金属イオンをローディングするリポソーム
【課題】金属に基づく技法を用いた、薬物と他の物質とをリポソームへ封入する方法の提供。
【解決手段】(i)封入されたFe、Co、Ni、Cu、Zn、V、Ti、Cr、Rh、Ru、Moなどの遷移金属イオンを含むリポソームを調製する段階、および(ii)物質がリポソームに封入されるように、該リポソームの外部溶液に物質を加える段階を含む、リポソームに物質をローディングする方法。
【解決手段】(i)封入されたFe、Co、Ni、Cu、Zn、V、Ti、Cr、Rh、Ru、Moなどの遷移金属イオンを含むリポソームを調製する段階、および(ii)物質がリポソームに封入されるように、該リポソームの外部溶液に物質を加える段階を含む、リポソームに物質をローディングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、薬物と他の物質とをリポソームに封入することに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
リポソームは、内部に区画を封入している一つまたはそれ以上の脂質二重層からなる顕微鏡的粒子である。リポソームは、多層小胞、多小胞リポソーム、単層小胞および巨大リポソームに分類することができる。多層リポソーム(多層小胞または「MLV」としても知られる)は、それぞれのリポソーム粒子内に多数の同心円の二重層を含み、「タマネギの層」に似ている。多小胞リポソームは、多数の同心円でない水溶性小室を封入する脂質膜からなる。単一の内部水溶性区画を含むリポソームには、小単層小胞(SUV)および大単層小胞(LUV)が含まれる。LUVおよびSUVはそれぞれ、大きさが約50〜500 nmおよび約20〜50 nmの範囲である。巨大リポソームは典型的に大きさが5000 nm〜50,000 nmの範囲であり、インビトロで脂質二重層の機械化学的および相互作用特徴を研究するために主に用いられている(Needhamら、Colloids and Surfaces B:Biointerfaces(2000)18:183〜195(非特許文献1))。
【0003】
リポソームは、薬品、化粧品、診断試薬、および遺伝子材料のような多様な物質の担体として広く研究され用いられている。リポソームは、非毒性の脂質からなるため、それらは一般的に低い毒性を示し、したがって多様な薬学的応用において有用である。特に、リポソームは、血流での半減期が短い物質の循環中の寿命を増加させるために有用である。リポソームに封入された薬物はしばしば、遊離の薬剤とは大きく異なる生物分布および毒性を有する。特異的インビボ輸送の場合、これらの担体の大きさ、荷電、および表面特性は、調製法を変化させることによって、そして担体の脂質構成を調整することによって、変化させることができる。例えば、リポソームは、担体を構成する脂質のアシル鎖の長さを減少することによって、より迅速に薬物を放出するように作製してもよい。
【0004】
小胞の内部に封入された金属イオンを含むリポソームは、診断応用において用いられている。例えば、被験者の体内の所望の部位で造影剤を蓄積することが目標である場合、造影剤を輸送するためにリポソームが用いられている。後者の適用において、リポソームは、主に、γ線および磁気共鳴画像においてそれぞれ、診断用放射性核種および常磁性金属イオンを輸送するために用いられている。これには、111In、99mTc、および67Gaのような放射性核種ならびにGd、Mn、および酸化マンガンのような常磁性イオンをリポソームに封入することが含まれる。造影目的でリポソームを調製するために、典型的に二つの方法が用いられている。第一の方法では、金属を可溶性のキレートに変換してから、リポソームの水溶性内部に導入する。第二の方法では、親油性基によって誘導体化したキレート剤を、リポソーム調製の際またはリポソーム調製後にリポソーム表面に結合させる。
【0005】
マンガンおよび非遷移金属イオンも同様に、リポソーム膜に挿入されたイオノフォアを含むリポソームに、イオン化可能な物質を封入する方法において必要である(米国特許第5837282号(特許文献1)およびFenskeら、Biochim. Biophys. Acta(1998)1414:188〜204(非特許文献2)を参照されたい)。この方法において、イオノフォアは、金属イオンをプロトンと引き換えにリポソーム膜を通過して移動させ、それによってpH勾配を確立する。リポソーム二重層を横切る適当なpH勾配が確立されれば、物質は中性型でリポソーム二重層を容易に横切り、その後荷電型への変換によりリポソームの水溶性内部内で封入および捕獲されるようになりうることから、イオン化可能な物質を封入することができる(Mayerら、米国特許第6083530号(特許文献2)、第5616341号(特許文献3)、第5795589号(特許文献4)、および第5744158号(特許文献5);Mayerら、Biochimica et Biophysica Acta(1986)857:123(非特許文献3)を参照されたい)。この研究は、Deamerら(Biochimica et Biophysica Acta(1976)455:269〜271)(非特許文献4)が完成させた力学的試験から得られ、彼らは、リポソームが膜内外のpH勾配に反応していくつかのカテコラミン(ドーパミン、ノルエピネフリン、およびエピネフリン)を効率よく濃縮することを証明した。
【0006】
酸性のリポソーム内部および塩基性から中性の外部環境が存在することによって、中性から塩基性pHでは主として中性型で存在し、酸性pHでは主として荷電型で存在する物質をリポソーム内に容易に捕獲することができる。アミン基のようなイオン化可能部分を含む薬物は、容易に封入されて、酸性内部を含むリポソームにおいて保持される。イオノフォア(A23187)を用いて、マンガン含有リポソームを横切るpH勾配を作製するこの方法は、膜に挿入されたPEG-脂質結合体を含むコレステロール不含リポソームにトポテカンをローディングするために用いられている(国際公開公報第0185131号(特許文献6)を参照されたい)。しかし、膜内外のpH勾配を用いるローディングおよび保持の成功は、リポソームの内部pHが維持されているあいだ実現される。pH勾配は、短期間維持されるに過ぎないため、臨床において薬剤をリポソームに調製する場合には、薬物のローディング直前にリポソームにpH勾配を作製する必要がある。この方法の第二の短所は、酸性pHで脂質およびいくつかの薬剤が不安定であること起因し、これは薬物をローディングしたリポソームを長期間保存するという需要の妨げとなる。リポソーム製剤を凍結すると、加水分解速度を遅らせるが、従来のリポソーム製剤は、適当に選択された凍結保護剤を用いなければ、しばしば凝集して、融解の際に内容物を漏出する。
【0007】
ドキソルビシンまたはシプロフロキサシンのような薬剤と、Mn2+のような二価金属イオンの錯体が報告されている(Bouma, J.ら(1986)Pharm.Weekbl. Sci. Edn. 16:109〜133(非特許文献5);Riley, C.M.ら(1993)、J. Pharm. Biomed. Anal. 11:49〜59(非特許文献6)およびFenske, D.B.(1998)Biochim. Biophys. Acta. 1414:188〜204(非特許文献7))。最近、スフィンゴミエリン/コレステロールLUVへのドキソルビシンの取り込み(しかし、シプロフロキサシンは取り込まれない)が、イオノフォアの非存在下で内部ローディング媒体におけるマンガンによって行うことができることが報告された(Cheungら、Biochimica et Biophysica Acta(1998)1414:205(非特許文献8))。ドキソルビシンとマンガンイオンとの錯体形成と、リポソーム内部でのドキソルビシンのプロトン化の双方を含むプロセスによって、マンガンイオンの存在下でこの特定の薬剤の取り込みが起こることが示唆された。ドキソルビシンの安定な捕獲が報告されたが、この研究は、薬物保持が最適であると認められた製剤であるスフィンゴミエリン/コレステロールリポソームを用いることに依存した。Cheungらによって報告された、pH 7.4 HEPES緩衝液においてMnSO4を用いることを含む方法論は、金属がそのような緩衝液から沈殿することから、再現できない。
【0008】
様々な研究グループが、小胞膜に及ぼす金属陽イオンの影響を評価する目的で、金属イオンとリポソームの相互作用を研究している(Steffanら(1994)Chem. Phys. Lipids 74(2):141〜150(非特許文献9))。Ca2+のような二価金属陽イオンは、リポソーム表面の陰性荷電のために、ホスファチジルグリセロール(PG)含有リポソームの金属によるクロスリンクが不都合に形成されることに関係している。金属イオンはまた、陰性モデル膜システムの相転移温度を増加させることに関係している(Borleら(1985)Chemistry and Physics of Lipids 36:263〜283(非特許文献10);Jacobsonら、(1975)Biochemistry 14(1):152〜161(非特許文献11))。これらの研究から、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)膜にカルシウムを加えると、約50℃までの相遷移温度の増加が得られることが判明した。これらの結果は、金属イオンと共に陰性荷電脂質を用いると、インビボ応用に関してより劣った特徴を示すリポソームが得られることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5837282号
【特許文献2】米国特許第6083530号
【特許文献3】米国特許第5616341号
【特許文献4】米国特許第5795589号
【特許文献5】米国特許第5744158号
【特許文献6】国際公開公報第0185131号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Needhamら、Colloids and Surfaces B:Biointerfaces(2000)18:183〜195
【非特許文献2】Fenskeら、Biochim. Biophys. Acta(1998)1414:188〜204
【非特許文献3】Mayerら、Biochimica et Biophysica Acta(1986)857:123
【非特許文献4】Deamerら(Biochimica et Biophysica Acta(1976)455:269〜271)
【非特許文献5】Bouma, J.ら(1986)Pharm.Weekbl. Sci. Edn. 16:109〜133
【非特許文献6】Riley, C.M.ら(1993)、J. Pharm. Biomed. Anal. 11:49〜59
【非特許文献7】Fenske, D.B.(1998)Biochim. Biophys. Acta. 1414:188〜204
【非特許文献8】Cheungら、Biochimica et Biophysica Acta(1998)1414:205
【非特許文献9】Steffanら(1994)Chem. Phys. Lipids 74(2):141〜150
【非特許文献10】Borleら(1985)Chemistry and Physics of Lipids 36:263〜283
【非特許文献11】Jacobsonら、(1975)Biochemistry 14(1):152〜161
【発明の概要】
【0011】
本発明は、リポソームにイオノフォアが存在しない状態で行われた金属に基づく技法を用いたリポソームローディング効率および保持特性が、意外にも、用いる金属およびリポソームの脂質構成に依存するという発見に基づいている。脂質の構成と金属の組成を選択することによって、選択された物質の所望のローディングまたはリポソームからの放出が得られるように、ローディングまたは保持特性を調整することができる。さらに、金属イオン封入リポソームを調製するために用いられる溶液からの金属の望ましくない沈殿は、金属適合性の溶液を用いることによって回避される可能性があり、ローディングも同様に、そのようなリポソームを含む外部溶液からの金属イオンを厳密に除去するかまたは錯体形成によって増強される可能性がある。
【0012】
本発明は、このように、リポソームに封入された物質がドキソルビシンである場合には、封入された金属がマンガンのみではないことを条件として、リポソームが外部溶液に存在する、封入された金属を含むリポソームを調製すること;および該物質がリポソームにおいて封入されるように物質を外部溶液に加えることを含む、リポソームに物質をローディングする方法を提供する。本発明のこの局面の一つの態様において、封入された金属は遷移金属である。好ましくは、リポソームの内部と外部のあいだにpHの差はほとんどまたは全くないであろう。より好ましくは、pHは生理的溶液のpHまたはほぼ中性のpHと同等であろう。好ましくは、外部溶液はより少ない金属を有する、より好ましくは実質的により少ない金属を有するであろう。好ましくは、外部溶液およびリポソームの表面は、錯体を形成していない状態の金属を本質的に含まないであろう。さらに、本発明は、本発明の方法に従って調製される組成物と共に、方法において用いるために適した封入金属を含むリポソームを提供する。
【0013】
本発明はこのように、以下の段階を含む、リポソームに物質をローディングする方法も同様に提供する:
(i)封入された遷移金属イオンを含むリポソームを調製する段階、および
(ii)物質がリポソームに封入されるように、該リポソームの外部溶液に物質を加える段階。
【0014】
遷移金属イオンは、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、V、Ti、Cr、Rh、Ru、Mo、およびPdの一つまたはそれ以上から選択してもよく、Mnが同様に封入されているリポソームに封入してもよい。
【0015】
本発明は、本発明に従って調製される組成物と共に、本発明の方法において用いるために適した、遷移金属または二つもしくはそれ以上の異なるそのようなイオンを含むリポソームを提供する。
【0016】
本発明はまた、金属の沈殿を最小限にするために、そしてリポソームを調製するために十分な時間それを溶液中で維持するために、本明細書において記述したように「金属適合性の」溶液において金属イオンを用いてリポソームをローディングする方法も提供する。このように、本発明は、以下の段階を含む、リポソームに物質をローディングする方法を含む:
(i)金属イオンと金属適合性の溶液とを含む封入媒体を有するリポソームを調製する段階;
(ii)物質がリポソームに封入されるように該リポソームの外部溶液に物質を加える段階。
【0017】
さらに、本発明は、本発明の方法に従って調製された組成物と共に、金属イオンと、本発明の方法において用いるために適した金属適合性の溶液とを含むリポソームを提供する。
【0018】
好ましくは、薬物の封入後、本発明のまたは本発明の方法において用いられるリポソームは、リポソーム内pHと実質的に同様のリポソーム外pHを有する。より好ましくは、リポソーム外およびリポソーム内pHは、約pH 3.5〜約pH 9.0であり、より好ましくは約pH 6.0〜約pH 8.5、さらにより好ましくは約pH 6.5〜約pH 8.5、および最も好ましくは約pH 6.5〜約pH 7.5である。
【0019】
本発明はさらに、金属に基づくローディングを用いる場合に、コレステロール含有量が低くなるように調製したリポソームが、予想外のローディングおよび保持特性を示すという発見に基づく。このように、本発明はまた、以下の段階を含む、外部溶液に存在するリポソームに物質を封入する方法を提供する:
(i)(a)リポソームが低コレステロールリポソームであることを条件とする、一つまたはそれ以上の小胞形成脂質、
(b)金属適合性溶液における封入された金属
を含む、リポソームを調製する段階;
(ii)物質がリポソームに封入されるように、活性物質を外部溶液に加える段階。
【0020】
本発明のこの局面の一つの態様において、金属適合性溶液には遷移金属が含まれる。
【0021】
本発明のもう一つの局面において、本発明は、以下の段階を含む、物質をリポソームに封入する方法を提供する:
(i)リポソームが膜内外のpH勾配を有しない、外部溶液において本発明のリポソームを提供する段階;
(ii)物質がリポソームに封入されるように、外部溶液に物質を加える段階。
【0022】
さらに、本発明はまた、哺乳類にリポソームを投与する方法、および障害(例えば、癌)に罹患した、罹患する感受性がある、または罹患が疑われる哺乳類を治療する方法にも関する。特に、本発明は、本発明のリポソームを含む薬学的組成物を投与することを含む、被験者にリポソームを投与する方法を含む。治療または投与方法は一般的に、障害またはその症状を改善するために十分な用量で薬学的組成物を投与することを含むと理解されるであろう。一つの局面において、本発明は、封入金属を用いて活性物質をローディングしたリポソームが、マンガンによって示された特性とは異なるローディングおよび保持特性を示すという知見に基づく。
【0023】
本発明は、リポソームがスフィンゴミエリンおよびコレステロールからなる脂質組成を有する場合、または一つもしくはそれ以上の治療物質がドキソルビシンのみである場合、一つまたはそれ以上の封入イオンはマンガンのみではないことを条件として、一つまたはそれ以上の封入遷移金属イオンと一つまたはそれ以上の治療物質とを含む内部溶液を含むリポソームを含むリポソーム組成物を提供する。本発明はまた、リポソームが外部溶液に存在する上記のリポソーム組成物も提供する。
【0024】
本発明はまた、以下の段階を含む、リポソーム組成物が上記のリポソーム組成物である、リポソームに物質をローディングする方法を提供する:組成物の外部溶液に存在する場合には組成物におけるリポソームの膜を通過することができるが、内部溶液において一つまたはそれ以上の金属イオンと錯体を形成した場合には膜を通過することができない物質を選択する段階、選択された物質を組成物の外部溶液に加える段階、および物質をローディングするために十分な時間、外部溶液において物質を維持する段階。
【0025】
本発明はまた、リポソームにおける封入物質の所望の保持を得るために、リポソームにおける封入に関して金属イオンを選択することを含む、リポソームを調製、選択、または設計する方法も提供する。このように、本発明に従って選択された物質の好ましいローディングまたは保持特性を有するリポソーム組成物を提供、調製、または選択する方法は、以下を含んでもよい:
(a)上記の第一のリポソーム組成物を提供する段階;
(b)組成物のリポソームに物質のローディングを提供するために十分な時間(a)の組成物の外部溶液に選択物質を加える段階;
(c)上記の第二のリポソーム組成物を提供する段階;
(d)組成物のリポソームに物質のローディングを提供するために十分な時間(c)の組成物の外部溶液に選択された物質を加える段階;
(e)(b)で得られた組成物のリポソームに関して、ローディングされたまたは保持された物質量を、(d)で得られた組成物のリポソームと比較する段階;および
(f)好ましいローディングまたは保持を有する(b)または(d)で得られたリポソーム組成物を選択、提供、または調製する段階。
この場合、(a)および(c)のリポソーム組成物は、(i)内部溶液に存在する金属イオン;(ii)リポソーム組成物のリポソームにおける脂質;(iii)物質のローディングを提供するために十分な時間および/または温度条件;ならびに(iv)内部溶液に存在する金属イオンの濃度のうち、一つまたはそれ以上が異なる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1Aは、内部培地としてトリエタノールアミン(TEA)によってpH 7.4に緩衝剤処理した100 mM Cu(II)グルコネートおよび外部培地として300 mMショ糖、20 mM HEPES、30 mM EDTA(SHE)、pH 7.4を用いて、DSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、薬物対脂質モル比0.1:1で50℃で実施した。図1Bは、内部培地としてTEAによってpH 7.4に調節した150 mM CuSO4、20 mMヒスチジンおよび外部培地としてSHE、pH 7.4を用いて、DSPC/DSPG(モル比90:10)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、薬物対脂質モル比0.1:1で60℃で実施した。
【図2】内部培地としてTEAによってpH 7.4に調節した100 mM Cu(II)グルコネートおよび外部培地としてSHE、pH 7.4を用いて、DPPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである、ローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で50℃で実施した。
【図3】内部培地として300 mM MnSO4、20 mMイミダゾール、pH 7.4および外部培地としてSHE、pH 7.4を用いて、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのエピルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、薬物対脂質重量比約0.2:1で60℃で実施した。
【図4】図4Aは、内部培地として100 mM Cu(II)グルコネート、220 mM TEA、pH 7.4および外部培地として300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4を用いて、モル比85:15のフロクスウリジン(FUDR)含有DSPC/DSPGリポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。FUDRは受動的に封入して、イリノテカンのローディングは、薬物対脂質モル比0.1:1で50℃で実施した。図4Bは、内部培地として100 mM Cu(II)グルコネート、220 mM TEA、pH 7.4、および外部緩衝液として20 mM HEPES、150 mM NaCl(HBS)、pH 7.4(黒丸)または300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4(白丸)のいずれかを用いて、FUDR含有DSPC/Chol/DSPG(モル比70:10:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。FUDRは受動的に封入して、イリノテカンのローディングは薬物対脂質モル比0.1:1で50℃実施した。
【図5】内部培地としてTEAによってpH 7.4に調節した150 mM CuSO4および外部培地としてSHE、pH 7.4を用いて、カルボプラチン含有DSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。カルボプラチンは受動的に封入して、イリノテカンのローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で実施した。
【図6】内部培地としてNaOHによってpH 7.4に調節した150 mM CuCl2および外部培地としてHBS、pH 7.4を用いて、シスプラチン含有DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。シスプラチンは、受動的に封入して、ダウノルビシンのローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で実施した。
【図7】内部培地として300 mM MnSO4(黒丸)または300 mMクエン酸塩、pH 3.5(黒四角)を用いて、DPPC/DSPE-PEG-2000(モル比95:5)リポソームへのドキソルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ドキソルビシンのローディングは、37℃で薬物対脂質重量比0.1:1(パネルA)、0.2:1(パネルB)、または0.3:1(パネルC)で実施した。データの点は、3回の繰り返し実験の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。
【図8】図8Aは、300 mM MnSO4(黒丸)、300 mMクエン酸塩、pH 3.5(黒四角)、または300 mM MnCl2(黒三角)を用いて、DMPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのドキソルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ドキソルビシンは、薬物対脂質重量比0.2:1で60℃でローディングした。データの点は、3回の繰り返し実験の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。図8Bは、様々な条件でドキソルビシンをローディングした前後で測定した膜内外のpH勾配を示すヒストグラムである。試料には、ドキソルビシンのローディング前(カラム1)およびローディング後(カラム2)のクエン酸塩ローディング法;ドキソルビシンのローディング前(カラム3)およびローディング後(カラム4)のMnSO4ローディング法;ならびにドキソルビシンのローディング前(カラム5)およびローディング後(カラム6)のMnCl2ローディング法に基づく試料が含まれる。結果は、これらの個々の実験のpH勾配の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を示す。
【図9】内部ローディング培地として300 mM MnSO4(白丸)または300 mM CuSO4(黒丸)のいずれかを利用して、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。イリノテカンは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃でローディングした。
【図10】図10Aは、内部培地として300 mM MnSO4を用いて、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、初回の薬物対脂質重量比0.1:1で、23℃(黒丸)、37℃(白丸)、および60℃(下向き黒三角)で実施した。図10Bは、内部培地として150 mM CoCl2を用いて、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、初回の薬物対脂質重量比0.1:1で、23℃、(黒丸)、37℃(白丸)、および60℃(下向き黒三角)で実施した。図10Cは、内部培地として300 mM NiSO4を用いて、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、薬物対脂質重量比0.2:1で60℃で実施した。
【図11】60℃で300 mM CuSO4を用いて、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのエピルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。エピルビシンは、薬物対脂質重量比が0.2:1となるようにローディングした。
【図12】図12Aは、内部培地として300 mM CoCl2および外部緩衝液としてSHE、pH 7.5を用いて、DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのドキソルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で実施した。図12Bは、内部培地として300 mM CuSO4および外部緩衝液としてHBS、pH 7.4を用いて、DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのドキソルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ダウノルビシンは、薬物対脂質重量比0.1:1(黒丸)、0.2:1(白丸)、および0.4:1(下向き黒三角)で60℃でローディングした。図12Cは、37℃でDSPC/DSPE-PEG(モル比95:5)リポソームへのトポテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。300 mM CuSO4溶液を内部ローディング培地として用いた。トポテカンは、薬物対脂質重量比0.1:1でローディングした。
【図13A】内部培地として150 mM MnCl2および外部溶液としてHBS、pH 7.4を用いて、シスプラチン含有DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。シスプラチンは受動的に封入して、ダウノルビシンのローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で実施した。
【図13B】内部培地として150 mM CuCl2および外部溶液としてHBS、pH 7.4を用いて、シスプラチン含有DMPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。シスプラチンは、受動的に封入して、ダウノルビシンのローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で実施した。
【図13C】内部培地として300 mM NiSO4および外部溶液として300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4を用いて、カルボプラチン含有DPPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。カルボプラチンは、受動的に封入して、ダウノルビシンのローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で37℃で実施した。
【図13D】内部培地として75 mM CuCl2+150 mM CuSO4および外部溶液としてSHE、pH 7.4を用いて、シスプラチン含有DPPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。シスプラチンは、受動的に封入して、イリノテカンのローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で実施した。
【図14】ドキソルビシンを予めローディングしたDSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへの50℃でのビンクリスチンのローディングの際の様々な時点でのビンクリスチン/脂質およびドキソルビシン/脂質比を示すグラフである。300 mM MnSO4を含むリポソームに、ドキソルビシン(黒丸)を50℃で薬物対脂質比0.2:1重量/重量で予めローディングした。ビンクリスチンのローディング(黒四角)は、A23187イオノフォアの助けを借りて、薬物対脂質比0.05:1重量/重量で実施した。エラーバーは、3回の繰り返し実験の標準偏差を表す。
【図15】内部培地として300 mM CuSO4を含むDSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのイリノテカンおよびドキソルビシンの連続金属ローディングを示すヒストグラムである。リポソームには、60℃で薬物対脂質モル比0.2:1〜約100%までイリノテカンを予めローディングした後、薬物/脂質モル比0.15:1でローディングしたドキソルビシンの封入を行った。対照として、単剤をローディングしたリポソームへのそれぞれの薬物のリポソーム取り込みを個々に測定した。エラーバーは、3回の繰り返し実験の標準偏差を表す。
【図16】Balb/cマウスへの静脈内注射後24時間でのダウノルビシン含有DSPC/DSPE-PEG2000(モル95:5)リポソームの血漿薬物対脂質比を示すヒストグラムである。ダウノルビシンは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で、内部培地として300 mM CuSO4;150 mMクエン酸塩、pH 4;または300 mM MnSO4のいずれかを含むリポソームにローディングした。エラーバーは、3回の繰り返し実験の標準偏差を表す。
【図17】150 mM NaClによって平衡化したケレックス-100(商標)カラムの中にリポソームを通過させた後、封入したCuSO4に反応したDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを示すグラフである。リポソームは、その後300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4に交換した。ローディングは、37℃(黒丸)、50℃(白丸)、および60℃(下向き黒三角)でのインキュベーションによって実施した。
【図18】、37℃(黒丸)、50℃(白丸)、および60℃(下向き黒三角)で封入したCuSO4に反応したDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを示すグラフである。リポソームの外部溶液は、緩衝液を生理食塩液に交換して、ローディング前に300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4(外部EDTAなし)にさらに交換した。
【図19】外部溶液の緩衝液を300 mMショ糖、20 mM HEPES、30 mM EDTA、pH 7.4に交換後に、封入した銅グルコネートに反応したDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを示すグラフである。ローディングは、37℃(黒丸)、50℃(白丸)、および60℃(下向き黒三角)でのインキュベーションによって行った。
【図20】300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4によって平衡化したケレックス-100(商標)カラムの中にリポソーム調製物を通過させた後に、封入した銅グルコネートに反応したDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを示すグラフである。イリノテカンのローディングは、37℃(黒丸)、50℃(白丸)、および60℃(下向き黒三角)でのインキュベーションによって行った。
【図21】黒丸、白丸、および下向き黒三角によってそれぞれ表される、ダウノルビシンおよびカルボプラチンを同時ローディングしたDSPC/DSPG(モル比80:20)、DSPC/SM/DSPG(モル比75:5:20)、およびDSPC/SM/DSPG(モル比70:10:20)リポソームの血漿脂質レベルを示すグラフである。カルボプラチンは、受動的に捕獲して、ダウノルビシンは、封入したCuSO4に反応して能動的にローディングした。
【図22】黒丸、白丸、および下向き黒三角によってそれぞれ表される、ダウノルビシンおよびカルボプラチンを同時ローディングしたDSPC/DSPG(モル比80:20)、DSPC/SM/DSPG(モル比75:5:20)、およびDSPC/SM/DSPG(モル比70:10:20)リポソームのダウノルビシン血漿レベルを示すグラフである。カルボプラチンは、受動的に捕獲して、ダウノルビシンは、封入したCuSO4に反応して能動的にローディングした。
【図23】黒丸、白丸、および下向き黒三角によってそれぞれ表される、ダウノルビシンおよびカルボプラチンを同時ローディングしたDSPC/DSPG(モル比80:20)、DSPC/SM/DSPG(モル比75:5:20)、およびDSPC/SM/DSPG(モル比70:10:20)リポソームのカルボプラチン血漿レベルを示すグラフである。カルボプラチンは、受動的に捕獲して、ダウノルビシンは、封入したCuSO4に反応して能動的にローディングした。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
リポソームの調製
本明細書において用いられる「リポソーム」という用語は、水相を封入する一つまたはそれ以上の同心円に並んだ脂質二重層を含む小胞を意味する。そのような小胞を形成するためには、二重層構造を形成することができる、または二重層構造に組み入れられうる両親媒性脂質である「小胞形成脂質」が存在する必要がある。後者の用語には、それ自身またはもう一つの脂質もしくは複数の脂質と組み合わせた場合に二重層を形成することができる脂質が含まれる。両親媒性脂質は、その疎水性部分が膜二重層の内部の疎水性領域に接触して、その極性の頭部部分が膜の外側の極性表面の方向を向いている脂質二重層に組み入れられる。親水性は、ヒドロキシル、ホスファート、カルボキシル、スルファート、アミノ、またはスルフヒドリル基のような官能基が存在することによって生じる。疎水性は、脂肪族炭化水素基の長鎖が存在することによって生じる。
【0028】
任意の適した小胞形成脂質を、当業者によって判断されるように本発明の実施において用いることができる。これには、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、およびホスファチジルセリン(PS)のような燐脂質;糖脂質;ならびにスフィンゴシン、セラミド、スフィンゴミエリン、およびグリコスフィンゴリピッド(セレブロシドおよびガングリオシドなど)のようなスフィンゴリピッドが含まれる。好ましい燐脂質は、互いに独立して選択され、不飽和の程度が様々な炭素原子6〜24個の二つのアシル鎖を含む。
【0029】
本発明に従って調製されるリポソームは、小胞を調製するために用いられる通常の技術によって生成することができる。これらの技術には、エーテル注入法(Deamerら、Acad. Sci.(1978)308:250)、界面活性剤法(Brunnerら、Biochim. Biophys. Acta(1976)455:322)、凍結融解法(Pickら、Arch. Biochim. Biophys.(1981)212:186)、逆相蒸発法(Szokaら、Biochim. Biophys. Acta(1980)601:559〜71)、超音波処置法(Huangら、Biochemistry(1969)8:344)、エタノール注射法(Kremerら、Biochemistry(1977)16:3932)、押し出し法(Hopeら、Biochim. Biophys. Acta(1985)812:55〜65)、およびフレンチプレス法(Barenholzら、FEBS Lett. (1979)99:210)が含まれる。上記のプロセスは全て、リポソーム小胞を形成するための基本的な技術であり、これらのプロセスは組み合わせて用いることができる。好ましくは、小単層小胞(SUV)は、超音波処理法、エタノール注入法およびフレンチプレス法によって調製する。好ましくは多層小胞(MLV)は、逆相蒸発法または単に水溶液を脂質被膜に付加した後機械的攪拌による分散によって調製する(Banghamら、J. Mol. Biol.(1965)13:238〜252)。
【0030】
本発明の実施において用いてもよい特に適したリポソーム調製物は、大単層小胞(LUV)である。LUVは、エーテル注入法、界面活性剤法、凍結融解法、逆送蒸発法、フレンチプレス法または押し出し法によって調製してもよい。好ましくは、LUVは、押し出し法に従って調製する。押し出し法は、まず脂質をクロロホルムと所定のモル比を生じるように混合することを含む。選択的に脂質マーカーを、脂質調製物に加えてもよい。得られた混合物を、窒素ガス流下でそして真空ポンプ内で溶媒が実質的に除去されるまで乾燥させる。次に、治療物質または複数の物質の混合物を含んでもよい適当な水溶液において試料を水和する。次に、混合物を押し出し装置(例えば、ノザンリピッズ(Northern Lipids)の装置、バンクーバー、カナダ)の中に通過させて、既定の大きさのリポソームを得る。リポソームの大きさの平均値は、例えばNICOMP(商標)370サブミクロン粒子整粒器を波長632.8 nmで用いる準弾性光散乱を含む多様な方法によって決定することができる。
【0031】
本発明のいくつかの局面において、リポソームは、「低コレステロール」となるように調製される。そのようなリポソームは、「実質的にコレステロールを含まない」、または「本質的にコレステロールを含まない」。「実質的にコレステロールを含まない」という用語では、リポソームの相転移特徴を有意に変化させるには不十分であるコレステロールの量(典型的にコレステロール20モル%未満)が存在してもよい。コレステロール20モル%またはそれ以上では、相転移が起こる温度範囲が広くなり、より高いコレステロールレベル(例えば、30モル%より高いレベル)では相転移は消失する。好ましくは、実質的にコレステロールを有しないリポソームは、約15モル%またはそれ未満、より好ましくは約10モル%またはそれ未満のコレステロールを有するであろう。「本質的にコレステロールを含まない」という用語は、約5モル%またはそれ未満、好ましくは約2モル%またはそれ未満、およびさらにより好ましくは約1モル%またはそれ未満のコレステロールを意味する。最も好ましくは、「低コレステロール」リポソームを調製する場合には、コレステロールは存在しないかまたは付加されないであろう。
【0032】
本発明のリポソームは、ポリアルキルエーテル脂質結合体のような親水性ポリマー-脂質結合体を含んでもよい。ポリアルキルエーテルのような親水性ポリマーのリポソーム表面への移植は、リポソームを「立体的に安定化させ」て、それによってリポソームの循環中の寿命を増加させるために利用されている。これによって血液中の安定性が増加して、循環時間が増加して、健康な組織への取り込みが減少し、固形腫瘍のような疾患部位への輸送が増加する(例えば、米国特許第5013556号および第5593622号;およびPatelら、Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst(1992)9:39〜90を参照されたい)。典型的に、ポリマーはリポソームの脂質成分に結合する。「親水性ポリマー-脂質結合体」という用語は、その極性頭部部分で親水性ポリマーと共有結合して、典型的に、ポリマーに結合するために極性頭部部分に反応性官能基を有する脂質で構成される小胞形成脂質を意味する。適した反応性官能基は、例えばアミノ、ヒドロキシル、カルボキシル、またはホルミル基である。脂質は、そのような結合体において用いることに関して当技術分野で記述される如何なる脂質であってもよい。好ましくは、脂質は、様々な程度の不飽和を有する長さが炭素原子約6〜24個を含む二つのアシル鎖を有する燐脂質である。最も好ましくは、結合体における脂質はPEであり、好ましくはジステアロイル型である。ポリマーは、リポソームの均一な表面被覆を生じる十分な柔軟性でリポソーム表面からポリマー鎖が有効に伸長することができる水溶性を特徴とする生体適合性のポリマーである。好ましくは、そのようなポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリメチレングリコール、ポリヒドロキシプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリル酸およびそのコポリマーを含むポリアルキルエーテルと共に米国特許第5,013,556号および第5,395,619号に開示のものである。好ましくは、そのようなポリマーは、分子量約350〜5000ダルトンを有する。結合体は、ペプチド、エステル、またはジスルフィド結合のような放出可能な脂質-ポリマー結合を含むように調製してもよい。結合体にはまた、ターゲティングリガンドが含まれてもよい。結合体の混合物を、本発明において用いられるリポソームに組み入れてもよい。
【0033】
下記のような陰性荷電脂質を、担体の循環中の寿命を増加させるために金属封入リポソーム製剤に組み入れてもよい。これらの脂質は、表面安定化剤として親水性ポリマー脂質結合体の代わりに用いてもよい。本発明の態様は、凝集を防止してそれによって担体の血液残留時間を増加させるために、そのような陰性荷電脂質を含むコレステロール不含リポソームを利用してもよい。そのような態様は、理想的にはリポソームの表面およびリポソームの外部溶液から金属イオンを厳密に除去した後にローディングされる。
【0034】
「陰性荷電脂質」という用語は、燐脂質およびスフィンゴリピッドを含む、生理的pHで一つまたはそれ以上の陰性荷電を有する小胞形成脂質を意味する。陰性荷電脂質は、本発明のリポソームに5〜95モル%、より好ましくは10〜50モル%、および最も好ましくは15〜30モル%で組み入れられてもよい。
【0035】
好ましくは、本発明において用いられる生理的pHで陰性荷電である脂質は、生理的pHで反対電荷を有しない部分を意味する「非両性イオン部分」を含むであろう。そのような脂質は、インビボで用いるための望ましい循環特性をリポソームに付与する。脂質上の真の陰性荷電は、脂質上の陰性荷電の存在のみによって生じてもよく(例えば、ホスフェート基)、または脂質が一つより多い荷電を有する場合には、陰性荷電非両性イオン部分の存在によってさらなる陰性荷電が生じてもよい。しかし、好ましくは、陰性荷電は、非両性イオン部分が中性基である場合には、脂質成分のみによって生じる。好ましくは、非両性イオンは、炭素原子2〜6個を含む。
【0036】
適した非両性イオン部分は、頭部基に親水性特徴を付与する電子求引性官能基を含む。そのような官能基は、アルコール、酸、ケトン、エステル、エーテル、アミド、およびアルデヒドからなる群より選択することができる。以下の式の非両性イオン部分を利用してもよい。
【0037】
アルコール
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)v(CH)w(C)x(OH)y(CH3)zであって、
炭素数(v+w+x+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、OH基の数は1〜3個である(y=1〜3)。例えば、DPPG。
【0038】
ケトン
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)v(C)x(CO)y(CH3)zであって、
炭素数(v+x+y+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、ケトン基の数は1〜2個である(y=1〜2)。例えば、N-ブチリル-DPPE、N-バレリル-DPPE。
【0039】
カルボン酸
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)u(CH)v(C)x(COOH)y(CH3)zであって、
炭素数(u+v+x+y+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、カルボン酸基の数は1〜2個である(y=1〜2)。
【0040】
エステル
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR
式中、Rは-(CH2)v(C)x(COO)y(CH3)zであって、
炭素数(v+x+y+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、エステル基の数は1〜2個である(y=1〜2)。
【0041】
エーテル
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)v(C)x(O)y(CH3)zであって、
炭素数(v+x+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、エーテル基の数は1〜2個である(y=1〜2)。
【0042】
アミン
一級アミン:
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)v(C)w(CH)x(NH3)y(CH3)zであって、
炭素数(v+w+x+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、アミノ基の数は1〜2個である(y=1〜2)。
二級アミン:
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)v(C)w(CH)x(NH2)y(CH3)zであって、
炭素数(v+w+x+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、アミン基の数は1〜2個である(y=1〜2)。
三級アミン:
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)v(CH)w(C)x(N)y(CH3)zであって、
炭素数(v+w+x+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、アミン基の数は1個である(y=1)。
【0043】
非両性イオン部分はまた、例えば、以下の式の化合物のような、官能基の組み合わせを含んでもよい。
【0044】
カルボン酸とケトン
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)u(CH)v(C)w(COOH)x(CO)y(CH3)zであって、
炭素数(u+v+w+x+y+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、カルボン酸基の数は1〜2個(x=1〜2)、
ケトン基の数は1〜2個(y=1〜2)。例えば、N-スクシニル-DPPE、N-グルタリル-DPPE。
【0045】
カルボン酸、ケトンおよびアルコール
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)s(CH)t(C)u(COOH)v(CO)x(OH)y(CH3)zであって、
炭素数(s+t+u+v+x+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、カルボン酸基の数は1〜2個(v=1〜2)、
ケトン基の数は1〜2個(x=1〜2)。
ヒドロキシル基の数は1〜2個(y=1〜2)である。例えば、N-タータリル-DPPE。
【0046】
環状構造
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHRであって、式中、Rは、アルコール基1〜5個または1〜6個(シクリトール)をそれぞれ含む5員環または6員環である(例えば、ホスファチジルイノシトール)。
【0047】
炭水化物
本発明の実施において用いてもよい単糖類には、アラビノース、フコース、ガラクトース、グルコース、リキソース、リボース、およびキシロースが含まれる。二糖類には、ショ糖、乳糖、トレハロース、セロビオース、ゲンチオビオース、およびマルトースが含まれる。リポソームの循環中の寿命を増加させる目的の場合、細胞受容体に結合しない単糖類および二糖類(例えば、マンノース)が好ましい。
【0048】
非両性イオン部分が中性である場合、頭部基は、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、アミドおよびアルデヒドを含む、生理的pHで中性である基からなる。
【0049】
本発明の好ましい態様において、非両性イオン部分は、短鎖アルコールであり、好ましいアルコールは二つまたはそれ以上のヒドロキシル基を含む。アルコールは、グリセロールが一例である直鎖ポリオールとなりうる。グリセロールは、ヒドロキシル基の一つと脂質のホスフェート基との結合によって、ホスホスフィンゴリピッドまたは燐脂質の頭部基を構成してもよい。最も好ましくは、グリセロールは、グリセロール分子の末端のヒドロキシル基によってホスフェートに結合し、得られた分子をホスファチジルグリセロール(PG)と呼ぶ。好ましくは、ホスファチジルグリセロールの脂肪酸鎖は、オレオイル(18:1)、リノレオイル(18:2)、アラキドノイル(20:4)、およびドコサヘキサエノイル(22:6)のような、これらの脂肪酸鎖のシスまたはトランス形状の不飽和型を含む、カプロイル(6:0)、オクタノイル(8:0)、カプリル(10:0)、ラウロイル(12:0)、ミリストイル(14:0)、パルミトイル(16:0)、ステアロイル(18:0)、アラキドイル(20:0)、ベヘノイル(22:0)、リングノセロイル(24:0)、およびフィタノイルからなる群より互いに独立して選択される。炭素原子14〜18個の二つのアシル鎖を有する燐脂質が好ましい。
【0050】
本発明のもう一つの好ましい態様において、非両性イオン部分は環状構造である。最も好ましくは環状構造は、三つまたはそれ以上の環原子のそれぞれに一つのヒドロキシル基を含むシクロアルカンであるシクリトールである。そのような化合物は、所望の水溶性を分子に付与するために様々な基によって誘導体化してもよい。好ましくは、シクリトールは、ホスフェート基によって燐脂質に結合したイノシトールであり、得られた化合物はホスファチジルイノシトール(PI)である。好ましくは、ホスファチジルイノシトールの脂肪酸鎖は、オレオイル(18:1)、リノレオイル(18:2)、アラキドノイル(20:4)、およびドコサヘキサエノイル(22:6)のような、これらの脂肪酸鎖のシスまたはトランス形状の不飽和型を含む、カプロイル(6:0)、オクタノイル(8:0)、カプリル(10:0)、ラウロイル(12:0)、ミリストイル(14:0)、パルミトイル(16:0)、ステアロイル(18:0)、アラキドイル(20:0)、ベヘノイル(22:0)、リングノセロイル(24:0)、およびフィタノイルからなる群より互いに独立して選択される。炭素原子14〜18個の二つのアシル鎖を有するホスファチジルイノシトールが好ましい。
【0051】
陰性荷電脂質は、天然資源から得てもよく、または化学合成してもよい。脂質の頭部基に化合物を共有結合させる方法は当技術分野で周知であり、一般的に、結合させる部分上の官能基に脂質頭部基の末端部分上の官能基を反応させることを含む。親水性部分の化学結合にとって適した脂質には、アミンまたはカルボン酸のような反応性官能基で終了する極性頭部基を有する脂質が含まれる。特に適した脂質の例は、それが反応性アミノ基を含むことからホスファチジルエタノールアミンである。ホスファチジルエタノールアミン誘導体を調製する方法は、その参考文献が参照として本明細書に組み入れられる、Ahl, P.ら(1997)Biochimica et Biophysica Act. 1329:370〜382に記述されている。天然資源から得られた陰性荷電脂質の例には、それぞれ卵および植物起源から得られたホスファチジルグリセロールおよびホスファチジルイノシトールが含まれる。
【0052】
リポソームにおける活性物質と金属の封入
本発明は、封入された遷移金属を含むリポソームに物質をローディングする方法を提供する。本明細書において、「物質」という用語は、本発明に従うリポソームに封入されうる物質を指す。好ましくは、そのような物質は、インビトロまたはインビボで標的上で作用を発揮することができる「治療物質」であろう。適した活性物質には、例えば、プロドラッグ、診断物質、治療物質、薬剤、薬物、合成有機分子、タンパク質、ペプチド、ビタミン、ステロイド、およびステロイド類似体が含まれる。物質は、少なくとも遷移金属と錯体を形成していない場合、ローディングを得るためにリポソームの膜を横切って透過性でなければならない。
【0053】
本発明において用いられる遷移金属には、1B、2B、3B、4B、5B、6B、7B、および8B族の元素(3〜12群)が含まれる。好ましい金属には、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、V、Ti、Cr、Rh、Ru、Mo、Mn、およびPdからなる群より選択される金属が含まれる。より好ましくは、金属はFe、Co、Ni、Cu、Mn、またはZnである。さらにより好ましくは、金属はZn、Mn、Co、またはCuである。さらにより好ましくは、金属はZn、Co、またはCuである。
【0054】
本発明に従って用いられる遷移金属イオンは、当技術分野で既知の通常の技術に従ってリポソームに封入してもよい。これには、当技術分野で既知のそして下記のような受動的封入技術が含まれる。
【0055】
好ましくは、リポソームは、約20 mM〜約1 M、好ましくは約50 mM〜約800 mM、より好ましくは約100 mM〜約350 mMの濃度で遷移金属を含む溶液において形成される。
【0056】
金属の様々な塩を本発明の実施において用いてもよい。好ましくは、塩は薬学的に許容され、水性溶媒において可溶性である。好ましい塩は、塩化物、硫酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、燐酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩、グルコン酸塩、グリシン酸塩、ヒスチジン酸塩、リジン酸塩等からなる群より選択してもよい。
【0057】
好ましくは、本発明のリポソームに封入される治療物質は、リポソームに封入された金属と配位結合することができる物質である。
【0058】
遷移金属を配位することができる物質は、典型的にアミン、カルボニル基、エーテル、ケトン、アシル基、アセチレン、オレフィン、チオール、ヒドロキシル、ハロゲン化物、遷移金属に電子を供与して、それによって金属と錯体を形成することができる基または他の適した基などの、配位部位を含む。遷移金属に結合して、このように本発明の実施において用いてもよい物質には、フルオロキノロン、ナリジクス酸のようなキノロン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、およびエピルビシンのようなアントラサイクリン、カナマイシンのようなアミノグリコシド、ブレオマイシン、マイトマイシンCおよびテトラサイクリンのような他の抗生物質、およびシクロホスファミドのようなナイトロジェンマスタード、チオセミカルバゾン、インドメタシンおよびニトロプルシド、トポテカン、イリノテカン、ルルトテカン、9-アミノカンプトテシン、9-ニトロカンプトテシン、および10-ヒドロキシカンプトテシンのようなカンプトテシン、ならびにエトポシドのようなポドフィロトキシンが含まれる。本発明において用いられる物質は、物質における異なる原子からの電子を錯体の幾何学的構造における異なる部位に供与することができる。一つより多い非結合電子対を供与することができるそのような物質もまた、多座配位子として知られる。好ましくは、本発明において用いられる治療物質は、抗新生物物質である。
【0059】
遷移金属と錯体を形成し、このように本発明の実施において用いることのできる活性物質の非制限的な例を表1に提供する。
【0060】
(表1)金属に基づく活性物質の例
【0061】
物質と遷移金属とのあいだに配位が起こるか否かを決定する方法には、当業者に周知の通常の技術が含まれる。好ましい技術は、吸収スペクトルを測定すること、またはGreenawayおよびDabrowiak(J. Inorg. Biochem.(1982)16(2):91)に記述されるNMRを用いることを含む。望ましければ、配位が起こるか否かおよび錯体形成のために最適なpHを決定するために、活性物質を封入前に調べてもよい。
【0062】
封入された金属を有するリポソームを調製する好ましい技術は、所定のモル比を生じるように、まず脂質をクロロホルムにおいて混合することを含む。選択的に脂質調製物に脂質マーカーを加えてもよい。得られた混合物は、窒素ガス流下および真空ポンプ内で溶媒が除去されるまで乾燥させる。その後、遷移金属(一つより多い金属、例えばCuおよびMn、または一つの金属であるが金属の異なる塩を含んでもよい)を含む溶液において試料を水和する。次に、混合物を押し出し装置の中を通過させて、既定の大きさのリポソームの調製物を得る。リポソームの大きさの平均値は、NICOMP(商標)370サブミクロン粒子整粒器を波長632.8 nmで用いる準弾性光散乱によって決定することができる。押し出しの後、外部溶液およびリポソーム表面から金属イオンを除去するために、外部溶液を処理または置換してもよい。
【0063】
本発明は、好ましくは、「金属適合性の溶液」において遷移金属を含む封入または「内部」培地を有するリポソームを利用する。金属適合性の溶液を用いることによって、金属の沈殿が防止される、またはリポソームを薬学的に用いることができるために十分な程度まで沈殿を最少にすることができる。
【0064】
金属適合性溶液は、少なくともリポソームを調製するために必要な時間許容されない沈殿を引き起こさない金属の溶液からなる溶液であると定義される。好ましくは、金属溶液は透明かつ可溶性で、少なくとも約4時間凝集、沈殿、またはフロキュレーションを引き起こさない。例として、Cheungら[上記]に記述されるpH 7.4のHEPES緩衝液中のMnSO4の300 mM溶液は、それが溶液に加えたマンガンの約6〜7モル%を含むMn(OH)2の明白な茶色の沈殿物を生じるために、金属適合性溶液ではない。
【0065】
溶液の遠心および沈降物が形成されたか否かの評価または溶液の曇りの観察のような、様々な方法が当技術分野で既知であり、それらを用いて、金属溶液が、沈殿物を形成するか否かを決定してもよい。溶液の吸光度も同様に分光光度法によってモニターすることができ(例えば、690 mnでの吸光度の増加)、吸光度が実質的に増加すれば溶液の不安定性および沈殿の指標である。最も単純な方法は、溶液を濾過して、濾紙上の沈殿物の有無を調べることである。例えば、試料50 mlをホワットマン(Whatman)(商標)2番濾紙に通過させて、目に見える沈降物に関して濾紙を観察してもよい。
【0066】
溶液が金属適合性であるか否かを決定する好ましい方法は、690 nmでの吸光度をモニターすることである。さらなる金属は、約0.1吸光度単位より多い増加を引き起こさず、好ましくは増加は約0.05単位以下である。
【0067】
金属溶液が金属適合性であるか否かを決定するもう一つの好ましい方法は、遠心によって(例えば、試料100 mlを1000 rpmで10分間遠心する)如何なる沈殿物も回収して、回収した沈殿物の量を測定し、沈殿物に存在する当初の溶液に加えられる金属の比率を決定することである。沈殿物における金属の量は、当初の溶液に加えられる金属の量の約1モル%を超えてはならない。
【0068】
好ましい金属適合性溶液は、トリエタノールアミン(TEA)、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム/酢酸、クエン酸ナトリウム/クエン酸、またはショ糖、デキストロース、および乳糖のような糖を含む溶液のような薬学的に許容される溶液である。燐酸塩および炭酸塩に基づく溶液(薬学的に許容されるが)は、金属が沈殿する可能性があるために、正常な生理的範囲外のpHを除き使用が限られるであろう。好ましくは金属適合性溶液は緩衝作用があり、生理的範囲のpHを有する。
【0069】
本発明の実施において、得られた外部溶液が物質のローディング前に実質的に錯体を形成していない金属イオンを含まないようにリポソーム調製物の外部溶液を置換または処理することが都合がよい可能性がある。本明細書の目的に関して、「錯体を形成していない金属イオン」には、外部溶液において遊離で存在する金属イオンとリポソームの外部表面に結合した(またはそうでなければ会合した)金属イオンとが含まれる。逆に、錯体形成金属イオンは、それがキレート剤のような部分との複合体において外部溶液に存在することから、治療物質またはリポソーム表面と自由に相互作用しないイオンである。このように、リポソームの表面と外部溶液とは、金属イオンを実質的に含まない、または金属イオンが存在する場合には、それらはキレート剤と複合体を形成していることが望ましい。用いてもよい陽イオンキレート剤の例には、EDTAおよび誘導体;EGTAおよび誘導体;ヒスチジン;ケレックス(Chelex)(商標);TPENおよび誘導体;BAPTAおよび誘導体;ビスホスホネート;o-フェナンスロレン(フェナンスロリン);クエン酸塩;InsP6;ジアゾ-2;およびDTPA(ジエチレン-トリアミノ五酢酸)イソチオシアネートが含まれる。
【0070】
金属イオンを除去するために外部溶液を置換することは、第二の緩衝水溶液によって平衡化した大量のゲル濾過カラムによるリポソーム調製物のクロマトグラフィー、遠心、大量または繰り返し透析、外部培地の交換、外部溶液のキレート剤による処理または関連技術によるような様々な他の技術によって行うことができる。キレート剤を用いない1回の溶液交換または透析ラウンドは、典型的に陰性荷電リポソームの表面から金属イオンを除去するために不十分である。
【0071】
外部溶液はまた、好ましくは緩衝液である。しかし、如何なる適した溶媒も本発明の実施において用いてもよいと認識される。好ましい外部溶液は、ほぼ生理的pHのpHを有し、生理的pHを含むように緩衝範囲を有する緩衝剤を含む。外部溶液にとって適した緩衝剤の非制限的な例は、HBS、pH 7.4(150 mM NaCl、20 mM HEPES)およびSHE、pH 7.4(300 mMショ糖、20 mM HEPES、30 mM EDTA)である。
【0072】
物質の取り込みは、外部培地に物質を付加した後、適した温度で混合物をインキュベートすることによって確立してもよい。リポソームの組成、内部培地の温度およびpH、ならびに物質の化学的性質に応じて、物質の取り込みは、数分間または数時間のあいだ起こる可能性がある。ローディングは例えば、20℃〜約75℃、好ましくは約30℃〜約60℃で行ってもよい。
【0073】
封入されていない物質の除去は、リポソーム調製物を、第二の緩衝水溶液で平衡化したゲル濾過カラムの中にリポソーム調製物を通過させること、または遠心、透析、もしくは関連技術によって行ってもよい。好ましくは、第二の溶液は、生理学的に適合性であるが、「金属適合性」である必要はない溶液である。封入されていない活性物質を除去した後、物質のローディングの程度は、通常の技術に従って薬物および脂質レベルの測定によって決定してもよい。脂質および薬物濃度は、シンチレーション計数、分光測光法、蛍光アッセイ法および高速液体クロマトグラフィーのような技術を用いることによって決定してもよい。分析の選択は、薬物の性質およびリポソームが放射標識脂質マーカーを含むか否かに依存する。放射標識マーカーを利用する定量の例を、本明細書の実施例において述べるが、ローディングの程度を決定する如何なる適した方法も用いてもよいと認識されると思われる。
【0074】
封入された遷移金属を用いて物質をリポソームにローディングする前に、リポソームに物質と金属とを受動的に同時封入してもよい。このアプローチを用いて、受動的および能動的ローディング法を組み合わせることによって、二つまたはそれ以上の物質をリポソームに組み入れてもよい。
【0075】
物質をリポソームにローディングした後、二重層へのイオノフォアの挿入が起こるように、イオノフォアを混合物と共にインキュベートしてもよい。「イオノフォア」という用語は、金属イオンとの錯体を形成して、反対方向へのH+の輸送をさらに補助しながらイオンが脂質二重層の中を通過することを補助する化合物を指す。本発明にとって適したイオノフォアの例には、ニゲリシン、モネンシン、ジアネマイシン、A23187、4-BrA23187、イオノマイシン、およびX-537Aが含まれる。イオノフォアは、一価または二価金属イオンに対して特異的であってもよい。一価金属イオンに対して特異的なイオノフォアの例には、ニゲリシン、モネンシン、およびジアネマイシンが含まれる。イオノフォアの取り込みは、イオノフォアを混合物に加えて、イオノフォアがリポソーム二重層に組み入れられるために適した温度でインキュベートすることによって確立される。用いるイオノフォアの量は、典型的にリポソーム製剤の性質およびタイプに依存するであろう。物質のローディング後にイオノフォアをリポソームに加えることは、リポソームにおける物質の保持特性を変化させるため、またはトポテカンおよびイリノテカンのような中性またはアルキル環境によって影響を受ける物質を保護するために行ってもよい。
【0076】
好ましい金属適合性溶液には、pH 6.0〜8.5のあいだで利用することができる緩衝剤のような成分が含まれてもよい。好ましくは、緩衝剤は封入された金属イオンを4℃でpH 6.0〜8.0、より好ましくはpH 6.5〜7.5で2日間実質的に沈殿しない。緩衝液は、沈殿物の形成の指標である曇りの出現に関して溶液を肉眼的に調べることによって、その沈殿防止能を調べてもよい。緩衝液が特定の遷移金属と適合性であるか否かを決定する方法の例を実施例3に概要する。金属適合性溶液において遷移金属を封入した後、物質がリポソームに封入されるように、物質を外部培地に加えてもよい。遷移金属と金属適合溶液とを封入するリポソームは、上記の技術を含む当技術分野で既知の通常の技術に従って調製してもよい。しかし、如何なる適した金属も本発明のこの局面において用いてもよいと認識される。好ましくは、封入された物質または複数の物質を有するリポソームは、リポソーム内のpHと実質的に同様のリポソーム外pHを有する。最も好ましくは、リポソーム外およびリポソーム内pHは、約pH 6.0〜pH 8.0であり、最も好ましくは約pH 6.5〜pH 7.5である。
【0077】
本発明はさらに、封入された物質の所望の保持を得るために、リポソームにおいて封入するための金属イオンを選択することを含む、リポソームを設計する方法を提供する。如何なる適したリポソームおよび物質も本発明のこの局面の実施において用いてもよいと認識される。他の好ましい特徴および本発明のこの局面の条件は、一般的に上記の通りである。
【0078】
リポソームからの物質の放出速度を決定するために、リポソームを静脈内投与して、投与後の物質および脂質の血漿中レベルを測定してもよい。例えば、脂質成分を放射活性標識して、血漿の液体シンチレーション計数を行ってもよい。薬物量は、分光光度法、HPLC、または他のアッセイ法によって決定してもよい。同様に、リポソームにおける物質の保持に関する試験を血漿または適した緩衝液においてインビトロで行ってもよい。一例として、封入物質と遷移金属とを含むリポソームを、物質の保持に関してインビトロまたはインビボで試験してもよい。物質の望ましい保持が得られない場合、異なる金属を選択して、対象となる物質の保持能に関して試験してもよい。
【0079】
リポソームの投与
本発明はまた、哺乳類にリポソームを投与する方法、障害(例えば、癌)に罹患している、感受性がある、または罹患が疑われる哺乳類を治療する方法にも関する。治療または投与の方法は、一般的に障害またはその症状を改善するために十分な用量で薬学的組成物を投与することを含むと理解されると思われる。
【0080】
ヒトの軽い病気の治療の場合、資格のある医師は、用量、投与スケジュール、および投与経路に関して確立されたプロトコールを用いて本発明の組成物をどのように利用すべきかを決定すると予測される。そのような応用はまた、本発明の輸送小胞組成物に封入された活性物質が被験者の健康な組織に対して毒性の減少を示す限り、用量の漸増を利用してもよい。
【0081】
好ましくは、薬学的組成物は、非経口投与、すなわち動脈内、静脈内、腹腔内、皮下、または筋肉内、またはエアロゾルによって投与してもよい。エアロゾル投与法には、鼻腔内および肺内投与が含まれる。より好ましくは、薬学的組成物は、ボーラス注射または注入によって静脈内または腹腔内投与される。例えば、Rahmanら、米国特許第3,993,754号;Sears、米国特許第4,145,410号;Papahadjopoulosら、米国特許第4,235,871号;Schneider、米国特許第4,224,179号;Lenkら、米国特許第4,522,803号;およびFountainら、米国特許第4,588,578号を参照されたい。この用途に適した特定の製剤は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Company、フィラデルフィア、ペンシルバニア州、第17版(1985)に認められる。
【実施例】
【0082】
以下の実施例は説明する目的で示され、本発明の範囲を制限するためのものではない。特に明記していなければ、トリエタノールアミン(TEA)を用いてpHを調節し、図面に示す結果は1回の代表的な例からの値である。
【0083】
大単層リポソームの調製法
脂質をクロロホルム溶液に溶解した後、窒素ガス流下で真空ポンプ内で乾燥させて溶媒を除去した。特に明記していなければ、微量の放射活性脂質3H-CHEを加えて、製剤プロセスの際の脂質を定量した。得られた脂質の被膜を高真空下に少なくとも2時間置いた。脂質の被膜を表記の溶液において水和させると、多層小胞(MLV)が形成される。得られた調製物を、押し出し装置(リペックスバイオメンブレンズ(Lipex Biomembranes)、バンクーバー、ブリティッシュコロンビア州)によって、積み重ねたポリカーボネートフィルターの中を10回押し出して、大きさの平均値が80〜150 nmであるリポソームを得た。リポソームの構成脂質は全て、モル%で報告する。
【0084】
薬物ローディングの定量法
薬物ローディングの開始後様々な時点で、少量を採取して、セファデックスG-50スピンカラムの中を通過させて、封入された物質から分離した。溶出液の規定量に対し、トライトンX-100またはN-オクチルβ-D-グルコピラノシド(OGP)を加えて、リポソームを可溶化した。洗浄剤を加えた後、混合物を洗浄剤の曇り点まで加熱して、室温まで冷却してから吸光度または蛍光を測定した。薬物濃度は、標準曲線との比較によって計算した。脂質レベルは、液体シンチレーション計数によって測定した。
【0085】
実施例1
金属のローディングはpH勾配の非存在下で起こりうる
pH 7.4に緩衝処理した内部および外部溶液を有する金属含有リポソームを、その薬物ローディング能に関して調べた。これらの試験は、薬物の金属に基づくローディングがpH勾配の存在とは無関係に起こるか否かを調べるために実施した。薬物をリポソームに能動的にローディングするための通常の技術では、しばしば膜内外にpH勾配が存在する必要がある。
【0086】
pH勾配の非存在下でのイリノテカンの銅ローディングがコレステロール不含製剤を用いて起こりうるか否かを調べるために、銅(II)グルコネートを含むDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームを、外部および内部pH 7.4で調製した。モル比80:20でのDSPC/DSPGの脂質被膜は、方法の章で先に記述した通りに調製した。脂質の被膜を、トリエタノールアミン(TEA)によってpH 7.4に調節した100 mM Cu(II)グルコネート中で水和して、70℃で押し出した。リポソームの緩衝液を、接線流透析(tangential flow dialysis)によって300 mMショ糖、20 mM HEPES、30 mM EDTA(SHE緩衝液)、pH 7.4に交換した後、pH 7.4のSHE 6 ml中で3回洗浄し、如何なる銅(II)グルコネートも外部リポソーム溶液から除去した。イリノテカンをリポソーム調製物に薬物対脂質モル比0.1:1で加えて、50℃でインキュベートした。薬物ローディングの程度は、370 nmでの吸光度の測定によって方法に記述したとおりに決定して、脂質レベルは、液体シンチレーション計数によって決定した。
【0087】
図1Aに示した結果は、50℃でpH勾配なしでのイリノテカンのDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのローディングが、ローディング開始後約5分以内に本質的に完全であったことを示している。
【0088】
pH 7.4に緩衝処理した封入CuSO4を含むDSPC/DSPG(モル比90:10)リポソームへのダウノルビシンのローディングも同様に調べた。脂質被膜は、DSPGをクロロホルム/メタノール/水(50:10:1 v/v)に溶解したことを除き、前記方法に従って調製した。150 mM CuSO4、20 mMヒスチジン(TEAによってpH 7.4に調節)の溶液を水和培地として用いて、MLVを70℃で押し出した。リポソームを、携帯型の接線流透析カラムを用いてpH 7.4のSHEに交換した。ダウノルビシンは、薬物対脂質重量比0.1:1でローディングした。ローディングの様々な時点での薬物対脂質比は、記述のダウノルビシンを定量するために洗浄剤における可溶化後480 nmでの吸光度を測定することによって決定した;脂質レベルは液体シンチレーション計数によって決定した。
【0089】
図1Bに要約するように、pH勾配の非存在下でのDSPC/DSPG(モル比90:10)へのダウノルビシンの取り込みは、測定した全ての時点で100%であった。
【0090】
pH勾配を示さないコレステロール含有リポソームへのイリノテカンの銅ローディングは、DPPC/Chol(モル比55:45)リポソームを用いて調べた。リポソームは、TEAによってpH 7.4に調節した100 mM Cu(II)グルコネートの溶液中で脂質被膜を水和することによって、方法に記述のように調製した。リポソームを65℃で押し出して、接線流透析によってリポソームの外部緩衝液をSHE、pH 7.4に交換した。リポソームをイリノテカンと共に薬物対脂質重量比0.1:1で50℃でインキュベートして、薬物ローディングの程度を、洗浄剤による可溶化後370 nmでの吸光度を測定することによって決定した。
【0091】
pH勾配の非存在下でのDPPC/Chol(モル比55:45)へのイリノテカンのローディングは、約60分のインキュベーション後にほぼ完全なローディングを認めることが判明した(図2)。
【0092】
銅のローディングの他に、pH勾配の非存在下でMnSO4含有リポソームを用いる薬物のローディングも同様に調べた。DSPC/DSPG-PEG2000(モル比95:5)リポソームは、pH 7.4に緩衝処理した内部MnSO4溶液およびSHEによってpH 7.4に緩衝処理した外部溶液によって調製した。脂質被膜は、記述通りに調製して、20 mMイミダゾール(当初のpHは濃HClによって7.4に調節した)によってpH 7.4に緩衝処理した300 mM MnSO4中で水和して、70℃で押し出しを行った。試料をセファデックスG-50カラムの中に通過させて、外部緩衝液をSHE、pH 7.4に交換した。エピルビシンは薬物対脂質重量比約0.2:1でローディングして、ローディングは60℃で行った。薬物ローディングの程度は、480 nmでの薬物吸光度を測定することによって方法に記述したとおりに測定した。
【0093】
図3に要約した結果から、60℃でDSPC/DSPG-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのエピルビシンのマンガンローディングが、測定したそれぞれの時点で、効率的な薬物の封入が起こったことから、pH勾配の存在を必要としないことが判明する。
【0094】
実施例2
受動的に封入された第一の薬物を含む緩衝リポソームへの第二の薬物の金属ローディング
上記の実施例は、リポソームへの一つの薬物の金属によるローディングを記述したが、本技術を用いて、単一のリポソームに二つまたはそれ以上の薬物をローディングすることができる。一つの技術は、まず、リポソームの調製の際に金属と共に少なくとも一つの薬物を受動的に捕獲した後、もう一つの薬物の能動的金属ローディングを行うことを含む。本実施例において、膜内外のpH勾配がなく、このように、本発明のプロセスによって第二の薬物のローディングを確実にするようにリポソームを調製した。
【0095】
受動的に封入されたフルオクスウリジン(FUDR)を含むDSPC/DSPGおよびDSPG/Chol/DSPGリポソームへのイリノテカンのローディングを、カルボプラチン含有リポソームへのイリノテカンのローディングおよびシスプラチン含有リポソームへのダウノルビシンのローディングと共に、様々な条件で調べた。
【0096】
FUDRを含むDSPC/DSPG(モル比85:15)リポソームは、DSPCをクロロホルムに溶解して、DSPGをクロロホルム/メタノール/水(50:10:1 v/v)に溶解することによって調製した。次に脂質をモル比85:15で混合して、微量の14C-CHEによって標識した。試料を、微量の3H-FUDRと共に24.62 mg/mL(100 mM)FUDRを含む100 mM Cu(II)グルコネート、200 mM TEA、pH 7.4中で70℃で水和した。得られたMLVを70℃で押し出してから、携帯型の接線流透析カラムを用いて、緩衝液をまず生理食塩液に交換した後、SHE、pH 7.4に交換した。次にこの試料を300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4に交換して、外部緩衝液中の如何なるEDTAも除去した。
【0097】
得られたリポソーム調製物にイリノテカンを薬物対脂質モル比0.1:1で50℃で加えた。遠心カラム溶出液の薬物対脂質比は、液体シンチレーション計数を用いて生成して、脂質およびFUDR濃度を決定して、370 nmでの吸光度を用いてイリノテカン濃度を決定した。吸光度を測定する前、リポソームを、トライトンX-100を含む溶液中で可溶化した。当初のFUDR薬物対脂質モル比は、イリノテカンのローディングが起こった後、0.09:1および0.06:1であった。
【0098】
図4Aは、封入されたFUDRと金属とを含むコレステロール不含DSPC/DSPG(モル比85:15)リポソームへのイリノテカンのローディングが、実験の時間経過全体において薬物の効率的なローディングが起こったことから、pH勾配の存在を必要としないことを示している。
【0099】
FUDRおよび銅(II)グルコネートとを含むDSPC/Chol/DSPG(モル比70:10:20)リポソームは、上記の通りに調製した。外部緩衝液がローディングに及ぼす影響を測定するために、携帯型の接線流透析カラムを用いて、得られたLUVの半分の緩衝液をSHE、pH 7.4に交換した後、20 mM HEPES、150 mM NaCl(HBS)、pH 7.4に交換して、残りの半分をさらに、300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4に交換した。イリノテカンをFUDR含有リポソームに加えてその後上記のように測定した。当初のFUDR薬物対脂質モル比は、外部緩衝液としてHBS(黒丸)または300 mMショ糖、20 mM HEPES(白丸)を含む試料に関してそれぞれ、0.1:1および0.09:1であった。イリノテカンのローディング後、同じ試料のFUDR薬物/脂質比はそれぞれ、0.09:1および0.08:1であった。
【0100】
図4Bに要約した結果は、イリノテカンが、用いた外部緩衝液にかかわらず、封入されたFUDRを有する低コレステロール含有リポソームに効率よくローディングされることを示している。pH勾配の非存在下でのローディングはさらに、本発明の金属ローディング技術によって、この程度のイリノテカンの取り込みが起こることを支持する。
【0101】
本発明者らはまた、pH勾配の非存在下で受動的に封入された薬物を含むリポソームに金属ローディングを行うことができる様々な他の薬物を示した;例は以下に詳細に示す。
【0102】
受動的に封入されたカルボプラチンを有するDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングは、25 mg/mlカルボプラチンを含む150 mM CuSO4(TEAを用いてpH 7.4に調節)において脂質被膜を水和したことを除き、上記の通りに調製したリポソームを用いて測定した。試料を押し出して、携帯型の接線流透析カラムを用いて外部緩衝液をSHE、pH 7.4に交換した。イリノテカンを薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で加えて、先に記述したように取り込みを測定した。原子吸光分光法(AA)を用いて、カルボプラチン濃度を決定して、370 nmでの吸光度を測定してイリノテカン濃度を決定した。当初のカルボプラチンの薬物対脂質重量比は、イリノテカンのローディングが起こった後、0.030および0.025であった。
【0103】
図5のグラフに示すように、イリノテカンは、pH勾配の非存在下でカルボプラチンおよび金属含有DSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームに高い程度でローディングされる。
【0104】
封入されたシスプラチンを含むリポソームへのダウノルビシンのローディングを測定するために、DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームを、脂質被膜をシスプラチン溶液によって水和したことを除き、図4Bに記述した通りに調製した。固体のシスプラチン(40 mg/mL)を、4%DMSOを加えた150 mM CuCl2、pH 7.4(NaOHによってpHを調節)において80℃で溶解した後、脂質被膜に加えて、頻繁に攪拌しながら80℃で水和させた。冷却後、試料を卓上型遠心機で遠心して如何なる非封入シスプラチンも沈降させて、上清を回収した。次に、リポソームを、HBS、pH 7.4によって予め平衡化したセファデックスG-50カラムに載せて、過剰量の金属イオンをリポソームの外部から除去した。
【0105】
ダウノルビシンをリポソームに0.1:1重量比で加えて、ローディングを60℃で行った。少量を様々な時点で採取して、セファデックスG-50スピンカラムに載せた。吸光度の測定は480 nmで行い、これを用いてダウノルビシン濃度を決定して、シスプラチンレベルは、AAを用いて測定した。当初のシスプラチン薬物対脂質比は0.044:1であった。
【0106】
図6は、受動的に封入されたシスプラチンを含むDSPC/Cholリポソームが、pH勾配の非存在下でダウノルビシンを効率よくローディングすることを示している。これはさらに、金属のローディング錯体形成を通して第二の物質のリポソームへのローディングを支持する。
【0107】
実施例3
金属イオンの沈殿に及ぼす緩衝液組成の影響
コバルト、ニッケル、マンガン、カドミウム、亜鉛、および銅の溶液は、20 mMヒスチジン溶液中で150 mMおよび300 mMの濃度で調製した。得られた溶液のpHが7.4となるまで、または溶液の外観が曇るまで(10分間の観察期間)、トリエタノールアミン(1.13 g/mL)を滴下して加えた。典型的に1.13 g/mLトリエタノールアミン500 (L未満を加えた。トリエタノールアミンを加えた後、溶液を肉眼的に観察して、金属の沈殿が起こったか否かを決定した。溶液の外観が曇れば、沈殿物が存在することを示したが、溶液が透明であれば、沈殿物がないことを示した。結果を表2に示す。
【0108】
(表2)
ppt:トリエタノールアミンを加えた後10分以内に沈殿物の形成が起こったことを表す。
no ppt:トリエタノールアミンをpH 7.4となるように加えた後、10分以内に沈殿物の形成が起こらなかったことを示す。
破線:測定していない。
表記の金属の濃度は、トリエタノールアミンを加える前の濃度である。
【0109】
実施例4
金属ローディングはクエン酸塩に基づくローディングとは異なる
MnSO4およびクエン酸塩に基づくローディング技術に従うDPPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのドキソルビシンの蓄積能を比較した。脂質被膜を300 mM MnSO4溶液または300 mMクエン酸塩、pH 3.5によって水和して、押し出し装置の中を55℃で通過させた。得られたリポソームを、MnSO4含有リポソームの場合には、SHE、pH 7.5の緩衝液によって平衡化したセファデックスG-50カラム、クエン酸塩含有リポソームの場合にはHBS、pH 7.5で平衡化したセファデックスG-50カラムを通過させた。緩衝液を交換した後、リポソームをドキソルビシンと混合して、最終的な薬物対脂質重量比約0.1:1、0.2:1または0.3:1を得た。得られた混合物を37℃で80分間インキュベートした。薬物ローディングの程度は、薬物を定量するために480 nmでの吸光度を測定することによって方法に記述したとおりに決定した;脂質レベルは、液体シンチレーション計数によって測定した。
【0110】
図7に要約した結果は、MnSO4(300 mM)を含むコレステロール不含リポソームにおいて、最初の薬物/脂質重量比が0.1:1(パネルA)、0.2:1(パネルB)、および0.3:1(パネルC)であった場合、ドキソルビシンのローディング効率がそれぞれ>95%、>90%、および>80%であったことを示している。対照的に、pH勾配クエン酸塩(300 mMクエン酸塩、pH 4.0)ローディング技法に従って同じ条件でドキソルビシンをローディングしたコレステロール不含リポソームは、ドキソルビシン/脂質重量比が0.1から0.3に増加したことから、封入効率の実質的な減少を示した。後者の方法は、最大の薬物対脂質重量比<0.075を得ることができるであろう。これらの結果は、コレステロール不含リポソームが、金属ローディングを用いて0.3:1(w/w)もの高い薬物対脂質比でドキソルビシンを効率よくローディングすることができるが、クエン酸塩に基づくローディング技法は最大の薬物対脂質比0.1:1(w/w)を達成できるに過ぎないことを示している。これらのデータは、金属に基づくローディングメカニズムが、安定なpH勾配の維持に依存するメカニズムとは異なることを示している。データ点は、薬物対脂質比の平均値を表し、エラーバーは、標準偏差を表す。
【0111】
実施例5
非緩衝金属ローディングは膜内外のpH勾配の崩壊を引き起こす
DMPC/Cholリポソームの膜内外のpH勾配に及ぼすドキソルビシンローディングの影響を、クエン酸塩およびマンガンローディング技術を用いて、薬物のローディング前後のpH勾配を測定することによって比較した。DMPC/Chol(モル比55:45)脂質被膜を300 mMクエン酸緩衝液、pH 3.5、300 mM MnSO4、または300 mM MnCl2によって水和した。得られたMLVに凍結融解5サイクル(液体窒素中で凍結および40℃での融解)を行った後、40℃で押し出しを行った。リポソームの外部溶液を交換するために、試料をセファデックスG-50カラム上で分画した。封入されたクエン酸塩を有するリポソームでは、外部緩衝液をHBSに交換して、封入されたMnSO4およびMnCl2を有するリポソームでは、外部緩衝液SHE、pH 7.5に交換した。緩衝液を交換した後、ドキソルビシンを重量比0.2:1で60℃で加えた。洗浄剤による可溶化後の480 nmでの吸光度を評価して薬物を定量し、脂質レベルは液体シンチレーション計数によって決定した。
【0112】
図8Aに示した結果は、封入されたクエン酸塩(四角)およびMnSO4(丸)を含むリポソームへのドキソルビシンのローディングが、5分間のインキュベーションで本質的に完了したことを示している。MnCl2(三角)を用いたドキソルビシンの蓄積は、MnSO4およびクエン酸塩のローディングと比較して不完全であった。データ点は、少なくとも3回の繰り返し実験の薬物対脂質比の平均値を表し、エラーバーは、標準偏差を示す。
【0113】
ドキソルビシンのローディング前後での製剤の膜内外のpH勾配は、[14C]メチルアミンを用いて測定した。簡単に説明すると、[14C]-メチルアミン(0.5 Ci/mL)を上記のように調製したリポソーム溶液に加えた。15分後、150 (Lの少量を、HBSによって平衡化した1 mLセファデックスG-50カラムに通過させて、非封入メチルアミンを除去した。カラムクロマトグラフィーの前後での脂質およびメチルアミン濃度は、シンチレーション計数によって決定した。膜内外のpH勾配は以下の関係に従って計算した:
pH=log{[H+]内部/[H+]外部}=log{[メチルアミン]内部/[メチルアミン]外部}
【0114】
図8Bに示すように、pH勾配の確立後であるがドキソルビシンのローディング前に、封入されたクエン酸塩(カラム1)、MnSO4(カラム3)、MnCl2(カラム5)を有する製剤はそれぞれ、測定されたpH勾配3.4、1.6、および0.18未満を示した。これらの結果は、膜内外のpH勾配が、マンガン溶液を用いた場合にはクエン酸塩溶液より小さいことを示している。封入されたクエン酸塩を含むリポソームにドキソルビシンを加えた後、pH勾配は3.4(カラム1)から2.3(カラム2)に減少した。この結果は、これらの製剤におけるpH勾配がドキソルビシンによって崩壊することを証明するこれまでの報告と一致する。ドキソルビシンローディングの後、マンガン含有リポソームは、測定可能なpH勾配を示さず(カラム4および6)、このように、これらの製剤が薬物のローシングの際にそのpH勾配を失うことを示している。データ点は、3回の個々の実験のpH勾配の平均値を表し、エラーバーは、標準偏差を示す。
【0115】
実施例6
ローディング効率は用いた金属イオンに依存する
硫酸マンガンまたは硫酸銅溶液を封入するDSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのイリノテカンのローディングは、二つの異なる金属のローディング効率を比較するために実施した。
【0116】
脂質被膜を300 mM MnSO4または300 mM CuSO4のいずれかの溶液中で水和した。得られた多層小胞(MLV)を60℃で押し出して、LUVの緩衝液をSHE、pH 7.4に交換した。薬物のローディングは、得られた溶液にイリノテカンを薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で加えることによって開始した。薬物ローディングの程度は記述のように測定して、吸光度は370 nmで測定した。
【0117】
図9の結果は、イリノテカンのマンガンローディングが30分の時点で10%完了したのに過ぎないのに対し、銅含有リポソームへのイリノテカンのローディングは、5分以内に95%より多いローディングが得られたことを示している。これらの結果は、リポソームのローディング特性が金属イオンに非常に依存することを示している。
【0118】
実施例7
封入されたマンガン、コバルト、およびニッケルを用いたコレステロール不含リポソームへの薬物のローディング
コレステロール不含リポソーム(DSPC/DSPE-PEG2000)へのダウノルビシンの取り込みを、様々なローディング温度でMnSO4、CoCl2、およびNiSO4を用いて調べた。
【0119】
マンガンを封入するコレステロール不含(DSPC/DSPE-PEG2000、モル比95:5)リポソームは、300 mM MnSO4において脂質被膜を水和させて調製し、75℃で押し出しを行った。携帯型の接線流透析カラムを用いて、試料をHBSに交換した。外部緩衝液は如何なる二価陽イオンも除去するために、1.67 mM EDTAを含んだ。ダウノルビシンは、薬物対脂質重量比0.1:1でローディングして、ローディングは23℃、37℃、または60℃で行った。薬物ローディングの程度は、洗浄剤中でリポソームを可溶化した後に480 nmでの吸光度を測定することによって測定した。
【0120】
図10Aの結果は、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)MnSO4含有リポソームへのダウノルビシンのローディングが60℃で最も効率がよいのに対し、23℃および37℃では効率がより効率が低いことを示している。ローディング温度が60℃である場合にはダウノルビシン対脂質比(モル:モル)0.07が得ることができた。
【0121】
コバルト含有DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームは、150 mM CoCl2において脂質被膜を水和させることによって調製した。MLVを75℃で押し出して、HBSに対して一晩透析することによって外部緩衝液を交換した。次に、携帯型の接線流透析カラムを用いてリポソームをさらにHBSに交換して、如何なる残留CoCl2も除去した。ダウノルビシンは薬物/脂質重量比0.1:1で23℃、37℃、および60℃でローディングした。ダウノルビシンローディングの程度は、リポソームの可溶化後480 nmでの吸光度を測定することによって決定した。脂質レベルは、液体シンチレーション計数によって決定した。
【0122】
ダウノルビシンは、CoCl2含有DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームに60℃で効率よくローディングされた(図10Bを参照されたい)。60℃では、ローディングによって5分以内にダウノルビシンの>95%の封入が得られた。23℃および37℃でのローディングは効率がより低く、80%の薬物封入を得るためには37℃で60分インキュベーションが必要であった。
【0123】
DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)を含み、NiSO4を封入するリポソームを、先の実施例に記載の通りに調製した。脂質被膜を300 mM NiSO4中で水和して、リポソームの外部緩衝液を、SHE、pH 7.4で平衡化したセファデックスG-50カラムに通過させることによって交換した。ダウノルビシンは、当初の(ローディング前)薬物対脂質重量比が0.2〜1となるように加えて、ローディングを60℃で行った。ダウノルビシンのローディング効率は、UV吸収によって上記の通りに測定した。
【0124】
図10Cの結果は、NiSO4含有DSPC/DSPE-PEG2000リポソームと共にダウノルビシンをインキュベートすると、5分以内に75%より大きい薬物封入が得られたことを示している。
【0125】
実施例8
封入した銅を用いるコレステロール不含リポソームへの薬物のローディング
DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのエピルビシンの銅によるローディングも同様に調べた。
【0126】
銅含有DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームは、先の実施例に記載したとおりに調製した。脂質被膜を300 mM CuSO4において水和して、押し出しは70℃で行った。ローディング前にSHE緩衝液によって平衡化したセファデックスG-50カラムにリポソームを通過させることによって、外部緩衝液をSHE、pH 7.4に置換した。エピルビシンを、薬物対脂質重量比約0.2:1で銅含有リポソームに加えて、ローディングを60℃で行った。エピルビシンおよび脂質レベルはそれぞれ、分光光度法およびシンチレーション計数によってアッセイした。エピルビシンを定量するために、洗浄剤によるリポソーム調製物の可溶化後に480 nmでの吸光度を測定した。
【0127】
図11は、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのエピルビシンのローディングが、60℃で取り込みが起こる場合には、5分以内に>95%の薬物の蓄積が得られたことを示している。
【0128】
実施例9
コレステロール含有リポソームの金属ローディング
DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのドキソルビシン、ダウノルビシン、およびトポテカンの取り込みを、銅およびコバルトを封入するように調製したリポソームを用いて調べた。
【0129】
コバルトを封入するDSPC/Chol(モル比55:45)リポソームは、300 mM CoCl2溶液において脂質被膜を水和させることによって上記の通りに調製した。外部緩衝液をカラムクロマトグラフィーによってSHE、pH 7.5に交換した。ローディングは、ドキソルビシンを薬物対脂質重量比約0.1:1で加えることによって開始した。次に、リポソームを60℃でインキュベートして、薬物のローディングを促進した。薬物ローディングの程度は、洗浄剤によって試料を可溶化した後に、480 nmでの吸光度の測定によって先に記述した通りに測定した。
【0130】
図12Aに示す結果は、10分以内に加えた薬物の>90%が封入されたことを示している。
【0131】
硫酸銅含有DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームは、300 mM CuSO4において脂質被膜を水和させることによって調製した。得られたMLVを70℃で押し出して、セファデックスG-50スピンカラムの中に通過させることによって、外部溶液をHBSに交換した。緩衝液を交換したリポソームに、ダウノルビシンを薬物対脂質重量比0.1:1、0.2:1、または0.4:1で60℃でローディングした。リポソームを洗浄剤で可溶化してから、480 nmでの吸光度を測定することによって薬物レベルを決定した。
【0132】
図12Bに示す結果は、封入したCuSO4を用いてローディングしたDSPC/Chol(モル比55:45)への薬物ローディングが、60℃で5分以内に加えた薬物の>90%が封入されて効率的であったことを示している。
【0133】
300 mM CuSO4を封入するDSPC/Chol(モル比55:45)リポソームは、外部緩衝液をSHE、pH 7.4に交換したことを除き、図12Bに記述した通りに調製した。次に、リポソームを薬物/脂質重量比0.1:1でトポテカンと共に37℃でインキュベートした。ローディングの程度は、380 nmでの薬物吸光度の定量によって、表記の時点で2時間モニターし、そして脂質を液体シンチレーション計数によって決定することによってモニターした。薬物は、380 nmでの吸光度を測定することによって定量した。
【0134】
図12Cは、DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのトポテカンのローディングが30分以内に本質的に100%(>95%)完了したことを示している。
【0135】
実施例10
受動的に封入した薬物を含む非緩衝リポソームへの異なる多数の薬物の金属によるローディング
受動的に封入した薬物を含む様々なリポソームへのダウノルビシンまたはイリノテカンのローディングを多数の条件で調べた。
【0136】
シスプラチン含有リポソームへのダウノルビシンの取り込みは、以下の技法に従って測定した。DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)またはDMPC/Chol(モル比55:45)リポソームは、先の実施例の材料および方法に従って調製した。脂質被膜を80℃で8.5 mg/mlシスプラチンと共に、150 mM MnCl2または150 mM CuCl2においてそれぞれ水和した。MLVは75℃で押し出した。沈殿したシスプラチンは、遠心によって除去して、試料をHBSに対して一晩透析した。CuCl2を含む試料はさらに、携帯型の接線流透析カラムを用いてHBSに交換して如何なる残留CuCl2またはシスプラチンも除去した。ダウノルビシンは、シスプラチン/MnCl2およびシスプラチン/CuCl2含有リポソームに、薬物/脂質重量比0.1:1でインキュベーション温度60℃でローディングした。当初のシスプラチン薬物/脂質重量比は双方のリポソーム組成物に関して0.01:1であった。薬物ローディングの程度は、洗浄剤による試料の可溶化後480 nmでの吸光度の測定によって先に記述したとおりに測定した。
【0137】
図13Aおよび図13Bは、マンガンまたは銅に基づく能動的ローディングのいずれかを用いた場合、シスプラチンを予めローディングしたDSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)およびDMPC/Chol(モル比55:45)リポソームに、第二の薬物(ダウノルビシン)をローディングできることを示している。さらに、ダウノルビシンの封入は、CuCl2と比較してMnCl2を用いた場合では効率的ではなかった。
【0138】
受動的に捕獲されたカルボプラチンまたはシスプラチンのいずれかをそれぞれ含むDPPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのダウノルビシンまたはイリノテカンのローディングを、ニッケルまたは銅のローディングを用いて分析した。脂質被膜を、40 mg/mlカルボプラチンまたは8.5 mg/mlシスプラチンをそれぞれ含む300 mM NiSO4または75 mM CuCl2+150 mM CuSO4において水和した。MLVは70℃で押し出した。ニッケル含有試料を300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4の1 Lに対して一晩透析したが、銅を含む試料はCL4B樹脂を含むセファロースカラムでのクロマトグラフィーによってSHE、pH 7.4に交換した。ダウノルビシンは37℃で薬物対脂質重量比0.1:1でローディングした。イリノテカンは、先に記述した通りに60℃で薬物対脂質重量比0.1でリポソームにローディングした。薬物および脂質レベルは、先に記述した技法を用いて測定した。
【0139】
図13Cおよび図13Dに要約した結果は、プラチナ薬物を含むニッケルまたは銅イオン溶液のいずれかと共に調製したDPPC/Chol(モル比55:45)リポソームが、第二の薬物を効率よくローディングすることを示している。
【0140】
実施例11
イオノフォア媒介ローディング技術と組み合わせた金属ローディングによって多数の薬剤の封入が得られる
金属によるローディングをさらなる能動的なローディングメカニズムと組み合わせると、単一のリポソームにドキソルビシンとビンクリスチンの双方を効率的に封入することができる。金属によるドキソルビシンのローディングの後にビンクリスチンのイオノフォア媒介ローディングを下記に詳述する。
【0141】
DSPCコレステロールリポソーム(モル比55:45)は、脂質被膜を300 mM MnSO4において水和して、脂質マーカー14C-CHEを用いたことを除き、先の実施例に記述したとおりに調製した。得られたMLVを65℃で押し出してから、300 mMショ糖、20 mM HEPES、および15 mM EDTA(pH 7.5)によって予め平衡化したセファデックスG-50カラムの中を通過させた。ドキソルビシンを薬物対脂質重量比0.2:1で加えて、60℃で60分間さらにインキュベートした。
【0142】
ドキソルビシンをローディングした後、二価陽イオンイオノフォアA23187(1? gイオノフォア/(モル脂質))をリポソームに加えて、混合物を室温で3分間インキュベートして、A23187の二重層への取り込みを促進した。その後、ビンクリスチンを混合物に加えて、50℃で100分間インキュベートした。薬物の定量を容易にするために、少量の放射標識ビンクリスチンを薬物調製物に加えた。薬物の取り込みは、ビンクリスチン対脂質重量比0.05:1で行った。ビンクリスチンおよび脂質は、洗浄剤による可溶化の後にシンチレーション計数によって定量した。480 nmでの吸光度を用いてドキソルビシンレベルを定量した。
【0143】
図14は、金属によるローディングによってドキソルビシン(丸)を予めローディングしたリポソームが、ビンクリスチン封入の際にドキソルビシンが有意に漏出することなく、50℃で40分間のインキュベーション後、イオノフォアによるビンクリスチン(四角)ローディングのほぼ最大の封入を示すことを示している。データ点は、3回の個々の実験の薬物対脂質重量比の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を示す。
【0144】
実施例12
イオノフォアの非存在下での二つの薬剤の金属ローディングによって二つの薬物の効率的な封入が起こる
先の実施例は、様々な組成のリポソームへの二つの薬物の封入が起こるように、能動的金属ローディングと組み合わせて受動的またはイオノフォア媒介ローディング技術のいずれかを利用した。以下の実施例は、金属ローディングのみを利用して、単一のリポソームに二つの薬物を能動的にローディングできることを示している。ドキソルビシンとイリノテカンとを下記のようにDSPC/コレステロールリポソームにローディングした。
【0145】
DSPC/Cholリポソーム(モル比55:45)は、封入された300 mM CuSO4について先に詳述したように調製した。押し出されたリポソームを、SHE、pH 7.5によって予め平衡化したセファデックスG-50カラムの中を通過させた。イリノテカンをまず、薬物対脂質モル比0.2:1で60℃でローディングすると約100%の封入が得られた。この後、ドキソルビシンを60℃で薬物対脂質モル比0.15:1で、ドキソルビシンの十分なローディングが得られるように、イリノテカン含有リポソーム製剤と共にインキュベートした。イリノテカンレベルは、その370 nmでの吸光度を考慮してドキソルビシンの存在下で調製した標準曲線を用いて、370 nmでの吸光度の測定によって測定した。同様に、ドキソルビシン濃度は、その480 nmでの吸光度を考慮してイリノテカンの存在下で調製した標準曲線を用いて、480 nmでの吸光度を測定することによって決定した。対照として、同じ組成のリポソームへのそれぞれの薬物の個々の取り込みを、個々に測定した。
【0146】
図15に要約した結果は、ドキソルビシンとイリノテカンが、本発明の能動的金属ローディング技法を用いて単一のリポソームに効率よくローディングされうることを示している。結果は、3回の個々の実験の薬物対脂質比の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を示す。
【0147】
実施例13
インビボでの薬物放出速度は金属イオンの性質に依存する
異なる内部ローディング培地がインビボでDSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームからのダウノルビシンの放出を制御できるか否かを、150 mMクエン酸塩、pH 4.0、300 mM CuSO4、および300 mM MnSO4を用いて調べた。DSPC/DSPE-PEG2000リポソームは、上記の通りに調製して、75℃で押し出した。HBSに対する透析によって外部溶液をHBSに交換した。ダウノルビシンは、薬物対脂質重量比約0.1:1でローディングして、ローディングは60℃で実施した。ダウノルビシンのローディングは、可溶化緩衝液においてEDTAを用いて先の実施例に記述のように測定した。次に、薬物ローディングリポソームを、脂質用量100 mg/kg、およびダウノルビシン用量10 mg/kgでBalb/cマウスに静脈内投与した。心穿刺によって投与後24時間で血液を(1時点あたりマウス3匹)EDTA含有試験管に採取した。血漿中の脂質濃度は液体シンチレーション計数によって決定した。ダウノルビシンは以下のように血漿から抽出した。
【0148】
規定量の血漿を蒸留水で200(Lに調節した後、蒸留水600 (Lを加え、10%SDS 10 (Lおよび10 mM H2SO4 100 (Lを加えた。得られた混合物を混合して1:1イソプロパノール/クロロホルム2 mLを加えて攪拌した。試料を-20℃で一晩、または-80℃で1時間凍結して、タンパク質の凝集を促進して、室温に戻して攪拌して3000 rpmで10分間遠心した。底の有機相を除去して、励起波長として500 nm(バンド幅2.5 nm)および放射波長として550 nm(バンド幅10 nm)での蛍光強度、そして480 nmでの吸光度波長に関してアッセイした。
【0149】
図16は、封入されたクエン酸塩、pH 4.0、CuSO4、およびMnSO4を用いてダウノルビシンをローディングしたDSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームが、静脈内投与後24時間で異なる血漿薬物対脂質比を示すことを示している。これらの結果は、適当な金属イオンの選択によって薬物の放出を制御できることを示している。結果は、少なくとも3回の個々の実験の薬物対脂質重量比の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を示す。
【0150】
実施例14
非錯体形成金属イオンの存在下および非存在下でのリポソームのローディング
ホスファチジルグリセロール含有リポソームの外部表面上での金属イオンの存在下および非存在下での金属に基づく薬物のローディングを調べて、結果を図17および図18に示す。
【0151】
DSPC/DSPG(モル比80:20)から構成されるリポソームは、実施例1に記述した技法に従って調製した。DSPCおよびDSPG脂質をそれぞれ、クロロホルムおよびクロロホルム/メタノール/水(50:10:1、v/v)に溶解した。次に、脂質をそれぞれの製剤に関して適当量で配合した。温度70℃を維持しながら、N2ガス流の下で真空下に5分間置いて、溶媒を除去した。得られた脂質被膜を、如何なるメタノールまたは水もさらに除去するためにクロロホルムに再度溶解して、先のように溶媒を除去し、如何なる残留溶媒も除去するために真空下で乾燥させた。次に、試料を150 mM CuSO4、pH 7.4(TEAによってpHを調節)において再度水和して、得られたMLVを70℃で押し出した。リポソーム試料は、150 mM NaClによって平衡化した15 mlケレックス-100(商標)(BioRad)カラムの中を0.5 mL/分で通過させるか、または緩衝液を生理食塩液に交換して、さらに接線流を用いて300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4に交換した。ケレックス-100(商標)カラムを通過したリポソームは、次に、接線流を用いて300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4に交換した。
【0152】
双方のリポソーム調節物を上記のように薬物対脂質重量比0.1:1でイリノテカンを37℃、50℃、および60℃でローディングした。薬物の取り込みは、液体シンチレーション計数を用いてアッセイして、脂質濃度を決定して、370 nMでの吸光度を用いて洗浄剤での可溶化後のイリノテカン濃度を決定した。
【0153】
図17に示した結果は、リポソーム調製物をケレックス-100(商標)カラムに通過させて外部金属イオンを除去すると、DSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングが増強されることを明らかにしている。対照的に、図18に示す結果は、キレート剤を含まない溶液に交換したリポソームへのイリノテカンのローディングが、減少した速度でローディングされたことを示している。如何なる特定の理論にも拘束されたくはないが、イオンとキレート剤との錯体の形成によって陰性荷電リポソーム表面に会合した金属イオンを除去すると、膜の外表面上の金属-薬物相互作用を減少させて、それによって膜を通過する遊離の薬物量が増加して、リポソームの内部区画に捕獲されるようになる。
【0154】
実施例15
リポソームの外部溶液からの金属イオンの除去方法
外部金属のキレート化に依存する二つの異なる技術を用いて、外部溶液からCu2+の除去後に、DSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへの銅に基づくイリノテカンのローディングを調べた。第一の技術は、ケレックス(商標)カラムの中を通過させることによって銅を除去することを含み、第二の技術は、EDTAを含む緩衝液にリポソームを交換することを含む。
【0155】
DSPC/DSPG(モル比80:20)は、試料を150 mM 銅グルコネート、pH 7.4(TEAによってpHを調節)において水和したことを除き、実施例14に記載した通りに調製した。外部の銅は、以下によって除去した:i)300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4において平衡化した15 mMケレックス-100カラムの中を通過させる;またはii)接線流を用いて、緩衝液を生理食塩液に交換した後、300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4(SHE緩衝液)に交換する。
【0156】
双方のリポソーム調製物に、37℃、50℃、および60℃でイリノテカンを薬物対脂質重量比0.1:1で実施例14に記述のようにローディングした。ローディング開始後少量(100 μL)を様々な時点で採取して、セファデックスG-50スピンカラムに載せた。次に、試料を洗浄剤によって可溶化して、薬物および脂質の定量は実施例14に記載したように実施した。
【0157】
キレートカラム(図20)の中を通過させることによる外部金属を除去後の金属に基づくローディングは、リポソームをEDTA含有溶液に交換した後のローディングと同等である(図19)。このように、これらの結果は、ローディング効率に大きな影響を及ぼすことなく陰性荷電膜から外部金属イオンを除去するために用いてもよい。
【0158】
実施例16
ダウノルビシンとカルボプラチンを同時ローディングしたホスファチジルグリセロール含有リポソームの薬物動態
PG含有リポソームにおいて同時封入したダウノルビシンとカルボプラチンの保持を、カルボプラチンの受動的ローディング後のダウノルビシンの金属ローディングによって調べた。
【0159】
ダウノルビシンとカルボプラチンを、DSPC/DSPG(モル比80:20)、DSPC/SM/DSPG(モル比75:5:20)、およびDSPC/SM/DSPG(モル比70:10:20)リポソームに封入した。リポソームは先の実施例に記述した技法に従って調製した。DSPGをクロロホルム/メタノール/水(v/v)50:10:1の溶液に溶解して、放射活性マーカー14C-CHEを調製物に加えて、脂質を定量した。脂質被膜を、80 mg/mlカルボプラチン(4%DMSOによってカルボプラチンの溶解度を改善させる)を含む150 mM CuSO4、20 mMヒスチジン、pH 7.4において再度水和した。押し出し後、試料を遠心して、非封入カルボプラチンを除去した。SHE緩衝液に交換したリポソームに3H-ダウノルビシンをローディングした。マウスにリポソームを100 mg/kg脂質の用量で投与した。液体シンチレーション計数を用いて、ダウノルビシンおよび脂質を定量した。カルボプラチンの血漿レベルは原子吸光によって決定した。
【0160】
図21の結果は、二重ローディングしたDSPC/DSPG(モル比80:20)、DSPC/SM/DSPG(モル比75:5:20)、およびDSPC/SM/DSPG(モル比70:10:20)リポソームが、静脈内投与後の様々な時点で、脂質血漿レベルの増強を示すが、10モル%スフィンゴミエリンによって調製したリポソームは、5モル%スフィンゴミエリンによって調製したリポソームと比較して、より低い脂質レベルを示したことを示している。リポソームは、投与後の血液区画に高レベルのダウノルビシンおよびカルボプラチンが残っていることによって示されるように、薬物の薬物動態を有効に変化させた(図22および図23を参照されたい)。DSPC/DSPG(モル比80:20)およびDSPC/SM/DSPG(モル比75:5:20)によって調製したリポソームは、DSPC/SM/DSPG(モル比70:10:20)リポソームと比較して最も高いダウノルビシンおよびカルボプラチンレベルを示した。
【0161】
前述の発明は、本発明を明瞭にし理解する目的で説明および例示のために幾分詳細に記述してきたが、本発明の開示に照らして、それらに変更および改変を行ってもよく、それらも添付の特許請求の範囲の範囲に含まれることは、当業者には容易に明らかであると思われる。本明細書において言及した全ての特許、特許出願、および刊行物は、参照として本明細書に組み入れられる。
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、薬物と他の物質とをリポソームに封入することに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
リポソームは、内部に区画を封入している一つまたはそれ以上の脂質二重層からなる顕微鏡的粒子である。リポソームは、多層小胞、多小胞リポソーム、単層小胞および巨大リポソームに分類することができる。多層リポソーム(多層小胞または「MLV」としても知られる)は、それぞれのリポソーム粒子内に多数の同心円の二重層を含み、「タマネギの層」に似ている。多小胞リポソームは、多数の同心円でない水溶性小室を封入する脂質膜からなる。単一の内部水溶性区画を含むリポソームには、小単層小胞(SUV)および大単層小胞(LUV)が含まれる。LUVおよびSUVはそれぞれ、大きさが約50〜500 nmおよび約20〜50 nmの範囲である。巨大リポソームは典型的に大きさが5000 nm〜50,000 nmの範囲であり、インビトロで脂質二重層の機械化学的および相互作用特徴を研究するために主に用いられている(Needhamら、Colloids and Surfaces B:Biointerfaces(2000)18:183〜195(非特許文献1))。
【0003】
リポソームは、薬品、化粧品、診断試薬、および遺伝子材料のような多様な物質の担体として広く研究され用いられている。リポソームは、非毒性の脂質からなるため、それらは一般的に低い毒性を示し、したがって多様な薬学的応用において有用である。特に、リポソームは、血流での半減期が短い物質の循環中の寿命を増加させるために有用である。リポソームに封入された薬物はしばしば、遊離の薬剤とは大きく異なる生物分布および毒性を有する。特異的インビボ輸送の場合、これらの担体の大きさ、荷電、および表面特性は、調製法を変化させることによって、そして担体の脂質構成を調整することによって、変化させることができる。例えば、リポソームは、担体を構成する脂質のアシル鎖の長さを減少することによって、より迅速に薬物を放出するように作製してもよい。
【0004】
小胞の内部に封入された金属イオンを含むリポソームは、診断応用において用いられている。例えば、被験者の体内の所望の部位で造影剤を蓄積することが目標である場合、造影剤を輸送するためにリポソームが用いられている。後者の適用において、リポソームは、主に、γ線および磁気共鳴画像においてそれぞれ、診断用放射性核種および常磁性金属イオンを輸送するために用いられている。これには、111In、99mTc、および67Gaのような放射性核種ならびにGd、Mn、および酸化マンガンのような常磁性イオンをリポソームに封入することが含まれる。造影目的でリポソームを調製するために、典型的に二つの方法が用いられている。第一の方法では、金属を可溶性のキレートに変換してから、リポソームの水溶性内部に導入する。第二の方法では、親油性基によって誘導体化したキレート剤を、リポソーム調製の際またはリポソーム調製後にリポソーム表面に結合させる。
【0005】
マンガンおよび非遷移金属イオンも同様に、リポソーム膜に挿入されたイオノフォアを含むリポソームに、イオン化可能な物質を封入する方法において必要である(米国特許第5837282号(特許文献1)およびFenskeら、Biochim. Biophys. Acta(1998)1414:188〜204(非特許文献2)を参照されたい)。この方法において、イオノフォアは、金属イオンをプロトンと引き換えにリポソーム膜を通過して移動させ、それによってpH勾配を確立する。リポソーム二重層を横切る適当なpH勾配が確立されれば、物質は中性型でリポソーム二重層を容易に横切り、その後荷電型への変換によりリポソームの水溶性内部内で封入および捕獲されるようになりうることから、イオン化可能な物質を封入することができる(Mayerら、米国特許第6083530号(特許文献2)、第5616341号(特許文献3)、第5795589号(特許文献4)、および第5744158号(特許文献5);Mayerら、Biochimica et Biophysica Acta(1986)857:123(非特許文献3)を参照されたい)。この研究は、Deamerら(Biochimica et Biophysica Acta(1976)455:269〜271)(非特許文献4)が完成させた力学的試験から得られ、彼らは、リポソームが膜内外のpH勾配に反応していくつかのカテコラミン(ドーパミン、ノルエピネフリン、およびエピネフリン)を効率よく濃縮することを証明した。
【0006】
酸性のリポソーム内部および塩基性から中性の外部環境が存在することによって、中性から塩基性pHでは主として中性型で存在し、酸性pHでは主として荷電型で存在する物質をリポソーム内に容易に捕獲することができる。アミン基のようなイオン化可能部分を含む薬物は、容易に封入されて、酸性内部を含むリポソームにおいて保持される。イオノフォア(A23187)を用いて、マンガン含有リポソームを横切るpH勾配を作製するこの方法は、膜に挿入されたPEG-脂質結合体を含むコレステロール不含リポソームにトポテカンをローディングするために用いられている(国際公開公報第0185131号(特許文献6)を参照されたい)。しかし、膜内外のpH勾配を用いるローディングおよび保持の成功は、リポソームの内部pHが維持されているあいだ実現される。pH勾配は、短期間維持されるに過ぎないため、臨床において薬剤をリポソームに調製する場合には、薬物のローディング直前にリポソームにpH勾配を作製する必要がある。この方法の第二の短所は、酸性pHで脂質およびいくつかの薬剤が不安定であること起因し、これは薬物をローディングしたリポソームを長期間保存するという需要の妨げとなる。リポソーム製剤を凍結すると、加水分解速度を遅らせるが、従来のリポソーム製剤は、適当に選択された凍結保護剤を用いなければ、しばしば凝集して、融解の際に内容物を漏出する。
【0007】
ドキソルビシンまたはシプロフロキサシンのような薬剤と、Mn2+のような二価金属イオンの錯体が報告されている(Bouma, J.ら(1986)Pharm.Weekbl. Sci. Edn. 16:109〜133(非特許文献5);Riley, C.M.ら(1993)、J. Pharm. Biomed. Anal. 11:49〜59(非特許文献6)およびFenske, D.B.(1998)Biochim. Biophys. Acta. 1414:188〜204(非特許文献7))。最近、スフィンゴミエリン/コレステロールLUVへのドキソルビシンの取り込み(しかし、シプロフロキサシンは取り込まれない)が、イオノフォアの非存在下で内部ローディング媒体におけるマンガンによって行うことができることが報告された(Cheungら、Biochimica et Biophysica Acta(1998)1414:205(非特許文献8))。ドキソルビシンとマンガンイオンとの錯体形成と、リポソーム内部でのドキソルビシンのプロトン化の双方を含むプロセスによって、マンガンイオンの存在下でこの特定の薬剤の取り込みが起こることが示唆された。ドキソルビシンの安定な捕獲が報告されたが、この研究は、薬物保持が最適であると認められた製剤であるスフィンゴミエリン/コレステロールリポソームを用いることに依存した。Cheungらによって報告された、pH 7.4 HEPES緩衝液においてMnSO4を用いることを含む方法論は、金属がそのような緩衝液から沈殿することから、再現できない。
【0008】
様々な研究グループが、小胞膜に及ぼす金属陽イオンの影響を評価する目的で、金属イオンとリポソームの相互作用を研究している(Steffanら(1994)Chem. Phys. Lipids 74(2):141〜150(非特許文献9))。Ca2+のような二価金属陽イオンは、リポソーム表面の陰性荷電のために、ホスファチジルグリセロール(PG)含有リポソームの金属によるクロスリンクが不都合に形成されることに関係している。金属イオンはまた、陰性モデル膜システムの相転移温度を増加させることに関係している(Borleら(1985)Chemistry and Physics of Lipids 36:263〜283(非特許文献10);Jacobsonら、(1975)Biochemistry 14(1):152〜161(非特許文献11))。これらの研究から、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)膜にカルシウムを加えると、約50℃までの相遷移温度の増加が得られることが判明した。これらの結果は、金属イオンと共に陰性荷電脂質を用いると、インビボ応用に関してより劣った特徴を示すリポソームが得られることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5837282号
【特許文献2】米国特許第6083530号
【特許文献3】米国特許第5616341号
【特許文献4】米国特許第5795589号
【特許文献5】米国特許第5744158号
【特許文献6】国際公開公報第0185131号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Needhamら、Colloids and Surfaces B:Biointerfaces(2000)18:183〜195
【非特許文献2】Fenskeら、Biochim. Biophys. Acta(1998)1414:188〜204
【非特許文献3】Mayerら、Biochimica et Biophysica Acta(1986)857:123
【非特許文献4】Deamerら(Biochimica et Biophysica Acta(1976)455:269〜271)
【非特許文献5】Bouma, J.ら(1986)Pharm.Weekbl. Sci. Edn. 16:109〜133
【非特許文献6】Riley, C.M.ら(1993)、J. Pharm. Biomed. Anal. 11:49〜59
【非特許文献7】Fenske, D.B.(1998)Biochim. Biophys. Acta. 1414:188〜204
【非特許文献8】Cheungら、Biochimica et Biophysica Acta(1998)1414:205
【非特許文献9】Steffanら(1994)Chem. Phys. Lipids 74(2):141〜150
【非特許文献10】Borleら(1985)Chemistry and Physics of Lipids 36:263〜283
【非特許文献11】Jacobsonら、(1975)Biochemistry 14(1):152〜161
【発明の概要】
【0011】
本発明は、リポソームにイオノフォアが存在しない状態で行われた金属に基づく技法を用いたリポソームローディング効率および保持特性が、意外にも、用いる金属およびリポソームの脂質構成に依存するという発見に基づいている。脂質の構成と金属の組成を選択することによって、選択された物質の所望のローディングまたはリポソームからの放出が得られるように、ローディングまたは保持特性を調整することができる。さらに、金属イオン封入リポソームを調製するために用いられる溶液からの金属の望ましくない沈殿は、金属適合性の溶液を用いることによって回避される可能性があり、ローディングも同様に、そのようなリポソームを含む外部溶液からの金属イオンを厳密に除去するかまたは錯体形成によって増強される可能性がある。
【0012】
本発明は、このように、リポソームに封入された物質がドキソルビシンである場合には、封入された金属がマンガンのみではないことを条件として、リポソームが外部溶液に存在する、封入された金属を含むリポソームを調製すること;および該物質がリポソームにおいて封入されるように物質を外部溶液に加えることを含む、リポソームに物質をローディングする方法を提供する。本発明のこの局面の一つの態様において、封入された金属は遷移金属である。好ましくは、リポソームの内部と外部のあいだにpHの差はほとんどまたは全くないであろう。より好ましくは、pHは生理的溶液のpHまたはほぼ中性のpHと同等であろう。好ましくは、外部溶液はより少ない金属を有する、より好ましくは実質的により少ない金属を有するであろう。好ましくは、外部溶液およびリポソームの表面は、錯体を形成していない状態の金属を本質的に含まないであろう。さらに、本発明は、本発明の方法に従って調製される組成物と共に、方法において用いるために適した封入金属を含むリポソームを提供する。
【0013】
本発明はこのように、以下の段階を含む、リポソームに物質をローディングする方法も同様に提供する:
(i)封入された遷移金属イオンを含むリポソームを調製する段階、および
(ii)物質がリポソームに封入されるように、該リポソームの外部溶液に物質を加える段階。
【0014】
遷移金属イオンは、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、V、Ti、Cr、Rh、Ru、Mo、およびPdの一つまたはそれ以上から選択してもよく、Mnが同様に封入されているリポソームに封入してもよい。
【0015】
本発明は、本発明に従って調製される組成物と共に、本発明の方法において用いるために適した、遷移金属または二つもしくはそれ以上の異なるそのようなイオンを含むリポソームを提供する。
【0016】
本発明はまた、金属の沈殿を最小限にするために、そしてリポソームを調製するために十分な時間それを溶液中で維持するために、本明細書において記述したように「金属適合性の」溶液において金属イオンを用いてリポソームをローディングする方法も提供する。このように、本発明は、以下の段階を含む、リポソームに物質をローディングする方法を含む:
(i)金属イオンと金属適合性の溶液とを含む封入媒体を有するリポソームを調製する段階;
(ii)物質がリポソームに封入されるように該リポソームの外部溶液に物質を加える段階。
【0017】
さらに、本発明は、本発明の方法に従って調製された組成物と共に、金属イオンと、本発明の方法において用いるために適した金属適合性の溶液とを含むリポソームを提供する。
【0018】
好ましくは、薬物の封入後、本発明のまたは本発明の方法において用いられるリポソームは、リポソーム内pHと実質的に同様のリポソーム外pHを有する。より好ましくは、リポソーム外およびリポソーム内pHは、約pH 3.5〜約pH 9.0であり、より好ましくは約pH 6.0〜約pH 8.5、さらにより好ましくは約pH 6.5〜約pH 8.5、および最も好ましくは約pH 6.5〜約pH 7.5である。
【0019】
本発明はさらに、金属に基づくローディングを用いる場合に、コレステロール含有量が低くなるように調製したリポソームが、予想外のローディングおよび保持特性を示すという発見に基づく。このように、本発明はまた、以下の段階を含む、外部溶液に存在するリポソームに物質を封入する方法を提供する:
(i)(a)リポソームが低コレステロールリポソームであることを条件とする、一つまたはそれ以上の小胞形成脂質、
(b)金属適合性溶液における封入された金属
を含む、リポソームを調製する段階;
(ii)物質がリポソームに封入されるように、活性物質を外部溶液に加える段階。
【0020】
本発明のこの局面の一つの態様において、金属適合性溶液には遷移金属が含まれる。
【0021】
本発明のもう一つの局面において、本発明は、以下の段階を含む、物質をリポソームに封入する方法を提供する:
(i)リポソームが膜内外のpH勾配を有しない、外部溶液において本発明のリポソームを提供する段階;
(ii)物質がリポソームに封入されるように、外部溶液に物質を加える段階。
【0022】
さらに、本発明はまた、哺乳類にリポソームを投与する方法、および障害(例えば、癌)に罹患した、罹患する感受性がある、または罹患が疑われる哺乳類を治療する方法にも関する。特に、本発明は、本発明のリポソームを含む薬学的組成物を投与することを含む、被験者にリポソームを投与する方法を含む。治療または投与方法は一般的に、障害またはその症状を改善するために十分な用量で薬学的組成物を投与することを含むと理解されるであろう。一つの局面において、本発明は、封入金属を用いて活性物質をローディングしたリポソームが、マンガンによって示された特性とは異なるローディングおよび保持特性を示すという知見に基づく。
【0023】
本発明は、リポソームがスフィンゴミエリンおよびコレステロールからなる脂質組成を有する場合、または一つもしくはそれ以上の治療物質がドキソルビシンのみである場合、一つまたはそれ以上の封入イオンはマンガンのみではないことを条件として、一つまたはそれ以上の封入遷移金属イオンと一つまたはそれ以上の治療物質とを含む内部溶液を含むリポソームを含むリポソーム組成物を提供する。本発明はまた、リポソームが外部溶液に存在する上記のリポソーム組成物も提供する。
【0024】
本発明はまた、以下の段階を含む、リポソーム組成物が上記のリポソーム組成物である、リポソームに物質をローディングする方法を提供する:組成物の外部溶液に存在する場合には組成物におけるリポソームの膜を通過することができるが、内部溶液において一つまたはそれ以上の金属イオンと錯体を形成した場合には膜を通過することができない物質を選択する段階、選択された物質を組成物の外部溶液に加える段階、および物質をローディングするために十分な時間、外部溶液において物質を維持する段階。
【0025】
本発明はまた、リポソームにおける封入物質の所望の保持を得るために、リポソームにおける封入に関して金属イオンを選択することを含む、リポソームを調製、選択、または設計する方法も提供する。このように、本発明に従って選択された物質の好ましいローディングまたは保持特性を有するリポソーム組成物を提供、調製、または選択する方法は、以下を含んでもよい:
(a)上記の第一のリポソーム組成物を提供する段階;
(b)組成物のリポソームに物質のローディングを提供するために十分な時間(a)の組成物の外部溶液に選択物質を加える段階;
(c)上記の第二のリポソーム組成物を提供する段階;
(d)組成物のリポソームに物質のローディングを提供するために十分な時間(c)の組成物の外部溶液に選択された物質を加える段階;
(e)(b)で得られた組成物のリポソームに関して、ローディングされたまたは保持された物質量を、(d)で得られた組成物のリポソームと比較する段階;および
(f)好ましいローディングまたは保持を有する(b)または(d)で得られたリポソーム組成物を選択、提供、または調製する段階。
この場合、(a)および(c)のリポソーム組成物は、(i)内部溶液に存在する金属イオン;(ii)リポソーム組成物のリポソームにおける脂質;(iii)物質のローディングを提供するために十分な時間および/または温度条件;ならびに(iv)内部溶液に存在する金属イオンの濃度のうち、一つまたはそれ以上が異なる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1Aは、内部培地としてトリエタノールアミン(TEA)によってpH 7.4に緩衝剤処理した100 mM Cu(II)グルコネートおよび外部培地として300 mMショ糖、20 mM HEPES、30 mM EDTA(SHE)、pH 7.4を用いて、DSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、薬物対脂質モル比0.1:1で50℃で実施した。図1Bは、内部培地としてTEAによってpH 7.4に調節した150 mM CuSO4、20 mMヒスチジンおよび外部培地としてSHE、pH 7.4を用いて、DSPC/DSPG(モル比90:10)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、薬物対脂質モル比0.1:1で60℃で実施した。
【図2】内部培地としてTEAによってpH 7.4に調節した100 mM Cu(II)グルコネートおよび外部培地としてSHE、pH 7.4を用いて、DPPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである、ローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で50℃で実施した。
【図3】内部培地として300 mM MnSO4、20 mMイミダゾール、pH 7.4および外部培地としてSHE、pH 7.4を用いて、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのエピルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、薬物対脂質重量比約0.2:1で60℃で実施した。
【図4】図4Aは、内部培地として100 mM Cu(II)グルコネート、220 mM TEA、pH 7.4および外部培地として300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4を用いて、モル比85:15のフロクスウリジン(FUDR)含有DSPC/DSPGリポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。FUDRは受動的に封入して、イリノテカンのローディングは、薬物対脂質モル比0.1:1で50℃で実施した。図4Bは、内部培地として100 mM Cu(II)グルコネート、220 mM TEA、pH 7.4、および外部緩衝液として20 mM HEPES、150 mM NaCl(HBS)、pH 7.4(黒丸)または300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4(白丸)のいずれかを用いて、FUDR含有DSPC/Chol/DSPG(モル比70:10:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。FUDRは受動的に封入して、イリノテカンのローディングは薬物対脂質モル比0.1:1で50℃実施した。
【図5】内部培地としてTEAによってpH 7.4に調節した150 mM CuSO4および外部培地としてSHE、pH 7.4を用いて、カルボプラチン含有DSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。カルボプラチンは受動的に封入して、イリノテカンのローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で実施した。
【図6】内部培地としてNaOHによってpH 7.4に調節した150 mM CuCl2および外部培地としてHBS、pH 7.4を用いて、シスプラチン含有DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。シスプラチンは、受動的に封入して、ダウノルビシンのローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で実施した。
【図7】内部培地として300 mM MnSO4(黒丸)または300 mMクエン酸塩、pH 3.5(黒四角)を用いて、DPPC/DSPE-PEG-2000(モル比95:5)リポソームへのドキソルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ドキソルビシンのローディングは、37℃で薬物対脂質重量比0.1:1(パネルA)、0.2:1(パネルB)、または0.3:1(パネルC)で実施した。データの点は、3回の繰り返し実験の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。
【図8】図8Aは、300 mM MnSO4(黒丸)、300 mMクエン酸塩、pH 3.5(黒四角)、または300 mM MnCl2(黒三角)を用いて、DMPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのドキソルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ドキソルビシンは、薬物対脂質重量比0.2:1で60℃でローディングした。データの点は、3回の繰り返し実験の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。図8Bは、様々な条件でドキソルビシンをローディングした前後で測定した膜内外のpH勾配を示すヒストグラムである。試料には、ドキソルビシンのローディング前(カラム1)およびローディング後(カラム2)のクエン酸塩ローディング法;ドキソルビシンのローディング前(カラム3)およびローディング後(カラム4)のMnSO4ローディング法;ならびにドキソルビシンのローディング前(カラム5)およびローディング後(カラム6)のMnCl2ローディング法に基づく試料が含まれる。結果は、これらの個々の実験のpH勾配の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を示す。
【図9】内部ローディング培地として300 mM MnSO4(白丸)または300 mM CuSO4(黒丸)のいずれかを利用して、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。イリノテカンは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃でローディングした。
【図10】図10Aは、内部培地として300 mM MnSO4を用いて、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、初回の薬物対脂質重量比0.1:1で、23℃(黒丸)、37℃(白丸)、および60℃(下向き黒三角)で実施した。図10Bは、内部培地として150 mM CoCl2を用いて、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、初回の薬物対脂質重量比0.1:1で、23℃、(黒丸)、37℃(白丸)、および60℃(下向き黒三角)で実施した。図10Cは、内部培地として300 mM NiSO4を用いて、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、薬物対脂質重量比0.2:1で60℃で実施した。
【図11】60℃で300 mM CuSO4を用いて、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのエピルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。エピルビシンは、薬物対脂質重量比が0.2:1となるようにローディングした。
【図12】図12Aは、内部培地として300 mM CoCl2および外部緩衝液としてSHE、pH 7.5を用いて、DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのドキソルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で実施した。図12Bは、内部培地として300 mM CuSO4および外部緩衝液としてHBS、pH 7.4を用いて、DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのドキソルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。ダウノルビシンは、薬物対脂質重量比0.1:1(黒丸)、0.2:1(白丸)、および0.4:1(下向き黒三角)で60℃でローディングした。図12Cは、37℃でDSPC/DSPE-PEG(モル比95:5)リポソームへのトポテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。300 mM CuSO4溶液を内部ローディング培地として用いた。トポテカンは、薬物対脂質重量比0.1:1でローディングした。
【図13A】内部培地として150 mM MnCl2および外部溶液としてHBS、pH 7.4を用いて、シスプラチン含有DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。シスプラチンは受動的に封入して、ダウノルビシンのローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で実施した。
【図13B】内部培地として150 mM CuCl2および外部溶液としてHBS、pH 7.4を用いて、シスプラチン含有DMPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。シスプラチンは、受動的に封入して、ダウノルビシンのローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で実施した。
【図13C】内部培地として300 mM NiSO4および外部溶液として300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4を用いて、カルボプラチン含有DPPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのダウノルビシンのローディングを時間の関数として示すグラフである。カルボプラチンは、受動的に封入して、ダウノルビシンのローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で37℃で実施した。
【図13D】内部培地として75 mM CuCl2+150 mM CuSO4および外部溶液としてSHE、pH 7.4を用いて、シスプラチン含有DPPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのイリノテカンのローディングを時間の関数として示すグラフである。シスプラチンは、受動的に封入して、イリノテカンのローディングは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で実施した。
【図14】ドキソルビシンを予めローディングしたDSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへの50℃でのビンクリスチンのローディングの際の様々な時点でのビンクリスチン/脂質およびドキソルビシン/脂質比を示すグラフである。300 mM MnSO4を含むリポソームに、ドキソルビシン(黒丸)を50℃で薬物対脂質比0.2:1重量/重量で予めローディングした。ビンクリスチンのローディング(黒四角)は、A23187イオノフォアの助けを借りて、薬物対脂質比0.05:1重量/重量で実施した。エラーバーは、3回の繰り返し実験の標準偏差を表す。
【図15】内部培地として300 mM CuSO4を含むDSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのイリノテカンおよびドキソルビシンの連続金属ローディングを示すヒストグラムである。リポソームには、60℃で薬物対脂質モル比0.2:1〜約100%までイリノテカンを予めローディングした後、薬物/脂質モル比0.15:1でローディングしたドキソルビシンの封入を行った。対照として、単剤をローディングしたリポソームへのそれぞれの薬物のリポソーム取り込みを個々に測定した。エラーバーは、3回の繰り返し実験の標準偏差を表す。
【図16】Balb/cマウスへの静脈内注射後24時間でのダウノルビシン含有DSPC/DSPE-PEG2000(モル95:5)リポソームの血漿薬物対脂質比を示すヒストグラムである。ダウノルビシンは、薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で、内部培地として300 mM CuSO4;150 mMクエン酸塩、pH 4;または300 mM MnSO4のいずれかを含むリポソームにローディングした。エラーバーは、3回の繰り返し実験の標準偏差を表す。
【図17】150 mM NaClによって平衡化したケレックス-100(商標)カラムの中にリポソームを通過させた後、封入したCuSO4に反応したDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを示すグラフである。リポソームは、その後300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4に交換した。ローディングは、37℃(黒丸)、50℃(白丸)、および60℃(下向き黒三角)でのインキュベーションによって実施した。
【図18】、37℃(黒丸)、50℃(白丸)、および60℃(下向き黒三角)で封入したCuSO4に反応したDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを示すグラフである。リポソームの外部溶液は、緩衝液を生理食塩液に交換して、ローディング前に300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4(外部EDTAなし)にさらに交換した。
【図19】外部溶液の緩衝液を300 mMショ糖、20 mM HEPES、30 mM EDTA、pH 7.4に交換後に、封入した銅グルコネートに反応したDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを示すグラフである。ローディングは、37℃(黒丸)、50℃(白丸)、および60℃(下向き黒三角)でのインキュベーションによって行った。
【図20】300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4によって平衡化したケレックス-100(商標)カラムの中にリポソーム調製物を通過させた後に、封入した銅グルコネートに反応したDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングを示すグラフである。イリノテカンのローディングは、37℃(黒丸)、50℃(白丸)、および60℃(下向き黒三角)でのインキュベーションによって行った。
【図21】黒丸、白丸、および下向き黒三角によってそれぞれ表される、ダウノルビシンおよびカルボプラチンを同時ローディングしたDSPC/DSPG(モル比80:20)、DSPC/SM/DSPG(モル比75:5:20)、およびDSPC/SM/DSPG(モル比70:10:20)リポソームの血漿脂質レベルを示すグラフである。カルボプラチンは、受動的に捕獲して、ダウノルビシンは、封入したCuSO4に反応して能動的にローディングした。
【図22】黒丸、白丸、および下向き黒三角によってそれぞれ表される、ダウノルビシンおよびカルボプラチンを同時ローディングしたDSPC/DSPG(モル比80:20)、DSPC/SM/DSPG(モル比75:5:20)、およびDSPC/SM/DSPG(モル比70:10:20)リポソームのダウノルビシン血漿レベルを示すグラフである。カルボプラチンは、受動的に捕獲して、ダウノルビシンは、封入したCuSO4に反応して能動的にローディングした。
【図23】黒丸、白丸、および下向き黒三角によってそれぞれ表される、ダウノルビシンおよびカルボプラチンを同時ローディングしたDSPC/DSPG(モル比80:20)、DSPC/SM/DSPG(モル比75:5:20)、およびDSPC/SM/DSPG(モル比70:10:20)リポソームのカルボプラチン血漿レベルを示すグラフである。カルボプラチンは、受動的に捕獲して、ダウノルビシンは、封入したCuSO4に反応して能動的にローディングした。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
リポソームの調製
本明細書において用いられる「リポソーム」という用語は、水相を封入する一つまたはそれ以上の同心円に並んだ脂質二重層を含む小胞を意味する。そのような小胞を形成するためには、二重層構造を形成することができる、または二重層構造に組み入れられうる両親媒性脂質である「小胞形成脂質」が存在する必要がある。後者の用語には、それ自身またはもう一つの脂質もしくは複数の脂質と組み合わせた場合に二重層を形成することができる脂質が含まれる。両親媒性脂質は、その疎水性部分が膜二重層の内部の疎水性領域に接触して、その極性の頭部部分が膜の外側の極性表面の方向を向いている脂質二重層に組み入れられる。親水性は、ヒドロキシル、ホスファート、カルボキシル、スルファート、アミノ、またはスルフヒドリル基のような官能基が存在することによって生じる。疎水性は、脂肪族炭化水素基の長鎖が存在することによって生じる。
【0028】
任意の適した小胞形成脂質を、当業者によって判断されるように本発明の実施において用いることができる。これには、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、およびホスファチジルセリン(PS)のような燐脂質;糖脂質;ならびにスフィンゴシン、セラミド、スフィンゴミエリン、およびグリコスフィンゴリピッド(セレブロシドおよびガングリオシドなど)のようなスフィンゴリピッドが含まれる。好ましい燐脂質は、互いに独立して選択され、不飽和の程度が様々な炭素原子6〜24個の二つのアシル鎖を含む。
【0029】
本発明に従って調製されるリポソームは、小胞を調製するために用いられる通常の技術によって生成することができる。これらの技術には、エーテル注入法(Deamerら、Acad. Sci.(1978)308:250)、界面活性剤法(Brunnerら、Biochim. Biophys. Acta(1976)455:322)、凍結融解法(Pickら、Arch. Biochim. Biophys.(1981)212:186)、逆相蒸発法(Szokaら、Biochim. Biophys. Acta(1980)601:559〜71)、超音波処置法(Huangら、Biochemistry(1969)8:344)、エタノール注射法(Kremerら、Biochemistry(1977)16:3932)、押し出し法(Hopeら、Biochim. Biophys. Acta(1985)812:55〜65)、およびフレンチプレス法(Barenholzら、FEBS Lett. (1979)99:210)が含まれる。上記のプロセスは全て、リポソーム小胞を形成するための基本的な技術であり、これらのプロセスは組み合わせて用いることができる。好ましくは、小単層小胞(SUV)は、超音波処理法、エタノール注入法およびフレンチプレス法によって調製する。好ましくは多層小胞(MLV)は、逆相蒸発法または単に水溶液を脂質被膜に付加した後機械的攪拌による分散によって調製する(Banghamら、J. Mol. Biol.(1965)13:238〜252)。
【0030】
本発明の実施において用いてもよい特に適したリポソーム調製物は、大単層小胞(LUV)である。LUVは、エーテル注入法、界面活性剤法、凍結融解法、逆送蒸発法、フレンチプレス法または押し出し法によって調製してもよい。好ましくは、LUVは、押し出し法に従って調製する。押し出し法は、まず脂質をクロロホルムと所定のモル比を生じるように混合することを含む。選択的に脂質マーカーを、脂質調製物に加えてもよい。得られた混合物を、窒素ガス流下でそして真空ポンプ内で溶媒が実質的に除去されるまで乾燥させる。次に、治療物質または複数の物質の混合物を含んでもよい適当な水溶液において試料を水和する。次に、混合物を押し出し装置(例えば、ノザンリピッズ(Northern Lipids)の装置、バンクーバー、カナダ)の中に通過させて、既定の大きさのリポソームを得る。リポソームの大きさの平均値は、例えばNICOMP(商標)370サブミクロン粒子整粒器を波長632.8 nmで用いる準弾性光散乱を含む多様な方法によって決定することができる。
【0031】
本発明のいくつかの局面において、リポソームは、「低コレステロール」となるように調製される。そのようなリポソームは、「実質的にコレステロールを含まない」、または「本質的にコレステロールを含まない」。「実質的にコレステロールを含まない」という用語では、リポソームの相転移特徴を有意に変化させるには不十分であるコレステロールの量(典型的にコレステロール20モル%未満)が存在してもよい。コレステロール20モル%またはそれ以上では、相転移が起こる温度範囲が広くなり、より高いコレステロールレベル(例えば、30モル%より高いレベル)では相転移は消失する。好ましくは、実質的にコレステロールを有しないリポソームは、約15モル%またはそれ未満、より好ましくは約10モル%またはそれ未満のコレステロールを有するであろう。「本質的にコレステロールを含まない」という用語は、約5モル%またはそれ未満、好ましくは約2モル%またはそれ未満、およびさらにより好ましくは約1モル%またはそれ未満のコレステロールを意味する。最も好ましくは、「低コレステロール」リポソームを調製する場合には、コレステロールは存在しないかまたは付加されないであろう。
【0032】
本発明のリポソームは、ポリアルキルエーテル脂質結合体のような親水性ポリマー-脂質結合体を含んでもよい。ポリアルキルエーテルのような親水性ポリマーのリポソーム表面への移植は、リポソームを「立体的に安定化させ」て、それによってリポソームの循環中の寿命を増加させるために利用されている。これによって血液中の安定性が増加して、循環時間が増加して、健康な組織への取り込みが減少し、固形腫瘍のような疾患部位への輸送が増加する(例えば、米国特許第5013556号および第5593622号;およびPatelら、Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst(1992)9:39〜90を参照されたい)。典型的に、ポリマーはリポソームの脂質成分に結合する。「親水性ポリマー-脂質結合体」という用語は、その極性頭部部分で親水性ポリマーと共有結合して、典型的に、ポリマーに結合するために極性頭部部分に反応性官能基を有する脂質で構成される小胞形成脂質を意味する。適した反応性官能基は、例えばアミノ、ヒドロキシル、カルボキシル、またはホルミル基である。脂質は、そのような結合体において用いることに関して当技術分野で記述される如何なる脂質であってもよい。好ましくは、脂質は、様々な程度の不飽和を有する長さが炭素原子約6〜24個を含む二つのアシル鎖を有する燐脂質である。最も好ましくは、結合体における脂質はPEであり、好ましくはジステアロイル型である。ポリマーは、リポソームの均一な表面被覆を生じる十分な柔軟性でリポソーム表面からポリマー鎖が有効に伸長することができる水溶性を特徴とする生体適合性のポリマーである。好ましくは、そのようなポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリメチレングリコール、ポリヒドロキシプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリル酸およびそのコポリマーを含むポリアルキルエーテルと共に米国特許第5,013,556号および第5,395,619号に開示のものである。好ましくは、そのようなポリマーは、分子量約350〜5000ダルトンを有する。結合体は、ペプチド、エステル、またはジスルフィド結合のような放出可能な脂質-ポリマー結合を含むように調製してもよい。結合体にはまた、ターゲティングリガンドが含まれてもよい。結合体の混合物を、本発明において用いられるリポソームに組み入れてもよい。
【0033】
下記のような陰性荷電脂質を、担体の循環中の寿命を増加させるために金属封入リポソーム製剤に組み入れてもよい。これらの脂質は、表面安定化剤として親水性ポリマー脂質結合体の代わりに用いてもよい。本発明の態様は、凝集を防止してそれによって担体の血液残留時間を増加させるために、そのような陰性荷電脂質を含むコレステロール不含リポソームを利用してもよい。そのような態様は、理想的にはリポソームの表面およびリポソームの外部溶液から金属イオンを厳密に除去した後にローディングされる。
【0034】
「陰性荷電脂質」という用語は、燐脂質およびスフィンゴリピッドを含む、生理的pHで一つまたはそれ以上の陰性荷電を有する小胞形成脂質を意味する。陰性荷電脂質は、本発明のリポソームに5〜95モル%、より好ましくは10〜50モル%、および最も好ましくは15〜30モル%で組み入れられてもよい。
【0035】
好ましくは、本発明において用いられる生理的pHで陰性荷電である脂質は、生理的pHで反対電荷を有しない部分を意味する「非両性イオン部分」を含むであろう。そのような脂質は、インビボで用いるための望ましい循環特性をリポソームに付与する。脂質上の真の陰性荷電は、脂質上の陰性荷電の存在のみによって生じてもよく(例えば、ホスフェート基)、または脂質が一つより多い荷電を有する場合には、陰性荷電非両性イオン部分の存在によってさらなる陰性荷電が生じてもよい。しかし、好ましくは、陰性荷電は、非両性イオン部分が中性基である場合には、脂質成分のみによって生じる。好ましくは、非両性イオンは、炭素原子2〜6個を含む。
【0036】
適した非両性イオン部分は、頭部基に親水性特徴を付与する電子求引性官能基を含む。そのような官能基は、アルコール、酸、ケトン、エステル、エーテル、アミド、およびアルデヒドからなる群より選択することができる。以下の式の非両性イオン部分を利用してもよい。
【0037】
アルコール
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)v(CH)w(C)x(OH)y(CH3)zであって、
炭素数(v+w+x+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、OH基の数は1〜3個である(y=1〜3)。例えば、DPPG。
【0038】
ケトン
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)v(C)x(CO)y(CH3)zであって、
炭素数(v+x+y+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、ケトン基の数は1〜2個である(y=1〜2)。例えば、N-ブチリル-DPPE、N-バレリル-DPPE。
【0039】
カルボン酸
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)u(CH)v(C)x(COOH)y(CH3)zであって、
炭素数(u+v+x+y+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、カルボン酸基の数は1〜2個である(y=1〜2)。
【0040】
エステル
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR
式中、Rは-(CH2)v(C)x(COO)y(CH3)zであって、
炭素数(v+x+y+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、エステル基の数は1〜2個である(y=1〜2)。
【0041】
エーテル
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)v(C)x(O)y(CH3)zであって、
炭素数(v+x+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、エーテル基の数は1〜2個である(y=1〜2)。
【0042】
アミン
一級アミン:
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)v(C)w(CH)x(NH3)y(CH3)zであって、
炭素数(v+w+x+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、アミノ基の数は1〜2個である(y=1〜2)。
二級アミン:
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)v(C)w(CH)x(NH2)y(CH3)zであって、
炭素数(v+w+x+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、アミン基の数は1〜2個である(y=1〜2)。
三級アミン:
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)v(CH)w(C)x(N)y(CH3)zであって、
炭素数(v+w+x+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、アミン基の数は1個である(y=1)。
【0043】
非両性イオン部分はまた、例えば、以下の式の化合物のような、官能基の組み合わせを含んでもよい。
【0044】
カルボン酸とケトン
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)u(CH)v(C)w(COOH)x(CO)y(CH3)zであって、
炭素数(u+v+w+x+y+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、カルボン酸基の数は1〜2個(x=1〜2)、
ケトン基の数は1〜2個(y=1〜2)。例えば、N-スクシニル-DPPE、N-グルタリル-DPPE。
【0045】
カルボン酸、ケトンおよびアルコール
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHR、
式中、Rは-(CH2)s(CH)t(C)u(COOH)v(CO)x(OH)y(CH3)zであって、
炭素数(s+t+u+v+x+z)は、2〜6個、最も好ましくは3〜5個であり、カルボン酸基の数は1〜2個(v=1〜2)、
ケトン基の数は1〜2個(x=1〜2)。
ヒドロキシル基の数は1〜2個(y=1〜2)である。例えば、N-タータリル-DPPE。
【0046】
環状構造
P-R、POR、またはPO(CH2)2NHRであって、式中、Rは、アルコール基1〜5個または1〜6個(シクリトール)をそれぞれ含む5員環または6員環である(例えば、ホスファチジルイノシトール)。
【0047】
炭水化物
本発明の実施において用いてもよい単糖類には、アラビノース、フコース、ガラクトース、グルコース、リキソース、リボース、およびキシロースが含まれる。二糖類には、ショ糖、乳糖、トレハロース、セロビオース、ゲンチオビオース、およびマルトースが含まれる。リポソームの循環中の寿命を増加させる目的の場合、細胞受容体に結合しない単糖類および二糖類(例えば、マンノース)が好ましい。
【0048】
非両性イオン部分が中性である場合、頭部基は、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、アミドおよびアルデヒドを含む、生理的pHで中性である基からなる。
【0049】
本発明の好ましい態様において、非両性イオン部分は、短鎖アルコールであり、好ましいアルコールは二つまたはそれ以上のヒドロキシル基を含む。アルコールは、グリセロールが一例である直鎖ポリオールとなりうる。グリセロールは、ヒドロキシル基の一つと脂質のホスフェート基との結合によって、ホスホスフィンゴリピッドまたは燐脂質の頭部基を構成してもよい。最も好ましくは、グリセロールは、グリセロール分子の末端のヒドロキシル基によってホスフェートに結合し、得られた分子をホスファチジルグリセロール(PG)と呼ぶ。好ましくは、ホスファチジルグリセロールの脂肪酸鎖は、オレオイル(18:1)、リノレオイル(18:2)、アラキドノイル(20:4)、およびドコサヘキサエノイル(22:6)のような、これらの脂肪酸鎖のシスまたはトランス形状の不飽和型を含む、カプロイル(6:0)、オクタノイル(8:0)、カプリル(10:0)、ラウロイル(12:0)、ミリストイル(14:0)、パルミトイル(16:0)、ステアロイル(18:0)、アラキドイル(20:0)、ベヘノイル(22:0)、リングノセロイル(24:0)、およびフィタノイルからなる群より互いに独立して選択される。炭素原子14〜18個の二つのアシル鎖を有する燐脂質が好ましい。
【0050】
本発明のもう一つの好ましい態様において、非両性イオン部分は環状構造である。最も好ましくは環状構造は、三つまたはそれ以上の環原子のそれぞれに一つのヒドロキシル基を含むシクロアルカンであるシクリトールである。そのような化合物は、所望の水溶性を分子に付与するために様々な基によって誘導体化してもよい。好ましくは、シクリトールは、ホスフェート基によって燐脂質に結合したイノシトールであり、得られた化合物はホスファチジルイノシトール(PI)である。好ましくは、ホスファチジルイノシトールの脂肪酸鎖は、オレオイル(18:1)、リノレオイル(18:2)、アラキドノイル(20:4)、およびドコサヘキサエノイル(22:6)のような、これらの脂肪酸鎖のシスまたはトランス形状の不飽和型を含む、カプロイル(6:0)、オクタノイル(8:0)、カプリル(10:0)、ラウロイル(12:0)、ミリストイル(14:0)、パルミトイル(16:0)、ステアロイル(18:0)、アラキドイル(20:0)、ベヘノイル(22:0)、リングノセロイル(24:0)、およびフィタノイルからなる群より互いに独立して選択される。炭素原子14〜18個の二つのアシル鎖を有するホスファチジルイノシトールが好ましい。
【0051】
陰性荷電脂質は、天然資源から得てもよく、または化学合成してもよい。脂質の頭部基に化合物を共有結合させる方法は当技術分野で周知であり、一般的に、結合させる部分上の官能基に脂質頭部基の末端部分上の官能基を反応させることを含む。親水性部分の化学結合にとって適した脂質には、アミンまたはカルボン酸のような反応性官能基で終了する極性頭部基を有する脂質が含まれる。特に適した脂質の例は、それが反応性アミノ基を含むことからホスファチジルエタノールアミンである。ホスファチジルエタノールアミン誘導体を調製する方法は、その参考文献が参照として本明細書に組み入れられる、Ahl, P.ら(1997)Biochimica et Biophysica Act. 1329:370〜382に記述されている。天然資源から得られた陰性荷電脂質の例には、それぞれ卵および植物起源から得られたホスファチジルグリセロールおよびホスファチジルイノシトールが含まれる。
【0052】
リポソームにおける活性物質と金属の封入
本発明は、封入された遷移金属を含むリポソームに物質をローディングする方法を提供する。本明細書において、「物質」という用語は、本発明に従うリポソームに封入されうる物質を指す。好ましくは、そのような物質は、インビトロまたはインビボで標的上で作用を発揮することができる「治療物質」であろう。適した活性物質には、例えば、プロドラッグ、診断物質、治療物質、薬剤、薬物、合成有機分子、タンパク質、ペプチド、ビタミン、ステロイド、およびステロイド類似体が含まれる。物質は、少なくとも遷移金属と錯体を形成していない場合、ローディングを得るためにリポソームの膜を横切って透過性でなければならない。
【0053】
本発明において用いられる遷移金属には、1B、2B、3B、4B、5B、6B、7B、および8B族の元素(3〜12群)が含まれる。好ましい金属には、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、V、Ti、Cr、Rh、Ru、Mo、Mn、およびPdからなる群より選択される金属が含まれる。より好ましくは、金属はFe、Co、Ni、Cu、Mn、またはZnである。さらにより好ましくは、金属はZn、Mn、Co、またはCuである。さらにより好ましくは、金属はZn、Co、またはCuである。
【0054】
本発明に従って用いられる遷移金属イオンは、当技術分野で既知の通常の技術に従ってリポソームに封入してもよい。これには、当技術分野で既知のそして下記のような受動的封入技術が含まれる。
【0055】
好ましくは、リポソームは、約20 mM〜約1 M、好ましくは約50 mM〜約800 mM、より好ましくは約100 mM〜約350 mMの濃度で遷移金属を含む溶液において形成される。
【0056】
金属の様々な塩を本発明の実施において用いてもよい。好ましくは、塩は薬学的に許容され、水性溶媒において可溶性である。好ましい塩は、塩化物、硫酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、燐酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩、グルコン酸塩、グリシン酸塩、ヒスチジン酸塩、リジン酸塩等からなる群より選択してもよい。
【0057】
好ましくは、本発明のリポソームに封入される治療物質は、リポソームに封入された金属と配位結合することができる物質である。
【0058】
遷移金属を配位することができる物質は、典型的にアミン、カルボニル基、エーテル、ケトン、アシル基、アセチレン、オレフィン、チオール、ヒドロキシル、ハロゲン化物、遷移金属に電子を供与して、それによって金属と錯体を形成することができる基または他の適した基などの、配位部位を含む。遷移金属に結合して、このように本発明の実施において用いてもよい物質には、フルオロキノロン、ナリジクス酸のようなキノロン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、およびエピルビシンのようなアントラサイクリン、カナマイシンのようなアミノグリコシド、ブレオマイシン、マイトマイシンCおよびテトラサイクリンのような他の抗生物質、およびシクロホスファミドのようなナイトロジェンマスタード、チオセミカルバゾン、インドメタシンおよびニトロプルシド、トポテカン、イリノテカン、ルルトテカン、9-アミノカンプトテシン、9-ニトロカンプトテシン、および10-ヒドロキシカンプトテシンのようなカンプトテシン、ならびにエトポシドのようなポドフィロトキシンが含まれる。本発明において用いられる物質は、物質における異なる原子からの電子を錯体の幾何学的構造における異なる部位に供与することができる。一つより多い非結合電子対を供与することができるそのような物質もまた、多座配位子として知られる。好ましくは、本発明において用いられる治療物質は、抗新生物物質である。
【0059】
遷移金属と錯体を形成し、このように本発明の実施において用いることのできる活性物質の非制限的な例を表1に提供する。
【0060】
(表1)金属に基づく活性物質の例
【0061】
物質と遷移金属とのあいだに配位が起こるか否かを決定する方法には、当業者に周知の通常の技術が含まれる。好ましい技術は、吸収スペクトルを測定すること、またはGreenawayおよびDabrowiak(J. Inorg. Biochem.(1982)16(2):91)に記述されるNMRを用いることを含む。望ましければ、配位が起こるか否かおよび錯体形成のために最適なpHを決定するために、活性物質を封入前に調べてもよい。
【0062】
封入された金属を有するリポソームを調製する好ましい技術は、所定のモル比を生じるように、まず脂質をクロロホルムにおいて混合することを含む。選択的に脂質調製物に脂質マーカーを加えてもよい。得られた混合物は、窒素ガス流下および真空ポンプ内で溶媒が除去されるまで乾燥させる。その後、遷移金属(一つより多い金属、例えばCuおよびMn、または一つの金属であるが金属の異なる塩を含んでもよい)を含む溶液において試料を水和する。次に、混合物を押し出し装置の中を通過させて、既定の大きさのリポソームの調製物を得る。リポソームの大きさの平均値は、NICOMP(商標)370サブミクロン粒子整粒器を波長632.8 nmで用いる準弾性光散乱によって決定することができる。押し出しの後、外部溶液およびリポソーム表面から金属イオンを除去するために、外部溶液を処理または置換してもよい。
【0063】
本発明は、好ましくは、「金属適合性の溶液」において遷移金属を含む封入または「内部」培地を有するリポソームを利用する。金属適合性の溶液を用いることによって、金属の沈殿が防止される、またはリポソームを薬学的に用いることができるために十分な程度まで沈殿を最少にすることができる。
【0064】
金属適合性溶液は、少なくともリポソームを調製するために必要な時間許容されない沈殿を引き起こさない金属の溶液からなる溶液であると定義される。好ましくは、金属溶液は透明かつ可溶性で、少なくとも約4時間凝集、沈殿、またはフロキュレーションを引き起こさない。例として、Cheungら[上記]に記述されるpH 7.4のHEPES緩衝液中のMnSO4の300 mM溶液は、それが溶液に加えたマンガンの約6〜7モル%を含むMn(OH)2の明白な茶色の沈殿物を生じるために、金属適合性溶液ではない。
【0065】
溶液の遠心および沈降物が形成されたか否かの評価または溶液の曇りの観察のような、様々な方法が当技術分野で既知であり、それらを用いて、金属溶液が、沈殿物を形成するか否かを決定してもよい。溶液の吸光度も同様に分光光度法によってモニターすることができ(例えば、690 mnでの吸光度の増加)、吸光度が実質的に増加すれば溶液の不安定性および沈殿の指標である。最も単純な方法は、溶液を濾過して、濾紙上の沈殿物の有無を調べることである。例えば、試料50 mlをホワットマン(Whatman)(商標)2番濾紙に通過させて、目に見える沈降物に関して濾紙を観察してもよい。
【0066】
溶液が金属適合性であるか否かを決定する好ましい方法は、690 nmでの吸光度をモニターすることである。さらなる金属は、約0.1吸光度単位より多い増加を引き起こさず、好ましくは増加は約0.05単位以下である。
【0067】
金属溶液が金属適合性であるか否かを決定するもう一つの好ましい方法は、遠心によって(例えば、試料100 mlを1000 rpmで10分間遠心する)如何なる沈殿物も回収して、回収した沈殿物の量を測定し、沈殿物に存在する当初の溶液に加えられる金属の比率を決定することである。沈殿物における金属の量は、当初の溶液に加えられる金属の量の約1モル%を超えてはならない。
【0068】
好ましい金属適合性溶液は、トリエタノールアミン(TEA)、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム/酢酸、クエン酸ナトリウム/クエン酸、またはショ糖、デキストロース、および乳糖のような糖を含む溶液のような薬学的に許容される溶液である。燐酸塩および炭酸塩に基づく溶液(薬学的に許容されるが)は、金属が沈殿する可能性があるために、正常な生理的範囲外のpHを除き使用が限られるであろう。好ましくは金属適合性溶液は緩衝作用があり、生理的範囲のpHを有する。
【0069】
本発明の実施において、得られた外部溶液が物質のローディング前に実質的に錯体を形成していない金属イオンを含まないようにリポソーム調製物の外部溶液を置換または処理することが都合がよい可能性がある。本明細書の目的に関して、「錯体を形成していない金属イオン」には、外部溶液において遊離で存在する金属イオンとリポソームの外部表面に結合した(またはそうでなければ会合した)金属イオンとが含まれる。逆に、錯体形成金属イオンは、それがキレート剤のような部分との複合体において外部溶液に存在することから、治療物質またはリポソーム表面と自由に相互作用しないイオンである。このように、リポソームの表面と外部溶液とは、金属イオンを実質的に含まない、または金属イオンが存在する場合には、それらはキレート剤と複合体を形成していることが望ましい。用いてもよい陽イオンキレート剤の例には、EDTAおよび誘導体;EGTAおよび誘導体;ヒスチジン;ケレックス(Chelex)(商標);TPENおよび誘導体;BAPTAおよび誘導体;ビスホスホネート;o-フェナンスロレン(フェナンスロリン);クエン酸塩;InsP6;ジアゾ-2;およびDTPA(ジエチレン-トリアミノ五酢酸)イソチオシアネートが含まれる。
【0070】
金属イオンを除去するために外部溶液を置換することは、第二の緩衝水溶液によって平衡化した大量のゲル濾過カラムによるリポソーム調製物のクロマトグラフィー、遠心、大量または繰り返し透析、外部培地の交換、外部溶液のキレート剤による処理または関連技術によるような様々な他の技術によって行うことができる。キレート剤を用いない1回の溶液交換または透析ラウンドは、典型的に陰性荷電リポソームの表面から金属イオンを除去するために不十分である。
【0071】
外部溶液はまた、好ましくは緩衝液である。しかし、如何なる適した溶媒も本発明の実施において用いてもよいと認識される。好ましい外部溶液は、ほぼ生理的pHのpHを有し、生理的pHを含むように緩衝範囲を有する緩衝剤を含む。外部溶液にとって適した緩衝剤の非制限的な例は、HBS、pH 7.4(150 mM NaCl、20 mM HEPES)およびSHE、pH 7.4(300 mMショ糖、20 mM HEPES、30 mM EDTA)である。
【0072】
物質の取り込みは、外部培地に物質を付加した後、適した温度で混合物をインキュベートすることによって確立してもよい。リポソームの組成、内部培地の温度およびpH、ならびに物質の化学的性質に応じて、物質の取り込みは、数分間または数時間のあいだ起こる可能性がある。ローディングは例えば、20℃〜約75℃、好ましくは約30℃〜約60℃で行ってもよい。
【0073】
封入されていない物質の除去は、リポソーム調製物を、第二の緩衝水溶液で平衡化したゲル濾過カラムの中にリポソーム調製物を通過させること、または遠心、透析、もしくは関連技術によって行ってもよい。好ましくは、第二の溶液は、生理学的に適合性であるが、「金属適合性」である必要はない溶液である。封入されていない活性物質を除去した後、物質のローディングの程度は、通常の技術に従って薬物および脂質レベルの測定によって決定してもよい。脂質および薬物濃度は、シンチレーション計数、分光測光法、蛍光アッセイ法および高速液体クロマトグラフィーのような技術を用いることによって決定してもよい。分析の選択は、薬物の性質およびリポソームが放射標識脂質マーカーを含むか否かに依存する。放射標識マーカーを利用する定量の例を、本明細書の実施例において述べるが、ローディングの程度を決定する如何なる適した方法も用いてもよいと認識されると思われる。
【0074】
封入された遷移金属を用いて物質をリポソームにローディングする前に、リポソームに物質と金属とを受動的に同時封入してもよい。このアプローチを用いて、受動的および能動的ローディング法を組み合わせることによって、二つまたはそれ以上の物質をリポソームに組み入れてもよい。
【0075】
物質をリポソームにローディングした後、二重層へのイオノフォアの挿入が起こるように、イオノフォアを混合物と共にインキュベートしてもよい。「イオノフォア」という用語は、金属イオンとの錯体を形成して、反対方向へのH+の輸送をさらに補助しながらイオンが脂質二重層の中を通過することを補助する化合物を指す。本発明にとって適したイオノフォアの例には、ニゲリシン、モネンシン、ジアネマイシン、A23187、4-BrA23187、イオノマイシン、およびX-537Aが含まれる。イオノフォアは、一価または二価金属イオンに対して特異的であってもよい。一価金属イオンに対して特異的なイオノフォアの例には、ニゲリシン、モネンシン、およびジアネマイシンが含まれる。イオノフォアの取り込みは、イオノフォアを混合物に加えて、イオノフォアがリポソーム二重層に組み入れられるために適した温度でインキュベートすることによって確立される。用いるイオノフォアの量は、典型的にリポソーム製剤の性質およびタイプに依存するであろう。物質のローディング後にイオノフォアをリポソームに加えることは、リポソームにおける物質の保持特性を変化させるため、またはトポテカンおよびイリノテカンのような中性またはアルキル環境によって影響を受ける物質を保護するために行ってもよい。
【0076】
好ましい金属適合性溶液には、pH 6.0〜8.5のあいだで利用することができる緩衝剤のような成分が含まれてもよい。好ましくは、緩衝剤は封入された金属イオンを4℃でpH 6.0〜8.0、より好ましくはpH 6.5〜7.5で2日間実質的に沈殿しない。緩衝液は、沈殿物の形成の指標である曇りの出現に関して溶液を肉眼的に調べることによって、その沈殿防止能を調べてもよい。緩衝液が特定の遷移金属と適合性であるか否かを決定する方法の例を実施例3に概要する。金属適合性溶液において遷移金属を封入した後、物質がリポソームに封入されるように、物質を外部培地に加えてもよい。遷移金属と金属適合溶液とを封入するリポソームは、上記の技術を含む当技術分野で既知の通常の技術に従って調製してもよい。しかし、如何なる適した金属も本発明のこの局面において用いてもよいと認識される。好ましくは、封入された物質または複数の物質を有するリポソームは、リポソーム内のpHと実質的に同様のリポソーム外pHを有する。最も好ましくは、リポソーム外およびリポソーム内pHは、約pH 6.0〜pH 8.0であり、最も好ましくは約pH 6.5〜pH 7.5である。
【0077】
本発明はさらに、封入された物質の所望の保持を得るために、リポソームにおいて封入するための金属イオンを選択することを含む、リポソームを設計する方法を提供する。如何なる適したリポソームおよび物質も本発明のこの局面の実施において用いてもよいと認識される。他の好ましい特徴および本発明のこの局面の条件は、一般的に上記の通りである。
【0078】
リポソームからの物質の放出速度を決定するために、リポソームを静脈内投与して、投与後の物質および脂質の血漿中レベルを測定してもよい。例えば、脂質成分を放射活性標識して、血漿の液体シンチレーション計数を行ってもよい。薬物量は、分光光度法、HPLC、または他のアッセイ法によって決定してもよい。同様に、リポソームにおける物質の保持に関する試験を血漿または適した緩衝液においてインビトロで行ってもよい。一例として、封入物質と遷移金属とを含むリポソームを、物質の保持に関してインビトロまたはインビボで試験してもよい。物質の望ましい保持が得られない場合、異なる金属を選択して、対象となる物質の保持能に関して試験してもよい。
【0079】
リポソームの投与
本発明はまた、哺乳類にリポソームを投与する方法、障害(例えば、癌)に罹患している、感受性がある、または罹患が疑われる哺乳類を治療する方法にも関する。治療または投与の方法は、一般的に障害またはその症状を改善するために十分な用量で薬学的組成物を投与することを含むと理解されると思われる。
【0080】
ヒトの軽い病気の治療の場合、資格のある医師は、用量、投与スケジュール、および投与経路に関して確立されたプロトコールを用いて本発明の組成物をどのように利用すべきかを決定すると予測される。そのような応用はまた、本発明の輸送小胞組成物に封入された活性物質が被験者の健康な組織に対して毒性の減少を示す限り、用量の漸増を利用してもよい。
【0081】
好ましくは、薬学的組成物は、非経口投与、すなわち動脈内、静脈内、腹腔内、皮下、または筋肉内、またはエアロゾルによって投与してもよい。エアロゾル投与法には、鼻腔内および肺内投与が含まれる。より好ましくは、薬学的組成物は、ボーラス注射または注入によって静脈内または腹腔内投与される。例えば、Rahmanら、米国特許第3,993,754号;Sears、米国特許第4,145,410号;Papahadjopoulosら、米国特許第4,235,871号;Schneider、米国特許第4,224,179号;Lenkら、米国特許第4,522,803号;およびFountainら、米国特許第4,588,578号を参照されたい。この用途に適した特定の製剤は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Company、フィラデルフィア、ペンシルバニア州、第17版(1985)に認められる。
【実施例】
【0082】
以下の実施例は説明する目的で示され、本発明の範囲を制限するためのものではない。特に明記していなければ、トリエタノールアミン(TEA)を用いてpHを調節し、図面に示す結果は1回の代表的な例からの値である。
【0083】
大単層リポソームの調製法
脂質をクロロホルム溶液に溶解した後、窒素ガス流下で真空ポンプ内で乾燥させて溶媒を除去した。特に明記していなければ、微量の放射活性脂質3H-CHEを加えて、製剤プロセスの際の脂質を定量した。得られた脂質の被膜を高真空下に少なくとも2時間置いた。脂質の被膜を表記の溶液において水和させると、多層小胞(MLV)が形成される。得られた調製物を、押し出し装置(リペックスバイオメンブレンズ(Lipex Biomembranes)、バンクーバー、ブリティッシュコロンビア州)によって、積み重ねたポリカーボネートフィルターの中を10回押し出して、大きさの平均値が80〜150 nmであるリポソームを得た。リポソームの構成脂質は全て、モル%で報告する。
【0084】
薬物ローディングの定量法
薬物ローディングの開始後様々な時点で、少量を採取して、セファデックスG-50スピンカラムの中を通過させて、封入された物質から分離した。溶出液の規定量に対し、トライトンX-100またはN-オクチルβ-D-グルコピラノシド(OGP)を加えて、リポソームを可溶化した。洗浄剤を加えた後、混合物を洗浄剤の曇り点まで加熱して、室温まで冷却してから吸光度または蛍光を測定した。薬物濃度は、標準曲線との比較によって計算した。脂質レベルは、液体シンチレーション計数によって測定した。
【0085】
実施例1
金属のローディングはpH勾配の非存在下で起こりうる
pH 7.4に緩衝処理した内部および外部溶液を有する金属含有リポソームを、その薬物ローディング能に関して調べた。これらの試験は、薬物の金属に基づくローディングがpH勾配の存在とは無関係に起こるか否かを調べるために実施した。薬物をリポソームに能動的にローディングするための通常の技術では、しばしば膜内外にpH勾配が存在する必要がある。
【0086】
pH勾配の非存在下でのイリノテカンの銅ローディングがコレステロール不含製剤を用いて起こりうるか否かを調べるために、銅(II)グルコネートを含むDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームを、外部および内部pH 7.4で調製した。モル比80:20でのDSPC/DSPGの脂質被膜は、方法の章で先に記述した通りに調製した。脂質の被膜を、トリエタノールアミン(TEA)によってpH 7.4に調節した100 mM Cu(II)グルコネート中で水和して、70℃で押し出した。リポソームの緩衝液を、接線流透析(tangential flow dialysis)によって300 mMショ糖、20 mM HEPES、30 mM EDTA(SHE緩衝液)、pH 7.4に交換した後、pH 7.4のSHE 6 ml中で3回洗浄し、如何なる銅(II)グルコネートも外部リポソーム溶液から除去した。イリノテカンをリポソーム調製物に薬物対脂質モル比0.1:1で加えて、50℃でインキュベートした。薬物ローディングの程度は、370 nmでの吸光度の測定によって方法に記述したとおりに決定して、脂質レベルは、液体シンチレーション計数によって決定した。
【0087】
図1Aに示した結果は、50℃でpH勾配なしでのイリノテカンのDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのローディングが、ローディング開始後約5分以内に本質的に完全であったことを示している。
【0088】
pH 7.4に緩衝処理した封入CuSO4を含むDSPC/DSPG(モル比90:10)リポソームへのダウノルビシンのローディングも同様に調べた。脂質被膜は、DSPGをクロロホルム/メタノール/水(50:10:1 v/v)に溶解したことを除き、前記方法に従って調製した。150 mM CuSO4、20 mMヒスチジン(TEAによってpH 7.4に調節)の溶液を水和培地として用いて、MLVを70℃で押し出した。リポソームを、携帯型の接線流透析カラムを用いてpH 7.4のSHEに交換した。ダウノルビシンは、薬物対脂質重量比0.1:1でローディングした。ローディングの様々な時点での薬物対脂質比は、記述のダウノルビシンを定量するために洗浄剤における可溶化後480 nmでの吸光度を測定することによって決定した;脂質レベルは液体シンチレーション計数によって決定した。
【0089】
図1Bに要約するように、pH勾配の非存在下でのDSPC/DSPG(モル比90:10)へのダウノルビシンの取り込みは、測定した全ての時点で100%であった。
【0090】
pH勾配を示さないコレステロール含有リポソームへのイリノテカンの銅ローディングは、DPPC/Chol(モル比55:45)リポソームを用いて調べた。リポソームは、TEAによってpH 7.4に調節した100 mM Cu(II)グルコネートの溶液中で脂質被膜を水和することによって、方法に記述のように調製した。リポソームを65℃で押し出して、接線流透析によってリポソームの外部緩衝液をSHE、pH 7.4に交換した。リポソームをイリノテカンと共に薬物対脂質重量比0.1:1で50℃でインキュベートして、薬物ローディングの程度を、洗浄剤による可溶化後370 nmでの吸光度を測定することによって決定した。
【0091】
pH勾配の非存在下でのDPPC/Chol(モル比55:45)へのイリノテカンのローディングは、約60分のインキュベーション後にほぼ完全なローディングを認めることが判明した(図2)。
【0092】
銅のローディングの他に、pH勾配の非存在下でMnSO4含有リポソームを用いる薬物のローディングも同様に調べた。DSPC/DSPG-PEG2000(モル比95:5)リポソームは、pH 7.4に緩衝処理した内部MnSO4溶液およびSHEによってpH 7.4に緩衝処理した外部溶液によって調製した。脂質被膜は、記述通りに調製して、20 mMイミダゾール(当初のpHは濃HClによって7.4に調節した)によってpH 7.4に緩衝処理した300 mM MnSO4中で水和して、70℃で押し出しを行った。試料をセファデックスG-50カラムの中に通過させて、外部緩衝液をSHE、pH 7.4に交換した。エピルビシンは薬物対脂質重量比約0.2:1でローディングして、ローディングは60℃で行った。薬物ローディングの程度は、480 nmでの薬物吸光度を測定することによって方法に記述したとおりに測定した。
【0093】
図3に要約した結果から、60℃でDSPC/DSPG-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのエピルビシンのマンガンローディングが、測定したそれぞれの時点で、効率的な薬物の封入が起こったことから、pH勾配の存在を必要としないことが判明する。
【0094】
実施例2
受動的に封入された第一の薬物を含む緩衝リポソームへの第二の薬物の金属ローディング
上記の実施例は、リポソームへの一つの薬物の金属によるローディングを記述したが、本技術を用いて、単一のリポソームに二つまたはそれ以上の薬物をローディングすることができる。一つの技術は、まず、リポソームの調製の際に金属と共に少なくとも一つの薬物を受動的に捕獲した後、もう一つの薬物の能動的金属ローディングを行うことを含む。本実施例において、膜内外のpH勾配がなく、このように、本発明のプロセスによって第二の薬物のローディングを確実にするようにリポソームを調製した。
【0095】
受動的に封入されたフルオクスウリジン(FUDR)を含むDSPC/DSPGおよびDSPG/Chol/DSPGリポソームへのイリノテカンのローディングを、カルボプラチン含有リポソームへのイリノテカンのローディングおよびシスプラチン含有リポソームへのダウノルビシンのローディングと共に、様々な条件で調べた。
【0096】
FUDRを含むDSPC/DSPG(モル比85:15)リポソームは、DSPCをクロロホルムに溶解して、DSPGをクロロホルム/メタノール/水(50:10:1 v/v)に溶解することによって調製した。次に脂質をモル比85:15で混合して、微量の14C-CHEによって標識した。試料を、微量の3H-FUDRと共に24.62 mg/mL(100 mM)FUDRを含む100 mM Cu(II)グルコネート、200 mM TEA、pH 7.4中で70℃で水和した。得られたMLVを70℃で押し出してから、携帯型の接線流透析カラムを用いて、緩衝液をまず生理食塩液に交換した後、SHE、pH 7.4に交換した。次にこの試料を300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4に交換して、外部緩衝液中の如何なるEDTAも除去した。
【0097】
得られたリポソーム調製物にイリノテカンを薬物対脂質モル比0.1:1で50℃で加えた。遠心カラム溶出液の薬物対脂質比は、液体シンチレーション計数を用いて生成して、脂質およびFUDR濃度を決定して、370 nmでの吸光度を用いてイリノテカン濃度を決定した。吸光度を測定する前、リポソームを、トライトンX-100を含む溶液中で可溶化した。当初のFUDR薬物対脂質モル比は、イリノテカンのローディングが起こった後、0.09:1および0.06:1であった。
【0098】
図4Aは、封入されたFUDRと金属とを含むコレステロール不含DSPC/DSPG(モル比85:15)リポソームへのイリノテカンのローディングが、実験の時間経過全体において薬物の効率的なローディングが起こったことから、pH勾配の存在を必要としないことを示している。
【0099】
FUDRおよび銅(II)グルコネートとを含むDSPC/Chol/DSPG(モル比70:10:20)リポソームは、上記の通りに調製した。外部緩衝液がローディングに及ぼす影響を測定するために、携帯型の接線流透析カラムを用いて、得られたLUVの半分の緩衝液をSHE、pH 7.4に交換した後、20 mM HEPES、150 mM NaCl(HBS)、pH 7.4に交換して、残りの半分をさらに、300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4に交換した。イリノテカンをFUDR含有リポソームに加えてその後上記のように測定した。当初のFUDR薬物対脂質モル比は、外部緩衝液としてHBS(黒丸)または300 mMショ糖、20 mM HEPES(白丸)を含む試料に関してそれぞれ、0.1:1および0.09:1であった。イリノテカンのローディング後、同じ試料のFUDR薬物/脂質比はそれぞれ、0.09:1および0.08:1であった。
【0100】
図4Bに要約した結果は、イリノテカンが、用いた外部緩衝液にかかわらず、封入されたFUDRを有する低コレステロール含有リポソームに効率よくローディングされることを示している。pH勾配の非存在下でのローディングはさらに、本発明の金属ローディング技術によって、この程度のイリノテカンの取り込みが起こることを支持する。
【0101】
本発明者らはまた、pH勾配の非存在下で受動的に封入された薬物を含むリポソームに金属ローディングを行うことができる様々な他の薬物を示した;例は以下に詳細に示す。
【0102】
受動的に封入されたカルボプラチンを有するDSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングは、25 mg/mlカルボプラチンを含む150 mM CuSO4(TEAを用いてpH 7.4に調節)において脂質被膜を水和したことを除き、上記の通りに調製したリポソームを用いて測定した。試料を押し出して、携帯型の接線流透析カラムを用いて外部緩衝液をSHE、pH 7.4に交換した。イリノテカンを薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で加えて、先に記述したように取り込みを測定した。原子吸光分光法(AA)を用いて、カルボプラチン濃度を決定して、370 nmでの吸光度を測定してイリノテカン濃度を決定した。当初のカルボプラチンの薬物対脂質重量比は、イリノテカンのローディングが起こった後、0.030および0.025であった。
【0103】
図5のグラフに示すように、イリノテカンは、pH勾配の非存在下でカルボプラチンおよび金属含有DSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームに高い程度でローディングされる。
【0104】
封入されたシスプラチンを含むリポソームへのダウノルビシンのローディングを測定するために、DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームを、脂質被膜をシスプラチン溶液によって水和したことを除き、図4Bに記述した通りに調製した。固体のシスプラチン(40 mg/mL)を、4%DMSOを加えた150 mM CuCl2、pH 7.4(NaOHによってpHを調節)において80℃で溶解した後、脂質被膜に加えて、頻繁に攪拌しながら80℃で水和させた。冷却後、試料を卓上型遠心機で遠心して如何なる非封入シスプラチンも沈降させて、上清を回収した。次に、リポソームを、HBS、pH 7.4によって予め平衡化したセファデックスG-50カラムに載せて、過剰量の金属イオンをリポソームの外部から除去した。
【0105】
ダウノルビシンをリポソームに0.1:1重量比で加えて、ローディングを60℃で行った。少量を様々な時点で採取して、セファデックスG-50スピンカラムに載せた。吸光度の測定は480 nmで行い、これを用いてダウノルビシン濃度を決定して、シスプラチンレベルは、AAを用いて測定した。当初のシスプラチン薬物対脂質比は0.044:1であった。
【0106】
図6は、受動的に封入されたシスプラチンを含むDSPC/Cholリポソームが、pH勾配の非存在下でダウノルビシンを効率よくローディングすることを示している。これはさらに、金属のローディング錯体形成を通して第二の物質のリポソームへのローディングを支持する。
【0107】
実施例3
金属イオンの沈殿に及ぼす緩衝液組成の影響
コバルト、ニッケル、マンガン、カドミウム、亜鉛、および銅の溶液は、20 mMヒスチジン溶液中で150 mMおよび300 mMの濃度で調製した。得られた溶液のpHが7.4となるまで、または溶液の外観が曇るまで(10分間の観察期間)、トリエタノールアミン(1.13 g/mL)を滴下して加えた。典型的に1.13 g/mLトリエタノールアミン500 (L未満を加えた。トリエタノールアミンを加えた後、溶液を肉眼的に観察して、金属の沈殿が起こったか否かを決定した。溶液の外観が曇れば、沈殿物が存在することを示したが、溶液が透明であれば、沈殿物がないことを示した。結果を表2に示す。
【0108】
(表2)
ppt:トリエタノールアミンを加えた後10分以内に沈殿物の形成が起こったことを表す。
no ppt:トリエタノールアミンをpH 7.4となるように加えた後、10分以内に沈殿物の形成が起こらなかったことを示す。
破線:測定していない。
表記の金属の濃度は、トリエタノールアミンを加える前の濃度である。
【0109】
実施例4
金属ローディングはクエン酸塩に基づくローディングとは異なる
MnSO4およびクエン酸塩に基づくローディング技術に従うDPPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのドキソルビシンの蓄積能を比較した。脂質被膜を300 mM MnSO4溶液または300 mMクエン酸塩、pH 3.5によって水和して、押し出し装置の中を55℃で通過させた。得られたリポソームを、MnSO4含有リポソームの場合には、SHE、pH 7.5の緩衝液によって平衡化したセファデックスG-50カラム、クエン酸塩含有リポソームの場合にはHBS、pH 7.5で平衡化したセファデックスG-50カラムを通過させた。緩衝液を交換した後、リポソームをドキソルビシンと混合して、最終的な薬物対脂質重量比約0.1:1、0.2:1または0.3:1を得た。得られた混合物を37℃で80分間インキュベートした。薬物ローディングの程度は、薬物を定量するために480 nmでの吸光度を測定することによって方法に記述したとおりに決定した;脂質レベルは、液体シンチレーション計数によって測定した。
【0110】
図7に要約した結果は、MnSO4(300 mM)を含むコレステロール不含リポソームにおいて、最初の薬物/脂質重量比が0.1:1(パネルA)、0.2:1(パネルB)、および0.3:1(パネルC)であった場合、ドキソルビシンのローディング効率がそれぞれ>95%、>90%、および>80%であったことを示している。対照的に、pH勾配クエン酸塩(300 mMクエン酸塩、pH 4.0)ローディング技法に従って同じ条件でドキソルビシンをローディングしたコレステロール不含リポソームは、ドキソルビシン/脂質重量比が0.1から0.3に増加したことから、封入効率の実質的な減少を示した。後者の方法は、最大の薬物対脂質重量比<0.075を得ることができるであろう。これらの結果は、コレステロール不含リポソームが、金属ローディングを用いて0.3:1(w/w)もの高い薬物対脂質比でドキソルビシンを効率よくローディングすることができるが、クエン酸塩に基づくローディング技法は最大の薬物対脂質比0.1:1(w/w)を達成できるに過ぎないことを示している。これらのデータは、金属に基づくローディングメカニズムが、安定なpH勾配の維持に依存するメカニズムとは異なることを示している。データ点は、薬物対脂質比の平均値を表し、エラーバーは、標準偏差を表す。
【0111】
実施例5
非緩衝金属ローディングは膜内外のpH勾配の崩壊を引き起こす
DMPC/Cholリポソームの膜内外のpH勾配に及ぼすドキソルビシンローディングの影響を、クエン酸塩およびマンガンローディング技術を用いて、薬物のローディング前後のpH勾配を測定することによって比較した。DMPC/Chol(モル比55:45)脂質被膜を300 mMクエン酸緩衝液、pH 3.5、300 mM MnSO4、または300 mM MnCl2によって水和した。得られたMLVに凍結融解5サイクル(液体窒素中で凍結および40℃での融解)を行った後、40℃で押し出しを行った。リポソームの外部溶液を交換するために、試料をセファデックスG-50カラム上で分画した。封入されたクエン酸塩を有するリポソームでは、外部緩衝液をHBSに交換して、封入されたMnSO4およびMnCl2を有するリポソームでは、外部緩衝液SHE、pH 7.5に交換した。緩衝液を交換した後、ドキソルビシンを重量比0.2:1で60℃で加えた。洗浄剤による可溶化後の480 nmでの吸光度を評価して薬物を定量し、脂質レベルは液体シンチレーション計数によって決定した。
【0112】
図8Aに示した結果は、封入されたクエン酸塩(四角)およびMnSO4(丸)を含むリポソームへのドキソルビシンのローディングが、5分間のインキュベーションで本質的に完了したことを示している。MnCl2(三角)を用いたドキソルビシンの蓄積は、MnSO4およびクエン酸塩のローディングと比較して不完全であった。データ点は、少なくとも3回の繰り返し実験の薬物対脂質比の平均値を表し、エラーバーは、標準偏差を示す。
【0113】
ドキソルビシンのローディング前後での製剤の膜内外のpH勾配は、[14C]メチルアミンを用いて測定した。簡単に説明すると、[14C]-メチルアミン(0.5 Ci/mL)を上記のように調製したリポソーム溶液に加えた。15分後、150 (Lの少量を、HBSによって平衡化した1 mLセファデックスG-50カラムに通過させて、非封入メチルアミンを除去した。カラムクロマトグラフィーの前後での脂質およびメチルアミン濃度は、シンチレーション計数によって決定した。膜内外のpH勾配は以下の関係に従って計算した:
pH=log{[H+]内部/[H+]外部}=log{[メチルアミン]内部/[メチルアミン]外部}
【0114】
図8Bに示すように、pH勾配の確立後であるがドキソルビシンのローディング前に、封入されたクエン酸塩(カラム1)、MnSO4(カラム3)、MnCl2(カラム5)を有する製剤はそれぞれ、測定されたpH勾配3.4、1.6、および0.18未満を示した。これらの結果は、膜内外のpH勾配が、マンガン溶液を用いた場合にはクエン酸塩溶液より小さいことを示している。封入されたクエン酸塩を含むリポソームにドキソルビシンを加えた後、pH勾配は3.4(カラム1)から2.3(カラム2)に減少した。この結果は、これらの製剤におけるpH勾配がドキソルビシンによって崩壊することを証明するこれまでの報告と一致する。ドキソルビシンローディングの後、マンガン含有リポソームは、測定可能なpH勾配を示さず(カラム4および6)、このように、これらの製剤が薬物のローシングの際にそのpH勾配を失うことを示している。データ点は、3回の個々の実験のpH勾配の平均値を表し、エラーバーは、標準偏差を示す。
【0115】
実施例6
ローディング効率は用いた金属イオンに依存する
硫酸マンガンまたは硫酸銅溶液を封入するDSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのイリノテカンのローディングは、二つの異なる金属のローディング効率を比較するために実施した。
【0116】
脂質被膜を300 mM MnSO4または300 mM CuSO4のいずれかの溶液中で水和した。得られた多層小胞(MLV)を60℃で押し出して、LUVの緩衝液をSHE、pH 7.4に交換した。薬物のローディングは、得られた溶液にイリノテカンを薬物対脂質重量比0.1:1で60℃で加えることによって開始した。薬物ローディングの程度は記述のように測定して、吸光度は370 nmで測定した。
【0117】
図9の結果は、イリノテカンのマンガンローディングが30分の時点で10%完了したのに過ぎないのに対し、銅含有リポソームへのイリノテカンのローディングは、5分以内に95%より多いローディングが得られたことを示している。これらの結果は、リポソームのローディング特性が金属イオンに非常に依存することを示している。
【0118】
実施例7
封入されたマンガン、コバルト、およびニッケルを用いたコレステロール不含リポソームへの薬物のローディング
コレステロール不含リポソーム(DSPC/DSPE-PEG2000)へのダウノルビシンの取り込みを、様々なローディング温度でMnSO4、CoCl2、およびNiSO4を用いて調べた。
【0119】
マンガンを封入するコレステロール不含(DSPC/DSPE-PEG2000、モル比95:5)リポソームは、300 mM MnSO4において脂質被膜を水和させて調製し、75℃で押し出しを行った。携帯型の接線流透析カラムを用いて、試料をHBSに交換した。外部緩衝液は如何なる二価陽イオンも除去するために、1.67 mM EDTAを含んだ。ダウノルビシンは、薬物対脂質重量比0.1:1でローディングして、ローディングは23℃、37℃、または60℃で行った。薬物ローディングの程度は、洗浄剤中でリポソームを可溶化した後に480 nmでの吸光度を測定することによって測定した。
【0120】
図10Aの結果は、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)MnSO4含有リポソームへのダウノルビシンのローディングが60℃で最も効率がよいのに対し、23℃および37℃では効率がより効率が低いことを示している。ローディング温度が60℃である場合にはダウノルビシン対脂質比(モル:モル)0.07が得ることができた。
【0121】
コバルト含有DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームは、150 mM CoCl2において脂質被膜を水和させることによって調製した。MLVを75℃で押し出して、HBSに対して一晩透析することによって外部緩衝液を交換した。次に、携帯型の接線流透析カラムを用いてリポソームをさらにHBSに交換して、如何なる残留CoCl2も除去した。ダウノルビシンは薬物/脂質重量比0.1:1で23℃、37℃、および60℃でローディングした。ダウノルビシンローディングの程度は、リポソームの可溶化後480 nmでの吸光度を測定することによって決定した。脂質レベルは、液体シンチレーション計数によって決定した。
【0122】
ダウノルビシンは、CoCl2含有DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームに60℃で効率よくローディングされた(図10Bを参照されたい)。60℃では、ローディングによって5分以内にダウノルビシンの>95%の封入が得られた。23℃および37℃でのローディングは効率がより低く、80%の薬物封入を得るためには37℃で60分インキュベーションが必要であった。
【0123】
DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)を含み、NiSO4を封入するリポソームを、先の実施例に記載の通りに調製した。脂質被膜を300 mM NiSO4中で水和して、リポソームの外部緩衝液を、SHE、pH 7.4で平衡化したセファデックスG-50カラムに通過させることによって交換した。ダウノルビシンは、当初の(ローディング前)薬物対脂質重量比が0.2〜1となるように加えて、ローディングを60℃で行った。ダウノルビシンのローディング効率は、UV吸収によって上記の通りに測定した。
【0124】
図10Cの結果は、NiSO4含有DSPC/DSPE-PEG2000リポソームと共にダウノルビシンをインキュベートすると、5分以内に75%より大きい薬物封入が得られたことを示している。
【0125】
実施例8
封入した銅を用いるコレステロール不含リポソームへの薬物のローディング
DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのエピルビシンの銅によるローディングも同様に調べた。
【0126】
銅含有DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームは、先の実施例に記載したとおりに調製した。脂質被膜を300 mM CuSO4において水和して、押し出しは70℃で行った。ローディング前にSHE緩衝液によって平衡化したセファデックスG-50カラムにリポソームを通過させることによって、外部緩衝液をSHE、pH 7.4に置換した。エピルビシンを、薬物対脂質重量比約0.2:1で銅含有リポソームに加えて、ローディングを60℃で行った。エピルビシンおよび脂質レベルはそれぞれ、分光光度法およびシンチレーション計数によってアッセイした。エピルビシンを定量するために、洗浄剤によるリポソーム調製物の可溶化後に480 nmでの吸光度を測定した。
【0127】
図11は、DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームへのエピルビシンのローディングが、60℃で取り込みが起こる場合には、5分以内に>95%の薬物の蓄積が得られたことを示している。
【0128】
実施例9
コレステロール含有リポソームの金属ローディング
DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのドキソルビシン、ダウノルビシン、およびトポテカンの取り込みを、銅およびコバルトを封入するように調製したリポソームを用いて調べた。
【0129】
コバルトを封入するDSPC/Chol(モル比55:45)リポソームは、300 mM CoCl2溶液において脂質被膜を水和させることによって上記の通りに調製した。外部緩衝液をカラムクロマトグラフィーによってSHE、pH 7.5に交換した。ローディングは、ドキソルビシンを薬物対脂質重量比約0.1:1で加えることによって開始した。次に、リポソームを60℃でインキュベートして、薬物のローディングを促進した。薬物ローディングの程度は、洗浄剤によって試料を可溶化した後に、480 nmでの吸光度の測定によって先に記述した通りに測定した。
【0130】
図12Aに示す結果は、10分以内に加えた薬物の>90%が封入されたことを示している。
【0131】
硫酸銅含有DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームは、300 mM CuSO4において脂質被膜を水和させることによって調製した。得られたMLVを70℃で押し出して、セファデックスG-50スピンカラムの中に通過させることによって、外部溶液をHBSに交換した。緩衝液を交換したリポソームに、ダウノルビシンを薬物対脂質重量比0.1:1、0.2:1、または0.4:1で60℃でローディングした。リポソームを洗浄剤で可溶化してから、480 nmでの吸光度を測定することによって薬物レベルを決定した。
【0132】
図12Bに示す結果は、封入したCuSO4を用いてローディングしたDSPC/Chol(モル比55:45)への薬物ローディングが、60℃で5分以内に加えた薬物の>90%が封入されて効率的であったことを示している。
【0133】
300 mM CuSO4を封入するDSPC/Chol(モル比55:45)リポソームは、外部緩衝液をSHE、pH 7.4に交換したことを除き、図12Bに記述した通りに調製した。次に、リポソームを薬物/脂質重量比0.1:1でトポテカンと共に37℃でインキュベートした。ローディングの程度は、380 nmでの薬物吸光度の定量によって、表記の時点で2時間モニターし、そして脂質を液体シンチレーション計数によって決定することによってモニターした。薬物は、380 nmでの吸光度を測定することによって定量した。
【0134】
図12Cは、DSPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのトポテカンのローディングが30分以内に本質的に100%(>95%)完了したことを示している。
【0135】
実施例10
受動的に封入した薬物を含む非緩衝リポソームへの異なる多数の薬物の金属によるローディング
受動的に封入した薬物を含む様々なリポソームへのダウノルビシンまたはイリノテカンのローディングを多数の条件で調べた。
【0136】
シスプラチン含有リポソームへのダウノルビシンの取り込みは、以下の技法に従って測定した。DSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)またはDMPC/Chol(モル比55:45)リポソームは、先の実施例の材料および方法に従って調製した。脂質被膜を80℃で8.5 mg/mlシスプラチンと共に、150 mM MnCl2または150 mM CuCl2においてそれぞれ水和した。MLVは75℃で押し出した。沈殿したシスプラチンは、遠心によって除去して、試料をHBSに対して一晩透析した。CuCl2を含む試料はさらに、携帯型の接線流透析カラムを用いてHBSに交換して如何なる残留CuCl2またはシスプラチンも除去した。ダウノルビシンは、シスプラチン/MnCl2およびシスプラチン/CuCl2含有リポソームに、薬物/脂質重量比0.1:1でインキュベーション温度60℃でローディングした。当初のシスプラチン薬物/脂質重量比は双方のリポソーム組成物に関して0.01:1であった。薬物ローディングの程度は、洗浄剤による試料の可溶化後480 nmでの吸光度の測定によって先に記述したとおりに測定した。
【0137】
図13Aおよび図13Bは、マンガンまたは銅に基づく能動的ローディングのいずれかを用いた場合、シスプラチンを予めローディングしたDSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)およびDMPC/Chol(モル比55:45)リポソームに、第二の薬物(ダウノルビシン)をローディングできることを示している。さらに、ダウノルビシンの封入は、CuCl2と比較してMnCl2を用いた場合では効率的ではなかった。
【0138】
受動的に捕獲されたカルボプラチンまたはシスプラチンのいずれかをそれぞれ含むDPPC/Chol(モル比55:45)リポソームへのダウノルビシンまたはイリノテカンのローディングを、ニッケルまたは銅のローディングを用いて分析した。脂質被膜を、40 mg/mlカルボプラチンまたは8.5 mg/mlシスプラチンをそれぞれ含む300 mM NiSO4または75 mM CuCl2+150 mM CuSO4において水和した。MLVは70℃で押し出した。ニッケル含有試料を300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4の1 Lに対して一晩透析したが、銅を含む試料はCL4B樹脂を含むセファロースカラムでのクロマトグラフィーによってSHE、pH 7.4に交換した。ダウノルビシンは37℃で薬物対脂質重量比0.1:1でローディングした。イリノテカンは、先に記述した通りに60℃で薬物対脂質重量比0.1でリポソームにローディングした。薬物および脂質レベルは、先に記述した技法を用いて測定した。
【0139】
図13Cおよび図13Dに要約した結果は、プラチナ薬物を含むニッケルまたは銅イオン溶液のいずれかと共に調製したDPPC/Chol(モル比55:45)リポソームが、第二の薬物を効率よくローディングすることを示している。
【0140】
実施例11
イオノフォア媒介ローディング技術と組み合わせた金属ローディングによって多数の薬剤の封入が得られる
金属によるローディングをさらなる能動的なローディングメカニズムと組み合わせると、単一のリポソームにドキソルビシンとビンクリスチンの双方を効率的に封入することができる。金属によるドキソルビシンのローディングの後にビンクリスチンのイオノフォア媒介ローディングを下記に詳述する。
【0141】
DSPCコレステロールリポソーム(モル比55:45)は、脂質被膜を300 mM MnSO4において水和して、脂質マーカー14C-CHEを用いたことを除き、先の実施例に記述したとおりに調製した。得られたMLVを65℃で押し出してから、300 mMショ糖、20 mM HEPES、および15 mM EDTA(pH 7.5)によって予め平衡化したセファデックスG-50カラムの中を通過させた。ドキソルビシンを薬物対脂質重量比0.2:1で加えて、60℃で60分間さらにインキュベートした。
【0142】
ドキソルビシンをローディングした後、二価陽イオンイオノフォアA23187(1? gイオノフォア/(モル脂質))をリポソームに加えて、混合物を室温で3分間インキュベートして、A23187の二重層への取り込みを促進した。その後、ビンクリスチンを混合物に加えて、50℃で100分間インキュベートした。薬物の定量を容易にするために、少量の放射標識ビンクリスチンを薬物調製物に加えた。薬物の取り込みは、ビンクリスチン対脂質重量比0.05:1で行った。ビンクリスチンおよび脂質は、洗浄剤による可溶化の後にシンチレーション計数によって定量した。480 nmでの吸光度を用いてドキソルビシンレベルを定量した。
【0143】
図14は、金属によるローディングによってドキソルビシン(丸)を予めローディングしたリポソームが、ビンクリスチン封入の際にドキソルビシンが有意に漏出することなく、50℃で40分間のインキュベーション後、イオノフォアによるビンクリスチン(四角)ローディングのほぼ最大の封入を示すことを示している。データ点は、3回の個々の実験の薬物対脂質重量比の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を示す。
【0144】
実施例12
イオノフォアの非存在下での二つの薬剤の金属ローディングによって二つの薬物の効率的な封入が起こる
先の実施例は、様々な組成のリポソームへの二つの薬物の封入が起こるように、能動的金属ローディングと組み合わせて受動的またはイオノフォア媒介ローディング技術のいずれかを利用した。以下の実施例は、金属ローディングのみを利用して、単一のリポソームに二つの薬物を能動的にローディングできることを示している。ドキソルビシンとイリノテカンとを下記のようにDSPC/コレステロールリポソームにローディングした。
【0145】
DSPC/Cholリポソーム(モル比55:45)は、封入された300 mM CuSO4について先に詳述したように調製した。押し出されたリポソームを、SHE、pH 7.5によって予め平衡化したセファデックスG-50カラムの中を通過させた。イリノテカンをまず、薬物対脂質モル比0.2:1で60℃でローディングすると約100%の封入が得られた。この後、ドキソルビシンを60℃で薬物対脂質モル比0.15:1で、ドキソルビシンの十分なローディングが得られるように、イリノテカン含有リポソーム製剤と共にインキュベートした。イリノテカンレベルは、その370 nmでの吸光度を考慮してドキソルビシンの存在下で調製した標準曲線を用いて、370 nmでの吸光度の測定によって測定した。同様に、ドキソルビシン濃度は、その480 nmでの吸光度を考慮してイリノテカンの存在下で調製した標準曲線を用いて、480 nmでの吸光度を測定することによって決定した。対照として、同じ組成のリポソームへのそれぞれの薬物の個々の取り込みを、個々に測定した。
【0146】
図15に要約した結果は、ドキソルビシンとイリノテカンが、本発明の能動的金属ローディング技法を用いて単一のリポソームに効率よくローディングされうることを示している。結果は、3回の個々の実験の薬物対脂質比の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を示す。
【0147】
実施例13
インビボでの薬物放出速度は金属イオンの性質に依存する
異なる内部ローディング培地がインビボでDSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームからのダウノルビシンの放出を制御できるか否かを、150 mMクエン酸塩、pH 4.0、300 mM CuSO4、および300 mM MnSO4を用いて調べた。DSPC/DSPE-PEG2000リポソームは、上記の通りに調製して、75℃で押し出した。HBSに対する透析によって外部溶液をHBSに交換した。ダウノルビシンは、薬物対脂質重量比約0.1:1でローディングして、ローディングは60℃で実施した。ダウノルビシンのローディングは、可溶化緩衝液においてEDTAを用いて先の実施例に記述のように測定した。次に、薬物ローディングリポソームを、脂質用量100 mg/kg、およびダウノルビシン用量10 mg/kgでBalb/cマウスに静脈内投与した。心穿刺によって投与後24時間で血液を(1時点あたりマウス3匹)EDTA含有試験管に採取した。血漿中の脂質濃度は液体シンチレーション計数によって決定した。ダウノルビシンは以下のように血漿から抽出した。
【0148】
規定量の血漿を蒸留水で200(Lに調節した後、蒸留水600 (Lを加え、10%SDS 10 (Lおよび10 mM H2SO4 100 (Lを加えた。得られた混合物を混合して1:1イソプロパノール/クロロホルム2 mLを加えて攪拌した。試料を-20℃で一晩、または-80℃で1時間凍結して、タンパク質の凝集を促進して、室温に戻して攪拌して3000 rpmで10分間遠心した。底の有機相を除去して、励起波長として500 nm(バンド幅2.5 nm)および放射波長として550 nm(バンド幅10 nm)での蛍光強度、そして480 nmでの吸光度波長に関してアッセイした。
【0149】
図16は、封入されたクエン酸塩、pH 4.0、CuSO4、およびMnSO4を用いてダウノルビシンをローディングしたDSPC/DSPE-PEG2000(モル比95:5)リポソームが、静脈内投与後24時間で異なる血漿薬物対脂質比を示すことを示している。これらの結果は、適当な金属イオンの選択によって薬物の放出を制御できることを示している。結果は、少なくとも3回の個々の実験の薬物対脂質重量比の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を示す。
【0150】
実施例14
非錯体形成金属イオンの存在下および非存在下でのリポソームのローディング
ホスファチジルグリセロール含有リポソームの外部表面上での金属イオンの存在下および非存在下での金属に基づく薬物のローディングを調べて、結果を図17および図18に示す。
【0151】
DSPC/DSPG(モル比80:20)から構成されるリポソームは、実施例1に記述した技法に従って調製した。DSPCおよびDSPG脂質をそれぞれ、クロロホルムおよびクロロホルム/メタノール/水(50:10:1、v/v)に溶解した。次に、脂質をそれぞれの製剤に関して適当量で配合した。温度70℃を維持しながら、N2ガス流の下で真空下に5分間置いて、溶媒を除去した。得られた脂質被膜を、如何なるメタノールまたは水もさらに除去するためにクロロホルムに再度溶解して、先のように溶媒を除去し、如何なる残留溶媒も除去するために真空下で乾燥させた。次に、試料を150 mM CuSO4、pH 7.4(TEAによってpHを調節)において再度水和して、得られたMLVを70℃で押し出した。リポソーム試料は、150 mM NaClによって平衡化した15 mlケレックス-100(商標)(BioRad)カラムの中を0.5 mL/分で通過させるか、または緩衝液を生理食塩液に交換して、さらに接線流を用いて300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4に交換した。ケレックス-100(商標)カラムを通過したリポソームは、次に、接線流を用いて300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4に交換した。
【0152】
双方のリポソーム調節物を上記のように薬物対脂質重量比0.1:1でイリノテカンを37℃、50℃、および60℃でローディングした。薬物の取り込みは、液体シンチレーション計数を用いてアッセイして、脂質濃度を決定して、370 nMでの吸光度を用いて洗浄剤での可溶化後のイリノテカン濃度を決定した。
【0153】
図17に示した結果は、リポソーム調製物をケレックス-100(商標)カラムに通過させて外部金属イオンを除去すると、DSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへのイリノテカンのローディングが増強されることを明らかにしている。対照的に、図18に示す結果は、キレート剤を含まない溶液に交換したリポソームへのイリノテカンのローディングが、減少した速度でローディングされたことを示している。如何なる特定の理論にも拘束されたくはないが、イオンとキレート剤との錯体の形成によって陰性荷電リポソーム表面に会合した金属イオンを除去すると、膜の外表面上の金属-薬物相互作用を減少させて、それによって膜を通過する遊離の薬物量が増加して、リポソームの内部区画に捕獲されるようになる。
【0154】
実施例15
リポソームの外部溶液からの金属イオンの除去方法
外部金属のキレート化に依存する二つの異なる技術を用いて、外部溶液からCu2+の除去後に、DSPC/DSPG(モル比80:20)リポソームへの銅に基づくイリノテカンのローディングを調べた。第一の技術は、ケレックス(商標)カラムの中を通過させることによって銅を除去することを含み、第二の技術は、EDTAを含む緩衝液にリポソームを交換することを含む。
【0155】
DSPC/DSPG(モル比80:20)は、試料を150 mM 銅グルコネート、pH 7.4(TEAによってpHを調節)において水和したことを除き、実施例14に記載した通りに調製した。外部の銅は、以下によって除去した:i)300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4において平衡化した15 mMケレックス-100カラムの中を通過させる;またはii)接線流を用いて、緩衝液を生理食塩液に交換した後、300 mMショ糖、20 mM HEPES、pH 7.4(SHE緩衝液)に交換する。
【0156】
双方のリポソーム調製物に、37℃、50℃、および60℃でイリノテカンを薬物対脂質重量比0.1:1で実施例14に記述のようにローディングした。ローディング開始後少量(100 μL)を様々な時点で採取して、セファデックスG-50スピンカラムに載せた。次に、試料を洗浄剤によって可溶化して、薬物および脂質の定量は実施例14に記載したように実施した。
【0157】
キレートカラム(図20)の中を通過させることによる外部金属を除去後の金属に基づくローディングは、リポソームをEDTA含有溶液に交換した後のローディングと同等である(図19)。このように、これらの結果は、ローディング効率に大きな影響を及ぼすことなく陰性荷電膜から外部金属イオンを除去するために用いてもよい。
【0158】
実施例16
ダウノルビシンとカルボプラチンを同時ローディングしたホスファチジルグリセロール含有リポソームの薬物動態
PG含有リポソームにおいて同時封入したダウノルビシンとカルボプラチンの保持を、カルボプラチンの受動的ローディング後のダウノルビシンの金属ローディングによって調べた。
【0159】
ダウノルビシンとカルボプラチンを、DSPC/DSPG(モル比80:20)、DSPC/SM/DSPG(モル比75:5:20)、およびDSPC/SM/DSPG(モル比70:10:20)リポソームに封入した。リポソームは先の実施例に記述した技法に従って調製した。DSPGをクロロホルム/メタノール/水(v/v)50:10:1の溶液に溶解して、放射活性マーカー14C-CHEを調製物に加えて、脂質を定量した。脂質被膜を、80 mg/mlカルボプラチン(4%DMSOによってカルボプラチンの溶解度を改善させる)を含む150 mM CuSO4、20 mMヒスチジン、pH 7.4において再度水和した。押し出し後、試料を遠心して、非封入カルボプラチンを除去した。SHE緩衝液に交換したリポソームに3H-ダウノルビシンをローディングした。マウスにリポソームを100 mg/kg脂質の用量で投与した。液体シンチレーション計数を用いて、ダウノルビシンおよび脂質を定量した。カルボプラチンの血漿レベルは原子吸光によって決定した。
【0160】
図21の結果は、二重ローディングしたDSPC/DSPG(モル比80:20)、DSPC/SM/DSPG(モル比75:5:20)、およびDSPC/SM/DSPG(モル比70:10:20)リポソームが、静脈内投与後の様々な時点で、脂質血漿レベルの増強を示すが、10モル%スフィンゴミエリンによって調製したリポソームは、5モル%スフィンゴミエリンによって調製したリポソームと比較して、より低い脂質レベルを示したことを示している。リポソームは、投与後の血液区画に高レベルのダウノルビシンおよびカルボプラチンが残っていることによって示されるように、薬物の薬物動態を有効に変化させた(図22および図23を参照されたい)。DSPC/DSPG(モル比80:20)およびDSPC/SM/DSPG(モル比75:5:20)によって調製したリポソームは、DSPC/SM/DSPG(モル比70:10:20)リポソームと比較して最も高いダウノルビシンおよびカルボプラチンレベルを示した。
【0161】
前述の発明は、本発明を明瞭にし理解する目的で説明および例示のために幾分詳細に記述してきたが、本発明の開示に照らして、それらに変更および改変を行ってもよく、それらも添付の特許請求の範囲の範囲に含まれることは、当業者には容易に明らかであると思われる。本明細書において言及した全ての特許、特許出願、および刊行物は、参照として本明細書に組み入れられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つまたはそれ以上の封入された遷移金属イオンと一つまたはそれ以上の封入された治療物質とを含む内部溶液を含むリポソームを含むリポソーム組成物であって、該一つまたはそれ以上の治療物質がドキソルビシンのみである場合に、一つまたはそれ以上の封入された金属イオンはマンガンのみではないことを条件とするリポソーム組成物。
【請求項2】
内部溶液が金属適合性溶液を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
リポソームがイオノフォアを含まない、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
外部溶液においてリポソームを含む、請求項1、2、または3記載の組成物。
【請求項5】
リポソームの外部溶液と外表面が、錯体を形成していない金属イオンを実質的に含まない、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
外部溶液が金属キレート剤を含む、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
外部溶液と内部溶液が実質的に同じpHを有する、請求項4、5、または6記載の組成物。
【請求項8】
リポソームが低コレステロールのリポソームである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
一つまたはそれ以上の金属イオンが第一属遷移金属である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
一つまたはそれ以上の金属イオンが、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、V、Ti、Cr、Rh、Ru、Mo、およびPdからなる群より選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
一つまたはそれ以上の金属イオンが、Fe、Co、Cu、およびZnからなる群より選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
一つまたはそれ以上の金属イオンが、Zn、CoおよびCuからなる群より選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
リポソームが封入されたCuを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
リポソームが封入されたMnをさらに含む、請求項10〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
内部溶液のpHが約6.0〜約8.5の範囲である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
リポソームが、生理的pHで陰性荷電である一つまたはそれ以上の脂質を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
一つまたはそれ以上の陰性荷電脂質がPGおよびPIから選択される、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
治療物質が抗新生物物質である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
(i)外部溶液においてリポソームを含むリポソーム組成物を提供する段階であって、該リポソームが一つまたはそれ以上の封入された遷移金属イオンを含む内部溶液を含む段階;
(ii)一つまたはそれ以上の治療物質を外部溶液に加える段階;および
(iii)物質をリポソームにローディングするために十分な時間、外部溶液において物質を維持する段階
を含む、リポソーム組成物におけるリポソームに治療物質をローディングする方法であって、該一つまたはそれ以上の物質がドキソルビシンのみである場合に、一つまたはそれ以上の金属イオンはマンガンのみではないことを条件とする方法。
【請求項20】
内部溶液が金属適合性溶液を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
リポソームの外部溶液と外表面が、錯体を形成していない金属イオンを実質的に含まない、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
外部溶液が金属キレート剤を含む、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
錯体を形成していない金属イオンが、クロマトグラフィーによって、または大量の溶液交換もしくは透析によって、段階(ii)の前に外部溶液から除去される、請求項21または22に記載の組成物。
【請求項24】
内部溶液と外部溶液とが実質的に同じpHを有する、請求項19〜23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
リポソームが低コレステロールのリポソームである、請求項19〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
一つまたはそれ以上の金属イオンが第一族の遷移金属である、請求項19〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
一つまたはそれ以上の金属イオンが、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、V、Ti、Cr、Rh、Ru、Mo、およびPdからなる群より選択される、請求項19〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
一つまたはそれ以上の金属イオンが、Fe、Co、Cu、およびZnからなる群より選択される、請求項19〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
一つまたはそれ以上の金属イオンが、Zn、CoおよびCuからなる群より選択される、請求項19〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
リポソームが封入されたCuを含む、請求項19〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
リポソームが封入されたMnを含む、請求項19〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
リポソームが封入されたMnをさらに含む、請求項27〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
内部溶液のpHが約6.0〜約8.5の範囲である、請求項19〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
リポソームが生理的pHで陰性荷電である一つまたはそれ以上の脂質を含む、請求項19〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
一つまたはそれ以上の陰性荷電脂質がPGおよびPIから選択される、請求項34記載の方法。
【請求項36】
リポソームがイオノフォアを含まない、請求項19〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
第二の治療物質が、段階(iii)の後に形成された膜内外のpH勾配によってローディングされる、請求項19〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
第二の治療物質が、リポソームに存在するイオノフォアによって確立された膜内外の勾配によってローディングされ、膜内外の勾配が段階(iii)の後に確立される、請求項19〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
請求項19〜38のいずれか一項に記載の方法によって産生された一つまたはそれ以上の治療物質を含むリポソームを含むリポソーム組成物。
【請求項40】
以下の段階を含む、物質に関して好ましいローディングまたは保持特性を有するリポソーム組成物を選択する方法:
(a)外部溶液においてリポソームを含む第一のリポソーム組成物を提供する段階であって、該リポソームが一つまたはそれ以上の遷移金属イオンを含む内部溶液を含む段階;
(b)第一の組成物のリポソームに物質をローディングするために一定期間(a)の組成物の外部溶液に物質を加える段階;
(c)外部溶液においてリポソームを含む第二のリポソームを提供する段階であって、該リポソームが一つまたはそれ以上の遷移金属イオンを含む内部溶液を含む段階;
(d)第二の組成物のリポソームに物質をローディングするために一定期間(c)の組成物の外部溶液に物質を加える段階;
(e)(b)で得られた組成物のリポソームに関して、一定期間ローディングされたまたは保持された物質の量を、(d)で得られた組成物のリポソームと比較する段階;および
(f)より多くの量のローディングまたは保持された物質を有する(b)または(d)で得られたリポソーム組成物を選択する段階;
ただし、
(I)(a)と(c)のリポソーム組成物は、(i)内部溶液に存在する金属イオン;(ii)リポソーム組成物のリポソームにおける脂質;および(iii)内部溶液に存在する金属イオンの濃度のうち、一つまたはそれ以上が異なる;
(II)(b)での一定期間は、(d)での一定期間とは異なる;または
(III)(b)でのローディングは、(d)でのローディングとは異なる温度で行われる。
【請求項41】
第一の組成物および第二の組成物のうち一方がコレステロール含有リポソームを含み、該組成物の他方が低コレステロールのリポソームを含む、請求項40記載の方法。
【請求項42】
第一の組成物および第二の組成物のうち少なくとも一方が、Cu、Co、およびZnから選択される一つまたはそれ以上の金属イオンを含む、請求項40または41記載の方法。
【請求項43】
第一の組成物および第二の組成物のそれぞれの内部溶液が金属適合性溶液を含む、請求項40、41、または42に記載の方法。
【請求項44】
より多くの量のローディングまたは保持された組成物をさらに提供する追加の段階を含む、請求項40〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記のさらに提供された組成物のリポソームに物質をローディングする追加の段階を含む、請求項44記載の方法。
【請求項1】
一つまたはそれ以上の封入された遷移金属イオンと一つまたはそれ以上の封入された治療物質とを含む内部溶液を含むリポソームを含むリポソーム組成物であって、該一つまたはそれ以上の治療物質がドキソルビシンのみである場合に、一つまたはそれ以上の封入された金属イオンはマンガンのみではないことを条件とするリポソーム組成物。
【請求項2】
内部溶液が金属適合性溶液を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
リポソームがイオノフォアを含まない、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
外部溶液においてリポソームを含む、請求項1、2、または3記載の組成物。
【請求項5】
リポソームの外部溶液と外表面が、錯体を形成していない金属イオンを実質的に含まない、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
外部溶液が金属キレート剤を含む、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
外部溶液と内部溶液が実質的に同じpHを有する、請求項4、5、または6記載の組成物。
【請求項8】
リポソームが低コレステロールのリポソームである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
一つまたはそれ以上の金属イオンが第一属遷移金属である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
一つまたはそれ以上の金属イオンが、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、V、Ti、Cr、Rh、Ru、Mo、およびPdからなる群より選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
一つまたはそれ以上の金属イオンが、Fe、Co、Cu、およびZnからなる群より選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
一つまたはそれ以上の金属イオンが、Zn、CoおよびCuからなる群より選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
リポソームが封入されたCuを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
リポソームが封入されたMnをさらに含む、請求項10〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
内部溶液のpHが約6.0〜約8.5の範囲である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
リポソームが、生理的pHで陰性荷電である一つまたはそれ以上の脂質を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
一つまたはそれ以上の陰性荷電脂質がPGおよびPIから選択される、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
治療物質が抗新生物物質である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
(i)外部溶液においてリポソームを含むリポソーム組成物を提供する段階であって、該リポソームが一つまたはそれ以上の封入された遷移金属イオンを含む内部溶液を含む段階;
(ii)一つまたはそれ以上の治療物質を外部溶液に加える段階;および
(iii)物質をリポソームにローディングするために十分な時間、外部溶液において物質を維持する段階
を含む、リポソーム組成物におけるリポソームに治療物質をローディングする方法であって、該一つまたはそれ以上の物質がドキソルビシンのみである場合に、一つまたはそれ以上の金属イオンはマンガンのみではないことを条件とする方法。
【請求項20】
内部溶液が金属適合性溶液を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
リポソームの外部溶液と外表面が、錯体を形成していない金属イオンを実質的に含まない、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
外部溶液が金属キレート剤を含む、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
錯体を形成していない金属イオンが、クロマトグラフィーによって、または大量の溶液交換もしくは透析によって、段階(ii)の前に外部溶液から除去される、請求項21または22に記載の組成物。
【請求項24】
内部溶液と外部溶液とが実質的に同じpHを有する、請求項19〜23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
リポソームが低コレステロールのリポソームである、請求項19〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
一つまたはそれ以上の金属イオンが第一族の遷移金属である、請求項19〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
一つまたはそれ以上の金属イオンが、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、V、Ti、Cr、Rh、Ru、Mo、およびPdからなる群より選択される、請求項19〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
一つまたはそれ以上の金属イオンが、Fe、Co、Cu、およびZnからなる群より選択される、請求項19〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
一つまたはそれ以上の金属イオンが、Zn、CoおよびCuからなる群より選択される、請求項19〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
リポソームが封入されたCuを含む、請求項19〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
リポソームが封入されたMnを含む、請求項19〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
リポソームが封入されたMnをさらに含む、請求項27〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
内部溶液のpHが約6.0〜約8.5の範囲である、請求項19〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
リポソームが生理的pHで陰性荷電である一つまたはそれ以上の脂質を含む、請求項19〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
一つまたはそれ以上の陰性荷電脂質がPGおよびPIから選択される、請求項34記載の方法。
【請求項36】
リポソームがイオノフォアを含まない、請求項19〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
第二の治療物質が、段階(iii)の後に形成された膜内外のpH勾配によってローディングされる、請求項19〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
第二の治療物質が、リポソームに存在するイオノフォアによって確立された膜内外の勾配によってローディングされ、膜内外の勾配が段階(iii)の後に確立される、請求項19〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
請求項19〜38のいずれか一項に記載の方法によって産生された一つまたはそれ以上の治療物質を含むリポソームを含むリポソーム組成物。
【請求項40】
以下の段階を含む、物質に関して好ましいローディングまたは保持特性を有するリポソーム組成物を選択する方法:
(a)外部溶液においてリポソームを含む第一のリポソーム組成物を提供する段階であって、該リポソームが一つまたはそれ以上の遷移金属イオンを含む内部溶液を含む段階;
(b)第一の組成物のリポソームに物質をローディングするために一定期間(a)の組成物の外部溶液に物質を加える段階;
(c)外部溶液においてリポソームを含む第二のリポソームを提供する段階であって、該リポソームが一つまたはそれ以上の遷移金属イオンを含む内部溶液を含む段階;
(d)第二の組成物のリポソームに物質をローディングするために一定期間(c)の組成物の外部溶液に物質を加える段階;
(e)(b)で得られた組成物のリポソームに関して、一定期間ローディングされたまたは保持された物質の量を、(d)で得られた組成物のリポソームと比較する段階;および
(f)より多くの量のローディングまたは保持された物質を有する(b)または(d)で得られたリポソーム組成物を選択する段階;
ただし、
(I)(a)と(c)のリポソーム組成物は、(i)内部溶液に存在する金属イオン;(ii)リポソーム組成物のリポソームにおける脂質;および(iii)内部溶液に存在する金属イオンの濃度のうち、一つまたはそれ以上が異なる;
(II)(b)での一定期間は、(d)での一定期間とは異なる;または
(III)(b)でのローディングは、(d)でのローディングとは異なる温度で行われる。
【請求項41】
第一の組成物および第二の組成物のうち一方がコレステロール含有リポソームを含み、該組成物の他方が低コレステロールのリポソームを含む、請求項40記載の方法。
【請求項42】
第一の組成物および第二の組成物のうち少なくとも一方が、Cu、Co、およびZnから選択される一つまたはそれ以上の金属イオンを含む、請求項40または41記載の方法。
【請求項43】
第一の組成物および第二の組成物のそれぞれの内部溶液が金属適合性溶液を含む、請求項40、41、または42に記載の方法。
【請求項44】
より多くの量のローディングまたは保持された組成物をさらに提供する追加の段階を含む、請求項40〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記のさらに提供された組成物のリポソームに物質をローディングする追加の段階を含む、請求項44記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2011−157376(P2011−157376A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81637(P2011−81637)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【分割の表示】特願2003−532030(P2003−532030)の分割
【原出願日】平成14年10月3日(2002.10.3)
【出願人】(507250966)セレーター ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【分割の表示】特願2003−532030(P2003−532030)の分割
【原出願日】平成14年10月3日(2002.10.3)
【出願人】(507250966)セレーター ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
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