説明

金属ペースト、金属ペーストにより形成される金属膜、および金属膜の製造方法

【課題】保護剤が脱離しやすく、かつ劣化寿命が長い金属ペーストを提供する。
【解決手段】表面が保護剤3で被覆された金属微粒子2と、前記保護剤3を前記金属微粒子2の表面から脱離させる感光性化合物4と、前記金属微粒子2および前記感光性化合物4を含む溶剤組成物5と、を備える金属ペースト1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ペースト、金属ペーストにより形成される金属膜、および金属膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ペーストは、例えば、はんだ材料、めっき材料、電子回路の形成、または電線シールド層の形成などに用いられる。金属ペーストは、金属微粒子、金属微粒子の表面を被覆する保護剤、溶剤組成物などから構成されるペースト状の組成物であり、焼成されることで金属膜となる材料である。
【0003】
金属微粒子は粒径1〜100nm程度の金属粒子である。この範囲の粒径を有する金属微粒子においては、微粒子の体積に対する微粒子の表面積が急激に増加することにより、金属微粒子の融点が降下する現象が知られている。この融点の降下により、金属微粒子はバルク金属の融点よりも低い温度で粒子界面における拡散が生じ、融着が進行する。
ただし、金属微粒子は、それ単体では非常に不安定であり、室温付近においても粒子同士の凝集や粒子の融着が進行してしまう。この融着を抑制するため、金属微粒子は、保護剤として、金属微粒子の表面に吸着性を示す有機物で被覆される必要がある。金属ペーストにおいても、金属微粒子は保護剤で被覆されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
保護剤の多くは、その化学構造中に硫黄原子(S)、窒素原子(N)、酸素原子(O)などの原子を含んだ官能基を有している。S、N、Oなどの原子は非共有電子対を持っており、その非共有電子対の効果によって金属に対して配位的に吸着が可能となる。より具体的には、チオール基(−SH)、アミン基(−NH)、カルボキシ基(−COOH)などの官能基を有する化合物が保護剤として使用されている。
【0005】
このように、保護剤で被覆された金属微粒子を含む金属ペーストは、融着が抑制された状態で室温保管ができ、焼成に際しては、金属微粒子の融点降下現象により、導電性の金属膜を低温で形成することができる。一方、保護剤は、金属ペーストから形成される金属膜中に残存しやすいという問題がある。保護剤が残存していると、金属微粒子の接触および融着が妨げられるため、形成される金属膜の導電性が著しく低下することになる。これら保護剤は、高温・長時間で焼成することにより脱離または燃焼して金属膜中から放出できるが、低温・短時間で焼成できる金属微粒子を用いることと矛盾した結果となってしまう。
【0006】
そこで、保護剤としてのアミン化合物を除去するため、導電性の金属ペーストに、酸無水物や有機酸などの脱離剤を予め添加するという方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、金属微粒子の合成時にアミン化合物およびカルボン酸化合物の両方を保護剤として用いて、金属微粒子の表面を被覆するという方法が提案されている(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。特許文献1〜3によれば、焼成の際に、脱離剤を保護剤に反応させアミドなどを生成することで、金属微粒子の表面から保護剤を脱離させることができる。すなわち、保護剤の脱離のために必要とされた高温・長時間の焼成が不要となり、金属微粒子の融点降下現象による低温での焼成が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2002/035554号パンフレット
【特許文献2】特開2007−63580号公報
【特許文献3】特開2009−62611号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】金属ナノ粒子ペーストのインクジェット微細配線(シーエムシー出版、2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1〜3では、焼成温度を低減するとともに金属膜の導電性を向上することはできるが、金属ペーストの劣化を抑制できず、長期保存することは困難である。金属ペーストの劣化は、金属ペースト中に予め含まれる保護剤と脱離剤が少しずつ反応(脱離反応)することよって生じる。この脱離反応により、金属微粒子の表面から保護剤が脱離し、金属微粒子が凝集して、金属ペーストが劣化することになる。
【0010】
金属ペーストの劣化を抑制するには、強い脱離剤を使用せず、さらに添加量も必要最少量とする必要がある。この場合、焼成時における保護剤の脱離が不十分となり、形成される金属膜の導電性が低下することになる。一方、金属膜の導電性を向上させるには、強い脱離剤を使用する、または添加量を増加させることにより、保護剤を十分に脱離する必要がある。この場合、保存時における脱離反応が大きく、金属微粒子が凝集するため、金属ペーストの劣化寿命が短く、長期保存に適さない。
このように、金属ペーストにおける、保護剤の脱離のしやすさと、劣化寿命の向上と、を両立させることは困難であり、金属ペーストに予め含まれる脱離剤は、使用できる種類や添加量が過度に制限される。
【0011】
本発明は、このような問題を鑑みて成されたもので、その目的は、保護剤が脱離しやすく、かつ劣化寿命が長い金属ペーストを提供することにある。また、金属ペーストを用いた、導電性の高い金属膜およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、表面が保護剤で被覆された金属微粒子と、前記保護剤を前記金属微粒子の表面から脱離させる感光性化合物と、前記金属微粒子および前記感光性化合物を含む溶剤組成物と、を備える金属ペーストである。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様の金属ペーストにおいて、前記保護剤が、一般式NH、NHR、またはNRで表されるアミン化合物である金属ペーストである。ただし、式中R、R、及びRは、アルキル基またはアリール基を示す。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様の金属ペーストにおいて、前記感光性化合物が、前記保護剤を脱離させる酸を発生する光酸発生剤である金属ペーストである。
【0015】
本発明の第4の態様は、第3の態様の金属ペーストおいて、前記光酸発生剤が、ナフトキノン化合物、ベンジル化合物、ジメチルフェナシル化合物、芳香族ジアゾニウム塩化合物、ヨードニウム塩化合物、スルホニウム塩化合物、またはこれらの組み合わせからなる金属ペーストである。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1の態様の金属ペーストにおいて、前記保護剤が、一般式RCOOH、R(COOH)、またはR(COOH)で表されるカルボン酸化合物である金属ペーストである。ただし、式中、R、R、およびRは、アルキル基ま
たはアリール基を表す。
【0017】
本発明の第6の態様は、第5の態様の金属ペーストにおいて、前記感光性化合物が、前記保護剤を脱離させる塩基を発生する光塩基発生剤である金属ペーストである。
【0018】
本発明の第7の態様は、第6の態様の金属ペーストにおいて、前記光塩基発生剤が、アンモニウム化合物、ベンゾイルオキシカルボニル化合物、オキシムエステル化合物、カルバミン酸塩化合物、ベンゾイン化合物、アミノトロポン化合物、ジメトキシベンジルウレタン系化合物、オルトニトロベンジルウレタン系化合物、アミンイミド化合物、芳香族スルホンアミド化合物、α−ラクタム化合物、またはこれらの組み合わせからなる金属ペーストである。
【0019】
本発明の第8の態様は、第1〜第7の態様のいずれかの金属ペーストから形成される金属膜である。
【0020】
本発明の第9の態様は、金属ペーストを用いて金属膜を形成する金属膜の製造方法において、前記金属ペーストは、表面が保護剤で被覆された金属微粒子と、前記保護剤を前記金属微粒子の表面から脱離させる感光性化合物と、前記金属微粒子および前記感光性化合物を含む溶剤組成物と、を備えており、該金属ペーストに光を照射して、前記感光性化合物から脱離剤を生成する工程と、該脱離剤を前記保護剤と反応させて、該保護剤を前記金属微粒子の表面から脱離させるとともに、前記保護剤が脱離した前記金属微粒子を焼結して金属膜を形成する工程と、を含む金属膜の製造方法である。
【0021】
本発明の第10の態様は、第9の態様の金属膜の製造方法において、前記保護剤が、一般式NH、NHR、またはNRで表されるアミン化合物である金属膜の製造方法である。ただし、式中R、R、及びRは、アルキル基またはアリール基を示す。
【0022】
本発明の第11の態様は、第10の態様の金属膜の製造方法において、前記感光性化合物が光酸発生剤である金属膜の製造方法である。
【0023】
本発明の第12の態様は、第9の態様の金属膜の製造方法において、前記保護剤が、一般式RCOOH、R(COOH)、またはR(COOH)で表されるカルボン酸化合物である金属膜の製造方法である。ただし、式中、R、R、およびRは、アルキル基またはアリール基を表す。
【0024】
本発明の第13の態様は、第12の態様の金属膜の製造方法において、前記感光性化合物が光塩基発生剤である金属膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、保護剤が脱離しやすく、かつ劣化寿命が長い金属ペーストを得ることができる。また、導電性の高い金属膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明における金属ペーストの焼成工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上述したように、従来においては、金属ペースト中に予め脱離剤を含むため、保護剤の脱離のしやすさと劣化寿命の向上との両立が困難であった。そこで、本発明者らは、脱離剤について検討を行い、光を吸収することによって脱離剤を生成する感光性化合物に着目
した。そして、感光性化合物によれば、暗所において脱離反応を示さないため、金属ペーストの劣化を抑制できることを見出した。そればかりか、生成される脱離剤の種類や量を適宜調整して、保護剤を十分に脱離できることを見出し、本発明を創作するに至った。
【0028】
以下に、本発明の一実施形態にかかる金属ペーストの実施形態について説明する。
【0029】
(金属ペースト)
本発明の一実施形態にかかる金属ペーストは、表面が保護剤で被覆された金属微粒子と、保護剤を金属微粒子の表面から脱離させる感光性化合物と、金属微粒子および感光性化合物を含む溶剤組成物と、を備えている。
【0030】
金属微粒子は、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、Rh、Ru、Os、Ir、Al、Zn、Sn、Co、Ni、Fe、In、Mg、W、Ti、Ta、Mnのうち1種類以上の金属から選択することが可能であり、複数種類以上組み合わせた金属微粒子や合金の金属微粒子も使用可能である。
【0031】
金属微粒子の平均粒子径は、1nm以上1000nm以下が望ましく、1nm以上100nm以下の範囲とすることがより望ましい。平均粒子径が1000nm以下、特に100nm以下であることで、金属微粒子の融点降下現象は特に顕著となり、金属ペーストとして低温で焼成することができる。他方、平均粒子径が1000nmを超えると、融点はバルク金属と同じ値となり、ある程度の凝集や焼結は起こるものの、原理的に低温での焼成が困難となる。
また、金属微粒子の形状に関しては特に制限されない。上記記載の融点降下現象を考慮して、どのような形状の金属微粒子であっても、その最大径は1000nmを超えない範囲にあることがより望ましい。
【0032】
金属微粒子の含有量は、金属ペースト全質量に対して5mass%以上90mass%以下の範囲とすることが望ましい。金属微粒子の含有量が5mass%未満となると、金属ペーストを焼成した際に、割れや空孔の少ない平滑な金属膜を得るのが困難となる。他方、金属微粒子の含有量が90mass%よりも多くなると、金属ペーストの粘度が非常に高くなり、塗布性に支障をきたすおそれがある。また、金属ペーストは焼成時に溶剤組成物や保護剤の除去に伴う体積収縮が起こるため、それを考慮し、金属微粒子の含有量は、30mass%以上80mass%以下の範囲とすることがさらに望ましい。この数値範囲とすることによって、平滑な金属膜を得ることができる。
なお、金属ペーストの含有量は、目的の金属膜厚さやペースト粘度に応じて適宜調整することが可能である。
【0033】
保護剤は、金属微粒子の表面を被覆し、金属微粒子の凝集および融着を抑制できるものであればよく、公知のものを使用することができる。特に、非共有電子対を有する窒素や酸素を含む官能基を有する化合物は、金属微粒子の表面に対して配位的に吸着することが可能である。窒素を含む官能基としては、例えば、塩基性を示すアミン基(−NH)などがあり、酸素を含む官能基としては、酸性を示すカルボキシル基(−COOH)などがある。
【0034】
アミン基を有する保護剤としては、NH、NHR、またはNR(式中、R、R、およびRは、アルキル基またはアリール基を表す)で示されるアミン化合物を好適に用いることができる。また、異なるアミン化合物を2種類以上組み合わせて使用してもよい。
カルボキシル基を有する保護剤としては、RCOOHあるいはR(COOH)あるいはR(COOH)(式中、R、R、およびRは、アルキル基またはアリー
ル基を表す)で示されるカルボン酸化合物を好適に用いることができる。また、異なるカルボン酸化合物を2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0035】
保護剤の添加量は、保護剤の種類にもよるが、金属微粒子の質量に対して0.1mass%以上30mass%以下の範囲とすることが望ましい。0.1mass%未満であると、金属微粒子の表面を覆う被覆率が低下し、金属微粒子同士が凝集しやすくなる。他方、保護剤の添加量が30mass%を超えると、金属微粒子表面が十分に保護剤によって被覆されるものの、これら過剰な保護剤を除去するために脱離剤の量も増え、相対的に金属微粒子の含有量が減少する。その結果、金属ペーストを焼成した場合の体積収縮が大きくなり、平滑な金属膜を得られないおそれがある。保護剤の添加量は、1mass%以上20mass%以下の範囲とすることがより望ましい。この範囲とすることにより、金属微粒子を十分に保護し、焼成される金属膜を平滑なものとすることができる。
【0036】
本実施形態において、感光性化合物は、光を吸収することで、金属微粒子の表面から保護剤を脱離させるものを示す。感光性化合物は、光を吸収することによって保護剤を脱離させるものであればよく、例えば、光酸発生剤または光塩基発生剤を使用できる。
【0037】
光酸発生剤は、(1)光照射により化学構造が変化し、それ自身が酸構造となるもの、または(2)光照射により化学構造が変化し周囲の物質と反応し、なんらかの酸を発生させるもの、の2種類がある。光の吸収により光酸発生剤から生成される酸は、塩基性を示す保護剤の脱離剤として作用する。
一般的に、光酸発生剤(化合物X)は、その化学構造中に、光を吸収する構造(構造A)および酸を生成する構造(構造B)を有する化合物である。(1)の光酸発生剤の場合、化合物Xは、構造Aで光を吸収することによって化合物X´に変化して、構造Bで酸を生成するようになる。つまり、化合物Xは、光を吸収して、それ自身が酸構造である化合物X´に変化する。(2)の光酸発生剤の場合、化合物Xは、構造Aで光を吸収することによって、構造Aを含む化合物X1と、構造Bを含む化合物X2と、に分解することになる。そして、構造Bを含む化合物X2が金属ペースト中で水素を引き抜き、酸を生成するようになる。
したがって、光酸発生剤は、光がなく、光を吸収できない場合においては、酸を生成せず、保護剤と反応しない安定した化合物である。しかし、光酸発生剤は、光を吸収すると、酸を生成し、その酸を、塩基性を示す保護剤と反応させることによって、金属微粒子の表面から保護剤を脱離させる脱離剤として作用する。
【0038】
光塩基発生剤は、光照射により化学構造が変化しそれ自身が塩基構造となるもの、または光照射により化学構造が変化し周囲の物質と反応し、なんらかの塩基を発生させるものである。光の吸収により光塩基発生剤から生成される塩基は、酸を示す保護剤の脱離剤として作用する。光塩基発生剤は光を吸収して塩基を生成するが、その反応は上記光酸発生剤と同様である。
【0039】
感光性化合物の種類は、金属微粒子の表面に吸着している保護剤の化学構造によって選択されることが望ましい。すなわち、保護剤が塩基性を示す官能基を有する場合は、光酸発生剤が選択され、保護剤が酸性を示す官能基を有する場合は、光塩基発生剤が選択される。以下、それぞれの場合について説明する。
【0040】
保護剤が塩基を示す官能基を有する場合、例えば、保護剤としてアミン化合物を用いる場合、感光性化合物として光酸発生剤を加えるのが望ましい。この場合、光酸発生剤は、光照射により、化学構造が変化して酸を生成する。この生成された酸と、保護剤のアミン化合物の塩基性を示す官能基と、が酸−塩基反応やアミド形成反応などを起こす。この反応によって、金属微粒子の表面に配位的に吸着する保護剤の吸着力が低下し、保護剤は生
成した酸とともに、金属微粒子の表面から脱離する。
【0041】
上記光酸発生剤の種類としては、例えば、ナフトキノン化合物、ベンジル化合物、ジメチルフェナシル化合物、芳香族ジアゾニウム塩化合物、ヨードニウム塩化合物、スルホニウム塩化合物などを使用できる。
【0042】
保護剤が酸を示す官能基を有する場合、例えば、保護剤としてカルボン酸化合物を用いる場合、感光性化合物として光塩基発生剤を加えるのが望ましい。この場合、光塩基発生剤は、光照射により、化学構造が変化して塩基を生成する。この生成された塩基と、保護剤のカルボン酸化合物の酸性を示す官能基と、が酸−塩基反応やアミド形成反応などを起こす。この反応によって、金属微粒子の表面に配位的に吸着する保護剤の吸着力が低下し、保護剤は生成した塩基とともに、金属微粒子の表面から脱離する。
【0043】
上記光塩基発生剤の種類としては、アンモニウム化合物、ベンゾイルオキシカルボニル化合物、オキシムエステル化合物、カルバミン酸塩化合物、ベンゾイン化合物、アミノトロポン化合物、ジメトキシベンジルウレタン系化合物、オルトニトロベンジルウレタン系化合物、アミンイミド化合物、芳香族スルホンアミド化合物、α−ラクタム化合物などを使用できる。
【0044】
感光性化合物の添加量は、金属微粒子表面に吸着している保護剤量を算出し、調整すればよい。感光性化合物は保護剤と反応する化学量論量よりも、やや過剰に加えることが望ましい。
【0045】
溶剤組成物の種類としては、水、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、チオール類、単糖類、多糖類、直鎖の炭化水素類、脂肪酸類、芳香族類の群から選択することが可能であり、複数の溶剤組成物を組み合わせて使用することも可能である。溶剤組成物は、感光性化合物および保護剤との親和性が考慮され、適宜選択される。
【0046】
溶剤組成物と感光性化合物との親和性が低すぎる場合、感光性化合物が溶剤組成物と分離してしまい、金属ペーストとして塗布性を損ねるおそれがある。他方、親和性が高すぎる場合、溶剤組成物と感光性化合物とが化学反応し、感光性化合物に本来期待される保護剤を脱離する機能が損なわれるおそれがある。
【0047】
また、溶剤組成物は、感光性化合物との親和性と同様にして、保護剤との親和性が考慮され、適宜選択される。金属微粒子の表面に、非共有電子対を介して配位的に吸着した保護剤は、吸着に関わる原子以外の構造によって溶剤中に分散する。このため、吸着に関わる原子以外の構造が親水性の場合は水や極性溶剤に分散しやすく、疎水性の場合は低極性溶剤、非極性溶剤に分散しやすい。溶剤組成物と保護剤との親和性が高すぎる場合、金属微粒子の表面に吸着していた保護剤が溶剤中に溶解してしまうことがある。その結果、金属微粒子と溶剤の分離が起こるため好ましくない。また、保護剤と溶剤組成物とが化学反応して、それぞれが別の化合物に変化する組み合わせは、金属微粒子の凝集の原因となるので好ましくない。
【0048】
また、感光性化合物と親和性のある溶剤組成物と、保護剤と親和性のある溶剤組成物とを、2種類以上混合して使用することも可能である。また、金属ペーストをコーティング可能な適正な粘度に調整可能であり、また室温で容易に蒸発しない比較的高沸点な溶剤が望ましい。金属ペーストの塗布性や粘度などを調節する目的で、溶剤中にワックスや樹脂を添加剤として加えることも可能である。
【0049】
このように、従来の金属ペーストが予め脱離剤を含むのに対して、本実施形態の金属ペ
ーストは、光を吸収することによって、脱離剤を生成する感光性化合物を含んでいる。
従来の金属ペーストは、予め脱離剤を含み、保存中に少しずつ保護剤の脱離反応が生じるため、金属ペーストの劣化寿命が短い。また、脱離反応が高い脱離剤では長期保存に適さず、脱離反応が低い脱離剤では成膜時の保護剤の除去が不十分となるため、添加される酸などの脱離剤の選択が過度に制限される。同様に、脱離剤の添加量も制限される。
これに対して、本実施形態にかかる金属ペーストは、光を吸収して保護剤を脱離させる感光性化合物を含むため、光のない条件では、脱離反応を示さず、劣化寿命が長い。また、脱離反応が高い酸を生成する光酸発生剤などを選択できるため、保護剤を好適に除去することができる。しかも、感光性化合物の添加量も過度に制限されない。したがって、本実施形態の構成によれば、光の照射によって保護剤が脱離しやすく、かつ劣化寿命が長い金属ペーストを得ることができる。
【0050】
(金属膜)
次に、本発明にかかる金属膜の一実施形態について説明する。
本実施形態の金属膜は、上述した本発明の金属ペーストから形成されている。金属ペーストは、光が照射され、金属微粒子の表面の保護剤が溶剤組成物中に脱離して、保護剤および溶剤組成物が分解または蒸発されることによって、金属微粒子が焼結して金属膜となる。形成される金属膜は、保護剤が十分に除去され、金属膜中に残存しないため、導電性に優れている。しかも、長期保存後の金属ペーストを用いたとしても、劣化寿命が長いため、金属膜の導電性は変化しにくい。
【0051】
(金属膜の製造方法)
上記実施形態の金属膜の製造方法について図1を用いて説明する。図1は、本発明における金属ペーストの焼成工程を示す図である。
【0052】
本実施形態の金属膜の製造方法は、金属ペーストとして、表面が保護剤で被覆された金属微粒子と、保護剤を金属微粒子の表面から脱離させる感光性化合物と、金属微粒子および感光性化合物を含む溶剤組成物と、を備える金属ペーストを用いており、金属ペーストに光を照射して、感光性化合物から脱離剤を生成する工程と、脱離剤を保護剤と反応させて、保護剤を金属微粒子の表面から脱離させるとともに、保護剤が脱離した金属微粒子を焼結して金属膜を形成する工程と、を含む。
【0053】
本実施形態にかかる金属膜の製造方法においては、保護剤としてアミン化合物、感光性化合物として光酸発生剤を含む金属ペーストを用いて、金属膜を製造する。
まず、金属ペーストとして、アミン化合物で被覆される金属微粒子と、光酸発生剤と、溶剤組成物と、を備える金属ペーストを準備する。この金属ペーストを、例えば、ガラス基板に塗布する。塗布方法は、特に限定されず、公知の塗布方法を用いることができる。塗布された金属ペースト1は、図1(a)に示すように、溶剤組成物5中に、金属微粒子2および感光性化合物4としての光酸発生剤4aが分散した状態となっている。金属微粒子2の表面は、保護剤3であるアミン化合物により被覆されている。なお、金属ペースト1の粘度は、金属ペースト1中に含まれる金属微粒子2の含有量を変更し適宜調整する。
【0054】
続いて、金属ペーストに光を照射して、感光性化合物から脱離剤を生成する。図1(b)に示すように、光酸発生剤4aは、光を吸収し、化学構造が変化することによって、脱離剤6としての酸6aを生成する。光の照射は、少なくとも、塩またはアミド化合物7、および溶媒組成物5が分解または蒸発するまで行われる。照射する光は、金属ペースト1中に含まれる感光性化合物4を変化させるのに十分なエネルギーをもった波長の光であれば限定されない。感光性化合物4として、光酸発生剤4aや光塩基発生剤4bを使用する場合は、照射する光は波長400nm以下の紫外線であることが望ましい。また、光の照射方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0055】
続いて、脱離剤を保護剤と反応させて、保護剤を金属微粒子の表面から脱離させ、除去する。図1(c)に示すように、生成された酸6aが、金属微粒子2の表面の保護剤3と反応して、塩またはアミド化合物7となる。この塩またはアミド化合物7は、図1(d)に示すように、溶剤組成物5中に離脱していく。すなわち、金属微粒子2の表面から保護剤3が除去される。保護剤3の除去にともない、金属微粒子2は粒子界面における拡散が生じ、融着し始める。なお、塩またはアミド化合物7の形成によって、窒素原子上の非共有電子対の電子密度が低下するため、塩またはアミド化合物7は、再び金属微粒子2に吸着することはなく、溶剤組成物5中に脱離する。
【0056】
上記の光を照射する工程と同時に、金属ペースト1を加熱する加熱工程を設けることが望ましい。加熱工程は、保護剤3の脱離反応(酸-塩基の塩形成反応やアミド化反応)を
促進させるとともに、溶剤組成物5などの蒸発や分解を促進することができる。すなわち、光照射と加熱とを併用することによって、金属ペースト1の焼結までの時間を短縮することができる。加熱方法としては、例えば、電気炉などの外部加熱、レーザー加熱、マイクロ波加熱、誘導加熱などが使用できる。
【0057】
続いて、露出した金属微粒子を焼結して金属膜を形成する。図1(e)に示すように、脱離した塩またはアミド化合物7、溶剤組成物5などを蒸発または分解することによって、金属微粒子2を露出させる。露出した金属微粒子2は、粒子界面において拡散して、隣接する他の金属微粒子2と融着する。そして、図1(f)に示すように、本実施形態にかかる金属膜8を得る。
【0058】
本実施形態の金属膜の製造方法によれば、金属微粒子の表面から保護剤を脱離させて、形成される金属膜中に保護剤が残存しないため、導電性の高い金属膜を得ることができる。
【0059】
なお、上記実施形態では、保護剤としてアミン化合物、感光性化合物として光酸発生剤を含む金属ペーストを用いて説明したが、保護剤として酸性を示す官能基を有する化合物、および感光性化合物として光塩基発生剤を含む金属ペーストを用いてもよい。この場合、図1に示すように、感光性化合物4としての光塩基発生剤4bが、光を吸収することによって、脱離剤6としての塩基6bを生成する。この生成された塩基6bが、保護剤3の酸性を示す官能基と反応することによって、酸塩基反応による塩またはアミド化合物7を形成し、金属微粒子2の表面から保護剤3が脱離する。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
以下の方法および条件で、本発明にかかる実施例の金属ペーストを調整し、調整した金属ペーストを用いて金属膜を製造した。
まず、保護剤のドデシルアミンが10mass%吸着したAu微粒子を2.2g、感光性化合物の光酸発生剤として1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホニルクロリドベンゾナフトキノンを0.58g、溶剤組成物のテトラデカンを3.0g混合し、Auペーストを調整した。金ペーストの粘度は約9mPa・sであり、Au含有量は約34.6mass%であった。
【0061】
上記実施例で調整した金属ペーストに含まれる金属微粒子を、FE−SEM(日立製S−5000)で観察し、その平均粒子径を測定した。測定された金属粒子の平均粒子径は約9nmであった。また、この金属ペーストを大気中、10℃の暗所において3ヶ月保存して、劣化寿命を評価した。保存後の金属微粒子の平均粒子径は変化しておらず、金属ペーストの塗布性も変化がなかった。
【0062】
次に、調整されたAuペーストをガラス基板上にスピンコート塗布し、紫外線源として高圧水銀ランプ(セン特殊光源(株)製、HB100A−1、100W)を照射した。紫外線の照射とともに、加熱装置としてのホットプレート(NINOS製、NA−2)により、基板温度を250°に加熱し、60分間焼成することによって、実施例1にかかる金属膜(厚さ0.05μm)を得た。
【0063】
ここで、光酸発生剤の1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホニルクロリドベンゾナフトキノンと、保護剤のドデシルアミン(1級アミン)と、の脱離反応について説明する。
1、2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホニルクロリドベンゾナフトキノンは、紫外線が照射されると、ナフトキノン部分が窒素を放出してカルベン構造となり、ケテンに転移する。ケテンは、反応性が高く、系内または外気中の水と反応して、インデンカルボン酸に変化する。インデンカルボン酸のカルボキシ基と、アミン化合物のドデシルアミンと、は酸塩基反応による塩またはアミド化合物を形成する。この際、ドデシルアミンは、塩またはアミド化合物になると、窒素原子上の非共有電子対の電子密度が低下するため、金属微粒子の表面から脱離する。また、一度脱離すると、再び金属微粒子に吸着することなく、金属膜外に脱離していく。
【0064】
次に、製造した金属膜の導電性を評価した。導電性は、4探針電気抵抗測定装置を用いて、金属膜の体積抵抗率を測定して評価した。得られた金属膜の体積抵抗率は約4.0μΩ・cmであった。同様に、3カ月保存した金属ペーストにより金属膜を製造し、その体積抵抗率を測定したところ、製造された金属膜の体積抵抗率は、約4.0μΩ・cmであった。すなわち、長期保存による金属ペーストの劣化はなく、製造される金属膜の体積抵抗率にも変化は確認されなかった。ここで、表1に、実施例1の製造条件および測定結果を示す。
【0065】
【表1】

【0066】
(実施例2〜5)
実施例2〜5では、表1に示すように、実施例1での金属微粒子の種類を変更しただけで、その他の条件については、実施例1と同様にして、金属ペーストを調整した。金属微粒子として、実施例2ではAgを、実施例3ではCuを、実施例4ではPdを、実施例5ではPtを、それぞれ用いて、金属ペーストを調整した。金属ペーストの調整条件を表1に示す。
それぞれの金属ペーストに含まれる金属微粒子の平均粒子径を測定したところ、表1に示すように、実施例2では約12nm、実施例3では約30nm、実施例4では約14nm、実施例5では約5nmであった。それぞれの金属ペーストの3カ月保存後の平均粒子径を測定したところ、いずれの金属ペーストにおいても、平均粒子径の変化は確認されず、また塗布性も変化がなかった。
【0067】
次に、調整された金属ペーストを用いて、実施例1と同様にして、金属膜を製造した。製造された金属膜の体積抵抗率を測定したところ、表1に示すように、実施例2では約2.2μΩ・cm、実施例3では約8.0μΩ・cm、実施例4では約13.2μΩ・cm、実施例5では約12.6μΩ・cmであった。そして、3カ月保存した金属ペーストにより製造された金属膜の体積抵抗率を測定したところ、実施例2〜5のいずれの金属膜においても、保存前の体積抵抗率からの変化は確認されなかった。
【0068】
(実施例6)
実施例6では、表1に示すように、実施例1の光酸発生剤の種類およびその添加量を変更しただけで、その他の条件については、実施例1と同様にして、金属ペーストを調整した。実施例6では、金属ペースト中に、光酸発生剤として2−ニトロベンジルメチルエステルを0.45g添加して、Auペーストを調整した。
実施例1と同様に、実施例6で調整したAuペーストを評価した。実施例6のAuペースト中のAu微粒子は、平均粒子径が9nmであった。また、3カ月保存後の金属ペーストの金属微粒子においても、平均粒子径は変化せず、塗布性も変化がなかった。
【0069】
次に、調整された金属ペーストを用いて、実施例1と同様にして、金属膜を製造した。製造された金属膜を評価したところ、実施例6で製造された金属膜は、体積抵抗率が約4.0μΩ・cmであり、3カ月保存後の金属ペーストから製造された金属膜の体積抵抗率は、保存前から変化しなかった。
【0070】
(実施例7〜10)
実施例7〜10は、表1に示すように、実施例6での金属微粒子の種類を変化させただけで、その他の条件については、実施例6と同様にして、金属ペーストを調整した。それぞれの金属ペーストの保存前と保存後との平均粒子径を比較したところ、表1に示すように、変化は確認されなかった。また、塗布性についても変化は確認されなかった。
また、保存前後の金属ペーストをそれぞれ用いて金属膜を製造して、それぞれの金属膜の体積抵抗率を比較したところ、体積抵抗率の変化は確認されなかった。
【0071】
(比較例1)
比較例1は、実施例1の光酸発生剤を変化させて、脱離剤として有機酸を用いた点が異なっている。まず、保護剤のドデシルアミンが10mass%吸着したAu微粒子を2.2g、保護剤の脱離剤としてノネニル無水こはく酸を0.54g、溶剤組成物のテトラデカンを3.0g混合し、Auペーストを調整した。調整されたAuペーストの粘度は約10mPa・sであり、Au含有量は約34.8mass%であった。
実施例1と同様に、比較例1で調整したAuペーストを評価した。比較例1のAuペースト中のAu微粒子は、平均粒子径が約9nmであった。3カ月保存後のAuペーストのAu微粒子を測定したところ、平均粒子径が約500nmになっており、金属微粒子の凝
集が生じ、金属ペーストの劣化が確認された。また、Auペーストをガラス基板へ塗布した際に、Au微粒子の凝集物と思われるツブが確認され、塗布性の悪化が確認された。
【0072】
比較例1のAuペーストをガラス基板上にスピンコート塗布し、基板温度を250℃に加熱し、60分間焼成することによって、比較例1にかかる金属膜(厚さ2μm)を得た。実施例1と同様に、製造された金属膜を評価した。保存前の金属ペーストで製造された金属膜の体積抵抗率は約9.6μΩ・cmであったが、3カ月保存後の金属ペーストで製造された金属膜では、体積抵抗率が120μΩ・cmまで増加していた。金属ペーストの劣化により、製造される金属膜の導電性が低下したことが分かった。
【0073】
(実施例11)
実施例11は、表1に示すように、実施例1の保護剤および感光性化合物を変更しただけで、その他の条件については、実施例1と同様にして、金属ペーストを調整した。
まず、保護剤のオレイン酸が12mass%吸着したAu微粒子を2.24g、光塩基発生剤の6−(9H−フルオレニルメトキシカルボニルアミノ)ヘキサンを0.55g、溶剤組成物のテトラデカンを3.0g混合し、Auペーストを調整した。調整されたAuペーストの粘度は約9mPa・sであり、Au含有量は34.5mass%であった。
調整された金属ペーストを実施例1と同様に評価した。表1に示すように、保存前後での金属ペーストの平均粒子径の変化は確認されず、劣化は確認されなかった。また、塗布性にも変化は確認されなかった。
【0074】
次に、調整された金属ペーストを用いて、実施例1と同様にして、金属膜(厚さ0.05μm)を製造した。製造された金属膜を評価したところ、実施例11で製造された金属膜は、体積抵抗率が約5.0μΩ・cmであり、3カ月保存後の金属ペーストから製造された金属膜の体積抵抗率は、保存前から変化しなかった。
【0075】
ここで、光塩基発生剤の6−(9H−フルオレニルメトキシカルボニルアミノ)ヘキサンと、保護剤のオレイン酸と、の脱離反応について説明する。
6−(9H−フルオレニルメトキシカルボニルアミノ)ヘキサンは、紫外線が照射されると、フルオレニルメトキシ構造から二酸化炭素とヘキシルアミン(1級アミン)とが脱離する。オレイン酸とヘキシルアミンは酸塩基反応による塩の形成あるいはアミド形成反応をする。その際、オレイン酸は金属微粒子表面から脱離する。塩あるいはアミド化合物になるとオレイン酸の酸素原子上の非共有電子対の電子密度が低下するため、再び金属微粒子に吸着することなく、金属膜外に脱離していく。
【0076】
(実施例12〜15)
実施例12〜15は、表1に示すように、実施例11での金属微粒子の種類を変更させただけで、その他の条件については、実施例11と同様にして、金属ペーストを調整した。それぞれの金属ペーストの保存前と保存後との平均粒子径を比較したところ、表1に示すように、変化は確認されなかった。また、塗布性についても変化は確認されなかった。
また、保存前後の金属ペーストをそれぞれ用いて金属膜を製造して、それぞれの金属膜の体積抵抗率を比較したところ、体積抵抗率の変化は確認されなかった。
【0077】
(実施例16)
実施例16では、表1に示すように、実施例11の光塩基発生剤を変更しただけで、その他の条件については、実施例11と同様にして、金属ペーストを調整した。実施例11では、金属ペースト中に、光塩基発生剤として2−ニトロベンジルシクロヘキシルカルバメートを0.50g添加して、Auペーストを調整した。
実施例11と同様に、実施例16で調整したAuペーストを評価した。実施例16のAuペースト中のAu微粒子は、平均粒子径が(9nm)であった。また、3カ月保存後の
金属ペーストの金属微粒子においても、平均粒子径は変化せず、塗布性も変化がなかった。
【0078】
次に、調整された金属ペーストを用いて、実施例11と同様にして、金属膜を製造した。製造された金属膜を評価したところ、実施例16で製造された金属膜は、体積抵抗率が約5.0μΩ・cmであり、3カ月保存後の金属ペーストから製造された金属膜の体積抵抗率は、保存前から変化しなかった。
【0079】
(実施例17〜20)
実施例17〜20は、表1に示すように、実施例16での金属微粒子の種類を変更させただけで、その他の条件については、実施例16と同様にして、金属ペーストを調整した。それぞれの金属ペーストの保存前と保存後との平均粒子径を比較したところ、表1に示すように、変化は確認されなかった。また、塗布性についても変化は確認されなかった。
また、保存前後の金属ペーストをそれぞれ用いて金属膜を製造して、それぞれの金属膜の体積抵抗率を比較したところ、体積抵抗率の変化は確認されなかった。
【0080】
(比較例2)
比較例2は、実施例11の光塩基発生剤ではなく、脱離剤としてドデシルアミンを用いた点が異なっている。まず、オレイン酸が12mass%吸着したAu微粒子を2.24g、脱離剤としてドデシルアミンを0.32g、溶剤組成物としてテトラデカンを3.0g混合し、Auペーストを調整した。Auペーストの粘度は約12mPa・sであり、Au含有量は約36mass%であった。
実施例11と同様に、比較例2で調整したAuペーストを評価した。比較例2のAuペースト中のAu微粒子は、平均粒子径が約9nmであった。3カ月保存後のAuペーストのAu微粒子を測定したところ、平均粒子径が約700nmになっており、金属微粒子の凝集が生じ、金属ペーストの劣化が確認された。また、Auペーストをガラス基板へ塗布した際に、Au微粒子の凝集物と思われるツブが確認され、塗布性の悪化が確認された。
【0081】
比較例2のAuペーストをガラス基板上にスピンコート塗布し、基板温度を250℃に加熱し、60分間焼成することによって、比較例2にかかる金属膜(厚さ3μm)を得た。実施例11と同様に、製造された金属膜を評価した。保存前の金属ペーストで製造された金属膜の体積抵抗率は約11.0μΩ・cmであったが、3カ月保存後の金属ペーストで製造された金属膜では、体積抵抗率が300μΩ・cmまで増加していた。金属ペーストの劣化により、製造される金属膜の導電性が低下したことが分かった。
【符号の説明】
【0082】
1 金属ペースト
2 金属微粒子
3 保護剤
4 感光性化合物
4a 光酸発生剤
4b 光塩基発生剤
5 溶剤組成物
6 脱離剤
6a 酸
6b 塩基
7 塩またはアミド化合物
8 金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が保護剤で被覆された金属微粒子と、
前記保護剤を前記金属微粒子の表面から脱離させる感光性化合物と、
前記金属微粒子および前記感光性化合物を含む溶剤組成物と、
を備えることを特徴とする金属ペースト。
【請求項2】
請求項1に記載の金属ペーストにおいて、前記保護剤が、一般式NH、NHR、またはNRで表されるアミン化合物であることを特徴とする金属ペースト。
ただし、式中R、R、及びRは、アルキル基またはアリール基を示す。
【請求項3】
請求項2に記載の金属ペーストにおいて、前記感光性化合物が、前記保護剤を脱離させる酸を発生する光酸発生剤であることを特徴とする金属ペースト。
【請求項4】
請求項3に記載の金属ペーストにおいて、前記光酸発生剤が、ナフトキノン化合物、ベンジル化合物、ジメチルフェナシル化合物、芳香族ジアゾニウム塩化合物、ヨードニウム塩化合物、スルホニウム塩化合物、またはこれらの組み合わせからなることを特徴とする金属ペースト。
【請求項5】
請求項1に記載の金属ペーストにおいて、前記保護剤が、一般式RCOOH、R(COOH)、またはR(COOH)で表されるカルボン酸化合物であることを特徴とする金属ペースト。
ただし、式中、R、R、およびRは、アルキル基またはアリール基を表す。
【請求項6】
請求項5に記載の金属ペーストにおいて、前記感光性化合物が、前記保護剤を脱離させる塩基を発生する光塩基発生剤であることを特徴とする金属ペースト。
【請求項7】
請求項6に記載の金属ペーストにおいて、前記光塩基発生剤が、アンモニウム化合物、ベンゾイルオキシカルボニル化合物、オキシムエステル化合物、カルバミン酸塩化合物、ベンゾイン化合物、アミノトロポン化合物、ジメトキシベンジルウレタン系化合物、オルトニトロベンジルウレタン系化合物、アミンイミド化合物、芳香族スルホンアミド化合物、α−ラクタム化合物、またはこれらの組み合わせからなることを特徴とする金属ペースト。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の金属ペーストから形成されることを特徴とする金属膜。
【請求項9】
金属ペーストを用いて金属膜を形成する金属膜の製造方法において、
前記金属ペーストは、表面が保護剤で被覆された金属微粒子と、前記保護剤を前記金属微粒子の表面から脱離させる感光性化合物と、前記金属微粒子および前記感光性化合物を含む溶剤組成物と、を備えており、
該金属ペーストに光を照射して、前記感光性化合物から脱離剤を生成する工程と、
該脱離剤を前記保護剤と反応させて、該保護剤を前記金属微粒子の表面から脱離させるとともに、前記保護剤が脱離した前記金属微粒子を焼結して金属膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする金属膜の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の金属膜の製造方法において、前記保護剤が、一般式NH、NHR、またはNRで表されるアミン化合物であることを特徴とする金属膜の製造方法。
ただし、式中R、R、及びRは、アルキル基またはアリール基を示す。
【請求項11】
請求項10に記載の金属膜の製造方法において、前記感光性化合物が光酸発生剤であることを特徴とする金属膜の製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載の金属膜の製造方法において、前記保護剤が、一般式RCOOH、R(COOH)、またはR(COOH)で表されるカルボン酸化合物であることを特徴とする金属膜の製造方法。
ただし、式中、R、R、およびRは、アルキル基またはアリール基を表す。
【請求項13】
請求項12に記載の金属膜の製造方法において、前記感光性化合物が光塩基発生剤であることを特徴とする金属膜の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−10977(P2013−10977A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142735(P2011−142735)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】