説明

金型の洗浄方法およびその装置

【課題】 本発明の目的は、不要物質が付着した金型の洗浄方法であって、金型表面に腐食や傷を生じることなく、金型表面から不要物質を効果的に除去できる方法を提供する。本発明の他の目的は、こうした方法を実現するための洗浄装置を提供する。
【解決手段】 本発明に係る洗浄方法とは、不要物質が付着した金型の洗浄するに際し、酸化剤を0.3〜2質量%含む水性液を洗浄用溶媒として用い、液状を維持しつつ120〜250℃で洗浄するものである。また本発明に係る洗浄装置とは、不要物質が付着した金型の洗浄装置であって、前記金型を装入するための洗浄容器、前記洗浄容器内へ洗浄用溶媒を供給するための供給手段、前記洗浄用溶媒を液状に維持しつつ120〜250℃に加熱するための加熱手段、洗浄廃液を前記洗浄容器の外へ排出するための排出手段、を備えているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不要物質が付着している金型を洗浄する方法およびその装置に関するものであり、詳細には、タイヤなどのゴム成形体を製造した後に金型表面に付着している残渣を除去するための洗浄方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどのゴム成形体を製造する際には、加硫金型を用いて加硫し成形するが、加硫成形を繰り返していくうちに、金型表面に有機物や充填剤などが残渣として付着する。そのため金型に付着した不要物質を定期的に除去・洗浄しなければならない。
【0003】
そこで種々の金型の洗浄方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1や特許文献2には、複合樹脂成形体を粉砕して得られる投射材を、金型の表面に吹付けること(エアブラスト)により金型表面に付着残留している物質を除去する技術が提案されている。しかしこれらの技術では、吹付けられる投射材によって金型表面が傷付くことがある。また投射材自体も損傷するため定期的な交換が必要となる。
【0005】
特許文献3には、ClF3ガスを用いて成形金型のキャビティ面を洗浄する技術が提案されている。しかし洗浄媒体として用いているClF3が、金型表面を腐食する可能性がある。しかも排気ガスは、適切な処理を施してから処分する必要があり、操作が煩雑となる。
【0006】
特許文献4には、ハロゲン原子や酸素原子を含有する雰囲気ガスの存在下でコロナ放電させ、該放電によって発生したガスで金型汚れ成分を酸化分解する技術が提案されている。また、特許文献5には、除去すべき加硫ゴム付着物で覆われた作用面に、レーザ光線を作用させることにより付着物を除去する技術が提案されている。しかしコロナ放電やレーザ光線の照射は指向性が高いため、均一な洗浄が難しく、洗浄力に劣る。また設備コストが高くなる。
【0007】
特許文献6には、金型を超臨界流体で処理することにより洗浄する技術が提案されており、超臨界流体としては臨界水を用いている。しかし本発明者らが検討したところ、臨界水を金型と接触させると、金型表面が腐食させる場合があることが分かった。
【0008】
こうした技術を組み合わせたものも提案されており、例えば、特許文献7には、金型に付着している有機物の沸点以上の温度に加熱してから水洗する技術が提案されている。しかし金型を単に加熱するだけでは付着物を除去できない場合があった。
【0009】
特許文献8には、金型にプラズマを照射することにより金型に付着したエラストマー加硫残滓を除去した後、高圧気液混合物を噴射することにより洗浄する技術が提案されている。しかし設備コストが高くなる。
【特許文献1】特開2001-328123号公報([特許請求の範囲]参照)
【特許文献2】特開2002-36252号公報([特許請求の範囲]参照)
【特許文献3】特開平6-270156号公報([特許請求の範囲],[0008],[0016]参照)
【特許文献4】特許第3319129号([特許請求の範囲]参照)
【特許文献5】特開平9-327832号公報([特許請求の範囲]参照)
【特許文献6】特開2000-280262号公報([特許請求の範囲]参照)
【特許文献7】特開平6-262630号公報([特許請求の範囲],[0010],[0011]参照)
【特許文献8】特開平7-314463号公報([特許請求の範囲]参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、不要物質が付着した金型の洗浄方法であって、金型表面に腐食や傷を生じることなく、金型表面から不要物質を効果的に除去できる方法を提供することにある。本発明の他の目的は、こうした方法を実現するための洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく様々な角度から鋭意検討した。その結果、不要物質が付着した金型を、所定量の酸化剤を含む水性液を洗浄用溶媒として用い、該洗浄用媒体を液状に維持しつつ所定温度に加熱した状態で洗浄すれば、上記課題が見事に解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明に係る金型の洗浄方法とは、不要物質が付着した金型の洗浄方法であって、酸化剤を0.3〜2質量%含む水性液を洗浄用溶媒として用い、液状を維持しつつ120〜250℃で洗浄する点に要旨を有する。
【0013】
前記不要物質とは、ゴム成形体を製造した後の付着残渣である。前記酸化剤としては、過酸化水素、オゾン、次亜塩素酸、硝酸、硫酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0014】
前記金型を洗浄するに際には、具体的には、前記金型の不要物質が付着している面を洗浄容器の一部として構成し、洗浄することが好ましい。洗浄後、水洗し、乾燥して前記洗浄用溶媒を除去することを推奨する。
【0015】
一方、本発明に係る金型の洗浄装置とは、不要物質が付着した金型の洗浄装置であって、前記金型を装入するための洗浄容器、前記洗浄容器内へ洗浄用溶媒を供給するための供給手段、前記洗浄用溶媒を液状に維持しつつ120〜250℃に加熱するための加熱手段、洗浄廃液を前記洗浄容器の外へ排出するための排出手段、を備えている点に要旨を有する。本発明に係る金型の洗浄装置としては、更に乾燥用の熱風吹込み手段を備えていることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る金型の洗浄装置の他の構成例としては、不要物質が付着した金型の洗浄装置であって、前記金型の不要物質が付着している面を洗浄容器の一部として構成するための密封手段、前記洗浄容器内へ洗浄用溶媒を供給するための供給手段、前記洗浄用溶媒を加熱するための加熱手段、洗浄廃液を前記洗浄容器の外へ排出するための排出手段、を備えている点に要旨を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金型表面に腐食や傷を生じることなく、金型から不要物質を効果的に除去することができ、この洗浄方法は、ゴム成形体を製造した後の付着残渣を除去する方法として特に有効である。また本発明によれば、こうした洗浄方法を実現するための装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る金型の洗浄方法とは、不要物質が付着した金型の洗浄方法であって、酸化剤を0.3〜2質量%含む水性液を洗浄用溶媒として用い、液状を維持しつつ120〜250℃で洗浄するところに特徴を有する。即ち、本発明に係る洗浄方法は、洗浄時に酸化剤を所定量含む洗浄用媒体を用い、液状を維持しつつ所定の温度で洗浄するところに特徴がある。
【0019】
洗浄対象物は、不要物質が付着した金型であれば特に限定されないが、例えば、ゴム成形体を製造した後にゴム成分等の残渣が付着している金型を挙げることができる。即ち、不要物質とは、ゴム成形体を製造した後の付着残渣であり、具体的には、ゴム成形体を製造する際に用いるゴム材自体や樹脂成分、ゴムに添加混合するカーボンブラックや加硫剤などである。
【0020】
本発明の洗浄方法では、酸化剤を0.3〜2質量%含む水性液を洗浄用媒体として用いる。
【0021】
洗浄用媒体に酸化剤を含有させることにより、酸化剤が不要物質を酸化分解し、金型からの不要物質の除去を容易にする。しかも後述する様に、洗浄用媒体に混合する酸化剤の量を適切に調整することにより、金型表面に腐食や傷を付けることなく洗浄することができる。
【0022】
酸化剤としては、他の分子などから電子を奪いやすい性質を有する化学種であれば、化学的に一般に用いられているものを使用できる。こうした酸化剤としては、例えば、過酸化水素、オゾン、次亜塩素酸、硝酸、硫酸より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの中でも過酸化水素水とオゾンは、加熱により分解し、無害な形態に転換するため特に好ましく用いることができる。
【0023】
洗浄用媒体に混合する酸化剤は0.3〜2質量%とする。酸化剤が0.3質量%未満では、洗浄力が弱く、金型から不要物質の除去が不充分となり、クリーニング不足となる。好ましくは0.5質量%以上である。しかし2質量%を超えると、洗浄力は高まるものの、酸化力が強くなり過ぎるため、不要物質を除去した後に金型表面を酸化劣化させる恐れがでてくる。好ましくは1.8質量%以下である。
【0024】
洗浄用媒体は水性液であり、基本成分は水である。但し、少量の水溶性物質を適量混合すると、洗浄用媒体と不要物質との親和性が向上し、洗浄力が高くなることがある。こうした機能を発揮する水溶性物質としては、水溶性有機溶剤、水溶性有機界面活性剤などが挙げられる。
【0025】
不要物質が付着した金型の洗浄に当たっては、洗浄用媒体を液状に維持しつつ120〜250℃で洗浄する。洗浄温度が120℃未満では、酸化剤の作用が不充分となり、洗浄力が弱くなって不要物質を充分に除去できない。そのため不要物質の一部が汚れとして残り、クリーニング効果が劣化する。好ましい洗浄温度は140℃以上である。しかし250℃を超えると、クリーニング効果は向上するものの、酸化剤の酸化力が強くなり過ぎて金型表面を酸化腐食する恐れがでてくる。そのため洗浄温度は250℃以下とすべきであり、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
【0026】
本発明の洗浄方法では、洗浄温度を120〜250℃に設定しているが、このとき洗浄用媒体は液状を維持する必要がある。液状を維持することにより、金型表面を腐食させることなく洗浄できるからである。例えば、温度と圧力を適度に高めて超臨界状態とすると、金型表面が腐食され易くなる。
【0027】
洗浄温度を120〜250℃に設定した状態で、洗浄用媒体を液状とするには、洗浄用媒体を適度に加圧する必要があるが、このときの圧力は温度に依存するため一律に定めることができない。つまり、圧力の下限値は液状態を保つ圧力であり、上限値は臨界圧力である。但し、圧力を高めすぎても洗浄力はあまり向上せず、コスト高となるため、好ましくは10MPa以下、より好ましくは2MPa以下、さらに好ましくは1.5MPa以下である。なお、洗浄温度が180℃以下の場合、好ましい圧力は1.0MPa以下である。
【0028】
洗浄時間は特に限定されないが、おおよそ数分〜1時間程度で充分である。
【0029】
金型を洗浄するにあたっては、洗浄対象となる金型を洗浄容器へ装入し、該洗浄容器に所定量の酸化剤を含む水溶液を洗浄用媒体として注入した後、加熱・加圧して洗浄すればよい。
【0030】
即ち、不要物質が付着した金型の洗浄装置であって、前記金型を装入するための洗浄容器、前記洗浄容器内へ洗浄用溶媒を供給するための供給手段、前記洗浄用溶媒を液状に維持しつつ120〜250℃に加熱するための加熱手段、洗浄廃液を前記洗浄容器の外へ排出するための排出手段、を備えている金型の洗浄装置を用いて洗浄すればよい。こうした洗浄装置の構成例を、具体的に図面を用いて説明する。
【0031】
図1は、本発明に係る洗浄方法を実施するために用いる装置の一構成例を示した概略説明図である。図1中、1は金型、2は洗浄容器、3はスチーム供給手段、4は酸化剤供給手段を夫々示している。
【0032】
まず、不要物質が付着した金型1を洗浄容器2へ装入する。次いで、スチーム供給手段3から経路100を通して供給されるスチームと、酸化剤供給手段4から経路101を通して供給される酸化剤とを混合した洗浄用溶媒を、経路102を通して洗浄容器2へ供給する。
【0033】
スチームは設定圧力下での飽和温度で供給すればよく、こうした状態で供給することによって熱容量が大きくなり、洗浄用溶媒の温度を維持することができる。なお、スチームを用いたのは、タイヤ金型を使用するメーカーでは必ず所有している熱源だからであり、スチームを熱源として用いれば新たな設備投資は不要となる。
【0034】
上記経路100には、スチーム供給手段3側から順に、フィルター8、弁9、流量計10、弁11、絞り12、バルブ13が設けられている。
【0035】
フィルター8では、スチームに混入している異物を除去する。弁9(および弁11)には、圧力調整機構が備えられており、弁9(または弁11)を通過する流体の圧力を設定値以下に保持する。なお経路100上には、流量計10が設けられており、経路100を通過するスチームの流量を測定している。また絞り12は、スチーム供給手段3からのスチーム供給量を調整する機能を備えており、バルブ13の開閉でスチームの供給具合を調整している。
【0036】
ところで、弁9と流量計10を結ぶ経路は途中で分岐しており、スチーム供給手段3から供給されるスチームの一部は、経路104を通してヒーター5へ供給される。ヒーター5へ供給するスチーム量は、経路104上に設けられた絞り17で調整する。
【0037】
上記経路101には、酸化剤供給手段4側から順に、送液ポンプ14、バルブ15が設けられている。酸化剤の供給および停止はバルブ15の開閉によって行い、酸化剤供給量の調整は送液ポンプ14の吐出量調整によって行う。
【0038】
スチーム供給手段3から供給されるスチームと、酸化剤供給手段4から供給される酸化剤は、経路102内で混合された後、バルブ16を経て洗浄容器2内へ供給され、金型1内を洗浄する。
【0039】
洗浄容器2内は、該洗浄容器2に備えられたヒーター5で加熱され、120〜250℃に調整される。このとき、洗浄容器2内の圧力を圧力センサー6で測定できる様にしておくのがよい。該圧力センサー6は圧力制御弁7と電気的に接続されており、前記圧力センサー6で検知されたデータに基づいて洗浄容器2内の圧力を制御する。
【0040】
金型を洗浄した後の廃液は経路103から系外へ排出する。即ち、経路103には、洗浄容器2側から順に、圧力制御弁7、冷却器23、バルブ24が設けられており、圧力制御弁7によって洗浄容器2内から排出される廃液を常圧に戻してから冷却器23で冷却した後、バルブ24から系外28へ排出する。
【0041】
ところで、ヒーター5の加熱には、上記経路104から供給されるスチームを用い、加熱に使用された後のスチームは、経路106を通してドレン29へ送る。経路106にはバルブ21とスチームトラップ22が設けられている。スチームトラップ22を介することにより所定の温度を維持しながらドレンを排出できる。
【0042】
前記図1に示した構成に対し、図中に点線で示した様に、攪拌機25とモーター27を設けてもよい。洗浄容器2内に攪拌機25を設けて洗浄用溶媒を攪拌すれば、洗浄用溶媒に対流を生じ、該洗浄用溶媒と金型との接触効率が高まり、洗浄力を一層高めることができる。
【0043】
前記図1に示した構成に対し、洗浄容器2と圧力制御弁7との間にバルブ26を設けると共に、該バルブ26と洗浄容器2とを結ぶ経路を分岐して経路105を設け、洗浄廃液を洗浄容器2へ返送してもよい。返送経路105には、バルブ18と送液ポンプ19を設け、該送液ポンプ19を用いて洗浄廃液を順次洗浄容器2へ返送する。こうした構成を採用すれば、洗浄用溶媒に対流を発生させることができ、洗浄用溶媒と金型との接触効率が高まり、洗浄力を一層高めることができると共に、バッチ式で操業できる。
【0044】
洗浄後の金型は、必要に応じて水洗し(リンス工程)、乾燥することにより前記洗浄用溶媒を除去してから洗浄容器内から取り出すことが好ましい。洗浄後、水洗することにより金型表面に微量存在する酸化剤を完全に除去できる。水洗媒体には、上記スチームを用いることができる。また洗浄容器内で乾燥させることにより、洗浄容器から取り出した金型の腐食を防止できる。水洗後の金型を乾燥させる際には、例えば80〜100℃程度の熱風を吹き付ければよい。熱風を吹き付けることにより金型を乾燥させるには、上述した洗浄装置に、乾燥用の熱風吹込み手段(図示しない)を備えればよい。
【0045】
金型を洗浄するにあたっては、金型の不要物質が付着している面を洗浄容器の一部として構成し、洗浄することもできる。
【0046】
即ち、金型の不要物質が付着している面を洗浄容器の一部として構成するための密封手段、前記洗浄容器内へ洗浄用溶媒を供給するための供給手段、前記洗浄用溶媒を加熱するための加熱手段、洗浄廃液を前記洗浄容器の外へ排出するための排出手段、を備えている洗浄装置を用いて金型を洗浄することもできる。こうした洗浄装置の構成例を、図面を用いて説明する。
【0047】
図2は、洗浄対象とする金型の不要物質が付着している面を、洗浄容器の一部として構成し洗浄するための洗浄装置を説明するための概略説明図であり、図2では該洗浄装置を金型と接続した状態を示している。なお、前記図1と同じ部分には同一の符号を付すことで重複説明を避ける。
【0048】
図2では、前記図1の構成に対し、金型の不要物質が付着している面を洗浄容器の一部として構成するための密封手段30a〜30c、洗浄容器内へ洗浄用溶媒を供給するための供給手段31、金型を加熱するための加熱手段32、洗浄廃液を容器外へ排出するための排出手段33を備えている。
【0049】
密封手段は、上蓋30a、側面型30b、下蓋30cから構成されており、金型を保持すると共に、洗浄容器内を高圧に保てる様に構成されている。
【0050】
供給手段31からは、経路102を通して、スチーム供給手段3から供給されるスチームと、酸化剤供給手段4から供給される酸化剤とを混合して得られる洗浄用溶媒が供給される。経路102には、バルブ16と34が設けられており、バルブ34よりも下流側の位置には、スチーム供給手段35からもスチームが供給されている。洗浄容器内へ供給された洗浄用溶媒は、図示しないノズルから金型の不要物質が付着している面に直接噴霧される。
【0051】
洗浄廃液は、排出手段33を通して系外へ排出される。なお、洗浄廃液の一部は、経路109を通して上記洗浄用溶媒と混合し再利用してもよい。即ち、経路109と経路102を接続し、洗浄廃液の一部を再利用する場合は、経路109上に設けられたバルブ46を開放してから、循環ポンプ20を作動させて上記洗浄用溶媒と混合する。
【0052】
洗浄廃液の一部は、経路110を通して系外へ排出する。即ち、経路110には、洗浄容器2側から順に、圧力制御弁47、冷却器48、バルブ49が設けられており、圧力制御弁47によって洗浄容器内から排出される廃液を常圧に戻してから冷却器23で冷却し、次いでバルブ49を開放して系外50へ排出する。なお、洗浄廃液の一部は、そのまま系外51へ排出することもできる。
【0053】
洗浄容器には、加熱手段32が設けられており、金型を所定温度に加熱する。加熱手段32の熱源としては、スチーム供給手段36から供給されるスチームを使用している。洗浄容器を加熱した後のスチーム(廃流体)は、経路107を通してドレン38へ送られる。なお、経路107にはバルブ40とスチームトラップ41が設けられている。
【0054】
密封手段のうち上蓋30aにはスチーム供給手段37が接続されており、該供給手段37から供給されるスチームを熱源として用いている。上蓋30aを加熱した後のスチーム(廃流体)は、経路108を通してドレン42へ送られる。なお、経路108にはバルブ44とスチームトラップ45が設けられている。
【0055】
上記図2における洗浄装置の構造について、図面を用いてより詳細に説明する。図3は、前記図2において金型と接続された洗浄装置部分を拡大して示した図である。図3中、1aは割金型、1bは上金型、1cは下金型であり、これら1a〜1cは上記図1および2に示した金型1に対応している。
【0056】
図3中、52はタイヤ加硫機の中心機構であり、該タイヤ加硫機の中心機構52にはセンタポスト53が設けられており、該センタポスト53の上方には上金型密封用アダプタ54、下方には下金型密封用アダプタ55、センタポスト53の周囲にはアダプタ壁面56が夫々設けられている。上金型密封用アダプタ54、下金型密封用アダプタ55およびアダプタ壁面56をまとめて単にアダプタと称することがある。
【0057】
上金型1bと上金型密封用アダプタ54、下金型1cと下金型密封用アダプタ55を夫々接続することにより、金型の不要物質が付着している面を洗浄容器の一部として構成できる。なお、上金型用アダプタ54の上方には、アダプタ固定金具57が設けられており、該アダプタ固定金具57とセンタポスト53は略同一直線上に配置されている。
【0058】
下金型密封用アダプタ55には、洗浄用溶媒供給口58と廃液回収口59が設けられている。洗浄用溶媒供給口58は、上記図2における経路102の開口末端であり、経路102から洗浄用溶媒がアダプタ内へ供給される。アダプタ内へ供給された洗浄用溶媒は、アダプタ壁面56を貫通して設けられた複数個のノズル56aを通して洗浄容器内へ供給される。加圧された洗浄用溶媒をノズル56aから金型表面へ噴霧できる。
【0059】
不要物質を随伴した洗浄用溶媒(廃液)は、アダプタから延伸して設けられた複数個の回収ノズル60からアダプタ内へ吸い込まれ、廃液回収口59を通して系外へ排出される。なお、廃液回収口59は、上記図2における経路33の開口末端である。
【0060】
以上のように構成すれば、タイヤ加硫時には中心機構にブラダ(図示しない)を取り付けて加硫するが、金型洗浄時にはブラダを取り外して上記アダプタを取り付けることにより、既存設備を利用しつつ金型を洗浄できる。従って、金型を洗浄するために新たな設備を設ける必要はない。
【0061】
上記構成において、上金型密封用アダプタ54、下金型密封用アダプタ55およびアダプタ壁面56を互いにシールでき、高さ方向に可動となる構成に変更すれば、アダプタの高さ(上金型密封用アダプタ54と下金型密封用アダプタ55の距離)を変えることにより大きさの異なる金型を洗浄することができる。この場合でも、中心機構の機能として既に設けられているストローク制御可能なセンタポストの上下機構を用いることができるため、既存の設備を用いて所望の高さにアダプタを調整してセッティングできる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
実験例1
タイヤを成形した後のAl製金型から15mm×50mm程度の試験片を切り出し、下記手順で洗浄した。試験片表面を目視で観察したところ、見た目が黒く、明らかに汚れており、洗浄が必要なレベルであった。試験片に付着している不要物質の組成を下記表1に示す。この組成は、タイヤ成形後の金型に付着している汚れ成分とほぼ等しい。
【0064】
【表1】

【0065】
上記試験片を、内容積が30ccの洗浄容器(容器形状は、内径:19mm、高さ:100mm)に装入し、次いで洗浄用媒体を注入して洗浄容器を密封した。
【0066】
洗浄用媒体としては、過酸化水素を1質量%含む水溶液を20cc用いた。
【0067】
次に、上記洗浄容器を外部から加熱すると共に加圧し、液状態を保持したまま140℃で30分間洗浄した。このときの洗浄容器内の圧力は1MPaである。
【0068】
洗浄後、洗浄容器を冷却してから試験片を取り出した。
【0069】
取り出した試験片の表面を目視で観察し、クリーニング効果を評価したところ、試験片の表面に不要物質は付着しておらず、試験片素地のアルミの光沢が認められ、洗浄されていることを確認した。
【0070】
また試験片の表面を目視で観察し、洗浄後の試験片表面に損傷がないか確認した。その結果、試験片表面に損傷は認められなかった。
【0071】
実験例2〜14
上記実施例1と同じ試験片を、洗浄用媒体中の過酸化水素濃度と洗浄温度を変化させた以外は上記実施例1と同じ条件で洗浄した。過酸化水素の濃度と洗浄温度を下記表2に示す。また上記実施例1と同様に、洗浄後の試験片表面を観察し、クリーニング効果を評価すると共に、試験片表面に損傷がないか確認した。これらの結果についても下記表2に併せて示す。なお、クリーニング効果と試験片表面の損傷についての評価基準は次の通りである。
【0072】
<クリーニング効果>
◎:合格;不要物質が除去されており、試験片素地の金属光沢が認められる
○:合格;不要物資の付着は殆ど認められない
△:不合格;試験片の一部に不要物質が付着している
×:不合格;試験片の大部分に不要物質が付着している。
【0073】
<試験片表面の損傷>
○:合格;試験片の表面に損傷は殆ど認められない
△:不合格;試験片表面の光沢は鈍く、表面が若干荒れている
×:不合格;試験片表面に光沢は無く、表面が荒れている
【0074】
【表2】

【0075】
表2から明らかな様に、洗浄温度を120℃よりも低くすると、洗浄力が落ち、クリーニング効果が得られない。これに対し、洗浄温度が250℃を超えると、洗浄後の試験表面に荒れが認められ、損傷を受けていた。荒れが発生した原因は、洗浄温度が高いため、酸化剤によって試験片表面が酸化し劣化したことにあると考えられる。
【0076】
また洗浄用媒体中の酸化剤の濃度が0.3質量%未満では、洗浄力が落ちてクリーニング効果が得られない。これに対し、酸化剤の濃度が2質量%を超えると、洗浄用媒体の酸化力が強すぎて試験片表面を酸化劣化させるため、試験片表面に損傷が認められる。
【0077】
実験例15〜18
上記実施例1と同じ試験片を、洗浄用媒体に添加する酸化剤の種類を変えた以外は上記実施例1と同じ条件で洗浄した。酸化剤の種類を下記表3に示す。また上記実施例1と同様に、洗浄後の試験片表面を観察し、クリーニング効果を評価すると共に、試験片表面に損傷がないか確認した。こられの結果についても下記表3に併せて示す。なお、クリーニング効果と試験片表面の損傷についての評価基準は上述の通りである。
【0078】
【表3】

【0079】
表3から明らかな様に、酸化剤の種類を変えてもクリーニング効果は落ちず、しかも試験片表面に損傷を与えることもなく洗浄できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る洗浄方法を実施するために用いる装置の一構成例を示した概略説明図である。
【図2】金型の不要物質が付着している面を洗浄容器の一部として構成して洗浄するための洗浄装置を説明するための概略説明図である。
【図3】図2における洗浄装置の構造をより詳細に説明するための概略説明図である。
【符号の説明】
【0081】
1:金型 1a:割金型 1b:上金型 1c:下金型 2:洗浄容器 3:スチーム供給手段 4:酸化剤供給手段 5:ヒーター 6:圧力センサー 7:圧力制御弁 8:フィルター 9:弁 10:流量計 11:弁 12:絞り 13:バルブ 14:送液ポンプ 15:バルブ 16:バルブ 17:絞り 18:バルブ 19:送液ポンプ 20:循環ポンプ 21:バルブ 22:スチームトラップ 23:冷却器 24:バルブ 25:攪拌機 26:バルブ 27:モーター 28:系外 29:ドレン 30a〜30c:密封手段 30a:上蓋 30b:側面型 30c:下蓋 31:供給手段 32:加熱手段 33:排出手段 34:バルブ 35:スチーム供給手段 36:スチーム供給手段 37:スチーム供給手段 38:ドレン 40:バルブ 41:スチームトラップ 42:ドレン 44:バルブ 45:スチームトラップ 46:バルブ 47:圧力制御弁 48:冷却器 49:バルブ 50:系外 51:系外 52:タイヤ加硫機の中心機構 53:センタポスト 54:上金型密封用アダプタ 55:下金型密封用アダプタ 56:アダプタ壁面 56a:ノズル 57:アダプタ固定金具 58:洗浄用溶媒供給口 59:廃液回収口 60:回収ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不要物質が付着した金型の洗浄方法であって、
酸化剤を0.3〜2質量%含む水性液を洗浄用溶媒として用い、液状を維持しつつ120〜250℃で洗浄することを特徴とする金型の洗浄方法。
【請求項2】
前記不要物質が、ゴム成形体を製造した後の付着残渣である請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記酸化剤が、過酸化水素、オゾン、次亜塩素酸、硝酸、硫酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記金型の不要物質が付着している面を洗浄容器の一部として構成し、洗浄する請求項1〜3のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項5】
洗浄後、水洗し、乾燥して前記洗浄用溶媒を除去する請求項4に記載の洗浄方法。
【請求項6】
不要物質が付着した金型の洗浄装置であって、
前記金型を装入するための洗浄容器、
前記洗浄容器内へ洗浄用溶媒を供給するための供給手段、
前記洗浄用溶媒を液状に維持しつつ120〜250℃に加熱するための加熱手段、
洗浄廃液を前記洗浄容器の外へ排出するための排出手段、
を備えていることを特徴とする金型の洗浄装置。
【請求項7】
乾燥用の熱風吹込み手段を備えている請求項6に記載の洗浄装置。
【請求項8】
不要物質が付着した金型の洗浄装置であって、
前記金型の不要物質が付着している面を洗浄容器の一部として構成するための密封手段、
前記洗浄容器内へ洗浄用溶媒を供給するための供給手段、
前記洗浄用溶媒を加熱するための加熱手段、
洗浄廃液を前記洗浄容器の外へ排出するための排出手段、
を備えていることを特徴とする金型の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−62253(P2006−62253A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248948(P2004−248948)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】