金型、その製造方法、金型を用いた樹脂成形体の製造方法並びにその製造方法によって製造された樹脂成形体
【課題】プラスチック成形体に撥水性を付与する金型を提供する。
【解決手段】樹脂成形体の表面に撥水性領域を形成する金型10であって、金型本体部11と、この金型本体部11の内周面の少なくとも一部に形成されたメッキ部12と、を備え、メッキ部12は樹脂材が当接する接触面側に微細周期構造20を有し、微細周期構造20はV字型の凹部が隙間無く連なる鋸歯状の断面に形成されており、凹部は樹脂材が収容される型内側へ向けて拡開しており、凹部の両肩間の寸法は1.0μm以上で、且つ、100μm未満である。
【解決手段】樹脂成形体の表面に撥水性領域を形成する金型10であって、金型本体部11と、この金型本体部11の内周面の少なくとも一部に形成されたメッキ部12と、を備え、メッキ部12は樹脂材が当接する接触面側に微細周期構造20を有し、微細周期構造20はV字型の凹部が隙間無く連なる鋸歯状の断面に形成されており、凹部は樹脂材が収容される型内側へ向けて拡開しており、凹部の両肩間の寸法は1.0μm以上で、且つ、100μm未満である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形体などの樹脂成形体を成形するための金型に係り、特に樹脂成形体の表面の所望部位に撥水性を付与し得る金型とその製造方法、この金型を用いた樹脂成形体の製造方法並びにその製造方法によって製造された樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場では、医療従事者への感染症の防止や、診断現場での利便性の観点等から、使い捨て式のプラスチック製医療用具を使用する要望が高く、例えばキット製品と呼ばれる試薬が一体化された複数のプラスチック部品からなる製品は年々使用量が増している。
【0003】
血液検査では、マイクロ流路を備えたプラスチック製検査チップが多用され、患者の負担や肉体的苦痛を低減するために、採血量を1μL以下とする低侵襲化が進んでいる。分析技術の向上のためには、採取した極微量なサンプルを分析部へ無駄なく送る輸送技術が必須である。このために、血液及びそれに含まれるタンパクのマイクロ流路などのプラスチック製用具への付着、停留や拡散を防ぐことが重要であり、これにはマイクロ流路における親水性・撥水性の制御が極めて効果的である。例えばマイクロ流路の所望の部分に意図的に撥水性を付与できれば、サンプルを確実に送ることができる。
【0004】
撥水性とは、液体が持つ「形を容易に変えられる」性質の1形態であり、所謂「濡れ」と呼ばれる固体表面への液体の付着しやすさを示す。撥水性を、客観的且つ定量的に表すには、接触角が用いられることが多く、これは静的な撥水性を示す。
接触角とは、固体が液面と接している点において、図12に示すように液体表面の接線と固体表面とが成す角のうち液体を含む側の角度θである。
親水性 : θ<90°
撥水性 : 90°<θ<150°
超撥水性: 150≦θ≦180°
【0005】
これまで、撥水性はフッ素樹脂などの撥水性高分子を塗布して「化学的」に製品表面に付与されてきたが、コーティング層の剥離等の問題があり医療用具への応用は難しい。
【0006】
表面の微細構造に起因する撥水性による清浄効果が、従来、ロータス効果として知られている。
非特許文献1では、ロータス効果を発現させるには、以下にあげる物理的条件(1)〜(3)を同時に満足させる必要があることを、実験的に報告している。
(1)周期的な凹凸の構造を有すること。
(2)凹凸のピッチは5〜20μm程度のサイズであること。
(3)図13に示すように、溝幅(a)と突起幅(b)のアスペクト比(a/b)が2以下であること。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Reiner Furstner and Wilhelm Barthlott,"Wetting and Self-Cleaning Properties of Artificial Superhydrophobic Surfaces",Langmuir 2005, 21, 956-961, Furstner & Barthlott, Langmuir, 21, 2005
【非特許文献2】Solga A, Cerman Z, Striffler BF, Spaeth M, Barthlott W: The dream of staying clean: Lotus and biomimetic surfaces, Bioinspir Biomim, 2(4), S126-S134, 2007
【非特許文献3】河合 知彦、蛯原 建三、山本 明、小田 隆之、酒井田 康宏、見波 弘志、大木 武、中村 文信、矢羽多 和義:超精密加工機の開発,日本機械学会論文集C (2004) 2723-2729
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ロータス効果の産業応用はすでに始まっているが、ミクロンサイズの微粒子を対象物の面に塗布する方法が主流である。
また、微細構造を形成するための対象物の加工方法としては、研磨材の粒子を圧縮空気で表面に吹き付けるブラスト加工が知られているが、対象物の表面に規則正しい周期構造を形成するのは不可能である。波長800−1200nmのフェムト秒レーザーによる表面加工は、凹凸の周期がレーザーの波長によって制限されるため5−20μmという比較的粗い処理には向いていない。
【0009】
非特許文献1には撥水性を発現させるための条件(1)〜(3)が開示されているが、近年使用量が増加しているプラスチック製医療用具などのプラスチック成形体に撥水性を付与させる手法については、非特許文献1は何ら開示していない。つまり、プラスチック成形体のように型に樹脂を流し込んで製造される成形体については、金型から転写された成形体が撥水性を備えるよう金型を工夫する必要がある。
【0010】
本発明は以上の点に鑑みて創作されたもので、プラスチック成形体に撥水性を付与する金型、その製造方法、金型を用いた樹脂成形体の製造方法並びにその製造方法によって製造された樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の第1の構成は、樹脂成形体の表面に撥水性領域を形成する金型であって、金型本体部と、この金型本体部の内周面の少なくとも一部に形成されたメッキ部と、を備え、メッキ部は、樹脂材が当接する接触面側に微細周期構造を有し、微細周期構造はV字型の凹部が隙間無く連なる鋸歯状の断面に形成されていて、凹部は樹脂材が収容される型内側へ向けて拡開しており、凹部の両肩間の寸法が、1.0μm以上であり、且つ、100μm未満であることを特徴としている。
【0012】
本発明の金型において、微細周期構造は複数の角錐体から構成されている。角錐体としては、例えば四角錐、三角錐、六角錐などを利用できる。
【0013】
本発明の金型において、微細周期構造はメッキ部に形成された複数の溝部から構成されており、溝部は、V字型断面に形成されていると共に、少なくとも下記(A1)〜(A2)の何れかを有する。
(A1)一方向に延びた直線部。
(A2)延出方向が次第に曲がるように延びたカーブ部。
【0014】
上記目的を達成するための本発明の第2の構成は、樹脂成形体の表面に撥水性領域を形成する金型であって、金型本体部とこの金型本体部の内周面の少なくとも一部に形成されたメッキ部とを備え、メッキ部は樹脂材が当接する接触面側に微細周期構造を有し、微細周期構造は、同じ形状の複数の四角錐が金型表面で当該表面に沿った第1の軸方向とこの第1の軸方向に交差し当該表面に沿った第2の軸方向に整列して形成され、隣接する四角錐の頂点同士の間隔が1.0μm以上であり、且つ、100μm未満であることを特徴としている。
【0015】
本発明の金型において、第1の軸方向に沿った四角錐の頂点同士の間隔である第1ピッチと第2の軸方向に沿った四角錐の頂点同士の間隔である第2ピッチとが、以下の(B1)〜(B3)の何れかに選定され、第1の軸方向と第2の軸方向とが成す角度αが以下の(C1)〜(C2)の何れかに選定されている。
(B1)第1ピッチ=第2ピッチ
(B2)第1ピッチ>第2ピッチ
(B3)第1ピッチ<第2ピッチ
(C1)α=90°
(C2)α≠90°
【0016】
上記目的を達成するための本発明の第3の構成は、金型の製造方法であって、被加工物の被加工面にメッキ部を形成する第1工程と、メッキ部の上面を平坦にする第2工程と、第2工程で平坦処理した表面を切削して微細周期構造を形成する第3工程と、を含むことを特徴としている。
この金型の製造方法において、好ましくは、さらにメッキ部を熱処理する第4工程を含む。
【0017】
上記目的を達成するための本発明の第4の構成は、前記金型を用いて樹脂成形体を製造する成形体の製造方法である。
上記目的を達成するための本発明の第5の構成は、前記製造方法によって製造された、樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、射出成形加工によりプラスチック成形体を製造することができ、例えば熱可塑性樹脂で成る材料を加温して軟化させ、金型に押し込み、冷して固化させる。これにより、プラスチック成形体の表面に撥水領域を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る金型の一部の表面を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った金型の断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る金型の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る金型の表面の概略平面図である。
【図5】本発明の第2実施形態の変形例に係る金型の表面の概略平面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る金型の一部の表面を示す平面図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係る金型の一部の表面を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施形態に係る試料の表面の平面写真像である。
【図9】各試料の表面粗さの測定結果を示す図である。
【図10】各試料と樹脂成形品の接触角を示す図である。
【図11】(A)及び(B)は本発明の実施例に係るイムノセンサを示す図である。
【図12】撥水性を説明するための図である。
【図13】ロータス効果を発現させるための凹凸構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、必要箇所では図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
[第1実施形態]
図1は本発明の第1実施形態に係る金型10の一部の表面を示す平面図である。この金型10は、プラスチック成形体の少なくとも一部の表面に撥水性領域を成形するための金型である。撥水性領域をプラスチック成形体に形成するために、金型10は図1に示すように型の内面10Aの少なくとも一部に微細周期構造20を備えている。図2は図1のA−A線に沿った金型10の断面図である。
【0022】
金型10は、図2に示すように、金型本体部11と、金型本体部11の内面上に設けられたメッキ部12と、から構成されている。
微細周期構造20は、メッキ部12を加工して形成されており、複数の微細構造物である角錐体を有する。各角錐体は同じ形状に形成されており、本実施形態では角錐体は一つの辺が数十μmオーダーのサイズに選定された四角錐21に形成されている。
【0023】
各四角錐21は整列して金型表面に形成されている。具体的には、隣接する四角錐21はその底部を形成する辺(以下、底辺と呼ぶ場合がある。)を共通にして形成されており、さらに隣接する四角錐21間の底辺が直線状に連なるよう各四角錐21は例えば第1の軸方向であるX方向(図1参照)及び第2の軸方向であるY方向(図1参照)に沿ってそれぞれ直線状に並ぶように位置を揃えて形成されている。X方向とY方向とが成す角度αは、本実施形態では90°に選定されている。図示例の四角錐21は正四角錐に形成されている。本実施形態では、図2に示すように、微細周期構造20はV字型の凹部22が隙間無く連なる鋸歯状の断面に形成されている。この鋸歯状の断面がX方向及びY方向に複数、詳しくは後述のピッチPX,PYの間隔で形成されている。図2に示すように、凹部22は、底部21Bとその両横側であり且つ上側にある肩部としての一対の頂部21Aとをそれぞれ通る面によってV字型に形成されている。
図1において、実線は底部21Bから頂部21Aへ延びる稜線を、破線は底部21Bの線を、一点鎖線は肩部の線を表している。
【0024】
本実施形態では、隣接する四角錐21の頂部21Aの間隔であるピッチL(図2)が1.0μm≦L<100μmに設定されている。ピッチLが小さすぎると、その金型を用いたプラスチック成形体では接触角が低下して撥水性を発揮することはできない。これはピッチLが0.8μmより小さいと金型内面に形成された微細な構造が成す形状がプラスチック成形体へ十分に転写されないことに拠ると考えられる。これに対して、ピッチLが1.0μmである場合、プラスチック成形体に微細周期構造20を転写できた。また、ピッチLが100μmより大きいと、接触角が0°〜90°の範囲内になり、親水性を呈することになる。なお、このように、ピッチが100μmより大きいと親水性を呈することは、従来から知られている(非特許文献1,2)。なお、図1では、X方向のピッチをPXと表しており、Y方向のピッチをPYと表しており、本実施形態では、PXとPYとは同じ寸法に設定されている。
また、各四角錐21の高さであると共に凹部22の深さをdとして、このdはピッチLと同様に数十マイクロメートルオーダーに選定される。
このような微細周期構造20が形成されるメッキ部12としては、ニッケル皮膜、銅皮膜を利用することができる(非特許文献3)。本実施形態において、メッキ部12は、例えば無電解メッキで形成することができる。また、メッキ部12の結晶はアモルファスである。
【0025】
金型本体部11の形成材料としては、通常使用されているものであれば特に限定されるものではなく、ダイス鋼、粉末ハイス鋼、超硬合金等を利用することができる。
【0026】
本実施形態の金型10の製造方法について図3のフローチャートを用いて説明する。
例えば、プラスチック成形体の表面の一部に撥水性を付与したい場合に、当該プラスチック成形体を射出成形するときに利用していた金型を金型本体部11(以下、被加工物と呼ぶ。)として準備する(ステップS1)。
撥水性を付与させたいプラスチック成形体の表面部分に対応して、被加工物の被加工面の一部に、具体的には金型の内周面の一部に、メッキ部12を形成する(ステップS2)。例えば、被加工物の被加工面に無電解(Ni−P)メッキでニッケル皮膜を厚さ100μm程析出させる。皮膜の厚さは例えば数十μm〜数百μmでよい。
次に、平板溝加工機を用いてメッキ部の上面を平坦にする(ステップS3)。例えばニッケル皮膜を切削加工して平面度十nmオーダーの平坦化処理を行う。
平板溝加工機は、切削加工機の一種で、工具は刃先が鋭利で凹凸が少ない単結晶ダイアモンドを用い、2次元平面上に溝加工を施すのに用いる装置である。加工方法は、回転工具を用いるミリング加工が主である。10μmオーダーの微細構造でも切削反力が微小なため、微小な工具を製作することで加工できる。
さらに、被加工物を固定したまま平板溝加工機のバイトを交換して被加工物を切削し、図1に示す微細周期構造20を形成する(ステップS4)。この場合、ダイヤモンドバイトで被加工物を加工する。
なお、平坦化したメッキ部12の表面に、例えば図1に示すようにX方向に延びる断面V字状の溝部を横並びに複数形成し、このX方向と角度αを成す方向へ延びる断面V字状の溝部を横並びに複数形成し、それらの溝部が交差することで複数の四角錐21が各ピッチLで形成される。このように、X方向及びY方向を総称して2軸方向と称し、2軸方向に溝部を形成する切削を「2軸切削加工」と呼ぶ。なお、後述する「2軸レーザー加工」とは、ここでは2軸方向にそれぞれ延びる溝部をレーザーで加工して形成する工法である。
【0027】
このように形成された金型10を利用して成形したプラスチック成形体には、金型10の微細周期構造20が転写されて、撥水性領域が形成される。この場合、プラスチック成形体の表面には、接触角θが90°以上の撥水性を発現させることができた。
【0028】
このように、本実施形態の金型10を利用して射出成形加工によりプラスチック成形体を製造することができる。例えば熱可塑性樹脂で成る材料を加温して軟化させて金型に押し込み、さらに冷して固化させる。これにより、プラスチック成形体の表面に撥水性を有する領域を形成することができる。
【0029】
非特許文献1によれば、金属の被加工面に撥水性を付与するために5〜20μmピッチで金属の被加工面に、図13に示す断面矩形型の凹部210と断面矩形型の凸部220とを規則的に形成する必要があるが、実際に数μmオーダーの加工を施すには金属の被加工面はそれよりも2桁ほど低い十nmオーダーの平面度や表面粗さとする被加工面の面出しの前処理が必要である。ところが、面出しと微細周期構造の加工を別の加工機で行ってしまうと、十nmオーダーの平面度の実現は不可能である。
これに対して、本実施形態の金型10の製造方法によれば、金型形成材料で成る被加工物を用意し、被加工物の被加工面にニッケル皮膜を形成し、このニッケル皮膜を加工するため、平坦処理した後に切削加工して微細構造を形成することができる。これは、金型本体部11に比べて、メッキ部12の粒子が細かいためにナノミクロンオーダーの加工が容易で、また硬さが硬いことに基づくものである。
【0030】
さらに、メッキ部12を加工して微細周期構造20を形成した後に、ニッケル皮膜のアモルファス構造を熱処理することで、ニッケル皮膜が結晶化して、耐摩耗性を向上させることができる。また、メッキ部12として無電解メッキを利用するとしても、プラスチック成形体の一部の表面に撥水効果を付与するよう金型表面の一部に無電解メッキ処理するだけなので、メッキ液による環境負荷は最小限に抑えることができる。
【0031】
[第2実施形態]
図4は本発明の第2実施形態に係る金型30の表面、特に微細周期構造20の概略平面図である。
この図に示すように、第2実施形態に係る金型30は、微細周期構造20を構成する各四角錐21が底面を長方形に形成された長方錐に形成されている。具体的には、図示例ではX方向のピッチPXがY方向のピッチPYよりも大きく設定されている。本実施形態では、第1実施形態と同様に、X方向とY方向とが成す角度αは、本実施形態では90°に選定されている。
このような金型30によって成形されたプラスチック成形体では、金型30の微細周期構造20が転写されてなる撥水性領域において、長方錐の底面の長辺が延びる方向、つまり図示例ではX方向側へ水滴が流れ易くなる。
【0032】
[第2実施形態の変形例]
図5は本発明の第2実施形態の変形例に係る金型40の表面、特に微細周期構造20の概略平面図である。
この図に示すように、本実施形態に係る金型40は、微細周期構造20を構成する各四角錐21の底面がひし形に形成されている。具体的には、図示例では、X方向のピッチPXとY方向のピッチPYとが同じ寸法に選定されているが、本実施形態では、前述の実施形態と異なり、X方向とY方向とが成す角度αが90°より大きい角度に選定されている。
このような金型40によって成形されたプラスチック成形体では、金型40の微細周期構造20が転写されてなる撥水性領域において、ひし形の長い対角線(図中の破線41)が延びる方向へ水滴が流れ易くなる。
その他の応用例として、各四角錐21の底面をひし形に代えて、PX≠PY且つ角度α≠90°(但し、α≠0,180)として平行四辺形に形成してもよい。
このように、四角錐の底面を成す第1の辺とこの第1の辺に繋がっていると共に第1の辺と角度αを成す第2の辺を規定するX方向のピッチPXとY方向のピッチPYと角度αを変えることで、プラスチック成形体の表面についた水滴が流れる方向を制御することができる。
【0033】
[第3実施形態]
図6は本発明の第3実施形態に係る金型50の一部の表面を示す平面図である。この金型50は、第1実施形態に係る金型10と同様に、金型本体部11とメッキ部12とから構成されており、微細周期構造20がメッキ部12を加工して形成されている。本実施形態の微細周期構造20では複数の微細構造物である角錐体が三角錐25に形成されている。各三角錐25は同じ形状に形成されており、本実施形態では、一つの辺が数十μmオーダーの寸法サイズに選定されている。
【0034】
各三角錐25は整列して金型表面に形成されている。具体的には、隣接する三角錐25はその底部を形成する底辺を共通にして形成されており、さらに隣接する三角錐25の底辺が直線状に連なるよう各三角錐25は例えば第1の軸方向であるX方向(図6参照)と第2の軸方向であるY方向(図6参照)と第3の軸方向であるZ方向(図6参照)に沿ってそれぞれ直線状に並ぶように位置を揃えて形成されている。各方向同士が成す角度α1,α2は、本実施形態では60°に選定されている。図示例の三角錐25は正三角錐に形成されている。本実施形態の微細周期構造20は、第1実施形態と同様に、V字型の凹部22が隙間無く連なる鋸歯状(第1実施形態と形状は異なる)の断面に形成されている。この鋸歯状の断面がX方向、Y方向及びZ方向に複数、詳しくは所定のピッチ間隔で形成されている。図6において、実線が凹部22の底部21Bから頂部21Aへ延びる稜線、破線が底部21Bの線を表している。
本実施形態でも、隣接する三角錐25の頂部21Aの間隔をピッチLとして、このピッチLが、1.0μm≦L<100μmに設定されている。
【0035】
このように形成された金型50を利用して成形したプラスチック成形体には、金型50の微細周期構造20が転写されて、撥水性領域が形成される。
【0036】
[第4実施形態]
図7は本発明の第4実施形態に係る金型60の一部の表面を示す斜視図である。この金型60は、第1実施形態に係る金型10と同様に、金型本体部11とメッキ部12とから構成されている。本実施形態の微細周期構造20はメッキ部12に形成された複数の溝部27から構成されている。各溝部27はV字型断面に形成されている。溝部27は樹脂材が収容される型内側へ向けて拡開しており、溝の両肩間の寸法が、1.0μm以上で、且つ、100μm未満に設定されている。これらの溝部27は、互いに隣接しており、V字型の溝肩27Aを共通にしている。
このように、本実施形態の微細周期構造20も、前述の実施形態と同様に、V字型の凹部22が隙間無く連なる鋸歯状の断面に形成されている。
図示例の溝部27はその全長に亘って一方向(図7中のD1方向)に延びた直線部として形成されている。
【0037】
このように形成された金型60を利用して成形したプラスチック成形体には、金型60の微細周期構造20が転写されて、撥水性領域が形成される。
【0038】
次に、実験例について説明する。
実験目的:金型から転写したプラスチック成形体の撥水性評価
実験条件:
金型・・・金型に使用される鋼材としてダイス鋼(SKD11)を用意した。この評価対象となる金型を利用して、以下の4つのサンプルを用意した。
試料1:金型そのもの(所謂、母材としてSKD11相当品)
試料2:表面にブラスト加工を施し非周期構造を有する金型
試料3:表面に2軸レーザー加工を施し微細周期構造を有する金型
試料4:表面に2軸切削加工を施し微細周期構造を有する金型
ここで、試料4は、本発明の実施形態の金型に相当するものであり、ダイス鋼(SKD11)上に無電解めっき処理を施してメッキ部を形成し、このメッキ部の上面を平坦化処理し、さらに平坦な表面71に同じ方向に沿って断面V字型の溝加工を2軸方向に行って微細周期構造20を形成した。図8は試料4の表面の平面写真像である。この2軸切削加工によって表面71に、微細周期構造20、つまり複数の四角錐72が隣接して形成された。
樹脂材料・・・100%ポリ酸(ユニチカ株式会社製、「テラマック」,TE−2000)
成形機・・・40tonの成形機を用い、速度33%、圧力30%とした。
成形温度条件・・・材料メーカーでは金型温度10−30℃、シリンダー温度180−210℃を推奨している設定を、施行錯誤の結果、金型温度30℃、ノズル温度230℃、前部温度235℃、中央部温度230℃、後部温度225℃とした。
撥水性の評価法・・・接触角により静的撥水性を求めた。
接触角の測定・・・マイクロスコープ(VH−E500,キーエンス、×50)と画像解析ソフトウェア(Image J,オープンソースのフリーソフトウェア)を用いた。
その他・・・母材表面の表面粗さが接触角に与える影響を除くために、微細構造の加工前の母材表面は、中心線平均粗さRa=0.05μmに磨き加工したものを用いた。表面粗さの測定には、3次元表面粗さ計(sv−3000m4,株式会社ミツトヨ)を用いた。
【0039】
図9は各試料の表面粗さの測定結果を示し、図10は各試料1〜4の金型と樹脂成形品の接触角、つまり静的撥水性を示している。
接触角θの初期値は、試料1である金型鋼(SKD11相当品)で78.1°、試料1の表面にNi−Pめっきを施したもので52.0°であった。両者の差は、材質の表面自由エネルギーの影響と考えられる。試料2のブラスト加工による非周期構造では、Ra=0.21μmよりも粗い加工は困難であったが、接触角θが17.9°向上した。2軸レーザー加工によってピッチL=0.4〜0.8μmの周期構造を有する試料3では、接触角θが初期値より+57.4度、2軸切削加工によってピッチL=10μmの周期構造を有する試料4では、接触角θが初期値より+43.7°と大きく向上した。
さらに、試料3、試料4の微細周期構造を有する金型を転写したプラスチック成形体の撥水性について説明する。
先ず、図10に示すように、試料3の金型を用いたプラスチック成形体では、接触角θが金型自体の接触角θ(=135.5°)より44.6°低下して、90.9°であった。これは流動性の低いバイオマスプラスチックのため、微細周期構造が十分に転写されなかったことによると考えられた。このことから、微細周期構造20のピッチLは0.8μmよりも大きいことが望ましいことが理解できる。
一方、図10に示すように、試料4、つまり本発明の実施形態に係る金型を用いたプラスチック成形体では、接触角θが金型自体の接触角θ(=95.7°)より14.4°大きくなり、110.1°であった。本実施形態では、加工前と比べると58.1°向上した。
【0040】
この実験結果からも分かるように、本実施形態の金型を利用して、撥水性を有するプラスチック成形体を製造することができたことを確認できた。
【0041】
次に、本発明の金型を利用したプラスチック製品例について例示する。
[イムノセンサ]
イムノセンサは、マイクロ流路に1μLの血液サンプルを滴下すると、血球を分離した後に、電極上に固定化された抗体で被測定物質を補足し、電気化学反応によって血液サンプルを定量分析する。図11(A)に示すように、イムノセンサ100は、例えばマイクロ流路101と、血球分離膜102と、この血球分離膜102を支持するホルダー103と、電極部104と、電極部104を収容するハウジング105と、を備えている。
このイムノセンサ100では、マイクロ流路101と、ホルダー103と、電極部104のプラスチック部分や、ハウジング105の隔壁の内周面に血液が付着、停留することを防ぐ必要がある。この場合、既に試作済みの金型の所望の部分のみに本発明の微細周期構造20を追加工することで、これらの部材に撥水性を付与することができる。例えば撥水性が必要な部分に対応する入駒を金型に組み込んで、組込射出成形を行う。図11(A)中の斜線ハッチング部分が微細周期構造20を適用した部位であり、図11(B)中の△が微細周期構造20を成す四角錐21を模式的に表している。
このように、イムノセンサ100の各部品に微細周期構造20を適用して撥水性を付与することで、センサー感度の向上を図ることができる。
【0042】
[本発明のその他の使用例]
新たなバイオセンサや化学分析方法が従来から提案されているが、原理的に素晴らしくても、コスト的に見合わず、実際に使用されない場合が多い。
本発明によって、金型表面の微細周期構造20で、検査チップの所望の部位だけに超撥水性を付与することができる。従って、本発明は、医療検査チップの高精度化に大きく寄与し、今まで利用することができなかった分析機技術を実現させることも可能である。例えば、現在(0.1ng/mL)よりも一桁高感度な10pg/mLオーダーの高精度分析技術が実現されれば、ガン,肝炎,感染症などの早期診断・正確さの向上を図ることができ、様々な診断技術が一気に実用化へと進むことが期待できる。
さらに本発明は、医療検査チップだけでなく、他の医療製品や産業製品へ応用できることは勿論である。
【0043】
以上詳述したが、本発明は発明の趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施できる。
本発明は、医療用具に用途を限定されるものではなく、その他の産業用に利用されてもよいことは勿論である。
また、本発明の微細周期構造を構成する微細構造物は、四角錐21、三角錐25、溝部27に限らず、その他の六角錐などの角錐体であってもよい。溝部27はその全長の一部が直線部として形成され、或いは全長の一部の延出方向が次第に湾曲したにカーブ部(図7中で二点鎖線で示すD2方向)を有するように構成されてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0044】
10,30,40,50,60 金型
10A 金型の内面
11 金型本体部
12 メッキ部
20 微細周期構造
21 四角錐
21B 溝底
25 三角錐
27 溝部
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形体などの樹脂成形体を成形するための金型に係り、特に樹脂成形体の表面の所望部位に撥水性を付与し得る金型とその製造方法、この金型を用いた樹脂成形体の製造方法並びにその製造方法によって製造された樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場では、医療従事者への感染症の防止や、診断現場での利便性の観点等から、使い捨て式のプラスチック製医療用具を使用する要望が高く、例えばキット製品と呼ばれる試薬が一体化された複数のプラスチック部品からなる製品は年々使用量が増している。
【0003】
血液検査では、マイクロ流路を備えたプラスチック製検査チップが多用され、患者の負担や肉体的苦痛を低減するために、採血量を1μL以下とする低侵襲化が進んでいる。分析技術の向上のためには、採取した極微量なサンプルを分析部へ無駄なく送る輸送技術が必須である。このために、血液及びそれに含まれるタンパクのマイクロ流路などのプラスチック製用具への付着、停留や拡散を防ぐことが重要であり、これにはマイクロ流路における親水性・撥水性の制御が極めて効果的である。例えばマイクロ流路の所望の部分に意図的に撥水性を付与できれば、サンプルを確実に送ることができる。
【0004】
撥水性とは、液体が持つ「形を容易に変えられる」性質の1形態であり、所謂「濡れ」と呼ばれる固体表面への液体の付着しやすさを示す。撥水性を、客観的且つ定量的に表すには、接触角が用いられることが多く、これは静的な撥水性を示す。
接触角とは、固体が液面と接している点において、図12に示すように液体表面の接線と固体表面とが成す角のうち液体を含む側の角度θである。
親水性 : θ<90°
撥水性 : 90°<θ<150°
超撥水性: 150≦θ≦180°
【0005】
これまで、撥水性はフッ素樹脂などの撥水性高分子を塗布して「化学的」に製品表面に付与されてきたが、コーティング層の剥離等の問題があり医療用具への応用は難しい。
【0006】
表面の微細構造に起因する撥水性による清浄効果が、従来、ロータス効果として知られている。
非特許文献1では、ロータス効果を発現させるには、以下にあげる物理的条件(1)〜(3)を同時に満足させる必要があることを、実験的に報告している。
(1)周期的な凹凸の構造を有すること。
(2)凹凸のピッチは5〜20μm程度のサイズであること。
(3)図13に示すように、溝幅(a)と突起幅(b)のアスペクト比(a/b)が2以下であること。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Reiner Furstner and Wilhelm Barthlott,"Wetting and Self-Cleaning Properties of Artificial Superhydrophobic Surfaces",Langmuir 2005, 21, 956-961, Furstner & Barthlott, Langmuir, 21, 2005
【非特許文献2】Solga A, Cerman Z, Striffler BF, Spaeth M, Barthlott W: The dream of staying clean: Lotus and biomimetic surfaces, Bioinspir Biomim, 2(4), S126-S134, 2007
【非特許文献3】河合 知彦、蛯原 建三、山本 明、小田 隆之、酒井田 康宏、見波 弘志、大木 武、中村 文信、矢羽多 和義:超精密加工機の開発,日本機械学会論文集C (2004) 2723-2729
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ロータス効果の産業応用はすでに始まっているが、ミクロンサイズの微粒子を対象物の面に塗布する方法が主流である。
また、微細構造を形成するための対象物の加工方法としては、研磨材の粒子を圧縮空気で表面に吹き付けるブラスト加工が知られているが、対象物の表面に規則正しい周期構造を形成するのは不可能である。波長800−1200nmのフェムト秒レーザーによる表面加工は、凹凸の周期がレーザーの波長によって制限されるため5−20μmという比較的粗い処理には向いていない。
【0009】
非特許文献1には撥水性を発現させるための条件(1)〜(3)が開示されているが、近年使用量が増加しているプラスチック製医療用具などのプラスチック成形体に撥水性を付与させる手法については、非特許文献1は何ら開示していない。つまり、プラスチック成形体のように型に樹脂を流し込んで製造される成形体については、金型から転写された成形体が撥水性を備えるよう金型を工夫する必要がある。
【0010】
本発明は以上の点に鑑みて創作されたもので、プラスチック成形体に撥水性を付与する金型、その製造方法、金型を用いた樹脂成形体の製造方法並びにその製造方法によって製造された樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の第1の構成は、樹脂成形体の表面に撥水性領域を形成する金型であって、金型本体部と、この金型本体部の内周面の少なくとも一部に形成されたメッキ部と、を備え、メッキ部は、樹脂材が当接する接触面側に微細周期構造を有し、微細周期構造はV字型の凹部が隙間無く連なる鋸歯状の断面に形成されていて、凹部は樹脂材が収容される型内側へ向けて拡開しており、凹部の両肩間の寸法が、1.0μm以上であり、且つ、100μm未満であることを特徴としている。
【0012】
本発明の金型において、微細周期構造は複数の角錐体から構成されている。角錐体としては、例えば四角錐、三角錐、六角錐などを利用できる。
【0013】
本発明の金型において、微細周期構造はメッキ部に形成された複数の溝部から構成されており、溝部は、V字型断面に形成されていると共に、少なくとも下記(A1)〜(A2)の何れかを有する。
(A1)一方向に延びた直線部。
(A2)延出方向が次第に曲がるように延びたカーブ部。
【0014】
上記目的を達成するための本発明の第2の構成は、樹脂成形体の表面に撥水性領域を形成する金型であって、金型本体部とこの金型本体部の内周面の少なくとも一部に形成されたメッキ部とを備え、メッキ部は樹脂材が当接する接触面側に微細周期構造を有し、微細周期構造は、同じ形状の複数の四角錐が金型表面で当該表面に沿った第1の軸方向とこの第1の軸方向に交差し当該表面に沿った第2の軸方向に整列して形成され、隣接する四角錐の頂点同士の間隔が1.0μm以上であり、且つ、100μm未満であることを特徴としている。
【0015】
本発明の金型において、第1の軸方向に沿った四角錐の頂点同士の間隔である第1ピッチと第2の軸方向に沿った四角錐の頂点同士の間隔である第2ピッチとが、以下の(B1)〜(B3)の何れかに選定され、第1の軸方向と第2の軸方向とが成す角度αが以下の(C1)〜(C2)の何れかに選定されている。
(B1)第1ピッチ=第2ピッチ
(B2)第1ピッチ>第2ピッチ
(B3)第1ピッチ<第2ピッチ
(C1)α=90°
(C2)α≠90°
【0016】
上記目的を達成するための本発明の第3の構成は、金型の製造方法であって、被加工物の被加工面にメッキ部を形成する第1工程と、メッキ部の上面を平坦にする第2工程と、第2工程で平坦処理した表面を切削して微細周期構造を形成する第3工程と、を含むことを特徴としている。
この金型の製造方法において、好ましくは、さらにメッキ部を熱処理する第4工程を含む。
【0017】
上記目的を達成するための本発明の第4の構成は、前記金型を用いて樹脂成形体を製造する成形体の製造方法である。
上記目的を達成するための本発明の第5の構成は、前記製造方法によって製造された、樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、射出成形加工によりプラスチック成形体を製造することができ、例えば熱可塑性樹脂で成る材料を加温して軟化させ、金型に押し込み、冷して固化させる。これにより、プラスチック成形体の表面に撥水領域を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る金型の一部の表面を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った金型の断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る金型の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る金型の表面の概略平面図である。
【図5】本発明の第2実施形態の変形例に係る金型の表面の概略平面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る金型の一部の表面を示す平面図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係る金型の一部の表面を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施形態に係る試料の表面の平面写真像である。
【図9】各試料の表面粗さの測定結果を示す図である。
【図10】各試料と樹脂成形品の接触角を示す図である。
【図11】(A)及び(B)は本発明の実施例に係るイムノセンサを示す図である。
【図12】撥水性を説明するための図である。
【図13】ロータス効果を発現させるための凹凸構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、必要箇所では図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
[第1実施形態]
図1は本発明の第1実施形態に係る金型10の一部の表面を示す平面図である。この金型10は、プラスチック成形体の少なくとも一部の表面に撥水性領域を成形するための金型である。撥水性領域をプラスチック成形体に形成するために、金型10は図1に示すように型の内面10Aの少なくとも一部に微細周期構造20を備えている。図2は図1のA−A線に沿った金型10の断面図である。
【0022】
金型10は、図2に示すように、金型本体部11と、金型本体部11の内面上に設けられたメッキ部12と、から構成されている。
微細周期構造20は、メッキ部12を加工して形成されており、複数の微細構造物である角錐体を有する。各角錐体は同じ形状に形成されており、本実施形態では角錐体は一つの辺が数十μmオーダーのサイズに選定された四角錐21に形成されている。
【0023】
各四角錐21は整列して金型表面に形成されている。具体的には、隣接する四角錐21はその底部を形成する辺(以下、底辺と呼ぶ場合がある。)を共通にして形成されており、さらに隣接する四角錐21間の底辺が直線状に連なるよう各四角錐21は例えば第1の軸方向であるX方向(図1参照)及び第2の軸方向であるY方向(図1参照)に沿ってそれぞれ直線状に並ぶように位置を揃えて形成されている。X方向とY方向とが成す角度αは、本実施形態では90°に選定されている。図示例の四角錐21は正四角錐に形成されている。本実施形態では、図2に示すように、微細周期構造20はV字型の凹部22が隙間無く連なる鋸歯状の断面に形成されている。この鋸歯状の断面がX方向及びY方向に複数、詳しくは後述のピッチPX,PYの間隔で形成されている。図2に示すように、凹部22は、底部21Bとその両横側であり且つ上側にある肩部としての一対の頂部21Aとをそれぞれ通る面によってV字型に形成されている。
図1において、実線は底部21Bから頂部21Aへ延びる稜線を、破線は底部21Bの線を、一点鎖線は肩部の線を表している。
【0024】
本実施形態では、隣接する四角錐21の頂部21Aの間隔であるピッチL(図2)が1.0μm≦L<100μmに設定されている。ピッチLが小さすぎると、その金型を用いたプラスチック成形体では接触角が低下して撥水性を発揮することはできない。これはピッチLが0.8μmより小さいと金型内面に形成された微細な構造が成す形状がプラスチック成形体へ十分に転写されないことに拠ると考えられる。これに対して、ピッチLが1.0μmである場合、プラスチック成形体に微細周期構造20を転写できた。また、ピッチLが100μmより大きいと、接触角が0°〜90°の範囲内になり、親水性を呈することになる。なお、このように、ピッチが100μmより大きいと親水性を呈することは、従来から知られている(非特許文献1,2)。なお、図1では、X方向のピッチをPXと表しており、Y方向のピッチをPYと表しており、本実施形態では、PXとPYとは同じ寸法に設定されている。
また、各四角錐21の高さであると共に凹部22の深さをdとして、このdはピッチLと同様に数十マイクロメートルオーダーに選定される。
このような微細周期構造20が形成されるメッキ部12としては、ニッケル皮膜、銅皮膜を利用することができる(非特許文献3)。本実施形態において、メッキ部12は、例えば無電解メッキで形成することができる。また、メッキ部12の結晶はアモルファスである。
【0025】
金型本体部11の形成材料としては、通常使用されているものであれば特に限定されるものではなく、ダイス鋼、粉末ハイス鋼、超硬合金等を利用することができる。
【0026】
本実施形態の金型10の製造方法について図3のフローチャートを用いて説明する。
例えば、プラスチック成形体の表面の一部に撥水性を付与したい場合に、当該プラスチック成形体を射出成形するときに利用していた金型を金型本体部11(以下、被加工物と呼ぶ。)として準備する(ステップS1)。
撥水性を付与させたいプラスチック成形体の表面部分に対応して、被加工物の被加工面の一部に、具体的には金型の内周面の一部に、メッキ部12を形成する(ステップS2)。例えば、被加工物の被加工面に無電解(Ni−P)メッキでニッケル皮膜を厚さ100μm程析出させる。皮膜の厚さは例えば数十μm〜数百μmでよい。
次に、平板溝加工機を用いてメッキ部の上面を平坦にする(ステップS3)。例えばニッケル皮膜を切削加工して平面度十nmオーダーの平坦化処理を行う。
平板溝加工機は、切削加工機の一種で、工具は刃先が鋭利で凹凸が少ない単結晶ダイアモンドを用い、2次元平面上に溝加工を施すのに用いる装置である。加工方法は、回転工具を用いるミリング加工が主である。10μmオーダーの微細構造でも切削反力が微小なため、微小な工具を製作することで加工できる。
さらに、被加工物を固定したまま平板溝加工機のバイトを交換して被加工物を切削し、図1に示す微細周期構造20を形成する(ステップS4)。この場合、ダイヤモンドバイトで被加工物を加工する。
なお、平坦化したメッキ部12の表面に、例えば図1に示すようにX方向に延びる断面V字状の溝部を横並びに複数形成し、このX方向と角度αを成す方向へ延びる断面V字状の溝部を横並びに複数形成し、それらの溝部が交差することで複数の四角錐21が各ピッチLで形成される。このように、X方向及びY方向を総称して2軸方向と称し、2軸方向に溝部を形成する切削を「2軸切削加工」と呼ぶ。なお、後述する「2軸レーザー加工」とは、ここでは2軸方向にそれぞれ延びる溝部をレーザーで加工して形成する工法である。
【0027】
このように形成された金型10を利用して成形したプラスチック成形体には、金型10の微細周期構造20が転写されて、撥水性領域が形成される。この場合、プラスチック成形体の表面には、接触角θが90°以上の撥水性を発現させることができた。
【0028】
このように、本実施形態の金型10を利用して射出成形加工によりプラスチック成形体を製造することができる。例えば熱可塑性樹脂で成る材料を加温して軟化させて金型に押し込み、さらに冷して固化させる。これにより、プラスチック成形体の表面に撥水性を有する領域を形成することができる。
【0029】
非特許文献1によれば、金属の被加工面に撥水性を付与するために5〜20μmピッチで金属の被加工面に、図13に示す断面矩形型の凹部210と断面矩形型の凸部220とを規則的に形成する必要があるが、実際に数μmオーダーの加工を施すには金属の被加工面はそれよりも2桁ほど低い十nmオーダーの平面度や表面粗さとする被加工面の面出しの前処理が必要である。ところが、面出しと微細周期構造の加工を別の加工機で行ってしまうと、十nmオーダーの平面度の実現は不可能である。
これに対して、本実施形態の金型10の製造方法によれば、金型形成材料で成る被加工物を用意し、被加工物の被加工面にニッケル皮膜を形成し、このニッケル皮膜を加工するため、平坦処理した後に切削加工して微細構造を形成することができる。これは、金型本体部11に比べて、メッキ部12の粒子が細かいためにナノミクロンオーダーの加工が容易で、また硬さが硬いことに基づくものである。
【0030】
さらに、メッキ部12を加工して微細周期構造20を形成した後に、ニッケル皮膜のアモルファス構造を熱処理することで、ニッケル皮膜が結晶化して、耐摩耗性を向上させることができる。また、メッキ部12として無電解メッキを利用するとしても、プラスチック成形体の一部の表面に撥水効果を付与するよう金型表面の一部に無電解メッキ処理するだけなので、メッキ液による環境負荷は最小限に抑えることができる。
【0031】
[第2実施形態]
図4は本発明の第2実施形態に係る金型30の表面、特に微細周期構造20の概略平面図である。
この図に示すように、第2実施形態に係る金型30は、微細周期構造20を構成する各四角錐21が底面を長方形に形成された長方錐に形成されている。具体的には、図示例ではX方向のピッチPXがY方向のピッチPYよりも大きく設定されている。本実施形態では、第1実施形態と同様に、X方向とY方向とが成す角度αは、本実施形態では90°に選定されている。
このような金型30によって成形されたプラスチック成形体では、金型30の微細周期構造20が転写されてなる撥水性領域において、長方錐の底面の長辺が延びる方向、つまり図示例ではX方向側へ水滴が流れ易くなる。
【0032】
[第2実施形態の変形例]
図5は本発明の第2実施形態の変形例に係る金型40の表面、特に微細周期構造20の概略平面図である。
この図に示すように、本実施形態に係る金型40は、微細周期構造20を構成する各四角錐21の底面がひし形に形成されている。具体的には、図示例では、X方向のピッチPXとY方向のピッチPYとが同じ寸法に選定されているが、本実施形態では、前述の実施形態と異なり、X方向とY方向とが成す角度αが90°より大きい角度に選定されている。
このような金型40によって成形されたプラスチック成形体では、金型40の微細周期構造20が転写されてなる撥水性領域において、ひし形の長い対角線(図中の破線41)が延びる方向へ水滴が流れ易くなる。
その他の応用例として、各四角錐21の底面をひし形に代えて、PX≠PY且つ角度α≠90°(但し、α≠0,180)として平行四辺形に形成してもよい。
このように、四角錐の底面を成す第1の辺とこの第1の辺に繋がっていると共に第1の辺と角度αを成す第2の辺を規定するX方向のピッチPXとY方向のピッチPYと角度αを変えることで、プラスチック成形体の表面についた水滴が流れる方向を制御することができる。
【0033】
[第3実施形態]
図6は本発明の第3実施形態に係る金型50の一部の表面を示す平面図である。この金型50は、第1実施形態に係る金型10と同様に、金型本体部11とメッキ部12とから構成されており、微細周期構造20がメッキ部12を加工して形成されている。本実施形態の微細周期構造20では複数の微細構造物である角錐体が三角錐25に形成されている。各三角錐25は同じ形状に形成されており、本実施形態では、一つの辺が数十μmオーダーの寸法サイズに選定されている。
【0034】
各三角錐25は整列して金型表面に形成されている。具体的には、隣接する三角錐25はその底部を形成する底辺を共通にして形成されており、さらに隣接する三角錐25の底辺が直線状に連なるよう各三角錐25は例えば第1の軸方向であるX方向(図6参照)と第2の軸方向であるY方向(図6参照)と第3の軸方向であるZ方向(図6参照)に沿ってそれぞれ直線状に並ぶように位置を揃えて形成されている。各方向同士が成す角度α1,α2は、本実施形態では60°に選定されている。図示例の三角錐25は正三角錐に形成されている。本実施形態の微細周期構造20は、第1実施形態と同様に、V字型の凹部22が隙間無く連なる鋸歯状(第1実施形態と形状は異なる)の断面に形成されている。この鋸歯状の断面がX方向、Y方向及びZ方向に複数、詳しくは所定のピッチ間隔で形成されている。図6において、実線が凹部22の底部21Bから頂部21Aへ延びる稜線、破線が底部21Bの線を表している。
本実施形態でも、隣接する三角錐25の頂部21Aの間隔をピッチLとして、このピッチLが、1.0μm≦L<100μmに設定されている。
【0035】
このように形成された金型50を利用して成形したプラスチック成形体には、金型50の微細周期構造20が転写されて、撥水性領域が形成される。
【0036】
[第4実施形態]
図7は本発明の第4実施形態に係る金型60の一部の表面を示す斜視図である。この金型60は、第1実施形態に係る金型10と同様に、金型本体部11とメッキ部12とから構成されている。本実施形態の微細周期構造20はメッキ部12に形成された複数の溝部27から構成されている。各溝部27はV字型断面に形成されている。溝部27は樹脂材が収容される型内側へ向けて拡開しており、溝の両肩間の寸法が、1.0μm以上で、且つ、100μm未満に設定されている。これらの溝部27は、互いに隣接しており、V字型の溝肩27Aを共通にしている。
このように、本実施形態の微細周期構造20も、前述の実施形態と同様に、V字型の凹部22が隙間無く連なる鋸歯状の断面に形成されている。
図示例の溝部27はその全長に亘って一方向(図7中のD1方向)に延びた直線部として形成されている。
【0037】
このように形成された金型60を利用して成形したプラスチック成形体には、金型60の微細周期構造20が転写されて、撥水性領域が形成される。
【0038】
次に、実験例について説明する。
実験目的:金型から転写したプラスチック成形体の撥水性評価
実験条件:
金型・・・金型に使用される鋼材としてダイス鋼(SKD11)を用意した。この評価対象となる金型を利用して、以下の4つのサンプルを用意した。
試料1:金型そのもの(所謂、母材としてSKD11相当品)
試料2:表面にブラスト加工を施し非周期構造を有する金型
試料3:表面に2軸レーザー加工を施し微細周期構造を有する金型
試料4:表面に2軸切削加工を施し微細周期構造を有する金型
ここで、試料4は、本発明の実施形態の金型に相当するものであり、ダイス鋼(SKD11)上に無電解めっき処理を施してメッキ部を形成し、このメッキ部の上面を平坦化処理し、さらに平坦な表面71に同じ方向に沿って断面V字型の溝加工を2軸方向に行って微細周期構造20を形成した。図8は試料4の表面の平面写真像である。この2軸切削加工によって表面71に、微細周期構造20、つまり複数の四角錐72が隣接して形成された。
樹脂材料・・・100%ポリ酸(ユニチカ株式会社製、「テラマック」,TE−2000)
成形機・・・40tonの成形機を用い、速度33%、圧力30%とした。
成形温度条件・・・材料メーカーでは金型温度10−30℃、シリンダー温度180−210℃を推奨している設定を、施行錯誤の結果、金型温度30℃、ノズル温度230℃、前部温度235℃、中央部温度230℃、後部温度225℃とした。
撥水性の評価法・・・接触角により静的撥水性を求めた。
接触角の測定・・・マイクロスコープ(VH−E500,キーエンス、×50)と画像解析ソフトウェア(Image J,オープンソースのフリーソフトウェア)を用いた。
その他・・・母材表面の表面粗さが接触角に与える影響を除くために、微細構造の加工前の母材表面は、中心線平均粗さRa=0.05μmに磨き加工したものを用いた。表面粗さの測定には、3次元表面粗さ計(sv−3000m4,株式会社ミツトヨ)を用いた。
【0039】
図9は各試料の表面粗さの測定結果を示し、図10は各試料1〜4の金型と樹脂成形品の接触角、つまり静的撥水性を示している。
接触角θの初期値は、試料1である金型鋼(SKD11相当品)で78.1°、試料1の表面にNi−Pめっきを施したもので52.0°であった。両者の差は、材質の表面自由エネルギーの影響と考えられる。試料2のブラスト加工による非周期構造では、Ra=0.21μmよりも粗い加工は困難であったが、接触角θが17.9°向上した。2軸レーザー加工によってピッチL=0.4〜0.8μmの周期構造を有する試料3では、接触角θが初期値より+57.4度、2軸切削加工によってピッチL=10μmの周期構造を有する試料4では、接触角θが初期値より+43.7°と大きく向上した。
さらに、試料3、試料4の微細周期構造を有する金型を転写したプラスチック成形体の撥水性について説明する。
先ず、図10に示すように、試料3の金型を用いたプラスチック成形体では、接触角θが金型自体の接触角θ(=135.5°)より44.6°低下して、90.9°であった。これは流動性の低いバイオマスプラスチックのため、微細周期構造が十分に転写されなかったことによると考えられた。このことから、微細周期構造20のピッチLは0.8μmよりも大きいことが望ましいことが理解できる。
一方、図10に示すように、試料4、つまり本発明の実施形態に係る金型を用いたプラスチック成形体では、接触角θが金型自体の接触角θ(=95.7°)より14.4°大きくなり、110.1°であった。本実施形態では、加工前と比べると58.1°向上した。
【0040】
この実験結果からも分かるように、本実施形態の金型を利用して、撥水性を有するプラスチック成形体を製造することができたことを確認できた。
【0041】
次に、本発明の金型を利用したプラスチック製品例について例示する。
[イムノセンサ]
イムノセンサは、マイクロ流路に1μLの血液サンプルを滴下すると、血球を分離した後に、電極上に固定化された抗体で被測定物質を補足し、電気化学反応によって血液サンプルを定量分析する。図11(A)に示すように、イムノセンサ100は、例えばマイクロ流路101と、血球分離膜102と、この血球分離膜102を支持するホルダー103と、電極部104と、電極部104を収容するハウジング105と、を備えている。
このイムノセンサ100では、マイクロ流路101と、ホルダー103と、電極部104のプラスチック部分や、ハウジング105の隔壁の内周面に血液が付着、停留することを防ぐ必要がある。この場合、既に試作済みの金型の所望の部分のみに本発明の微細周期構造20を追加工することで、これらの部材に撥水性を付与することができる。例えば撥水性が必要な部分に対応する入駒を金型に組み込んで、組込射出成形を行う。図11(A)中の斜線ハッチング部分が微細周期構造20を適用した部位であり、図11(B)中の△が微細周期構造20を成す四角錐21を模式的に表している。
このように、イムノセンサ100の各部品に微細周期構造20を適用して撥水性を付与することで、センサー感度の向上を図ることができる。
【0042】
[本発明のその他の使用例]
新たなバイオセンサや化学分析方法が従来から提案されているが、原理的に素晴らしくても、コスト的に見合わず、実際に使用されない場合が多い。
本発明によって、金型表面の微細周期構造20で、検査チップの所望の部位だけに超撥水性を付与することができる。従って、本発明は、医療検査チップの高精度化に大きく寄与し、今まで利用することができなかった分析機技術を実現させることも可能である。例えば、現在(0.1ng/mL)よりも一桁高感度な10pg/mLオーダーの高精度分析技術が実現されれば、ガン,肝炎,感染症などの早期診断・正確さの向上を図ることができ、様々な診断技術が一気に実用化へと進むことが期待できる。
さらに本発明は、医療検査チップだけでなく、他の医療製品や産業製品へ応用できることは勿論である。
【0043】
以上詳述したが、本発明は発明の趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施できる。
本発明は、医療用具に用途を限定されるものではなく、その他の産業用に利用されてもよいことは勿論である。
また、本発明の微細周期構造を構成する微細構造物は、四角錐21、三角錐25、溝部27に限らず、その他の六角錐などの角錐体であってもよい。溝部27はその全長の一部が直線部として形成され、或いは全長の一部の延出方向が次第に湾曲したにカーブ部(図7中で二点鎖線で示すD2方向)を有するように構成されてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0044】
10,30,40,50,60 金型
10A 金型の内面
11 金型本体部
12 メッキ部
20 微細周期構造
21 四角錐
21B 溝底
25 三角錐
27 溝部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体の表面に撥水性領域を形成する金型であって、
金型本体部と、この金型本体部の内周面の少なくとも一部に形成されたメッキ部と、を備え、
上記メッキ部は、樹脂材が当接する接触面側に微細周期構造を有し、
上記微細周期構造はV字型の凹部が隙間無く連なる鋸歯状の断面に形成されており、
上記凹部は上記樹脂材が収容される型内側へ向けて拡開しており、
上記凹部の両肩間の寸法が、1.0μm以上で100μm未満であることを特徴とする、金型。
【請求項2】
前記微細周期構造は複数の角錐体から構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の金型。
【請求項3】
前記微細周期構造は前記メッキ部に形成された複数の溝部から構成されており、
上記溝部は、V字型断面に形成されていると共に、少なくとも下記(A1)〜(A2)の何れかを有することを特徴とする、請求項1に記載の金型。
(A1)一方向に延びた直線部。
(A2)延出方向が次第に曲がるように延びたカーブ部。
【請求項4】
樹脂成形体の表面に撥水性領域を形成する金型であって、
金型本体部と、この金型本体部の内周面の少なくとも一部に形成されたメッキ部と、を備え、
上記メッキ部は、樹脂材が当接する接触面側に微細周期構造を有し、
上記微細周期構造は、複数の四角錐が金型表面で当該表面に沿った第1の軸方向とこの第1の軸方向に交差し当該表面に沿った第2の軸方向に整列して形成され、
隣接する四角錐の頂点同士の間隔が1.0μm以上で100μm未満であることを特徴とする、金型。
【請求項5】
前記第1の軸方向に沿った四角錐の頂点同士の間隔である第1ピッチと前記第2の軸方向に沿った四角錐の頂点同士の間隔である第2ピッチとが、以下の(B1)〜(B3)の何れかに選定され、前記第1の軸方向と前記第2の軸方向とが成す角度αが以下の(C1)〜(C2)の何れかに選定されているこことを特徴とする、請求項4に記載の金型。
(B1)第1ピッチ=第2ピッチ
(B2)第1ピッチ>第2ピッチ
(B3)第1ピッチ<第2ピッチ
(C1)α=90°
(C2)α≠90°
【請求項6】
被加工物の被加工面にメッキ部を形成する第1工程と、
上記メッキ部の上面を平坦にする第2工程と、
上記第2工程で平坦処理した表面を切削して微細周期構造を形成する第3工程と、を含むことを特徴とする、金型の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記メッキ部を熱処理する第4工程を含む、請求項6に記載の金型の製造方法。
【請求項8】
前記請求項1〜5の金型を用いて樹脂成形体を製造する成形体製造方法。
【請求項9】
前記請求項8の成形体製造方法によって製造された、樹脂成形体。
【請求項1】
樹脂成形体の表面に撥水性領域を形成する金型であって、
金型本体部と、この金型本体部の内周面の少なくとも一部に形成されたメッキ部と、を備え、
上記メッキ部は、樹脂材が当接する接触面側に微細周期構造を有し、
上記微細周期構造はV字型の凹部が隙間無く連なる鋸歯状の断面に形成されており、
上記凹部は上記樹脂材が収容される型内側へ向けて拡開しており、
上記凹部の両肩間の寸法が、1.0μm以上で100μm未満であることを特徴とする、金型。
【請求項2】
前記微細周期構造は複数の角錐体から構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の金型。
【請求項3】
前記微細周期構造は前記メッキ部に形成された複数の溝部から構成されており、
上記溝部は、V字型断面に形成されていると共に、少なくとも下記(A1)〜(A2)の何れかを有することを特徴とする、請求項1に記載の金型。
(A1)一方向に延びた直線部。
(A2)延出方向が次第に曲がるように延びたカーブ部。
【請求項4】
樹脂成形体の表面に撥水性領域を形成する金型であって、
金型本体部と、この金型本体部の内周面の少なくとも一部に形成されたメッキ部と、を備え、
上記メッキ部は、樹脂材が当接する接触面側に微細周期構造を有し、
上記微細周期構造は、複数の四角錐が金型表面で当該表面に沿った第1の軸方向とこの第1の軸方向に交差し当該表面に沿った第2の軸方向に整列して形成され、
隣接する四角錐の頂点同士の間隔が1.0μm以上で100μm未満であることを特徴とする、金型。
【請求項5】
前記第1の軸方向に沿った四角錐の頂点同士の間隔である第1ピッチと前記第2の軸方向に沿った四角錐の頂点同士の間隔である第2ピッチとが、以下の(B1)〜(B3)の何れかに選定され、前記第1の軸方向と前記第2の軸方向とが成す角度αが以下の(C1)〜(C2)の何れかに選定されているこことを特徴とする、請求項4に記載の金型。
(B1)第1ピッチ=第2ピッチ
(B2)第1ピッチ>第2ピッチ
(B3)第1ピッチ<第2ピッチ
(C1)α=90°
(C2)α≠90°
【請求項6】
被加工物の被加工面にメッキ部を形成する第1工程と、
上記メッキ部の上面を平坦にする第2工程と、
上記第2工程で平坦処理した表面を切削して微細周期構造を形成する第3工程と、を含むことを特徴とする、金型の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記メッキ部を熱処理する第4工程を含む、請求項6に記載の金型の製造方法。
【請求項8】
前記請求項1〜5の金型を用いて樹脂成形体を製造する成形体製造方法。
【請求項9】
前記請求項8の成形体製造方法によって製造された、樹脂成形体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−66417(P2012−66417A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211444(P2010−211444)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】
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