説明

金属イオン封鎖および膜濾過により水性媒体中のランタニド元素から少なくとも1種のアクチニド元素を分離する方法

【課題】本発明は、少なくとも1種の分離対象のアクチニド元素を金属イオン封鎖する少なくとも1種の分子、および膜濾過を使用することにより、水性媒体中で、1種以上のランタニド元素から前記アクチニド元素を分離する方法に関する。
【解決手段】この方法は、a)アクチニド元素を金属イオン封鎖し、膜により非錯体状態で保持されず、分離対象の前記アクチニド元素と錯体を形成可能な少なくとも1種の分子のうち、少なくとも2つを含む、膜により保持されることが可能な錯体を、アクチニド元素と形成可能な金属イオン封鎖分子を水性媒体と接触させるステップと、b)アクチニド元素がほぼ除去された水性廃液を含む透過物を片側に形成し、且つ錯体を含む保持物を形成するために、水性媒体を膜に通すステップと、を順に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、使用済み核燃料元素の再処理に由来する水性廃液に含まれる1種以上のランタニド元素から、少なくとも1種のアクチニド元素を分離する方法に関する。
【0002】
本発明は、特に1種以上のアクチニドをランタニドから分離するための、またはランタニド相互を分離するための、金属イオン封鎖技術と組み合わせた、多孔質膜による濾過技術の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
使用済み核燃料元素の再処理に由来する廃液は通常、環境に非常に有害な放射能を、長期(通常、3世紀以上)に亘り発生するアクチニド元素を多量に含む。また、これらの廃液はランタニド元素を酸化状態(III)で含む。それゆえ、アクチニド元素がかなり除去された、環境に対する有害性がより低い放射能を有する水性廃液を分離することを可能にするために、アクチニド元素とランタニド元素の分離を実行することは重要である。
【0004】
アクチニド元素およびランタニド元素を分離する技術の使用は、それゆえ、環境の保護に本質的に不可欠である。
【0005】
元来、ランタノイド元素が豊富に含まれた放射性廃液に含まれるアクチニド元素は、沈殿または液−液抽出の技術により分離されていた。しかしながら、これらの方法にはその後に処理が必要な廃棄物を生成するという重大な欠点がある。このことは、これらの方法を著しく複雑にすると共に、経済的に非常に不利にしている。
【0006】
上記の欠点を克服するために、初めにアクチニドを金属イオン封鎖分子と結合させることにより、アクチニド元素を保持物中に、ランタニド元素を透過物中に、分離するために膜を使用することを検討している研究者もいる。
【0007】
例えば、国際公開第00/73521号には、金属イオン封鎖と膜濾過を組み合わせて、水性廃液中のランタニド元素からアクチニド元素を分離する方法が記載され、以下が用いられる。
−アクチニドとランタニドとを含む水性廃液を、例えば下記式の、アクチニドおよび/またはランタニドと1/1の錯体を形成する金属イオン封鎖分子を用いて処理するステップ、及び
【化1】


−一方において、アメリシウムが豊富に含まれた保持物とアメリシウムがほぼ除去された透過物を得るために、金属イオン封鎖分子で処理した水性廃液を膜濾過するステップ。
【0008】
金属イオン封鎖分子の分子量が膜のカットオフ閾値を超える場合は、膜の表面上に金属イオン封鎖分子が堆積する現象が起こる。このように金属イオン封鎖分子が堆積すると、膜の目詰まりを引き起こすことがあり、ひいては膜透過性が不可逆的に損なわれることになる。この濃縮現象は、膜の保持性にも影響を及ぼす。
【0009】
遊離状態(すなわち、錯体化していない)の金属イオン封鎖分子が一因となるこの目詰まりの問題を解決するために、以下の2つの代替方法が想定される。
−膜の表面上に堆積した有機物および無機物の除去を目的とする膜の向流洗浄、
−供給速度の向上、流れの形状変更および膜表面の振動による、処理対象廃液の膜表面におけるタンジェンシャルフロー速度の向上。
【0010】
第1の代替方法に関しては、膜の表面上および細孔の内部に堆積した物質の一定割合を除去できない場合があり、これらの膜の耐用年数を制限する。
【0011】
第2の代替方法に関しては、想定されている全ての手順が、無視できない追加費用を伴う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従って、ランタニド元素から少なくとも1種のアクチニド元素を分離する方法を提供し、上記の欠点、特に使用される金属イオン封鎖分子による膜の目詰まりに関連する欠点の克服を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、従って、少なくとも1種の分離対象のアクチニド元素を金属イオン封鎖する少なくとも1種の分子、および膜濾過を使用することにより、水性媒体中の1種以上のランタニド元素から前記アクチニド元素を分離する方法に関するものであり、前記方法は、
a)前記アクチニド元素を金属イオン封鎖し、前記膜により非錯体状態で保持されず、分離対象の前記アクチニド元素と錯体を形成可能な少なくとも1種の分子のうち、少なくとも2つを含む、前記膜により保持されることが可能な錯体を、前記アクチニド元素と形成可能な前記金属イオン封鎖分子を水性媒体と接触させるステップ、
b)前記アクチニド元素がほぼ除去された水性廃液を含む透過物を片側に形成し、且つ前記錯体を含む保持物を形成するために、前記水性媒体を前記膜に通すステップ、
を順に含む方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上述したように、本発明の方法で使用される金属イオン封鎖分子は、非錯体状態では膜によって保持されないように選択される。選択基準の一つは、非錯体状態の金属イオン封鎖分子の分子量であり、使用される膜のカットオフ閾値より小さいと有利である。また金属イオン封鎖分子は、金属イオン封鎖されるアクチニド元素と錯体を形成するように選択され、前記錯体は前記元素、および前記金属イオン封鎖分子のうち少なくとも2つを含み、膜により保持される。錯体の保持は、膜のカットオフ閾値より大きいと有利となる形成される錯体の分子量(立体排除)により説明され、および/または、電荷の符号が、分離対象の元素を含む溶液が通過することで分極された膜と同じであると有利となる形成される錯体の電荷により、錯体は静電相互作用によって膜の表面上に保持されること(いわゆるドナン排除)により説明できる。
【0015】
従来の方法に反して、金属イオン封鎖分子が非錯体状態では膜により保持されず、その結果、金属イオン封鎖分子は膜の表面に堆積されず、膜を目詰まりさせることがない。
【0016】
それゆえ、本発明の直接の利点は、非錯体状態では膜を通り抜けることが可能で、膜により保持される錯体を互いにおよび分離対象の元素と形成できる、金属イオン封鎖分子を選択することにある。
【0017】
ランタニド元素からアメリシウムのようなアクチニド元素を分離するために有利に使用できる金属イオン封鎖分子は、その環上に少なくとも2つの金属イオン封鎖官能基を含む単環芳香族化合物であり、官能基は−COOH、−CONHOH、−SOH、−PO、−P(O)OHQから選択され、ここでQはアルキル、ヒドロキシアルキルまたはオキソアルキル基を表す。この種の分子内のこれらの金属イオン封鎖官能基の原子が平面状に配置されていることは、一般的に任意の金属イオン封鎖反応に好ましくないと考えられるが、本発明者らは、驚くべきことに、このような金属イオン封鎖分子が、少なくとも1種のアクチニド元素をランタニド元素から分離することに効果的であることを示すことができた。
【0018】
例えば、単環芳香族化合物は1つまたは複数の酸素、硫黄および/または窒素原子、特に1つまたは複数の窒素原子を環内に含むことができる。
【0019】
使用可能な単環芳香族化合物は6員環を含むことができる。そのような化合物の例として、下記の一般式に対応するものを挙げることができる。
【化2】


式中、
−A、B、Dは独立して、炭素原子または窒素原子を表し、
−X、Xは独立して、−COOH、−CONHOH、−SOH、−PO、−P(O)OHQ基を表し、ここでQはアルキル、ヒドロキシアルキルまたはオキソアルキル基を表し、
−Z、Z、およびZは、A、B、および/またはDが炭素原子を表す場合は、独立して、−H、−F、−Cl、−Br、−I、−OH、−OR、−SR、−NHR、−CHO、−COOR、−CONR、−NR、−NR−NR、−R’−SOR、−SORからなる群から選択され、ここで
−R、R、R、Rは独立して、H、1から6の炭素原子を含むアルキルまたはヒドロキシアルキル基を表し、
−R’は、1から6の炭素原子を含むアルケンまたはヒドロキシアルケン基を表す。
【0020】
上記の一般式の定義にあてはまる具体的な例としては、下式に対応するものがあげられる。
【化3】


式中、X、X、Z、ZおよびZは上記で定義されたとおりである。
【0021】
化合物は、特に下式に対応する化合物である。
【化4】

【0022】
この化合物は、アメリシウムを例えばユウロピウムのようなランタニド元素から分離する場合に特に効果的である。この化合物は、特に、アメリシウムと3個の金属イオン封鎖分子を含む錯体を形成する。
【0023】
使用可能な単環芳香族化合物は、下式に対応する化合物のような5員環を含むこともできる。
【化5】


式中、
−Aは硫黄または酸素原子を表し、
−X、Xは独立して、 −COOH、−CONHOH、−SOH、−PO、−P(O)OHQ(ここで、Qはアルキル、ヒドロキシアルキルまたはオキソアルキル基を表す)からなる群から選択され、
−Z、およびZは独立して、−H、−F、−Cl、−Br、−I、−OH、−OR、−SR、−NHR、−CHO、−COOR、−CONR、−NR、−NR−NR、−R’−SOR、−SORからなる群から選択され、ここで
−R、R、R、Rは独立して、H、1から6の炭素原子を含むアルキルまたはヒドロキシアルキル基を表し、
−R'は、1から6の炭素原子を含むアルケンまたはヒドロキシアルケン基を表す。
【0024】
上記で定義した金属イオン封鎖分子は、特に、ユウロピウムのようなランタニド元素に比べアメリシウムに対し優れた選択性を有する。
【0025】
金属イオン封鎖分子のモル数は、分離対象のアクチニドのモルの当量より多いか等しい量である。
【0026】
上記のように、本発明による方法は、ランタニド元素に対してアクチニド元素を選択的に金属イオン封鎖するための方法と、ステップb)のための膜分離の方法、より特別には限外濾過およびナノ濾過の組み合わせに基づいている。
【0027】
しかし、本発明の方法は限外濾過およびナノ濾過のみに限定されず、むしろ、2つの均一の媒体の間に障壁を形成して、流体の異なる構成成分(懸濁液、溶質、溶媒)の通過に対して等しくない抵抗を示す半透過性の膜を使用する任意の他の膜分離技術を包含する。ある前記構成成分が障壁を通過することを可能にする力は、圧力勾配(精密濾過、限外濾過、ナノ濾過、逆浸透)、濃度勾配(透析)または電位勾配(電気透析)に由来する。
【0028】
本発明の方法の範囲内で使用可能な濾過膜、特にナノ濾過膜および限外濾過膜は、有機物、無機物、または有機鉱物でよい。これらの膜は遊離(すなわち、非錯体)状態の本発明の金属イオン封鎖分子を透過させ、金属イオン封鎖分子がアクチニド元素または分離対象の元素と錯体化する場合は金属イオン封鎖分子を保持する必要がある。
【0029】
本発明によれば、また特に上記で定義したような金属イオン封鎖分子では、使用される膜は、250から10,000ダルトンの範囲の、より詳しくは1000から5000ダルトンのカットオフ閾値を有すると有利である。
【0030】
具体的には、膜のカットオフ閾値は、保持率が90%である固体(通常はポリエチレングリコール)のモル質量として定義可能であり、このカットオフ閾値の単位は通常ダルトンで表される。
【0031】
膜は、芳香族ポリアミド、スルホン化ポリスルホン、ポリベンズイミダゾロン、場合によりグラフト化されたポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、セルロースエステル、セルロースエーテルまたはペルフルオロアイオノマー、これらのポリマーの組み合わせおよび少なくとも2種のこれらのポリマーのモノマーから得られるコポリマーからなる群から選ばれた少なくとも1種類の材料を使用して製造できる。
【0032】
形態という観点からは、本発明の膜は螺旋状または平面状であると有利である。
【0033】
本発明の方法を実施する膜の例としては、オズモニクス(Osmonics)社からデサリ(Desal) GHの名称で販売されているものを特に挙げることができる。この種類の膜は特に下記の性質を有している。
−2500ダルトンのカットオフ閾値、
−0.25mの表面積、
−3l.h−1.m−2の最大透過体積流量、および
−膜への放射線照射に対して良好な抵抗性(1MGyの蓄積線量は、膜の表面を構成しているポリマーに可視的な劣化を起こさない)。
【0034】
従来この技術で使用されていたような、チューブまたは平行平板状のモジュールが使用可能である。透過物を集める目的で、膜が穿孔された中空チューブの周りに螺旋状に巻かれた、平面状の膜であるモジュールも使用される。
【0035】
処理される水溶液のpH、圧力差、水性廃液の流量および使用される温度等の処理条件は所望の分離係数を得るために調整される。
【0036】
ステップa)は、所定のpH、好ましくは1から6の範囲で有利に実施される。このpHは塩基または酸、好ましくはNaOHまたはHNOを添加することで調整できる。
【0037】
濾過ステップは、分離対象のアクチニド元素がほぼ除去された透過物および分離対象のアクチニド元素に富んでいる保持物を集めるように、濾過ステップは膜の両面の間に圧力差を加えることで通常実施される。膜の両面の間の圧力差は広い間隔で変化するが、1から10バールの範囲の圧力差を加えることで良好な結果が得られる。
【0038】
本発明の他の態様によれば、本発明は、アメリシウムのような少なくとも1種のアクチニド元素を例えばユウロピウムのような1種以上のランタニド元素から、好ましくは膜濾過で分離するために、環上に少なくとも2つの金属イオン封鎖官能基を有する単環芳香族化合物の使用に関し、官能基は−COOH、−CONHOH、−SOH、−PO、−P(O)OHQから選択され、ここでQはアルキル、ヒドロキシアルキルまたはオキソアルキル基を表す。
【0039】
例えば、単環芳香族化合物は1つまたは複数の酸素、硫黄および/または窒素原子、特に1つまたは複数の窒素原子を環内に含んでよい。
【0040】
使用可能な単環芳香族化合物は6員環を含んでよい。そのような化合物の例として、下記の一般式に対応するものを挙げることができる。
【化6】


式中、
−A、B、Dは独立して、炭素原子または窒素原子を表し、
−X、Xは独立して、−COOH、−CONHOH、−SOH、−PO、−P(O)OHQ基を表し、ここでQはアルキル、ヒドロキシアルキルまたはオキソアルキル基を表し、
−Z、Z、およびZは、A、B、および/またはDが炭素原子を表す場合は、独立して、−H、−F、−Cl、−Br、−I、−OH、−OR、−SR、−NHR、−CHO、−COOR、−CONR、−NR、−NR−NR、−R−SOR、−SORからなる群から選択され、ここで
−R、R、R、Rは独立して、H、1から6の炭素原子を含むアルキルまたはヒドロキシアルキル基を表し、
−Rは、1から6の炭素原子を含むアルケンまたはヒドロキシアルケン基を表す。
【0041】
上記の一般式の定義にあてはまる具体的な例としては、下式に対応するものが挙げられる。
【化7】


ここで、X、X、Z、ZおよびZは上記で定義されたとおりである。
【0042】
化合物は、特に下式に一致する化合物である。
【化8】

【0043】
使用可能な単環芳香族化合物は、下式に対応する化合物のような5員環を含んでもよい。
【化9】


式中、
−Aは硫黄または酸素原子を表し、
−X、Xは独立して、−COOH、−CONHOH、−SOH、−PO、−P(O)OHQを表し、ここでQはアルキル、ヒドロキシアルキルまたはオキソアルキル基を表し、
−Z、およびZは独立して、−H、−F、−Cl、−Br、−I、−OH、−OR、−SR、−NHR、−CHO、−COOR、−CONR、−NR、−NR−NR、−R−SOR、−SORからなる群から選択され、ここで
−R、R、R、Rは独立して、H、1から6の炭素原子を含むアルキルまたはヒドロキシアルキル基を表し、
−Rは、1から6の炭素原子を含むアルケンまたはヒドロキシアルケン基を表す。
【0044】
上記で定義した金属イオン封鎖分子は、特に、ユウロピウムのようなランタニド元素に比べアメリシウムに対し優れた選択性を有する。
【0045】
以下の実施例を参考にして本発明を説明する。これは、説明を目的として行われるものであり、制限を意味していない。
【実施例】
【0046】
以下の実施例は、図1に示されるタンジェンシャル濾過装置で実施される。この装置は、容量が1リットルで、処理される廃液3が入っている二重壁のガラス貯液槽1、および溶液のpHを測定するpH計2を含む。この貯液槽は冷却回路5により適切な温度に保たれる。処理される廃液は、流速を最大900l.h−1まで変更可能にするギアポンプ11、起こりうる異常な高圧に対する保護のため、および操作圧力を最大4.5バールに制限するための差圧調節装置13を有するパイプライン9を経由して、貯液槽1から濾過モジュール7に運ばれる。一方では、保持物Rは、パイプライン15を経由して濾過モジュール7から抜き取られる。他方では、透過物Pはパイプライン17を経由して抜き取られる。パイプライン15と17により、RとPは貯液槽1に搬送可能になる。パイプライン15には、液柱計19とニードル弁20が装着され、パイプライン17には透過物の流速を測定するための流量計23とpH計25(透過物のpHを測定するための複合Ag/AgClpH電極)が装着されている。
【0047】
液柱計は、0から10バールまでの目盛りが付けられたグリセリン槽を有する全ステンレス鋼製液柱計であり、圧力測定を実施するためにニードル弁の上流に設置されている。
【0048】
濾過モジュールは、69バールの圧力および50℃の温度に耐えることができるステンレス鋼製の膜保持部(モデル参照: ベッセル(Vessel) PV1812、セプラ(SEPRA)製)、および膜保持部に含まれる膜を含んでおり、この螺旋状の膜(デサリ GH、オズモニクス社製)は長さ305.0mm、直径47.0mm、シム厚み0.71mmである。
【0049】
この膜には、さらに以下の特徴がある。
−2500ダルトンのカットオフ閾値、
−0.25mの表面積、
−3l.h−1.m−2の最大透過体積流量、および
−膜への放射線照射に対して良好な抵抗性(1MGyの蓄積線量は膜の表面を構成しているポリマーに可視的な劣化を起こさない)。
【0050】
(実施例1)
5.54モルに近い量を正確に秤量した、2,6−ピリジンジカルボン酸(PDCA)を0.8リットルの0.1mol.l−1の濃度の水酸化ナトリウムに溶解する。濃硝酸([HNO)]=5.0mol.l−l)の添加により溶液のpHを1.5に設定する。酸化状態(III)のランタニド元素、ユウロピウムトレーサー152Eu(III)、アメリシウムトレーサー241Am(III)を含む溶液で構成されたバッチを初めの溶液に添加する。
【0051】
本バッチは、より詳細には、表1で示される組成を含む。
【表1】

【0052】
濃水酸化ナトリウム([NaOH]=5.0mol.l−1)の添加によりpHは1.3に再調整される。溶液は反応器に最終的に導入される。タンジェンシャルフローの速度を6.5l.秒−1に、膜間圧力差を1.0バールに、温度を20℃に設定する。濃水酸化ナトリウムを45分(全ての操作パラメーターが一定である場合に、膜が平衡に到達すると推定された時間)の間に徐々に添加することによりpHは次第に上昇する。それぞれのpH段階において、透過物および保持物のサンプリングならびに透過体積流量の測定を行う。
【0053】
ランタニド(III)金属の濃度を測定するためにICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光法(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectroscopy)の略号)により、サンプルを分析する。さらにアメリシウム(III)とユウロピウム(III)トレーサーの濃度を測定するためにガンマ線分光法により、サンプルを分析する。
【0054】
図2は、比[PDCA]/3*([Ln(III)]+[Am(III)])が1に等しい場合の、pHの関数としての各種ランタニド(III)金属とアメリシウム(III)の保持係数を示す。
【0055】
pH=1.5における、ランタニド(III)金属の保持係数は3から9%の間であり、一方、アメリシウム(III)の保持係数は25%に達する。pHの上昇に伴い、アメリシウム(III)とランタニド(III)金属の保持係数はpH2.0で最大99%に達するまで独立して上昇し、24%の分離の値に到達する。一方、アメリシウム(III)とランタン(III)の間の保持の最大の差はpH=2.3で74%に達する。
【0056】
図3は、pHの関数としてのAm(III)/Ln(III)分離係数の変化を示し、Lnはランタニドの略語に相当する。
【0057】
全てのランタニド(III)金属について、Am(III)/Ln(III)分離係数は、pH=3.0付近で最大値に到達する。錯体の安定度定数が低い場合に、この最大値はそれに対応してより高くなる。このため、最大の選択性は、Am(III)/Ln(III)の組み合わせに対応し、その分離係数は20.5に達する。これは、本発明の方法がランタニウム(III)に対するアメリシウム(III)分離に特に適していることを示す。反対に、Am(III)/Gd(III)の分離は、3.5という分離係数で、より制限されている。
【0058】
保持係数は膜により保持される所定の化学種と、供給される溶液内のこの化学種の濃度の比であり、下式で定義される。
【数1】


式中、CとCはそれぞれ、透過物および保持物の化学種の濃度である。
【0059】
透過係数は、保持係数の補数として定義され、T=100−Rとなる。
【0060】
化学種Bに対する化学種Aの分離係数(SFA/B)は、これらの2種の透過係数の比により定義される。
【数2】


式中、[An]および[An]は、それぞれ透過物中および保持物中のアクチニド濃度であり、[Ln]は[Ln]はそれぞれ透過物中および保持物中のランタニド濃度である。
【0061】
アクチニドの両方の保持係数が非常に高く(例えば>95%)、ランタニドの保持係数が可能な限り低い場合は、分離係数SF An/Lnは高くなる。
【0062】
(実施例2)
1.85モルに近い量の硝酸ユウロピウム(III)、9.2.10−6モルに近い量のユウロピウムトレーサー152Eu(III)、および5.31.10−4モルに近い量のアメリシウム241Am(III)を0.8リットルの蒸留水に溶解する。濃硝酸([HNO]=5.0mol.l−l)の添加により、溶液のpHを2.0に設定する。溶液は次に反応器に導入される。タンジェンシャルフローの速度を6.5l.秒−1に、膜間圧力差を1.0バールに、温度を20℃に設定する。金属イオン封鎖分子の高濃度母液([PDCA]=l.0mol.l−1)を45分間で添加することにより、金属イオン封鎖イオン濃度を徐々に上昇させる。それぞれの濃度段階において、透過物および保持物のサンプリングならびに透過物の体積流量の測定を行う。
【0063】
図4は、pH2.0おける、0〜6の値をとる比[PDCA]/3([Eu(III)]+[Am(III)])の関数としてのAm(III)/Eu(III)の分離係数(Sf Am/Eu)の変化ならびに、アメリシウムAm(III)およびユウロピウムEu(III)の保持係数の変化を表す。この酸性度では、比[PDCA]/3([Eu(III)]+[Am(III)])が6.0の場合、分離係数Sf Am(III)/Eu(III)は最大値8.7に達する。
【0064】
(実施例3)
この実験の手順は、pHが3.0である以外は、実施例2と同様である。
【0065】
図5は、pH3.0における、比[PDCA]/3([Eu(III)]+[Am(III)])の関数としての、微量のアメリシウムAm(III)およびマクロ濃度のユウロピウムEu(III)の分離係数(Sf Am/Eu)ならびに、アメリシウムAm(III)およびユウロピウムEu(III)の保持係数を表す。
【0066】
pH3.0では、PDCA当量数の関数として、アメリシウムAm(III)およびユウロピウム(III)の保持係数は別々に増加して、ついにはそれぞれ99および95%を超える最大値に達する。分離係数は、比[PDCA]/3([Eu(III)]+[Am(III)])が2.0の場合に、最大値10.2に達する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の方法を実施するための装置の概略図。
【図2】実施例1の実験条件下で、pHの関数としてのアメリシウム(III)とランタニド(III)元素の保持係数を表す図。
【図3】実施例1の実験条件下で、ランタニド(III)元素に対するアメリシウム(III)の分離係数を表す図。
【図4】実施例2の実験条件下で、pH2.0における比[PDCA]/3*{[Am(III)]+[Eu(III)]}の関数として、アメリシウム(III)とユウロピウム(III)保持係数、およびAm(III)/Eu(III)分離係数(Sf Am/Eu)の変化を表す図。
【図5】実施例3の実験条件下で、pH3.0における比[PDCA]/3*{[Am(III)]+[Eu(III)]}の関数として、アメリシウムAm(III)とユウロピウムEu(III)保持係数、およびAm(III)/Eu(III)分離係数(Sf Am/Eu)の変化を表す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の分離対象のアクチニド元素を金属イオン封鎖する少なくとも1種の分子、および膜濾過を使用することにより、水性媒体中の1種以上のランタニド元素から前記アクチニド元素を分離する方法であって、前記方法が
a)前記アクチニド元素を金属イオン封鎖し、前記膜により非錯体状態で保持されず、分離対象の前記アクチニド元素と錯体を形成可能な少なくとも1種の分子のうち、少なくとも2つを含む、前記膜により保持されることが可能な錯体を、前記アクチニド元素と形成可能な前記金属イオン封鎖分子を水性媒体と接触させるステップと、
b)前記アクチニド元素がほぼ除去された水性廃液を含む透過物を片側に形成し、且つ前記錯体を含む保持物を形成するために、前記水性媒体を前記膜に通すステップと、を順に含む方法。
【請求項2】
前記分離対象のアクチニド元素が、アメリシウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属イオン封鎖分子が、−COOH、−CONHOH、−SOH、−PO、−P(O)OHQ(ここで、Qはアルキル、ヒドロキシアルキルまたはオキソアルキル基を表す)から選ばれた少なくとも2つの金属イオン封鎖官能基を環上に有している単環芳香族化合物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記単環芳香族化合物が1または複数の酸素、硫黄および/または窒素原子を環内に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記単環芳香族化合物が、1または複数の窒素原子を環内に含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記単環芳香族化合物が6員環である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記単環芳香族化合物が下式
【化1】

に対応しており、式中、
−A、B、Dは、独立して炭素原子または窒素原子を表し、
−XおよびXは、独立して−COOH、−CONHOH、−SOH、−PO、−P(O)OHQ基(ここで、Qはアルキル、ヒドロキシアルキルまたはオキソアルキル基を表す)を表し、
A、B、および/またはDが炭素原子を表す場合、−Z、ZおよびZは、独立して−H、−F、−Cl、−Br、−I、−OH、−OR、−SR、−NHR、−CHO、−COOR、−CONR、−NR、−NR−NR、−R−SOR、−SORからなる群から選ばれ、ここで
−R、R、R、Rは、独立してH、1乃至6の炭素原子を含むアルキルまたはヒドロキシアルキル基を表し、
−Rは、1乃至6の炭素原子を含むアルケンまたはヒドロキシアルケン基を表す請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記単環芳香族化合物が下式
【化2】


に対応しており、X、X、Z、ZおよびZが請求項7で定義されたとおりである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記単環芳香族化合物が下式
【化3】


に対応する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記単環芳香族化合物が5員環である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記単環芳香族化合物が
【化4】


下式に対応しており、式中、
−Aは硫黄または酸素原子を表し、
−XおよびXは、独立して−COOH、−CONHOH、−SOH、−PO、−P(O)OHQ(ここで、Qはアルキル、ヒドロキシアルキルまたはオキソアルキル基を表す)からなる群から選ばれ、
−ZおよびZは、独立して−H、−F、−Cl、−Br、−I、−OH、−OR、−SR、−NHR、−CHO、−COOR、−CONR、−NR、−NR−NR、−R−SOR、−SORからなる群から選ばれ、
−R、R、R、Rは、独立してH、1乃至6の炭素原子を含むアルキルまたはヒドロキシアルキル基を表し、
−Rは、1乃至6の炭素原子を含むアルケンまたはヒドロキシアルケン基を表す請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップb)が、限外濾過またはナノ濾過により実施される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記接触させるステップa)が予め定められたpHで実施される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−525475(P2009−525475A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552794(P2008−552794)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050893
【国際公開番号】WO2007/085659
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】