説明

金属ガラス合金複合化材および金属ガラス合金複合化材の製造方法

【課題】性能指数Mが600以上で、高強度と高導電性とを併せ持ち、製造加工コストを低減することができる金属ガラス合金複合化材および金属ガラス合金複合化材の製造方法を提供する。
【解決手段】原子%による組成が、組成式:FeCoNiSi(式中、0≦a≦80、0≦b≦80、0≦c≦18、70<a+b+c≦80、7≦x≦21、4≦y≦16、18≦x+y≦25、MはNbおよびTaのうちいずれか一方または両方、0≦z≦5)の金属ガラス合金の表面に、Niから成る密着中間層を介して、導電性のメッキ層を形成して成る。金属ガラス合金は、厚さが10μm乃至25μmである。メッキ層は、CuおよびAgのうち少なくとも一方を含み、厚さが20μm乃至50μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ガラス合金複合化材および金属ガラス合金複合化材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの情報機器は、小型化、高密度化が進み、今後も更に進展すると考えられる。従来、このような機器のコネクタの電気接点ばね部材の中でも、特に高強度および厳しい曲げ加工性が要求される部位については、主にC1720等のベリリウム銅合金が使用されている。しかし、将来の超小型コネクタ用電気接点ばね部材として狭ピッチ化に対応するには、ベリリウム銅合金では材料強度と導電性との両面で不十分と考えられる。また、ベリリウムは毒性の高い元素として知られ、人体や環境への影響を考慮して、今後はベリリウムを含まない銅合金の使用が望まれている。
【0003】
このため、ベリリウムを含まず高強度かつ高導電率を有する銅合金が開発されてきており、例えば、コルソン合金などに代表される析出硬化型銅合金や、Cu−Ni−Sn系、Cu−Ti系等のスピノーダル分解型銅合金が知られている。析出硬化型銅合金としては、Cu−Zr、Cu−Cr、Cu−Ag、Cu−Fe等を基本形に、様々な合金開発が盛んに行われている(たとえは、特許文献1乃至4参照)。これらの析出硬化型銅合金では、Cuに強度を向上させるための合金元素を添加することで、Cu母相と異なる第2相を析出させ、さらに強加工によりこの相を細かく分散させることにより、高強度と高導電率とを両立させることを可能としている。また、スピノーダル分解型銅合金としては、適切に組織制御されたCu−Ni−Sn系合金を用いて、高強度と優れた曲げ加工性とを有するものがある(例えば、特許文献5参照)。
【0004】
なお、Ni基、Co基およびFe基の金属ガラス合金は、優れた軟磁気特性のみならず、2500MPaを超える超高強度特性を示すことが明らかにされている(例えば、特許文献6乃至8参照)。これらの金属ガラス合金に他の結晶質金属を複合化する試みが為されているが、その目的は皮膜の耐久性向上および表面への有彩色付与である(例えば、特許文献9参照)。複合材の物性は、いわゆる「複合則」がその目安となる(例えば、非特許文献1参照)。特に、複合材の強度は、影響を及ぼす要素が多数あり、理想的な状態で得られる強度が複合則で得られる値に相当する。この値を上限として、種々の要素により強度が低下するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2501275号公報
【特許文献2】特開平10−183274号公報
【特許文献3】特開2005−281757号公報
【特許文献4】特開2006−299287号公報
【特許文献5】特開2009−242895号公報
【特許文献6】特開2002−194514号公報
【特許文献7】特開2003−253408号公報
【特許文献8】特開2003−301247号公報
【特許文献9】特開2007−77475号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】西田義則著、「金属基複合材料入門」、コロナ社、2001年7月5日、p.9,108
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高い強度と高導電率との相反する両特性のバランスを表す無次元性能指数を、M=σ(強度;MPa)×δ(導電率;%IACS)/100と定義すると、従来の銅合金は、性能指数M=300×0.9=270程度に留まっており、M値が小さい。特許文献2に記載の、Cr、Znなど多数の元素を少量添加したCu−Zr系の銅合金では、約M=600×0.7=420程度である。また、特許文献3に記載のCu−Zr−B系の銅合金では、M=450程度である。しかしながら、電気接点コネクタの狭ピッチ化・低背化に対応するためには、性能指数Mが600以上の合金開発が強く望まれているという課題があった。
【0008】
また、特許文献1乃至5に記載の導電性銅合金では、主に合金元素をCu母相へ再固溶させて加工性を向上させるための高温での溶体化処理や、第2相を適正に析出させて望ましい特性を発現させるための時効処理といった複数回の熱処理を必要とし、最終部材となるまでに煩雑なプロセスを経なければならないために、多量の熱エネルギーが必要であり、製造加工コストが嵩むという課題があった。
【0009】
一方、特許文献6に記載のような金属ガラス合金は、2500MPaを超える高強度特性を示している。しかしながら、その原子配列が無秩序充填構造であることから、自由電子の経路が散乱し、一般的に導電率が1%IACS程度と、導電材料としては好ましくないという課題があった。また、特許文献9に記載のように、金属ガラス合金の高強度特性を活かすために、金属ガラス合金を他の結晶質金属で被覆することも試みられているが、皮膜の耐久性向上と表面への有彩色付与を主たる目的としており、高強度と高導電率とを兼備させるものではなかった。
【0010】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、性能指数Mが600以上で、高強度と高導電性とを併せ持ち、製造加工コストを低減することができる金属ガラス合金複合化材および金属ガラス合金複合化材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る金属ガラス合金複合化材は、金属ガラス合金の表面に導電性のメッキ層を形成して成ることを、特徴とする。
【0012】
本発明に係る金属ガラス合金複合化材の製造方法は、金属ガラス合金の表面に、電気メッキまたは無電解メッキにより導電性のメッキ層を形成することを、特徴とする。
【0013】
本発明に係る金属ガラス合金複合化材は、本発明に係る金属ガラス合金複合化材の製造方法により、好適に製造することができる。本発明に係る金属ガラス合金複合化材は、金属ガラス合金が高強度特性を有し、メッキ層が導電性を有しているため、高強度と高導電性とを併せ持つことができる。金属ガラス合金やメッキ層として適切な材質や厚みのものを使用し、金属ガラス合金とメッキ層との密着性を高めることにより、特に強度および導電性に優れたものとすることができる。また、いわゆる「複合則」から予想される値を大きく上回る引張強さを得ることもできる。
【0014】
本発明に係る金属ガラス合金複合化材は、電気メッキまたは無電解メッキによりメッキ層を形成することにより、十分な高強度特性を得ることができる。毒性の高いベリリウムを含まないため、人体や環境に与える危険性が格段に低く、安全性が高い。また、一般の導電性銅合金のように、高温長時間加熱の後に急冷が必要な溶体化処理や時効硬化熱処理等が必要ないため、製造加工コストを低減することができる。
【0015】
本発明に係る金属ガラス合金複合化材で、前記金属ガラス合金は、原子%による組成が、組成式:FeCoNiSi(式中、0≦a≦80、0≦b≦80、0≦c≦18、70<a+b+c≦80、7≦x≦21、4≦y≦16、18≦x+y≦25、MはNbおよびTaのうちいずれか一方または両方、0≦z≦5)であることが好ましい。また、本発明に係る金属ガラス合金複合化材で、前記金属ガラス合金は、厚さが10μm乃至25μmであることが好ましい。
【0016】
本発明に係る金属ガラス合金複合化材の製造方法で、前記金属ガラス合金は、原子%による組成が、組成式:FeCoNiSi(式中、0≦a≦80、0≦b≦80、0≦c≦18、70<a+b+c≦80、7≦x≦21、4≦y≦16、18≦x+y≦25、MはNbおよびTaのうちいずれか一方または両方、0≦z≦5)であり、厚さが10μm乃至25μmであることが好ましい。
【0017】
一般に、各元素を所望の組成に調合した母合金を溶解した後、急冷凝固により固化させることにより、金属ガラス合金を製造することができる。本発明に係る金属ガラス合金複合化材では、Fe、Co、Niから選ばれる1種または2種以上の主構成元素群に対して、半金属元素であるBおよびSiを混合した金属ガラス合金を使用する。BおよびSiは、主構成元素群に対して負の混合熱を有するため、これらを混合すると、共晶を形成して融点を降下せしめる。このような溶融共晶合金を急冷凝固させることで、合金は結晶構造を持たず金属ガラスとして固化し、超高強度特性を発現する。
【0018】
半金属元素であるBおよびSiの組成範囲をそれぞれ、7原子%以上21原子%以下および4原子%以上16原子%以下ならびに、BとSiとの和を18原子%以上25原子%以下にすることにより、2500MPa以上の引張強さを有する金属ガラス合金を得ることができる。BおよびSiが各組成範囲の下限を下回ると、急冷凝固によっても金属ガラス相が得られない。また、BおよびSiが各組成範囲の上限を超えると、金属ガラス相は形成されるものの脆く、2500MPaを超える引張強さは得られない。
【0019】
また、Nb、Taから選ばれる1種または2種の添加元素群は、Fe、Co、Niから選ばれる主構成元素群と、BおよびSiから選ばれる1種または2種の半金属元素群との組み合わせで得られる金属ガラス形成能を飛躍的に向上することができる。ただし、Nb、Taから選ばれる1種または2種の添加元素群が5原子%以上になると、却って金属ガラス形成能を低下させるとともに、得られた試料が脆化し強度が低下する。また、Nb、Taから選ばれる1種または2種の添加元素群は、金属ガラスの形成および得られた金属ガラスの高強度特性の観点からは必ずしも必須ではない。
【0020】
金属ガラス合金の厚さを10μm乃至25μmとすることにより、最適な引張強さが得られる。金属ガラス合金の厚みが10μm未満となると、急冷凝固時に溶融合金の流れが不均一となり、空隙、湯境または端部のバリ等の鋳造欠陥が発生するため、引張応力下での強度が得られない。また、金属ガラス合金の厚みが25μmを超えると、急冷凝固時の冷却速度が低下し、形成された金属ガラス合金が構造緩和する。構造緩和した金属ガラス合金は脆化し、引張応力下での強度が得られない。
【0021】
本発明に係る金属ガラス合金複合化材で、前記金属ガラス合金と前記メッキ層との間に、Niから成る密着中間層を有することが好ましい。また、本発明に係る金属ガラス合金複合化材で、前記メッキ層は、CuおよびAgのうち少なくとも一方を含み、厚さが20μm乃至50μmであることが好ましい。
【0022】
本発明に係る金属ガラス合金複合化材の製造方法は、前記金属ガラス合金の表面にNiから成る密着中間層を形成した後に、CuおよびAgのうち少なくとも一方を含む前記メッキ層を、厚さが20μm乃至50μmとなるよう形成することが好ましい。
【0023】
金属ガラス合金は高耐食性であることに加えて、表面粗さが極めて小さいことから、その表面にメッキ層を直接形成せしめても密着性が悪く、十分な高強度特性が得られない。そこで、金属ガラス合金の表面にNiから成る密着中間層を形成することにより、メッキ層の密着性を高めることができ、十分な高強度特性を得ることができる。
【0024】
また、メッキ層が、比抵抗が極めて小さいCuおよびAgのうち少なくとも一方を含むことにより、高導電性とすることができる。また、メッキ層の厚さを20μm乃至50μmとすることにより、特に優れた高強度と高導電性とを併せ持つことができる。メッキ層の厚みが20μm未満となると、金属ガラス合金と複合化した際に、50%IACS以上の導電率が得られない。また、メッキ層の厚みが50μmを超えると、複合化材の内部に大きな残留応力が発生するため、1200MPa以上の引張強さが得られない。なお、メッキ層の厚さは、薄板状の金属ガラス合金の両面に形成される場合には、両面の厚みを合わせたものである。
【0025】
本発明に係る金属ガラス合金複合化材は、引張強さが1200MPa以上であり、導電率が50%IACS以上であることが好ましい。この場合、高い強度と高導電率との相反する両特性のバランスを表す無次元性能指数M[=σ(強度;MPa)×δ(導電率;%IACS)/100]が600以上となり、優れた強度と導電性とを併せ持っている。なお、IACS(International Annealed Copper Standard;国際焼きなまし銅線標準)とは、焼鈍した純銅の導電性に対する相対比として表される値である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、性能指数Mが600以上で、高強度と高導電性とを併せ持ち、製造加工コストを低減することができる金属ガラス合金複合化材および金属ガラス合金複合化材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材の芯材となる金属ガラス合金の薄帯を製造する方法を示す模式側面図である。
【図2】本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材の芯材となる(a)厚さ18μmの市販のFe7813Si金属ガラス合金、(b)厚さ19μmのFe7220SiNb金属ガラス合金の、引張応力下での公称応力−公称ひずみ曲線を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材の芯材となる金属ガラス合金の表面に、導電性のメッキ層を形成するメッキ法を示す模式断面図である。
【図4】本発明の実施の形態の(a)Fe7813Si金属ガラス合金の両表面にCuメッキ層を付与した金属ガラス合金複合化材、(b)Fe7220SiNb金属ガラス合金の両表面にCuメッキ層を付与した金属ガラス合金複合化材の断面組織を示す顕微鏡写真である。
【図5】(a)図4(a)に示す金属ガラス合金複合化材、(b)図4(b)に示す金属ガラス合金複合化材の、引張応力下での公称応力−公称ひずみ曲線を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材の、引張試験片の形状を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図5は、本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材および金属ガラス合金複合化材の製造方法を示している。
【0029】
本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材は、金属ガラス合金の表面に、密着中間層を介して導電性のメッキ層を形成して成っている。金属ガラス合金は、原子%による組成が、組成式:FeCoNiSi(式中、0≦a≦80、0≦b≦80、0≦c≦18、70<a+b+c≦80、7≦x≦21、4≦y≦16、18≦x+y≦25、MはNbおよびTaのうちいずれか一方または両方、0≦z≦5)であり、厚さが10μm乃至25μmである。密着中間層は、Niから成っている。メッキ層は、CuおよびAgのうち少なくとも一方を含み、厚さが20μm乃至50μmである。
【0030】
本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材は、以下に示す本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材の製造方法により製造される。
まず、金属ガラス合金を製造する。図1に示すように、あらかじめアルゴン雰囲気中で、アーク溶解炉により、上記のFeCoNiSiの組成を有する母合金1を溶製し、石英製ノズル2内に装填して、高周波誘導加熱により再溶解させる。再溶解した母合金1の溶湯を、石英製ノズル2の下部のオリフィスよりガス圧等により噴出させ、石英製ノズル2の下部に設置した銅製の回転ロール3上に吹きつけて冷却凝固させる。この単ロール型液体急冷法により、所望の組成を有し、厚さが10μm乃至25μmの、長尺の金属ガラス合金の薄帯4を得ることができる。
【0031】
なお、母合金1を溶解する方法は、アルゴン雰囲気中アーク溶解および高周波誘導加熱のみに限定されるものではなく、抵抗加熱、電子ビーム加熱等も用いることができる。また、金属ガラス合金を溶解する雰囲気は、アルゴンのみに限定されるものではなく、大気、窒素、不活性ガス等も用いることができる。さらに、溶解した母合金1を冷却凝固させる方法は、単ロール型液体急冷法のみに限定されるものではなく、双ロール型液体急冷法、銅鋳型鋳造法等も用いることができる。加えて、単ロール型液体急冷法に使用される回転ロール3の材質および形状は、銅製および円板状に限定されるものではなく、製造時のロール回転数も特に限定されるものではない。回転ロールの材質は、純銅、クロム銅および鋼等が好ましく、ロール直径、ロール幅、ロール表面の粗さ等の形状を工夫することにより、長尺の金属ガラス合金の薄帯4を製造することができる。
【0032】
図2に、得られた金属ガラス合金の引張応力下での公称応力−公称ひずみ曲線の例を示す。図2(a)は、厚さ18μmの市販のFe7813Si金属ガラス合金(METGLAS(登録商標) 2605TCA)の公称応力−公称ひずみ曲線を示している。引張強さσMAXは2285MPa、導電率は1.1%IACSである。また、図2(b)は、厚さ19μmのFe7220SiNb金属ガラス合金の公称応力−公称ひずみ曲線を示している。引張強さσMAXは2913MPa、導電率は0.9%IACSである。
【0033】
得られた金属ガラス合金の表面に、Niから成る密着中間層を形成した後、厚さ20μm乃至50μmのメッキ層を形成する。図3に、金属ガラス合金の表面にCuをメッキ層として形成する、メッキ法の模式図を示す。メッキ層は、図3に示すCuだけでなく、Agであってもよい。また、メッキ法は、電気メッキまたは無電解メッキが好ましいが、そのメッキ浴組成、メッキ温度、電気メッキの通電電圧および電流、無電解メッキの還元剤等は、メッキ層を形成可能であればいかなるものであってもよい。
【0034】
こうして、本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材を製造することができる。製造された金属ガラス合金複合化材の断面組織の例を、図4に示す。図4(a)は、図2(a)に示す市販のFe7813Si金属ガラス合金(METGLAS(登録商標) 2605TCA)の両表面にCuメッキ層を付与した金属ガラス合金複合化材の断面組織である。図4(a)に示すように、厚さ18μmの金属ガラス合金の両表面に、計43μmの厚さでCuメッキ層が形成されていることが確認できる。
【0035】
また、図4(b)は、図2(b)に示すFe7220SiNb金属ガラス合金の両表面にCuメッキ層を付与した金属ガラス合金複合化材の断面組織である。図4(b)に示すように、厚さ19μmの金属ガラス合金の両表面に、計38μmの厚さでCuメッキ層が形成されていることが確認できる。
【0036】
図5に、製造された金属ガラス合金複合化材の引張応力下での公称応力−公称ひずみ曲線の例を示す。図5(a)は、図4(a)に示す金属ガラス合金複合化材の公称応力−公称ひずみ曲線であり、引張強さσMAXは1240MPa、導電率は52.1%IACSである。図5(b)は、図4(b)に示す金属ガラス合金複合化材の公称応力−公称ひずみ曲線であり、引張強さσMAXは1555MPa、導電率は62.2%IACSである。図4(a)および(b)に示す金属ガラス合金複合化材はどちらも、性能指数Mが600以上となり、優れた高強度と高導電性とを併せ持っているといえる。
【0037】
なお、本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材は、毒性の高いベリリウムを含まないため、人体や環境に与える危険性が格段に低く、安全性が高い。また、一般の導電性銅合金のように、高温長時間加熱の後に急冷が必要な溶体化処理や時効硬化熱処理等が必要ないため、製造加工コストを低減することができる。金属ガラス合金の厚みとメッキ層の厚みとを変化させることにより、強度と導電率とを高いバランスで任意に制御することができる。
【実施例1】
【0038】
本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材の製造方法により、本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材を20種類(試料1〜20)製造し、その組成、構成、引張強さ、導電率、性能指数Mをまとめ、表1に示す。引張試験では、各試料を冷間打抜き加工して図6に示す形状にし、これを引張試験片とした。また、導電率は、金属ガラス合金複合化材の表面酸化スケールを除去した後、直流四端子法で測定した。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材は、引張強さが1200MPa以上、導電率が50%IACS以上であり、強度および導電性に優れていることが確認された。また、これらの積で表される性能指数Mは、全て600以上となっている。
【0041】
表1の試料3では、芯材となる金属ガラス合金の厚さが19μmであり、メッキ層であるCuの厚さが38μmである。両者の幅はほぼ同一であることから、断面積比は19:38=1:2となる。金属ガラス合金のみの引張強さは、表1に示すように、2913MPaであり、メッキ層のCuの引張強さは約200MPaである。このことから、複合則から予想される金属ガラス合金複合化材の引張強さは、σ=2913×1/3+200×2/3=1104MPaとなる。しかしながら、表1に示すように、実際の金属ガラス合金複合化材の引張強さは、1555MPaであり、複合則から予想される値の約1.4倍となっている。
【0042】
この複合則からの予想値と実測値との差は、金属ガラス合金の特異な変形挙動に起因すると考えられる。一般に、金属ガラス合金は、通常の結晶合金に比べて約1/3のヤング率を有し、一軸の引張応力に対して2%程度のひずみ領域まで弾性変形し、その後最大せん断面ですべり変形を起こして破断に至る。ここで、金属ガラス合金の表面にメッキ層となる結晶合金を付与した金属ガラス合金複合化材では、引張ひずみに対してヤング率が約3倍のメッキ層に応力が集中するため、金属ガラス合金の応力負荷が軽減される。金属ガラス合金自体も、印加された引張ひずみにより、引張軸に垂直な方向に、ポアソン比に応じた圧縮応力が発生する。この応力負荷軽減と圧縮応力とによる相乗効果により、金属ガラス合金の最大せん断面でのすべり変形が抑制され、金属ガラス合金複合化材が予想を上回る引張強さを発現するものと考えられる。なお、密着中間層は、金属ガラス合金とメッキ層との結合を強化する作用があり、密着中間層がない場合は、ひずみの印加により両者の界面で剥離が発生するため、予想強度すら得ることができない。一方、導電率の実測値については、複合則から予想される値にほぼ一致する。
【0043】
比較例として、同様の製造方法により、異なる条件で製造された複合化材(比較試料1〜18)について、その組成、構成、引張強さ、導電率、性能指数Mをまとめ、表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示すように、比較試料1〜18は、引張強さ1200MPa以上と、導電率30%IACS以上とを兼備させることができず、性能指数M=600以上を得ることができないことが確認された。これを具体的に見ていくと、比較試料1および2は、本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材と比べて、金属ガラス合金の組成のSi含有量が少ないか、B含有量が多くなっている。このため、導電率は良好ながらも、引張強さが小さくなっている。
【0046】
また、比較試料3および4も同様に、本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材と比べて、金属ガラス合金の組成のBとSiとの和の含有量が少ないか、多くなっている。このため、導電率は良好ながらも、引張強さが小さくなっている。比較試料5および6も同様に、本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材と比べて、金属ガラス合金の組成のNbまたはTaの含有量が多くなっている。このため、導電率は良好ながらも、引張強さが小さくなっている。
【0047】
比較試料7および8は、本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材と比べて、金属ガラス合金の厚さがそれぞれ薄く、または厚くなっている。このため、比較試料7では引張強さが小さく、比較試料8では引張強さおよび導電率が小さくなっている。比較試料9および10は、密着中間層がないため、金属ガラス合金とメッキ層との界面強度が得られず、引張強さが小さくなっている。
【0048】
比較試料11および12は、メッキ層を形成するメッキ法が電気メッキまたは無電解メッキではないため、引張強さが小さくなっている。比較試料13〜16は、メッキ層がCuまたはAgを含んでいないため、導電率が小さくなっている。比較試料17および18は、本発明の実施の形態の金属ガラス合金複合化材と比べて、メッキ層の厚さがそれぞれ薄く、または厚くなっている。このため、比較試料17では導電率が小さく、比較試料18では引張強さが小さくなっている。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る金属ガラス合金複合化材は、主に携帯電話等に代表される小型情報機器のコネクタ用電気接点ばね部材として利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 母合金
2 石英製ノズル
3 回転ロール
4 金属ガラス合金の薄帯


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ガラス合金の表面に導電性のメッキ層を形成して成ることを、特徴とする金属ガラス合金複合化材。
【請求項2】
前記金属ガラス合金は、原子%による組成が、組成式:FeCoNiSi(式中、0≦a≦80、0≦b≦80、0≦c≦18、70<a+b+c≦80、7≦x≦21、4≦y≦16、18≦x+y≦25、MはNbおよびTaのうちいずれか一方または両方、0≦z≦5)であることを、特徴とする請求項1記載の金属ガラス合金複合化材。
【請求項3】
前記金属ガラス合金は、厚さが10μm乃至25μmであることを、特徴とする請求項1または2記載の金属ガラス合金複合化材。
【請求項4】
前記金属ガラス合金と前記メッキ層との間に、Niから成る密着中間層を有することを、特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属ガラス合金複合化材。
【請求項5】
前記メッキ層は、CuおよびAgのうち少なくとも一方を含み、厚さが20μm乃至50μmであることを、特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属ガラス合金複合化材。
【請求項6】
引張強さが1200MPa以上であり、導電率が50%IACS以上であることを、特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の金属ガラス合金複合化材。
【請求項7】
金属ガラス合金の表面に、電気メッキまたは無電解メッキにより導電性のメッキ層を形成することを、特徴とする金属ガラス合金複合化材の製造方法。
【請求項8】
前記金属ガラス合金は、原子%による組成が、組成式:FeCoNiSi(式中、0≦a≦80、0≦b≦80、0≦c≦18、70<a+b+c≦80、7≦x≦21、4≦y≦16、18≦x+y≦25、MはNbおよびTaのうちいずれか一方または両方、0≦z≦5)であり、厚さが10μm乃至25μmであることを、特徴とする請求項7記載の金属ガラス合金複合化材の製造方法。
【請求項9】
前記金属ガラス合金の表面にNiから成る密着中間層を形成した後に、CuおよびAgのうち少なくとも一方を含む前記メッキ層を、厚さが20μm乃至50μmとなるよう形成することを、特徴とする請求項7または8記載の金属ガラス合金複合化材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−201943(P2012−201943A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68636(P2011−68636)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(592115847)株式会社ケディカ (1)
【Fターム(参考)】