説明

金型

【課題】 スライドコア部分に残った離型剤をキャビティ内に溜めることなく、確実に除去・回収する金型を提供する。
【解決手段】 スライドコア5を備えた金型であって、スライドコア5が摺動する固定型1の摺動面3に離型剤15を回収するための排出孔11,13の開口部12,14を設けた。排出孔11の開口部12は、上下方向に形成された摺動面3のコーナ部8で、その下端部に設けることもできる。また、排出孔13の開口部14は、斜め方向に形成された摺動面3のコーナ部10で、その下端部に設けることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドコア部分に残った離型剤を効率よく除去・回収することができる金型に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造前に、キャビティを形成する金型の表面に離型剤をスプレー塗布することが行なわれている。この離型剤は水に溶解されており、金型の残熱により水分が蒸発し、溶解していた離型剤が金型の表面に付着することになる。しかし、金型の残熱温度分布が一定ではないことなどに起因して、水分が完全に蒸発することなくキャビティ内に残ってしまうことがある。水分がキャビティ内に残った状態で鋳造すると、鋳造品の表面品質が低下することが知られており、「水残り」などと呼ばれる外観不良が発生する。
【0003】
そこで、特許文献1には、キャビティ内に残留した離型剤を回収する装置が記載されている。また、特許文献2には、鋳造中や鋳造前に中子嵌合部や入子嵌合部及び鋳抜きピン挿通部から離型剤が染み出すことを抑制するダイカスト金型や、中子嵌合部から金型内部に浸入した離型剤を金型外部に排出するダイカスト金型が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−15418号公報
【特許文献2】特開2005−334938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び特許文献2には、スライドコア部分に噴射されてスライドコア部分に残った離型剤をキャビティ内に溜めることなく、除去・回収する技術については記載されていない。
【0006】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スライドコア部分に残った離型剤をキャビティ内に溜めることなく、確実に除去・回収する金型を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、スライドコアを備えた金型であって、前記スライドコアが摺動する固定型の摺動面に離型剤を回収するための排出孔の開口部を設けた。
【0008】
前記排出孔の開口部は、上下方向に形成された前記摺動面のコーナ部で、その下端部に設けるとよい。
【0009】
また、前記排出孔の開口部は、斜め方向に形成された前記摺動面のコーナ部で、その下端部に設けるとよい。
【0010】
更に、前記排出孔は、離型剤を回収する装置に連通させることができる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、離型剤の塗布によってスライドコアやスライドコアの摺動面を伝わって落ちてくる不要な離型剤を、キャビティ内に溜めさせることなく、確実に除去・回収することができる。よって、「水残り」などと呼ばれる外観不良の発生を防止することができる。また、スライドコアの可動部の強度を維持することができる。
【0012】
また、排出孔の開口部を、上下方向に形成された摺動面のコーナ部で、その下端部に設ければ、離型剤の塗布によってスライドコアやスライドコアの摺動面を伝わって落ちてくる離型剤を排出孔の開口部に導くことができる。
【0013】
また、排出孔の開口部を、斜め方向に形成された摺動面のコーナ部で、その下端部に設ければ、離型剤の塗布によってスライドコアやスライドコアの摺動面を伝わって落ちてくる離型剤を斜め方向に形成された摺動面のコーナ部で受け止め、排出孔の開口部に導くことができる。
【0014】
排出孔を、離型剤を回収する装置に連通させれば、円滑に離型剤を回収して再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る金型の説明図で、(a)は型開き状態の固定型側の概要正面図、(b)は型開き状態の固定型側の概要平面図、(c)は型開き状態の可動型側の概要正面図、(d)は型開き状態の可動型側の概要平面図
【図2】コーナ部と排出孔の概要説明図
【図3】本発明に係る金型の作用説明図で、(a)は固定型側への離型剤の塗布、(b)は固定型側の付着離型剤へのエアブロー、(c)は離型剤の排出孔への流入状況、(d)は離型剤の回収
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。本発明に係る金型は、図1に示すように、固定型1、可動型2、固定型1と可動型2に形成された摺動面3,4、摺動面3,4を摺動するスライドコア5,6、固定型1と可動型2とスライドコア5,6などで形成されるキャビティ7などを備えてなる。
【0017】
固定型1に設けた摺動面3には、図2に示すように、上下方向に2箇所の略L字状のコーナ部8,9と、斜め方向に1箇所の略L字状のコーナ部10が形成されている。そして、上下方向に形成されたコーナ部8には、その下端部に離型剤を外部に排出するための排出孔11の開口部12が設けられている。
【0018】
また、斜め方向に形成されたコーナ部10の下端部であって、上下方向に形成されたコーナ部9と交差する部位にも、離型剤を外部に排出するための排出孔13の開口部14が設けられている。
【0019】
固定型1に形成された排出孔11,13は、開口部12,14に入った離型剤が自然に外部へ流れ出るよう下方に傾斜して形成されている。また、排出孔11,13は、夫々離型剤回収装置(不図示)の貯留タンクに接続された配管と連通している。
【0020】
以上のように構成された本発明に係る金型の作用について説明する。先ず、図3(a)に示すように、型開き状態にして離型剤15を、キャビティ7の表面を形成する固定型1と可動型2とスライドコア5,6の表面などにスプレーカセット(不図示)を用いて塗布する。なお、図3は固定型1側について記載している。
【0021】
次いで、図3(b)に示すように、スプレーカセットを用いて離型剤15が塗布された固定型1と可動型2とスライドコア5,6の表面にエアブロー16を施す。すると、満遍なく離型剤15が固定型1と可動型2とスライドコア5,6の表面に行き渡り、過剰で不要な離型剤15がコーナ部8,9に追いやられる。
【0022】
次いで、図3(c)に示すように、コーナ部8に追いやられた離型剤15aは、コーナ部8を伝わって流下し、コーナ部8の下端部に形成された排出孔11の開口部12に入って行く。また、コーナ部9に追いやられた離型剤15bも、コーナ部9を伝わって流下し、コーナ部9の下端部に形成された排出孔13の開口部14に入って行く。
【0023】
また、摺動面3を伝わって流下する離型剤15cや、コーナ部8に追いやられコーナ部8を伝わって流下し、排出孔11の開口部12に入らなかった離型剤15dは、雨樋を流れる雨水のように傾斜したコーナ部10を伝わって流れ、排出孔13の開口部14に入って行く。
【0024】
次いで、図3(d)に示すように、排出孔11,13の開口部12,14に入った離型剤15a,15b,15c,15dは、排出孔11,13を通って、離型剤回収装置(不図示)の貯留タンクに貯留される。そして、回収された離型剤15a,15b,15c,15dは、再利用される。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、離型剤の塗布によってスライドコアやスライドコアの摺動面を伝わって落ちてくる不要な離型剤を、キャビティ内に溜めさせることなく、確実に除去・回収することができるので、「水残り」などと呼ばれる外観不良の発生を防止することが可能になる。
【符号の説明】
【0026】
1…固定型、2…可動型、3,4…摺動面、5,6…スライドコア、7…キャビティ、8,9,10…コーナ部、11,13…排出孔、12,14…開口部、15…離型剤、16…エアブロー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドコアを備えた金型であって、前記スライドコアが摺動する固定型の摺動面に離型剤を回収するための排出孔の開口部を設けたことを特徴とする金型。
【請求項2】
請求項1に記載の金型において、前記排出孔の開口部は、上下方向に形成された前記摺動面のコーナ部で、その下端部に設けられたことを特徴とする金型。
【請求項3】
請求項1に記載の金型において、前記排出孔の開口部は、斜め方向に形成された前記摺動面のコーナ部で、その下端部に設けられたことを特徴とする金型。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の金型において、前記排出孔は、離型剤を回収する装置に連通していることを特徴とする金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−194433(P2011−194433A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63443(P2010−63443)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】