説明

金型の製造方法及び光学素子

【課題】母型部材の成形面の加工痕が電鋳型に転写されることに起因する不要な回折光の発生を防止し、この電鋳型を用いて成形される成形品の反射率を低減する。
【解決手段】光学レンズ30は、電鋳型の成形面が転写されて形成された光学面32を有し、この光学面32は加工痕33、及びこの加工痕33の表面に形成された所定形状の反射防止構造体34からなり、加工痕33の周期Aと加工痕33に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値Bとの比B/Aが1/100未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を成形する金型の製造方法及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子では、光学面での不要な回折光を減少させるために表面を鏡面に仕上げたり、また、反射率を低下させるために光学面に凹凸構造等の反射防止構造が施されたりしたものが公知である。
【0003】
この反射防止構造に関し、例えば、特許文献1では、光学素子の成形用の金型部材をダイヤモンドバイトなどで切削加工して、成形面を形成し、さらに、切削条件を変更することで、変化する加工痕の厚さ方向をシフトさせ、その後、成形面に反射防止構造を形成する技術が提案されている。
【0004】
また、前述したシフト量と反射防止構造の高さとの関係を使用光の波長をもとに定義することで、不要な回折光やフレア光が発生しない光学性能を備えるようにした点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−298918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、得られる光学性能が使用光の波長に依存し、使用光の波長が700nmのように長くなる場合には、加工痕の厚さ方向の許容されるシフト量の範囲も広くなるため、不要な回折光が発生し光学性能を損なうおそれがあった。
【0007】
本発明は斯かる課題を解決するためになされたもので、成形面に起因する不要な回折光の発生を防止するとともに、成形面に反射防止構造を設けた金型の製造方法及び光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る金型の製造方法は、光学素子を成形する金型の製造方法において、母型部材の成形面を所定形状に加工する加工工程と、加工後の前記成形面を、ガスクラスターイオンビームを用いて平滑化する平滑化工程と、平滑化後の前記成形面に所定形状の反射防止構造体を形成する反射防止構造体形成工程と、前記反射防止構造体が形成された母型から電鋳型を作製する電鋳型作製工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明は、上記発明において、前記平滑化工程後の前記成形面に残存する加工痕の周期Aが前記反射防止構造体の周期Cよりも大きく、かつ、前記周期Aと前記加工痕に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値Bとの比B/Aが1/100未満であることを特徴とする。
【0010】
本発明は、上記発明において、前記反射防止構造体形成工程にて、前記反射防止構造体を、陽極酸化法を用いて形成することを特徴とする。
本発明は、上記発明において、前記母型部材の前記成形面が曲面をなしていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る光学素子は、成形型の成形面が転写されてできた光学面を有する光学素子において、前記光学面に転写された前記成形面の加工痕、及び当該加工痕の表面に形成された所定形状の反射防止構造体を有し、前記加工痕の周期Aと当該加工痕に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値Bとの比B/Aが1/100未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成形面に起因する不要な回折光の発生を防止するとともに、成形面に反射防止構造を設けた金型の製造方法及び光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】母型部材の外観を示す図である。
【図2】母型部材に成形面を形成した断面図である。
【図3A】成形面における加工痕の平面図である。
【図3B】同上のIII−III方向に沿う拡大断面図である。
【図4A】成形面の表面にそのまま反射防止構造体を形成した場合の平面図である。
【図4B】同上のそのIV−IV方向に沿う拡大断面図である。
【図5】母型部材の成形面を平滑化する状態の断面図である。
【図6A】平滑化後の成形面の平面図である。
【図6B】同上のそのVI−VI方向に沿う拡大断面図である。
【図7A】反射防止構造体付きの母型の断面図である。
【図7B】同上の部分拡大断面図である。
【図8A】反射防止構造付きの母型に電鋳部材を形成した状態の断面図である。
【図8B】電鋳型の断面図である。
【図9】電鋳型を加工して成形装置の固定側金型に使用した状態を示す図である。
【図10】成形された光学素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
(A)母型部材の成形面を加工する工程
図1は、母型(マスター型)部材11の外観を示す図である。
【0015】
図1に示すように、軸方向に所定の長さLを有する円柱状の母型部材11を準備する。
この母型部材11は、例えばアルミニウム(Al)からなる。母型部材11として、アルミニウム(Al)を用いるのは、後述する陽極酸化法により成形面に反射防止構造体14を形成する場合に好ましいためである。ただし、材質は必ずしもこれに限らず、陽極酸化法によって反射防止構造を形成できる部材であればよい。
【0016】
図2は、この母型部材11の軸方向の一端を切削加工(又は研削加工)して成形面12を形成した場合の断面図である。
すなわち、母型部材11の一端を、軸方向に沿う側面11aを基準としてダイヤモンドバイト等で切削加工(又は研削加工)することにより、所望の形状の成形面12を形成する。なお、この成形面12の所望の形状とは、本実施の形態では、球面を例として説明するが、これに限らない。例えば、平面、非球面、又は自由曲面等であってもよい。
【0017】
ここでの自由曲面とは、平面や球面などと違って初等関数では表わすことのできない曲面をいう。
また、母型部材11の軸方向に沿う側面11aは、後述する電鋳型16を作製した後の外径加工の基準面として用いられる。
【0018】
図3Aは、成形面12に形成された加工痕13の平面図であり、図3Bは、そのIII−III方向に沿う拡大断面図である。
図3Aに示すように、母型部材11の一端を切削加工等して成形面12を形成する際に、成形面12には輪帯状の加工痕13が形成される。この加工痕13は、バイトの刃先Rや工作機械の送りピッチによって不可避的に形成されるものである。
【0019】
また、図3Bに示すように、加工痕13の周期(幅)をA’、及び加工痕13に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値をB’とすると、そのアスペクト比(縦と横の長さの比)B’/A’は、切削工具の刃先R(刃先径)と送りピッチに依存する。
【0020】
なお、本実施の形態では、加工痕13の断面を三角波に近似した波形として示したが、これに限らず、例えば正弦波や2次曲線として定義してもよい。
ところで、成形面12に所定の加工痕13を有する金型を用いて光学素子を成形したとすると、その加工痕13の周期(幅)A’や、加工痕13に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値B’等に起因して、成形された光学素子に不要な回折光が発生することが知られている。
【0021】
ここで、本実施の形態における成形面12の表面の加工痕13を、表面粗さ測定機を用いて測定した。
その結果、加工痕13の周期(幅)A’が2μm、加工痕13に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値B’が15nmであった。このとき、アスペクト比はB’/A’=15/2000=1/133となる。
【0022】
この成形面12の表面を、実体顕微鏡で観察すると、不要な回折光が発生していた。なお、この不要な回折光は、目視によっても確認することが可能である。
また、アスペクト比B’/A’が小さければ(例えば、B’/A’=1/100未満)、可視光領域において不要な回折光の発生は低減できると考えられている。しかし、必ずしも、これに限らず、不要な回折光の発生が、アスペクト比B’/A’のみに依存するものではないとも考えられている。
【0023】
次に、図4Aは、成形面12の表面にそのまま反射防止構造体14を形成した場合の平面図であり、図4Bは、そのIV−IV方向に沿う拡大断面図である。
ここで、反射防止構造体14の周期(幅)をCとすると、周期(幅)Cは、100〜250nmである。このため、加工痕13の周期(幅)A’(2μm)の中に、複数の反射防止構造体14が形成される。
【0024】
この成形面12にある輪帯状の加工痕13とともに、反射防止構造体14の周期(幅)Cが、次工程の電鋳型16に転写される。なお、転写は圧力や温度などを最適化した条件で行われるものとする。
【0025】
このため、この電鋳型16を用いて射出成形などで成形した光学素子にも、輪帯状の加工痕13が転写される。こうして、成形される光学素子にも、加工痕13に基づく不要な回折光が発生し、光学性能を損なうおそれがある。
【0026】
そこで、本実施の形態では、加工痕13を平滑化して不要な回折光の発生を防止するとともに、その後、成形面12に反射防止構造体14を形成することとした。

(B)加工痕13に対してGCIB(ガスクラスターイオンビーム)を照射して平滑化する工程
図5は、母型部材11の成形面12を平滑化する状態の断面図である。
【0027】
本実施の形態では、図5に示すように、加工痕13を平滑化するために、母型部材11の成形面12にGCIB(ガスクラスターイオンビーム)17を照射する。このGCIB17は、数千の原子の塊をイオン化して成形面12に打ち付けるプロセスを用いる。この場合、ガス原子(ここではアルゴン)はぶどうの房のような塊になっている。また、本実施の形態では、GCIB17のソースガスには、アルゴンを用いた。
【0028】
こうして、母型部材11の成形面12にGCIB17を照射することによって、加工痕13の周期(幅)Aと加工痕13に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値Bとのアスペクト比B/Aを小さくした(図6B参照)。
【0029】
なお、加工痕13の周期(幅)A、A’と、加工痕13に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値B、B’との符号を、2種類用いたのは、単に平滑化の前後で区別したためである。
【0030】
本実施の形態では、GCIB17の照射による非接触による研磨加工方法を用いることで、通常の研磨加工では傷が付きやすいアルミニウム(Al)などの柔らかい材料の加工痕13も平滑化することができる。
【0031】
なお、本実施の形態では、GCIB17を照射した場合について説明したが、これに限らない。例えば、加工痕13が平滑化できれば、CMP(ケミカルメカニカルポリシング)など、他の研磨手段等を用いてもよい。
【0032】
なお、このCMPとは、機械的研磨技術を基本にし、それに加工液の化学反応を組み込んだ加工方法である。これによっても、母型部材11の成形面12の加工痕13を平滑化することが可能である。
【0033】
また、本実施の形態では、予め成形面12と同じ材料(アルミニウム)に、様々な周期(幅)A’の加工痕13を形成したのち、GCIB17を照射して、加工痕13の周期(幅)Aと山と谷の高さの差の最大値Bの変化量等を調査した。
【0034】
すなわち、母型部材11の成形面12を電鋳型16へ転写した場合に、成形面12の加工痕13が、不要な回折光の発生に及ぼす影響、ならびに、この電鋳型16を用いて射出成形などにより得られた光学素子(光学レンズ)への転写の影響等を調査した。
【0035】
図6Aは、平滑化後の成形面12の平面図であり、図6Bは、そのVI−VI方向に沿う拡大断面図である。
図6Bに示すように、母型部材11の成形面12にGCIB17を照射した後には、加工痕13に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値Bが8nmになった。なお、加工痕13の周期(幅)Aは、照射の前後で変わらなかった。こうして、成形面12を平滑化することができた。
【0036】
この場合、加工痕13の周期(幅)Aは2μmであるので、アスペクト比B/Aは8/2000=1/250となった。
この成形面12の表面を、実体顕微鏡で観察すると、不要な回折光の発生がなくなったことが確認できた。
【0037】
表1には、調査結果として、母型部材11の成形面12にGCIB17を照射した後の加工痕13の周期(幅)Aと、加工痕13に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値Bとの関係を示している。
【0038】
【表1】

すなわち、表1は、縦軸に加工痕13の周期(幅)Aを示し、横軸にGCIB17を照射した後の加工痕13に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値Bを示している。なお、縦軸の加工痕13の周期(幅)Aが100〜200nmの場合には、反射防止構造体14の周期(幅)Cが加工痕13の周期(幅)Aよりも大きくなるので除外した。
【0039】
この調査では、GCIB17を照射した後に加工痕13の山と谷の高さの差の最大値Bが10nm以下になっているときに、不要な回折光の発生がなくなっていた。このため、加工痕13の周期(幅)Aと加工痕13に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値Bのアスペクト比B/Aは、1/100未満が望ましいことがわかった。
【0040】
すなわち、アスペクト比B/Aが、1/100以上では不要な回折光が現れることが予想され、また、1/100未満では使用する光の波長を問わず不要な回折光が現れなかった。
【0041】
特に、表1において、縦軸の加工痕13の周期(幅)Aが300〜3000nmで、加工痕13に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値Bが1〜10nmの範囲内で、少なくともアスペクト比B/Aが1/100未満であれば、目視検査の結果では不要な回折光が現れなかった。
【0042】
なお、加工痕13を平滑化するためのCMPでは、粒径約100nmのシリカが入ったアルカリ性の研磨用スラリーと研磨パッドを用いて、母型部材11の成形面12を研磨するのがよい。
【0043】
この場合、研磨機の加重は、1mmあたり30〜50gfとなるようにする。また、研磨パッドと母型部材11の成形面12の回転数は50rpm前後とするのが好ましい。

(C)母型の成形面に反射防止構造体を形成する工程
図7Aは、反射防止構造体付きの母型18の断面図であり、図7Bは、その部分拡大断面図である。
【0044】
ここで、成形面12に所定形状の反射防止構造体14を形成する工程について説明する。
加工痕13を平滑化することで、不要な回折光の発生を防止することができるが、これとは別に、光学性能上、成形面12が転写されてできた光学素子の反射率を低下させる必要がある。そのために、成形面12に微小凹凸構造を有する反射防止構造体14を形成する。
【0045】
本実施の形態では、この反射防止構造体14を、陽極酸化法を用いて形成した。
この陽極酸化法では、電解液中で母型(マスター型)部材であるアルミニウム(Al)をプラス極に通電し、アルミニウム(Al)の表面(成形面12)に特異な形状をした厚い酸化皮膜を生成させる。この場合、電解液の種類によって、生成されるアルミニウム(Al)の酸化皮膜の形状は異なってくる。
【0046】
しかし、反射防止構造体14の形成方法は陽極酸化法に限らない。例えば、母型部材11に金属マスクを形成した後、反応性イオンエッチングを施す等により成形面12に微細凹凸構造の反射防止構造体14を形成してもよい。
【0047】
こうして、成形面12に微細凹凸構造を有する反射防止構造体14を形成する。
図7Bに示すように、この反射防止構造体14は、成形面12の面形状(加工痕13)に対して法線方向に突出するように形成されている。さらに、反射防止構造体14の表面が不導体である場合には、導電化処理としてニッケル膜(図示せず)をスパッタリングにより生成する。
【0048】
こうして、図7Aに示すように、母型部材11の成形面12に反射防止構造体14(さらに、反射防止構造体14を覆うニッケル膜を有する)が一体的に形成された反射防止構造体付きの母型18が形成される。
【0049】
(D)反射防止構造体付きの母型18から電鋳型16を作製する工程
図8Aは、反射防止構造付きの母型18に電鋳部材15を形成した状態の断面図、図8Bは、電鋳型16の断面図である。
【0050】
すなわち、図8Aに示すように、反射防止構造付きの母型18の表面を図示しない電鋳浴に浸して、ニッケルなどの金属を析出させて電鋳部材15を形成する。この後に、図8Bに示すように、電鋳部材15から反射防止構造体付きの母型18を離型して電鋳型16を作製する。
【0051】
図8Aにおいて、図示しない電鋳浴には、スルファミン酸ニッケルを主として、陰極に反射防止構造体付きの母型18を取り付け、陽極には、ニッケルなどの陽極板を設置する。スルファミン酸ニッケルメッキは、他の光沢ニッケルメッキ等と比較すると、内部応力が極めて小さいのが特徴である。
【0052】
次いで、陽極と陰極間に電流を流す。この場合、電流値や陽極及び陰極間の距離、ならびに時間を最適化して電鋳部材15の厚みを制御する。
次いで、図8Bに示すように、反射防止構造体14を水酸化カリウムなどで溶解することで、反射防止構造体付きの母型18を除去する。
【0053】
この結果、反射防止構造体14が反転された形状の成形面19を有する電鋳型16が得られる。この成形面19は、輪帯状の加工痕13の転写による不要な回折光のない、かつ反射率を低下させる性質の面を有している。
【0054】
本実施の形態によれば、母型部材11の成形面12を、GCIBを用いて平滑化し、さらに、平滑化後の成形面12に反射防止構造体14を、陽極酸化法を用いて形成したので、成形面12に残存する加工痕13が電鋳型16に転写されることに起因する不要な回折光の発生を防止することができるとともに、反射率を抑制することができる。
【0055】
(E)電鋳型16から光学レンズ30を成形する工程
図示しないが、電鋳型16を用いて光学レンズを成形するには、この電鋳型16に対し、旋盤等により所定の外径加工を施して所望の形状に加工する。さらに、この電鋳型16を用いて、射出成形や熱プレス法などの手法によって光学レンズ30(図10参照)を成形する。
【0056】
光学レンズ30の成形時には、圧力や温度などを最適化した成形条件を用いることで、電鋳型16の反射防止構造体14が反転した反射防止構造により、不要な回折光のない、かつ低反射率の光学レンズ30を作製することができる。
【0057】
図9は、電鋳型16を加工して固定側金型24に使用した状態を示す図である。
成形装置20は、対向配置された固定型21と可動型22とを有している。固定型21には、段付き孔23が形成されている。この段付き孔23に、反射防止構造体14’を有する固定側金型24(金型)がその外形面を固定型21への位置出し面として嵌挿されている。なお、この固定側金型24は、図8Bの電鋳型16と形状が異なっているが、説明の便宜上、これを加工して作製されたものとする。
【0058】
また、可動型22には、固定側金型24に対向する可動側金型25が嵌挿されている。
こうして、固定側金型24と可動側金型25との間に形成されたキャビティ26に溶融樹脂(光学材料)が充填されて、図10に示すような断面の光学レンズ30が成形される。
【0059】
この光学レンズ30は、円板状の基板部31に凸状の光学面32を有している。また、最適化した条件で転写されたものとして、その光学面32には、加工痕33と反射防止構造体34とが転写されている。このとき、図示しないが、図4Bに示したように、光学面32に転写された加工痕33の周期A(又はA’)と、加工痕13に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値B(又はB’)とのアスペクト比B/Aは、1/100未満となっている。
【0060】
なお、前記において、周期A(又はA’)と高さの差の最大値B(又はB’)、のようにカッコ書きで記載したのは、反射防止構造体14を有すれば平滑化工程の有無にかかわらず、アスペクト比B/Aが1/100未満の光学面を有する光学レンズ30であってもよいことを意味する。
【0061】
本実施の形態によれば、加工痕33の周期A(又はA’)と当該加工痕33に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値B(又はB’)とのアスペクト比B/Aが、1/100未満であることにより、成形された光学レンズ30の光学面32に不要な回折光が生じることはない。
【0062】
このため、さらに反射防止構造体14が転写された電鋳型16を用いて成形することで、図10に示すように、不要な回折光のないかつ低反射率の光学レンズ30を得ることができる。
【0063】
なお、本実施の形態においては、光学素子として光学レンズ30を製造する場合について述べたが、これに限らず、本発明は光学素子としてプリズムやレンズとプリズムからなる複合光学素子を製造する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
11 母型部材
12 成形面
13 加工痕
14 反射防止構造体
14’ 反射防止構造体
15 電鋳部材
16 電鋳型
17 ガスクラスターイオンビーム
18 反射防止構造体付きの母型
19 成形面
20 成形装置
21 固定型
22 可動型
23 段付き孔
24 固定側金型(金型)
25 可動側金型
26 キャビティ
30 光学レンズ(光学素子)
31 基板部
32 光学面
33 加工痕
34 反射防止構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子を成形する金型の製造方法において、
母型部材の成形面を所定形状に加工する加工工程と、
加工後の前記成形面を、ガスクラスターイオンビームを用いて平滑化する平滑化工程と、
平滑化後の前記成形面に所定形状の反射防止構造体を形成する反射防止構造体形成工程と、
前記反射防止構造体が形成された母型から電鋳型を作製する電鋳型作製工程と、を有する
ことを特徴とする金型の製造方法。
【請求項2】
前記平滑化工程後の前記成形面に残存する加工痕の周期Aが前記反射防止構造体の周期Cよりも大きく、かつ、前記周期Aと前記加工痕に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値Bとの比B/Aが1/100未満である
ことを特徴とする請求項1に記載の金型の製造方法。
【請求項3】
前記反射防止構造体形成工程にて、前記反射防止構造体を、陽極酸化法を用いて形成する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の金型の製造方法。
【請求項4】
前記母型部材の前記成形面が曲面をなしている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の金型の製造方法。
【請求項5】
金型の成形面が転写されてできた光学面を有する光学素子において、
前記光学面に転写された前記成形面の加工痕、及び当該加工痕の表面に形成された所定形状の反射防止構造体を有し、
前記加工痕の周期Aと当該加工痕に引いた接線に対して直交する法線方向の山と谷の高さの差の最大値Bとの比B/Aが1/100未満である
ことを特徴とする光学素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−42063(P2011−42063A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190483(P2009−190483)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】