説明

金型洗浄シート及び金型離型回復シート、並びに金型の洗浄方法及び金型の離型回復方法

【課題】 簡易な操作でキャビティ内部まで十分な洗浄が行え、しかもコストを低減できる金型洗浄シートを提供する。
【解決手段】 少なくとも弾性層と、セルロース不織布からなる表面層を有する金型洗浄シート。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、金型洗浄及び離型回復シート並びに金型の洗浄方法及び離型回復、特にトランスファー成形用及び圧縮成形用金型に好適に使用し得るシート及び方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、成形金型の表面及びキャビティ、ランナー、エアベント等には樹脂バリ及び油分や塵埃などの汚れが蓄積される。
【0003】このような汚れは、成形品質に悪影響を与え、また離型性が低下する現象が発生することになるので、一定のショット数おきに作業者が成形金型をクリーニング及び離型回復作業をする必用がある。
【0004】しかし、作業者による成形金型のクリーニング及び離型回復作業は、それが手作業であるためかなりの時間を要することになるので、短時間で成形金型をクリーニング及び離型回復作業できる技術が要請されている。
【0005】そこで、このような要請に応えるものとして、例えば特開平6−254866号公報、特開平1−95010号公報、特開平3−243310号公報等には、綿布、難燃性の紙、樹脂基板、ネット等よりなるシート部材を成形金型面間にクランプし、アンモニアやホルマリンのような汚れ落としの成分が混入されたクリーニング用樹脂を金型内に充填固化してシート部材とクリーニング用樹脂を離型する方法が開示されている。
【0006】しかし、これらの方法では、クリーニング用樹脂を金型内に充填する必用があり、その結果、成形用樹脂からクリーニング用樹脂への交換作業、それに伴うクリーニング用樹脂の保存、在庫管理などの工程管理など成形時とは異なる作業や工程管理を行う必用がある。
【0007】一方、かかる問題を解決する手段として、特開平9−70856号には、クリーニング作用のある成分、又は離型作用のある成分を含浸させた耐熱性及び柔軟性を有するクリーニングシートを金型間にクランプさせるクリーニング方法が開示されている。
【0008】しかし、かかる方法では、金型合わせ面のクリーニングはできるものの、圧力伝達が十分でないため、金型キャビティ表面にまでクリーニングシートが到達しにくく、キャビティ内部を十分にクリーニングすることができないという問題があった。
【0009】また、シートの厚さをキャビティ以上の厚さとするためには、紙、布、不織布等のシート状物を多数枚重ねる必用があり、しかもこれらのシートは通常再利用されないため、コスト的にも問題があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題を解決し、簡易な操作でキャビティ内部まで十分な洗浄及び離型回復が行え、しかもコストを低減できる金型洗浄及び離型回復シート並びに金型の洗浄方法及び離型回復方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記問題に鑑み鋭意検討した結果、圧力伝達作用を有する弾性層と、洗浄作用を有するセルロース不織布からなる表面層を組み合わせることにより、キャビティ表面までシートを到達させることができると共に、使い捨てとなる表面層の厚みを減少できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】即ち、本発明は、少なくとも弾性層と、セルロース不織布からなる表面層を有することを特徴とする金型洗浄シート及び離型回復シート、並びに該シートを用いた金型の洗浄方法及び離型回復方法である。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】図2は本発明のシートの一例を示す概略図であり、図2(a)はシートの製造方法の一例を説明する図、図2(b)はシートの断面図である。図2において、11は弾性層、12は表面層、13はシール部である。
【0015】本発明のシートは、少なくとも弾性層11と、セルロース不織布からなる表面層12を有する。
【0016】弾性層11としては、常温で弾性を有するものであれば特に制限されないが、例えばフッ素系樹脂、ポリオレフィン・エラストマー、SBR、BRよりなるシート等が挙げられる。これらのうちでもフッ素系樹脂シートは繰り返し使用が可能であり好ましい。尚、半導体チップのモールド用金型に使用する場合には、塩素、珪素を含まないシートが好ましい。
【0017】表面層12を構成するセルロース不織布のセルロース含有率は、特に限定されないが、耐熱性の点から含有率が高いほど好ましく、セルロース100%よりなることがより好ましい。また、セルロース不織布は短繊維不織布でも長繊維不織布でもよいが、ケバが生じず、柔軟性に優れるため長繊維不織布が好ましい。
【0018】シートの層構成は、少なくとも一方の最表面がセルロース不織布からなる表面層12であれば特に限定されないが、図2に示すように、表面層12/弾性層11/表面層12であることが好ましい。また、必要に応じて他の層、例えば、洗浄用樹脂を含浸させたセルロース不織布、離型剤を含浸させたセルロース不織布等を表面層12と弾性層11の間に積層してもよい。
【0019】洗浄シートの厚みは、金型キャビティの厚みにより適宜設定されるが、好ましくはキャビティ(パッケージ)厚みの7〜12倍である。
【0020】また、表面層12と弾性層11の厚みの比率は、特に限定されず、弾性層11の圧力伝達作用を好適に発揮できると共に、表面層12にかかるコストを低減できる範囲で、適宜設定すればよい。
【0021】尚、表面層12には、必要に応じて洗浄用樹脂等のクリーニング作用のある成分、離型剤等の離型回復作用のある成分等を含有させてもよい。これらの成分を含有させるとは、常温において簡単にこれらの成分が表面層から離脱しない状態を言う。これらの成分を含有させる方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0022】(1)パウダー加工による方法。具体的には、不織布の原反上からパウダー状の洗浄用樹脂、離型剤を散布した後、加熱ローラーで融着させる方法。
【0023】(2)洗浄用樹脂、離型剤を水中に懸濁させ、不織布に塗布した後、水分を加熱・蒸発させる方法。
【0024】本発明のシートの製造方法は特に限定されず、例えば図2(a)に示すように、表面層12を縫製などのシール部13により袋状にし、弾性層11を挿入して予め準備してもよいし、金型洗浄或いは離型回復の際に両者を重ね合わせてもよい。
【0025】次に、本発明の方法を図面を用いて説明する。
【0026】図1は、本発明の方法を説明する概略断面図であり、図1(a)は洗浄前の状態を示す図、図1(b)はシートがクランプされた状態を示す図、図1(c)は洗浄終了後に型開きした状態を示す図である。図1において、1は第一の金型、2は第二の金型、3はシート、4はエジェクタピンである。
【0027】まず、図1(a)に示すように、キャビティの厚さ以上のシート3を用意し、このシート3を第一の金型1と第二の金型2とからなる成形金型の前記第一の金型1と第二の金型2との間に、これら第一の金型1及び第二の金型2の合わせ面のほぼ全域に接触するようにセットする。
【0028】この状態で第二の金型2を第一の金型1に向けて接近移動させ、図1(b)に示すようにシート3をクランプする。この接近移動の際、金型とシート3との摩擦による金型の合わせ面の汚れが剥離する。また、第一の金型1及び第二の金型2でシート3をクランプした状態で一定時間維持することで、金型の合わせ面に付着した樹脂バリ及び油分や塵埃を落とし、更には弾性層の圧力伝達作用により表面層がキャビティ表面及び金型パーティング面に密着されるためキャビティ表面及び金型パーティング面に付着した汚れ・異物・樹脂バリ等をも落とす。落ちた汚れは金型の熱・圧力でシート3に付着一体化される。
【0029】その後、図1(c)に示すように、第二の金型2を下降移動させ型開きし、エジェクタピン4を突出させて、型開き完了後に、シート3とそのシートに接着一体化された汚れの取り出しを行う。
【0030】以上の方法で金型洗浄及び離型回復がなされるが、洗浄作用及び離型回復作用の更なる向上を図るために、クリーニング作用のある成分を含有するシート3を用いて金型洗浄を行い、その後に離型回復作用のある成分を含有するシート3を用いて金型の離型回復を行うことが好ましい。もちろん、本発明の洗浄方法の後に、公知の離型回復方法を実施しても良いし、公知の洗浄方法の後に、本発明のの離型回復方法を実施しても良い。
【0031】本発明は、成形用金型広く一般に適用できるが、特にトランスファー成形用及び圧縮成形用金型の洗浄及び離型回復に好適に使用し得る。
【0032】
【実施例】(実施例)半導体封止用トランスファー成形用金型の洗浄作業を、以下の手順で行った。
【0033】(1)キャビティ以上の厚さを有する図2に示すシートを用いた。
【0034】第一のシートは、表面層にセルロース100%の長繊維不織布に洗浄用樹脂を含有させたものを使用し、弾性層にオレフィン・エラストマー(エチレン・オクテン・コポリマー)を用いた。
【0035】第二のシートは、表面層にセルロース100%の長繊維不織布に離型剤を含有させたものを使用し、弾性層にオレフィン・エラストマー(エチレン・オクテン・コポリマー)を用いた。
【0036】(2)製品を1,500ショット生産後の金型を開けて、図1に示す手順で、第一のシートを差し込んだ後クランプし、これを2回繰り返した。引き続き、図1に示す手順で、第二のシートを差し込んだ後、クランプした。
【0037】結果を表1に示す。
【0038】(比較例)実施例と同一の設備で、製品を1,500ショット生産後の金型を従来の方法で洗浄し、離型性を付与した。
【0039】(1)金型内に銅製のダミーフレームを差し込んだ後、タブレット状の洗浄用樹脂をトランスファーさせた。金型を開けて、フレームの中で固化している洗浄用樹脂を取り除いた。これを5回繰り返した。
【0040】(2)引き続いて、金型内に銅製のダミーフレームを差し込んだ後、離型性タブレットをトランスファーさせた。これを2回繰り返した。
【0041】結果を表1に示す。
【0042】
【表1】


【0043】
【発明の効果】以上説明のように、本発明によれば、圧力伝達作用を有する弾性層と、洗浄作用を有するセルロース不織布からなる表面層を組み合わせたシートとしたため、キャビティ表面までシートを到達させることができ、キャビティ内部まで十分な洗浄及び離型回復を行うことができる。しかも、使い捨てとなる表面層の厚みを減少できるためコストを低減することもできる上に、樹脂及び金属フレームを使用していないため、焼却可能で環境対策として有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法を説明する概略断面図である。
【図2】本発明のシートを説明する概略図である。
【符号の説明】
1 第一の金型
2 第二の金型
3 シート
4 エジェクタピン
11 弾性層
12 表面層
13 シール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも弾性層と、セルロース不織布からなる表面層を有することを特徴とする金型洗浄シート。
【請求項2】 表面層が、クリーニング作用のある成分を含有することを特徴とする請求項1に記載の金型洗浄シート。
【請求項3】 セルロース不織布が長繊維不織布であることを特徴とする請求項1または2に記載の金型洗浄シート。
【請求項4】 少なくとも弾性層と、セルロース不織布からなる表面層を有することを特徴とする金型離型回復シート。
【請求項5】 表面層が、離型回復作用のある成分を含有することを特徴とする請求項4に記載の金型離型回復シート。
【請求項6】 セルロース不織布が長繊維不織布であることを特徴とする請求項4または5に記載の金型離型回復シート。
【請求項7】 成形金型を形成する第一の金型と第二の金型との間に、少なくとも弾性層とセルロース不織布からなる表面層を有するシートであって、キャビティ以上の厚さを有するシートをクランプし、その後第一の金型と第二の金型とを型開きしてシートを取り出すことを特徴とする金型の洗浄方法。
【請求項8】 表面層が、クリーニング作用のある成分、離型回復作用のある成分の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項7に記載の金型の洗浄方法。
【請求項9】 セルロース不織布が長繊維不織布であることを特徴とする請求項7または8に記載の金型の洗浄方法。
【請求項10】 成形金型を形成する第一の金型と第二の金型との間に、少なくとも弾性層とセルロース不織布からなる表面層を有するシートであって、キャビティ以上の厚さを有するシートをクランプし、その後第一の金型と第二の金型とを型開きしてシートを取り出すことを特徴とする金型の離型回復方法。
【請求項11】 表面層が、離型回復作用のある成分を含有することを特徴とする請求項10に記載の金型の離型回復方法。
【請求項12】 セルロース不織布が長繊維不織布であることを特徴とする請求項10または11に記載の金型の離型回復方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2001−79857(P2001−79857A)
【公開日】平成13年3月27日(2001.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−258348
【出願日】平成11年9月13日(1999.9.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000233583)日立米沢電子株式会社 (2)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】