説明

金型の芯出し構造およびその方法

【課題】第1の金型と第2の金型が複雑な形状であっても、両金型間のクリアランスを精度よく容易に形成して、芯出しを正確且つ容易に行うことができる金型の芯出し構造およびその方法を提供する。
【解決手段】第1の金型としてのパンチ1と、第2の金型としてのダイス2と、パンチ1をプレス方向と直交する方向に移動するのを許容して位置決めする固定手段3とを備えており、パンチ1をダイス2に対して近接移動させてダイス穴20に挿入させることにより所定の成形を行う金型において、ダイス穴20に対してパンチ1を芯出しするためのもので、パンチ1の成形時にダイス穴20に挿入される部分よりも基端側に、ダイス穴20に対して設定されたパンチ1のクリアランスCに相当する厚さTを有する被膜5が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の芯出し構造およびその方法に関し、さらに詳しくは、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて進入させることにより所定の成形を行う金型の芯出し構造およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、板材の打ち抜き成形や、粉体材料の圧造成形などを行うための金型として、図7に示すように、第1の金型としてパンチ1’と第2の金型としてダイス2’とを備えてなり、ダイス2’のダイス穴20’に対してパンチ1’が挿入されるよう構成されたものがある。ダイス2’とパンチ1’は、それぞれダイセットに取り付けられ保持されており、ダイス2’を保持する下ダイセットは固定され、パンチ1’を保持する上ダイセット10’は、ダイス穴20’の軸線にダイス1’の軸線を一致させるよう移動可能に、且つ、軸線が一致した位置でパンチ1‘を固定することができるよう構成されている。
【0003】
そして、このようにダイス穴20’にパンチ1’を挿入するような金型では、成形する際にダイス穴20’とパンチ1’が接触することによる所謂カジリや、焼付き、欠けなどが生じないように、たとえば挿入することにより対向することとなるダイス穴20’の内周面とパンチ1’の側面との間にクリアランスC(図8)が形成されている。このクリアランスCは、たとえば、最小クリアランス0.01mmにパンチ1‘とダイス2’との各成形公差(0.02mm)を加えて、0.01〜0.05mmに設定されている。また、ダイス2‘とパンチ1’からなる金型以外で、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて進入させることにより所定の成形を行う他の形式の金型においても、第1の金型と第2の金型との成形時に対向する部分の間にクリアランスが設定されている。ここで、「第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて進入させることにより所定の成形を行う金型」とは、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させることにより、第1の金型と第2の金型がプレス方向と直交する方向に重なり互いに対向することとなる部分を生じさせて、せん断加工や、曲げ加工、絞り加工、あるいは粉体材料の圧造成形などのプレス加工を行うための金型をいい、たとえばダイス2’とパンチ1’とを備えてなる金型の場合には、ダイス穴20’にパンチ1’を挿入させた状態が第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に進入させた状態を意味する。
【0004】
ダイスとパンチからなる金型のように、成形時に第1、第2の金型が相対的に互い進入する金型において、パンチを芯出しして位置決めし上ダイセットに固定する場合、従来では一般に、組付作業者の手作業により、パンチをダイス穴に挿入し、パンチの側面とダイス穴の内周面との間のクリアランスを目視と感触で調整し、その位置に固定していた。
【0005】
また、上述したようなダイスとパンチを有する金型の芯出し構造およびその方法として、特許文献1が知られている。
特許文献1には、穴部が設けられたダイスと、前記穴部に対応する形状が先端部に形成されたパンチと、当該パンチへの固定をなし前記先端部を前記穴部に対し出し入れ可能とする昇降手段とを有した金型の芯出し構造であって、前記穴部との嵌合により前記穴部に対し前記先端部の芯出しをなす位置決め部を前記パンチの先端部より後端側に形成するとともに、前記昇降手段の移動範囲を少なくとも前記位置決め部が前記穴部に達するまで設定したことなどを特徴とする金型の芯出し構造が開示されている。
【0006】
また、特許文献1には、ダイスに対し、パンチの芯出しを行う金型の芯出し方法であって、前記パンチの先端部より後端側に形成され前記先端部の芯出しをなす位置決め部を前記ダイスに形成された穴部に挿入し、当該穴部に対する前記先端部の芯出しを行い、前記ダイスに対する前記パンチの相対位置を固定することを特徴とする金型の芯出し方法が開示されている。
【0007】
そして、特許文献1には、パンチ有効部となる先端部とダイスの貫通孔との間には一定のクリアランスが生じており、位置決め部の端面形状が先端部の端面を外方に向かって一定の寸法だけオフセットさせた形状としていることが記載されている(0032,0033)。すなわち、特許文献1では、ダイスの貫通孔(ダイス穴)に対する先端部のクリアランスよりも位置決め部のクリアランスのほうが小さく設定されており、この位置決め部をダイスの貫通孔に挿入させることにより、この貫通孔(ダイス穴)に対する先端部の芯出しができるようになっている。また、特許文献1には、「 なお本実施の形態では、上部パンチを一体形状として説明を行うが、この形態に限定されることもなく、例えば先端部24、位置決め部26、連結部28を全て別体にて構成したり、あるいは先端部24と位置決め部26のいずれか一方と連結部28とを一体で形成するようにしてもよい。」などと記載されている(0031)。
【0008】
さらに、特許文献1には「複雑形状からなるパンチ52では、必ずしも位置決め部54は、先端部56と必ずしも相似形である必要はなく、前記先端部56が貫通穴内で芯出しができるだけの摺動面で構成されていればよい。」(0056)、「 このように位置決め部54は、先端部56の芯出し方向を規制すればよいことから、必ずしも前記先端部56と同様の形状にする必要はなく、その形状を簡略化することができる。」(0057)とも記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2003−145298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来の技術のうち、組付作業者の手作業により芯出しを行う場合にあっては、その組付作業者の熟練度によってはダイス穴に対するパンチのクリアランスを全周にわたって一定の状態に安定して位置決め固定することが困難であるという問題や、芯出しに手間と労力が必要となるなどの問題があった。そして、たとえば平面図で示した図2に参照されるように、成形する製品Pが複雑な形状である場合には特に、その製品成形用金型の芯出しを正確に行う必要があるが、手作業では芯出しを正確に行うことができず、図8に示すようにダイス穴20’に対するパンチ1’のクリアランスCが大きい部分CLと小さい部分CSが生じて一定とならず、また、図7に示したようにクリアランスCが最小であるゼロつまりダイス穴20’の内周面にパンチ1’の外側面が接触すると、カジリや焼付きKが生じるという問題があり、クリアランスCがゼロとならなくても、製品Pを精度よく成形することができないなどの問題があった。
【0011】
また、上記従来の技術のうち、特許文献1にあっては、パンチの位置決め部を先端部や連結部と一体または別体で構成すると記載されているが、このパンチの位置決め部をどのようにして成形するかは開示されていない。パンチの位置決め部と先端部を切削などの除去加工により成形する場合には、図9に示すように、パンチ1’の位置決め部の大きさや形状に応じた粗材Sを用意し、パンチ1’としてダイス穴20’に挿入される部分、つまりこの粗材Sの中間部から下方(図9の場合二点鎖線で示した部分)の側面をクリアランスCに相当する厚さTを除去加工して小さく成形して、除去加工しない部分を芯出し部5’とすることが考えられる。
【0012】
しかしながら、特に図2に平面図で示したような複雑な形状の製品Pを成形するための金型の場合に、クリアランスに相当する厚さTを精度よく除去加工することは困難であり、また加工コストが高くなるなどの問題があった。また、特許文献1に記載されているように、位置決め部の形状を簡略化した場合であっても、このわずかなクリアランスCに相当するような大きさに位置決め部を精度よく成形することが困難であることは、同様である。さらに、このようにして成形されたパンチの位置決め部は、ダイス穴に挿入して芯出しする際にぶつかるなどして損傷した場合に、その補修が困難であるという問題もあった。さらにまた、クリアランスの設定を変更する場合には、その都度、位置決め部の大きさが異なるパンチを用意する必要があるという問題もあった。
【0013】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたもので、第1の金型と第2の金型が複雑な形状であっても、両金型間のクリアランスを精度よく容易に形成することができ、しかも、芯出しを正確且つ容易に行うことができる金型の芯出し構造およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の金型の芯出し構造に係る発明は、上記目的を達成するため、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて進入させることにより所定の成形を行う金型の芯出し構造であって、前記第1の金型と第2の金型との一方の、成形時に他方の金型と対向する部分よりも基端側に、前記対向する部分の間に設定されるクリアランスに相当する厚さを有する被膜が形成されていることを特徴とするものである。
請求項2の金型の芯出し構造に係る発明は、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明において、一方の金型の、成形時に他方の金型と対向する部分と、被膜が形成されている部分とが同一断面形状に形成されていることを特徴とするものである。
また、請求項3の金型の芯出し方法に係る発明は、上記目的を達成するため、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて進入させることにより所定の成形を行う金型の芯出し方法であって、前記第1の金型と第2の金型との一方の、成形時に他方の金型と対向する部分よりも基端側に、前記対向する部分の間に設定されるクリアランスに相当する厚さで被膜が形成された金型を準備し、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて前記被膜が形成された部分を他方の金型に進入させて、第1の金型と第2の金型とのプレス方向と直交する方向の相対位置を調整し固定することを特徴とするものである。
請求項4の金型の芯出し方法に係る発明は、上記目的を達成するため、請求項3に記載の発明において、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて前記被膜が形成された部分を他方の金型に進入させる前に、第1の金型と第2の金型との相対進入位置を、前記被膜が形成された部分が他方の金型と対向するのを許容し且つ前記第1の金型と第2の金型が衝合しないように制限する制限部材を配置することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、第1の金型と第2の金型との一方の、成形時に他方の金型と対向する部分よりも基端側に、前記対向する部分の間に設定されるクリアランスに相当する厚さを有する被膜が形成されていることにより、両金型の対向する部分に設定されるクリアランスに相当する厚さで被膜を一方の金型に正確且つ容易に形成することができるため、第1の金型と第2の金型が複雑な形状であっても、両金型の対向する部分にクリアランスを精度よく容易に形成することができ、したがって、芯出しを正確且つ容易に行うことが可能な金型の芯出し構造を提供することができる。
請求項2の発明によれば、請求項1に記載の発明において、一方の金型の、成形時に他方の金型と対向する部分と、被膜が形成されている部分とが同一断面形状に形成されていることにより、第1の金型と第2の金型が複雑な形状であっても容易に成形され、かかる形状に関係なく容易に正確な厚さで被膜を形成することができるため、成形時に他方の金型と対向する部分と他方の金型との間のクリアランスを精度よく容易に形成することができ、したがって、芯出しを正確且つ容易に行うことが可能な金型の芯出し構造を提供することができる。
また、請求項の3の発明によれば、第1の金型と第2の金型との一方の、成形時に他方の金型と対向する部分よりも基端側に、前記対向する部分の間に設定されるクリアランスに相当する厚さで被膜が形成された金型を準備することにより、第1の金型と第2の金型が複雑な形状であっても、両金型の対向する部分に設定されるクリアランスに相当する厚さで被膜を一方の金型に正確且つ容易に形成することができるため、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて前記被膜が形成された部分を他方の金型に進入させて、第1の金型と第2の金型とのプレス方向と直交する方向の相対位置を調整し固定することにより、両金型の対向する部分にクリアランスを精度よく容易に形成することができ、したがって、芯出しを正確且つ容易に行うことが可能な金型の芯出し方法を提供することができる。
請求項4の発明によれば、請求項3に記載の発明において、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて前記被膜が形成された部分を他方の金型に進入させる前に、第1の金型と第2の金型との相対進入位置を、前記被膜が形成された部分が他方の金型と対向するのを許容し且つ前記第1の金型と第2の金型が衝合しないように制限する制限部材を配置することにより、確実に第1の金型と第2の金型との一方に形成された被膜を他方の金型に対して進入させることができ、また、第1の金型と第2の金型が衝合して傷付くのを防止することができるため、両金型の相互のクリアランスを精度よく容易に形成することができ、したがって、芯出しを正確且つ容易に行うことが可能な金型の芯出し方法を提供することができる。
【0016】
(発明の態様)
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に相当し、(4)項が請求項3に相当し、(5)項が請求項4に相当する。
【0017】
(1) 第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて進入させることにより所定の成形を行う金型の芯出し構造であって、
前記第1の金型と第2の金型との一方の、成形時に他方の金型と対向する部分よりも基端側に、前記対向する部分の間に設定されるクリアランスに相当する厚さを有する被膜が形成されていることを特徴とする金型の芯出し構造。
【0018】
(1)項に記載の発明では、第1の金型と第2の金型のいずれか一方に被膜が形成されている。この被膜は、第1の金型と第2の金型が複雑な形状であっても、成形時に他方の金型と対向する部分よりも基端側の位置に、両金型の対向する部分に設定されるクリアランスに相当する厚さで容易に且つ正確に形成することができる。そして、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて被膜が形成された部分を他方の金型に進入させることにより、第1の金型と第2の金型とのプレス方向と直交する方向の相対位置が正確且つ容易に調整され芯出しされる。この状態で第1の金型と第2の金型とのプレス方向と直交する方向の相対位置を固定する。
【0019】
(2) 一方の金型の、成形時に他方の金型と対向する部分と、被膜が形成されている部分とが同一断面形状に形成されていることを特徴とする(1)項に記載の金型の芯出し構造。
【0020】
(2)項に記載の発明では、(1)項に記載の発明において、一方の金型の、成形時に他方の金型と対向する部分と、被膜が形成されている部分とを同一断面形状とすることにより、複雑な形状であっても第1の金型と第2の金型を容易に成形し、かかる形状に関係なく容易に正確な厚さで被膜を形成することができるため、成形時に他方の金型と対向する部分と他方の金型との間のクリアランスを精度よく容易に形成することができ、したがって、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて被膜が形成された部分を他方の金型に進入させることにより、第1の金型と第2の金型とのプレス方向と直交する方向の相対位置を正確且つ容易に調整して芯出しすることができる。
【0021】
(3) 第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて前記被膜が形成された部分を他方の金型に進入させるときに、第1の金型と第2の金型との相対進入位置を、前記被膜が形成された部分が他方の金型と対向するのを許容し且つ前記第1の金型と第2の金型が衝合しないように制限する制限部材を有することを特徴とする(1)または(2)項に記載の金型の芯出し構造。
【0022】
(3)項に記載の発明では、(1)または(2)項に記載の発明において、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて前記被膜が形成された部分を他方の金型に進入させるに先立って、第1の金型と第2の金型との相対進入位置を、前記被膜が形成された部分が他方の金型と対向するのを許容し且つ前記第1の金型と第2の金型が衝合しないように制限する制限部材を配置しておく。これにより、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて前記被膜が形成された部分を他方の金型に確実に進入さて対向させ、第1の金型と第2の金型とのプレス方向と直交する方向の相対位置を正確且つ容易に調整して芯出しすることができ、しかも、両金型が衝合して傷付くのを防止することができる。
【0023】
(4) 第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて進入させることにより所定の成形を行う金型の芯出し方法であって、
前記第1の金型と第2の金型との一方の、成形時に他方の金型と対向する部分よりも基端側に、前記対向する部分の間に設定されるクリアランスに相当する厚さで被膜が形成された金型を準備し、
第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて前記被膜が形成された部分を他方の金型に進入させて、第1の金型と第2の金型とのプレス方向と直交する方向の相対位置を調整し固定することを特徴とする金型の芯出し方法。
【0024】
(4)項に記載の発明では、第1の金型と第2の金型との一方の、成形時に他方の金型と対向する部分よりも基端側に被膜が形成された金型を準備する。この被膜は、前記対向する部分の間に設定されるクリアランスに相当する厚さで容易に勝つ正確に形成することができる。そして、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて被膜が形成された部分を他方の金型に進入させることにより、第1の金型と第2の金型とのプレス方向と直交する方向の相対位置が正確且つ容易に調整され芯出しされる。この状態で第1の金型と第2の金型とのプレス方向と直交する方向の相対位置を固定する。
【0025】
(5) 第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて前記被膜が形成された部分を他方の金型に進入させる前に、第1の金型と第2の金型との相対進入位置を、前記被膜が形成された部分が他方の金型と対向するのを許容し且つ前記第1の金型と第2の金型が衝合しないように制限する制限部材を配置ことを特徴とする(4)項に記載の金型の芯出し構造
【0026】
(5)項に記載の発明では、(4)項に記載の発明において、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて前記被膜が形成された部分を他方の金型に進入させる前に、第1の金型と第2の金型との相対進入位置を、前記被膜が形成された部分が他方の金型と対向するのを許容し且つ前記第1の金型と第2の金型が衝合して傷が付くのを防止し制限する制限部材を配置しておき、この状態で、第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて前記被膜が形成された部分を他方の金型に進入させる。これにより、確実に第1の金型と第2の金型との一方に形成された被膜を他方の金型に対して進入させることができるため、第1の金型と第2の金型とのプレス方向と直交する方向の相対位置を正確且つ容易に調整して芯出しすることができ、また、第1の金型と第2の金型が衝合して傷付くのを防止することができる。
【0027】
(6) 前記制限部材として、弾性体を使用することを特徴とする(5)項に記載の金型の芯出し方法。
【0028】
(6)項に記載の発明では、(5)項に記載の発明において、制限部材として、弾性体を使用することにより、確実に第1の金型と第2の金型との一方に形成された被膜を他方の金型に対して確実に進入させることができ、また、第1の金型と第2の金型が衝合して傷付くのを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
最初に、本発明の金型の芯出し構造の実施の一形態を、金型がダイスとパンチとからなりダイス穴にパンチを挿入するものである場合により、図1〜図4に基づいて詳細に説明する。図において同じ符号は、同様または相当する部分を示すものとする。
本発明の芯出し構造は、概略、第1の金型としてのパンチ1と、第2の金型としてのダイス2と、パンチ1をプレス方向と直交する方向に移動するのを許容して位置決めする固定手段3とを備えており、パンチ1をダイス2に対して近接移動させてダイス穴20に挿入させることにより所定の成形を行う金型において、ダイス穴20に対してパンチ1を芯出しするためのもので、パンチ1の成形時にダイス穴20に挿入される部分よりも基端側に、ダイス穴20に対して設定されたパンチ1のクリアランスCに相当する厚さTを有する被膜5が形成されている。そして、パンチ1は、成形時にダイス穴20の内周面と対向する先端部分と、被膜5が形成される部分とが同一断面形状に形成されている。さらに、パンチ1をダイス2に対してプレス方向(図1などでは垂直方向)に相対的に近接移動させて芯出しするときにダイス穴20内に配置されて、ダイス穴20に対するパンチ1の挿入を、パンチ1の被膜5を形成した部分がダイス穴20に挿入されてその内周面と対向するのを許容し、且つ、パンチ1がダイス穴20の底に衝突しないように制限する制限部材6を備えている。
【0030】
この実施の形態におけるパンチ(以下、上パンチと称する)1は、固定手段3により上ダイセット10に保持されるベース部材11と、ベース部材11に対してボルト12により着脱可能に取り付けられる先端部材13とから構成されている。ベース部材11の上端(基端)には径方向外側に突出するフランジ部11aが形成されている。先端部材13は、たとえば図2に平面図で示したような形状の製品Pを成形する場合、その製品Pの形状に応じて相似形の断面で(つまり外側面の形状で)、ベース部材11と接する基端から先端までが、図3に示すように同一形状に成形されている。そして、先端部材13は、後述するダイス穴20の内周面に対して所定のクリアランスC(たとえば、0.01〜0.03mm)を有する大きさに、すなわち、ダイス穴20の内周面よりも小さく成形されている。このような上パンチ1の先端部材13の外側面の形状は、ワイヤカット放電加工などにより、容易に成形することができる。先端部材13の中央には、後述する下パンチ22に設けられたコアロッド23が挿通される孔14が形成されている。
【0031】
固定手段3は、上パンチ1のフランジ11aを受ける締付リング30と、上ダイセット10に挿通されて締付リング30に螺合されるボルト31とを備えている。締付リング30は、その内側に上パンチ1のフランジ11aを受けるための段部30aを有している。上パンチ1のフランジ11aの外周と締付リング30の段部30aの内周との間には、上パンチ1のプレス方向と直交する方向(図1などでは水平方向)への移動を許容するための隙間が形成されている。ボルト31を締め付けることにより、上パンチ1のフランジ11aが締付リング30によって上ダイセット10の下面に押し付けられて固定され、ボルト31を緩めることにより、図5に参照されるように、締付リング30の段部30aにフランジ11aが保持された状態で上パンチ1がプレス方向と直交する方向に移動することが可能となる。
【0032】
ダイス2は、ダイス穴20の内周面を構成するダイ本体21と、このダイ本体21内に昇降可能に挿通された下パンチ22とを備えている。下パンチ22は、上述した上パンチ1と同様にベース部材41とベース部材41に対してボルト42により着脱可能に取り付けられる先端部材43とからなるもので、先端部材43の上面がダイス穴20の底を構成している。そして、下パンチ22の中心には、コアロッド23が挿通されている。ダイ本体21の内周面は、成形する製品Pの形状に応じて、たとえば図2に平面図で示したような形状の製品Pを成形する場合、その製品Pの形状に応じた断面形状に成形されている。
【0033】
図4に示すように、上パンチ1の先端部材13は、通常の成形時(図6を参照)にダイス穴20へ挿入される深さよりも基端側(上側)に被膜5が形成されている。被膜5は、窒化チタンあるいは炭化チタンやアルミナなどの硬質物質を、真空蒸着やイオンプレーティング、スパッタリングなどの物理蒸着法あるいは化学蒸着法により被覆処理するもので、これらの蒸着法では、上パンチ1の先端部材13の側面が上述したように複雑な形状であっても、容易に被膜5を形成することができ、しかも、被膜5の被覆する厚さTを容易に制御することができる。そして、その厚さTは、ダイス穴20の内周面と上パンチ1の先端部材13の外側面との間のクリアランスCから、ダイス穴20の内周面と被膜5の外側面とのはめあいに要する隙間を差し引いた厚さに、すなわち、成形時に対向する上パンチ1の先端部材13とダイス穴20の内周面との間の設定されるクリアランスCに相当する厚さTに正確に形成することができる。そして、被膜5が削れるなど損傷したものを補修したり、クリアランスCの設定を変更するなどのためにダイス穴20の大きさを変更するなどの場合には、被膜5を重ねて被覆させたり、形成されていた被膜5を一度取り除いてから、新たに被膜5を形成し直すことも容易に行うことができる。
【0034】
なお、この実施の形態では、第1および第2の金型のうちの他方として、ダイス2に下パンチ22が含まれている。しかしながら、本発明では、第1および第2の金型のうちの一方を下パンチ22とするとともに、他方をダイス2と上パンチ1とした構成の金型が含まれ、また、下パンチ22を上パンチ1と同様に構成して、第1および第2の金型のうちの一方を上パンチ1と下パンチ22とし、他方をダイス2とした構成の金型が含まれる。さらに、本発明では、第1および第2の金型のうちの一方をせん断刃や曲げ刃とするとともに、他方を板材などの素材を支持するパッドとするなど、他の加工を行う金型が含まれる。
【0035】
次に、本発明の金型の芯出し方法の実施の一形態を、上述したように構成された金型の芯出し構造を用いる場合によって、主に図5および図6に基づいて詳細に説明する。
本発明の金型の芯出し方法は、概略、第1の金型としてのパンチ1と、第2の金型としてのダイス2と、パンチ1をプレス方向と直交する方向に移動するのを許容して位置決めする固定手段3とを備えており、パンチ1をダイス2に対して近接移動させてダイス穴20に挿入させることにより所定の成形を行う金型において、ダイス穴20に対してパンチを芯出しするためのものであって、成形時にダイス穴20に挿入される部分よりも基端側に、ダイス穴20に対して設定されたパンチ1のクリアランスCに相当する厚さを有する被膜5が形成されたパンチ1を準備し、固定手段3による固定を解除した状態でパンチ1をプレス方向に相対的に近接移動させて、パンチ1の被膜5が形成された部分をダイス穴20に挿入することにより、ダイス穴20に対するパンチ1のプレス方向と直交する方向の位置を調整し、その位置で固定手段3によりパンチ1を固定するものである。さらに、ダイス穴20内に弾性体からなる制限部材6を配置した状態で、パンチ1をダイス2に対してプレス方向に相対的に近接移動させることにより、パンチ1の被膜5がダイス穴20に挿入されるのを許容し、且つ、パンチ1がダイス穴20の底に衝突するのを防止するものである。
【0036】
上述したように構成された金型のダイス2に対する上パンチ1の芯出しを行うに際しては、上パンチ1を保持する上ダイセット10と、ダイス2および下パンチ22を保持する下ダイセットは、プレス装置の間から取り出されている。そして、上パンチ1の先端部材13の上方には、後述するように所定の厚さTを有する被膜5が形成されている。被膜5を形成するときには、その工程を容易に行えるようにするために、ボルト12を抜いてベース部材11から先端部材13を離脱させることができる。先端部材13に被膜5を形成する位置は、通常の成形時に先端部材13のダイス穴20に挿入される部分よりも基端側(上側)である。また、被膜5を形成する厚さTは、ダイス穴20の内周面と上パンチ1の先端部材13の外側面との間のクリアランスCから、ダイス穴20の内周面と被膜5の外側面とのはめあいに要する隙間を差し引いた厚さに、すなわち、成形時に対向する上パンチ1の先端部材13の外側面とダイス穴20の内周面との間に設定されるクリアランスCに相当する厚さTに形成される。被膜5は、窒化チタンあるいは炭化チタンやアルミナなどの硬質物質を、真空蒸着やイオンプレーティング、スパッタリングなどの物理蒸着法あるいは化学蒸着法により被覆処理するもので、これらの蒸着法では、上パンチ1の先端部材13が図2に示したような複雑な形状であっても、容易に被膜5を形成することができ、しかも、被膜5の被覆する厚さTを容易に制御することができる。なお、上パンチ1の先端部材に被膜5を形成するときに、被膜5を形成することなく通常の成形時(図6を参照)にダイス穴20に挿入される下方部分には、この部分に被膜5が形成されないように、マスキングを施してもよい。
【0037】
被膜5が形成された先端部材13は、ボルト12によりベース部材11に取り付けられて、上パンチ1が構成される。そして、ベース部材11のフランジ11aを締付リング30の段部30aに係合し、上ダイセット10に挿通されたボルト31を締付リング30に螺合する。また、ダイス穴20の内部には、ウレタン樹脂など弾性体からなる制限部材6を投入しておく。この状態で上ダイセット10に保持された上パンチ1をダイス穴20に挿入すると、図5に示すように上パンチ1の下面とダイス穴20の底を構成する下パンチ22の先端部材43の上面との間に制限部材6が介在して、上ダイセット10に保持された上パンチ1の自重により先端部材13がその被膜5を形成した部分までダイス穴20に挿入されるのを許容し、且つ、先端部材13の下面がダイス穴20の底を構成する下パンチ22の先端部材43の上面に衝突して傷付くのを防止する。被膜5を形成した部分がダイス穴20に挿入されることにより、上パンチ1の軸線がダイス穴20の軸線と一致するよう位置決めされ(図5に一点鎖線で示した中心軸線を参照)、上パンチ1の被膜5が形成されていない下方の部分の外側面がダイス穴20の内周面に対して設定された一定のクリアランスCを全周にわたって安定して形成する。この状態で、締付リング30のボルト31を締め付けると、上パンチ1が芯出しされた状態で上ダイセット10に固定される。
【0038】
このようにして芯出しされた金型は、たとえば粉体材料の圧造成形を行う場合、図6に示すように、所定量の粉体材料Hをダイス穴20内に投入し、プレスのラムにより上ダイセット10を下降させて、ダイス穴20内で粉体材料Hに圧力を加えて、所定形状の製品Pに成形する。このとき、上パンチ1の先端部材13は、被膜5を形成されていない下方の部分だけがダイス穴20に挿入される。そのため、上パンチ1の外側面とダイス穴20の内周面との間に確実にクリアランスCが形成され、成形により被膜5が損傷することがない。そして、芯出しを行うときに被膜5が損傷した場合に補修したり、クリアランスCを変更設定する場合には、被膜5を重ねて被覆したり、形成されていた被膜5を一度取り除いてから、新たに被膜5を形成し直すことが容易にできる。成形された製品Pは、下パンチ22を上昇させることにより、ダイス穴20から取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の金型の芯出し構造の実施の一形態を説明するために示した一部断面図である。
【図2】本発明により成形される製品の形状の実施の一形態を説明するために示した平面図である。
【図3】被膜を形成する前の状態のパンチの実施の一形態を説明するために示した断面図である。
【図4】被膜が形成された状態のパンチを説明するために示した一部断面図である。
【図5】本発明により金型の芯出しを行う状態を説明するために示した一部断面図である。
【図6】本発明による金型の通常の成形を行う状態を説明するために示した一部断面図である。
【図7】従来の一般的な金型の芯出し構造でかじりや焼付きが生じ状態を説明するために示した一部断面図である。
【図8】従来の一般的な金型において、芯出しを正確に行うことができず、部分によってクリアランスの大きい部分と小さな部分が形成された状態を説明するために示した部分横断断面図である。
【図9】従来の一般的な金型において、パンチの下方側面を除去加工することにより、ダイス穴の内周面に対するクリアランスが形成されたパンチを説明するために示した一部断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1:上パンチ(一方の金型)、 2:ダイス(他方の金型)、 3:固定手段、 5:被膜、 6:制限部材、 20:ダイス穴、 C:クリアランス、 T:被膜の厚さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて進入させることにより所定の成形を行う金型の芯出し構造であって、
前記第1の金型と第2の金型との一方の、成形時に他方の金型と対向する部分よりも基端側に、前記対向する部分の間に設定されるクリアランスに相当する厚さを有する被膜が形成されていることを特徴とする金型の芯出し構造。
【請求項2】
一方の金型の、成形時に他方の金型と対向する部分と、被膜が形成されている部分とが同一断面形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金型の芯出し構造。
【請求項3】
第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて進入させることにより所定の成形を行う金型の芯出し方法であって、
前記第1の金型と第2の金型との一方の、成形時に他方の金型と対向する部分よりも基端側に、前記対向する部分の間に設定されるクリアランスに相当する厚さで被膜が形成された金型を準備し、
第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて前記被膜が形成された部分を他方の金型に進入させて、第1の金型と第2の金型とのプレス方向と直交する方向の相対位置を調整し固定することを特徴とする金型の芯出し方法。
【請求項4】
第1の金型と第2の金型をプレス方向に相対的に近接移動させて前記被膜が形成された部分を他方の金型に進入させる前に、第1の金型と第2の金型との相対進入位置を、前記被膜が形成された部分が他方の金型と対向するのを許容し且つ前記第1の金型と第2の金型が衝合しないように制限する制限部材を配置することを特徴とする請求項3に記載の金型の芯出し方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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