説明

金型スタンパーの製造方法、金型スタンパー及び成形品の製造方法

【課題】非平面上に所定のパターン構造が形成された製品を実現することができ、その製品の生産性を向上させることができる、金型スタンパー、金型スタンパーの製造方法、及びその製品(成形品)の製造方法を提供すること。
【解決手段】板材5の、モスアイ構造が形成された形成面52が、連続体である樹脂13をコアとして、スタンパー成形金型10のキャビティ7に対応した球面形状に成形される。これにより、その形成面52の全体形状が球面形状に形成されるので、球面上に形成されたモスアイ構造を有する金型スタンパー5’を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品の製造時に金型として用いられる金型スタンパー、その金型スタンパーの製造方法及び成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、表面に反射防止構造体を備えたレンズ等の光学デバイスが提案されている。反射防止構造体は、錐状の凹凸形状が入射光の波長以下のピッチ(例えば、可視光であればサブミクロンピッチ)でアレイ状に並べられたものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記特許文献1の図3に示された、反射防止構造体の製造方法では、石英ガラス基板の凹状に形成された面上に、スパッタリング法及び無電解メッキ法により、Ni−Cu−Pの針状結晶(33)が形成される。このNi−Cu−Pの針状結晶をマスクとしてこの針状結晶がなくなるまでドライエッチング処理が行われることで、図3(d)に示されるような凸レンズ成形用の型(34)が形成される。そして、特許文献1の図4に示されるように、その型(34)を用いて成形用素材(42)にプレス加工が行われることで、針状結晶(33)の形状に対応した反射防止構造体を有する光学デバイスが形成される。
【0004】
特許文献1に記載の光学デバイスは、エッチングの処理原理上の制約から、針状結晶の向く方向が一方向のみである。したがって、主に光軸方向からこの光学デバイスに入射した光の反射は低減できるが、光軸方向に対して角度を持つ入射光の反射は低減できない。
【0005】
一方、特許文献2の図7(A)には、凸面に反射防止用の凹凸構造が形成された光学デバイスが開示されている。また、その図7(B)には、凹面に同様に反射防止用の凹凸が形成された光学デバイスが開示されている。特許文献2のこれらの光学デバイスでは、凸面(または凹面)の法線方向にそれぞれ凹凸構造が形成されており、その凹凸構造に対応する凹凸構造を有する金型により、これらの光学デバイスが形成される、とある(例えば、特許文献2の明細書段落[0028]、[0029]、[0047]、[0048]、[0073]参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−130841号公報
【特許文献2】特開2008−37089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2には、凹凸構造を有する金型はスパッタリング及びエッチングの各処理により形成されると記載されている。例えば特許文献2の図7に示される光学デバイスを製造するための金型の曲面上に、凹凸構造が形成されるように露光及びエッチングすることは現実的ではない。仮にこの凹凸構造を実現させようとする場合、露光及びエッチングの方向を時間ごとに変えながら突起を1つ1つ形成する必要があり、途方もなく長時間を要し、量産には適さない。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、非平面上に所定のパターン構造が形成された製品を実現することができ、その製品の生産性を向上させることができる、金型スタンパー、金型スタンパーの製造方法、及びその製品(成形品)の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る金型スタンパーの製造方法は、所定のパターン構造が形成された形成面を有する平板状の板材を、キャビティを有する成形金型にセットすることを含む。
前記成形金型にセットされた前記板材の前記形成面の全体形状を、前記キャビティに対応する形状に変形させるために、前記キャビティ内に連続体が導入されることで、前記連続体により前記板材が加圧される。
【0010】
すなわち、板材の、パターン構造が形成された形成面が、連続体をコアとしてキャビティに対応した形状に成形される。これにより、例えばキャビティの内面が非平面形状である場合、その形成面の全体形状が曲面形状に形成されるので、非平面上に形成された所定のパターン構造を有する金型スタンパーを製造することができる。その結果、この金型スタンパーを用いて成形対象物を成形することにより、その金型スタンパーのパターン構造に対応したパターン構造が表面に形成された製品(成形品)を製造することができる。したがって、低コストで、短時間で大量に製品を製造することができ、生産性を向上させることができる。
【0011】
非平面とは、曲面、及び2つ以上の平面が集まった面の意味を含む。曲面とは、球面、非球面等の意味を含む。
【0012】
前記連続体は、樹脂であってもよい。
【0013】
前記金型スタンパーの製造方法は、さらに、前記板材を加圧した後、前記成形金型の前記キャビティの内面の形状を修正することを含んでもよい。この場合、前記加圧により形成された金型スタンパーが、前記キャビティの内面形状が修正された前記成形金型にセットされる。また、前記金型スタンパーの前記形成面の全体形状を、前記成形金型の前記修正後のキャビティに対応する形状に変形させるために、前記成形金型にセットされた前記金型スタンパーが、前記キャビティに導入された連続体により加圧される。
【0014】
すなわち、例えば1回目に形成された金型スタンパーを用いて成形対象物が成形され、その成形品の形状に修正が必要であれば、1回目に形成された金型スタンパーの形状が修正される。この場合、キャビティの内面形状が修正され、金型スタンパーが再度成形金型で成形されることにより、金型スタンパーの形状を修正することができる。これにより、金型スタンパーの製造コストを低減することができる。
【0015】
前記金型スタンパーは、前記パターン構造に対応する光学的パターン構造を有する光学デバイスを成形するために用いられるスタンパーであってもよい。例えば、光学的パターン構造として、凹凸構造等、反射防止機能を発揮する構造が挙げられる。
【0016】
前記成形金型としてダイレクトゲート方式のものが用いられてもよい。すなわち、ランナーがなく、スプルーがゲートに直接接続された成形金型が用いられる。これにより、コアとなる連続体がキャビティ内で板材に加える圧力の均一性を向上させることができる。
【0017】
本発明の一形態に係る金型スタンパーは、上記の製造方法により製造されるものである。
【0018】
本発明の一形態に係る成形品の製造方法は、所定のパターン構造が形成された形成面を有する平板状の板材の前記形成面の全体形状を、成形金型のキャビティに対応する形状に変形させるために、前記成形金型にセットされた前記板材を前記キャビティに導入された連続体により加圧することにより形成された金型スタンパーを用意することを含む。
前記金型スタンパーを用いて、前記パターン構造に対応する構造体を有する成形対象物が成形される。
【発明の効果】
【0019】
以上、本発明によれば、非平面上に所定のパターン構造が形成された製品を実現することができ、その製品の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る金型スタンパーの製造過程において、金型スタンパーを形成するための原盤を製造する工程を順に示す図である。
【図2】PTM技術を用いて露光され、その後現像された、図1で示したレジストマスクの表面の電子顕微鏡による写真である。
【図3】図1(D)の、モスアイ構造が形成された後の原盤を、UV樹脂に転写した、そのUV樹脂の表面の電子顕微鏡による写真である。
【図4】図1に示す製造方法で得られた板材が、金型スタンパーを成形するためのスタンパー成形金型にセットされた状態の、スタンパー成形金型を模式的に示す断面図である。
【図5】樹脂がスタンパー成形金型のキャビティ内に導入され、金型スタンパーが絞り加工された状態を示す断面図である。
【図6】製造された金型スタンパーの模式的な断面図である。
【図7】テストにより製造された15個の金型スタンパーごとの設計値及び抜き勾配を示す表である。
【図8】図7に示した表に対応する金型スタンパーの模式図である。
【図9】図7に示した各金型スタンパーのうち、例えばNo.10に示した金型スタンパーを成形するときの、スタンパー成形金型のキャビティ内での樹脂の圧力波形の時間経過を示すグラフである。
【図10】図7のNo.10に示した金型スタンパーを成形するときに用いられた、スタンパー成形金型に導入された樹脂体の写真である。
【図11】図7のNo.10に示した金型スタンパーの写真である。
【図12】図4及び図5で示した製造方法で製造された金型スタンパーを用いて、製品(成形品)として凸レンズを成形するレンズ成形金型を示す断面図である。
【図13】受け駒に装着された金型スタンパーを、コアプレート側から見た写真である。
【図14】レンズ成形金型により成形された凸レンズの製品の写真である。
【図15】金型スタンパーの形状の修正方法を順に示す断面図である。
【図16】成形品として凹レンズの成形に用いられる金型スタンパーを製造するためのスタンパー成形金型を示し、成形対象となる平板状の板材がセットされた状態のスタンパー成形金型の模式的な断面図である。
【図17】樹脂がスタンパー成形金型のキャビティ内に導入され、金型スタンパーが絞り加工された状態を示す断面図である。
【図18】製造された金型スタンパーの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0022】
[金型スタンパーの製造方法1]
以下の実施形態では、製品(成形品)として光学デバイスを製造するための金型スタンパーの製造方法について説明する。また、光学デバイスとしては、典型的には、所定のパターン構造としての、微細な凹凸構造であるモスアイ構造を有するレンズを例に挙げて説明する。
【0023】
(原盤の製造方法)
図1は、本発明の一実施形態に係る金型スタンパーの製造過程において、金型スタンパーを形成するための原盤を製造する工程(図1(A)〜(D))を順に示す図である。
【0024】
図1(A)に示すように、例えば石英ガラス等の基板1が用意され、図1(B)に示すように、基板1上にレジスト膜3が形成される。図1(C)に示すように、露光及び現像のフォトリソグラフィ技術により、レジスト膜3に所定のパターン、例えば多数の孔が形成されてなるレジストマスク3aが形成される。図1(D)に示すようにエッチングにより、モスアイのパターン構造11を持つ原盤1aが形成される。
【0025】
(凸レンズ用の金型スタンパーの製造方法)
そして、図1(E)に示すように、モスアイ構造11を持つ原盤1aに、例えば電鋳法によりそのパターンが金属材料5に転写される。この後、金属材料5が原盤1aから引き剥がされる。これにより、図1(F)に示すように、モスアイ構造51が表面上に形成されたモスアイ構造形成面52を持つ平板状の板材5が形成される。
【0026】
図1(E)として電鋳法を例に挙げが、化学メッキ等の無電解メッキ、あるいは蒸着でもよい。
【0027】
図1(C)のうちの露光工程では、典型的にはPTM(Phase Transition Mastering)技術を適用することができる。PTM技術は、主に、BD(ブルーレイディスク)の原盤を製造する際に用いられる技術である。
【0028】
PTM技術では、例えば露光システムとして、光ディスクドライブの光ピックアップが用いられる。具体的には、例えば石英ガラス基板を回転させ、その光ピックアップのレーザ光源からレーザ光が出射され、その光強度の変調に応じて、回転する石英ガラス基板上のレジストが選択的に露光されることにより、レジストに所定の潜像パターンが形成される。このPTM技術によれば、短時間で潜像パターンを形成することができる。
【0029】
図2は、このようなPTM技術を用いて露光され、その後現像された、図1(C)で示したレジストマスク3aの表面の電子顕微鏡による写真である。図3は、図1(D)の、モスアイ構造11が形成された後の原盤1aを、UV樹脂に転写した、そのUV樹脂の表面の電子顕微鏡による写真である。この写真のモスアイ構造では、例えばコーン状の突起が多数形成されており、その各突起のピッチは280nm程度とされ、その高さは320nmとされた。ここでは、レジストの材料として無機レジストが用いられ、エッチング処理には、RIE(Reactive Ion Etching)が用いられた。
【0030】
図1(E)に示した電鋳法では、その金属材料として、Ni、あるいはニッケル合金(例えば、NiCo、NiP、NiB等)が用いられる。板材5の材料は、これらに限られるものではない。
【0031】
図4は、図1(F)のように得られた板材5が、金型スタンパーを成形するためのスタンパー成形金型にセットされた状態の、スタンパー成形金型を模式的に示す断面図である。
【0032】
このスタンパー成形金型10は、例えば、受け駒6が装着された可動側プレート2と、スプルーブッシュ8が装着された固定側プレート4とを備える。受け駒6は、図示しないネジやその他の装着具により可動側プレート2に着脱可能に設けられている。スプルーブッシュ8も同様に、ネジやその他の装着具により固定側プレート4に着脱可能に設けられている。板材5がこれら受け駒6及びスプルーブッシュ8の間に挟みこまれるように、受け駒6に装着されることで、板材5がスタンパー成形金型10にセットされる。
【0033】
受け駒6のスプルーブッシュ8側には、板材5を所望の形状に形成するためのキャビティ7が設けられている。このキャビティ7に対面するように板材5が配置される。スプルーブッシュ8は、後述するように連続体として例えば樹脂が導入される導入口8a、その導入口8aに連通するスプルー8b、スプルー8bの端部となるゲート8c、スプルー8bの流路径より大きい領域となる、導入された樹脂を拡散させる拡散領域8dを有する。板材5は、そのモスアイ構造51の形成面52(図1(F)参照)を拡散領域8dに向けてセットされる。本実施形態では、受け駒6のキャビティ7の内面7aの形状は、球面とされている。
【0034】
本実施形態では、スタンパー成形金型10として、このようにダイレクトゲート方式のものが用いられる。つまり、ランナーがなく、スプルー8bがゲート8cに直接接続されているので、コアとなる樹脂がキャビティ7内で板材5に加える圧力の均一性を向上させることができる。
【0035】
スプルーブッシュ8の拡散領域8dは、キャビティ7に対面するように設けられている。この拡散領域8dは、拡散領域8dに導入された樹脂により板材5を加圧するための領域であり、樹脂による圧力が、板材5を変形させる必要がある領域全体に均一に加えられるようにするための領域である。また、このスタンパー成形金型10では、キャビティ7の中心軸と、拡散領域8dの中心軸と、ゲート8cの中心とが実質的に一致している。これにより、ゲート8cから排出された樹脂の、板材5に与える圧力の均一性が増す。
【0036】
なお、拡散領域8dは設けられていなくても構わない。その場合、ゲート8cの開口径は、板材5に均一な樹脂の圧力が加えられるように、適切な大きさに設計され得る。
【0037】
図5に示すように、樹脂13がスタンパー成形金型10のキャビティ7内に導入され、板材5のモスアイ構造51の形成面52の全体形状が、樹脂13の圧力により、キャビティ7の内面7aに沿った形状に変形する。すなわち、樹脂13の圧力により、板材5に絞り加工がなされる。
【0038】
図6は、このように成形された金型スタンパー5’を示す模式的な断面図である。図6では、説明を分かりやすくするため、モスアイ構造51のサイズを大きく描いている。このように、全体形状が凹面形状で、その凹面の形成面52にモスアイ構造51を有する金型スタンパー5’が形成される。このモスアイ構造51では、1つ1つの突起が、凹面に対して法線方向を向いている。
【0039】
図5に示す状態から、可動側プレート2を固定側プレート4から離すことにより樹脂13と金型スタンパー5’が引き剥がされる(抜き工程)。引き剥がされた樹脂13は破棄されてもよいし、再利用されてもよい。
【0040】
以上のように、板材5の、モスアイ構造が形成された形成面52が、連続体である樹脂13をコアとして、スタンパー成形金型10のキャビティ7に対応した球面形状に成形される。これにより、その形成面52の全体形状が球面形状に形成されるので、球面上に形成されたモスアイ構造を有する金型スタンパー5’を製造することができる。その結果、この金型スタンパー5’を用いて光学デバイスを成形することにより、その金型スタンパー5’のモスアイ構造51に対応したモスアイ構造が表面に形成されたレンズ製品を製造することができる。したがって、低コストで、短時間で大量に製品を製造することができ、生産性を向上させることができる。
【0041】
特に、本実施形態の製造方法によれば、製造されたモスアイ構造51のすべての突起が、実質的に、形成面52である球面に対して法線方向となる。これにより、反射防止効果を発揮できる入射光の入射角度の範囲を広げることができる。その結果、例えばこの金型スタンパー5’により成形された凸レンズがカメラ等に搭載される場合、そのカメラによる撮像時のフレアやゴーストを従来の製品以上に低減させることができる。
【0042】
以下、本発明者が行った上記金型スタンパー5’の製造テストの結果について説明する。
【0043】
図7は、このテストにより製造された15個の金型スタンパー5’ごとの設計値及び抜き勾配を示す表である。このテストにおいて、連続体として用いられた樹脂13は、PMMA(ポリメチルメタクリレート)である。また、金型スタンパー5’となる板材5の材料はNi、その板材5の厚さは0.5mmである。図8は、図7に示した表に対応する金型スタンパー5’の模式図である。なお、図8では、モスアイ構造の突起についてはその1つのみを図示している。
【0044】
図9は、図7に示した表のうち、例えばNo.10に示した金型スタンパー5’を成形するときの、スタンパー成形金型10のキャビティ7内での樹脂13の圧力(射出圧力)の波形の時間経過を示すグラフである。この図9では、圧力波形は46.8MPaで一時的に上昇勾配が小さくなることを示しているが、これは板材5が塑性変形を開始したことを示している。また、板材5のスプリングバックを小さくするため、圧力が150MPaで約6秒間保持された。
【0045】
図10は、このNo.10に示した金型スタンパー5’を成形するときに用いられた、スタンパー成形金型10に導入された樹脂体(材料は上述したようにPMMA)の写真である。この樹脂体は、上述したように破棄されてもよいし、再利用されてもよい。図11は、No.10に示した金型スタンパー5’の写真である。
【0046】
図7及び図8において、θ3で示す角度が抜き勾配である。図7において、No.1,4,8及び12以外の金型スタンパー5’は、抜き勾配θ3がプラス値であるため、樹脂13が金型から引き抜くことになんら問題はない。一方、No.1,4,8及び12の金型スタンパー5’は、抜き勾配θ3がマイナス値であるが、以下の理由により樹脂13を金型スタンパー5’から抜くことができる。
【0047】
抜き工程のとき、樹脂13が金型スタンパー5’から離れる方向に金型スタンパー5’が力を受けるが、金型スタンパー5’は薄いので弾性変形を起こし、その樹脂13の動きに追従する。つまり、図6に示したように各突起が法線方向を向いていても、金型スタンパー5’の弾性変形により、モスアイ構造51の突起が損傷することなく、樹脂13を引き剥がすことができる。この場合、板材5としては、材料及び大きさにもよるが、その厚さが例えば1mm以下のもの、あるいは、0.1〜0.5mmのものが用いられればよい。
【0048】
[凸レンズの製造方法]
以上のように製造された金型スタンパー5’が用意され、図12に示すレンズ成形金型60にセットされる。このレンズ成形金型60では、図4及び図5で示したスタンパー成形金型10で用いられた受け駒6をそのまま用いることができるように構成されている。例えば、このレンズ成形金型60は、受け駒6を装着可能な受け駒プレート12と、コア14aを有するコアプレート14とを備える。受け駒6は、受け駒プレート12によりネジ15等の装着具により装着されている。受け駒6には、図4及び図5で説明したようにこの受け駒6を型として成形された金型スタンパー5’が、受け駒6に装着されている。図12では図示しないが、金型スタンパー5’の凹面部には、モスアイ構造が形成されており、この凹面部内がキャビティ7となる。樹脂材料23は、ランナー16を介してキャビティ7内に導入され、凸レンズが成形される。
【0049】
図13は、受け駒6に装着された金型スタンパー5’を、コアプレート14側から見た写真である。図14は、このレンズ成形金型60により成形された凸レンズの製品の写真である。
【0050】
(金型スタンパーの形状の修正方法)
次に、金型スタンパー5’の形状を修正する例について説明する。レンズの設計及び製造過程において、レンズの一部の形状に修正が必要な場合がよくある。
【0051】
例えば、図15(A)に示すように、成形品として成形された凸レンズ24の一部、例えば一点鎖線で囲まれた部分Aに厚みを加え、凸レンズ24の曲率を修正する場合について説明する。図15(B)に示すように、上記金型スタンパー5’の成形に用いられた受け駒6のキャビティの内面7aの形状の一部7bが削られ、修正される。削り深さは、例えばマイクロメートルオーダーである。
【0052】
図15(C)に示すように、修正後のキャビティ7(を有する受け駒6)に、金型スタンパー5’がセットされ、この受け駒6が、図4及び図5に示したスタンパー成形金型10に再度セットされる。そして、連続体としてそのキャビティ7内に導入された樹脂13の加圧力により、再度金型スタンパー5’が成形される。このとき、修正されたキャビティ7の内面7aの形状に沿うように、金型スタンパー5’の形状も修正される。
【0053】
このような実施形態によれば、金型スタンパー5’を最初から作り直す必要がなく、受け駒6のキャビティ7の内面形状を修正することにより、何度でも短時間で金型スタンパー5’の形状を修正することができる。これにより、金型スタンパー5’の製造コストを低減することができる。
【0054】
なお、このような金型スタンパー5’の修正時において、金型スタンパー5’は図12に示したこのレンズ成形金型60にセットされて、製品としての成形品を製造する過程で金型スタンパー5’の形状が修正されてもよい。
【0055】
[金型スタンパーの製造方法2]
(凹レンズ用の金型スタンパーの製造方法)
図16は、成形品として凹レンズの成形に用いられる金型スタンパー5"を製造するためのスタンパー成形金型を示し、成形対象となる平板状の板材5がセットされた状態のスタンパー成形金型の模式的な断面図である。なお、この平板状の板材5の一方の表面には、上記した原盤1aにより既にモスアイ構造51が形成されている。
【0056】
このスタンパー成形金型20は、受け駒46が装着された可動側プレート42と、スプルーブッシュ48が装着された固定側プレート44とを備える。スプルーブッシュ48は、図4及び図5で示したスプルーブッシュ8と同様のものが用いられてもよいし、拡散領域8dがないものであってもよい。板材5は、そのモスアイ構造51(図1(F))の形成面52を、固定側プレート44側に向けてセットされている。受け駒46は、例えば曲率R1の球面である端面46aを有し、この端面46aが、板材5が沿うキャビティ47の内面となる。受け駒46は、可動側プレート42に固定されたベース板49に装着され固定されている。ベース板49にはコイルバネ等の弾性部材26が取り付けられている。リング状の受け部材25は、その弾性部材26を介してベース板49に弾性的に支持され、受け駒46の周囲に摺動するように設けられている。弾性部材26としてのコイルバネは、図17では複数設けられているが、受け駒46が挿入された1つのコイルバネであってもよい。
【0057】
図17は、このように構成されたスタンパー成形金型20のキャビティ47内に、連続体として樹脂13が導入され、板材5が絞り加工された状態を示す、スタンパー成形金型20の断面図である。スプルーブッシュ48を介してキャビティ47内に導入された樹脂13の圧力により、受け部材25が移動して、板材5が変形する。受け部材25のベース板49側の端部25aがベース板49に当接することで、受け部材25が停止する。このように、板材5のモスアイ構造51の形成面52が、樹脂13の圧力によりキャビティ47の内面形状に沿った形状に変形する。その結果、図18に示すように、全体形状が凸面で、その凸面にモスアイ構造51を有する金型スタンパー5"が形成される。このモスアイ構造51では、1つ1つの突起が、凸面に対して法線方向を向いている。
【0058】
このように製造された金型スタンパー5"を用いて成形対象物を成形することにより、凹面の法線方向に複数の突起を有する凹レンズを製造することができる。
【0059】
本発明に係る実施形態は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態が考えられる。
【0060】
金型スタンパー5’及び5"において、上記モスアイ構造等のパターン構造が形成される面が球面であるとして説明した。すなわち、例えば、図4及び図16において、キャビティ7及び47の内面形状が球面であり、金型スタンパー5"のモスアイ構造51の形成される形成面52の全体形状が球面形状である例を説明した。しかし、その面形状は、非平面であればどのようなものでもよい。非平面とは、曲面、及び2つ以上の平面が集まった面の意味を含む。曲面とは、球面、非球面等の意味を含む。
【0061】
上記実施形態では、製品となる成形品として、モスアイ構造を有する光学デバイスを例に挙げたが、モスアイ構造に限られず、非平面上に形成された様々なパターン構造を持つ光学デバイスであってもよい。また、上記実施形態では製品としてレンズを例に挙げたが、非平面の表面を有する光学シート等、他の光学デバイスの製造にも上記実施形態に係る金型スタンパー及びその製造方法を適用可能である。
【0062】
上記実施形態では、金型スタンパー5を用いて樹脂製品であるレンズが成形される例を説明した。しかし、樹脂製品に限られず、ガラス製品であってもよい。
【0063】
また、光学デバイスに限られず、例えばバイオ分野で用いられる細胞培養用のシャーレ等を製造する場合にも、上記実施形態に係る金型スタンパー5"を適用可能である。この場合、その表面の全体形状が非平面でなり、細胞が収容される微細な凹凸構造を有するシャーレが、金型スタンパー5により成形される。また、モスアイ構造以外のパターン構造として、電気回路のパターンが挙げられる。
【0064】
上記実施形態では、モスアイ構造の突起のピッチは、可視光の波長(あるいはその半分)である数百nm、例えば200〜300nmとして説明した。しかし、上記電気回路など、モスアイ構造以外のパターン構造が適用される場合、そのパターンのピッチは、例えば人間が目視できる程度、例えば0.1mm以上、あるいは数mm以上であってもよいし、200〜300nmより小さいものであってもよい。
【0065】
上記連続体として固体である樹脂13が用いられたが、液体や気体等の流体であってもよい。液体としては油等が挙げられる。気体としては、空気、不活性気体等が挙げられる。
【0066】
上記実施形態では、1つのレンズを成形する例について説明したが、複眼レンズのような複数のレンズを一度に成形する形態でもよい。この場合、図5または図17で示した製造方法により、複数の非平面のパターン構造形成面を有する金型スタンパー5が製造される。
【0067】
上記実施形態では、スタンパー成形金型10とレンズ成形金型60とは別の成形金型として説明したが、同じ成形金型が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0068】
5…板材
5’、5"…金型スタンパー
7、47…キャビティ
7a、46a…キャビティの内面
10、20…スタンパー成形金型
51…パターン構造(モスアイ構造)
13…樹脂(連続体)
24…凸レンズ
52…モスアイ構造形成面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のパターン構造が形成された形成面を有する平板状の板材を、キャビティを有する成形金型にセットし、
前記成形金型にセットされた前記板材の前記形成面の全体形状を、前記キャビティに対応する形状に変形させるために、前記キャビティ内に連続体を導入することで、前記連続体により前記板材を加圧する
金型スタンパーの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金型スタンパーの製造方法であって、さらに、
前記板材を加圧した後、前記成形金型の前記キャビティの内面の形状を修正し、
前記加圧により形成された金型スタンパーを、前記キャビティの内面形状が修正された前記成形金型にセットし、
前記金型スタンパーの前記形成面の全体形状を、前記成形金型の前記修正後のキャビティに対応する形状に変形させるために、前記成形金型にセットされた前記金型スタンパーを、前記キャビティに導入された連続体により加圧する
金型スタンパーの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金型スタンパーの製造方法であって、
前記金型スタンパーは、前記パターン構造に対応する光学的パターン構造を有する光学デバイスを成形するために用いられるスタンパーである
金型スタンパーの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の金型スタンパーの製造方法であって、
前記成形金型としてダイレクトゲート方式のものが用いられる
金型スタンパーの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のうちいずれか1項に記載の金型スタンパーの製造方法であって、
前記連続体は、樹脂である
金型スタンパーの製造方法。
【請求項6】
所定のパターン構造が形成された形成面を有する平板状の板材を、キャビティを有する成形金型にセットし、
前記成形金型にセットされた前記板材の前記形成面の全体形状を、前記キャビティに対応する形状に変形させるために、前記キャビティ内に連続体を導入することで、前記連続体により前記板材を加圧する
製造方法により製造された金型スタンパー。
【請求項7】
所定のパターン構造が形成された形成面を有する平板状の板材の前記形成面の全体形状を、成形金型のキャビティに対応する形状に変形させるために、前記成形金型にセットされた前記板材を前記キャビティに導入された連続体により加圧することにより形成された金型スタンパーを用意し、
前記金型スタンパーを用いて、前記パターン構造に対応する構造体を有する成形対象物を成形する
成形品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図12】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2010−260279(P2010−260279A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113284(P2009−113284)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】