説明

金属ナノ粒子無機複合体の製造方法および金属ナノ粒子無機複合体

【課題】化学合成方法を用いて、固体化したマトリックス中に均一に分散された、微細な金属ナノ粒子を有する金属ナノ粒子無機複合体の製造方法およびこの製造方法による金属ナノ粒子無機複合体を提供する。
【解決手段】基板上に、金属アルコキシドを酸触媒の作用により部分加水分解するゾルゲル法で、微細孔を有する酸化膜14を形成する酸化膜形成工程と、この酸化膜14を酸性の塩化スズ水溶液と接触させるSn析出工程と、微細孔からSn2+イオンを除去するSn2+イオン除去工程と、酸化膜14を金属キレート水溶液と接触させ、微細孔中に金属ナノ粒子12を析出させる金属ナノ粒子析出工程と、微細孔から金属イオンを除去する金属イオン除去工程を備えることを特徴とする金属ナノ粒子無機複合体10の製造方法およびこの製造方法による金属ナノ粒子無機複合体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiO等の透明な酸化物をマトリックスとし、Ag等の金属ナノ粒子を高密度に分散させた金属ナノ粒子無機複合体の製造方法およびこの製造方法による金属ナノ粒子無機複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
表面プラズモンは電界局在と電界増強の特性を持つ電磁波モードであり、近年ナノテクノロジーやバイオテクノロジー分野において応用研究が多角的に展開されている。研究の一分野として、局在表面プラズモンの応用がある。そして局在表面プラズモンの応用のひとつに、ナノオーダーサイズの金属ナノ粒子を使って光を伝送するプラズモンポラリトンがある。このような応用に向けて、さまざまな、金属ナノ粒子の製造方法が検討されている。また信号強度を大きくするために、構造体を一次元から二次元あるいは三次元構造に製造する検討も行われている。
【0003】
この分野において、もっとも一般的に行われる金属ナノ粒子構造体の製造方法は、電子ビームリソグラフィである。この技術には、高度なCMOS技術や高価な装置が必須となる。また三次元構造を製造することは基本的に難しい。
【0004】
上記電子ビームリソグラフィ技術を用いた製造方法に対して、より安価に金属ナノ粒子を製造するために、化学合成をベースとした金属ナノ粒子製造の検討も精力的に行われている。還元法の一種であるZsigmoddy法において、還元過程において溶液のpHを急速に変化させることで、シリカ微粒子(80〜180nm)表面に均一に10〜20nmのAg膜を作製し、Agナノシェルを作製した報告や、銀粒子を塩化金水溶液に入れ、これを還元剤として銀ナノ粒子表面にAuシェルを作製した報告、塩化スズを還元剤として銀ナノ粒子を表面に均一に分散したシリカ球の報告(非特許文献1)等が、この例として挙げられる。
【0005】
しかしながらこれら化学的な手法では、金属ナノ粒子が作製出来るものの、試料はもっぱらコロイド溶液として得られる。デバイスとして使用する場合には固体化が必要だが、ナノ粒子を凝集させることなく、透明なマトリックス内部に分散させる方法までは検討していない研究が殆どである。
【0006】
上述した安価な化学合成法と、精度の高い電子ビームリソグラフィの中間の技術として、Au等金属とSiOの共スパッタ等による、Auナノ粒子分散SiO膜製造技術が存在する。この技術は三次元的にAuナノ粒子分散組織を製造することが可能である。一般にAu等の局在表面プラズモンを使った非線形光学材料を目指した研究が多い。透明なSiO膜中に三次元的に多量のAuナノ粒子を含有させることが出来るが、スパッタしただけではAuナノ粒子の結晶性が悪く、かつ球状では無いため、成膜後の500℃以上の加熱処理が必要となる場合が多い(非特許文献2)。また、熱処理があるために、粒径の均一性を得ることが難しい。そして、加熱時の凝集による粒径増加は避けることが出来ないため、直径20nm以下への金属ナノ粒子の微細化も困難であった。
【非特許文献1】Y.Kobayashi,V.S.−Maceira and L.M.L.−Marzan,“Deposition of Silver Nanoparticles on Silica Sphereres by Pretreatment Steps in Electorores Plating,”Chem.Mater.,(2001),13,pp1630−1633.
【非特許文献2】B.Zhang,H.Masumoto,Y.Someno and T.Goto,“Optical Properties of Au/SiO2 Nano−Composite Films Prepared by Induction−Coil−Coupled Plasma Sputtring,”Mater.Trans.,44[2],(2003),pp215−219
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、電子ビームリソグラフィを用いた製造方法では製造コストが大きくなるという問題があった。また、従来の化学合成方法では金属ナノ粒子が固体化する方法が得られていなかった。そして、共スパッタ法では、金属ナノ粒子の微細化とマトリックス中の均一分布実現が困難であった。
【0008】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、化学合成方法を用いて、固体化したマトリックス中に均一に分散された、微細な金属ナノ粒子を有する金属ナノ粒子無機複合体の製造方法およびこの製造方法による金属ナノ粒子無機複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法は、基板上に、金属アルコキシドを酸触媒の作用により部分加水分解するゾルゲル法で、微細孔を有する酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、前記酸化膜を酸性の塩化スズ水溶液と接触させるSn析出工程と、前記微細孔からSn2+イオンを除去するSn2+イオン除去工程と、前記酸化膜を金属キレート水溶液と接触させ、前記微細孔中に金属ナノ粒子を析出させる金属ナノ粒子析出工程と、前記微細孔から金属イオンを除去する金属イオン除去工程を備えることを特徴とする。
【0010】
ここで、前記Sn析出工程から前記金属イオン除去工程を複数回繰り返すことが望ましい。
【0011】
ここで、前記Sn析出工程と前記Sn2+イオン除去工程を連続して繰り返すことが望ましい。
【0012】
ここで、前記Sn析出工程から前記金属イオン除去工程を複数回繰り返す場合に、前記金属ナノ粒子析出工程の後、前記Sn析出工程の前に、前記微細孔からSn2+イオンを除去する第2のSn2+イオン除去工程を有することが望ましい。
【0013】
ここで、前記Sn2+イオン除去工程が、水または水溶液に前記酸化膜を浸漬する処理であることが望ましい。
【0014】
ここで、前記Sn2+イオン除去工程が、水または水溶液を循環させた装置内に前記酸化膜を浸漬する処理であることが望ましい。
【0015】
ここで、前記第2のSn2+イオン除去工程が、前記金属ナノ粒子析出工程後、12時間以上溶液中あるいは大気中に保持することで、Sn2+をSn4+に変化させる処理であることが望ましい。
【0016】
ここで、前記第2のSn2+イオン除去工程が、前記金属ナノ粒子析出工程後、50℃以上100℃未満の温度で加熱をすることで、Sn2+をSn4+に変化させる処理であることが望ましい。
【0017】
ここで、前記金属アルコキシドがオルガノシランであって、前記酸化膜がSiO膜であることが望ましい。
【0018】
ここで、前記金属キレート水溶液が、銀塩およびアンモニアを含む水溶液によって調製されたAg(NHキレート水溶液であることが望ましい。
【0019】
ここで、前記SiO膜形成工程後の前記SiO膜が、IR測定において3400cm−1近傍および950cm−1近傍にOH基によるピークを示し、かつ、前記SiO膜が含有するCl濃度が重量組成比で、SiO/Cl=50〜80/1であり、かつ、前記微細孔の孔径が10nm以下であり、前記微細孔がネットワーク状に発達していることが望ましい。
【0020】
本発明の一態様の金属ナノ粒子無機複合体は、SiO,B,Al,TiO,ZrO,NaO,CaO,SrOからなる群の中の少なくとも1つの酸化物を含む可視光に対して透明な酸化物と、前記酸化物中に分散されたAu,Ag,Cu,Pt,Pb,Ph,Cd,In,Pdからなる群の中の少なくとも1つの金属を含む金属ナノ粒子と、前記酸化物中に分散されたスズ酸化物(SnO)とを含み、
前記酸化物の割合をa(wt%)、前記金属ナノ粒子の割合をb(wt%)、前記スズ酸化物の割合をc(wt%)と表記した場合に、30≦a≦70、20≦b≦50、1≦c≦30であることを特徴とすることを特徴とする。
【0021】
ここで、前記酸化物がSiOであり、前記金属がAgであることが望ましい。
【0022】
ここで、前記酸化物の割合をa(wt%)、前記金属ナノ粒子の割合をb(wt%)、前記スズ酸化物の割合をc(wt%)と表記した場合に、35≦a≦45、35≦b≦45、15≦c≦25であることが望ましい。
【0023】
ここで、Fを0.5〜3wt%、Clを0.1〜1.0wt%を含有することが望ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、化学合成方法を用いて、固体化したマトリックス中に均一に分散された、微細な金属ナノ粒子を有する金属ナノ粒子無機複合体の製造方法およびこの製造方法による金属ナノ粒子無機複合体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法は、基板上に、金属アルコキシドを酸触媒の作用により部分加水分解するゾルゲル法で、微細孔を有する酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、形成された酸化膜を酸性の塩化スズ水溶液と接触させるSn析出工程と、酸化膜中の微細孔からSn2+イオンを除去するSn2+イオン除去工程と、酸化膜を金属キレート水溶液と接触させ、微細孔中に金属ナノ粒子を析出させる金属ナノ粒子析出工程と、微細孔から金属イオンを除去する金属イオン除去工程を備えている。
【0026】
以下、本実施の形態の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法について、金属アルコキシドがオルガノシランであるTEOS(Tetraethoxysilane)であり、酸化膜がSiO膜であり、金属がAgである場合を例に説明する。
【0027】
まず、例えば、石英ガラスやSi(シリコン)の基板を準備する。この基板の上に、HCl等の酸触媒を用いたゾルゲル法により、TEOSを部分加水分解して、SiOからなる可視光に対して透明なマトリックスを形成する酸化膜形成工程を行う。TEOSより生成される前駆体溶液の成膜は、ディップコートやスピンコート等で行うことが出来る。触媒は塩酸、硝酸、硫酸、酢酸等が挙げられる。酸触媒を用いることで、単量体が完全に加水分解を受ける前に重縮合が起こるために、線状の高分子が生じやすく、その側鎖にはOH基やOR基が残存しやすくなり、塩基触媒を用いた場合に比べて、還元剤となるSn2+を多く吸着することが可能となり、結果として多数の金属ナノ粒子を後の工程で析出することが可能となるからである。
【0028】
なお、ここで酸触媒として、HClを用いることが望ましい。HClを用いることで特に、多量のOH基を残存させることが出来るからである。図2にHClを触媒として形成されたSiO膜のIR特性を示す。3400cm−1近傍および950cm−1近傍にOH基によるピークが認められる。また、このSiO膜は、触媒に起因するCl濃度が重量組成比で、SiO2/Cl=50〜80/1である。
【0029】
そして、形成されたSiO膜中の微細孔の孔径が10nm以下、望ましくは5nm以下であり、かつ、この微細孔がネットワーク状に発達していることが望ましい。このような微細孔を有することにより、より微細な金属ナノ粒子を、マトリックス中に均一に多数分散させることが可能だからである。
【0030】
SiO膜をゾルゲル法で形成した酸化膜形成工程の後、還元剤となるSn2+をSiO膜の微細孔内壁に析出させる。スズは、塩化スズや塩化スズ・2水和物等を出発原料とした水溶液で供する。ここで、塩化スズがSiO膜内部に化学吸着し易く、強く還元力を有するようトリフルオロ酢酸や塩酸等を十分に加えてpH3以下、望ましくはpH2以下とすることが好ましい。これ以上pHが高い条件ではSnイオンの生成効率が低下する為である。
【0031】
次に、塩化スズを含む水溶液にSiO膜を含浸することで接触させる。必要であれば真空含浸等の強制含浸を行う。この接触によりSnイオンを化学吸着させる。この処理が、Sn析出工程である。
【0032】
Sn析出工程の後、余分なSn2+等をSiO膜中の微細孔から除去するために蒸留水等で試料を洗浄する。この処理がSn2+イオン除去工程である。
【0033】
Sn2+イオン除去工程の後、酸化膜を金属キレート水溶液と接触させ、微細孔中に金属ナノ粒子を析出させる金属ナノ粒子析出工程を行う。金属塩を水溶液に溶解した後、アンモニア等を用いてキレート化する。ここでは、硝酸銀を水溶液に溶解させた後、アンモニア水を滴下してAgキレートを作製する。
【0034】
そして、このAgキレートを含む水溶液に、Sn析出工程を終えた試料を含浸させる。化学吸着したSn2+が還元剤となり、AgキレートのAgイオンを還元する。還元されたAgはSiO膜の微細孔内部に20nm以下のナノ粒子として析出する。
【0035】
Agを析出させる金属ナノ粒子析出工程の後に、微細孔から余剰なAg等の金属イオンを除去する金属イオン除去工程を行う。例えば、余分な処理液を蒸留水等で洗浄し、乾燥させる。
【0036】
上記本実施の形態の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法によれば、可視光に対して透明な酸化物であるSiOと、この酸化物中に分散されたAgナノ粒子と、SiO中に分散されたスズ酸化物(SnO)とを含み、酸化物の割合をa(wt%)、Agナノ粒子の割合をb(wt%)、スズ酸化物の割合をc(wt%)と表記した場合に、30≦a≦70、20≦b≦50、1≦c≦30であるAgナノ粒子無機複合体を製造することが出来る。
【0037】
図1は、本実施の形態の製造方法で製造されたAgナノ粒子無機複合体の断面TEM観察像である。Agナノ粒子無機複合体10には、直径10nm以下のAgナノ粒子12がSiOマトリックス相14中に高密度に存在していることが確認できる。複数の視野を観察した結果、直径15nm以下のAgナノ粒子12が高密度に分散した透明セラミックス複合体が得られていることが確認されている。
【0038】
このように、Agナノ粒子/SiOマトリックス系において、SiO、Agおよびスズ酸化物の重量組成比が30〜70:20〜50:1〜30であるAgナノ粒子無機複合体は、Agナノ粒子が極めて微細であり、かつ、充填量の多いAgナノ粒子高充填組織を有している。この時のAgナノ粒子は先に述べたように直径15nm以下であり、かつ、充填率は最大で15vol%である。
【0039】
そして、このようなAgナノ粒子無機複合体は、光学特性測定により、410nm付近で明瞭なプラズモン吸収を確認することが出来る。また、本実施の形態のAgナノ粒子無機複合体をプリズム上に作製し、ATR法で測定すると、入射角の増加と共に短波長側にシフトするギャップが観察され、その分散関係から、プラズモンポラリトンの導波が観測される。すなわち、プラズモン導波路や非線形光学材料等の光デバイスに好適に用いることが出来る。
【0040】
ここで、酸化物の割合をa(wt%)、金属ナノ粒子の割合をb(wt%)、スズ酸化物の割合をc(wt%)と表記した場合に、30≦a≦55、30≦b≦50、15≦c≦30であることが望ましい。そして、35≦a≦45、35≦b≦45、15≦c≦25であることがより望ましい。この重量組成比を有することで、Ag濃度が高いため、一層高いプラズモン吸収が得られからである。
【0041】
なお、上記本実施の形態の製造方法において、Sn析出工程とSn2+イオン除去工程を連続して繰り返すことも有効である。これによって、還元剤となるSn2+の化学吸着量を増加させ、金属ナノ粒子の析出量を増加させることが可能となるからである。この理由は以下のとおりである。
【0042】
図3は、Sn2+の化学吸着作用の説明図である。図3(a)に示すように、反応初期には、SiO微細孔内部に容易にSn2+が拡散することが出来る。しかし図3(b)に示すように、ある程度化学吸着が進行し、SiO微細孔内部のSn2+濃度が上昇すると、Sn2+化学吸着反応は平衡状態に達し、それ以上SiO微細孔内部のSn2+濃度が増加することは無い。
【0043】
そこで、Sn析出工程とSn2+イオン除去工程を連続して繰り返すことにより、微細孔内部のSn2+濃度を低減する。まず、Sn析出工程後の洗浄等のSn2+イオン除去工程で、余剰なSn2+をSiO微細孔内部から可能な限り除去する。このプロセスにより、SiO微細孔内部に、新たなSn2+の化学吸着が可能な状態となる。そして、次に、Sn析出工程を行う。新たなSn2+が化学吸着することにより、次の金属ナノ粒子析出工程で、より多くのAgの還元・析出することが可能となる。
【0044】
なお、Sn2+イオン除去工程は、純水や水溶液等の溶媒で洗浄を行う。洗浄は、あらかじめビーカー等の容器に準備した純水等に試料であるSiO膜を浸漬することで行ってもよいし、純水等がフィルター等を介して循環する装置内に試料を浸漬する処理で行っても良い。また流水が直接試料表面と接触するように行っても、Sn2+がSiO微細孔内部から除去されればかまわない。
【0045】
なお、本実施の形態の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法においては、製造される金属ナノ粒子無機複合体の光学特性、金属ナノ粒子の微細化および均一化の観点からは金属アルコキシドがTEOSであるが望ましい。しかしながら、TEOSに限らず、その他の金属アルコキシドを適用することも可能である。また、製造される金属ナノ粒子無機複合体の光学特性、金属ナノ粒子の微細化および均一化の観点から金属ナノ粒子の金属はAgであることが望ましいが、Agのみならず、例えば、Au,Cu,Pt,Pb,Ph,Cd,In,Pd等の金属を適用することも可能である。
【0046】
また、本実施の形態の金属ナノ粒子無機複合体においては、酸化物はSiOであることが望ましいが、SiOに限らず、B,Al,TiO,ZrO,NaO,CaO,SrO等の酸化物を、可視光に対して透明なマトリックスとして適用できる。また、金属ナノ粒子の金属はAgであることが望ましいが、Agのみならず、例えば、Au,Cu,Pt,Pb,Ph,Cd,In,Pd等の金属を適用することも可能である。
【0047】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法は、Sn析出工程から金属イオン除去工程を複数回繰り返すことと、金属ナノ粒子析出工程の後、Sn析出工程の前に、微細孔からSn2+イオンを除去する第2のSn2+イオン除去工程を有すること以外は、基本的に第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する記述については、記載を省略する。
【0048】
本実施の形態によれば、Sn析出工程から金属イオン除去工程を複数回繰り返すことにより、金属ナノ粒子の析出量を増加させることが可能となる
【0049】
まず、第1の実施の形態同様に、最初のSn析出工程から金属ナノ粒子析出工程を行う。この後に、微細孔から余剰なSn2+イオンを除去する第2のSn2+イオン除去工程を行う。
【0050】
この第2のSn2+イオン除去工程における処理としては、Ag処理溶液中または水溶液中、あるいは溶液から試料を取り出した大気中の状態で12時間以上保持することで、不安定なSn2+が、安定なSn4+に変化する現象を用いても良い。あるいは、試料をAg処理液から取り出し水溶液に入れた状態で、または試料をAg+処理液から取り出した状態で、50℃以上100℃未満の温度に加熱することで、化学反応速度を上昇させ、Sn2+をSn4+に変化させても良い。ここで、50℃以下では顕著な効果が認められず、100℃以上では溶液の蒸発等が激しく起こり、膜が剥離するなどのダメージをうけるので好ましくない。
【0051】
この第2のSn2+イオン除去工程後、試料を水洗等により洗浄を行い、余分な金属イオン等のイオン種やコンタミ等をSiO2微細孔から除去する金属イオン除去工程を行う。
【0052】
その上で、再度、Sn析出工程により、Sn2+の化学吸着処理を行う。SiO微細孔内壁に化学吸着していたSn2+はSn4+に全て変わっており、SiO微細孔中にはSn2+も存在しない。よって新たにSn2+がSiO微細孔の壁面に化学吸着することが可能となる。この後、Sn2+イオン除去工程の洗浄等により、過剰なSn2+の除去を行う。
【0053】
引き続きAgキレート処理液によるAgナノ粒子析出工程を行う。新たにSiO微細孔に化学吸着したSn2+によりAgが還元されて、Agナノ粒子の析出が起こる。このとき、AgからSn2+への電子の授受によって反応が起こるため、1度目の反応で析出したAgナノ粒子とは異なった位置に、2回目のAgナノ粒子が析出する。よってAgナノ粒子の粒成長は抑制される。
【0054】
このようにして製造した試料の光学特性測定によれば、Sn析出工程から金属イオン除去工程を1回のみ行うことにより製造した試料と同じく410nm付近にピークが存在する。そして、本実施の形態により製造された試料において、明らかに吸光度の増大したプラズモン吸収を確認することが出来る。
【0055】
以上Sn析出工程から金属イオン除去工程を2回繰り返す製造方法について述べたが、これを更に複数回行っても良い。回数を増やすことで、Agナノ粒子の密度を増大させることが可能になる。
【0056】
本実施の形態により製造されるAgナノ粒子無機複合体を、プリズム上に作製し、いわゆるATR法で測定すると、プラズモンポラリトン発生に起因する入射光角度依存および偏光依存性のあるギャップの発生が確認される。
【0057】
なお、第2のSn2+イオン除去工程を行なうことが、金属ナノ粒子析出工程後の微細孔から余剰なSn2+イオンを十分に除去する観点からは望ましいが、単に、Sn析出工程から金属イオン除去工程を複数回繰り返すことによっても金属ナノ粒子の析出量を増加させることが可能である。また、第2のSn2+イオン除去工程は、必ずしも、金属イオン除去工程と処理として分離して行われるものではなく、同一の洗浄処理で、余剰なSn2+イオン除去と、金属イオン除去を行ってもかまわない。また、第2のSn2+イオン除去工程と、金属イオン除去工程が別個の処理として行われる場合、それらの処理の順番は必ずしも固定されるものではない。第2のSn2+イオン除去工程が先に行われても、金属イオン除去工程が先に行われるものであっても構わない。
【0058】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。実施の形態の説明においては、金属ナノ粒子無機複合体の製造方法、金属ナノ粒子無機複合体等で、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされる金属ナノ粒子無機複合体の製造方法、金属ナノ粒子無機複合体等に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0059】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての金属ナノ粒子無機複合体の製造方法、金属ナノ粒子無機複合体は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0061】
(実施例1)
まず、石英ガラス基板の上に酸触媒を用いてSiO膜を作製した。セパラブル・フラスコに、エタノール100ml、イオン交換水20ml、1mol/l塩酸水溶液10mlを加え、30℃に保持して30分程度混合した。次にTEOSを21g添加して、更に3h程度混合した。20×50×1mmの石英ガラス基板は、水、エタノール、アセトンで洗浄した後、UVドライ洗浄を行い、実験に供した。スピナーを使い、1000rpm×30sで調製した前駆体溶液を石英ガラス基板に塗布した。その後、室温で24h保持し、加水分解及び縮重合反応を起こさせた。
【0062】
本実施例のSiO膜のIR測定をしたところ、図2とほぼ同じく3400cm−1近傍および950cm−1近傍にOH基に起因するピークが認められた。蛍光X線による組成分析を行ったところ、SiO2/Cl=63/1の値を得た。
【0063】
次に、スズ処理液を作製した。塩化スズ0.1gを水20mlに溶解させた後、トリフルオロ酢酸を0.1ml添加し、5min.程混合した。この溶液0.1mlをイオン交換水9.9mlに添加した。作製した処理液に試料である先のSiO膜を1h程度浸積した。その後処理液より取りだし、イオン交換水で洗浄した。
【0064】
次に、Ag処理液を作製した。硝酸銀0.12gをイオン交換水20mlに溶解させた後、溶液が透明になるまで25%アンモニア水を滴下して加えた。この溶液0.1mlをイオン交換水9.9mlに添加した。作製した処理液であるAg(NHキレート水溶液に、先のSiO膜を1h程度浸積した。その後処理液より取りだし、イオン交換水で洗浄した後、室温で24h程度乾燥させた。
【0065】
製造されたAgナノ粒子無機複合体の色を目視観察した。また、吸収スペクトル測定を行った。吸収スペクトル測定の結果は図4に示す。また、蛍光X線による組成分析およびTEMによる断面観察を行った。
【0066】
(比較例)
比較例として、塩基触媒を用いてSiO膜を作製した。セパラブル・フラスコに、エタノール100ml、25%アンモニア水10mlを加え、30℃で30分程度混合し、ついでTEOSを3.5g添加し、3h程度混合した。これ以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0067】
実施例1の場合同様、製造されたAgナノ粒子無機複合体の色を目視観察した。また、吸収スペクトル測定を行った。吸収スペクトル測定の結果は図4に示す。
【0068】
乾燥後の実施例1の試料は、濃い茶褐色を呈するが、比較例の試料は僅かに着色するのみであった。また、図4に示すように吸収スペクトル測定において、実施例1の試料は410nm付近に吸収ピークを示すが、比較例には明瞭な吸収ピークが認められなかった。
【0069】
実施例の試料の蛍光X線による組成分析では、SiO、AgおよびSnOのとした場合の重量組成比が概ね65:25:10という値を得た。さらに実施例の試料のTEMによる断面観察では、図1と同様の組織が形成されていることを確認した。Agナノ粒子の粒径は2〜15nmであった。
【0070】
(実施例2)
実施例1と同様にSiO膜を作製した。まず、石英ガラス基板の上に酸触媒を用いてSiO膜を作製した。セパラブル・フラスコに、エタノール150ml、イオン交換水27ml、1mol/l硝酸水溶液15mlを加え、30℃に保持して15分程度混合した。次にTEOSを31g添加して、更に2h程度混合した。
【0071】
次に、スズ処理液を作製した。塩化スズ・2水和物0.06gを水10mlに溶解させた後、トリフルオロ酢酸を0.05ml添加し、30分程混合した。この溶液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を1h程度浸積した。その後処理液より取りだし、イオン交換水で洗浄した。さらにビーカーに入れたイオン交換水に1h程度浸積して、洗浄した。
【0072】
次いで、まずAg処理液を作製した。硝酸銀0.12gをイオン交換水20mlに溶解させた後、溶液が透明になるまで25%アンモニア水を滴下して加えた。この溶液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を1h程度浸積した。その後処理液より取りだし、イオン交換水で洗浄した後、室温で24h程度乾燥させた。
【0073】
乾燥後の本実施例の試料は、実施例1同様に、濃い茶褐色を呈した。また、実施例1同様に吸収スペクトル測定を行ったところ、415nm近傍に吸収ピークが認められた。
【0074】
(実施例3)
実施例1と同様にSiO膜を作製した。まず、石英ガラス基板の上に酸触媒を用いてSiO膜を作製した。セパラブル・フラスコに、エタノール100ml、イオン交換水20ml、1mol/l塩酸水溶液10mlを加え、30℃に保持して30分程度混合した。次にTEOSを21g添加して、更に3h程度混合した。20×50×1mmの石英ガラス基板は、水、エタノール、アセトンで洗浄した後、UVドライ洗浄を行い、実験に供した。スピナーを使い、1000rpm×30sで調製した前駆体溶液を石英ガラス基板に塗布した。その後、室温で24h保持し、加水分解及び縮重合反応を起こさせた。
【0075】
次に、まずスズ処理液を作製した。塩化スズ・2水和物0.1gを水20mlに溶解させた後、トリフルオロ酢酸を0.1ml添加し、5分程混合した。この溶液0.1mlをイオン交換水9.9mlに添加した。作製した処理液に本発明の試料および比較材を30分程度浸積した。その後試料を処理液より取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったビーカーに30分浸漬した。
【0076】
次いで、まずAg処理液を作製した。硝酸銀0.12gをイオン交換水20mlに溶解させた後、溶液が透明になるまで25%アンモニア水を滴下して加えた。この溶液0.1mlをイオン交換水9.9mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後処理液より試料を取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったビーカーに30分浸漬した。以上により、1回目のSn析出工程から金属イオン除去工程のプロセスを終了した。
【0077】
引き続き、2回目のSn析出工程から金属イオン除去工程のプロセスを行った。
【0078】
1回目と同様に、先に作製したスズ処理液0.1mlをイオン交換水9.9mlに添加した。作製した処理液に本発明の試料および比較材を30分程度浸積した。その後試料を処理液より取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったビーカーに30分浸漬した。
【0079】
次いで、先に作製したAg処理液0.1mlをイオン交換水9.9mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。イオン交換水で洗浄した後、室温で24h程度乾燥させた。
【0080】
Sn析出工程から金属イオン除去工程を1回行った実施例1の試料と、2回行った実施例3で製造した試料の外観を図5に示す。実施例3の試料は、より濃い茶褐色を呈する。これら試料の吸収スペクトル測定を行った。結果を図6に示す。両試料とも420nm付近に吸収ピークを示すが、実施例3の試料は、約2倍の吸光度を示した。したがって、実施例3の試料に、より多量のAgナノ粒子が充填されていることになる。
【0081】
本実施例の試料の蛍光X線による組成分析を行ったところ、AgおよびSnOの組成が40wt%および20wt%であった。すなわち、SiO、AgおよびSnOのとした場合の重量組成比が概ね40:40:20という値であった。またF,Clの値は、2.5wt%および0.3wt%であった。
【0082】
本実施例の膜(Agナノ粒子無機複合体)を、プリズム上に作製し、いわゆるATR法で測定したところ、プラズモンポラリトン発生に起因する入射光角度依存および偏光依存性のあるギャップの発生が確認された。
【0083】
(実施例4)
実施例1と同様にSiO膜を作製した。まず、石英ガラス基板の上に酸触媒を用いてSiO2膜を作製した。セパラブル・フラスコに、エタノール100ml、イオン交換水20ml、1mol/l塩酸水溶液10mlを加え、30℃に保持して30分程度混合した。次にTEOSを21g添加して、更に3h程度混合した。20×50×1mmの石英ガラス基板は、水、エタノール、アセトンで洗浄した後、UVドライ洗浄を行い、実験に供した。スピナーを使い、1000rpm×30sで調製した前駆体溶液を石英ガラス基板に塗布した。その後、室温で24h保持し、加水分解及び縮重合反応を起こさせた。
【0084】
次に、まずスズ処理液を作製した。塩化スズ0.1gを水20mlに溶解させた後、トリフルオロ酢酸を0.1ml添加し、5分程混合した。この溶液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後試料を処理液より取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったビーカーに30分浸漬した。
【0085】
再度、スズ処理液による処理を行った。まずスズ処理液を作製した。塩化スズ0.1gを水20mlに溶解させた後、トリフルオロ酢酸を0.1ml添加し、5min.程混合した。この溶液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後試料を処理液より取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったビーカーに30分浸漬した。
【0086】
次いで、まずAg処理液を作製した。硝酸銀0.12gをイオン交換水20mlに溶解させた後、溶液が透明になるまで25%アンモニア水を滴下して加えた。この溶液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後処理液より試料を取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったビーカーに30分浸漬した。以上により、1回目のSn析出工程から金属イオン除去工程のプロセスを終了した。
【0087】
引き続き、2回目のSn析出工程から金属イオン除去工程のプロセスを行った。
【0088】
1回目と同様に、先に作製したスズ処理液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後試料を処理液より取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったビーカーに30分浸漬した。
【0089】
その後、再度、スズ処理液による処理を行った。まずスズ処理液を作製した。先に作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後試料を処理液より取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったビーカーに30分浸漬した。
【0090】
次いで、先に作製したAg処理液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。イオン交換水で洗浄した後、室温で24h程度乾燥させた。
【0091】
製造された試料は、実施例1および実施例2の試料よりも、より濃い茶褐色を呈した。
【0092】
(実施例5)
実施例1と同様にSiO膜を作製した。まず、石英ガラス基板の上に酸触媒を用いてSiO膜を作製した。セパラブル・フラスコに、エタノール100ml、イオン交換水20ml、1mol/l塩酸水溶液10mlを加え、30℃に保持して30分程度混合した。次にTEOSを21g添加して、更に3h程度混合した。20×50×1mmの石英ガラス基板は、水、エタノール、アセトンで洗浄した後、UVドライ洗浄を行い、実験に供した。スピナーを使い、1000rpm×30sで調製した前駆体溶液を石英ガラス基板に塗布した。その後、室温で24h保持し、加水分解及び縮重合反応を起こさせた。
【0093】
次に、まずスズ処理液を作製した。塩化スズ0.1gを水20mlに溶解させた後、トリフルオロ酢酸を0.1ml添加し、5分程混合した。この溶液0.1mlをイオン交換水9.9mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後試料を処理液より取りだした。図7に本実施例で使用した洗浄装置の概略を示す。洗浄装置20は容量800mlで、上部の流入口22より蒸留水30が流入し、下部の排出口24より蒸留水が排出される。この洗浄装置20の網状の試料保持網台26に試料28を挿入し、30分間蒸留水を流して、試料を洗浄した。
【0094】
次いで、まずAg処理液を作製した。硝酸銀0.12gをイオン交換水20mlに溶解させた後、溶液が透明になるまで25%アンモニア水を滴下して加えた。この溶液0.1mlをイオン交換水9.9mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後試料を処理液より取りだした。先の洗浄装置の網状の試料台に試料を挿入し、30分間蒸留水を流して、試料を洗浄した。以上により、1回目のSn析出工程から金属イオン除去工程のプロセスを終了した。
【0095】
引き続き、2回目のSn析出工程から金属イオン除去工程のプロセスを行った。
【0096】
1回目と同様に、先に作製したスズ処理液を、0.1mlをイオン交換水9.9mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後試料を処理液より取りだした。先の図7の洗浄装置の網状の試料台に試料を挿入し、30分間蒸留水を流して、試料を洗浄した。
【0097】
次いで、先に作製したAg処理液0.1mlをイオン交換水9.9mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。イオン交換水で洗浄した後、室温で24h程度乾燥させた。
【0098】
図7の装置を用いない洗浄を行った実施例1、2の試料と、この実施例5で製造した試料を比較したところ、実施例5の試料が、より濃い茶褐色を呈した。
【0099】
(実施例6)
実施例1と同様にSiO膜を作製した。まず、石英ガラス基板の上に酸触媒を用いてSiO膜を作製した。セパラブル・フラスコに、エタノール100ml、イオン交換水20ml、1mol/l塩酸水溶液10mlを加え、30℃に保持して30min.程度混合した。次にTEOSを21g添加して、更に3h程度混合した。20×50×1tmmの石英ガラス基板は、水、エタノール、アセトンで洗浄した後、UVドライ洗浄を行い、実験に供した。スピナーを使い、1000rpm×30sで調製した前駆体溶液を石英ガラス基板に塗布した。その後、室温で24h保持し、加水分解及び縮重合反応を起こさせた。
【0100】
次に、まずスズ処理液を作製した。塩化スズ0.1gを水20mlに溶解させた後、トリフルオロ酢酸を0.1ml添加し、5min.程混合した。この溶液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後試料を処理液より取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったビーカーに10分浸漬した。
【0101】
次いで、まずAg処理液を作製した。硝酸銀0.12gをイオン交換水20mlに溶解させた後、溶液が透明になるまで25%アンモニア水を滴下して加えた。この溶液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後処理液より試料を取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったビーカーに20時間浸漬した。以上により、1回目のSn析出工程から金属イオン除去工程のプロセスを終了した。
【0102】
引き続き、2回目のSn析出工程から金属イオン除去工程のプロセスを行った。
【0103】
1回目と同様に、作製したスズ処理液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後試料を処理液より取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったビーカーに10分浸漬した。
【0104】
次いで、1回目と同様に作製したAg処理液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。イオン交換水で洗浄した後、室温で24h程度乾燥させた。
【0105】
本実施例の試料は、実施例1、2の試料よりも濃い茶褐色を呈した。
【0106】
(実施例7)
実施例1と同様にSiO膜を作製した。まず、石英ガラス基板の上に酸触媒を用いてSiO膜を作製した。セパラブル・フラスコに、エタノール100ml、イオン交換水20ml、1mol/l塩酸水溶液10mlを加え、30℃に保持して30分程度混合した。次にTEOSを21g添加して、更に3h程度混合した。20×50×1tmmの石英ガラス基板は、水、エタノール、アセトンで洗浄した後、UVドライ洗浄を行い、実験に供した。スピナーを使い、1000rpm×30sで調製した前駆体溶液を石英ガラス基板に塗布した。その後、室温で24h保持し、加水分解及び縮重合反応を起こさせた。
【0107】
次に、まずスズ処理液を作製した。塩化スズ0.1gを水20mlに溶解させた後、トリフルオロ酢酸を0.1ml添加し、5分程混合した。この溶液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後試料を処理液より取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったビーカーに10分浸漬した。
【0108】
次いで、まずAg処理液を作製した。硝酸銀0.12gをイオン交換水20mlに溶解させた後、溶液が透明になるまで25%アンモニア水を滴下して加えた。この溶液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後処理液より試料を取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったセパラブル・フラスコに浸漬した。このフラスコを、オイルバスを用いて、液温が70℃になるよう30分間加熱し、その後急冷した。以上により、1回目のSn析出工程から金属イオン除去工程のプロセスを終了した。
【0109】
引き続き、2回目のSn析出工程から金属イオン除去工程のプロセスを行った。
【0110】
1回目と同様に、作製したスズ処理液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を30分程度浸積した。その後試料を処理液より取りだした。500mlのイオン交換水の入ったビーカーで、試料をゆるやかに振り動かして洗浄した後、別に準備したイオン交換水の入ったビーカーに10分浸漬した。
【0111】
次いで、1回目と同様に作製したAg処理液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に本発明の試料および比較材を30分程度浸積した。イオン交換水で洗浄した後、室温で24h程度乾燥させた。
【0112】
本実施例の試料は、実施例1、2の試料よりも濃い茶褐色を呈した。
【0113】
(実施例8)
まず、石英ガラス基板の上に酸触媒を用いてAl膜を作製した。セパラブル・フラスコに、エタノール150ml、イオン交換水27ml、1mol/l硝酸水溶液15mlを加え、30℃に保持して15min.程度混合した。次にAl(OCを21g添加して、更に2h程度混合した。
【0114】
次に、まずスズ処理液を作製した。塩化スズ・2水和物0.06gを水10mlに溶解させた後、トリフルオロ酢酸を0.05ml添加し、30min.程混合した。この溶液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を1h程度浸積した。その後処理液より取りだし、イオン交換水で洗浄した。さらにビーカーに入れたイオン交換水に1h程度浸積して、洗浄した。
【0115】
次いで、まずAuキレート液を作製し、この溶液0.2mlをイオン交換水19.8mlに添加した。作製した処理液に試料を1h程度浸積した。その後処理液より取りだし、イオン交換水で洗浄した後、室温で24h程度乾燥させた。
【0116】
乾燥後の試料は、赤紅色を呈した。吸収スペクトル測定を行ったところ、530nm近傍に吸収ピークが認められた。
【0117】
以上、実施例および比較例により、本発明を用いることで、金属ナノ粒子を凝集させることなく、透明セラミックスからなる膜内部に高密度に分散した組織を作製することができることが明らかになった。このような組織を有する金属ナノ粒子無機複合体はプラズモン吸収特性を示し、非線形光学膜やプラズモン光導波路等の光デバイスとして使用するのに適した構造体である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】第1の実施の形態のAgナノ粒子無機複合体の断面TEM観察像。
【図2】第1の実施の形態のSiO膜のIR特性を示す図。
【図3】Sn2+の化学吸着作用の説明図。
【図4】実施例1および比較例の吸収スペクトル測定の結果を示す図。
【図5】実施例1および実施例3の試料の外観図。
【図6】実施例1および実施例2の吸収スペクトル測定の結果を示す図。
【図7】実施例5の洗浄装置の概略図。
【符号の説明】
【0119】
10 Agナノ粒子無機複合体
12 Agナノ粒子
14 SiOマトリックス相
20 洗浄装置
22 流入口
24 排出口
26 試料保持網台
28 試料
30 蒸留水


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、金属アルコキシドを酸触媒の作用により部分加水分解するゾルゲル法で、微細孔を有する酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、
前記酸化膜を酸性の塩化スズ水溶液と接触させるSn析出工程と、
前記微細孔からSn2+イオンを除去するSn2+イオン除去工程と、
前記酸化膜を金属キレート水溶液と接触させ、前記微細孔中に金属ナノ粒子を析出させる金属ナノ粒子析出工程と、
前記微細孔から金属イオンを除去する金属イオン除去工程を備えることを特徴とする金属ナノ粒子無機複合体の製造方法。
【請求項2】
前記Sn析出工程から前記金属イオン除去工程を複数回繰り返すことを特徴とする請求項1記載の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法。
【請求項3】
前記Sn析出工程と前記Sn2+イオン除去工程を連続して繰り返すことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子析出工程の後、前記Sn析出工程の前に、前記微細孔からSn2+イオンを除去する第2のSn2+イオン除去工程を有することを特徴とする請求項2記載の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法。
【請求項5】
前記Sn2+イオン除去工程が、水または水溶液に前記酸化膜を浸漬する処理であることを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項に記載の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法。
【請求項6】
前記Sn2+イオン除去工程が、水または水溶液が循環する装置内に前記酸化膜を浸漬する処理であることを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項に記載の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法。
【請求項7】
前記第2のSn2+イオン除去工程が、前記金属ナノ粒子析出工程後、前記酸化膜を12時間以上溶液中あるいは大気中に保持することで、Sn2+をSn4+に変化させる処理であることを特徴とする請求項4記載の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法。
【請求項8】
前記第2のSn2+イオン除去工程が、前記金属ナノ粒子析出工程後、前記酸化膜を50℃以上100℃未満の温度で加熱をすることで、Sn2+をSn4+に変化させる処理であることを特徴とする請求項4記載の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法。
【請求項9】
前記金属アルコキシドがオルガノシランであって、前記酸化膜がSiO膜であることを特徴とする請求項1ないし請求項8いずれか一項に記載の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法。
【請求項10】
前記金属キレート水溶液が、銀塩およびアンモニアを含む水溶液によって調製されたAg(NHキレート水溶液であることを特徴とする請求項1ないし請求項9いずれか一項に記載の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法。
【請求項11】
前記SiO膜形成工程後の前記SiO膜が、IR測定において3400cm−1近傍および950cm−1近傍にOH基によるピークを示し、かつ、前記SiO膜が含有するCl濃度が重量組成比で、SiO/Cl=50〜80/1であり、かつ、前記微細孔の孔径が10nm以下であり、前記微細孔がネットワーク状に発達していることを特徴とする請求項9記載の金属ナノ粒子無機複合体の製造方法。
【請求項12】
SiO,B,Al,TiO,ZrO,NaO,CaO,SrOからなる群の中の少なくとも1つの酸化物を含む可視光に対して透明な酸化物と、
前記酸化物中に分散されたAu,Ag,Cu,Pt,Pb,Ph,Cd,In,Pdからなる群の中の少なくとも1つの金属を含む金属ナノ粒子と、
前記酸化物中に分散されたスズ酸化物(SnO)とを含み、
前記酸化物の割合をa(wt%)、前記金属ナノ粒子の割合をb(wt%)、前記スズ酸化物の割合をc(wt%)と表記した場合に、
30≦a≦70、20≦b≦50、1≦c≦30であることを特徴とする金属ナノ粒子無機複合体。
【請求項13】
前記酸化物がSiOであり、前記金属がAgであることを特徴とする請求項12記載の金属ナノ粒子無機複合体。
【請求項14】
前記酸化物の割合をa(wt%)、前記金属ナノ粒子の割合をb(wt%)、前記スズ酸化物の割合をc(wt%)と表記した場合に、
35≦a≦45、35≦b≦45、15≦c≦25であることを特徴とする請求項13記載の金属ナノ粒子無機複合体。
【請求項15】
Fを0.5〜3wt%、Clを0.1〜1.0wt%を含有することを特徴とする請求項13または請求項14記載の金属ナノ粒子無機複合体。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−90378(P2009−90378A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260107(P2007−260107)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低損失オプティカル新機能部材技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】