説明

金属チタン製造方法

【課題】酸素の部分濃化を抑制させつつ簡便に金属チタンを作製しうる金属チタン製造方法の提供を課題としている。
【解決手段】金属チタン製造方法にかかる本発明は、混合容器内の閉じられた空間に被混合物が収容されて前記混合容器がその上下を逆転させる方向に回転されることにより前記被混合物の混合が実施される混合装置を用い、3〜15mmのいずれかの平均粒径を有するスポンジチタンと、0.01〜1μmのいずれかの平均粒径を有する酸化チタンとを少なくとも含有している金属チタン原材料を前記混合容器内の空間に占める割合が10〜45体積%のいずれかとなるように前記混合容器に収容させて前記混合を実施する混合工程と、該混合工程で混合された金属チタン原材料を溶解する溶解工程を実施して金属チタンを製造することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属チタン製造方法に関し、より詳しくは、スポンジチタンと酸化チタンとを含む金属チタン原材料を溶解して金属チタンを製造する金属チタン製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チタン合金や純チタンなどの金属チタンは、通常、鉄やその合金などの鉄系金属材料に比べて軽量で強度が高いことからスポーツ・レジャー用具、医療器具、各種プラント用部材、航空・宇宙関係機器などに広く用いられている。
また、耐食性などにも優れることから例えば、プレート熱交換器のプレート材や、自動二輪車のマフラー部材などにも用いられたりしている。
【0003】
この金属チタンは、バナジウムやアルミニウムなどのチタン以外の成分によってその特性が変化することから、用途に適した特性を発揮させるべくこれらの含有量の調整が行われている。
金属チタンは、金属チタンの原材料となるスポンジチタンやバナジウムやアルミニウムなどのチタン以外の成分を含んだ物質を溶解させて製造されることからこの金属チタン原材料の配合調整によって製品に含有させる成分の調整がなされている。
【0004】
この金属チタン原材料の溶解には、真空アーク溶解、電子ビーム溶解、プラズマ溶解、コールドクルーシブル溶解などが知られており、真空アーク溶解では、金属チタン原材料をそのままか、あるいは、一旦混合して均一化させてから、金型でプレス成形して複数の成形体を作製し、この成形体を互いに溶接して消耗電極を作製することが行われており、この消耗電極を真空雰囲気炉内にセットして、消耗電極とチタン溶湯との間に高電圧を印加してアーク放電を起こさせ、その消耗電極自体を溶解させることが行われている。
そして、得られたチタン溶湯を水冷式の鋼るつぼ内で凝固させて金属チタンインゴットを作製することが行われている。
【0005】
電子ビーム溶解、プラズマ溶解あるいはコールドクルーシブル溶解では、真空アーク溶解の場合と同様に形成させた成形体を炉に供給するか、あるいは、金属チタン原材料をプレス成形することなくそのままの状態で炉に供給して、これらを電子ビーム、プラズマ、高周波誘導加熱等で溶解して、金属チタンインゴットを製造する方法が行われている。
【0006】
このようにして得られた金属チタンインゴットは、熱間で鍛造されてビレットやスラブ形状とされ、ビレットは、さらに鍛造、圧延、押し出し加工、または引き抜き加工により丸棒や線材とされ、スラブは、圧延により厚板や薄板に加工される。
したがって、金属チタンインゴットにおいて成分の偏析が生じると上記のような線材や板材への加工において不具合が発生するとともに製品の特性にバラツキを発生させたりするおそれがある。
【0007】
ところで金属チタン原材料の成分として用いられるスポンジチタンは、ステンレス容器内で作製され、容器内の箇所によって不純物の含有量を異ならせており、例えば、不可避不純物である酸素は、容器内で、通常、0.01〜0.1質量%程度の幅を持った状態で含まれている。
この酸素は、金属チタンの強度に与える影響が大きく、その含有量を調整することが行われているが、酸素を多く含むスポンジチタンは、一般に、他の不可避不純物(Fe、Mg、Cl等)も多く含まれていることから、一旦は、不可避不純物の少ないチタンの純度の高い部分を選別し、このチタン純度の高いスポンジチタンに、酸化チタンを添加して不足する酸素を補うことで酸素含有量の調整が行われている。
【0008】
また、不要になったチタン材(スクラップ)に酸化チタンを加えて再溶解し、新たな金属チタンを製造したりすることも行われている。
しかし、酸化チタンをスポンジチタンやスクラップに添加して、必要な酸素濃度になるように調整する場合には、その必要量を計量して、スポンジチタンなどとともに成形体を形成させることになるが、スポンジチタンは、通常、ステンレス容器内で作製された大きな塊を破砕した比較的粒度の粗い粒状である一方で酸化チタンは細かな粉末状でありこれらを用いて均一な混合物を作製するには多大な手間を必要としている。
また、スポンジチタンやスクラップと酸化チタンをあらかじめ混合してから電子ビーム溶解炉に供給する際にも、原料供給装置に酸化チタン粉の一部が残留し、設計値どおりの組成を有する金属チタンを製造することが難しい。
【0009】
このような問題に対し、スポンジチタンやスクラップを成形体金型に約半分の量で投入した後、酸化チタンをまとめて投入して、その後さらに上からスポンジチタンやスクラップを投入して成形体を作製することにより、中央部に酸化チタンが固まった状態で収容された成形体を利用することが提案されている(下記特許文献1参照)。
この方法は、比較的簡便な方法ではあるが、酸化チタンが一箇所に固まった状態で含有されている成形体を用いて真空アーク溶解や電子ビーム溶解を行うと鋳塊に部分的な酸素の濃化を生じやすく、その影響によって冷間圧延板の作製において表面割れが発生したり、蛇腹状の細かな凹凸(以下「蛇腹状肌」ともいう)がチタン板の表面に発生したりして製品化が困難となるおそれを有する。
【0010】
また、小径の棒材に加工する場合に、超音波探傷装置等による内部検査で割れが見出されたり、線材に加工する場合に途中で断線したりするトラブルを発生させるおそれを有する。
これらは、酸化チタンが真空アーク溶解や電子ビーム溶解で十分に拡散できず、酸素の濃化部ができるためであると考えられる。
【0011】
このようなことを防止すべくスポンジチタンの表面に酸化チタンを付着させて真空中で焼結させることも試みられている(下記特許文献2参照)。
この方法では、スポンジチタンの表面に酸化チタンが固着されることによって特許文献1のように固めて酸化チタンが含有される場合に比べて酸素の部分濃化を防止することができる。
一方で、真空加熱のための設備が必要であるばかりでなく、真空中での加熱や冷却に多大な手間を発生させるおそれがある。
【0012】
すなわち、従来、スポンジチタンと酸化チタンとを含有する金属チタン原材料を溶解させて金属チタンを製造させる金属チタン製造方法において、簡便なる手法で酸素の部分濃化を抑制させることが困難であるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−332399号公報
【特許文献2】特開2001−279345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、酸素の部分濃化を抑制させつつ簡便に金属チタンを作製しうる金属チタン製造方法の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、スポンジチタンと酸化チタンとの混合方法に着目して鋭意検討し、混合後における混合容器底部の酸化チタンの残存を低減可能でしかも効率的な混合方法について検討した結果、酸化チタンとスポンジチタンの大きさを所定の大きさとするとともに、これらを容器に所定量収容させて該容器を上下逆転させて全体混合することにより、酸化チタン粉をスポンジチタン表面にある凹みに進入させることができ、酸化チタンとスポンジチタンの分離(底部における酸化チタンの残存)が抑制されることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、前記課題を解決するための金属チタン製造方法にかかる本発明は、混合容器内の閉じられた空間に被混合物が収容されて前記混合容器がその上下を逆転させる方向に回転されることにより前記被混合物の混合が実施される混合装置を用い、3〜15mmのいずれかの平均粒径を有するスポンジチタンと、0.01〜1μmのいずれかの平均粒径を有する酸化チタンとを少なくとも含有している金属チタン原材料を前記混合容器内の空間に占める割合が10〜45体積%のいずれかとなるように前記混合容器に収容させて前記混合を実施する混合工程と、該混合工程で混合された金属チタン原材料を溶解する溶解工程を実施して金属チタンを製造することを特徴としている。
【0017】
なお、“混合容器がその上下を逆転させる方向に回転される”とは、内部の金属チタン原材料が、混合容器内で一方に偏って存在する状態から他方に偏って存在する状態となるように移動される程度に回転されることを意図しており、必ずしも180度回転されることを意図するものではない。
通常、水平方向に横長となる内部空間を有する混合容器であれば、水平状態から上下20度ずつ、合計40度程度の間を往復するように混合容器を回転することで酸化チタン粉をスポンジチタンに担持させることが可能であり、このような場合も本発明の意図する範囲である。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、上記のような混合容器における混合方法を採用することで混合容器底部における酸化チタンの残存を抑制することができ、より多くの酸化チタンをスポンジチタンに担持させうる。
したがって、溶解時において酸化チタンが比較的均一に分散され金属チタンにおける酸素の部分濃化を抑制しうる。
すなわち、本発明によれば混合容器内での混合という簡便なる手法で金属チタンにおける酸素の部分濃化が抑制されうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】混合装置の一例を示す正面図。
【図2】混合装置の他例を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本実施形態における金属チタン製造方法においては、スポンジチタンと、酸化チタンとを少なくとも含有している金属チタン原材料を混合容器で混合する混合工程と、該混合工程で混合された金属チタン原材料を溶解する溶解工程とが実施される。
【0021】
前記混合工程においては、図1、図2に例示されるような混合装置が用いられ得る。
この図1、図2は、それぞれ混合装置の機構を説明するための正面図であり、相互に共通する部分は同一符号を付して示している。
本実施形態の混合工程において用いられる混合装置1は、地面から立ち上がる台形に形成された2つの基台11がそれぞれ左右に離間されて設けられており、該基台11に両端部が保持されて該基台部間に略水平に掛け渡された回転軸AXによって前記金属チタン原材料を収容するための混合容器10が中空位置に支持されている。
前記回転軸AXは、軸周りに回転可能な状態で前記基台部11によって支持されており、前記混合容器10は、前記回転軸AXの回転にともなって回転されるべく回転軸AXに固定されている。
【0022】
図1の混合装置1は、いわゆる“ダブルコーン型”などと呼ばれるもので、この回転軸AXに対して固定されている混合容器10の中央部に上下に延びる短い筒状部10aが形成され、該筒上部の上下両方に縮径部がそれぞれ形成されている。
すなわち、筒状部10aの上端から上方に向けて縮径する円錐台形状の縮径部10bと、筒状部10aの下端から下方に向けて縮径する逆円錐台形状の縮径部10cとが備えられ、全体算盤玉形状に形成されている。
【0023】
この混合容器10における上部側の縮径部10bは、その上端部に蓋部12が形成され、下部側の縮径部10cにはその下端部にダンパー13が形成されている。
前記蓋部12は、この混合容器10に金属チタン原材料を収容させるための開口部を開閉させるためのものであり、前記ダンパー13は、混合された金属チタン原材料を排出させるために設けられた開口部を開閉させるためのものである。
【0024】
したがって、本実施形態における混合装置1は、前記蓋部12と前記ダンパー13とによって混合容器内に閉じられた空間を形成させこの内部空間に金属チタン原材料を収容させた状態で前記回転軸AXの回転によって混合容器10がその上下を逆転させる方向に回転されて金属チタン原材料の混合が実施されるように形成されている。
【0025】
なお、図2に示す、いわゆる“V型混合機”も、混合容器10の上部が左右に分岐して正面視V字状となっている点、この左右の分岐部10d,10eにそれぞれ蓋部12a,12bが設けられている点を除き図1に示す“ダブルコーン型混合機”と同様で、混合容器内に金属チタン原材料を収容させた状態で前記回転軸AXの回転によって混合容器10がその上下を逆転させる方向に回転されて金属チタン原材料の混合が実施されるものである。
これらの例示に限定されることなく、種々の混合装置を本実施形態における混合工程に用いることができる。
【0026】
この混合装置1を用いて混合する金属チタン原材料には、3〜15mmのいずれかの平均粒径を有するスポンジチタンと0.01〜1μmのいずれかの平均粒径を有する酸化チタンとを少なくとも含有させることが重要である。
【0027】
この酸化チタンの大きさに上記範囲が設定されているのは、酸化チタンの平均粒径が1μmよりも大きいと、スポンジチタンの凹みや孔に酸化チタン粒子が進入しにくくなってスポンジチタンに十分担持させることが困難となるためである。
また、下限値が0.01μmとされているのは、この値よりも小さい平均粒径を有する酸化チタンは、一般的に高価で金属チタンの材料コストを増大させるおそれがあるばかりでなく、混合容器に対する出し入れの際に舞い上がりやすくなり作業がしづらくなったり、仕込み量が不正確になったりするおそれがあるためである。
なお、この酸化チタンの平均粒径については、レーザー散乱法等の一般的な測定方法によって求められうる。
【0028】
なお、酸化チタンは、金属チタンへの不純物の導入を防止する観点から純度が95.0質量%以上のものを採用することが好ましい。
なお、酸化チタンに含有されている不純物による影響は、金属チタン全体に占める割合が比較的小さいことから、過度に高純度な酸化チタンを使用しても、全体の不純物低減に実効性を伴わないばかりか、高純度な酸化チタンは、通常、高価であることから金属チタンの材料コストを増大させることとなる。
このような点において酸化チタンの純度は、99.0質量%を上限とすることが好ましい。
【0029】
また、スポンジチタンの大きさに上記範囲が設定されているのは、3mmよりも小さい平均粒径のスポンジチタンは、破砕や整粒に手間がかかるばかりでなく粉状のスポンジチタンの割合が増大して酸化チタンの担持に有用な多孔質状態のスポンジチタンが少なくなるおそれがあるためである。
一方で、その上限値を15mmとしているのは、15mmより大きくなると、取り扱いが容易ではなくなって混合容器への投入作業に手間がかかるおそれを有するためである。
【0030】
このスポンジチタンの平均粒径は、篩い分け法による粒度分布を測定して求めることができる。
例えば、メッシュ間隔が15mmよりも大きな、望ましくは30mm程度の篩から、3mmよりも細かな、望ましくは1mm程度の篩まで、数種類(例えば、合計10種類)の篩を用意し、下からメッシュ間隔が細かな順に積み重ね、この積み重ねた篩に、約1kgのスポンジチタンを通過させそれぞれの篩に残ったスポンジチタンの重量を測定し、横軸にメッシュ間隔、縦軸に篩残重量をとった粒度分布のグラフを作成して求めることができる。
より具体的には、n個の篩におけるそれぞれのメッシュ間隔を(x1〜xn:mm)とし、それぞれの篩残重量を(m1〜mn:g)としたときに、平均粒径(X:mm)は、次の式により求めることができる。
【0031】

【0032】
なお、スポンジチタンに加えて、同じような大きさのスクラップチタンを金属チタン原材料に加えることも可能であるが、スクラップチタンは、スポンジチタンに比べて表面が平滑で、酸化チタンの担持量が少ないことから、全体に加えられる酸化チタンとの量に応じて含有量を定めることが好ましい。
通常、上記平均粒径を有するスポンジチタンと酸化チタンとであれば、スポンジチタンの4.0質量%程度までであれば、スポンジチタンに酸化チタンの略全量を担持させうる。
したがって、例えば、金属チタン原材料に含有されるスポンジチタンの質量を、酸化チタンの質量の25倍以上とすることで金属チタンにおける部分的な酸素濃化をより顕著に抑制させ得る。
このことから、例えば、酸化チタンの配合量が2.0質量%である場合には、スポンジチタンの半分をスポンジチタンと同じく3〜15mmのいずれかの平均粒径を有するスクラップチタンに置き換えたとしても金属チタンにおける部分的な酸素濃化が抑制されることとなる。
【0033】
なお、このような混合装置1を用いて、上記のようなスポンジチタンや酸化チタンを含有する金属チタン原材料を混合する混合工程においては、この酸化チタンとスポンジチタンとを含む金属チタン原材料を前記蓋部12から混合容器内に収容させた後に該蓋部12を閉じて混合容器10を回転させればよい。
このとき、最初に酸化チタンとスポンジチタンとを含む金属チタン原材料を収容させた際には、スポンジチタンの粒子の間を縫ってその底部側に酸化チタンが沈降した状態となる。
この状態で混合容器10が回転によって上下逆転されることで先にスポンジチタンが落下して、該落下したスポンジチタンの上から底部に沈降していた酸化チタンが降りかけられる状態となる。
そして、このことが繰り返される内にスポンジチタンの表面に開口している孔の奥深くに酸化チタンが入り込み、スポンジチタンに酸化チタンが担持されることとなる。
【0034】
そのため、混合容器内における金属チタン原材料の適度な流動性を確保しておくことが重要である。
このようなことから、前記混合容器内の空間に占める金属チタン原材料の割合が10〜45体積%のいずれかとなるように前記混合容器10に収容させて前記混合を実施することが重要である。
【0035】
すなわち、45体積%を超えて混合容器内に金属チタン原材料を収容させると、混合容器の回転時における十分な流動性が得られず、混合工程に要する時間を長期化させるおそれがある。
いっぽうで、10体積%未満とすると、一度に混合可能な金属チタン原材料の量が少量になるため、溶解工程に供給するのに必要な量を確保するために混合装置の運転を数多く繰り返さざるを得なくなり、結果、混合工程に要する時間を長期化させるおそれがある。
【0036】
なお、このとき金属チタン原材料が、混合容器内で一方の端から他方の端に移動すればよく、必ずしも混合容器10が180度回転することは必要事項ではない。
この回転角度については、容器内部の空間の形状にもよって異なるため一概に決定することは困難であるが、一方に20〜50度傾けた後に、逆方向に20〜50度、振り幅40〜100度のいずれかとなる混合容器10の回転を実施させることで、通常、スポンジチタンに酸化チタンをより確実に担持させうる。
ただし、さらに確実且つ短時間にスポンジチタンに酸化チタンを担持させるためには、混合容器10の上下が全く逆転されるように、混合容器10を180度以上回転させることが好ましい。
【0037】
また、その回転速度は特に限定されないが、回転数が過度に低いと、結果、一回の回転に要する時間が長くなり、しかも、スポンジチタンと酸化チタンとが混合容器10の内壁面をすべって移動しやすくなることから一回の回転によってスポンジチタンの孔に侵入する酸化チタンの量も少なくなってしまいスポンジチタンに酸化チタンを十分担持させるまでに要する時間を長期化させてしまうおそれを有する。
一方で回転数が高すぎる場合には、金属チタン原材料に作用する遠心力によって回転中に一部または全部の金属チタン原材料が混合容器内部の一端側から他端側に移動することなく容器の両端に固まった状態となってしまうおそれがあり、やはり、スポンジチタンに酸化チタンを十分担持させるまでに要する時間を長期化させてしまうこととなる。
したがって、混合工程に必要な作業時間が長期化されることを防止し得る点において混合容器の回転数は、5〜40rpmの内のいずれかとされることが好ましい。
【0038】
また、混合装置による金属チタン原材料の混合時間は、短いと、スポンジチタンと酸化チタンとが十分に混合攪拌されないおそれが有り、必要以上に時間をかけてもそれ以上の混合状態の改善を期待することが困難になる。
したがって、混合時間は、5〜30分のいずれかとされることが好ましい。
そして、このような混合が終了した後には、前記ダンパー13を開けて、金属チタン原材料を混合容器10の外に排出させて、溶解工程を実施させればよい。
【0039】
前記溶解工程としては、従来公知の、真空アーク溶解、電子ビーム溶解、プラズマ溶解、コールドクルーシブル溶解などを採用して実施することができる。
なお、溶解工程の実施態様に応じて、前記金属チタン原材料を用いて、予め成形体を形成させてもよく、そのままの状態で溶解を実施してもよい。
成形体を作製する場合は、従来のプレス方法を採用することができる。
【0040】
例えば、溶解工程を真空アーク溶解とする場合は、作製する消耗電極のサイズに合わせて、成形体の大きさ(断面積)を決めることができる。
ただし、消耗電極にしたときに、自重で割れたり破断したりしないようにかさ密度が2.5〜4.0g/cm3のいずれかとなるように、プレス荷重や成形体の大きさ(高さ)を決めることが好ましい。
【0041】
電子ビーム溶解等、成形体を直接溶解炉に投入する場合は、搬送のしやすさや溶解炉への投入後の溶解のしやすさを考慮して、一辺が10〜50mmの大きさとなるペレット状に成形することが望ましい。
また、成形体のかさ密度は、この成形体を溶解炉に供給するための原料供給装置内や、該原料供給装置に供給するまでに型崩れを起こしたり欠損したりしないように1.0g/cm3以上とさせることが好ましい。
【0042】
この真空アーク溶解や電子ビーム溶解に供される成形体のかさ比重は、成形体の平均値が上記のような値であることが好ましく、全て成形体が上記の値となっていることがより好ましい。
【0043】
このようにして形成される金属チタンは、上記製造方法が採用されることにより部分的な酸素濃化が抑制され、全体に均質な状態で酸素が含有されることとなる。
したがって、目標の酸素濃度を有する金属チタンインゴットや製品(冷延板、熱延板、棒等)が得られることとなる。
また、インゴットから製造される薄板、丸棒や線材の製造中に割れや破断が発生することなく、安定して製造することができ、欠陥のない良質の製品が得られる。
【0044】
なお、ここでは詳述しないが、従来の金属チタン製造方法において公知の事項を、本発明の効果を著しく損ねない範囲において、本実施形態の金属チタン製造方法に採用することが可能である。
【実施例】
【0045】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(予備試験)
(1)酸化チタンとスポンジチタンの混合試験
スポンジチタンと酸化チタンの混合挙動を把握するために、小型のガラス容器を用いて予備試験を行った。
ガラス容器にスポンジチタン1.0kgを入れて、さらに酸化チタンを入れ密閉した。
ガラス容器を手で振った後、ガラス容器をポットミル回転台(混合器)に設置して毎分40回で上下方向に回転させて攪拌し、酸化チタンとスポンジチタンの混合状況を観察した。
回転10分後には酸化チタン粉の白い固まりはほぼ無くなった。
30分後に回転を止めて、ガラス容器よりステンレスパットに、酸化チタンの粉の付着したスポンジチタンを移し変えて、付着状況を観察した。
スポンジチタンは、凹凸の多い多孔質体であり、酸化チタンの粉は、スポンジチタンの凹みや孔に入り込んで付着していることがわかった。
なお、ここでいう付着とは、“容器から移し変える”、“ベルトコンベアで搬送する”等、移動させた時に離れずにいる状態を保持していることをいう。
必ずしも焼結や化学反応層の形成は必要ない。
一方、同様にして、スポンジチタンに代えてスクラップ(厚さ0.6mm×約20mm角の薄板)で試験したところ、酸化チタン粉はスクラップ表面にほとんど付着せずに、ほとんどがガラス容器の底に固まりとして残った。
合金材についてもその表面にほとんど付着しなかった。これらは、スポンジチタンのように凹凸のある多孔質でないためであることが確認された。
【0047】
(2)混合方法の検討
スポンジチタンと酸化チタンの混合方法について検討した。
固形体の混合方法としては、容器を回転させる方法、容器を左右に振動させる方法と攪拌子を回転させる方法等がある。
前述のガラス容器を用いて、これらの方法で混合を行い、酸化チタン粉の挙動を観察した。
その結果、容器を左右に振動させる方法や攪拌子を回転させる方法では、スポンジチタンに比べて粒径の小さい酸化チタン粉は、混合を開始した直後に容器の底に沈降してしまい、その後いくら混合してもスポンジチタンに付着させることはできなかった。
容器を回転させる方法のうち、容器を20〜50度傾けて、傾けた軸を中心に容器を回転させる方法では、酸化チタン粉の半分以上はスポンジチタンに付着した。
しかし、回転後の容器の底には付着していない酸化チタン粉もみられた。
容器を回転させる方法のうち、水平軸を中心に容器を上下方向に回転させる方法では、容器の底に沈降した酸化チタン粉が回転により、容器の上部に移動してスポンジチタンとともに落下し、このときにスポンジチタンに付着することがわかった。
このときの回転数は、5〜40rpmが好ましいこともこのとき確認することができた。
5rpmより低い回転速度では、スポンジチタンと酸化チタン粉が容器の壁面をすべって移動し十分に混合がなされない様子が見られ、40rpmより大きいと、スポンジチタンや酸化チタン粉が遠心力で容器の壁面から離れて落下しにくくなる様子が見られた。
また、投入するスポンジチタンの量(体積)は、容器の大きさに応じて好ましい範囲があることもわかった。すなわち、容器の内容積の10〜45体積%であることが重要であることがわかった。
10%よりも少ないと、スポンジチタンと酸化チタンの混合物がわずかしかできないため、生産効率が非常に悪くなり、45%より多いと、容器内でスポンジチタンや酸化チタンが容易に移動できなくなり、混合されにくくなることがわかった。
【0048】
(実験例1:混合方法)
小型の真空アーク溶解炉を用いて、JIS4種相当の高酸素含有チタン薄板を下記のように試作した。
目標としたチタン薄板の成分は、酸素=0.25〜0.39質量%、Fe=0.16〜0.20質量%、以下不可避成分とチタンである。
成形体作製用の金型に、上記の成分になるように、平均粒径が5mmのスポンジチタンを約0.5kg、平均粒径が0.1μmの酸化チタン粉を2.8〜4.6gと粒状の電解鉄を投入し、プレスして、直径55mm×高さ約50mmの成形体を得た。
このとき、酸化チタン粉は、混合容器を回転させてスポンジチタンと混合した「条件A」の場合、従来の攪拌羽根での混合を実施した「条件B」の場合と、全量を固まりで金型中央部に投入した「条件C」の場合の3条件で成形体を作製した。
【0049】
(条件A)
混合容器内に、スポンジチタンと酸化チタン粉と電解鉄とを含む金属チタン原材料の全量を投入して密閉した。
容器を手で軽く振った後、ポットミル回転台(混合器)に設置して混合容器を毎分40回で上下逆転する方向に30分回転させて攪拌混合した。
混合容器からプレス用金型に混合物を投入し、混合容器内には酸化チタン粉が残っていないこと(容器壁面にわずかに付着する不可避な酸化チタン粉は除く)を確認した。
【0050】
(条件B)
混合容器内に、スポンジチタンと酸化チタン粉と電解鉄とを含む金属チタン原材料の全量を投入して密閉した。
容器を手で軽く振った後、リボン型攪拌子を混合容器に挿入して毎分20回の回転速度で1時間回転させて混合した。
混合容器からプレス用金型に混合物を投入したところ、混合容器の底に酸化チタン粉が0.6〜0.9g残っていた。
【0051】
(条件C)
スポンジチタンと電解鉄の半分程度をプレス用金型に投入した後、酸化チタンをまとめて投入して、その後残りのスポンジチタンと電解鉄を投入してプレスすることにより、成形体の中央部に酸化チタンの固まりを形成した成形体を作った。
【0052】
これらのA〜Cの条件によって形成された成形体を各々16個並べて、アーク溶接して消耗電極を作製した。
この消耗電極を用いて真空アーク溶解して、得られた金属インゴットを消耗電極としてさらに真空アーク溶解をして(つまり2回溶解をして)、重量約8kgの金属インゴットを作製した。
上記条件の混合工程と溶解工程とが実施されて得られた金属チタンインゴットを1150℃に加熱して熱間鍛造し、スラブ形状にした。
その後、850℃に加熱して熱間圧延を行い、厚さ4.5mmの薄板とした。
750℃で焼鈍後、冷間圧延を行った。
なお、必要に応じて、冷間圧延の途中で中間焼鈍を行い、再度冷間圧延を行った。
【0053】
上記金属チタン製造方法における条件と得られた薄板の特性についての結果を下記表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
この表にも、条件Aの場合、得られた厚さ0.6〜1.6mmの冷延板は欠陥もなく外観が良好であった。
また冷延板の酸素濃度を分析したところ、ほぼ狙いどおりの値となっていることが確認できた。
また、条件Bの場合、60分の攪拌時間をかけても容器内に酸化チタンが残存しており、得られた厚さ0.8mmの冷延板は欠陥もなく良好であったものの冷延板の酸素濃度を分析したところ、狙いの酸素濃度よりも0.05〜0.07質量%低くなった。
このため、必要な強度や耐力等の機械的特性が得ることができなかった。
また、条件Cの場合、冷間圧延中に表面割れや蛇腹状の細かい凹凸(蛇腹状肌)が発生した。
これらの欠陥の発生位置は、長さ方向で先後端から全長の1/3付近までに数箇所見つかった。
これらの欠陥部分を採取して、酸素濃度を分析したところ、0.54〜0.82質量%と非常に高く、欠陥のない正常部は0.28質量%と目標値よりやや低い酸素濃度であった。
このことから固まりで添加した酸化チタン粉が溶解時に十分に拡散していないことがわかる。
【0056】
(実験例2:回転数×時間)
真空アーク溶解炉を用いて、JIS4種相当の高酸素含有チタン薄板を下記のように試作した。
目標としたチタン薄板の成分は、酸素=0.31質量%、Fe=0.18質量%、以下不可避成分とチタンである。
【0057】
(成形体作製:条件A1〜A4)
(混合方法)
あらかじめ所定量を計量した平均粒径が10mmスポンジチタンを1212kg、平均粒度が0.15μmの酸化チタン粉をスポンジチタンの酸素濃度に応じて8.0〜8.7kg、その他合金(粒状の電解鉄)を、混合容器が上下逆転方向に回転する混合機(タンブラーミキサー、容積2000リットル)に投入して、回転数3〜20rpmで回転させて攪拌・混合した。
なお、スポンジチタン1212/1.5(g/cm3)(かさ比重)=808リットルで、混合容器の内容積に占める割合が40.4体積%である。
【0058】
(成形体作製)
攪拌・混合の終わった混合容器を軽くたたいて振動させた後、容器内の混合物を12等分してプレス用金型内へ移し変えた。
この時、主に混合容器底にたまっている酸化チタン粉を集めて、その重量を測定した。
この後、プレスして成形体12個を作製した。
【0059】
(成形体作製:条件C1)
なお、前記実験例1の条件Cと同様に酸化チタン粉が中央部に固まって含有されるようにプレスをして成形体12個を作製した。
より具体的には、平均粒径が10mmのスポンジチタンを101kg、平均粒度が0.15μmの酸化チタン粉を720g、電解鉄を成形体12個分用意して、スポンジチタンと電解鉄の半分程度をプレス用金型に投入した後、酸化チタンをまとめて投入して、その後残りのスポンジチタンと電解鉄を投入してプレスすることにより、成形体の中央部に酸化チタンの固まりのある成形体を12個作製した。
【0060】
(溶解工程・チタン薄板の作製)
得られた成形体で消耗電極を作製し真空アーク溶解により金属チタンインゴットを溶製した。
得られた金属チタンインゴットを1150℃に加熱して熱間鍛造し、スラブ形状にした。
その後、850℃に加熱して熱間圧延を行い、厚さ3.5mmの薄板とした。
750℃で焼鈍後、冷間圧延を行った。
このとき、必要に応じて、冷間圧延の途中で中間焼鈍を行い、再度冷間圧延を行った。
【0061】
上記の金属チタン製造方法における条件と得られた薄板の特性についての結果を下記表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
前記実験例1では、混合容器の回転数を40rpm、混合時間を30分としていたが、ここでは、回転数と混合時間を変えての混合攪拌を実施した。
この実験例2は、実験例1よりもスケールアップされた金属チタン製造方法を実施しているが、攪拌・混合を10〜20rpmの回転速度で行った場合、30分以下の回転時間で容器の底に酸化チタン粉が残らず、スポンジチタンに十分担持されることが確認された。
特に、回転数を15〜20rpmとした事例11、12では、15分の回転時間でも酸化チタン粉が混合容器に残らず、スポンジチタンに十分担持されることが確認された。
一方で、混合容器の回転数を、5rpmを下回る3rpmとした事例14の場合においては、15分の回転時間では不十分で、混合工程が回転数5〜40rpmの場合に比べて長期化されることが示唆される結果となった。
なお、これら事例11〜14では、0.8〜1.6mm厚さまで冷間圧延しても表面割れや蛇腹状肌の欠陥は発生しなかった。
また、事例11〜13の冷延板の酸素濃度を分析したところ、0.30〜0.31質量%とほぼ狙い通りの値であった。
【0064】
一方で攪拌・混合を行わなかった事例15では、上記事例11〜14と同様にして熱間鍛造、熱間圧延を行い、冷間圧延を行ったところ1.2mm厚さまで冷間圧延すると、表面割れや蛇腹状肌の欠陥が多数発生したため冷間圧延を中断した。
【0065】
(実験例3:酸素量)
真空アーク溶解炉を用いて、JIS2種相当の酸素含有チタンを下記のように試作した。
目標とした成分は、酸素=0.05〜0.11質量%、Fe=0.03〜0.06質量%、以下不可避成分とチタンである。
あらかじめ平均粒度が8mmのスポンジチタンを約98kg、平均粒度が0.12μmの酸化チタン粉を54〜209g、粒状の電解鉄を、各々所定量を計量した。
【0066】
(成形体作製:条件A5〜A7)
ここでは、これらを容器上下回転型のV型混合機(容量200L)に投入して、回転数10〜20rpmで攪拌・混合を行った。
攪拌・混合の終わった混合容器を軽くたたいて振動させた後、容器内の混合物をプレス用金型内へ移し変えた。
この時、酸化チタン粉はすべてスポンジチタンに付着しており、容器底に残っている酸化チタン粉はないことを確認した。
なお、スポンジチタン98kg/1.5(g/cm3)(かさ比重)=65リットルで、混合容器の内容積に占める割合が32.5体積%である。
【0067】
(成形体作製:条件C2、C3)
前記実験例1の条件Cと同様に酸化チタン粉が固まったままの状態で含有されるようしにしてプレスし成形体を作製した。
【0068】
得られた成形体は、真空アーク溶解により金属チタンインゴットの溶製に用いた。
得られた金属チタンインゴットを1150℃に加熱して熱間鍛造し、スラブ形状にした。
その後、850℃に加熱して熱間圧延を行い、厚さ3.0mmの薄板とし、750℃で焼鈍後、冷間圧延を行った。
このときの条件と得られた薄板の特性について、結果を下記表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
事例16〜18では、上下を逆転させる方向に混合容器を回転させることで攪拌・混合を十分に行われており、0.6〜0.8mm厚さまで冷間圧延しても表面割れや蛇腹状肌の欠陥は発生しなかった。
また、冷延板を分析した結果、酸素の値はほぼ狙い通りであることを確認した。
一方で、事例19、20では、酸化チタンの粉が成形体の内部に固まった状態で含有されたため、0.6〜0.8mm厚さまで冷間圧延すると、蛇腹状肌の欠陥が発生した。
また、その合計長さはコイル全長の0.3〜2.0%であった。
これらの欠陥部の断面3箇所を観察すると、いずれも内部に割れが観察され、その部分の酸素値は0.48〜0.60質量%と大きかった。
【0071】
これらの結果から、本発明の金属チタン製造方法によれば酸素の部分濃化を抑制させつつ簡便に金属チタンを作製しうることがわかる。
【符号の説明】
【0072】
1:混合装置、10:混合容器、AX:回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合容器内の閉じられた空間に被混合物が収容されて前記混合容器がその上下を逆転させる方向に回転されることにより前記被混合物の混合が実施される混合装置を用い、3〜15mmのいずれかの平均粒径を有するスポンジチタンと、0.01〜1μmのいずれかの平均粒径を有する酸化チタンとを少なくとも含有している金属チタン原材料を前記混合容器内の空間に占める割合が10〜45体積%のいずれかとなるように前記混合容器に収容させて前記混合を実施する混合工程と、該混合工程で混合された金属チタン原材料を溶解する溶解工程を実施して金属チタンを製造することを特徴とする金属チタン製造方法。
【請求項2】
前記混合容器を5〜40rpmの回転速度で回転させて前記混合を実施する請求項1記載の金属チタン製造方法。

【図1】
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【図2】
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