにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は好中球の機能の発現を抑制するための剤、その使用方法、及びその剤を用いた飲料及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜3に記載されているように、金ナノコロイド水を飲料水とすることは知られており、このような金ナノコロイド水は健康の向上のために良い飲料である。しかしながら、金ナノコロイド水の生体内での活動のメカニズムは解明されていない。このため、まずは人工的に作られた環境の中で金ナノコロイド水の作用のメカニズムを確認する必要があった。
【0003】
また、白血球の一種である好中球は、食細胞として走化性因子の濃度勾配を検知して局所に集積する機能を有するが、スーパーオキシド(O2-)、ヒドロキシルラジカル(・OH)、過酸化水素等の活性酸素種、血小板活性化因子、サイトカインからなる物質を産生する。
【0004】
非特許文献1及び2に記載されているように、好中球がフォルボールエステル(PMA)や貧食作用を起こすオプソニン化ザイモザン(OZ)で刺激したり、貧食により酸素を消費すると、膜のNADPH酸化酵素系が活性化されてO2-を生じる。さらに生体内にて、ロイコトリエン、血小板活性化因子、補体成分、抗原抗体複合物等により好中球等の食細胞から活性酸素が発生する。非特許文献3に記載されているように、L012の化学発光によって好中球から産生される活性酸素を検知する方法が知られている。
【0005】
ここで、生体内における好中球の役割は、細菌等の異物の食作用による感染防御にあるが、好中球の食作用による組織障害が各種疾患との関連で注目される。活性化された好中球により発生したスーパーオキシド(O2-)をはじめとする活性酸素種は、血管内皮細胞障害、組織障害を引き起こす。
【0006】
スーパーオキシド(O2-)がこのような障害を引き起こすメカニズムは、スーパーオキシド(O2-)が自発的もしくはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の存在下に過酸化水素へ還元され、これが好中球内のアズール顆粒の放出によりもたらされたミエロペルオキシターゼと塩素イオンの存在下で次亜塩素酸が生じ、これが生体内の分子種と反応して障害をもたらすとされている。
【0007】
このため、発生した活性酸素を除去する手段として、ビタミンCやE等の還元剤の添加が知られているが、この手段は発生した活性酸素を除去するのであって、活性酸素の発生自体を防止する手段ではない。また、上記SODは in vitro では活性酸素を有効に消去できるものの、in vivo において、また、いくつかの理由によりヒトには使用できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3686803号公報
【特許文献2】特許第4102194号公報
【特許文献3】特許第4154333号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Chemico-Biological Interactions 147(2004)35-47
【非特許文献2】internalmedicine.45.1491
【非特許文献3】Analytical Biochemistry 271,53-58(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、好中球に刺激を与えたり、好中球の貧食作用により活性酸素が産生されると、血管内皮細胞障害、組織障害等を引き起こす。
これらの障害を起こさないためには、上記のように既に発生した活性酸素を除去する手段を採用してもよいが、より根本的な対策としては好中球による活性酸素種の産生自体を抑制させることである。
しかしながら、in vitro において、好中球による活性酸素種の産生を抑える物質は知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、好中球に金ナノコロイド水を接触させることによる好中球機能の制限方法、及びその方法に用いる好中球機能制限用の金ナノコロイド水、さらに、該金ナノコロイド水が高圧放電発生装置の電極の一方を金電極とし、他方の電極との間で水中においてプラズマ放電することによって金イオン蒸気を発生させ、生じた金イオン蒸気を水と接触せしめ、超微分散することにより得たものであり、これにより上記の課題を解決する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、in vitro ではあるものの、好中球による活性酸素種の産生を抑制することができた。
ただし、in vitro では好中球と刺激剤と金の3者しか存在しないが、in vivo では白血球を呼び寄せる因子(ケモカイン)、走化性因子、遊走因子など他の細胞や場があるので、金がどこに効果を示すのかは不明である。つまり、in vitro において活性酸素の産生を抑制できても、現在のところ、その結果を基にin vivo の系においても同様の結果を得ることができるとまではいえない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】金ナノコロイド水を得る工程の概略を示すフローチャート
【図2】金ナノコロイド水製造装置
【図3】蒸留水を使用した金ナノコロイド水の金の分析結果
【図4】分離したヒトの好中球をPMAで刺激し、産生する活性酸素をL012とMCLAによる化学発光で検出して求めた抑制率の、濃度を変えて添加した金ナノコロイド水の金の濃度に対するグラフ
【図5】分離したヒト血液をPMAで刺激し、産生する活性酸素をL012とMCLAによる化学発光で検出して求めた抑制率の、濃度を変えて添加した金ナノコロイド水の金の濃度に対するグラフ
【図6】分離したヒトの好中球をOZで刺激し、産生する活性酸素をL012とMCLAによる化学発光で検出して求めた抑制率の、濃度を変えて添加した金ナノコロイド水の金の濃度に対するグラフ
【図7】分離したヒト血液をOZで刺激し、産生する活性酸素をL012とMCLAによる化学発光で検出して求めた抑制率の、濃度を変えて添加した金ナノコロイド水の金の濃度に対するグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における金ナノコロイド水とは、金粉又は金箔が単に水に浮遊した状態のものとは異なって、金の通常の微粒子の粒径からさらに細分化したミクロンオーダーで1〜2桁程度の、非常に微細の金の超微粒子が、水に超微分散した状態になった水のことを意味し、単に金箔又は金の微粒子が浮遊した水に比べて長期間沈殿することがなく、好中球の機能を制限するものであり、物性的には通常の水と同様に生体への安全性も確保し得る。
【0015】
本発明における好中球機能制限用の金ナノコロイド水は、基本的には水中で高圧放電発生装置の電極の一方を金の電極として他方の電極との間で水中におけるプラズマ水中放電により生じた金イオン蒸気が水と接触し、超微分散する方法により得られ、その概要は図1に示される。
具体的には、収容タンク内に水を連続的又は間欠的に注入し、水中で金から形成された電極と対極との間でプラズマ放電することにより金電極が高温加熱されて金蒸気を作り、生じた金イオン蒸気が水と瞬間的に接触し、超微分散し、水中に分散する。このときにミクロンからナノスケールの非常に細かい金の超微粒子が生成され、超微分散した状態とする。
【0016】
その際、水収容タンク内で高圧放電発生装置の金電極とその対極を振動又は摺動させることにより金電極の溶着を防ぎ、瞬間的アークを発生させるため超微分散量の制御が簡単に行える。この際、金電極は超微粒子として消耗されるので、棒状又は線状の電極として提供される。また、カーボン等の対極の径及び長さを変えることにより容易に回路に流れる電流量を変更することができるため電源の選択の必要性が無くなる。
【0017】
製造された好中球機能制限用の金ナノコロイド水は、排出ポンプにより排出口から出て、ろ過することなくそのまま利用することができるし、またその用途によりフィルターなどでろ過することにより、超微粒子より大きめの微量の金微粒子が除去され、超微粒子のみが超微分散した超微分散水が得られる。フィルターで残渣となるような金微粒子は適宜逆洗により回収し、再使用することにより経済性を改善する。
【0018】
本発明における金ナノコロイド水の製造に用いる装置は専ら図2に示す以下の装置を使用する。但し、この装置に限定されるものではない。
本発明における金ナノコロイド水の製造装置は、高圧・高電流放電用電源2、金電極6と対極7を備えた高圧放電発生装置1、水収容タンク3、水収容タンクへの水供給口8と生成した金ナノコロイド水の排出口9と排出ポンプ10を備えた、金ナノコロイド水を製造する装置である。付設するものとして、高圧放電発生装置の電極対を供給する電極供給装置4及び電極を振動又は摺動させる電極振動又は摺動装置5、得られた金ナノコロイド水の濾過装置11が設置される。
【0019】
金ナノコロイド水の製造容器は、金属製、好ましくはスチール製の水収容タンク3であり、水が供給口8より供給され、高圧放電発生装置1の金電極6と対極7は水中に浸漬した状態になっている。この状態で電極間に通電することにより、プラズマ放電して金電極から金が瞬時にイオン化し、水中に超微分散して、水中に金ナノコロイド水が製造される。
【0020】
この金電極と対極間で水中でのプラズマ放電させる際に、両極を振動又は摺動することにより電極の溶着を防ぎ、瞬間的アークを発生させるため超微分散量の制御が簡単に行える。
得られた金ナノコロイド水は、そのまま利用してもよいし、排出ポンプ10にて濾過装置11を通過し、製品12として送出される。フィルターとしては、超微粒子のみをろ過させるために、イオン交換膜や逆浸透膜よりも、中空糸膜のミクロンオーダーのものが好適に使用される。
【0021】
なお、製造スケールを大きくしても、パルス状にプラズマ放電することによりほぼ連続的に金ナノコロイド水を製造することができるため、装置をコンパクトにすることができ、効率的な製造法といえる。このように簡単な装置により過度の耐圧を要しないことから安全性も優れている。
【0022】
本装置においては、生成した金ナノコロイド水の中の粒径の比較的大きな金微粒子を除去する必要のあるときには、濾過装置11を付設することが好適である。
生成水の精製は、上述のように中空糸膜のミクロンオーダーのものを配設した濾過装置11により行なわれ、飲料水及び食品用としては適宜、生成した金の微粒子をろ過すればよい。
【0023】
ろ過することにより、食品衛生規格にも合致した飲料や食品のための水に合致した金ナノコロイド水を得ることもできる。中空糸膜フィルターによるろ過は、一例として、先ず生成液が反応タンクより排出された場所に50μm、次に25μm、3μm、0.5μm、0.1μmの中空糸膜で順次にろ過を行なう。フィルターでろ過された金微粒子は、逆洗により回収し、再使用して経済性に寄与させる。
金ナノコロイド水を飲水に添加してビーグル犬に26週間反復経口投与して毒性を検討した。そして、投与期間中において死亡発現はなく、一般状態及び摂餌量とも対照群との間に差がなかった。体重は異常推移せず、尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査、剖検、器官重量、病理組織学的検査では、異常はみられない、正常範囲内の値、あるいは用量相関した変化ではなく、安全性において問題なしとの結果を得た。
【0024】
金ナノコロイド水を第三者機関(財団法人・日本食品分析センタ−)に分析依頼した結果を図3に示す。
なお、図3は、水として蒸留水を使用した金の含有量を示すものである。
実施例に基づき、図面に沿って、本発明の実施の態様を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
[実施例]
1.金ナノコロイド水の製造。
図2の200Lの水収容タンク3、及び金電極6と対極7を備えた高圧放電発生装置1を備えた、金ナノコロイド水を製造する方法を実施する装置を用いる。
金電極としては金の棒を用い、対極には同種の金属又はカーボンを使用し、1時間通電する。また、電極は、固定した板状のものでも良いし、補助装置によって棒状又は線状のものを順次補充するように押し出すようにしてもよい。いずれにしろ、両電極は、電極振動又は摺動装置5により電極が振動又は摺動されるようにし、高圧放電発生装置1に通電して金電極と対極の間で水中プラズマ放電が行われる。
【0026】
製造容器は金属製の、好ましくはスチール製耐圧の水収容タンク3であり、水が供給口8より供給され、電極間のプラズマ放電により金電極から生じた金イオン蒸気は、水と瞬時に接触せしめられることにより、超微分散し、水中に金の超微粒子が超微分散した超微分散水が製造される。
生成した金の超微分散水は、適宜、ポンプ10にて濾過装置11を経て、金ナノコロイド水である製品12として送出される。濾過装置としては、50μm、次に25μm、3μm、0.5μm、0.1μmの中空糸膜で順次にろ過を行なう装置を採用した。
【0027】
2.in vitro における金ナノコロイド水の好中球による活性酸素の産生抑制作用。
実験方法
金ナノコロイド水の活性酸素除去機能(スーパーオキシダーゼのような活動)
活性酸素に対する金ナノコロイド水の影響を解明するために、SOD Assey Kit−WST(活性酸素除去機能を測定できる試薬)を使用して計測した。
【0028】
好中球からの活性酸素生産における金ナノコロイド水の影響
金ナノコロイド水中の血中好中球から生産される活性酸素を計測するために、化学発光法を採用してALOKA AccuFlex Lumi 400により発光強度を測定した。ヒト血液中における好中球と単独分離させた好中球の相対的な発光強度の変化について、金ナノコロイド水中に蛍光させる素材として、L012(200μm)及びMCLA(1μm)を使用して計測した。好中球より活性酸素を生産するために、フォルボールエステル(400ng/ml)と貧食作用を起こすオプソニン化ザイモザン(0.2mg/ml)とを刺激剤として使用した。
【0029】
図4及び5のグラフに示されているように、金ナノコロイド水の金の濃度を変えて好中球に加え、PMAで刺激することにより活性酸素を産生させた。その活性酸素をL012やMCLAによる化学発光により検知した。
金の濃度が5ppmを超える濃度で血中内の好中球並びに単独分離された好中球の両方から好中球の活性酸素生産機能を優位に抑制した。さらに、これらのグラフのINH(抑制率)の値から明らかなように、30ppmで活性酸素の産生量が50%に抑制され、IC50が30ppmであることが判明した。
図4及び5のグラフの実験において、PMAによる刺激に代えてOZによる刺激を行った結果を図6及び7のグラフに示す。
図6及び7のグラフからも、図4及び5に示すグラフと同様の傾向が確認され、IC50が25ppm程度であることが確認された。
【0030】
これらの結果は、金ナノコロイド水自体は抗酸化作用を持っていないが、生体内の血液中の好中球からの活性酸素生産を抑制することが理解できる。
【符号の説明】
【0031】
1; 高圧放電発生装置
2; 高圧・高電流放電用電源
3; 水収容タンク
4; 電極供給装置
5; 電極振動又は摺動装置
6; 金電極
7; 対極
8; 水収容タンクへの水供給口
9; 金ナノコロイド水排出口
10;金ナノコロイド水排出ポンプ
11;濾過装置
12;製品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好中球に金ナノコロイド水を接触させることによる好中球機能の制限方法。
【請求項2】
請求項1記載の発明の方法に用いる好中球機能制限用の金ナノコロイド水。
【請求項3】
高圧放電発生装置の電極の一方を金電極とし、他方の電極との間で水中においてプラズマ放電することによって金イオン蒸気を発生させ、生じた金イオン蒸気を水と接触せしめ、超微分散することにより得られることを特徴とする請求項2記載の好中球機能制限用の金ナノコロイド水。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の金ナノコロイド水を含有してなる飲料。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の金ナノコロイド水を含有してなる食品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−111442(P2011−111442A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272301(P2009−272301)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(509349141)京都府公立大学法人 (19)
【Fターム(参考)】