説明

金属ナノ粒子及びその製造方法、並びに金属ナノ粒子製造装置

【課題】Ti等の活性な金属を含む多元系合金からなり、しかも酸素含有量が相対的に少ない金属ナノ粒子及びその製造方法、並びに、このような金属ナノ粒子を製造可能な金属ナノ粒子製造装置を提供すること。
【解決手段】金属源を含む液体内においてプラズマを発生させ、金属ナノ粒子を得るプラズマ発生工程を備え、前記金属源は、2種以上の金属元素を含み、前記金属元素は、Ti、Zr、Hf、V、希土類元素、アルカリ土類金属元素、及びアルカリ金属元素から選ばれる少なくとも1つを含み、前記液体は、分子内にC−O結合及び/又はO−H結合を含まない1種又は2種以上の物質からなる金属ナノ粒子の製造方法、及びこのような方法により得られる金属ナノ粒子、並びに、このような金属ナノ粒子を製造するための金属ナノ粒子製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子及びその製造方法、並びに金属ナノ粒子製造装置に関し、さらに詳しくは、Ti、Zr、Hfなどの活性な金属を含む多元系合金からなる低酸素濃度の金属ナノ粒子及びその製造方法、並びにこのような金属ナノ粒子を製造するための金属ナノ粒子製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルオーダーの直径を有する微粒子は、通常のバルク体では考えられない性質を示すことから、様々な応用が期待されている。例えば、高比表面積に起因する高い触媒能は排ガス浄化触媒や有機合成触媒として、強磁性体微粒子における単磁区構造は高密度磁気記録媒体として、量子サイズ効果による発色現象はディスプレイ用蛍光体として、また可視光域に表面プラズモン共鳴吸収を有する微粒子の超格子構造は光デバイスとして、の利用が考えられている。
さらに、粉末を原料に用いて焼結体を作製する場合において、一般に粉末の粒径が小さくなるほど、結晶粒の小さな焼結体を得ることができる。粒界はフォノンの散乱源となるので、結晶粒が小さくなるほど焼結体の熱伝導度を低下させることができる。そのため、焼結体が熱電材料である場合には、出発原料の粒径が小さくなるほど、熱電特性が向上する場合がある。
【0003】
ナノ粒子の合成方法としては、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、水及びエタノールの混合液に、HAuCl3、クエン酸三ナトリウム及びミリスチン酸を溶解させて分散液とし、この分散液にマイクロ波を照射するAu微粒子の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、平均粒径31nm±3nmの金微粒子が得られる点が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、塩化金酸水溶液にゼラチン及び塩化カリウムを加え、溶液にパルス電圧を印加し、プラズマを発生させるAu粒子の製造方法が開示されている。
同文献には、塩化金酸水溶液に分散溶解剤としてゼラチンを添加すると、生成したAu粒子の凝集を抑制することができる点が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、鉄(III)アセチルアセトネートをエタノールに溶解させ、これに分散剤としてオレイン酸を加え、この溶液にエキシマレーザーを照射するFe粒子の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により平均粒径が2〜3nmのFeナノ粒子が得られる点が記載されている。
【0006】
また、特許文献4には、塩化白金酸及びクエン酸一水和物を溶解させた超純水にエキシマパルスレーザーを照射する白金粒子の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により平均粒径2.0nm、標準偏差0.2nmの白金結晶からなるナノ粒子が得られる点が記載されている。
【0007】
また、特許文献5には、熱プラズマ法により作製したルテニウム粉末をヘキサン又はエタノールに分散させ、レーザー照射するルテニウム粉末の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により球状のルテニウム粉末が得られる点、及び、比誘電率の高いエタノールを溶媒に用いると、ヘキサンを用いた場合に比べて粒径が微細化される点が記載されている。
【0008】
さらに、非特許文献1には、種々の溶媒中にTi棒を浸漬し、Ti棒を回転させながらTi棒表面にレーザーを照射するTiナノ粒子の製造方法が開示されている。
同文献には、
(1)2−プロパノールを溶媒として用いた場合、小さなナノ粒子内にはC、O、Tiが含まれるのに対し、大きなナノ粒子にはTiのみが含まれる点、
(2)水を溶媒として用いた場合、ナノ粒子は酸素量が異なるTiからなり、一般に粒径が小さくなるほど酸素量が増大する傾向がある点、
(3)エタノールを溶媒として用いた場合、ナノ粒子はTiを主成分とし、少量のC及びOを含む点、及び、
(4)n−ヘキサンを溶媒として用いた場合、ナノ粒子には多量のCが導入される点、
が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2007−169680号公報
【特許文献2】特開2008−013810号公報
【特許文献3】特開2008−000654号公報
【特許文献4】特開2008−031554号公報
【特許文献5】特開2005−272864号公報
【非特許文献1】J.Phys.Chem. B 2006 110, 19979-19984
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ナノ粒子の合成手段としては、上述したように、
(1)溶媒中に目的物質を構成する元素のイオンを溶解させ、これに還元剤、マイクロ波、放電プラズマ、レーザーなどを作用させ、目的物質を還元析出させる還元法、及び、
(2)目的物質と同じ組成のターゲットや微粒子を溶媒中に浸漬又は分散させ、レーザー照射によってターゲット又は微粒子をナノサイズ化する液相レーザアブレーション法、
が知られている。
しかしながら、還元法又は液相レーザーアブレーション法を用いて微粒子を合成する場合において、溶媒として水を用いたときには、生成した微粒子が酸化し、目的とする金属粒子が得られない場合がある。特に、Ti、Zr、Hf、V、希土類元素、アルカリ土類金属元素、アルカリ金属元素などの活性な金属は、酸化しやすいために、生成した微粒子が水によって酸化されるという問題がある。一方、溶媒としてアルコールを用いると、微粒子の酸化をある程度防ぐことはできるが、酸化抑制効果は十分ではない。
さらに、Ti等の活性な金属を含む多元系合金からなり、しかも酸素含有量が相対的に少ない金属ナノ粒子が合成された例は、従来にはない。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、Ti等の活性な金属を含む多元系合金からなり、しかも酸素含有量が相対的に少ない金属ナノ粒子及びその製造方法、並びに、このような金属ナノ粒子を製造可能な金属ナノ粒子製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る金属ナノ粒子の製造方法は、
金属源を含む液体内においてプラズマを発生させ、金属ナノ粒子を得るプラズマ発生工程を備え、
前記金属源は、2種以上の金属元素を含み、
前記金属元素は、Ti、Zr、Hf、V、希土類元素、アルカリ土類金属元素、及びアルカリ金属元素から選ばれる少なくとも1つを含み、
前記液体は、分子内にC−O結合及び/又はO−H結合を含まない1種又は2種以上の物質からなることを要旨とする。
本発明に係る金属ナノ粒子は、本発明に係る方法により得られたものからなる。
【0013】
さらに、本発明に係る金属ナノ粒子製造装置は、
金属源を含む液体を保持するための容器を備えた原料保持手段と、
前記液体内においてプラズマを発生させるプラズマ発生手段とを備え、
前記金属源は、2種以上の金属元素を含み、
前記金属元素は、Ti、Zr、Hf、V、希土類元素、アルカリ土類金属元素、及びアルカリ金属元素から選ばれる少なくとも1つを含み、
前記液体は、分子内にC−O結合及び/又はO−H結合を含まない1種又は2種以上の物質からなることを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
液体内に含まれる所定の金属源にパルスレーザーを照射すると、金属源がプラズマ化し、プラズマが周囲の液体により圧縮されて金属ナノ粒子となる。また、所定の金属源が含まれる液体内において放電プラズマを発生させると、液体中の金属源が強制的に還元されて金属ナノ粒子となる。さらに、パルスレーザー照射と放電とを組み合わせると、レーザー照射により生成した粒子の酸化が放電により抑制され、あるいは、放電により生成した粒子がレーザー照射によってさらに微細化される。
この時、液体として所定の物質を用いると、金属ナノ粒子の酸化がさらに抑制される。また、この方法を用いると、Ti等の活性な金属を含む多元系合金からなり、しかも酸素含有量が相対的に少ない金属ナノ粒子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の一実施の形態につて詳細に説明する。
[1. 金属ナノ粒子の製造方法]
本発明に係る金属ナノ粒子の製造方法は、金属源を含む液体内においてプラズマを発生させ、金属ナノ粒子を得るプラズマ発生工程を備えている。
【0016】
[1.1 金属源]
金属源は、金属ナノ粒子を構成する2種以上の金属元素を含む。また、金属元素は、Ti、Zr、Hf、V、希土類元素(21Sc、39Y、57La〜71Lu)、アルカリ土類金属元素、及びアルカリ金属元素から選ばれる少なくとも1つを含む。
金属源の組成及び形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。すなわち、金属源は、目的とする金属ナノ粒子を構成するすべての金属元素を同一の比率で含有する1種類の原料を用いても良く、あるいは、金属元素の種類及び/又は含有量の異なる2種以上の原料を組み合わせて用いても良い。また、金属源は、塊状であっても良く、あるいは粉末状であっても良い。
【0017】
例えば、後述する液相レーザーアブレーション法により金属ナノ粒子を製造する場合、金属源には、
(1)金属ナノ粒子と同一組成を有する合金からなるターゲット(鋳塊、焼結体、圧粉体など。以下同じ。)、
(2)金属ナノ粒子と同一組成を有する合金からなる粉末、
などを用いることができる。
【0018】
また、後述する放電プラズマ法により金属ナノ粒子を合成する場合、金属源には、
(1)金属ナノ粒子を構成する金属元素の全部又は一部を含む錯体、
(2)金属ナノ粒子を構成する金属元素の全部又は一部を含む塩、
などを用いることができる。
【0019】
錯体としては、例えば、エチレンジアミン、アセチルアセトナートのような多座配位子が複数の金属イオンに配位したキレート錯体(多核錯体)などがある。
金属塩としては、例えば、塩化物塩、硝酸塩、酢酸塩などがある。
【0020】
[1.2 液体]
液体は、上述した金属源を浸漬、分散、又は溶解させるためのものである。
すなわち、「金属源を含む液体」とは、
(1)塊状の金属源を浸漬した液体、
(2)粉末状の金属源を分散させた液体、又は
(3)金属源を溶解させた液体、
をいう。
液体は、生成した金属ナノ粒子の酸化を抑制する作用があるものを用いる。そのためには、液体は、分子内にC−O結合及びO−H結合のいずれか一方又は双方を含まない物質である必要がある。液体は、分子内にC−O結合及び/又はO−H結合を含まないことに加えて、還元作用を有する物質が好ましい。
【0021】
液体としては、具体的には、
(1)トルエン、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカンなどの室温で液体の炭化水素化合物、あるいはその不飽和化合物、
(2)トリエチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミンなどの常温で液体である第1〜第3級アミン、
(3)ヒドラジン(H2NNH2)、液体窒素などのアミン類以外の窒素化合物、
(4)シリコーンオイル、
などがある。これらの液体は、いずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
なお、液体として第1〜第3級アルキルアミンを用いる場合、アルキル基は、炭素数が2以上であるものが好ましい。これは、アルキル基がメチル基であるアミン類は、一般に沸点が低く、常温で気体となるものが多いためである。
【0022】
これらの中でも、第1〜第3級アミン、ヒドラジン、液体窒素などの窒素化合物は、還元作用があり、金属ナノ粒子の酸化を抑制する効果が大きい。
また、シリコーンオイルは、Si−Oの結合エネルギー(=443kJ/mol)がC−Oの結合エネルギー(=352kJ/mol)より大きく、安定である。そのため、プラズマを発生させても分解しにくく、酸素の乖離による金属ナノ粒子の酸化を抑制する効果が大きい。
【0023】
液体の量は、金属源の種類及び量に応じて最適なものを選択する。
例えば、液体中にターゲットを浸漬し、液相レーザーアブレーション法により金属ナノ粒子を製造する場合、レーザー照射面が液体で完全に覆われる量であれば良い。
また、例えば、液体中に粉末を分散させ、液相レーザーアブレーション法により金属ナノ粒子を製造する場合、液体中の粉末に均一かつ効率よくレーザーが照射されるように、液体中の粉末濃度を選択すれば良い。
さらに、液体中に金属源を溶解させ、放電プラズマ法により金属ナノ粒子を製造する場合、液体中に金属源が均一に溶解するように、液体中の金属源濃度を選択すれば良い。
【0024】
[1.3 プラズマの発生]
所定の金属源を含む所定の液体内においてプラズマを発生させると、液体中に金属ナノ粒子が生成する。
液体中においてプラズマを発生させる方法としては、具体的には、
(1)液体中に浸漬した塊状の金属源又は液体中に分散させた粉末状の金属源にパルスレーザーを照射する方法(液相レーザーアブレーション法)、
(2)金属源を溶解させた液体内に設置された一対の電極間に電圧を印加し、放電させる方法(放電プラズマ法)、
(3)金属源にパルスレーザーを照射すると同時に、又はパルスレーザーの照射の前若しくは後に、液体内に設置された一対の電極間に電圧を印加する方法(液相レーザーアブレーション法と放電プラズマ法の組み合わせ)、
がある。本発明においては、いずれの方法を用いても良い。
【0025】
液相レーザーアブレーション法は、主として塊状若しくは粉末状の金属源、又は放電により生成した金属粒子を微粒子化する作用がある。液相レーザーアブレーション法を用いる場合、レーザー照射条件は、目的に応じて最適なものを選択する。
一般に、レーザーの波長は、使用溶液に対して吸収がないこと、すなわち、液体が使用波長のレーザーに対して透明である必要がある。溶媒に対して透明な範囲内では、波長が短くなるほど、粒径が小さくなる。
また、一般に、パルス幅が広くなりすぎると、金属源が電離せず、原子が運動して発熱し、溶融した後揮発しやすくなる。そのため、粒子が粗大化しやすくなる。ナノ粒子を得るためには、パルス幅は、10nsec以下が好ましい。
パルスレーザーの強度が低すぎると、金属源の電離が不十分となる。従って、パルスレーザーの強度は、107W/cm2以上が好ましい。
【0026】
放電プラズマ法は、主として液体中に溶解している金属源を強制的に還元し、又は、レーザーアブレーションにより生成した金属ナノ粒子の酸化を抑制する作用がある。放電プラズマ法を用いる場合、放電条件は、目的に応じて最適なものを選択する。
一般に、放電により粒子を生成又は還元するためには、まず、液体を絶縁破壊させる必要がある。そのためには、液体にある臨界値以上の電界を加える必要がある。この臨界値は、液体の種類、温度等によって変化する。一般に、気体は液体と比べて絶縁破壊しやすいため、液体中に気泡を導入するか、あるいは電極と液体界面での発熱によって液体を気化させると、その気泡内で放電が生じ、絶縁破壊電圧を下げることができる。また、電極間距離や電極形状(例えば、網目状電極の使用)により、絶縁破壊電界を変化させることができる。
【0027】
液相レーザーアブレーション法と放電プラズマ法とを組み合わせて微粒子を生成させる場合も同様であり、目的とする金属ナノ粒子が効率よく生成するように、金属源の種類等に応じて最適なレーザー照射条件及び放電条件を選択するのが好ましい。
【0028】
さらに、液体中に酸素が溶存し、あるいは、雰囲気中に酸素が含まれると、液体中で生成した金属ナノ粒子が酸化されるおそれがある。従って、プラズマを発生させる前に、液体が保持された容器内を一旦真空排気(好ましくは、10-3Pa以下)し、容器内に不活性ガス(例えば、Ar、He、N2など)を充填するのが好ましい。
【0029】
[2. 金属ナノ粒子]
本発明に係る金属ナノ粒子は、本発明に係る方法により得られるものからなる。
金属ナノ粒子は、2種以上の金属元素を含む。また、金属元素は、Ti、Zr、Hf、V、希土類元素(21Sc、39Y、57La〜71Lu)、アルカリ土類金属元素、及びアルカリ金属元素から選ばれる少なくとも1つを含む。
本発明に係る方法により得られる金属ナノ粒子としては、具体的には、(Ti、Zr、Hf)NiSn、TiNiSn、ZrNiSn、HfNiSn、Fe2VAl、RNiBi(R=希土類元素)、NbFeSb、NbCoSn、FeVSb、RNiSb(R=希土類元素)などがある。
特に、熱電半導体に対して本発明を適用すると、結晶粒が微細な焼結体が得られる。結晶粒の微細化は焼結体の熱伝導度を低下させる作用があるので、焼結体の熱電特性を向上させることができる。
【0030】
金属ナノ粒子の平均粒径は、上述した製造条件を最適化することにより制御することができる。具体的には、上述した製造条件を最適化することによって、平均粒径が200nm以下である金属ナノ粒子が得られる。
【0031】
本発明に係る金属ナノ粒子は、上述した方法により製造されるために、Ti等の活性な金属を含んでいるにもかかわらず、酸素濃度が少ないという特徴がある。具体的には、製造条件を最適化することによって、少なくとも中心部の酸素濃度が10at%以下である金属ナノ粒子が得られる。
なお、「酸素濃度」とは、金属ナノ粒子に含まれる金属元素(Mi)及び酸素(O)の原子数に対する酸素の原子数の割合(=[O]×100/([ΣMi]+[O]))をいう。
【0032】
[3. 金属ナノ粒子製造装置]
図1に、本発明に係る金属ナノ粒子製造装置の概略構成図を示す。図1において、金属ナノ粒子製造装置10は、原料保持手段20と、パルスレーザー照射手段(プラズマ発生手段)30と、放電プラズマ手段(プラズマ発生手段)40とを備えている。
【0033】
原料保持手段20は、金属源22を含む液体24を保持するための容器26を備えている。
本発明において、金属源22は、2種以上の金属元素を含み、金属元素は、Ti、Zr、Hf、V、希土類元素、アルカリ土類金属元素、及びアルカリ金属元素から選ばれる少なくとも1つを含む。金属源22は、金属状態にある塊状又は粉末状のものを液体24内に浸漬又は分散させても良く、あるいは、化合物状態にあるものをを液体24に溶解させても良い。図1に示す例において、金属源22には、液体24内に浸漬された塊状のターゲットが用いられている。また、本発明において、液体24には、分子内にC−O結合及び/又はO−H結合を含まない1種又は2種以上の物質が用いられる。金属源22及び液体24の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0034】
容器26は、円筒形を呈しており、図示しない回転手段により軸方向に回転できるようになっている。容器26は、反応チャンバー28内に収容されており、反応チャンバー28内に着脱自在になっている。
容器26は、密閉可能になっており、内部を真空排気(好ましくは、10-3Pa以下)し、あるいは、内部に不活性ガス(例えば、Ar、He、N2など)を充填できるようになっている(雰囲気置換手段)。容器26内の雰囲気置換は、必ずしも必要ではないが、容器26内を不活性雰囲気に置換することによって、液体24中に発生した金属ナノ粒子22aの酸化をさらに抑制することができる。
容器26内の雰囲気置換方法としては、例えば、
(1)雰囲気制御されたグローブボックス内で容器26の開閉を行う方法、
(2)容器26に真空排気装置及び/又は不活性ガス導入装置を接続する方法、
などがある。
【0035】
反応チャンバー28には、不活性ガス導入孔28a及び排気孔28bが設けられている。不活性ガス導入孔28a及び排気口28bは、反応チャンバー28内を一旦真空排気(好ましくは、10-3Pa以下)し、反応チャンバー28内に不活性ガス(例えば、Ar、He、N2など)を導入するためのものである。反応チャンバー26内の雰囲気置換は、必ずしも必要ではないが、反応チャンバー26内を雰囲気置換すると、粒子製造をより安全に行うことができるという利点がある。
【0036】
パルスレーザー照射手段30は、パルスレーザー装置32と、反射鏡34と、集光レンズ36とを備えている。容器26及び反応チャンバー28には、それぞれ、容器入射窓26a及びチャンバー入射窓28cが設けられている。パルスレーザー装置32で発生させたパルスレーザーは、反射鏡34により反射され、集光レンズ36で集光された後、チャンバー入射窓28c及び容器入射窓26aを通って、液体24内の金属源22に照射されるようになっている。
【0037】
放電プラズマ手段40は、一対の電極42、42と、電極42、42に高圧電流を印加するための高圧電源44とを備えている。電極42、42は、その先端が液体24内において所定の間隔を隔てて対向するように、容器26内に挿入されている。高圧電源44は、電極42、42に所定の電圧を印加するものであれば良い。高圧電源44としては、具体的には、パルス電源、直流電源、交流電源などを用いることができる。
なお、図1において、金属ナノ粒子製造装置10は、パルスレーザ照射手段30及び放電プラズマ手段40の双方を備えているが、いずれか一方のみを備えていても良い。
【0038】
[4. 金属ナノ粒子及びその製造方法、並びに、金属ナノ粒子製造装置の作用]
所定の雰囲気に制御した容器26内に液体24を充填し、液体24内にターゲット(金属源)22を浸漬し、容器26を回転させながらパルスレーザー装置32によりパルスレーザーをターゲット22に照射すると、ターゲット22の表面が電離し、プラズマ状態となる(レーザーアブレーション)。発生したプラズマは、急激に膨張しようとするが、周囲に液体があるために圧縮され、金属ナノ粒子22aが生成する。また、この時の衝撃(レーザーショック)によって、金属源が粉砕され、微粒子化する場合もある。
所定の雰囲気に制御した容器26内に液体24を充填し、液体24内に金属状態にある粉末(金属源)を分散させ、容器26を回転させながらパルスレーザーを液体24内の粉末に照射する場合も同様であり、レーザーアブレーション又はレーザーショックにより金属ナノ粒子22aを生成させることができる。
【0039】
また、所定の雰囲気に制御した容器26内に金属源(例えば、錯体)を溶解させた液体24を充填し、液体24内に電極42、42を対向させ、高圧電源44を介して電極42、42に所定の電圧を印加すると、電極42、42間で放電し、プラズマが発生する。プラズマが発生すると、液体24内に溶解している金属イオンが強制的に還元され、金属ナノ粒子22aが生成する。
【0040】
さらに、液体24中に浸漬した塊状の金属源又は液体24中に分散させた粉末状の金属源にパルスレーザーを照射すると同時に、又はパルスレーザーの照射の後に、液体24内に設置された一対の電極間42、42に電圧を印加すると、パルスレーザーによって金属ナノ粒子22aが生成すると同時に、放電によって金属ナノ粒子22aの酸化を抑制することができる。
あるいは、金属源を溶解させた液体24にパルスレーザーを照射すると同時に、又はパルスレーザーの照射の前に、液体24内に設置された一対の電極42、42に電圧を印加すると、放電によって金属イオンが強制的に還元され、金属ナノ粒子22aが生成すると同時に、パルスレーザー照射によって金属ナノ粒子22aがさらに微細化される。
【0041】
液相中でのレーザーアブレーションやレーザーショックによる微粒子化、又は放電プラズマによる強制的な還元析出において、液相中に酸素原子を放出しやすい物質が含まれていると、生成した粒子が液相中の酸素原子により酸化されやすい。また、長時間の反応中に液相中に共存する酸素や水分により、微細化された粒子が徐々に酸化される場合もある。特に、金属ナノ粒子がTi、Zr等の活性な金属を含む多元系合金の場合において、液相中に水やアルコールなどが含まれるときには、粒子は酸化され、金属状態の微粒子を得ることはできない。
【0042】
これに対し、液体としてC−O結合及び/又はO−H結合を持たない物質を用いると、液体に含まれる酸素原子による粒子の酸化を抑制することができる。特に、シリコーンオイルは、分子内に酸素原子を有しているが、Si−O結合は極めて安定であるため、活性な金属を酸化させるおそれが少ない。また、液体窒素、ヒドラジン、アルキルアミンは、分子内に酸素原子を持たないだけでなく、還元作用があるので、活性な金属を酸化させるおそれが少ない。
そのため、このような液体中において金属源にパルスレーザを照射し、あるいは、金属源を含む液体中において放電させると、Ti等の活性な金属を含む多元系合金からなり、しかも酸素含有量が相対的に少ない金属ナノ粒子が得られる。
【実施例】
【0043】
(実施例1〜4、比較例1〜3)
[1. 試料の作製]
高周波溶解法にて、(Ti0.5Zr0.25Hf0.25)NiSn組成の合金インゴットを作製した。これを粉砕後、成形し、放電プラズマ焼結装置を用いて、真空下、1100℃−15min、50MPaの条件で焼結体を作製した。
図1に示す金属ナノ粒子製造装置10から容器26を取り外し、ターゲット(金属源22)を、グローブボックス中Ar雰囲気下で容器26内に取り付けた。次いで、容器26内に液体24を充填した。液体24には、エタノール(比較例1)、2−プロパノール(比較例2)、ヘキサン(実施例1)、トリエチルアミン(実施例2)、シリコーンオイル(実施例3)、テトラヒドロフラン(比較例3)、トルエン(実施例4)を用いた。
容器26を密閉した後、金属ナノ粒子製造装置10の反応チャンバー28内に容器26を取り付け、安全のために反応チャンバー28内を真空引きし、Ar置換した。
【0044】
次に、パルスレーザー装置32を用いて、2倍の高調波で、パルス当たりのエネルギーが200mJのYAGレーザービームを発生させ、レーザービームを集光レンズ36で集光し、ターゲット22に60分間照射した。この間、容器26を回転させ、溶液を攪拌しながらターゲット22をアブレートし、目的のナノ粒子分散溶液を得た。
【0045】
[2. 試験方法]
得られた粒子について、TEM観察及びEDXによる組成分析を行った。
また、スパッタによりシリコンウェハ上にニッケル及び金を成膜し、このシリコンウェハ上に得られた粒子分散液を付着させ、真空乾燥により溶媒を揮発させた。露出した粒子表面を、オージエ電子分光法で組成分析した。最初に粒子表面の組成分析を行い、その後、粒子表面をエッチングして、内部の組成分析を行った。
【0046】
[3. 結果]
[3.1 TEM観察]
図2に、比較例1(エタノール)で得られたナノ粒子のTEM写真を示す。図2より、粒径が200nm以下の粒子が生成していることがわかる。他の液体を用いた場合も同様であり、レーザーアブレーションにより、200nm以下のナノ粒子が生成した。
EDXによる組成分析の結果、生成粒子は、いずれもTi、Zr、Hf、Ni、及びSnを含む化合物であった。また、電子線回折により、これらの粒子は、いずれも結晶性を有していた。
【0047】
[3.2 オージェ電子分光分析]
図3(a)及び図3(b)に、それぞれ、液体として2−プロパノール(比較例2)及びトリエチルアミン(実施例2)を用いて作製したナノ粒子のオージェスペクトルを示す。いずれの試料に関しても、最表面では、酸素のピークが検出された。エタノール(図示せず)及び2−プロパノール(図3(a))では、粒子内部まで強い酸素のピークが検出された。これは、レーザーアブレーションの際の、数万Kの局所的な高温で溶媒が分解され、生成粒子に取り込まれるためと推測される。
一方、シリコーンオイル(図示せず)、又はトリエチルアミン(図3(b))を液体に用いた場合、粒子内部では酸素のピークが検出されず、酸化が抑制されていた。
【0048】
オージェ分光法のピークより各元素の存在比を見積もり、次の(1)式を用いて酸素濃度を算出した。
O(at%)=100×O/(Ti+Zr+Hf+Ni+Sn+O) ・・・(1)
【0049】
表1に、各種液体を用いて作製した粒子の酸素濃度を示す。
2−プロパノール中で作製した粒子は、表面から内部までほぼ均一な酸化物になっていることがわかった。これは、レーザーアブレーション時に不安定なC−O結合又はO−H結合が切れ、Oが粒子内に直接取り込まれたためと考えられる。
シリコーンオイル中で作製した粒子は、表面の酸素濃度が著しく高いが、内部の酸素濃度は低い。これは、金属ナノ粒子の表面がシリコーンオイルに由来するSi酸化物でコーティングされ、一種のコアシェル構造が形成されたためである。安定なシリコーンオイルは、レーザーアブレーション時に分解することがなく、生成粒子の表面をコーティングすることで粒子内部の酸化を抑制していると考えられる。
トリエチルアミン中で作製した粒子も同様であり、表面の酸素濃度は高いが、内部の酸素濃度は低くなっている。表面の酸素濃度が高いのは、最表面に炭酸化合物が吸着したためと考えられる。
表1より、液相中で粒子を合成する場合において、適切な溶媒を用いると、中心付近の酸素濃度が10at%以下になることがわかる。
【0050】
【表1】

【0051】
(実施例5〜8、比較例4〜6)
[1. 試料の作製]
容器26内に液体を充填し、全体の組成が(Ti0.5Zr0.25Hf0.25)NiSnとなるように、Ti、Zr、Hf、Ni、及びSnの錯体を溶解させた。液体には、エタノール(比較例4)、2プロパノール(比較例5)、ヘキサン(実施例5)、トリエチルアミン(実施例6)、シリコーンオイル(実施例7)、テトラヒドロフラン(比較例6)、又はトルエン(実施例8)を用いた。
この容器26を密閉し、電極42、42を設置し、これらを高圧電源44に接続した。さらに金属ナノ粒子製造装置10の反応チャンバー28内に容器26を取り付け、安全のために反応チャンバー28内を真空引きし、Ar置換した。
【0052】
次に、高圧電源44を用いて電極42、42間に1000Vの電圧を印加し、プラズマを発生させた。この間、容器26を回転させ、溶液を攪拌しながら放電し、目的のナノ粒子分散溶液を得た。
【0053】
[2. 結果]
得られた粒子をTEM観察したところ、いずれの粒子も粒径が200nm以下であった。また、EDXによる組成分析の結果、生成粒子は、いずれもTi、Zr、Hf、Ni、及びSnを含む化合物であった。さらに、電子線回折により、これらの粒子は、いずれも結晶性を有していた。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る金属ナノ粒子及びその製造方法、並びに金属ナノ粒子製造装置は、Ti、Zr、Hf等の活性の高い金属を含む各種合金からなるナノ粒子及びその製造方法、並びに、このような金属ナノ粒子を製造するための装置として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る金属ナノ粒子製造装置の概略構成図である。
【図2】液体としてエタノール(比較例1)を用いた液相レーザーアブレーション法により得られた金属ナノ粒子のTEM写真である。
【図3】図3(a)は、液体として2−プロパノールを用いた液相レーザーアブレーション法により得られたナノ粒子のオージェスペクトルである。図3(b)は、液体としてトリエチルアミンを用いた液相レーザーアブレーション法により得られたナノ粒子のオージェスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属源を含む液体内においてプラズマを発生させ、金属ナノ粒子を得るプラズマ発生工程を備え、
前記金属源は、2種以上の金属元素を含み、
前記金属元素は、Ti、Zr、Hf、V、希土類元素、アルカリ土類金属元素、及びアルカリ金属元素から選ばれる少なくとも1つを含み、
前記液体は、分子内にC−O結合及び/又はO−H結合を含まない1種又は2種以上の物質からなる
金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記プラズマ発生工程は、前記金属源にパルスレーザーを照射するものである請求項1に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記プラズマ発生工程は、前記液体内に設置された一対の電極間に電圧を印加し、放電させるものである請求項1に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記プラズマ発生工程は、前記金属源にパルスレーザーを照射すると同時に、又は前記パルスレーザーの照射の前若しくは後に、前記液体内に設置された一対の電極間に電圧を印加するものである請求項1に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記液体は、炭化水素化合物、窒素化合物、及びシリコーンオイルから選ばれるいずれか1以上を含む請求項1から4までのいずれかに記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記液体は、アミン類、ヒドラジン、及び液体窒素から選ばれるいずれか1以上を含む請求項1から4までのいずれかに記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれかに記載の方法により得られる金属ナノ粒子。
【請求項8】
平均粒径が200nm以下である請求項7に記載の金属ナノ粒子。
【請求項9】
中心部の酸素濃度が10at%以下である請求項7又は8に記載の金属ナノ粒子。
【請求項10】
金属源を含む液体を保持するための容器を備えた原料保持手段と、
前記液体内においてプラズマを発生させるプラズマ発生手段とを備え、
前記金属源は、2種以上の金属元素を含み、
前記金属元素は、Ti、Zr、Hf、V、希土類元素、アルカリ土類金属元素、及びアルカリ金属元素から選ばれる少なくとも1つを含み、
前記液体は、分子内にC−O結合及び/又はO−H結合を含まない1種又は2種以上の物質からなる
金属ナノ粒子製造装置。
【請求項11】
前記プラズマ発生手段は、前記金属源にパルスレーザーを照射するパルスレーザー照射手段を含む請求項10に記載の金属ナノ粒子製造装置。
【請求項12】
前記プラズマ発生手段は、前記液体内に設置された一対の電極間に電圧を印加し、放電させる放電プラズマ手段を含む請求項10又は11に記載の金属ナノ粒子製造装置。
【請求項13】
前記容器内を不活性雰囲気に置換する雰囲気置換手段をさらに備えた請求項10から12までのいずれかに記載の金属ナノ粒子製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−77458(P2010−77458A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243894(P2008−243894)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】