説明

金型冷却構造及びその製造方法

【課題】金型から冷媒への熱伝導性を向上させて金型の冷却効率を向上させる。
【解決手段】本発明は、金型冷却構造1であって、金型2に形成される冷却穴3に挿入される挿入部材4と、挿入部材4の内部に設けられる冷媒穴41に連結され、冷媒穴3内に冷媒を供給する継手部材5と、を備え、挿入部材4は、冷却穴3との接合界面に、挿入部材4が溶融して金型と一体化した溶着層44を有し、挿入部材4と金型2とは溶着層44を介して結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒によって金型を冷却する金型冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造用金型の中には、金型表面温度を均一にするために、金型の背面からキャビティ面近傍まで延びる冷却穴を形成し、この冷却穴に冷媒(例えば、水)を供給する冷却構造を採用したものがある。
【0003】
かかる冷却構成では、冷却穴の底部近傍の金型肉厚を薄くして冷却能力を高めているため、当該部位から金型にクラックが入りやすくなっている。金型にクラックが入ると、クラックを通じて冷媒がキャビティ内に入り込んで蒸発し、製品欠陥(ガス欠陥)の原因となりうる。
【0004】
そこで、特許文献1には、冷却穴に金属製の内筒体を圧入し、この内筒体の内部に冷媒を供給することで、金型にクラックが入った場合であっても冷媒がキャビティ内に入り込まないようにする構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−29416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の技術では、内筒体の外表面と冷却穴の内表面とを完全に密着させることはできないので、両表面の間に存在する微細な間隙によって熱伝導性が低下し、金型の冷却効率が低下する。
【0007】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであり、金型から冷媒への熱伝導性を向上させて金型の冷却効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によれば、金型冷却構造の製造方法であって、金型より融点が低い挿入部材を、金型に形成される冷却穴に挿入する挿入工程と、挿入部材が挿入された状態で金型を加熱することで、挿入部材を熱膨張によって冷却穴の内面に圧接させるとともに、冷却穴との接合界面のみを溶融させて冷却穴の内面と加熱溶着させる加熱溶着工程と、挿入部材の内部に形成される冷媒穴内に冷媒を供給する継手部材を挿入部材に連結する連結工程と、を含むことを特徴とする金型冷却構造の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明の別の態様によれば、金型冷却構造であって、金型に形成される冷却穴に挿入される挿入部材と、挿入部材の内部に設けられる冷媒穴に連結され、冷媒穴内に冷媒を供給する継手部材と、を備え、挿入部材は、冷却穴との接合界面に、挿入部材が溶融して金型と一体化した溶着層を有し、挿入部材と金型とは溶着層を介して結合されている、ことを特徴とする金型冷却構造が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上記態様によれば、挿入部材を熱膨張によって冷却穴の内面に圧接させるとともに、冷却穴との接合界面のみを溶融させて冷却穴の内面と加熱溶着させるので、挿入部材と金型とが一体的に固着する。これにより、金型と挿入部材との密着性が向上することで金型から冷媒への熱伝導性が向上し、金型の冷却効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る金型冷却構造の構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る金型冷却構造の製造工程を示したフローチャートである。
【図3】金型冷却構造の製造工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は本発明の実施形態に係る金型冷却構造1を示しており、金型2は、例えば、アルミダイカストで用いられるダイカスト金型である。
【0014】
金型冷却構造1は、金型2に形成される冷却穴3と、冷却穴3内に配置される挿入部材4と、挿入部材4に連結されて挿入部材4の内部の冷媒通路41に冷媒を連続的に供給する継手部材5とを備える。この例では、冷媒として水が用いられるが、オイルを冷媒として用いることも可能である。
【0015】
各構成について説明すると、冷却穴3は、金型2の背面からキャビティ面(金型2によって画成されるキャビティに露出する表面)に向けて、キャビティ面近傍まで延びる穴である。冷却穴3の底部は半球形になっており、開放端側は他の部位よりも形が大きな拡径部31となっている。
【0016】
挿入部材4は、半球殻形の先端を有する円筒形状に形成される胴部42と、胴部42に接続し胴部42よりも大きな外径を有する基部43とを有する。基部43の内面には、継手部材5の連結部54が螺合される雌ねじ部が形成される。挿入部材4の材質としては、金型の材質より融点が低く、熱膨張率が高く、かつ熱伝達性に優れた金属、例えば、銅合金が用いられるが、アルミニウムやステンレス等であってもよい。
【0017】
また、挿入部材4の外面は、冷却穴3の内面と加熱溶着層44によって密着している。加熱溶着層44は、挿入部材4の外面であって冷却穴3との接合界面のみが溶融して冷却穴3の内面に溶着してできた層であり、これにより挿入部材4と金型2とは一体的に固定される。なお、加熱溶着の詳細については後述する。
【0018】
継手部材5は、継手本体51から延びる入口コネクタ52及び出口コネクタ53、継手本体51下側から下方に延び、かつ、外周に雄ねじ部が形成される連結部54、連結部54下面から挿入部材4内部に向けて延びる通水管55、連結部54下面に開口する排出口56を備える。入口コネクタ52と通水管55、出口コネクタ53と排出口56はそれぞれ継手本体51内に形成される流路(不図示)により接続されている。
【0019】
入口コネクタ52から継手本体51内に流入する水は、継手本体51内の流路、通水管55を通って挿入部材4内の冷媒通路41に供給され、金型2の熱を吸収する。金型2の冷却に供され温度が上昇した水は、排出口56、継手本体51内の流路を通って、出口コネクタ53から外部へと排出される。
【0020】
次に、上記金型冷却構造1の製造方法について説明する。
【0021】
上記金型冷却構造1は図2に示されるS1〜S5の工程を経て製造される。以下、各工程について説明する。
【0022】
S1では、作業者は、金型2に挿入部材4を挿入する冷却穴3を加工する。図3(a)は冷却穴3を加工した金型2を示している。
【0023】
S2では、作業者は、銅合金から成る中実の挿入部材4を金型2の冷却穴3に挿入する。図3(b)は挿入部材4を挿入した状態を示している。挿入部材4の外径は、冷却穴3の内径よりわずかに小径に設定され、これにより、挿入部材4の挿入を容易に行うことができる。
【0024】
また、挿入部材4と冷却穴3との径の差は、後述する熱処理工程時に熱膨張によって挿入部材4の外面が冷却穴3の内面に圧接されるように設定され、熱処理工程における温度が高いほど、また挿入部材の熱膨張率が高いほど、挿入部材4の膨張量が大きくなるので、挿入部材4と冷却穴3との径の差をより大きく設定することができる。
【0025】
S3では、作業者は、挿入部材4が挿入された状態の金型2を窒化処理炉に入れて熱処理を行う。熱処理には、ダイカスト型の製造時に使用される通常の窒化処理炉が用いられる。炉内の温度は挿入部材4(銅合金)の融点付近、例えば1000℃に設定される。炉内の温度は必ずしも挿入部材4の融点以上まで加熱する必要はなく、加熱溶着が生じる程度の温度であればよく、当該温度は予め実験等によって求めておく。
【0026】
ここで、加熱溶着について以下説明する。
【0027】
金型2の加熱によって、挿入部材4は冷却穴3の内部で熱膨張し、挿入部材4の外面が冷却穴3の内面に圧接する。この時、挿入部材4の外面であって冷却穴3の内面との接合界面のみが溶融する。すなわち、挿入部材4は全体が溶融するのではなく、熱膨張によって冷却穴3の内面に圧接する部分だけが溶融する。
【0028】
この溶融した部分が加熱溶着層44であり、金型2の加熱終了後、冷却すると加熱溶着層44が固化することで挿入部材4と金型2とは加熱溶着層44を介して一体的に固着する。図3(c)は、加熱溶着層44によって挿入部材4と金型2とが一体化した状態を示している。
【0029】
なお、加熱溶着層44の融点は、ダイカスト型の製造時に使用される通常の熱処理時の温度(溶湯の温度)より高いので、挿入部材4と金型2とを一旦加熱溶着すれば、その後繰り返し使用することができる。
【0030】
S4では、作業者は、挿入部材4の一端側から軸方向に沿ってドリル等で切削することで、挿入部材4に冷媒通路41を形成する。図3(d)は、冷媒通路41を形成した後の挿入部材4を示しており、図示するように、基部43の通路は胴部の通路より拡径して形成される。
【0031】
S5では、作業者は、挿入部材4の基部43に継手部材5の連結部54を螺合させ、これによって図1に示される金型冷却構造1を得る。
【0032】
なお、この例では全ての工程を作業者が行っているが、一部又は全部の工程を機械により行うことも可能である。
【0033】
次に、上記金型冷却構造1を採用したことによる作用効果について説明する。
【0034】
上記金型冷却構造1によれば、挿入部材4を熱膨張によって冷却穴3の内面に圧接させるとともに、冷却穴3との接合界面のみを溶融させて冷却穴3の内面と加熱溶着させるので、挿入部材4と金型2とを一体的に固着させることができる。これにより、金型2と挿入部材4との密着性が向上することで金型2から冷媒への熱伝導性が向上し、金型2の冷却効率を向上させることができる(請求項1〜3に対応)。
【0035】
また、ダイカスト型の製造時に使用される通常の熱処理工程を利用して挿入部材4と金型2とを密着させることができるので、コストの上昇を抑制しながら挿入部材4を冷却穴3の内面に完全密着させることができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0037】
例えば、本発明は、アルミダイカストに用いられる金型2に限らず、冷却を要する金型全般に適用可能である。
【0038】
また、金型冷却構造1の製造工程において、S2において中実の挿入部材4を冷却穴3に挿入し、S4において挿入部材4の内部を切削して冷媒通路41を形成しているが、これに代えて、S2において予め冷媒通路41を有する中空の挿入部材を冷却穴3に挿入し、S4の工程を省略するようにしてもよく、この場合も上記したのと同様の作用効果を得ることができる(請求項2に対応)。
【符号の説明】
【0039】
1 金型冷却構造
2 金型
3 冷却穴
4 挿入部材
5 継手部材
41 冷媒通路(冷媒穴)
44 加熱溶着層(溶着層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型冷却構造の製造方法であって、
金型より融点が低い挿入部材を、前記金型に形成される冷却穴に挿入する挿入工程と、
前記挿入部材が挿入された状態で前記金型を加熱することで、前記挿入部材を熱膨張によって前記冷却穴の内面に圧接させるとともに、前記冷却穴との接合界面のみを溶融させて前記冷却穴の内面と加熱溶着させる加熱溶着工程と、
前記挿入部材の内部に形成される冷媒穴内に冷媒を供給する継手部材を前記挿入部材に連結する連結工程と、
を含むことを特徴とする金型冷却構造の製造方法。
【請求項2】
前記挿入部材は中実であり、
前記加熱溶着工程の後に前記挿入部材の内部を切削して前記冷媒穴を形成する工程を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の金型冷却構造の製造方法。
【請求項3】
金型冷却構造であって、
金型に形成される冷却穴に挿入される挿入部材と、
前記挿入部材の内部に設けられる冷媒穴に連結され、前記冷媒穴内に冷媒を供給する継手部材と、
を備え、
前記挿入部材は、前記冷却穴との接合界面に、前記挿入部材が溶融して前記金型と一体化した溶着層を有し、前記挿入部材と前記金型とは前記溶着層を介して結合されている、
ことを特徴とする金型冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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