説明

金属イオン検知用電極及びその製造方法

【課題】検体溶液中の金属イオン、特にFe,Cr,Co,Cu,Pb,Zn,Cd,Hg等の重金属イオンを検知する金属イオン検知用電極において、基体に固定化された金属錯体から解離した中心金属イオンが鋳型を形成し、解離した中心金属イオンの種類に応じて金属イオンの識別性を発現させることができ選択性に優れ、さらに鋳型が形成されていない従来の電極を用いた場合と比較して、より低濃度の金属イオンも検知することができ検知感度に著しく優れる金属イオン検知用電極を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の金属イオン検知用電極1は、導電性の基体2と、基体2の表面に形成された金属酸化物層3,5,7と、金属酸化物層3,5,7で固定化され中心金属イオンの解離した金属錯体4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体溶液中の金属イオン、特にFe,Cr,Co,Cu,Pb,Zn,Cd,Hg等の重金属イオンの検知に最適な金属イオン検知用電極及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、溶液中の金属イオンを分析する方法として、(非特許文献1)に記載の比色分析や(非特許文献2)に記載の蛍光分析が知られている。また、(非特許文献3)に記載のサイクリックボルタンメトリーによる分析方法、(非特許文献4)や(特許文献1)に記載のストリッピングボルタンメトリーによる分析方法が知られている。
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(非特許文献1)に開示の比色分析や(非特許文献2)に開示の蛍光分析は、分析作業毎に煩雑な有機合成を行わなければならず、操作が煩雑で分析作業の作業性に欠けるという課題を有していた。
(2)(非特許文献3)に開示のサイクリックボルタンメトリーによる分析方法は、電極で酸化還元を受ける化合物(電極活性物質)を含む溶液に電位変化を与えて電極活性物質の性質や電極反応の機構を調べる方法であり、目的の電極活性物質に対する選択性の大きな電極を用いる必要があり、操作性と汎用性に欠けるという課題を有していた。
(3)(非特許文献4)や(特許文献1)に開示のストリッピングボルタンメトリーによる分析方法は、金属等の目的物質をまず電極上に電解還元(又は酸化)によって濃縮し、次に電位を変化させて濃縮された目的物質の溶出に伴う電流を調べる2段階の操作を要する方法であり、電極上に濃縮させるため検出感度は高いが、2段階の操作を要するため分析作業が煩雑で操作性に欠けるという課題を有していた。
(4)いずれの技術も、電極上に電解還元(又は酸化)によって目的物質を濃縮し、次に電位を変化させて濃縮された目的物質の溶出に伴う電流を調べるので、複数種の目的物質を含む溶液の場合、溶出に伴う電流のパターンが複数現れて解析が複雑になり、定性分析が困難になるという課題を有していた。
【0003】
そこで、本発明者らは上記従来の課題を解決するため、煩雑な前処理等が不要で分析作業の作業性に極めて優れ、また目的の化学物質毎に電極を選択したり調整する必要がなく簡便であり操作性と汎用性に優れる溶液分析方法及び溶液分析装置の提供を目的として、発明を完成させ特許出願を行った(特許文献2)。
【非特許文献1】Emilio Palomares, Ramon Vilar and James R. Durrant, Chem. Commun., 2004, 362
【非特許文献2】Xianyan Wang, Christopher Drew, Soo-Hyoung Lee, Nano Lett., Vol.2, No.11,2002
【非特許文献3】Alan M. Bond, Wujian Miao, Thomas D. Smith, Jim Jamis, Anal. Chem. Acta., 396, 203(1999)
【非特許文献4】Kh. Z. Brainina, N. Yu. Stozhko and Zh. V. Shalygina, J. Anal. Chem., 57, 945(2002)
【特許文献1】特開2001−91499号公報
【特許文献2】特願2004−329437
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特願2004−329437(特許文献2)に記載の発明は、以下のような点に改善の余地が残されていた。
(1)(特許文献2)に記載の発明は、検体溶液に含まれるCu2+やPb2+等の金属イオンの種類や濃度を1度の測定で検知することができ煩雑な前処理等が不要で分析作業の作業性に極めて優れているが、検知できる金属イオン濃度は1×10−7〜1×10−6mol/L程度の場合であり、より低濃度の金属イオンの検知ができるように要求されていた。
(2)複数種の金属イオンを含む混合溶液であっても測定される電圧−インピーダンスのパターンから金属イオンの種類や濃度を検知することができるが、混合溶液が多数種の金属イオンを含んでいると電圧−インピーダンスのパターンが複雑になり解析が困難になるため、金属イオンの識別性の向上が要求されていた。
【0005】
本発明は上記要求を満足させもので、基体に固定化された金属錯体から解離した中心金属イオンが鋳型を形成し、解離した中心金属イオンの種類に応じて金属イオンの識別性を発現させることができ選択性に優れ、さらに鋳型が形成されていない従来の電極を用いた場合と比較して、より低濃度の金属イオンも検知することができ検知感度に著しく優れる金属イオン検知用電極を提供することを目的とする。
また、本発明は、製造過程において錯体吸着層が溶解したり脱着したりするのを防止でき識別性を有する金属イオンの鋳型を基体に確実に形成することができ生産安定性に優れ、また不純物によって金属イオンの鋳型の形状が崩れることがなく識別性と感度を高めることができる高感度の金属イオン検知用電極が得られる金属イオン検知用電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記従来の課題を解決するために本発明の金属イオン検知用電極及びその製造方法は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の金属イオン検知用電極は、導電性の基体と、前記基体の表面に形成された金属酸化物層と、前記金属酸化物層で固定化され中心金属イオンの解離した金属錯体と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)中心金属イオンの解離した金属錯体が基体の表面の金属酸化物層で固定化されているので、固定化された金属錯体から解離した中心金属イオンが鋳型を形成し、解離した中心金属イオンの種類に応じて金属イオンの識別性を発現させることができる。
(2)金属酸化物層で固定化された金属錯体の鋳型に検体溶液中の金属イオンが選択的に吸着されるので、鋳型が形成されていない従来の電極を用いた場合と比較して、より低濃度の金属イオンも検知することができ検知感度を高めることができる。
【0007】
ここで、導電性の基体としては、金,白金,金−白金等の金属製、炭素,グラッシーカーボン,ITO等が好適に用いられる。これにより、電極界面反応等を利用して検体溶液中の金属イオンを検知することができる。また、圧電性結晶等の基板に基体を形成することによって、基板の共振周波数や固有振動数等の変化を検知するQCM(水晶天秤)等を利用して検体溶液中の金属イオンを検知することができる。
基体は、表面に水酸基,カルボキシル基,アミノ基,アルデヒド基,カルボニル基,ニトロ基,炭素炭素二重結合,芳香族環等の官能基を有していると、反応性に優れ金属酸化物や金属錯体との化学結合が容易に行われるため好ましい。
なお、基体の表面への官能基の導入は、公知の方法が特に制限なく採用される。例えば、水酸基は、メルカプトエタノールなどの吸着、水蒸気処理やオゾン、プラズマ処理を施すことによって導入することができる。
【0008】
金属酸化物層としては、Ti,Zr,Al,Nb,Si,Hf等の金属酸化物で薄膜状に形成されたものが用いられる。
【0009】
金属錯体としては、Cu2+,Co2+,Pb2+等の中心金属イオンに、エチレンジアミン,グリシナトイオン,シュウ酸イオン,ジエチレントリアミン,イミノ二酢酸,トリエチレンテトラミン,エチレンジアミン−N,N−二酢酸,エチレンビス(サリチルアルジミン),ニトリロ三酢酸,トリス(2−アミノエチル)アミン,テトラエチレンペンタミン,N,N−ビス(サリチリデン)ジプロピレントリアミン,エチレンジアミン四酢酸等の多座配位子が結合した金属キレート等が用いられる。
また、配位子には、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(CH3O)3Si(CH2)3NH2、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランH2N(CH2)2NH(CH2)3Si(OCH3)3、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(CH3O)3SiCH2CH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH3)3、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランSHCH2CH2CH2Si(OCH3)3、N−(5−アミノ−1-カルボキシペンチル)イミノジ酢酸、3,3´−ジチオビス[N−(5−アミノ−5−カルボキシペンチル)プロピオンアミド−N´,N´−ジ酢酸]、ジピバロイルメタナート(DPM)、ヘキサフルオロアセチルアセテート(HFA)、アセチルアセトナート(acac)等のように、基体に導入された官能基や金属酸化物の水酸基との親和性を有する配位子を用いるのが好ましい。基体や金属酸化物層の表面に、金属錯体の吸着層を原子層レベルで形成することができるからである。
【0010】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の金属イオン検知用電極であって、前記基体が、単結晶シリコン、窒化シリコン、圧電性結晶、圧電セラミックス、圧電性薄膜、圧電性高分子のいずれかで形成された基板の表面に形成された構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)QCM(水晶天秤)、弾性表面波素子、マイクロカンチレバー等を利用して共振周波数の変化等を計測することによって、基体に吸着した検体溶液中の金属イオンの吸着量を高精度で検知でき、低濃度の金属イオンも選択的に検知することができる。
【0011】
ここで、導電性の基体は、単結晶シリコン、窒化シリコン、水晶(SiO),Bi12GeO20,LiIO,LiNbO,LiTaO,BaTiO等の圧電性結晶、Pb(Zr,Ti)O系,PbTiO系,PbNb等の圧電セラミックス、ZnO薄膜,Bi12GeO20,CdS等の圧電性薄膜等の無機材料製やポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電性高分子等の高分子製等で形成された基板の表面に形成される。
【0012】
なお、金属錯体が固定化された金属酸化物層は多層化することができる。これにより、中心金属イオンが解離した金属錯体の鋳型を多層化し、鋳型に吸着される金属イオンの吸着量を増加させることができ、QCM(水晶天秤)、弾性表面波素子、マイクロカンチレバー等を利用したときの共振周波数の変化等を大きくすることができ、検知感度を高めることができる。
【0013】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の金属イオン検知用電極であって、前記中心金属イオンが、Fe,Ni,Cr,Co,Cu,Pb,Zn,Cd,Sn,Pt,Hgのいずれか1種若しくは複数種のイオンである構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)中心金属イオンが解離した金属錯体に重金属イオンの鋳型が形成され、重金属イオンを選択的に検知することができるので、河川水、湖沼水、地下水、海水、各種の用排水等の汚染度等を分析することができ汎用性に優れる。
【0014】
本発明の請求項4に記載の金属イオン検知用電極の製造方法は、導電性の基体又は前記基体の表面に形成された金属酸化物層に金属錯体を接触させ錯体吸着層を形成する金属錯体吸着工程と、前記錯体吸着層に蒸気状態の金属酸化物前駆体を接触させ前記錯体吸着層の表面に前記金属酸化物前駆体の前駆体吸着層を形成する前駆体吸着工程と、前記前駆体吸着層を加水分解して金属酸化物層を形成し前記金属錯体を固定化する金属酸化物層形成工程と、前記金属酸化物層に固定化された前記金属錯体から中心金属イオンを解離させる中心金属イオン解離工程と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)溶液を接触させるのではなく、蒸気状態の金属酸化物前駆体を錯体吸着層の表面に接触させるので、0.1〜10nm程度の厚さの金属酸化物層を形成でき金属錯体の構造を分子レベルでかたどることができるとともに錯体吸着層が溶解したり脱着したりするのを防止できる。
(2)金属酸化物層形成工程において金属酸化物層に金属錯体を固定化した後、金属錯体から中心金属イオンを解離させるので、中心金属イオンが解離した位置に金属イオンの識別性を有する鋳型を形成することができる。
(3)金属酸化物前駆体の気化の条件を整えることにより金属酸化物前駆体と不純物とを分離できるため、不純物がない又は著しく少ない金属酸化物層を形成することができ、不純物によって金属イオンの鋳型の形状が崩れることがなく識別性と感度を高めることができる。
【0015】
ここで、導電性の基体としては、請求項1で説明したものを用いることができるが、表面に水酸基,カルボキシル基,アミノ基,アルデヒド基,カルボニル基,ニトロ基,炭素炭素二重結合,芳香族環等の官能基を有していると、反応性に優れ金属錯体や金属酸化物前駆体との化学結合が容易に行われ膜厚の非常に薄い薄膜を形成することができ好ましい。
【0016】
金属錯体吸着工程において、基体又は基体の表面に形成された金属酸化物層の表面に金属錯体を接触させるのは、例えば、金属錯体を生成する金属硝酸塩,金属塩化物,金属酢酸塩等とキレート化剤との金属錯体溶液に基体を接触させればよく、基体を金属錯体溶液に浸漬したり基体に金属錯体液体を塗布したりすることによって錯体吸着層を形成することができる。また、金属錯体の蒸気を基体や金属酸化物層に導入することによっても錯体吸着層を形成することができる。
なお、金属錯体は請求項1で説明したものと同様なので説明を省略する。また、金属錯体は、必要に応じて、2種以上を組み合わせて使用することにより基体や金属酸化物層の表面に2種以上の鋳型を形成することもできる。
【0017】
金属錯体溶液の金属イオン濃度としては、0.1mmol/L〜1mol/L好ましくは1mmol/L〜100mmol/Lが好適に用いられる。濃度が1mmol/Lより薄くなるにつれ金属錯体の吸着に時間を要し生産性が低下する傾向がみられ、100mmol/Lより濃くなるにつれ金属錯体の過剰吸着が起こり操作中に錯体吸着層が脱着し易く再現性が低下する傾向がみられる。特に、0.1mmol/Lより薄くなるか1mol/Lより濃くなると、これらの傾向が著しくなるため好ましくない。
また、金属錯体溶液との接触時間や、金属錯体溶液の温度としては、金属錯体の吸着活性や反応活性、溶媒の種類等にもよるが、1分〜24時間、−20〜100℃の範囲で選択することができる。
【0018】
基体や金属酸化物層と金属錯体との固定化の形態としては、特に制限されるものではなく、例えば、金属錯体の水酸基やカルボキシル基等の酸素原子やアミノ基の窒素原子が金属酸化物層の金属原子に配位結合する化学吸着や、金属酸化物層に存在する水酸基と縮合反応して生じる化学結合等を用いることができる。また、疎水性相互作用や弱い水素結合による物理吸着等を用いることもできる。
【0019】
前駆体吸着工程において用いられる金属酸化物前駆体としては、基体の表面や金属錯体と結合できる基を有し、加水分解することによって金属酸化物となる化合物であれば、特に制限なく用いることができる。
具体的には、チタンブトキシド(Ti(O−nBu))、ジルコニウムプロポキシド(Zr(O−nPr))、アルミニウムブトキシド(Al(O−nBu))、ニオブブトキシド(Nb(O−nBu))等の金属アルコキシド;メチルトリメトキシシラン(MeSi(O−Me))、ジエチルジエトキシシラン(EtSi(O−Et))等、2個以上のアルコキシル基を有する金属アルコキシド;アセチルアセトン等の配位子を有し2個以上のアルコキシル基を有する金属アルコキシド;BaTi(OR)等のダブルアルコキシド化合物等の金属アルコキシドが挙げられる。
また、これらの金属アルコキシドに少量の水を添加し、部分的に加水分解、縮合させて得られるアルコキシドゲルの微粒子、チタンブトキシドテトラマー(CO〔Ti(OCO〕)等、複数個或いは複数種の金属元素を有する二核或いはクラスター型のアルコキシド化合物、適当な溶媒に溶解することにより金属アルコキシドを形成するもの(例えばTiCl等)や、溶媒中でゾルゲル反応を起こす化合物であって金属及び酸素を含有する化合物(例えばSi(OCN)等)を使用することも可能である。
また、基体の表面の水酸基と化学吸着し、加水分解等によって表面に新たな水酸基を生じるような金属錯体も金属酸化物前駆体として使用することができる。このような金属錯体としては、具体的には、金属ハロゲン化物、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO))等の金属カルボニル化合物、並びにこれらの多核クラスターも使用することができる。
【0020】
金属酸化物前駆体は、必要に応じて、2種以上を組み合わせて使用することにより、基板の表面に複合酸化物層を形成することもできる。金属酸化物前駆体の蒸気化条件を詳細に調整できるため、2種以上の金属酸化物前駆体を用いる場合も、純度の高い金属酸化物層を形成できる。
【0021】
金属酸化物前駆体を蒸気状態にする方法は、特に定めるものではなく、公知の方法を採用できる。例えば、金属酸化物前駆体を沸点以下の温度で保持し、不活性ガスを吹き込むことにより蒸気状態の金属酸化物前駆体を発生させることができる。この場合の沸点以下の温度としては、金属酸化物前駆体の種類によって異なるが、室温(例えば18℃)〜120℃が好適に用いられる。
不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウム等が挙げられる。金属酸化物前駆体に吹き込む不活性ガスの量は、金属酸化物前駆体の沸点に強く依存し、沸点が低い場合は、不活性ガスや金属酸化物前駆体の温度を上げるか、不活性ガスの量を多くすることで、蒸気状態の金属酸化物前駆体を発生させることができる。
【0022】
錯体吸着層に蒸気状態の金属酸化物前駆体を接触させるのは、発生した蒸気状態の金属酸化物前駆体を、移動媒体を用いて錯体吸着層まで移動させ接触させるものが好適に用いられる。移動媒体としては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウム等の不活性ガスが用いられる。蒸気状態のままで金属酸化物前駆体を移動させるためである。
また、蒸気状態の金属酸化物前駆体を錯体吸着層に接触させる工程は、金属酸化物前駆体を蒸気状態にする工程とは別の空間で行うのが好ましい。別の空間とは、例えば、互いに隔てられた空間であって、何らかの操作を施さない限り、蒸気状態の金属酸化物前駆体を基体が存在している空間に移動させることができないことをいう。これにより、金属酸化物前駆体の錯体吸着層や基体への吸着、錯体吸着層や基体に吸着していない非吸着金属酸化物前駆体の除去、加水分解等の一連の操作を、金属酸化物前駆体を蒸気状態にする工程とは別に連続的に行うことができ、飽和吸着までの時間を短縮させ吸着量も増やすことができ生産性に優れるからである。
【0023】
錯体吸着層に蒸気状態の金属酸化物前駆体を接触させる時間及び温度は、用いる金属酸化物前駆体の吸着活性等に応じて適宜定めることができるが、例えば、時間1〜60分、温度18〜30℃の範囲内で決定すればよい。また、このときの媒体の流量としては1〜5L/分が好適に用いられる。
【0024】
前駆体吸着工程において基体の表面に前駆体吸着層を形成させた後、過剰の金属酸化物前駆体である弱い物理吸着種を除去することができる。これにより、基体や錯体吸着層と化学結合するのみならず弱い物理吸着種として過剰に吸着した金属酸化物前駆体の内、弱い物理吸着種を除去して、基体や錯体吸着層に化学結合したオングストローム乃至はナノメートル単位の厚さの超薄膜の前駆体吸着層を形成することができ、金属イオンの鋳型の形状が崩れるのを防止して検知感度を高めることができる。具体的には、蒸気状態の金属酸化物前駆体を基体の錯体吸着層に接触させた後、不活性ガスのみを流して過剰の金属酸化物前駆体を除去することができる。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウム等が挙げられる。
【0025】
金属酸化物層形成工程において、前駆体吸着層を加水分解して金属酸化物層を形成できる。加水分解としては、金属酸化物前駆体を金属酸化物にすることができるものであれば、特に定めることなく、公知の方法を採用できる。例えば、前駆体吸着層が形成された基体を所定温度の水に所定時間浸漬する方法、前駆体吸着層が形成された基体を水蒸気を含んだ空気中に曝す方法、前駆体吸着層が形成された基体に熱風を吹き付ける熱風乾燥法等を用いることができる。これにより、基体の表面に吸着した金属アルコキシド等の金属酸化物前駆体を加水分解し重縮合することで、薄膜の金属酸化物層を形成することができる。
加水分解に用いる水は、不純物等の混入を防止し高純度の金属酸化物層を形成するため、イオン交換水を用いるのが好ましい。また、金属酸化物前駆体のうち、水との反応性が高いものは、空気中の水蒸気と反応させることにより加水分解を行うことができる。
加水分解後、必要により、窒素ガス等の乾燥ガスを用いて基体の表面を乾燥させてもよい。さらに、塩基等の縮合触媒等の触媒を用いることで、これらの工程に必要な時間を短縮することも可能である。
【0026】
中心金属イオン解離工程としては、塩酸水溶液等の酸液、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ液、エチレンジアミン四酢酸等のポリアミノカルボン酸類,クエン酸等のオキシカルボン酸類,縮合リン酸塩等のキレート化剤水溶液等の解離剤に、金属錯体が固定化された基体を接触させることによって、金属錯体から中心金属イオンを解離させることができる。
【0027】
なお、金属錯体吸着工程、前駆体吸着工程及び金属酸化物層形成工程は、これらの工程を一組として1回乃至複数回繰り返して行うことができる。これらの工程を複数回繰り返して行うことにより、金属酸化物層を複数層積層し層間に金属錯体を多数固定化させることができる。中心金属イオン解離工程は最後に1度だけ行えばよい。
【0028】
また、金属錯体吸着工程において錯体吸着層を金属酸化物層に形成する場合、その金属酸化物層は、上述の前駆体吸着工程、金属酸化物層形成工程を行うことによって形成できる。
【0029】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の金属イオン検知用電極の製造方法であって、前記金属錯体が、前記基体又は前記金属酸化物層に親和性の配位子を有している構成を有している。
この構成により、請求項4で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)基体や金属酸化物層の表面に金属錯体の錯体吸着層を原子層レベルで形成することができ、基体や金属酸化物層の表面に金属錯体の鋳型を確実に形成することができる。
【0030】
ここで、基体には水酸基やカルボキシル基等の官能基を導入し、金属錯体の配位子は基体に導入された官能基や金属酸化物の水酸基等との親和性を有するものが用いられる。このような配位子としては、例えば、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(CH3O)3Si(CH2)3NH2、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルランH2N(CH2)2NH(CH2)3Si(OCH3)3、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(CH3O)3SiCH2CH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2CH2Si(OCH3)3、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランSHCH2CH2CH2Si(OCH3)3、N−(5−アミノ−1-カルボキシペンチル)イミノジ酢酸、3,3´−ジチオビス[N−(5−アミノ−5−カルボキシペンチル)プロピオンアミド−N´,N´−ジ酢酸]、ジピバロイルメタナート(DPM)、ヘキサフルオロアセチルアセテート(HFA)、アセチルアセトナート(acac)等が用いられる。
【0031】
本発明の金属イオン検知用電極は、QCM(水晶天秤)等に適用する以外に、特願2004−329437(特許文献2)に記載した電極界面反応を利用する作用電極としても用いることができる。
この金属イオン検知装置は、(a)本発明の金属イオン検知用電極からなり検体容器に配設される作用電極と、(b)前記検体容器に配設される参照電極及び補助電極と、又は、前記検体容器に配設される対極と、(c)前記参照電極又は前記対極と前記作用電極との間に直流を印加する直流電源と、(d)前記直流に微小交流を重畳する信号発生器と、(e)前記参照電極又は前記対極と前記作用電極との間のインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、(f)前記直流電源の電圧を変動させる電圧変動部と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)金属イオンを含んだ溶液と電極の界面では、電荷担体である電極中の電子と溶液中の金属イオンとが接し、界面の物性に支配された反応が起こる。本発明者は、このような電極界面反応に対して、電極間に微小交流が重畳された直流を印加して直流の各電圧におけるインピーダンスを測定し、測定されたインピーダンスの実数成分や虚数成分の定常値が金属イオンの種類や濃度に特有のものであることを見出した。本発明の金属イオン検知装置は、参照電極又は対極と作用電極との間に直流を印加する直流電源と、直流に微小交流を重畳する信号発生器と、参照電極又は対極と作用電極との間のインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、直流電源の電圧を変動させる電圧変動部と、を備えているので、金属イオンを含んだ検体溶液を検体容器に入れ、参照電極等と作用電極との間に微小交流が重畳された直流を印加するとともに直流の電圧を変動させて、各電圧におけるインピーダンスの実数成分や虚数成分の定常値を測定することができる。この結果から、各電圧におけるインピーダンスの定常値を求め、定常状態の電圧−インピーダンスのパターンを用いて金属イオンの種類や濃度を予め特徴付けておき、未知の金属イオンを含んだ溶液の定常状態のパターンと比較することで、未知の溶液に含まれる金属イオンの種類や濃度を分析することができる。
(2)インピーダンスの実数成分や虚数成分が定常値に達するのは、数分乃至は数十分間程度なので、長くても1時間程度の短時間で分析を終えることができるとともに、煩雑な前処理等が不要で分析作業の作業性に極めて優れる。
(3)金属イオンに特有なインピーダンスの応答特性から、電子や物質が移動する電極界面反応を解析するので、目的の金属イオン毎に電極を選択したり調整する必要がなく、簡便であり操作性と汎用性に優れる。
【0032】
この金属イオン検知装置は、電極の表面に電圧を印加し電極と溶液の界面に起こる電子や物質の移動を利用して、電子や物質が移動する電極界面をブラックボックスとみなし、電極間に微小交流が重畳された直流を印加し、その入力信号と出力信号の位相差(θ)から界面の物性や反応を測定する装置である。
ここで、金属イオン検知装置の測定原理を図面を参照しながら説明する。
図1(a)は電極界面の等価回路を示す図であり、図1(b)は図1(a)の等価回路を複素平面図で示す図である。図1(b)において、X軸はインピーダンスの実数成分を示し、Y軸はインピーダンスの虚数成分を示す。
電極界面反応において電極表面で酸化還元反応が起こらないと仮定した場合、電極と溶液の界面の等価回路は、図1(a)に示すように、界面容量(ZCPE)に溶液抵抗(Rs)が直列に結合した回路に近似することができる。界面容量(ZCPE)は、固体電極を用いる場合、CPE(Constant Phase Element)特性を示す周波数分散型のキャパシタンスとなる。
図1(b)に示すように、複素平面図が直線を描く周波数領域において、電極間に微小交流が重畳された直流を入力信号として印加し、インピーダンスの虚数成分が十分に小さな値となる角周波数ωs、該直線上の角周波数ωpでインピーダンスを測定する。角周波数ωsにおけるインピーダンスの実数成分は溶液抵抗(Rs)を示す。角周波数ωpにおけるインピーダンスの実数成分(Rs+Rp)から溶液抵抗(Rs)を減じて得られるRpを、金属イオン検知のパラメータとすることができる。インピーダンスの虚数成分についても同様で、角周波数ωpにおけるインピーダンスの虚数成分から角周波数ωsにおけるインピーダンスの虚数成分を減じたXpを金属イオン検知のパラメータとすることができる。
【0033】
作用電極としては、前述の金属イオン検知用電極が用いられる。
参照電極としては、銀−塩化銀電極、カロメル電極、硫酸水銀電極等の電極電位の基準となる電極が用いられる。
補助電極としては、白金製、ステンレス製、銀−塩化銀製、金−白金製等で形成されたものが用いられる。
対極としては、作用電極と対極とが検体容器に配設された2電極式の溶液分析装置において、参照電極と補助電極の役割を兼ねた白金製、銀−塩化銀製、金−白金製等で形成された電極が用いられる。
【0034】
直流電源としては、ポテンシオスタット等の直流を出力し、電圧変動部を用いて外部から電圧が可変可能な安定化電源が用いられる。直流電源は、電圧が−1〜+1V好ましくは−0.7〜+0.7Vの範囲で一定の方向やランダムに変動できるものが用いられる。溶液の電気分解等を起こさせず、電極表面の物理的な条件や物性によって支配される金属イオンの電極界面での挙動だけを測定することができ、測定誤差を小さくできるからである。特に、一定の方向に繰り返し走査できるものが好適に用いられる。操作性に優れるからである。
【0035】
信号発生器としては、直流電源が出力した直流成分に重畳する微小な正弦波等の交流信号を出力するものが用いられる。特に、振幅0.01〜0.1V、周波数10〜300Hzの正弦波を出力し、直流に重畳させるものが好適である。入力信号と出力信号の位相差(θ)を容易に精度良く求めることができ、電極界面の物性や反応を精度良く測定することができるからである。
なお、後述するインピーダンスメータ,ロックインアンプ等の装置が信号発生器を内蔵している場合には、これらの装置が内蔵する信号発生器を用いることもできる。
【0036】
インピーダンス測定部は、参照電極又は対極と作用電極間に入力された微小交流が重畳された直流の入力信号と出力信号の位相差(θ)を測定し、この位相差(θ)に基づいてコンピュータ等を用いて電圧変動部が変動させた各電圧におけるインピーダンスの実数成分と虚数成分を求めるものである。例えば、位相差計、インピーダンスメータ、ロックインアンプやロックインボルトメータ等の微小信号測定用の交流電圧計等を用いることができる。これらとコンピュータとを組み合わせることもできる。
【0037】
直流電源が印加する直流の電圧が検体溶液の酸化還元反応が起こらない範囲にあると、以下のような作用が得られる。
(1)電極間に印加される直流電圧が、電極界面で還元等された物質の析出や溶液の電気分解等の酸化還元反応が起こらない範囲なので、電極表面の物理的な条件や物性によって支配される金属イオンの電極界面での挙動だけを測定することができ、測定誤差を小さくでき測定感度を高めることができる。溶液の電気分解等の酸化還元反応が起こると、電極界面での挙動を撹乱し測定が困難になるからである。
【0038】
また、電圧変動部が、前記直流の電圧を−1〜+1Vの範囲で変動させる構成を有していると、以下のような作用が得られる。
(1)直流の電圧を−1〜+1V好ましくは−0.7〜+0.7Vの範囲で変動させるので、電極界面で還元等された物質の析出や溶液の電気分解等の酸化還元反応が起こらないので、電極表面の物理的な条件や物性によって支配される金属イオンの電極界面での挙動だけを再現性良く測定することができ、測定誤差を小さくでき測定感度を高めることができる。
【0039】
ここで、電圧変動部が変動させる直流の電圧の範囲が−0.7Vより小さくなる又は+0.7Vより大きくなるにつれ、溶液の電気分解等が起こり易くなり電気二重層が壊れ、金属イオンの電極界面での挙動が溶液の電気分解に撹乱され、測定が困難になる傾向がみられる。特に−1Vより小さくなるか+1Vより大きくなると、これらの傾向が著しいためいずれも好ましくない。
【0040】
また、信号発生器が、振幅0.01〜0.1V、周波数10〜300Hzの正弦波を重畳する構成を有していると、以下のような作用が得られる。
(1)微小交流が振幅0.01〜0.1V、周波数10〜300Hzの正弦波なので、入力信号と出力信号の位相差(θ)を容易に精度良く求めることができ、電極界面の物性や反応を精度良く測定することができる。
【0041】
ここで、微小交流の振幅が0.01Vより小さくなるにつれ微小交流がノイズに埋もれ易く測定感度が低下する傾向がみられ、0.1Vより大きくなるにつれベースラインの変動が大きく、これがノイズとなり安定性に欠けるとともに誤差が大きくなる傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
微小交流の周波数が10Hzより低くなるにつれ測定時間が長くなり電極界面の動的な状態の測定が困難になる傾向がみられ、300Hzより高くなるにつれ複素平面図に電荷移動過程を示す半円部が現れ、等価回路に電荷移動抵抗と電気二重層容量の並列回路も考慮しなければならなくなり誤差が大きくなる傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
【発明の効果】
【0042】
以上のように、本発明の金属イオン検知用電極及びその製造方法によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)中心金属イオンの解離した金属錯体が基体の表面の金属酸化物層で固定化されているので、固定化された金属錯体から解離した中心金属イオンが鋳型を形成し、解離した中心金属イオンの種類に応じて金属イオンの識別性を発現させることができ識別性に優れた金属イオン検知用電極を提供できる。
(2)金属酸化物層で固定化された金属錯体の鋳型に検体溶液中の金属イオンが選択的に吸着されるので、鋳型が形成されていない従来の電極を用いた場合と比較して、より低濃度の金属イオンも検知することができ高感度の金属イオン検知用電極を提供できる。
【0043】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)QCM(水晶天秤)、弾性表面波素子、マイクロカンチレバー等を利用して共振周波数の変化等を計測することによって、検体溶液中の金属イオンを選択的に検知することができる金属イオン検知用電極を提供できる。
【0044】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)中心金属イオンが解離した金属錯体に重金属イオンの鋳型が形成され、重金属イオンを選択的に検知することができるので、河川水、湖沼水、地下水、海水、各種の用排水等の汚染度等を分析することができ汎用性に優れた金属イオン検知用電極を提供できる。
【0045】
請求項4に記載の発明によれば、
(1)溶液を接触させるのではなく、蒸気状態の金属酸化物前駆体を錯体吸着層の表面に接触させるので、0.1〜10nm程度の厚さの金属酸化物層を形成でき金属錯体の構造を分子レベルでかたどることができ、金属錯体の構造に忠実な鋳型を形成できるとともに、錯体吸着層が溶解したり脱着したりするのを防止でき生産安定性に優れた金属イオン検知用電極の製造方法を提供できる。
(2)金属酸化物層形成工程において金属酸化物層に金属錯体を固定化した後、金属錯体から中心金属イオンを解離させるので、中心金属イオンが解離した位置に金属イオンの識別性を有する鋳型を形成することができる金属イオン検知用電極の製造方法を提供できる。
(3)金属酸化物前駆体の気化の条件を整えることにより金属酸化物前駆体と不純物とを分離できるため、不純物がない又は著しく少ない金属酸化物層を形成することができ、不純物によって金属イオンの鋳型の形状が崩れることがなく識別性と感度を高めることができる金属イオン検知用電極の製造方法を提供できる。
【0046】
請求項5に記載の発明によれば、請求項4の効果に加え、
(1)基体や金属酸化物層の表面に金属錯体の錯体吸着層を原子層レベルで形成することができ、基体や金属酸化物層の表面に金属錯体の鋳型を確実に形成することができる高品質の金属イオン検知用電極が得られる金属イオン検知用電極の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図2(a)は本発明の実施の形態1における金属イオン検知用電極の模式断面図であり、(b)は金属錯体から金属イオンを解離させる前の製造途中の金属イオン検知用電極の模式断面図である。
図2(a)において、1は実施の形態1における金属イオン検知用電極、2は金,白金,金−白金等の金属製、炭素,グラッシーカーボン等で形成された導電性の基体、3は基体2の表面にチタン,ジルコニウム,アルミニウム,ニオブ,シリコン等の金属酸化物で薄膜状に形成された金属酸化物層、4は中心金属イオン(金属イオンMn+)が解離し配位子が金属酸化物層3と結合した金属錯体、5はチタン,ジルコニウム,アルミニウム,ニオブ,シリコン等の金属酸化物で薄膜状に形成され金属酸化物層3に積層され金属錯体4を固定化した金属酸化物層、6は中心金属イオン(金属イオンMn+)が解離し配位子が金属酸化物層3,5と結合した金属錯体、7は金属酸化物で薄膜状に形成され金属錯体6を固定化した金属酸化物層である。
図2(b)において、1aは金属錯体4,6から中心金属イオン(金属イオンMn+)を解離させる前の製造途中の金属イオン検知用電極、4a,6aは金属酸化物層3,5,7で固定化された配位子に中心金属イオン(金属イオンMn+)が結合した金属錯体であり、本実施の形態においては、金属錯体の一例として、配位子がトリメトキシシランで修飾されたエチレンジアミン錯体を示している。
【0048】
以上のように構成された実施の形態1における金属イオン検知用電極1について、以下その製造方法を説明する。
始めに、金属錯体吸着工程に先立ち、基体2の表面にメルカプトエタノールなどの吸着や水蒸気処理,オゾン、プラズマ処理等を施すことによって水酸基等の官能基を導入するのが好ましい。この操作は必須ではないが、この操作によって金属錯体4や金属酸化物層3と基体2とを強固に結合させることができる。
次に、基体2に蒸気状態のチタンブトキシド,ジルコニウムプロポキシド,アルミニウムブトキシド等の金属酸化物前駆体を接触させ、基体2の表面に金属酸化物前駆体の吸着層である前駆体吸着層を形成する。次いで、前駆体吸着層を加水分解して、基体2の表面に金属酸化物層3を形成する。
次に、金属錯体吸着工程において、金属硝酸塩,金属塩化物,金属酢酸塩等とキレート化剤との溶液に金属酸化物層3を接触させ、金属酸化物層3の表面に金属錯体4aを含んだ錯体吸着層を形成する。
次に、前駆体吸着工程において、金属酸化物層3に形成された錯体吸着層に蒸気状態のチタンブトキシド,ジルコニウムプロポキシド,アルミニウムブトキシド等の金属酸化物前駆体を接触させ、錯体吸着層の表面に金属酸化物前駆体の前駆体吸着層を形成する。
次に、金属酸化物層形成工程において、前駆体吸着層を加水分解して、金属酸化物層3に金属酸化物層5を積層形成し、金属酸化物層3,5で金属錯体4aを固定化する。
同様に、金属錯体吸着工程、前駆体吸着工程、金属酸化物層形成工程を順に行い、金属酸化物層5,7で金属錯体6aを固定化する(図2(b))。
次いで、中心金属イオン解離工程において、金属錯体4a,6aが固定化された金属酸化物層3,5,7を、塩酸等の酸液,水酸化ナトリウム等のアルカリ液,エチレンジアミン四酢酸等のキレート化剤溶液の解離剤に接触させ、金属錯体4a,6aから金属イオンを解離させる。
以上のようにして、導電性の基体2と、基体2の表面に形成された金属酸化物層3,5,7と、金属酸化物層3,5,7で固定化された金属錯体4,6と、を備えた図2(a)に示す実施の形態1における金属イオン検知用電極1を製造することができる。
【0049】
実施の形態1における金属イオン検知用電極1は、電極界面反応を利用する作用電極として用いることができる。
また、基体2を、単結晶シリコン、窒化シリコン、水晶(SiO)等の圧電性結晶、Pb(Zr,Ti)O系等の圧電セラミックス、ZnO薄膜等の圧電性薄膜やポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電性高分子で形成された図示しない基板の表面に予め形成しておくことで、QCM(水晶天秤)、弾性表面波素子、マイクロカンチレバー等を利用して共振周波数の変化等を計測することによって、検体溶液中の金属イオンを検知することができる。
なお、共振周波数の変化等を計測して金属イオンを検知する場合には、変化が大きくなるように、金属錯体4,6を固定化した金属酸化物層5,7をさらに多層化し、金属錯体4,6による鋳型を多数形成して、金属イオン検知用電極1への吸着可能な金属イオン量を増やすことができる。多層化された金属酸化物層間を検体溶液が流通できるので、下層の金属酸化物層に固定化された金属錯体の鋳型でも検体溶液中の金属イオンを検知できる。この場合は、金属錯体吸着工程、前駆体吸着工程、金属酸化物層形成工程を繰り返し行い、金属酸化物層を多層化した後、最後に中心金属イオン解離工程を行うことで金属イオン検知用電極を製造できる。
【0050】
以上のように、実施の形態1における金属イオン検知用電極は構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)金属酸化物層3,5,7で固定化された金属錯体4,6の解離した金属イオンが鋳型を形成し、解離した金属イオンの種類に応じた識別性を発現させることができる。
(2)金属酸化物層3,5,7で固定化された金属錯体4,6の鋳型に検体溶液中の金属イオンが選択的に吸着されるので、鋳型が形成されていない電極を用いた場合と比較して、より低濃度の金属イオンも検知することができ検知感度を高めることができる。
【0051】
また、実施の形態1で説明した金属イオン検知用電極の製造方法によれば、以下のような作用が得られる。
(1)溶液を接触させるのではなく、蒸気状態の金属酸化物前駆体を錯体吸着層の表面に接触させるので、0.1〜10nm程度の厚さの金属酸化物層3,5,7を形成でき、金属錯体の構造を分子レベルでかたどることができるので、金属錯体4,6の形に忠実な鋳型を形成できるとともに、錯体吸着層が溶解したり脱着したりするのを防止でき、多数の鋳型を形成できる。
(2)金属酸化物層形成工程において金属酸化物層3,5,7に金属錯体4a,6aを固定化した後、中心金属イオン解離工程において金属錯体4a,6aから金属イオンを解離させるので、金属イオンが解離した位置に金属イオンの識別性を有する鋳型を形成することができる。
(3)金属酸化物前駆体の気化の条件を整えることにより金属酸化物前駆体と不純物とを分離できるため、不純物がない又は著しく少ない金属酸化物層3,5,7を形成することができ、不純物によって金属イオンの鋳型の形状が崩れることがなく識別性と感度を高めることができる。
【0052】
(実施の形態2)
図3は本発明の実施の形態2における金属イオン検知用電極の模式断面図である。なお、実施の形態1と同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図3において、1bは実施の形態2における金属イオン検知用電極、8は配位子を基体2に結合させ金属イオンを解離させた金属錯体、9はチタン,ジルコニウム,アルミニウム,ニオブ,シリコン等の金属酸化物で薄膜状に形成され基体2に積層され金属錯体8を固定化した金属酸化物層である。
実施の形態2における金属イオン検知用電極1bは、基体2と金属錯体8との間に金属酸化物層を有していない点で、実施の形態1における金属イオン検知用電極1と構成が相違する。
【0053】
以上のように構成された実施の形態2における金属イオン検知用電極1bについて、以下その製造方法を説明する。
必要に応じて水酸基等の官能基が導入された基体2に、金属錯体吸着工程において、金属硝酸塩,金属塩化物,金属酢酸塩等とキレート化剤との溶液に基体2を接触させ、基体2に金属錯体8を含む錯体吸着層を形成する。
次に、前駆体吸着工程において、基体2に形成された錯体吸着層に蒸気状態のチタンブトキシド,ジルコニウムプロポキシド,アルミニウムブトキシド等の金属酸化物前駆体を接触させ、錯体吸着層の表面に金属酸化物前駆体の吸着層である前駆体吸着層を形成する。
次いで、金属酸化物層形成工程において、前駆体吸着層を加水分解して、基体2に金属酸化物層9を積層形成し、金属酸化物層9で金属錯体8を固定化する。
次いで、中心金属イオン解離工程において、金属錯体8を固定化した金属酸化物層9を、塩酸等の酸液,水酸化ナトリウム等のアルカリ液,エチレンジアミン四酢酸等のキレート化剤溶液の解離剤に接触させ、金属錯体8から金属イオンを解離させる。
以上のようにして、導電性の基体2と、基体2の表面に形成された金属酸化物層9と、金属酸化物層9で固定化され金属イオンが解離した金属錯体8と、を備えた図3に示す実施の形態2における金属イオン検知用電極1bを製造することができる。
【0054】
実施の形態2における金属イオン検知用電極1bも、電極界面反応を利用する作用電極として、また共振周波数の変化等を計測することによって、検体溶液中の金属イオンを検知することができる。また、共振周波数の変化等を計測して金属イオンを検知する場合には、吸着可能な金属イオン量を増やすため、金属錯体を固定化した金属酸化物層を多層化することができる。これらは、実施の形態1で説明したものと同様なので、説明を省略する。
【0055】
(実施の形態3)
次に、実施の形態2で説明した金属イオン検知用電極を用いた金属イオン検知装置について説明する。
図4は実施の形態3における金属イオン検知装置の構成図である。なお、実施の形態2で説明したものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図中、11は実施の形態3における金属イオン検知装置、12は金属イオンを含む検体溶液を入れるビーカー等の検体容器であり、検体容器12には実施の形態2で説明した金属イオン検知用電極1bが作用電極として配設されている。13は検体容器12内に入れられた回転子、14は回転子13を回転させ溶液を撹拌するスターラー、15は検体容器12に配設された銀−塩化銀製等の参照電極、16は検体容器12に配設された白金等の補助電極、17は作用電極の金属イオン検知用電極1b,参照電極15,補助電極16が接続され参照電極15に対する金属イオン検知用電極1b(作用電極)の電位を一定に維持し参照電極15と金属イオン検知用電極1b(作用電極)との間に直流を印加するポテンシオスタット等の直流電源、18は直流電源17に接続され金属イオン検知用電極1b(作用電極)と補助電極16との間に微小交流を印加し、金属イオン検知用電極1b(作用電極)に印加される直流に微小交流を重畳するファンクションジェネレータ等の信号発生器、19は直流電源17と信号発生器18に接続され信号発生器18の入力信号と金属イオン検知用電極1b(作用電極)に接続された直流電源17からの微小交流の出力信号の位相差(θ)を測定するロックインアンプ等のインピーダンス測定部、20は直流電源17,信号発生器18,インピーダンス測定部19に接続され直流電源17の電圧を走査する電圧変動部として機能するとともに、インピーダンス測定部19で測定された位相差(θ)に基づいて各電圧におけるインピーダンスの実数成分と虚数成分を求めるインピーダンス測定部としても機能するコンピュータである。
【0056】
以上のように構成された実施の形態3における金属イオン検知装置を用いた金属イオン検知方法について、以下説明する。
初めに、塩化カリウム水溶液を基準液として検体容器12に入れ、基準液に金属イオン検知用電極1b(作用電極),参照電極15,補助電極16を浸漬する。信号発生器18から振幅0.01〜0.1V,周波数10〜300Hzの微小交流(正弦波)を直流電源17とインピーダンス測定部19に入力し、直流電源17は微小交流が重畳された直流を金属イオン検知用電極1b(作用電極)に出力させる。コンピュータ20を電圧変動部として、直流電源17が出力する直流の電圧(E)を−1〜+1V好ましくは−0.7〜+0.7Vの範囲で、任意の大きさ(例えば0.05V)で走査させる。走査された各電圧(E)における金属イオン検知用電極1b(作用電極)の出力信号と信号発生器18の入力信号との位相差(θ)をインピーダンス測定部19で測定し、インピーダンス測定部としても機能するコンピュータ20を用いて、位相差(θ)に基づいてインピーダンスの実数成分(Rp)と虚数成分(Xp)を求める。コンピュータ20にE−Rp又はE−Xpを表示させ、各電圧(E)における実数成分(Rp)又は虚数成分(Xp)が定常値に達するまで、直流電源17が出力する直流の電圧(E)を走査する。これを金属イオン検知装置11の基準液のベースラインとする。
次に、塩化カリウム水溶液で基準液と同じ塩濃度(カリウム濃度)に調製した既知の金属イオンを含む既知の濃度の検体溶液を、検体容器2内の基準液に、マイクロピペット等を用いて所定量添加し目的の濃度にした後、スターラー14を用いて撹拌する。溶液が均一に混合された後スターラー14を停止し、検体溶液を静置した状態で前述と同様にして、各電圧(E)における実数成分(Rp)又は虚数成分(Xp)が定常値に達するまで、直流電源17が出力する直流の電圧(E)を走査し、既知の検体溶液のE−Rp又はE−Xpを表示させる。既知の検体溶液のE−Rp又はE−Xpのパターンから、先に測定した金属イオン検知装置11の基準液のベースラインのパターンを差し引きしてΔRp、ΔXpを求めたものが、既知の金属イオンを所定濃度含む検体溶液のE−ΔRp又はE−ΔXpプロットである。
未知の検体溶液を分析する場合は、まず、未知の検体溶液を塩化カリウム水溶液で基準液と同じ塩濃度(カリウム濃度)に調製する。次に、調製した検体溶液を、検体容器12内の基準液にマイクロピペット等を用いて所定量添加し、スターラー14を用いて撹拌する。検体溶液が均一に混合された後スターラー14を停止し、検体溶液を静置した状態で前述と同様にして、各電圧(E)における実数成分(Rp)又は虚数成分(Xp)が定常値に達するまで、直流電源17が出力する直流の電圧(E)を走査し、未知の検体溶液のE−Rp又はE−Xpを表示させる。未知の検体溶液のE−Rp又はE−Xpのパターンから、先に測定した金属イオン検知装置11のベースラインのパターンを差し引きしてΔRp、ΔXpを求めたものが、未知の検体溶液のE−ΔRp又はE−ΔXpプロットのパターンである。
予め取得した既知の金属イオンを所定濃度含む検体溶液のE−ΔRp又はE−ΔXpプロットのパターンと、未知の検体溶液のE−ΔRp又はE−ΔXpプロットのパターンとを比較し照合し、合致若しくは近似するパターンを検索することで、未知の検体溶液に含まれる金属イオンの種類や濃度を検知することができる。
【0057】
以上のように実施の形態2における金属イオン検知用電極は構成されているので、実施の形態1に記載した作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)基体2の表面に形成された金属酸化物層9と、金属酸化物層9で固定化され金属イオンが解離した金属錯体8と、を備えており、金属錯体8と基体2とが近接しているので、電極界面の反応を高感度で検知することができ、検知感度を著しく高めることができる。
【0058】
また、以上のように実施の形態3における金属イオン検知装置は構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)参照電極15と金属イオン検知用電極1b(作用電極)との間に直流を印加する直流電源17と、直流に微小交流を重畳する信号発生器18と、参照電極15と金属イオン検知用電極1b(作用電極)との間のインピーダンスを測定するインピーダンス測定部19と、直流電源17の電圧を変動させる電圧変動部としてのコンピュータ20と、を備えているので、金属イオンを含んだ検体溶液を検体容器12に入れ、参照電極15と金属イオン検知用電極1b(作用電極)との間に微小交流が重畳された直流を印加するとともに直流の電圧を変動させて、各電圧におけるインピーダンスの定常値を測定することができ、定常状態の電圧−インピーダンスのパターンを用いて金属イオンの種類や濃度を予め特徴付けておき、未知の金属イオンを含んだ検体溶液の定常状態のパターンと比較することで、未知の検体溶液に含まれる金属イオンの種類や濃度を検知することができる。
(2)金属イオンに特有な電圧−インピーダンスのパターンから、電子や物質が移動する電極界面反応を解析するので、目的の金属イオン毎に電極を選択したり調整する必要がなく、操作性と汎用性に優れる。
(3)インピーダンス測定部19としてロックインアンプ等の微小信号測定用の交流電圧計を用いることで、直流に重畳された微小交流(正弦波)を雑音に埋もれることなく高感度で検出することができ、検出感度を高めることができる。
【0059】
なお、実施の形態3では、金属イオン検知装置11が、金属イオン検知用電極1b(作用電極)、参照電極15、補助電極16を備えた3電極式の場合について説明したが、参照電極と補助電極の役割を兼ねた対極を用い、作用電極と対極を備えた2電極式にすることもできる。この場合は、装置構成を単純化することができる。
また、実施の形態3では、インピーダンス測定器19と信号発生器18とを備えた金属イオン検知装置11について説明したが、インピーダンスメータ,ロックインアンプ等のインピーダンス測定器が信号発生器を内蔵している場合には、ファンクションジェネレータ等の信号発生器18を別途用意することなく、インピーダンスメータ,ロックインアンプ等が内蔵する信号発生器を用いることもできる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
基準振動数9MHzの水晶振動子(10×20mm、厚さ0.5mm)の基板の表面に金蒸着して導電性の基体を設けた。この基体をピラナ(HSO:H=3:1)処理した後、メルカプトエタノールのエタノール溶液(10mmol/L)に12時間浸漬して基板の金表面を水酸基修飾した。エタノール及びイオン交換水で十分洗浄した後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。
次いで、金属酸化物前駆体のチタンブトキシド(Ti(O-nBu)4)(キシダ化学製)10〜20mLを攪拌装置付き恒温槽の中で85℃に保持し、流量3L/分の窒素ガスを吹き込んでチタンブトキシドの蒸気を発生させ、発生したチタンブトキシドの蒸気を、窒素ガス(移動媒体)を用いて基板の表面に移動させ10分間接触させ、基板の表面に吸着層を形成した(前駆体吸着工程)。
その後、さらに窒素ガス(移動媒体)のみを基板の表面に十分吹き込み、過剰の金属酸化物前駆体である弱い物理吸着種を除去した。次いで、イオン交換水によって加水分解し基体の表面に金属酸化物層を形成した後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた(金属酸化物層形成工程)。
次に、20mM(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(H2N(CH2)2NH(CH2)3Si(OCH3)3)と10mM硝酸銅(Cu(NO3)2・3H2O)とを1時間撹拌しながら反応させて調製した金属錯体水溶液に、基体を20分間浸漬して金属錯体の錯体吸着層を形成した後、イオン交換水で洗浄し窒素ガスで乾燥させた(金属錯体吸着工程)。
次いで、前述の前駆体吸着工程と同様にして錯体吸着層の表面に前駆体吸着層を形成した後、前述の金属酸化物形成工程と同様にして金属酸化物層を形成した。
以上の金属錯体吸着工程、前駆体吸着工程、金属酸化物層形成工程の操作を1サイクルとし、この繰り返し操作による薄膜形成を、QCMを用いた水晶振動子の振動数変化から評価した。
最後に、基体に作製した薄膜をHCl水溶液(pH3)とNaOH水溶液(pH11)を利用して振動数変化がなくなるまで洗浄し、作製した薄膜から中心金属イオン(この場合は、Cu2+)を除去した(中心金属イオン解離工程)。
以上のようにして、実施例1の金属イオン検知用電極を得た。
【0061】
(実施例2)
金属錯体吸着工程において、20mM(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(H2N(CH2)2NH(CH2)3Si(OCH3)3)と10mM硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)とを反応させた金属錯体溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の金属イオン検知用電極を得た。
【0062】
(QCMを用いた金属イオン検知用電極の製膜過程の評価)
QCMを用いて実施例1の金属イオン検知用電極の10サイクルまでの製膜過程における振動数変化を測定したところ、実施例1では、金属酸化物前駆体の吸着による平均振動数変化は25±17Hzであり、金属錯体の吸着による平均振動数変化は30±9Hzであった。これは、約1nmの厚さの薄膜が形成されていることを示している。また、実施例2の金属イオン検知用電極では、金属酸化物前駆体の吸着による平均振動数変化は15±5Hzであり、金属錯体の吸着による平均振動数変化は40±9Hzであった。これは、約1nmの厚さの薄膜が形成されていることを示している。いずれにおいても規則的な振動数変化が得られ、安定な膜形成が可能であることがわかった。
また、金属錯体吸着工程における振動数変化を測定したところ、実施例1及び2は、いずれも約10分以内で飽和に達することもわかった。また、中心金属イオン解離工程における振動数変化を測定したところ、実施例1及び2は、いずれも約10分以内で振動数変化がみられなくなり、中心金属イオンを解離した後の実施例1の金属イオン検知用電極は、解離前より振動数が80±5Hz増加し、中心金属イオンを解離した後の実施例2の金属イオン検知用電極は、解離前より振動数が140±15Hz増加した。これは、中心金属イオン解離工程における操作によって、中心金属イオンが、固定化された金属錯体の配位子から解離し金属イオン検知用電極の質量が減少したことを示している。
以上のことから、実施例1及び2の金属イオン検知用電極の製造方法によって、基体の表面に安定した薄膜を積層させることができると推察された。
【0063】
(QCMを用いた金属イオン検知用電極の鋳型効果の評価)
実施例1の金属イオン検知用電極(QCM電極)を10mLのイオン交換水(25℃)に浸漬し撹拌しながら、振動数が安定になったところで20mMのCuイオン水溶液20μLを加えた。イオン交換水中のCuイオンの濃度は4×10−5M(40μM)であった。
QCM電極の振動数が安定になったところで振動数変化を測定した。Cuイオン以外にも同様にして、Cr,Co,Zn,Cd,Pbイオンについて振動数変化を測定した。
なお、異なる金属イオンの測定を行う場合には、HCl水溶液(pH3)とNaOH水溶液(pH11)で十分洗浄して(EDTA単独の洗浄処理も可)、吸着した金属イオンを除去した後に行った。HCl水溶液等で洗浄することによってQCMの振動数が金属イオンの吸着前の一定振動数に戻るので、金属イオンが金属イオン検知用電極から完全に脱着されたことが確認できる。
実施例2の金属イオン検知用電極(QCM電極)についても同様の測定を行った。
【0064】
図5は実施例1の金属イオン検知用電極(QCM電極)を各金属イオンの水溶液に浸漬したときの振動数変化を示す図であり、図6は実施例2の金属イオン検知用電極(QCM電極)を各金属イオンの水溶液に浸漬したときの振動数変化を示す図である。
図5から、Cuイオンを金属錯体の中心金属イオンにした実施例1の金属イオン検知用電極(QCM電極)は、Cu及びPbイオンに対して大きな振動数変化を示した(CuとPbの原子量を考慮すると、振動数変化量から換算されるCu及びPbイオンの結合量は、ほぼ同等であることがわかった)。また、各元素の原子量を考慮した場合、Cu及びPbイオンに対する結合性は、他の金属イオンに対して2.5〜5.4倍であった。
図6から、Coイオンを金属錯体の中心金属イオンにした実施例2の金属イオン検知用電極(QCM電極)は、Coイオンに対して大きな振動数変化を示した。分子量で換算した場合、Coイオンに対する結合性は、Cuイオンに対して約4.3倍、Cr及びZnイオンに対して約10倍、Cd及びPbイオンに対して約20倍以上の非常に高いものであった。
このような高い選択性は、金属錯体の構造が金属酸化物層の中に安定に取り込まれ、中心金属イオンを除去した後にも配位子による特異的な結合部位が維持できたからであろうと推察される。
【0065】
(実施例3)
金製の基体を0.05μmの研磨用アルミナ粒子で10分間研磨した後、超音波洗浄を行い、さらにピラナ(HSO:H=3:1)処理した後に超音波洗浄した。メルカプトエタノール溶液(10mmol/L、25℃)に12時間浸漬して基体の表面を水酸基修飾した。過剰吸着分をエタノール及びイオン交換水で十分洗浄した後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。
この基体を100mM (N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン):50mM Pb(NO水溶液の金属錯体溶液に一晩浸漬して、基体の表面に錯体吸着層を形成した。次いで、過剰吸着分を水で洗浄し、窒素ガスで乾燥した後、金属酸化物前駆体のチタンブトキシド(Ti(O-nBu)4)(キシダ化学製)10〜20mLを撹拌装置付き恒温槽の中で85℃に保持し、流量3L/分の窒素ガスを吹き込んでチタンブトキシドの蒸気を発生させ、発生したチタンブトキシドの蒸気を、窒素ガス(移動媒体)を用いて基体の表面に移動させ10分間接触させ、基体の表面に前駆体吸着層を形成した(前駆体吸着工程)。
その後、さらに窒素ガス(移動媒体)のみを基体の表面に十分吹き込み、過剰の金属酸化物前駆体である弱い物理吸着種を除去した。次いで、イオン交換水によって加水分解し基体の表面に金属酸化物層を形成した後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた(金属酸化物層形成工程)。
以上のようにして、実施例3の金属イオン検知用電極を得た。
【0066】
(比較例1)
金製の基体を0.05μmの研磨用アルミナ粒子で10分間研磨した後、超音波洗浄を行い、さらにピラナ(HSO:H=3:1)処理した後に超音波洗浄して、比較例1の電極を得た。
(比較例2)
金製の基体を0.05μmの研磨用アルミナ粒子で10分間研磨した後、超音波洗浄を行い、さらにピラナ(HSO:H=3:1)処理した後に超音波洗浄した。メルカプトエタノール溶液(10mmol/L、25℃)に12時間浸漬して基体の表面を水酸基修飾した。過剰吸着分をエタノール及びイオン交換水で十分洗浄した後、窒素ガスを吹き付けて乾燥させた。
この基体を100mM(N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に一晩浸漬して、基体の表面に吸着層を形成した。次いで、過剰吸着分を水ですすいで洗浄して、比較例2の電極を得た。
【0067】
(金属イオン検知装置を用いた金属イオン検知用電極の評価)
実施の形態3で説明した金属イオン検知装置を用いて、実施例3の金属イオン検知用電極、比較例1,2の電極を評価した。実施例3の金属イオン検知用電極、比較例1,2の電極は、いずれも金属イオン検知装置の作用電極とした。
初めに、基準液として10mM塩化カルシウム水溶液を用い、基準液のインピーダンス測定を行い、金属イオン検知装置の基準液のベースラインを求めた。測定条件は、信号発生器から振幅0.03V,周波数45Hzの微小交流(正弦波)を直流電源とインピーダンス測定部に入力し、直流電源は微小交流が重畳された直流を0.55Vから−0.45Vまで0.05Vの大きさで、E−Rpプロット又はE−Xpプロットのパターンが定常状態になるまで走査した。ひとつの電位における印加時間は1.5秒であり、1走査に要する時間は30秒間とした。
なお、E−Rpプロット、E−Xpプロットのいずれのパターンを用いても金属イオンの検知が可能であるが、以下の説明では、E−Rpプロットのパターンを用いた場合について説明する。
次に、Pb(NOを基準液と同じ10mM塩化カルシウム水溶液に溶解した高濃度溶液を、マイクロピペット等を用いて基準液に添加し、濃度2×10−8Mの溶液を調製した。スターラーを用いて撹拌し溶液が均一に混合された後スターラーを停止し、溶液を静置した状態で、基準液を測定したのと同様にして、溶液の定常状態におけるE−Rpプロットのパターンを求めた。このパターンから、基準液のベースラインのパターンを差し引きしてE−ΔRpのパターンを求めた。
図7は濃度2×10−8MにおけるPb2+のE−ΔRpのパターンである。
図7から、比較例1,2の電極では応答がほとんど見られないが、実施例3の金属イオン検知用電極では電位−0.3VにおけるΔRpが正方向に大きくなり、Pb2+を高感度に検出できることがわかった。
【0068】
次に、実施例3の金属イオン検知用電極と比較例1の電極について、Pb2+に対する濃度依存性を評価した。基準液と同じ10mM塩化カルシウム水溶液に溶解した高濃度の金属イオン溶液を、マイクロピペット等を用いて基準液に添加して各種濃度の溶液を調製し、上述と同じ方法でE−ΔRpのパターンを求めた。
図8(a)は実施例3の金属イオン検知用電極のPb2+濃度に対するE−ΔRpのパターンであり、(b)はPb2+濃度と−0.3VにおけるΔRpとの関係を示した図であり、図9(a)は比較例1の電極のPb2+濃度に対するE−ΔRpのパターンであり、(b)はPb2+濃度と−0.25VにおけるΔRpとの関係を示した図である。
図8(a)から、実施例3の金属イオン検知用電極は、−0.3Vの電位において2×10−10M程度の低濃度から高濃度になるにつれて正方向に応答が増大しているのに対し、図9に示す比較例1の電極では10−7M程度からしか応答を示しておらず、感度が著しく高められたことがわかる。また、図8(b)の関係から、実施例3の金属イオン検知用電極は、定量性も得られていることがわかる。
【0069】
次に、実施例3の金属イオン検知用電極の応答性と、Pb2+が含まれた検体溶液のpHとの関係を評価した。
図10(a)はPb2+検体溶液のpHとE−ΔRpのパターンとの関係を示す図であり、(b)はpHと−0.3VにおけるΔRpとの関係を示す図である。
図10からわかるように、pH3以外の検体溶液では電位−0.3V付近で正の応答が確認でき、pH5からpH7までセンサ応答が増加し、中性付近で最大値を示した。また、pH8以上では応答が著しく減少した。これは、pH8以上での鉛イオンの水酸化物の形成によるものと考えられる。
【0070】
次に、実施例3の金属イオン検知用電極の種々の金属イオンに対する選択性を、種々の金属イオンにおけるE−ΔRpのパターンを評価した。
図11はCd(NO・4HO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターンであり、図12はHg(NO・nHO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターンであり、図13はNi(NO・6HO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターンであり、図14はCu(NO・3HO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターンであり、図15はCr(NO・9HO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターンであり、図16はZn(NO・6HO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターンであり、図17はCo(NO・6HO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターンである。
以上から、Cdでは約−0.2Vの電位において0.6×10−6Mの濃度から、Hgイオンでは約0.4Vの電位において0.2×10−6Mの濃度から、Niイオンでは約0.
2Vの電位において1×10−5Mの濃度から応答が検知され始め、Cuイオンでは0.2×10−7Mの濃度でも応答が検知された。一方、Cr,Zn,Coイオンに対しては、1×10−5M程度の高濃度であっても特異的なインピーダンス変化は見られないことがわかった。
従って、実施例3の金属イオン検知用電極は、金属イオンの種類に対して高い選択性を有していることが明らかになった。
【0071】
次に、検体溶液に複数の金属イオンが混合された場合の実施例3の金属イオン検知用電極の応答性について評価した。
インピーダンスの測定は、2×10−7MのCd,Cu,Hgの各イオンを含む10mM KCl基準液に、Pbイオンを加えながら濃度を2×10−10Mから6×10−8Mまで変えて行った。
図18はCdイオンとPbイオンとの混合溶液におけるE−ΔRpのパターンであり、図19はCuイオンとPbイオンとの混合溶液におけるE−ΔRpのパターンであり、図20はHgイオンとPbイオンとの混合溶液におけるE−ΔRpのパターンであり、図21はCo,Zn,Niイオン(各濃度2×10−7M)とPbイオンとの混合溶液におけるE−ΔRpのパターンである。
図18乃至図20によれば混合溶液の場合もPbイオンは約−0.3Vの電位において2×10−9Mの濃度から検知可能であり、図21によれば4種の金属イオンの混合溶液の場合もPbイオンを高感度で選択的に検知できることがわかった。また、図19では、図14に示したCuイオンの場合の0V付近にみられたインピーダンス変化が現れており、図20では、図12に示したHgイオンの場合の0.3V付近にみられたインピーダンス変化が現れている。このことから、混合されたPbイオン以外の金属イオンの種類も検知できることがわかった。
【0072】
(実施例4)
基体を20mM (N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン):10mM Cu(NO・3HO水溶液の金属錯体溶液に浸漬した以外は、実施例3と同様にして、実施例4の金属イオン検知用電極を得た。
実施例4の金属イオン検知用電極を作用電極として、実施例3の場合と同様にE−ΔRpのパターンを求めた。
【0073】
図22はCu(NO・3HO溶液における実施例4の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターンであり、図23はCu(NO・3HO溶液における比較例1の電極のE−ΔRpのパターンである。
図22から、実施例4の金属イオン検知用電極は0.1Vの電位において10−8Mの濃度から特異的なE−ΔRpのパターンがみられるのに対し、図23の比較例1の電極では、10−7Mの濃度からしか特異的なE−ΔRpのパターンがみられないことがわかった。以上のことから、実施例4の金属イオン検知用電極は、従来の比較例1の電極に比べ、約1桁の感度増加がみられることがわかった。
【0074】
次に、検体溶液に複数の金属イオンが混合された場合の実施例4の金属イオン検知用電極の応答性について評価した。
図24は同量のCuイオン,Hgイオンを含む混合溶液における実施例4の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターンであり、図25は同量のCuイオン,Pbイオンを含む混合溶液における実施例4の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターンである。
実施例4の金属イオン検知用電極の場合も、0.1V,0.4V,−0.3Vの電位において混合溶液に含まれる複数の金属イオンに特異的なインピーダンス変化がみられており、Pb、Cu、Hgの各イオンを検知できることが明らかになった。
【0075】
以上のように本実施例の金属イオン検知用電極によれば、金属錯体で形成された鋳型を有しているので、検体溶液に含まれる金属イオンの種類や濃度を高感度で選択性よく検知できることが明らかになった。また、複数種の金属イオンが含まれる混合溶液であっても、同様に検知できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、検体溶液中の金属イオン、特にFe,Cr,Co,Cu,Pb,Zn,Cd,Hg等の重金属イオンを検知する金属イオン検知用電極及びその製造方法に関し、金属酸化物層で固定化された金属錯体から解離した中心金属イオンが鋳型を形成し、解離した中心金属イオンの種類に応じて金属イオンの識別性を発現させることができ選択性に優れ、さらに鋳型が形成されていない従来の電極を用いた場合と比較して、より低濃度の金属イオンも検知することができ検知感度に著しく優れる金属イオン検知用電極を提供でき、また製造過程において錯体吸着層が溶解したり脱着したりするのを防止でき金属イオンの識別性を有する鋳型を基体に確実に形成することができ生産安定性に優れ、不純物によって金属イオンの鋳型の形状が崩れることがなく識別性と感度を高めることができる高感度の金属イオン検知用電極が得られる金属イオン検知用電極の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】(a)電極界面の等価回路を示す図 (b)等価回路を複素平面図で示す図
【図2】(a)実施の形態1における金属イオン検知用電極の模式断面図 (b)金属錯体から金属イオンを解離させる前の製造途中の金属イオン検知用電極の模式断面図
【図3】実施の形態2における金属イオン検知用電極の模式断面図
【図4】実施の形態3における金属イオン検知装置の構成図
【図5】実施例1の金属イオン検知用電極(QCM電極)を各金属イオンの水溶液に浸漬したときの振動数変化を示す図
【図6】実施例2の金属イオン検知用電極(QCM電極)を各金属イオンの水溶液に浸漬したときの振動数変化を示す図
【図7】濃度2×10−8MにおけるPb2+のE−ΔRpのパターン
【図8】(a)実施例3の金属イオン検知用電極のPb2+濃度に対するE−ΔRpのパターン (b)Pb2+濃度と−0.3VにおけるΔRpとの関係を示した図
【図9】(a)比較例1の電極のPb2+濃度に対するE−ΔRpのパターン (b)Pb2+濃度と−0.25VにおけるΔRpとの関係を示した図
【図10】(a)Pb2+検体溶液のpHとE−ΔRpのパターンとの関係を示す図 (b)pHと−0.3VにおけるΔRpとの関係を示す図
【図11】Cd(NO・4HO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターン
【図12】Hg(NO・nHO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターン
【図13】Ni(NO・6HO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターン
【図14】Cu(NO・3HO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターン
【図15】Cr(NO・9HO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターン
【図16】Zn(NO・6HO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターン
【図17】Co(NO・6HO溶液における実施例3の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターン
【図18】CdイオンとPbイオンとの混合溶液におけるE−ΔRpのパターン
【図19】CuイオンとPbイオンとの混合溶液におけるE−ΔRpのパターン
【図20】HgイオンとPbイオンとの混合溶液におけるE−ΔRpのパターン
【図21】Co,Zn,Niイオン(各濃度2×10−7M)とPbイオンとの混合溶液におけるE−ΔRpのパターン
【図22】Cu(NO・3HO溶液における実施例4の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターン
【図23】Cu(NO・3HO溶液における比較例1の電極のE−ΔRpのパターン
【図24】同量のCuイオン,Hgイオンを含む混合溶液における実施例4の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターン
【図25】同量のCuイオン,Pbイオンを含む混合溶液における実施例4の金属イオン検知用電極のE−ΔRpのパターン
【符号の説明】
【0078】
1,1a,1b 金属イオン検知用電極
2 基体
3,5,7,9 金属酸化物層
4,4a,6,6a,8 金属錯体
11 金属イオン検知装置
12 検体容器
13 回転子
14 スターラー
15 参照電極
16 補助電極
17 直流電源
18 信号発生器
19 インピーダンス測定部
20 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基体と、前記基体の表面に形成された金属酸化物層と、前記金属酸化物層で固定化され中心金属イオンの解離した金属錯体と、を備えていることを特徴とする金属イオン検知用電極。
【請求項2】
前記基体が、単結晶シリコン、窒化シリコン、圧電性結晶、圧電セラミックス、圧電性薄膜、圧電性高分子のいずれかで形成された基板の表面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属イオン検知用電極。
【請求項3】
前記中心金属イオンが、Fe,Ni,Cr,Co,Cu,Pb,Zn,Cd,Sn,Pt,Hgのいずれか1種若しくは複数種のイオンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属イオン検知用電極。
【請求項4】
導電性の基体又は前記基体の表面に形成された金属酸化物層に金属錯体を接触させ錯体吸着層を形成する金属錯体吸着工程と、前記錯体吸着層に蒸気状態の金属酸化物前駆体を接触させ前記錯体吸着層の表面に前記金属酸化物前駆体の前駆体吸着層を形成する前駆体吸着工程と、前記前駆体吸着層を加水分解して金属酸化物層を形成し前記金属錯体を固定化する金属酸化物層形成工程と、前記金属酸化物層に固定化された前記金属錯体から金属イオンを解離させる金属イオン解離工程と、を備えていることを特徴とする金属イオン検知用電極の製造方法。
【請求項5】
前記金属錯体が、前記基体又は前記金属酸化物層に親和性の配位子を有していることを特徴とする請求項4に記載の金属イオン検知用電極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2007−256182(P2007−256182A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83283(P2006−83283)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業委託研究「オンサイト型環境汚染物質高感度迅速分析システムの開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】