説明

金属ポルフィリン類を使用するミトコンドリア病の処置法

てんかん、神経障害、遺伝性ミトコンドリア病若しくは遺伝性てんかん、小児てんかん、脳障害または小児運動障害などのミトコンドリア病を処置する方法、並びに本発明の方法で有用な化合物、たとえば本明細書で開示する金属ポルフィリン化合物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その内容が全ての目的に関し全体として本明細書中に含まれる、2009年9月2日出願の米国仮特許出願第61/239,293号の恩恵を請求する。
【0002】
連邦政府の後援による研究または開発のもとになされた発明に対する権利についての報告
本発明は、国立衛生研究所により授与されたグラント番号R21NS053548号のもと国庫支援によりなされた。政府は本発明において特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
てんかんは、世界で5000万人以上に影響を与える臨床症候群の一群である。動物もこれらの症候群により影響を受けることが知られている。てんかんの発生は5歳未満の幼い子供と、65歳を超える人で高い。てんかんの発作は、遺伝性ミトコンドリア疾患の子供で観察される最も一般的な特徴である。従って、てんかんの発作を処置するなど、てんかんの処置に対し要求がある。本明細書では、当業界におけるこれら及び他の要求に応えるための方法及び組成物を提供する。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、中でもミトコンドリア病(mitochondrial disorder)の処置の必要な被験者に治療的有効量の金属ポルフィリン化合物を投与することを含む、ミトコンドリア病を処置する新規方法を提供する。
【0005】
別の側面では、本発明は、ミトコンドリア病を処置する方法で有用な金属ポルフィリン化合物を提供する。態様によっては、金属ポルフィリン化合物は以下の式:
【0006】
【化1】

をもち、ここでR1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して-CF3、-CO2R8、-COR8'
【0007】
【化2】

であり;
R5、R6、R7、R8、R8'、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、及びR24はそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、-CN、-CF3、-OH、-NH2、-COOH、-COOR25、-CH2COOR25、-CH2COOH、非置換若しくは置換アルキル、非置換若しくは置換ヘテロアルキル、非置換若しくは置換シクロアルキル、非置換若しくは置換ヘテロシクロアルキル、非置換若しくは置換アリール、または非置換若しくは置換ヘテロアリールであり;
R25は非置換アルキルであり;及びMは金属である。態様によっては、R25はC1-10アルキルである。態様によっては、R25は-CH3またはC1-5アルキルである。態様によっては、前記金属はマンガン、鉄、コバルト、銅、ニッケルまたは亜鉛である。
態様によっては、R1、R2、R3及びR4
【0008】
【化3】

であり、前記金属はマンガンである。態様によっては、R1及びR3は-CO2-CH3であり、R2及びR4は-CF3であり、前記金属はマンガンである。態様によっては、R1及びR3
【0009】
【化4】

であり、R2及びR4
【0010】
【化5】

であり、前記金属はマンガンである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、例示的な金属ポルフィリン化合物と、当該化合物の幾つかについての種々のパラメータを示す図である。
【図2】図2は、モニターしたマウスにおける発作の数及び持続時間の例示的なヒストグラムを示す図である。
【図3】図3は、様々な時間点における血漿(3A)及び脳(3B)内金属ポルフィリン化合物の例示的な濃度を示す図である。3Cは、マウス前脳画分における金属ポルフィリンの例示的なヒストグラムを表す。
【図4】図4は、発作と発作との間の間隔(inter-seizure interval)(A)または発作の総数(B)に対する金属ポルフィリン化合物の効果の例を示す。
【図5】図5は、金属ポルフィリンの存在下または非存在下におけるマウスでの種々の化合物レベルの例示的なヒストグラムを示す:アコニターゼ(A)、ATP(B)、3-ニトロトリソシン(nitrotrysosine)形成(C)、CoASH(D)及びNa+-K+ATPアーゼ活性レベル(E)。
【図6】図6は、ラットにおけるカイニン酸誘発性慢性てんかん発生及び酸化的ストレスに対するAEOL 11207の効果の例示的なヒストグラムを示す。
【図7】図7は、AEOL 11207またはビヒクルで処置したSod2-/-マウスの生存をカプラー・マイヤー生存曲線により分析した図である。72匹のビヒクルで処置したSod2-/-マウスと21匹のAEOL 11207で処置したSod2-/-マウスの寿命を分析した。*p<0.01ビヒクル対AEOL 11207。
【図8】図8は、16〜20日齢のビヒクル処置Sod2-/-マウスから平均化自発性発作の持続時間(A)を示す図である。バーは、平均+S.E.M.であり、*p<0.05、**p<0.01(20日齢のものと比較)一元配置の分散分析(one way ANOVA)、n=9〜51/群。ビヒクルまたはAEOL 11207で処置したSod2-/-マウスの出生2週間後に観察された自発性発作の総数(B)、頻度(C)及び持続時間(D)。バーは平均+S.E.M.であり、*p<0.01対ビヒクル処置Sod2-/-マウス;スチューデント検定、n=23〜146/群。
【図9】パネル1:ビヒクルまたはAEOL 11207で処置した15から16日齢のSod2-/-マウスの頭頂葉皮質における代表的なH&E及びフルオロ-ジェイド(Fluoro-jade)B染色画像である。H&E染色(A,B,C)及びフルオロ-ジェイドB染色(D,E,F):対照(A,D)、ビヒクル(B,E)及びAEOL 11207(C,F)。それぞれの写真の右上角の挿入部は、白い長方形で囲った部分の拡大画像である。パネル2:ビヒクルまたはAEOL 11207で処置した15から16日齢のSod2-/-マウスの頭頂葉皮質におけるフルオロ-ジェイドB蛍光の定量分析。バーは平均+S.E.M.を表し、*p<0.01対同一処置の野生型;#p<0.05対ビヒクル処置Sod2-/-マウス;二元ANOVA、N=6匹マウス/群。
【図10】図10は、ビヒクルまたはAEOL 11207で処置した生後15から16日のSod2変異マウスのミトコンドリア画分におけるCoASH(A);CoASSG(B);CoASH/CoASSG比(C);アコニターゼ活性(D);3-ニトロチロシン(E);システイン及びメチオニン(G)。バーは平均+S.E.M.を表し、*p<0.01対同一処置の野生型;#p<0.05対ビヒクル処置Sod2-/-マウス;二元ANOVA、N=6から12匹マウス/群。
【図11】パネルA:ビヒクルまたはAEOL 11207で処置した15から16日齢のSod変異マウスの海馬における代表的なグルタミン酸トランスポーターGLT1ウエスタンブロット画像。パネルB:グルタミン酸トランスポーターGLT1タンパク質密度は、ビヒクルまたはAEOL 11207で処置した15から16日齢のSod2-/-マウスの海馬(hippocampus)の海馬(hippocampi)でウエスタンブロット分析により評価した。それぞれの値はβ-アクチンで標準化した。データは、対照としてビヒクル処置Sod2+/+(100%)を使用してパーセント対照として表した。バーは平均+S.E.M.を表し、*p<0.01対同一処置の野生型;#p<0.05対ビヒクル処置Sod2-/-マウス;二元ANOVA、N=5匹マウス/群。
【図12】ビヒクルまたはAEOL 11207で処置した生後15から16日のSod2変異マウスの前脳におけるATP産生(A)及びNa+、K+ ATPアーゼ活性(B)。バーは平均+S.E.M.を表し、*p<0.01対同一処置の野生型;#p<0.05対ビヒクル処置Sod2-/-マウス;二元ANOVA、N=6から12匹マウス/群。
【発明を実施するための形態】
【0012】
I.定義
本明細書で使用する略号は、化学的及び生物学的分野におけるその通常の意味をもつ。本明細書で述べる化学構造及び式は、化学分野で公知の化学の原子価の標準的な規則に従って構築される。
【0013】
その慣用の化学式によって左から右へ置換基が明記される場合、右から左へ構造が描かれた化学的に同一置換基を等しく包含するものとする。たとえば-CH2O-は-OCH2-と等価である。
【0014】
それ自身または別の置換基の一部としての「アルキル」なる用語は、他に記載しない限り、直鎖(即ち、非分岐)若しくは分岐鎖、またはその組み合わせを意味し、これらは完全飽和、モノ-若しくは多価不飽和であってもよく、示された炭素原子数をもつ二-及び多価基を含むことができる(即ち、C1-C10は1から10個の炭素を意味する)。飽和炭化水素基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、(シクロヘキシル)メチル、その同族体及び異性体、たとえばn-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルなどが挙げられるが、これらに限定されない。不飽和アルキル基は、一つ以上の二重結合または三重結合を持つものである。不飽和アルキル基の例としては、ビニル、2-プロペニル、クロチル、2-イソペンテニル、2-(ブタジエニル)、2,4-ペンタジエニル、3-(1,4-ペンタジエニル)、エチニル、1-及び3-プロピニル、3-ブチニル並びに高級同族体及び異性体が挙げられるが、これらに限定されない。アルコキシは、酸素リンカー(-O-)により分子の残余(remainder)に結合したアルキルである。
【0015】
それ自身または別の置換基の一部としての「アルキレン」なる用語は、他に記載しない限り、限定するものではないが-CH2CH2CH2CH2-により例示されるように、アルキルから誘導された二価基を表す。通常、アルキル(またはアルキレン)基は、1から24個の炭素原子をもち、10個以下の炭素原子をもつこれらの基が本発明において好ましい。「低級アルキル」または「低級アルキレン」は、通常、8個以下の炭素原子をもつより短い鎖のアルキルまたはアルキレン基である。
【0016】
それ自身または別の用語と組み合わせた「ヘテロアルキル」なる用語は、他に記載しない限り、少なくとも一つの炭素原子と、O、N、P、Si及びSからなる群から選択される少なくとも一つのヘテロ原子とからなる、安定な直鎖若しくは分岐鎖、またはその組み合わせを意味し、ここで前記窒素及び硫黄原子は、場合により酸化されていてもよく、窒素ヘテロ原子は場合により四級化していてもよい。(単数または複数種類の)ヘテロ原子O、N、P、S及びSiは、ヘテロアルキル基の任意の内部位置、またはアルキル基が分子の残余に結合している位置に位置することができる。例としては、-CH2-CH2-O-CH3、-CH2-CH2-NH-CH3、-CH2-CH2-N(CH3)-CH3、-CH2-S-CH2-CH3、-CH2-CH2、-S(O)-CH3、-CH2-CH2-S(O)2-CH3、-CH=CH-O-CH3、-Si(CH3)3、-CH2-CH=N-OCH3、-CH=CH-N(CH3)-CH3、-O-CH3、-O-CH-2-CH3及び-CNが挙げられるが、これらに限定されない。たとえば-CH2-NH-OCH3等のように、2個以下のヘテロ原子は連続的であってもよい。
【0017】
同様に、それ自身または別の置換基の一部としての「ヘテロアルキレン」なる用語は、他に記載しない限り、これらに限定されないが、-CH2-CH2-S-CH2-CH2-及び-CH2-S-CH2-CH2-NH-CH2-に例示されるように、ヘテロアルキルから誘導される二価基を意味する。ヘテロアルキレン基に関しては、ヘテロ原子は、鎖末端のいずれかまたは両方を占めることができる(たとえばアルキレンオキシ、アルキレンジオキシ、アルキレンアミノ、アルキレンジアミノなど)。さらにアルキレン及びヘテロアルキレン結合基に関しては、結合基の方向は、結合基の式が書かれている方向により暗示されない。たとえば、式:-C(O)2R'-は、-C(O)2R'-と-R'C(O)2-の両方を表す。上記の如く、本明細書中で使用されるように、ヘテロアルキル基としては、-C(O)R'、-C(O)NR'、-NR'R''、-OR'、-SR'、及び/または-SO2R'などのヘテロ原子を介して分子の残余に結合している基が挙げられる。-NR'R''などのように特定のヘテロアルキル基の列挙に続いて「ヘテロアルキル」と列挙する場合、ヘテロアルキル及び-NR'R''なる用語は、冗長でもなく互いに排他的でもないと理解される。むしろ、特定のヘテロアルキル基は、明確性を加えるために列挙される。従って、「ヘテロアルキル」なる用語は、-NR'R''などの特定のヘテロアルキル基を除外するものとして本明細書中で解釈すべきではない。
【0018】
それ自身または別の用語と組み合わせた「シクロアルキル」及び「ヘテロシクロアルキル」なる用語は、他に記載しない限り、それぞれ「アルキル」及び「ヘテロアルキル」の環式バージョンを意味する。さらに、ヘテロシクロアルキルに関しては、ヘテロ原子は、複素環が分子の残余に結合している位置を占めることができる。シクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、1-シクロヘキセニル、3-シクロヘキセニル、シクロヘプチルなどが挙げられるが、これらに限定されない。ヘテロシクロアルキルの例としては、1-(1,2,5,6-テトラヒドロピリジル)、1-ピペリジニル、2-ピペリジニル、3-ピペリジニル、4-モルホリニル、3-モルホリニル、テトラヒドロフラン-2-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、テトラヒドロチエン-2-イル、テトラヒドロチエン-3-イル、1-ピペラジニル、2-ピペラジニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。単独または別の置換基の一部としての「シクロアルキレン」及び「ヘテロシクロアルキレン」なる用語は、それぞれシクロアルキル及びヘテロシクロアルキルから誘導された二価の基を意味する。
【0019】
それ自身または別の置換基の一部としての「ハロ」または「ハロゲン」なる用語は、他に記載しない限り、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子を意味する。さらに、「ハロアルキル」などの用語は、モノハロアルキル及びポリハロアルキルを包含するものとする。たとえば、「ハロ(C1-C4)アルキル」なる用語としては、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、4-クロロブチル、3-ブロモプロピルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
他に記載しない限り、「アシル」なる用語は、-C(O)R{式中、Rは置換若しくは非置換アルキル、置換若しくは非置換シクロアルキル、置換若しくは非置換ヘテロアルキル、置換若しくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換アリール、または置換若しくは非置換ヘテロアリールである}を意味する。
【0021】
他に記載しない限り、「アリール」なる用語は、一緒に融合(即ち、融合環アリール)または共有結合的に結合している単一の環または複数の環(好ましくは1から3個)であってもよい多価不飽和、芳香族炭化水素置換基を意味する。融合環アリールは、融合環の少なくとも一つがアリール環である、一緒に融合した複数の環をさす。「ヘテロアリール」なる用語は、N、O及びSから選択された少なくとも一つのヘテロ原子を含むアリール基(または環)をさし、ここで前記窒素及び硫黄原子は場合により酸化され、前記(単数または複数の)窒素原子は場合により四級化している。「ヘテロアリール」なる用語は、融合環ヘテロアリール基(即ち、融合環の少なくとも一つがヘテロ芳香族環である、一緒に融合した複数の環)を包含する。5,6-融合環ヘテロアリーレンは、二つの一緒に融合した環をさし、ここで一つの環は5員であり、他方の環は6員であり、少なくとも一つの環はヘテロアリール環である。同様に6,6-融合環ヘテロアリーレンは、二つの一緒に融合した環をさし、ここで一つの環は6員であり、他方の環は6員であり、少なくとも一つの環はヘテロアリール環である。6,5-融合環ヘテロアリーレンは、二つの一緒に融合した環をさし、ここで一つの環は6員であり、他方の環は5員であり、少なくとも一つの環はヘテロアリール環である。ヘテロアリール基は炭素またはヘテロ原子を介して分子の残余に結合することができる。アリール及びヘテロアリール基の非限定的な例としては、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、4-ビフェニル、1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル、3-ピラゾリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、ピラジニル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、2-フェニル-4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、3-イソキサゾリル、4-イソキサゾリル、5-イソキサゾリル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-ピリミジル、4-ピリミジル、5-ベンゾチアゾリル、プリニル、2-ベンズイミダゾリル、5-インドリル、1-イソキノリル、5-イソキノリル、2-キノキサリニル、5-キノキサリニル、3-キノリル及び6-キノリルが挙げられる。上記アリール及びヘテロアリール環系のそれぞれに関する置換基は、以下に記載の許容可能な置換基の群から選択される。単独または別の置換基の一部としての「アリーレン」及び「ヘテロアリーレン」は、それぞれアリール及びヘテロアリールから誘導される二価の基を意味する。
【0022】
簡潔にするために、他の用語(たとえばアリールオキシ、アリールチオキシ、アリールアルキル)と組み合わせて使用するときに「アリール」なる用語は、上記定義のアリールとヘテロアリール環の両方を包含する。従って、「アリールアルキル」なる用語としては、炭素原子(たとえばメチレン基)が、酸素原子(たとえばフェノキシメチル、2-ピリジルオキシメチル、3-(1-ナフチルオキシ)プロピルなど)で置き換わったアルキル基を含む、アリール基がアルキル基(たとえばベンジル、フェネチル、ピリジルメチルなど)に結合しているものを包含するものとする。
【0023】
本明細書中で使用する「オキソ」なる用語は、炭素原子に二重結合している酸素を意味する。
【0024】
本明細書中で使用する「アルキルスルホニル」なる用語は、式:-S(O2)-R'{式中、R'は上記定義のアルキル基である}を持つ部分を意味する。R'は、指定数の炭素を含むことができる(たとえばC1-C4アルキルスルホニル)。
【0025】
上記用語(たとえば「アルキル」、「ヘテロアルキル」、「アリール」及び「ヘテロアリール」)のそれぞれとしては、表示された基の置換形及び非置換形の両方を含む。それぞれのタイプの基の好ましい置換基を以下に提供する。
【0026】
アルキル及びヘテロアルキル基(アルキレン、アルケニル、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル及びヘテロシクロアルケニルと称されることが多い基も含む)の置換基は、これらに限定されないが、ゼロ〜(2m'+1){式中、m'はそのような基の中の炭素原子の総数である}を変動する数の-OR'、=O、=NR'、=N-OR'、-NR'R''、-SR'、-ハロゲン、-SiR'R''R'''、-OC(O)R'、-C(O)R'、-CO2R'、-CONR'R''、-OC(O)NR'R''、-NR''C(O)R'、-NR'-C(O)NR''R'''、-NR''C(O)2R'、-NR-C(NR'R''R''')=NR''''、-NR-C(NR'R'')=NR'''、-S(O)R'、-S(O)2R'、-S(O)2NR'R''、-NRSO2R'、-CN及び-NO2から選択される種々の基の一つ以上であり得る。R'、R''、R'''及びR''''はそれぞれ独立して好ましくは、水素、置換若しくは非置換ヘテロアルキル、置換若しくは非置換シクロアルキル、置換若しくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換アリール(たとえば、1〜3個のハロゲンで置換されたアリール)、置換若しくは非置換アルキル、アルコキシ、またはチオアルコキシ基、またはアリールアルキル基をさす。本発明の化合物が1を超えるR基を含むとき、たとえばR基はそれぞれ独立して、これらの基の1を超える基が存在するときにそれぞれR'、R''、R'''及びR''''であるように選択される。R'及びR''が同一窒素原子に結合しているとき、これらはその窒素原子と一緒になって、4-、5-、6-または7-員環を形成することができる。たとえば、-NR'R''としては、1-ピロリジニル及び4-モルホリニルが挙げられるが、これらに限定されない。置換基の上記議論から、当業者は、「アルキル」なる用語は水素基以外の基に結合した炭素原子を含む基、たとえばハロアルキル(たとえば-CF3及び-CH2CF3)並びにアシル(たとえば-C(O)CH3、-C(O)CF3、-C(O)CH2OCH3など)を包含することを意味することは理解されよう。
【0027】
アルキル基に関して記載された置換基と同様に、アリール及びヘテロアリール基に関する置換基は様々であり、たとえば0から芳香環系の空いている原子価(open valence)の総数を変動する数の-OR'、-NR'R''、-SR'、-ハロゲン、-SiR'R''R'''、-OC(O)R'、-C(O)R'、-CO2R'、-CONR'R''、-OC(O)NR'R''、-NR''C(O)R'、-NR'-C(O)NR''R'''、-NR''C(O)2R'、-NR-C(NR'R''R''')=NR''''、-NR-C(NR'R'')=NR'''、-S(O)R'、-S(O)2R'、-S(O)2NR'R''、-NRSO2R'、-CN、-NO2、-R'、-N3、-CH(Ph)2、フルオロ(C1-C4)アルコキシ及びフルオロ(C1-C4)アルキルから選択され、ここでR'、R''、R'''及びR''''は好ましくは独立して水素、置換若しくは非置換アルキル、置換若しくは非置換ヘテロアルキル、置換若しくは非置換シクロアルキル、置換若しくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換アリール、及び置換若しくは非置換ヘテロアリールから選択される。本発明の化合物が1を超えるR基を含むとき、たとえばR基のそれぞれ独立してこれらの基の1を超える基が存在するときにそれぞれのR'、R''、R'''及びR''''基であるように選択される。
【0028】
二つ以上の置換基は場合により結合してアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、またはヘテロシクロアルキル基を形成することができる。そのようないわゆる環形成性置換基は通常、必ずしもそうではないが、環式ベース(base)構造に結合しているのが知見される。一態様において、環形成性置換基は、ベース構造の隣り合ったメンバーに結合する。たとえば、環式ベース構造の隣り合ったメンバーに結合した二つの環形成性置換基は、融合環構造を作り出す。別の態様では、環形成性置換基はベース構造の単一メンバー(single member)に結合する。たとえば、環式ベース構造の単一メンバーに結合した二つの環形成性置換基は、スピロ環構造を作り出す。さらに別の態様では、環形成性置換基は、ベース構造の隣り合っていないメンバーに結合する。
【0029】
アリールまたはヘテロアリール環の隣接する原子上の置換基のうち二つは場合により式:-T-C(O)-(CRR')q-U-{式中、T及びUは独立して-NR-、-O-、-CRR'-、または単結合であり、qは0〜3の整数である}の環を形成してもよい。あるいは、アリールまたはヘテロアリール環の隣接する原子上の置換基のうち二つは場合により、式:-A-(CH2)r-B-{式中、A及びBは独立して、-CRR'-、-O-、-NR-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S(O)2NR'-、または単結合であり、rは1〜4の整数である}の置換基で置き換わっていてもよい。このようにして形成した新しい環の単結合の一つは場合により、二重結合で置き換わっていてもよい。あるいは、アリールまたはヘテロアリール環の隣接する原子上の置換基のうち二つは場合により、式:-(CRR')s-X'-(C''R''')d-{式中、s及びdは独立して0〜3の整数であり、X'は-O-、-NR'-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、または-S(O)2NR'-である}の置換基で置き換わっていてもよい。置換基R、R'、R''及びR'''は好ましくは独立して、水素、置換若しくは非置換アルキル、置換若しくは非置換シクロアルキル、置換若しくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換アリール、及び置換若しくは非置換ヘテロアリールから選択される。
【0030】
本明細書で使用するように、「ヘテロ原子」または「環へテロ原子」なる用語は、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、リン(P)及びケイ素(Si)を含むものとする。
【0031】
本明細書中で使用するように、「置換基」とは、以下の部分から選択される基を意味する:
(A)-OH、-NH2、-SH、-CN、-CF3、-NO2、オキソ、ハロゲン、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクロアルキル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、及び
(B)以下のものから選択される少なくとも一つの置換基で置換されたアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、及びヘテロアリール:
(i)オキソ、-OH、-NH2、-SH、-CN、-CF3、-NO2、ハロゲン、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクロアルキル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、及び
(ii)以下のものから選択される少なくとも一つの置換基で置換されたアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール:
(a)オキソ、-OH、-NH2、-SH、-CN、-CF3、-NO2、ハロゲン、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクロアルキル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、及び
(b)以下のものから選択される少なくとも一つの置換基で置換されたアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリール:オキソ、-OH、-NH2、-SH、-CN、-CF3、-NO2、ハロゲン、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクロアルキル、非置換アリール及び非置換ヘテロアリール。
【0032】
本明細書中で使用される「サイズが限定された置換基(size-limited substituent)」または「サイズが限定された置換基(size-limited substituent group)」は、「置換基」に関して上記された置換基の全てから選択される基を意味し、ここでそれぞれの置換若しくは非置換アルキルは、置換若しくは非置換C1-C20アルキルであり、それぞれの置換若しくは非置換ヘテロアルキルは、置換若しくは非置換2〜20員のヘテロアルキルであり、それぞれの置換若しくは非置換シクロアルキルは、置換若しくは非置換C4-C8シクロアルキルであり、それぞれの置換若しくは非置換ヘテロシクロアルキルは、置換若しくは非置換4〜8員のヘテロシクロアルキルである。
【0033】
本明細書中で使用される「低級置換基(lower substituent)」または「低級置換基(lower substituent group)」は、「置換基」に関して上記した置換基の全てから選択される基を意味し、ここでそれぞれの置換若しくは非置換アルキルは、置換若しくは非置換C1-C8アルキルであり、それぞれの置換若しくは非置換ヘテロアルキルは、置換若しくは非置換2〜8員のヘテロアルキルであり、それぞれの置換若しくは非置換シクロアルキルは、置換若しくは非置換C5-C7シクロアルキルであり、それぞれの置換若しくは非置換ヘテロシクロアルキルは、置換若しくは非置換5〜7員のヘテロシクロアルキルである。
【0034】
他に記載しない限り、本明細書中に示した構造は、構造の全ての立体化学形(stereochemical form)、即ちそれぞれの不斉中心に関してR及びS配置を含むものとする。従って、本化合物の単一の立体化学異性体並びにエナンチオマー及びジアステレオマー混合物は、本発明の範囲内である。
【0035】
他に記載しない限り、本明細書中に示した構造は、一種以上の同位体が濃縮された(isotopically enriched)原子が存在するという点でのみ異なる化合物も包含するものとする。たとえば水素を重水素若しくはトリチウムで置き換えること、または炭素を13C-若しくは14C-富化炭素で置き換えることを除けば本構造をもつ化合物は、本発明の範囲内である。
【0036】
本発明の化合物は、かかる化合物を構成する原子の一つ以上で非天然の割合の原子同位体(atomic isotope)を含むこともできる。たとえば、化合物は、トリチウム(3H)、ヨウ素-125(125I)または炭素-14(14C)等のような放射性同位元素でラベル付けすることができる。放射性であろうとなかろうと、本発明の化合物の全ての同位体変化は本発明の範囲内に包含される。
【0037】
本明細書中で置換基の群に関して使用する際に「一つの(a、an)」なる用語は、少なくとも一つを意味する。たとえば化合物が「一つの」アルキルまたはアリールで置換されている場合、化合物は場合により少なくとも一つのアルキル及び/または少なくとも一つアリールで置換されている。さらにある部分がR置換基で置換されている場合、基は「R-置換された」と称することができる。ある部分がR-置換されている場合、その部分は少なくとも一つのR置換基で置換されており、それぞれのR置換基は場合により異なる。
【0038】
本発明の化合物の記載は、当業者に公知の化学結合の原則により限定される。従って、基が多くの置換基の一つ以上で置換することができる場合、そのような置換は、化学結合の原則に従い、本質的に不安定ではないか、及び/または水性、中性及び幾つかの公知の生理学的条件などの周囲条件(ambient condition)下で不安定でありそうなものとして当業者に公知であろう化合物を与えるように選択される。たとえば、ヘテロシクロアルキルまたはヘテロアリールは、当業者に公知の化学結合の原理に従って、環へテロ原子を介して分子の残余に結合して、本質的に不安定な化合物を避ける。
【0039】
「有効量」または「治療的有効量」なる用語は、所望の生物学的結果を誘発させるのに十分な活性剤の量をさす。この結果は、疾患の兆候、症状、若しくは原因、または生物系の任意の他の所望の変化でありえる。「治療的有効量」なる用語は、本明細書中で、所定の時間、繰り返し患部に適用したときに、症状を実質的に改善させる製剤の任意の量を示すために使用される。この量は、処置される症状、症状の進行段階、並びに適用される製剤の種類及び濃度で変動する。任意の所定の事例における好適な量は、当業者に容易に明らかであるか、日常的な実験により決定することができる。
【0040】
本明細書中で使用するように、「処置」または「処置する」または「緩和する(palliating)」または「改善する(ameliorating)」は本明細書中で交換可能に使用する。これらの用語は、これらに限定されないが、治療上の利益及び/または予防的利益を含む有益または所望の効果を得るためのアプローチをさす。治療上の利益とは、処置される根本的な疾患の根絶または改善を意味する。また、治療上の利益は、患者が依然として根本的な疾患に苦しめられているかもしれないにもかかわらず、患者において改善が観察されるように、根本的な疾患に関連する生理学的な兆候の一つ以上の根絶または改善によって達成される。予防的利益に関しては、この疾患の診断がなされていなかったとしても、組成物は、特定の疾患を発症する危険性のある患者、または疾患の生理的な兆候の一つ以上を報告する患者に投与することができる。処置とは疾患を予防すること、即ち、疾患が誘発される前に防御組成物を投与することによって疾患の臨床兆候が発症しないようにする;疾患を抑制すること、即ち誘発事象後であるが、疾患の臨床的所見や再発の前に、防御組成物を投与することによって疾患の臨床兆候が発症しないようにする;疾患を抑止すること、即ちその初期所見の後に防御組成物を投与することによって臨床兆候の発症を停止する;疾患の発生を阻止する及び/または疾患を緩和すること、即ちその初期所見の後に防御組成物を投与することによって、臨床兆候を退縮(regression)させることを含む。
【0041】
「医薬的に許容可能な塩」なる用語は、当技術分野で周知の種々の有機及び無機対イオンから誘導される塩をさし、その例としては、たとえばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、テトラアルキルアンモニウムなどが挙げられ、分子が塩基性官能基を含む場合は、有機または無機酸の塩、たとえば塩酸塩、臭化水素塩、酒石酸塩、メシル酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩などをさす。
【0042】
「被験者(subject)」、「(個)人(individual)」または「患者」は本明細書中で交換可能に使用し、これは脊椎動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトをさす。哺乳類としては、ネズミ科の動物(murine)、サル(simian)、ヒト、家畜、競技動物(sport animal)及びペットが挙げられるが、これらに限定されない。in vitroで得られたか、またはin vitroで培養した生物学的実体(biological entity)の組織、細胞及びその産物も包含される。態様によっては、被験者または患者は子供である。態様によっては、被験者または患者は幼児(young child)である。態様によっては、被験者または患者は乳児(infant)である。
【0043】
本明細書中で定義するように、本明細書で使用する「子供」または「子供たち」なる用語は、三歳を超え、思春期前の人を意味する。本明細書中で使用するように、「幼児」または「幼児たち」なる用語は、12ヶ月を超え、3歳以下の年齢の人を意味する。本明細書中で使用するように、「乳児」なる用語は、最高で12ヶ月までの人をさす。
【0044】
II.方法
本明細書では、被験者においてミトコンドリア病を処置するための方法及び組成物を提供する。本方法は、治療的有効量の金属ポルフィリン化合物を前記処置の必要な被験者に投与することを含む。本明細書中で使用するように、ミトコンドリア病(mitochondrial disorder)及びミトコンドリア機能障害(mitochondrial dysfunction)は交換可能に使用することができる。本明細書で検討する組成物としては、以下のセクションIIに記載の金属ポルフィリン化合物または金属ポルフィリン触媒的抗酸化組成物が挙げられるが、これらに限定されない。態様によっては、前記ミトコンドリア病はてんかんである。被験者は、側頭葉てんかんまたは病的発作(pathological insult)から生じる急性または慢性てんかんを含む他の後天的てんかんでありうる。態様によっては、てんかんは急性または慢性てんかんである。急性または慢性てんかんは、酸化的ストレス及びミトコンドリア病を増加させる低酸素症、外傷、ウイルス感染、発熱、アルコール離脱または老化から生じうる。態様によっては、本方法は、前記被験者のてんかん発作の頻度または重症度を軽減する。態様によっては、ミトコンドリア病は急性または慢性神経障害である。態様によっては、前記被験者は遺伝性ミトコンドリア病または遺伝性てんかんである。
【0045】
態様によっては、前記被験者は子供または幼児である。前記被験者は小児てんかん、脳障害または小児運動障害である。態様によっては、前記小児運動障害は、発熱、外傷、代謝欠陥、遺伝学的異常、染色体異常、低酸素/虚血性エピソードまたはその組み合わせから誘導される。
【0046】
態様によっては、ミトコンドリア病は、ミトコンドリア疾患;赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん症候群(MERRF);ミトコンドリアミオパシー、脳障害、ラクトアシドーシス、及び卒中(MELAS);母系遺伝性糖尿病及び聾(MIDD)、レーバー遺伝性視神経萎縮症(LHON);慢性進行性眼筋麻痺(CPEO);リー病;カーンズ・セイヤー症候群(KSS);フリードライヒ運動失調(FRDA);補酵素Q10(CoQ10)欠損症;コンプレックスI欠損症;コンプレックスII欠損症;コンプレックスIII欠損症;コンプレックスIV欠損症;コンプレックスV欠損症;他のミオパシー;心筋症;脳筋症;尿細管性アシドーシス;神経変性疾患;パーキンソン病;アルツハイマー病;筋萎縮性側索硬化症(ALS);運動ニューロン疾患;聴覚バランス障害;または他の神経疾患;てんかん;遺伝性疾患;ハンチントン病;気分障害;統合失調症;双極性障害;加齢に伴った疾患;脳血管疾患;黄斑変性;糖尿病;癌からなる群から選択される。態様によっては、ミトコンドリア病は、ミトコンドリア呼吸鎖疾患(mitochondrial respiratory chain disorder)、たとえば呼吸タンパク質連鎖障害(respiratory protein chain disorder)である。態様によっては、ミトコンドリア病はCoQ10欠損症である。
【0047】
多くの場合、ミトコンドリア病は親から子供へ遺伝的にわたる(遺伝)。態様によっては、ミトコンドリア病は遺伝性ミトコンドリア疾患または遺伝性てんかんからなる群から選択される。
【0048】
態様によっては、本明細書に記載の化合物は、自閉症性障害、アスペルガー障害、小児崩壊性障害(CDD)、レット症候群、及び特定不能の広範性発達障害(PDD-Not Otherwise Specified:PDD-NOS)などの広範性発達障害の被験者に投与する。
【0049】
態様によっては、ミトコンドリア病は、急性または慢性神経障害である。本明細書では、金属ポルフィリン触媒的抗酸化剤などの治療的有効量の金属ポルフィリン組成物を被験者に投与することにより、係る急性または慢性神経障害を処置する方法を提供する。
【0050】
態様によっては、ミトコンドリア病は、病的発作から生じる急性または慢性てんかんなどの、急性または慢性てんかんである。この種のてんかんの数例としては、側頭葉てんかん及び外傷後てんかんが挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様では、急性または慢性てんかんは、酸化的ストレス及びミトコンドリア病を増加させる低酸素症、外傷、ウイルス感染、化学戦で使用された薬剤、発熱、アルコール離脱、老化またはそれらの組み合わせから発症し得る。
【0051】
ミトコンドリア病は、遺伝性及び後天的てんかんの両方に関して重要な治療ターゲットである。てんかんの発作は、遺伝性ミトコンドリア病の子供で観察される最も一般的な特徴である。ミトコンドリア酸化的ストレスは、発作が誘発される(seizure-induced)脳損傷での結果として生じる機能障害に関与することが知見されている。後天的てんかんは全てんかんの〜60%を占め、遺伝的てんかんは〜40%を占める。側頭葉てんかんは後天的てんかんの最も一般的な形態であり、医学的に治りにくいことが多い。てんかんの発作は、遺伝的ミトコンドリア病の子供で観察される最も一般的な特徴である。
【0052】
本明細書の幾つかの態様は、幼年期及び成人てんかんを処置するための候補金属ポルフィリンに関する。他の態様では、候補金属ポルフィリンは、これらに限定されないが、幼年期ミトコンドリア病に帰するてんかんなどの幼年期てんかんを処置するのに使用することができる。特定の態様では、本明細書で意図する一つ以上の経口用量の組成物は、そのような処置の必要な子供に投与することができる。
【0053】
態様によっては、治療的有効量の金属ポルフィリン組成物を子供に投与することによりてんかんの発作の子供を処置する。これらの態様に従って、子供は遺伝的ミトコンドリア病であるかもしれない。本明細書で意図する特定の幼年期の疾患としては、小児てんかん、脳障害、または小児運動障害が挙げられるが、これらに限定されない。小児運動障害としては、発熱、外傷、代謝欠陥、遺伝的若しくは染色体異常、低酸素/虚血エピソードまたはその組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
幾つかの態様としては、本明細書中に開示した医薬的に許容可能な組成物で動物のニューロン疾患を処置することを含む。たとえばペットを処置することができる。
【0055】
態様によっては、本明細書に記載の方法は、てんかんの発作の処置で有効である。てんかんの発作は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)変異/欠失から生じる遺伝性ミトコンドリア疾患の一般的な表現型である。これらの疾患で最も特徴付けられているものは、赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん(MERRF)、分子欠陥が同定されてんかん症候群に関連していた最初のてんかんである。MERRFの分子欠陥はtRNAlysの単一の変異から生じ、赤色ぼろ線維をともなう特徴的なミオパチー及びミオクローヌスてんかんからなる疾患が起きる。幾つかのミトコンドリア病は、核またはミトコンドリアゲノムのいずれかによりコードされるミトコンドリア遺伝子中の変異と関連していた。ミトコンドリア疾患の中でもてんかんの高率発生は、これらの疾患の治療法を開発する重要性を強調している。ミトコンドリア病は、急性及び慢性発作の転帰でありえる。ミトコンドリア代謝の一つの重要な副生成物は、活性酸素種(ROS)の産生物である。豊富且つ重複内因性抗酸化剤は正常な細胞ROS産生物に打ち勝つために存在するが、ROSが過剰に産生されると、抗酸化剤の防御を制圧して、そのため弱い細胞標的を酸化してしまうことがある。カイニン酸モデルにおける標的酸化の代替マーカーを使用して、長引く発作は、ミトコンドリアDNA、敏感なミトコンドリアタンパク質及び細胞脂質を酸化的に損傷してしまいうることが同定された。てんかん重積症(SE)の急性転帰(acute consequence)であることに加えて、ミトコンドリアROS産生物は行動解析により評価される慢性てんかんの発症の直前に出現し、このことはROS形成がてんかん発生の一因となることを示唆している。
【0056】
生体エネルギーから代謝機能に及ぶミトコンドリアの幾つかの正常機能は神経細胞の興奮性に影響を与えうる。これらの例としては、細胞ATP産生、ROS形成、神経伝達物質の合成及び代謝、脂肪酸酸化、カルシウムホメオスタシス並びにアポトーシス性/ネクローシス性細胞死の制御が挙げられるが、これらに限定されない。ミトコンドリア病と関連する発作の一因となる生体機能(vital function)は不明確なままである。遺伝的要因によるミトコンドリア脳障害はまれであるものの、これらは側頭葉てんかんなどの後天的てんかんの根底にあるメカニズムに関し重要な知識を提供するかもしれない。
【0057】
ミトコンドリア酸化的ストレス及び疾患は、Sod2-/+マウスで加齢に関連した発作の危険因子として示されてきた。先の実験では、加齢、環境刺激またはカイニン酸投与により誘発された高い発作感受性(seizure susceptibility)をもつミトコンドリア酸化的ストレスに関連する環境証拠を提供する。ヘテロ接合体Sod2-/+マウス(B6バックグラウンド)は、ホモ接合体ノックアウト(Sod2-/-)とは異なり、誕生時には生化学的及び表現型的に正常であるが、慢性ミトコンドリア酸化的ストレスと一致する加齢に関連する欠損を発症する。Sod2-/+マウスのサブセットは、加齢の関数として自然発症の及び操作誘発性の(handling-induced)発作を発症した。Sod2-/+マウスにおける発作の加齢に関連する始まりは、酸素利用から測定して、高いミトコンドリア酸化的ストレス(ミトコンドリアアコニターゼ不活化及びミトコンドリアであるが、核DNA酸化ではない)とミトコンドリア病と相互に関連していた。自然発生的及び操作誘発性発作が起きる年齢の前に、Sod2-/+マウスはカイニン酸誘発発作及び海馬細胞欠損に対して高い感受性を示した。このことは、ミトコンドリア酸化的ストレス及び結果として生じた機能障害(resultant dysfunction)がSod2-/+マウスの高い発作感受性の基礎をなす重要なメカニズムかもしれないことを示唆している。Sod2-/+マウスは加齢に関連する慢性酸化的ストレス及びミトコンドリア機能障害のモデルであるが、本明細書中に開示するように、Sod2-/-マウスは、若年期に発生する急性酸化的ストレス及びミトコンドリア機能障害のモデルを提供する。
【0058】
ミトコンドリア機能障害によりてんかんを発症する動物モデルの開発は、ミトコンドリア疾患及び酸化的ストレスに関連するてんかん発生のメカニズムを理解することにおいて、並びにてんかんを処置するのに有用な金属ポルフィリンを同定するのにおいて有用なツールである。SODを欠失している遺伝子組み換えマウスは、てんかんにおけるミトコンドリア機能障害及び酸化的ストレスの役割を裏づけする強固な証拠を提供してきた。SOD2欠損マウスは、先に記載の自然発症の及び誘発発作の発症率の増加と相互に関連して広範囲にわたるミトコンドリア機能障害を示す。ミトコンドリア疾患は、幾つかのバックグラウンド株(background strain)で発生したSOD2欠損マウスで特徴付けられてきた。Sod2-/-マウス(B6 Sod2-/-)マウスは胚性致死であり、CD-1 Sod2-/-マウスは約8〜10日、発育及び生存し、頻繁に発作を示す。より最近には、混合バックグラウンド(DBA/2J X B6D2またはB6D2Sod2-/-)のSod2-/-マウスが作られ、これは薬理学的介入なしに約3週間生きる。出生後の第二週で、これらのマウスは頻繁に自然発症の運動発作を示す。SOD2欠損マウスは、ミトコンドリア機能障害及び酸化的ストレスを処置する際に抗酸化剤の効能を示すための強力なツールであることが判明した。従って、長生きするSod2-/-マウスは、治療的介入を試験することができるミトコンドリア疾患と関連したてんかんのモデルを提供する。
【0059】
本明細書における組成物及び方法は、これらに限定されないが、以下のてんかん疾患を含むものの処置に関する:
1)ミトコンドリア疾患の中でもてんかんの高率発生によりミトコンドリアDNA変異/欠失から生じる遺伝性ミトコンドリア疾患;
2)発熱、外傷、代謝欠陥、遺伝学的若しくは染色体異常、低酸素/虚血性エピソードまたはその組み合わせなどの代謝因子により発症する小児てんかん、脳障害及び小児運動障害;並びに
3)側頭葉てんかん、並びに酸化的ストレス及びミトコンドリア機能障害を増進する低酸素症、外傷、ウイルス感染、戦争で使用される薬品、発熱、アルコール離脱、または老化から生じる他の後天的急性若しくは慢性てんかん。特定の態様では、本明細書における組成物及び方法は、単独またはかかる処置の必要な被験者を処置するための他の薬剤と組み合わせて、金属ポルフィリン剤またはその誘導体を含むことができる。
【0060】
特定の態様では、本明細書に記載の組成物及び方法は、単独または他の薬剤と組み合わせてAEOL 11207を含むことができる。他の態様では、AEOL 11207、本明細書に開示の強力な脂溶性触媒的抗酸化剤または他の組成物は、そのような処置(たとえばてんかんの発作)の必要な被験者に任意のモードで投与することができる。本明細書の態様によっては、AEOL 110207は、皮下注射経路で単独または他の薬剤と組み合わせて投与することができる。特定の態様では、AEOL 11207の被験者への投与は、被験者において酸化的損傷を低下及び/またはてんかんの発作を軽減できることを意図する。他の態様では、金属ポルフィリン剤またはその誘導体の被験者への投与は、てんかんの発作の発生を低下または予防及び/またはてんかんの発作の副作用を低下または予防できることを意図する。
【0061】
特定の態様では、本明細書に記載の組成物及び方法は、単独または他の薬剤と組み合わせてAEOL 11209を含むことができる。他の態様では、AEOL 11209、本明細書に開示の強力な脂溶性触媒的抗酸化剤または他の組成物は、そのような処置(たとえばてんかんの発作)の必要な被験者に任意のモードで投与することができる。本明細書の態様によっては、AEOL 11209は、皮下注射経路で単独または他の薬剤と組み合わせて投与することができる。特定の態様では、AEOL 11209の被験者への投与は、被験者において酸化的損傷を低下及び/またはてんかんの発作を軽減できることを意図する。他の態様では、金属ポルフィリン剤またはその誘導体の被験者への投与は、てんかんの発作の発生を低下または予防及び/またはてんかんの発作の副作用を低下または予防できることを意図する。
【0062】
特定の態様では、本明細書に記載の組成物及び方法は、単独または他の薬剤と組み合わせてAEOL 10150を含むことができる。他の態様では、AEOL 10150、本明細書に開示の強力な脂溶性触媒的抗酸化剤または他の組成物は、そのような処置(たとえばてんかんの発作)の必要な被験者に任意のモードで投与することができる。本明細書の態様によっては、AEOL 10150は、皮下注射経路で単独または他の薬剤と組み合わせて投与することができる。特定の態様では、AEOL 10150の被験者への投与は、被験者において酸化的損傷を低下及び/またはてんかんの発作を軽減できることを意図する。他の態様では、金属ポルフィリン剤またはその誘導体の被験者への投与は、てんかんの発作の発生を低下または予防及び/またはてんかんの発作の副作用を低下または予防できることを意図する。
【0063】
III.金属ポルフィリン類
態様によっては、本明細書において提供する方法で有用な金属ポルフィリン化合物は、以下の式を有する。
【0064】
【化6】

式Iにおいて、置換ポルフィリンは金属に結合することができる。金属は、そのイオンを含むマンガン、鉄、コバルト、銅、ニッケル、または亜鉛であってもよい。たとえば、以下の式IIにおいて、Mは、そのイオンを含む、マンガン、鉄、コバルト、銅、ニッケル、または亜鉛である。
【0065】
【化7】

【0066】
具体的な態様において、金属はマンガンであり、式:
【0067】
【化8】

を有する。
【0068】
R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して-CF3、-CO2R8、-COR8'
【0069】
【化9】

であってもよい。
【0070】
R1、R2、R3、及びR4は、
【0071】
【化10】

であってもよい。態様によっては、R1及びR3は独立して-CO2R8または-COR8'である。R2及びR4は独立して-CF3または
【0072】
【化11】

であってもよい。態様によっては、R1及びR3は独立して-CO2R8であり、R2及びR4は-CF3である。他の関連する態様では、R1及びR3は独立して-CO2R8であり、R2及びR4は独立して
【0073】
【化12】

である。
【0074】
R1、R2、R3、及びR4が正の電荷を含むとき、当業者は、本化合物が溶液中にある場合には、アニオン性化合物または分子が存在することを直ちに理解するだろう。任意の適用可能なアニオン化合物は、塩化物、フッ化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩、またはリン酸塩などを含む正の電荷の置換基に対して対イオンとして使用することができる分子である。
【0075】
それぞれのR5、R6、R7、R8、R8'、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、及びR24は同一または異なっていてもよく、それぞれ独立して水素、ハロゲン、-CN、-CF3、-OH、-NH2、-COOH、-COOR25、-CH2COOR25、-CH2COOH、非置換若しくは置換アルキル、非置換若しくは置換ヘテロアルキル、非置換若しくは置換シクロアルキル、非置換若しくは置換ヘテロシクロアルキル、非置換若しくは置換アリール、または非置換若しくは置換ヘテロアリールであってもよい。R25は非置換アルキル、たとえばC1-10アルキル(たとえば、-CH3またはC1-5アルキル)である。態様によっては、R5、R6、R7、R8、R8'、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、及びR24はそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、-CN、-CF3、-OH、-NH2、-COOH、-COOR25、-CH2COOR25、-CH2COOH、置換若しくは非置換C1-C10(たとえば、C1-C6)アルキル、置換若しくは非置換2〜10員の(たとえば、2〜6員の)ヘテロアルキル、置換若しくは非置換C3-C8(たとえば、C5-C7)シクロアルキル、置換若しくは非置換3〜8員の(たとえば、3〜6員の)ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換C5-C8(たとえば、C5-C6)アリール、または置換若しくは非置換5〜8員の(たとえば、5〜6員の)ヘテロアリールであってもよい。態様によっては、R5、R6、R7、R8、R8'、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、及びR24の一つ以上は非置換である。一態様において、R5、R6、R7、R8、R8'、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、及びR24は独立して水素または置換若しくは非置換C1-C10(たとえば、C1-C6若しくはC1-C3)アルキルである。
【0076】
一態様において、R5、R6、R7、R8、R8'、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、及びR24は独立して、水素、ハロゲン、-CN、-CF3、-OH、-NH2、-COOH、-COOR25、-CH2COOR25、-CH2COOH、R26-置換若しくは非置換アルキル、R26-置換若しくは非置換ヘテロアルキル、R26-置換若しくは非置換シクロアルキル、R26-置換若しくは非置換ヘテロシクロアルキル、R26-置換若しくは非置換アリール、またはR26-置換若しくは非置換ヘテロアリールであってもよい。R26はハロゲン、-CN、-CF3、-OH、-NH2、-COOH、-COOR25、-CH2COOR25、-CH2COOH、R27-置換若しくは非置換アルキル、R27-置換若しくは非置換ヘテロアルキル、R27-置換若しくは非置換シクロアルキル、R27-置換若しくは非置換ヘテロシクロアルキル、R27-置換若しくは非置換アリール、またはR27-置換若しくは非置換ヘテロアリールである。一態様において、R26はハロゲン、-CN、-CF3、-OH、-NH2、-COOH、R27-置換若しくは非置換C1-C10(たとえば、C1-C6)アルキル、R27-置換若しくは非置換2〜10員の(たとえば、2〜6員の)ヘテロアルキル、R27-置換若しくは非置換C3-C8(たとえば、C5-C7)シクロアルキル、R27-置換若しくは非置換3〜8員の(たとえば、3〜6員の)ヘテロシクロアルキル、R27-置換若しくは非置換C5-C8(たとえば、C5-C6)アリール、またはR27-置換若しくは非置換5〜8員の(たとえば、5〜6員の)ヘテロアリールである。
【0077】
R27はハロゲン、-CN、-CF3、-OH、-NH2、-COOH、-COOR25、-CH2COOR25、-CH2COOH、R28-置換若しくは非置換アルキル、R28-置換若しくは非置換ヘテロアルキル、R28-置換若しくは非置換シクロアルキル、R28-置換若しくは非置換ヘテロシクロアルキル、R28-置換若しくは非置換アリール、またはR28-置換若しくは非置換へテロアリールである。一態様において、R27はハロゲン、-CN、-CF3、-OH、-NH2、-COOH、R28-置換若しくは非置換C1-C10(たとえば、C1-C6)アルキル、R28-置換若しくは非置換2〜10員の(たとえば、2〜6員の)ヘテロアルキル、R28-置換若しくは非置換C3-C8(たとえば、C5-C7)シクロアルキル、R28-置換若しくは非置換3〜8員の(たとえば、3〜6員の)ヘテロシクロアルキル、R28-置換若しくは非置換C5-C8(たとえば、C5-C6)アリール、またはR28-置換若しくは非置換5〜8員の(たとえば、5〜6員の)ヘテロアリールである。R28はハロゲン、-CN、-CF3、-OH、-NH2、-COOH、-COOR25、-CH2COOR25、-CH2COOH、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクロアルキル、非置換アリール、または非置換ヘテロアリールである。
【0078】
一態様において、R26及び/またはR27は、置換基、サイズが限定された置換基または低級置換基で置換されている。別の態様では、R27及びR28は独立してハロゲン、-CN、-CF3、-OH、-NH2、-COOH、-COOR25、-CH2COOR25、-CH2COOH、非置換C1-C10(たとえば、C1-C6)アルキル、非置換2〜10員の(たとえば、2〜6員の)ヘテロアルキル、非置換C3-C8(たとえば、C5-C7)シクロアルキル、非置換3〜8員の(たとえば、3〜6員の)ヘテロシクロアルキル、非置換C5-C8(たとえば、C5-C6)アリール、または非置換5〜8員の(たとえば、5〜6員の)ヘテロアリールである。
【0079】
特定の態様では、それぞれのR5、R6、R7、R8、R8'、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、及びR25は同一または異なっていてもよく、それぞれ独立してアルキルであってもよく、特にC1-20アルキル、特にC1-10アルキル、さらにはC1-4アルキル、さらに特にはメチル、エチル若しくはプロピルであってもよい。
【0080】
態様によっては、R8及びR8'は独立して水素または非置換アルキル(たとえば非置換C1-10アルキル)である。R8'は水素であってもよい。R8はメチルであってもよい。
【0081】
態様によっては、R9は-COOH、-COOR25、-CH2COOR25、または-CH2COOHである。R9は-COOR25または-CH2COOR25であってもよい。特定の態様では、R9は-COOR25である。幾つかの関連する態様では、R25は非置換C1-C10アルキル、たとえばメチルである。
【0082】
より具体的な態様では、R1及びR3はそれぞれ独立して-CO2-CH3、または
【0083】
【化13】

であり、R2及びR4はそれぞれ独立して-CF3
【0084】
【化14】

である。
【0085】
具体的な態様では、本発明の金属ポルフィリン化合物は、以下の式:
【0086】
【化15】

をもつことができる。
【0087】
別の具体的な態様では、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して
【0088】
【化16】

であってもよい。
【0089】
具体的な態様では、本発明の金属ポルフィリン化合物は、式:
【0090】
【化17】

をもつことができる。
【0091】
態様によっては、上記化合物(たとえば、式(I)から(IXI))中で記載されたそれぞれの置換された基は、少なくとも一つの置換基で置換されている。より具体的には、態様によっては、上記化合物(たとえば式(I)から(IX))で記載されたそれぞれの置換アルキル、置換ヘテロアルキル、置換シクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、置換アリール、置換ヘテロアリールは、少なくとも一つの置換基で置換されている。他の態様では、これらの基の少なくとも一つまたは全ては、少なくとも一つのサイズの限定された置換基で置換されている。あるいは、これらの基の少なくとも一つまたは全ては、少なくとも一つの低級置換基で置換されている。
【0092】
上記化合物(たとえば式(I)から(IX))の他の態様では、それぞれの置換若しくは非置換アルキルは、置換若しくは非置換C1-C20アルキルであり、それぞれの置換若しくは非置換ヘテロアルキルは置換若しくは非置換2〜20員のヘテロアルキルであり、それぞれの置換若しくは非置換シクロアルキルは置換若しくは非置換C3-C8シクロアルキルであり、及びそれぞれの置換若しくは非置換ヘテロシクロアルキルは、置換若しくは非置換3〜8員のヘテロシクロアルキルである。
【0093】
態様によっては、それぞれの置換若しくは非置換アルキルは置換若しくは非置換C1-C8アルキルであり、それぞれの置換若しくは非置換ヘテロアルキルは置換若しくは非置換2〜8員のヘテロアルキルであり、それぞれの置換若しくは非置換シクロアルキルは、置換若しくは非置換C5-C7シクロアルキルであり、及びそれぞれの置換若しくは非置換ヘテロシクロアルキルは置換若しくは非置換5〜7員のヘテロシクロアルキルである。
【0094】
金属結合及び金属遊離形の上記化合物は、本方法で使用するのに好適な医薬組成物に配合することができる。そのような組成物としては、医薬的に許容可能なキャリヤ、賦形剤または希釈剤と一緒の活性成分(金属ポルフィリン化合物)を含む。組成物は、たとえば錠剤、カプセルまたは坐剤などの剤形で存在しえる。組成物は、滅菌溶液、たとえば注射(たとえば、皮下、腹腔内若しくは静脈注射)または噴霧に好適な溶液の形態であることも可能である。組成物は、眼科用に適した形状でもありえる。本発明はまた、局所適用用に配合した組成物も含み、そのような組成物はローション、クリーム、ゲルまたは軟膏などの形状をとる。組成物に配合すべき活性成分の濃度は、薬剤、投薬計画及び求められる結果の性質に基づいて選択することができる。本組成物は、リソソームに封入(encapsulate)することもでき、それにより標的化して送達を高めることができる。
【0095】
IV.医薬組成物
態様によっては、金属ポルフィリン化合物は医薬組成物の一部を形成することができる。医薬組成物は、本明細書に開示されるように金属ポルフィリン化合物と、医薬的に許容可能な賦形剤とを含むことができる。「医薬的に許容可能な賦形剤」としては、活性成分と有害に反応しない腸内または非経口投与に好適な、医薬的且つ生理学的に許容可能な、有機または無機キャリヤ物質を包含する。好適な医薬的に許容可能なキャリヤとしては、水、塩溶液(たとえばリンガー液)、アルコール、オイル、ゼラチン及び炭水化物、たとえばラクトース、アミロース若しくはスターチ、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、及びポリビニルピロリドンが挙げられる。そのような製剤は滅菌することができ、所望により活性成分と有害に反応しない助剤、たとえば滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝液、着色料、及び/または芳香族物質などと混合することができる。
【0096】
一態様において、処置化合物(たとえば、セクションIIで述べた金属ポルフィリン化合物または金属ポルフィリン触媒的抗酸化組成物)は医薬組成物の一部分を形成し、ここで前記医薬組成物は、前記処置化合物と医薬的に許容可能な賦形剤とを含む。一態様において、医薬組成物は透過剤(permeabilizer)(たとえば、サリチル酸塩、脂肪酸または金属キレート化剤)を含む。
【0097】
医薬組成物は、腸内、経口、舌下、頬内、非経口、眼球、鼻腔、肺、直腸、膣内、経皮及び局所経路などの任意の投与経路用に配合する(formulate)ことができる。非経口投与としては、静脈、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、幹内(intrastemal)、動脈内注射及び輸液(点滴:infusion)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
医薬組成物は、公知の方法及び賦形剤を使用して、即時放出(immediate release)または放出調節(たとえば、修正(modified)、持続、長期、遅延若しくはパルス放出)用に配合することができる。
【0099】
一態様において、医薬組成物は、局所組成物、注射可能な組成物、吸入剤、徐放性組成物または経口組成物として配合される。処置化合物は好ましくは、たとえば皮下注射などにより非経口投与用に配合される。皮下または別のタイプの投与を用いる場合には、化合物は、これらが持続的作用プロファイルを持つように誘導体化または配合することができる。
【0100】
別の態様では、医薬組成物は、ペプチドミセル、標的化ミセル、分解可能なポリマー剤形、多孔質ミクロスフィア、ポリマー骨格(scaffold)、リポソームまたはヒドロゲルとして配合される。
【0101】
処置化合物は、医薬的に有用な組成物を製造するのに公知の方法に従って配合することができる。代表的な製剤は、任意選択の医薬的に許容可能なキャリヤ、防腐剤、賦形剤または安定剤と共に高純度の水溶液または好適な希釈剤で再構築される安定な凍結乾燥製品であろう(Remington's Pharmaceutical Sciences 第16版(1980))。医薬組成物は、安定性及び投与のために好適なpHを達成するために医薬的に許容可能な緩衝液を含むことができる。
【0102】
非経口投与に関しては、処置化合物は、医薬的に許容可能なキャリヤと共に単位剤形の注射形(溶液、懸濁液、またはエマルション)に配合される。好ましくは、一種以上の医薬的に許容可能な抗菌剤、たとえばフェノール、m-クレゾール及びベンジルアルコールなどを添加することができる。
【0103】
一態様において、一種以上の医薬的に許容可能な塩(たとえば塩化ナトリウム)、糖(マンニトールなど)、または他の賦形剤(たとえばグリセリン)を添加して、イオン強度または等張性(tonicity)を調節することができる。
【0104】
投与すべき本発明の組成物の投薬量は、必要以上の実験をすることなく決定することができ、活性成分の性質(金属結合であるか、金属を含まないかを含む)、投与経路、患者及び達成しようとする結果を含む種々の因子に依存する。IVまたは局所投与すべき模倣薬の好適な投薬量は、約0.01〜50mg/kg/日、好ましくは0.1〜10mg/kg/日、より好ましくは0.1〜6mg/kg/日の範囲と予測することができる。エアロゾル投与に関しては、0.001〜5.0mg/kg/日、好ましくは0.01〜1mg/kg/日の範囲であると予想される。好適な用量は、例えば化合物及び求められる結果で変動する。
【0105】
本発明の方法に従って細胞/組織/臓器を処置するのに使用される溶液中の模倣薬(mimetic presentation)濃度も容易に決定でき、活性成分、細胞/組織/臓器及び求められる効果により変動する。
【0106】
本発明の特定の側面は、以下の非限定的な実施例で詳細に記載することができる。
【実施例】
【0107】
以下の実施例は、本発明の特定の具体的な態様を説明するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0108】
本明細書の態様は、以下の実施例及び詳細なプロトコルにより詳細に説明される。しかしながら実施例は態様を単に説明するためだけのものであり、本明細書に記載の範囲を限定するものではない。本出願にわたって参照された全ての参照文献及び発行された特許及び特許出願の内容は、参照として本明細書に含まれる。
【0109】
実施例1.金属ポルフィリン化合物及び金属ポルフィリン触媒的抗酸化組成物
一つの例示的な方法において、発作及びミトコンドリア機能障害を示す動物モデルを使用した。このモデルは、ミトコンドリア疾患に関連した悲惨なてんかんに対し将来性のある治療として脂質溶解性金属ポルフィリンを評価するのに使用した。マンガンスーパーオキシドジムスターゼ(MnSODまたはSod2)、重要なミトコンドリア抗酸化剤を欠失している突然変異異種交配C57BL6XDBA2F2(B6D2)マウスはそのようなモデルを提供する。近年、新規金属ポルフィリン触媒的抗酸化剤、AEOL11207(Aelus Pharmaceuticals Inc.,Laguna Niguel,CA)の特徴的なin vitro生化学特性及びin vivo神経防護作用があることが実証された。AEOL11207は、出生(postnatal day(PND))5日から開始して毎日皮下(s.c.)注射後、Sod2-/-マウスの行動的発作特徴を弱めることが実証された。この送達法は、モデルが限定されていることと、動物の年齢のため、薬剤の効能を試験するためだけに考案されている。本明細書においては、特定の態様は被験者に経口投与された組成物を包含することを意図する。
【0110】
金属ポルフィリン触媒的抗酸化剤:てんかんの処置に使える可能性のある特徴的な種類の分子。
触媒的抗酸化剤は、スーパーオキシドジムスターゼ及び/またはカタラーゼの小さな分子模倣物であり、過酸化脂質及びペルオキシ亜硝酸の強力な解毒剤でもある。これらは触媒的であり、そして単なるフリーラジカル掃去剤ではないので、これらの化合物は、化学量論的に機能するビタミンEなどの食餌添加物よりもずっと強力な抗酸化剤である。図1は、代表的な金属ポルフィリン触媒的抗酸化剤の典型的な構造を示す(左)。表(差込み図)は、例示試験管SODアッセイを示す。SOD活性の単位は、pH7.8でスーパーオキシドによりチトクロームcの還元を1/2阻害する化合物の量として定義される。aは水溶性を意味する。UD=SODアッセイの障害により測定不能。CAT:クラーク電極により測定されたカタラーゼ活性。TRARS:脂質過酸化アッセイ。
【0111】
金属ポルフィリンの構造及び抗酸化活性:金属ポルフィリン触媒的抗酸化剤は触媒的であり、そして単なるフリーラジカル掃去剤ではないので、これらの化合物は化学量論的に機能するビタミンEなどの食餌添加物よりもずっと強力な抗酸化剤である。マンガンメソ-ポルフィリン触媒的抗酸化剤(たとえば図1参照のこと)は、化学量論量の抗酸化剤のような反応性種に対する広範囲の反応性と内因性抗酸化酵素の触媒的効能とを併せ持つ。さらにこれらの合成化合物は、血液脳関門(BBB)を通るその能力並びに種々の細胞内コンパートメントに対するそれらの利用能(availability)を増加するように化学的に修飾することができる。金属ポルフィリンは、4〜48時間の範囲の血中濃度半減期をもつ。たいていの金属ポルフィリンは広く体内で代謝されず、大部分は尿中に未変化で排泄される。化合物の金属ポルフィリン種は、以前は経口利用能が低いという限定があった。触媒的抗酸化剤の分野で大きな前進は、AEOL11207、脂溶性金属ポルフィリンは、既に同定されていたことであるが、経口投与後に、in vivoで1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)神経毒性を防いだことを示すものであった。この化合物は、グリオキシレート金属ポルフィリンのAEOL112シリーズという金属ポルフィリンの新しい種類に属しており、これは高い脂質溶解性、経口生物学的利用能をもち、BBBを通過するように設計されていた。AEOL112シリーズの数種の化合物は、良好な経口生物学的利用能と長い血中濃度半減期をもつことが示され、慢性疾患を処置するのに優れた候補物質となるはずである。
【0112】
安全性プロフィール:原型的金属ポルフィリン(AEOL10150:図1)は、筋萎縮性側索硬化症患者において第1相試験を完了した。この化合物の広範囲に及ぶ安全試験は、マウス、サル及びラットで完了した。重篤な有害事象は知見されなかった。構造的に関連する化合物、AEOL11207の安全試験は、その効能が動物試験で確立された時点で完了する必要がある。注目すべきは、AEOL11207が二つの変異原性試験(Ame試験及びマウスリンパ腫試験)で陰性であることが知見されたということである。AEOL10150に構造的に類似しているため、重篤な有害事象は予測されない。
【0113】
実施例2.AEOL11207は急性ミトコンドリア機能障害のマウスモデルで発作を減弱する。
別の例示的な実験では、AEOL11207は、急性ミトコンドリア機能障害のマウスモデルで発作を減弱することが知見された。このモデルでは、マンガンスーパーオキシドジムスターゼ(MnSODまたはSod2)、重要なミトコンドリア抗酸化剤を欠失している異種交配C57BL6XDBA2F2(B6D2)変異マウスを使用する。出生後第二週(P14-21)では、B6D2 Sod2-/-マウスは自然発生的強直性間代性発作(tonic-clonic seizure)(たとえば図2を参照されたい)が頻繁に出現し、治療的介入を試験するためのミトコンドリア疾患に関連したてんかんのモデルとして使用することができた。出生後5日でs.c.経路で投与すると、AEOL11207は出生後第二週〜第三週の間、Sod2-/-マウスの行動発作特徴を大きく弱めた(図5を参照されたい)。
【0114】
ついでながらいうと、以前の研究から出生後第二週の間、Sod2-/-マウスで自然発生的発作の発生が報告されていたが、その特徴は同定も定量化もされていなかった。本明細書では、Sod2-/-マウスの毎日のビデオ監視及び発作を記録することによって、出生後の日数により平均化した自然発生的発作数及び持続時間の定量化を、出生後第二週の間で報告する。図2は、出生後第二週の間に報告された、Sod2-/-マウスの毎日のビデオ監視及び発作の記録を使用した出生後の日による発作の数と持続時間の例示的ヒストグラムを示す。バーはそれぞれの出生後の日における平均発作数または持続時間を表す(n=3〜5マウス/日)。
【0115】
実施例3.AEOL11207は血液脳関門(BBB))及び脳ミトコンドリアを貫通する。
別の例示的な方法では、血液脳関門(BBB)及び脳ミトコンドリアを貫通する効率に関してAEOL11207の経口投与を試験した。AEOL11207がBBBを貫通するかどうかを測定するために、AEOL11207を注射した後に予備試験をマウスで実施した。マウスには、1回分の用量の化合物(15mg/kg,p.o. AEOL11207)またはビヒクル(対照)を与えた。注射後様々な時間でマウスをかん流し、脳(大脳皮質)及び血漿をメタノールで抽出し、サンプルを先に記載の通りHPLC法により分析した。この用量及び抽出効率の後の脳中のAEOL11207の予想濃度は、パラコート(PQ+2)誘発細胞障害アッセイをベースとしてこの化合物(〜30-100nM)の保護範囲内である(示されていない)。図3A及び3Bは、s.c.またはp.o.投与後のAEOL11207の血漿及び脳内濃度を示す。図3Bは、s.c.経路を介してAEOL11207投与したマウスのミトコンドリア画分からのAEOL11207回収を示す。これらの結果は、合わせて、経口投与後にBBBを通過し、脳ミトコンドリアを貫通するAEOL11207の能力を示す。
【0116】
図3A−3Bは、s.c.またはp.o.経路で1回分の用量のAEOL11207(15mg/kg)を投与した後の様々な時間点における、C57BL/6マウスの血漿(3A)及び脳(3B)におけるAEOL11207の例示的な濃度を示す。点は平均+S.E.M.を表す。それぞれの点は3〜4匹の動物の平均である。図3Bは、s.c.経路でAEOL11207を投与したマウスのミトコンドリア画分由来のAEOL11207の回収(recovery)を示す。図3Cは、先に記載のようにAEOL11207 15mg/kg s.c.後24時間でのマウス前脳のミトコンドリア画分の450nm、UV検出でHPLCで測定したAEOL11207レベルの例示的なクロマトグラムを示す。ミトコンドリアサンプルからのAEOL11207の回収率は〜98%であると測定された。標準濃度は120nmol/mlであり、サンプルは12pmol/mgプロットである。X軸は応答(nA)を示し、Y軸は時間(分)を示す。この用量及び抽出効率で脳中のAEOL11207の予想濃度は、パラコート(PQ+2)誘発細胞障害アッセイをベースとしてこの化合物(〜30-100nM)の保護範囲内である。AEOL11207の経口投与は、Sod2-/-マウスにおいて酸化的損傷及びミトコンドリア機能障害を減弱する。
【0117】
無細胞系及び単離ミトコンドリアにおいて、AEOL11207は触媒的にミトコンドリアO2-、H2O2及び脂質ペルオキシドを掃去して、ミトコンドリア及び他の細胞成分に対する酸化的ストレスが誘発する損傷の可能性を低下させる。AEOL11207がミトコンドリア機能障害を低下させ、Sod2-/-マウスで重要な生体エネルギーパラメーターを修正するかどうかを測定するために、酸化剤感受性ミトコンドリア酵素、アコニターゼ、及び酸化剤非感受性対照、フマラーゼ、ATP、3-ニトロチロシン(3NT)、タンパク質に対する酸化的損傷のマーカー、ミトコンドリアレドックス状態とナトリウムカリウムATPase(Na+-K+ATPase)の活性を評価する還元(reduced)補酵素A(CoASH)について測定した。AEOL11207は、顕著に、Sod2-/-マウスで観察されたアコニターゼ活性低下、ATPレベル低下、3NTレベル上昇を減弱し、CoASHレベルを減少させ、Na+-K+ATPase活性を低下させた。このことにより、酸化的損傷、ミトコンドリア機能障害及び神経細胞の興奮性を標的化するその能力を確認した。図5A〜5ECは、AEOL 11207(5mg/kg、s.c.、PND5から開始、n=*p<0.05、#p<0.01)によるSod2-/-マウスにおけるアコニターゼ不活化(5A)、ATP減損(depletion)(5B)、3NT形成(4C)、CoASH減損(5D)及び、低Na+-K+ATPase活性(5E)の減弱を示す。
【0118】
これらの典型的な実験から、たとえば以下のことが示される:(1)B6D2 Sod2-/-マウスは、ミトコンドリア機能障害及びてんかんのモデルを提供する;(2)新規親油性金属ポルフィリンを遅延全身投与すると、Sod2-/-マウスにおいてミトコンドリア機能障害、酸化的ストレス及び発作パラメーターを改善する;及び(3)動物研究全体から、AEOL 11207はBBBを貫通し、CNSミトコンドリアに蓄積する。AEOL 11207は、経口活性であり、BBB及び脳ミトコンドリアを貫通し、Sod2-/-マウスにおいてミトコンドリア機能障害から保護する。従って、これらのデータは、この種の化合物の治療開発に関して説得力のある理論的根拠を提供する。
【0119】
側頭葉てんかんのラットモデルにおいてAEOL 11207の効能を示す別の典型的な研究を実施した。側頭葉てんかんのラットモデルは、化学痙攣薬(chemoconvulasant agent)を一回注射することにより開始し、これによりその後数日から数週間にわたって自発的てんかん発作が生じる。ビヒクル、カイニン酸(損傷を開始させるのに使用する化学痙攣薬)、カイニン酸+AEOL 11207及びAEOL 11207を投与したラットの群に、行動的発作及び酸化的ストレスの指数(GSH/GSSG、CoASH/CoASSG)に関して6週間モニターした。AEOL 11207は、カイニン酸の注射(11mg/kg)後6時間から開始して毎日5mg/kgの任意量をs.c.で投与した。両方の群におけるラット全てがカイニン酸注射後にSEを発生し、群の間でSEのどの特徴に関しても差はなかった。動物における慢性発作は、盲検の観察者によりカスタムデザインした観察用ケージ中、1日8時間、6日/週ビデオ記録することによってモニターする(Q-See QD14B、Anaheim、CA)。慢性発作を起こすまでの時間(慢性発作に対する潜在性)、自然発生発作の頻度、重篤度及び持続時間を測定した。表1に示されているように、6週間の間、カイニン酸の群では三分の二が慢性てんかんを発症したのに対し、AEOL 11207で処置したラットの三分の一しか慢性てんかんを発症しなかった。
【0120】
図6は、AEOL 11207がSod2-/-マウスにおいて行動的発作の頻度(6A)及び総数(6B)を減少させたことを示す。ここに表したデータは、P5で開始するSod2-/-マウスに対してAEOL 11207(5mg/kg)を毎日皮下注射すると、第二週の間に行動的発作の頻度が顕著に低下したことを示す(*P<0.05)。
【0121】
材料及び方法:Sod変異マウス:B6D2F2バックグラウンドのSod2-/-マウスは、B6 Sod2-/+の雄とD2野生型雌のマウスを掛け合わせることによって作ったB6D2F1 Sod2-/+マウスから得る。B6D2F1 Sod2-/+の雄と雌を掛け合わせると、〜50%でSod2-/+とそれぞれ25%でSod2+/+マウスとSod2-/-マウスが生まれる。よって同腹の子はそれぞれ通常、2〜3匹のSod2-/-マウスが生まれるので、n=3/時間点を達成するには、10腹の子(5時間点×2経路)を使用し、それには〜5〜10匹のSod-/+雄と20匹の雌(コロニーを開始するのに25〜40匹のF1マウスに〜20匹の野生型D2マウス)が必要になる。全部で〜45から60匹のマウスを使用すると十分な同腹の子が生まれる。動物は、正確な誕生日(P0)を得るために毎日モニターした。子は、分析が完了した後(Aim 1)またはPND5(Aim 2)で、30分間プロテイナーゼK消化、続いて多重PCR増幅及びアガロースゲル電気泳動により得た尾のDNAで遺伝子型を分けた。
【0122】
AEOL 11207測定:AEOL 11207はAEOL 11207に関して先に記載したようにHPLC法により、Sod2-/-及びSod2+/+マウスの血漿及び脳サンプルで測定する。血漿薬剤レベルは、胎盤またはミルクを介する薬剤浸透を確認するために大人のマウス(母親)で測定する。比較のために、AEOL 11207は、PND5で5mg/kg用量でs.c.経路により薬剤を注射したSod-/-マウスの血漿及び脳で測定する。薬剤レベルは、PND6、7、14及び21日で後者の群で測定する。
【0123】
分析:データはたとえば、PKAnalyst(MicroMathソフトウエア)で分析する。
【0124】
本研究は、AEOL 11207のBBB透過性及び経口生物利用能を確認する。本研究はPND1で薬剤レベルを測定することによって妊娠期間に投与されたときに化合物が胎盤関門を通るかどうかと、これが母乳を介して通るかを測定する。
【0125】
効果的なBBB透過性及び蓄積を示す先のデータ及びAEOL 11207の親油性に基づいて、化合物は胎盤を通過し、母乳に蓄積すると予測される。大人のマウスに薬剤投与する二つの経路、即ちs.c.と食餌の間の比較から、食餌の摂取により薬剤レベルに変動があるかを評価することができる。薬剤(10mg/kg)を二回受ける母を介する経口またはs.c.送達の目的は、5mg/kgをs.c.で受ける子と匹敵する薬剤レベルを達成することである。
【0126】
別の戦略:(1)長期投与計画(chronic dosing regimen)で選択された用量を投与された子で毒性が観察されたら、用量(5mg/kg)及び/又は投与頻度を2〜3日に1回に減らすことができる。AEOL 11207の薬物動態学的分析により、十分な脳の濃度を得るために投与を開始する最適時間が明らかになるだろう。
【0127】
s.c.を介してまたは食餌によりAEOL 11207で処置したSod2+/+及びSod2-/-マウスを(1)ミトコンドリア酸化的ストレス/機能障害(3NT、ATP、Na+-K+ATPase、CoASH及びアコニターゼ/フマラーゼ)及び(2)発作パラメーター(24時間ビデオ分析による発作頻度、発作と発作の間の間隔並びに、発作の持続時間)に関して分析する。比較のために、ミトコンドリア機能障害及び発作を、PND5で5mg/kgの用量でs.c.経路で薬剤を注射したSod2-/-マウスの血漿及び脳でも評価した。
【0128】
マウス数:(1)生化学分析:以下の時間点は、ミトコンドリア指数/酸化的ストレス測定のために選択する:PND3、7、21。新生児マウスから得た組織の量が限られているので、それぞれの指数及び時間点でそれぞれマウスが必要である。この目的に関して予測されるマウスの数は、n=4〜6匹/エンドポイント×3エンドポイントで、2遺伝子型=36匹Sod2+/+及び36匹Sod2-/-であった。36匹のSod2-/-マウスを得るために、本出願人はSod2-/+マウスから〜12腹を使用することにした。
(2)発作パラメーター:およそ6腹が必要なこれらの研究に関して、約20から30匹のそれぞれの遺伝子型(Sod2+/+及びSod2-/-)のマウスを予想している。
【0129】
方法:HPLC 3-NTアッセイによる3-ニトロチロシン(3-NT)測定は、文献で既に記載されている方法を使用して、HPLCを装備した電気化学検出器を使用して実施する。電気化学的検出器の電位は、180/240/350/500/600/670/810/830mVに設定する。検体の分離は、TOSOHAAS(Montgomeryville、PA)逆相ODS 80-TM C-18分析カラム(4.6mm×250cm;5μm粒径)で実施する。二成分勾配溶離液システムを使用し、移動相の成分Aは、50mM酢酸ナトリウム、pH3.2から構成され、成分Bは、50mM酢酸ナトリウム及び40%メタノールから構成される。以下の勾配液溶離プロフィールを使用した:0〜25分、100%A;25〜35分、直線傾斜で50%Bへ;35〜40分、定組成50%B;40〜45分、直線傾斜で100%Aへ;45〜50分、定組成(isocratic)100%A、流速0.6ml/分。3-NTは3-NT対チロシンの比として表した。
【0130】
AMP、ADP及びATPの測定:AMP、ADP及びATPのレベルを先に記載の方法に従って258nmに設定したHPLC-UVで定量化する。検体は、5μM、4.6×250cmのC-18逆相カラムで分離する。移動相は、50mM KH2PO4、10%メタノール、3mM TBASから構成され、pH6.0に調節し、流速は0.8ml/分に設定する。
【0131】
アコニターゼ及びフマラーゼ活性アッセイ:アコニターゼ及びフマラーゼ活性は、先に記載のように単離したミトコンドリア画分で測定する。手短に言えば、脳組織を氷冷したミトコンドリア単離緩衝液(70mM蔗糖、210mMマンニトール、5mM TrisHCl、1mM EDTA pH7.4)中、Dounce組織グラインダー(Wheaton、Millville、New Jersey)でホモジェナイズする。ホモジェナイズ後、懸濁液を4℃、800gで10分間遠心分離し、上清を4℃、17,000gで10分間遠心分離する。ペレットをミトコンドリア単離緩衝液で洗浄し、再度4℃、17,000gで10分間遠心分離する。アコニターゼ活性を、0.6mM、MnCl2を含有する50mM TrisHCl、pH7.4中、240nm、25℃でイソクエン酸(isocitrate)からcis-アコニテートの形成をモニターすることにより、先に記載の方法に従って分光光度法で測定する。フマラーゼ活性は、30mMリン酸カルシウム、pH7.4、0.1mM L-リンゴ酸を含有する1ml反応混合物中、240nm、25℃で吸収増加をモニターすることにより測定する。
【0132】
長期ビデオ監視及び発作採点法:P7〜P21の年齢のSod2-/-マウス及び野生型同腹子は、記録可能なDVDに接続したQ-See QD14Bビデオ監視システムを使用して、特別設計したプレキシグラスケージ中で8時間/日、デジタル記録する。DVD記録を保存して、発作の重篤度、持続時間及び頻度の採点法に関して遺伝型及び/または処置に対して左右されない(blind)訓練を受けた観察者によって精査する。発作の重篤度は、以下のスケールを使用して格付けする:1=不動化(immobilization)&凝視(staring)、2=頭をコックリする、時折、前肢の強直間代活動、3=連続する前肢の強直間代活動、4=転倒、走行、及び跳躍を伴う全身性の発作。
【0133】
統計分析:二元配置の分散分析(two-way ANOVA)を使用して、処置と遺伝子型との間の違いを測定する。発作パラメーター間の差に関しては、事後(post-hoc)Neuman-Keul分析とともに一元配置ANOVAを使用する。群測定は、平均±SEMとして表す。差の統計的有意性は、スチューデントt-検定を使用して評価する。有意性のレベルはp<0.05に設定する。
【0134】
長期的に投与した金属ポルフィリンの毒性:本明細書で使用する金属ポルフィリンは、レドックス反応を触媒するために金属中心としてマンガンを含む。一つの可能性としては、これが長期的に存在すると、ポルフィリン環からマンガンが放出されてしまい、マンガンベースの神経毒性が発生するかもしれないということがある。このシナリオは、以下の理由から起こりそうもない:(1)マンガンポルフィリンは非常に安定であり、これらはミリモル濃度のEDTAの存在下でさえもマンガンをキレート化し続けることが知見されている;(2)これらの化合物のうち幾つかは、神経変性のin vitro及びin vivoモデルの両方で使用したときに安全且つ有効であることが知見されている;及び(3)幾つかの追加のグリオキシレート金属ポルフィリンは、AEOL 11207に関する任意の事柄(issue)に打ち勝つためにバックアップ化合物(たとえばAEOL 11209、図1参照)として機能することが可能である。
【0135】
実施例4.AEO 11207はSod2-/-マウスにおいて酸化的損傷及びミトコンドリア機能障害を減弱する。
別の典型的な方法では、AEOL 11207でROSを薬学的に除去することが、MnSODまたはSod2、重要なミトコンドリア抗酸化剤を欠損している変異マウスにおいて、ミトコンドリア酸化的ストレスから特異的に発生するてんかんを抑制したかを測定するために実験研究を実施した(図4及び5参照)。AEOL 11207は血液-脳関門及び脳ミトコンドリアを透過する経口活性金属ポルフィリン触媒的抗酸化剤である。細胞を含まない系及び単離ミトコンドリアでは、AEOL 11207はミトコンドリアO2-、H2O2及び脂質ペルオキシドを触媒的に掃去して、ミトコンドリア及び他の細胞成分に対する酸化的ストレスから誘導される損傷の可能性を低下させる。Sod2-/-マウスは、生後2〜3週生存し、生後2週の間にてんかんを発症する混合バックグラウンドで使用した(たとえばB6D2F2)。従って、これらの長生きしたSod2-/-(B6D2)マウスは、ミトコンドリア疾患に関連したてんかんのモデルを提供し、ここで治療的介入を試験することができる。AEOL 11207がミトコンドリア機能障害を低下させ、重要な生体エネルギーパラメーターを修正するかどうかを測定するために、酸化剤感受性ミトコンドリア内酵素、アコニターゼ及び酸化剤非感受性対照、フマラーゼ;ATP、Na+-K+ATPase活性、及び酸化的ストレスのマーカー、3-ニトロチロシン(3NT)を評価した。AEOL 11207は、酸化的損傷及びミトコンドリア機能障害を標的とするその能力を裏付けして、Sod2-/-マウスで観察されたアコニターゼ活性(示されていない)、ATPレベル、Na+-K+ATPase活性の低下及び3NT形成を顕著に減弱した(図5)。このデータは、AEOL 11207の全身投与により、Sod2-/-マウスにおいてミトコンドリア機能障害、酸化的ストレス及び発作パラメーターを改善することを示す(図5)。共に、これらのデータは、この種の化合物の治療的開発に関して説得力のある理論的根拠を提供する。
【0136】
図6は、5日目、n=4〜16*p<0.05から開始してAEOL 11207(5mg/kg、s.c.)で処置したあと、B6D2F2 Sod2-/-または+/+同腹の子において、行動的発作の頻度、3NT形成、Na+-K+ATPase活性、及びCoASHレベルの減弱を表すヒストグラムである。図5は、先に記載の通りAEOL 11207 15mg/kg s.c.投与後24時間のマウス前脳のミトコンドリア画分において、450nmでHPLC-UVにより測定したAEOL 11207レベルを示すクロマトグラムである。ミトコンドリアサンプルからのAEOL 11207の回収率は〜98%であった。標準濃度は12nmol/mlであり、サンプルは12pmol/mgプロットである。
【0137】
実施例5.AEOL 11207は、大人の動物において後天的てんかんの発症、即ちてんかん発生を阻害する。
別の典型的な実験では、カイニン酸-誘発てんかん発生においてROSの薬理学的除去により阻害があるかどうか試験した。ビヒクル(n=4)、カイニン酸(n=6)、カイニン酸+AEOL 11207(n=6)及びAEOL 11207(n=4)を投与したラットの群を、行動的発作(表1)及び酸化的ストレスの指数(GSH/GSSG、CoASH/CoASSG)に関して6週間モニターした(図6)。
【0138】
AEOL 11207は、カイニン酸(11mg/kg)を注射後6時間から開始して毎日5mg/kg用量をs.c.で投与した。両方の群のラット全てがカイニン酸注射後にSEを発生し、群の間でSEのどの特徴に関しても差はなかった。動物における慢性発作は、盲検の観察者によりカスタムデザインした観察用ケージ中、1日8時間、6日/週ビデオ記録した(Q-See QD14B、Anaheim、CA)。慢性発作を起こすまでの時間(慢性発作に対する潜在性)、自然発生発作の頻度、重篤度及び持続時間は先に記載のように測定した。表1に示されているように、6週間でカイニン酸の群では三分の二が慢性てんかんを発症したのに対し、AEOL 11207で処置したラットの三分の一しか慢性てんかんを発症しなかった。てんかんを発症したカイニン酸+AEOL 11207の群の残りの2匹のラットでは、発作の持続時間は〜15%減少(表1、図6)したが、動物毎の発作回数に全く変化は見られなかった。対照またはAEOL 11207単独の群のラットのどのラットも発作を起こさなかった。さらにCoASH/CoASSG及びGSH/GSSG比は、対照と比較してAEOL 11207処置ラットでは顕著に改善した(図6)。この予備実験は、AEOL11207の潜在的な抗てんかん効果を示唆し、更なる詳細な研究の重要性を強調している。図6及び表1は、カイニン酸-誘発慢性てんかん発症(N=6/群)及び酸化的ストレス(n=4〜6/群)におけるAEOL 11207の効果を示す。
【0139】
【表1】

【0140】
実施例6.親油性金属ポルフィリンによるSod2-/-マウスにおけるてんかん、ミトコンドリア機能障害及びニューロン損傷の処置
てんかんの発作は、遺伝性ミトコンドリア疾患の子供で観察される一般的な特徴である。本研究の目的は、新規親油性金属ポルフィリン抗酸化剤が、ミトコンドリア機能障害及びてんかんのマウスモデルにおいて、行動的発作、ミトコンドリア機能障害、及びニューロン損傷を調節するかどうかを究明することであった。動物モデルは、マンガンスーパーオキシドジムスターゼ(MnSODまたはSod2)、重要なミトコンドリア抗酸化剤を欠失している異種交配C57BL6XDBA2F2(B6D2F2)変異マウスを使用する。出生後第二週から第三週(P14〜P21)において、B6D2F2 Sod2-/-マウスは頻繁に自然発生強直間代性発作を示し、ミトコンドリア疾患に関連したてんかんのモデルを提供した。新しく開発されたグリオキシレートシリーズの金属ポルフィリンは、呼吸している脳ミトコンドリアにおいて内因的に発生した反応性酸素種を触媒的に除去する強い能力を示す。このシリーズにおける強力な親油性金属ポルフィリン、AEOL 11207の効果を、出生後第二週〜第三週の間、ビデオで録画されたSod2-/-マウスの行動的発作特徴(発作回数、頻度、持続時間及び重篤度)で測定した。AEOL 11207で処置したSod2-/-マウスは、行動的発作の総数及び頻度において減少を示したが、発作持続時間や重篤度では減少を示さず、対照に対して平均寿命が顕著に増加した(14.01±3.95日〜20.33±2.00日)。ミトコンドリア酸化的損傷(アコニターゼ不活化、3-ニトロチロシン形成)、細胞抗酸化剤またはその構成要素(グルタチオン、システイン及びアスコルベート)の枯渇、並びに神経細胞の興奮性(ATP、Na+-K+ATPase活性、およびアストロサイトのグルタメートトランスポーター;Glt-1レベル)を制御する生体エネルギー標的の指数は、ビヒクルで処置したSod2-/-マウスと比較してAEOL 11207で処置したSod2-/-マウスの脳では顕著に減弱した。これらの結果は、ミトコンドリア疾患及びてんかんのマウスモデルにおいて、行動的発作、ミトコンドリア機能障害、および神経細胞の興奮性(neuronal excitability)を変えることが知られている生体エネルギーパラメーターを減弱する合成親油性金属ポルフィリンの能力を示している。このデータは、ミトコンドリア酸化的ストレスは、ミトコンドリア疾患に関連したてんかんの処置の新規標的であるかもしれないことを示唆している。
【0141】
てんかんの発作は、遺伝的ミトコンドリア疾患の子供における最も一般的な臨床的特徴である。ミトコンドリア脳症の全身性発作及び部分発作は、ミトコンドリアmtDNA変異から生じるミトコンドリア機能障害によって生じることがある(Shoffnerら、(1990)、Cell 61巻、931〜7ページ;Wallaceら、(1988)、Cell 55巻、601〜10ページ)。ミトコンドリア機能障害は、てんかんの発作の重要な生化学的な引き金であるかもしれないことが示唆されてきた(Kunz、W.S.(2002)、Curr Opin Neurol 15巻、179〜84頁;Patel,M、(2004)、Free Radic Biol Med 37巻、1951〜62頁)。この文献及び他の研究室の結果から、ミトコンドリア酸化的ストレス及び発生した機能障害は、脳をてんかんの発作により影響されやすくするかもしれないことを示唆している(Liangら、(2000)、Neuroscience 101巻、563〜70頁;Liang&Patel、(2004)、Free Radic Biol Med 36巻、542〜54頁;Kudinら、(2002)、Eur J Neurosci 15巻、1105〜14頁)。ミトコンドリアは、細胞ATP産生、アポトーシス性/ネクローシス性細胞死の制御、反応性酸素種(ROS)形成及び神経伝達物質の生合成を含む幾つかの重要な機能をもつ。これらの重要なミトコンドリア機能障害のどれが、ミトコンドリア疾患に関連する高い発作感受性の一因となっているかは知られていない。さらに、ミトコンドリア機能障害は新生児低酸素症及び外傷などの様々な神経障害の結果であり、これらが小児期の発作の危険因子であるのは公知であり、このことはミトコンドリア機能障害はそれ自体がてんかん発生に寄与する共通経路である可能性を示している。ミトコンドリア機能(障害)の分子及び細胞生物学の理解の進歩により、小児期てんかんなどの神経疾患の予防及び処置に新しいアプローチを導くかもしれない。
【0142】
ミトコンドリア疾患におけるてんかんの原理を理解するには、ミトコンドリア機能障害によりてんかん発作を起こす動物モデルを開発するのが有用であり、それによって、ミトコンドリア疾患に関連する悲惨な小児期てんかんの潜在的な治療を評価するための有益なツールを提供する。マンガンスーパーオキシドジムスターゼ(MnSODまたはSod2)、重要なミトコンドリア抗酸化剤、を欠失する変異マウスは、そのようなモデルを提供する。ミトコンドリア疾患は、数種のバックグラウンド系統(background strain)で作製したSod2欠失マウスで特徴付けられてきた。C57B6バックグラウンド(B6 Sod2-/-)から繁殖したSod2-/-マウスは胚性致死であるが、CD-1 Sod2-/-マウスは発生し、生後約8〜10日生存する(Melovら、(1999)、Proc Natl Acad Sci USA、96巻、846〜51頁)。近年、混合バックグラウンド(C57BL/6JX DBA/2J)由来の第一世代Sod2-/-変異マウス(B6D2F1)が作製され、これは薬理学的介入なしに約3週間生存する(Lynnら、(2005)、Free Radic Biol Med 38巻、817〜28頁)。生後第二週から第三週(P14〜P21)、B6D2F1及びB6D2F2 Sod2-/-マウスは、自然発生的強直間代性発作の頻繁な発現(episode)を示す(Lynnら)。従って、交雑B6D2 Sod2-/-マウスの寿命が長くなると、治療的介入を試験することができるミトコンドリア疾患に関連したてんかんモデルを提供する。
【0143】
金属ポルフィリン触媒的抗酸化剤は、スーパーオキシドジムスターゼ及び/またはカタラーゼの小さな分子模倣体であり、脂質ペルオキシド及びペルオキシ亜硝酸の重要な解毒剤(detoxifier)でもある(Day,B.J.(2004)、Drug Discov Today 9巻、557〜66頁)。これらは触媒的であり、単なるフリーラジカル掃去剤ではないので、これらの化合物は、化学量論的に働くビタミンEなどの食品添加剤よりもずっと強力な抗酸化剤である。マンガンメソポルフィリン触媒的抗酸化剤は、化学量論的抗酸化剤のような反応種に対する広範な反応性と、内因性抗酸化剤酵素の触媒的効能とを兼ね備える。さらに、これらの合成化合物は、血液脳関門(BBB)を通る能力、並びに様々な細胞内コンパートメントに対する利用能を高めるように化学的に修飾することができる。金属ポルフィリン種の化合物は以前は、BBB透過性が低いという制限があった。CD-1バックグラウンドで短命のSod2-/-マウスをマンガンテトラキス5,10,15,20…ポルフィリン(MnTBAP)で処置すると、心筋症を改善し、神経変性は改善しない(Melovら)が、EUK8またはEUK134は海綿状脳症及び神経変性を改善した(Melovら、1999年)。触媒的抗酸化剤の分野での大きな前進は、AEOL 11207、親油性金属ポルフィリンが、経口投与後に1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)神経毒性からin vivoで守ったという証明であった(Melovら、(1999)、Proc Natl Acad Sci USA、96巻、846〜51頁;Lynnら、(2005)、Free Radic Biol Med、38巻、817〜28頁)。この化合物は新しい種類の金属ポルフィリン、金属ポルフィリンのAEOL 112シリーズに属し(Trovaら、(2003)、Bioorganic&Medicinal Chemistry、11巻、2695〜707頁)、これはより高い脂質溶解性、経口のバイオアベイラビリティを高め、BBBを通るように設計されていた。本研究の目的は、B6D2F2 Sod2-/-マウスモデルにおいてミトコンドリア機能障害及び発作を特徴付け、AEOL 11207、親油性金属ポルフィリン抗酸化剤のてんかんにおける効果及び急性ミトコンドリア機能障害における能力を決定することであった。
【0144】
結果
AEOL 11207脳レベル及び抗酸化剤活性:新生児マウスにおけるAEOL 11207のバイオアベイラビリティを決定するために、本出願人は、5mg/kgの一回分の投与量をs.c.で投与した処置の24時間後、マウス前脳ホモジネート中のAEOL 11207濃度を測定した。マウス前脳におけるAEOL11207濃度は〜30nMであり、サンプルからのその回収率は〜98%と決定した。AEOL 11207処置が脳ミトコンドリアにおいて抗酸化活性を高めたかを測定するために、本出願人は、ビヒクルまたはAEOL 11207を注射した15〜16日齢のマウス前脳由来のミトコンドリア画分中のSOD2活性を測定した。AEOL 11207処置を受けているSod2-/-マウスにおけるミトコンドリアSOD活性の兆候であるシアン化物非感受性SOD活性は、Sod2+/+マウス(1.56±0.17単位/mgタンパク質、平均±S.E.M、n=6)と比較して、〜40%であった(0.62±0.07単位/mgタンパク質、平均±S.E.M、n=6)。処置にかかわらず、Sod2-/-マウスにおいてウエスタンブロット分析により検出可能なSOD2タンパク質バンドはなかった(データは示されていない)。
【0145】
寿命及び発作:B6D2F1 Sod2-/-マウスは、平均して14.42±0.44日(n=73)の寿命であり、これは先に報告されている結果と似ている(Huangら、(2001)、Free Radic Biol Med 31巻、1101〜1110頁)。毎日AEOL 11207(5mg/kg)で処置したSod2-/-マウスは、ビヒクルで処置したSod2-/-マウスと比較して平均寿命が20.383±0.43日(n=21)と顕著に増加する。生存曲線の顕著な特徴は、AEOL 11207で処置したSod2-/-マウスの寿命は2週間を超過する割合が大きく増加したということである。ビヒクル処置Sod2-/-マウスの〜48%だけが15日齢を超えて生存したが、AEOL 11207で処置したSod2-/-マウスの全てが15日齢を超えて生存した(図7参照)。毎日AEOL 11207処置(2.5mg/kg)したものは、平均寿命において顕著な増加はなかった(データは示されていない)。ビヒクル処置Sod2-/-マウス由来の自然発生行動的発作の平均持続時間は、16〜20日齢で時間依存性で増加し、生後20日では大きく増加した(図8A参照)。毎日の観察をベースとして、AEOL 11207処置Sod2-/-マウスでは自然発生的強直間代性発作は37%であったのに対し、ビヒクル処置Sod2-/-マウス全てが生後二週間目(P15〜P20)から自然発生的強直間代性発作を頻繁に示した(補足ビデオ参照)。AEOL 11207処置Sod2-/-マウスは、自然発生的発作の頻度及び総数において低下を示したが、発作持続時間にも重篤度にも顕著な変化はなかった(図8B、C、D)。同一用量のAEOL 11207で処置した野生型マウスは、処置20日以下でも全く悪影響も死亡率も示さなかった。
【0146】
病理組織分析:神経学的症状に関連する病理学的損傷を決定するために、P15〜16でSod2-/-マウス脳由来の一連の冠状切片(serial coronal section)をH&E及びフルオロ-ジェイドB染色で調べた。H&E染色によっては野生型動物のどの脳領域でも神経学的損傷は観察されなかった(図9、パネル1、A)。生後寿命第二週を超えて自然発生的強直間代性発作の頻繁な発現と組み合わさって、B6D2F1バックグラウンドから繁殖させたSod2-/-マウスは、大脳皮質の領域、特に頭頂葉皮質に「空胞変性(vacuolar degenaration)」を生じ(図9、パネル1、B)、前頭皮質及び梨状皮質、脳幹、視床、並びに海馬の錐体層でも生じた。空胞(vacuole)は4〜40μmであり、ニューロン及び血管などの隣接構造に迫っていた。これらの神経病理学的結果は、ミトコンドリア脳症(海綿状脳症)の患者で同定されたものと一致しており(Harperら、(Oxford University Press,New York),第10巻)、先の実験からの知見とも一致している(Lynnら、(2005)、Free Radic Biol Med 38巻、817〜28頁;Melovら、(2001)、J Neurosci 21巻、8348〜53頁)。空胞サイズ及び数などの病理組織的損傷は、AEOL 11207処置により減少した(図9、パネル1、C)。病理学的損傷におけるAEOL 11207の神経保護効果を定量化するために、フルオロ-ジェイドB染色、神経細胞体及び突起(process)の変性を評価する感受性マーカー(Hopkinsら、(2000)、Brain Res 864巻、69〜80頁)を実施した。フルオロ-ジェイドBは、銀染色法よりも神経変性のより高感度で、信頼性が高く且つ確実なマーカーであることが判明した(Schmuedら、(1997)、Brain Res 751巻、37〜46頁;Schmued&Hopkins(2000)、Brain Res 874巻、123〜30頁)。神経変性の兆候である顕著なフルオロ-ジェイドB染色は、対照動物のどの脳領域でも観察されなかった(図9、パネル1、D)。しかしながら、顕著な染色(変性)が、大脳皮質の領域、主に頭頂葉皮質で細胞体及び細胞末端(cell terminal)で観察された(図9、パネル1、E)。ビヒクル処置と比較して神経細胞の変性に対し顕著な保護が、AEOL 11207処置群で観察された(図9、パネル1、3F)。対照群と比較して、Image Jにより定量化された相対蛍光密度はSod2-/-マウスの頭頂葉皮質で〜225%増加し、ビヒクル処置と比較してAEOL 11207投与により顕著に〜50%減少した(図9、パネル2)。
【0147】
ミトコンドリア酸化的ストレス産生:
酸化的ストレスがミトコンドリア画分で増加したかを測定するために、15〜16日齢のSod2-/-マウス前脳でCoASH、CoASSG、アコニターゼ、アスコルビン酸、システイン、メチオニン及び3-NTレベルを調べた。GSHは、組織及び脳で最も豊富なチオール含有抗酸化剤であり(Meister&Anderson、(1983)、Annu Rev Biochem 52巻、711〜60頁)、酸化的損傷から保護する際に重要な役割を果たす。GSHの減少は、多くの急性及び慢性ニューロン疾患において示されていた(Simsら、(2004)、J Bioenerg Biomember 36巻、329〜33頁;Liuら、(2004)、Ann N Y Acad Sci 1019巻、346〜9頁;Perryら、(1982)、Neurosci Lett 33巻、305〜10頁;Liang&Patel、(2006)、Free Radic Biol Med 40巻、316〜22頁)。CoASH及びCoASSGは主に、ミトコンドリア内に区分化され、チオールをGSH及びGSSGと交換し、無傷組織中での測定から、細胞下分画単離と関連するGSH及びGSSGの人為的結果の変化を克服するためにミトコンドリアでのレドックス状態の信頼できる評価を提供する(Liang&Patel、(2006)、Free Radic Biol Med 40巻、316〜22頁;O'Donovanら、(2002)、Pediatr Res 51巻、346〜53頁)。CoASHレベルは〜50%に低下し、CoASSGは〜210%に増加して、Sod2-/-マウス前脳における対照の18%に低下したCoASH/CoASSG比となった(図10A)。GSHレベルはSod2-/-マウスの前脳サイトゾル画分では変化がなかった(データは示されていない)。ミトコンドリアグルタチオンプールは、細胞質プールと比較して毒性発作(toxic insult)後の細胞の生存を維持するのにずっと重要な役割を果たすことが示唆された(Meredith&Reed、(1982)、J Biol Chem 257巻、3747〜53頁)。アコニターゼは、スーパーオキシドラジカル及びペルオキシ亜硝酸不活化に対して非常に感受性であると報告されてきた(Gardner&Fridovich、(1992)、J Biol Chem 267巻、8757〜63頁;Patelら、(1996)、Neuron 16巻、345〜55頁;Gardnerら、(1997)、J Biol Chem 272巻、25071〜6頁)。ミトコンドリア内でのアコニターゼ活性は、対照と比較して65%に大きく減少し(図10B)、これは先に報告された結果と一致する(Melovら、(1999)、Proc Natl Acad Sci USA 96巻、846〜51頁)。対照的に、サイトゾル中のアコニターゼ活性及びミトコンドリア中のフマラーゼは、Sod2-/-マウスの前脳で大きな減少は示さなかった(データは示されていない)。システインとメチオニンはいずれも、抗酸化機能をもつ硫黄含有アミノ酸であり、ROSの形の殆ど全てにより酸化に対して感受性である(Metayerら、(2008)、J Nutr Biochem 19巻、207〜15頁)。システイン及びメチオニンレベルは、対照と比較してSod2-/-マウスの前脳ミトコンドリア画分で〜38%及び43%減少した(図10C及びD)。3-NTは、ニトロ化酸化剤との反応後、タンパク質中の遊離ニトロチロシン残基の指標である。ペルオキシ亜硝酸(ONOO-)、NO及びスーパーオキシドアニオンラジカルの反応産物は、in vivoでの生理学的及び病理学的事象においてチロシンニトロ化に対する主な供給源且つ主な寄与者であろうことが示された(Sawaら、(2000)、J Biol Chem 275巻、32467〜74頁)。チロシル残基のニトロ化による3-NT形成は、in vitro及びin vivoの両方でOONO-産生のこれまでにもよく書かれているマーカーであった(Beckmanら、(1994)、Methods Enzymol 233巻、229〜40頁)。3-NTの濃度は、対照と比較してSod2-/-マウスの前脳ミトコンドリア画分では15倍に顕著に増加し(図10E)、このことはONOO-産生がSOD2非存在下では大きく増幅されたことを示唆しており、これはスーパーオキシドラジカル産生が増加したことによる可能性が高い。OONO-の直接掃去によりAEOL 11207による低3NTレベルとなったかを調べるために、本出願人は、ジヒドロローダミン-123のONOO-誘発酸化を阻害するその能力を調べた。AEOL 11207のIC50は3.7μMであり、これは測定した脳濃度(〜30nM)よりも〜100倍高く、この保護効果はONOO-の直接掃去によらないのかもしれない。
【0148】
アスコルビン酸、内因性抗酸化剤は、Sod2-/-マウスの前脳で変化を示さなかった(データは示されていない)。我々が知る限りでは、CoASH、CoASSG、システイン、メチオニン及び3-NTに関する結果は、Sod2-/-マウスでは以前には報告されていなかった。AEOL 11207を投与すると、アコニターゼ、CoASH、システイン、メチオニンにおけるMnSOD欠損-誘発低下を顕著に弱め、CoASSG及び3-NTを増加させた(図10A、B、C及びD)。
【0149】
グルタミン酸トランスポーター発現:アストログリアグルタミン酸トランスポーター、EAAT2(Glt-1)は、大部分の高親和性グルタミン酸取り込みの原因となるので、興奮毒性への到達からシナプス間隙グルタミン酸を保持することが示されてきた(Suchakら、(2003)、J Neurochem 84巻、522〜32頁)。ミトコンドリア機能障害のメカニズムが発作感受性を高めるかを決定するために、Sod2-/-マウスにおいてEAAT2(Glt-1)の発現を試験した。本研究において、グリアトランスポーター(glial transporter:GLT-1)の発現は、その対照と比較してSod2-/-マウスの海馬で50%以上大きく低下した。AEOL 11207処置により、Sod2-/-マウスのGLT1発現での低下を弱めた(図11)。
【0150】
ATP産生及びNa+、K+ ATPase活性:ミトコンドリアの主な機能の一つはATPを合成生することである。その産生の測定は、特に、解糖が他の臓器よりもずっと少ないATP産生を提供する脳では、ミトコンドリア機能を評価する優れたプロセスである。ATPレベルは、対照と比較してSod2-/-マウスの前脳ホモジネートでは顕著に70%減少する。AEOL 11207投与により、Sod2-/-マウスの前脳ホモジネート中のATP欠乏を50%弱めた(図12A)。Na+K+-ATPase(EC3.6.3.9)は、神経細胞の興奮性を調節するためにナトリウムとカリウムイオンの能動輸送を通してニューロン膜電位を維持する膜酵素である。ATP欠乏及び高い酸化的ストレスの条件下で酵素活性をさらに測定するために、その活性を評価した。Na+K+-ATPaseレベルは、対照と比較してSod2-/-マウスの前脳組織ホモジネートで顕著に42%低下した。AEOL 11207を投与すると、酵素活性を顕著に復活させた(図12B)。
【0151】
考察:本研究において、本出願人は、てんかんの発作が顕著であるミトコンドリア機能不全のマウスモデルと、親油性金属ポルフィリン触媒的抗酸化剤による発作及びミトコンドリア機能不全の軽減とを特徴付けした。本研究において、Sod2-/-マウスは、ミトコンドリア機能不全の(単数または複数の)メカニズムがてんかんに対する感受性を強めることを研究するためのモデルを提供する。触媒的抗酸化剤、酸化的ストレスから生じるミトコンドリア機能不全から保護する金属ポルフィリンAEOL 11207は、発作の総数、頻度及び持続時間を大きく低下させる。
【0152】
本研究において、本出願人の結果から、Sod2-/-マウスの前脳ミトコンドリア画分でのアコニターゼ活性が大きく低下することが判明した。複合体活性が続いて失われて、電子伝達系(ETC)を介して低下した電子の流れにより、ATP合成が低下する。さらに、アコニターゼは、ATPを合成するためにETCに対して還元型のNADH及びFADHを提供するトリカルボン酸サイクルの最も重要な成分の一つである。Sod2-/-マウスの前脳で顕著にATPが欠乏するのは、複合体とアコニターゼ活性が両方とも低下したことによるのかもしれない。
【0153】
本出願人の先の研究から、グリア(GLT-1及びGLAST)ではあるが、一つのニューロン(EAAC-1)トランスポーターではない発現はその年齢を符合させた野生型対照と比較して高齢Sod2-/+マウスでは減少したことを知見した(Liang&Patel、(2004)、Free Radic Biol Med 36巻、542〜54頁)。GLT-1及びGLASTの低い発現は、遺伝的欠損てんかんのラット皮質(Dutuitら、(2002)、J Neurochem 80巻、1029〜38頁)及びてんかんELマウスの海馬(Ingramら、(2001)、J Neurochem 79巻、564〜75頁)でも知見された。グルタミン酸トランスポーターの機能不全がてんかん発症の一因となることが強く示される。多くの証拠から、グルタミン酸取り込みは、厳密にエネルギー供給依存性の細胞過程であり、ミトコンドリア呼吸鎖の欠陥はグルタミン酸輸送の減少を誘発しえること(Danbolt.N.C.(2001)、Prog Neurobiol 65巻、1〜105頁)、MELAS(ミトコンドリアミオパシー、脳症、乳酸アシドーシス及び脳卒中様発作)は、ロイシンのトランスファーRNA(UUR)をコードするA3243GミトコンドリアDNA(mtDNA)変異と一般に関連していることが判明した。DiFrancesco及び共同研究者らは、グルタミン酸輸送の欠陥を誘導するA3243G変異と、MELASニューロンにおけるミトコンドリアATP欠乏(ATP depletion)との間の高度な関係(DiFrancescoら、(2008)、Exp Neurol 212巻、152〜6頁)を知見したが、そのメカニズムはまだ議論の余地がある。
【0154】
Na+、K+-ATPaseは、血漿膜電位をわたる電気化学勾配の保持並びに中枢神経系での神経伝達物質の放出及び取り込みの調節で重要な役割を果たす(Stahl&Harris(1986)、Adv Neurol 44巻、681〜93頁)。Na+、K+-ATPase活性を阻害すると、脳切片へのCa2+エントリー(Fujisawaら、(1965)、Jpn J Pharmacol 15巻、327〜34頁)及びラット脊髄へのグルタミン酸塩放出を増加させ(Li,S.&Stys,P.K.(2001) Neuroscience 107、675〜83頁)、マウスで電気記録的に記録される発作を生じる(Jammeら、(1995)、Neuroreport 7巻、333〜7頁)ことが示された。てんかん患者の脳の検視ではNa+、K+-ATPase活性は低く(Grisar,T.(1984)、Ann Neurol 16巻、補遺、S128〜34頁)、酵素α-サブユニット遺伝子での変異はヒトではてんかんと関係することが知見された(Jurkat-Rottら、(2004)、Neurology、62巻、1857〜61頁)。結果によっては、Na+、K+-ATPase活性とけいれん性発作の持続時間との間には高い相関関係があることが示されている(Souzaら、(2009)、Epilepsia 50巻、811〜23頁;Figheraら、(2006)、Neurobiol Dis 22巻、611〜23頁)。近年、研究結果から、脳におけるグルタミン酸の取り込みは、イオン勾配を介するNa+、K+-ATPaseで想定される間接的な依存に加えて、Na+、K+-ATPaseの状態及び、タンパク質-タンパク質相互作用を介するNa+、K+-ATPaseの直接的な制御下におけるグルタミン酸トランスポーター活性により正確に制御されることが暗示されている。この研究は、グルタミン酸トランスポーター及びNa+、K+-ATPaseは、同一巨大分子複合体の一部であり、且つグルタミン酸塩作動性の神経伝達を制御するための機能単位として機能することを示している(Roseら、(2009)、J Neurosci 29巻、8143〜55頁)。Na+、K+-ATPaseは脳内に高濃度で存在し、その活性がATP供給に完全に依存する臓器中で産生されるATPの40〜50%を消費する(Erecinska&Silver (1994)、Prog Neurobiol 43巻、37〜71頁)。てんかんを誘発するミトコンドリア機能障害の正確なメカニズムはまだ不明であるものの、本出願人の結果は、ミトコンドリア機能障害により生じた非常に低いNa+、K+-ATPase活性がATP欠乏を誘発して、グルタミン酸トランスポーターのダウンレギュレーションを引き起こし、これがてんかん感受性を高める最も重要な原因の一つであるかもしれないことを提案している。またNa+、K+-ATPaseとグルタミン酸トランスポーターは両方とも-SH含有タンパク質であり、フリーラジカル損傷に対して感受性が高いことを示す証拠もある(Jammeら、(1995)、Neuroreport 7巻、333〜7頁;Lees,G.J. (1993) Neuroscience 54巻、287〜322頁;Trottiら、(1998)、Trends Pharmacol Sci 19巻、328〜34頁)。従って、この研究の我々の結果からサイトゾルでは顕著なROS産生増加は知見されなかったが、ROSは酵素活性及びトランスポーターの減少で重要な役割を果たしているかもしれない(Tin-Ting Wangのグループも、サイトゾルでROSの顕著な産生増加を知見していなかった)。
【0155】
Sod2変異体から得られるミトコンドリア脳症の病理学的損傷は、ミトコンドリアDNA変異体によるものと同じであり、このことはミトコンドリア機能障害の病理は、主なmtDNA変異により誘発されるか、これらの因子が二次性であるかにかかわらず、共通であり得ることを示している。
【0156】
材料及び方法
動物:動物研究は、アメリカ国立衛生研究所の実験動物の管理及び使用(NIH刊行物第80-23号)に従って実施した。全ての手順は、米国実験動物飼育公認協会により正式に認可を受けたコロラド大学デンバー校(University of Clorado Denver:UCD)の実験動物委員会(IACUC)により承認された。変異マウスは、正確な誕生日と死亡日データを得るために毎日モニターした。子マウスは、母親が拒否しないようにP5前には間引きも触れもしなかった。子マウスは先に記載のようにPCRによりP5に遺伝子型解析にかけた(Liら、(1995)、Nature Genet 11巻、376〜381頁)。
【0157】
金属ポルフィリン(AEOL 11207)投与:B6D2F1 Sod2-/-マウス及びその野生型の同腹子(対照マウス)は、死亡または犠牲にするまで、5日齢で開始して毎日AEOL 11207(5mg/kg)またはビヒクルを皮下(s.c.)注射して処置した。AEOL 11207はジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して、滅菌リン酸塩緩衝化食塩水(PBS)で希釈して、所望の終濃度(1%DMSO)にした。対照動物には、1%DMSOを含有する滅菌PBSを注射した。動物は4つの個別の群に分割した:(1)対照マウス+ビヒクル;(2)B6D2F1 Sod2-/-マウス+ビヒクル;(3)対照マウス+AEOL 11207;(4)B6D2F1 Sod2-/-マウス+AEOL 11207。処置及び未処置群マウスは、病理学及び生化学アッセイ用に15から16日齢で、または生存及び発作挙動評価に関しては死ぬまでに犠牲にした。
【0158】
行動的発作の評価:ビヒクルかAEOL 11207処置を受けた正と確認された(positively confirmed)P15〜24日齢のSod2-/-マウスを、カスタムデザインした観察用ケージ中、1日最低8時間、ビデオ録画した(Q-See QD14B、Anaheim、CA)。離乳期間(P15〜18)の間、マウスはそれぞれの母親の存在下で記録し、その後は個別に記録した。ビデオはデジタル録画(Panasonic DMR-ES15)し、処置に対して盲険の観察者によって、発作の回数、持続時間、頻度及び重篤度の観察及び定量化に関してDVD-Rに保存した。発作重篤度は以下のスケールに従って採点した:1=不動化(immobilization)&凝視(staring)、2=頭をコックリする、振る、3=前肢の強直/間代活動、4=転倒、走行、及び跳躍を伴う連続する前肢の強直/間代活動。Sod2-/-マウスには異常歩行及び不自然な姿勢(posturing)があるので、スコア>3の自然発生的な運動発作だけを群間の比較に含めた。採点及び分析は、遺伝子型及び処置に対して盲険の調査員により実施した。
【0159】
金属ポルフィリンレベルの測定:AEOL 11207は、前記の方法によりHPLC-UVにより測定した(Liangら、(2007)、J Neurosci 27巻、4326〜33頁)。
【0160】
SOD2活性アッセイ:SOD2活性は、Misra及びFridovich(1972)により記載のようにアドレノクロムアッセイにより脳由来のSod2変異マウスミトコンドリア画分中で測定した(Misra&Fridovich、(1972)、J Biol Chem 247、3170〜3175頁)。SODの0.3mMエピネフリンの自動酸化を阻害する能力は、50mM炭酸ナトリウム緩衝液中、pH10.2、30℃で480nmで測定した。シアン化ナトリウム(5mM)を使用して、SOD2活性を識別した。
【0161】
金属ポルフィリンによるジヒドロローダミン-123阻害のペルオキシ亜硝酸誘導酸化の測定:ジヒドロローダミン-123のローダミン-123へのペルオキシ亜硝酸-依存性酸化は、先に記載の方法をベースとして測定する(Kooyら、(1994)、Free Radic Biol Med 16巻、149〜56頁;Szaboら、(1996)、FEBS Lett 381巻、82〜6頁)。手短に言えば、ペルオキシ亜硝酸(Canmy Inc.)を1μMで金属ポルフィリン(10nM-100μM)の存在下または非存在下で、10μMジヒドロローダミン123(Molecular Probes)を含むpH7.4に緩衝させた0.1Mリン酸緩衝液に添加した。室温で10分間インキュベートした後、ローダミン123の蛍光を蛍光光度計(Perkin-Elmer、Norwalk、CT)を使用して、励起波長500nm、発光波長536nmで測定した。
【0162】
組織化学分析:マウスは15〜16日齢で犠牲にして、脳パラフィン切片(10μm)は冠状に切断して、以下の会社のプロトコルに従いヘマトキシリン-エオシン(H&E)染色した(Sigma、St.Louis、MO)。フルオロ-ジェイドB(Histo-Chem Inc.,Jefferson,AR)染色は先に記載の方法に従った(Hopkinsら、(2000)、Brain Res 864巻、69〜80頁;Liangら、(2008)、J Neurosci 28巻、11550〜6頁)。画像は、落射蛍光光学(Nikon Inc., Melville,NY)を装備したNikon Optiphot-2 80i顕微鏡を使用して捕捉した。所与の領域のフルオロ-ジェイドB陽性シグナルは、各動物の両方の脳半球からの頭頂葉皮質中100μm離れた三つの切片で、Image J(National Institutes of Health,Bethesda,MD)、オープンソース画像操作ツール(open source image manipulation tool)で評価した。蛍光相対密度の平均は、対照の割合として表した。
【0163】
単離ミトコンドリア画分:ミトコンドリアは、先に記載の方法に従ってマウスの前脳から単離した(Liang&Patel、(2006)、Free Radic Biol Med 40巻、316〜22頁)。手短に言えば、前脳は、ミトコンドリア単離緩衝液(70mM蔗糖、210mMマンニトール、5mM Tris HCl、1mM EDTA;pH7.4)中、ダウンス組織粉砕機(Wheaton、Millville、NJ)でホモジナイズした。懸濁液を800g、4℃で10分間、遠心分離にかけた。上清を13000g、4℃で10分間、遠心分離にかけ、ペレットをミトコンドリア単離緩衝液で洗浄し、13000g、4℃で10分間遠心分離にかけて、粗なミトコンドリア画分を得た。ミトコンドリア画分の純度は、ミトコンドリア及びサイトゾル画分でチトクロームcオキシダーゼ(COX)(EC1.9.3.1)サブユニットIV及び乳酸塩デヒドロゲナーゼ(LDH)(EC1.1.1.27)の免疫ブロット法により確認した。サイトゾル画分ではミトコンドリア汚染は全くなく、ミトコンドリア画分では約5〜10%の細胞質汚染がある(Liang&Patel、(2006)、Free Radi Biol Med 40巻、316〜22頁)。
【0164】
アコニターゼ及びフマラーゼ活性アッセイ:アコニターゼ及びフマラーゼ活性は、先に記載の方法の通りにミトコンドリア画分で測定する(Patelら、(1996)、Neuron16巻、345〜55頁)。
【0165】
HPLCによるメタボロミクスの測定:アスコルビン酸塩、システイン、グルタチオン(GSH)、グルタチオンジスルフィド(GSSG)、メチオニン、チロシン及び3-ニトロチロシン(3-NT)アッセイは、文献で既に記載の通りに8つの電気化学検出器セルを備えたESA(Chelmford、MA)5600 CoulArray HPLCで実施した(Liangら、(2007)、J Neurosci 27巻、4326〜33頁;Bealら、(1990)、J Neurochem 55巻、1327〜39頁;Hensleyら、(1998)、J Neurosci 18巻、8126〜32頁)。電気化学検出器の電位は、0/150/300/450/570/690/780/850mVに設定する。検体分離は、TOSOHAAS(Montgomeryville,PA)逆相ODS 80-TM C-18分析カラム(4.6mm×250cm;5μm粒径)で実施する。二成分勾配溶離液システムを使用し、移動相の成分Aは、50mM NaH2PO4、pH3.2から構成され、成分Bは、50mM NaH2PO4及び40%メタノールpH3.2から構成される。以下の勾配溶離プロフィールを使用した:0〜25分、100%A;25〜35分、直線傾斜で50%Bへ;35〜40分、定組成50%B;40〜45分、直線傾斜で100%Aへ;45〜50分、定組成100%A、流速0.6ml/分。前脳から調製したサンプルは、氷冷0.1M PCA中で超音波処理し、16000g、4℃で10分間遠心分離にかけた。上清のアリコート(50μl)をHPLCに注入した。3-NTレベルは3-NT対チロシンの比として表した。
【0166】
還元CoA(CoASH)及びそのGSHジスルフィド(CoASSG)の測定:CoASH及びCoASSGは、先に記載の通り、UV検出を備えたHPLCで測定した(Liang&Patel、(2006)、Free Radic Biol Med 40巻、316〜22頁)。
【0167】
グルタミン酸トランスポーターの免疫ブロット分析:グルタミン酸トランスポーター免疫ブロット分析は、先に記載のプロトコルに従った(Liang&Patel、(2004)、Free Radic Biol Med 36巻、542〜54頁)。GLT-1に対するウサギを用いた一次抗体を使用した(1:5000、Abcom Inc.,Cambridge,MA)。バンドは、Storm Optical Scanner(Molecular Dynamics Inc. Sunnyvale,CA)上でスキャンし、それぞれのバンドの定量分析は、ImageQuantソフトウエア(Amercham Biosciences,Buckinghamshire,England)で実施した。GLT-1のβ-アクチンに対する比は、それぞれのマウスから計算し、Sod2+/+群の平均比を100%として表した。
【0168】
AMP、ADP及びATPのHPLCによる測定:前脳を解剖して、液体窒素で迅速に冷凍し、秤量し、10%w/v(たとえば20mg/200μl)0.42M過塩素酸中で超音波処理した(ホモジネートは−80℃で保存することができる)。ホモジネートを13000g、4℃で15分間、遠心分離した。100μl上清を新しい試験管に取り出し、10μlの4N KOHで中和した。中和した上清をよく混合し、−20℃に少なくとも10分放置して、過塩素酸塩(KClO4として)を確実に除去した。8500g、4℃で10分間遠心分離したあと、同一容積(100μl)の上清と同一容積(100μl)の500mM KH2PO4とを混合し、混合物の50μlアリコートをHPLC系に注入した。AMP、ADP及びATPのレベルは、先に記載の方法に従って258nmでHPLC-UVで定量化した(Sellevoldら、(1986)、J Mol Cell Cardiol 18巻、517〜27頁;Botkerら、(1994)、J Mol Cell Cardiol 26巻、41〜8頁)。検体は、5μM、4.6×250cmのC-18逆相カラムで分離する。移動相は、50mM KH2PO4、10%メタノール、3mMテトラブチルアンモニウムサルフェート(TBAS)、pH6.0から構成され、流速は0.8ml/分に設定した。
【0169】
Na+、K+-ATPase活性アッセイ:脳ホモジネート中のATPase活性は、先に記載の比色法に従って、基質ATPから放出された無機リン酸塩の量を測定することにより決定した(Lanzettaら(1979)、Anal Biochem 100巻、95〜7頁;Chenら(2007)、Basic Clin Pharmacol Toxicol 101巻、108〜16頁)。脳組織を完全に超音波処理し、13000g、4℃で10分間、遠心分離した。上清〜25μgタンパク質を、NaCl 100mM、KCl 20mM、MgCl2 5mM、Tris-HCl 30mM、エチレングリコールビス(アミノ-エチルエーテル)四酢酸(EGTA)、0.5mM、グルコース20mM、pH7.4及びATP 5mMの300μl中、37±0.5℃で15分間、インキュベートした。反応は、0.5N HCl中、モリブデン酸アンモニウム(1.05%)を含む溶液150μlを添加することにより停止した。340nmにおける光学密度をプレートリーダーで測定した。得られた吸収値は、種々の濃度でアッセイ中に含まれる、リン酸二水素ナトリウムの標準曲線を使用して一次回帰により活性値に変換した。放出された無機リン酸塩(nmol)は、ATPの酵素的加水分解により放出された無機リン酸塩の濃度を表すと見なされた。Na+、K+-ATPase活性は、総Na+,K+-ATPase活性から1mMウアバイン非感受性Mg2+-ATPase活性を引くことによって決定した。
【0170】
統計分析:生存率分析は、カプラン-メイヤー法を使用して実施した。すべての生化学的分析に関しては、二元配置ANOVAを使用した。0.05未満のP値を有意とみなした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリア病の処置の必要な被験者に治療的有効量の金属ポリフィリン化合物を投与することを含む、ミトコンドリア病の処置法。
【請求項2】
前記被験者が子供である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ミトコンドリア病がてんかんである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記被験者が、側頭葉てんかんまたは病的発作から生じる急性若しくは慢性てんかんを含む他の後天的てんかんを有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記急性若しくは慢性てんかんが、酸化的ストレス及びミトコンドリア病を増加させる低酸素症、外傷、ウイルス感染、発熱、アルコール離脱または老化から生じる急性若しくは慢性てんかんを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、前記被験者のてんかん発作の頻度または重症度を軽減する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記ミトコンドリア病が急性または慢性神経障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記被験者が遺伝性ミトコンドリア病または遺伝性てんかんである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記被験者が小児てんかん、脳障害または小児運動障害を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記小児運動障害が、発熱、外傷、代謝欠陥、遺伝学的異常、染色体異常、低酸素/虚血性エピソードまたはその組み合わせから誘導される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記金属ポルフィリン化合物が式:
【化1】

をもち、ここでR1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して-CF3、-CO2R8、-COR8'
【化2】

であり;
R5、R6、R7、R8、R8'、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、及びR24はそれぞれ独立して、水素、ハロゲン、-CN、-CF3、-OH、-NH2、-COOH、-COOR25、-CH2COOR25、-CH2COOH、非置換若しくは置換アルキル、非置換若しくは置換ヘテロアルキル、非置換若しくは置換シクロアルキル、非置換若しくは置換ヘテロシクロアルキル、非置換若しくは置換アリール、または非置換若しくは置換ヘテロアリールであり;
R25は非置換アルキルであり;及びMは金属である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
R25はC1-10アルキルである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
R25は-CH3またはC1-5アルキルである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記金属がマンガン、鉄、コバルト、銅、ニッケルまたは亜鉛である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
R1、R2、R3及びR4
【化3】

であり、前記金属がマンガンである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
R1及びR3が-CO2-CH3であり、R2及びR4が-CF3であり、前記金属がマンガンである、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
R1及びR3
【化4】

であり、R2及びR4
【化5】

であり、前記金属がマンガンである、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2013−503895(P2013−503895A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528059(P2012−528059)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/047723
【国際公開番号】WO2011/028935
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(509192570)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ コロラド,ア ボディー コーポレート (3)
【Fターム(参考)】