説明

金属ナノ粒子担持MCM−41触媒を用いるニトロ化合物の水素還元方法

【課題】MCM−41などの金属ナノ粒子担持メソポーラスシリカ触媒を用いるニトロ化合物の水素還元方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素を媒体にし、更に、二酸化炭素を媒体にした場合に最適化された金属ナノ粒子担持メソポーラスシリカ担持触媒を触媒として用いることで、有害な有機媒体を使用することなく、温度範囲0℃以上、200℃以下の低温条件で、水素還元により、各種ニトロ化合物からアミン化合物を製造することから成るアミン化合物の製造方法。
【効果】安全な、二酸化炭素を媒体とし、有機媒体を用いることなく、低温で、高効率に、しかも、廃棄物を低減化することを可能とする低環境負荷プロセスで、ニトロ化合物からアミン化合物を合成する新しいアミノ化合物の製造技術を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を反応媒体として使用し、メソポーラスシリカを担体とした金属ナノ粒子を触媒として用いる、ニトロ化合物の水素還元によるアミノ化合物の製造方法に関するものであり、更に詳しくは、液化二酸化炭素あるいは超臨界二酸化炭素を反応媒体として用い、MCM−41に代表される2〜50nmの細孔を有するメソポーラスシリカを担体として、該担体に、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、金などの金属ナノ粒子を担持した触媒と、水素を用いて、ニトロ化合物を還元することにより各種アミノ化合物を製造するアミノ化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の危機的な経済問題や、使用するエネルギーの増加に伴う環境問題などから、より環境に優しく、かつ効率が高く、省エネルギーを実現する各種物質の製造技術への関心が高まっている。特に、数ヶ国における急速な先進的発展途上国によるエネルギー消費に伴う、原油価格の変動から、エネルギー確保の競争が激化しており、より低コスト、省エネルギー、低環境負荷型プロセスによる新しい物質製造技術の開発が強く望まれている。
【0003】
それらの物質の中でも、アミノ化合物、特に、芳香族アミンとして、アニリンが代表的な化合物として挙げられる。これは、アセトアミノフェン(アスピリン)や、アニリンブラックなどの染料や顔料になり、更に、無水酢酸と反応させて、アセトアニリドや、ベンゼンスルホン酸と反応させ、アニリンベンゼンスルホン酸塩などの原料となり、染料、ゴムなどの化学製品、農薬や医薬品などを製造する際の中間物質、原料として、広く用いられている重要な化合物である。これらのアミノ化合物は、国内でも、年間約40万トンが生産されている。その他、芳香族アミン化合物は、様々な用途で用いられており、これらの化合物の年間生産量は、合計すれば、百万トン規模と予想される。
【0004】
これらのアミン化合物の製造方法として、ニトロ化合物の水素還元反応により、アミノ化合物を製造する方法が代表的な製造技術として知られている。最も代表的な例として、ニトロベンゼンからのアニリン合成法が存在する。その中でも、鉄と酸を用いるBechampn還元法や、ニッケルや銅を触媒とする接触水素化法や、同様に、クロロベンゼンと銅触媒の存在下で、アンモニアの加圧条件で合成する方法(ダウ法)などがある。特に、接触水素化法は、今日までに、様々な触媒が開発されており、ニッケルや銅触媒以外にも、シリカ、アルミナなどの無機酸化物を担体とする遷移金属を触媒とする接触水素化法が開発されている。
【0005】
例えば、先行技術として、反応器内での高沸点不純物の蓄積と、それに伴う触媒の活性低下や寿命低下を抑制しつつ、高純度の芳香族アミンを製造するための製造方法と、この製造方法により、芳香族アミンを製造するための反応装置に関して、芳香族ニトロ化合物と、水素とを、気液接触により反応させることにより、芳香族ニトロ化合物を水素化する第1水素化工程と、第1水素化工程における未反応の芳香族ニトロ化合物と、未反応の水素とを、気相において反応させることにより、未反応の芳香族ニトロ化合物を水素化する第2水素化工程とを含む、芳香族アミンの製造方法及び装置が提案されている(特許文献1)。
【0006】
他の先行技術として、アミンを製造し、それらを蒸留により後処理するための簡単、かつ経済的な方法であって、少量の供給エネルギーを用いて実施される方法として、芳香族ニトロ化合物の水素化によって生成された熱の少なくとも一部を1バール未満の絶対塔頂圧を有する1個の塔において使用して、水を水素化された反応混合物から分離する方法が提案されている(特許文献2)。
【0007】
他の先行技術として、アニリンを後続工程で更に使用する前に、蒸留により分離するために、アニリンの製造方法において、アルカリ金属水酸化物水溶液を粗製アニリンへと、蒸留の前及び/又はその間に添加して、粗製アニリンを精製する方法が提案されている(特許文献3)。
【0008】
他の先行技術として、ニトロハロゲン化ベンゼンをアニリンと塩基並びに銅−燐錯体の存在で反応させ、次いで、中間的に生成したニトロジフェニルアミンを水素添加することによって、アミノジフェニルアミン、例えば、4−アミノジフェニルアミン(4−ADPA)を製造する方法が提案されている(特許文献4)。
【0009】
他の先行技術として、芳香族ニトロ化合物をアミンを用いて還元することにより芳香族アミンを製造する方法において、高価な金属触媒を用いることなく、また、水素化分解を伴うことなく、目的物を高収率で得る方法が提案されている(特許文献5)。
【0010】
このように、従来、先行技術として、各種の方法が提案されているが、特に、芳香族ニトロ化合物の水素化は、高温ガス流の中で行われ、しかも、発熱的な反応であるため、反応熱の散逸が必要になるなど、厳重な温度管理が必要であり、環境低負荷とエネルギーコストの点で、常に、最適化パフォーマンスを維持するする必要があった。しかも、アニリン自体が、加湿状態において、70℃以上で、引火爆発の危険性があることから、安全面でも、細心の注意が必要である。そのために、当技術分野においては、より低温の条件で有りながら、高速、高収率、高選択率を実現し、かつ環境に優しいアミノ化合物の新しい製造技術の開発が強くが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−169205号公報
【特許文献2】特開2008−150377号公報
【特許文献3】特開2007−217416号公報
【特許文献4】特開2004−210787号公報
【特許文献5】特開平9−31031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、種々の反応条件、触媒、製造工程などについて、種々研究を重ねた結果、二酸化炭素を媒体として使用し、更に、二酸化炭素を主たる媒体にした場合に最適化された遷移金属などの金属ナノ粒子担持メソポーラスシリカを触媒に用いることで、有害な有機媒体をほとんど使用することなく、より高活性な触媒として働き、各種アミン化合物を、高い収率と選択率で、短時間で製造できることを見出し、更に、環境低負荷型の産業用生産技術として構築することを可能とし得ることを見出し、そして、これらの知見に基づいて、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、低環境負荷型プロセスによりニトロ化合物からアミノ化合物を製造する方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、少なくともアルミニウムとケイ素、酸素と水素から成るメソポーラスシリカを担体とする金属ナノ粒子触媒を使用し、有機溶媒をほとんど用いることなく、二酸化炭素を主な媒体として用いて、ニトロ化合物と水素とを反応させることにより、高転化率、高選択率でアミノ化合物を製造することを可能とするアミノ化合物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)低環境負荷型プロセスにより、ニトロ化合物からアミノ化合物を製造する方法であって、少なくともアルミニウムとケイ素と酸素と水素から成るメソポーラスシリカを担体とする金属ナノ粒子触媒を使用し、有機溶媒をほとんど用いることなく、二酸化炭素を主な媒体として、分子内に少なくとも一つのニトロ基を有するニトロ化合物と水素とを反応させることにより、ニトロ基を還元してアミノ化合物を製造することを特徴とするアミノ化合物の製造方法。
(2)担体にMCM−41メソポーラスシリカを使用し、金属ナノ粒子として、粒径1nm以上、1μm以下のサイズのパラジウム、白金、ロジウム、又はイリジウムからなる触媒を用い、媒体として、二酸化炭素の圧力が、常圧以上、50MPa以下、温度が、室温(25℃)以上、100℃以下の範囲にある液体二酸化炭素、又は超臨界二酸化炭素を用いる、前記(1)に記載のアミノ化合物の製造方法。
(3)水素の分圧を、0.1MPa以上、5MPa未満の範囲にすることで、高収率、高選択率でニトロ化合物を還元してアミノ化合物を製造する、前記(1)又は(2)に記載のアミノ化合物の製造方法。
(4)水素化の反応時間が、1秒以上、48時間未満である、前記(1)から(3)のいずれかに記載のアミノ化合物製造方法。
(5)製造方法が、バッチ式、又は流通式である、前記(1)から(3)のいずれかに記載のアミノ化合物の製造方法。
(6)上記ニトロ化合物が、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、ニトロ安息香酸、又はそれらの誘導体化合物である、前記(1)から(5)のいずれかに記載のアミン化合物の製造方法。
【0015】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、少なくともアルミニウムとケイ素と酸素と水素から成るメソポーラスシリカを担体とする金属ナノ粒子を触媒として、有機溶媒をほとんど用いることなく、二酸化炭素を主な媒体として、分子内に一つ以上のニトロ基を有するニトロ化合物と水素とを反応させることにより、ニトロ基を還元してアミノ化合物を製造する方法に係るものである。
【0016】
本発明では、担体に、MCM−41メソポーラスシリカを使用し、金属ナノ粒子として、粒径1nm以上、1μm以下のサイズのパラジウム、白金、ロジウム、又はイリジウムから成る触媒を用い、媒体として、二酸化炭素の圧力が、常圧以上、50MPa以下、温度が、室温(25℃)以上、100℃以下の範囲にある液体二酸化炭素、又は超臨界二酸化炭素を用いること、を好ましい実施の態様としている。
【0017】
メソポーラスシリカは、少なくともアルミニウムとケイ素と酸素と水素から成る細孔を有する無機酸化物である。本発明においては、SiとO以外の元素を含まなくても目的化合物を製造可能であるが、より好適な製法とするために、Al、P、Ti、Zr、Sを含有させて、触媒表面の酸性度を調整しても良く、また、更に好適な製法とするためには、Al、Pを含有させることが好ましい。
【0018】
また、担持する遷移金属などの金属ナノ粒子として、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金が挙げられるが、好適には、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムのナノ粒子が用いられ、最も好ましくは、パラジウム、白金のナノ粒子が用いられる。
【0019】
更に、金属ナノ粒子のサイズとして、1μm以下であることが好ましいが、好適には、1nm以上、1μm以下、より好ましくは、1nm以上、100nm以下、最も好ましくは1nm以上、50nm以下のナノ粒子を用いることが望ましい。本発明において、有機溶媒は、ほとんど用いる必要がないが、一般的な有機溶媒を使用することも適宜可能である。その場合、二酸化炭素は、主要な媒体として使用することが必要とされ、本発明では、それを、主な媒体と表記する。
【0020】
本発明の方法では、反応条件は、温度範囲0℃以上、200℃以下、好ましくは、温度範囲が、室温の25℃以上、100℃以下の範囲である。反応圧力は、二酸化炭素分圧は、常圧以上、好ましくは0.1MPa以上、50MPa以下の範囲で、水素分圧は、0.1MPa以上、10MPa以下が好ましい。なお、この場合、二酸化炭素、及び水素の各分圧が、これらの条件以上であれば、他に、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンなどの気体を混合することも、適宜可能である。
【0021】
本発明の方法では、反応時間は、48時間以内が好適であり、24時間以内がより好適であり、更に1時間以内がより好適である。本発明では、反応時間については、基質、反応系の種類、温度、及び圧力条件などに応じて、目的化合物の転化率、選択率、収率などを考慮して、任意に設定することができる。基質の濃度は、0.001%〜50%の範囲で適宜調整することができる。また、本発明の方法では、任意に触媒表面の酸性度を調整することで、収率を向上させることができるが、これに制限されるものではなく、同効のものであれば、同様に適用することができる。
【0022】
本発明の方法で基質に用いることができるニトロ化合物は、下記の化1〜化4の一般式で表される、分子内に少なくとも一つ以上のニトロ基を有する化合物であり、該化合物と水素とを反応させることにより、ニトロ基を還元して相当するアミノ化合物を製造することができる。
【0023】
【化1】

【0024】
但し、上記式中、R〜Rは、それぞれ同一の基でも、異なる基でも若しくは繋がった環状の基でも良く、水素、非置換若しくは置換基を有するアリール基、又は非置換若しくは置換基を有する炭素数1〜15のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基若しくはシクロアルキル基、又は、ハロゲン、アルデヒド、ケトン、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸、アルコール、チオールを表す。
【0025】
【化2】

【0026】
但し、上記式中、R〜R13は、少なくとも1つ以上のニトロ基を有し、その他の置換基はそれぞれ同一の基でも、異なる基でも若しくは繋がった環状の基でも良く、水素、X(Xは、ハロゲン)、ニトロ基、置換基を有する炭素数1〜15のアルキル基、置換基を有する炭素数1〜15のアルケニル基、置換基を有する炭素数1〜15のアルキニル基、置換基を有するシクロアルキル基、水酸基、ハロゲン、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、アミノ基、アミド基、スルホン酸、スルホニル基、アルコール、エーテル、チオール、チオエーテルを表す。
【0027】
【化3】

【0028】
但し、上記式中、R〜R10は、少なくとも1つ以上のニトロ基を有し、その他の置換基はそれぞれ同一の基でも、異なる基でも若しくは繋がった環状の基でも良く、水素、ハロゲン、非置換若しくは置換基を有するアリール基、又は非置換若しくは置換基を有する炭素数1〜15のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基若しくはシクロアルキル基、又はハロゲン、アルデヒド、ケトン、ニトロ基、アミノ基、スルホン酸、トリフルオロメタンスルホニル基、アルコール、チオールを表す。
【0029】
【化4】

【0030】
但し、式中、R19〜R22は、少なくとも1つ以上のニトロ基を有し、その他の置換基はそれぞれ同一の基でも、異なる基でも若しくは繋がった環状の基でも良く、水素、X(Xは、ハロゲン)、ニトロ基、置換基を有する炭素数1〜15のアルキル基、置換基を有する炭素数1〜15のアルケニル基、置換基を有する炭素数1〜15のアルキニル基、置換基を有するシクロアルキル基、水酸基、ハロゲン、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、アミノ基、アミド基、スルホン酸、スルホニル基、アルコール、エーテル、チオール、チオエーテルを、Xは、NH、硫黄、酸素のいずれかを表す。
【0031】
より具体的には、例えば、上記ニトロ化合物が、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン(異性体含む)、トリニトロベンゼン(異性体含む)、ニトロトルエン(異性体含む)、ジニトロトルエン(異性体含む)、TNT、ニトロアニソール(異性体含む)、ジニトロアニソール(異性体含む)、トリニトロアニソール(異性体含む)、ニトロ安息香酸(異性体含む)、ジニトロ安息香酸(異性体含む)、ニトロハロゲノベンゼン(異性体含む、ハロゲン=フッ素、クロロ、臭素、ヨウ素)、ニトロジハロゲノベンゼン(異性体含む)、ニトロトリハロゲノベンゼン(異性体含む、ハロゲン=フッ素、クロロ、臭素、ヨウ素)、ハロゲノジニトロフェノール(異性体含む)、ジニトロフェノール(異性体含む)、1,3,5−トリニトロフェノール、ジアゾニトロベンゼン、ニトログリコール、ニトログリセリン、ニトロセルロース、ニトロパラフィン、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン(異性体含む)、ニトログアイアルコールナトリウム、ニトロトルイジン、ニトロトルエン(異性体含む)、ニトロフェノール(異性体含む)、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、メチルニトロアニリン(異性体含む)、メチルニトロ安息香酸無水物、ハロゲノニトロ安息香酸(異性体含む、ハロゲン=フッ素、クロロ、臭素、ヨウ素)、ニトロベンゾイルクロライド(異性体含む)、ニトロフミン酸、ニトロナフタレン(異性体含む)、ジニトロナフタレン(異性体含む)、トリニトロナフタレン(異性体含む)、テトラニトロナフタレン(異性体含む)、ニトロピリジン(異性体含む)、ハロゲノニトロピリジン(異性体含む)、ジニトロピリジン(異性体含む)、ハロゲノジニトロピリジン(異性体含む)、トリニトロピリジン、テトラニトロピリジン、ニトロチオフェン、ジニトロチオフェン、トリニトロチオフェン、テトラニトロチオフェン、ジニトロハロゲノベンゼン(異性体を含む)、トリニトロハロゲノベンゼン(異性体含む)、ニトロウラシル、ニトロカルボニル、ニトロハロゲノアニリン、ジニトロハロゲノアニリン、ニトロコットン、ニトロコバラミン、ニトロフェニルヒドラジン、ニトロベンジルアルコール、ニトロベンズアルデヒド、ジニトロベンズアルデヒド、トリニトロベンズアルデヒドで示される構造を有する化合物が例示される。しかし、これらに制限されるものではない
【0032】
従来法では、例えば、高温で、引火爆発の危険性がある条件で原料が使用され、有機溶媒が用いられ、触媒の劣化が激しく、廃棄物が多く、エネルギーコストが高い、などの問題が不可避的に伴った。これに対し、本発明の方法は、ニトロ化合物の水素還元によるアミン化合物の新しい製造方法として、1)反応温度が低い(200℃ないし100℃以下)、2)安全な二酸化炭素を使用し、有機溶媒を用いない、3)低温で有るにも関わらず反応速度としては、最大48時間以内で、100%近くの転化率を達成できる、4)収率、選択率が100%近くであり、高効率である、などの特徴を有するものであり、従来法の問題点を確実に解決することが可能な、水素還元によるアミノ化合物の新しい製造技術を提供するものとして有用である。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)高温で、引火爆発の危険性がある条件で原料を使用することなく、安全に、目的化合物の製造を行うことができる。
(2)有機溶媒をほとんど用いないことと、二酸化炭素を主な媒体にするため、触媒の劣化がほとんどなく、寿命が長く、収率、選択率が高く維持されるため、廃棄物を低減することができる。
(3)反応温度が0℃以上、200℃以下の低温度領域で、反応が早いので、投入エネルギーを少なくすることができ、製造装置などの腐食劣化なども抑えることが可能であり、環境にやさしい、環境低負荷型のプロセスによる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】合成直後(a)、及び仮焼後(b)の、Pd−MCM−41のXRDパターンを示す。
【図2】仮焼後の、Pd−MCM−41のTRM像を示す。
【図3】二酸化炭素圧と転化率との関係を示す。反応条件は、触媒=0.05g、基質=1.0g、反応温度=50℃、反応時間=10分、水素圧=2.0MPa、である。
【図4】水素圧と転化率との関係を示す。反応条件は、触媒=0.05g、基質=1.0g、反応温度=50℃、反応時間=10分、二酸化炭素圧=10MPa、である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
(1)金属ナノ粒子担持メソポーラスシリカ触媒の合成
金属ナノ粒子担持メソポーラスシリカ触媒は、次に示すとおりの手順で合成した。テトラエトキシシリケート、塩化パラジウム、セチルメチルアンモニウムブロマイド、水酸化ナトリウムと水を、1.0:0.01:0.27:0.34:62.5のモル比で混合し、得られたゲルをろ過後、乾燥し、550℃で10時間空気中で焼成を行った。得られた固体を、乳鉢で粉砕し、夫々XRD(粉末X線回折計)、TEM(透過型電子顕微鏡)、EPS(X線光電子分光)によって測定を行い、構造を確認した。尚、各種金属ナノ粒子の場合についても、同様にして金属ナノ粒子担持メソポーラスシリカ触媒を合成して、構造を確認した。
【0037】
(2)ニトロ化合物からのアミノ化合物の合成
50mLのステンレスオートクレーブに、上記金属ナノ粒子担持メソポーラスシリカ触媒(0.05g)と、原料のニトロベンゼン(1.0g)を入れ、蓋をした。その後、これを、オーブン中にセットし、所定の温度(50℃)まで加熱後、水素(2MPa)を初めに導入した後、直ちに二酸化炭素(10MPa)も導入し、全圧を所定の圧力(12MPa)に調整した。
【0038】
反応として、圧力の調整後、撹拌しながら10分間反応させた。反応を終了させるために、氷浴にて、一気に冷却後、ゆっくりと注意深く減圧した。得られた反応混合物については、触媒をろ別後に、GC−MS又はCGによって分析を行い、生成物の同定と、転化率、選択率を求めた。その結果、転化率は100%、生成物の選択率は100%であった。
【実施例2】
【0039】
反応時間を10分とし、実施例1と同様の条件で、二酸化炭素の分圧を、6MPaから14MPaまで変化させ、転化率の変化を見た。その結果を図3に示す。
【0040】
図3においては、反応条件を、触媒=0.05g、基質=1.0g、反応温度=50℃、反応時間=10分、水素圧=2.0MPa、とした場合の結果を示した。
【実施例3】
【0041】
反応時間を10分とし、実施例1と同様の条件で、二酸化炭素の分圧を10MPaとし、水素分圧を0.5から4MPaまで変化させ、転化率の変化を見た。その結果を図4に示す。
【0042】
図4においては、反応条件を、触媒=0.05g、基質=1.0g、反応温度=50℃、反応時間=10分、二酸化炭素圧=2.0MPa、とした場合の結果を示した。
【実施例4】
【0043】
基質として、各種芳香族ニトロ化合物を使用し、実施例1と同様の反応条件で反応を行い、触媒をろ別後、得られた反応混合物を、GC−MS又はCGによって分析を行い、生成物の同定と、転化率、選択率を求めた。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
触媒として、各種金属ナノ粒子(パラジウム、イリジウム、白金、ロジウム)を使用し、各金属ナノ粒子担持メソポーラスシリカ触媒を用いて、実施例1と同様の反応条件で反応を行い、金属種による活性の違いを検討した。その結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0047】
以上詳述したように、本発明は、二酸化炭素を媒体にし、更に二酸化炭素を媒体にした場合に最適化された金属ナノ粒子担持メソポーラスシリカ触媒を触媒として用いることで、有害な有機媒体を使用することなく、水素還元により、各種ニトロ化合物から、アミン化合物を製造することを可能とするアミン化合物の製法を提供することができる。本発明は、安全な、二酸化炭素を媒体とするため、有機媒体をほとんど用いることなく、温度範囲0℃以上、200℃以下の低温条件で、高効率に、しかも、廃棄物を低減化することを可能とする、環境にやさしい、ニトロ化合物からアミン化合物を製造する新しい技術を提供するものであり、従来法に代替し得る、産業用生産技術として、その実用化が高く期待できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低環境負荷型プロセスにより、ニトロ化合物からアミノ化合物を製造する方法であって、少なくともアルミニウムとケイ素と酸素と水素から成るメソポーラスシリカを担体とする金属ナノ粒子触媒を使用し、有機溶媒をほとんど用いることなく、二酸化炭素を主な媒体として、分子内に少なくとも一つのニトロ基を有するニトロ化合物と水素とを反応させることにより、ニトロ基を還元してアミノ化合物を製造することを特徴とするアミノ化合物の製造方法。
【請求項2】
担体にMCM−41メソポーラスシリカを使用し、金属ナノ粒子として、粒径1nm以上、1μm以下のサイズのパラジウム、白金、ロジウム、又はイリジウムからなる触媒を用い、媒体として、二酸化炭素の圧力が、常圧以上、50MPa以下、温度が、室温(25℃)以上、100℃以下の範囲にある液体二酸化炭素、又は超臨界二酸化炭素を用いる、請求項1に記載のアミノ化合物の製造方法。
【請求項3】
水素の分圧を、0.1MPa以上、5MPa未満の範囲にすることで、高収率、高選択率でニトロ化合物を還元してアミノ化合物を製造する、請求項1又は2に記載のアミノ化合物の製造方法。
【請求項4】
水素化の反応時間が、1秒以上、48時間未満である、請求項1から3のいずれかに記載のアミノ化合物製造方法。
【請求項5】
製造方法が、バッチ式、又は流通式である、請求項1から3のいずれかに記載のアミノ化合物の製造方法。
【請求項6】
上記ニトロ化合物が、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、ニトロ安息香酸、又はそれらの誘導体化合物である、請求項1から5のいずれかに記載のアミン化合物の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−241691(P2010−241691A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88525(P2009−88525)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】